説明

天然物由来の抗アレルギー剤

【課題】
安全性が高く、副作用の少ない天然物を起源とする抗アレルギー剤が求められていた。
【解決手段】一般式(1)で表される化合物やヘリクリサム属の植物抽出物の中性画分は、顕著な抗アレルギー作用を有する。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然物由来の抗アレルギー剤に関する。また、特定のPhloroglucinol誘導体を有効成分とする抗アレルギー剤に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、花粉症、喘息、食物アレルギー、アトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患は非常に増えていて、全人口の30〜40%にも達すると推定され、大きな社会問題となっている。まず、考えられるのは遺伝的な要因であるが、主として栄養状態、環境の変化などが密接に関与していると考えられている。アレルギーは本来、身を守る免疫反応が自分自身を攻撃して、炎症反応を引き起こしてしまった状態を意味する。このアレルギー反応はI型からIV型に分類され、I型が最もよく知られている。すなわち、花粉症、喘息、アトピー性皮膚炎など主要なアレルギーを発症させる型である。
【0003】
I型アレルギー反応は、アレルゲンが体内に侵入すると、発症に強く関与するIgE(免疫グロブリンE)がB細胞から産生される。このIgEがマスト細胞や好塩基球上に発現している高親和性IgEレセプター(FcεRI)に結合する。レセプター上のIgEは、再度侵入したアレルゲンによって架橋されると、レセプターが凝集して、ヒスタミン、ロイコトリエン、プロスタグランジンなどのケミカルメディエーターが放出され、アレルギーの発症を誘導する。
【0004】
現在のところ、上記のアレルギー疾患の治療には、抗ヒスタミン剤やステロイド剤などの医薬品が開発され使用されているが、眠気、口渇、胃腸障害などの副作用があって、長期にわたる服用が問題となっている。そこで、最近、安全性が高く、副作用のない天然物を起源とする植物成分や食品成分が、抗アレルギー作用を有することが明らかにされ、そうした成分を有効成分とした抗アレルギー剤がいくつか報告されている。
例えば、茶に含有するヒスタミン遊離に対する抑制効果をもつ3−O−メチルガロイルエピガロカテキンや4−O−メチルガロイルエピガロカテキン(特許文献1)、ペパーミントに含有するアレルギー鼻炎症状の予防や改善効果をもつルテオリン−7−O−ルチノシド(特許文献2)、マスト細胞表面上のIgEレセプターの発現を抑制する作用を有するイソフラボン類(特許文献3)などが挙げられている。
【0005】
ところで、ヘリクリサム属植物抽出物には強い抗菌活性、抗炎症性作用や抗酸化活性などを有することが知られている。また、ヘリクリサム属植物抽出物に含まれる上記活性を有する成分の探索もなされていて、抗酸化活性を有する成分として、フラボノール類や、該抽出物を加水分解して得られるフェノール成分などが報告されている(例えば、非特許文献1〜3)。また、本出願人らは、Phloroglucinol誘導体である一般式(1)で表される化合物を有効成分とする抗酸化剤、該抗酸化剤が配合された香料組成物について出願している(特許文献4)。
【0006】
また、Phloroglucinol誘導体は、抗菌活性を有することが知られている(特許文献5および非特許文献4〜6、ヘリクリスム属(別名、ヘリクリサム属)植物の抽出物からなる抗菌剤(特許文献6、本願出願人らが出願))が、抗アレルギー効果を有することはこれまで知られていなかった。
【特許文献1】特許第3637355号
【特許文献2】特開2003−128558号公報
【特許文献3】特開2006−348003号公報
【特許文献4】特願2007−073958号
【特許文献5】ドイツ特開1989−3907543号公報
【特許文献6】特開2001−302532号公報
【非特許文献1】Fitoterapia,76(2),269(2005)
【非特許文献2】Food Chem.,90(4),685(2005)
【非特許文献3】European J.Pharmacology,460(2−3),219(2003)
【非特許文献4】Fitoterapia,62(6),521(1991)
【非特許文献5】Phytochemistry, 29(4),1093(1990)
【非特許文献6】Phytochemistry.28(6), 1613(1989)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記事情において、安全性が高く、副作用のない天然物を起源とする植物成分や食品成分を有効成分とした抗アレルギー剤の開発がさらに強く求められていた。すなわち、本発明は、安全性が高く、副作用のない、天然物由来の優れた、抗アレルギー剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記の課題を解決するため種々検討した結果、インターロイキン4シグナリングの阻害活性(IgEクラススイッチの阻害活性)、FcεRI発現の低下活性、およびヒスタミン放出の阻害活性を指標にして、ヘリクリサム属植物の抽出物、その中性画分、さらに、Phloroglucinol誘導体である下記一般式(1)と(2)で表される化合物が、優れた抗アレルギー作用を有することを見出し、本発明を完成した。
【0009】
本発明は、
下記一般式(1)
【化1】


(式中、Rはメチル基またはエチル基であることを示す)で表される化合物、および下記一般式(2)
【0010】
【化2】


(式中、Rはメチル基またはエチル基であることを示す)で表される化合物より選ばれる1種または2種以上のPhloroglucinol誘導体を有効成分とする抗アレルギー剤やヘリクリサム植物の抽出物の中性画分を有効成分とする抗アレルギー剤に関する。
【0011】
また、一般式(1)
【化3】


(式中、Rはメチル基またはエチル基であることを示す)で表される化合物を有効成分とするIL−4シグナリング阻害剤、FcεRI発現低下剤、またはヒスタミン放出阻害剤、
および、一般式(2)
【0012】
【化4】


(式中、Rはメチル基またはエチル基であることを示す)で表される化合物を有効成分とするIL−4シグナリング阻害剤、FcεRI発現低下剤、またはヒスタミン放出阻害剤にも関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の抗アレルギー剤は、植物からの抽出物であり安全性が高く、非常に優れた抗アレルギー効果を発揮して、アレルギー症状の予防、軽減に有効である。また、抗アレルギー成分として、ヘリクリサム属植物の中性画分、或は上記一般式(1)と上記一般式(2)で表されるPhloroglucinol誘導体は、安全性が高く、非常に優れた抗アレルギー効果を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明に用いるヘリクリサム(Helichrysum)属植物は、キク科で南ヨーロッパ、南アフリカ、熱帯アジアからオーストラリアにかけて約500種が分布して、一年草または多年草で低木状になる種もある。
【0015】
ヘリクリサム属植物としては、Helichrysum(以下、H.と略記する)ambignum、H.amorginum、H.arenarium、H.argenteum、H.armenium、H.aurantiacum、H.aureonitens、H.bellidioides、H.bracteatum、H.caespititium、H.crispum、H.decumbens、H.frigidum、H.graveolens、H.italicum(異名H.rupestre)、H.leucopsideum、H.maritimum、H.milfordiae、H.nitens、H.petiolare、H.odoratissimum、H.petiolatum、H.picardii、H.plicatum、H.plinthocalyx、H.polyphyllum、H.pumilum、H.rubicundum、H.selago、H.serotinum(異名H.angustifolium)、H.sexatile、H.sibthorpii(異名H.virgineum)、H.splendidum、H.stoechas、H.taenari、H.thianschanicum等が挙げられる。これらのなかで、セロチヌム(H.serotinum)、イタリクム(H.italicum)またはストエカス(H.stoechas)が好ましく、とりわけヘリクリサム ストエカス(H.stoechas)が特に好ましい。
【0016】
ヘリクリサム属植物の抽出物としては、ヘリクリサム属植物の全草、葉、枝、花、根、茎などいずれの部位の抽出物でもよいが、特に花からの抽出部に含有しているものが好ましい。
【0017】
ヘリクリサム属植物の抽出物としては、種々の形態のものを利用することができるが、有機溶剤に一定期間浸漬させた後、植物を取り除き溶媒を留去してコンクリートを得て、さらにアルコールに溶解(加温が望ましい)して再抽出していたアブソリュートを用いることが好ましい。
【0018】
ヘリクリサム属植物の抽出物の中性画分は、ヘリクリサム属植物を溶媒、例えば液化ガス(液体炭酸、液化プロパン、液化ブタン等)、水、炭素数1〜5の低級アルコール類(メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコール等)、含水低級アルコール類、炭素数1〜5の低級アルコールと炭素数1〜5の脂肪酸とのエステル類(酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン等)、前記エステル類およびケトン類の含水物、ハロゲン化炭化水素類(クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン、トリクロロエタン等)、エーテル類(メチルエーテル、エチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等)、炭化水素類(石油エーテル、ヘキサン等)あるいは前記溶媒の混合物で抽出して得た抽出液をそのまま、或いは濃縮することにより得ることが出来る。前記抽出溶媒の中でも炭化水素類が好ましく、更に炭化水素類で抽出後炭素数1〜5の低級アルコール類、特にエチルアルコールで抽出することが好ましい。抽出方法としては特に限定されず、例えば溶媒中に原料植物を室温で1〜100時間程度浸漬する方法、或いは溶媒の沸点以下の温度で加温、攪拌しながら抽出する方法などがあるが、抽出温度は、抽出時の変性がより少ない点から室温が好ましい。溶媒の使用量も特に限定されず、例えば原料植物に対して質量比で1〜100倍量、より好ましくは5〜50倍量が挙げられる。
【0019】
次に、前記の植物抽出物をそのまま、あるいは有機溶媒、例えば、酢酸エチルまたは前記炭化水素類を追加後、酸水溶液およびアルカリ水溶液にて洗浄処理する。特に限定されないが、酸水溶液とは、塩酸、硫酸などの酸性化合物の水溶液であり、特に限定されないが、酸の濃度は1〜10(w/w)%が好ましい。同様に特には限定されないが、アルカリ水溶液とは、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウムなどのアルカリ性化合物の水溶液であり、アルカリ性化合物の濃度は1〜20(w/w)%が好ましい。
【0020】
この洗浄の工程としては、アルカリ水溶液ついで酸水溶液にて洗浄処理する方法でも、酸水溶液ついでアルカリ水溶液にて洗浄処理する方法でもよい。また、洗浄処理後の画分に溶媒が残存していれば、その除去を行い中性画分を得る。
【0021】
本発明で用いる前記一般式(1)および前記一般式(2)は、上記で得られた中性画分をカラムクロマトグラフィーによる処理により得ることができる。カラムクロマトグラフィーには、例えば、順相および逆相系の支持体を利用したカラムクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、さらには超臨界流体を用いたクロマトグラフィーなどを用いることができ、使用する溶媒には特に制限はない。
【0022】
また、当該化合物を得るには中性画分を処理するものでなくとも、精油、コンクリート、アブソリュートなどから一般的によく知られている分離および精製方法を用いることにより得ることもでき、また、上記ヘリクリサム属植物でなくとも当該化合物を含有する他の植物を原料として抽出することもでき、さらに、当該化合物を化学合成によって製造したものを用いることもできる。
【0023】
本発明の抗アレルギー剤に、特に限定されない香料を添加することもできる。香料として使用可能な香料素材については、特に限定されないが、例えば、以下のものが挙げられる。
【0024】
リモネン、ピネンに代表される各種炭化水素類;オクタナール、デカナール、シトラールなどの各種アルデヒド類;マルトール、ダマセノン、メチルヘプテノンなどの各種ケトン類;L−メントール、オクタノール、リナロール、フェニルエチルアルコールなどの各種アルコール類;メチルフェニルエチルエーテル、リナロールオキサイド、1,4−シネオールなどの各種エーテルおよびオキサイド類;エチルブチレート、ゲラニルアセテート、ヘキシルアセテートなどの各種エステル類;γ−デカラクトン、クマリン、ジャスミンラクトンなどの各種ラクトン類;インドール、フェニルアセトニトリル、リモネンチオールなどの各種ヘテロ化合物類;レモンオイル、グレープフルーツオイルといったシトラス系オイルや、シトラス系オイルを使用して作られたエッセンス類やオイル類;ペパーミントオイル、ジャスミンアブソリュート、シダーウッドオイル、オリスコンクリートなどの各種天然香料素材類、あるいはそれらを処理して得られる香料素材類;などが挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0025】
実施例
以下、本発明を製造例および実施例に基づいて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0026】
(製造例1)
H.stoechasの乾燥した花1kgを、ヘキサン10Lに浸漬させ、室温で1週間静置後、花を除いた。次に、溶媒を留去してコンクリート250gを得た。次にコンクリート250gをエチルアルコール2.5Lに加温溶解して再抽出し、溶液を−15℃〜−25℃に冷却してワックスなどの不溶解物を除いた後、減圧下でエチルアルコールを留去し赤褐色、粘稠なアブソリュート190gを得た。
【0027】
上記アブソリュート90gを、酢酸エチル0.5Lに溶解させた。有機層に1mol/L水酸化ナトリウム水溶液を加え良く攪拌した後、水層部分を除いた。この操作を5回行った。水を加え、同様の操作を行い有機層を残した。
次に、1mol/L塩酸を加え良く攪拌した後、静止させ2層に分離したら水層部分を除いた。この操作を5回行った。水を加え同様の操作を行い有機層を残した。
pH試験紙でpHが7になっていることを確認した後、無水硫酸マグネシウムを加え、放置した。その後、濾紙等を用いて有機層を濾過し、溶媒を除去して、ヘリクリサム属植物の抽出物の中性画分(以下、SK−1ともいう)を72g得た。
【0028】
SK−1のプロトンおよびカーボンNMRスペクトルを重メタノールにて測定した。主に観測されたスペクトルデータは、一般式(1)(Rがメチル基およびエチル基)で表される化合物に基づくプロトンおよびカーボンNMRスペクトルデータであった。従って、SK−1に含まれる主なPhloroglucinol誘導体は、一般式(1)(Rはメチル基またはエチル基)で表される構造と確認した。
【0029】
(製造例2)
製造例1で製造したアブソリュート100gを、酢酸エチル0.5Lに溶解させた。次に、1mol/L塩酸を150ml加え良く攪拌した後、静止させ2層に分離したら水層部分を除いた。この操作を5回行った。水を加え同様の操作を行い、有機層を残した。
次に、有機層に1mol/L水酸化ナトリウム水溶液を加え良く攪拌した後、静止させ2層に分離したら、水層部分を除き、この操作を5回行った。水を加え同様の操作を行い、有機層を残した。
pH試験紙でpHが7になっていることを確認した後、無水硫酸マグネシウムを加えた。濾紙等を用いて有機層を濾過し、溶媒を除去して、ヘリクリサム属植物の抽出物の中性画分を80g得た。
【0030】
上記中性画分80gを、n−ヘキサン/酢酸エチル=1:1(v/v)、酢酸エチル、酢酸エチル/メタノール=1:1(v/v)の移動相を用いてシリカゲルカラムクロマトグラフィーを行った。
【0031】
酢酸エチル留出画分22gを、60%メタノール水溶液、70%メタノール水溶液、およびメタノールによる逆相ODSカラムクロマトグラフィーを行った。60%メタノール水溶液留出画分より、一般式(2)で表される化合物(以下、SK−2ともいう)を12g得た。
【0032】
SK−2のプロトンおよびカーボンNMRスペクトルデータを以下に示した。下記データを解析した結果、SK−2には、一般式(2)(Rはエチル基)で表される化合物が51%、一般式(2)(Rはメチル基)で表される化合物が45%含有した混合物であることを確認した。
【0033】
H-NMR(400MHz, CDOD; ppm) δ: 1.17(3H,t), 1.63(6H,s), 1.67(3H,s), 1.87(3H,s), 1.88(3H,s), 2.09(2H), 2.17(3H,s), 2.20(2H), 2.52(2H), 2.67(3H,s), 3.22(2H,d), 3.51(2H,br), 5.17(1H,dd), 5.22(1H,dd)
【0034】
13C-NMR(100MHz, CDOD; ppm) δ: 10.1, 10.5, 12.1, 17.2, 17.7, 20.0, 22.4, 23.7, 25.3, 25.9, 27.8, 32.9, 33.2, 101.3, 106.5, 108.8, 109.3, 113.5, 114.3, 125.6, 125.9, 131.8, 134.7, 156.0, 159.7, 160.6, 162.6, 163.0, 170.9, 180.2, 180.4, 205.1
【0035】
(製造例3):(ヘリクリサム属植物からの抽出)
H.stoechasの乾燥した花1kgをヘキサン10Lに室温で浸漬して、花香成分および抗アレルギー成分を移行させた後、花を除いた。次に、溶媒を留去してコンクリート250gを得た。次にコンクリート250gをエチルアルコール2.5Lに加温溶解して再抽出し、溶液を−15℃〜−25℃に冷却してワックスなどの不溶解物を除いた後、減圧下でエチルアルコールを留去し赤褐色、粘着状のアブソリュート190gを得た。強いカレー臭を有していた。
これをヘキサンに一定量を溶解させた。次に、1mol/L塩酸を加え良く攪拌した後、静止させ2層に分離させた後水層部分を除き、この操作を5回以上行った。この操作の最後に、水を加え、同じ操作を行い、有機層を残した。
次に、有機層に1mol/L水酸化ナトリウムを加え良く攪拌した後、静止させ2層に分離させた後、水層部分を除き、この操作を5回以上行った。この操作の最後に、水を加え、同じ操作を行い、有機層を残した。
pH試験紙でpH7になっていることを確認した後、乾燥硫酸マグネシウム又は乾燥塩化カルシウムを加え、数時間攪拌、放置した。その後、濾紙等を用いて有機層を濾過し、溶媒を除去して、ヘリクリサム属植物の抽出物の中性画分を得た。
【0036】
次に上記中性画分80グラムを、n−ヘキサン/酢酸エチル=1:1(v/v)〜酢酸エチル/メタノール=1:1(v/v)の移動相を用いて常法に従いシリカゲルカラムクロマトグラフィーを行い、当該Phloroglucinol誘導体群のうち、Rがメチル基およびエチル基である化合物を主成分とする2つの画分を、それぞれ4.9g、3.2g(Rがエチル基である化合物の純度70%、以下Rがエチル基である粗精製品ともいう)得た。粗精製品の臭いは無かった。
【0037】
さらに、この粗精製品について、前記した溶剤でシリカゲルカラムクロマトグラフィーを繰り返し、一般式(1)で表される化合物のRがエチル基である化合物を、0.5g得た(これを「SK−3」ともいう。)
【0038】
SK−3のIR、UV、EI−MSならびにプロトンおよびカーボンNMRスペクトルデータは、特願2007−073958の実施例1Aで得られた精製品−2のデータと同一であった。
【0039】
SK−3のHMBCスペクトルなどの2次元NMRスペクトルデータを解析した結果、特願2007−073958に記載の通り、本発明の化合物における鎖状側鎖がネリル基(二重結合がシス体(Z))であることが判明した。
【0040】
上記Phloroglucinol誘導体の純度は、高速液体クロマトグラフィーのピーク面積比から算出した結果である。
カラム:ODS−5−A(250mm×4.6mm)(YMC社製)
検出器:205nm(UV)
移動相:アセトニトリル:30m mol/Lギ酸アンモニウム水溶液=62.5:37.5
【実施例1】
【0041】
(インターロイキン4シグナリングの阻害活性)
ヒト成熟B細胞株DND39を、2×10細胞数/mLに調製して、インターロイキン4(100U/mL)とともに、SK−1、SK−2、SK−3とを、各々0.1%DMSO水溶液で終濃度が0.1μg/mL、1μg/mL、および10μg/mLになるように溶解させ、共存下で30分間インキュベートした。その後、細胞を溶解し、免疫沈降に供して、リン酸化Stat6(pStat6)とStat6を検出した。その結果を図1に示した。有意差検定はt検定法にて行い、危険率pが0.01未満(p<0.01)で有意な場合、「*」を、0.001未満(p<0.001)で有意な場合、「**」を付して有意であることを示した。
【0042】
その結果、いずれも1μg/mLの濃度でインターロイキン4誘導性Stat6リン酸化を有意に抑制した。
【実施例2】
【0043】
(FcεRI発現の低下活性)
SK−1、SK−2、SK−3を、各々0.1%DMSO水溶液で終濃度が0.1、1および10μg/mLになるように溶解させ、これらの存在下で、ヒト好塩基球様細胞株KU812細胞(5×10細胞数/mL)を24時間培養した。その後、FcεRIに特異的な抗体を用いたフローサイトメトリー解析により、細胞表面上のFcεRI発現レベルを測定し、結果を表1および図2に記載した。
【0044】
表1
濃度(μg/ml) FcεRI陽性細胞率(%)
SK−1 0.1 50.9
SK−1 1.0 43.4
SK−1 10 47.0
SK−2 0.1 49.3
SK−2 1.0 44.5
SK−2 10 32.4
SK−3 0.1 48.0
SK−3 1.0 48.4
SK−3 10 26.2
対照 48.7
【0045】
この結果、いずれも1μg/mLの濃度でFcεRI発現を有意に抑制した。
【実施例3】
【0046】
(ヒスタミン放出の阻害活性)
KU812細胞(1×10細胞数/mL)に、SK−1、SK−2、SK−3を、0.1%DMSO水溶液で終濃度が0.1μg/mL、および1μg/mLになるように溶解させたものと、対照としてエピガロカテキン−3−0−ガレート(Epigallocatechin-3-O-gallate、EGCG;終濃度25μM)とを、添加して、20分間前処理を行った。
その後、カルシウム導入剤A23187(終濃度55μM)により、20分間刺激後、上清を回収して蛍光法により細胞外に放出されたヒスタミン量を測定した。その結果を図2に示した。なお、図3に記載した、Relative histamine release(%)とは、相対ヒスタミン放出率(%)を意味する。また、有意差検定はt検定法にて行い、危険率pが0.01未満(p<0.01)で有意な場合「*」を、0.001未満(p<0.001)で有意な場合「**」を付して有意であることを示した。
【0047】
その結果、いずれも1μg/mLの濃度でヒスタミン放出の阻害活性を有意に抑制した。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の一般式(1)および一般式(2)で表される化合物または天然物抽出物(ヘリクリサム属の植物抽出物の中性画分)は抗アレルギー作用を有し、これらを配合するあるいは添加することにより、抗アレルギー性を付与することができる。本発明の抗アレルギー剤は、植物抽出物であり安全性が高く、非常に優れた抗アレルギー性を有する。従って、本発明の化合物または天然物抽出物を、香粧品、飲食品、健康食品などに添加することにより、これらに抗アレルギー性が付与できる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】インターロイキン4誘導性Stat6のリン酸化阻害活性試験結果
【図2】FcεRI発現の低下活性試験結果
【図3】ヒスタミン放出阻害活性試験結果

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
【化1】


(式中、Rはメチル基またはエチル基であることを示す)で表される化合物、および下記一般式(2)
【化2】


(式中、Rはメチル基またはエチル基であることを示す)で表される化合物より選ばれる1種または2種以上のPhloroglucinol誘導体を有効成分とする抗アレルギー剤。

【請求項2】
ヘリクリサム属の植物抽出物の中性画分を有効成分とする抗アレルギー剤。



【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2009−96761(P2009−96761A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−270314(P2007−270314)
【出願日】平成19年10月17日(2007.10.17)
【出願人】(000121512)塩野香料株式会社 (23)
【出願人】(504180206)株式会社カネボウ化粧品 (125)
【Fターム(参考)】