説明

太陽電池用表面保護シート

【課題】 長期に亘る耐候性と光透過度、特に紫外線領域での透過率低下が少ない太陽電池の受光側の樹脂表面保護シートおよび光活用効率の優れた太陽電池モジュールを提供する。
【解決手段】フッ化ビニリデン樹脂を主成分とし、アクリル樹脂を含有する樹脂組成物からなる太陽電池用表面保護シート。配合比としてフッ化ビニリデン樹脂を98〜50質量%、アクリル樹脂を2〜50質量%含有する太陽電池用表面保護シートが好ましい。
更に、表面保護シートが少なくとも表面層と裏面層を有する積層シートであって、各層のフッ化ビニリデン樹脂組成が傾斜的に増加する太陽電池用表面保護シートが、光の斜光透過率がすぐれており光活用効率の点で有利である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池用の表面保護シートに関する。
【背景技術】
【0002】
太陽光を活用した太陽電池による発電は、クリーンエネルギーとして注目されている。しかしながら、変換効率は未だ低く、設備費及び敷設する敷地面積に課題がある。入射する太陽光の変換効率をあげるために反受光側に保護機能として用いる裏面保護シートに光反射機能を付与する方法、或いは発電素子としての結晶シリコンを多層にする方法がある。
また、結晶シリコンの発電に利用できる波長領域は500〜1100nmであり、太陽光の効率が上がらない要因となっているが、これの対策として、紫外線にも感応するアモルファスシリコン系の開発や感応する波長領域が異なる発電素子を組み合わせる積層型太陽電池の検討が行われている。
【0003】
太陽電池モジュールの受光側には、表面保護材として白板ガラスが用いられている。白板ガラスは、前記の紫外線も含めた光の透過性に優れており、屋外使用に耐えるだけの耐候性や耐衝撃性を備えているが、屋根の上に設置される場合に重量が大きく、屋根の耐荷重を大きくせねばならない点が欠点であり、従来よりポリカーボネート、アクリル樹脂、スチレン/ブタジエン共重合樹脂、PET,塩ビ樹脂等の透明プラスチックシートが一部使用されている。しかし何れも耐候性に課題を有している。耐候性改善には紫外線吸収剤の添加が考えられるが、紫外線の透過を抑制することになり、発電効率を高めるという目的からすると、光活用の効果を抑制してしまうことになる。表面保護材としては、一方で耐候性の観点からフッ素系のフィルムを用いることも提案されている(特許文献1参照)。しかしながら、フッ素系の樹脂は共重合成分を入れてその結晶性を調整した樹脂でも、製膜工程での部分的結晶化により、十分な透明性を得ることが困難である。
【0004】
更に、発電効率を高める上で問題となるのは、太陽電池モジュールの受光側表面に垂直からはずれた斜めから入射する光の反射による発電量の低下が挙げられる。この問題を解決するには、例えば防眩機能の必要な液晶表示素子等で提案されている反射防止シートのように、表面にハードコート層を設けて、最表面に凹凸を設ける方法(特許文献2)が考えられるが、最表面への凹凸は、長期使用することで砂塵や埃が堆積し、光透過率を低下させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−67248号公報
【特許文献2】特開2004−4176号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記の従来技術の問題点を克服し、長期に亘る耐候性と光透過度が得られ、太陽電池の受光側に、特に紫外線領域での透過率低下が少ない樹脂製の表面保護層シートを提供し、更にそれを備えた光活用効率の優れた太陽電池モジュールを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、太陽電池モジュールの光入射側の表面を保護する表面保護層として、屈折率の高いフッ化ビニリデン樹脂と低いアクリル樹脂の混合物を含有する層を表面に設けることによって前記の課題が大幅に改善され、更に、表面樹脂層を複数の層で構成し、最表面層から内側に向かって傾斜的に屈折率の高いフッ化ビニリデン樹脂の比率を増加させることによって、表面での光の反射を抑制し、発電量をより高めることを見出し本発明に至った。
即ち本発明は、フッ化ビニリデン樹脂を主成分とし、アクリル樹脂を含有する樹脂組成物からなる太陽電池用表面保護シートである。樹脂組成としてはフッ化ビニリデン樹脂を98〜50質量%、アクリル樹脂を2〜50質量%含有するシートが好ましい。そして、フッ化ビニリデン樹脂がフッ化ビニリデンのホモポリマーであり、アクリル樹脂が、メチル(メタ)アクリレートを95〜85質量%、n−ブチルアクリレートを5〜15質量%含有する樹脂であるシートが好ましい。更に少なくとも受光側の表面層と裏面層を有する積層シートであって、前記の各層が下記の(1)および(2)の樹脂組成を有する請求項1または請求項2に記載の太陽電池用表面保護シートが好ましい。
(1) 表面層: フッ化ビニリデン樹脂を75〜50質量%、アクリル樹脂を25〜50質量%
(2) 裏面層: フッ化ビニリデン樹脂を98〜75質量%、アクリル樹脂を2〜25質量%
本発明は、前記のいずれかの表面保護シートを用いた太陽電池用モジュールを含む。
【発明の効果】
【0008】
本発明の太陽電池用表面保護シートは、白板ガラスの代わりとして絶縁性封止材の光入射側表面にアクリル系接着剤或いは熱融着させるか、あるいは光入射側の白板ガラス表面に二液アクリル系接着剤などを用いて貼り付けて使用することもできる。長期に亘る耐候性と光透過度、太陽電池の受光側に、特に紫外線領域での透過率低下が少ない樹脂製の表面保護層として用いることができ、それを備えた光活用効率の優れた太陽電池モジュールを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、本発明の一例の太陽電池モジュールの構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下本発明を詳細に説明する。
本発明において用いるフッ化ビニリデン樹脂(以下「PVDF」と記す)とは、フッ化ビニリデン単量体を主成分とするものであって、例えば一部にフッ化ビニル、四フッ化エチレン、三フッ化塩化エチレン、六フッ化プロピレン等のフッ素化されたビニル化合物や、スチレン、エチレン、ブタジエン、及びプロピレン等の公知のビニル単量体を含有するものも含む。しかし、後述する本発明の樹脂組成物を溶融押出し、厚さ50μm以下のような比較的薄いシートを得る場合は、製膜加工時の冷却ロールからの剥離性の観点から、PVDFとしてはホモポリマーを用いることが好ましい。またPVDFの溶融粘度は、製膜時の加工性の観点から4〜30(10−3poise)のものが好ましく、更に好ましくは6〜12(10−3poise)のものが好ましい。(尚、本発明における「溶融粘度」とは、キャピログラフ(東洋精機製)を用いて、温度240℃、剪断速度50sec.−1測定した値である。)
【0011】
一方で本発明におけるアクリル樹脂(以下「PMMA」と記す)は特に限定されるものではないが、メチル(メタ)アクリレートを主成分とする耐候性に優れた樹脂が好ましい。メチル(メタ)アクリレートに共重合できる主なモノマーとしては、エチル(メタ)アクリレート、2−プロピル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレートなどである。可撓性を付与する目的で、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘシル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。アクリル樹脂の吸湿性を低下させるため、スチレンを共重合することも可能である。本発明においては、製膜により得られたシートの耐衝撃強度等の機械物性や耐候性の観点から、メチル(メタ)アクリレートを95〜85質量%、n−ブチルアクリレートを5〜15質量%含有する樹脂(PMMA)が更に好ましい。
【0012】
本発明の表面保護シートは、前記のPVDFとPMMAの混合物からなる樹脂組成物である。これらの樹脂の配合比率としては、PVDFを98〜50質量%、PMMAを2〜50質量%含有する樹脂組成物が、耐候性、紫外線透過性、可視光透過性が高く好ましい。PMMAが50質量%を超えると耐候性、紫外線透過率が不十分となる恐れがあり、PVDFが98質量%を超えると可視光透過性が十分に得られなくなる恐れがある。
【0013】
本発明の前記樹脂組成物には、安定剤、滑剤、酸化防止剤、耐候剤、UV吸収剤、帯電防止剤、可塑剤、着色剤、充填剤等通常用いられる添加剤を必要に応じて添加することができる。また、本発明の表面保護シートには、反射防止機能として、更に、表面への凹凸、低屈折率成分のコーティング等を用いることもできる。また、表面硬度の向上策として、受光側最表面へのアクリルのハードコートを行うこともできる。
【0014】
本発明の前記樹脂組成物の表面保護シートは、前記のように長期に亘る耐候性と紫外線透過度が優れていて、且つPMMAを含有することによって充填材であるEVAとの接着性が良好である。一方で太陽電池の発電効率を更に向上させるためには、前記のようにモジュールに斜めから入射する光の反射を極力低減することが重要である。本発明者等は更に、表面保護シートを屈折率の高いPVDFと低いPMMAの含有量の異なる混合物からなる多層構成とし、受光側の表面層から内側に向かって傾斜的に屈折率の高いPVDFの比率を増加させた層を設けることが、光の反射の低減に極めて有効であることを見出した。
即ち、少なくとも表面層と裏面層を有する積層シートであって、前記の層が下記の(1)および(2)の各成分を含有する積層シートが好ましい。
(1)表面層: PVDF:75〜50質量%、PMMA:25〜50質量%
(2)裏面層: PVDF:98〜75質量%、PMMA:2〜25質量%
また表面層と裏面層の間に、上記の(1)と(2)の中間の組成の層を設けると、各層間での低角度入射光の反射が低減し、更に光活用効率が向上する。
【0015】
本発明の表面保護シートの溶融押出成形方法は、特に限定されるものではなく、一般的な方法で行うことができる。PVDFとPMMAは相溶性が良好であるので、両者をドライブレンドして単軸もしくは二軸押出機等に供給してシートダイを通してシートを得ることもできる。また、両樹脂を予め混練したコンパウンドを押出機に供給してシートを成形しても良い。また、前記の多層構成の積層シートを得る方法も特に限定されるものではなく、一般的な方法を用いることができる。例えば、複数の押出機を用いて、表面層や裏面層に対応する樹脂を溶融し、フィードブロックまたはマルチマニフォールドダイ等によって各層を積層して押出すことによって積層シートを得ることができる。また、単層であっても積層であっても、一般的なインフレーション法によってもシートを得ることができる。
【0016】
本発明の表面保護シートを設けた太陽電池モジュールの一例の断面図を図1に示す。
図1 において、太陽電池モジュール1は、主要な部分としては受光側表面の表面保護シート2、非受光面側の裏面保護シート3、表面保護シート2と裏面保護シート3、とで覆われた絶縁性封止材4、そしてこの絶縁性封止材4で封止された太陽電池セル群5で構成されている。
【0017】
太陽電池モジュール1 の長期耐久性を確保するためには、表面保護シート2、絶縁性封止材4 および裏面保護シート3 の耐久性が確保されることはもとより、各部材が隙間無く接着されていて、長期に亘ってその状態が維持されることが必要不可欠である。
本発明においては、表面保護シート2は、前記のPMMAを含有するPVDFシートであり、絶縁性封止材4は通常はEVAで構成される。そしてこの両者を接着する方法は、特に限定されるものではなく、熱プレスによって他の部材と共に一体化しても良いが、PVDFシートと他の樹脂を接着する際に用いるアクリル系やウレタン系等の一般的な接着剤を用いることが好ましい。
【0018】
表面保護シート2に要求される特性は、紫外線も含めて光の透過性が良好であることである。更に、太陽光は常にモジュールの受光面に対して垂直に入射するわけではないので、斜めから入射した光の反射を出来る限り抑制することが、太陽電池の発電効率を上げることにつながる。従って、本発明の好ましい形態としては、前記のように表面保護シートを多層化して、光の屈折率に傾斜を持たせた構成が好ましい。
【実施例】
【0019】
(評価方法)
実施例、比較例の各サンプルの各特性を、以下の方法にて評価した。
(1)耐候性
各サンプルシートを下記促進耐候性試験機で2000時間暴露し、処理前のシートとの色差b(黄色)変化で示した。
耐候性試験条件
試験機 : スガ試験機社製サンシャインウエザーメーター
条件 : ブラックパネル温度 60℃、シャワーなし
UV照射強度: 100mw/cm
(2)光透過度
島津製作所製 UV1200によって、JIS K7105法に準拠して紫外線領域の315nm及びより可視光に近い400nm波長での透過度を測定した。
(3)曇り度
スガ試験機製ヘーズメーター HZ−Tによって、JIS K7105法に準拠して測定した。
(4)斜光透過率
厚み6mmの白板ガラス(旭ガラス社製)に厚さ10μmの二液架橋型アクリル粘着剤(東洋インキ社製:オリバインBPS5977)を介して、各実施例または比較例のシートを接着し、斜光透過率測定のサンプルとした。
各サンプルのシート側を入射光側とし、変角光度計(日本電色社製GC5000L)を用いて、JISK7105B法に準拠して入射角度70度での透過率を測定した。尚、斜光透過率の測定は、実施例1,4,5 のサンプルについて行い、比較例3として白板ガラスのみでシートを貼っていないものについても測定した。
【0020】
(実施例1)
PVDFは、アルケマ社製、商品名「カイナーK720」、PMMAは、クラレ社製、商品名「パラペットGR1000H42」を用いた。PVDF95質量部とPMMA5質量部をヘンシェルミキサーで混合し、この混合物をスクリュー径65mmの単軸押出しシート化設備にて0.4mm厚み、幅400mmのシートを作成した。
(実施例2,3)
PVDFとPMMAを表1に記載した配合比とした以外は、実施例1と同様にしてシートを作成した。
(比較例1)
PVDFのみを用いた以外は、実施例1と同様にしてシートを作成した。
(比較例2)
PVDFを30質量部、PMMAを70質量部とした以外は、実施例1と同様にしてシートを作成した。
実施例1〜3、比較例1および比較例2の評価結果を表1に纏めて示した。
【0021】
【表1】

【0022】
(実施例4、5)
PVDFおよびPMMAは、実施例1と同じ樹脂を用いて、下記の手順で太陽光の受光側表面層、中芯層、裏面層の3層シートを作成した。
表2に記載した各層の樹脂組成比の混合物を作成し、3台のスクリュー径65mmの単軸押し出し機にそれぞれ、PVDF/PMMA比率の異なる樹脂コンパウンドを投入し、マルチマニホールドダイスにて各層厚が受光側表面層/中芯層/裏面層=0.1/0.2/0.1mmの三層シートを得た。評価結果を表2に示した。(比較例3は白板ガラスのみで評価した結果である。)
【0023】
【表2】

【符号の説明】
【0024】
1 太陽電池モジュール
2 表面保護シート
3 裏面保護シート
4 絶縁性封止材
5 太陽電池セル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ化ビニリデン樹脂を主成分とし、アクリル樹脂を含有する樹脂組成物からなる太陽電池用表面保護シート。
【請求項2】
フッ化ビニリデン樹脂を98〜50質量%、アクリル樹脂を2〜50質量%含有する請求項1に記載の太陽電池用表面保護シート。
【請求項3】
フッ化ビニリデン樹脂がフッ化ビニリデンのホモポリマーであり、アクリル樹脂が、メチル(メタ)アクリレートを95〜85質量%、n−ブチルアクリレートを5〜15質量%含有する樹脂である請求項1または請求項2に記載の太陽電池用表面保護シート。
【請求項4】
少なくとも受光側の表面層と裏面層を有する積層シートであって、前記の各層が下記の(1)および(2)の樹脂組成を有する請求項1または請求項3に記載の太陽電池用表面保護シート。
(1) 表面層: フッ化ビニリデン樹脂を75〜50質量%、アクリル樹脂を25〜50質量%
(2) 裏面層: フッ化ビニリデン樹脂を98〜75質量%、アクリル樹脂を2〜25質量%
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載した表面保護シートを用いた太陽電池用モジュール。


【図1】
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【公開番号】特開2011−77081(P2011−77081A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−223890(P2009−223890)
【出願日】平成21年9月29日(2009.9.29)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】