説明

天井走行車システム

【課題】
坂道軌道の途中で搬送台車に異常が生じた際に、天井走行車を退避させることにより、後続の天井走行車が渋滞しないようにすると共に、退避させた天井走行車が他の天井走行車と干渉しないようにする。
【構成】
天井スペースに設けられた軌道に沿って天井走行車が走行する。軌道として、高低を変えて少なくとも2個所に設けれられている水平軌道と、水平軌道間を接続する坂道軌道と、坂道軌道から分岐して天井走行車を退避させると共に、退避中の天井走行車が坂道軌道へ誤進入することを防止するように構成された退避軌道、とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は天井走行車システムに関し、特に坂道軌道からの退避に関する。
【背景技術】
【0002】
出願人は、異常が生じた天井走行車を、押し棒を使って手作業で移動させることを提案した(特許文献1:特許4465833)。ところで天井走行車の軌道には坂道軌道が設けられることがあり(特許文献2:特開2007-331936)、坂道軌道を登る途中で天井走行車に異常が生じると、押し棒で坂道の出口まで押し上げるのは困難である。そして押し棒で天井走行車をゆっくりと押し上げると、後続の天井走行車が渋滞し、搬送効率が低下する。坂道軌道の降りの場合でも、押し棒で天井走行車に制動を加えながら出口まで降ろすことは難しい。またこの場合も、後続の天井走行車が渋滞しやすい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許4465833
【特許文献2】特開2007-331936
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この発明の課題は、坂道軌道の途中で搬送台車に異常が生じた際に、天井走行車を退避させることにより、後続の天井走行車が渋滞しないようにすると共に、退避させた天井走行車が他の天井走行車と干渉しないようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明は、天井スペースに設けられた軌道に沿って天井走行車が走行するシステムにおいて、
前記軌道として、高低を変えて少なくとも2個所に設けれられている水平軌道と、
前記水平軌道間を接続する坂道軌道と、
前記坂道軌道から分岐して天井走行車を退避させると共に、退避中の天井走行車が坂道軌道へ誤進入することを防止するように構成された退避軌道、とを備えていることを特徴とする。
【0006】
この発明では、異常が生じた天井走行車を退避軌道に退避させ、後続の天井走行車が渋滞することを防止できる。また退避軌道から坂道軌道へ天井走行車が誤進入することを防止するので、退避中の天井走行車と他の天井走行車とが干渉することがない。誤進入の防止のために、退避軌道に、退避中の天井走行車が退避軌道から坂道軌道へ進入することを防止するための、出没自在なストッパを設けると、ブレーキが効かない天井走行車を退避させた場合でも、安全である。なおストッパ以外に、退避軌道が奥行き方向に沿って僅かな降りとなるようにしても良い。
【0007】
好ましくは、前記退避軌道に軌道が水平な区間、あるいは退避軌道に奥行き方向に沿って降りとなる区間を設ける。このようにすると坂道軌道から退避軌道へ手作業で天井走行車を移動させることが、簡単になる。また退避軌道に奥行き方向に沿って降りとなる区間を設けると、天井走行車が逆送して坂道軌道へ戻ることも防止できる。
【0008】
好ましくは、退避軌道に、天井走行車を地上へ下降させるリフタを設けらる。このようにすると、異常が生じた天井走行車を容易かつ迅速に地上へ降ろし、修理あるいはメンテナンスを施すことができる。リフタは地上から坂道軌道への天井走行車の復帰に用いても、用いなくても良い。
【0009】
好ましくは、前記坂道軌道と退避軌道との分岐部に、天井走行車を退避軌道側へガイドする作動状態と、不作動状態との間で切替自在なガイドを設ける。このようにすると、天井走行車に内蔵の分岐ガイド機構が動作しない場合でも、確実に退避軌道へガイドできる。なお分岐部のガイドは不作動状態で、坂道軌道から分岐しないように天井走行車をガイドしても、しなくても良い。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例の天井走行車システムの要部平面図
【図2】実施例の天井走行車システムの要部側面図
【図3】実施例での退避軌道の平面図
【図4】退避軌道とストッパとを示す鉛直方向断面図
【図5】変形例の退避軌道とストッパとを示す鉛直方向断面図
【図6】変形例の退避軌道と坂道軌道とを示す側面図
【図7】強制ガイドを設けた変形例の、一部切欠部付き要部平面図
【図8】第2の変形例の退避軌道と坂道軌道とを示す側面図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明を実施するための最適実施例を示す。この発明の範囲は、特許請求の範囲の記載に基づき、明細書の記載とこの分野での周知技術とを参酌し、当業者の理解に従って定められるべきである。
【実施例】
【0012】
図1〜図8に、実施例の天井走行車システム2とその変形とを示す。図において4a,4bは水平な水平軌道で、水平軌道4aは水平軌道4bよりも高い位置にある。6は登り軌道、8は降り軌道で、軌道6,8を坂道軌道という。そして図1の斜線で示した範囲内が坂道区間10で、坂道区間10内に坂道軌道が設けられている。12,14は退避軌道で、例えば登り軌道6と降り軌道8とを接続するショートカットであり、異常が生じた天井走行車16を退避させ、あるいは異常が生じた天井走行車16を登り軌道6から降り軌道8へ誘導する軌道である。なお軌道4a,4b,6,8,12,14等は建屋内の天井付近のスペースに設けられている。
【0013】
図1において、天井走行車16は登り軌道6で異常を起こし、押し棒により手作業で退避軌道12へ移動して退避中である。そして天井走行車16が退避軌道12で退避している間に、後続の天井走行車18,18,…が退避軌道12との分岐個所を通過する。退避中の天井走行車16は、例えば退避軌道12から降り軌道8へ押し棒により移動させ、手作業で水平軌道4bまで降らせる。すると後続の天井走行車18,18,…の渋滞を防止でき、また登り軌道6を通って坂道区間10から脱出するのでなく、降り軌道8を通って坂道区間10から脱出できる。
【0014】
降り軌道8で異常が生じた天井走行車17を手作業で水平軌道4bまで下降させるのは、登り軌道6で異常が生じた天井走行車16を水平軌道4aまで上昇させることに比べれば容易である。それでも後続の天井走行車18等を追い越させるために、退避軌道14へ退避させると、渋滞が生じにくくなる。なおこの場合、状況によっては、退避軌道14から登り軌道6へ移動させても良い。しかし退避軌道14から降り軌道8を経て、水平軌道4bへ移動させる方が、坂道軌道からの脱出は容易である。また退避軌道14は袋小路状の軌道としてもよい。さらに退避軌道14を設けず、退避軌道12のみを設けても良い。
【0015】
退避軌道12,14は、少なくとも天井走行車16,17を退避させる個所で、水平にする。このようにすると、退避中の天井走行車16,17が、ブレーキが効かない場合でも、逆走することを防止でき、また退避軌道12,14内での天井走行車の移動を容易にできる。なお退避軌道12,14を降り軌道8側で低く、登り軌道6側で高くなるように僅かに傾斜させても良い。退避軌道12,14から降り軌道8へ抜け出すことを前提にする場合、このようにすると便利である。
【0016】
退避軌道12,14の細部を図3,図4に示す。退避軌道12,14には水平区間20があり、例えば水平区間20内にリフタ軌道22を設けて、昇降ガイド23に沿ってリフタ軌道22を昇降自在にすると、修理あるいはメンテナンスが必要な天井走行車を地上に下ろして搬送することができる。なおリフタ軌道22を吊持して昇降させる場合等は、昇降ガイド23は不要である。また天井走行車の退避個所の前後にストッパ25,25を設け、退避個所から天井走行車が不必要に移動しないようにすると、ブレーキが故障した天井走行車でも安全である。さらに登り軌道6及び降り軌道8との接続個所にストッパ24,24を設け、登り軌道6及び降り軌道8を走行する天井走行車が不必要に退避軌道12,14へ入り込まないようにする。ストッパ25は常時は不作動の位置にあり、天井走行車を退避させた後に例えば手作業で作動させる。ストッパ24は常時は作動位置にあり、天井走行車を退避させる前に、押し棒、リモコン、あるいは図示しない天井走行車システムのコントローラなどにより不作動位置にセットする。
【0017】
図4はストッパ25の構造を示し、ストッパ24の構造も同様である。軌道12は支柱32等により天井等から支持され、天井付近のスペースに設けられている。33は踏面で、天井走行車16の走行車輪42等を支持し、34は開口で天井走行車16のボギー軸43が通過する。ストッパ25は、軸35を中心に回動自在な回動板36を備え、図4の実線によりストッパとして作用する状態を、鎖線により不作用の状態を示す。回動板36は押し棒により手作業で、あるいはリモコンまたは天井走行車システム2のコントローラ等により自動で操作する。押し棒で操作する場合、例えば縁37を押し棒で押し上げること等により、ストッパ25を作用状態とし、突起38を押し棒で押し下げること等により、不作用状態とする。
【0018】
天井走行車16はリニアモータ40と非接触給電線26からの受電装置41と走行車輪42と、図示しない昇降装置を支持するボギー軸43等を備えている。退避軌道12,14で天井走行車16を自走させずに手作業で移動させる場合、リニアモータの2次側プレート及び非接触給電線26などは不要である。しかし退避軌道12,14で天井走行車16を自走させずる場合、リニアモータの2次側プレート及び非接触給電線26等を設ける。なおリフタ軌道22,ストッパ24,25は設けなくても良い。例えばストッパ25を設ける代わりに、水平区間20を窪ませても良い。またリニアモータ40に代えて、走行車輪42等を回転させる回転型モータを用いても良い。退避軌道12に非接触給電線26を設けない場合の、非接触給電線26の配置を図3に示す。
【0019】
図5に変形例のストッパ25’を示し、昇降板50が図5のように下降しているとストッパとして作用し、例えばモータ51の出力軸に連結したネジ棒52に、昇降板50に固定したナット53を噛み合わせて、作用位置と不作用位置との間で昇降させる。モータ51等を用いず、紐、適宜のカム機構、あるいは押し棒等により昇降板50を昇降させても良い。
【0020】
図6に変形例の退避軌道62を示し、登り降り兼用の坂道軌道60、あるいは登り軌道6等に取り付けられ、退避軌道62の水平区間にリフタ軌道22を設けて、昇降ガイド23に沿って昇降させる。なおリフタ軌道22は設けなくても良い。退避軌道62は例えば袋小路型の軌道で、仮に坂道軌道60へ戻るための戻り軌道64を設けると、退避軌道62に水平区間を設けた分だけ、戻り軌道64の傾斜が強くなる。また退避軌道62はリフタ軌道22側で低くなるように傾斜させても良い。
【0021】
図7は、退避軌道12等と軌道6,8,60等との間で、天井走行車を強制的にガイドする強制ガイド70を設けた例を示す。強制ガイド70は例えば軸72により、リモコン、天井走行車システムのコントローラ等により、図7の実線の位置(作動状態)と鎖線の位置(不作動状態)との間で切り換えられる。強制ガイド70は、実線の位置で天井走行車を退避軌道12等の側へガイドし、特に異常の生じた天井走行車の分岐ガイド機構が動作しない場合でも、退避軌道12へガイドできる、また強制ガイド70は、鎖線の位置で軌道6等を走行する天井走行車が退避軌道12等の側へ入り込まないようにし、かつ退避軌道12等の内部の天井走行車が登り軌道6等へ迷走しないようにする。
【0022】
図8は他の変形例を示し、坂道軌道60を複数のゾーンz1〜z3に分割し、ゾーン毎に退避軌道80を設けた例を示す。例えば1個の退避軌道80に退避できる天井走行車は例えば1台とし、各ゾーンz1〜z3の入口に退避軌道80の入口を設ける。
【0023】
実施例では、異常が生じた天井走行車を押し棒等により手作業で移動させる例を説明したが、これに限るものではない。例えば異常のために低速でしか移動できない天井走行車を、リモコンあるいは天井走行車システムのコントローラの制御により退避させて、渋滞を回避することができる。この場合に、リフタ軌道を用いて異常が生じた天井走行車を地上へ降ろすと、速やかに修理あるいはメンテナンスを施すことができる。
【0024】
実施例では以下の効果が得られる。
(1) 坂道軌道から異常が生じた天井走行車を退避軌道へ退避させることにより、後続の天井走行車の渋滞を回避できる。
(2) ストッパを設けると、ブレーキが効かない場合等でも、異常の生じた天井走行車が 退避軌道から坂道軌道等へ迷走することがない。
(3) 退避軌道を水平あるいは僅かに下向きにすると、手作業で天井走行車を退避軌道へ移動させることが容易になる。特に登り軌道から退避させ、降り軌道へ抜け出させる際に、天井走行車の移動が容易になる。
(4) リフタ軌道を設けると、修理あるいはメンテナンスが必要な天井走行車を坂道軌道から迅速かつ容易に地上に降ろすことができる。
(5) 強制ガイドを設けると、分岐ガイド機構が動作しない場合も、異常が生じた天井走行車を退避軌道へ移動させることができる。なお強制ガイドは、正常な天井走行車が退避軌道に入り込むことも、退避軌道から天井走行車が不用意に抜け出すことも防止できる。
(6) 退避軌道にはリニアモータの2次側プレートもしくは非接触給電線26などを設ける必要が無く、簡易な軌道でよい。

【符号の説明】
【0025】
2 天井走行車システム
4 水平軌道
6 登り軌道
8 降り軌道
10 坂道区間
12,14 退避軌道
16〜18 天井走行車
20 水平区間
22 リフタ軌道
23 昇降ガイド
24,25,25’ストッパ
32 支柱
33 踏面
34 開口
35 軸
36 回動板
37 縁
38 突起
40 リニアモータ
41 受電装置
42 走行車輪
43 ボギー軸
50 昇降板
51 モータ
52 ネジ棒
53 ナット
60 坂道軌道
62,80 退避軌道
64 戻り軌道
70 強制ガイド
72 軸
z1〜z3 ゾーン


【特許請求の範囲】
【請求項1】
天井スペースに設けられた軌道に沿って天井走行車が走行するシステムにおいて、
前記軌道として、高低を変えて少なくとも2個所に設けれられている水平軌道と、
前記水平軌道間を接続する坂道軌道と、
前記坂道軌道から分岐して天井走行車を退避させると共に、退避中の天井走行車が坂道軌道へ誤進入することを防止するように構成された退避軌道、とを備えていることを特徴とする、天井走行車システム。
【請求項2】
前記退避軌道に、退避中の天井走行車が退避軌道から坂道軌道へ進入することを防止するための、出没自在なストッパが設けられていることを特徴とする、請求項1の天井走行車システム。
【請求項3】
前記退避軌道に軌道が水平な区間、あるいは退避軌道に奥行き方向に沿って降りとなる区間が設けられていることを特徴とする、請求項1または2の天井走行車システム。
【請求項4】
前記退避軌道に、天井走行車を地上へ下降させるリフタが設けられていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかの天井走行車システム。
【請求項5】
前記坂道軌道と退避軌道との分岐部に、天井走行車を退避軌道側へガイドする作動状態と、不作動状態との間で切替自在なガイドが設けられていることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかの天井走行車システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−1533(P2013−1533A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−136029(P2011−136029)
【出願日】平成23年6月20日(2011.6.20)
【出願人】(000006297)村田機械株式会社 (4,916)
【Fターム(参考)】