説明

大気圧プラズマを利用した洗浄装置

【課題】装置の低コスト化と汎用性を持たせることを前提とし、プラズマ発生用ガスの消費量を少なくできると共に、洗浄効果を大きくできる大気圧プラズマを利用した洗浄装置を提供する。
【解決手段】 対向する電極間P1,P2にプラズマ発生用のガスを送り込む入口Eと、発生したプラズマを送り出す出口Dとを有する大気圧プラズマ発生室10Kの前記出口近くにおいて、送り出されるプラズマ流速よりも高速に噴射でき、前記ガスと同一又は異なる種類の噴射用ガスを噴射させる噴射装置12を具備するよう構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大気圧プラズマを利用した洗浄装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、洗浄装置として、液体を使用するウエット型と、液体を使用しないドライ型とがある。前者は、洗浄後の廃液処理の問題があり、また、洗浄後の乾燥処理工程の必要性という処理工程の問題点がある。こうした問題点の少ない後者には、エアジェット方式と、エキシマUV方式と、大気圧プラズマ方式等がある。エアジェットは、数μ程度の粒子の除去に使用できるが、洗浄対象物表面に付着している有機物の除去はできない。この有機物除去に適した方式が、紫外線とオゾンでの分解によるエキシマUV方式と、表面化学反応での分解による大気圧プラズマ方式である。この前者方式はランプを使用するため、ランプ寿命が長くないことと、ランプおよび冷却ガス利用によるランニングコストが高価であるという問題が有る。このため、最近では大気圧プラズマ方式に注目が集まっている。下記特許文献1には、そうした大気圧プラズマによる液晶ディスプレイ用ガラス基板の洗浄方法例が開示されている。また、下記非特許文献1にはガス使用流量が毎分数十リットルであることが記載されている。
【特許文献1】特開2004−102271号公報
【非特許文献1】2004年7月発行、積水化学工業株式会社のカタログ「常圧プラズマ表面処理装置」の3頁(裏表紙)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
プラズマ発生には窒素やその他のガスを用い、発生したプラズマ中には有機物を分解するのに適したラジカルと言われる活性種が存在する。このラジカルを洗浄対象物の表面に送れば、表面に付着している有機物が分解除去されることになる。然しながら、このラジカルはその寿命が非常に短く、代表的には数十μ秒である。従って、上記特許文献1のように、洗浄対象物を大気圧プラズマ発生室内のプラズマ雰囲気中に搬送する方式を採れば、ラジカルの寿命が大きく問題には成り難く、洗浄効果は得られるが、プラズマ発生室外に在る洗浄対象物を洗浄する場合には、この寿命が大きな問題となる。上記特許文献1に示す用に、プラズマ発生室内に洗浄対象物を搬送するには、プラズマ発生装置が大掛かりになって装置費用が高くなると共に、搬送対象物毎にシールドされるべき入口及び出口の大きさや形を異ならしめる必要もあり、汎用性に欠ける。
大気圧プラズマ発生装置内で発生したラジカルをその寿命時間内に対象物表面に到達させるには、使用するガス流量を大きくして小さく絞った出口から高速で吹き付ければ良いようにも思えるが、ガス流速が大きくなればプラズマ発生の効率が低下するという根本的な問題が有る。従って、大量にガスを送り込む方式では、ガス消費量が多くなると共に、消費量が多い割にはプラズマ発生量が少なく、非効率的であり、洗浄効果も非効率的となる。
依って本発明は、装置の低コスト化と汎用性を持たせることを前提とし、プラズマ発生用ガスの消費量を少なくできると共に、洗浄効果を大きくできる大気圧プラズマを利用した洗浄装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
発明の第1では、対向する電極間にプラズマ発生用のガスを送り込む入口と、発生したプラズマを送り出す出口とを有する大気圧プラズマ発生室の前記出口近くにおいて、送り出されるプラズマ流速よりも高速に噴射でき、前記ガスと同一又は異なる種類の噴射用ガスを噴射させる噴射装置を具備することを特徴とする大気圧プラズマを利用した洗浄装置を提供する。
発明の第2では、前記噴射ガスを空気とする。
発明の第3では、噴射ガスの噴射方向が、出口付近のプラズマ流れ方向に対して交差する。
【発明の効果】
【0005】
発明の第1では、洗浄対象物をプラズマ発生室の外に位置させることを狙って、プラズマ発生室にはプラズマの出口を積極的に設けている。これにより、洗浄装置を小さくできて低コスト化と汎用性を持たせることができる。この前提において、プラズマ発生のためのガスの流路と、これにより発生したプラズマ(ラジカル)を搬送するガスの流路とを別々にした(ガスの種類は同じでもよい)ことが発明の本質である。即ち、別流路とすることにより、プラズマ発生用のガスの流速を、プラズマ発生に適した遅い流速にできる。しかし、この遅い流速では、プラズマ発生装置の外に位置している洗浄対象物に到達する前にラジカルの寿命がつき、洗浄効果が期待できなくなる。従って、発生装置の出口近くで、プラズマ搬送用のガスを高速で噴射させ、ラジカルをこの噴射ガスに乗せて洗浄対象物に到達させればよい(噴射速度はラジカルの寿命中に洗浄対象物に到達できる速度を選択する)。こうして、プラズマ発生を効率良く行わせることができると共にガス使用量を節約できる。更には、ラジカルによる洗浄対象物表面に付着している有機物分解のみならず、噴射ガスの勢いにより、従来はエアジェット方式にて除去していた数ミクロン程度の粒子をも同時に除去でき、非常に効率の良い洗浄が可能となる。
【0006】
発明の第2では、噴射ガスを空気とすれば、このガスの供給が容易で低コストとなる他、噴射後に大気中に放出されても、これ自体は公害を引き起こさない。
発明の第3では、噴射ガスの噴射方向は、出口付近のプラズマ流れ方向に対して平行にして搬送することもできるが、交差させた方が強制的に搬送し易く、搬送効率が良い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を図面を用いて詳細に説明する。
図1は、本発明に係る大気圧プラズマを利用した洗浄装置を使用中の概略斜視図であり、図2はその原理説明図である。洗浄装置の下部は、図1の左側端から見た形状が三角形状を成し、その上部は矩形状を成し、この断面形状を幅方向に保持し、幅寸法がWである外形をしている。上部は中間壁14によって後室10Uと前室12Uとに区画されており、室10Uは大気圧プラズマ発生室10Kと連通しており,他方の室12Uは空気噴射装置12と連通している。更には、各室10U,12Uの上部壁にはプラズマ用ガス(ここでは体積率で窒素ガスを99.999%以上有するガス)の入口開口10ENと、圧縮空気の入口開口12ENとが設けられており、夫々の入口開口は、図示しないパイプを介して夫々の気体の供給源に繋がっている。
【0008】
入口開口10ENを介して室10Uに入れられたガスは、この大きな空間の室10Uにおいて所定の均一圧のガスになり、上記三角形状部の一辺側に設けられた、壁間の狭い空間である大気圧プラズマ発生室10Kに送り込まれる。他方の入口開口12ENから送り込まれた圧縮空気も、この大きな空間の室12Uにおいて所定の均一圧の圧縮空気になり、上記三角形状部の他辺側に設けられた噴射装置12に供給される。
【0009】
装置の外に位置している基板等の洗浄対象物20の搬送方向は、洗浄装置に対して矢印方向であり、洗浄装置の幅Wは、洗浄対象物20の幅20Wよりも大きく形成している。例えば、30cmである。
【0010】
主に上記三角形状部の略示横断面図ともいえる図2を参照すると、上述の大気圧プラズマ発生室10K内であって、装置内部の壁10Aの側には、高圧側の薄板状の電極P1が配設され、これに対向するように、装置の外側壁10Bの側には、アース側の薄板状電極P2が配設されている。これらの電極間距離は大気圧プラズマの放電にとって好適な距離に設定しており、例えば2mm程度である。即ち、大気圧プラズマ発生室は相対的に広い壁10A,10Bに挟まれた相対的に狭い空間を区画している。この大気圧プラズマ発生室10Kに、既述の室10Uを介して入口Eから上記の窒素ガスを送り込んでプラズマを発生させ、このプラズマを出口Dから大気圧プラズマ発生室外に送り出す。
【0011】
しかし、既述の通り、プラズマ発生を効果的にすると共に、使用する窒素ガスを節約するために、この送り出すプラズマ速度は大きくできない。例えば、その速度は5m/sである。そこで、このプラズマの流れ方向に対して角度θ1(ここでは60度)で交差する方向に、噴射装置12によって圧縮空気を噴射させる。この噴射により、出口Dから送り出されたプラズマの方向を変え、噴射装置の出口12Dから高速で送り出す。この出口12Dは装置の幅Wに亘って形成されている。従って、この幅W以下の幅の洗浄対象物を一工程で洗浄できる。
【0012】
上記出口12Dの下方位置には、洗浄対象物である基板20がローラRに乗って矢印方向に搬送されている。この例での噴射方向角度θ2は60度であり、この方向での前記出口12Dから基板表面までの距離δを5mmとする。また、噴射速度を100m/sとすると、出口12Dから基板表面に達するまでには50μ秒を要する。窒素ガスを使用した場合に発生するプラズマに含まれるラジカルの寿命分布は、50μ秒付近を中心とする分布になるため、噴射速度を100m/s程度にすることで有機物に対して洗浄効果の高いラジカルを基板表面に到達させられる。また、上記のプラズマ流速にした場合に、窒素ガスの流量は毎分5リットル程度であり、プラズマを効果的に発生できる。従って、既述の従来技術に比較すれば、窒素ガスの流量を大幅に低減できる。更には、上述の程度の噴射速度にすると、洗浄対象物表面に付着している表面の有機物以外の微粒子をも一緒に吹き飛ばし洗浄することができる。
【0013】
上記実施形態例の説明では、電極は板状としたが、これに限らない。例えば、特許文献1に開示のような丸棒状の電極を複数本適宜な間隔をあけて並べる、または網目状にしてもよい。また、プラズマ発生用のガスとして窒素ガスを用いたが、プラズマ用ガスとしてはこれに限らず、他のガスでもよい。また、そのガスとして、空気を用いることも可能である。但し、湿度を低くしつつ成分を一定に保持する装置を備えて、空気ガスの質を一定に保持することが望ましい。また、噴射装置に用いる噴射ガスには空気を用いたが、このガスは、単なるラジカル(プラズマ)の搬送役割を果たせばよいため、空気に限らない。しかし、空気であれば、大量に使用しても公害を起こす虞がなく、また、入手が容易であってコストが小さくて済む。
【産業上の利用可能性】
【0014】
本発明は、シリコンウェハーや基板上に実装された電子部品等の半導体関連洗浄や、液晶方式、プラズマ方式、有機EL方式等のフラットパネルディスプレイの基板洗浄装置、金属、プラスチック、繊維、木材、紙、皮革の洗浄等に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は本発明に係る装置使用中の概略斜視図である。
【図2】図2は原理説明図である。
【符号の説明】
【0016】
10K 大気圧プラズマ発生室
12 噴射装置
20 基板(洗浄対象物)
D 出口
E 入口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向する電極間にプラズマ発生用のガスを送り込む入口と、発生したプラズマを送り出す出口とを有する大気圧プラズマ発生室の前記出口近くにおいて、送り出されるプラズマ流速よりも高速に噴射でき、前記ガスと同一又は異なる種類のガスを噴射させる噴射装置を具備することを特徴とする大気圧プラズマを利用した洗浄装置。
【請求項2】
前記噴射ガスが空気である請求項1記載の大気圧プラズマを利用した洗浄装置。
【請求項3】
前記噴射ガスの噴射方向は前記出口付近のプラズマ流れ方向に対して交差する請求項1又は2記載の大気圧プラズマを利用した洗浄装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−159009(P2006−159009A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−350692(P2004−350692)
【出願日】平成16年12月3日(2004.12.3)
【出願人】(595158762)株式会社アトム技研 (8)
【Fターム(参考)】