説明

太陽電池の製造方法

【課題】太陽電池セルのテクスチャ形成工程では、微細なテクスチャを均一に形成することが困難であり、テクスチャの出来は太陽電池特性に影響を与える。
【解決手段】本発明は、太陽電池のテクスチャ形成工程において、アルカリ水溶液にケイ素化合物を添加することで、微細なテクスチャを均一に形成することが可能となり、基板の反射率が低減する。これにより、高効率の太陽電池を製造することが可能となった。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板表面にテクスチャを形成する工程において、アルカリエッチング液にケイ素化合物を添加して、ウェハー表面に微細なテクスチャを均一に形成して反射率を低減させ、太陽電池特性を向上させることを可能とする太陽電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、民生用の太陽電池を製造するにあたって、太陽電池の高効率化及び製造コストの低減が重要課題となっている。一般的には、以下のような工程で太陽電池を製造する方法が広く採用されている。図1に一般的な太陽電池の概略断面図を示す。
【0003】
まず、チョクラルスキー(CZ)法により作製した単結晶シリコンインゴットやキャスト法により作製した多結晶シリコンインゴットをマルチワイヤー法でスライスすることにより得られたp型シリコン基板1を用意する。次に、アルカリ溶液で基板表面のスライスによるダメージを取り除いた後、最大高さ10μm程度の微細凹凸(テクスチャ)を受光面と裏面との両面に形成する。太陽電池は通常、表面に凹凸形状を形成するのが好ましい。その理由は,可視光域の反射率を低減させるために、できる限り2回以上の反射を受光面で行わせる必要があるためである。これら一つ一つの山のサイズは1〜20μm程度でよいが、特に1〜5μmの時に反射率は最小となる。
【0004】
続いて、種々の方法により基板にリンガラス膜を形成して、リンドーパントを熱拡散させてn型拡散層2を形成する。更に受光面にはシリコン窒化膜3を例えば70nm程度の膜厚で堆積させて、反射防止膜とする。このシリコン窒化膜の代わりに、酸化チタン膜を使用することも可能である。次に、モジュールにする際にリボン線との半田付けの濡れ性で好適な銀を主成分とする裏面電極用ペーストと、アルミニウムを主成分とする裏面電極用ペーストを、裏面外周部を除く裏面全面にわたり印刷し、乾燥させる。一方、受光面電極は、銀を主成分とする受光面電極用ペーストを例えば幅100〜200μm程度の櫛歯状に印刷・乾燥させて、最高温度700〜800℃で1分間以下の焼成を行うRTP(Rapid Thermal Processing)焼成を行い、裏面銀電極4、裏面アルミニウム電極5及び表面櫛歯状銀電極6を形成する。この焼成工程により、電極ペースト中のガラスフリットがシリコンの自然酸化膜及びシリコン窒化膜をファイアスルーして、電極と拡散層との電気的な導通が達成される。
【0005】
このような手法は、デバイスを構成する上で必要最小限の工程数となっているにもかかわらず、エネルギー変換効率等の太陽電池の特性を高める様々な効果が付随している点で優れた手法である。例えば、基板に拡散層を形成する際のドーパントの熱処理工程では、その後の低温熱処理におけるゲッタリング作用により少数キャリヤのバルクライフタイムを改善する働きがある。また、裏面電極を形成する際、裏面に印刷したアルミニウムの焼成は電極を形成すると同時に裏面に電界層(BSF:Back Surface Field)効果のあるp+高濃度層7を形成することができる。更に、反射防止膜は、光学的効果(反射率低減)と共にシリコン表面近傍で発生する少数キャリヤの再結合速度を低減する働きがある。
このような必要最小限工程数といくつかの有用な効果により、民生用太陽電池は以前より高効率化及び低コスト化が図られている。
【0006】
しかしながら、上記テクスチャ形成工程は、均一なテクスチャの形成が困難であり、不均一なテクスチャを形成してしまうと反射率が高くなって、太陽電池特性が低下する。
なお、本発明に関連する先行文献としては特開2007−194485号公報(特許文献1)が挙げられ、この公報では、ミクロンオーダーの凹凸の表面にサブミクロンオーダーの凹凸が形成されたシリコン基板を製造する際に、金属イオンを含有する、酸化剤とフッ化水素酸の混合水溶液で基板をエッチングすること、テクスチャ作製用のエッチング液に金属イオンとして銀、白金、パラジウム、金、銅などを用いることができることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−194485号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記問題点を鑑みてなされたものであって、本発明は、微細なテクスチャを均一に形成することにより、基板の反射率を低減させ、太陽電池の高効率化を図ることができる太陽電池の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、太陽電池を製造するに際し、半導体シリコン基板にテクスチャ構造を形成する場合、テクスチャを形成するアルカリ水溶液にケイ素化合物、特にシリカを添加したものを用い、この中に基板を浸漬して処理を行うことにより、均一で微細なテクスチャを形成し得ることを知見し、本発明をなすに至った。
【0010】
従って、本発明は下記の太陽電池の製造方法を提供する。
請求項1:
半導体シリコン基板の表裏面にテクスチャ構造を形成する太陽電池の製造方法であって、該テクスチャを形成する際、ケイ素化合物を含有するアルカリ水溶液に該基板を浸漬させることを特徴とする太陽電池の製造方法。
請求項2:
ケイ素化合物がシリカである請求項1記載の太陽電池の製造方法。
請求項3:
ケイ素化合物の形状が球状である請求項1又は2記載の太陽電池の製造方法。
請求項4:
ケイ素化合物の平均粒径が10μm以下である請求項1〜3のいずれか1項記載の太陽電池の製造方法。
請求項5:
アルカリ水溶液中のケイ素化合物含有量が1.0〜10質量%である請求項1〜4のいずれか1項記載の太陽電池の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るテクスチャ処理を行うことで、均一なテクスチャを形成することができ、反射率の低い太陽電池を歩留まり良く作製することができる。これにより、基板に入射する光量が増大して太陽電池の変換効率が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】一般的な太陽電池の概略断面図である。
【図2】本発明の太陽電池の製造方法の一例を説明するフロー図である。
【図3】本発明の太陽電池の製造方法の一例を説明する断面図であり、(a)は基板、(b)は基板にリン拡散層を形成した状態、(c)は接合分離した状態、(d)はシリコン窒化膜を形成した状態、(e)は電極を印刷した状態、(f)は焼成して電極を形成した状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のテクスチャ形成工程を含む太陽電池の製造方法の実施形態について、図2,3を参照して以下に説明するが、本発明は下記の製造方法に限定されるものではない。
【0014】
まず、一般的なワイヤーソーによるインゴット結晶のスライスを行って、基板厚が100〜200μmのボロンドープp型単結晶シリコン基板1を用意する[図2(i)]。このシリコン単結晶はチョクラルスキー(CZ)法及びフロートゾーン(FZ)法のいずれの方法によって作製されていても構わない。基板の比抵抗は例えば0.1〜20Ω・cmが好ましく、特に0.5〜2.0Ω・cmであることが高い性能の太陽電池を作る上で好適である。
【0015】
次に、基板1を水酸化ナトリウム水溶液に浸し、ダメージ層をエッチングで取り除く[図2(ii)]。この基板のダメージ除去は、水酸化カリウム等の強アルカリ水溶液を用いても構わない。また、フッ硝酸等の酸水溶液でも同様の目的を達成することが可能である。
【0016】
ダメージエッチングを行った基板1にランダムテクスチャを形成する[図2(iii)]。
【0017】
テクスチャ構造を形成するには、例えば水酸化カリウム等のアルカリにイソプロピルアルコールを加えた水溶液に浸して異方性のウェットエッチングを行う。水酸化カリウム水溶液の代わりに水酸化ナトリウム水溶液を用いても同様の効果が得られる。この場合、水酸化カリウムや水酸化ナトリウムの濃度は0.5〜5質量%、特に0.5〜3質量%程度とすることが好ましい。
【0018】
この際、アルカリ水溶液にケイ素化合物を含有させることにより、微細なテクスチャを均一に形成することが可能となる。
【0019】
上記ケイ素化合物は、粒径や形状を制御しやすい点で、二酸化ケイ素によって構成されるシリカであることが望ましい。
【0020】
シリカは、球状であることが好ましく、粒度分布が10μm以下、好ましくは1〜10μm、特に1〜5μmとすることで、最も反射率を低下させることが可能となる。ここで、走査電子顕微鏡(SEM)写真上のシリカ形状の二箇所の球直径の最大値と最小値の差分が20%以内である状態を球形とみなした場合において、球状粒子の粒度分布が10μm以下であるような粒度分布状態で最も反射率を低下させることが可能となる。
【0021】
また、シリカの含有率はアルカリ水溶液中1.0〜10質量%であることが反射率低減に効果的である。シリカの含有率が1質量%未満であると、シリカによるテクスチャ微細化の効果が小さくなり、また10質量%を超えてしまうと、アルカリ溶液による異方性エッチングを阻害してしまう。
【0022】
更に、アルカリ水溶液中には、テクスチャ微細化の効果を上げるため、イソプロピルアルコール(IPA)を1〜10質量%配合してもよい。
【0023】
なお、図1,3では両面に形成したテクスチャ構造は微細なため省略している。以上の加工処理を行うことで、テクスチャ構造を有するシリコン基板を作製することができる[図3(a)]。
【0024】
次に、基板を例えば過酸化水素水と純水との混合液により洗浄[図2(iv)]後、n型拡散層2を受光面に形成する[図2(v)、図3(b)]。具体的には、POCl3ガス雰囲気下で熱処理を行うことでn型拡散層2を受光面に形成する。
【0025】
上記の熱処理工程でのドーパント拡散は、気相拡散法だけでなく、ドーパントを含む塗布剤を用いる塗布拡散法を用いてもよい。
【0026】
次に、一般的なエッチングガスである四フッ化炭素を使用したプラズマエッチング装置を用いて、端面におけるpnの接合分離を行う[図2(vi)、図3(c)]。このプロセスではプラズマやラジカルが受光面や裏面に侵入しないよう、サンプルをスタックし、その状態で、端面を数ミクロン削る。これにより、基板側面にオートドーピング等の現象により形成される可能性のあるボロン拡散層又はリン拡散層が除去され、漏れ電流の少ない太陽電池を作製することができる。
【0027】
基板に付いたリンガラス成分は5〜25質量%HF水溶液等を用いたガラスエッチング等により洗浄する[図2(vii)]。
【0028】
引き続き、ダイレクトプラズマCVD装置を用い、受光面にシリコン窒化膜3を堆積させる[図2(viii)、図3(d)]。この膜厚は、反射防止膜も兼ねさせるため70〜100nmが適している。他の反射防止膜としてシリコン酸化膜や、二酸化チタン膜、酸化亜鉛膜、酸化スズ膜等があり、代替が可能である。また、形成法も上記以外にリモートプラズマCVD法、コーティング法、真空蒸着法等があるが、経済的な観点から、上記窒化膜をプラズマCVD法によって形成するのが好適である。
【0029】
次に、スクリーン印刷装置を用い、裏面側に例えば銀電極4用ペースト、アルミニウム電極5用ペーストを印刷、乾燥する[図2(ix)]と共に、受光面側に例えば受光面電極6用の銀ペーストを櫛形電極パターン状にスクリーン印刷して乾燥させる[図2(x)、図3(e)]。
【0030】
最後に、焼成炉において焼成を行い[図2(xi)、図3(f)]、裏面銀電極4及び裏面アルミニウム電極5、受光面電極6を形成し、所望の太陽電池を得る[図3(f)]。電極焼成時に形成されるアルミニウムBSF層7は、太陽電池の開放電圧の向上に寄与する。
【実施例】
【0031】
以下、本発明の実施例、参考例及び比較例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
【0032】
[実施例1]
上記実施形態に示した工程でn+pp+太陽電池を製造した。
このとき、用意した基板は、結晶面方位(100)、15.65cm角、アズスライス比抵抗2Ω・cm(ドーパント濃度7.2×1015cm-3)ボロンドープp型単結晶シリコン基板である。NaOH水溶液を用いて、スライスダメージのエッチングを行った。ダメージエッチング後の基板厚は200μmであった。
次に、KOH水溶液を用いてテクスチャエッチングを行った。
以下、テクスチャエッチング工程の具体的な方法を示す。
KOHが1.5質量%、IPAが5質量%となる水溶液を作製し、これに粒度分布測定装置(マルバーン社製)により測定した粒度分布が1〜10μmの球状シリカ5質量%となるように加え、80℃に加温した。このエッチング液に基板を30分浸してテクスチャエッチングを行った。エッチング液の循環圧力は0.3MPaで一定とした。
テクスチャエッチング後の基板表面にRCA洗浄を施し、基板表面を洗浄した。
次に、受光面側にn型拡散層を形成するため、POCl3を用いたリン拡散を行った。リン拡散層を形成するための熱処理は900℃,1時間で、窒素雰囲気下で熱処理を行った。
拡散層形成後のリンガラス膜の除去は、25質量%HF水溶液を用いて行った。
pn接合分離は、一般的なCF4ガス及び酸素ガスを用いたプラズマエッチング装置を用いて行い、基板をスタックして処理することで、端面のリン拡散層をエッチングした。
次に、プラズマCVD装置を用いて、反射防止膜であるシリコン窒化膜を90nmの厚みで受光面に堆積させた。
受光面側及び裏面側にそれぞれ銀ペーストを、また裏面の銀電極以外の全面にアルミニウム電極をスクリーン印刷し、それぞれ200℃で10分間乾燥させ、焼成炉において800℃で20分間焼成した。
【0033】
[参考例1]
シリカ形状が板状(主たる大きさが縦4μm、横6μm)であること以外は、実施例1と同様の処理を行って太陽電池を作製した。
【0034】
[参考例2]
シリカ形状が針状(主たる大きさが長さ6μm、底面直径約1μm)であること以外は、実施例1と同様の処理により太陽電池を作製した。
【0035】
[参考例3]
シリカの粒度分布が0〜1μmであること以外は、実施例1と同様の処理により太陽電池を作製した。
【0036】
[参考例4]
シリカの粒度分布が10〜50μmであること以外は、実施例1と同様の処理により太陽電池を作製した。
【0037】
[参考例5]
シリカの含有率が0.5質量%であること以外は、実施例1と同様の処理により太陽電池を作製した。
【0038】
[参考例6]
シリカの含有率が1.0質量%であること以外は、実施例1と同様の処理により太陽電池を作製した。
【0039】
[参考例7]
シリカの含有率が10質量%であること以外は、実施例1と同様の処理により太陽電池を作製した。
【0040】
[参考例8]
シリカの含有率が15質量%であること以外は、実施例1と同様の処理により太陽電池を作製した。
【0041】
[比較例1]
シリカを添加しないこと以外は、実施例1と同様の処理により太陽電池を作製した。
【0042】
本実施例及び比較例で得られたテクスチャ形成後の基板のテクスチャ高さと反射率を表1に示す。なお、それぞれの値は基板の面内5点を測定した結果を平均したものである。テクスチャ高さはSEM観察、反射率は分光反射率測定により計測した。また、粒度分布測定はマルバーン製Mastersizer2000を用いて測定した。
【0043】
【表1】

【0044】
実施例1と参考例1,2の比較から、球状のシリカが微細なテクスチャ構造の形成に効果があることが分かる。テクスチャの肥大化を抑制する機構があると考えられる。
実施例1と参考例3,4の比較から、シリカの粒度分布が10μm以下の時に微細なテクスチャ構造の形成に効果があることが分かる。
シリカ添加によるテクスチャ微細化の機構は、凹部とシリカの相互作用により異方性エッチングが制御されているためである。
実施例1と参考例5〜8の比較から、シリカの含有率が1.0〜10質量%の時に微細なテクスチャ構造の形成に効果があることが分かる。
シリカの含有率が1.0質量%未満であると、シリカによるテクスチャ微細化の効果が小さくなり、また10質量%を超えてしまうと、アルカリ溶液による異方性エッチングを阻害してしまう。
【0045】
本発明は上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、如何なるものであっても本発明の技術範囲に包含される。
【符号の説明】
【0046】
1 基板
2 リン拡散層
3 シリコン窒化膜(n型拡散層)
4 裏面銀電極
5 裏面アルミニウム電極
6 受光面電極
7 アルミニウムBSF層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体シリコン基板の表裏面にテクスチャ構造を形成する太陽電池の製造方法であって、該テクスチャを形成する際、ケイ素化合物を含有するアルカリ水溶液に該基板を浸漬させることを特徴とする太陽電池の製造方法。
【請求項2】
ケイ素化合物がシリカである請求項1記載の太陽電池の製造方法。
【請求項3】
ケイ素化合物の形状が球状である請求項1又は2記載の太陽電池の製造方法。
【請求項4】
ケイ素化合物の平均粒径が10μm以下である請求項1〜3のいずれか1項記載の太陽電池の製造方法。
【請求項5】
アルカリ水溶液中のケイ素化合物含有量が1.0〜10質量%である請求項1〜4のいずれか1項記載の太陽電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−256713(P2012−256713A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−128821(P2011−128821)
【出願日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】