説明

太陽電池裏面保護シート及びその製造方法、並びに太陽電池モジュール

【課題】湿熱経時後の接着性、膜強度、面状および反射率がいずれも良好である太陽電池裏面保護シートの提供。
【解決手段】厚み120〜350μmのポリマー基材と、厚み2μm以下の下塗層と、バインダーと白色顔料を含み、かつ前記バインダーと前記白色顔料の合計に対する前記白色顔料の割合が80〜95質量%である白色顔料層とを、この順で有することを特徴とする太陽電池裏面保護シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池素子の太陽光入射側の反対側に設けられる太陽電池裏面保護シートおよび太陽電池モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池は、発電時に二酸化炭素の排出がなく環境負荷が小さい発電方式であり、近年急速に普及が進んでいる。
【0003】
太陽電池モジュールは、通常、太陽光が入射する側のオモテ面ガラスと、太陽光が入射する側とは反対側(裏面側)に配置される、太陽電池裏面保護シート(以下、バックシートとも言う)との間に、太陽電池セルが挟まれた構造を有しており、オモテ面ガラスと太陽電池セルとの間、及び太陽電池セルとバックシートとの間は、それぞれEVA(エチレン−ビニルアセテート)樹脂などで封止されている。
【0004】
バックシートは、太陽電池モジュールの裏面からの水分の浸入を防止する働きを有するもので、従来はガラスやフッ素樹脂等が用いられていたが、近年では、コストの観点からポリエステルが用いられるようになってきている。そして、バックシートは、単なるポリマーシートではなく、以下に示すような種々の機能が付与される場合がある。
【0005】
前記機能として、例えば、バックシートに酸化チタン等の白色顔料を添加し、反射性能を持たせたものが要求される場合がある。これは、モジュールのオモテ面から入射した太陽光のうち、セルを素通りした光を乱反射して、セルに戻すことで発電効率を上げるためである。かかる白色フィルムとしては、白色顔料を含む塗布液や白色塗料を延伸ポリエステルフィルム上に塗布する方法、白色顔料を含ませたり発泡や延伸によりボイドを形成させたりした白色ポリエステル系フィルムなどの白色樹脂フィルムを積層する方法が挙げられる。これらの中でも、材料コストが安価でかつ高い反射率が得られ易いことから、酸化チタン錬り込みタイプの白色のポリエステル系フィルムが広く用いられている(特許文献1参照)。同文献で用いられている酸化チタン錬り込みタイプの白色樹脂フィルムは厚み50μmであり、厚さ188μmの別のポリエステル基材(耐候性ポリエステルフィルム)などに積層されて用いられている。このような基材フィルムとして膜厚を増加させた理由としては太陽電池裏面保護シートとして求められる各種物性を達成するためであり、耐候性や耐電圧性や強度などの物性がある程度高いことが一般に必要となる。
【0006】
近年、さらに太陽電池裏面保護シートによる太陽光の反射率を高めて、太陽電池の発電効率を上げることが求められている。しかしながら、従来、特許文献1を含めて白色顔料錬り込みタイプの白色樹脂フィルムの厚みを増加させた太陽電池裏面保護シートの例は知られておらず、また、バインダーと白色顔料の合計に対する白色顔料の割合(以下、P/P+B比率とも言う)を増加させた白色樹脂フィルムを基材フィルムと積層させたタイプの太陽電池裏面保護シートの例も知られていなかった。また、白色顔料を含む塗布液を延伸ポリエステルフィルムの基材上に塗布する場合も、同様にP/P+B比率を増加させて反射率を高めた太陽電池裏面保護シートの例は知られていなかった。
【0007】
一方、太陽電池裏面保護シート以外の分野で白色顔料を用いて反射率を高めた例も知られている。例えば、特許文献2の請求項2には白色顔料のバインダーに対する比率を高めた層を設けて反射板用被覆基材の拡散反射率を高めることが記載されており、特許文献3の請求項1には白色顔料のバインダーに対する比率を高めた層を設けて電子写真用転写シートの光沢ムラを改善した態様が示唆されている。しかしながら、例えば特許文献3には、白色顔料の固形分体積濃度が高くなると被覆層が脆くなることが開示されており、膜強度の改善も求められる太陽電池裏面保護シート分野に直ちに転用できるものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−130642号公報
【特許文献2】特開2009−276634号公報
【特許文献3】特開2007−290294号公報
【特許文献4】特開2007−248924号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らは、白色顔料錬り込みタイプの白色樹脂フィルムの厚みを増加させて反射率を増加させる方法を検討したところ、厚さを300μm程度にすることが必要となることがわかった。しかしながら、このような白色顔料錬り込みタイプの白色樹脂フィルムの厚みを増加させると、反射率を維持させるために白色顔料を多く添加する必要があり、材料コストの観点から好ましくない。
一方、本発明者らは、白色顔料を含む塗布液を延伸ポリエステルフィルムの基材上に塗布する場合にP/P+B比率を増加させて反射率を高めたシートを検討したところ、基材と白色顔料の間の密着性が低く、特に湿熱条件下で経時した後に密着性が悪化する問題があり、また、白色顔料塗布膜自体の膜強度も低いという問題があることがわかった。
【0010】
本発明は、上記に鑑みなされたものであり、本発明が解決しようとする課題は、湿熱経時後の接着性、膜強度、面状および反射率がいずれも良好である太陽電池裏面保護シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
ここで、特許文献4には、電子写真用受像シート分野において、支持体の上に0.01〜1μmの導電性下塗層を介して、白色顔料を有する受像層を形成した例が開示されている。同文献では、導電性下塗層自体の破断伸びや表面電気抵抗を改善することが開示されているが、導電性下塗層の厚みと白色顔料を有する受像層の関係については何ら言及されていなかった。一方、実際に白色顔料の比率を高めた態様を開示している特許文献3には、高顔料濃度層と他の層との間の密着性を高める観点から、3μm以上の特定のプライマー層をその間に設けることが好ましいことが開示されており、プライマー層の厚みを厚くすることが好ましい傾向にあることが示唆されていた。
【0012】
これに対し、本発明者らが、特定の範囲の厚みのポリマー基材に対して、従来の知見に反して厚みを薄くした下塗層を形成し、その下塗層の上にバインダーと白色顔料の合計に対する白色顔料の割合を特定の高い範囲に制御した白色顔料層を形成することにより、白色顔料層の湿熱経時後の接着性、膜強度および反射率を高められることを見出すに至った。
【0013】
また、同時にこの構成の太陽電池裏面保護シートは白色顔料層の膜厚によらず高反射率を達成できており、反射率を増加させるには白色顔料含有量を増加させる必要があった錬り込みタイプの白色樹脂シートと比べて、白色顔料層の厚みが増したときに生じた材料コストの問題点も改善できているものであった。すなわち、以下の構成により、前記課題を達成できることを見出し、本発明の完成に至った。
【0014】
上記課題を解決するための具体的な手段は以下の通りである。
[1] 厚み120〜350μmのポリマー基材と、厚み2μm以下の下塗層と、バインダーと白色顔料を含み、かつ前記バインダーと前記白色顔料の合計に対する前記白色顔料の割合が80〜95質量%である白色顔料層とを、この順で有することを特徴とする太陽電池裏面保護シート。
[2] 前記白色顔料層および下塗層の少なくとも一方に、バインダーに対して5〜50質量%の架橋剤を含有することを特徴とする[1]に記載の太陽電池裏面保護シート。
[3] 前記架橋剤が、カルボジイミド基やオキサゾリン基を有する架橋剤であることを特徴とする[2]に記載の太陽電池裏面保護シート。
[4] 前記下塗層がポリオレフィン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリアクリル樹脂およびポリエステル樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の樹脂を含むことを特徴とする[1]〜[3]のいずれか1項に記載の太陽電池裏面保護シート。
[5] 前記下塗層は、無機酸化物フィラーを含有することを特徴とする[1]〜[4]のいずれか1項に記載の太陽電池裏面保護シート。
[6] 前記ポリマー基材が、コロナ処理、大気圧プラズマ処理、火炎処理およびシラン化合物を導入した火炎を用いる火炎処理の少なくとも1種の方法で表面処理されたことを特徴とする[1]〜[5]のいずれか1項に記載の太陽電池裏面保護シート。
[7] 前記ポリマー基材の150℃、30分経時前後の熱収縮率が0〜0.5%であることを特徴とする[1]〜[6]のいずれか1項に記載の太陽電池裏面保護シート。
[8] 前記ポリマー基材が、カルボキシル基の含量が35当量/トン以下であるポリエステルであることを特徴とする[1]〜[7]のいずれか1項に記載の太陽電池裏面保護シート。
[9] 波長550nmの光に対する反射率が75%以上であることを特徴とする[1]〜[8]のいずれか1項に記載の太陽電池裏面保護シート。
[10] 前記下塗層および前記白色顔料層がいずれも塗布により形成されたことを特徴とする[1]〜[9]のいずれか1項に記載の太陽電池裏面保護シート。
[11] 太陽光が入射する透明性の基板と、太陽電池素子と、[1]〜[10]のいずれか1項に記載の太陽電池裏面保護シートとを含むことを特徴とする太陽電池モジュール。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、湿熱経時後の接着性、膜強度、面状および反射率がいずれも良好である太陽電池裏面保護シートを提供することができる。また、本発明によれば、安定した発電効率を有する安価な太陽電池モジュールを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の太陽電池裏面保護シートの構成の断面を示す概略図である。
【図2】比較例で用いた白色顔料錬り込みタイプの太陽電池裏面保護シートの断面を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の太陽電池裏面保護シートおよび太陽電池モジュールについて詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0018】
[太陽電池保護シート]
本発明の太陽電池裏面保護シート(以下、本発明のシートとも言う)は、厚み120〜350μmのポリマー基材と、厚み2μm以下の下塗層と、バインダーと白色顔料を含み、かつ前記バインダーと前記白色顔料の合計に対する前記白色顔料の割合が80〜95質量%である白色顔料層とを、この順で有することを特徴とする。
このような構成により、本発明のシートは湿熱経時後の接着性、膜強度、面状および反射率がいずれも良好である。また、本発明のシートの上記特性により、本発明のシートを用いた太陽電池モジュールは、本発明のシートの良好な面状および高い光反射性により発電性能に優れており、湿熱環境下での経時で剥離等を起こすことなく、長期に亘って発電性能を安定して保つことが可能である。
以下、本発明の太陽電池保護シートについて説明する。
【0019】
<構成>
図1に、本発明の太陽電池保護シートの構成を示す。本発明の太陽電池裏面保護シートは、ポリマー基材1の上に、下塗層2が積層されており、さらに下塗層2の上に白色顔料層が積層されている。なお、図1は本発明を何ら限定するものでもなく、特に図1における各層の厚みの比率は便宜上実際の比率とは異なっている。
【0020】
<ポリマー基材>
本発明のシートは、厚み120〜300μmのポリマー基材を含む。厚みが300μm以下であると、特にポリエステル基材の場合に耐加水分解性が良好となり、湿熱耐久性の向上効果が奏され、長期使用にも耐えることができる。一方、厚みが120μm以上であることが、太陽電池モジュールの耐電圧性能の観点から本発明では必須となる。但し、300μm以下であることが、シート生産性の観点から好ましい。
本発明においては、厚みが120μm以上300μm以下であって、かつ後述のポリエステル中のカルボキシル基含量が35当量/トン以下である場合に、より湿熱耐久性の向上効果が奏される。
前記ポリマー基材の厚みは、120〜300μmであることがより好ましく、200〜300μmであることが特に好ましい。
【0021】
前記ポリマー基材としては、ポリエステル、ポリプロピレンやポリエチレンなどのポリオレフィン、又はポリフッ化ビニルなどのフッ素系ポリマー等が挙げられる。これらの中では、コストや機械強度などの点から、ポリエステルが好ましい。
【0022】
本発明におけるポリマー基材(支持体)として用いられるポリエステルとしては、芳香族二塩基酸又はそのエステル形成性誘導体とジオール又はそのエステル形成性誘導体とから合成される線状飽和ポリエステルである。かかるポリエステルの具体例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ(1,4−シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート)、ポリエチレン−2,6−ナフタレートなどを挙げることができる。このうち、力学的物性やコストのバランスの点で、ポリエチレンテレフタレート又はポリエチレン−2,6−ナフタレートが特に好ましい。
【0023】
前記ポリエステルは、単独重合体であってもよいし、共重合体であってもよい。さらに、前記ポリエステルに他の種類の樹脂、例えばポリイミド等を少量ブレンドしたものであってもよい。
【0024】
本発明におけるポリエステルを重合する際には、カルボキシル基含量を所定の範囲以下に抑える観点から、Sb系、Ge系、Ti系の化合物を触媒として用いることが好ましく、中でも特にTi系化合物が好ましい。Ti系化合物を用いる場合、Ti系化合物を1ppm以上30ppm以下、より好ましくは3ppm以上15ppm以下の範囲で触媒として用いることにより重合する態様が好ましい。Ti系化合物の割合が前記範囲内であると、末端カルボキシル基を下記範囲に調整することが可能であり、ポリマー基材の耐加水分解性を低く保つことができる。
【0025】
本発明では、前記ポリエステル中のカルボキシル基含量は50当量/トン以下が好ましく、より好ましくは35当量/トン以下である。カルボキシル基含量が35当量/トン以下であると、耐加水分解性を保持し、湿熱経時したときの接着性の低下を抑制することができる。カルボキシル基含量の下限は、ポリエステルに形成される層(例えば白色顔料層)との間の接着性を保持する点で、2当量/トン以上であることが望ましい。
前記ポリエステル中のカルボキシル基含量は、重合触媒種、製膜条件(製膜温度や時間)により調整することが可能である。
【0026】
前記ポリマー基材が、コロナ処理、大気圧プラズマ処理、火炎処理およびシラン化合物を導入した火炎を用いる火炎処理の少なくとも1種の方法で表面処理されたことが好ましい。前記基材の一方の面のみに前記表面処理が施されていても、前記基材の両表面に前記表面処理が施されていてもよく、例えば本発明の太陽電池裏面保護シートに後述する他の機能層を塗布により形成する場合は両表面に前記表面処理が施されていることが好ましい。その中でも、本発明ではコロナ処理を用いることが好ましい。前記コロナ処理の好ましい態様は、ポリマー基材に対して、0.1〜3.0kw/電極1m(電極1m当たりの出力を表す)の出力で、150〜500J/m2の処理強度範囲でコロナ処理を施す態様である。
前記コロナ処理は、出力が0.5〜2.5kw/電極1mであることがより好ましく、0.7〜1.7kw/電極1mであることが特に好ましい。処理強度範囲は160〜450J/m2であることがより好ましく、170〜360J/m2であることが特に好ましい。
【0027】
前記ポリマー基材の150℃、30分経時前後の熱収縮率が0〜0.5%であることが好ましく、より好ましい熱収縮量は0.05%〜0.5%であり、さらに好ましくは0.1〜0.45%、さらに好ましくは0.15%〜0.4%である。ここでいう熱収縮量は、150℃、30分保存前後での測定値のMD(フィルム搬送方向)、TD(フィルム搬送方向に直交する方向)の平均値を指す。
熱収縮が上記好ましい範囲の上限値以下であると、収縮により本発明の太陽電池保護シートの層間の剥離が発生し難くなる。一方、上記熱収縮量が0.05%以上であると、熱処理中の熱膨張による寸法変化(たるみ)に起因する皺が発生し難くなる観点からは、好ましい。
【0028】
<下塗層>
本発明の太陽電池裏面保護シートには、前記ポリマー基材(支持体)と前記白色顔料層との間に厚み2μm以下の下塗層を設けることを特徴とする。本発明のシートでは、このように薄い下塗層を設けることで、前記白色顔料層の白色顔料の割合が高いにも関わらず、湿熱経時後の接着性、膜強度および白色顔料層の面状を同時に改善することができる。特に前記下塗層の厚みが2μm以下であると、白色顔料層中において白色顔料の含有割合を高めたときに、塗布ハジキ欠陥や白色顔料のムラが生じにくくなることを本発明では見出したものである。
前記下塗層の厚みは、好ましくは0.05μm〜2μmであり、更に好ましくは0.1μm〜1.5μmである。厚みが0.05μm以上であることにより、必要な接着性を確保しやすい。
【0029】
(下塗層のバインダー)
前記下塗層は、バインダーを含有することができる。本発明では、バインダーとして、下塗層がポリオレフィン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリアクリル樹脂およびポリエステル樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の樹脂を含むことが好ましく、ポリエステル、ポリウレタン、アクリル樹脂、ポリオレフィン等を用いることがより好ましい。また、これらのバインダーは単独で用いても、2種以上用いてもよい。
【0030】
(下塗層の添加剤)
また、前記下塗層は、各種添加剤を含んでいてもよく、架橋剤、無機酸化物フィラー、界面活性剤を含むことが好ましい。
前記架橋剤としては、エポキシ系、イソシアネート系、メラミン系、カルボジイミド系、オキサゾリン系等の架橋剤を挙げることができる。湿熱経時後の接着性を確保する観点から、これらの中でも特にカルボジイミド系架橋剤またはオキサゾリン系架橋剤を用いることが、より湿熱経時後の接着性が改善できる観点から好ましい。すなわち、本発明では、前記下塗層が、カルボジイミド化合物系架橋剤およびオキサゾリン化合物系架橋剤のうち少なくとも1種由来の架橋構造を含むことが好ましい。
【0031】
前記オキサゾリン系架橋剤の具体例として、2−ビニル−2−オキサゾリン、2−ビニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−ビニル−5−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−5−エチル−2−オキサゾリン、2,2’−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2’−メチレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2’−エチレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2’−トリメチレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2’−テトラメチレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2、2’−ヘキサメチレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2’−オクタメチレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2’−エチレン−ビス−(4,4’−ジメチル−2−オキサゾリン)、2,2’−p−フェニレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2’−m−フェニレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2’−m−フェニレン−ビス−(4,4’−ジメチル−2−オキサゾリン)、ビス−(2−オキサゾリニルシクロヘキサン)スルフィド、ビス−(2−オキサゾリニルノルボルナン)スルフィド等が挙げられる。さらに、これらの化合物の(共)重合体も好ましく利用することができる。
また、前記オキサゾリン系架橋剤として、エポクロスK2010E、同K2020E、同K2030E、同WS500、同WS700(いずれも日本触媒化学工業(株)製)等も利用できる。
【0032】
前記カルボジイミド系架橋剤の具体例として、カルボジライトV−02−L2(日清紡ケミカル(株)製)の他、以下の化合物などを挙げることができる。カルボジライトSV−02(日清紡ケミカル(株)製)、カルボジライトE−01(日清紡ケミカル(株)製)。
【0033】
本発明のシートは、下塗層が、バインダーに対して5〜50質量%の架橋剤を含有することが、好ましく、10〜40質量%の架橋剤を含有することがより好ましく、20〜40質量%の架橋剤を含有することが特に好ましい。
【0034】
前記下塗層が、無機酸化物フィラーを含有することが好ましい。
前記無機酸化物フィラーとしては、例えば、シリカ、炭酸カルシウム、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、酸化錫等が挙げられる。中でも、湿熱雰囲気に曝されたときの接着性の低下が小さい点で、酸化錫、シリカの微粒子が好ましく、シリカがより好ましい。
【0035】
前記無機酸化物フィラーの粒径は、体積平均粒径で10〜700nm程度が好ましく、より好ましくは20〜300nm程度である。粒径がこの範囲内であると、より良好な易接着性を得ることができる。粒径は、レーザー解析/散乱式粒子径分布測定装置LA950〔(株)堀場製作所製〕により測定される値である。
【0036】
前記無機酸化物フィラーの形状には、特に制限はなく、球形、不定形、針状形等のいずれのものを用いることができる。
【0037】
前記無機酸化物フィラーの含有量は、下塗層中のバインダーに対して、5〜400質量%の範囲とすることが好ましい。無機微粒子の含有量は、5質量%以上であれば湿熱雰囲気に曝されたときに良好な接着性が保持でき、400質量%以下であれば下塗層の上に積層する白色含有層の面状が悪化しにくくなる。
中でも、前記無機酸化物フィラーの含有量は、50〜300質量%の範囲がより好ましい。
【0038】
<白色顔料層>
本発明における白色顔料層は、バインダーと白色顔料を含み、かつ前記バインダーと前記白色顔料の合計に対する前記白色顔料の割合(P/P+B比率)が80〜95質量%である。前記白色顔料層は、必要に応じて、さらに各種添加剤などの他の成分を含んで構成されてもよい。
【0039】
本発明における白色顔料層の機能は、入射光のうち太陽電池セルを通過して発電に使用されずにバックシートに到達した光を反射させて太陽電池セルに戻すことにより、太陽電池モジュールの発電効率を上げることにある。
【0040】
(白色顔料)
前記白色顔料層は、白色顔料の少なくとも一種を含有する。
前記白色顔料としては、例えば、酸化チタン、硫酸バリウム、酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、カオリン、タルク、群青、紺青、カーボンブラック等の無機顔料、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン等の有機顔料を、適宜選択して含有することができる。
【0041】
本発明における白色顔料層中には、前記白色顔料を2.5〜8.5g/m2の範囲で含有することが好ましい。前記白色顔料の白色顔料層中における含量が2.5g/m2以上であると光反射率を改善できる傾向にある。また、前記白色顔料の白色顔料層中における含量が8.5g/m2以下であれば白色顔料層の面状が良好となる傾向にあり、膜強度も改善される傾向にある。
中でも、前記白色顔料のより好ましい含量は、4.5〜8.0g/m2の範囲である。
【0042】
前記白色顔料の平均粒径としては、体積平均粒径で0.03〜0.8μmが好ましく、より好ましくは0.15〜0.5μm程度である。平均粒径が前記範囲内であると、光の反射効率が高い。平均粒径は、レーザー解析/散乱式粒子径分布測定装置LA950〔(株)堀場製作所製〕により測定される値である。
【0043】
(白色顔料層のバインダー)
前記白色顔料層は、バインダーの少なくとも1種を含有する。
バインダーの含有量は、前記バインダーと前記白色顔料の合計に対する前記白色顔料の割合(P/P+B比率)が80〜95質量%であり、82〜93質量%であることがより好ましく、84〜90質量%であることが特に好ましい。このような高濃度で白色顔料を添加した白色顔料層を太陽電池裏面保護シート分野で用いた例は知られておらず、本発明の構成により、あわせて白色顔料層のその他物性を改善したことにより、このような組成を達成することができる。また、このような高濃度とすることで、本発明の太陽電池裏面保護シートは高い光反射率を有する。
【0044】
前記白色顔料層に好適なバインダーは、ポリエステル、ポリウレタン、アクリル樹脂、ポリオレフィン等であり、耐久性の観点からは、アクリル樹脂、ポリオレフィンが好ましい。また、アクリル樹脂としては、アクリルとシリコーンとの複合樹脂も好ましい。好ましいバインダーの例としては、ポリオレフィンの例としてケミパールS−120、S−75N(ともに三井化学(株)製)、アクリル樹脂の例としてジュリマーET−410、SEK−301(ともに日本純薬(株)製)、アクリルとシリコーンとの複合樹脂の例としてセラネートWSA1060、WSA1070(ともにDIC(株)製)、H7620、H7630、H7650(ともに旭化成ケミカルズ(株)製)などを挙げることができる。
【0045】
(白色顔料層の添加剤)
本発明における白色顔料層には、バインダーおよび顔料以外に、必要に応じて、更に架橋剤、界面活性剤、フィラー等の添加剤を添加してもよい。
【0046】
前記架橋剤としては、エポキシ系、イソシアネート系、メラミン系、カルボジイミド系、オキサゾリン系等の架橋剤を挙げることができる。中でも、オキサゾリン系の架橋剤が好ましく、具体的には後述の易接着性層に使用可能なものを好適に用いることができる。
架橋剤を添加する場合、その添加量としては、白色顔料層中のバインダーに対して、5〜50質量%が好ましく、より好ましくは10〜40質量%である。架橋剤の添加量は、5質量%以上であると、白色顔料層の強度及び接着性を保持しながら充分な架橋効果が得られ、50質量%以下であると、塗布液のポットライフを長く保てる。
【0047】
前記界面活性剤としては、アニオン系やノニオン系等の公知の界面活性剤が挙げられる。界面活性剤を添加する場合、その添加量は0.1〜15mg/m2が好ましく、より好ましくは0.5〜5mg/m2である。界面活性剤の添加量は、0.1mg/m2以上であると、ハジキの発生を抑えて良好な層形成が得られ、15mg/m2以下であると、接着を良好に行なうことができる。
【0048】
本発明における白色顔料層には、上記の顔料とは別に、さらに、シリカ等の無機酸化物フィラーを添加してもよい。無機酸化物フィラーを添加する場合、その添加量は、白色顔料層中のバインダーに対して、20質量%以下が好ましく、より好ましくは15質量%以下である。無機酸化物フィラーの添加量が20質量%以下であると、顔料の比率低下を抑えつつ必要な反射率を得ることができる。
【0049】
(白色顔料層の物性)
本発明のシートは、白色顔料層に顔料として白色顔料を添加して反射層とする場合、白色顔料層が設けられている側の表面における550nmの光反射率は、75%以上であることが好ましい。
なお、光反射率とは、本発明のシートの白色顔料層の表面から入射した光が反射層で反射して再び易接着性層から出射した光量の入射光量に対する比率である。
光反射率が75%以上であると、セルを素通りして内部に入射した光を効果的にセルに戻すことができ、発電効率の向上効果が大きい。着色剤の含有量を2.5〜8.5g/m2の範囲で制御することにより、光反射率を75%以上に調整しやすくなる。
【0050】
白色顔料層を反射層として構成する場合、反射層の厚みは、1〜20μmが好ましく、より好ましくは1〜10μmであり、特に好ましくは1〜5μmであり、より特に好ましくは1〜2μm程度である。この厚みが1μm以上であると、必要な装飾性や反射率を得ることができ、また20μm以下であると、面状を良好に保つことができる。
【0051】
<その他の機能層>
本発明のシートは、その他の機能層を有していてもよい。
前記その他の機能層としては、易接着性層、バック層を挙げることができる。
【0052】
<太陽電池裏面保護シートの製造方法>
本発明の太陽電池裏面保護シートは、上記のように、ポリマー基材の上に順次、本発明における上記下塗層と白色顔料層とを形成することができる方法であればいずれの方法により作製されてもよい。本発明においては、ポリマー基材上に該ポリマー支持体側から順に、下塗層用塗布液と白色顔料層用塗布液とを塗布する工程(塗布工程)を設けて作製する方法(本発明の太陽電池裏面保護シートの製造方法)により好適に作製することができる。
【0053】
<ポリマー基材の製造>
(ポリマー基材用樹脂の調整)
本発明のシートは、ポリマー基材として上述の樹脂を用いることができる。このようなポリマー基材は合成により入手しても、商業的に入手してもよい。前記ポリマー基材としてポリエステルを用いる場合、合成により入手することが好ましい。以下、ポリマー基材としてポリエステルフィルム、その中でもより好ましいポリエチレンテレフタレート(以下、PETとも言う)を製造する方法について説明する。
【0054】
−エステル化工程−
本発明においては、エステル化反応及び重縮合反応を設けてポリエステルを生成するエステル化工程を設けることができる。このエステル化工程では、(a)エステル化反応、及び(b)エステル化反応で生成されたエステル化反応生成物を重縮合反応させる重縮合反応を設けることができる。
【0055】
(a)エステル化反応
脂肪族ジオール(好ましくはエチレングリコール)の使用量は、芳香族ジカルボン酸(好ましくはテレフタル酸)及び必要に応じそのエステル誘導体の1モルに対して、1.015〜1.50モルの範囲であるのが好ましい。該使用量は、より好ましくは1.02〜1.30モルの範囲であり、更に好ましくは1.025〜1.10モルの範囲である。該使用量は、1.015以上の範囲であると、エステル化反応が良好に進行し、1.50モル以下の範囲であると、例えばエチレングリコールの2量化によるジエチレングリコールの副生が抑えられ、融点やガラス転移温度、結晶性、耐熱性、耐加水分解性、耐候性など多くの特性を良好に保つことができる。
【0056】
PETは、テレフタル酸とエチレングリコールとを90モル%以上含むものが好ましく、より好ましくは95モル%以上、さらに好ましくは98モル%以上含むものである。
また、前記PETは後述する触媒によって性質が異なる場合があり、ゲルマニウム(Ge)系触媒、アンチモン(Sb)系触媒、アルミニウム(Al)系触媒、及びチタン(Ti)系触媒から選ばれる1種又は2種以上を用いて重合されるPETが好ましく、より好ましくはTi系触媒を用いたものである。
【0057】
エステル化反応及び/又はエステル交換反応には、従来から公知の反応触媒を用いることができる。該反応触媒としては、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、亜鉛化合物、鉛化合物、マンガン化合物、コバルト化合物、アルミニウム化合物、アンチモン化合物、チタン化合物、ゲルマニウム化合物、リン化合物などを挙げることができる。通常、ポリエステルの製造方法が完結する以前の任意の段階において、重合触媒としてアンチモン化合物、ゲルマニウム化合物、チタン化合物を添加することが好ましい。このような方法としては、例えば、ゲルマニウム化合物を例に挙げると、ゲルマニウム化合物粉体をそのまま添加することが好ましい。
【0058】
本発明のシートの製造方法は、Ti系触媒を用いたエステル化反応により、溶融製膜に供する前記ポリエステル樹脂を調製する工程を含むことが好ましい。
前記Ti系触媒を使用してエステル化されたポリエステル樹脂を含むフィルムは、耐候性が低下し難く、好ましい。いかなる理論に拘泥するものでもないが、以下の理由と推定される。耐候性ポリエステルフィルムの耐候性の低下は、ポリエステルの加水分解にある程度依存する。前記エステル化反応触媒は、エステル化の逆反応である加水分解反応も促進するが、Ti触媒は逆反応である加水分解反応の作用が低い。そのため、前記エステル化反応触媒が製膜後のフィルム中にある程度残存しても、Ti系触媒を使用してエステル化されたポリエステル樹脂は、他の触媒を使用してエステル化されたポリエステル樹脂よりも比較的耐候性を高くすることができる。
【0059】
前記Ti系触媒としては、酸化物、水酸化物、アルコキシド、カルボン酸塩、炭酸塩、蓚酸塩、有機キレートチタン錯体、及びハロゲン化物等が挙げられる。Ti系触媒は、本発明の効果を損なわない範囲であれば、二種以上のチタン化合物を併用してもよい。
Ti系触媒の例としては、テトラ−n−プロピルチタネート、テトラ−i−プロピルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネートテトラマー、テトラ−t−ブチルチタネート、テトラシクロヘキシルチタネート、テトラフェニルチタネート、テトラベンジルチタネート等のチタンアルコキシド、チタンアルコキシドの加水分解により得られるチタン酸化物、チタンアルコキシドと珪素アルコキシドもしくはジルコニウムアルコキシドとの混合物の加水分解により得られるチタン−珪素もしくはジルコニウム複合酸化物、酢酸チタン、蓚酸チタン、蓚酸チタンカリウム、蓚酸チタンナトリウム、チタン酸カリウム、チタン酸ナトリウム、チタン酸−水酸化アルミニウム混合物、塩化チタン、塩化チタン−塩化アルミニウム混合物、チタンアセチルアセトナート、有機酸を配位子とする有機キレートチタン錯体、等が挙げられる。
【0060】
前記Ti系触媒の中でも、有機酸を配位子とする有機キレートチタン錯体の少なくとも1種が好適に用いることができる。有機酸としては、例えば、クエン酸、乳酸、トリメリット酸、リンゴ酸等を挙げることができる。中でも、クエン酸又はクエン酸塩を配位子とする有機キレート錯体が好ましい。
【0061】
例えばクエン酸を配位子とするキレートチタン錯体を用いた場合、微細粒子等の異物の発生が少なく、他のチタン化合物に比べ、重合活性と色調の良好なポリエステル樹脂が得られる。更に、クエン酸キレートチタン錯体を用いる場合でも、エステル化反応の段階で添加することにより、エステル化反応後に添加する場合に比べ、重合活性と色調が良好で、末端カルボキシル基の少ないポリエステル樹脂が得られる。この点については、チタン触媒はエステル化反応の触媒効果もあり、エステル化段階で添加することでエステル化反応終了時におけるオリゴマー酸価が低くなり、以降の重縮合反応がより効率的に行なわれること、またクエン酸を配位子とする錯体はチタンアルコキシド等に比べて加水分解耐性が高く、エステル化反応過程において加水分解せず、本来の活性を維持したままエステル化及び重縮合反応の触媒として効果的に機能するものと推定される。
また、一般に、末端カルボキシル基量が多いほど耐加水分解性が悪化することが知られており、本発明の添加方法によって末端カルボキシル基量が少なくなることで、耐加水分解性の向上が期待される。
前記クエン酸キレートチタン錯体としては、例えば、ジョンソン・マッセイ社製のVERTEC AC−420など市販品として容易に入手可能である。
【0062】
このようなTi化合物を用いたTi系ポリエステルの合成には、例えば、特公平8−30119号公報、特許第2543624号、特許第3335683号、特許第3717380号、特許第3897756号、特許第3962226号、特許第3979866号、特許第399687号1号、特許第4000867号、特許第4053837号、特許第4127119号、特許第4134710号、特許第4159154号、特許第4269704号、特許第4313538号、特開2005−340616号公報、特開2005−239940号公報、特開2004−319444号公報、特開2007−204538号公報、特許3436268号、特許第3780137号等に記載の方法を適用することができる。
【0063】
本発明においては、芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジオールとを、チタン化合物を含有する触媒の存在下で重合するとともに、チタン化合物の少なくとも一種が有機酸を配位子とする有機キレートチタン錯体であって、有機キレートチタン錯体とマグネシウム化合物と置換基として芳香環を有しない5価のリン酸エステルとをこの順序で添加する過程を少なくとも含むエステル化反応工程を設けられて構成されるのが好ましい。この場合、このエステル化反応工程に加え、エステル化反応工程で生成されたエステル化反応生成物を重縮合反応させて重縮合物を生成する重縮合工程を設けて構成されているポリエステル樹脂の製造方法によりフィルムを作製する態様がより好ましい。なお、重縮合工程については、後述する。
【0064】
この場合、エステル化反応の過程において、チタン化合物として有機キレートチタン錯体を存在させた中に、マグネシウム化合物を添加し、次いで特定の5価のリン化合物を添加する添加順とすることで、チタン触媒の反応活性を適度に高く保ち、マグネシウムによる静電印加特性を付与しつつ、かつ重縮合における分解反応を効果的に抑制することができるため、結果として着色が少なく、高い静電印加特性を有するとともに高温下に曝された際の黄変色が改善されたポリエステル樹脂が得られる。
これにより、重合時の着色及びその後の溶融製膜時における着色が少なくなり、従来のアンチモン(Sb)触媒系のポリエステル樹脂に比べて黄色味が軽減され、また、透明性の比較的高いゲルマニウム触媒系のポリエステル樹脂に比べて遜色のない色調、透明性を持ち、しかも耐熱性に優れたポリエステル樹脂を提供できる。また、コバルト化合物や色素などの色調調整材を用いずに高い透明性を有し、黄色味の少ないPET樹脂が得られる。
【0065】
このポリエステル樹脂は、透明性に関する要求の高い用途(例えば、光学用フィルム、工業用リス等)に利用が可能であり、高価なゲルマニウム系触媒を用いる必要がないため、大幅なコスト低減が図れる。加えて、Sb触媒系で生じやすい触媒起因の異物の混入も回避されるため、製膜過程での故障の発生や品質不良が軽減され、得率向上による低コスト化も図ることができる。
【0066】
上記において、芳香族ジカルボン酸及び脂肪族ジオールを、マグネシウム化合物及びリン化合物の添加に先立って、チタン化合物である有機キレートチタン錯体を含有する触媒と混合する場合、有機キレートチタン錯体等はエステル化反応に対しても高い触媒活性を持つので、エステル化反応を良好に行なわせることができる。このとき、ジカルボン酸成分及びジオール成分を混合した中にチタン化合物を加えてもよい。また、ジカルボン酸成分(又はジオール成分)とチタン化合物を混合してからジオール成分(又はジカルボン酸成分)を混合してもよい。また、ジカルボン酸成分とジオール成分とチタン化合物とを同時に混合するようにしてもよい。混合は、その方法に特に制限はなく、従来公知の方法により行なうことが可能である。
【0067】
エステル化反応させるにあたり、チタン化合物である有機キレートチタン錯体と添加剤としてマグネシウム化合物と5価のリン化合物とをこの順に添加する過程を設けることが好ましい。このとき、有機キレートチタン錯体の存在下、エステル化反応を進め、その後はマグネシウム化合物の添加を、リン化合物の添加前に開始する。
【0068】
5価のリン化合物として、置換基として芳香環を有しない5価のリン酸エステルの少なくとも一種が用いられる。前記5価のリン酸エステルとしては、例えば、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリ−n−ブチル、リン酸トリオクチル、リン酸トリス(トリエチレングリコール)、リン酸メチルアシッド、リン酸エチルアシッド、リン酸イソプロピルアシッド、リン酸ブチルアシッド、リン酸モノブチル、リン酸ジブチル、リン酸ジオクチル、リン酸トリエチレングリコールアシッド等が挙げられる。
【0069】
5価のリン酸エステルの中では、炭素数2以下の低級アルキル基を置換基として有するリン酸エステル〔(OR)3−P=O;R=炭素数1又は2のアルキル基〕が好ましく、具体的には、リン酸トリメチル、リン酸トリエチルが特に好ましい。
【0070】
特に、前記チタン化合物として、クエン酸又はその塩が配位するキレートチタン錯体を触媒として用いる場合、5価のリン酸エステルの方が3価のリン酸エステルよりも重合活性、色調が良好であり、更に炭素数2以下の5価のリン酸エステルを添加する態様の場合に、重合活性、色調、耐熱性のバランスを特に向上させることができる。
【0071】
マグネシウム化合物を含めることにより、静電印加性が向上する。この場合に着色がおきやすいが、本発明においては、着色を抑え、優れた色調、耐熱性が得られる。
【0072】
マグネシウム化合物としては、例えば、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、マグネシウムアルコキシド、酢酸マグネシウム、炭酸マグネシウム等のマグネシウム塩が挙げられる。中でも、エチレングリコールへの溶解性の観点から、酢酸マグネシウムが最も好ましい。
【0073】
好ましい態様として、エステル化反応が終了する前に、芳香族ジカルボン酸及び脂肪族ジオールに、1ppm〜30ppmのクエン酸又はクエン酸塩を配位子とするキレートチタン錯体を添加後、該キレートチタン錯体の存在下に、60ppm〜90ppm(より好ましくは70ppm〜80ppm)の弱酸のマグネシウム塩を添加し、該添加後にさらに、60ppm〜80ppm(より好ましくは65ppm〜75ppm)の、芳香環を置換基として有しない5価のリン酸エステルを添加する態様が挙げられる。
【0074】
エステル化反応は、少なくとも2個の反応器を直列に連結した多段式装置を用いて、エチレングリコールが還流する条件下で、反応によって生成した水又はアルコールを系外に除去しながら実施することができる。
【0075】
ジカルボン酸とジオールは、これらが含まれたスラリーを調製し、これをエステル化反応工程に連続的に供給することにより導入することができる。
【0076】
また、上記したエステル化反応は、一段階で行なってもよいし、多段階に分けて行なうようにしてもよい。
【0077】
(b)重縮合
重縮合は、エステル化反応で生成されたエステル化反応生成物を重縮合反応させて重縮合物を生成する。重縮合反応は、1段階で行なってもよいし、多段階に分けて行なうようにしてもよい。
【0078】
エステル化反応で生成したオリゴマー等のエステル化反応生成物は、引き続いて重縮合反応に供される。この重縮合反応は、多段階の重縮合反応槽に供給することにより好適に行なうことが可能である。
【0079】
例えば、3段階の反応槽で行なう場合の重縮合反応条件は、第一反応槽は、反応温度が255〜280℃、より好ましくは265〜275℃であり、圧力が13.3×10-3〜1.3×10-3MPa(100〜10torr)、より好ましくは6.67×10-3〜2.67×10-3MPa(50〜20torr)であって、第二反応槽は、反応温度が265〜285℃、より好ましくは270〜280℃であり、圧力が2.67×10-3〜1.33×10-4MPa(20〜1torr)、より好ましくは1.33×10-3〜4.0×10-4MPa(10〜3torr)であって、最終反応槽内における第三反応槽は、反応温度が270〜290℃、より好ましくは275〜285℃であり、圧力が1.33×10-3〜1.33×10-5MPa(10〜0.1torr)、より好ましくは6.67×10-4〜6.67×10-5MPa(5〜0.5torr)である態様が好ましい。
【0080】
Ti、Mg、及びPの各元素の測定は、高分解能型高周波誘導結合プラズマ−質量分析(HR−ICP−MS;SIIナノテクノロジー社製AttoM)を用いてPET中の各元素を定量し、得られた結果から含有量[ppm]を算出することにより行なうことができる。
【0081】
−固相重合工程−
基材を構成するポリエステルは、重合後に固相重合されていてもよい。これにより、好ましいカルボキシル基含有量を達成することができる。固相重合は、重合後のポリエステルを真空中あるいは窒素ガス中で170℃〜240℃程度の温度で5〜100時間程度加熱して重合度を増大させる手法である。具体的には、固相重合には、特許第2621563号、特許第3121876号、特許第3136774号、特許第3603585号、特許第3616522号、特許第3617340号、特許第3680523号、特許第3717392号、特許第4167159号等に記載の方法を適用することができる。
固相重合は、既述のエステル化反応により重合したポリエステル又は市販のポリエステルをペレット状などの小片形状にし、これを用いて好適に行なえる。
【0082】
好ましい固相重合温度は、190〜230℃、より好ましくは200℃〜220℃、さらに好ましくは205℃〜215℃である。
好ましい固相重合温度は、10時間〜80時間、より好ましくは15時間〜50時間、さらに好ましくは20時間〜30時間である。
このような熱処理は低酸素雰囲気下で行うのが好ましく、例えば窒素雰囲気下または真空中で行うことが好ましい。更に、多価アルコール(エチレングリコール等)を1ppm〜1%混合してもよい。
【0083】
固相重合は、バッチ式(容器内に樹脂を入れ、この中で所定の時間熱を与えながら撹拌する方式)で実施してもよく、連続式(加熱した筒の中に樹脂を入れ、これを加熱しながら所定の時間滞流させながら筒中を通過させて、順次送り出す方式)で実施してもよい。
【0084】
本発明の製造方法では、前記固相重合工程を経た後のポリエステルを溶融混練し、口金(押出ダイ)から押出すことにより、PETフィルムを成形することが好ましい。
【0085】
本発明の製造方法では、前記PET樹脂を、押出し機を用いて溶融することができる。溶融温度は、250℃〜320℃が好ましく、260℃〜310℃がより好ましく、270℃〜300℃がさらに好ましい。
押出し機は、一軸でも多軸でもよい。熱分解による末端COOHの発生をより抑制できる点で、押出し機内を窒素置換して行なうのがより好ましい。
【0086】
溶融された前記PET樹脂の溶融樹脂(メルト)は、ギアポンプ、濾過器等を通して、押出ダイから押出すことが好ましい。このとき、単層で押出してもよいし、多層で押出してもよい。
【0087】
溶融押出しされたメルトは、支持体上で冷却され、固化されてフィルム状に成形されることが好ましい。
前記支持体としては、特に制限はなく、通常の溶融製膜に用いられる冷却ロールを用いることができる。
【0088】
冷却ロール自体の温度は、10℃〜80℃が好ましく、より好ましくは15℃〜70℃、さらに好ましくは20℃〜60℃である。さらに、溶融樹脂(メルト)と冷却ロールとの間で密着性を高め、冷却効率を上げる観点からは、冷却ロールにメルトが接触する前に静電気を印加しておくことが好ましい。
【0089】
帯状に吐出された溶融樹脂(メルト)の固化後(延伸前)の厚みは、2600μm〜6000μmの範囲であることで、その後の延伸を経て、厚み260μm〜400μmのポリエステルフィルムを得ることができる。前記メルトの固化後の厚みは、3100μm〜6000μmの範囲が好ましく、より好ましくは3300μm〜5000μmであり、さらに好ましくは3500μm〜4500μmの範囲である。固化後延伸前の厚みが6000μm以下であることで、メルト押出し中に皺が発生し難く、ムラの発生が抑えられる。また、固化後延伸前の厚みが2600μm以上であることが、メルトの腰が弱いために発生するチルロール(固化するための冷却ロール)への密着むらを抑制し、フィルムのむら低減の観点から好ましい。
【0090】
(延伸工程)
本発明の製造方法では、上記製膜工程の後に、作製された押出フィルム(未延伸フィルム)を延伸する工程を含んでいてもよい。本発明の製造方法では、基材は、機械強度の点から2軸延伸したものであることが好ましい。
【0091】
(表面処理)
本発明の製造方法は、コロナ処理、大気圧プラズマ処理、火炎処理およびシラン化合物を導入した火炎を用いる火炎処理の少なくとも1種の方法で前記ポリマー基材を表面処理することが好ましい。
【0092】
<下塗層の形成>
下塗層用塗布液を前記ポリマー基材に塗布することが好ましい。
下塗層を塗布するための方法や用いる塗布液の溶媒には、特に制限はない。
塗布方法としては、例えばグラビアコーターやバーコーターを利用することができる。
塗布液に用いる溶媒は、水でもよいし、トルエンやメチルエチルケトン等の有機溶媒でもよい。溶媒は1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
また、塗布は、2軸延伸した後のポリマー基材に塗布してもよいし、1軸延伸後のポリマー基材に塗布した後に初めの延伸と異なる方向に延伸する方法でもよい。さらに、延伸前の基材に塗布した後に2方向に延伸してもよい。
前記下塗層用塗布液の塗布量は、求める下塗層の厚みに応じて変えることが好ましく、2g/m2以下であることが好ましく、より好ましくは0.05g/m2〜2g/m2であり、更に好ましくは0.1g/m2〜1.5g/m2である。
前記下塗層が前記無機酸化物フィラーを含む場合、その塗布量は0.005〜0.05g/m2であることが好ましく、0.005〜0.03g/m2であることがより好ましく、0.005〜0.02g/m2であることが特に好ましい。
【0093】
<白色顔料層の形成>
白色顔料層の形成は、顔料を含有するポリマーシートを基材に貼合する方法、基材形成時に白色顔料層を共押出しする方法、塗布による方法等により行なえる。具体的には、ポリマー基材の表面に直にあるいは厚み2μm以下の下塗層を介して、貼合、共押出し、塗布等することにより白色顔料層を形成することができる。形成された白色顔料層は、ポリマー基材の表面に直に接した状態であっても、あるいは下塗層を介して積層した状態であってもよい。
上記のうち、塗布による方法は、簡便であると共に、均一性で薄膜での形成が可能である点で好ましい。
【0094】
塗布による場合、塗布方法としては、例えば、グラビアコーター、バーコーターなどの公知の塗布方法を利用することができる。
塗布液は、塗布溶媒として水を用いた水系でもよいし、トルエンやメチルエチルケトン等の有機溶媒を用いた溶剤系でもよい。中でも、環境負荷の観点から、水を溶媒とすることが好ましい。塗布溶媒は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
白色顔料層用塗布液を前記下塗層上に塗布することが好ましい。
前記白色顔料用塗布液の塗布量は、求める白色顔料層の厚みに応じて変えることが好ましいが、本発明では下塗層の厚みに起因して白色顔料層の面状が乱れることを見出した。そのため、白色顔料層の反射率やその他の物性を変化させる目的では塗布量を変化させる必要はなく、白色顔料層に含まれる白色顔料の量を調整する方が好ましい。前記白色顔料用塗布液の塗布量は5.0〜10.0g/m2であることが反射率及び接着性維持の観点から好ましく、より好ましくは6.0〜9.0g/m2であり、更に好ましくは7g/m2〜9g/m2である。
【0095】
[太陽電池モジュール]
本発明の太陽電池モジュールは、太陽光が入射する透明性の基板と、太陽電池素子と、本発明の太陽電池裏面保護シートとを含む。本発明の太陽電池モジュールは、太陽光の光エネルギーを電気エネルギーに変換する太陽電池素子を、太陽光が入射する透明性の基板と既述の本発明の太陽電池裏面保護シートとの間に配置し、該基板とバックシートとの間をエチレン−ビニルアセテート系封止材で封止して構成されていることが好ましい。
【0096】
太陽電池モジュール、太陽電池セル、バックシート以外の部材については、例えば、「太陽光発電システム構成材料」(杉本栄一監修、(株)工業調査会、2008年発行)に詳細に記載されている。
【0097】
透明性の基板は、太陽光が透過し得る光透過性を有していればよく、光を透過する基材から適宜選択することができる。発電効率の観点からは、光の透過率が高いものほど好ましく、このような基板として、例えば、ガラス基板、アクリル樹脂などの透明樹脂などを好適に用いることができる。
【0098】
太陽電池素子としては、単結晶シリコン、多結晶シリコン、アモルファスシリコンなどのシリコン系、銅−インジウム−ガリウム−セレン、銅−インジウム−セレン、カドミウム−テルル、ガリウム−砒素などのIII−V族やII−VI族化合物半導体系など、各種公知の太陽電池素子を適用することができる。
【実施例】
【0099】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す実施例に限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は質量基準である。
なお、体積平均粒子径は、レーザー解析/散乱式粒子径分布測定装置LA950〔(株)堀場製作所製〕を用いて測定した。
【0100】
[実施例1]
<ポリマー基材の作製>
−ポリエステルの合成−
高純度テレフタル酸(三井化学(株)製)100kgとエチレングリコール(日本触媒(株)製)45kgのスラリーを、予めビス(ヒドロキシエチル)テレフタレート約123kgが仕込まれ、温度250℃、圧力1.2×105Paに保持されたエステル化反応槽に、4時間かけて順次供給し、供給終了後もさらに1時間かけてエステル化反応を行なった。その後、得られたエステル化反応生成物123kgを重縮合反応槽に移送した。
引き続いて、エステル化反応生成物が移送された重縮合反応槽に、エチレングリコールを、得られるポリマーに対して0.3質量%添加した。5分間撹拌した後、酢酸コバルト及び酢酸マンガンのエチレングリコール溶液を、得られるポリマーに対してそれぞれ30ppm、15ppmとなるように加えた。更に5分間撹拌した後、チタンアルコキシド化合物の2質量%エチレングリコール溶液を、得られるポリマーに対して5ppmとなるように添加した。その5分後、ジエチルホスホノ酢酸エチルの10質量%エチレングリコール溶液を、得られるポリマーに対して5ppmとなるように添加した。その後、低重合体を30rpmで攪拌しながら、反応系を250℃から285℃まで徐々に昇温するとともに、圧力を40Paまで下げた。最終温度、最終圧力到達までの時間はともに60分とした。所定の攪拌トルクとなった時点で反応系を窒素パージし、常圧に戻し、重縮合反応を停止した。そして、冷水にストランド状に吐出し、直ちにカッティングしてポリマーのペレット(直径約3mm、長さ約7mm)を作製した。なお、減圧開始から所定の撹拌トルク到達までの時間は3時間であった。
但し、前記チタンアルコキシド化合物には、特開2005−340616号公報の段落番号[0083]の実施例1で合成しているチタンアルコキシド化合物(Ti含有量=4.44質量%)を用いた。
【0101】
−固相重合−
上記で得られたペレットを、40Paに保たれた真空容器中、220℃の温度で30時間保持して、固相重合を行なった。
【0102】
−ベース形成−
以上のように固相重合を経た後のペレットを、280℃で溶融して金属ドラムの上にキャストし、厚さ約3mmの未延伸ベースを作成した。その後、90℃で縦方向に3倍に延伸し、更に120℃で横方向に3.3倍に延伸した。こうして、厚み300μmの2軸延伸ポリエチレンテレフタレート基材(以下、「2軸延伸PET」と称する。)を得た。
2軸延伸PET基材のベース厚みを下記表1に記載した。
【0103】
−2軸延伸PET基材のカルボキシル基含量−
2軸延伸PET約0.1gの重量w[g]を測定し、これを5mLのベンジルアルコールの入った丸底フラスコに入れて、栓をした状態で温度205℃で24時間保持した。その後、内容物を15mLのクロロホルムに添加した。この液に少量のフェノールレッド指示薬を加えたものを、濃度0.01N/Lの水酸化カリウムのベンジルアルコール溶液で滴定した。滴定に要した水酸化カリウム溶液の量をxmLとして、次の式で2軸延伸PETのカルボキシル基量(COOH基量)を求めた。
カルボキシル基含量(当量/t)=0.01×(x/w)
得られた結果を下記表1に記載した。
【0104】
−2軸延伸PET基材の熱収縮率−
2軸延伸PETフィルムを5cm×15cmの長方形にサンプリングし、MD(フィルム搬送方向)に平行に15cmの辺を切出したものをMDサンプル、TD(フィルム搬送方向に直交する方向)に平行に15cmの辺を切出したものをTDサンプルとし、各3枚ずつ切出した。これらのサンプルを、製膜幅を5等分した点で切出し、合計でMDサンプル15枚、TDサンプル15枚のサンプルを作成した。
各サンプルを25℃、相対湿度60%の下で3時間以上調湿、これに10cm基長の一対の孔を空け、ピンゲージで孔間を測長した(L1とする)。
各サンプルを150℃30分の空気恒温槽中で、無張力下で熱処理した。その後、各サンプルを25℃、相対湿度60%の下で3時間以上調湿後、ピンゲージで孔間を測長した(L2とする)。
100×(L1−L2)/L1を各サンプルの熱収縮(%)とした。
これらのMD、TD全サンプルの平均値を得られた結果として、表1に「熱収縮」として記載した。
【0105】
<下塗層用塗布液の調製>
−下塗層の調製−
下記組成中の成分を混合し、下塗層用塗布液を調製した。
<下塗層用塗布液の組成>
・ポリエステル樹脂 ・・・1.7質量%
(バイロナールMD−1200、東洋紡(株)製、固形分:17質量%)
・ポリエステル樹脂 ・・・3.8質量%
(ペスレジンA−520、高松油脂(株)製、固形分:30質量%)
・ポリオキシアルキレンアルキルエーテル ・・・1.5質量%
(ナロアクティーCL95、三洋化成工業(株)製、固形分:1質量%)
・無機酸化物フィラー ・・・1.6質量%
(スノーテックスC、日産化学(株)製、固形分:20質量%)
・カルボジイミド化合物 ・・・4.3質量%
(カルボジライトV−02−L2、日清紡(株)製、固形分:10質量%、架橋剤)
・蒸留水 ・・・87.1質量%
なお、上記下塗層用塗布液の組成のバインダー添加量(下記2種のポリエステル樹脂の合計5.5質量%)に対する、架橋剤添加量(4.3質量%)の割合を百分率で計算したところ、30%であった(質量比)。その結果を下記表1に記載した。
【0106】
<白色顔料層用塗布液の調製>
−白色顔料分散物の調製−
下記組成中の成分を混合し、その混合物をダイノミル型分散機により1時間、分散処理を施した。
<顔料分散物の組成>
・二酸化チタン(体積平均粒子径=0.42μm) ・・・44.9質量%
(タイペークR−780−2、石原産業(株)製、固形分100質量%)
・ポリビニルアルコール ・・・8.0質量%
(PVA−105、(株)クラレ製、固形分:10質量%)
・界面活性剤(デモールEP、花王(株)製、固形分:25質量%)・・・0.5質量%
・蒸留水 ・・・46.6質量%
【0107】
−白色顔料層用塗布液の調製−
下記組成中の成分を混合し、白色顔料層用塗布液を調製した。
<白色顔料層用塗布液の組成>
・上記の顔料分散物 ・・・70.9質量%
・ポリアクリル樹脂水分散液 ・・・19.2質量%
(バインダー:ジュリマーET410、日本純薬(株)製、固形分:30質量%)
・ポリオキシアルキレンアルキルエーテル ・・・3.0質量%
(ナロアクティーCL95、三洋化成工業(株)製、固形分:1質量%)
・オキサゾリン化合物 ・・・6.9質量%
(エポクロスWS−700、日本触媒(株)製、固形分:25質量%、架橋剤)
なお、上記白色顔料層用塗布液の組成のバインダー添加量(下記ポリアクリル樹脂の固形分5.76質量%)に対する、架橋剤添加量(6.9質量%)の割合を百分率で計算したところ、30%であった(質量比)。その結果を下記表1に記載した。
【0108】
<太陽電池裏面保護シートの作製>
前記下塗層用塗布液を、上記にて作製した2軸延伸PET上に塗布した。その後、180℃で1分間乾燥させて、塗設量が0.1g/m2の下塗層(厚み:0.1μm)を形成した。
更に、乾燥させた下塗層の上に、二酸化チタン量が6.5g/m2(P/P+B比率84.4質量%)になるように前記白色顔料層用塗布液を塗布し、180℃で1分間乾燥させて、白色顔料層(反射層)(厚み:1.4μm)を形成した。
【0109】
以上のようにして、実施例1の太陽電池用裏面保護シート(以下、「サンプルシート」と称する。)を作製した。このサンプルシートについて、湿熱経時前後の接着性、膜強度、面状、反射率の評価を以下に示す方法により行なった。結果は、下記表1に示す。
【0110】
<評価>
−1.接着性−
[A]湿熱経時前の接着性
上記のようにして作製したサンプルシートを20mm巾×150mmにカットして、サンプル片を2枚準備した。この2枚のサンプル片を、互いに白色顔料層側が内側になるように配置し、この間に20mm巾×100mm長にカットしたEVAシート(三井化学ファブロ(株)製のEVAシート:SC50B)を挟み、真空ラミネータ(日清紡(株)製の真空ラミネート機)を用いてホットプレスすることにより、EVAと接着させた。このときの接着条件は、以下の通りとした。
真空ラミネータを用いて、128℃で3分間の真空引き後、2分間加圧して仮接着した。その後、ドライオーブンを用いて150℃で30分間、本接着処理を施した。このようにして、互いに接着した2枚のサンプル片の一端から20mmの部分はEVAと未接着で、残りの100mmの部分にEVAシートが接着された接着評価用試料を得た。
得られた接着評価用試料のEVA未接着部分を、テンシロン(ORIENTEC製 RTC−1210A)にて上下クリップに挟み、剥離角度180°、引っ張り速度300mm/分で引っ張り試験を行ない、接着力を測定した。
測定された接着力をもとに以下の評価基準にしたがってランク付けした。このうち、ランク4、5が実用上許容可能な範囲である。
<評価基準>
5:密着が非常に良好であった(60N/20mm以上)
4:密着は良好であった (30N/20mm以上60N/20mm未満)
3:密着がやや不良であった (20N/20mm以上30N/20mm未満)
2:密着不良が生じた (10N/20mm以上20N/20mm未満)
1:密着不良が顕著であった (10N/20mm未満)
【0111】
[B]湿熱経時後の接着性
得られた接着評価用試料を、120℃、相対湿度100%の環境条件下で48時間保持(湿熱経時)した後、前記[A]と同様の方法にて接着力を測定した。また、測定された湿熱経時後の接着力をもとに、前記[A]と同様の方法にて接着力を評価した。
【0112】
[C]接着性の湿熱経時前後の変化量
測定された保持後の接着力について、同じ接着評価用試料の前記[A]湿熱経時前の接着力に対する比率〔%;=湿熱経時後の接着力/[A]湿熱経時前の接着力×100〕を算出した。
【0113】
−2.膜強度−
上記のようにして作製したサンプルシートを、25℃、相対湿度65%の雰囲気で2時間保存した後、1kg/cm巾の荷重をかけた黒色紙と速度2460mm/分で擦り合わせる擦り試験を実施した。擦り試験後の黒色紙の上に付着した塗布層の粉落ちの程度を目視で観察し、粉落ちの程度を指標に下記の評価基準にしたがって評価した。このうち、ランク4、5が実用上許容可能な範囲である。
<評価基準>
5:全く粉落ちがなかった。
4:粉落ちが極僅かにみられた。
3:粉落ちがみられた。
2:強い粉落ちがみられた。
1:黒色紙のほとんど全面に粉落ちがみられた。
【0114】
−3.面状−
上記のようにして作製したサンプルシートの面状を目視により観察し、下記の評価基準にしたがって評価した。このうち、ランク4、5が実用上許容可能な範囲である。
<評価基準>
5:ムラやハジキが全くみられなかった。
4:ムラが極わずかにみられたが、ハジキは確認できなかった。
3:ムラがみられたが、ハジキは確認できなかった。
2:ムラがはっきり確認され、一部に(10個/m2未満)ハジキがみられた。
1:ムラがはっきり確認され、ハジキが10個/m2以上みられた。
【0115】
−4.反射率−
分光光度計UV−2450((株)島津製作所製)に積分球付属装置ISR−2200を取り付けた装置を用い、サンプルシートの反射層における550nmの光に対する反射率を測定した。但し、リファレンスとして硫酸バリウム標準板の反射率を測定し、これを100%としてサンプルシートの反射率を算出した。
【0116】
[実施例2〜16、比較例1〜8]
実施例1において、2軸延伸PET基材のベース厚みと表面処理;下塗層の乾燥後の厚み、バインダー塗布量、無機微粒子塗布量および架橋剤量;白色顔料層の酸化チタン顔料塗布量、バインダー塗布量および架橋剤量を表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にして、太陽電池用裏面保護シート(サンプルシート)を作製した。但し、実施例9においては下塗層を塗布する前の二軸延伸PET基材に対して、1.3kw/電極1m(電極1m当たりの出力を表す)の出力で、500J/m2の処理強度のコロナ処理を施した。
また、比較例2では、実施例1と同等の反射率を発現させるための図2の構成の酸化チタン練り込み基材(白色フィルム)を作成した。また、比較例3および5では、下塗層を設けなかった。比較例6〜8では、比較例2において酸化チタン練り込み白色フィルムを作製するときのベース厚みを変更した。
得られた各実施例および比較例のフィルムについて、実施例1と同様に評価を行なった。その結果を、下記表1に示す。なお、酸化チタン練り込みタイプの基材を用いた比較例2および6〜8については、接着性および膜強度のデータを測定することができなかった。また、各実施例および比較例における白色顔料層の厚みは全て実施例1と同じく1.4μmであった。
【0117】
【表1】

【0118】
上記表1より、実施例の太陽電池裏面保護シートはいずれも湿熱経時後の接着性、膜強度、面状および反射率がいずれも良好であることがわかった。
一方、比較例1はバインダーと白色顔料の合計に対する白色顔料の割合を本発明の下限値未満としたものであり、得られたシートは反射率が悪かった。比較例2は実施例1と同等のベース厚みかつ反射率となるように作製した白色顔料錬り込みタイプのシートを作製したものであり、得られたシートは白色顔料が50g/m2必要であり、塗布方式(6.5g/m2)に比べて顔料が多く必要であることがわかった。比較例3は下塗層を設けなかったものであり、得られたシートは湿熱経時後の接着性と膜強度が悪かった。比較例4は下塗層の厚みを、本発明の上限値を超えるようにしたものであり、得られたシートは面状が悪かった。比較例5は、下塗層を設けず、かつバインダーと白色顔料の合計に対する白色顔料の割合を本発明の下限値未満としたものであり、得られたシートは湿熱経時後の接着性と膜強度が悪く、反射率は75%未満であった。比較例6〜8は、白色顔料錬り込みタイプのシートの厚みを比較例2よりも順に薄くしていったものであり、反射率は低下していくことがわかった。
【0119】
(実施例101)
厚さ3mmの強化ガラスと、EVAシート(三井化学ファブロ(株)製のSC50B)と、結晶系太陽電池セルと、EVAシート(三井化学ファブロ(株)製のSC50B)と、実施例1のサンプルシート(本発明の太陽電池裏面保護シート)と、をこの順に重ね合わせ、真空ラミネータ(日清紡(株)製、真空ラミネート機)を用いてホットプレスすることにより、EVAと接着させた。このとき、サンプルシートは、その易接着性層がEVAシートと接触するように配置した。また、EVAの接着条件は、以下の通りである。
真空ラミネータを用いて、128℃で3分間の真空引き後、2分間加圧して仮接着した。その後、ドライオーブンにて150℃で30分間、本接着処理を施した。
このようにして、結晶系の太陽電池モジュールを作製した。作製した太陽電池モジュールを用いて発電運転をしたところ、太陽電池として良好な発電性能を示した。
【符号の説明】
【0120】
1 ポリマー基材
2 下塗層
3 白色顔料層
4 白色顔料錬り込みタイプのポリマー基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚み120〜350μmのポリマー基材と、
厚み2μm以下の下塗層と、
バインダーと白色顔料を含み、かつ前記バインダーと前記白色顔料の合計に対する前記白色顔料の割合が80〜95質量%である白色顔料層とを、
この順で有することを特徴とする太陽電池裏面保護シート。
【請求項2】
前記白色顔料層および下塗層の少なくとも一方に、バインダーに対して5〜50質量%の架橋剤を含有することを特徴とする請求項1に記載の太陽電池裏面保護シート。
【請求項3】
前記架橋剤が、カルボジイミド基やオキサゾリン基を有する架橋剤であることを特徴とする請求項2に記載の太陽電池裏面保護シート。
【請求項4】
前記下塗層がポリオレフィン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリアクリル樹脂およびポリエステル樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の樹脂を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の太陽電池裏面保護シート。
【請求項5】
前記下塗層は、無機酸化物フィラーを含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の太陽電池裏面保護シート。
【請求項6】
前記ポリマー基材が、コロナ処理、大気圧プラズマ処理、火炎処理およびシラン化合物を導入した火炎を用いる火炎処理の少なくとも1種の方法で表面処理されたことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の太陽電池裏面保護シート。
【請求項7】
前記ポリマー基材の150℃、30分経時前後の熱収縮率が0〜0.5%であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の太陽電池裏面保護シート。
【請求項8】
前記ポリマー基材が、カルボキシル基の含量が35当量/トン以下であるポリエステルであることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の太陽電池裏面保護シート。
【請求項9】
波長550nmの光に対する反射率が75%以上であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の太陽電池裏面保護シート。
【請求項10】
前記下塗層および前記白色顔料層がいずれも塗布により形成されたことを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の太陽電池裏面保護シート。
【請求項11】
太陽光が入射する透明性の基板と、太陽電池素子と、請求項1〜10のいずれか1項に記載の太陽電池裏面保護シートとを含むことを特徴とする太陽電池モジュール。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2012−174798(P2012−174798A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−33648(P2011−33648)
【出願日】平成23年2月18日(2011.2.18)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】