説明

大気汚染物質分解のための光触媒で被覆した粒子の使用

本発明は、二酸化チタンで被覆した酸化鉄粒子の使用に関し、特に光触媒作用により大気汚染物質を分解するためのそれらの使用に関する。本発明はさらに、二酸化チタンで少なくとも一部被覆されている酸化鉄粒子の使用であって、前記粒子と接触する、窒素酸化物(NO)および揮発性有機化合物(VOC)から選択される大気汚染物質を光触媒作用により分解するための使用を対象とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化チタンで被覆した酸化鉄粒子の使用に関し、特に光触媒作用により大気汚染物質を分解するためのそれらの使用に関する。
【0002】
発明の背景
近年、大気、水および土壌の汚染が、都市部における重要な問題になっている。大気汚染物質は、産業活動、または加熱、発電および自動車などの燃焼過程などの生成過程によって主として環境中に放出される。これらの汚染物質は、都市の大気質問題、例えば光化学スモッグの一因となり、加えてヒトの健康および他の生物の健康に悪影響を及ぼす恐れがある。
【0003】
2つの主要な環境汚染物質には、窒素酸化物(NO)および揮発性有機化合物(VOC)が含まれる。特に、これらの化合物は、二次汚染物質の形成を開始する場合に危険なものである。日光および一酸化炭素の存在する状態で大気中においてNOおよびVOCが反応する場合に、大部分の対流圏オゾン形成が起こるので、NOおよびVOCはオゾン前駆体とも呼ばれる。その上、日光の存在におけるNOおよびVOCの反応は、なかんずく硝酸ペルオキシアセチル(PAN)を含有する光化学スモッグの原因となり、光化学スモッグは、特に夏季における大気汚染の顕著な形態である。子供、喘息などの肺疾患を有する人々、および屋外で作業もしくは運動する人々は、肺組織への被害および肺機能低下などの光化学スモッグの悪影響を受け易い。
【0004】
環境中における大気汚染物質の濃度を低下させる種々の解決策が、提起されている。
【0005】
WO 02/38272は、トルエンへの酸化性状を有する光触媒作用コーティング膜であり、室内環境を脱臭し、VOCによって汚染されたガス流を浄化するのに適したコーティング膜を開示している。
【0006】
NOなどの大気汚染物質に対して光触媒活性を有する建材がWO 2006/000565において記述され、そこでは光触媒活性が、セメントと物理的に混合されたTiOナノ粒子の存在から生じる。
【0007】
ガスまたは水からの有機汚染物質を酸化する光触媒作用反応器が米国特許第6136186号において記述され、そこでは光触媒はTiOの多孔性層もしくは表面、または多孔性表面上に形成された、他の金属触媒を最終的にドープした二成分系TiO酸化物である。
【0008】
WO 2006/008434は、VOC分解ならびに自己清浄および抗微生物性状を有する二酸化チタンコーティングを記述している。
【0009】
EP1559753は、アナターゼ形態におけるTiOを含有する光触媒作用ケイ酸カリウムペイントに関する。このペイントは、住宅用および公共建物での使用向けに、抗汚染物質、自己清浄性状をもたらすように設計されている。
【0010】
環境中における窒素酸化物(NO)および揮発性有機化合物(VOC)などの汚染物質を分解する改良された能力を有する材料への必要性が残っている。
【0011】
発明の概要
本発明の目標は、大気汚染物質を有効に分解する光触媒活性材料の提供である。本発明は、窒素酸化物(NO)および揮発性有機化合物(VOC)から選択される大気汚染物質を光触媒作用により分解するのに適した材料の提供および使用である。さらに他の本発明の目標は、建材における、NOおよびVOCから選択される大気汚染物質を分解するこのような材料の使用である。さらに他の本発明の目標は、ペイントにおける、NOおよびVOCから選択される大気汚染物質を分解するこのような材料の使用である。
【0012】
本発明のさらなる目標は、窒素酸化物(NO)および揮発性有機化合物(VOC)から選択される大気汚染物質を光触媒作用により分解する間のフォトコロージョン(photo-corrosion)を低減するのに適した材料の提供および使用である。
【0013】
さらに、本発明は、NO生成を低減させて、NOを光触媒作用により分解するための、二酸化チタンで少なくとも一部被覆されている酸化鉄粒子の使用を対象とする。
【0014】
さらに、本発明は、窒素酸化物(NO)および揮発性有機化合物(VOC)から選択される大気汚染物質を光触媒作用により分解するための、二酸化チタンで少なくとも一部被覆されている酸化鉄粒子の使用を対象とする。
【0015】
さらに、本発明は、UVおよび/または可視光下で、NOを光触媒作用により分解するための、二酸化チタンで少なくとも一部被覆されている酸化鉄粒子の使用を対象とする。
【0016】
さらに、本発明は、UVおよび/または可視光下で、VOCを光触媒作用により分解するための、二酸化チタンで少なくとも一部被覆されている酸化鉄粒子の使用を対象とする。
【0017】
これらおよび他の本発明の目標は、本特許請求の範囲において記述される使用によって、解決することができる。好ましい実施形態は、独立請求項の特徴との、従属請求項の特徴の組合せから生じる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、窒素転化率試験に適した実験配置(10)の概略図である。試料(40)を、3.6lセル(50)内部に置き、それを通して、ガスシリンダー(20)から得られる試験用ガスを流量速度1.5l/分で通過させる。セル(50)の上方に取り付けた選択された光源(30)によって、ガラスカバー(60)を通して試料が照射される。ガスクロマトグラフ(70)を使用して、出力ガス中のNO濃度を、連続的に分析する。
【図2】図2は、6%の光触媒性酸化鉄および標準セメントを含有するコンクリートブロック(塊)である実施例1の試料aについて、NO、NO、NOおよびO転化率対照射時間を示すグラフである。
【図3】図3および図4は、実施例3において記述する試料4種について、養生前、96時間後および192時間後に測定した、それぞれNOおよびNOの光触媒作用による転化率を示すグラフである。試料1は、顔料を含有しない光触媒性セメントであり;試料2は、標準鉄黄(全セメント重量に対して3.8重量%)を含有する光触媒性セメントであり;試料3は、全セメント重量に対して6.8重量%の量で光触媒性酸化鉄1(全顔料重量に対して45重量%TiO)を含有する標準セメントであり;試料4は、全セメント重量に対して6.8重量%の量で光触媒性酸化鉄2(全顔料重量に対して45重量%TiO)を含有する標準セメントである。
【図4】図3および図4は、実施例3において記述する試料4種について、養生前、96時間後および192時間後に測定した、それぞれNOおよびNOの光触媒作用による転化率を示すグラフである。試料1は、顔料を含有しない光触媒性セメントであり;試料2は、標準鉄黄(全セメント重量に対して3.8重量%)を含有する光触媒性セメントであり;試料3は、全セメント重量に対して6.8重量%の量で光触媒性酸化鉄1(全顔料重量に対して45重量%TiO)を含有する標準セメントであり;試料4は、全セメント重量に対して6.8重量%の量で光触媒性酸化鉄2(全顔料重量に対して45重量%TiO)を含有する標準セメントである。
【図5】図5および図6は、それぞれ実施例2の試料2および試料3についてNO、NO、NOおよびO転化率対UV照射時間を示すグラフである。試料2は、光触媒性セメントおよび標準酸化鉄により作製した着色ブロックであり、試料3は、光触媒性顔料および標準セメントにより作製した着色ブロックである。
【図6】図5および図6は、それぞれ実施例2の試料2および試料3についてNO、NO、NOおよびO転化率対UV照射時間を示すグラフである。試料2は、光触媒性セメントおよび標準酸化鉄により作製した着色ブロックであり、試料3は、光触媒性顔料および標準セメントにより作製した着色ブロックである。
【図7】図7は、実施例3の3種の異なる試料について、Fe(II)の光溶解(photodissolution)データを示すグラフである。プロットは、実施例3に記述する異なる長さの時間NOおよびUV光に曝露したコンクリート試料から得られた、水中抽出物のFe(II)濃度を示す。試料aは、セメント上のFerroxide 48(3重量%)であり;試料bは、全セメント重量に対し5重量%の量における光触媒性酸化鉄(全顔料重量に対して21重量%TiO)であり;また試料cは、光触媒性セメント上のFerroxide 48(3重量%)である。
【図8】図8および図9は、実施例4の4種の異なる試料について、UV光下でのVOCのそれぞれ転化率および平均転化率を示すグラフである。図8は、実施例4に記述されるように、UV光下でのVOCの転化率を示す。試料aは、顔料を含有しない光触媒性セメントであり;試料bは、標準鉄黄(全セメント重量に対して3.8重量%)を含有する光触媒性セメントであり;試料cは、全セメント重量に対して6.8重量%の量で光触媒性鉄黄A(全顔料重量に対して45重量%TiO)を含有する標準セメントであり;試料dは、全セメント重量に対して6.8重量%の量で光触媒性鉄黄B(全顔料重量に対して45重量%TiO)を含有する標準セメントである。図9は、実施例4に記述されるように、UV光下でのベンゼン、エチルベンゼン、トルエンおよびo−スチレンの混合物の合計転化率を示す。試料aは、顔料を含有しない光触媒性セメントであり;試料bは、標準鉄黄(全セメント重量に対して3.8重量%)を含有する光触媒性セメントであり;試料cは、全セメント重量に対して6.8重量%の量で光触媒性鉄黄A(全顔料重量に対して45重量%TiO)を含有する標準セメントであり;試料dは、全セメント重量に対して6.8重量%の量で光触媒性鉄黄B(全顔料重量に対して45重量%TiO)を含有する標準セメントである。
【図9】図8および図9は、実施例4の4種の異なる試料について、UV光下でのVOCのそれぞれ転化率および平均転化率を示すグラフである。図8は、実施例4に記述されるように、UV光下でのVOCの転化率を示す。試料aは、顔料を含有しない光触媒性セメントであり;試料bは、標準鉄黄(全セメント重量に対して3.8重量%)を含有する光触媒性セメントであり;試料cは、全セメント重量に対して6.8重量%の量で光触媒性鉄黄A(全顔料重量に対して45重量%TiO)を含有する標準セメントであり;試料dは、全セメント重量に対して6.8重量%の量で光触媒性鉄黄B(全顔料重量に対して45重量%TiO)を含有する標準セメントである。図9は、実施例4に記述されるように、UV光下でのベンゼン、エチルベンゼン、トルエンおよびo−スチレンの混合物の合計転化率を示す。試料aは、顔料を含有しない光触媒性セメントであり;試料bは、標準鉄黄(全セメント重量に対して3.8重量%)を含有する光触媒性セメントであり;試料cは、全セメント重量に対して6.8重量%の量で光触媒性鉄黄A(全顔料重量に対して45重量%TiO)を含有する標準セメントであり;試料dは、全セメント重量に対して6.8重量%の量で光触媒性鉄黄B(全顔料重量に対して45重量%TiO)を含有する標準セメントである。
【図10】図10は、実施例6に記述する光触媒性酸化鉄(全顔料重量に対して23重量%TiO)5%で着色したケイ酸塩ペイントについての、NO、NO、NOおよびO転化率対照射時間を示すグラフである。
【0019】
発明の詳細な説明
驚くべきことに、特定のタイプの光触媒材料である二酸化チタン被覆酸化鉄粒子が、大気汚染物質、具体的にはNOおよびVOCの高度に有効な光触媒分解に特に適していることが見出されている。
【0020】
NOおよび/またはVOCを光触媒作用により分解するために、二酸化チタンで被覆した酸化鉄粒子を使用することは高度に有利である。それにより、従来使用した着色用顔料を、光触媒性状により、例えば建材の着色用に、ペイントおよびコーティング分野に、または紙製造業界に提供することが可能になるからである。
【0021】
さらに、専ら二酸化チタン系である従来使用している光触媒では、時間が経つと光触媒活性の劣化が観察されている。二酸化チタン被覆酸化鉄粒子を使用すると、光触媒作用のある二酸化チタンならびに顔料が、UVおよび可視光下で著しくより安定であり、顔料ならびに光触媒の寿命延長が可能になる。また、NOおよび/またはVOCを分解する光触媒として二酸化チタン被覆酸化鉄粒子を使用する場合、より広いスペクトルのUVから可視光の範囲にある放射線を使用することもできる。このことは、酸化鉄と二酸化チタンの間の相乗効果のためであると考えられる。
【0022】
また、NOおよび/またはVOCを分解する光触媒として二酸化チタン被覆酸化鉄粒子を使用する場合、NO分解の間に常に起こるNO生成も著しく低減される。NOが存在する状態でUVおよび可視光を照射する間に起こる可能性があるオゾン生成が測定され、これらの光触媒材料によりオゾン生成が制限されることが観察されている。
【0023】
本発明の一実施形態において、窒素酸化物(NO)および揮発性有機化合物(VOC)から選択される大気汚染物質を光触媒作用により分解するために使用される酸化鉄粒子は、二酸化チタンで少なくとも一部被覆される。本発明の他の実施形態において、窒素酸化物(NO)および揮発性有機化合物(VOC)から選択される大気汚染物質を光触媒作用により分解するために使用される酸化鉄粒子は、二酸化チタンで完全に被覆される。
【0024】
二酸化チタンは、例えば、ある程度密に分布された結晶性スポット、好ましくは二酸化チタンのナノサイズ微結晶の形態で、無機粒子材料の表面上に無作為に分布させることができる。別法として、より高い充填量では、二酸化チタンは、実質的に完全に被覆するまで、担体粒子の表面上における結晶性材料のより大きな領域を構成することもできる。
【0025】
本発明の使用の例示的実施形態において、二酸化チタンで少なくとも一部被覆された酸化鉄粒子は、建材中に組み込まれる。例えば、この粒子は、建材と混合することができる。本発明の使用の他の例示的実施形態において、二酸化チタンで少なくとも一部被覆された酸化鉄粒子は、建材上に塗布される。例えば、この粒子は、水性塗料またはペイントの形態で建材上に塗布することができる。本発明の建材は、コンクリート、セメント、モルタル、石灰石または石膏などの無機材料を含むことができる。
【0026】
本発明の使用の他の例示的実施形態において、二酸化チタンで少なくとも一部被覆された酸化鉄粒子は、ペイント中に組み込まれる。例えば、この粒子は、ペイントと混合し、またはペイント中に分散させることができる。このペイントは、例えば、ケイ酸塩系ペイント、アクリルペイント、油性ペイントまたは水性ペイントを含むことができる。
【0027】
本発明において記述される使用のための粒子は、出願人の同時係属特許出願第PCT/EP2006/068245号中において記述される方法によって製造することができ、その場合、例えば無機酸化鉄分散物が、少なくとも1種のチタニル塩、例えば硫酸チタニル、塩化チタンまたはシュウ酸チタニルの水溶液と混合され、アルカリを添加することにより前記酸化鉄上に二酸化チタンを析出させる。この場合、酸化チタンが少なくとも部分的に析出される。最後に、光触媒活性化合物で被覆された酸化鉄粒子は、例えば濾過により反応混合物から単離され、その後洗浄され、低温で乾燥される。本発明の使用に適した粒子は、0.01〜100μmの範囲にある粒径を有することができ、約5〜200m/gの範囲にある表面積を有することができる。本発明の使用のため、これらの粒子は、成形された形態、例えば顆粒体、ペレットまたはタブレットで供給することができる。
【0028】
どんな学説にも制約されようとせずに、日光に曝露される際、二酸化チタン被覆酸化鉄粒子が存在すると、汚染物質である窒素酸化物(NO)および揮発性有機化合物(VOC)を分解することができ、二酸化チタン被覆酸化鉄粒子が、これらの汚染物質と相互作用するラジカルおよび/または他の活性化学種を生成させると考えられる。これにより、これらの分子の崩壊または分解反応をもたらし、例えば窒素酸化物ガスを硝酸塩まで酸化することができ、このような汚染物質の濃度を実質的に低下させることができる。したがって、例えば、建材上のこのような物質の濃度が低下して、延長された期間の間色の鮮やかさが保持される結果となり、さらに環境における環境汚染物質の濃度低下につながる。さらに、空気の質を向上させ、スモッグ防止効果をもたらすことができる。
【0029】
本発明者らは、従来の着色用顔料に代わる二酸化チタン被覆酸化鉄粒子の使用が、延長された期間の間色堅ろう度(colour fastness)の向上をもたらすことを見出している。その上、本発明者らは、従来の酸化鉄顔料と比較して、二酸化チタン被覆酸化鉄粒子の使用が、フォトコロージョン低減を示すことを見出している。図7は、標準酸化鉄顔料を含むセメントブロックについてのみ、Fe(II)の光溶解性が明らかであるが、二酸化チタン被覆酸化鉄粒子を含むセメントブロックについては光溶解性が明らかではないことを示している。したがって、本発明は、フォトコロージョン効果を低減することによる酸化鉄顔料の長期安定性をも提供する。
【0030】
その上、本発明者らは、二酸化チタン被覆酸化鉄粒子の使用によって、従来の光触媒化合物の使用と比較して、曝露時間にわたるより大きな酸化窒素転化率の安定性を達成することができることを見出している。図5および6に示すように、二酸化チタン被覆酸化鉄粒子により作製した着色セメントブロックについてのUV曝露中の酸化窒素転化率の低下は、従来の光触媒性セメントおよび酸化鉄顔料を含む着色セメントブロックと比較して、より顕著ではなくなる。さらに、図3は、チタン被覆酸化鉄粒子により作製したセメントブロックが、着色した光触媒性セメントにより作製したセメントブロックと比較して、より大きな酸化窒素転化率の安定性を示すことを示している。
【0031】
また、二酸化チタン被覆酸化鉄粒子の使用によって、光触媒作用過程の間常に起こるNO生成が、従来の光触媒化合物の使用と比較して著しく低減されることも見出された。どんな学説にも制約されようとせずに、本発明者らは、少なくともいくつかの前述の観察が、密接に接触する場合の、酸化鉄および酸化チタンの相乗効果を示唆するものと考えている。
【実施例】
【0032】
窒素酸化物転化率試験
窒素酸化物(NO)転化率試験のため使用した実験装置(10)を、概略的に図1に示す。試料(40)を、3.6lセル(50)内部に置き、それを通して、ガスシリンダー(20)から得られる試験用ガスを流量速度1.5l/分で通過させる。セル(50)の上方に取り付けた選択された光源(30)によって、ガラスカバー(60)を通して試料が照射される。
【0033】
入口ガスとして、1.5l/分における合成湿潤空気(N79%、O21%、相対湿度50%)と0.5ppmvのNOとの混合物を使用した。UV照明下で試験するため、試料は、UV領域で発光するHg HP125(290〜400nm範囲で照射電力40Wm−2)ランプで照射された。出口ガスにおけるNO濃度を、ガスクロマトグラフィ(70)により連続的に分析した。
【0034】
可視またはUV−可視光下で測定するため、照射源は、それぞれPhilips社PAR30Sランプ(100W、400〜700nm範囲で照射電力178Wm−2)またはキセノンLOT Orielランプ(140Wで操作される150W、Philipsランプの25%電力およびHgランプの36%)とした。
【0035】
NOに転化されるNOの百分率は、下記の通り定義される:
NO転化率%=(CNO入口−CNO出口)/CNO入口100
NO転化率%=CNO2出口/CNO入口100
【0036】
NOは、NOと異なる生成物に転化されるNOであり、下記の通り定義される:
NO転化率%=NO転化率%−NO転化率%
【0037】
揮発性有機化合物転化率試験
実験配置は、上述のNO転化率試験と同様とし、出口ガスは、不連続的な形(30〜40分毎)で寒剤装置中に捕集後、ガスクロ−マス四重極分光器(gas-mass quadrupole spectroscope)によって分析した。入口ガスは、1.5l/分で流れる合計分圧76.5ppbvのBTEX混合物(トルエン13.5ppbv、エチルベンゼン23ppbv、o−キシレン20ppbv、ベンゼン20ppbv)とした。
【0038】
比色測定
比色測定は、D65ランプを有する照明系CR310と組み合わせてMinolta Konica社DP301を使用し、コンクリート試料について行う。データは、CieLabスケールを使用して表される。
【0039】
着色力(tinting strength)についてはGardner−BYK比色計(45/0測定角)を使用した。着色力値は、試験用試料および標準試料についての反射率曲線下の面積間の差に基づいている。
【0040】
コンクリート試料調製方法
方法1:それぞれの顔料を白色ポルトランドセメント(Aquila Bianca CEM II/B−LL 32,5R)、砂(Sibelco 2、Sibelco 5/RD)および水と混合することによって、コンクリート試料を調製した。相対的な量を、下記の表に示している:
【0041】
【表1】

【0042】
砂、顔料および水を、金属製ビーター1枚を有する電気的ミキサー(Bifinet社KH203、230W、5速)により速度2で30秒間混合し、次いでセメントを添加し、速度2でさらに30秒間練り混ぜた。その後、得られた材料をへらで手動練り混ぜし、続いて速度3でさらに60秒間電気的に練り混ぜる。このコンクリート混合物を、直径7cmを有する円形型枠に注入する。この試料を、オーブン中で、プラスチック袋内部において、110℃で2時間乾燥し、さらに大気と接触させてさらに15分間乾燥させた。
【0043】
いくつかの試験において、ポルトランドセメントの代わりに光触媒性セメントを使用した(TX Aria white)。標準鉄黄として使用した顔料は、Rockwood Pigment社により製造されたFerroxide 48であった。通気オーブンで乾燥した後、試料は90℃および相対湿度95%で192時間養生して、不活性効果のある養生を促進した。
【0044】
方法2:標準砂DIN EN 196−1(規格砂(Normensand))を使用して試料を調製し、下記の量で混合した。
【0045】
【表2】

【0046】
混合および乾燥手順は、方法1と同様とした。
【0047】
試料は、屋外養生3カ月後、試験した。
【0048】
実施例1
光触媒性酸化鉄試料(全顔料重量に対し23重量%TiO)について、UVランプ下のNO転化率を、顔料それ自体と、コンクリートマトリックスに含まれる(全セメント重量に対し顔料6重量%)場合(試料a)とについて、UV照射のもとで測定した。さらに、光触媒性セメント(TX Aria white)および6%のFerroxide 48によるコンクリート試料(試料b)を作製した。全てのコンクリート試料は、上記の方法2により調製し、屋外養生3カ月後、試験した。
【0049】
結果を、下記の表において報告する:
【0050】
【表3】

【0051】
このデータは、光触媒性酸化鉄を含有するセメントで、今日商業的に使用される対照用の光触媒性セメントよりもNO生成が少ないことを示す。
【0052】
図2は、試料aについての転化率対照射時間を示す。プロットから見ることができるように、転化は0から開始され、光のスイッチを入れた後数分で増加し、平衡値に達し、次いで照射下で安定したままとなる。
【0053】
図5において示され、実施例2で試料2(光触媒性セメント/酸化鉄)について報告される転化率プロットでは、むしろ異なるプロフィールが示されており、この2つの光触媒材料について異なる転化機構がある証拠となっていることに注目されたい。
【0054】
本発明の光触媒材料は、対照用光触媒性セメントと比較して、曝露時間にわたって酸化窒素転化率のより大きな安定性を示す。さらに、光触媒性酸化鉄についての反応は、より少ないNOを生成させる。本発明者らは学説に捉われようとしないが、これらの2つの考察は、密接に接触させた場合の2つの酸化物(鉄およびチタン)の相乗効果を示唆するものである。
【0055】
実施例2
4種のコンクリート試料を方法1において記述されるように調製し、T=95℃および湿度90%の湿度室内に、異なる時間放置した(促進養生)。下記の試料を調製した:
試料1:光触媒性セメント、顔料なし、
試料2:光触媒性セメント、標準鉄黄(全セメント重量に対して3.8重量%)、
試料3:標準セメント、全セメント重量に対して6.8重量%の光触媒性酸化鉄1(全顔料重量に対して45重量%TiO)、
試料4:標準セメント、全セメント重量に対して6.8重量%の光触媒性酸化鉄2(全顔料重量に対して45重量%TiO)。
【0056】
光触媒性酸化鉄1および2は、特許出願第PCT/EP2006/068245号中において記述される通りに、2つの異なる調製ステップに従って調製した材料である。
【0057】
養生前、96時間後および192時間後のUV光下における光触媒作用による転化率を測定した。そのデータを図3および4において、また下記の表において報告している:
【0058】
【表4】

【0059】
【表5】

【0060】
さらに、この2種の光触媒性酸化物のNO転化率は、光触媒性セメントで作製した着色ブロックと同等であった。
【0061】
図5および6は、光触媒性顔料で作製した着色ブロックでは、光触媒性セメントで作製した着色ブロックと比較して、UV曝露時間によるNO転化率の低下が、より顕著ではなくなり、これらの材料のより高いNO転化率安定性が示されることを示している。この転化率プロットは、NOが存在する状態でUV光下での転化によりオゾンが生成されなかったことも示している。
【0062】
試料3および4について、下記の表において報告するように比色値も測定しており、この光触媒性顔料の良好な着色性能を示している。
【0063】
全セメント重量に対し3.8重量%(酸化鉄含量が等量)において、Ferroxide 48に対する着色力を測定した。
【0064】
【表6】

【0065】
実施例3
2種のコンクリート試料を方法1に従って調製し、UV光下で照射した:
試料a:Ferroxide 48、セメントに対し3%、
試料b:光触媒性酸化鉄(全顔料重量に対して21重量%TiO)、全セメント重量に対して5重量%。
【0066】
NO転化率試験におけるように、NOが存在する状態で試料をUV光に曝露した。種々の長さの時間の後、抽出液についてFe(II)を測定した。その場合抽出手順は、次のように実施した:コンクリートブロックに前もって脱酸素化した2mMHSOを浸透させ、375Wのマイクロ波に10分間曝露した。その溶液を濾過し、o−フェナントロリンを添加した後、波長510nmにおける吸収によりFe(II)を測定した。データを図7にプロットしており、UV−NO条件下において、標準酸化鉄(Ferroxide 48)についてのみFe(II)の光溶解が明らかであるが、光触媒性酸化鉄についてはFe(II)の光溶解が明らかではないことが示される。
【0067】
【表7】

【0068】
これらのデータは、やはり図7に示されている光触媒性セメントおよび3%Ferroxideで作製したコンクリートブロック(試料c)についての値と比較できる。抽出物中に存在するFe(II)は、250分後4.23・10−3であり、本発明により使用した光触媒性酸化物についてよりも、高かった。
【0069】
実施例4
4種のコンクリート試料を実施例1において記述されるように調製し、T=95℃および湿度90%の湿度室内に192時間放置した(促進養生)。下記の試料を調製した:
試料a:光触媒性セメント、顔料なし、
試料b:光触媒性セメント、全セメント重量に対して3.8重量%の標準鉄黄、
試料c:標準セメント、全セメント重量に対して6.8重量%の光触媒性鉄黄A(全顔料重量に対して45重量%TiO)、
試料d:標準セメント、全セメント重量に対して6.8重量%の光触媒性鉄黄B(全顔料重量に対して45重量%TiO)。
【0070】
光触媒性鉄黄AおよびBは、両方とも特許出願第PCT/EP2006/068245号により調製し、全顔料重量に対して45重量%のTiO充填量を有していた。
【0071】
UV光下のVOCの転化率を、上述のように測定した。
【0072】
転化百分率を、下記の表において報告している:
【0073】
【表8】

【0074】
図8および9においてプロットしたこれらの結果は、本発明の光触媒性酸化鉄が、今日使用される従来の光触媒材料よりも大きいVOC除去能力を示すことを実証している。
【0075】
実施例5
2種のコンクリート試料を実施例1において記述されるように調製し、T=95℃および湿度90%の湿度室内に192時間放置した(促進養生)。下記の試料を調製した:
試料1:標準セメント、全セメント重量に対して6.8重量%の光触媒性鉄黄(試料A)(全顔料重量に対して45重量%TiO、試料a)、
試料2:標準セメント、全セメント重量に対して6.8重量%の光触媒性鉄黄(試料B)(全顔料重量に対して45重量%TiO、試料b)。
【0076】
両方の光触媒性酸化物が、下記の表に示すデータから見ることができるように、可視スペクトル領域にある光により照射される場合NOを転化させる。UV照射による実施例4と同様に、反応中にオゾンは生成されない。
【0077】
【表9】

【0078】
実施例6
光触媒性酸化鉄(全顔料重量に対して23重量%TiO)5%をケイ酸塩系ペイント(水28.25%、Consolref K23%、不活性物質38%、スチレンアクリレート9%に基づく)に組み込んでおき、コンクリート表面に塗布した。標準的方法でNOの転化率を測定し、転化率プロットを図10に示している。
【符号の説明】
【0079】
10 実験配置、実験装置
20 ガスシリンダー
30 光源
40 試料
50 3.6lセル
60 ガラスカバー
70 クロマトグラフ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化チタンで少なくとも一部被覆されている酸化鉄粒子の使用であって、前記粒子と接触する、窒素酸化物(NO)および揮発性有機化合物(VOC)から選択される大気汚染物質を光触媒作用により分解するための使用。
【請求項2】
前記酸化鉄粒子が、建材中に組み込まれる、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記酸化鉄粒子が、建材上に塗布される、請求項1に記載の使用。
【請求項4】
前記建材が、コンクリート、セメント、モルタル、石灰石または石膏からなる群から選択される、請求項2または3に記載の使用。
【請求項5】
前記酸化鉄粒子が、ペイント中に組み込まれる、請求項1に記載の使用。
【請求項6】
NO生成を低減してNOを光触媒作用により分解するための、請求項1に記載の使用。
【請求項7】
窒素酸化物(NO)および揮発性有機化合物(VOC)から選択される大気汚染物質を光触媒作用により分解する間の、オゾン生成を避けるための、請求項1に記載の使用。
【請求項8】
UVおよび/または可視光下で、NOを光触媒作用により分解するための、請求項1に記載の使用。
【請求項9】
UVおよび/または可視光下で、VOCを光触媒作用により分解するための、請求項1に記載の使用。
【請求項10】
NOおよびVOCから選択される大気汚染物質を光触媒作用により分解する間、前記酸化鉄粒子のフォトコロージョン効果を低減するための、請求項1に記載の使用。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公表番号】特表2011−518657(P2011−518657A)
【公表日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−502234(P2011−502234)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【国際出願番号】PCT/EP2008/053854
【国際公開番号】WO2009/121396
【国際公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【出願人】(509127550)
【Fターム(参考)】