太陽光反射材およびそれを設置した建造物
【課題】建造物に一旦設置すれば調整することなく、夏の暑さを軽減するとともに、冬は太陽光を取り込むことができる太陽光反射材およびそれを設置した建造物を提供する。
【解決手段】太陽光反射材を、所定の緯度(φ)において所定の方向に設置することにより、太陽が天球上の夏至を中心とする所定期間に対応する位置にある場合は太陽光を再帰反射し、他の期間に対応する位置にある場合は太陽光を透過させる構成とした。太陽光反射材は、太陽光を集光する球状レンズ(S)を備え、球状レンズ(S)には前記所定期間において太陽光が集光する範囲に反射部(R)が設けられている。
【解決手段】太陽光反射材を、所定の緯度(φ)において所定の方向に設置することにより、太陽が天球上の夏至を中心とする所定期間に対応する位置にある場合は太陽光を再帰反射し、他の期間に対応する位置にある場合は太陽光を透過させる構成とした。太陽光反射材は、太陽光を集光する球状レンズ(S)を備え、球状レンズ(S)には前記所定期間において太陽光が集光する範囲に反射部(R)が設けられている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建造物に設置するための太陽光反射材、およびそれを設置した建造物に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽光は可視光線、赤外線(熱線)、紫外線などを含んでおり、太陽光に照射された物体は加熱される。建造物に窓から入る太陽光を軽減する手段として、夏の暑い時期にスダレやブラインド、サンシェードなどの日除けを設置したり、窓ガラスに熱線反射ガラスや熱線吸収ガラスを用いることが行なわれている。また、建造物自体に吸収される太陽光の熱を軽減するため、建造物の屋根や壁面に熱線を反射する遮熱塗料を塗布することも行なわれている。
【0003】
ここで、建造物とは、建物や橋梁などの移動しないものばかりでなく、地表に対する相対角度を一定に保って所定の範囲を移動する構造物も包含するものとする。例えば、エレベーターやケーブルカーなど、一定の範囲を直線移動する乗り物でもよい。またロープウェイのゴンドラのように、地表に対する策条の角度が変化しても、それ自体は重力により一定の角度を保つような乗り物でもよい。また、擁壁、路面、グラウンドなどに敷設した構造物も含むものとする。
【0004】
しかし、スダレなどの日除けは、必要に応じて設置および回収を行なう必要があり、設置中は向きや面積を調整しなければならないという煩わしさがある。また、設置中は採光が不十分となるという欠点がある。
一方、熱線反射ガラス、熱線吸収ガラス、遮熱塗料などは、その都度の設置や回収の手間はかからないが、一旦設置したら回収困難であるため、太陽光をむしろ取り込んで利用したい冬場も太陽光を反射してしまうという欠点がある。
さらに、スダレなどの日除け、熱線吸収ガラスの場合は、それ自体が太陽光を吸収して温度上昇することにより、周囲の大気を暖めることとなる。
また、熱線反射ガラス、遮熱塗料の場合は、それ自体の温度上昇は少ないが、反射した太陽光のうち、宇宙空間に放出されなかった反射光は他の物体に当たってこれらを暖め、結局周囲の大気を暖めることとなる。
大気が暖められれば気温が上昇し、結局、建造物内部の温度上昇を招くことになる。
【0005】
入射光を照射方向にかかわらず光源の方向へ返す、いわゆる光の再帰反射特性を有した再帰反射材が知られている。再帰反射材にはガラスビーズやコーナーキューブ(立体プリズム)がある。例えば、道路の路面標示や反射標識の標示部分には、このような再帰反射材が配置されている。これにより、夜間、自動車のヘッドライトの反射光が運転手の方向へ効率よく戻り、標示の視認性を向上させている。
このような再帰反射特性を利用して輻射熱を熱源の方向へ戻すことが知られている。
特開昭52−129445号公報には、再帰反射材として三面反射セル(立体プリズム)を用い、輻射熱を熱源に戻すようにした装置が開示されている。
特開2004−341272号公報には、ルーバーの表面に再帰反射材としてガラスビーズや樹脂ビーズ、立体プリズムを設け、入射した光を光源方向へと反射させることにより、建物の室内や炎天下停車時の車室内の温度低下を図ることが開示されている。
【0006】
スダレなどの日除けに代えて再帰反射材を用い、あるいは、窓ガラス、屋根、壁面などの表面に再帰反射材を設置すれば、照射された太陽光を太陽の方向に返すことができる。これにより、反射した太陽光が他の物体に当たる割合が低くなるので、大気による吸収や散乱はあるとしても、太陽光のエネルギーが宇宙空間に放出される割合を高めることができる。しかしながら、一旦設置してしまうと撤去しない限り、年間を通して太陽光を反射させてしまうので、夏は好適であっても、冬には太陽光を取り込んで利用することができなくなってしまう。また、窓ガラスに設置した場合は、採光が不十分となってしまう。
また、実願昭62−071258号(実開昭63−183240号)全文明細書には、透明微小球の球面に、20〜80%の範囲で部分的に反射層を設けることが記載されているが、太陽光との関係については触れられていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭52−129445号公報
【特許文献2】特開2004−341272号公報
【特許文献3】実願昭62−071258号(実開昭63−183240号)全文明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
解決しようとする課題は、建造物に一旦設置すれば調整することなく、夏の暑さを軽減するとともに、冬は太陽光を取り込むことができる太陽光反射材およびそれを設置した建造物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、請求項1に係る発明の太陽光反射材は、所定の緯度において所定の方向に設置することにより、太陽が天球上の夏至を中心とする所定期間に対応する位置にある場合は太陽光を再帰反射し、他の期間に対応する位置にある場合は太陽光を透過させることを特徴としている。
【0010】
上記課題を解決するため、請求項7に係る発明の建造物は、前記所定の緯度にある建造物であって、請求項1から6のいずれか1つ係る発明の太陽光反射材を前記所定の方向に設置したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明の太陽光反射材を設置した建造物は、夏至を中心とする所定期間は太陽光を再帰反射させて宇宙空間に放出するので、建造物の内部、建造物自体および周囲の物体の温度上昇を軽減することができる。これにより、夏の暑さを軽減することができる。ひいては、ヒートアイランド現象を軽減でき、地球温暖化の緩和に寄与することができる。他の期間は太陽光を建造物の内部や建造物自体に取り込むことができるので、光熱として利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、天球CS上の太陽の位置を示す図である。
【図2】図2は、球体S(球状レンズ)の再帰反射特性を説明する図である。
【図3】図3は、球体Sの屈折率nが1.52の場合の光路を示す図である。
【図4】図4は、球体Sの屈折率nが1.7の場合の光路を示す図である。
【図5】図5は、図2におけるθ1とθEの関係を、球体Sの屈折率nをパラメータとして示したグラフである。
【図6】図6は、図2におけるθ1とθ2の関係を、球体Sの屈折率nをパラメータとして示したグラフである。
【図7】図7は、図2におけるθ1とθJの関係を、球体Sの屈折率nをパラメータとして示したグラフである。
【図8】図8は、球体Sに設ける反射部Rを示す図である。
【図9】図9は、球体Sの反射部R上に投射される太陽光のスポットSPを示す図である。
【図10】図10は、設置面が東向き垂直面の場合に球体Sに設ける反射部Rを示す図である。
【図11】図11は、設置面が南向き垂直面の場合に球体Sに設ける反射部Rを示す図である。
【図12】図12は、設置面が南向き傾斜角45°の場合に球体Sに設ける反射部Rを示す図である。
【図13】図13(A)〜(F)は、球体Sの配置例を示す図である。
【図14】図14は、球体Sの屈折率nが1.52の場合に太陽光が設置面に垂直に入射するときの隣の球体Sの影響を説明する図であり、(A)は球体Sが接触している場合、(B)は半径分の隙間があいている場合である。
【図15】図15は、球体Sの屈折率nが1.52の場合に太陽光が設置面に対して上方45°から入射するときの隣の球体Sの影響を説明する図であり、(A)は球体Sが接触している場合、(B)は半径分の隙間があいている場合である。
【図16】図16は、球体Sの屈折率nが1.52の場合に太陽光が設置面に対して上方45°から入射するときの隣の球体Sの影響を説明する図であり、(A)は球体Sが接触している場合、(B)は半径分の隙間があいている場合である。
【図17】図17は、球体Sの屈折率nが1.7の場合に太陽光が設置面に垂直に入射するときの隣の球体Sの影響を説明する図であり、(A)は球体Sが接触している場合、(B)は半径分の隙間があいている場合である。
【図18】図18は、球体Sの屈折率nが1.7の場合に太陽光が設置面に対して上方45°から入射するときの隣の球体Sの影響を説明する図であり、(A)は球体Sが接触している場合、(B)は半径分の隙間があいている場合である。
【図19】図19は、球体Sの屈折率nが1.7の場合に太陽光が設置面に対して上方45°から入射するときの隣の球体Sの影響を説明する図であり、(A)は球体Sが接触している場合、(B)は半径分の隙間があいている場合である。
【図20】図20は、実験用の球体Sに設けた正規の反射部Rを示す図である。(実施例1)
【図21】図21は、実験用の球体Sに設けた比較用の反射部RCを示す図である。(実施例1)
【図22】図22は、本発明の効果を確認する実験装置10を示す図である。(実施例1)
【図23】図23は、図20に示す反射部Rを設けた球体S(正規品)と、図21に示す反射部RCを設けた球体S(比較品)について、図22の実験装置10を用いて実験した結果を示すグラフである。(実施例1)
【図24】図24は、本発明による太陽光反射材30の構造を示す図である。(実施例2)
【図25】図25は、図24の太陽光反射材30にカバー37および補強部38を付加した変形例の断面図である。(変形例1)
【図26】図26は、図24の太陽光反射材30にカバー37を設けるとともに、後面側を樹脂40で固定した変形例の断面図である。(変形例2)
【図27】図27(A)は、多数の球体Sを連結してシート状に形成した太陽光反射シート50の断面図であり、(B)は(A)の太陽光反射シート50を建材54に張り付けた太陽光反射パネル520の断面図である。(実施例3)
【図28】図28(A)は、図27(B)の太陽光反射パネル520を建造物56に設置した状態を示す断面図であり、図28(B)は図27(A)の太陽光反射シート50を建造物56に設置した状態を示す断面図であり、図28(C)は図27(A)の太陽光反射シート50を二重ガラス61、62の間に挿入した状態を示す断面図である。(実施例3)
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書において、夏至(夏至点)とは夏季にある至点、すなわち北半球では6月、南半球では12月にある至点を指すものとする。同様に、冬至(冬至点)とは冬季にある至点、すなわち北半球では12月、南半球では6月にある至点を指すものとする。
また、本明細書においては、簡略化のため、主として北半球の場合について説明する。南半球の場合は季節が逆転するが、原理は同じであるので詳述は省略する。
【0014】
本発明の好適な実施形態では、太陽光反射材を、所定の緯度において所定の方向に設置することにより、太陽が天球上の夏至を中心とする所定期間に対応する位置にある場合は太陽光を再帰反射し、他の期間に対応する位置にある場合は太陽光を透過させる構成とした。これにより、この太陽光反射材を設置した建造物においては、一旦設置すれば調整することなく、夏の暑さを軽減するとともに、冬は太陽光を取り込むことができるという目的を達成した。
【0015】
上記の太陽光反射材の一態様では、太陽光を集光する球状レンズを備え、前記球状レンズには前記所定期間において太陽光が集光する範囲に反射部が設けられている。反射部は、太陽光反射材を設置する設置面の緯度、向き、傾斜角に応じた位置・形状とする。例えば、図8に網掛けで示した反射部Rは、緯度φにおいて、設置面が水平で前記所定期間を半年とする場合の例である。これにより、太陽光を太陽の位置に応じて選択的に再帰反射させることができる。
【0016】
上記の太陽光反射材の一態様では、多数の前記球状レンズが平面状に配置されており、例えば、シート状やパネル状とされる。これにより、厚みを薄くできるとともに、製造および設置を容易に行なうことができる。
上記の太陽光反射材の一態様では、設置する際の方向を示す指標が設けられている。 これにより、設置を容易かつ正確に行なうことができる。
上記の太陽光反射材の一態様では、前記球状レンズの屈折率が1.47〜1.81である。これにより、再帰反射する太陽光の光量を多くでき、かつ、再帰反射する方向の範囲を狭くすることができる。
上記の太陽光反射材の一態様では、前記反射部は、設置面の外側に面した半球部分には設けない。これにより、前記球状レンズに入射する太陽光および再帰反射する太陽光が妨げられることがないので、再帰反射する太陽光の光量および透過する太陽光の光量を最大とすることができる。
【0017】
以下、図を参照して詳述する。
(本発明の前提)
図1は、本発明の原理を説明するために、太陽の見かけの位置を示した斜視図である。観測点OBは本発明の太陽光反射材を設置すべき地上の位置である。太陽の位置は、観測点OBを中心とした天球CS上に示される。説明のため、天球CS上には観測点OBから見た地平線、方位、天頂、天底等が示してある。
【0018】
太陽は黄道を1年かけて一回りする。春分(3月21日頃)および秋分(9月23日頃)には、太陽は地平線の真東(秋分点P11)を出て、天の赤道上を矢印の方向に移動し、子午線と交わる点P12で南中する。そして地平線の真西(春分点P13)に沈む。夏至の日(6月22日頃)には、太陽は地平線の点P21を出て夏至点P22を通り、P23で地平線に沈む。冬至の日(12月22日頃)には、太陽は地平線の点P31を出て点P32で南中し、点P33で地平線に沈む。
【0019】
天の赤道は天頂から南へ角度φ傾いている。この角度φは観測点OBの緯度に等しく、図1は北緯約35°とした例である。黄道は天の赤道に対して角度φS=φW=23.4°傾いている。これは、地球の地軸が公転軌道面と66.6°で交わるためであり、これによって四季が生じることとなる。
図1に示すように、太陽は、春分から秋分までの期間の昼間には天球CS上の網掛けで示した部分、つまり、春分・秋分の日周運動の経路と、夏至の日周運動の経路との間に位置する。一方、冬季の昼間には、春分・秋分の日周運動の経路と、冬至の日周運動の経路との間に位置する。なお、春分から秋分までの期間とは、本発明でいう夏至を中心とする所定期間の一例である。
【0020】
熱帯(緯度23.4°以下)と極圏(緯度66.6°以上)の間の地域においては、一年のうちで夏至の頃に太陽の高度が最も高くかつ昼間の時間が最も長くなり、冬至の頃に太陽の高度が最も低くかつ昼間の時間が最も短くなる。このため、地表が太陽から1日に受ける熱量は、一年のうちで夏至の頃が最も多く、冬至の頃に最も少なくなる。これが温帯において夏暑く冬寒い原因であるが、気温は夏至の頃に最も高く冬至の頃に最も低くなるわけではない。気温の変化はそれより1ヶ月半ほど遅れて現われ、日本では8月に最も暑くなり、1月に最も寒くなる。
【0021】
本発明者は、このような時間遅れがあるものの、太陽光による熱量を多く受ける期間に建造物が受ける太陽光を宇宙空間に返しておくことにより、長期的にみれば建造物自体や建造物を介して地表や大気に蓄積される熱量を低減することができ、ひいては夏の気温の上昇を軽減することができると考えた。
一方、太陽光による熱量が少ない期間には太陽光を反射や遮断をせずに、建造物内(室内)や建造物自体に取り込んで利用できるようにすることが望ましい。すなわち、窓を介して室内に取り込まれた太陽光は光熱として直接利用でき、また、建造物自体が受けた熱は蓄積され、冬の気温、室温の低下を軽減することができると考えた。
【0022】
(本発明の原理について)
本発明の太陽光反射材は、上記の観点から考案されたものであり、図1において、観測点OBに設置した場合、太陽が天球上の夏至を中心とする所定期間に対応する位置、例えば網掛けで示した範囲にある場合には太陽光を再帰反射させ、他の期間に対応する位置にある場合には太陽光を透過させるものである。すなわち、再帰反射する光の入射方向に選択性(指向性)をもたせたものである。
【0023】
前述のように、再帰反射特性を有する再帰反射材には、ガラスビーズや樹脂ビーズといった透明球体(球状レンズ)を用いたものと、コーナーキューブ(立体プリズム)を用いたものがあるが、本発明では透明球体(球状レンズ)を用い、その集光性を利用して再帰反射特性に選択性をもたせた。
【0024】
図2は球状レンズである透明な球体Sの再帰反射特性を説明する断面図である。
図2において、球体Sの中心Oを通る光軸Xに平行に、右側から入射点P1に入射光が入射されるものとする。平面Hは、球体Sを実際に建造物の図示しない設置面に設置する場合に、球体Sの中心Oを通り設置面に平行な仮想的な平面である。すなわち、平面Hの右側(前面側)が建造物の外側つまり太陽光の入射側(光源側)であり、左側(後面側)が建造物側である。図2は、入射光が平面Hに対して垂直、つまり設置面に対して垂直に入射した場合を示している。なお、建造物の設置面を特に言わない場合は、平面Hを設置面とみなすものとする。
【0025】
入射点P1から入射した入射光は、球体S内を進んで点P2(反射点または透過点)に達する。点P2に反射部が設けられている場合は、入射光はここで反射され、反射光となる。この反射光は球体S内を進み、出射点P3から球体Sの外部に出て出射光となる。点P2に反射部が設けられていない場合は、破線矢印で示すように、入射光はここから球体Sの外部に出て透過光となる。なお、点Fは透過光が光軸Xと交わる点である。
【0026】
入射点P1、点P2、出射点P3の位置は、それぞれ光軸Xからの中心Oを中心とする角度θ1、θE、θ2で示している。これらの各点は球面上にあるから、中心Oと各点を結ぶ線は各点における法線であり、これを基準として、各点での入射角、屈折角、反射角が示される。
入射光の入射点P1における屈折角θBは、入射角をθA、球体Sの屈折率をnとすると、Snell(スネル)の法則により、θB=arcsin((sinθA)/n)となる。なお、屈折率nは波長によって異なるが、本明細書では簡略化のため無視する。
その他の角度は、幾何光学から以下のとおりとなる。
【0027】
θC:点P2への入射角=θB
θD:点P2での反射角=θC=θB
θE:点P2を通る法線の光軸に対する角度(光軸Xに達しない側を負、越える側を正とする)=θB+θC−θ1=2・θB−θA
θF:出射点P3への入射角=θD=θB
θG:出射点P3での屈折角=θA
θH:平面Hと出射点P3を通る法線とのなす角度(平面Hより入射側を正、反対側を負とする)=180°−90°−θD−θE−θF=90°+θA−4・θB
θ2:出射点P3 を通る法線の光軸Xに対する角度=90°−θH=90°−(90°+θA−4・θB)=4・θB−θA
θJ:出射光の光軸に対する角度(光軸Xに対して広がる場合を正、交差する場合を負とする)=θ2−θG=4・θB−2・θA=2・θE
θK:入射光が点P2から反対側に透過する場合の屈折角=θA
θL:透過光の光軸Xに対する角度=θK−θE=θA−(2・θB−θA)=2・(θA−θB)
【0028】
図2は、一例として、球体Sの屈折率nが1.41、入射点P1の位置がθ1=45°の場合で作図したものである。光線の光路や各角度は、屈折率nおよび入射点P1の位置(θ1)に依存し、球体Sの大きさ(直径)には依存しない。ここで、図2の例では、出射光は光軸Xに対してθJの角度で広がっており、正確な再帰反射とは言えない。しかしながら、本発明では、太陽光を概ね太陽の方向に、例えば30°以内の範囲に反射すれば、太陽光を宇宙空間に放出する割合を高めるという目的には十分であるとした。
【0029】
また、図2においては、入射光の入射方向つまり光軸Xが平面Hに対して垂直の場合を示したが、他の角度で入射する場合は、中心Oを中心に光軸Xごと図面を回転させたものとなる。また、図2は光軸Xを含む一断面における光路を示しているが、球体Sは光軸Xを軸とする回転体であるので、光軸Xを含む他の断面においても同様な光路となる。
【0030】
図3は、球体Sの屈折率nが一般的なガラスの屈折率である1.52の場合、入射点P1の角度θ1が0°、15°、30°、45°、60°、75°、90°におけるそれぞれの光路を示したものである。
図4は、球体Sの屈折率nが高屈折率ガラスの例である1.7の場合、入射点P1の角度θ1が0°、15°、30°、45°、60°、75°、90°におけるそれぞれの光路を示したものである。
【0031】
次に、図5、図6、図7を用いて、本発明に適した屈折率nについて検討する。
図5、図6、図7は、屈折率nをパラメータとし、屈折率nが1.4、1.49、1.5、1.52、1.6、1.7、1.8、1.9、1.93、2.0、2.1、2.2の場合について、θ1が0〜90°におけるθ1とθEの関係、θ1とθ2の関係、θ1とθJの関係をそれぞれ計算し、グラフにしたものである。なお、屈折率nのうち、1.49はアクリル樹脂の屈折率、1.52は窓ガラスやガラスびんに用いられる一般的なガラスの屈折率、1.93は、路面標示や反射標識に用いられるガラスビーズの材料である高屈折率ガラスの屈折率である。
【0032】
図5に示すように、屈折率n=1.52の場合、θEは、θ1が約49°のときに正の最大値(約10.5°)となり、θ1が0〜90°の範囲において、すなわち、球体Sの断面全部に亘る入射光に対して、絶対値がこの最大値の絶対値以下となる。つまり、球体Sに入射した太陽光は、球体Sの反対側の面の|θE|≦10.5°の範囲に集光するということである。実際にガラス球に太陽光を当て、反対側の面に半透明のスクリーンを張り付けると、スクリーン上に円形の光のスポットが観察できる。スポットの大きさを上記同様に中心Oを中心とする角度で示すと、直径が|θE|の最大値の2倍、21°となるはずであるが、太陽には見かけの大きさ(視直径0.53°)があるため、実際のスポットの直径はその分広がったものとなる。
【0033】
太陽光によるスポットは太陽の運動(本発明では特に年周運動が重要である)に応じて移動するので、太陽の所望の位置に応じて球面Sの対応する部分に反射部を設ければ、太陽がその位置にある場合はスポットが反射部に当たって反射し、そうでない場合には反射部にかからずに透過することになる。スポットが反射部の境界を通過するときの反射光と透過光の割合の変化は、スポットが小さいほど急峻となる。また、本発明の目的からは、スポットが夏至の頃と冬至の頃で重ならないことが好ましい。また、変化が急峻である必要はないので、スポットの大きさ、すなわちは|θE|の最大値は必要以上に小さくなくてよい。
【0034】
上記の観点から、|θE|の最大値の限度は、図1に示したφS=φW=23.4°となるが、スポットが太陽の視直径(0.53°/2)だけ広がることを考慮し、その分を引いて23.1°とするのが好ましい。一方、スポットが小さい方が球体Sに設ける反射部の面積を小さくでき、全天からの光が透過する割合が大きくなるので、採光の面からは有利である。
なお、図5には図示していないが、屈折率n=1.43の場合、|θE|は、θ1が約54°のときに最大値(約15°)となる。
【0035】
図6に示すように、θ2は、いずれの屈折率nの場合も、θ1の増加とともに増加し、最大値をとった後、減少する。屈折率n=1.52の場合、θ2は、θ1が約73°のときに最大値(約83°)となる。θ2が90°に近くなると、出射光が隣の球体Sや他の部材に遮られるようになり、90°以上になると平面Hより建造物側となり出射しなくなる。この点では、θ2はθ1の広い範囲に亘って小さい方が好ましい。
【0036】
図7は、θ1とθJの関係を示したグラフであるが、前述のように、θJ=2・θEの関係があるので、図5のグラフと同様なカーブとなる。図7に示すように、屈折率n=1.52の場合、θJはθ1が約49°のときに正の最大値(約21°)となり、θ1が0〜90°の範囲において、すなわち球体Sの断面全部に亘る入射光に対して、絶対値が上記正の最大値の絶対値以下である。つまり、球体Sに入射した太陽光は、太陽の方向に対して21°以内の範囲に再帰反射されることになる。
なお、図7には図示していないが、屈折率n=1.43の場合、θJはθ1が約54°のときに最大値(約30°)となる。
【0037】
(屈折率の設定について)
以上のように、球体Sの屈折率nは、図5、図6、図7に示される特性を考慮して設定する。 今、θ1が0°からθ1までの入射光が再帰反射可能である場合、その受光範囲を球体Sが受光可能な最大面積すなわち球体Sの断面積に対する比率で表わせば、θ1のサインの2乗となる。よって、θ1が30°、45°、60°、75°、90°の場合の比率は、それぞれ、25%、50%、75%、93%、100%となる。ただし、これらの値は、入射光が平面Hに対して垂直に入射する場合の最大値であって、入射光が平面Hに対して傾いて入射する場合は、隣の球体Sに遮られる部分が生じるので、これより小さくなる。その程度は、隣の球体S間の距離によることになる。
【0038】
|θE|の最大値については、前述したように、スポットの大きさが半径で23.4°以下となるのが好ましいので、それから太陽の視半径(0.53°/2)を引いた、23.1°である必要がある。図5によると、屈折率nの低い方は1.4までこれに適合しているが、高い方は1.9以上になると、θ1が大きい範囲で23.1°を超えてしまう。計算では、θ1が90°まで|θE|の最大値が23.1°を超えない屈折率nの上限は、1.81となる。
θ2の最大値については、そもそも90°以上では出射光が光源側に出ないので、90°以下であることが望ましい。図6の計算法によれば、屈折率n=1.47の場合に、θ2の最大値が約89°となり、これが屈折率nの下限となる。そのときのθ1は約74°である。
【0039】
なお、θ2が大きい場合、特に入射光が平面Hに対して傾いて入射する場合は、出射光が隣の球体Sに遮られる部分が大きくなる。その程度は、隣の球体Sとの距離による。
|θJ|の最大値は再帰反射の指向性を示すものであり、これが小さいほど指向性が良いと言える。図7の計算法によれば、上記した屈折率nの上限:1.81では、θ1が81°のとき|θJ|の最大値が約30°となる。つまり、θ1が81°以内に入射した太陽光を太陽の方向から30°以内に再帰反射できるということである。
【0040】
同様に、上記した屈折率nの下限:1.47では、θ1が52°のとき|θJ|の最大値が約26°となる。つまり、入射した全ての太陽光を太陽の方向から26°以内に再帰反射できる。また、屈折率nが1.7の場合、θJはθ1が38°のとき正の最大値:約9°となり、θ1が73°のとき負の値:約−9°となる。つまり、θ1が73°以内に入射した太陽光を太陽の方向から9°以内に再帰反射できると言え、比較的大きな受光範囲において再帰反射の指向性を良好なものとすることができる。
【0041】
(球体Sの材料について)
上記の検討から、屈折率nは、1.47〜1.81が適切である。これに該当する材料としては、アクリル樹脂(屈折率1.49)、一般的なガラス(屈折率1.52前後)、ポリカーボネート(屈折率1.59)、ポリスチレン(屈折率1.59)、高屈折率ガラス(屈折率1.7前後〜1.8前後のもの)などが使用できる。耐候性の面からはガラスが好ましいが、軽量化のためには樹脂が好ましい。なお、ガラスの場合は、本発明の目的から、熱線吸収ガラスでないものが好ましい。
【0042】
(反射部の位置・形状について)
次に、図8を参照して、球体Sに設けるべき反射部Rの位置・形状について説明する。
図8において、正円で示された全体が球体Sであり、本発明の太陽光反射材の構成単位である単位反射体を構成する。球体Sには、例えば、透明なガラス球を用いる。球体Sは、図1に示した観測点OBの位置に設置されるものとする。地平面は平面Hに相当する。太陽光によるスポットSPは、球体Sの太陽光の入射側(図8で天頂側の半球)と反対の面(天底側の半球)において、太陽の中心とスポットSPの中心とが中心Oを対称点とした点対称の位置にできる。反射部は、太陽の所定の位置に対応したスポットSPの位置に設ける必要があるが、その位置を示すために、球体Sにも座標を設ける必要がある。そこで、図1で用いた天球座標をそのまま球体Sに投影し、方位、角度、各点を、図1と同一の符号を付して示した。
【0043】
図8において、例えば、太陽が夏至の頃に地平線の点P21から夏至点P22まで矢印A1で示すように動くと、スポットSPの中心は、中心Oを対称点として、点P33から冬至点P34まで矢印A2で示すように動く。他の位置でも同様であるから、太陽の中心が図1の網掛けで示した範囲にあるときのスポットSPの中心は、図8において、網掛けで示した範囲(反射部R)のうち、RAの部分(弧P33〜P34〜P31と弧P13〜P14〜P11とに挟まれた部分)に位置する。網掛けで示した範囲(反射部R)のうち、RBの部分(弧P33〜P34〜P31と弧P33B〜P34B〜P31Bで挟まれた部分)はスポットSPの半径分(中心Oを中心とした角度φBで示す)であり、これは、スポットSPが、夏至の頃においても反射部からはみ出さないようにするために設ける部分である。よって、反射部Rは網掛けで示した範囲全体に設けるのである。
【0044】
次に、図9を用いて、スポットSPの大きさと反射部Rの幅の関係を説明する。図9は、球体Sの表面の内側を中心Oから見たときの、天底付近から子午線に沿って北に向かう一部分を示したものである。
図9において、実線の円がスポットSPを示し、夏至の頃の南中時に冬至点P34に、春分および秋分の頃の南中時に点P14に、冬至の頃の南中時に点P24に、それぞれ位置した状態を示している。点線の円SPEは、図5の説明で述べたように、|θE|の最大値を半径とする円である。スポットSPの半径は、それより太陽の見かけの大きさ(視直径0.53°)の半分、角度φSだけ大きくなる。この分も含め、反射部RBの幅(角度φB)を設定するのであるが、必要以上にRBの幅を広げると透過光の妨げとなって、採光が悪化してしまう。図9では必要最小限となるように、φB=|θE|の最大値+φSとしている。
【0045】
スポットSPが冬至点P34にあるときなど、全体が反射部Rに収まるときは入射光が全て再帰反射し、点P24にあるときなど、全体が反射部Rの外にあるときは入射光が全て透過する。スポットSPが点P14にあるときは、入射光の半分が再帰反射し、半分が透過することとなる。
なお、このスポットSPのはみ出しの対策である反射部RBの付加は、時間方向にも考えられる。図8でいうと、日の出時と日没時に、反射部Rの地平線より上方にはみ出す可能性があるが、その頃の太陽光は、高度が低いので弱いこと、他の建物や樹木に遮られる可能性が高いこと、球体Sを多数配置する場合には隣の球体Sの陰になることなどにより、実用上の効果が小さいので、設けなくてもよい。
以上のように、図8は、球体Sを水平な面に設置する場合に球体Sに設ける反射部Rの位置・形状を示している。例としては、建造物の水平な部分、例えば屋上やベランダの床、水平な屋根、水平な窓などのほか、水平な路面や地面、グラウンドなどに設置する場合が該当する。
【0046】
次に、図10〜図12を用いて、設置面が水平でない場合、例えば垂直な壁面や窓、傾斜した屋根や窓に設置する場合の反射部Rの位置・形状について説明する。
図10は、球体Sを東向きの垂直面に設置する場合の反射部Rを網掛けで示したものである。この場合、球体Sの方向(方位、天頂、天底)を天球と一致させる必要があるので、点P13(西)を建造物側に向けて設置することになる。したがって、天頂と天底を結ぶ線(鉛直線)と南北を結ぶ線を含む平面つまり子午線を含む平面が平面Hとなる。
【0047】
この場合の反射部Rは、図8に示した反射部Rのうち、平面Hより外側(光源側)が除去された形状とする。これは、球体Sの平面Hより外側、つまり、球体Sを建造物の設置面に設置した際に、設置面の外側に面した半球部分に反射部Rがあると、入射光および出射光の妨げとなってしまうからである。この部分を除去することにより、再帰反射することになる入射光および透過することになる入射光の光量の低下を防止できるとともに、出射すべき再帰反射光の光量の低下を防止することができる。
なお、平面Hより外側とは、換言すれば、太陽が建造物自体に妨げられないで直視できる方向の範囲ということである。究極的には、反射部Rは夏至を中心とする所定期間に実際に太陽光が球体Sの表面において集光する範囲のみに設ければよいのである。
【0048】
同様に、図11は、球体Sを南向きの垂直面に設置する場合の反射部Rを網掛けで示したものである。この場合、天頂と天底を結ぶ線(鉛直線)と東西を結ぶ線を含む平面が平面Hであり、反射部Rは、図8に示した反射部Rのうち、平面Hより外側が除去された形状とする。
同様に、図12は、球体Sを南向きの傾斜角(水平面となす角度)45°の傾斜面に設置する場合の反射部Rを網掛けで示したものである。この場合、東西を結ぶ線を回転軸として地平面を南に45°傾斜させたものが平面Hであり、反射部Rは、図8に示した反射部Rのうち、平面Hより外側が除去された形状とする。
以上のように、反射部Rの位置および形状は、球体Sの屈折率nによって決まるスポットSPの大きさ、設置面の緯度、設置面に対応する平面Hによって決めることができる。
【0049】
以上の説明では、反射部Rの境界を天の赤道に沿ったものとしたが、これは、夏至を中心とする所定期間を半年(前後各3ヶ月)とした場合である。しかし、あまり暑くない地域ではこの所定期間を例えば4ヶ月(前後各2ヶ月)としてもよいし、暑さが厳しい地域では例えば8ヶ月(前後各4ヶ月)などとしてもよい。そのような場合は、設定する所定期間に応じて、反射部Rの境界をそれぞれ夏至側(冬至点P34側)または冬至側(点P24側)にずらしたものとする。
【0050】
(球体Sの配置について)
図13は、同一の直径の球体Sを、設置面に多数設置する場合の配置の例である。
図13(A)は、球体Sをハニカム状に密着して配置したもので、密度を最も大きくできる。(B)は升目状に密着して配置したものである。(C)は、直線状に密着して配置した列を間隔をあけて配置したものである。この図は球体Sの半径分の隙間を空けた例(中心間の距離が直径の1.5倍)である。(D)は(C)と同様であるが、列方向の位置を隣り合う列で球体Sの半径分ずらしたものである。(E)は、球体S間に隙間をあけてハニカム状に配置したもので、この図は半径分の隙間を空けた例(中心間の距離が直径の1.5倍)である。(F)は、球体S間に隙間をあけて升目状に配置したものである。この図は半径分の隙間を空けた例(中心間の距離が直径の1.5倍)である。
【0051】
図14〜図19は、隣り合う球体Sに太陽光が入射したときの入射光と出射光の光路を示したものであり、θ1が0°、15°、30°、45°、60°、75°の入射光が全て反射した場合の光路を示している。図14〜図16は屈折率n=1.52の場合、図17〜図19は屈折率n=1.7の場合であり、前者は図3を、後者は図4をそれぞれ並べて作成したものである。なお、θ1が30°の光路を太線として見やすくしてある。θ1が90°の光路は、隣の球体Sや後述の連結部52の影響が大きいので省略した。
【0052】
各図において、平面Hは設置面に平行で各球体Sの中心を通る平面である。図14と図17は太陽光が設置面に垂直に入射する場合、図15と図18は太陽光が45°傾いて入射する場合に入射光が隣の球体Sで遮られる様子、図16と図19は太陽光が45°傾いて入射したときの出射光が隣の球体Sで遮られる様子をそれぞれ示したものである。また、図14〜図19のそれぞれ(A)が球体S同士が接している場合、(B)が球体S間に球体Sの半径分の隙間を設けた場合である。
【0053】
図14において、θ1=75°までの入射光およびその出射光は、隣の球体Sが接する場合でも隙間を空けた場合でも遮られていない。
図15において、球体Sが接する場合、下側の球体Sに対するθ1=約25°以上の入射光が上側の球体Sに遮られている。隙間を空けた場合は、θ1=75°までの入射光は遮られていない。
図16において、球体Sが接する場合、下側の球体Sからのθ1=約15°以上の入射光が上側の球体Sに遮られている。隙間を空けた場合は、θ1=30°近くまでの入射光による出射光は遮られていない。
【0054】
図17において、θ1=75°までの入射光およびその出射光は、隣の球体Sが接する場合でも隙間を空けた場合でも遮られていない。
図18において、球体Sが接する場合、下側の球体Sに対するθ1=約25°以上の入射光が上側の球体Sに遮られている。隙間を空けた場合は、θ1=75°までの入射光は遮られていない。なお、入射光に対する影響は屈折率nにはよらないので、図15と同じである。
図19において、球体Sが接する場合、下側の球体Sからのθ1=約15°以上の入射光が上側の球体Sに遮られている。隙間を空けた場合は、θ1=75°までの入射光による出射光は遮られていない。
【0055】
以上のように、球体Sが接する場合は、入射光が設置面に対して傾いて入射すると、入射光および出射光が隣の球体Sに遮られるようになる。このため、再帰反射する光量が減少することになるが、球体S間に隙間を空けることにより、この減少を軽減することができる。しかし、球体S間に隙間を空けた場合、設置面に対して垂直前後に入射する入射光については隙間を素通りすることになる。また、隙間を空けた分、球体Sの密度が減るので、再帰反射する光量が減少することになる。ただし、太陽光を透過すべき期間であれば、むしろ好ましい。
したがって、設置面に対して垂直前後の入射光を重視するのか、傾いた入射光を重視するのかによって、球体Sの配置を決めるのがよい。
【0056】
一例として、太陽光を再帰反射させるべき期間に、太陽光が垂直前後に当たる時間のある設置面については、球体Sの密度が高い配置、例えば、図13の(A)や(B)のような配置とするのがよい。概していうと、設置面の法線が天の赤道付近を向いている面が該当する。具体例を挙げると、東向きおよび西向きの垂直な窓や壁、水平ないし南側に傾斜した窓、屋根、庇、壁、南東向きまたは南西向きに傾斜した屋根、庇などが該当する。
一方、太陽光を再帰反射させるべき期間には太陽光が斜めからしか当たらない設置面については、その入射方向に沿って隙間を空けた配置とするのがよく、例えば、図13の(C)〜(F)のような配置とする。具体例としては、南向きの垂直な窓や壁の場合、夏至の頃には南中時前後の太陽光が高い高度から斜めに当たるので、そのような配置とするのがよい。
【0057】
球体Sの配置を決める際の参考として、図13に示した球体Sの各配置について、太陽光が設置面に対して垂直に入射する場合における再帰反射可能な入射光の受光範囲の、設置面全体に対する面積比を挙げておく。ここではθ1が0〜75°の入射光が再帰反射可能とする。単独の球体Sが設置面全体である場合の面積比は前述のとおり93%であるが、球体Sを多数配置した場合は、球体S間の隙間の面積の分だけ低下する。この低下後の面積比を(A)〜(F)について計算すると、(A)が84%、(B)が73%、(C)と(D)が49%、(E)が38%、(F)が33%となる。
【0058】
(太陽光反射材の形態について)
太陽光反射材の形態としては、反射部Rを設けた球体Sを単位反射体として、(1)単位反射体を1個ずつ建造物に設置する方法、(2)多数の単位反射体がシート状やパネル状に集成された太陽光反射材を建造物に設置する方法、(3)多数の単位反射体がシート状やパネル状に集成された太陽光反射材を張り付けた建材を建造物に設置する方法がある。いずれの方法においても、設置面の緯度、向き、傾斜角は様々であるので、条件に合う反射部Rを有した単位反射体および太陽光反射材を作り分けすることになる。
(2)および(3)の場合は、球体Sの材料を成型することにより、多数の球体Sとこれらをつなぐ連結部からなるシート状の基板を一体的に作成した後、反射部を形成することで、広い面積の太陽光反射材を容易に作成することができる。この場合、球体Sの配置パターンと間隔については、図13〜図19で説明したメリット、デメリットを考慮して設定する。
【0059】
(反射部Rの材料および形成方法について)
反射部R(反射層)の材料には反射率が高いものを使用する。反射部Rの形成方法としては、球体Sに、アルミや銀などの金属箔を張り付ける方法、蒸着やスパッタリングにより金属膜を形成する方法、金属粉などの反射性の材料が混入されたインクを印刷する方法などを適用する。また、最初から所定の位置・形状に形成する方法のほか、広範囲に形成してから不要な部分をエッチングや機械的方法によって除去する方法が適用できる。
【0060】
(球体Sの大きさについて)
球体Sの直径は、球体S内での太陽光の吸収、減衰を抑えるためには小さい方がよい。また、軽量化のためにも小さい方がよい。一方、後述の太陽光反射シート50や太陽光反射パネル520の形態とする場合は、強度的には大きい方がよいが、そうすると重くなって他の建材や建造物への負担が増すので限度がある。そこで、一般的な窓ガラスやタイルの厚さである数mm程度までとするのが好ましい。
他方、製造上、反射部Rの位置・形状が精度よく形成できる程度の大きさが必要である。例えば印刷法を用いる場合、その分解能より十分大きな直径とする。例えば、印刷の分解能が10μmであるとし、球体Sの直径をその100倍以上とすると、直径は1mm以上となる。
また、光学的には波長より十分大きく、幾何光学が成り立つことが必要である。太陽光のうち、例えば波長2μmまでの光を対象とする場合、球体Sの直径をその100倍以上とすると、直径は0.2mm以上となる。
これらの観点から、球体Sの直径は、1〜数mm程度が適当ということになる。
【0061】
(指標について)
本発明の太陽光反射材は、これを設置する設置面の緯度、向き、傾斜角に合わせて作成されるので、建造物の設置面に設置する際に、球体Sが所定の方向となるように設置する必要がある。ここで、所定の方向に設置するとは、球体Sの座標(天頂、天底、方位)を天球CSの座標に合わせて設置するということである。球体Sの座標は、反射部Rの位置・形状を見れば判別することも可能ではあるが、作業を容易とするために、分りやすい指標を設けることが望ましい。なお、緯度については、混同する恐れがなければ省略してもよい。
【0062】
単位反射体を個々に太陽光反射材として取り扱う場合には、球体Sもしくは取付部などの適宜付加された部分に、設置する方向を示す指標を設ける。例えば、方位記号を球体Sの天頂に表示することにより、上下および方位を合わせれば所定の方向に設置することができる。
多数の単位反射体をシート状やパネル状に集成した太陽光反射材の場合は、太陽光反射材の周囲などの適所に設置面の緯度、向き、傾斜角、太陽光反射材の上下または方位を示す指標を設ける。つまり、指標に従って設置すれば個々の球体Sが所定の方向に設置されるようにする。具体的には、設置面の傾斜角が大きい場合は設置面が向いている(面している)方位、傾斜角、太陽光反射材の上下で示すと分かりやすい。傾斜角が小さい場合には設置面の面方向の方位、傾斜角で示すと分かりやすい。例えば、設置面が水平の場合は、方位と水平(傾斜角0°)である旨を示す指標とする。
【実施例1】
【0063】
(実験装置の説明)
図22は、本発明の太陽光反射材を設置した建造物を模した実施例である実験装置10の正面図および左側面の断面図である。この実験装置10は、本発明の太陽光反射材による効果を実証するために作成したものである。
10は実験装置であり、容器13は建造物に相当する。容器13には、太陽光反射材となる球体Sとして、透明なガラス球11がその半球部分を容器13の前面から露出するようにはめ込まれている。この露出した側が光源側つまり太陽に向く側(前面)である。容器13の前面17が前述の平面Hかつ設置面に相当し、矢印Bはその法線である。矢印Aはガラス球11の天頂と天底を結ぶ軸であり、矢印方向が天頂である。
【0064】
ガラス球11には、市販の無色透明な直径30mmの装飾用ガラス球を使用した。容器13の内部は建造物の室内に相当し、寸法は正面からみて幅40mm、高さ40mm、奥行き50mmである。容器13は、断熱性の良い材料として、市販のスチレンペーパーで作成した。内面には太陽光を吸収しやすくするため、黒色紙15が張り付けてある。14は容器13内部の温度を測るための温度計であり、測温部を容器13の内部に挿入し、外部から温度が読み取れるようにしてある。16は黒色紙であり、温度計14に太陽光が直接当たらないようにしてある。
【0065】
容器13の前面17には、容器13自体が太陽光で加熱されるのを軽減するため、太陽光を反射する反射テープ19が張り付けてある。反射テープ19には、市販のアルミ蒸着ポリエステル粘着テープを使用した。
正面図に示した表示20「↑上 向き:南東 傾斜角:60°」は、本実験装置10の上下すなわち太陽光反射材の上下(矢印方向が上側)、設置面の向き、傾斜角を示す指標である。この表示20は、本実験装置10およびガラス球11を所定の方向に設置するために設けたものである。方位記号21は、太陽光反射材であるガラス球11を設置する方向を示す指標であり、方位(矢印が北)を示すとともに、十字の交点が天頂Zを示している。表示はこれらの情報を表わすものであればよく、表示場所もこれに限定されないが、設置時に分りやすいものとする。
【0066】
ガラス球11には、容器13の内部側、正確には平面H(前面17)より内部側の所定位置に反射部12が設けられている。反射部12の形状は、図8〜図12を用いて説明した反射部Rの決め方に従って設定するのであるが、反射部の有無による容器13内部の温度変化の違いを実証するため、実験装置10を2個作成し、一方(正規品)には図20に網掛けで示す正規の反射部R(RAおよびRB)を設け、他方(比較品)には図21に網掛けで示す形状の反射部RC(RCAおよびRCB)を設けた。図20、図21における角度φは、実験場所である神奈川県横浜市内の緯度に合わせて35.4°とした。角度φSとφWは不変であるので、前述のとおり23.4°とした。
【0067】
ガラス球11の屈折率nは約1.52であり、図5に示す|θE|の最大値が約10.5°であるので、反射部RBの幅を示すφBは、太陽の視半径および誤差を考慮して11°とした。
反射部RおよびRCは、市販のアルミ粘着テープ(厚さ0.050mmのアルミ箔に厚さ0.050mmの無色透明アクリル系粘着剤が塗布されたもの)を、ガラス球11に張り付けたときに所定の形状になるように裁断し、これを張り付けて形成した。
【0068】
太陽光によるスポットSPは、10月下旬から2月中旬までの間、正規品では反射部Rの外に位置し、比較品では反射部RC内に位置する。実験日が12月であるので、正規品では太陽光が全て透過し、比較品では全て再帰反射されることとなる。
実験場所の立地条件により、太陽光が当たる時間が午前7時頃から11時頃までのため、この間に実験装置10の前面17の方向(矢印B)がなるべく太陽の方向を向いているよう、設置面の向きおよび傾斜角を設定した。そのため、上記のとおり、南東(角度表記で135°)向き、傾斜角60°に設定することにした。したがって、反射部RおよびRCは、図20および図21にそれぞれ示すように、設置面である平面Hより前面側の部分が除去された形状となった。
【0069】
(実験方法および実験結果)
上記実験装置10の正規品および比較品を、設置面が上記の向きおよび傾斜角となるように設置した。これにより、矢印Aが天頂を向き、矢印Bが南東(135°)の高度(仰角)30°に向いた状態となる。これで、実験日2009年12月4日の午前6時15分から12時00分まで、容器13内部の温度を15分毎に記録した。
【0070】
図23は、実験結果を示すグラフである。
7:00までは太陽光は当たっていない。7:06に双方の実験装置10に太陽光が当たり始め、気温の上昇とともに、正規品、比較品とも、容器13内部の温度が上昇している。10:55頃から建物の陰に入ったため、その後は、正規品、比較品とも、容器13内部の温度が低下して、気温に近づいている。太陽光が当たっている期間においては、正規品の方が比較品より温度上昇が大きく、最大で約10°Cの差がでている。この実験により、反射部を設けた透明球体を用い、反射部の位置によって太陽光を選択的に再帰反射させることによって、それが設置された物体の温度上昇を制御できることが実証できた。
なお、図23において、比較品も気温より約5°C高い温度まで上昇しているが、これは、太陽光によって容器13やガラス球11自体が加熱されることによって、容器13内部が温められることが原因と考えられるが、正規品でも条件は同じである。
【実施例2】
【0071】
図24は、本発明の実施例として試作した太陽光反射パネル30の概略図である。
太陽光反射パネル30は、ガラス球31の所定位置に反射部32を設けたものを単位反射体として予め作成し、これを多数、透明な筐体33に配置してパネル状としたものである。試作した太陽光反射パネル30は、向きが真東(90°)で傾斜角が90°(垂直)の設置面用であり、真東向きの垂直な窓ガラス41の室内側(設置面34)に張り付けて使用するものである。よって、各ガラス球31の反射部32は、図10に示した反射部Rの位置・形状としてある。反射部RBの幅は、ガラス球31の屈折率nが約1.52であるので、図22の場合と同様、φBを11°とした。
【0072】
ガラス球31には、市販の無色透明な直径12.5mmの装飾用ガラス球を使用した。反射部32は、市販のアルミ粘着テープ(厚さ0.050mmのアルミ箔に厚さ0.050mmの無色透明アクリル系粘着剤が塗布されたもの)を所定の形状に裁断し、これを張り付けて形成した。
図24に示すように、各ガラス球31は、太陽光反射パネル30を実際に設置したとき、天頂方向(矢印A)が実際の天頂を向き、東が太陽光反射パネル30の前面側法線方向(矢印B)を向くように筐体33に固定した。
【0073】
筐体33は無色透明なアクリル樹脂製であり、底部33aの板厚が2mm、内のりが正面から見て高さ144mm、幅138mm、奥行き15mmである。この中に136個のガラス球31を正面図に示すようにハニカム状に配置し、断面図に示すように接着剤36a、36b、36cで固定した。接着剤には市販の無色透明なアクリル変性シリコーン接着剤を使用した。なお、底部33aとの固定(接着剤36a)のみで接着強度が十分であれば、ガラス球31間(接着剤36c)や、ガラス球31と枠部33bとの間(接着剤36b)は省略してもよい。なお、透過光や出射光の光路が接着剤36a、36b、36cにかかる場合でも、接着剤は透明であるので、光路は影響されるが、透過することができる。
【0074】
筐体33の枠部上面には、「上 向き:↑東 傾斜角:90°」なる表示37が設けられている。これは、本太陽光反射パネル30を窓ガラス41に設置する際の上下(「本表示37のある側を上とする)、向き(矢印を東に向ける)、傾斜角を示す指標である。文字が逆さまなのは、室内から窓ガラス41に向って作業を行なう際に分かりやすくするためである。太陽光反射パネル30は、接着剤や粘着テープで窓ガラス41に張り付けてもよく、別部材を用いて窓枠などに固定してもよい。
以上のように設置された太陽光反射パネル30により、太陽光を、夏至を中心とした略半年間は太陽の方向に返し、それ以外の期間は室内へ透過させることができる。
【0075】
なお、ガラス球31と窓ガラス41との隙間35は、各部材の寸法のばらつきや振動によってガラス球31と窓ガラス41が接触するのを防ぐために設けてあるが、この部分の空気によって、室内外の断熱性が良くなるという効果もある。
一方、太陽光反射パネル30の厚みを薄くするためには、隙間35を狭くする。その場合、ガラス球31と窓ガラス41との間を透明な接着剤で接着してもよいが、そうするとその範囲の分、ガラス球31のレンズとして作用する面積が狭くなるので、接着範囲を微小とするか、接着するガラス球31をまばらにして少なくするのが好ましい。
なお、反射部32は、前述のように、印刷、蒸着、スパッタリングなどによって形成してもよい。
【0076】
(変形例1)
図25に示す太陽光反射パネル301は、図24に示した太陽光反射パネル30に透明なカバー37を設け、筐体33の内部を密閉したものである。また、筐体33の底部33aとカバー37との間に柱状や桟状の補強部38を適宜の間隔で設けてある。図24と同じ符号を付した他の部分については、図24と同様である。
この太陽光反射パネル301は、窓ガラスの外側から張り付けることもできる。また、太陽光反射パネル301自体を窓材として使用することもできる。また、建造物の壁面や屋根など、採光が不要な部分に張り付けてもよい。その場合は、太陽光を透過させる期間は自身が熱を吸収してもよいので、筐体33の底部33aは不透明でもよく、熱を吸収しやすいよう黒っぽい材料としてもよい。
【0077】
(変形例2)
図26に示す太陽光反射パネル302は、図24に示した太陽光反射パネル30における接着剤36a、36b、36cに代えて、エポキシ樹脂などの透明な樹脂40で、ガラス球31の後面側の略半球部分を埋めて固定したものである。また、透明なカバー37を設けて内部を密閉してある。図24と同じ符号を付した他の部分については、図24と同様である。
この太陽光反射パネル302も、図25に示した太陽光反射パネル301と同様に使用できる。この太陽光反射パネル302の場合、ガラス球31の後面側については、樹脂40の屈折率に応じてレンズの作用が低下するので、透過光の光路が図3や図4に示したものとは異なってくる。また、太陽光反射パネル302は、筐体33の底部33aとガラス球31の後面側との間に隙間がないので、塵埃などが入り込んで詰まるおそれがない。このため、カバー37が無くても屋外で使用することができる。また、窓ガラスの内側から張り付ける場合には、太陽光反射パネル30と同様に、カバー37は無くてもよい。
【実施例3】
【0078】
図27(A)は、本発明の太陽光反射材である太陽光反射シート50の断面図である。太陽光反射シート50は、平面状に配置された多数の透明な球体(球状レンズ)51と、それらを連結する連結部52と、各球体51に設けられた反射部53を備えている。太陽光反射シート50は、透明な材料を成型することにより、球体51部分と連結部52からなるシート状の基板510を一体的に作成した後、その後面側に反射部53を形成する。図では便宜のため、球体51部分と連結部52の境界を示している。また、連結部52の長さつまり球体51間の距離、連結部52の厚さおよび厚み方向の位置は一例である。球体51の中心同士を結ぶ平面は、前述の平面Hに相当する。
【0079】
連結部52の厚さは、球体51のレンズとして作用する面、および、反射部53の形成可能範囲を著しく減少させることがないよう、強度が許す限り薄いことが望ましいので、例えば、球体51の直径の5〜25%に設定する。後述のように、他の部材に張り付ける場合などで強度上の問題が小さい場合は、これより薄くしてもよい。また、成型の制約から、連結部52の厚み方向の位置は、前面側の表面が平面Hより前面側で、かつ、後面側の表面が平面Hより後面側になるようにする。両側均等にすれば、表裏の区別が不要となる。
【0080】
太陽光反射シート50は、以下の手順で作成する。
(1)設置面の緯度、向き、傾斜角を設定する。
(2)(1)の条件に適した球体51の材料、直径、配置パターン、間隔、個数、連結部52の厚さ、太陽光反射シート50のサイズを設定し、成型用の型を作成する。配置パターンと間隔については、図13〜図19で説明したメリット、デメリットを考慮して決定する。
(3)基板510を成型する。
(4)(2)の条件から、球体51一個についての反射部53の位置・形状を設定する。これについては、図8〜図12等を用いて説明したように設定する。ただし、反射部53は、連結部52にかかる部分には物理的に形成不可能であるから、球体51の後面側の球面部分のみに設けることとなる。したがって、反射部53は、必然的に平面Hより外側(光源側)が除去された形状となる。
(5)太陽光反射シート50全体に亘る反射部53形成用のパターン(反射部53の形状を全ての球体51の位置に配列したもの)を作成する。
(6)成型した基板510の後面側に、(5)で作成したバターンに基づいて、太陽光反射シート50全体の反射部53を形成する。
【0081】
次に、上記手順(5)および(6)に関する反射部53の形成方法について述べる。
反射部53は、印刷法を用いて形成する。印刷法としては、(ア)必要な部分のみに印刷する方法(アディティブ法)、または(イ)全面に印刷後、不要な部分を除去する方法(サブトラクティブ法)を用いる。
【0082】
(ア)の具体例としては、以下が挙げられる。
(ア−1)インクジェットプリンタを用いて、反射性インクを基板510の球体51に直接印刷する。この場合、インクは基板510に対して垂直に飛んで球体51に付着するので、プリンタに供給すべき印刷パターンデータは、反射部53を平面Hに投影したパターンとなるデータとする。
(ア−2)反射性インクをパッドに印刷し、それを基板510の球体51に押し付けて転写する。いわゆるパッド印刷である。反射性インクをパッドに印刷する際は、スクリーンなどの印刷版を用いてもよいし、インクジェットプリンタで印刷してもよい。いずれの場合も、球体51への転写はパッドの変形を利用した曲面印刷となるので、反射部53としてパッドに印刷するパターンは、パッドの変形を考慮した形状とする。
【0083】
(ア−3)基板510後面の反射部53を形成しない部分にレジストを形成した後、基板510の後面側全面に、アルミや銀などの金属膜を、真空蒸着やスパッタリングによって成膜する。その後、溶剤などで、レジストおよびレジスト上に成膜された金属膜を除去する。
なお、(ア−1)、(ア−2)に使用する反射性インクは、金属光沢が得られ、球体51の内側から見た印刷面ができるだけ鏡面になるものが望ましい。
【0084】
(イ)の具体例としては、以下が挙げられる。
(イ−1)基板510後面側全面に、アルミや銀などの金属膜を真空蒸着やスパッタリングによって成膜した後、反射部53として残す部分にレジストを形成する。次いで、エッチングにより不要な部分の金属膜を除去した後、レジストを除去する。
【0085】
なお、(ア−3)、(イ−1)における金属膜は、無電解めっきによって形成してもよく、銀鏡反応による銀めっきや、無電解ニッケルめっきなどが適用できる。また、レジストは、フォトレジストによって形成してもよいし、インクジェットプリンタやパッド印刷によって形成してもよい。
基板510の材料としては、ガラス、アクリル樹脂、ポリカーボネートなどが使用できるが、太陽光反射シート50のサイズに応じ、必要とする強度の面から選択する。
なお、図示しないが、前述したように、適所に設置面の緯度、向き、傾斜角、太陽光反射シート50の上下または方位を示す指標を設ける。
【0086】
図27(B)は、上述の太陽光反射シート50を建材54に適用した太陽光反射パネル520の断面図である。建材54は、建造物に張り付けるタイルや板材などのパネル状のものであり、これに太陽光反射シート50を接着剤55で張り付けて作成する。
建材54が、壁面や床などに用いるもともと太陽光を透過しなくてよい材質の場合は、接着剤55は透明でなくてよい。本発明の目的からは、建材54の表面は太陽光を吸収しやすい色や材質であるほうが好ましいが、そうでない場合は、接着剤55をそのような色や材質のものとすればよい。一方、建材54が、窓、サンルーフ、温室などに用いる採光を目的とする材質の場合は、接着剤55は透明なものとする。
なお、太陽光反射シート50は、多数の球体51のために景色が見えにくいものとなるが、天窓、明り窓、半透明の目隠し板、すりガラスなど、景色が見えなくてよいものに適用する場合には支障とならない。
【0087】
図28(A)は、太陽光反射パネル520を建造物56に接着剤57で張り付けたものであり、 同図(B)は、太陽光反射シート50を建造物56に直接張り付けたものである。いずれの場合も、接着剤57、58の材質は、上述のように、建造物56の設置面の材質および使用目的に応じて選定する。設置面としては、塀、屋根、屋上、ベランダ、庇など、太陽光の当たるあらゆる場所に適用できる。
【0088】
図28(C)は、太陽光反射シート50を二重ガラスに適用した例である。太陽光反射シート50は、室内側ガラス61と室外側ガラス62との間の空気層63に挿入されている。なお、室内側ガラスの前面側と太陽光反射シート50の後面側を、図24の接着剤36aで示したように、接着剤で接着してもよい。
【0089】
なお、太陽光反射シート50や太陽光反射パネル520の表面に、反射防止膜を設けてもよい。これにより、球体51に取り込まれる太陽光を増加させることができるので、再帰反射および透過する太陽光を増加させることができ、本発明の効果を高めることができる。
また、太陽光反射シート50や太陽光反射パネル520の前面側に光触媒膜を設け、自浄機能を付加してもよい。これにより、塵埃などの付着による再帰反射および透過する太陽光の減少を軽減することができ、本発明の効果を維持することができる。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明の太陽光反射材は建造物の太陽光が当たる各所に設置することができる。また、本発明の太陽光反射材は、既存の建造物の屋根、壁面、床面、窓などに、付加的に設置するための太陽光反射シート50の形態で提供することができる。また、建造物のこれらの各所に新規に使用する建材として、太陽光反射シート50を予め張り付けた太陽光反射パネル520の形態で提供することができる。
【符号の説明】
【0091】
11、31 ガラス球(球状レンズ)
12、32、53 反射部
30、301、302 太陽光反射パネル(太陽光反射材)
50 太陽光反射シート(太陽光反射材)
51、S 球体(球状レンズ)
52 連結部
510 基板
520 太陽光反射パネル(太陽光反射材)
H 平面
R、RA、RB 反射部
SP スポット
【技術分野】
【0001】
本発明は、建造物に設置するための太陽光反射材、およびそれを設置した建造物に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽光は可視光線、赤外線(熱線)、紫外線などを含んでおり、太陽光に照射された物体は加熱される。建造物に窓から入る太陽光を軽減する手段として、夏の暑い時期にスダレやブラインド、サンシェードなどの日除けを設置したり、窓ガラスに熱線反射ガラスや熱線吸収ガラスを用いることが行なわれている。また、建造物自体に吸収される太陽光の熱を軽減するため、建造物の屋根や壁面に熱線を反射する遮熱塗料を塗布することも行なわれている。
【0003】
ここで、建造物とは、建物や橋梁などの移動しないものばかりでなく、地表に対する相対角度を一定に保って所定の範囲を移動する構造物も包含するものとする。例えば、エレベーターやケーブルカーなど、一定の範囲を直線移動する乗り物でもよい。またロープウェイのゴンドラのように、地表に対する策条の角度が変化しても、それ自体は重力により一定の角度を保つような乗り物でもよい。また、擁壁、路面、グラウンドなどに敷設した構造物も含むものとする。
【0004】
しかし、スダレなどの日除けは、必要に応じて設置および回収を行なう必要があり、設置中は向きや面積を調整しなければならないという煩わしさがある。また、設置中は採光が不十分となるという欠点がある。
一方、熱線反射ガラス、熱線吸収ガラス、遮熱塗料などは、その都度の設置や回収の手間はかからないが、一旦設置したら回収困難であるため、太陽光をむしろ取り込んで利用したい冬場も太陽光を反射してしまうという欠点がある。
さらに、スダレなどの日除け、熱線吸収ガラスの場合は、それ自体が太陽光を吸収して温度上昇することにより、周囲の大気を暖めることとなる。
また、熱線反射ガラス、遮熱塗料の場合は、それ自体の温度上昇は少ないが、反射した太陽光のうち、宇宙空間に放出されなかった反射光は他の物体に当たってこれらを暖め、結局周囲の大気を暖めることとなる。
大気が暖められれば気温が上昇し、結局、建造物内部の温度上昇を招くことになる。
【0005】
入射光を照射方向にかかわらず光源の方向へ返す、いわゆる光の再帰反射特性を有した再帰反射材が知られている。再帰反射材にはガラスビーズやコーナーキューブ(立体プリズム)がある。例えば、道路の路面標示や反射標識の標示部分には、このような再帰反射材が配置されている。これにより、夜間、自動車のヘッドライトの反射光が運転手の方向へ効率よく戻り、標示の視認性を向上させている。
このような再帰反射特性を利用して輻射熱を熱源の方向へ戻すことが知られている。
特開昭52−129445号公報には、再帰反射材として三面反射セル(立体プリズム)を用い、輻射熱を熱源に戻すようにした装置が開示されている。
特開2004−341272号公報には、ルーバーの表面に再帰反射材としてガラスビーズや樹脂ビーズ、立体プリズムを設け、入射した光を光源方向へと反射させることにより、建物の室内や炎天下停車時の車室内の温度低下を図ることが開示されている。
【0006】
スダレなどの日除けに代えて再帰反射材を用い、あるいは、窓ガラス、屋根、壁面などの表面に再帰反射材を設置すれば、照射された太陽光を太陽の方向に返すことができる。これにより、反射した太陽光が他の物体に当たる割合が低くなるので、大気による吸収や散乱はあるとしても、太陽光のエネルギーが宇宙空間に放出される割合を高めることができる。しかしながら、一旦設置してしまうと撤去しない限り、年間を通して太陽光を反射させてしまうので、夏は好適であっても、冬には太陽光を取り込んで利用することができなくなってしまう。また、窓ガラスに設置した場合は、採光が不十分となってしまう。
また、実願昭62−071258号(実開昭63−183240号)全文明細書には、透明微小球の球面に、20〜80%の範囲で部分的に反射層を設けることが記載されているが、太陽光との関係については触れられていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭52−129445号公報
【特許文献2】特開2004−341272号公報
【特許文献3】実願昭62−071258号(実開昭63−183240号)全文明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
解決しようとする課題は、建造物に一旦設置すれば調整することなく、夏の暑さを軽減するとともに、冬は太陽光を取り込むことができる太陽光反射材およびそれを設置した建造物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、請求項1に係る発明の太陽光反射材は、所定の緯度において所定の方向に設置することにより、太陽が天球上の夏至を中心とする所定期間に対応する位置にある場合は太陽光を再帰反射し、他の期間に対応する位置にある場合は太陽光を透過させることを特徴としている。
【0010】
上記課題を解決するため、請求項7に係る発明の建造物は、前記所定の緯度にある建造物であって、請求項1から6のいずれか1つ係る発明の太陽光反射材を前記所定の方向に設置したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明の太陽光反射材を設置した建造物は、夏至を中心とする所定期間は太陽光を再帰反射させて宇宙空間に放出するので、建造物の内部、建造物自体および周囲の物体の温度上昇を軽減することができる。これにより、夏の暑さを軽減することができる。ひいては、ヒートアイランド現象を軽減でき、地球温暖化の緩和に寄与することができる。他の期間は太陽光を建造物の内部や建造物自体に取り込むことができるので、光熱として利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、天球CS上の太陽の位置を示す図である。
【図2】図2は、球体S(球状レンズ)の再帰反射特性を説明する図である。
【図3】図3は、球体Sの屈折率nが1.52の場合の光路を示す図である。
【図4】図4は、球体Sの屈折率nが1.7の場合の光路を示す図である。
【図5】図5は、図2におけるθ1とθEの関係を、球体Sの屈折率nをパラメータとして示したグラフである。
【図6】図6は、図2におけるθ1とθ2の関係を、球体Sの屈折率nをパラメータとして示したグラフである。
【図7】図7は、図2におけるθ1とθJの関係を、球体Sの屈折率nをパラメータとして示したグラフである。
【図8】図8は、球体Sに設ける反射部Rを示す図である。
【図9】図9は、球体Sの反射部R上に投射される太陽光のスポットSPを示す図である。
【図10】図10は、設置面が東向き垂直面の場合に球体Sに設ける反射部Rを示す図である。
【図11】図11は、設置面が南向き垂直面の場合に球体Sに設ける反射部Rを示す図である。
【図12】図12は、設置面が南向き傾斜角45°の場合に球体Sに設ける反射部Rを示す図である。
【図13】図13(A)〜(F)は、球体Sの配置例を示す図である。
【図14】図14は、球体Sの屈折率nが1.52の場合に太陽光が設置面に垂直に入射するときの隣の球体Sの影響を説明する図であり、(A)は球体Sが接触している場合、(B)は半径分の隙間があいている場合である。
【図15】図15は、球体Sの屈折率nが1.52の場合に太陽光が設置面に対して上方45°から入射するときの隣の球体Sの影響を説明する図であり、(A)は球体Sが接触している場合、(B)は半径分の隙間があいている場合である。
【図16】図16は、球体Sの屈折率nが1.52の場合に太陽光が設置面に対して上方45°から入射するときの隣の球体Sの影響を説明する図であり、(A)は球体Sが接触している場合、(B)は半径分の隙間があいている場合である。
【図17】図17は、球体Sの屈折率nが1.7の場合に太陽光が設置面に垂直に入射するときの隣の球体Sの影響を説明する図であり、(A)は球体Sが接触している場合、(B)は半径分の隙間があいている場合である。
【図18】図18は、球体Sの屈折率nが1.7の場合に太陽光が設置面に対して上方45°から入射するときの隣の球体Sの影響を説明する図であり、(A)は球体Sが接触している場合、(B)は半径分の隙間があいている場合である。
【図19】図19は、球体Sの屈折率nが1.7の場合に太陽光が設置面に対して上方45°から入射するときの隣の球体Sの影響を説明する図であり、(A)は球体Sが接触している場合、(B)は半径分の隙間があいている場合である。
【図20】図20は、実験用の球体Sに設けた正規の反射部Rを示す図である。(実施例1)
【図21】図21は、実験用の球体Sに設けた比較用の反射部RCを示す図である。(実施例1)
【図22】図22は、本発明の効果を確認する実験装置10を示す図である。(実施例1)
【図23】図23は、図20に示す反射部Rを設けた球体S(正規品)と、図21に示す反射部RCを設けた球体S(比較品)について、図22の実験装置10を用いて実験した結果を示すグラフである。(実施例1)
【図24】図24は、本発明による太陽光反射材30の構造を示す図である。(実施例2)
【図25】図25は、図24の太陽光反射材30にカバー37および補強部38を付加した変形例の断面図である。(変形例1)
【図26】図26は、図24の太陽光反射材30にカバー37を設けるとともに、後面側を樹脂40で固定した変形例の断面図である。(変形例2)
【図27】図27(A)は、多数の球体Sを連結してシート状に形成した太陽光反射シート50の断面図であり、(B)は(A)の太陽光反射シート50を建材54に張り付けた太陽光反射パネル520の断面図である。(実施例3)
【図28】図28(A)は、図27(B)の太陽光反射パネル520を建造物56に設置した状態を示す断面図であり、図28(B)は図27(A)の太陽光反射シート50を建造物56に設置した状態を示す断面図であり、図28(C)は図27(A)の太陽光反射シート50を二重ガラス61、62の間に挿入した状態を示す断面図である。(実施例3)
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書において、夏至(夏至点)とは夏季にある至点、すなわち北半球では6月、南半球では12月にある至点を指すものとする。同様に、冬至(冬至点)とは冬季にある至点、すなわち北半球では12月、南半球では6月にある至点を指すものとする。
また、本明細書においては、簡略化のため、主として北半球の場合について説明する。南半球の場合は季節が逆転するが、原理は同じであるので詳述は省略する。
【0014】
本発明の好適な実施形態では、太陽光反射材を、所定の緯度において所定の方向に設置することにより、太陽が天球上の夏至を中心とする所定期間に対応する位置にある場合は太陽光を再帰反射し、他の期間に対応する位置にある場合は太陽光を透過させる構成とした。これにより、この太陽光反射材を設置した建造物においては、一旦設置すれば調整することなく、夏の暑さを軽減するとともに、冬は太陽光を取り込むことができるという目的を達成した。
【0015】
上記の太陽光反射材の一態様では、太陽光を集光する球状レンズを備え、前記球状レンズには前記所定期間において太陽光が集光する範囲に反射部が設けられている。反射部は、太陽光反射材を設置する設置面の緯度、向き、傾斜角に応じた位置・形状とする。例えば、図8に網掛けで示した反射部Rは、緯度φにおいて、設置面が水平で前記所定期間を半年とする場合の例である。これにより、太陽光を太陽の位置に応じて選択的に再帰反射させることができる。
【0016】
上記の太陽光反射材の一態様では、多数の前記球状レンズが平面状に配置されており、例えば、シート状やパネル状とされる。これにより、厚みを薄くできるとともに、製造および設置を容易に行なうことができる。
上記の太陽光反射材の一態様では、設置する際の方向を示す指標が設けられている。 これにより、設置を容易かつ正確に行なうことができる。
上記の太陽光反射材の一態様では、前記球状レンズの屈折率が1.47〜1.81である。これにより、再帰反射する太陽光の光量を多くでき、かつ、再帰反射する方向の範囲を狭くすることができる。
上記の太陽光反射材の一態様では、前記反射部は、設置面の外側に面した半球部分には設けない。これにより、前記球状レンズに入射する太陽光および再帰反射する太陽光が妨げられることがないので、再帰反射する太陽光の光量および透過する太陽光の光量を最大とすることができる。
【0017】
以下、図を参照して詳述する。
(本発明の前提)
図1は、本発明の原理を説明するために、太陽の見かけの位置を示した斜視図である。観測点OBは本発明の太陽光反射材を設置すべき地上の位置である。太陽の位置は、観測点OBを中心とした天球CS上に示される。説明のため、天球CS上には観測点OBから見た地平線、方位、天頂、天底等が示してある。
【0018】
太陽は黄道を1年かけて一回りする。春分(3月21日頃)および秋分(9月23日頃)には、太陽は地平線の真東(秋分点P11)を出て、天の赤道上を矢印の方向に移動し、子午線と交わる点P12で南中する。そして地平線の真西(春分点P13)に沈む。夏至の日(6月22日頃)には、太陽は地平線の点P21を出て夏至点P22を通り、P23で地平線に沈む。冬至の日(12月22日頃)には、太陽は地平線の点P31を出て点P32で南中し、点P33で地平線に沈む。
【0019】
天の赤道は天頂から南へ角度φ傾いている。この角度φは観測点OBの緯度に等しく、図1は北緯約35°とした例である。黄道は天の赤道に対して角度φS=φW=23.4°傾いている。これは、地球の地軸が公転軌道面と66.6°で交わるためであり、これによって四季が生じることとなる。
図1に示すように、太陽は、春分から秋分までの期間の昼間には天球CS上の網掛けで示した部分、つまり、春分・秋分の日周運動の経路と、夏至の日周運動の経路との間に位置する。一方、冬季の昼間には、春分・秋分の日周運動の経路と、冬至の日周運動の経路との間に位置する。なお、春分から秋分までの期間とは、本発明でいう夏至を中心とする所定期間の一例である。
【0020】
熱帯(緯度23.4°以下)と極圏(緯度66.6°以上)の間の地域においては、一年のうちで夏至の頃に太陽の高度が最も高くかつ昼間の時間が最も長くなり、冬至の頃に太陽の高度が最も低くかつ昼間の時間が最も短くなる。このため、地表が太陽から1日に受ける熱量は、一年のうちで夏至の頃が最も多く、冬至の頃に最も少なくなる。これが温帯において夏暑く冬寒い原因であるが、気温は夏至の頃に最も高く冬至の頃に最も低くなるわけではない。気温の変化はそれより1ヶ月半ほど遅れて現われ、日本では8月に最も暑くなり、1月に最も寒くなる。
【0021】
本発明者は、このような時間遅れがあるものの、太陽光による熱量を多く受ける期間に建造物が受ける太陽光を宇宙空間に返しておくことにより、長期的にみれば建造物自体や建造物を介して地表や大気に蓄積される熱量を低減することができ、ひいては夏の気温の上昇を軽減することができると考えた。
一方、太陽光による熱量が少ない期間には太陽光を反射や遮断をせずに、建造物内(室内)や建造物自体に取り込んで利用できるようにすることが望ましい。すなわち、窓を介して室内に取り込まれた太陽光は光熱として直接利用でき、また、建造物自体が受けた熱は蓄積され、冬の気温、室温の低下を軽減することができると考えた。
【0022】
(本発明の原理について)
本発明の太陽光反射材は、上記の観点から考案されたものであり、図1において、観測点OBに設置した場合、太陽が天球上の夏至を中心とする所定期間に対応する位置、例えば網掛けで示した範囲にある場合には太陽光を再帰反射させ、他の期間に対応する位置にある場合には太陽光を透過させるものである。すなわち、再帰反射する光の入射方向に選択性(指向性)をもたせたものである。
【0023】
前述のように、再帰反射特性を有する再帰反射材には、ガラスビーズや樹脂ビーズといった透明球体(球状レンズ)を用いたものと、コーナーキューブ(立体プリズム)を用いたものがあるが、本発明では透明球体(球状レンズ)を用い、その集光性を利用して再帰反射特性に選択性をもたせた。
【0024】
図2は球状レンズである透明な球体Sの再帰反射特性を説明する断面図である。
図2において、球体Sの中心Oを通る光軸Xに平行に、右側から入射点P1に入射光が入射されるものとする。平面Hは、球体Sを実際に建造物の図示しない設置面に設置する場合に、球体Sの中心Oを通り設置面に平行な仮想的な平面である。すなわち、平面Hの右側(前面側)が建造物の外側つまり太陽光の入射側(光源側)であり、左側(後面側)が建造物側である。図2は、入射光が平面Hに対して垂直、つまり設置面に対して垂直に入射した場合を示している。なお、建造物の設置面を特に言わない場合は、平面Hを設置面とみなすものとする。
【0025】
入射点P1から入射した入射光は、球体S内を進んで点P2(反射点または透過点)に達する。点P2に反射部が設けられている場合は、入射光はここで反射され、反射光となる。この反射光は球体S内を進み、出射点P3から球体Sの外部に出て出射光となる。点P2に反射部が設けられていない場合は、破線矢印で示すように、入射光はここから球体Sの外部に出て透過光となる。なお、点Fは透過光が光軸Xと交わる点である。
【0026】
入射点P1、点P2、出射点P3の位置は、それぞれ光軸Xからの中心Oを中心とする角度θ1、θE、θ2で示している。これらの各点は球面上にあるから、中心Oと各点を結ぶ線は各点における法線であり、これを基準として、各点での入射角、屈折角、反射角が示される。
入射光の入射点P1における屈折角θBは、入射角をθA、球体Sの屈折率をnとすると、Snell(スネル)の法則により、θB=arcsin((sinθA)/n)となる。なお、屈折率nは波長によって異なるが、本明細書では簡略化のため無視する。
その他の角度は、幾何光学から以下のとおりとなる。
【0027】
θC:点P2への入射角=θB
θD:点P2での反射角=θC=θB
θE:点P2を通る法線の光軸に対する角度(光軸Xに達しない側を負、越える側を正とする)=θB+θC−θ1=2・θB−θA
θF:出射点P3への入射角=θD=θB
θG:出射点P3での屈折角=θA
θH:平面Hと出射点P3を通る法線とのなす角度(平面Hより入射側を正、反対側を負とする)=180°−90°−θD−θE−θF=90°+θA−4・θB
θ2:出射点P3 を通る法線の光軸Xに対する角度=90°−θH=90°−(90°+θA−4・θB)=4・θB−θA
θJ:出射光の光軸に対する角度(光軸Xに対して広がる場合を正、交差する場合を負とする)=θ2−θG=4・θB−2・θA=2・θE
θK:入射光が点P2から反対側に透過する場合の屈折角=θA
θL:透過光の光軸Xに対する角度=θK−θE=θA−(2・θB−θA)=2・(θA−θB)
【0028】
図2は、一例として、球体Sの屈折率nが1.41、入射点P1の位置がθ1=45°の場合で作図したものである。光線の光路や各角度は、屈折率nおよび入射点P1の位置(θ1)に依存し、球体Sの大きさ(直径)には依存しない。ここで、図2の例では、出射光は光軸Xに対してθJの角度で広がっており、正確な再帰反射とは言えない。しかしながら、本発明では、太陽光を概ね太陽の方向に、例えば30°以内の範囲に反射すれば、太陽光を宇宙空間に放出する割合を高めるという目的には十分であるとした。
【0029】
また、図2においては、入射光の入射方向つまり光軸Xが平面Hに対して垂直の場合を示したが、他の角度で入射する場合は、中心Oを中心に光軸Xごと図面を回転させたものとなる。また、図2は光軸Xを含む一断面における光路を示しているが、球体Sは光軸Xを軸とする回転体であるので、光軸Xを含む他の断面においても同様な光路となる。
【0030】
図3は、球体Sの屈折率nが一般的なガラスの屈折率である1.52の場合、入射点P1の角度θ1が0°、15°、30°、45°、60°、75°、90°におけるそれぞれの光路を示したものである。
図4は、球体Sの屈折率nが高屈折率ガラスの例である1.7の場合、入射点P1の角度θ1が0°、15°、30°、45°、60°、75°、90°におけるそれぞれの光路を示したものである。
【0031】
次に、図5、図6、図7を用いて、本発明に適した屈折率nについて検討する。
図5、図6、図7は、屈折率nをパラメータとし、屈折率nが1.4、1.49、1.5、1.52、1.6、1.7、1.8、1.9、1.93、2.0、2.1、2.2の場合について、θ1が0〜90°におけるθ1とθEの関係、θ1とθ2の関係、θ1とθJの関係をそれぞれ計算し、グラフにしたものである。なお、屈折率nのうち、1.49はアクリル樹脂の屈折率、1.52は窓ガラスやガラスびんに用いられる一般的なガラスの屈折率、1.93は、路面標示や反射標識に用いられるガラスビーズの材料である高屈折率ガラスの屈折率である。
【0032】
図5に示すように、屈折率n=1.52の場合、θEは、θ1が約49°のときに正の最大値(約10.5°)となり、θ1が0〜90°の範囲において、すなわち、球体Sの断面全部に亘る入射光に対して、絶対値がこの最大値の絶対値以下となる。つまり、球体Sに入射した太陽光は、球体Sの反対側の面の|θE|≦10.5°の範囲に集光するということである。実際にガラス球に太陽光を当て、反対側の面に半透明のスクリーンを張り付けると、スクリーン上に円形の光のスポットが観察できる。スポットの大きさを上記同様に中心Oを中心とする角度で示すと、直径が|θE|の最大値の2倍、21°となるはずであるが、太陽には見かけの大きさ(視直径0.53°)があるため、実際のスポットの直径はその分広がったものとなる。
【0033】
太陽光によるスポットは太陽の運動(本発明では特に年周運動が重要である)に応じて移動するので、太陽の所望の位置に応じて球面Sの対応する部分に反射部を設ければ、太陽がその位置にある場合はスポットが反射部に当たって反射し、そうでない場合には反射部にかからずに透過することになる。スポットが反射部の境界を通過するときの反射光と透過光の割合の変化は、スポットが小さいほど急峻となる。また、本発明の目的からは、スポットが夏至の頃と冬至の頃で重ならないことが好ましい。また、変化が急峻である必要はないので、スポットの大きさ、すなわちは|θE|の最大値は必要以上に小さくなくてよい。
【0034】
上記の観点から、|θE|の最大値の限度は、図1に示したφS=φW=23.4°となるが、スポットが太陽の視直径(0.53°/2)だけ広がることを考慮し、その分を引いて23.1°とするのが好ましい。一方、スポットが小さい方が球体Sに設ける反射部の面積を小さくでき、全天からの光が透過する割合が大きくなるので、採光の面からは有利である。
なお、図5には図示していないが、屈折率n=1.43の場合、|θE|は、θ1が約54°のときに最大値(約15°)となる。
【0035】
図6に示すように、θ2は、いずれの屈折率nの場合も、θ1の増加とともに増加し、最大値をとった後、減少する。屈折率n=1.52の場合、θ2は、θ1が約73°のときに最大値(約83°)となる。θ2が90°に近くなると、出射光が隣の球体Sや他の部材に遮られるようになり、90°以上になると平面Hより建造物側となり出射しなくなる。この点では、θ2はθ1の広い範囲に亘って小さい方が好ましい。
【0036】
図7は、θ1とθJの関係を示したグラフであるが、前述のように、θJ=2・θEの関係があるので、図5のグラフと同様なカーブとなる。図7に示すように、屈折率n=1.52の場合、θJはθ1が約49°のときに正の最大値(約21°)となり、θ1が0〜90°の範囲において、すなわち球体Sの断面全部に亘る入射光に対して、絶対値が上記正の最大値の絶対値以下である。つまり、球体Sに入射した太陽光は、太陽の方向に対して21°以内の範囲に再帰反射されることになる。
なお、図7には図示していないが、屈折率n=1.43の場合、θJはθ1が約54°のときに最大値(約30°)となる。
【0037】
(屈折率の設定について)
以上のように、球体Sの屈折率nは、図5、図6、図7に示される特性を考慮して設定する。 今、θ1が0°からθ1までの入射光が再帰反射可能である場合、その受光範囲を球体Sが受光可能な最大面積すなわち球体Sの断面積に対する比率で表わせば、θ1のサインの2乗となる。よって、θ1が30°、45°、60°、75°、90°の場合の比率は、それぞれ、25%、50%、75%、93%、100%となる。ただし、これらの値は、入射光が平面Hに対して垂直に入射する場合の最大値であって、入射光が平面Hに対して傾いて入射する場合は、隣の球体Sに遮られる部分が生じるので、これより小さくなる。その程度は、隣の球体S間の距離によることになる。
【0038】
|θE|の最大値については、前述したように、スポットの大きさが半径で23.4°以下となるのが好ましいので、それから太陽の視半径(0.53°/2)を引いた、23.1°である必要がある。図5によると、屈折率nの低い方は1.4までこれに適合しているが、高い方は1.9以上になると、θ1が大きい範囲で23.1°を超えてしまう。計算では、θ1が90°まで|θE|の最大値が23.1°を超えない屈折率nの上限は、1.81となる。
θ2の最大値については、そもそも90°以上では出射光が光源側に出ないので、90°以下であることが望ましい。図6の計算法によれば、屈折率n=1.47の場合に、θ2の最大値が約89°となり、これが屈折率nの下限となる。そのときのθ1は約74°である。
【0039】
なお、θ2が大きい場合、特に入射光が平面Hに対して傾いて入射する場合は、出射光が隣の球体Sに遮られる部分が大きくなる。その程度は、隣の球体Sとの距離による。
|θJ|の最大値は再帰反射の指向性を示すものであり、これが小さいほど指向性が良いと言える。図7の計算法によれば、上記した屈折率nの上限:1.81では、θ1が81°のとき|θJ|の最大値が約30°となる。つまり、θ1が81°以内に入射した太陽光を太陽の方向から30°以内に再帰反射できるということである。
【0040】
同様に、上記した屈折率nの下限:1.47では、θ1が52°のとき|θJ|の最大値が約26°となる。つまり、入射した全ての太陽光を太陽の方向から26°以内に再帰反射できる。また、屈折率nが1.7の場合、θJはθ1が38°のとき正の最大値:約9°となり、θ1が73°のとき負の値:約−9°となる。つまり、θ1が73°以内に入射した太陽光を太陽の方向から9°以内に再帰反射できると言え、比較的大きな受光範囲において再帰反射の指向性を良好なものとすることができる。
【0041】
(球体Sの材料について)
上記の検討から、屈折率nは、1.47〜1.81が適切である。これに該当する材料としては、アクリル樹脂(屈折率1.49)、一般的なガラス(屈折率1.52前後)、ポリカーボネート(屈折率1.59)、ポリスチレン(屈折率1.59)、高屈折率ガラス(屈折率1.7前後〜1.8前後のもの)などが使用できる。耐候性の面からはガラスが好ましいが、軽量化のためには樹脂が好ましい。なお、ガラスの場合は、本発明の目的から、熱線吸収ガラスでないものが好ましい。
【0042】
(反射部の位置・形状について)
次に、図8を参照して、球体Sに設けるべき反射部Rの位置・形状について説明する。
図8において、正円で示された全体が球体Sであり、本発明の太陽光反射材の構成単位である単位反射体を構成する。球体Sには、例えば、透明なガラス球を用いる。球体Sは、図1に示した観測点OBの位置に設置されるものとする。地平面は平面Hに相当する。太陽光によるスポットSPは、球体Sの太陽光の入射側(図8で天頂側の半球)と反対の面(天底側の半球)において、太陽の中心とスポットSPの中心とが中心Oを対称点とした点対称の位置にできる。反射部は、太陽の所定の位置に対応したスポットSPの位置に設ける必要があるが、その位置を示すために、球体Sにも座標を設ける必要がある。そこで、図1で用いた天球座標をそのまま球体Sに投影し、方位、角度、各点を、図1と同一の符号を付して示した。
【0043】
図8において、例えば、太陽が夏至の頃に地平線の点P21から夏至点P22まで矢印A1で示すように動くと、スポットSPの中心は、中心Oを対称点として、点P33から冬至点P34まで矢印A2で示すように動く。他の位置でも同様であるから、太陽の中心が図1の網掛けで示した範囲にあるときのスポットSPの中心は、図8において、網掛けで示した範囲(反射部R)のうち、RAの部分(弧P33〜P34〜P31と弧P13〜P14〜P11とに挟まれた部分)に位置する。網掛けで示した範囲(反射部R)のうち、RBの部分(弧P33〜P34〜P31と弧P33B〜P34B〜P31Bで挟まれた部分)はスポットSPの半径分(中心Oを中心とした角度φBで示す)であり、これは、スポットSPが、夏至の頃においても反射部からはみ出さないようにするために設ける部分である。よって、反射部Rは網掛けで示した範囲全体に設けるのである。
【0044】
次に、図9を用いて、スポットSPの大きさと反射部Rの幅の関係を説明する。図9は、球体Sの表面の内側を中心Oから見たときの、天底付近から子午線に沿って北に向かう一部分を示したものである。
図9において、実線の円がスポットSPを示し、夏至の頃の南中時に冬至点P34に、春分および秋分の頃の南中時に点P14に、冬至の頃の南中時に点P24に、それぞれ位置した状態を示している。点線の円SPEは、図5の説明で述べたように、|θE|の最大値を半径とする円である。スポットSPの半径は、それより太陽の見かけの大きさ(視直径0.53°)の半分、角度φSだけ大きくなる。この分も含め、反射部RBの幅(角度φB)を設定するのであるが、必要以上にRBの幅を広げると透過光の妨げとなって、採光が悪化してしまう。図9では必要最小限となるように、φB=|θE|の最大値+φSとしている。
【0045】
スポットSPが冬至点P34にあるときなど、全体が反射部Rに収まるときは入射光が全て再帰反射し、点P24にあるときなど、全体が反射部Rの外にあるときは入射光が全て透過する。スポットSPが点P14にあるときは、入射光の半分が再帰反射し、半分が透過することとなる。
なお、このスポットSPのはみ出しの対策である反射部RBの付加は、時間方向にも考えられる。図8でいうと、日の出時と日没時に、反射部Rの地平線より上方にはみ出す可能性があるが、その頃の太陽光は、高度が低いので弱いこと、他の建物や樹木に遮られる可能性が高いこと、球体Sを多数配置する場合には隣の球体Sの陰になることなどにより、実用上の効果が小さいので、設けなくてもよい。
以上のように、図8は、球体Sを水平な面に設置する場合に球体Sに設ける反射部Rの位置・形状を示している。例としては、建造物の水平な部分、例えば屋上やベランダの床、水平な屋根、水平な窓などのほか、水平な路面や地面、グラウンドなどに設置する場合が該当する。
【0046】
次に、図10〜図12を用いて、設置面が水平でない場合、例えば垂直な壁面や窓、傾斜した屋根や窓に設置する場合の反射部Rの位置・形状について説明する。
図10は、球体Sを東向きの垂直面に設置する場合の反射部Rを網掛けで示したものである。この場合、球体Sの方向(方位、天頂、天底)を天球と一致させる必要があるので、点P13(西)を建造物側に向けて設置することになる。したがって、天頂と天底を結ぶ線(鉛直線)と南北を結ぶ線を含む平面つまり子午線を含む平面が平面Hとなる。
【0047】
この場合の反射部Rは、図8に示した反射部Rのうち、平面Hより外側(光源側)が除去された形状とする。これは、球体Sの平面Hより外側、つまり、球体Sを建造物の設置面に設置した際に、設置面の外側に面した半球部分に反射部Rがあると、入射光および出射光の妨げとなってしまうからである。この部分を除去することにより、再帰反射することになる入射光および透過することになる入射光の光量の低下を防止できるとともに、出射すべき再帰反射光の光量の低下を防止することができる。
なお、平面Hより外側とは、換言すれば、太陽が建造物自体に妨げられないで直視できる方向の範囲ということである。究極的には、反射部Rは夏至を中心とする所定期間に実際に太陽光が球体Sの表面において集光する範囲のみに設ければよいのである。
【0048】
同様に、図11は、球体Sを南向きの垂直面に設置する場合の反射部Rを網掛けで示したものである。この場合、天頂と天底を結ぶ線(鉛直線)と東西を結ぶ線を含む平面が平面Hであり、反射部Rは、図8に示した反射部Rのうち、平面Hより外側が除去された形状とする。
同様に、図12は、球体Sを南向きの傾斜角(水平面となす角度)45°の傾斜面に設置する場合の反射部Rを網掛けで示したものである。この場合、東西を結ぶ線を回転軸として地平面を南に45°傾斜させたものが平面Hであり、反射部Rは、図8に示した反射部Rのうち、平面Hより外側が除去された形状とする。
以上のように、反射部Rの位置および形状は、球体Sの屈折率nによって決まるスポットSPの大きさ、設置面の緯度、設置面に対応する平面Hによって決めることができる。
【0049】
以上の説明では、反射部Rの境界を天の赤道に沿ったものとしたが、これは、夏至を中心とする所定期間を半年(前後各3ヶ月)とした場合である。しかし、あまり暑くない地域ではこの所定期間を例えば4ヶ月(前後各2ヶ月)としてもよいし、暑さが厳しい地域では例えば8ヶ月(前後各4ヶ月)などとしてもよい。そのような場合は、設定する所定期間に応じて、反射部Rの境界をそれぞれ夏至側(冬至点P34側)または冬至側(点P24側)にずらしたものとする。
【0050】
(球体Sの配置について)
図13は、同一の直径の球体Sを、設置面に多数設置する場合の配置の例である。
図13(A)は、球体Sをハニカム状に密着して配置したもので、密度を最も大きくできる。(B)は升目状に密着して配置したものである。(C)は、直線状に密着して配置した列を間隔をあけて配置したものである。この図は球体Sの半径分の隙間を空けた例(中心間の距離が直径の1.5倍)である。(D)は(C)と同様であるが、列方向の位置を隣り合う列で球体Sの半径分ずらしたものである。(E)は、球体S間に隙間をあけてハニカム状に配置したもので、この図は半径分の隙間を空けた例(中心間の距離が直径の1.5倍)である。(F)は、球体S間に隙間をあけて升目状に配置したものである。この図は半径分の隙間を空けた例(中心間の距離が直径の1.5倍)である。
【0051】
図14〜図19は、隣り合う球体Sに太陽光が入射したときの入射光と出射光の光路を示したものであり、θ1が0°、15°、30°、45°、60°、75°の入射光が全て反射した場合の光路を示している。図14〜図16は屈折率n=1.52の場合、図17〜図19は屈折率n=1.7の場合であり、前者は図3を、後者は図4をそれぞれ並べて作成したものである。なお、θ1が30°の光路を太線として見やすくしてある。θ1が90°の光路は、隣の球体Sや後述の連結部52の影響が大きいので省略した。
【0052】
各図において、平面Hは設置面に平行で各球体Sの中心を通る平面である。図14と図17は太陽光が設置面に垂直に入射する場合、図15と図18は太陽光が45°傾いて入射する場合に入射光が隣の球体Sで遮られる様子、図16と図19は太陽光が45°傾いて入射したときの出射光が隣の球体Sで遮られる様子をそれぞれ示したものである。また、図14〜図19のそれぞれ(A)が球体S同士が接している場合、(B)が球体S間に球体Sの半径分の隙間を設けた場合である。
【0053】
図14において、θ1=75°までの入射光およびその出射光は、隣の球体Sが接する場合でも隙間を空けた場合でも遮られていない。
図15において、球体Sが接する場合、下側の球体Sに対するθ1=約25°以上の入射光が上側の球体Sに遮られている。隙間を空けた場合は、θ1=75°までの入射光は遮られていない。
図16において、球体Sが接する場合、下側の球体Sからのθ1=約15°以上の入射光が上側の球体Sに遮られている。隙間を空けた場合は、θ1=30°近くまでの入射光による出射光は遮られていない。
【0054】
図17において、θ1=75°までの入射光およびその出射光は、隣の球体Sが接する場合でも隙間を空けた場合でも遮られていない。
図18において、球体Sが接する場合、下側の球体Sに対するθ1=約25°以上の入射光が上側の球体Sに遮られている。隙間を空けた場合は、θ1=75°までの入射光は遮られていない。なお、入射光に対する影響は屈折率nにはよらないので、図15と同じである。
図19において、球体Sが接する場合、下側の球体Sからのθ1=約15°以上の入射光が上側の球体Sに遮られている。隙間を空けた場合は、θ1=75°までの入射光による出射光は遮られていない。
【0055】
以上のように、球体Sが接する場合は、入射光が設置面に対して傾いて入射すると、入射光および出射光が隣の球体Sに遮られるようになる。このため、再帰反射する光量が減少することになるが、球体S間に隙間を空けることにより、この減少を軽減することができる。しかし、球体S間に隙間を空けた場合、設置面に対して垂直前後に入射する入射光については隙間を素通りすることになる。また、隙間を空けた分、球体Sの密度が減るので、再帰反射する光量が減少することになる。ただし、太陽光を透過すべき期間であれば、むしろ好ましい。
したがって、設置面に対して垂直前後の入射光を重視するのか、傾いた入射光を重視するのかによって、球体Sの配置を決めるのがよい。
【0056】
一例として、太陽光を再帰反射させるべき期間に、太陽光が垂直前後に当たる時間のある設置面については、球体Sの密度が高い配置、例えば、図13の(A)や(B)のような配置とするのがよい。概していうと、設置面の法線が天の赤道付近を向いている面が該当する。具体例を挙げると、東向きおよび西向きの垂直な窓や壁、水平ないし南側に傾斜した窓、屋根、庇、壁、南東向きまたは南西向きに傾斜した屋根、庇などが該当する。
一方、太陽光を再帰反射させるべき期間には太陽光が斜めからしか当たらない設置面については、その入射方向に沿って隙間を空けた配置とするのがよく、例えば、図13の(C)〜(F)のような配置とする。具体例としては、南向きの垂直な窓や壁の場合、夏至の頃には南中時前後の太陽光が高い高度から斜めに当たるので、そのような配置とするのがよい。
【0057】
球体Sの配置を決める際の参考として、図13に示した球体Sの各配置について、太陽光が設置面に対して垂直に入射する場合における再帰反射可能な入射光の受光範囲の、設置面全体に対する面積比を挙げておく。ここではθ1が0〜75°の入射光が再帰反射可能とする。単独の球体Sが設置面全体である場合の面積比は前述のとおり93%であるが、球体Sを多数配置した場合は、球体S間の隙間の面積の分だけ低下する。この低下後の面積比を(A)〜(F)について計算すると、(A)が84%、(B)が73%、(C)と(D)が49%、(E)が38%、(F)が33%となる。
【0058】
(太陽光反射材の形態について)
太陽光反射材の形態としては、反射部Rを設けた球体Sを単位反射体として、(1)単位反射体を1個ずつ建造物に設置する方法、(2)多数の単位反射体がシート状やパネル状に集成された太陽光反射材を建造物に設置する方法、(3)多数の単位反射体がシート状やパネル状に集成された太陽光反射材を張り付けた建材を建造物に設置する方法がある。いずれの方法においても、設置面の緯度、向き、傾斜角は様々であるので、条件に合う反射部Rを有した単位反射体および太陽光反射材を作り分けすることになる。
(2)および(3)の場合は、球体Sの材料を成型することにより、多数の球体Sとこれらをつなぐ連結部からなるシート状の基板を一体的に作成した後、反射部を形成することで、広い面積の太陽光反射材を容易に作成することができる。この場合、球体Sの配置パターンと間隔については、図13〜図19で説明したメリット、デメリットを考慮して設定する。
【0059】
(反射部Rの材料および形成方法について)
反射部R(反射層)の材料には反射率が高いものを使用する。反射部Rの形成方法としては、球体Sに、アルミや銀などの金属箔を張り付ける方法、蒸着やスパッタリングにより金属膜を形成する方法、金属粉などの反射性の材料が混入されたインクを印刷する方法などを適用する。また、最初から所定の位置・形状に形成する方法のほか、広範囲に形成してから不要な部分をエッチングや機械的方法によって除去する方法が適用できる。
【0060】
(球体Sの大きさについて)
球体Sの直径は、球体S内での太陽光の吸収、減衰を抑えるためには小さい方がよい。また、軽量化のためにも小さい方がよい。一方、後述の太陽光反射シート50や太陽光反射パネル520の形態とする場合は、強度的には大きい方がよいが、そうすると重くなって他の建材や建造物への負担が増すので限度がある。そこで、一般的な窓ガラスやタイルの厚さである数mm程度までとするのが好ましい。
他方、製造上、反射部Rの位置・形状が精度よく形成できる程度の大きさが必要である。例えば印刷法を用いる場合、その分解能より十分大きな直径とする。例えば、印刷の分解能が10μmであるとし、球体Sの直径をその100倍以上とすると、直径は1mm以上となる。
また、光学的には波長より十分大きく、幾何光学が成り立つことが必要である。太陽光のうち、例えば波長2μmまでの光を対象とする場合、球体Sの直径をその100倍以上とすると、直径は0.2mm以上となる。
これらの観点から、球体Sの直径は、1〜数mm程度が適当ということになる。
【0061】
(指標について)
本発明の太陽光反射材は、これを設置する設置面の緯度、向き、傾斜角に合わせて作成されるので、建造物の設置面に設置する際に、球体Sが所定の方向となるように設置する必要がある。ここで、所定の方向に設置するとは、球体Sの座標(天頂、天底、方位)を天球CSの座標に合わせて設置するということである。球体Sの座標は、反射部Rの位置・形状を見れば判別することも可能ではあるが、作業を容易とするために、分りやすい指標を設けることが望ましい。なお、緯度については、混同する恐れがなければ省略してもよい。
【0062】
単位反射体を個々に太陽光反射材として取り扱う場合には、球体Sもしくは取付部などの適宜付加された部分に、設置する方向を示す指標を設ける。例えば、方位記号を球体Sの天頂に表示することにより、上下および方位を合わせれば所定の方向に設置することができる。
多数の単位反射体をシート状やパネル状に集成した太陽光反射材の場合は、太陽光反射材の周囲などの適所に設置面の緯度、向き、傾斜角、太陽光反射材の上下または方位を示す指標を設ける。つまり、指標に従って設置すれば個々の球体Sが所定の方向に設置されるようにする。具体的には、設置面の傾斜角が大きい場合は設置面が向いている(面している)方位、傾斜角、太陽光反射材の上下で示すと分かりやすい。傾斜角が小さい場合には設置面の面方向の方位、傾斜角で示すと分かりやすい。例えば、設置面が水平の場合は、方位と水平(傾斜角0°)である旨を示す指標とする。
【実施例1】
【0063】
(実験装置の説明)
図22は、本発明の太陽光反射材を設置した建造物を模した実施例である実験装置10の正面図および左側面の断面図である。この実験装置10は、本発明の太陽光反射材による効果を実証するために作成したものである。
10は実験装置であり、容器13は建造物に相当する。容器13には、太陽光反射材となる球体Sとして、透明なガラス球11がその半球部分を容器13の前面から露出するようにはめ込まれている。この露出した側が光源側つまり太陽に向く側(前面)である。容器13の前面17が前述の平面Hかつ設置面に相当し、矢印Bはその法線である。矢印Aはガラス球11の天頂と天底を結ぶ軸であり、矢印方向が天頂である。
【0064】
ガラス球11には、市販の無色透明な直径30mmの装飾用ガラス球を使用した。容器13の内部は建造物の室内に相当し、寸法は正面からみて幅40mm、高さ40mm、奥行き50mmである。容器13は、断熱性の良い材料として、市販のスチレンペーパーで作成した。内面には太陽光を吸収しやすくするため、黒色紙15が張り付けてある。14は容器13内部の温度を測るための温度計であり、測温部を容器13の内部に挿入し、外部から温度が読み取れるようにしてある。16は黒色紙であり、温度計14に太陽光が直接当たらないようにしてある。
【0065】
容器13の前面17には、容器13自体が太陽光で加熱されるのを軽減するため、太陽光を反射する反射テープ19が張り付けてある。反射テープ19には、市販のアルミ蒸着ポリエステル粘着テープを使用した。
正面図に示した表示20「↑上 向き:南東 傾斜角:60°」は、本実験装置10の上下すなわち太陽光反射材の上下(矢印方向が上側)、設置面の向き、傾斜角を示す指標である。この表示20は、本実験装置10およびガラス球11を所定の方向に設置するために設けたものである。方位記号21は、太陽光反射材であるガラス球11を設置する方向を示す指標であり、方位(矢印が北)を示すとともに、十字の交点が天頂Zを示している。表示はこれらの情報を表わすものであればよく、表示場所もこれに限定されないが、設置時に分りやすいものとする。
【0066】
ガラス球11には、容器13の内部側、正確には平面H(前面17)より内部側の所定位置に反射部12が設けられている。反射部12の形状は、図8〜図12を用いて説明した反射部Rの決め方に従って設定するのであるが、反射部の有無による容器13内部の温度変化の違いを実証するため、実験装置10を2個作成し、一方(正規品)には図20に網掛けで示す正規の反射部R(RAおよびRB)を設け、他方(比較品)には図21に網掛けで示す形状の反射部RC(RCAおよびRCB)を設けた。図20、図21における角度φは、実験場所である神奈川県横浜市内の緯度に合わせて35.4°とした。角度φSとφWは不変であるので、前述のとおり23.4°とした。
【0067】
ガラス球11の屈折率nは約1.52であり、図5に示す|θE|の最大値が約10.5°であるので、反射部RBの幅を示すφBは、太陽の視半径および誤差を考慮して11°とした。
反射部RおよびRCは、市販のアルミ粘着テープ(厚さ0.050mmのアルミ箔に厚さ0.050mmの無色透明アクリル系粘着剤が塗布されたもの)を、ガラス球11に張り付けたときに所定の形状になるように裁断し、これを張り付けて形成した。
【0068】
太陽光によるスポットSPは、10月下旬から2月中旬までの間、正規品では反射部Rの外に位置し、比較品では反射部RC内に位置する。実験日が12月であるので、正規品では太陽光が全て透過し、比較品では全て再帰反射されることとなる。
実験場所の立地条件により、太陽光が当たる時間が午前7時頃から11時頃までのため、この間に実験装置10の前面17の方向(矢印B)がなるべく太陽の方向を向いているよう、設置面の向きおよび傾斜角を設定した。そのため、上記のとおり、南東(角度表記で135°)向き、傾斜角60°に設定することにした。したがって、反射部RおよびRCは、図20および図21にそれぞれ示すように、設置面である平面Hより前面側の部分が除去された形状となった。
【0069】
(実験方法および実験結果)
上記実験装置10の正規品および比較品を、設置面が上記の向きおよび傾斜角となるように設置した。これにより、矢印Aが天頂を向き、矢印Bが南東(135°)の高度(仰角)30°に向いた状態となる。これで、実験日2009年12月4日の午前6時15分から12時00分まで、容器13内部の温度を15分毎に記録した。
【0070】
図23は、実験結果を示すグラフである。
7:00までは太陽光は当たっていない。7:06に双方の実験装置10に太陽光が当たり始め、気温の上昇とともに、正規品、比較品とも、容器13内部の温度が上昇している。10:55頃から建物の陰に入ったため、その後は、正規品、比較品とも、容器13内部の温度が低下して、気温に近づいている。太陽光が当たっている期間においては、正規品の方が比較品より温度上昇が大きく、最大で約10°Cの差がでている。この実験により、反射部を設けた透明球体を用い、反射部の位置によって太陽光を選択的に再帰反射させることによって、それが設置された物体の温度上昇を制御できることが実証できた。
なお、図23において、比較品も気温より約5°C高い温度まで上昇しているが、これは、太陽光によって容器13やガラス球11自体が加熱されることによって、容器13内部が温められることが原因と考えられるが、正規品でも条件は同じである。
【実施例2】
【0071】
図24は、本発明の実施例として試作した太陽光反射パネル30の概略図である。
太陽光反射パネル30は、ガラス球31の所定位置に反射部32を設けたものを単位反射体として予め作成し、これを多数、透明な筐体33に配置してパネル状としたものである。試作した太陽光反射パネル30は、向きが真東(90°)で傾斜角が90°(垂直)の設置面用であり、真東向きの垂直な窓ガラス41の室内側(設置面34)に張り付けて使用するものである。よって、各ガラス球31の反射部32は、図10に示した反射部Rの位置・形状としてある。反射部RBの幅は、ガラス球31の屈折率nが約1.52であるので、図22の場合と同様、φBを11°とした。
【0072】
ガラス球31には、市販の無色透明な直径12.5mmの装飾用ガラス球を使用した。反射部32は、市販のアルミ粘着テープ(厚さ0.050mmのアルミ箔に厚さ0.050mmの無色透明アクリル系粘着剤が塗布されたもの)を所定の形状に裁断し、これを張り付けて形成した。
図24に示すように、各ガラス球31は、太陽光反射パネル30を実際に設置したとき、天頂方向(矢印A)が実際の天頂を向き、東が太陽光反射パネル30の前面側法線方向(矢印B)を向くように筐体33に固定した。
【0073】
筐体33は無色透明なアクリル樹脂製であり、底部33aの板厚が2mm、内のりが正面から見て高さ144mm、幅138mm、奥行き15mmである。この中に136個のガラス球31を正面図に示すようにハニカム状に配置し、断面図に示すように接着剤36a、36b、36cで固定した。接着剤には市販の無色透明なアクリル変性シリコーン接着剤を使用した。なお、底部33aとの固定(接着剤36a)のみで接着強度が十分であれば、ガラス球31間(接着剤36c)や、ガラス球31と枠部33bとの間(接着剤36b)は省略してもよい。なお、透過光や出射光の光路が接着剤36a、36b、36cにかかる場合でも、接着剤は透明であるので、光路は影響されるが、透過することができる。
【0074】
筐体33の枠部上面には、「上 向き:↑東 傾斜角:90°」なる表示37が設けられている。これは、本太陽光反射パネル30を窓ガラス41に設置する際の上下(「本表示37のある側を上とする)、向き(矢印を東に向ける)、傾斜角を示す指標である。文字が逆さまなのは、室内から窓ガラス41に向って作業を行なう際に分かりやすくするためである。太陽光反射パネル30は、接着剤や粘着テープで窓ガラス41に張り付けてもよく、別部材を用いて窓枠などに固定してもよい。
以上のように設置された太陽光反射パネル30により、太陽光を、夏至を中心とした略半年間は太陽の方向に返し、それ以外の期間は室内へ透過させることができる。
【0075】
なお、ガラス球31と窓ガラス41との隙間35は、各部材の寸法のばらつきや振動によってガラス球31と窓ガラス41が接触するのを防ぐために設けてあるが、この部分の空気によって、室内外の断熱性が良くなるという効果もある。
一方、太陽光反射パネル30の厚みを薄くするためには、隙間35を狭くする。その場合、ガラス球31と窓ガラス41との間を透明な接着剤で接着してもよいが、そうするとその範囲の分、ガラス球31のレンズとして作用する面積が狭くなるので、接着範囲を微小とするか、接着するガラス球31をまばらにして少なくするのが好ましい。
なお、反射部32は、前述のように、印刷、蒸着、スパッタリングなどによって形成してもよい。
【0076】
(変形例1)
図25に示す太陽光反射パネル301は、図24に示した太陽光反射パネル30に透明なカバー37を設け、筐体33の内部を密閉したものである。また、筐体33の底部33aとカバー37との間に柱状や桟状の補強部38を適宜の間隔で設けてある。図24と同じ符号を付した他の部分については、図24と同様である。
この太陽光反射パネル301は、窓ガラスの外側から張り付けることもできる。また、太陽光反射パネル301自体を窓材として使用することもできる。また、建造物の壁面や屋根など、採光が不要な部分に張り付けてもよい。その場合は、太陽光を透過させる期間は自身が熱を吸収してもよいので、筐体33の底部33aは不透明でもよく、熱を吸収しやすいよう黒っぽい材料としてもよい。
【0077】
(変形例2)
図26に示す太陽光反射パネル302は、図24に示した太陽光反射パネル30における接着剤36a、36b、36cに代えて、エポキシ樹脂などの透明な樹脂40で、ガラス球31の後面側の略半球部分を埋めて固定したものである。また、透明なカバー37を設けて内部を密閉してある。図24と同じ符号を付した他の部分については、図24と同様である。
この太陽光反射パネル302も、図25に示した太陽光反射パネル301と同様に使用できる。この太陽光反射パネル302の場合、ガラス球31の後面側については、樹脂40の屈折率に応じてレンズの作用が低下するので、透過光の光路が図3や図4に示したものとは異なってくる。また、太陽光反射パネル302は、筐体33の底部33aとガラス球31の後面側との間に隙間がないので、塵埃などが入り込んで詰まるおそれがない。このため、カバー37が無くても屋外で使用することができる。また、窓ガラスの内側から張り付ける場合には、太陽光反射パネル30と同様に、カバー37は無くてもよい。
【実施例3】
【0078】
図27(A)は、本発明の太陽光反射材である太陽光反射シート50の断面図である。太陽光反射シート50は、平面状に配置された多数の透明な球体(球状レンズ)51と、それらを連結する連結部52と、各球体51に設けられた反射部53を備えている。太陽光反射シート50は、透明な材料を成型することにより、球体51部分と連結部52からなるシート状の基板510を一体的に作成した後、その後面側に反射部53を形成する。図では便宜のため、球体51部分と連結部52の境界を示している。また、連結部52の長さつまり球体51間の距離、連結部52の厚さおよび厚み方向の位置は一例である。球体51の中心同士を結ぶ平面は、前述の平面Hに相当する。
【0079】
連結部52の厚さは、球体51のレンズとして作用する面、および、反射部53の形成可能範囲を著しく減少させることがないよう、強度が許す限り薄いことが望ましいので、例えば、球体51の直径の5〜25%に設定する。後述のように、他の部材に張り付ける場合などで強度上の問題が小さい場合は、これより薄くしてもよい。また、成型の制約から、連結部52の厚み方向の位置は、前面側の表面が平面Hより前面側で、かつ、後面側の表面が平面Hより後面側になるようにする。両側均等にすれば、表裏の区別が不要となる。
【0080】
太陽光反射シート50は、以下の手順で作成する。
(1)設置面の緯度、向き、傾斜角を設定する。
(2)(1)の条件に適した球体51の材料、直径、配置パターン、間隔、個数、連結部52の厚さ、太陽光反射シート50のサイズを設定し、成型用の型を作成する。配置パターンと間隔については、図13〜図19で説明したメリット、デメリットを考慮して決定する。
(3)基板510を成型する。
(4)(2)の条件から、球体51一個についての反射部53の位置・形状を設定する。これについては、図8〜図12等を用いて説明したように設定する。ただし、反射部53は、連結部52にかかる部分には物理的に形成不可能であるから、球体51の後面側の球面部分のみに設けることとなる。したがって、反射部53は、必然的に平面Hより外側(光源側)が除去された形状となる。
(5)太陽光反射シート50全体に亘る反射部53形成用のパターン(反射部53の形状を全ての球体51の位置に配列したもの)を作成する。
(6)成型した基板510の後面側に、(5)で作成したバターンに基づいて、太陽光反射シート50全体の反射部53を形成する。
【0081】
次に、上記手順(5)および(6)に関する反射部53の形成方法について述べる。
反射部53は、印刷法を用いて形成する。印刷法としては、(ア)必要な部分のみに印刷する方法(アディティブ法)、または(イ)全面に印刷後、不要な部分を除去する方法(サブトラクティブ法)を用いる。
【0082】
(ア)の具体例としては、以下が挙げられる。
(ア−1)インクジェットプリンタを用いて、反射性インクを基板510の球体51に直接印刷する。この場合、インクは基板510に対して垂直に飛んで球体51に付着するので、プリンタに供給すべき印刷パターンデータは、反射部53を平面Hに投影したパターンとなるデータとする。
(ア−2)反射性インクをパッドに印刷し、それを基板510の球体51に押し付けて転写する。いわゆるパッド印刷である。反射性インクをパッドに印刷する際は、スクリーンなどの印刷版を用いてもよいし、インクジェットプリンタで印刷してもよい。いずれの場合も、球体51への転写はパッドの変形を利用した曲面印刷となるので、反射部53としてパッドに印刷するパターンは、パッドの変形を考慮した形状とする。
【0083】
(ア−3)基板510後面の反射部53を形成しない部分にレジストを形成した後、基板510の後面側全面に、アルミや銀などの金属膜を、真空蒸着やスパッタリングによって成膜する。その後、溶剤などで、レジストおよびレジスト上に成膜された金属膜を除去する。
なお、(ア−1)、(ア−2)に使用する反射性インクは、金属光沢が得られ、球体51の内側から見た印刷面ができるだけ鏡面になるものが望ましい。
【0084】
(イ)の具体例としては、以下が挙げられる。
(イ−1)基板510後面側全面に、アルミや銀などの金属膜を真空蒸着やスパッタリングによって成膜した後、反射部53として残す部分にレジストを形成する。次いで、エッチングにより不要な部分の金属膜を除去した後、レジストを除去する。
【0085】
なお、(ア−3)、(イ−1)における金属膜は、無電解めっきによって形成してもよく、銀鏡反応による銀めっきや、無電解ニッケルめっきなどが適用できる。また、レジストは、フォトレジストによって形成してもよいし、インクジェットプリンタやパッド印刷によって形成してもよい。
基板510の材料としては、ガラス、アクリル樹脂、ポリカーボネートなどが使用できるが、太陽光反射シート50のサイズに応じ、必要とする強度の面から選択する。
なお、図示しないが、前述したように、適所に設置面の緯度、向き、傾斜角、太陽光反射シート50の上下または方位を示す指標を設ける。
【0086】
図27(B)は、上述の太陽光反射シート50を建材54に適用した太陽光反射パネル520の断面図である。建材54は、建造物に張り付けるタイルや板材などのパネル状のものであり、これに太陽光反射シート50を接着剤55で張り付けて作成する。
建材54が、壁面や床などに用いるもともと太陽光を透過しなくてよい材質の場合は、接着剤55は透明でなくてよい。本発明の目的からは、建材54の表面は太陽光を吸収しやすい色や材質であるほうが好ましいが、そうでない場合は、接着剤55をそのような色や材質のものとすればよい。一方、建材54が、窓、サンルーフ、温室などに用いる採光を目的とする材質の場合は、接着剤55は透明なものとする。
なお、太陽光反射シート50は、多数の球体51のために景色が見えにくいものとなるが、天窓、明り窓、半透明の目隠し板、すりガラスなど、景色が見えなくてよいものに適用する場合には支障とならない。
【0087】
図28(A)は、太陽光反射パネル520を建造物56に接着剤57で張り付けたものであり、 同図(B)は、太陽光反射シート50を建造物56に直接張り付けたものである。いずれの場合も、接着剤57、58の材質は、上述のように、建造物56の設置面の材質および使用目的に応じて選定する。設置面としては、塀、屋根、屋上、ベランダ、庇など、太陽光の当たるあらゆる場所に適用できる。
【0088】
図28(C)は、太陽光反射シート50を二重ガラスに適用した例である。太陽光反射シート50は、室内側ガラス61と室外側ガラス62との間の空気層63に挿入されている。なお、室内側ガラスの前面側と太陽光反射シート50の後面側を、図24の接着剤36aで示したように、接着剤で接着してもよい。
【0089】
なお、太陽光反射シート50や太陽光反射パネル520の表面に、反射防止膜を設けてもよい。これにより、球体51に取り込まれる太陽光を増加させることができるので、再帰反射および透過する太陽光を増加させることができ、本発明の効果を高めることができる。
また、太陽光反射シート50や太陽光反射パネル520の前面側に光触媒膜を設け、自浄機能を付加してもよい。これにより、塵埃などの付着による再帰反射および透過する太陽光の減少を軽減することができ、本発明の効果を維持することができる。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明の太陽光反射材は建造物の太陽光が当たる各所に設置することができる。また、本発明の太陽光反射材は、既存の建造物の屋根、壁面、床面、窓などに、付加的に設置するための太陽光反射シート50の形態で提供することができる。また、建造物のこれらの各所に新規に使用する建材として、太陽光反射シート50を予め張り付けた太陽光反射パネル520の形態で提供することができる。
【符号の説明】
【0091】
11、31 ガラス球(球状レンズ)
12、32、53 反射部
30、301、302 太陽光反射パネル(太陽光反射材)
50 太陽光反射シート(太陽光反射材)
51、S 球体(球状レンズ)
52 連結部
510 基板
520 太陽光反射パネル(太陽光反射材)
H 平面
R、RA、RB 反射部
SP スポット
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の緯度において所定の方向に設置することにより、太陽が天球上の夏至を中心とする所定期間に対応する位置にある場合は太陽光を再帰反射し、他の期間に対応する位置にある場合は太陽光を透過させることを特徴とする太陽光反射材。
【請求項2】
太陽光を集光する球状レンズを備え、
前記球状レンズには前記所定期間において太陽光が集光する範囲に反射部が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の太陽光反射材。
【請求項3】
多数の前記球状レンズが平面状に配置されていることを特徴とする請求項2に記載の太陽光反射材。
【請求項4】
設置する際の方向を示す指標が設けられていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1つに記載の太陽光反射材。
【請求項5】
前記球状レンズの屈折率が1.47〜1.81であることを特徴とする請求項2から4のいずれか1つに記載の太陽光反射材。
【請求項6】
前記反射部は、設置面の外側に面した半球部分には設けないことを特徴とする請求項2から5のいずれか1つに記載の太陽光反射材。
【請求項7】
前記所定の緯度にある建造物であって、
請求項1から6のいずれか1つに記載の太陽光反射材を前記所定の方向に設置したことを特徴とする建造物。
【請求項1】
所定の緯度において所定の方向に設置することにより、太陽が天球上の夏至を中心とする所定期間に対応する位置にある場合は太陽光を再帰反射し、他の期間に対応する位置にある場合は太陽光を透過させることを特徴とする太陽光反射材。
【請求項2】
太陽光を集光する球状レンズを備え、
前記球状レンズには前記所定期間において太陽光が集光する範囲に反射部が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の太陽光反射材。
【請求項3】
多数の前記球状レンズが平面状に配置されていることを特徴とする請求項2に記載の太陽光反射材。
【請求項4】
設置する際の方向を示す指標が設けられていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1つに記載の太陽光反射材。
【請求項5】
前記球状レンズの屈折率が1.47〜1.81であることを特徴とする請求項2から4のいずれか1つに記載の太陽光反射材。
【請求項6】
前記反射部は、設置面の外側に面した半球部分には設けないことを特徴とする請求項2から5のいずれか1つに記載の太陽光反射材。
【請求項7】
前記所定の緯度にある建造物であって、
請求項1から6のいずれか1つに記載の太陽光反射材を前記所定の方向に設置したことを特徴とする建造物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
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【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【公開番号】特開2011−221105(P2011−221105A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−87379(P2010−87379)
【出願日】平成22年4月5日(2010.4.5)
【出願人】(710001719)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年4月5日(2010.4.5)
【出願人】(710001719)
【Fターム(参考)】
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