説明

太陽電池用波長変換性樹脂組成物および太陽電池モジュール

【課題】発電効率に優れる太陽電池モジュールを構成可能な波長変換性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】太陽電池用波長変換性樹脂組成物を、吸光度スペクトルの極大吸収波長がλmax(nm)である蛍光物質と、樹脂粒子と、分散媒樹脂と、を含んで構成し、厚みがt(μm)である樹脂膜を形成した場合に、光強度がI(λ)である入射光を入射して得られる透過光の強度をI(λ)とし、前記樹脂組成物から前記蛍光物質および樹脂粒子を除いた参照用樹脂組成物からなる厚みtref(μm)である参照用樹脂膜に入射して得られる透過光の強度をIref(λ)とした場合に、式1で表されるA(λ)の値が、極大吸収波長λmax(nm)において、3.0×10−4(O.D./μm)以下となるようにする。
式1 : A(λ)={log(I(λ)/I(λ))}/t − log{(I(λ)/Iref(λ))}/tref

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池用波長変換性樹脂組成物および太陽電池モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のシリコン結晶系の太陽電池モジュールにおいては、表面の保護ガラス(カバーガラスともいう)は、耐衝撃性を重んじて強化ガラスが用いられており、封止材(通常、エチレン−ビニルアセテートコポリマーを主成分とする樹脂、充填材ともいう)との密着性をよくするために、片面はエンボス加工による凹凸模様が施されている。また、その凹凸模様は内側に形成されており、太陽電池モジュールの表面は平滑である(太陽光の導入効率を高めるため、外側にも凹凸形状が施されている場合もある)。また保護ガラスの下側には太陽電池セル、タブ線を保護封止するための封止材及びバックフィルムが設けられている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
ところで、太陽電池の発電効率を向上させるために様々な提案がなされている。例えば、蛍光物質を用い、太陽光スペクトルのうち、発電に寄与の少ない紫外域又は赤外域の光を波長変換することにより、発電に寄与の大きい波長域の光を発光する層を太陽電池受光面側に設ける手法は、多数提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−328053号公報
【特許文献2】特開2001−352091号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】濱川圭弘編「太陽光発電」―最新の技術とシステム―、2000年、株式会社シーエムシー
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1、2に記載された、発電に寄与の少ない波長域の光を発電に寄与の大きい波長域の光に波長変換する提案では、波長変換層に蛍光物質を含有するが、この蛍光物質は一般的に屈折率が大きく、またその形状から、入射した太陽光が波長変換フィルムを通過する際に、散乱して太陽電池セルに十分届かず、発電に寄与しない割合が増加する場合があった。
【0007】
本発明は、発電効率に優れる太陽電池モジュールを構成可能な波長変換性樹脂組成物および該波長変換性樹脂組成物を含む光透過層を備える太陽電池モジュールを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、従来の波長変換層では屈折率が媒質と異なり且つ粒径の大きい蛍光物質が透明分散媒樹脂に分散されているために、光の散乱が発生し、波長変換層で紫外域の光を可視域の光に変換しても、入射した太陽光に対する発電される電力の割合(発電効率)が向上しない場合があるという知見を得た。さらにそれどころか、可視光における散乱などの光損失が皆無であったとしても、紫外域の光に散乱が生じ得ると、波長変換機能が太陽電池の変換効率に負の働きをしてしまうことすらあるという知見を得た。これらの知見をもとに、入射した太陽光のうち太陽光発電に寄与の少ない波長域の光を、太陽光発電への寄与が大きい波長の光に変換する波長変換性樹脂組成物において、光を散乱することが少なく、太陽電池セルへ効率よく導入できる判断基準となる手法を見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は以下の通りである。
<1> 吸光度スペクトルにおける極大吸収波長がλmax(nm)である蛍光物質と、樹脂粒子と、分散媒樹脂と、を含む樹脂組成物であって、波長λ(nm)における光強度がI(λ)である入射光を、前記樹脂組成物から形成された厚みがt(μm)である樹脂膜の厚み方向に入射して得られる透過光の強度をI(λ)とし、前記入射光を、前記樹脂組成物から前記蛍光物質および樹脂粒子を除いた参照用樹脂組成物から形成された厚みがtref(μm)である参照用樹脂膜の厚み方向に入射して得られる透過光の強度をIref(λ)とした場合に、下記式1で表されるA(λ)の値が、前記極大吸収波長λmax(nm)において、3.0×10−4(O.D./μm)以下である太陽電池用波長変換性樹脂組成物。
式1 : A(λ)={log(I(λ)/I(λ))}/t − {log(I(λ)/Iref(λ))}/tref
【0009】
<2> 前記蛍光物質は、前記樹脂粒子に内包されている前記<1>に記載の太陽電池用波長変換性樹脂組成物。
<3> 前記蛍光物質は、有機配位子を含む希土類金属錯体である前記<1>または<2>に記載の太陽電池用波長変換性樹脂組成物。
<4> 前記<1>〜<3>のいずれか1項に記載の太陽電池用波長変換性樹脂組成物を含む光透過性層を備える太陽電池モジュール。
<5> 吸光度スペクトルにおける極大吸収波長がλmax(nm)である蛍光物質と、分散媒樹脂と、を含む太陽電池用波長変換性樹脂組成物の評価方法であって、波長λ(nm)における光強度がI(λ)である入射光を、前記樹脂組成物から形成された厚みがt(μm)である樹脂膜の厚み方向に入射して得られる透過光の強度をI(λ)とし、
前記入射光を、前記樹脂組成物から前記蛍光物質を除いた参照用樹脂組成物から形成された厚みがtref(μm)である参照用樹脂膜の厚み方向に入射して得られる透過光の強度をIref(λ)とした場合に、前記極大吸収波長λmax(nm)における下記式1で表されるA(λ)の値に基づいて、波長変換効率を評価することを含む太陽電池用波長変換性樹脂組成物の評価方法。
式1 : A(λ)={log(I(λ)/I(λ))}/t − {log(I(λ)/Iref(λ))}/tref
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、発電効率に優れる太陽電池モジュールを構成可能な波長変換性樹脂組成物および該波長変換性樹脂組成物を含む光透過層を備える太陽電池モジュールを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明にかかる波長350nmにおけるA(λ)値と、太陽電池の発電効率との関係の一例を示すグラフである。
【図2】本発明の実施例および比較例にかかる波長変換性樹脂組成物における入射光波長とA(λ)値の関係の一例を示すグラフである。
【図3】本発明の実施例および比較例にかかる波長変換性樹脂組成物における入射光波長とA(λ)値の関係の一例を示すグラフである。
【図4】本発明の実施例にかかる蛍光物質の励起スペクトルおよび発光スペクトルの一例を示すグラフである。
【図5】本発明の実施例にかかる分散媒樹脂に分散された蛍光物質の吸光度スペクトルの一例を示すグラフである。
【図6】本発明の実施例にかかる波長350〜400nmにおけるA(λ)値の平均値と、太陽電池の発電効率との関係の一例を示すグラフである。
【図7】本発明の比較例にかかる可視領域における直線透過率と、太陽電池の発電効率との関係の一例を示すグラフである。
【図8】本発明の比較例にかかる積分発光強度と、太陽電池の発電効率との関係の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書において「〜」は、その前後に記載される数値をそれぞれ最小値および最大値として含む範囲を示すものとする。
【0013】
<太陽電池用波長変換性樹脂組成物>
本発明の太陽電池用波長変換性樹脂組成物は、吸光度スペクトルにおける極大吸収波長がλmax(nm)である蛍光物質と、樹脂粒子と、分散媒樹脂と、を含む。また波長λ(nm)における光強度がI(λ)である入射光を、前記樹脂組成物から形成された厚みがt(μm)である樹脂膜の厚み方向に入射して得られる透過光の強度をI(λ)とし、前記入射光を、前記樹脂組成物から前記蛍光物質および樹脂粒子を除いた参照用樹脂組成物から形成された厚みがtref(μm)である参照用樹脂膜の厚み方向に入射して得られる透過光の強度をIref(λ)とした場合に、下記式1で表されるA(λ)の値が、前記極大吸収波長λmax(nm)において、0.0003(O.D./μm)以下である。
式1 : A(λ)={log(I(λ)/I(λ))}/t − log{(I(λ)/Iref(λ))}/tref
【0014】
蛍光物質、樹脂粒子、および分散媒樹脂を含む太陽電池用波長変換性樹脂組成物を、吸光度スペクトルの極大吸収波長λmax(nm)において前記式1で表されるA(λ)値が3.0×10−4(O.D./μm)以下となるように構成することで、かかる波長変換性樹脂組成物から形成された光透過性の樹脂層を備える太陽電池における発電効率が向上する。一方、吸光度スペクトルの極大吸収波長λmax(nm)において前記式1で表されるA(λ)値が3.0×10−4(O.D./μm)を超えると発電効率が向上しないばかりか、発電効率が低下する場合がある。
これは例えば、太陽電池に入射した太陽光のうち太陽光発電に寄与の少ない波長域の光を発電に寄与の大きい波長域の光へ変換するのと同時に、太陽光の散乱を抑制しつつ、効率よく且つ安定的に太陽光を発電に利用できるためと考えることができる。
【0015】
本発明においてA(λ)値は波長λmaxにおいて、3.0×10−4(O.D./μm)以下であるが、太陽電池の変換効率の観点から、2.5×10−4以下であることが好ましく、2.0×10−4以下であることがより好ましい。
【0016】
本発明においてA(λ)値は、英弘精機(株)製ソーラーシミュレータ用回折格子型分光放射計LS−100と、ワコム電創(株)製ソーラーシミュレータWXS−155S−10,AM1.5Gとを用いて測定される。
具体的には、回折格子型分光放射計LS−100の検出部の上に、評価用検体を載せ、ワコム電創(株)製ソーラーシミュレータWXS−155S−10,AM1.5Gを用いて光を照射して、強度スペクトルI(λ)を得る。また、上記LS−100の検出部の上に何も置かずにブランクの強度スペクトルI(λ)を得る。さらに参照用検体を上記LS−100の検出部の上に置き、参照検体の強度スペクトルIref(λ)を得る。このようにして測定された強度スペクトルを用いて、式1に従ってA(λ)値が算出される。
【0017】
本発明においては、太陽光発電に対する寄与が少ない波長域における光の散乱の程度に基づいて、波長変換性樹脂組成物における太陽電池の発電効率が評価されるものであることから、前記λmaxにおけるA(λ)値に代えて、これと相関する値で評価してもよい。具体的には例えば以下の方法が挙げられる。
また本発明においてA(λ)値は、λmaxにおけるA(λ)値の代わりに、λmaxを含む特定の波長範囲におけるA(λ)値の平均値を用いて、太陽電池を構成した場合の変換効率を評価することもできる。その場合の特定の波長範囲としては、例えば、300nm以上、かつ、吸光度スペクトルの立ち上がり(吸収閾値)の波長範囲までとすることが好ましく、波長λがλmax以上、かつ、{log(I(λ)/I(λ))}/tの値(膜厚当たりの吸光度)が0.0001(O.D./μm)以上である波長λの範囲とすることがより好ましい。
またA(λ)値を特定の波長範囲の平均値として評価する場合には、A(λ)値が1.5×10−4未満となることが好ましく、1.2×10−4以下となることがより好ましく、1.0×10−4以下となることがさらに好ましい。
【0018】
またさらに本発明においては、λmaxにおけるA(λ)値の代わりに、λmaxを含む特定の波長範囲におけるA(λ)の積分値を用いて、太陽電池を構成した場合の変換効率を評価してもよい。A(λ)の積分値として評価する場合の特定の波長範囲は上記と同様である。
また特定の波長範囲におけるA(λ)の積分値として評価する場合には、特定の波長範囲におけるA(λ)の積分値が、7.0×10−3以下となることが好ましく、6.0×10−3以下となることがより好ましく、5.0×10−3以下となることがさらに好ましい。
【0019】
さらにまた本発明においては、前記式1で表されるA(λ)値に代えて、下記式2で表されるA(λ)値を用いて評価することもまた好ましい。一般にA(λ)値とA(λ)値は、理論上は等価であり、利用可能な測定装置に応じてA(λ)値またはA(λ)値を適宜選択して評価することができる。
式2 : A(λ)=a(λ)/t − aref(λ)/tref
【0020】
式2中、a(λ)は、波長が波長λ(nm)である入射光を、前記樹脂組成物から形成された厚みがt(μm)である樹脂膜の厚み方向に入射して得られる前記樹脂膜の吸光度であり、aref(λ)は前記入射光を、前記樹脂組成物から前記蛍光物質および樹脂粒子を除いた参照用樹脂組成物から形成された厚みtref(μm)である参照用樹脂膜の厚み方向に入射して得られる前記参照用樹脂膜の吸光度である。
【0021】
本発明においてA(λ)値は、太陽電池の変換効率の観点から、波長λmaxにおいて、3.0×10−4(O.D./μm)以下であることが好ましく、2.5×10−4以下であることがより好ましく、2.0×10−4以下であることがさらに好ましい。
【0022】
また本発明においてA(λ)値は、必要に応じてλmaxにおけるA(λ)値の代わりに、λmaxを含む特定の波長範囲におけるA(λ)値の平均値として評価することもできる。その場合の特定の波長範囲としては、例えば、λmax以上、かつ、吸光度スペクトルの立ち上がり(吸収閾値)の波長範囲までとすることが好ましく、波長λがλmax以上、かつ、a(λ)/tの値が0.0001(O.D./μm)以上である波長λの範囲とすることがより好ましい。
【0023】
本発明の波長変換性樹脂組成物において、A(λ)値(またはA(λ)値)が所定の範囲となるように構成する具体的な方法としては、例えば、蛍光物質を樹脂粒子に内包させたものを、これを分散可能な分散媒樹脂に分散せしめて、波長変換性樹脂組成物を構成する方法、高分子分散剤を用いて蛍光物質を分散処理して得られる高分子分散剤で被覆された蛍光物質を、これを分散可能な透明分散媒樹脂に分散して構成する方法、また単に蛍光物質の含有率を下げる方法等が挙げられる。本発明においては、発電効率の観点から、蛍光物質を樹脂粒子に内包させたもの、または、高分子分散剤で被覆された蛍光物質を用いる方法であることが好ましい。
尚、これらの方法の詳細については後述する。
【0024】
(蛍光物質)
本発明に用いられる蛍光物質としては、通常の太陽電池で利用可能な波長域外の光を、太陽電池で利用可能な波長域に変換可能な化合物であれは、特は制限ない。例えば、無機蛍光体、有機蛍光体、有機配位子を含む希土類金属錯体等を挙げることができる。
【0025】
前記無機蛍光体としては、例えば、YS:Eu,Mg,Tiの蛍光粒子、Er3+イオンを含有した酸化フッ化物系結晶化ガラス、酸化ストロンチウムと酸化アルミニウムからなる化合物に希土類元素のユウロピウム(Eu)とジスプロシウム(Dy)を添加したSrAl:Eu,Dyや、SrAl1425:Eu,Dyや、CaAl:Eu,Dyや、ZnS:Cu等の無機蛍光材料を挙げることができる。
【0026】
また前記有機蛍光体としては、例えば、シアニン系色素、ピリジン系色素、ローダミン系色素等の有機色素、BASF社製のLumogen F Violet570、同Yellow083、同Orange240、同Red300、田岡化学工業(株)製の塩基性染料Rhodamine B、住化ファインケム(株)製のSumiplast Yellow FL7G、Bayer社製のMACROLEX Fluorescent Red G、同Yellow10GN等の有機蛍光体を挙げることができる。
【0027】
本発明における蛍光物質としては、波長変換効率の観点から、有機配位子を含む希土類金属錯体、すなわち、希土類金属の有機錯体であることが好ましい。中でも波長変換効率の観点から、ユーロピウム錯体およびサマリウム錯体の少なくとも1種であることが好ましい。
また有機錯体を構成する配位子としては特に制限はなく、用いる金属に応じて適宜選択することができる。中でもユーロピウムおよびサマリウムの少なくとも1種と錯体を形成可能な配位子であることが好ましい。
【0028】
本発明では、配位子を限定するものではないが、中性配位子である、カルボン酸、含窒素有機化合物、含窒素芳香族複素環式化合物、β−ジケトン類、およびホスフィンオキサイドから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
また希土類金属錯体の配位子として、一般式 RCOCHRCOR(式中、Rはアリール基、アルキル基、シクロアルキル基、シクロアルキルアルキル基、アラルキル基又はそれらの置換体を、Rは水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、シクロアルキルアルキル基、アラルキル基又はアリール基を、Rはアリール基、アルキル基、シクロアルキル基、シクロアルキルアルキル基、アラルキル基又はそれらの置換体をそれぞれ示す)で表わされるβ−ジケトン類を含有してもよい。
【0029】
β−ジケトン類としては、具体的にはアセチルアセトン、パーフルオロアセチルアセトン、ベンゾイル−2−フラノイルメタン、1,3−ジ(3−ピリジル)−1,3−プロパンジオン、ベンゾイルトリフルオロアセトン、ベンゾイルアセトン、5−クロロスルフォニル−2−テノイルトリフルオロアセトン、ビス(4−ブロモベンゾイル)メタン、ジベンゾイルメタン、d,d−ジカンフォリルメタン、1,3−ジシアノ−1,3−プロパンジオン、p−ビス(4,4,5,5,6,6,6−ヘプタフルオロ−1,3−ヘキサンジノイル)ベンゼン、4,4’−ジメトキシジベンゾイルメタン、2,6−ジメチル−3,5−ヘプタンジオン、ジナフトイルメタン、ジピバロイルメタン、ビス(パーフルオロ−2−プロポキシプロピオニル)メタン、1,3−ジ(2−チエニル)−1,3−プロパンジオン、3−(トリフルオロアセチル)−d−カンファー、6,6,6−トリフルオロ−2,2−ジメチル−3,5−ヘキサンジオン、1,1,1,2,2,6,6,7,7,7−デカフルオロ−3,5−ヘプタンジオン、6,6,7,7,8,8,8−ヘプタフルオロ−2,2−ジメチル−3,5−オクタンジオン、2−フリルトリフルオロアセトン、ヘキサフルオロアセチルアセトン、3−(ヘプタフルオロブチリル)−d−カンファー、4,4,5,5,6,6,6−ヘプタフルオロ−1−(2−チエニル)−1,3−ヘキサンジオン、4−メトキシジベンゾイルメタン、4−メトキシベンゾイル−2−フラノイルメタン、6−メチル−2,4−ヘプタンジオン、2−ナフトイルトリフルオロアセトン、2−(2−ピリジル)ベンズイミダゾール、5,6−ジヒドロキシ−1,10−フェナントロリン、1−フェニル−3−メチル−4−ベンゾイル−5−ピラゾール、1−フェニル−3−メチル−4−(4−ブチルベンゾイル)−5−ピラゾール、1−フェニル−3−メチル−4−イソブチリル−5−ピラゾール、1−フェニル−3−メチル−4−トリフルオロアセチル−5−ピラゾール、3−(5−フェニル−1,3,4−オキサジアゾール−2−イル)−2,4−ペンタンジオン、3−フェニル−2,4−ペンタンジオン、3−[3’,5’−ビス(フェニルメトキシ)フェニル]−1−(9−フェナンチル)−1−プロパン−1,3−ジオン、5,5−ジメチル−1,1,1−トリフルオロ−2,4−ヘキサンジオン、1−フェニル−3−(2−チエニル)−1,3−プロパンジオン、3−(t−ブチルヒドロキシメチレン)−d−カンファー、1,1,1−トリフルオロ−2,4−ペンタンジオン、1,1,1,2,2,3,3,7,7,8,8,9,9,9−テトラデカフルオロ−4,6−ノナンジオン、2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオン、4,4,4−トリフルオロ−1−(2−ナフチル)−1,3−ブタンジオン、1,1,1−トリフルオロ−5,5−ジメチル−2,4−ヘキサンジオン、2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオン、2,2,6,6−テトラメチル−3,5−オクタンジオン、2,2,6−トリメチル−3,5−ヘプタンジオン、2,2,7−トリメチル−3,5−オクタンジオン、4,4,4−トリフルオロ−1−(チエニル)−1,3−ブタンジオン(TTA)、1,3−ジフェニル−1,3−プロパンジオン、べンゾイルアセトン、ジべンゾイルアセトン、ジイソブチロイルメタン、ジビパロイルメタン、3−メチルペンタン−2,4−ジオン、2,2−ジメチルペンタン−3,5−ジオン、2−メチル−1,3−ブタンジオン、1,3−ブタンジオン、3−フェニル−2,4−ペンタンジオン、1,1,1−トリフロロ−2,4−ペンタンジオン、1,1,1−トリフロロ−5,5−ジメチル−2,4−ヘキサンジオン、2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオン、3−メチル−2,4−ペンタンジオン、2−アセチルシクロペンタノン、2−アセチルシクロヘキサノン、1−ヘプタフロロプロピル−3−t−ブチル−1,3−プロパンジオン、1,3−ジフェニル−2−メチル−1,3−プロパンジオン、又は1−エトキシ−1,3−ブタンジオン等が挙げられる。
【0030】
希土類金属錯体の中性配位子の含窒素有機化合物、含窒素芳香族複素環式化合物、ホスフィンオキサイドとしては、たとえば、1,10−フェナントロリン、2−2’−ビピリジル、2−2’−6,2”−ターピリジル、4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン、2−(2−ピリジル)ベンズイミダゾール、トリフェニルホスフィンオキサイド、トリ−n−ブチルホスフィンオキサイド、トリ−n−オクチルホスフィンオキサイド、トリ−n−ブチルホスフェート等が挙げられる。
【0031】
上記のような配位子を有する希土類金属錯体として、中でも波長変換効率の観点から、例えば、Eu(TTA)phen等を好ましく利用できる。
Eu(TTA)Phenの製造法は、例えば、Masaya Mitsuishi, Shinji Kikuchi, Tokuji Miyashita, Yutaka Amano, J.Mater.Chem.2003, 13, 285−2879に開示されている方法を参照できる。
【0032】
本発明においては、蛍光物質として、特にユーロピウム錯体を用いることで、高い発電効率を有する太陽電池モジュールを構成することができる。ユーロピウム錯体は、紫外線域の光を高い波長変換効率で赤色の波長域の光に変換し、この変換された光が太陽電池セルにおける発電に寄与する。
【0033】
波長変換性樹脂組成物における蛍光物質の含有率は、使用する蛍光物質および樹脂粒子に応じて適宜選択することができる。例えば、波長変換性樹脂組成物の不揮発分総量(全固形分)に対して0.0001〜1質量%とすることができ、0.0001〜0.1質量%であることが好ましく、0.0001〜0.02質量%であることがより好ましい。
0.0001質量%以上とすることで発光効率がより向上する。また、1質量%以下であることで濃度消光や散乱による発光効率の低下を抑制し、また入射光の散乱による発電効率の低下を抑制できる。
【0034】
更に本発明においては、蛍光物質が、Eu(TTA)phen、Eu(TTA)Bpy、Eu(TTA)(TPPO)から選ばれる少なくとも1種であって、その含有率が波長変換性樹脂組成物の全固形分に対して0.0001〜1質量%であることが好ましい。
【0035】
本発明において前記蛍光物質は、蛍光物質が後述する樹脂粒子に内包された波長変換用蛍光材料、または、蛍光物質が高分子分散剤で被覆された波長変換用蛍光材料として用いられることが好ましい。これにより太陽光発電に寄与が少ない波長域の光の散乱をより効果的に抑制できる。
これは例えば、分散媒樹脂に比べて屈折率が大きい蛍光物質が、分散媒樹脂と同程度の屈折率を示す高分子化合物(樹脂粒子、高分子分散剤)に内包または被覆されていることにより、より効果的に光の散乱が抑制されるためと考えることができる。
【0036】
(樹脂粒子)
本発明の波長変換性樹脂組成物は、樹脂粒子の少なくとも1種を含む。前記樹脂粒子は、前記蛍光物質を内包可能なものであることが好ましい。
また前記樹脂粒子を構成するモノマーとしては特に制限はなく、付加重合性のモノマーであっても、縮重合性のモノマーであってもよい。本発明においては、蛍光物質(好ましくは、有機配位子を有する希土類金属錯体)の安定性と発電効率の観点から、付加重合性のビニル化合物であることが好ましい。
【0037】
−ビニル化合物−
本発明においてビニル化合物とは、エチレン性不飽和結合を少なくとも1つ有する化合物であれば特に制限はなく、重合反応した際にビニル樹脂、特にアクリル樹脂又はメタクリル樹脂になり得るアクリルモノマー、メタクリルモノマー、アクリルオリゴマー、メタクリルオリゴマー等を特に制限なく用いることができる。本発明において好ましくは、アクリルモノマー、およびメタクリルモノマー等が挙げられる。
【0038】
アクリルモノマー、およびメタクリルモノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、これらのアルキルエステルが挙げられ、またこれらと共重合し得るその他のビニル化合物を併用してもよく、1種単独でも、2種類以上を組み合わせて用いることもできる。
【0039】
アクリル酸アルキルエステル、およびメタクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル等のアクリル酸無置換アルキルエステルおよびメタクリル酸無置換アルキルエステル;ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート;テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート;ベンジル(メタ)アクリレート;多価アルコールにα,β−不飽和カルボン酸を反応させて得られる化合物(例えば、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート(エチレン基の数が2〜14のもの)、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンエトキシトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンプロポキシトリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート(プロピレン基の数が2〜14のもの)、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAポリオキシエチレンジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジオキシエチレンジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAトリオキシエチレンジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAデカオキシエチレンジ(メタ)アクリレート等);グリシジル基含有化合物にα,β−不飽和カルボン酸を付加して得られる化合物(例えば、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテルトリアクリレート、ビスフェノールAジグリシジルエーテルジアクリレート等);多価カルボン酸(例えば、無水フタル酸)と水酸基及びエチレン性不飽和基を有する物質(例えば、β−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート)とのエステル化物;アクリル酸若しくはメタクリル酸のアルキルエステル(例えば、(メタ)アクリル酸メチルエステル、(メタ)アクリル酸エチルエステル、(メタ)アクリル酸ブチルエステル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシルエステル);ウレタン(メタ)アクリレート(例えば、トリレンジイソシアネートと2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリル酸エステルとの反応物、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートとシクロヘキサンジメタノールと2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリル酸エステルとの反応物等);これらのアルキル基に水酸基、エポキシ基、ハロゲン基等が置換したアクリル酸置換アルキルエステル又はメタクリル酸置換アルキルエステル;等が挙げられる。
【0040】
また、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸アルキルエステル又はメタクリル酸アルキルエステルと共重合し得るその他のビニル化合物としては、アクリルアミド、アクリロニトリル、ジアセトンアクリルアミド、スチレン、ビニルトルエン等が挙げられる。これらのビニルモノマーは、1種単独でも、2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0041】
本発明におけるビニル化合物としては、形成される樹脂粒子の屈折率が所望の値になるように適宜選択することが好ましく、アクリル酸アルキルエステルおよびメタクリル酸アルキルエステルから選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0042】
(ラジカル重合開始剤)
本発明においてはビニル化合物を重合させるためにラジカル重合開始剤を用いることが好ましい。ラジカル重合開始剤としては、特に制限なく通常用いられるラジカル重合開始剤を用いることができる。例えば、過酸化物等が好ましく挙げられる。具体的には、熱により遊離ラジカルを発生させる有機過酸化物やアゾ系ラジカル開始剤が好ましい。
有機化酸化物としては例えば、イソブチルパーオキサイド、α,α’ビス(ネオデカノイルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、クミルパーオキシネオデカノエート、ビス−n−プロピルパーオキシジカーボネート、ビス−s−ブチルパーオキシジカーボネート、1,1,3,3−テトラメチルブチルネオデカノエート、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、1−シクロヘキシル−1−メチルエチルパーオキシネオデカノエート、ビス−2−エトキシエチルパーオキシジカーボネート、ビス(エチルヘキシルパーオキシ)ジカーボネート、t−ヘキシルネオデカノエート、ビスメトキシブチルパーオキシジカーボネート、ビス(3−メチル−3−メトキシブチルパーオキシ)ジカーボネート、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、t−ヘキシルパーオキシピバレート、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ステアロイルパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、サクシニックパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ビス(2−エチルヘキサノイル)ヘキサン、1−シクロヘキシル−1−メチルエチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ヘキシルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、4−メチルベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、m−トルオノイルベンゾイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソブチレート、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)2−メチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサノン、2,2−ビス(4,4−ジブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロドデカン、t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシマレイン酸、t−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシラウレート、2,5−ジメチル−2,5−ビス(m−トルオイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルモノカーボネート、t−ヘキシルパーオキシベンゾエート、2,5−ジメチル−2,5−ビス(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシアセテート、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタン、t−ブチルパーオキシベンゾエート、n−ブチル−4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレレート、ジ−t−ブチルパーオキシイソフタレート、α,α’ビス(t−ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキシ−p−メンタンハイドロパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、t−ブチルトリメチルシリルパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t−ヘキシルハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、2,3−ジメチル−2,3−ジフェニルブタン等を使用することができる。
【0043】
アゾ系ラジカル開始剤としては、たとえば、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN、、V−60(商品名、和光純薬社製))、2,2’−アゾビス(2−メチルイソブチロニトリル)(V−59(商品名、和光純薬社製))、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(V−65(商品名、和光純薬社製))、ジメチル−2,2’−アゾビス(イソブチレート)(V−601(商品名、和光純薬社製))、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)(V−70(商品名、和光純薬社製))などが挙げられる。
【0044】
ラジカル重合開始剤の使用量は、前記ビニル化合物の種類や形成される樹脂粒子の屈折率等に応じて適宜選択することができ、通常用いられる使用量で使用される。具体的には例えば、ビニル化合物に対して0.01〜2質量%で使用することができ、0.1〜1質量%で使用することが好ましい。
【0045】
(波長変換用蛍光材料)
本発明における波長変換用材料は、蛍光物質を内包した樹脂粒子、または、高分子分散剤で被覆された蛍光物質である。
これらは、例えば、前記蛍光物質と樹脂粒子を構成するモノマー化合物の混合物を調製し、これを重合することで調製することができる。具体的には、例えば、蛍光物質およびビニル化合物を含む混合物を調製し、ラジカル重合開始剤を用いてビニル化合物を重合することで、蛍光物質が内包された樹脂粒子として波長変換用蛍光材料を構成することができる。
【0046】
また、例えば、蛍光物質を水不溶性の高分子分散剤を用いて水系媒体中に分散処理することで、前記蛍光物質を高分子分散剤で被覆してされた波長変換用蛍光材料を構成することができる。
具体的には例えば、ビニル化合物を重合させて得られる、親水性構成単位および疎水性構成単位を含む水不溶性のビニル系高分子分散剤と、前記蛍光物質とを水系媒体中で分散処理することで、ビニル系高分子分散剤で被覆された蛍光物質として波長変換用蛍光材料を構成することができる。前記分散処理の方法としては、特に制限なく公知の分散処理方法を採用することができる。
【0047】
以下、本発明における波長変換用蛍光材料の製造方法の一例として、蛍光物質が樹脂粒子に内包された波長変換用蛍光材料の製造方法について説明する。
前記波長変換用蛍光材料は、上記の蛍光物質及びビニル化合物、必要に応じて過酸化物等のラジカル重合開始剤等を混合して、蛍光物質をビニル化合物中に溶解又は分散し、これを重合することで得られる。混合の方法としては特に制限はなく、例えば、攪拌することで行えばよい。
蛍光物質の好ましい含有量は、ビニル化合物に対する含有比率が0.001〜10質量%で含有させればよい。さらに好ましくは0.01〜1.0質量%である。この範囲で含有することにより、蛍光物質がビニル化合物に溶解状態となり、より光透過性に優れた波長変換用蛍光材料を構成することができる。
【0048】
本発明において、波長変換用蛍光材料を構成するビニル化合物は、重合後の波長変換用蛍光材料を分散媒樹脂に分散する際に、透明分散媒樹脂に対する波長変換用蛍光材料の分散性がよくなるように適宜選定することが好ましい。
具体的に分散性がよい状態とは、本発明の波長変換性樹脂組成物から形成される波長変換層において光損失の原因となる散乱が充分に抑制された状態を指す。このような分散性がよい状態(光散乱が抑制された状態)は、例えば、以下の方法で達成できる。
【0049】
波長変換用蛍光材料の樹脂組成は、分散媒樹脂の組成との関係において、分散性がよく、相分離などを起こさない相互の組成を選択する。これは例えば、ヘーズを指標にしてそれぞれの樹脂組成を選択することで達成できる。
また光散乱の小さい状態を得るには、重合前後の波長変換用蛍光材料において、蛍光物質が析出しないようなビニル化合物および蛍光物質を選択すればよい。例えば、蛍光物質のうち、希土類金属錯体では、配位子を変更することにより、ビニル化合物中の蛍光物質の析出を回避し、良好な混合状態(好ましくは溶解状態)を得ることができる。
さらに、光散乱の原因となる物質の濃度を低くすることで、光散乱を低減しうる。たとえば、蛍光物質の析出が原因である場合、波長変換用蛍光材料における蛍光物質の濃度を低くすればよく、透明分散媒樹脂中の波長変換用蛍光材料が原因である場合は、これの濃度を下げればよい。
【0050】
本発明の波長変換性樹脂組成物中の、上記波長変換用蛍光材料の好ましい含有率は、波長変換性樹脂組成物の不揮発分総量に対し、希土類金属の有機錯体(好ましくはユーロピウム錯体)の質量濃度として0.0001〜1質量%が好ましく、0.0005〜0.01質量%であることがより好ましい。
0.0001質量%以上とすることで発光効率がより向上する。また、1質量%以下であることで濃度消光による発光効率の低下を抑制し、また入射光の散乱による発電効率の低下を抑制できる。
【0051】
(分散媒樹脂)
本発明の波長変換性樹脂組成物を構成する分散媒樹脂としては、前記波長変換用蛍光材料を分散可能な透明樹脂であれば特に制限はなく、例えば、光硬化性樹脂、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂等が好ましく用いられる。
中でも太陽電池用封止剤樹脂として通常用いられている熱硬化性が付与された、エチレン−酢酸ビニル共重合体(「EVA」ともいう)を含むものが好ましい。
尚、本発明においては、分散媒を兼ねた透明封止樹脂をEVAのみに限定するものではなく、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、および光硬化性樹脂等のEVA以外の樹脂をさらに含んでいてもよい。
【0052】
分散媒樹脂を、光硬化性樹脂を含んで構成する場合、光硬化性樹脂の樹脂構成や光硬化方法は特に制限はない。例えば、光ラジカル重合開始剤による光硬化方法では、波長変換性樹脂組成物は、上記波長変換用蛍光材料の他、(A)バインダー樹脂、(B)架橋性モノマー及び(C)光又は熱により遊離ラジカルを生成する光重合開始剤等を含んで構成することができる。
【0053】
(A)バインダー樹脂としては、アクリル酸、メタクリル酸、これらのアルキルエステルを構成モノマーとしたホモポリマー、及びこれらと共重合し得るその他のビニルモノマーを構成モノマーとして共重合してなる共重合体を用いることができる。またこれらの共重合体は、単独でも2種類以上を組み合わせて用いることもできる。
【0054】
アクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル等のアクリル酸無置換アルキルエステル又はメタクリル酸無置換アルキルエステル;これらのアルキル基に水酸基、エポキシ基、ハロゲン基等が置換したアクリル酸置換アルキルエステル及びメタクリル酸置換アルキルエステル;等が挙げられる。
【0055】
また、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸アルキルエステルと共重合しうるその他のビニルモノマーとしては、アクリルアミド、アクリロニトリル、ジアセトンアクリルアミド、スチレン、ビニルトルエン等が挙げられる。これらのビニルモノマーは、単独で又は2種類以上を組み合わせて用いることができる。また、分散媒樹脂を構成する(A)バインダー樹脂の重量平均分子量は、塗膜性及び塗膜強度の点から10,000〜300,000であることが好ましい。
【0056】
(B)架橋性モノマーとしては、例えば、多価アルコールにα,β−不飽和カルボン酸を反応させて得られる化合物(例えば、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート(エチレンオキシ基の数が2〜14のもの)、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンエトキシトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンプロポキシトリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート(プロピレンオキシ基の数が2〜14のもの)、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAポリオキシエチレンジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジオキシエチレンジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAトリオキシエチレンジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAデカオキシエチレンジ(メタ)アクリレート等);グリシジル基含有化合物にα,β−不飽和カルボン酸を付加して得られる化合物(例えば、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテルトリアクリレート、ビスフェノールAジグリシジルエーテルジアクリレート等);多価カルボン酸(例えば、無水フタル酸)と水酸基及びエチレン性不飽和基を有する物質(例えば、β−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート)とのエステル化物;ウレタン(メタ)アクリレート(例えば、トリレンジイソシアネートと2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリル酸エステルとの反応物、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートとシクロヘキサンジメタノールと2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリル酸エステルとの反応物等);等を挙げることができる。
【0057】
特に好ましい(B)架橋性モノマーとしては、架橋密度や反応性を制御しやすいという意味において、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAポリオキシエチレンジメタクリレートが挙げられる。なお、上記化合物は単独でも2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0058】
特に波長変換性樹脂組成物の屈折率を高くする場合には、(A)バインダー樹脂及び(B)架橋性モノマーの少なくとも1種に、臭素、イオウ原子を含んでいることが有利である。臭素含有モノマーの例としては、第一工業製薬(株)製、ニューフロンティアBR−31、ニューフロンティアBR−30、ニューフロンティアBR−42M等が挙げられる。イオウ含有モノマー組成物としては、三菱ガス化学(株)製、IU−L2000、IU−L3000、IU−MS1010が挙げられる。ただし、本発明で使用される臭素、イオウ原子含有モノマー(それを含む重合物)は、ここに挙げたものに限定されるものではない。
【0059】
(C)光重合開始剤としては、紫外線又は可視光線により遊離ラジカルを生成する光重合開始剤が好ましく、例えば、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾインフェニルエーテル等のベンゾインエーテル類、ベンゾフェノン、N,N′−テトラメチル−4,4′−ジアミノベンゾフェノン(ミヒラーケトン)、N,N′−テトラエチル−4,4′−ジアミノベンゾフェノン等のベンゾフェノン類、ベンジルジメチルケタール(チバ・ジャパン社製、IRGACURE(イルガキュア)651)、ベンジルジエチルケタール等のベンジルケタール類、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、p−tert−ブチルジクロロアセトフェノン、p−ジメチルアミノアセトフェノン等のアセトフェノン類、2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジイソプロピルチオキサントン等のキサントン類、あるいはヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(チバ・ジャパン社製、IRGACURE(イルガキュア)184)、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ビトロキシ−2−メチルプロパン−1−オン(チバ・ジャパン社製、ダロキュア1116)、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン(チバ・ジャパン社製、ダロキュア1173)等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0060】
また、(C)光重合開始剤として使用しうる光重合開始剤としては、例えば、2,4,5−トリアリルイミダゾール二量体と2−メルカプトベンゾオキサゾール、ロイコクリスタルバイオレット、トリス(4−ジエチルアミノ−2−メチルフェニル)メタン等との組み合わせも挙げられる。また、それ自体では光開始性はないが、前記物質と組み合わせて用いることにより全体として光開始性能のより良好な増感剤系となるような添加剤、例えば、ベンゾフェノンに対するトリエタノールアミン等の三級アミンを用いることができる。
【0061】
また本発明においては、分散媒樹脂として光硬化性樹脂に代えて熱硬化性樹脂を用いてもよい。熱硬化性樹脂としては、既述の光硬化性樹脂の構成において、上記(C)光重合開始剤を熱重合開始剤に変更したものを用いることができる。
【0062】
(C)熱重合開始剤としては、熱により遊離ラジカルを発生させる有機過酸化物が好ましく、たとえば、イソブチルパーオキサイド、α,α’−ビス(ネオデカノイルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、クミルパーオキシネオデカノエート、ビス−n−プロピルパーオキシジカーボネート、ビス−s−ブチルパーオキシジカーボネート、1,1,3,3−テトラメチルブチルネオデカノエート、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、1−シクロヘキシル−1−メチルエチルパーオキシネオデカノエート、ジ−2−エトキシエチルパーオキシジカーボネート、ビス(エチルヘキシルパーオキシ)ジカーボネート、t−ヘキシルネオデカノエート、ビスメトキシブチルパーオキシジカーボネート、ビス(3−メチル−3−メトキシブチルパーオキシ)ジカーボネート、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、t−ヘキシルパーオキシピバレート、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ステアロイルパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、サクシニックパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ビス(2−エチルヘキサノイル)ヘキサン、1−シクロヘキシル−1−メチルエチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ヘキシルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、4−メチルベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、m−トルオノイルベンゾイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソブチレート、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)2−メチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサノン、2,2−ビス(4,4−ジブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロドデカン、t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシマレイン酸、t−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシラウレート、2,5−ジメチル−2,5−ビス(m−トルオイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルモノカーボネート、t−ヘキシルパーオキシベンゾエート、2,5−ジメチル−2,5−ビス(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシアセテート、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタン、t−ブチルパーオキシベンゾエート、n−ブチル−4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレレート、ジ−t−ブチルパーオキシイソフタレート、α,α’ビス(t−ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルクミルパーオキサイド、ビス−t−ブチルパーオキシ−p−メンタンハイドロパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、t−ブチルトリメチルシリルパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t−ヘキシルハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、2,3−ジメチル−2,3−ジフェニルブタン等を使用することができる。
【0063】
本発明の波長変換性樹脂組成物の透明分散媒樹脂として、加熱又は加圧により流動する熱可塑性樹脂を用いることができる。熱可塑性樹脂としては、例えば、天然ゴム、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ酢酸ビニル、ポリイソプレン、ポリ−1,2−ブタジエン、ポリイソブテン、ポリブテン、ポリ−2−ヘプチル−1,3−ブタジエン、ポリ−2−t−ブチル−1,3−ブタジエン、ポリ−1,3−ブタジエン等の(ジ)エン類、ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン、ポリビニルエチルエーテル、ポリビニルヘキシルエーテル、ポリビニルブチルエーテル等のポリエーテル類、ポリビニルアセテート、ポリビニルプロピオネート等のポリエステル類、ポリウレタン、エチルセルロース、ポリ塩化ビニル、ポリアクリロニトリル、ポリメタクリロニトリル、ポリスルホン、フェノキシ樹脂、ポリエチルアクリレート、ポリブチルアクリレート、ポリ−2−エチルヘキシルアクリレート、ポリ−t−ブチルアクリレート、ポリ−3−エトキシプロピルアクリレート、ポリオキシカルボニルテトラメタクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリイソプロピルメタクリレート、ポリドデシルメタクリレート、ポリテトラデシルメタクリレート、ポリ−n−プロピルメタクリレート、ポリ−3,3,5−トリメチルシクロヘキシルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート、ポリ−2−ニトロ−2−メチルプロピルメタクリレート、ポリ−1,1−ジエチルプロピルメタクリレート、ポリメチルメタクリレート等のポリ(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。
これらの熱可塑性樹脂は、必要に応じて2種以上のモノマーを共重合して得られるものであってもよいし、2種類以上の熱可塑性樹脂をブレンドして使用することも可能である。
【0064】
さら上記熱可塑性樹脂は、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレート、ポリエーテルアクリレート、ポリエステルアクリレート等のモノマーに由来する構造単位を含む共重合樹脂であってもよい。特に接着性の点から、ウレタンアクリレート、エポキシアクリレート、ポリエーテルアクリレートに由来する構造単位を含む共重合樹脂であることが好ましい。
【0065】
エポキシアクリレートとしては、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、アリルアルコールジグリシジルエーテル、レゾルシノールジグリシジルエーテル、アジピン酸ジグリシジルエステル、フタル酸ジグリシジルエステル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル、ソルビトールテトラグリシジルエーテル等の(メタ)アクリル酸付加物が挙げられる。
【0066】
エポキシアクリレート等のように分子内に水酸基を有するポリマーは接着性向上に有効である。これらの共重合樹脂は、必要に応じて、2種以上併用することができる。これら樹脂の軟化温度は、取扱い性から150℃以下が好ましく、100℃以下がさらに好ましい。太陽電池ユニットの使用環境温度が通常は80℃以下であることと加工性を考慮すると、上記樹脂の軟化温度は特に好ましくは80〜120℃である。
【0067】
熱可塑性樹脂を透明分散媒樹脂として用いた場合の、波長変換性樹脂組成物のその他の構成は、本発明の波長変換用蛍光材料を含有させれば特に制限はないが、通常用いられる成分、例えば、可塑剤、難燃剤、安定剤等をさらに含有させることが可能である。
【0068】
本発明の波長変換性樹脂組成物の透明分散媒樹脂としては、上記のように、光硬化性、熱硬化性、熱可塑性と、特に樹脂を制限するものではないが、特に好ましい樹脂として、従来の太陽電池用の透明分散媒樹脂として広く利用されているエチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)に熱ラジカル重合開始剤、必要に応じて架橋助剤、接着助剤、紫外線吸収剤、安定化材等を配合した組成が挙げられる。
【0069】
本発明の波長変換性樹脂組成物は、前記波長変換用蛍光材料を用いることで、耐湿性に優れ、また、波長変換用蛍光材料が透明分散媒樹脂中に良好な分散性をもつことから、光の散乱が抑制され、光を太陽電池セルへ効率よく導入することができる。
【0070】
なお、本発明において「波長変換用蛍光材料が透明分散媒樹脂中で分散性をもつ」とは、波長変換用蛍光材料を透明分散媒樹脂に分散、混合した際に、目視で粒子や濁りが確認できない状態のことであり、より具体的には下記の状態を意味する。
まず、波長変換用蛍光材料を、蛍光物質を含むビニル化合物が重合するように反応させる。この反応条件は、用いるビニル化合物により適宜決定することができる。
波長変換用蛍光材料を所定の濃度で透明分散媒樹脂に混合し、波長変換性樹脂組成物を得て、透明分散媒樹脂を硬化させる。硬化条件は、用いる透明分散媒樹脂により適宜選択することができる。
硬化した波長変換性樹脂組成物を、ヘーズメーター(日本電色工業(株)製、NDH−2000)を用いて濁度を測定し、その濁度が5%以下であるときに「波長変換用蛍光材料が透明分散媒樹脂中で分散性をもつ」とする。
【0071】
本発明において最も重要な点は、上記のようにヘーズメーターを用いて測定しうる可視光領域における「濁度」のみならず、太陽光発電に対する寄与が少ない波長域、例えば、蛍光物質の吸光度スペクトルにおける極大吸収波長における吸収、散乱による光損失が波長変換性樹脂組成物のシリコン結晶太陽電池モジュールにおける性能を大きく左右していることを見出し、さらにはその測定方法を見出した点にある。以下にその測定方法について詳しく記述する。
【0072】
(測定検体の調製)
本発明にかかる波長変換性樹脂組成物の一例として分散媒樹脂として太陽電池モジュールに幅広く使用されているEVAを用いた場合に関して記述するが、本発明にはこれに限定されるものではない。
EVA樹脂(たとえば東ソー(株)製EVA樹脂、NM30PW)を100質量部、TAIC(トリアリルイソシアヌレート、日本化成(株)製)を2質量部、ルペロックス101(2,5−ジメチル−2,5−(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、アルケマ吉富(株)製)を1.3質量部、シランカップリング剤SZ6030(メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、東レ・ダウコーニング(株)製)を0.5質量部、さらに波長変換用蛍光材料を所定量(例えば、波長変換性樹脂組成物の全不揮発分総量に対して、2質量%)を配合し、これらを90℃に調整したロールミキサーで混練する。
【0073】
得られた混練物を90℃に調整された熱プレスにより、厚み200〜1000μmのシート状樹脂組成物とする。このシート状樹脂組成物を適当な大きさに裁断し、片面をスライドガラス、もう一方の面をPETフィルムではさみ、真空加圧ラミネータを用いてラミネートして測定検体を得る。尚、ラミネータの条件としては、熱板150℃、圧力100kPa、真空時間10分、加圧時間15分で行う。
一方、波長変換用蛍光材料を配合しないこと以外は上記と同様にして得られるものを、参照用検体とする。
【0074】
(測定波長域の確認)
本発明においては、吸光度スペクトルにより測定波長域を決めることが可能である。吸光度スペクトルは分光光度計(たとえば日立ハイテクノロジー(株)製U−3310、日本分光(株)製V−570など)を用いて通常の方法により測定することができる。ただし、このとき蛍光物質に依存した本来の吸収以外に、上記の測定検体調製方法によって調製した測定検体の場合、基材となるガラスやPETの吸収もあるので注意が必要である。
さらに蛍光物質の本質的な特性において、上記蛍光の励起スペクトルと、吸光度スペクトルのピーク波長が互いに一致しない場合があるが、本発明においては吸光度スペクトルのピーク波長(極大吸収波長)を採用する。
また本発明において、吸光度スペクトルのピーク波長(極大吸収波長)を含む波長範囲で測定を行なう場合、例えば、極大吸収波長以上、かつ、吸光度スペクトルの立ち上がり(吸収閾値)の波長範囲までを測定範囲とすることができる。吸光度スペクトルの立ち上がりとなる波長は、吸光度が0.0001(O.D./μm)以上となる波長とする。
【0075】
(測定波長域での光損失測定)
測定波長域での光損失測定は、単色光を試料に照射し、演算を自動的に行うことのできる市販の分光光度計(たとえば日立ハイテクノロジー(株)製U−3310、日本分光(株)製V−570など)を用いる場合と、全波長の光を試料に照射し、演算を手動操作で行う場合(たとえば、光源としてワコム電創(株)製ソーラーシミュレータWXS−155S−10、AM1.5Gなどを用い、英弘精機(株)製ソーラーシミュレータ用回折格子型分光放射計LS−100などにより分光放射強度を測定する)とがある。前者の利点は簡便な測定および評価が可能であることであり、後者は、同時に発光強度をも計測しうることである。
本発明においては、後者で測定される極大吸収波長における前記A(λ)値が3.0×10−4(O.D./μm)以下であるが、必要に応じて、前者で測定される極大吸収波長における前記A(λ)値で評価してもよい。
【0076】
<波長変換性樹脂組成物の製造方法>
本発明の波長変換性樹脂組成物の製造方法としては、例えば、蛍光物質およびビニル化合物(好ましくはアクリルモノマー及びメタクリルモノマーの少なくとも1種)を含む混合物を得た後、前記混合物中のビニルモノマーを重合して、波長変換用蛍光材料を得る工程と、前記波長変換用蛍光材料を、透明分散媒樹脂に混合し波長変換性樹脂組成物を得る工程と、を有する製造方法で製造可能である。
【0077】
(波長変換用蛍光材料を得る工程)
蛍光物質およびビニル化合物を含む混合物は、蛍光物質およびビニル化合物に加えて、過酸化物等のラジカル重合開始剤、連鎖移動剤等を混合することで得られる。混合の方法としては特に制限はなく、例えば、超音波混合、ミックスローター、マグネチックスターラー、攪拌羽根で攪拌することで行えばよい。
【0078】
得られた混合物中のビニル化合物を重合させることで波長変換用蛍光材料を得ることができる。重合条件としては、用いるビニル化合物、ラジカル重合開始剤に応じて適宜選択することができ、通常の重合条件を参考に適宜調整すればよい。
生成する重合物(波長変換用蛍光材料)はそのガラス転移温度に応じて、その状態を選ぶことができる。ガラス転移温度の高い、たとえばメタクリル酸メチル等では、蛍光物質、ラジカル重合開始剤を混合した液を、所定の温度に保った水に界面活性剤を加え、ここに懸濁させることで粒子状の重合物を得ることができる(懸濁重合)。また界面活性剤の種類を適宜変更することで、より細かに懸濁させることにより、より微細な粒子を得ることもできる(乳化重合)。
また、ガラス転移点が室温よりも低い、たとえばアクリル酸ブチル等は、蛍光物質、ラジカル重合開始剤を混合した液をそのままフラスコ等の容器内で重合させ、粘度の高い重合物を得ることができる。
ラジカル重合開始剤に関しては、たとえばラウロイルパーオキサイド等、有機過酸化物が好適であり、ラウロイルパーオキサイドの場合は、50〜60℃で重合するのがよい。
【0079】
(波長変換性樹脂組成物を得る工程)
得られた波長変換用蛍光材料を、透明分散媒樹脂に混合することで、波長変換性樹脂組成物を製造することができる。
混合条件は、波長変換用蛍光材料および透明分散媒樹脂に応じて適宜選択することができる。たとえば、透明分散媒樹脂としてエチレン−酢酸ビニル共重合体を用いる場合、ロールミルを用いることができる。具体的には90℃に調整したロールに、ペレット状または粉末状のエチレン−酢酸ビニル共重合体に、波長変換用蛍光材料と、必要に応じて、ラジカル重合開始剤、シランカップリング剤、その他の添加剤を加え、混練することにより得られる。
【0080】
上記のようにして得られた本発明の波長変換性樹脂組成物は、太陽電池モジュールの光透過性層として用いることができる。波長変換性樹脂組成物の形態は特に制限はないが、シート状に形成するのが、使用のし易さの点から好ましい。シート状にするには、90℃に調整したプレス機によりスペーサーを介して形成しうる。スペーサーの厚みは、0.4〜1.0mm程度とすることにより、使用しやすいシート状波長変換性樹脂組成物が得られる。
またシート表面に、エンボス加工を施してもよい。エンボス加工を施すことにより、太陽電池モジュールを作製する工程で、気泡の巻き込みを少なくできる。
【0081】
また、上記のようにして得られた波長変換性樹脂組成物は、キャストフィルム状に形成して太陽電池セル又は保護ガラスの内側に貼り付け、太陽電池モジュールの光透過性層の少なくとも一つの層を構成することも可能である。
キャストフィルムに用いるための波長変換性樹脂組成物は、トルエン等の溶液中で重合したアクリル樹脂に適宜架橋性モノマー、光または熱重合開始剤を配合し、これに上記波長変換用蛍光材料を混合することで得られる。
この波長変換性樹脂組成物の混合液を基材となるフィルム(たとえばPETフィルム)上に、アプリケータ等を用いて塗布し、溶剤を乾燥させてキャストフィルムを得る。
【0082】
本発明の波長変換性樹脂組成物は、複数の光透過性層を有する太陽電池モジュールの一つの光透過性層として用いることができる。
太陽電池モジュールは、例えば、反射防止膜、保護ガラス、封止材、太陽電池セル、バックフィルム、セル電極、タブ線等の必要部材から構成される。これらの部材の中で、光透過性を有する光透過性層としては、反射防止膜、保護ガラス、封止材、太陽電池のSiNx:H層及びSi層等が挙げられる。
本発明の波長変換性樹脂組成物は、上記光透過性層の中でも封止材として用いることが好ましい。また、保護ガラスと封止材との間、又は封止材と太陽電池セルの間に波長変換用フィルムとして配置することも可能である。
【0083】
波長変換性樹脂組成物を光透過性層として用いる場合、透明分散媒樹脂は少なくともその入射側の層よりも同程度かあるいは高屈折であることが好ましい。
詳細には、前記複数の光透過性層を、光入射側から層1、層2、・・・、層mとし、またこれらの屈折率をn、n、・・・、nとしたとき、n≦n≦・・・・≦nが成り立つことが好ましい。
【0084】
本発明において、上記で挙げられる光透過性層の積層順は、通常、太陽電池モジュールの受光面から順に、必要により形成される反射防止膜、保護ガラス、封止材、太陽電池セルのSiNx:H層、Si層となる。
【0085】
即ち、本発明の波長変換性樹脂組成物を封止材として用いる場合、受光面から入り込む外部光が反射損失少なく、効率よく太陽電池セル内に導入するために、波長変換性樹脂組成物の屈折率が、該波長変換性樹脂組成物より光入射側に配置される光透過性層、すなわち、反射防止膜、保護ガラス等の屈折率より高く、且つ本発明の波長変換性樹脂組成物からなる封止材の反光入射側に配置される光透過性層、すなわち、太陽電池セルのSiNx:H層(「セル反射防止膜」ともいう)及びSi層等の屈折率よりも低くすることが好ましい。
【0086】
本発明の波長変換性樹脂組成物を封止材として用いる場合は、太陽電池セルの受光面上に配置される。そうすることで、太陽電池セル受光表面の、テクスチャー構造、セル電極、タブ線等を含めた凹凸形状に隙間なく追従できる。
【0087】
<太陽電池モジュール>
本発明の太陽電池モジュールは、前記波長変換性樹脂組成物を含む光透過層を備えることを特徴とする。これにより、優れた変換効率を達成することができる。
【0088】
本発明の波長変換性樹脂組成物を用いて得られるシート状の樹脂組成物層を用いて、太陽電池セルと保護ガラスの間の、例えば波長変換型封止材として、太陽電池モジュールを製造することが可能である。
具体的には、通常のシリコン結晶系太陽電池モジュールの製造方法に準じて太陽電池モジュールを構成することができ、通常の封止材シートに代えて、前記波長変換性樹脂組成物からなる層(特に好ましくはシート状)を用いることで、本発明の太陽電池モジュールを製造することができる。
【0089】
一般的に、シリコン結晶系太陽電池モジュールは、まず、受光面であるカバーガラスの上に、シート状の封止材(多くは、エチレン−酢酸ビニル共重合体を熱ラジカル重合開始剤で、熱硬化型にしたもの)を載せる。本発明では、ここで用いられる封止材を、本発明の波長変換性樹脂組成物を用いる。次に、タブ線で接続されたセルを載せ、さらにシート状の封止材(ただし本発明では、受光面側のみに波長変換性樹脂組成物を用いればよく、この裏面に関しては、従来のものでも構わない)を載せ、さらにバックシートを載せて、太陽電池モジュール専用の真空加圧ラミネータを用いて、モジュールとする。
【0090】
このとき、ラミネータの熱板温度は、封止材が軟化、溶融し、セルを包み込み、さらに硬化するのに必要な温度となっており、通常、120〜180℃、多くは、140〜160℃でこれらの物理変化、化学変化が起こるように設計されている。
【0091】
本発明の波長変換性樹脂組成物は、太陽電池モジュールとする前の状態のものであり、具体的には硬化性樹脂を用いた場合は、半硬化状態をいう。なお、半硬化状態の波長変換性樹脂組成物からなる層と、硬化した後(太陽モジュール化した後)の層との屈折率は大きくは変わらない。
【0092】
また、波長変換性樹脂組成物をキャストフィルム状にして使用する場合は、まず保護ガラスの反光入射面、又は太陽電池セルの光入射面上に真空ラミネータを用い、ラミネートし、基材フィルムを取り除く。光硬化性であれば、光照射により、硬化させる。熱硬化性であれば、熱をかけて硬化させるが、ラミネート時に熱をかけ同時に硬化することも可能である。つづく工程は、通常の太陽電池モジュールの製造方法に準じて行うことができる。
【0093】
<波長変換性樹脂組成物の評価方法>
本発明の太陽電池用波長変換性樹脂組成物の評価方法は、吸光度スペクトルにおける極大吸収波長がλmax(nm)である蛍光物質と、分散媒樹脂とを含む太陽電池用波長変換性樹脂組成物であり、波長λ(nm)における光強度がI(λ)である入射光を、前記樹脂組成物から形成された厚みがt(μm)である樹脂膜の厚み方向に入射して得られる透過光の強度をI(λ)とし、前記入射光を、前記樹脂組成物から前記蛍光物質を除いた参照用樹脂組成物から形成された厚みがtref(μm)である参照用樹脂膜の厚み方向に入射して得られる透過光の強度をIref(λ)とした場合に、前記極大吸収波長λmax(nm)における下記式1で表されるA(λ)の値に基づいて、波長変換効率を評価することを含む
式1 : A(λ)={log(I(λ)/I(λ))}/t − {log(I(λ)/Iref(λ))}/tref
【0094】
本発明においては、太陽電池用波長変換性樹脂組成物の波長変換効率が、前記A(λ)の値に基づいて評価される。具体的には、所定の基準値と前記A(λ)とを比較して、前記A(λ)が前記基準値より以下である場合に、波長変換効率に優れると判断する。本発明において前記基準値は、例えば、3.0×10−4(O.D./μm)とすることができ、2.5×10−4(O.D./μm)であることが好ましく、2.0×10−4(O.D./μm)であることがより好ましい。
かかる評価方法で、太陽電池用波長変換性樹脂組成物の波長変換効率を評価することで、実際に太陽電池セルを構成するまでもなく、変換効率に優れる太陽電池用波長変換性樹脂組成物をスクリーニングすることができる。
尚、前記A(λ)の詳細については既述の通りである。
【実施例】
【0095】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。尚、特に断りのない限り、「部」及び「%」は質量基準である。
【0096】
<蛍光物質の合成>
4,4,4−トリフルオロ−1−(チエニル)−1,3−ブタンジオン(TTA)200mgを7mlのエタノールに溶解し、ここへ1Mの水酸化ナトリウム1.1mlを加えて混合し、混合溶液を得た。次いで7mlのエタノールに溶かした6.2mgの1,10−フェナントロリンを先の混合溶液に加え、1時間攪拌した後、EuCl・6HOの103mgを3.5mlの水に溶解した水溶液を加え、沈殿物を得た。得られた沈殿物をろ別し、エタノールで洗浄し、乾燥して、蛍光物質Eu(TTA)Phenを得た。
【0097】
<波長変換用蛍光材料の作製1 〜懸濁重合〜>
蛍光物質として上記で得られたEu(TTA)Phenを0.5部、ビニル化合物としてメタクリル酸メチルを100部、ラジカル重合開始剤としてラウロイルパーオキサイドを0.2部、連鎖移動剤としてn−オクタンチオールを0.1部用い、これらを混合攪拌してモノマー混合液を用意した。
また、イオン交換水500部に、界面活性剤としてポリビニルアルコール0.036部を加え、ここに前述したモノマー混合液を加えて、ホモジナイザーにより激しく攪拌した。この懸濁液を還流管、窒素気流下のフラスコを用い、攪拌をしながら、60℃に保ち、懸濁重合を行い、最後に90℃に昇温して、重合反応を完結させた。
ここで得られた波長変換用蛍光材料は、平均径が100μm程度の粒子状となり、これを濾別、乾燥し、必要に応じてふるいわけをし、波長変換用蛍光材料を得た。
【0098】
<波長変換用蛍光材料の作製2 〜乳化重合〜>
蛍光物質として上記で得られたEu(TTA)Phenを0.3部、ビニル化合物としてメタクリル酸メチルを60部、連鎖移動剤としてn−オクタンチオールを0.012部用い、これらを混合攪拌してモノマー混合液を用意した。
また、イオン交換水300質量部に、界面活性剤としてアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム(G−15、花王(株)製)を3.65部加えた。ここに前述したモノマー混合液を加え、還流管、窒素流下のフラスコを用い、攪拌をしながら、60℃に保ち、ラジカル重合開始剤として過硫酸カリウムを0.03質量部加えて、乳化重合を4時間行い、最後に90℃に昇温して、重合反応を完結させた。
ここで得られた波長変換用蛍光材料は、一次粒子径が100nm程度の粒子状となり、イソプロピルアルコールなどで適宜後処理をし、これを濾別、乾燥し、必要に応じてふるいわけをし、波長変換用蛍光材料を得た。
【0099】
(実施例1〜22)
<波長変換性樹脂組成物の調製>
透明分散媒樹脂としてエチレン−酢酸ビニル樹脂:NM30PW(東ソー(株)製)を100部、過酸化物熱ラジカル重合開始剤:ルペロックス101(アルケマ吉富(株)製、この場合架橋剤としても働く)を1.5部、シランカップリング剤:SZ6030(東レ・ダウコーニング(株)製)を0.5部、及び、前記で得られた重合後の波長変換用蛍光材料の種類と量を表1に示したように適宜変更し(波長変換用蛍光材料1質量部が蛍光物質に関しては、0.005質量部に相当する)、90℃のロールミルで混練して、波長変換用樹脂組成物をそれぞれ得た。
【0100】
<波長変換用樹脂組成物を用いた波長変換型封止材シートの作製>
上記で得られた波長変換用樹脂組成物を離型シートに挟み、ステンレス製スペーサーを用い、熱板を90℃に調整したプレスを用い、シート状にして適宜厚みを変更した波長変換型封止材シートを得た。
【0101】
<評価用検体の作製>
上記で得られた波長変換型封止材シートをガラス板の上に置き、その上にPETフィルムを載せ、太陽電池用真空加圧ラミネータ((株)ネヌ・ピー・シー、LM−50x50−S)を用い、熱板150℃、真空10分、加圧15分の条件で、評価用検体を作製した。
【0102】
<励起波長域光損失の評価1>
英弘精機(株)製ソーラーシミュレータ用回折格子型分光放射計LS−100の検出部の上に、上記で得られた評価用検体を載せ、ワコム電創(株)製ソーラーシミュレータWXS−155S−10,AM1.5Gにから光を照射して、強度スペクトルI(λ)を得た。
また、上記LS−100の検出部の上に何も置かずにブランクの強度スペクトルI(λ)を得た。さらに上記評価用検体の作製において波長変換用蛍光材料を用いずに作製した参照検体を上記LS−100の検出部の上に置き、参照検体の強度スペクトルIref(λ)を得た。
また評価用検体および参照用検体の一番厚い部分を、デジタルマイクロメーターを用い、厚みを計測し、ガラス、PETフィルムの厚みを引き、それぞれの厚みtおよびtrefを得た。下式によりA(λ)のスペクトルを得た。得られたA(λ)のスペクトルの一例を図2および図3に示す。尚、図3は図2の一部を拡大したものである。
【0103】
(λ)={log(I(λ)/I(λ))}/t−{log(I(λ)/Iref(λ))}/tref
【0104】
<励起波長域の確認>
上記で得られた蛍光物質をイソプロピルアルコールに溶解した蛍光物質溶液について、分光蛍光光度計、日立ハイテクノロジー(株)製F−4500を用い、励起スペクトルを測定した。励起スペクトルの一例を図4に示す。
また、蛍光物質を含む波長変換型封止材シートについて、日本分光(株)製分光光度計V−570を用いて、吸光度スペクトルを測定した。吸光度スペクトルの一例を図5に示す。
これらの図において、励起ピーク波長は、390nm付近、吸収ピーク波長は350mとずれているため、本実施例、比較例においては、極大吸収波長である350nmにおける上記A(λ)により評価した。
また吸光度スペクトルにおける膜厚当たりの吸光度が1.0×10−4(O.D./μm)以下となる吸収閾値は、400nm程度であることから、併せて350〜400nmのA(λ)の平均値についても評価を行なった。
(350nm)、A(350〜400nm)の平均値を表1に示す。
【0105】
<太陽電池モジュールの評価>
シリコン結晶系太陽電池セルに日立化成工業(株)製太陽電池用導電フィルム、CF−105を用い、専用の圧着装置によりタブ線(厚み0.14mm、幅2mm、亜鉛めっきしたもの)を表2本、裏2本接続し、さらにこれら表裏それぞれを横タブ線(日立電線(株)製、A−TPS 0.23x6.0)を用い、外部取り出し線とした。これをワコム電創(株)製ソーラーシミュレータWXS−155S−10,AM1.5G、英弘精機(株)製ソーラーシミュレータ用I−VカーブトレーサーMP−160を用い、JIS−C−8914に準拠して、太陽電池I−V特性を得た。
さらにこのタブ線接続されたシリコン結晶系太陽電池セルを用いて、下からカバーガラス(旭硝子(株)製)、上記<波長変換用樹脂組成物を用いた波長変換型封止材シートの作製>で得られた波長変換型封止材(EVA)シート、上記太陽電池セル、裏面用のEVAシート(蛍光材料を含まない)、PETフィルム(東洋紡績(株)製東洋紡エステルフィルムA4300)の順に載せ、太陽電池用真空加圧ラミネータ((株)ネヌ・ピー・シー、LM−50x50−S)を用い、熱板150℃、真空10分、加圧15分の条件で、評価用太陽電池モジュールを作製した。得られた評価用太陽電池モジュールについて上記と同様な方法で太陽電池I−V特性を得た。得られた結果を表1にまとめた。
各種測定値のうち、Jsc(短絡電流密度)に関して、下式で算出されるΔJscを用いて評価用太陽電池モジュールを評価した。
ΔJsc = Jsc(モジュール)− Jsc(セル)
ただし、ここでの評価では、ソーラーシミュレータのUVフィルターは用いずに測定している。
【0106】
また、このΔJscと、A(350nm)との関係を図1に示した。これらの図から、A(λmax)の値が大きくなると、太陽電池における波長変換効果がなくなることがわかる。
さらに、このΔJscと、A(350〜400nm)の平均値との関係を図6に示した。これらの図から、A(350〜400nm)の平均値が大きくなると、太陽電池における波長変換効果がなくなることがわかる。
【0107】
(比較例1〜3)
実施例1〜22の<波長変換用樹脂組成物の調製>において、波長変換用蛍光材料を用いる代わりに、上記で得られた蛍光物質そのものを、表1に示した含有量となるように添加量を適宜変更したこと以外は上記と同様にして、波長変換用樹脂組成物を得た。
得られた波長変換用樹脂組成物について、上記と同様にしてA(λ)値を算出した。
さらに上記と同様にして評価用太陽電池モジュールを作製し、その性能を評価した。評価結果を表1に示した。
【0108】
【表1】



【0109】
<可視領域における直線透過率の評価>
上記で得られた実施例および比較例の評価用検体について、ヘーズメーター(日本電色工業(株)製、NDH−2000)を用いて、可視領域における直線透過率(PT)を測定し、これの常用対数を評価用検体の厚み(t)で除算し、膜厚で規格化した指標log10PT/tを得た。
この結果を図7にまとめた。図7から指標log10PT/tとΔJscとの間に特に相関が見られず、可視光の透過率からは、太陽電池における波長変換効果を表すのに十分でないことがわかる。
【0110】
<発光強度の評価>
上記で得られた実施例および比較例の評価用検体について、発光量子効率測定装置((株)システムズエンジニアリング製、QEMS−2000)を用いて、積分発光強度を測定した。
この結果を図8にまとめた。図8から積分発光強度とΔJscとの間に特に相関が見られず、積分発光強度では、太陽電池における波長変換効果を表すのに十分でないことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明によれば、波長変換型用蛍光材料及び波長変換用樹脂組成物を太陽電池モジュールに適用したときに、入射した太陽光のうち太陽光発電に寄与の少ない光を発電に寄与の大きい波長へ変換するのと同時に、劣化することなく効率よく且つ安定的に太陽光を利用できる波長変換用樹脂組成物を提供できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸光度スペクトルにおける極大吸収波長がλmax(nm)である蛍光物質と、樹脂粒子と、分散媒樹脂と、を含む樹脂組成物であって、
波長λ(nm)における光強度がI(λ)である入射光を、前記樹脂組成物から形成された厚みがt(μm)である樹脂膜の厚み方向に入射して得られる透過光の強度をI(λ)とし、
前記入射光を、前記樹脂組成物から前記蛍光物質および樹脂粒子を除いた参照用樹脂組成物から形成された厚みがtref(μm)である参照用樹脂膜の厚み方向に入射して得られる透過光の強度をIref(λ)とした場合に、
下記式1で表されるA(λ)の値が、前記極大吸収波長λmax(nm)において、3.0×10−4(O.D./μm)以下である太陽電池用波長変換性樹脂組成物。
式1 : A(λ)={log(I(λ)/I(λ))}/t − {log(I(λ)/Iref(λ))}/tref
【請求項2】
前記蛍光物質は、前記樹脂粒子に内包されている請求項1に記載の太陽電池用波長変換性樹脂組成物。
【請求項3】
前記蛍光物質は、有機配位子を含む希土類金属錯体である請求項1または請求項2に記載の太陽電池用波長変換性樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の太陽電池用波長変換性樹脂組成物を含む光透過性層を備える太陽電池モジュール。
【請求項5】
吸光度スペクトルにおける極大吸収波長がλmax(nm)である蛍光物質と、分散媒樹脂と、を含む太陽電池用波長変換性樹脂組成物の評価方法であって、
波長λ(nm)における光強度がI(λ)である入射光を、前記樹脂組成物から形成された厚みがt(μm)である樹脂膜の厚み方向に入射して得られる透過光の強度をI(λ)とし、
前記入射光を、前記樹脂組成物から前記蛍光物質を除いた参照用樹脂組成物から形成された厚みがtref(μm)である参照用樹脂膜の厚み方向に入射して得られる透過光の強度をIref(λ)とした場合に、
前記極大吸収波長λmax(nm)における下記式1で表されるA(λ)の値に基づいて、波長変換効率を評価することを含む太陽電池用波長変換性樹脂組成物の評価方法。
式1 : A(λ)={log(I(λ)/I(λ))}/t − {log(I(λ)/Iref(λ))}/tref

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−222748(P2011−222748A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−90350(P2010−90350)
【出願日】平成22年4月9日(2010.4.9)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】