説明

太陽電池用ウェーハの製造方法、太陽電池セルの製造方法、および太陽電池モジュールの製造方法

【課題】多結晶半導体ウェーハの表面を新たな方法でエッチングし、変換効率の高い太陽電池を作製できる太陽電池用ウェーハを製造する方法を提供する。
【解決手段】本発明の太陽電池用ウェーハの製造方法は、多結晶半導体ウェーハの少なくとも片面にアルカリ溶液を接触させて、前記少なくとも片面をエッチング深さが5000nm以下となるようエッチングした後、酸溶液を接触させて太陽電池用ウェーハとすることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は太陽電池用ウェーハの製造方法、太陽電池セルの製造方法、および太陽電池モジュールの製造方法に関する。本発明は、特に、多結晶シリコンウェーハなどの表面を新たな方法でエッチングし、変換効率の高い太陽電池を作製可能な太陽電池用ウェーハの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、太陽電池セルは、シリコンウェーハをはじめとする半導体ウェーハを用いて作製される。太陽電池セルの変換効率を高めるためには、太陽電池セルの受光面で反射してしまう光および太陽電池セルを透過してしまう光を低減する必要がある。例えば、シリコンウェーハを用いて結晶系太陽電池を作製する場合、シリコンウェーハは光電変換に寄与する可視光の透過率が低いため、変換効率を向上させるためには、受光面となるシリコンウェーハ表面における可視光の反射ロスを低く抑え、入射する光を有効に太陽電池の中に閉じ込めることが重要である。
【0003】
シリコンウェーハ表面における入射光の反射ロスを低減する技術としては、表面に反射防止膜を形成する技術と、表面にテクスチャ構造とよばれるミクロな凹凸構造を形成する技術とがある。後者の技術のうち、表面にテクスチャ構造を形成する方法は、単結晶シリコンに適した方法であり、(100)単結晶シリコン表面をアルカリ溶液でエッチングする方法が代表的である。これは、アルカリ溶液を用いたエッチングでは、(111)面のエッチング速度が(100)面、(110)面のエッチング速度よりも遅いことを利用するものである。後者の技術としては、酸溶液による等方性のエッチングも知られている。これは、硝酸とフッ酸を含有する酸を使用し、シリコン表面を硝酸でSiOに酸化した後、そのSiOをフッ酸で溶解するという反応が進行することを利用するものである。表面において結晶方位がそろっていない多結晶のシリコンウェーハに対してアルカリ溶液によるエッチング処理を施しても、ウェーハ表面上に(100)面が露出した結晶粒にしかテクスチャ構造を形成できず、その他の結晶粒については十分なテクスチャ構造が形成できない。このため、多結晶のシリコンウェーハには主に酸溶液によるエッチングで凹凸構造を形成するのが主流である。
【0004】
ここで特許文献1は、多結晶シリコン基板の表面を酸溶液によりエッチングしたのみでは十分な曲線因子を得られないことに着目し、多結晶シリコン基板の表面をNaOH等のアルカリ溶液により7μm以上の深さをエッチングした後に、酸溶液でさらにエッチングすることにより、受光表面に凹凸を形成する工程を備える太陽電池の製造方法を開示している。インゴットから切り出した直後のシリコンウェーハの表面にはスライスダメージが生じている。特許文献1で行うアルカリ溶液によるエッチングは、このスライス加工起因のダメージを除去する程度に行うものである。つまり、アルカリ処理によってスライス加工起因のダメージを除去した後、酸溶液によるエッチングにより凹凸構造を形成し、このウェーハを基板として太陽電池を作製する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−136081号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明者らによると、多結晶シリコン基板に酸溶液のみでエッチングする従来の方法により作製した太陽電池の変換効率と比較して、特許文献1により作製した太陽電池の変換効率は、期待するほど向上しなかった。そこで本発明者は、多結晶シリコン基板表面を酸溶液でエッチングした従来のウェーハ、および多結晶シリコン基板表面をアルカリ溶液でエッチングしてスライスダメージを除去した後、酸溶液でエッチングした特許文献1のようなウェーハについて、表面に形成された凹凸構造を観察した。すると、いずれのウェーハ表面に形成された凹凸も寸法や分布が不均一であることが判明した。ウェーハ表面に形成される凹凸の寸法や分布を適切なものにして、より高い変換効率を得ることが可能な太陽電池用ウェーハが求められている。
【0007】
そこで本発明は、上記課題に鑑み、多結晶半導体ウェーハの表面を新たな方法でエッチングし、変換効率の高い太陽電池を作製できる太陽電池用ウェーハを製造する方法、ならびに、この方法を含む太陽電池セルの製造方法および太陽電池モジュールの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するべく、本発明者が鋭意検討し、様々なエッチング処理条件で試行錯誤を繰り返した結果、以下に示す方法によれば、多結晶半導体ウェーハ表面に寸法や分布が均一な凹凸構造を形成し、効果的にウェーハ表面における光の反射ロスを低減しつつ、このウェーハから製造した太陽電池の変換効率を向上させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。本発明は、上記の知見および検討に基づくものである。
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の要旨構成は以下のとおりである。
(1)多結晶半導体ウェーハの少なくとも片面にアルカリ溶液を接触させて、前記少なくとも片面をエッチング深さが5000nm以下となるようエッチングした後、酸溶液を接触させて太陽電池用ウェーハとすることを特徴とする太陽電池用ウェーハの製造方法。
(2)前記多結晶半導体ウェーハが固定砥粒ワイヤで切り出されたウェーハである上記(1)に記載の太陽電池用ウェーハの製造方法。
(3)前記多結晶半導体ウェーハが多結晶シリコンウェーハである上記(1)または(2)に記載の太陽電池用ウェーハの製造方法。
(4)前記アルカリ溶液に界面活性剤を含む上記(1)〜(3)のいずれか1に記載の太陽電池用ウェーハの製造方法。
(5)上記(1)〜(4)のいずれか1に記載の太陽電池用ウェーハの製造方法における工程に加えて、該太陽電池用ウェーハで太陽電池セルを作製する工程をさらに有する太陽電池セルの製造方法。
(6)上記(5)に記載の太陽電池セルの製造方法における工程に加えて、該太陽電池セルから太陽電池モジュールを作製する工程をさらに有する太陽電池モジュールの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、多結晶半導体ウェーハ表面にまず若干のアルカリ溶液処理を行い、その後酸溶液処理を行うことにより、ウェーハ表面に寸法や分布が均一な凹凸構造を有する太陽電池用ウェーハを得ることが可能になり、この太陽電池用ウェーハを用いることにより、変換効率の高い太陽電池を作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】比較例1による多結晶シリコンウェーハ表面のSEM画像であり、(a)は多結晶シリコンをスライス後、エッチング処理前のウェーハ表面、(b)は酸溶液によるエッチング処理後のウェーハ表面である。
【図2】実施例1による多結晶シリコンウェーハ表面のSEM画像であり、(a)は多結晶シリコンをスライス後、さらにアルカリ溶液によるエッチング処理を行った後のウェーハ表面、(b)はその後さらに酸溶液によるエッチング処理を行った後のウェーハ表面である。
【図3】比較例7による多結晶シリコンウェーハ表面のSEM画像であり、(a)は多結晶シリコンをスライス後、さらにアルカリ溶液によるエッチング処理を行った後のウェーハ表面、(b)はその後さらに酸溶液によるエッチング処理を行った後のウェーハ表面である。
【図4】アルカリ溶液によるエッチング深さと太陽電池作製時の変換効率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明をより詳細に説明する。まず、本発明に用いる多結晶半導体ウェーハは特に限定されず、一般に太陽電池の製造に用いられるものを用いることができ、例えば、多結晶シリコンインゴットからスライス加工により得た多結晶シリコンウェーハを挙げることができる。以下、多結晶シリコンウェーハにエッチング処理を施し、多結晶シリコン太陽電池用ウェーハを製造する方法を例に本発明を説明する。
【0013】
(太陽電池用ウェーハの製造方法)
本発明は、多結晶半導体ウェーハの少なくとも片面をエッチングして太陽電池用ウェーハとする方法である。すなわち、本明細書において「太陽電池用ウェーハ」とは、ウェーハの少なくとも片面をエッチング処理した状態のウェーハを意味するものである。この片面は、太陽電池セルにおいて受光面となる面である。そして、本発明の特徴的工程は、多結晶半導体ウェーハの少なくとも片面にアルカリ溶液を接触させて、前記少なくとも片面をエッチング深さが5000nm以下となるようエッチングした後、酸溶液を接触させて太陽電池用ウェーハとする工程を有することである。
【0014】
以下、本発明の上記特徴的工程を採用したことの技術的意義を、作用効果とともに具体例で説明する。
【0015】
既述のとおり、本発明者が多結晶シリコンウェーハ表面をアルカリ溶液でエッチングしてスライスダメージを除去した後、酸溶液でエッチングしたウェーハについて、表面に形成された凹凸構造を観察した。すると、ウェーハ表面に形成された凹凸の寸法や分布が不均一であることが判明した。この点をより具体的に説明すると、アルカリ溶液でウェーハ表面からスライスダメージを除去するほどにエッチングを施すと、アルカリ溶液処理後のウェーハ表面で、一部の結晶粒、すなわち(100)面が露出した結晶粒にのみテクスチャ構造が形成され、その後、酸溶液により等方性エッチング処理を行った後のウェーハ表面にも、アルカリ処理後の不均一な凹凸構造が残存する状態であることが判明した。そして、その結果、表面に電極を形成する際に、場所毎に表面凹凸状態が異なるため、場所毎に電気抵抗が異なる事態が発生することとなり、このウェーハから製造した太陽電池では高い変換効率を得ることができないとの結論に至った。
【0016】
そこで本発明者は、アルカリ溶液によるエッチングでスライスダメージを除去してしまうのではなく、むしろ積極的にスライス加工起因の凹凸を利用して、ウェーハ表面に適切な凹凸構造を形成するとの着想を得た。このような着想から、エッチング条件と表面凹凸の態様および変換効率との関係を本発明者が詳細に調査したところ、多結晶シリコンウェーハに対してアルカリ溶液によってわずかに、具体的には5000nm以下、より好ましくは3000nm以下、最も好ましくは1000nm以下のエッチング深さとなるようにエッチングを施し、その後酸溶液により等方性エッチング行うことによって、アルカリ処理後に不均一な凹凸構造が残存しにくくなり、ウェーハ表面に寸法や分布が均一な凹凸構造を形成することが可能であることが分かった。そして、この太陽電池用ウェーハを用いることにより、変換効率の高い太陽電池を作製することが可能であることが分かった。
【0017】
一方、多結晶シリコンウェーハに対してアルカリ溶液によるエッチングをせず、酸溶液でのエッチングのみを施したウェーハでも、やはり高い変換効率を得ることはできなかった。そして、このウェーハの表面を観察したところ、やはりウェーハ表面に形成された凹凸の寸法や分布が不均一であることが判明した。これは、スライス起因の凹凸が不均一であることによるものであると考えられる。よって、本発明において、スライス後の多結晶シリコンウェーハに酸溶液処理を施す前にアルカリ溶液によるエッチングを行うことは必須である。
【0018】
このように本発明は、多結晶シリコンウェーハに対するアルカリ処理でスライスダメージを除去した後、酸溶液処理で凹凸構造を形成するというものではなく、アルカリ溶液によるエッチングと酸溶液によるエッチングとの組合せで、ウェーハ表面に最適な凹凸構造を作りこもうという、従来とは大きく異なる技術思想に基づくものである。これにより、変換効率の高い太陽電池を作製することが可能となった。
【0019】
このような観点から、アルカリ溶液によるエッチングの深さは、20nm以上とすることが好ましく、30nm以上とすることがより好ましい。エッチング深さが20nm未満の場合、スライス起因の凹凸の不均一さが残存し、変換効率を十分に高くすることができないおそれがあるからである。
【0020】
また、本発明のエッチング処理を施す多結晶シリコンウェーハは、固定砥粒ワイヤで切り出されたウェーハであることが好ましい。多結晶シリコンウェーハは、多結晶シリコンインゴットからワイヤによりスライス加工されるが、この加工は遊離砥粒方式または固定砥粒方式で行われるのが一般的である。遊離砥粒方式とは、ワイヤに対して砥粒を含んだ冷却液を供給しながらスライス加工を行うものである。固定砥粒方式とは、樹脂もしくは電気鍍金にて砥粒を定着させたワイヤ(固定砥粒ワイヤ)を用いてスライス加工を行うものである。本発明者の検討によると、固定砥粒ワイヤを用いて切り出されたウェーハの表面は特にスライス起因の凹凸が不均一になりやすいことが判明した。具体的には、ワイヤの往復運動の方向に沿って、スライス加工起因の凹凸が筋のように方向性を有して形成されることがわかった。そして、このウェーハに対して酸溶液による等方性エッチングを行った後の凹凸構造も、この方向性が残存していた。そして、筋となっている凹凸は比較的大きな寸法であり、隣接する横筋の間には小さな寸法の凹凸も形成されていた。このウェーハから製造した太陽電池は直列抵抗が高かったため、このような不均一な凹凸構造によってウェーハに対する電極の接着が不十分となり、高い変換効率が得られないものと考えられた。
【0021】
このように、固定砥粒ワイヤでスライスしたウェーハの場合、酸溶液によるエッチングで形成された凹凸の寸法や分布が不均一になりやすくても、本発明者らの検討によれば、ウェーハ表面に対してアルカリ溶液によって若干のエッチングを施し、その後酸溶液によるエッチングを施すことにより、凹凸の方向性を緩和し、凹凸の寸法や分布を均一にすることができることがわかった。よって、固定砥粒ワイヤでスライスしたウェーハの場合、本発明の効果をより顕著に得ることができる。
【0022】
アルカリ溶液のアルカリ成分は、特に限定されないが、揮発性等を考慮し、無機アルカリであることが好ましく、例えば水酸化カリウム、水酸化アンモニウムなどを挙げることができる。
【0023】
また、本発明では5000nm以下という非常にわずかなエッチングを行うため、アルカリ溶液に界面活性剤を含有させて、エッチング速度を低下させることが、エッチング深さの制御性の観点から好ましい。界面活性剤は、アルカリ成分によるエッチングの反応性を極端に低下させない成分であれば特に限定されないが、アニオン系界面活性剤またはノニオン系界面活性剤が好ましく、分子量1000以下の高分子からなることが好ましい。さらに、アミノエタノール含有系界面活性剤であることが特に好ましい。また、界面活性剤は、例えば、0.01〜0.5質量%過酸化水素または0.5〜5ppmオゾン等の酸化剤を含有してもよい。
【0024】
界面活性剤を含むアルカリ溶液として、例えば花王製クリンスルーKS−3050(商標)(以下、「KS−3050」と記載する。)を使用することができる。KS−3050は、アミノエタノール含有系界面活性剤を含むアルカリ性の溶液である。KS−3050を単独でアルカリ溶液とする場合、エッチング深さはKS−3050の濃度および処理時間に依存するが、濃度は0.1〜10質量%の範囲内とすることが好ましく、1〜5質量%の範囲内とすることがより好ましい。0.1質量%未満の場合、アルカリ溶液によるエッチングの反応性を十分に確保できないか、または、エッチングに時間がかかりすぎてしまうおそれがあり、10質量%超えの場合、コストが上昇し、かつ、後段処理のリンス処理で完全に界面活性剤が除去できなくなるおそれがあるからである。
【0025】
KS−3050のような界面活性剤が主の材料にKOH、NaOHなどのアルカリを含有させるアルカリ溶液を使用する場合、KOH、NaOHなどの濃度は、0.01〜20質量%の範囲内であることが好ましく、0.05〜10質量%の範囲内であることがより好ましく、0.05〜5質量%の範囲内であることが最も好ましい。濃度が0.01質量%より低いと、アルカリ溶液によるエッチングの反応性が十分に確保できないか、または、エッチングに時間がかかりすぎてしまうおそれがあり、20質量%より高いと、アルカリエッチングが過剰となり面内に均一なテクスチャ構造が形成できないおそれがあるからである。また、KS−3050などの界面活性剤が主の材料の濃度は、0.1〜10質量%の範囲内であることが好ましく、0.5〜5質量%の範囲内であることがより好ましく、1〜3質量%の範囲内であることが最も好ましい。濃度が0.1質量%より低いと、KOH、NaOHなどのアルカリによるエッチングの反応速度を抑制することが難しくなるおそれがあり、10質量%より高いと、使用する薬液のコストが上昇し、かつ、後段処理のリンス処理で完全に界面活性剤が除去できなくなるので好ましくないからである。
【0026】
アルカリ処理時間すなわち、ウェーハ表面をアルカリ溶液に接触させている時間は、ウェーハの片面あたりのエッチング深さが5000nm以下となるように調整すれば特に限定されないが、例えば3〜60分程度、好適には5〜30分程度、より好適には10〜20分程度とすることができる。
【0027】
アルカリ処理中の温度は、ウェーハの片面あたりのエッチング深さが5000nm以下となるように調整すれば特に限定されないが、例えば30〜60℃、好適には40〜60℃、より好適には45〜55℃とすることができる。
【0028】
酸溶液には、フッ化水素酸および硝酸を含む水溶液が好適に用いられる。酸溶液は、例えば、濃度50質量%のフッ化水素酸と濃度70質量%の硝酸と水とを混合したものが好ましい。フッ化水素酸および硝酸の終濃度を、それぞれ1〜10質量%および10〜50質量%とすることが好ましく、それぞれ3〜6質量%および20〜40質量%とすることがより好ましい。
【0029】
ウェーハ表面に処理液を接触させる方法としては、例えば浸漬法、スプレー法が挙げられる。また、受光面となるウェーハの片面に処理液を滴下させるキャスト法を用いてもよい。
【0030】
以上、本発明の太陽電池用ウェーハの製造方法について、作用効果も含めて説明してきたが、この製造方法の付加的な効果として、本発明はスライス加工傷の全てを除去しなくともよいという利点がある。すなわち、従来技術と比較してウェーハからの取りしろが非常に少ないため材料ロスが小さく、安価な太陽電池を提供できる。
【0031】
(太陽電池セルの製造方法)
本発明に従う太陽電池セルの製造方法は、これまで説明した本発明に従う太陽電池用ウェーハの製造方法における工程に加えて、この太陽電池用ウェーハで太陽電池セルを作製する工程をさらに有する。セル作製工程は、ドーパント拡散熱処理でpn接合を形成する工程と、電極を形成する工程とを少なくとも含む。ドーパント拡散熱処理は、p基板に対してはリンを熱拡散させる。
【0032】
なお、pn接合形成工程は、本発明におけるエッチング処理工程の前に行ってもよい。すなわち、スライス加工後、ドーパント熱拡散処理でpn接合を形成したウェーハの状態で、本発明におけるエッチング処理を行う。こうして得た太陽電池用ウェーハに対して電極を形成して、太陽電池セルとすることもできる。
【0033】
本発明に従う太陽電池セルの製造方法によれば、セルの受光面における入射光の反射ロスを抑制し、高いエネルギー変換効率の太陽電池セルを得ることができる。
【0034】
(太陽電池モジュールの製造方法)
本発明に従う太陽電池モジュールの製造方法は、上記太陽電池セルの製造方法における工程に加えて、この太陽電池セルから太陽電池モジュールを作製する工程をさらに有する。モジュール作製工程は、複数の太陽電池セルを配列し、電極を配線する工程と、強化ガラス基板上に配線された太陽電池セルを配置し、樹脂と保護フィルムで封止する工程と、アルミフレームを組み立てて、端子ケーブルを配線と電気的に接続する工程とを含む。
【0035】
本発明に従う太陽電池モジュールの製造方法によれば、太陽電池セルの受光面における入射光の反射ロスを抑制し、高いエネルギー変換効率の太陽電池モジュールを得ることができる。
【0036】
以上、本発明を説明したが、これらは代表的な実施形態の例を示したものであって、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨の範囲内で種々の変更が可能である。
【実施例】
【0037】
本発明の効果をさらに明確にするため、以下に説明する実施例・比較例の実験を行った比較評価について説明する。
【0038】
<試料の作製>
(実施例1)
まず、固定砥粒ワイヤにより切断した156mm角のp型多結晶シリコンウェーハ(厚さ:0.2mm)を用意し、アルカリ溶液として2質量%KS−3050を用い、このアルカリ溶液に50℃の状態でウェーハを10分間浸漬させた。その後、ウェーハを水で洗浄し、窒素雰囲気にて乾燥させた。その後、50質量%フッ化水素酸/70質量%硝酸/水=1:4:5(体積比)にて調合した酸溶液を用いて、室温で3分間エッチング処理を施し、その後ウェーハを乾燥させ、本発明にかかる太陽電池用ウェーハを製造した。アルカリ溶液によるエッチング深さを測定したところ、40nmであった。なお、本発明および本実施例におけるエッチング深さの測定方法は、エッチング処理前後におけるウェーハの重量変化を測定することにより算出する方式によるものとする。
【0039】
(実施例2〜10)
アルカリ溶液として表1に記載の混合溶液を用い、アルカリ溶液による処理時間時間を表1に記載のものとした以外は、実施例1と同様の方法で本発明にかかる太陽電池用ウェーハを製造した。実施例1と同様に測定したエッチング深さを表1に示す。なお、HC901(商標)はユシロ化学製、Enlight 340(商標)はDow Electronic Chemicals製であり、いずれもアニオン系界面活性剤である。
【0040】
(比較例1)
まず、固定砥粒ワイヤにより切断した156mm角のp型多結晶シリコンウェーハ(厚さ:0.2mm)を用意し、アルカリ溶液によるエッチングを行わず、50質量%フッ化水素酸/70質量%硝酸/水=1:4:5(体積比)にて調合した酸溶液を用いて、室温で3分間エッチング処理を施し、その後ウェーハを乾燥させ、比較例にかかる太陽電池用ウェーハを製造した。
【0041】
(比較例2〜5)
アルカリ溶液として表1に記載の溶液を用い、アルカリ溶液による処理時間を表1に記載のものとした以外は、実施例1と同様の方法で、比較例にかかる太陽電池用ウェーハを製造した。実施例1と同様に測定したエッチング深さを表1に示す。これらの比較例は、アルカリ溶液によるエッチング深さが本発明の範囲を超えるものである。
【0042】
<評価1:凹凸構造の観察および解析>
各実施例、各比較例について、ウェーハ表面を走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)により観察した。以下、代表的な例を示す。
【0043】
図1は、比較例1による多結晶シリコンウェーハ表面のSEM画像であり、(a)は多結晶シリコンをスライス後、エッチング処理前のウェーハ表面、(b)は酸溶液によるエッチング処理後のウェーハ表面である。図1(a)から、多結晶シリコンウェーハを固定砥粒ワイヤにてスライスした直後のウェーハ表面は、ワイヤの往復運動の方向(図1(A)の左右方向)に沿って、スライス加工起因の凹凸が筋のように方向性を有して形成されることがわかる。そして、図1(b)から、酸溶液によるエッチングをした後も、この横筋が残存していることがわかる。特に、筋となっている凹凸は比較的大きな寸法であり、隣接する横筋の間には小さな寸法の凹凸も形成されており、ウェーハ表面に寸法および分布が不均一な凹凸が形成されていた。
【0044】
図2は、実施例1による多結晶シリコンウェーハ表面のSEM画像であり、(a)は多結晶シリコンをスライス後、さらにアルカリ溶液によるエッチング処理を行った後のウェーハ表面、(b)はその後さらに酸溶液によるエッチング処理を行った後のウェーハ表面である。図2(a)から、アルカリ溶液により5000nm以下の深さのエッチング処理を施した後の表面には、スライス加工起因の凹凸が図1(a)の加工直後よりは多少不明小になったものの依然として残っていることがわかる。そして、図2(b)から、さらに酸溶液によるエッチングを行うことによって、図1(b)に比べて寸法および分布が比較的均一な凹凸がウェーハ表面に形成されていることがわかる。
【0045】
図3は、比較例7による多結晶シリコンウェーハ表面のSEM画像であり、(a)は多結晶シリコンをスライス後、さらにアルカリ溶液によるエッチング処理を行った後のウェーハ表面、(b)はその後さらに酸溶液によるエッチング処理を行った後のウェーハ表面である。図3(a)から、スライス加工起因の凹凸は消失している一方で、ウェーハ表面の一部にのみピラミッド型のテクスチャ構造が形成され、不均一な凹凸構造が形成されていることがわかる。そして、図3(b)から、さらに酸溶液によるエッチングを行った後も、不均一な凹凸構造が残存していることがわかる。
【0046】
<評価2:10〜100μm振幅強度測定>
各実施例、各比較例のウェーハ表面について、表面粗さ計(東京精密製:SurfCom130A)で測定し、得られた粗さデータを周波数解析してPSD(Power Spectrum Density)のスペクトルを得た。得られたスペクトル成分のうち、周期10〜100μm領域部分のスペクトル強度の平均値を表1に示す。この平均値の数値が大きいほど、10〜100μmの大きさの凹凸の量的割合が多いことを示す。各実施例は各比較例よりもこの数値が高く、各実施例では各比較例よりも、10〜100μmの大きさの凹凸が図2(b)に示すように比較的均一にウェーハ表面に形成されていることが分かる。
【0047】
<評価3:変換効率測定>
各実施例、各比較例のウェーハに対して、P―OCD(東京応化工業株式会社製 型番P−110211)をスピンコート法にて塗布し、拡散熱処理を施してpn接合を形成し、フッ化水素にて表面のリンガラスを除去した。その後、ウェーハ表面のリン拡散面に反射防止膜としてITO膜をスパッタリング法にて形成した。また、表面にAg電極用のAgペーストを、裏面にAl電極用のAlペーストを塗布し、その後熱処理を施すことでウェーハ表裏面に電極を形成し、太陽電池セルを作製した。そして、変換効率測定器(和泉テック社製:YQ−250BX)によりエネルギー変換効率を測定した結果を表1および図5に示す。各実施例は各比較例よりも高い変換効率となり、特にアルカリ処理エッチング深さが3000nm以下の実施例1〜5は実用として望ましい16%以上の変換効率となった。これは、図1〜3で示したように、ウェーハ表面に寸法や分布が均一な凹凸構造を形成できたためと考えられる。
【0048】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明によれば、多結晶半導体ウェーハ表面にまず若干のアルカリ溶液処理を行い、その後酸溶液処理を行うことにより、ウェーハ表面に寸法や分布が均一な凹凸構造を有する太陽電池用ウェーハを得ることが可能になり、この太陽電池用ウェーハを用いることにより、変換効率の高い太陽電池を作製することが可能となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多結晶半導体ウェーハの少なくとも片面にアルカリ溶液を接触させて、前記少なくとも片面をエッチング深さが5000nm以下となるようエッチングした後、酸溶液を接触させて太陽電池用ウェーハとすることを特徴とする太陽電池用ウェーハの製造方法。
【請求項2】
前記多結晶半導体ウェーハが固定砥粒ワイヤで切り出されたウェーハである請求項1に記載の太陽電池用ウェーハの製造方法。
【請求項3】
前記多結晶半導体ウェーハが多結晶シリコンウェーハである請求項1または2に記載の太陽電池用ウェーハの製造方法。
【請求項4】
前記アルカリ溶液に界面活性剤を含む請求項1〜3のいずれか1項に記載の太陽電池用ウェーハの製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の太陽電池用ウェーハの製造方法における工程に加えて、該太陽電池用ウェーハで太陽電池セルを作製する工程をさらに有する太陽電池セルの製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の太陽電池セルの製造方法における工程に加えて、該太陽電池セルから太陽電池モジュールを作製する工程をさらに有する太陽電池モジュールの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−4721(P2013−4721A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−134120(P2011−134120)
【出願日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【出願人】(302006854)株式会社SUMCO (1,197)
【Fターム(参考)】