太陽光発電システム
【課題】太陽光発電システムの出力変動により生じる電圧変動を,各太陽光発電装置の電力変換器の無効電力制御により,干渉を防止しながら安定に抑制する。
【解決手段】複数の太陽光発電装置11−1iの合成出力電流Iと,各々の電力変換器112の出力電圧V1および出力電流I1と,電力系統との連系点3の電圧を用いて電圧変動を抑制するための電力量Qを演算する電力補償量演算器113を設ける。電力補償量演算器には,電力系統との連系点の電圧を推定する手段を設ける。
【解決手段】複数の太陽光発電装置11−1iの合成出力電流Iと,各々の電力変換器112の出力電圧V1および出力電流I1と,電力系統との連系点3の電圧を用いて電圧変動を抑制するための電力量Qを演算する電力補償量演算器113を設ける。電力補償量演算器には,電力系統との連系点の電圧を推定する手段を設ける。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,複数の太陽光発電装置群からなる太陽光発電システムが連系される電力系統の電力品質に係わり,太陽光発電システムの構成及び制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化の原因と考えられている二酸化炭素排出量の削減が大きな課題になり,二酸化炭素排出量削減の手段の一つとして,風力発電や太陽光発電などの自然エネルギーを利用した分散型電源の導入が盛んになってきている。分散型電源は電力系統に連系されて用いられることが多いが,風速や日射量の変動により発電出力が変動するため,電力系統に大量に連系された場合には電力系統の電圧や周波数に影響を及ぼすことが懸念されている。
【0003】
電力変換器を介して電力系統に連系された風力発電機の電圧変動を抑制する方法として,特許文献1では,電力変換器の発電出力の有効電力Pと無効電力Qの比を表す制御パラメ
ータαを調整し,発電出力の有効電力に応じた無効電力を出力することで発電出力の変動に起因する電圧変動を抑制する方法が開示されている。具体的には,風力発電機と電力系統との連系点の電圧の変動分と発電出力の有効電力の変動分の積を用いて,電圧変動を最小化するための最適な制御パラメータαを探索するという方法である。一般に,この制御パラメータαは連系点からみた電力系統側の合成インピーダンスの抵抗分とリアクタンス分の比R/Xに一致させることで電圧変動を最小化できることが知られている。
【0004】
さらに,非特許文献1では,上記方法において風力発電機の発電出力の有効電力の変動分をその極性に応じて符号化してαを探索する処理方法が開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開2007−124779号公報
【非特許文献1】平成19年電気学会全国大会,No.4−082
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
風力発電は,効率化のために複数の風力発電機からなる風力発電機群,あるいはウィンドファームとして用いられることが多くなっている。一方,最近では太陽光発電についても大規模化の動きがあり,送発電出力が数MW級のいわゆるメガソーラシステムについて検
討がなされている。これらの大規模な太陽光発電システムにおいても,風力発電と同様に,日射量の変化に伴う出力変動およびそれに起因する連系点の電圧変動が発生する。
【0007】
太陽光発電システムを大規模化する場合,太陽電池パネルを定格容量数10kWから数100
kWの複数の電力変換器に接続し,さらにこれら電力変換器の出力を接続して電力系統に連系する構成とするのが一般的である。ここで,大規模システムの場合,太陽電池パネルの設置面積が広くなるため,各電力変換器に接続される太陽電池パネルが受ける日射量変化に時間遅れが生じることが考えられ,結果的に各電力変換器から出力される発電出力の変動成分の位相が異なる可能性がある。電力系統との連系点で発生する電圧変動は太陽光発電システム全体で合成された出力変動に依存するが,上述の位相遅れの影響で太陽光発電システム全体の出力変動と各電力変換器の出力変動の増減の様相が異なる場合,上記の公知技術を適用すると複数の電力変換器において電圧変動を抑制するための制御が干渉する可能性がある(課題1)。
【0008】
また,上記の公知技術を太陽光発電システムに適用する場合は,風力発電と太陽光発電における出力変動の発生形態の違いが問題となる。風力発電の場合は天候に起因する風速変動による生じる出力変動に加えて,タービンブレードが支柱を横切る際に発生する風速変動によっても出力変動が発生するため,比較的周期性の高い出力変動特性となる。これに対し,太陽光発電の場合には発電出力の変動は基本的には日射量の変化にのみ依存するため,天気によっては出力変動が発生しない場合,あるいは微小な出力変動が発生する時間帯が長く続く場合や,雲の流れ等により突発的かつ非周期的に大きな出力変動が発生する場合がある。
【0009】
これらの場合、上記の公知技術のように,電力系統との連系点の電圧の変動分と発電出力の有効電力の変動分の符号(+1あるいは−1)の積を用いて最適な制御パラメータαを探索する方法では,微小な発電出力の変動が符号化されることによって制御パラメータが不要に補正されて最適値から外れてしまう可能性がある(課題2)。
【0010】
また,発電出力に変動が発生しない状態が長時間継続している間に系統構成の変更等により合成インピーダンスが変化すると,制御パラメータαの最適値が変化してしまうことがある。上記の公知技術では発電出力が変動しなければ制御パラメータ値は補正されないため,αが最適値から外れた状態が継続し,再び最適値に収束するまでに時間を要する可能性がある(課題3)。
【0011】
本発明の目的は,以上の問題点に鑑みてなされたもので,太陽光発電システムの出力変動により生じる電圧変動を,他の補償装置を用いず,太陽光発電システムの構成要素の一つである複数の電力変換器の無効電力制御により,干渉を防止しながら安定に抑制することのできる太陽光発電システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成する本発明の太陽光発電システムは、概ね以下の構成を特徴とする。
【0013】
太陽光発電システムを大規模化する際の制御の干渉に関する課題1に対しては,各太陽光発電装置の制御器に,複数の太陽光発電装置の合成出力電流と,各太陽光発電装置の電力変換器の出力電圧および出力電流と,電力系統との連系点の電圧を用いて電圧変動を抑制するための電力量を演算する電力補償量演算器を設けるようにした。
【0014】
制御パラメータの不要補正に関する課題2に対しては,前記の電力補償量演算器に,複数の太陽光発電装置の合成発電出力の有効電力の変動分と連系点電圧の変動分の積にもとづいて算出した前記制御パラメータと,各太陽光発電装置の有効電力を用いて電圧変動を最小化する無効電力指令値を算出する際に,合成発電出力の有効電力の検出値に不感帯を設けた。
【0015】
制御パラメータが最適値から外れた状態が継続するという課題3に対しては,前記の電力補償量演算器に,複数の太陽光発電装置の合成発電出力の有効電力の変動分が閾値以下となる状態が所定時間以上継続した場合に有効電力の変動指令を電力変換器の電力制御器に伝送し,複数の太陽光発電装置の合成発電出力の有効電力の変動分と連系点電圧の変動分の積にもとづいて算出した制御パラメータの変化量が閾値以下となった場合に変動指令を停止する手段を設けた。
【発明の効果】
【0016】
本発明の太陽光発電システムによれば,合成出力電流の検出値を用いて算出した発電出力の有効電力の変動成分と,電力変換器の出力電圧の検出値から推定した連系点電圧を用いて算出した電圧の変動成分から,電圧変動を抑制するための電力補償量を演算するため,各電力変換器の発電出力に位相差がある場合でも干渉を発生させることなく,安定に電圧変動を抑制するための電力補償量を演算できる。よって,複数の電力変換器で構成された大規模な太陽光発電システムにおいて発電出力の変動により生じる電圧変動を抑制することが可能となる。
【0017】
さらに,発電出力に変動がないか,あるいは微小な変動が発生する時間帯が続く場合においても,発電出力の有効電力の検出値に応じて電力変換器で能動的に微小な変動を発生させることで,発電出力の有効電力Pと無効電力Qの比を表す制御パラメータαが電圧変動
を抑制するための最適値から不要に補正されたり,最適値への収束に時間を要したりする問題を克服することが可能となり,太陽光発電システムに好適な電圧変動抑制制御が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
電力系統に接続される複数の電力変換器と太陽電池パネルからなる太陽光発電システムにおいて,発電出力の変動に起因する電圧変動を適切かつ安定に抑制するという目的を,特別な調整装置の設置を行うことなく実現した。
【0019】
本発明の太陽光発電システムは、太陽電池パネルの出力を制御する電力変換器及びその制御器で構成され,電力変換器の発電出力の有効電力Pと無効電力Qの比を表す制御パラメータαを調整して電圧変動を抑制する機能を有する複数の太陽光発電装置を,電力系統に連系してなる。前記制御器には,太陽光発電システムの合成出力電流と,太陽光発電システムと電力系統の連系点の電圧と,前記電力変換器の出力電圧および出力電流を用いて電圧変動を抑制するための電力量を演算する電力補償量演算器を設ける。前記電力補償量演算器には,太陽光発電システムの合成出力電流の検出値Iと前記電力変換器の出力電圧の検出値Viを用いて電力系統との連系点電圧Vsを推定する手段を設ける。
【0020】
前記電力補償量演算器で,太陽光発電システムの合成発電出力の有効電力Pの変動分と連系点電圧Vsの変動分の積にもとづいて算出した制御パラメータと,前記太陽光発電装置から出力される有効電力Piを用いて電圧変動を最小化する無効電力指令値Qiを算出する際に,前記合成発電出力の有効電力Pの変動分の検出に不感帯を設ける。また、前記電力補償量演算器に,前記合成発電出力の有効電力Pの変動分が閾値以下となる状態が所定時間以上継続した場合に,有効電力Pの変動分に基づく当該太陽光発電装置の変動指令ΔPiを前記電力変換器に伝送し,前記有効電力Pの変動分と連系点電圧Vsの変動分の積にもとづいて算出した制御パラメータαの変化量が閾値以下となった場合に変動指令ΔPiを停止する手段を設ける。
【0021】
以下,本発明の複数の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【実施例1】
【0022】
図1は,本発明の一実施形態による太陽光発電システムの概略構成図である。複数の太陽光発電装置11〜1iが,構内配線5および連系用変圧器4を介して電力系統の連系点3に接続されており,さらに連系線2を介して主幹系統1に連系されている。連系用変圧器4の低圧側には太陽光発電装置11〜1iの出力電流の合成値を検出するための電流検出器6が設置されている。
【0023】
太陽光発電装置11は,主として太陽電池パネル111,電力変換器112,制御器110,電圧検出器115,電流検出器116で構成されている。制御器110は同図(b)に示すように電力補償量演算器113,電力制御器114とで構成されている。電力補償量演算器113では電圧検出器115および電流検出器116から得られた出力端の電圧検出値V1および電流検出値I1と,電流検出器6から得られた合成電流検出値Iを用いて,電圧変動を抑制するための電力補償量Q1*,ΔP1*を演算し,電力制御器114に指令する。電力制御器114では,これらの電力補償量指令Q1*,ΔP1*と,出力端の電圧検出値V1および電流検出器I1を用いて,電力変換器112を制御するゲートパルス信号G1を出力する。
【0024】
図2は,実施例1の電力補償量演算器における具体的な制御ブロック図である。以下に処理の流れを説明する。電力補償量演算器113は,電圧電流電力演算器1131において,電力変換器112の出力端の電圧検出値V1および電流検出値I1と,合成電流検出値Iを用いて,太陽光発電装置11の発電出力の有効電力P1,太陽光発電装置11〜1iの合計発電出力の有効電力Pと,出力端の電圧および電流のdq軸成分を演算して出力する。電圧推定演算器1132では出力端の電圧および電流のdq軸成分を用いて連系点3の電圧の振幅Vsを算出する。変動検出器1133,1134は電圧推定演算器1132で求められた電圧振幅値Vs,合成発電出力の有効電力Pを入力し,それぞれ電圧振幅の変動成分ΔVs,有効電力Pの変動成分ΔPを抽出する。
【0025】
変動検出器1133,1134としては,太陽光発電装置の出力変動の主要な周波数成分を抽出できるように時定数を調整したフィルタを適用する。変動検出器1134を構成するフィルタとしては,例えば,周期が数秒以下程度の高周波のノイズ成分(日射量変化に依存しない変動成分)をカットするためのローパスフィルタと,周期が数十秒程度以下の低周波の出力変動成分をカットするためのハイパスフィルタを組み合わせることで構成することができる。電圧に対する変動検出器1133は有効電力の変動と同じ周波数成分を抽出するため変動検出器1134と同じ特性になるようにフィルタの時定数を設定する必要がある。
【0026】
抽出された有効電力の変動成分ΔPは不感帯付符号器1135に入力され,ΔPの変動の増減方向を表す符号信号に変換されたのち,電圧変動成分ΔVsと積演算を行い,これを積分器1136で積分して制御パラメータαを得る。ここで,αは電力変換器112から出力する有効電力Pと無効電力Qの比を表すパラメータであり,上記の処理により,αの
値を電圧変動を最小化するための最適値,すなわち連系点からみた電力系統側の合成インピーダンスの抵抗分とリアクタンス分の比R/Xに収束させることができる。
【0027】
制御パラメータαと,電圧電流電力演算器1131で算出された太陽光発電装置11の発電出力の有効電力P1を無効電力補償量演算器1137に入力し,両者の積α・P1として電力制御器114に指令する無効電力補償量Q1*を得る。また,有効電力変動発生器1138では,有効電力の変動成分ΔPと制御パラメータαを用いて有効電力の変動量ΔP1*を算出し,電力制御器114に指令する。電力制御器114では,無効電力指令Q1*,有効電力変動指令ΔP1*,電圧検出器115で検出した電圧V1,電流検出器116で検出した電流I1を用いて,ゲートパルス信号G1を生成し電力変換器112によりその出力電力を制御する。
【0028】
次に,電圧電流電力演算器1131での具体的な演算方法について説明する。電力変換器112の出力端の有効電力P1及び太陽光発電装置11〜1iの合成発電出力の有効電力Pは,例えば,太陽光発電装置11においては,式(1)及び式(2)を用いて求められる。
P1=I1d×V1d+I1q×V1q …(1)
P=Id×V1d+Iq×V1q …(2)
ここで,I1dおよび及びI1qは,電流検出器116で検出した3相の電流検出値I1を回転座標変換等で座標変換したd軸成分及びq軸成分である。同様に,V1d及びV1qは,電圧検出器115で検出した3相の電圧検出値V1を回転座標変換等で変換したd軸成分及びq軸成分である。また,Id,Iqは電流検出器6で検出した3相の合成電流検出値Iを回転座標変換等で座標変換したd軸成分及びq軸成分である。
【0029】
電圧電流電力演算器1131の中には,位相検出器(図示せず)があり,この位相検出器は,系統電圧のU相に追従する位相信号cos(ωt),sin(ωt)を検出する。
位相信号cos(ωt)が系統のU相に一致している場合,Id,Iq,Vd,Vqは式(3),式(4)にて計算される。
【0030】
【数1】
【0031】
【数2】
【0032】
ここで,Iu,Iv,Iwは電流検出器116により検出した3相の電流のU相,V相,W相成分である。また,Vu,Vv,Vwは,電圧検出器115により検出した3相電圧のU相,V相,W相成分である。
【0033】
次に,連系点電圧の振幅Vsの推定方法について説明する。連系点電圧Vsと各太陽光発電装置の接続点の電圧V1〜Viは構内配線や連系用変圧器のインピーダンスの影響で異なるのが一般的である。太陽光発電装置11〜1iの出力変動により生じる電圧変動を抑制すべき位置は系統連系点3であり,この位置の電圧値を用いて制御を行う必要がある。連系点3の電圧を直接検出して変動抑制制御を行う方法も考えられるが,検出器等の付帯設備の追加が必要になる。また,連系点3と太陽光発電装置11〜1iの設置距離が長くなると,検出値を伝送するための通信設備が必要になることも考えられ,この場合,通信設備で要する処理時間によって電圧変動抑制制御の制御応答性が低下することも懸念される。ここでは、以下に示すように連系端電圧を推定する。
【0034】
図3は連系端電圧推定演算器の構成図を示す。太陽光発電装置11〜1iの出力端電圧の検出値V1〜Vi,および合成出力電流の検出値I,構内配線5および連系用変圧器4のインピーダンス値を用いて連系点3の電圧振幅Vsを推定する。連系点3の電圧ベクトルVsは,太陽光発電装置11〜1iの接続点の電圧ベクトルVpcs,合成出力電流ベクトルI,および構内設備のインピーダンスZcを用いて式(5)で表される。
Vs=Vpcs−Zc×I …(5)
ここで,太陽光発電装置11〜1iの電力変換器112〜1i2は互いに近接して設置されるため,これらの接続点の電圧ベクトルVpcsは各電力変換器の出力端電圧V1〜Viに等しい。よって,式(3)においてVpcs=V1とおくと,太陽光発電装置11における連系点電圧Vsの推定式として式(6)を得る。
Vs =V1−Zc×I …(6)
式(4)を展開すると,連系点電圧ベクトルVsのd軸成分,q軸成分,および振幅値Vsは式(7)〜式(9)により求められる。
Vsd=V1d−Rc×Id+Xc×Iq …(7)
Vsq=V1q−Rc×Iq−Xc×Id …(8)
Vs=√(Vsd2+Vsq2) …(9)
変動検出器1133,1134から積分器1136までの処理により,制御パラメータαを算出する方法の基本的な考え方は,公知技術として記載した特許文献1の内容と同様である。但し,発電出力の有効電力として,電力変換器112の有効電力出力P1ではなく,太陽光発電装置11〜1iの合成出力の有効電力Pを用いている点が異なっている。
ここで,合成出力の有効電力Pを用いた理由は次の通りである。
【0035】
大規模なシステムの場合,太陽電池パネルの設置面積が広くなるため,各電力変換器に接続される太陽電池パネルが受ける日射量変化に時間遅れが生じることが考えられ,電力変換器によって発電出力の変動成分の位相が異なる可能性がある。連系点3で発生する電圧変動は太陽光発電システム全体の出力変動に依存するが,システム全体の出力変動と各電力変換器の出力変動の位相が異なる場合,各電力変換器の制御器でそれぞれ自身の有効電力を用いて無効電力補償量の指令値Q1*〜Qi*を求めていたのでは,電圧変動を抑制するための制御に干渉が発生し,過補償または補償不足となる可能性がある。
【0036】
また,特許文献1の記載との他の相違点として,符号器1135に不感帯を設けたことが挙げられる。
【0037】
図4は,本発明の実施例1における不感帯付き符号器1135の動作を説明する図である。図2の制御ブロックにおいて,検出された電圧の変動成分ΔVsが小さくても,有効電力の変動成分ΔPが大きければその積(ΔVs・ΔP)は大きな値となり,その積分値である制御パラメータαの値が大きく変化することが考えられる。本来の目的は電圧変動の抑制であり,電圧の変動成分ΔVが小さいときは制御パラメータαの値を補正する必要がない。よって,非特許文献1では,有効電力の変動成分ΔPは増減の方向だけを表すように符号化し,制御パラメータαの補正量を(ΔVs・ΔPSIGN)として電圧の変動成分ΔVsの値で調整するようにしている。
【0038】
風力発電ならばタワーシャドウ効果等により定常的に出力変動が発生しているため、非特許文献1の方法で問題ないが,太陽光発電の場合には,図4(a)の(2)に示すように,日射量の変動の関係で検出される有効電力の変動成分ΔPが微小に変動する状態が継続する可能性がある。この場合,微小な変動成分が図4(a)の(3)のように符号化することによって不要に拡大されてしまい,図4(a)の(4)(5)に示したように,かえって制御パラメータαの値を不要に補正してしまう可能性が懸念される。
【0039】
本実施例の不感帯付き符号器1135では,図4(b)の(2)に示すように有効電力の変動成分ΔPに適切に不感帯を設定しておく。これにより,図4(b)の(3)に示したようにノイズに近い成分はカットされて符号化されずΔPSIGNは零となり,図4(b)の(4)(5)に示したように制御パラメータαに不要な補正動作が発生しない。
【0040】
次に,本発明の実施例1で能動的に有効電力を発生させるための概念について説明する。図5は能動的に有効電力を発生させるときの概念図である。太陽光発電の場合,図5(a)のように晴天の時などに長時間にわたって発電出力の有効電力Pが変動しない場合が考えられる。この間,太陽光発電システムが連系している電力系統で供給ルート変更等(3)が実施され,連系点3からみた系統側の合成インピーダンスが変化したとする。すると,出力変動が発生していないため制御パラメータαは電圧変動を最小化するための最適値(点線)から外れることになる。太陽光発電システムに出力変動が生じない限りは,制御パラメータαが最適値から外れていても出力変動に起因する電圧変動は発生しない。しかし,図5(b)に示したように日射量が変化して発電出力に大きな変動が発生すると(1),大きな電圧変動(2)が発生する可能性がある。この場合も発生した電圧変動と出力変動の関係から制御パラメータαは徐々に最適値に近づくように補正されるが,その間,大きな電圧変動の発生が継続する点が懸念される。
【0041】
そこで本実施例では,この問題を解消するために、図5(b)のように太陽光発電装置の各電力変換器から能動的に有効電力出力Pに微少な変動を発生させ(1),電力系統の条件変化に常に追従しながら制御パラメータαを最適値に保つ(3)ように,図2の制御ブロックに有効電力変動発生器1138を設けた。これによって,図5(b)に示したように,日射量が変化して発電出力に大きな変動が発生しても,αが最適値に保たれているため大きな電圧変動が発生することはない。
【0042】
図6は,実施例1において能動的に有効電力の変動を発生させる場合の処理フローである。本処理内容は全ての太陽光発電装置11〜1iの電力補償量演算器113〜1i3で共通であるが,以下に電力補償量演算器113の場合を例に説明する。
【0043】
まず,処理S1では太陽光発電装置11〜1iの合成出力の変動成分ΔPを用いて,能動的な変動指令を発生させるか否かの判定を行う。例えば,有効電力の変動成分ΔPが予め定めたしきい値以下となる状態が連続して所定時間以上継続した場合に発生させると判定し,次の処理へ進む。
【0044】
次に処理S2では発生させる有効電力の変動指令ΔP1*を演算し,図1の各電力変換器の電力制御器114に指令する。電力制御器114では,無効電力補償量の指令値Q1*に加えて,有効電力の変動指令ΔP1*にもとづき電力変換器112の出力を制御するための制御信号であるゲートパルス信号G1を生成する。変動指令ΔP1*は例えば式(10)を用いて算出する。
ΔP1*=Po・Sin(2πfo・t) …(10)
ここで、Po,foは発生させる有効電力変動成分の振幅及び周波数である。変動周波数foは有効電力の変動検出器1134で検出される周波数帯に設定する必要がある。また,振幅Poは図4(b)に示した有効電力の変動分の不感帯よりも大きく設定する必要があり,例えば,系統に出力変動の影響を与えないように定格出力の数%程度に設定する。
【0045】
処理S3では,発生させた変動指令ΔP1*の出力停止の判定を行う。ここでは,図2の無効電力補償演算器1137に入力される制御パラメータαの所定時間における変化量がしきい値以下となった場合に,αが収束したと判定して処理S4で変動指令ΔP1*を停止し,処理S1へ戻る。
【0046】
以上のように処理することで,太陽光発電装置11〜1iの発電出力が変動していない場合においても,系統条件の変更に追従して常に制御パラメータαを電圧変動量が最小となる最適値に保つことができるため,電圧変動の発生を防止することができる。
【実施例2】
【0047】
次に本発明の実施例2を説明する。図7は,実施例2による太陽光発電システムの構成図で、連系点の電圧を直接,計測する手段を有する点が図1と異なる。図7では,連系点3の電圧を検出する電圧検出器7を設置し,その検出値Vsを制御器110に入力するようにした点であり,1台の太陽光発電装置で構成される場合にも好適な形態である。他の構成要素については図1と同様である。電圧検出器7で検出した検出値は制御器111を構成する電力補償量演算器113に入力される。
【0048】
図8は,実施例2による電力補償演算器の制御ブロック図である。本実施例では,電圧検出器7で連系点3の電圧Vsを検出するため,図2の電圧推定演算器1132を省略した。その他の処理は図2と同様である。
【実施例3】
【0049】
次に本発明の実施例3を説明する。図9は,電力補償量演算器を各太陽光発電装置1iに共通の専用制御器とした,太陽光発電システムの概略構成図である。図1に示した実施例1との相違点は,系統連系点の電圧を検出する電圧検出器7,電圧振幅演算器8a,電力演算器8bを追加した点と,電圧変動を抑制するための電力補償量制御器9を太陽光発電装置の制御器110〜1i0から独立させて共通化させた点である。
【0050】
電圧検出器7の出力を用いて電圧振幅演算器8aで算出された連係点電圧の振幅Vsと,電圧検出器7および電流検出器6で検出された電圧,電流を用いて電力演算器8bで算出された太陽光発電装置11〜1iの合成発電出力の有効電力検出値Pを電力補償量制御器9に入力する。電力補償量制御器9では,電圧振幅Vsと有効電力Pを用いて電圧変動を抑制するための制御指令を演算し,電力変換器112〜1i2の電力制御器114〜1i4に指令するようにした。
【0051】
図10は,実施例3による電力補償量演算器を専用制御器とした場合の制御ブロック図である。以下に処理の流れを説明する。まず,電圧振幅値Vs,合成発電出力の有効電力Pが変動検出器91,92にそれぞれ入力され,電圧振幅値Vs,合成発電出力の有効電力Pの変動成分ΔVs,ΔPをそれぞれ抽出する。
【0052】
変動検出器としては,図2で説明したと同様に変動を抑制する対象の周波数成分を抽出できるように時定数を調整したフィルタを適用する。変動検出器92では,電圧Vsから有効電力Pの変動と同じ変動成分を抽出する必要があるため,変動検出器91と同じ特性になるように時定数を設定する。
【0053】
抽出された有効電力の変動成分ΔPは不感帯付符号器93に入力されΔPの変動の増減方向を表す信号ΔPSIGNに変換されたのち,電圧変動成分ΔVsと積演算を行う。この(ΔVs・ΔPSIGN)を積分器94で積分し,制御パラメータαを求め,これを太陽光発電装置11〜1iの電力制御器114〜1i4に同時に伝送する。
【0054】
電力制御器114〜1i4では,伝送された制御パラメータαと,自身の発電出力の有効電力P1(〜Pi)との積により,それぞれで無効電力の補償量Qi*を算出する。ここで,実施例1のように電力制御器114〜1i4に無効電力指令Qi*を伝送するのではなく制御パラメータαを伝送するようにした理由は次の通りである。
【0055】
すなわち,制御パラメータαと有効電力Pi の積として定義される無効電力補償量Qiは,所定の電圧変動抑制効果を得るためには時々刻々と変化する有効電力Piに同期して出力される必要がある。しかし,電力補償量演算器9から無効電力指令Qi*を伝送していたのでは通信遅れの影響で有効電力Piに同期した無効電力補償量Qiを出力できなくなり十分な電圧変動抑制効果が得られない恐れがある。そこで,実施例3では制御パラメータαを伝送するようにした。
【0056】
さらに,有効電力変動判定器95では,有効電力の変動成分ΔPと制御パラメータαを用いて有効電力の微小な変動分を発生あるいは停止させるタイミングを判定し,太陽光発電装置11〜1iの電力制御器114〜1i4に発生,停止させるためのトリガ信号Trigを生成し指令する。
【0057】
例えば,トリガ信号Trigの値が「1」の時に変動発生を開始,「0」の時に変動発生を停止とする。これを受けて電力制御器114〜1i4では式(10)を用いて有効電力に微小な変動指令ΔP1*を生成し,これにもとづき電力変換器112の出力を制御するための制御信号であるゲートパルス信号G1を生成する。ここで,実施例1のように電力制御器114〜1i4に変動指令ΔPi*を伝送するのではなく変動発生を開始/停止させるトリガ信号Trigを伝送するようにした理由は,上述のように通信遅れの影響を受けないようにするためである。
【0058】
図11は,実施例3により電力補償量演算器を専用制御器とした場合に,能動的に有効電力を発生させるための処理フローである。
【0059】
まず,処理S1では太陽光発電装置11〜1iの合成発電出力Pの変動成分ΔPを用いて,能動的な変動成分を発生させるか否かの判定を行う。例えば,ΔPが予め定めたしきい値以下の状態が連続して所定時間以上継続した場合に変動を発生させると判定し次の処理へ進む。
【0060】
次に,処理S2では図9に示した電力制御器114〜1i4に変動発生開始のトリガ信号(Trig=1)を伝送する。電力制御器114〜1i4では式10を用いて変動を発生させる。処理S3では,発生させた変動信号の停止判定を行う。ここでは,図10で説明した制
御パラメータαの所定時間における変化量がしきい値以下となった場合にαが収束したと判定して,処理S4で電力制御器114〜1i4に変動停止のトリガ信号(Trig=0)を伝送し処理S1へ戻る。
【0061】
以上のように処理することで,太陽光発電装置11〜1iの発電出力が変動していない場合においても,系統条件の変更に追従して常に制御パラメータαを電圧変動量が最小となる最適値に保つことができるため,電圧変動の発生を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の実施例1による太陽光発電システムの構成図。
【図2】実施例1における制御器の制御ブロック図。
【図3】実施例1における電圧推定機能の説明図。
【図4】実施例1における不感帯付き符号器の動作を示す説明図。
【図5】実施例1において能動的に有効電力を発生させる概念を示す説明図。
【図6】実施例1における能動的に有効電力を発生させる処理フロー図。
【図7】実施例2による太陽光発電システムの構成図。
【図8】実施例2における制御器の制御ブロック図。
【図9】実施例3による太陽光発電システムの構成図。
【図10】実施例3における電力補償量制御器の制御ブロック図。
【図11】実施例3における電力補償量制御器の処理フロー図。
【符号の説明】
【0063】
1…主幹系統、2…連系線、3…連系点、4…連系用変圧器、5…構内配線、6,116…電流センサ、7,115…電圧センサ、8a…電圧演算器、8b…電力演算器、9,113…電力補償量演算器、11…太陽光発電装置、110…制御器、111…太陽電池パネル、112…電力変換器、114…電力制御器、1131…電圧電流電力演算器、1132…電圧推定演算器、1133,1134,91,92…変動検出器、1135,93…不感帯付符号器、1136,94…積分器、1137…無効電力補償演算器、1138…出力変動発生器、95…出力変動判定器。
【技術分野】
【0001】
本発明は,複数の太陽光発電装置群からなる太陽光発電システムが連系される電力系統の電力品質に係わり,太陽光発電システムの構成及び制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化の原因と考えられている二酸化炭素排出量の削減が大きな課題になり,二酸化炭素排出量削減の手段の一つとして,風力発電や太陽光発電などの自然エネルギーを利用した分散型電源の導入が盛んになってきている。分散型電源は電力系統に連系されて用いられることが多いが,風速や日射量の変動により発電出力が変動するため,電力系統に大量に連系された場合には電力系統の電圧や周波数に影響を及ぼすことが懸念されている。
【0003】
電力変換器を介して電力系統に連系された風力発電機の電圧変動を抑制する方法として,特許文献1では,電力変換器の発電出力の有効電力Pと無効電力Qの比を表す制御パラメ
ータαを調整し,発電出力の有効電力に応じた無効電力を出力することで発電出力の変動に起因する電圧変動を抑制する方法が開示されている。具体的には,風力発電機と電力系統との連系点の電圧の変動分と発電出力の有効電力の変動分の積を用いて,電圧変動を最小化するための最適な制御パラメータαを探索するという方法である。一般に,この制御パラメータαは連系点からみた電力系統側の合成インピーダンスの抵抗分とリアクタンス分の比R/Xに一致させることで電圧変動を最小化できることが知られている。
【0004】
さらに,非特許文献1では,上記方法において風力発電機の発電出力の有効電力の変動分をその極性に応じて符号化してαを探索する処理方法が開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開2007−124779号公報
【非特許文献1】平成19年電気学会全国大会,No.4−082
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
風力発電は,効率化のために複数の風力発電機からなる風力発電機群,あるいはウィンドファームとして用いられることが多くなっている。一方,最近では太陽光発電についても大規模化の動きがあり,送発電出力が数MW級のいわゆるメガソーラシステムについて検
討がなされている。これらの大規模な太陽光発電システムにおいても,風力発電と同様に,日射量の変化に伴う出力変動およびそれに起因する連系点の電圧変動が発生する。
【0007】
太陽光発電システムを大規模化する場合,太陽電池パネルを定格容量数10kWから数100
kWの複数の電力変換器に接続し,さらにこれら電力変換器の出力を接続して電力系統に連系する構成とするのが一般的である。ここで,大規模システムの場合,太陽電池パネルの設置面積が広くなるため,各電力変換器に接続される太陽電池パネルが受ける日射量変化に時間遅れが生じることが考えられ,結果的に各電力変換器から出力される発電出力の変動成分の位相が異なる可能性がある。電力系統との連系点で発生する電圧変動は太陽光発電システム全体で合成された出力変動に依存するが,上述の位相遅れの影響で太陽光発電システム全体の出力変動と各電力変換器の出力変動の増減の様相が異なる場合,上記の公知技術を適用すると複数の電力変換器において電圧変動を抑制するための制御が干渉する可能性がある(課題1)。
【0008】
また,上記の公知技術を太陽光発電システムに適用する場合は,風力発電と太陽光発電における出力変動の発生形態の違いが問題となる。風力発電の場合は天候に起因する風速変動による生じる出力変動に加えて,タービンブレードが支柱を横切る際に発生する風速変動によっても出力変動が発生するため,比較的周期性の高い出力変動特性となる。これに対し,太陽光発電の場合には発電出力の変動は基本的には日射量の変化にのみ依存するため,天気によっては出力変動が発生しない場合,あるいは微小な出力変動が発生する時間帯が長く続く場合や,雲の流れ等により突発的かつ非周期的に大きな出力変動が発生する場合がある。
【0009】
これらの場合、上記の公知技術のように,電力系統との連系点の電圧の変動分と発電出力の有効電力の変動分の符号(+1あるいは−1)の積を用いて最適な制御パラメータαを探索する方法では,微小な発電出力の変動が符号化されることによって制御パラメータが不要に補正されて最適値から外れてしまう可能性がある(課題2)。
【0010】
また,発電出力に変動が発生しない状態が長時間継続している間に系統構成の変更等により合成インピーダンスが変化すると,制御パラメータαの最適値が変化してしまうことがある。上記の公知技術では発電出力が変動しなければ制御パラメータ値は補正されないため,αが最適値から外れた状態が継続し,再び最適値に収束するまでに時間を要する可能性がある(課題3)。
【0011】
本発明の目的は,以上の問題点に鑑みてなされたもので,太陽光発電システムの出力変動により生じる電圧変動を,他の補償装置を用いず,太陽光発電システムの構成要素の一つである複数の電力変換器の無効電力制御により,干渉を防止しながら安定に抑制することのできる太陽光発電システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成する本発明の太陽光発電システムは、概ね以下の構成を特徴とする。
【0013】
太陽光発電システムを大規模化する際の制御の干渉に関する課題1に対しては,各太陽光発電装置の制御器に,複数の太陽光発電装置の合成出力電流と,各太陽光発電装置の電力変換器の出力電圧および出力電流と,電力系統との連系点の電圧を用いて電圧変動を抑制するための電力量を演算する電力補償量演算器を設けるようにした。
【0014】
制御パラメータの不要補正に関する課題2に対しては,前記の電力補償量演算器に,複数の太陽光発電装置の合成発電出力の有効電力の変動分と連系点電圧の変動分の積にもとづいて算出した前記制御パラメータと,各太陽光発電装置の有効電力を用いて電圧変動を最小化する無効電力指令値を算出する際に,合成発電出力の有効電力の検出値に不感帯を設けた。
【0015】
制御パラメータが最適値から外れた状態が継続するという課題3に対しては,前記の電力補償量演算器に,複数の太陽光発電装置の合成発電出力の有効電力の変動分が閾値以下となる状態が所定時間以上継続した場合に有効電力の変動指令を電力変換器の電力制御器に伝送し,複数の太陽光発電装置の合成発電出力の有効電力の変動分と連系点電圧の変動分の積にもとづいて算出した制御パラメータの変化量が閾値以下となった場合に変動指令を停止する手段を設けた。
【発明の効果】
【0016】
本発明の太陽光発電システムによれば,合成出力電流の検出値を用いて算出した発電出力の有効電力の変動成分と,電力変換器の出力電圧の検出値から推定した連系点電圧を用いて算出した電圧の変動成分から,電圧変動を抑制するための電力補償量を演算するため,各電力変換器の発電出力に位相差がある場合でも干渉を発生させることなく,安定に電圧変動を抑制するための電力補償量を演算できる。よって,複数の電力変換器で構成された大規模な太陽光発電システムにおいて発電出力の変動により生じる電圧変動を抑制することが可能となる。
【0017】
さらに,発電出力に変動がないか,あるいは微小な変動が発生する時間帯が続く場合においても,発電出力の有効電力の検出値に応じて電力変換器で能動的に微小な変動を発生させることで,発電出力の有効電力Pと無効電力Qの比を表す制御パラメータαが電圧変動
を抑制するための最適値から不要に補正されたり,最適値への収束に時間を要したりする問題を克服することが可能となり,太陽光発電システムに好適な電圧変動抑制制御が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
電力系統に接続される複数の電力変換器と太陽電池パネルからなる太陽光発電システムにおいて,発電出力の変動に起因する電圧変動を適切かつ安定に抑制するという目的を,特別な調整装置の設置を行うことなく実現した。
【0019】
本発明の太陽光発電システムは、太陽電池パネルの出力を制御する電力変換器及びその制御器で構成され,電力変換器の発電出力の有効電力Pと無効電力Qの比を表す制御パラメータαを調整して電圧変動を抑制する機能を有する複数の太陽光発電装置を,電力系統に連系してなる。前記制御器には,太陽光発電システムの合成出力電流と,太陽光発電システムと電力系統の連系点の電圧と,前記電力変換器の出力電圧および出力電流を用いて電圧変動を抑制するための電力量を演算する電力補償量演算器を設ける。前記電力補償量演算器には,太陽光発電システムの合成出力電流の検出値Iと前記電力変換器の出力電圧の検出値Viを用いて電力系統との連系点電圧Vsを推定する手段を設ける。
【0020】
前記電力補償量演算器で,太陽光発電システムの合成発電出力の有効電力Pの変動分と連系点電圧Vsの変動分の積にもとづいて算出した制御パラメータと,前記太陽光発電装置から出力される有効電力Piを用いて電圧変動を最小化する無効電力指令値Qiを算出する際に,前記合成発電出力の有効電力Pの変動分の検出に不感帯を設ける。また、前記電力補償量演算器に,前記合成発電出力の有効電力Pの変動分が閾値以下となる状態が所定時間以上継続した場合に,有効電力Pの変動分に基づく当該太陽光発電装置の変動指令ΔPiを前記電力変換器に伝送し,前記有効電力Pの変動分と連系点電圧Vsの変動分の積にもとづいて算出した制御パラメータαの変化量が閾値以下となった場合に変動指令ΔPiを停止する手段を設ける。
【0021】
以下,本発明の複数の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【実施例1】
【0022】
図1は,本発明の一実施形態による太陽光発電システムの概略構成図である。複数の太陽光発電装置11〜1iが,構内配線5および連系用変圧器4を介して電力系統の連系点3に接続されており,さらに連系線2を介して主幹系統1に連系されている。連系用変圧器4の低圧側には太陽光発電装置11〜1iの出力電流の合成値を検出するための電流検出器6が設置されている。
【0023】
太陽光発電装置11は,主として太陽電池パネル111,電力変換器112,制御器110,電圧検出器115,電流検出器116で構成されている。制御器110は同図(b)に示すように電力補償量演算器113,電力制御器114とで構成されている。電力補償量演算器113では電圧検出器115および電流検出器116から得られた出力端の電圧検出値V1および電流検出値I1と,電流検出器6から得られた合成電流検出値Iを用いて,電圧変動を抑制するための電力補償量Q1*,ΔP1*を演算し,電力制御器114に指令する。電力制御器114では,これらの電力補償量指令Q1*,ΔP1*と,出力端の電圧検出値V1および電流検出器I1を用いて,電力変換器112を制御するゲートパルス信号G1を出力する。
【0024】
図2は,実施例1の電力補償量演算器における具体的な制御ブロック図である。以下に処理の流れを説明する。電力補償量演算器113は,電圧電流電力演算器1131において,電力変換器112の出力端の電圧検出値V1および電流検出値I1と,合成電流検出値Iを用いて,太陽光発電装置11の発電出力の有効電力P1,太陽光発電装置11〜1iの合計発電出力の有効電力Pと,出力端の電圧および電流のdq軸成分を演算して出力する。電圧推定演算器1132では出力端の電圧および電流のdq軸成分を用いて連系点3の電圧の振幅Vsを算出する。変動検出器1133,1134は電圧推定演算器1132で求められた電圧振幅値Vs,合成発電出力の有効電力Pを入力し,それぞれ電圧振幅の変動成分ΔVs,有効電力Pの変動成分ΔPを抽出する。
【0025】
変動検出器1133,1134としては,太陽光発電装置の出力変動の主要な周波数成分を抽出できるように時定数を調整したフィルタを適用する。変動検出器1134を構成するフィルタとしては,例えば,周期が数秒以下程度の高周波のノイズ成分(日射量変化に依存しない変動成分)をカットするためのローパスフィルタと,周期が数十秒程度以下の低周波の出力変動成分をカットするためのハイパスフィルタを組み合わせることで構成することができる。電圧に対する変動検出器1133は有効電力の変動と同じ周波数成分を抽出するため変動検出器1134と同じ特性になるようにフィルタの時定数を設定する必要がある。
【0026】
抽出された有効電力の変動成分ΔPは不感帯付符号器1135に入力され,ΔPの変動の増減方向を表す符号信号に変換されたのち,電圧変動成分ΔVsと積演算を行い,これを積分器1136で積分して制御パラメータαを得る。ここで,αは電力変換器112から出力する有効電力Pと無効電力Qの比を表すパラメータであり,上記の処理により,αの
値を電圧変動を最小化するための最適値,すなわち連系点からみた電力系統側の合成インピーダンスの抵抗分とリアクタンス分の比R/Xに収束させることができる。
【0027】
制御パラメータαと,電圧電流電力演算器1131で算出された太陽光発電装置11の発電出力の有効電力P1を無効電力補償量演算器1137に入力し,両者の積α・P1として電力制御器114に指令する無効電力補償量Q1*を得る。また,有効電力変動発生器1138では,有効電力の変動成分ΔPと制御パラメータαを用いて有効電力の変動量ΔP1*を算出し,電力制御器114に指令する。電力制御器114では,無効電力指令Q1*,有効電力変動指令ΔP1*,電圧検出器115で検出した電圧V1,電流検出器116で検出した電流I1を用いて,ゲートパルス信号G1を生成し電力変換器112によりその出力電力を制御する。
【0028】
次に,電圧電流電力演算器1131での具体的な演算方法について説明する。電力変換器112の出力端の有効電力P1及び太陽光発電装置11〜1iの合成発電出力の有効電力Pは,例えば,太陽光発電装置11においては,式(1)及び式(2)を用いて求められる。
P1=I1d×V1d+I1q×V1q …(1)
P=Id×V1d+Iq×V1q …(2)
ここで,I1dおよび及びI1qは,電流検出器116で検出した3相の電流検出値I1を回転座標変換等で座標変換したd軸成分及びq軸成分である。同様に,V1d及びV1qは,電圧検出器115で検出した3相の電圧検出値V1を回転座標変換等で変換したd軸成分及びq軸成分である。また,Id,Iqは電流検出器6で検出した3相の合成電流検出値Iを回転座標変換等で座標変換したd軸成分及びq軸成分である。
【0029】
電圧電流電力演算器1131の中には,位相検出器(図示せず)があり,この位相検出器は,系統電圧のU相に追従する位相信号cos(ωt),sin(ωt)を検出する。
位相信号cos(ωt)が系統のU相に一致している場合,Id,Iq,Vd,Vqは式(3),式(4)にて計算される。
【0030】
【数1】
【0031】
【数2】
【0032】
ここで,Iu,Iv,Iwは電流検出器116により検出した3相の電流のU相,V相,W相成分である。また,Vu,Vv,Vwは,電圧検出器115により検出した3相電圧のU相,V相,W相成分である。
【0033】
次に,連系点電圧の振幅Vsの推定方法について説明する。連系点電圧Vsと各太陽光発電装置の接続点の電圧V1〜Viは構内配線や連系用変圧器のインピーダンスの影響で異なるのが一般的である。太陽光発電装置11〜1iの出力変動により生じる電圧変動を抑制すべき位置は系統連系点3であり,この位置の電圧値を用いて制御を行う必要がある。連系点3の電圧を直接検出して変動抑制制御を行う方法も考えられるが,検出器等の付帯設備の追加が必要になる。また,連系点3と太陽光発電装置11〜1iの設置距離が長くなると,検出値を伝送するための通信設備が必要になることも考えられ,この場合,通信設備で要する処理時間によって電圧変動抑制制御の制御応答性が低下することも懸念される。ここでは、以下に示すように連系端電圧を推定する。
【0034】
図3は連系端電圧推定演算器の構成図を示す。太陽光発電装置11〜1iの出力端電圧の検出値V1〜Vi,および合成出力電流の検出値I,構内配線5および連系用変圧器4のインピーダンス値を用いて連系点3の電圧振幅Vsを推定する。連系点3の電圧ベクトルVsは,太陽光発電装置11〜1iの接続点の電圧ベクトルVpcs,合成出力電流ベクトルI,および構内設備のインピーダンスZcを用いて式(5)で表される。
Vs=Vpcs−Zc×I …(5)
ここで,太陽光発電装置11〜1iの電力変換器112〜1i2は互いに近接して設置されるため,これらの接続点の電圧ベクトルVpcsは各電力変換器の出力端電圧V1〜Viに等しい。よって,式(3)においてVpcs=V1とおくと,太陽光発電装置11における連系点電圧Vsの推定式として式(6)を得る。
Vs =V1−Zc×I …(6)
式(4)を展開すると,連系点電圧ベクトルVsのd軸成分,q軸成分,および振幅値Vsは式(7)〜式(9)により求められる。
Vsd=V1d−Rc×Id+Xc×Iq …(7)
Vsq=V1q−Rc×Iq−Xc×Id …(8)
Vs=√(Vsd2+Vsq2) …(9)
変動検出器1133,1134から積分器1136までの処理により,制御パラメータαを算出する方法の基本的な考え方は,公知技術として記載した特許文献1の内容と同様である。但し,発電出力の有効電力として,電力変換器112の有効電力出力P1ではなく,太陽光発電装置11〜1iの合成出力の有効電力Pを用いている点が異なっている。
ここで,合成出力の有効電力Pを用いた理由は次の通りである。
【0035】
大規模なシステムの場合,太陽電池パネルの設置面積が広くなるため,各電力変換器に接続される太陽電池パネルが受ける日射量変化に時間遅れが生じることが考えられ,電力変換器によって発電出力の変動成分の位相が異なる可能性がある。連系点3で発生する電圧変動は太陽光発電システム全体の出力変動に依存するが,システム全体の出力変動と各電力変換器の出力変動の位相が異なる場合,各電力変換器の制御器でそれぞれ自身の有効電力を用いて無効電力補償量の指令値Q1*〜Qi*を求めていたのでは,電圧変動を抑制するための制御に干渉が発生し,過補償または補償不足となる可能性がある。
【0036】
また,特許文献1の記載との他の相違点として,符号器1135に不感帯を設けたことが挙げられる。
【0037】
図4は,本発明の実施例1における不感帯付き符号器1135の動作を説明する図である。図2の制御ブロックにおいて,検出された電圧の変動成分ΔVsが小さくても,有効電力の変動成分ΔPが大きければその積(ΔVs・ΔP)は大きな値となり,その積分値である制御パラメータαの値が大きく変化することが考えられる。本来の目的は電圧変動の抑制であり,電圧の変動成分ΔVが小さいときは制御パラメータαの値を補正する必要がない。よって,非特許文献1では,有効電力の変動成分ΔPは増減の方向だけを表すように符号化し,制御パラメータαの補正量を(ΔVs・ΔPSIGN)として電圧の変動成分ΔVsの値で調整するようにしている。
【0038】
風力発電ならばタワーシャドウ効果等により定常的に出力変動が発生しているため、非特許文献1の方法で問題ないが,太陽光発電の場合には,図4(a)の(2)に示すように,日射量の変動の関係で検出される有効電力の変動成分ΔPが微小に変動する状態が継続する可能性がある。この場合,微小な変動成分が図4(a)の(3)のように符号化することによって不要に拡大されてしまい,図4(a)の(4)(5)に示したように,かえって制御パラメータαの値を不要に補正してしまう可能性が懸念される。
【0039】
本実施例の不感帯付き符号器1135では,図4(b)の(2)に示すように有効電力の変動成分ΔPに適切に不感帯を設定しておく。これにより,図4(b)の(3)に示したようにノイズに近い成分はカットされて符号化されずΔPSIGNは零となり,図4(b)の(4)(5)に示したように制御パラメータαに不要な補正動作が発生しない。
【0040】
次に,本発明の実施例1で能動的に有効電力を発生させるための概念について説明する。図5は能動的に有効電力を発生させるときの概念図である。太陽光発電の場合,図5(a)のように晴天の時などに長時間にわたって発電出力の有効電力Pが変動しない場合が考えられる。この間,太陽光発電システムが連系している電力系統で供給ルート変更等(3)が実施され,連系点3からみた系統側の合成インピーダンスが変化したとする。すると,出力変動が発生していないため制御パラメータαは電圧変動を最小化するための最適値(点線)から外れることになる。太陽光発電システムに出力変動が生じない限りは,制御パラメータαが最適値から外れていても出力変動に起因する電圧変動は発生しない。しかし,図5(b)に示したように日射量が変化して発電出力に大きな変動が発生すると(1),大きな電圧変動(2)が発生する可能性がある。この場合も発生した電圧変動と出力変動の関係から制御パラメータαは徐々に最適値に近づくように補正されるが,その間,大きな電圧変動の発生が継続する点が懸念される。
【0041】
そこで本実施例では,この問題を解消するために、図5(b)のように太陽光発電装置の各電力変換器から能動的に有効電力出力Pに微少な変動を発生させ(1),電力系統の条件変化に常に追従しながら制御パラメータαを最適値に保つ(3)ように,図2の制御ブロックに有効電力変動発生器1138を設けた。これによって,図5(b)に示したように,日射量が変化して発電出力に大きな変動が発生しても,αが最適値に保たれているため大きな電圧変動が発生することはない。
【0042】
図6は,実施例1において能動的に有効電力の変動を発生させる場合の処理フローである。本処理内容は全ての太陽光発電装置11〜1iの電力補償量演算器113〜1i3で共通であるが,以下に電力補償量演算器113の場合を例に説明する。
【0043】
まず,処理S1では太陽光発電装置11〜1iの合成出力の変動成分ΔPを用いて,能動的な変動指令を発生させるか否かの判定を行う。例えば,有効電力の変動成分ΔPが予め定めたしきい値以下となる状態が連続して所定時間以上継続した場合に発生させると判定し,次の処理へ進む。
【0044】
次に処理S2では発生させる有効電力の変動指令ΔP1*を演算し,図1の各電力変換器の電力制御器114に指令する。電力制御器114では,無効電力補償量の指令値Q1*に加えて,有効電力の変動指令ΔP1*にもとづき電力変換器112の出力を制御するための制御信号であるゲートパルス信号G1を生成する。変動指令ΔP1*は例えば式(10)を用いて算出する。
ΔP1*=Po・Sin(2πfo・t) …(10)
ここで、Po,foは発生させる有効電力変動成分の振幅及び周波数である。変動周波数foは有効電力の変動検出器1134で検出される周波数帯に設定する必要がある。また,振幅Poは図4(b)に示した有効電力の変動分の不感帯よりも大きく設定する必要があり,例えば,系統に出力変動の影響を与えないように定格出力の数%程度に設定する。
【0045】
処理S3では,発生させた変動指令ΔP1*の出力停止の判定を行う。ここでは,図2の無効電力補償演算器1137に入力される制御パラメータαの所定時間における変化量がしきい値以下となった場合に,αが収束したと判定して処理S4で変動指令ΔP1*を停止し,処理S1へ戻る。
【0046】
以上のように処理することで,太陽光発電装置11〜1iの発電出力が変動していない場合においても,系統条件の変更に追従して常に制御パラメータαを電圧変動量が最小となる最適値に保つことができるため,電圧変動の発生を防止することができる。
【実施例2】
【0047】
次に本発明の実施例2を説明する。図7は,実施例2による太陽光発電システムの構成図で、連系点の電圧を直接,計測する手段を有する点が図1と異なる。図7では,連系点3の電圧を検出する電圧検出器7を設置し,その検出値Vsを制御器110に入力するようにした点であり,1台の太陽光発電装置で構成される場合にも好適な形態である。他の構成要素については図1と同様である。電圧検出器7で検出した検出値は制御器111を構成する電力補償量演算器113に入力される。
【0048】
図8は,実施例2による電力補償演算器の制御ブロック図である。本実施例では,電圧検出器7で連系点3の電圧Vsを検出するため,図2の電圧推定演算器1132を省略した。その他の処理は図2と同様である。
【実施例3】
【0049】
次に本発明の実施例3を説明する。図9は,電力補償量演算器を各太陽光発電装置1iに共通の専用制御器とした,太陽光発電システムの概略構成図である。図1に示した実施例1との相違点は,系統連系点の電圧を検出する電圧検出器7,電圧振幅演算器8a,電力演算器8bを追加した点と,電圧変動を抑制するための電力補償量制御器9を太陽光発電装置の制御器110〜1i0から独立させて共通化させた点である。
【0050】
電圧検出器7の出力を用いて電圧振幅演算器8aで算出された連係点電圧の振幅Vsと,電圧検出器7および電流検出器6で検出された電圧,電流を用いて電力演算器8bで算出された太陽光発電装置11〜1iの合成発電出力の有効電力検出値Pを電力補償量制御器9に入力する。電力補償量制御器9では,電圧振幅Vsと有効電力Pを用いて電圧変動を抑制するための制御指令を演算し,電力変換器112〜1i2の電力制御器114〜1i4に指令するようにした。
【0051】
図10は,実施例3による電力補償量演算器を専用制御器とした場合の制御ブロック図である。以下に処理の流れを説明する。まず,電圧振幅値Vs,合成発電出力の有効電力Pが変動検出器91,92にそれぞれ入力され,電圧振幅値Vs,合成発電出力の有効電力Pの変動成分ΔVs,ΔPをそれぞれ抽出する。
【0052】
変動検出器としては,図2で説明したと同様に変動を抑制する対象の周波数成分を抽出できるように時定数を調整したフィルタを適用する。変動検出器92では,電圧Vsから有効電力Pの変動と同じ変動成分を抽出する必要があるため,変動検出器91と同じ特性になるように時定数を設定する。
【0053】
抽出された有効電力の変動成分ΔPは不感帯付符号器93に入力されΔPの変動の増減方向を表す信号ΔPSIGNに変換されたのち,電圧変動成分ΔVsと積演算を行う。この(ΔVs・ΔPSIGN)を積分器94で積分し,制御パラメータαを求め,これを太陽光発電装置11〜1iの電力制御器114〜1i4に同時に伝送する。
【0054】
電力制御器114〜1i4では,伝送された制御パラメータαと,自身の発電出力の有効電力P1(〜Pi)との積により,それぞれで無効電力の補償量Qi*を算出する。ここで,実施例1のように電力制御器114〜1i4に無効電力指令Qi*を伝送するのではなく制御パラメータαを伝送するようにした理由は次の通りである。
【0055】
すなわち,制御パラメータαと有効電力Pi の積として定義される無効電力補償量Qiは,所定の電圧変動抑制効果を得るためには時々刻々と変化する有効電力Piに同期して出力される必要がある。しかし,電力補償量演算器9から無効電力指令Qi*を伝送していたのでは通信遅れの影響で有効電力Piに同期した無効電力補償量Qiを出力できなくなり十分な電圧変動抑制効果が得られない恐れがある。そこで,実施例3では制御パラメータαを伝送するようにした。
【0056】
さらに,有効電力変動判定器95では,有効電力の変動成分ΔPと制御パラメータαを用いて有効電力の微小な変動分を発生あるいは停止させるタイミングを判定し,太陽光発電装置11〜1iの電力制御器114〜1i4に発生,停止させるためのトリガ信号Trigを生成し指令する。
【0057】
例えば,トリガ信号Trigの値が「1」の時に変動発生を開始,「0」の時に変動発生を停止とする。これを受けて電力制御器114〜1i4では式(10)を用いて有効電力に微小な変動指令ΔP1*を生成し,これにもとづき電力変換器112の出力を制御するための制御信号であるゲートパルス信号G1を生成する。ここで,実施例1のように電力制御器114〜1i4に変動指令ΔPi*を伝送するのではなく変動発生を開始/停止させるトリガ信号Trigを伝送するようにした理由は,上述のように通信遅れの影響を受けないようにするためである。
【0058】
図11は,実施例3により電力補償量演算器を専用制御器とした場合に,能動的に有効電力を発生させるための処理フローである。
【0059】
まず,処理S1では太陽光発電装置11〜1iの合成発電出力Pの変動成分ΔPを用いて,能動的な変動成分を発生させるか否かの判定を行う。例えば,ΔPが予め定めたしきい値以下の状態が連続して所定時間以上継続した場合に変動を発生させると判定し次の処理へ進む。
【0060】
次に,処理S2では図9に示した電力制御器114〜1i4に変動発生開始のトリガ信号(Trig=1)を伝送する。電力制御器114〜1i4では式10を用いて変動を発生させる。処理S3では,発生させた変動信号の停止判定を行う。ここでは,図10で説明した制
御パラメータαの所定時間における変化量がしきい値以下となった場合にαが収束したと判定して,処理S4で電力制御器114〜1i4に変動停止のトリガ信号(Trig=0)を伝送し処理S1へ戻る。
【0061】
以上のように処理することで,太陽光発電装置11〜1iの発電出力が変動していない場合においても,系統条件の変更に追従して常に制御パラメータαを電圧変動量が最小となる最適値に保つことができるため,電圧変動の発生を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の実施例1による太陽光発電システムの構成図。
【図2】実施例1における制御器の制御ブロック図。
【図3】実施例1における電圧推定機能の説明図。
【図4】実施例1における不感帯付き符号器の動作を示す説明図。
【図5】実施例1において能動的に有効電力を発生させる概念を示す説明図。
【図6】実施例1における能動的に有効電力を発生させる処理フロー図。
【図7】実施例2による太陽光発電システムの構成図。
【図8】実施例2における制御器の制御ブロック図。
【図9】実施例3による太陽光発電システムの構成図。
【図10】実施例3における電力補償量制御器の制御ブロック図。
【図11】実施例3における電力補償量制御器の処理フロー図。
【符号の説明】
【0063】
1…主幹系統、2…連系線、3…連系点、4…連系用変圧器、5…構内配線、6,116…電流センサ、7,115…電圧センサ、8a…電圧演算器、8b…電力演算器、9,113…電力補償量演算器、11…太陽光発電装置、110…制御器、111…太陽電池パネル、112…電力変換器、114…電力制御器、1131…電圧電流電力演算器、1132…電圧推定演算器、1133,1134,91,92…変動検出器、1135,93…不感帯付符号器、1136,94…積分器、1137…無効電力補償演算器、1138…出力変動発生器、95…出力変動判定器。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
太陽電池パネルの出力を制御する電力変換器及びその制御器で構成され,電力変換器の発電出力の有効電力Pと無効電力Qの比を表す制御パラメータαを調整して電圧変動を抑制する機能を有する複数の太陽光発電装置が構内配線に接続されており、前記構内配線は変圧器を介して電力系統との連系点に接続されており、前記連系点を介して電力系統と連系してなる太陽光発電システムにおいて,
前記制御器は、前記構内配線から前記連系点に流れる複数の太陽光発電装置の合成出力電流と,太陽光発電システムと電力系統の連系点の電圧と,前記電力変換器の出力電圧および出力電流を用いて電圧変動を抑制するための電力量を演算する電力補償量演算器を有することを特徴とする太陽光発電システム。
【請求項2】
請求項1に記載の太陽光発電システムにおいて,
前記電力補償量演算器に,太陽光発電システムの合成出力電流の検出値Iと前記電力変換器の出力電圧の検出値Viを用いて電力系統との連系点電圧Vsを推定する手段を設けたことを特徴とする太陽光発電システム。
【請求項3】
請求項1に記載の太陽光発電システムにおいて,
前記電力補償量演算器で,太陽光発電システムの合成発電出力の有効電力Pの変動分と連系点電圧Vsの変動分の積にもとづいて算出した制御パラメータと,前記太陽光発電装置から出力される有効電力Piを用いて電圧変動を最小化する無効電力指令値Qiを算出する際に,前記合成発電出力の有効電力Pの変動分の検出に不感帯を設けたことを特徴とする太陽光発電システム。
【請求項4】
請求項1に記載の太陽光発電システムにおいて,
前記電力補償量演算器に,前記合成発電出力の有効電力Pの変動分が閾値以下となる状態が所定時間以上継続した場合に,有効電力Pの変動分に基づく当該太陽光発電装置の変動指令ΔPiを前記電力変換器に伝送し,前記有効電力Pの変動分と連系点電圧Vsの変動分の積にもとづいて算出した制御パラメータαの変化量が閾値以下となった場合に変動指令ΔPiを停止する手段を設けたことを特徴とする太陽光発電システム。
【請求項5】
請求項1に記載の太陽光発電システムにおいて,
前記電力補償量演算器に,請求項3記載の不感帯および請求項4記載の手段を設けたことを特徴とする太陽光発電システム。
【請求項6】
太陽電池パネルの出力を制御する電力変換器及びその制御器で構成され,電力変換器の発電出力の有効電力Pと無効電力Qの比を表す制御パラメータαを調整して電圧変動を抑制する機能を有する複数の太陽光発電装置が構内配線に接続されており、前記構内配線は変圧器を介して電力系統との連系点に接続されており、前記連系点を介して電力系統と連系してなる太陽光発電システムにおいて,
前記構内配線から前記連系点に流れる前記複数の太陽光発電装置の合成出力電流と,電力系統の連系点の電圧と,前記複数の太陽光発電装置の各々の電力変換器の出力電圧および出力電流を検出する手段を有し,
前記制御器は、複数の太陽光発電装置の合成出力電流と,太陽光発電システムと電力系統の連系点の電圧と,前記電力変換器の出力電圧および出力電流を用いて電圧変動を抑制するための電力量を演算する電力補償量演算器を有し,
前記電力補償量演算器は,太陽光発電システムの合成発電出力の有効電力Pの変動分と連系点電圧Vsの変動分の積にもとづいて算出した制御パラメータαと,当該太陽光発電装置から出力される有効電力Piを用いて電圧変動を最小化する無効電力指令値を算出する際に,前記有効電力Pの変動分の検出に不感帯を設け,
および/または,前記電力補償量演算器は,前記有効電力Pの変動分が閾値以下となる状態が所定時間以上継続した場合に有効電力Pの変動指令を前記電力変換器の電力制御器に伝送し,前記電力補償量演算器はさらに、算出した制御パラメータの変化量が閾値以下となった場合に有効電力の変動指令を停止する手段を設けたことを特徴とする太陽光発電システム。
【請求項7】
太陽電池パネルの出力を制御する電力変換器及びその制御器で構成され,電力変換器の発電出力の有効電力Pと無効電力Qの比を表す制御パラメータαを調整して電圧変動を抑制する機能を有する複数の太陽光発電装置が構内配線に接続されており、前記構内配線は変圧器を介して電力系統との連系点に接続されており、前記連系点を介して電力系統と連系してなる太陽光発電システムにおいて,
前記構内配線から前記連系点に流れる前記複数の太陽光発電装置の合成出力電流Iと電力系統との連系点電圧Vsを検出する手段を有し,それら合成出力電流Iと連系点電圧Vsの検出値を用いて制御パラメータαを算出し、このαを複数の太陽光発電装置の電力変換器に指令するための電力補償量制御器を有することを特徴とする太陽光発電システム。
【請求項8】
請求項7に記載の太陽光発電システムにおいて,
前記電力補償量制御器で,前記太陽光発電システムの合成発電出力の有効電力の変動分と連系点電圧の変動分の積にもとづいて制御パラメータαを算出する際に,前記有効電力の変動分の検出に不感帯を設けたことを特徴とする太陽光発電システム。
【請求項9】
請求項7に記載の太陽光発電システムにおいて,
前記電力補償量制御器は,前記有効電力の変動分が閾値以下となる状態が所定時間以上継続した場合に,有効電力の変動指令を前記電力変換器の電力制御器に伝送し,算出した制御パラメータαの変化量が閾値以下となった場合に有効電力の変動指令を停止する手段を設けたことを特徴とする太陽光発電システム。
【請求項10】
請求項7に記載の太陽光発電システムにおいて,
前記電力補償量制御器は,請求項8記載の不感帯および請求項9記載の手段を設けたことを特徴とする太陽光発電システム。
【請求項1】
太陽電池パネルの出力を制御する電力変換器及びその制御器で構成され,電力変換器の発電出力の有効電力Pと無効電力Qの比を表す制御パラメータαを調整して電圧変動を抑制する機能を有する複数の太陽光発電装置が構内配線に接続されており、前記構内配線は変圧器を介して電力系統との連系点に接続されており、前記連系点を介して電力系統と連系してなる太陽光発電システムにおいて,
前記制御器は、前記構内配線から前記連系点に流れる複数の太陽光発電装置の合成出力電流と,太陽光発電システムと電力系統の連系点の電圧と,前記電力変換器の出力電圧および出力電流を用いて電圧変動を抑制するための電力量を演算する電力補償量演算器を有することを特徴とする太陽光発電システム。
【請求項2】
請求項1に記載の太陽光発電システムにおいて,
前記電力補償量演算器に,太陽光発電システムの合成出力電流の検出値Iと前記電力変換器の出力電圧の検出値Viを用いて電力系統との連系点電圧Vsを推定する手段を設けたことを特徴とする太陽光発電システム。
【請求項3】
請求項1に記載の太陽光発電システムにおいて,
前記電力補償量演算器で,太陽光発電システムの合成発電出力の有効電力Pの変動分と連系点電圧Vsの変動分の積にもとづいて算出した制御パラメータと,前記太陽光発電装置から出力される有効電力Piを用いて電圧変動を最小化する無効電力指令値Qiを算出する際に,前記合成発電出力の有効電力Pの変動分の検出に不感帯を設けたことを特徴とする太陽光発電システム。
【請求項4】
請求項1に記載の太陽光発電システムにおいて,
前記電力補償量演算器に,前記合成発電出力の有効電力Pの変動分が閾値以下となる状態が所定時間以上継続した場合に,有効電力Pの変動分に基づく当該太陽光発電装置の変動指令ΔPiを前記電力変換器に伝送し,前記有効電力Pの変動分と連系点電圧Vsの変動分の積にもとづいて算出した制御パラメータαの変化量が閾値以下となった場合に変動指令ΔPiを停止する手段を設けたことを特徴とする太陽光発電システム。
【請求項5】
請求項1に記載の太陽光発電システムにおいて,
前記電力補償量演算器に,請求項3記載の不感帯および請求項4記載の手段を設けたことを特徴とする太陽光発電システム。
【請求項6】
太陽電池パネルの出力を制御する電力変換器及びその制御器で構成され,電力変換器の発電出力の有効電力Pと無効電力Qの比を表す制御パラメータαを調整して電圧変動を抑制する機能を有する複数の太陽光発電装置が構内配線に接続されており、前記構内配線は変圧器を介して電力系統との連系点に接続されており、前記連系点を介して電力系統と連系してなる太陽光発電システムにおいて,
前記構内配線から前記連系点に流れる前記複数の太陽光発電装置の合成出力電流と,電力系統の連系点の電圧と,前記複数の太陽光発電装置の各々の電力変換器の出力電圧および出力電流を検出する手段を有し,
前記制御器は、複数の太陽光発電装置の合成出力電流と,太陽光発電システムと電力系統の連系点の電圧と,前記電力変換器の出力電圧および出力電流を用いて電圧変動を抑制するための電力量を演算する電力補償量演算器を有し,
前記電力補償量演算器は,太陽光発電システムの合成発電出力の有効電力Pの変動分と連系点電圧Vsの変動分の積にもとづいて算出した制御パラメータαと,当該太陽光発電装置から出力される有効電力Piを用いて電圧変動を最小化する無効電力指令値を算出する際に,前記有効電力Pの変動分の検出に不感帯を設け,
および/または,前記電力補償量演算器は,前記有効電力Pの変動分が閾値以下となる状態が所定時間以上継続した場合に有効電力Pの変動指令を前記電力変換器の電力制御器に伝送し,前記電力補償量演算器はさらに、算出した制御パラメータの変化量が閾値以下となった場合に有効電力の変動指令を停止する手段を設けたことを特徴とする太陽光発電システム。
【請求項7】
太陽電池パネルの出力を制御する電力変換器及びその制御器で構成され,電力変換器の発電出力の有効電力Pと無効電力Qの比を表す制御パラメータαを調整して電圧変動を抑制する機能を有する複数の太陽光発電装置が構内配線に接続されており、前記構内配線は変圧器を介して電力系統との連系点に接続されており、前記連系点を介して電力系統と連系してなる太陽光発電システムにおいて,
前記構内配線から前記連系点に流れる前記複数の太陽光発電装置の合成出力電流Iと電力系統との連系点電圧Vsを検出する手段を有し,それら合成出力電流Iと連系点電圧Vsの検出値を用いて制御パラメータαを算出し、このαを複数の太陽光発電装置の電力変換器に指令するための電力補償量制御器を有することを特徴とする太陽光発電システム。
【請求項8】
請求項7に記載の太陽光発電システムにおいて,
前記電力補償量制御器で,前記太陽光発電システムの合成発電出力の有効電力の変動分と連系点電圧の変動分の積にもとづいて制御パラメータαを算出する際に,前記有効電力の変動分の検出に不感帯を設けたことを特徴とする太陽光発電システム。
【請求項9】
請求項7に記載の太陽光発電システムにおいて,
前記電力補償量制御器は,前記有効電力の変動分が閾値以下となる状態が所定時間以上継続した場合に,有効電力の変動指令を前記電力変換器の電力制御器に伝送し,算出した制御パラメータαの変化量が閾値以下となった場合に有効電力の変動指令を停止する手段を設けたことを特徴とする太陽光発電システム。
【請求項10】
請求項7に記載の太陽光発電システムにおいて,
前記電力補償量制御器は,請求項8記載の不感帯および請求項9記載の手段を設けたことを特徴とする太陽光発電システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−234620(P2011−234620A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−127902(P2011−127902)
【出願日】平成23年6月8日(2011.6.8)
【分割の表示】特願2007−336326(P2007−336326)の分割
【原出願日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 大規模電力供給用太陽光発電系統安定化等実証研究 北杜サイトにおける大規模電力供給用太陽光発電系統安定等実証研究委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年6月8日(2011.6.8)
【分割の表示】特願2007−336326(P2007−336326)の分割
【原出願日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 大規模電力供給用太陽光発電系統安定化等実証研究 北杜サイトにおける大規模電力供給用太陽光発電系統安定等実証研究委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
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