説明

太陽電池の製法およびそれにより得られた太陽電池

【課題】光電変換効率の高い高性能の太陽電池を効率的に製造することのできる、太陽電池の製法およびそれにより得られた太陽電池を提供する。
【解決手段】ドーパント濃度の低いドーパント拡散用有機溶剤系塗布液をスピンコート法によって半導体基板1の一面に全体的に塗布し、ついで、ポリビニルアルコール系樹脂を含有するドーパント濃度の高いドーパント拡散用水系塗布液を、スクリーン印刷によって上記基板1の一面に部分的に塗布した後、熱処理を行い、上記基板1の一面において、上記スピンコート法による全面塗布とスクリーン印刷による部分塗布とが重ねてなされた半導体基板1の表層部分をドーパント高濃度拡散部11aにし、上記スピンコート法による全面塗布のみがなされた半導体基板の表層部分をドーパント低濃度拡散部11bにして、半導体基板1に、上記拡散部11a,11bからなるセレクティブエミッタ層11を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池の製法およびそれにより得られた太陽電池に関するものであり、詳しくは、pn接合型の太陽電池の製法およびそれにより得られた太陽電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
pn接合型太陽電池は、p型の半導体とn型の半導体とを接合した構造を有している。そして、その接合面に当たった光によって、光電子が発生し(内部光電効果)、半導体の整流作用によって上記光電子が一定方向に移動することから、これを電極から外部に取り出すことにより、電気(電流)を得ることができる。上記のようなpn接合構造を形成する方法としては、例えば、半導体基板の一面に、リンやホウ素などのドーパント(不純物)を含有する液状材料を塗布し、塗膜を形成した後、熱処理することによって、半導体基板の表層部分に上記ドーパントを拡散させ、そのドーパントの種類によりp型またはn型の半導体層を形成する方法が、広く用いられている。
【0003】
特に、上記方法によりpn接合型太陽電池のエミッタ層を形成する場合、上記エミッタ層の、金属電極直下の部分が、ドーパント濃度が高くなるようにし、上記エミッタ層のそれ以外の部分が、ドーパント濃度が低くなるようにすると、光電変換効率を高めることができる。このように部分的にドーパント濃度の異なるエミッタ層は、セレクティブエミッタ層と呼ばれている。そして、上記のような構造のセレクティブエミッタ層を形成することにより、金属電極と半導体との接触抵抗を低減でき、金属電極部分以外ではドーパント濃度が低くなって、太陽電池セルの短波長光側の量子効率を良くすることができる。
【0004】
従来、上記セレクティブエミッタ層のパターン形成は、ドーパントを含有する液状材料を、スピンコート法により半導体基板上に均一に塗布した後、エッチングする方法や、半導体基板上にパターンマスクを形成した後に上記液状材料を塗布する方法等により行うのが一般的である。
【0005】
しかしながら、上記のようなパターン形成方法は、エッチングやパターンマスクの形成といった煩雑な作業工程を伴うことから、より簡便で効率的な製法が求められている。
【0006】
そこで、より簡便で効率的な製法として、近年、スクリーン印刷によって、ドーパント濃度の高い液状材料を半導体基板の一面に部分的に塗布した後、スピンコート法によって、上記基板の一面の全面に、ドーパント濃度の低い液状材料を塗布し、熱処理することによって、部分的にドーパント濃度の異なるセレクティブエミッタ層を半導体基板の一面に形成する方法が提案されている(特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−310373号公報
【特許文献2】WO2009/116569公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上記のようにして、ドーパントを含有する塗膜を塗布して熱処理することにより得られるセレクティブエミッタ層は、その表面炭素残渣が少なく、ドーパント高濃度拡散部とドーパント低濃度拡散部との表面抵抗値の差が大きいほど、光電変換効率を高めることができる。
【0009】
しかしながら、上記特許文献1,2に記載の製法を適用した場合、形成されたセレクティブエミッタ層の表面には炭素残渣が多くみられ、ドーパント高濃度拡散部とドーパント低濃度拡散部との表面抵抗値の差も、さほど大きくなかった。このことから、光電変換効率を高める観点において、未だ改善の余地がある。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、光電変換効率の高い高性能の太陽電池を効率的に製造することのできる、太陽電池の製法およびそれにより得られた太陽電池の提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、本発明は、部分的にドーパント濃度の異なるセレクティブエミッタ層を一面に有する半導体基板を備えた太陽電池の製法であって、ドーパント濃度の低いドーパント拡散用有機溶剤系塗布液をスピンコート法によって半導体基板の一面に全体的に塗布し、ついで、ポリビニルアルコール系樹脂を含有するドーパント濃度の高いドーパント拡散用水系塗布液を、スクリーン印刷によって上記基板の一面に部分的に塗布した後、熱処理を行い、上記基板の一面において、上記スピンコート法による全面塗布とスクリーン印刷による部分塗布とが重ねてなされた半導体基板の表層部分をドーパント高濃度拡散部にし、上記スピンコート法による全面塗布のみがなされた半導体基板の表層部分をドーパント低濃度拡散部にして、半導体基板に上記セレクティブエミッタ層を形成する太陽電池の製法を第1の要旨とする。
【0012】
また、本発明は、上記第1の要旨の製法により得られる太陽電池を第2の要旨とする。
【0013】
すなわち、本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意研究を重ねた。その研究の過程で、本発明者らは、太陽電池の構成部材である半導体基板の一面にセレクティブエミッタ層を形成するに当たり、従来とは逆の方法、つまり、スピンコート法によって、ドーパント濃度の低いドーパント拡散用有機溶剤系塗布液を半導体基板の一面の全面に塗布した後、その上から、スクリーン印刷によって上記基板の一面に、ドーパント濃度の高いドーパント拡散用水系塗布液を部分的に塗布し、熱処理(焼成・拡散)を行い、これにより、半導体基板の表層部分に上記塗布液中のドーパントを拡散させ、ドーパント高濃度拡散部と、ドーパント低濃度拡散部とからなるセレクティブエミッタ層を形成する実験を行った。その結果、従来の方法(スクリーン印刷による部分塗布を先に行い、その上から、スピンコート法による全面塗布を行う方法)よりも、セレクティブエミッタ層の表面炭素残渣をより少なくすることができ、上記ドーパント高濃度拡散部とドーパント低濃度拡散部との表面抵抗値の差をより大きくすることができることを突き止めた。なお、このような結果が得られた理由は、推測であるが、上記のようにスピンコート法により基板の全面に形成された有機溶剤系塗膜に対して水系塗布液をスクリーン印刷したほうが、従来の方法に比べ、スクリーン印刷部分のにじみが生じ難いことに起因すると考えられる。そして、このことから、所期の目的が達成できることを見いだし、本発明に到達した。
【発明の効果】
【0014】
このように、本発明の太陽電池の製法は、ドーパント濃度の低いドーパント拡散用有機溶剤系塗布液をスピンコート法によって半導体基板の一面に全体的に塗布し、ついで、ポリビニルアルコール系樹脂を含有するドーパント濃度の高いドーパント拡散用水系塗布液を、スクリーン印刷によって上記基板の一面に部分的に塗布した後、熱処理を行い、上記基板の一面において、上記スピンコート法による全面塗布とスクリーン印刷による部分塗布とが重ねてなされた半導体基板の表層部分をドーパント高濃度拡散部にし、上記スピンコート法による全面塗布のみがなされた半導体基板の表層部分をドーパント低濃度拡散部にして、半導体基板に上記セレクティブエミッタ層を形成する工程を備えている。そのため、セレクティブエミッタ層の表面炭素残渣をより少なく、上記ドーパント高濃度拡散部とドーパント低濃度拡散部との表面抵抗値の差をより大きくすることが可能となり、光電変換効率の高い高性能の太陽電池の効率的な製造を実現することができる。
【0015】
特に、上記ドーパント拡散用水系塗布液に含有するポリビニルアルコール系樹脂が、下記の一般式(1)で表される1,2−ジオール構造単位を有するポリビニルアルコール系樹脂であると、セレクティブエミッタ層の表面炭素残渣をより少なくすることができ、ドーパント高濃度拡散部の表面抵抗値をより低下させることができることから、ドーパント高濃度拡散部とドーパント低濃度拡散部との表面抵抗値の差がより大きな、光電変換効率の高い太陽電池を製造することができる。
【0016】
【化1】

【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明にかかる太陽電池の一例を示す断面図である。
【図2】上記太陽電池の製造過程において、半導体基板にセレクティブエミッタ層を形成するまでの製造工程の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
つぎに、本発明を実施するための形態について具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0019】
本発明にかかる太陽電池は、例えば、図1に示すように、その半導体基板1の一面(受光面)に、セレクティブエミッタ層11が形成されている。上記セレクティブエミッタ層11は、ドーパント高濃度拡散部11aとドーパント低濃度拡散部11bとからなり、上記ドーパント高濃度拡散部11a上には、図示のように、金属電極(受光面電極4)が形成されている。なお、上記セレクティブエミッタ層11上には、図示のように、反射防止膜5が形成されており、また、上記半導体基板1の他の面(裏面)には、図示のように、BSF(back surface field)層6、ペースト電極7、金属電極(裏面電極8)が形成されている。
【0020】
先に述べたように、本発明の太陽電池の製法は、ドーパント濃度の低いドーパント拡散用有機溶剤系塗布液をスピンコート法によって半導体基板1の一面に全体的に塗布し、ついで、ポリビニルアルコール系樹脂を含有するドーパント濃度の高いドーパント拡散用水系塗布液を、スクリーン印刷によって上記基板1の一面に部分的に塗布した後、熱処理を行い、上記基板1の一面において、上記スピンコート法による全面塗布とスクリーン印刷による部分塗布とが重ねてなされた半導体基板1の表層部分をドーパント高濃度拡散部11aにし、上記スピンコート法による全面塗布のみがなされた半導体基板1の表層部分をドーパント低濃度拡散部11bにして、半導体基板1に上記セレクティブエミッタ層11を形成する工程を備えている。ここで、上記二種のドーパント拡散用塗布液における、「ドーパント濃度の高い」および「ドーパント濃度の低い」といった指標は、上記二種のドーパント拡散用塗布液間のドーパント濃度を対比することにより示される指標である。
【0021】
上記太陽電池の製造過程において、半導体基板1にセレクティブエミッタ層11を形成するまでの工程は、例えば、図2のようにして行われる。すなわち、まず、図2(a)に示すように、半導体基板1の一面の全面に対し、ドーパント濃度の低いドーパント拡散用有機溶剤系塗布液をスピンコート法によって塗布し、塗膜2bを形成する。続けて、その上から、スクリーン印刷によって、部分的に、ポリビニルアルコール系樹脂を含有するドーパント濃度の高いドーパント拡散用水系塗布液を塗布し、図2(b)に示すような塗膜2aを形成する。その後、熱処理(焼成・拡散)を行うと、上記塗膜2a,2b中のドーパントが拡散され、図2(c)に示すように、上記スピンコート法による全面塗布とスクリーン印刷による部分塗布とが重ねてなされた半導体基板1の表層部分が、ドーパント高濃度拡散部11aとなり、同時に、上記スピンコート法による全面塗布のみがなされた半導体基板1の表層部分が、ドーパント低濃度拡散部11bとなる。これにより、半導体基板1の一面に、上記ドーパント高濃度拡散部11aとドーパント低濃度拡散部11bとからなるセレクティブエミッタ層11を形成することができる。
【0022】
そして、上記熱処理後に上記塗膜2a,2b形成面に残った炭素残渣、すなわち、セレクティブエミッタ層11の表面炭素残渣は、従来の製法を適用した場合よりも少なく、上記ドーパント高濃度拡散部11aとドーパント低濃度拡散部11bとの表面抵抗値の差も大きい。このことから、本発明の太陽電池の製法によれば、光電変換効率の高い太陽電池を効率的に製造することができる。
【0023】
上記スピンコート法による全面塗布は、例えば、ミカサ社製のMS−A150等の、市販のスピンコート装置によって行うことができる。
【0024】
そして、上記スピンコート法に使用するドーパント拡散用有機溶剤系塗布液の粘度は、20℃において、通常1〜100mPa・sであり、好ましくは1.5〜50mPa・s、より好ましくは2〜30mPa・sの範囲である。なお、かかる粘度は、B型粘度計を用いて測定したものである。すなわち、上記ドーパント拡散用有機溶剤系塗布液の粘度が小さすぎると、塗膜が安定して形成されにくくなったり、セレクティブエミッタ層11中のドーパントの含有量が不充分になる場合があり、逆に粘度が大きすぎると、スピンコート法による塗布作業性が低下する傾向があるからである。
【0025】
上記ドーパント拡散用有機溶剤系塗布液のスピンコートにより塗膜2bを形成した後、必要に応じ、乾燥処理を行う。なお、乾燥処理方法は、後述の塗膜2aの乾燥処理方法に準じて行われる。
【0026】
そして、上記スピンコートによる塗膜2bの上から、スクリーン印刷によって、ドーパント拡散用水系塗布液の塗膜2aを、上記半導体基板1の一面に部分的に形成する。
【0027】
上記スクリーン印刷による部分塗布は、例えば、ニューロング精密工業社製のLS−34GX等の、市販のスクリーン印刷機によって行うことができる。
【0028】
そして、上記スクリーン印刷に使用するドーパント拡散用水系塗布液の粘度は、20℃において、通常300〜100000mPa・sであり、好ましくは500〜10000mPa・s、より好ましくは700〜6000mPa・sの範囲である。なお、かかる粘度も、B型粘度計を用いて測定したものである。すなわち、上記ドーパント拡散用水系塗布液の粘度が小さすぎると、塗膜が安定して形成されにくくなったり、セレクティブエミッタ層11中のドーパントの含有量が不充分になる場合があり、逆に粘度が大きすぎると、スクリーン印刷におけるスクリーンメッシュの目詰まりが起りやすくなる傾向があるからである。
【0029】
上記ドーパント拡散用水系塗布液のスクリーン印刷により塗膜2aを形成した後、必要に応じ、乾燥処理を行う。
【0030】
上記乾燥処理は、主に、塗膜2aから水等の揮発成分を除去するため行われる。乾燥処理では、通常、20〜300℃、特に100〜200℃での温度条件下で、1〜60分、特に5〜30分の乾燥が行われる。乾燥方法については、熱風乾燥、赤外線加熱乾燥、真空乾燥等を適用することができる。なお、必要に応じて、スクリーン印刷による塗布工程と乾燥処理を連続して実施することも可能である。
【0031】
上記のようにして塗膜2a,2bを形成した後、先に述べたように熱処理が施される。上記熱処理は、その方法や目的等の違いから、例えば、焼成工程,拡散工程に区別される。そして、上記熱処理により、塗膜2a,2b中のドーパントが、半導体基板1の表層部分に拡散され、そのドーパントの拡散濃度により、前記ドーパント高濃度拡散部11aと、ドーパント低濃度拡散部11bとが形成される。
【0032】
上記焼成工程では、チューブ炉、マッフル炉、ベルト炉等を用い、塗膜2a,2b中の有機成分の大半を除去する。かかる工程の条件は、塗布液の組成や塗膜2a,2bの厚みによって適宜調節する必要があるが、300〜1000℃、特に400〜950℃の温度条件下で、1〜120分、特に5〜30分の焼成が行われる。また、上記焼成工程は、炭素残渣を除去する観点から、N2流量1〜200L/min、O2流量0〜20L/min(特に0.1〜10L/min)の雰囲気で行うことが好ましい。なお、上記N2の純度は、通常99.95vol%以上、特に99.99vol%以上、殊に99.999vol%以上であることが好ましい。また、上記O2の純度は、通常98vol%以上、特に99vol%以上、殊に99.5%以上であることが好ましい。すなわち、上記N2やO2の純度が低いと、光電変換効率が低下する傾向があるからである。
【0033】
上記焼成工程に続いて行われる拡散工程では、半導体基板1中にドーパントが拡散され、前記ドーパント高濃度拡散部11aとドーパント低濃度拡散部11bとからなる拡散層(セレクティブエミッタ層11)が形成される。上記拡散工程は、焼成工程と同様に、チューブ炉、マッフル炉、ベルト炉等を用い、700〜1400℃、特に800〜1000℃の温度条件下で、1〜60分、特に5〜30分、枚葉で、あるいは複数枚を重ね合わせた状態で行われる。
【0034】
なお、上記焼成工程と拡散工程とは、一工程で実施してもよく、その場合は、焼成工程、拡散工程のいずれを省略することも可能である。また、上記焼成工程、および拡散工程では、その温度条件を段階的に、あるいは連続的に変化させながら行うことも可能である。
【0035】
このようにして形成されたセレクティブエミッタ層11において、そのドーパント高濃度拡散部11aの表面抵抗値は、10〜50Ω/□の範囲となり、ドーパント低濃度拡散部11bの表面抵抗値は、60〜300Ω/□の範囲となり、両者の表面抵抗値の差は、10〜290Ω/□の範囲となる。このようにドーパント高濃度拡散部11aとドーパント低濃度拡散部11bとの表面抵抗値の差が大きいことから、太陽電池の光電変換効率を高めるのに適したセレクティブエミッタ層11を形成することができる。
【0036】
なお、必要に応じ、上記セレクティブエミッタ層11の表面に形成されたドーパント層であるリンガラス、あるいはボロンガラスを除去するため、フッ化水素酸への浸漬処理を行うことが好ましい。かかる浸漬処理において、フッ化水素酸は、通常、3〜50重量%の水溶液として用いられ、さらに、処理効率を向上させる目的で、加温して、および超音波を照射しながら行うことも好ましい実施態様である。かかる浸漬処理の後、水洗を行うことも可能である。
【0037】
ところで、本発明の太陽電池の製法において、スクリーン印刷用に用いられる前記ドーパント拡散用水系塗布液は、ポリビニルアルコール系樹脂(以下、「PVA系樹脂」と略す)と、ドーパント化合物と、溶媒である水とを含有する。以下、これら各材料について説明する。
【0038】
〔PVA系樹脂〕
上記ドーパント拡散用水系塗布液に用いられるPVA系樹脂は、そのケン化度(JIS K 6726に準拠して測定)が、通常60〜100モル%であり、好ましくは70〜99.9モル%、より好ましくは80〜99.9モル%、特により好ましくは90〜99.9モル%、さらに好ましくは98〜99.8モル%であるものが用いられる。すなわち、かかるケン化度が低すぎると、PVA系樹脂の水への溶解性が低下し、均一な塗布液を得ることが困難になる場合があるからである。
【0039】
また、上記ドーパント拡散用水系塗布液に用いられるPVA系樹脂は、その平均重合度(JIS K 6726に準拠して測定)が、通常100〜8000であり、好ましくは100〜4000であり、より好ましくは200〜2000、さらに好ましくは300〜1500であるものが用いられる。すなわち、かかる平均重合度が小さすぎると、塗布液が低粘度となり、良好なスクリーン印刷が難しく、塗膜が薄膜となり、ドーパントの供給量が不足する場合があるからであり、逆に平均重合度が大きすぎても、スクリーン印刷には不適であり、印刷不良が発生しやすくなる傾向があるからである。
【0040】
上記ドーパント拡散用水系塗布液で用いられるPVA系樹脂は、未変性ポリビニルアルコールであっても、各種の変性ポリビニルアルコールであってもよい。そして、これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0041】
特に、上記PVA系樹脂として、下記の一般式(1)で示される1,2−ジオール構造単位を有するPVA系樹脂を用いると、セレクティブエミッタ層11の表面炭素残渣をより少なくすることができ、ドーパント高濃度拡散部11aの表面抵抗値をより低下させることができることから、ドーパント高濃度拡散部11aとドーパント低濃度拡散部11bとの表面抵抗値の差がより大きな、光電変換効率の高い太陽電池を製造することができるため、好ましい。また、上記特定のPVA系樹脂を含有するドーパント拡散用水系塗布液は、経時による塗布液の増粘が生じ難いことから、長期間にわたり良好な印刷精度が得られ、本発明の太陽電池の製法を工業的に行ううえで、極めて有用である。
【0042】
【化2】

【0043】
上記一般式(1)で表わされる1,2−ジオール構造単位を有するPVA系樹脂のなかでも、その一般式中のR1〜R3、及びR4〜R6がすべて水素原子であり、Xが単結合であるもの、すなわち、下記の一般式(1′)で表される1,2−ジオール構造単位を有するPVA系樹脂が、前記の観点から、より好ましく用いられる。
【0044】
【化3】

【0045】
なお、前記一般式(1)で表わされる構造単位中のR1〜R3、及びR4〜R6は、樹脂特性を大幅に損なわない程度の量であれば有機基であってもよく、その有機基としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基等の炭素数1〜4のアルキル基等があげられる。また、上記有機基は、必要に応じ、ハロゲン基、水酸基、エステル基、カルボン酸基、スルホン酸基等の官能基を有していてもよい。
【0046】
また、前記一般式(1)で表わされる1,2−ジオール構造単位中のXは、熱安定性の点や高温下や酸性条件下での安定性の点で、単結合であるものが最も好ましいが、本発明の効果を阻害しない範囲であれば結合鎖であってもよい。かかる結合鎖としては、アルキレン、アルケニレン、アルキニレン、フェニレン、ナフチレン等の炭化水素(これらの炭化水素は、フッ素、塩素、臭素等のハロゲン等で置換されていても良い)の他、−O−、−(CH2O)m−、−(OCH2m−、−(CH2O)mCH2−、−CO−、−COCO−、−CO(CH2mCO−、−CO(C64)CO−、−S−、−CS−、−SO−、−SO2−、−NR−、−CONR−、−NRCO−、−CSNR−、−NRCS−、−NRNR−、−HPO4−、−Si(OR)2−、−OSi(OR)2−、−OSi(OR)2O−、−Ti(OR)2−、−OTi(OR)2−、−OTi(OR)2O−、−Al(OR)−、−OAl(OR)−、−OAl(OR)O−、等(Rは各々独立して任意の置換基であり、水素原子、アルキル基が好ましく、またmは自然数である)があげられる。なかでも、製造時あるいは使用時の安定性の点で炭素数6以下のアルキレン基、特にメチレン基、あるいは−CH2OCH2−が好ましい。
【0047】
前記ドーパント拡散用水系塗布液で用いられるPVA系樹脂の製造法としては、特に限定されないが、例えば、(i)ビニルエステル系モノマーと下記一般式(2)で示される化合物との共重合体をケン化する方法や、(ii)ビニルエステル系モノマーと下記一般式(3)で示される化合物との共重合体をケン化及び脱炭酸する方法や、(iii)ビニルエステル系モノマーと下記一般式(4)で示される化合物との共重合体をケン化及び脱ケタール化する方法が好ましく用いられる。
【0048】
【化4】

【0049】
【化5】

【0050】
【化6】

【0051】
上記一般式(2)、(3)、(4)中の、R1〜R6及びXは、いずれも、前記一般式(1)の場合と同様である。また、上記一般式(2)中のR7及びR8はそれぞれ独立して水素原子またはR9−CO−(式中、R9は炭素数1〜4のアルキル基である)である。また、上記一般式(4)中のR10及びR11はそれぞれ独立して水素原子または炭素数1〜4のアルキル基である。
【0052】
前記(i)〜(iii)の方法のなかでも、共重合反応性および工業的な取り扱い性に優れるという点から、(i)の方法において、前記一般式(2)で表わされる化合物として3,4−ジアシロキシ−1−ブテンを用いることが好ましく、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンを用いることが特に好ましい。
【0053】
なお、前記(i)のPVA系樹脂の製造法に使用されるビニルエステル系モノマーとして、酢酸ビニルを用いた場合、これと3,4−ジアセトキシ−1−ブテンとを共重合させた際の各モノマーの反応性比rは、r(酢酸ビニル)=0.710、r(3,4−ジアセトキシ−1−ブテン)=0.701、である。これは、酢酸ビニルと、前記(ii)のPVA系樹脂の製造法に使用される前記一般式(3)の化合物(ビニルエチレンカーボネート)とを共重合させた場合の、r(酢酸ビニル)=0.85、r(ビニルエチレンカーボネート)=5.4、と比較して、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンが酢酸ビニルとの共重合反応性に優れることを示すものである。
【0054】
また、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンの連鎖移動定数は、Cx(3,4−ジアセトキシ−1−ブテン)=0.003(65℃)であり、これはビニルエチレンカーボネートのCx(ビニルエチレンカーボネート)=0.005(65℃)や、(iii)の方法で用いられる一般式(4)の化合物である2,2−ジメチル−4−ビニル−1,3−ジオキソランのCx(2,2−ジメチル−4−ビニル−1,3−ジオキソラン)=0.023(65℃)よりも低い。このことから、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンは、重合速度低下の原因となり難いことが示される。
【0055】
また、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンは、その共重合体をケン化する際に発生する副生物が、ビニルエステル系モノマーとして多用される酢酸ビニルに由来する構造単位からケン化時に副生する化合物と同一であり、その後処理や溶剤回収系に敢えて特別な装置や工程を設ける必要がなく、従来からの設備を利用出来るという点も、工業的に大きな利点である。
【0056】
なお、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンは、例えば、WO00/24702、USP5,623,086、USP6,072,079などに記載されたエポキシブテン誘導体を経由する合成方法や、1,4−ブタンジオール製造工程の中間生成物である1,4−ジアセトキシ−1−ブテンを塩化パラジウムなどの金属触媒を用いて異性化する反応によって製造することができる。また、試薬レベルではアクロス社の製品を市場から入手することができる。
【0057】
ところで、前記(ii)や(iii)の方法によって得られたPVA系樹脂は、脱炭酸あるいは脱アセタール化が不充分であると、側鎖にカーボネート環あるいはアセタール環が残存する。そのようなPVA系樹脂を溶融成形すると、かかる環状基によってPVA系樹脂が架橋し、ゲル状物などが発生する場合がある。よって、この点からも、前記(i)の方法によって得られたPVA系樹脂が本発明においては好適に用いられる。
【0058】
前記(i)〜(iii)の方法で用いられるビニルエステル系モノマーとしては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、バーサチック酸ビニル等があげられるが、経済的に酢酸ビニルが好ましく用いられる。
【0059】
なお、上述のモノマー(ビニルエステル系モノマー、前記一般式(2)、(3)、(4)で示される化合物)の他に、樹脂物性に大幅な影響を及ぼさない範囲、例えば20モル%未満であれば、共重合成分として、エチレンやプロピレン等のα−オレフィン;3−ブテン−1−オール、4−ぺンテン−1−オール、5−へキセン−1,2−ジオール等のヒドロキシ基含有α−オレフィン類、およびそのアシル化物などの誘導体;イタコン酸、マレイン酸、アクリル酸等の不飽和酸類あるいはその塩あるいはモノ又はジアルキルエステル;アクリロニトリル等のニトリル類、メタクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド等のアミド類、エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸、AMPS(アクリルアミド―2―メチルプロパンスルホン酸)等のオレフィンスルホン酸あるいはその塩などの化合物、などが共重合されていてもよい。
【0060】
前記ドーパント拡散用水系塗布液中のPVA系樹脂に含まれる、1,2−ジオール構造単位の含有量は、0.5〜30モル%であることが好ましく、より好ましくは1〜20モル%、さらに好ましくは3〜15モル%の範囲である。すなわち、かかる含有量が低すぎると、1,2−ジオール構造単位を導入したPVA系樹脂を用いた効果を得ることができず、逆に高すぎると、乾燥性が低下し、生産性が低下する傾向があるからである。
【0061】
なお、上記PVA系樹脂中の、1,2−ジオール構造単位の含有率は、PVA系樹脂を完全にケン化したものの1H−NMRスペクトル(溶媒:DMSO−d6、内部標準:テトラメチルシラン)から求めることができ、具体的には1,2−ジオール単位中の水酸基プロトン、メチンプロトン、およびメチレンプロトン、主鎖のメチレンプロトン、主鎖に連結する水酸基のプロトンなどに由来するピーク面積から算出すればよい。
【0062】
前記ドーパント拡散用水系塗布液中のPVA系樹脂の含有量は、通常1〜30重量%であり、好ましくは5〜25重量%、より好ましくは10〜20重量%の範囲である。すなわち、上記PVA系樹脂の含有量が少なすぎると、塗布液の粘度が低くなり、塗膜が安定して形成されにくくなる傾向があり、逆に、多すぎると、塗布液の粘度が高くなるため、塗布作業性が低下しやすく、さらに、スクリーン印刷におけるスクリーンメッシュの目詰まりが起りやすくなる傾向があるからである。
【0063】
〔ドーパント化合物〕
前記ドーパント拡散用水系塗布液において、PVA系樹脂とともに配合されるドーパント化合物としては、15族元素化合物や13族元素化合物が用いられる。
【0064】
15族元素化合物は、一般にn型半導体の製造において、不純物として用いられるものであり、リン化合物やアンチモン化合物をあげることができるが、なかでもリン化合物が好ましく用いられる。具体的には、無水リン酸(P25),リン酸(H3PO4)などのリン酸類、リン酸メラミン,リン酸アンモニウムなどのリン酸塩類、アシッドホスホキシメタクリレート,3−クロロ−2−アシッドホスホキシエチルメタクリレート,アシッドホスホキシポリエチレングリコールモノメタクリレート,アシッドホスホキシポリオキシプロピレングリコールモノメタクリレートなどのリン酸エステル類、およびその塩、塩化リン等があげられる。なかでも、水溶性のものが好ましく、特にリン酸類が好ましく用いられる。
【0065】
13族元素化合物は、一般にp型半導体の製造において不純物として用いられるものであり、ホウ素化合物やアルミニウム化合物をあげることができるが、なかでもホウ素化合物が好ましく用いられる。かかるホウ素化合物の具体例としては、ホウ酸、三酸化二ホウ素などのホウ酸類、ホウ酸アンモニウムなどのホウ酸塩類、フッ化ホウ素、三塩化ホウ素、三臭化ホウ素、三ヨウ化ホウ素などのハロゲン化物、ホウ酸トリメチル、ホウ酸トリエチル、ホウ酸トリイソプロピルなどのホウ酸エステル類、アンモニアボランなどのボラン化合物、窒化ホウ素などをあげることができる。なかでも、ホウ酸が好ましく用いられる。
【0066】
なお、これらのドーパント化合物は、単独で用いてもよく、二種以上のものを組合わせて用いてもよい。
【0067】
前記ドーパント拡散用水系塗布液中のドーパント化合物の含有量は、スクリーン印刷によるドーパント高濃度拡散部11aの形成性の観点から、通常0.1〜30重量%であり、好ましくは0.1〜10重量%、より好ましくは0.1〜5重量%の範囲である。また、上記ドーパント化合物の、PVA系樹脂100重量部に対する含有量は、通常1〜300重量部であり、好ましくは3〜200重量部、より好ましくは5〜50重量部の範囲である。すなわち、上記ドーパント化合物の含有量が少ないと、拡散層中のドーパントの含有量が少なくなり、充分な抵抗値が得られない場合があるからであり、逆に、上記ドーパント化合物の含有量が多すぎると、PVA系樹脂の溶解性が不充分となる場合があるからである。なお、先に述べたように、前記ドーパント拡散用水系塗布液は、スピンコート法により塗布される前記ドーパント拡散用有機溶剤系塗布液よりもドーパント濃度が高くなるよう、上記ドーパント化合物の含有量を調整する必要があり、特に、前記ドーパント拡散用水系塗布液のドーパント濃度を、前記ドーパント拡散用有機溶剤系塗布液のドーパント濃度の2倍以上とすることが好ましい。
【0068】
〔水〕
前記ドーパント拡散用水系塗布液に用いられる水としては、アルカリ金属や重金属などの不純物、および異物が少ないものが好ましく、超純水が最も好ましいが、イオン交換水、蒸留水を用いることも可能である。
【0069】
前記ドーパント拡散用水系塗布液における水の含有量は、通常20〜85重量%であり、好ましくは30〜80重量%、より好ましくは40〜75重量%の範囲である。すなわち、かかる水の含有量が少なすぎると、塗布液の粘度が高くなりすぎ、塗布作業性が低下しやすく、さらに、スクリーン印刷におけるスクリーンメッシュの目詰まりが起りやすくなる傾向があるからであり、逆に多すぎると、粘度が低くなりすぎて塗膜が安定して形成されにくくなったり、拡散層中のドーパントの含有量が少なくなりすぎる場合があるからである。
【0070】
〔その他の材料〕
以上のように、本発明の太陽電池の製法に用いられるドーパント拡散用水系塗布液は、PVA系樹脂と、ドーパント化合物と、溶媒である水とを含有するものであるが、必要に応じ、アルコール類、界面活性剤、無機微粒子等といった、その他の材料を更に配合することもできる。
【0071】
上記ドーパント拡散用水系塗布液に、アルコール類を配合すると、塗布液の保存安定性や流動安定性、塗布膜のレベリング性を改善することが可能である。上記アルコール類としては、具体的には、メタノール(65℃)、エタノール(78℃)、イソプロパノール(82℃)などの一価アルコール類;エチレングリコール(197℃)、ジエチレングリコール(244℃)、トリエチレングリコール(287℃)、テトラエチレングリコール(314℃)、プロピレングリコール(188℃)などのニ価アルコール類;グリセリン(290℃)、トリメチロールプロパン(292℃)、ソルビトール(296℃)、マンニトール(290〜295℃)、ペンタエリスリトール(276℃)、ポリグリセリンなどの三価以上の多価アルコール類;および、エチレングリコールモノメチルエーテル(124℃)、エチレングリコールモノエチルエーテル(136℃)、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル(171℃)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(120℃)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(メチルカルビトール)(194℃)などのアルコール誘導体があげられる。なお、上記( )内の温度は沸点を示す。これらのアルコール類は、単独で用いても良く、二種以上を併用しても良い。
【0072】
特に、印刷後の塗膜の急速な乾燥が抑制され、レベリング性の改善効果が大きい点で、水よりも沸点が高いアルコール類、すなわち沸点が100℃以上のアルコール類を用いることが好ましく、より好ましくは、沸点が150〜350℃のもの、さらに好ましくは、沸点が200〜300℃のものが用いられる。
【0073】
前記ドーパント拡散用水系塗布液にアルコール類を配合する場合、その配合量は、通常、塗布液の全量に対して5〜70重量部であり、好ましくは10〜60重量部、より好ましくは30〜50重量部の範囲である。また、アルコール類の、水100重量部に対する配合量は、通常5〜200重量部であり、好ましくは20〜150重量部、より好ましくは80〜120重量部の範囲である。すなわち、かかるアルコール類の含有量が少なすぎると、流動性の改善効果、およびレベリング効果が充分得られなくなり、逆に多すぎると、PVA系樹脂の溶解性が低下し、均一な塗布液が得られなくなったり、高沸点のアルコール類を用いた際に高温・長時間の乾燥を要する傾向があるからである。
【0074】
また、前記ドーパント拡散用水系塗布液に、界面活性剤を配合すると、半導体表面への濡れ性が向上し、さらに塗布液の発泡が抑制され、気泡に起因する印刷不良を防止することが可能となるため好ましい。上記塗布液に用いられる界面活性剤は、ノニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤に大別でき、いずれも使用することができるが、半導体への金属成分等の持込が少ないことから、ノニオン系界面活性剤が好ましい。
【0075】
上記ノニオン系界面活性剤としては、例えば、エチレンオキサイド−プロピレンオキサイドのブロック共重合体、アセチレングリコール誘導体などの炭化水素系界面活性剤、シリコン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤等があげられる。なかでも、前記ドーパント拡散用水系塗布液において、発泡の抑制、および消泡性に優れている点で、炭化水素系界面活性剤、特にアセチレングリコール誘導体が、好ましく用いられる。
【0076】
上記アセチレングリコール誘導体としては、下記の一般式(5)で表されるものが好ましく用いられる。
【0077】
【化7】

【0078】
上記一般式(5)中のR12,R15は、それぞれ独立して、炭素数1〜20のアルキル基を示し、好ましくは炭素数1〜5のアルキル基、より好ましくは炭素数3〜5のアルキル基である。また、R13,R14は、それぞれ独立して、炭素数1〜3のアルキル基を示し、特にメチル基のものが好ましく用いられる。なお、R12とR15、およびR13とR14は、それぞれ同一であっても異なったものであってもよいが、それぞれ同一構造のものが好ましく用いられる。また、上記一般式(5)中のn,mは、それぞれ0〜30の整数である。そして、特に、m+nが1〜10のものが好ましく、より好ましくはm+nが1〜5、さらに好ましくはm+nが1〜3のものである。
【0079】
上記アセチレングリコール誘導体としては、具体的には、2,5,8,11−テトラメチル−6−ドデシン−5,8−ジオールのエチレンオキサイド付加物、5,8−ジメチル−6−ドデシン−5,8−ジオールのエチレンオキサイド付加物、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7ジオールのエチレンオキサイド付加物、4,7−ジメチル−5−デシン−4,7−ジオールのエチレンオキサイド付加物、2,3,6,7−テトラメチル−4−オクチン−3,6ジオールのエチレンオキサイド付加物、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオールのエチレンオキサイド付加物、2,5−ジメチル−3−へキシン−2,5−ジオールのエチレンオキサイド付加物等があげられる。これらのなかでも、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7ジオールのエチレンオキサイド付加物であって、エチレンオキサイドの付加量(m+n)が1〜2であるものが、好ましく用いられる。
【0080】
かかるアセチレングリコール誘導体(界面活性剤)の市販品としては、日信化学工業社製のサーフィノールシリーズ等があげられる。
【0081】
前記ドーパント拡散用水系塗布液に界面活性剤を配合する場合、その配合量は、通常、塗布液の全量に対して0.1〜10重量%であり、好ましくは0.3〜8重量%、より好ましくは0.5〜5重量%の範囲である。すなわち、かかる界面活性剤の配合量が少なすぎると、抑泡・消泡効果が不充分である場合があり、逆に多すぎると、液から分離して、均一な溶液が得られなくなる場合があるからである。
【0082】
また、前記ドーパント拡散用水系塗布液には、その他、スクリーン印刷特性を改善する目的で、各種の無機微粒子を配合することが可能である。
【0083】
上記無機微粒子としては、コロイダルシリカ、非晶質シリカ、フュームドシリカなどのシリカ類が好ましく、特に、コロイダルシリカがより好ましく用いられる。
【0084】
かかる無機微粒子の配合量は、通常、塗布液中0.5〜20重量%であり、好ましくは1〜10重量%の範囲である。
【0085】
本発明の太陽電池の製法に用いられるドーパント拡散用水系塗布液は、先に述べたように、PVA系樹脂と、ドーパント化合物と、溶媒である水とを含有するものであり、必要に応じ、アルコール類、界面活性剤、無機微粒子等といった、その他の材料を更に配合してなるものである。そして、上記塗布液の調製法としては、例えば、PVA系樹脂を水溶液とした後、これにドーパント化合物、および他の添加剤を配合する方法や、予めPVA系樹脂とドーパント化合物を混合しておき、これを水中に投入、撹拌しながら加熱し溶解した後、他の添加剤を配合する方法等があげられる。
【0086】
一方、本発明の太陽電池の製法において、スピンコート法により塗布される前記ドーパント拡散用有機溶剤系塗布液は、ドーパント化合物と、溶媒である有機溶剤とを含有する。以下、これら各材料について説明する。
【0087】
〔ドーパント化合物〕
前記ドーパント拡散用有機溶剤系塗布液において配合されるドーパント化合物としては、前記ドーパント拡散用水系塗布液と同じく、15族元素化合物や13族元素化合物が用いられる。
【0088】
15族元素化合物は、一般にn型半導体の製造において、不純物として用いられるものであり、リン化合物やアンチモン化合物をあげることができるが、なかでもリン化合物が好ましく用いられる。具体的には、無水リン酸(P25),リン酸(H3PO4)などのリン酸類、リン酸メラミン,リン酸アンモニウムなどのリン酸塩類、アシッドホスホキシメタクリレート,3−クロロ−2−アシッドホスホキシエチルメタクリレート,アシッドホスホキシポリエチレングリコールモノメタクリレート,アシッドホスホキシポリオキシプロピレングリコールモノメタクリレートなどのリン酸エステル類、およびその塩、塩化リン等があげられる。なかでも、有機溶剤溶解性のものが好ましく、特に無水リン酸(P25),リン酸(H3PO4)が好ましく用いられる。
【0089】
13族元素化合物は、一般にp型半導体の製造において不純物として用いられるものであり、ホウ素化合物やアルミニウム化合物をあげることができるが、なかでもホウ素化合物が好ましく用いられる。かかるホウ素化合物の具体例としては、ホウ酸、三酸化二ホウ素などのホウ酸類、ホウ酸アンモニウムなどのホウ酸塩類、フッ化ホウ素、三塩化ホウ素、三臭化ホウ素、三ヨウ化ホウ素などのハロゲン化物、ホウ酸トリメチル、ホウ酸トリエチル、ホウ酸トリイソプロピルなどのホウ酸エステル類、アンモニアボランなどのボラン化合物、窒化ホウ素などをあげることができる。なかでも、ホウ酸が好ましく用いられる。
【0090】
なお、これらのドーパント化合物は、単独で用いてもよく、二種以上のものを組合わせて用いてもよい。
【0091】
前記ドーパント拡散用有機溶剤系塗布液中のドーパント化合物の含有量は、スピンコート法によるドーパント低濃度拡散部11bの形成性の観点から、通常0.01〜30重量%であり、好ましくは0.05〜20重量%、より好ましくは0.1〜10重量%の範囲である。すなわち、上記ドーパント化合物の含有量が少ないと、拡散層中のドーパントの含有量が少なくなり、充分な抵抗値が得られない場合があるからであり、逆に、上記ドーパント化合物の含有量が多すぎると、ドーパント高濃度拡散部11aとの有為な表面抵抗値の差が得られない場合があるからである。
【0092】
〔有機溶剤〕
前記ドーパント拡散用有機溶剤系塗布液に用いられる有機溶剤としては、具体的には、メタノール(65℃)、エタノール(78℃)、イソプロパノール(82℃)などの一価アルコール類;エチレングリコール(197℃)、ジエチレングリコール(244℃)、トリエチレングリコール(287℃)、テトラエチレングリコール(314℃)、プロピレングリコール(188℃)などのニ価アルコール類;グリセリン(290℃)、トリメチロールプロパン(292℃)、ソルビトール(296℃)、マンニトール(290〜295℃)、ペンタエリスリトール(276℃)、ポリグリセリンなどの三価以上の多価アルコール類;および、エチレングリコールモノメチルエーテル(124℃)、エチレングリコールモノエチルエーテル(136℃)、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル(171℃)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(120℃)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(メチルカルビトール)(194℃)などのアルコール誘導体等が用いられる。
【0093】
前記ドーパント拡散用有機溶剤系塗布液における有機溶剤の含有量は、通常30〜99.99重量%であり、好ましくは40〜99.95重量%、より好ましくは50〜99.9重量%の範囲である。すなわち、かかる有機溶剤の含有量が少なすぎると、塗布液の粘度が高くなりすぎ、スピンコート法による塗布作業性が低下しやすくなる傾向があるからであり、逆に多すぎると、粘度が低くなりすぎて塗膜が安定して形成されにくくなったり、拡散層中のドーパントの含有量が少なくなりすぎる場合があるからである。
【0094】
〔その他の材料〕
本発明の太陽電池の製法に用いられるドーパント拡散用有機溶剤系塗布液は、先に述べたように、ドーパント化合物と、溶媒である有機溶剤とを含有するものであるが、必要に応じ、スクリーン印刷に用いるドーパント拡散用水系塗布液と同じく、界面活性剤、無機微粒子等といった、その他の材料を更に配合することも可能である。なお、これらの材料を更に配合する場合、スピンコート法による塗布作業性を阻害しない範囲で配合する必要がある。
【0095】
上記ドーパント拡散用有機溶剤系塗布液は、例えば、上記ドーパント化合物等を有機溶剤に加え、混合・撹拌することにより調製することができる。
【0096】
そして、上記のようにしてドーパント拡散用水系塗布液およびドーパント拡散用有機溶剤系塗布液を調製し、この塗布液を用い、先の図2に示したように、半導体基板1の一面にセレクティブエミッタ層11を形成した後、例えば、図1に示すように、受光面電極4、反射防止膜5、BSF層6、ペースト電極7、裏面電極8を形成することにより、目的とする太陽電池を製造することができる。
【0097】
上記半導体基板1は、例えば、単結晶あるいは多結晶のp型シリコンからなるものや、n型シリコンからなるもの等が用いられる。また、上記基板1は、チョクラルスキー(CZ)法およびフロートゾーン(FZ)法のいずれの方法によって作製されたものであってもよい。さらに、上記基板1の表面(受光面)には、可視光域の反射率を低減させるため、エッチング等により、微小な凹凸形状を形成することが好ましい。
【0098】
また、上記反射防止膜5は、ダイレクトプラズマCVD法,コーティング法,真空蒸着法等によって、二酸化チタン膜,酸化亜鉛膜,酸化スズ膜、窒化シリコン膜、酸化ジルコン膜、酸化チタン膜等を成膜することにより、形成することができる。上記反射防止膜5の厚みは、その反射防止機能を良好に得る観点から、好ましくは70〜100nmの範囲である。
【0099】
また、上記ペースト電極7は、例えば、アルミニウムペーストを、スクリーン印刷,真空蒸着法,スパッタリング法等により塗布し、乾燥させた後、500〜900℃で焼成することにより形成される。上記受光面電極4や裏面電極8も、スクリーン印刷,真空蒸着法,スパッタリング法等により銀ペーストを塗布し、乾燥させた後、500〜900℃で焼成することにより形成される。なお、上記BSF層6は、上記アルミニウムペースト塗布後の焼成工程で形成される。また、上記裏面電極8は、任意により形成されるものであり、本発明にかかる太陽電池において必須ではない。
【実施例】
【0100】
つぎに、実施例について、比較例と併せて説明する。ただし、本発明は、その要旨を超えない限り、これら実施例に限定されるものではない。なお、例中、「部」、「%」とあるのは、断りのない限り重量基準を意味する。
【0101】
まず、実施例および比較例に先立ち、未変性PVA(a)(けん化度78モル%、平均重合度1400)と、変性PVA(a)とを準備した。上記変性PVA(a)は、以下のようにして作製した。
【0102】
<変性PVA(a)の作製>
還流冷却器、滴下漏斗、撹拌機を備えた反応容器に、酢酸ビニル1500部、メタノール800部、3,4−ジアセトキシ−1−ブテン240部を仕込み、アゾビスイソブチロニトリルを0.05モル%(対仕込み酢酸ビニル)投入し、撹拌しながら窒素気流下で温度を上昇させ、重合を開始した。酢酸ビニルの重合率が87%となった時点で、m−ジニトロベンゼンを添加して重合を終了し、続いて、メタノール蒸気を吹き込む方法により未反応の酢酸ビニルモノマーを系外に除去し共重合体のメタノール溶液とした。
【0103】
ついで、上記メタノール溶液をさらにメタノールで希釈し、濃度40%に調整してニーダーに仕込み、溶液温度を40℃に保ちながら、水酸化ナトリウムの2%メタノール溶液を共重合体中の酢酸ビニル構造単位および3,4−ジアセトキシ−1−ブテン構造単位の合計量1モルに対して8ミリモルとなる割合で加えてケン化を行った。ケン化が進行するとともにケン化物が析出し、粒子状となった時点で濾別し、メタノールでよく洗浄して熱風乾燥機中で乾燥し、目的とする変性PVA(a)を得た。
【0104】
得られた変性PVA(a)のケン化度は、残存酢酸ビニルおよび3,4−ジアセトキシ−1−ブテンの加水分解に要するアルカリ消費量にて分析したところ、99.8モル%であった。また、平均重合度は、JIS K 6726に準じて分析を行ったところ、350であった。また、前記一般式(1)で表される1,2−ジオール構造単位の含有量は、1H−NMR(300MHzプロトンNMR、d6−DMSO溶液、内部標準物質;テトラメチルシラン、50℃)にて測定した積分値より算出したところ、8モル%であった。
【0105】
〔実施例1〕
<リン拡散用有機溶剤系塗布液の調製>
ELエタノール(関東化学社製、高純度エタノール)96部に、エチルシリケート(コルコート社製、エチルシリケート28)2.5部、五酸化二リン1.5部を添加して、リン拡散用有機溶剤系塗布液を調製した。
【0106】
<半導体基板への塗布(1)>
上記調製のリン拡散用有機溶剤系塗布液を、下記の条件で、半導体基板(多結晶シリコン、156mm角、200μm厚)の全面に対しスピンコートにて塗布した。
(スピンコート条件)
使用機器:ミカサ社製「MS−A150」
コート条件:2cc、1000rpm、30秒
乾燥条件:150℃、10分
塗布量:5mg
【0107】
<リン拡散用水系塗布液(α)の調製>
超純水71部に、未変性PVA(a)7部を加え、加熱撹拌しながら溶解し、溶液(α1)を作製した。また、グリセリン20部に、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオールのエチレンオキサイド付加物(日信化学工業社製「サーフィノール420」)1.5部を添加して、溶液(α2)を作製した。かかる溶液(α1)に、リン酸水溶液(関東化学社製、EL用、リン酸85重量%、水15重量%)0.6部(純分0.5部)を添加し、さらに溶液(α2)を添加、撹拌してリン拡散用水系塗布液(α)を調製した。
【0108】
<半導体基板への塗布(2)>
前記「半導体基板への塗布(1)」においてスピンコート法による全面塗布を行った半導体基板に対し、その塗布面の上から、上記調製のリン拡散用水系塗布液(α)を、下記の印刷条件にてスクリーン印刷した。
(印刷条件)
印刷機:ニューロング精密工業社製「LS−34GX」
スキージー:ニューロング精密工業社製NMスキージー(硬度:60)
スキージー角:80度
スクレッパー:ニューロング精密工業社製NMスキージー(硬度:60)
スクレッパー角:86度
印圧:0.2MPa
スクリーン版:東京プロセスサービス社製
版サイズ:450mm角
メッシュ種:V330
乳剤種:TN−1
乳剤厚:10μm
パターン:200μm幅、5mmピッチ
印刷環境:23℃、60%RH
乾燥条件:150℃、10分
塗布量(塗布部):5mg
【0109】
<セレクティブエミッタ層の形成(熱処理)>
上記のようにしてリン拡散用塗布液が塗布された半導体基板を、700℃のチューブ炉に投入し、15分間保持した後、チューブ炉の温度を875℃にして10分間保持し、さらに700℃で60分間保持した。上記チューブ炉による熱処理は、N2流量98L/min、O2流量2L/minの雰囲気下で行った。上記熱処理後、半導体基板を取り出し、46%フッ化水素水溶液に浸漬し、3分間静置して洗浄し、半導体基板中にリンの拡散層(セレクティブエミッタ層)を有する半導体を得た。
【0110】
〔実施例2〕
<リン拡散用水系塗布液(β)の調製>
超純水36部に、変性PVA(a)22部を加え、加熱撹拌しながら溶解し、溶液(β1)を作製した。また、グリセリン40部、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオールのエチレンオキサイド付加物(日信化学工業社製「サーフィノール420」)1.5部を添加して溶液(β2)を作製した。かかる溶液(β1)に、リン酸水溶液(関東化学社製、EL用、リン酸85重量%、水15重量%)0.6部(純分0.5部)を添加し、さらに溶液(β2)を添加、撹拌してリン拡散用水系塗布液(β)を調製した。
【0111】
つぎに、実施例1と同様の条件で、前記リン拡散用有機溶剤系塗布液のスピンコートによる塗布を行った後、前記リン拡散用水系塗布液(α)に代えて、上記調製のリン拡散用水系塗布液(β)を用い、実施例1と同様の条件で、スクリーン印刷によるパターン塗布を行った。そして、実施例1と同様の条件で、熱処理によるリンの拡散(セレクティブエミッタ層の形成)を行い、半導体基板中にリンの拡散層(セレクティブエミッタ層)を有する半導体を得た。
【0112】
〔比較例1〕
実施例1における、リン拡散用水系塗布液(α)のスクリーン印刷によるパターン塗布(先の「半導体基板への塗布(2)」)の後に、リン拡散用有機溶剤系塗布液のスピンコートによる全面塗布(先の「半導体基板への塗布(1)」)を行った。それ以外は、実施例1と同様にして、半導体基板中にリンの拡散層(セレクティブエミッタ層)を有する半導体を得た。
【0113】
〔実施例3〕
<ホウ素拡散用有機溶剤系塗布液の調製>
ELエタノール(関東化学製 高純度エタノール)45部、メチルカルビトール45部に、エチルシリケート(コルコート株式会社製エチルシリケート28)2.5部、ホウ酸7.5部を添加して、ホウ素拡散用有機溶剤系塗布液を調製した。
【0114】
<半導体基板への塗布(1)>
上記ホウ素拡散用有機溶剤系塗布液(γ)を、実施例1と同様の手法で、半導体基板に塗布(スピンコート)した。
【0115】
<ホウ素拡散用水系塗布液(γ)の調製>
超純水42.5部に、変性PVA(a)15部を加え、加熱撹拌しながら溶解し、溶液(γ1)を作製した。また、グリセリン40部に、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオールのエチレンオキサイド付加物(日信化学工業社製「サーフィノール420」)0.5部を添加して、溶液(γ2)を作製した。かかる溶液(γ1)に、ホウ酸2.0部を添加し、さらに溶液(γ2)を添加、撹拌してホウ素拡散用水系塗布液(γ)を調製した。
【0116】
<半導体基板への塗布(2)>
前記「半導体基板への塗布(1)」においてスピンコート法による前面塗布を行った半導体基板に対し、その塗布面の上から、上記ホウ素拡散用水系塗布液を、実施例1と同様の条件で、スクリーン印刷した。
【0117】
<セレクティブエミッタ層の形成(焼成)>
上記のようにしてホウ素拡散用塗布液が塗布された半導体基板を、700℃のチューブ炉に投入し、15分間保持した後、チューブ炉の温度を950℃にして10分間保持し、さらに700℃で60分間保持した。上記チューブ炉による熱処理は、当初から950℃10分保持している間までは、N2流量100L/minの雰囲気下で行い、その後700℃で60分間保持している間は、O2流量10L/minの雰囲気下で行った。かかるN2の純度は99.9995vol%であり、O2の純度は99.6vol%であった。上記熱処理後、半導体基板を取り出し、46%フッ化水素水溶液に浸漬し、3分間静置して洗浄し、半導体基板中にホウ素の拡散層(セレクティブエミッタ層)を有する半導体を得た。
【0118】
このようにして得られた実施例および比較例の半導体に関し、下記の基準に従って、各特性の評価を行った。その結果を、後記の表1に併せて示した。
【0119】
〔表面抵抗値〕
抵抗測定器(三菱化学アナリテック社製「ロレスターGP」、PSPプローブ使用)を用い、4探針をセレクティブエミッタ層のラインパターン部にあて、上記セレクティブエミッタ層における、ドーパントの高濃度拡散部と、低濃度拡散部との表面抵抗値を測定した。
【0120】
〔残渣〕
上記熱処理後にセレクティブエミッタ層表面に残った残渣(炭素残渣)を、目視により確認した。すなわち、目視によりラインパターンが判別できるものを「残渣あり」と評価し、判別できないものを「残渣なし」と評価した。
【0121】
【表1】

【0122】
上記結果から、実施例1,2,3において高濃度拡散部の表面抵抗値の低下が良好になされたことから、実施例1,2,3における高濃度拡散部と低濃度拡散部との表面抵抗値の差は、比較例1における上記表面抵抗値の差よりも大きい値を示すことがわかる。また、実施例1,2,3では、半導体のセレクティブエミッタ層表面に残渣がみられなかったのに対し、比較例1では残渣が確認された。
【0123】
そして、実施例1,2,3のように高濃度拡散部と低濃度拡散部との表面抵抗値の差が大きく、表面残渣のないセレクティブエミッタ層を備えた半導体を用い、太陽電池を作製した(図1参照)ところ、比較例1の半導体を用いた太陽電池に比べ、光電変換効率の高い高性能の太陽電池を作製することができた。
【産業上の利用可能性】
【0124】
本発明の太陽電池の製法は、光電変換効率の高い高性能の太陽電池の効率的な製造を実現することができる。そして、その半導体におけるセレクティブエミッタ層の形成方法は、例えば、トランジスタ、ダイオード等の半導体装置にも適用することができ、工業的に極めて有用である。
【符号の説明】
【0125】
1 :半導体基板
11 :セレクティブエミッタ層
11a:ドーパント高濃度拡散部
11b:ドーパント低濃度拡散部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
部分的にドーパント濃度の異なるセレクティブエミッタ層を一面に有する半導体基板を備えた太陽電池の製法であって、ドーパント濃度の低いドーパント拡散用有機溶剤系塗布液をスピンコート法によって半導体基板の一面に全体的に塗布し、ついで、ポリビニルアルコール系樹脂を含有するドーパント濃度の高いドーパント拡散用水系塗布液を、スクリーン印刷によって上記基板の一面に部分的に塗布した後、熱処理を行い、上記基板の一面において、上記スピンコート法による全面塗布とスクリーン印刷による部分塗布とが重ねてなされた半導体基板の表層部分をドーパント高濃度拡散部にし、上記スピンコート法による全面塗布のみがなされた半導体基板の表層部分をドーパント低濃度拡散部にして、半導体基板に上記セレクティブエミッタ層を形成することを特徴とする太陽電池の製法。
【請求項2】
上記ドーパント拡散用水系塗布液に含有するポリビニルアルコール系樹脂が、下記の一般式(1)で表される1,2−ジオール構造単位を有するポリビニルアルコール系樹脂である、請求項1記載の太陽電池の製法。
【化1】

【請求項3】
請求項1または2記載の製法により得られることを特徴とする太陽電池。

【図1】
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【図2】
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