説明

太陽電池電極用接着フィルム及びそれを用いた太陽電池モジュールの製造方法

【課題】 加熱や圧力による太陽電池セルへの悪影響を低減することができ、十分な太陽電池特性を有する太陽電池が得られる太陽電池電極用接着フィルム、及びそれを用いる太陽電池モジュールの製造方法を提供すること。
【解決手段】 太陽電池電極用接着フィルムは、太陽電池セルの表面電極と、配線部材とを電気的に接続するために用いられる接着フィルムであって、結晶性エポキシ樹脂、硬化剤、及びフィルム形成材を含有してなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池電極用接着フィルム及びそれを用いた太陽電池モジュールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池モジュールは、複数の太陽電池セルがその表面電極に電気的に接続された配線部材を介して直列及び/又は並列に接続された構造を有している。また太陽電池は屋外環境で使われるため、気温変化、湿潤、強風や積雪に対する耐性を確保するために、配線部材を有する太陽電池セル群は封止材によって封止されるのが一般的である。通常、強化ガラス、エチレンビニルアセテート(EVA)、バックシートなどからなる封止材を、配線部材を有する太陽電池セル群に積層して挟んだ後、真空ラミネータによって封止が行われる。
【0003】
太陽電池モジュールを作製する際、太陽電池セルの表面電極と配線部材との接続には、従来、はんだが用いられてきた(例えば、特許文献1及び2参照)。はんだは、導通性、固着強度等の接続信頼性に優れ、安価で汎用性があることから広く用いられている。はんだを使用しない接続方法も知られている。例えば、下記特許文献3〜5には導電性ペーストを使用する接続方法が開示されており、下記特許文献6〜8には導電性フィルムを用いる接続方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−204256号公報
【特許文献2】特開2005−050780号公報
【特許文献3】特開2000−286436号公報
【特許文献4】特開2001−357897号公報
【特許文献5】特許第3448924号公報
【特許文献6】特開2005−101519号公報
【特許文献7】特開2007−214533号公報
【特許文献8】特開2008−300403号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
はんだを用いて太陽電池セルの表面電極と配線部材とを接続する方法は、はんだの溶融温度が通常230〜260℃程度であることから、接続に伴う高温やはんだの体積収縮が太陽電池セルの半導体構造に悪影響を及ぼし、太陽電池セルの特性劣化を引き起こす場合がある。
【0006】
一方、上記特許文献3〜5に記載のように、導電性ペーストを用いて太陽電池セルの表面電極と配線部材との接続を行う方法は、高温高湿条件下で経時的に特性が大幅に劣化してしまうことがあり、必ずしも十分な接続信頼性が得られるものではなかった。
【0007】
また、上記特許文献6〜8に記載のように、導電性フィルムを用いて太陽電池セルの表面電極と配線部材との接続を行う方法は、はんだに比べて低温での接着が可能であることから、はんだを用いた場合に生じる太陽電池セルへの悪影響を抑制することができる。しかし、それでもなお、接続には200℃近い加熱と同時に数MPa程度の圧力を加える必要があり、太陽電池セルへの悪影響は少なくはない。
【0008】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、加熱や圧力による太陽電池セルへの悪影響を低減することができ、十分な太陽電池特性を有する太陽電池が得られる太陽電池電極用接着フィルム、及びそれを用いる太陽電池モジュールの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明は、太陽電池セルの表面電極と、配線部材とを電気的に接続するために用いられる接着フィルムであって、結晶性エポキシ樹脂、硬化剤、及びフィルム形成材を含有してなる太陽電池電極用接着フィルムを提供する。
【0010】
本発明の太陽電池電極用接着フィルムによれば、上記構成を有することにより、常温におけるフィルムの安定性と、電極と配線部材とを接続するときの低温流動性とを両立させることが可能となり、加熱や圧力による太陽電池セルへの悪影響を十分低減することができる。流動性を高める液状エポキシは種々知られているが、それのみを配合するような方法では、接着フィルム自身が柔らかくなりすぎて、使用前に染み出しなどの問題が起こってしまう。
【0011】
また、本発明の太陽電池電極用接着フィルムは、太陽電池セルの表面電極と配線部材とを、封止材のラミネート工程での温度・圧力条件で十分接合させることができることから、従来の導電性フィルムを用いた場合に行われていた圧着工程を省略して、ラミネート工程のみで封止材と一括して実装を行うことができる。これにより、太陽電池モジュールの製造工程を簡略化することができる。
【0012】
本発明の太陽電池電極用接着フィルムにおいて、上記硬化剤が潜在性硬化剤であることが好ましい。この場合、常温でのフィルム安定性を確保することが容易にできる。
【0013】
また、上記結晶性エポキシ樹脂は、比較的融点が低いという点で、ビスフェノール型エポキシ樹脂又はビフェニル型エポキシ樹脂であることが好ましい。
【0014】
更に、上記結晶性エポキシ樹脂は、更に比較的融点が低いという点で、ビスフェノール型エポキシ樹脂であることが好ましい。
【0015】
また、上記ビスフェノール型エポキシ樹脂は、下記式(2−1)で表される化合物であることが好ましい。
【0016】
【化1】

【0017】
上記フィルム形成材は、フェノキシ樹脂を含むことが好ましい。また、上記フィルム形成材は、フェノキシ樹脂及びアクリルゴムを含むことが好ましい。
【0018】
本発明はまた、複数の太陽電池セルと、該太陽電池セル同士を電気的に接続する配線部材と、を備える太陽電池モジュールの製造方法であって、太陽電池セルの表面電極、上記本発明の太陽電池電極用接着フィルム、及び配線部材をこの順に配し、表面電極と配線部材とを160℃以下の温度で接合する第1の太陽電池モジュールの製造方法を提供する。
【0019】
本発明はまた、複数の太陽電池セルと、該太陽電池セル同士を電気的に接続する配線部材と、を備える太陽電池モジュールの製造方法であって、太陽電池セルの表面電極、上記本発明の太陽電池電極用接着フィルム、及び配線部材をこの順に配し、前記表面電極と前記配線部材とを0.2MPa以下の圧力で接合する第2の太陽電池モジュールの製造方法を提供する。
【0020】
本発明はまた、複数の太陽電池セルと、該太陽電池セル同士を電気的に接続する配線部材と、を備える太陽電池モジュールの製造方法であって、太陽電池セルの表面電極、上記本発明の太陽電池電極用接着フィルム、及び配線部材をこの順に配し、前記表面電極と前記配線部材とを0.3MPa以下の圧力で接合する第3の太陽電池モジュールの製造方法を提供する。
【0021】
本発明の第2の太陽電池モジュールの製造方法において、表面電極と配線部材とを160℃以下の温度で接合することができる。
【0022】
本発明の第1及び第2の太陽電池モジュールの製造方法は、ラミネータにより前記太陽電池セル及び前記配線部材を封止材で封止する封止工程を備え、封止工程で表面電極と配線部材とを接合することができる。
【0023】
本発明の第3の太陽電池モジュールの製造方法は、配線部材と太陽電池セルを太陽電池電極用接着フィルムで接続に適した専用の加熱圧着機により太陽電池セル及び配線部材を接続する工程を備えるか、もしくはラミネータにより太陽電池セル及び配線部材を封止材で封止する封止工程を備え、封止工程で表面電極と配線部材とを接合することができる。専用の加熱圧着機としては、例えば、配線部材を置いた太陽電池セルのバスバーを配線部材上から圧着するための圧着ヘッドとその圧着ヘッドに加熱機構が設けられた装置が挙げられる。
【0024】
本発明はまた、本発明の第1、第2及び第3の太陽電池モジュールの製造方法により得られる太陽電池モジュールを提供する。本発明の太陽電池モジュールは、本発明の太陽電池電極用接着フィルムを用いて太陽電池セルの表面電極と配線部材とが接続されていることにより、加熱や圧力による太陽電池セルへの悪影響が少なく、十分な太陽電池特性を有し、長期に渡る屋外環境での使用に耐えうる。
【0025】
本発明はまた、結晶性エポキシ樹脂、硬化剤、及びフィルム形成材を含有してなる接着フィルムの、太陽電池セルの表面電極と、配線部材とを電気的に接続するための使用を提供する。ここで、硬化剤は潜在性硬化剤であることが好ましく、結晶性エポキシ樹脂は、ビスフェノール型エポキシ樹脂又はビフェニル型エポキシ樹脂であることが好ましく、中でもビスフェノール型エポキシ樹脂であることが好ましい。
【0026】
また、本発明の使用において、上記ビスフェノール型エポキシ樹脂は下記式(2−1)で表される化合物であることが好ましい。
【化2】

【0027】
ここで、上記フィルム形成材はフェノキシ樹脂を含むことが好ましく、また、上記フィルム形成材は、フェノキシ樹脂及びアクリルゴムを含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、加熱や圧力による太陽電池セルへの悪影響を低減することができ、十分な太陽電池特性を有する太陽電池が得られる太陽電池電極用接着フィルム、及びそれを用いる太陽電池モジュールの製造方法を提供することができる。
【0029】
本発明の太陽電池電極用接着フィルムは、太陽電池セルの表面電極と配線部材とを、封止材のラミネート工程での温度・圧力条件で十分接合させることができることから、太陽電池モジュールの製造工程を簡略化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明に係る太陽電池モジュールの要部を示す模式図である。
【図2】本発明に係る太陽電池モジュールの製造方法の一実施形態を説明するための図である。
【図3】太陽電池セルを2行2列に直列接続した様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面中、同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0032】
本発明の太陽電池電極用接着フィルムは、太陽電池セルの電極と、太陽電池セルを直列及び/又は並列につなぐ為の配線ワイヤー(配線部材)とを接続するために用いられるものである。太陽電池セルには、その表面及び裏面に電気を取り出す為の電極(表面電極)が形成されている。
【0033】
ここで表面電極としては、電気的導通を得ることができる公知の材質のものが挙げられ、例えば、一般的な銀を含有したガラスペーストや接着剤樹脂に各種の導電性粒子を分散した銀ペースト、金ペースト、カーボンペースト、ニッケルペースト、アルミペースト及び焼成や蒸着によって形成されるITOなどが挙げられる。これらの中でも、耐熱性、導電性、安定性、及びコストの観点から、銀を含有したガラスペースト電極が好適に用いられる。
【0034】
太陽電池セルとしては、単結晶シリコンや多結晶シリコンの結晶系太陽電池セル、またはアモルファスシリコンやCIGS、CdTeなどの薄膜系太陽電池セルなどが挙げられる。代表的なものとして、Siの単結晶、多結晶及び非結晶のうちの少なくとも一種以上からなる基板上に、スクリーン印刷などによってAg電極とAl電極とが表面電極としてそれぞれ設けられた太陽電池セルが挙げられる。
【0035】
本発明の太陽電池電極用接着フィルム(以下、本発明の接着フィルムと略す)は、エポキシ成分、硬化剤、及びフィルム形成材を含有してなり、エポキシ成分として、結晶性エポキシ樹脂を含む。なお、本発明の接着フィルムは、絶縁性の接着剤成分から構成されていてもよく、導電性粒子を更に含んでいてもよい。
【0036】
本発明における結晶性エポキシ樹脂とは、室温(25℃)で結晶部分を含むものであり、高分子の鎖の一部に、規則正しく配列された結晶組織を有していることを特徴とする。一般的に、結晶化に不都合な分子の橋かけや、枝分かれが少なく、大きな置換基がない、またはあってもそれらが、規則正しい立体配置をとっている状態のものを指す。
【0037】
結晶性エポキシ樹脂は、一般に樹脂成分が硬化している結晶化温度未満では固体として存在し、結晶化温度以上で液体となる。すなわち、結晶化エポキシ樹脂の結晶状態では安定した個体として存在するが、融点に達するとともに速やかに結晶状態が溶け、極めて低粘度の液体に変化することを特徴としている。
【0038】
結晶性エポキシ樹脂は、固体から液体への相転移温度がシャープに現れ、融点付近で急に流動性が高くなる特徴を有する。融点の測定は、DSC(示差走査熱量測定)やDTA(示差熱分析)を用いることができる。例えば、DSCを用いた場合、室温から10℃/分の速度で温度を上昇させて熱量を測定したときに、溶解による吸熱に相当する急激な変化によって融点を知ることができる。
【0039】
結晶性エポキシ樹脂としては、例えば、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、ハイドロキノン型エポキシ樹脂、チオエーテル型エポキシ樹脂が挙げられる。
【0040】
ビフェニル型エポキシ樹脂及びビスフェノール型エポキシ樹脂としては、例えば、下記一般式(1)〜(3)で表されるエポキシ樹脂が挙げられる。
【化3】

【0041】
【化4】

【0042】
【化5】

【0043】
上記式(1)〜(3)中のR〜R12は、水素原子または炭素数1〜5のアルキル基を示し、一部又は全てが同一でも異なってもよい。また、上記式(2)〜(3)中のXは、S、O、SO、CH、またはC(CHを示す。上記式(3)中の2つXは、同一でも異なってもよい。
【0044】
また、下記一般式(4)で表されるエポキシ樹脂も結晶性エポキシ樹脂として挙げることができる。
【化6】

【0045】
上記式(4)中のR〜Rは、水素原子または炭素数1〜5のアルキル基を示し、一部又は全てが同一でも異なってもよい。
【0046】
結晶性エポキシ樹脂の商業的に入手可能なものとして、例えば、東都化成(株)製の商品名「YSLV−80XY」(ビスフェノール型エポキシ樹脂、融点80℃)、「YSLV−90CR」(ビスフェノール型エポキシ樹脂、融点89℃)、「GK−4137」(ビスフェノール型エポキシ樹脂、融点79℃)「YDC−1312」(ハイドロキノン型エポキシ樹脂、融点141℃)、「YSLV−120TE」(チオエーテル型エポキシ樹脂、融点120℃)や、三菱化学(株)製の商品名「YX8800」(ビフェニル型エポキシ樹脂、融点109℃)、「YX4000」(ビフェニル型エポキシ樹脂、融点105℃)、YX4000H(ビフェニル型エポキシ樹脂、融点105℃)等が挙げられる。また、WO2010/098066に記載の結晶性エポキシ樹脂も適用可能である。
【0047】
本発明で用いる結晶性エポキシ樹脂の融点は、常温で安定したフィルム性を維持できて、なおかつ150℃程度のラミネート工程で流動・接着を可能にする観点から、50℃〜200℃が好ましく、60℃〜150℃がより好ましく、70℃〜100℃が更により好ましく、75℃〜85℃が特に好ましい。
【0048】
本発明の接着フィルムが潜在性硬化剤を含む場合には、結晶性エポキシ樹脂の融点は、60℃〜120℃であることが好ましく、60℃〜110℃であることが更に好ましい。これは、潜在性硬化剤の硬化反応温度のピークが120℃付近にあるため、これより融点が低い結晶性エポキシ樹脂を配合することで流動性が確保しやすくなるためである。
【0049】
すなわち、結晶性エポキシ樹脂の選定には、使用する潜在性硬化剤の反応温度のピークを考慮することがより好ましい。結晶性エポキシ樹脂の融点が60℃以上であって、潜在性硬化剤の硬化反応温度のピーク以下の範囲内にあることが好ましい。
【0050】
このような観点から、本発明の接着フィルムは、結晶性エポキシ樹脂としてビスフェノール型エポキシ樹脂又はビフェニル型エポキシ樹脂を含有することが好ましく、更に、硬化が開始される前にフィルムが十分流動する点で、ビスフェノール型エポキシ樹脂を含有することが好ましい。
【0051】
ビスフェノール型エポキシ樹脂としては、下記式(2−1)で表される化合物が好ましい。
【0052】
【化7】

【0053】
本発明で用いる硬化剤としては、熱及び/又は圧力による反応開始の活性点が比較的明瞭であり、加熱加圧工程を伴う接続方法に好適であるとの理由から、潜在性硬化剤が好ましい。また、潜在性硬化剤を含有したエポキシ系接着剤は、短時間硬化が可能で接続作業性が良く、分子構造上接着性に優れるので特に好ましい。
【0054】
潜在性硬化剤としては、アニオン重合性の触媒型硬化剤、カチオン重合性の触媒型硬化剤、重付加型の硬化剤等が挙げられる。これらは、単独又は2種以上の混合物として使用できる。これらのうち、速硬化性において優れ、化学当量的な考慮が不要である点から、アニオン又はカチオン重合性の触媒型硬化剤が好ましい。
【0055】
アニオン又はカチオン重合性の触媒型硬化剤としては、例えば、第3級アミン類、イミダゾール類、ヒドラジド系化合物、三フッ化ホウ素−アミン錯体、オニウム塩(スルホニウム塩、アンモニウム塩等)、アミンイミド、ジアミノマレオニトリル、メラミン及びその誘導体、ポリアミンの塩、ジシアンジアミド等が挙げられ、これらの変成物も用いることが可能である。重付加型の硬化剤としては、ポリアミン類、ポリメルカプタン、ポリフェノール、酸無水物等が挙げられる。
【0056】
アニオン重合性の触媒型硬化剤として第3級アミン類やイミダゾール類を用いた場合、エポキシ樹脂は150℃程度の中温で数分〜数時間程度の加熱により硬化する。このために可使時間(ポットライフ)が比較的長いので好ましい。
【0057】
本発明で用いるフィルム形成材としては、例えば、フェノキシ樹脂、アクリルゴム、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエステルウレタン樹脂、ポリビニルブチラール樹脂類が挙げられ、フェノキシ樹脂又はアクリルゴムであることが好ましい。
【0058】
アクリルゴムは、通常、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを共重合成分とする共重合体である。該共重合体は、例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステルと、必要に応じて分子内に二重結合を有する他の化合物とを共重合することにより得ることができる。
【0059】
上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル等が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0060】
上記必要に応じて共重合される、分子内に二重結合(エチレン性不飽和基)を有する他の化合物としては、例えば、アクリロニトリル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシルプロピル、(メタ)アクリル酸アミド、(メタ)アクリル酸アリル、(メタ)アクリル酸N−ビニルピロリドン、アリルアルコール、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸等が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0061】
アクリルゴムの重合方法としては、特に制限はなく、例えば、懸濁重合法等を用いることができる。具体的には、PVA等の分散剤、及び、アゾビスイソブチロニトリル、ラウリルパーオキサイド等の重合開始剤を水媒体中に分散させた液体に、上記した共重合成分を滴下し、重合させる。また、溶液重合等の各種重合法も必要に応じて可能である。
【0062】
これらアクリルゴムは、接着性向上の観点から、グリシジル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、カルボキシル基、水酸基、エピスルフィド基等の官能基を有することが好ましい。これらの官能基は、例えば、該官能基と二重結合とを分子内に有する化合物を共重合成分とすることにより、アクリルゴムに導入することができる。特にグリシジル基は、アクリルゴムの架橋性を向上させる点からも好ましく、例えば、(メタ)アクリル酸グリシジル等の分子内にグリシジル基と二重結合を有する化合物を共重合成分として使用することによりアクリルゴムに導入することができる。
【0063】
また、アクリルゴムは、上記官能基の含有量を適宜変更することにより架橋密度を調整することができる。アクリルゴムが複数の共重合成分の共重合体である場合は、官能基と二重結合とを分子内に有する化合物の共重合割合は、0.5〜6.0質量%程度であることが好ましい。
【0064】
アクリルゴムにグリシジル基を導入する場合、(メタ)アクリル酸グリシジルの共重合割合は0.5〜6.0質量%であることが好ましく、0.5〜5.0質量%であることがより好ましく、0.8〜5.0質量%であることが特に好ましい。(メタ)アクリル酸グリシジルの共重合割合が上記範囲にあると、グリシジル基の緩やかな架橋が起こりやすく、接着力を確保しつつゲル化を抑制することが容易となる傾向がある。また、エポキシ樹脂と非相溶になりやすく、応力緩和性に優れる傾向がある。
【0065】
このうち、高流動性の点で、重量平均分子量が100000以下、より好ましくは40000〜60000の範囲にあるフェノキシ樹脂が好ましい。またこのうち、高い信頼性と取り扱いのよいフィルム性を兼ね備えるために、アクリルゴムの重量平均分子量が200,000〜2,000,000の範囲であることが好ましく、500,000〜1,500,000の範囲であることがより好ましく、700,000〜1,000,000の範囲であることがさらに好ましい。
【0066】
また、本発明において、重量平均分子量及び数平均分子量とは、下記表1に示す条件に従って、ゲル浸透クロマトグラフ(GPC)より標準ポリスチレンによる検量線を用いて測定した値をいう。
【表1】

【0067】
本発明の接着フィルムは、上記の結晶性エポキシ樹脂、硬化剤及びフィルム形成材以外の接着剤成分を含有することができる。
【0068】
その他の接着剤成分としては、熱可塑性材料や、熱や光により硬化性を示す硬化性材料が挙げられる。本実施形態においては、接続後の耐熱性や耐湿性に優れることから、接着フィルムが硬化性材料を含むことが好ましい。熱硬化性樹脂としては、例えば、結晶性エポキシ樹脂以外のエポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂等が挙げられる。これらの中でも、接続信頼性の観点から、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、及びアクリル樹脂のうちの少なくとも1つが接着フィルムに含有されることが好ましい。
【0069】
結晶性エポキシ樹脂以外で配合できるエポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールFノボラック型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、ヒダントイン型エポキシ樹脂、イソシアヌレート型エポキシ樹脂、脂肪族鎖状エポキシ樹脂等が挙げられる。これらのエポキシ樹脂は、ハロゲン化されていてもよく、水素添加されていてもよい。これらのエポキシ樹脂は、2種以上を併用してもよい。
【0070】
本発明の接着フィルムは、接続時の流動性を高めるという点で、約100℃以下の温度で流動する結晶性エポキシと、ビスフェノールF型エポキシ樹脂とを含むことが好ましい。
【0071】
この場合、太陽電池セルに悪影響を及ぼすことなく太陽電池セルの表面電極と配線部材とを容易に接続することができる。また、上記の接着フィルムの場合、ラミネートによる封止工程のみで他の封止材と一括で実装することが容易となることから、圧着工程を省略して太陽電池モジュールの製造工程をより有効に簡略化することができる。なお、ラミネートによる封止工程の条件としては、通常封止材として一般的に使用されるEVA等の架橋条件で決定されるが、一般的には150℃で10分程度保持するなどの条件が挙げられる。
【0072】
本発明の接着フィルムには、上記成分以外に、接着性や濡れ性を改善する為に、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤やアルミネート系カップリング剤等の改質材料、また導電性粒子の分散性を向上させる為に、燐酸カルシウム、炭酸カルシウム等の分散剤、銀や銅マイグレーションなどを抑制する為のキレート材料等を含有させることができる。
【0073】
本発明の接着フィルムにおけるエポキシ成分の含有量は、接着フィルム全量を基準として、20〜70質量%が好ましく、30〜60質量%がより好ましく、40〜50質量%が更に好ましい。エポキシ成分を上記の含有量で配合することにより、硬化前の良好なフィルム性と硬化後の接着力をより向上させることができる。
【0074】
本発明の接着フィルムにおける結晶性エポキシ樹脂の含有量は、エポキシ成分全量を基準として、1〜20質量%が好ましく、5〜15質量%がより好ましく、7〜10質量%が更に好ましい。結晶性エポキシ樹脂を上記の含有量で配合することにより、常温でのフィルムの安定性を維持しつつ、接続時には、十分流動して表面電極と配線部材とが直接接触して導電性を得ることがより確実にでき、なおかつ硬化後には配線部の信頼性を十分得ることができる。
【0075】
本発明の接着フィルムにおける硬化剤の含有量は、エポキシ成分と硬化剤成分との合計量を基準として、10〜50質量%が好ましく、20〜40質量%がより好ましい。
【0076】
本発明の接着フィルムにおけるフィルム形成材の含有量は、作製したフィルムの硬さ、弾力性及びタック力がセパレータと適切な剥がしやすさで保持されること、並びに、フィルムリールにして使用するときの染み出しなど避けることができる量であることが好ましい。フィルム形成材の配合量は、エポキシ成分と硬化剤成分との合計量100質量部に対して20〜80質量部であることが好ましく、30〜70質量部であることがより好ましい。
【0077】
フィルム形成材としてはフェノキシ樹脂、アクリルゴムをそれぞれ用いることも可能だが、分子量が低いフェノキシ樹脂は流動性に優れ、分子量の高いアクリルゴムはフィルムに弾力性をもたせることができ信頼性を向上させる効果がある。よって併用することが好ましくこれによって低圧(例えば0.5MPa以下、好ましくは0.3MPa以下)で高流動が期待でき、さらに信頼性も確保できる。配合量はフェノキシ樹脂成分に対してアクリルゴムが5重量%から20重量%であることが好ましく、より好ましくは10重量%から15重量%である。
【0078】
本発明の接着フィルムの活性温度は、40〜200℃が好ましい。活性温度とは接着フィルムの硬化反応が起きる温度を意味する。活性温度が40℃未満であると、室温(25℃)との温度差が少なく、接着フィルムの保存に低温が必要となり、一方、200℃を超えると、接続部分以外の部材に熱影響を与えやすくなる。同様の観点から、接着剤の活性温度は、50〜150℃であることがより好ましく、70〜130℃であることが更により好ましい。なお、接着フィルムの活性温度は、接着フィルムを試料とし、DSC(示差走査熱量計)を用いて、室温から10℃/分で昇温させた時の発熱ピーク温度から求めることができる。
【0079】
本発明の接着フィルムは、導電性粒子を更に含有することができる。この場合の本発明の接着フィルムは、導電性接着フィルムとして機能させることができる。
【0080】
導電性粒子としては、特に限定されるものではないが、例えば、金粒子、銀粒子、銅粒子、ニッケル粒子、金めっきニッケル粒子、金/ニッケルめっきプラスチック粒子、銅めっき粒子、ニッケルめっき粒子等が挙げられる。また、導電性粒子は、接続時の被着体表面の凹凸に対する導電性粒子の埋め込み性の観点から、毬栗状または球状の粒子形状を有するものが好ましい。すなわち、このような形状の導電性粒子は、太陽電池の表面電極や配線部材の表面の複雑な凹凸形状に対しても埋め込み性が高く、接続後の振動や膨張などの変動に対して追随性が高く、接続信頼性をより向上させることが可能となる。
【0081】
導電性粒子の粒径は、1〜50μmの範囲が好ましく、1〜30μmの範囲がより好ましい。
【0082】
本発明の接着フィルムにおける導電性粒子の含有量は、接着フィルムの接着性が著しく低下しない範囲であればよく、例えば、接着フィルムの全体積を基準として10体積%以下、好ましくは0.1〜7体積%とすることができる。
【0083】
本発明の接着フィルムは、例えば、上述した各種材料を溶剤に溶解又は分散させてなる塗布液をポリエチレンテレフタレートフィルム等の剥離フィルム上に塗布し、溶剤を除去することにより作製することができる。こうして得られる接着フィルムは、ペースト状の導電性接着剤と比較して、膜厚寸法精度や圧着時の圧力配分の点で優れている。
【0084】
上記では、剥離フィルムとしてプラスチックフィルムの例を挙げたが、剥離フィルムとして金属フィルムを使用することで、配線部材と一体化させた接着フィルムとすることもできる。
【0085】
本発明においては、剥離フィルムと、剥離フィルム上に設けられた本発明の接着フィルムとを備える接着剤エレメントの状態で接着フィルムを供給することができる。
【0086】
本発明の接着フィルムの厚みは、上記塗布液中の不揮発分の調整およびアプリケータやリップコータのギャップ調整によって制御することができる。接着フィルムの厚みは、5〜50μmであることが好ましく、10〜35μmであることがより好ましい。
【0087】
本発明の接着フィルムは、太陽電池セルに最も好適に用いることができる。太陽電池は、太陽電池セルを複数個、直列及び/又は並列に接続し、耐環境性のために強化ガラスなどで挟み込み、間隙を透明性のある樹脂によって埋められた外部端子を備えた太陽電池モジュールとして用いられる。本発明の接着フィルムは、複数の太陽電池セルを直列及び/又は並列に接続するための配線部材と、太陽電池セルの表面電極とを接続する用途に好適に用いられる。
【0088】
本発明の太陽電池モジュールの製造方法の第1実施形態では、太陽電池セルの表面電極、上記の本発明の接着フィルム、及び配線部材をこの順に配し、表面電極と配線部材とを160℃以下の温度で接合する。
【0089】
また、本発明の太陽電池モジュールの製造方法の第2実施形態では、太陽電池セルの表面電極、上記の本発明の接着フィルム、及び配線部材をこの順に配し、表面電極と配線部材とを0.2MPa以下の圧力で接合する。
【0090】
上記の太陽電池モジュールの製造方法の第2実施形態においては、表面電極と配線部材とを、160℃以下の温度、且つ、0.2MPa以下の圧力で接合することができる。また、温度は、150℃以下であることが好ましい。
【0091】
また、本発明の太陽電池モジュールの製造方法の第3実施形態では、太陽電池セルの表面電極、上記の本発明の接着フィルム、及び配線部材をこの順に配し、表面電極と配線部材とを0.3MPa以下の圧力で接合する。
【0092】
また上記の太陽電池モジュールの製造方法の第3実施形態においては、表面電極と配線部材とを加熱圧着装置を用いて、180℃以下の温度、且つ、0.3MPa以下の圧力で信頼性の高い接合をすることができる。
【0093】
上記「表面電極と配線部材とを0.2MPa以下の圧力で接合する」及び「表面電極と配線部材とを0.3MPa以下の圧力で接合する」との表現において、圧力の値は、接合される部分における圧力を意味する。圧力の下限は生産性等の観点から0.1MPaであることが好ましい。
【0094】
加熱機構を有する圧着ヘッドを備える加熱圧着装置を用いて接合する場合、接合される部分の面積に基づいて圧着ヘッドの加圧力を設定することができる。一カ所の表面電極及び配線部材の接合される面積は、(配線部材の幅)×(この幅方向に垂直な方向のセル長)で求められる。なお、ここで、表面電極はセル長全体に設けられているものとしている。また、接合される面積は必ずしもセル長から求められる必要はなく、セル長より配線部材の長さが短いような仕様で用いる時は配線部材の長さで決めてよい。
【0095】
具体的には、例えば、接合される配線部材の幅が1.5mm、セル長が156mmである場合に、接合される部分における圧力を0.3MPa(≒3kgf/cm)とするには、加熱圧着装置に設定する加圧力は次に示す計算により求めることができる。対応する圧着ヘッドに下記の加圧力がかかるようにすればよい。
目標圧力=0.3MPa(≒3kgf/cm
接合面積=0.15cm×15.6cm=2.34cm
加圧力=(接合面積)×(目標圧力)=2.34cm×3kgf/cm=7.02kgf
【0096】
なお、接続される部分が複数あり、各部分に対応する圧着ヘッドが一体化されたものである場合、上記接合される面積は、(配線部材の幅)×(この幅方向に垂直な方向のセル長)×(一度に接続する配線部材の本数)で求められる。
【0097】
本発明の接着フィルムは、太陽電池の表面電極と配線部材との接着に必ずしも200℃近い加熱圧着工程を必要とせず、封止工程で用いる真空ラミネートで表面電極と配線部材とを接着することが可能である。
【0098】
すなわち、上記の太陽電池モジュールの製造方法が、ラミネータにより太陽電池セル及び配線部材を封止材で封止する封止工程を備えている場合、この封止工程で表面電極と配線部材とを接合することができる。
【0099】
封止工程におけるラミネート条件としては、130℃〜160℃で10分以上保持することが好ましく、140℃〜150℃で15分以上保持することがより好ましい。ラミネート条件は、基本的にEVAなどの封止材の種類によって決定されるが、EVAの架橋条件を満たしたうえで、接着剤が十分に硬化できる温度及び保持時間、且つ、太陽電池セルへの悪影響がより小さくなる温度に設定されることが好ましい。温度が低すぎる場合や保持時間が短すぎると、接着剤が十分に硬化反応せず接着力や信頼性に問題が起こる可能性があり、温度が高すぎる場合、上記で述べた高温による太陽電池セルへの悪影響が起こりやすくなる。
【0100】
本発明の接着フィルムは、太陽電池セルに配線部材を供給する際に、接着フィルム自身のタック力で表面電極上に仮固定してもよく、或いは、80〜120℃程度の熱と1MPa程度の圧力をかけて仮固定してもよい。接着フィルムが仮固定され、太陽電池セル/接着フィルム/配線部材から構成される太陽電池アレイは、ガラス、EVAなどの封止材を積層してラミネータ装置に設置し、封止工程を経て太陽電池モジュールとなる。
【0101】
ここで、図1は、本発明に係る太陽電池モジュールの要部を示す模式図であり、複数の太陽電池セルが相互に配線接続された構造の概略を一つの例として示している。図1(a)は太陽電池モジュールの表面側を示し、図1(b)は裏面側を示し、図1(c)は側面側を示す。
【0102】
図1(a)〜(c)に示すように、太陽電池モジュール100は、半導体ウエハ6の表面側にグリッド電極7及びバス電極(表面電極)3aが、裏面側に裏面電極8及びバス電極(表面電極)3bがそれぞれ形成された太陽電池セル20が、配線部材4により複数相互に接続されている。そして、配線部材4は、その一端が表面電極としてのバス電極3aと、他端が表面電極としてのバス電極3bと、それぞれ本発明の接着フィルム10を介して接続されている。
【0103】
かかる構成を有する太陽電池モジュール100は、上述した本発明の接着フィルムにより表面電極と配線部材とが接続されているため、太陽電池セルへの悪影響がなく、且つ、十分な接続信頼性を得ることができる。
【0104】
太陽電池セルと配線部材とが適切に接合されているかを評価する方法として、ソーラーシミュレータによる電流−電圧(I−V)曲線測定が挙げられる。このとき得られる短絡電流(Isc)と開放電圧(Voc)の積を、最大電流値(Pmax)で除して得られる曲線因子(F.F.)の値で評価できる。太陽電池モジュールにおいて、F.F.の値は0.6以上であることが好ましく、0.65以上であることがより好ましく、0.7以上であることがさらにより好ましい。
【0105】
太陽電池セルと配線部材が適切に接合され、長期にわたる使用に耐えられるかどうかを判断するには、例えばIEC(International Electrotechnical. Commission)規格で示されているような認証試験を活用することができる。この認証試験において太陽電池モジュールについて示されたIEC61215のテストシーケンスがある。この中にあるDamp heat test(以後DH試験という)では気温85℃、湿度85%の雰囲気中に1000時間保存し、I−V曲線から得られる最適電力(Pmax)の低下率が5%以下であることが求められる。太陽電池モジュールの信頼性を評価するにあたり、IEC規格レベルの信頼性試験をクリアすることは太陽電池を実用するにあたり重要である。
【0106】
図2は、本発明に係る太陽電池モジュールの製造方法の一実施形態を説明するための図である。図2には、上述した封止工程を経て太陽電池モジュールが作製されるときのラミネータ装置に設置される積層体として、ガラス板1、封止材2、配線部材4、本発明の接着フィルム10、太陽電池セル20、本発明の接着フィルム10、配線部材4、封止材2、バックシート5がこの順に配置されてなる積層体の展開図を示す。配線部材4及び接着フィルム10は、太陽電池セル20の表面電極の位置に対応して配置されている。
【0107】
ガラス板1としては、太陽電池用ディンプル付き白板強化ガラスなどが挙げられる。封止材2としては、EVAからなるEVAシートが挙げられる。配線部材4としては、Cu線に半田をディップ又はめっきしたTAB線などが挙げられる。バックシート5としては、PET系又はテドラ−PET積層材料、金属箔−PET積層材料などが挙げられる。
【実施例】
【0108】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0109】
<接着フィルムの作製及び太陽電池モジュールの作製>
(実施例1)
フェノキシ樹脂(製品名:PKHC、ユニオンカーバイド社製、重量平均分子量45,000)を酢酸エチルに溶解して45質量%溶液6.67gを調製した。次いで、この溶液に、マイクロカプセル型潜在性硬化剤を含有する液状エポキシ樹脂(製品名:ノバキュアHX−3941HP、旭化成ケミカルズ社製、エポキシ当量185)4.5g、固形エポキシ樹脂であるCre−NovEp(製品名:YDCN−703、東都化成社製)1.5g、ビスフェノールF型エポキシ樹脂(製品名:YL983、JER社製)0.9g、ビスフェノール型結晶性エポキシ(製品名:YSLV−80XY、東都化成社製、融点80℃)0.9gを加えて攪拌し、接着剤組成物を得た。
【0110】
上記で得られた接着剤組成物(ワニス)を、ポリエチレンテレフタレートフィルム上にアプリケータ(YOSHIMISU社製)を用いて塗布し、ホットプレート上で70℃、10分間乾燥し、膜厚が25μmの接着フィルムを作製した。なお、接着フィルムの膜厚は、マイクロメータ(Mitutoyo Corp社製、ID−C112)により測定した。
【0111】
得られた接着フィルムを、太陽電池セル(156mm×156mm、多結晶シリコン)上に形成されている電極配線(材質:銀ガラスペースト、幅1.5mm)の幅(1.5mm幅)に裁断し、配線部材としての日立電線社製のTAB線(日立電線(株)製、A−TPS)と上記太陽電池セルの表面電極との間に配置した。次に、タブ線を付けた太陽電池セルを、強化ガラス(AGC製)、エチレンビニルアセテート(EVA)、バックシートを用いて、ガラス/EVA/太陽電池セル/EVA/バックシートの順に積層し、この積層体を真空ラミネータに設置し、150℃で、5分間真空引き、5分間温度保持する条件でラミネートを行い、太陽電池モジュールを作製した。
【0112】
得られた太陽電池モジュールについて、ワコム電創社製のソーラーシミュレータ(WXS−155S−10、AM1.5G)を用いてIVカーブを測定し、このI−V曲線から曲線因子F.F.を求めた。
【0113】
曲線因子F.F.は0.649であり、太陽電池として十分な特性が得られていることが確認された。
【0114】
(実施例2)
実施例1と同様にして調製した接着剤組成物6.0gに、直径10μmのNi粒子を0.83g加えて攪拌して得られたワニスを用いて接着フィルムを作製した以外は実施例1と同様にして、太陽電池モジュールを作製した。得られた太陽電池モジュールについて、上記と同様にして曲線因子F.F.を求めた。
【0115】
曲線因子F.F.は0.671であり、太陽電池として十分な特性が得られていることが確認された。
【0116】
(実施例3)
実施例1の接着剤組成物におけるビスフェノール型結晶性エポキシ(製品名:YSLV−80XY、東都化成社製、融点80℃)の配合量を0.5gに変更した以外は実施例1と同様にして、太陽電池モジュールを作製した。得られた太陽電池モジュールについて、上記と同様にして曲線因子F.F.を求めた。
【0117】
曲線因子F.F.は0.662であり、太陽電池として十分な特性が得られていることが確認された。
【0118】
(実施例4)
実施例1の接着剤組成物におけるビスフェノール型結晶性エポキシ(製品名:YSLV−80XY、東都化成社製、融点80℃)の配合量を1.3gに変更した以外は実施例1と同様にして、太陽電池モジュールを作製した。得られた太陽電池モジュールについて、上記と同様にして曲線因子F.F.を求めた。
【0119】
曲線因子F.F.は0.670であり、太陽電池として十分な特性が得られていることが確認された。
【0120】
(実施例5)
フェノキシ樹脂(製品名:PKHC、ユニオンカーバイド社製、重量平均分子量45,000)を酢酸エチルに溶解して45質量%溶液7.78gを調製した。次いで、この溶液に、マイクロカプセル型潜在性硬化剤を含有する液状エポキシ樹脂(製品名:ノバキュアHX−3941HP、旭化成ケミカルズ社製、エポキシ当量185)5.0g、ビスフェノール型結晶性エポキシ(製品名:YSLV−80XY、東都化成社製、融点80℃)1.0g、アクリルゴム(製品名:HTR−P3−TEA DR、日立化成工業社製、重量平均分子量850,000)をトルエンと酢酸エチルに溶解した15質量%溶液3.33gを加えて攪拌し、接着剤組成物を得た。
【0121】
上記で得られた接着剤組成物(ワニス)を、ポリエチレンテレフタレートフィルム上にアプリケータ(YOSHIMISU社製)を用いて塗布し、ホットプレート上で70℃、10分間乾燥し、膜厚が25μmの接着フィルムを作製した。なお、接着フィルムの膜厚は、マイクロメータ(Mitutoyo Corp社製、ID−C112)により測定した。
【0122】
得られた接着フィルムを、太陽電池セル(156mm×156mm、Qcells社製 Q6LTT3多結晶シリコン)上に形成されている電極配線(材質:銀ガラスペースト、幅1.5mm)の幅(1.5mm幅)に裁断し、配線部材としての日立電線社製のTAB線(日立電線(株)製、SSA−TPS)と上記太陽電池セルの表面電極との間に配置した。そしてタブ線を置いた太陽電池セルのバスバーをタブ線上から圧着するための圧着ヘッドとその圧着ヘッドに加熱機構が備えた専用の加熱圧着機(芝浦メカトロニクス社製)で接着フィルムの温度が180℃、接合部分にかかる圧力が0.25MPaとなるようにTAB線と太陽電池セルを10秒かけて加熱圧着して接続した。
【0123】
この工程を4つの太陽電池セルに行い、図3に示されるように、配線部材4同士を接続し、2行2列に太陽電池セル20を配置して電気的に直列接続されるように配線した。次に、TAB線を付けた太陽電池セル20を、強化ガラス(AGC製)、エチレンビニルアセテート(EVA)、バックシートを用いて、ガラス/EVA/太陽電池セル/EVA/バックシートの順に積層し、この層体を真空ラミネータに設置し、150℃で、5分間真空引き、15分間温度保持する条件でラミネートを行い、太陽電池モジュール200を作製した。
【0124】
得られた太陽電池モジュール200について、配線部材4の末端の接続部32,34を介して日清紡メカトロニクス社製のソーラーシミュレータ(PVS1116i、AM1.5G)に接続し、IVカーブを測定した。このI−V曲線から曲線因子F.F.を求めた。
【0125】
曲線因子は、0.700であり、上記モジュールは太陽電池として良好な特性を有していることが確認された。また、信頼性試験として、当該太陽電池モジュールを気温85℃、湿度85%に設定された恒温高湿槽の中で1000時間保存する試験をしたところ(DH試験)、Pmaxの低下率は0.1%であった。
【0126】
(比較例1)
アクリルゴム(製品名:KS8200H、日立化成工業社製、分子量:85万)125gと、フェノキシ樹脂(製品名:PKHC、ユニオンカーバイド社製、重量平均分子量45,000)50gとを、酢酸エチル400gに溶解し、30質量%溶液を得た。次いで、この溶液に、マイクロカプセル型潜在性硬化剤を含有する液状エポキシ樹脂(製品名:ノバキュアHX−3941HP、旭化成ケミカルズ社製、エポキシ当量185)325gを加えて撹拌し、接着剤組成物を得た。さらに、この接着剤組成物に、直径10μm程度のNi粒子を56g加え攪拌した。
【0127】
上記で得られた組成物を用いた以外は実施例1と同様にして、接着フィルムを作製し、太陽電池モジュールを作製した。得られた太陽電池モジュールについて、上記と同様にして曲線因子F.F.を求めた。
【0128】
曲線因子F.F.は0.336であり、太陽電池として十分な特性が得られなかった。
【0129】
なお、比較例1においては、参考として、たとえば特許文献6〜8で示されるような圧着ツールを用いた従来の接着方法により比較例1で得られた接着フィルムを用いて以下の条件でタブ配線を行った。圧着ツール(装置名:AC−S300、日化設備エンジニアリング(株)製を用いて、180℃、2MPa、10秒の条件で接着を行い、図1に示したように太陽電池セルの表面側の電極配線(表面電極)とTAB線(配線部材)とを接着フィルムを介して接続した。その後、実施例1と同様にしてモジュール化を行った。得られた太陽電池モジュールについて、上記と同様にして曲線因子F.F.を求めたところ、曲線因子F.F.は0.682であり太陽電池として十分な特性が得られていた。
【0130】
(比較例2)
接着剤組成物にビスフェノール型結晶性エポキシ(製品名:YSLV−80XY、東都化成社製、融点80℃)を配合しなかった以外は実施例1と同様にして、太陽電池モジュールを作製した。得られた太陽電池モジュールについて、上記と同様にして曲線因子F.F.を求めた。
【0131】
曲線因子F.F.は0.464であり、太陽電池として十分な特性が得られなかった。
【0132】
(比較例3)
比較例1で得られた接着フィルムを用いて実施例5と同様にして2行2列の太陽電池モジュールを作製した。この太陽電池モジュールに対して実施例5と同様の評価を行った。
【0133】
曲線因子F.F.は0.639で太陽電池として利用可能だが、DH試験後のPmax低下率は8.1%で信頼性は不十分であった。
【0134】
以上の結果を表2に示す。
【0135】
【表2】

【符号の説明】
【0136】
1…ガラス板、2…封止材、3…表面電極、3a…バス電極(表面電極)、3b…バス電極(表面電極)、4…配線部材、5…バックシート、6…半導体ウエハ、7…グリッド電極、8…裏面電極、10…接着フィルム、20…太陽電池セル、32,34…接続部、100,200…太陽電池モジュール。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
太陽電池セルの表面電極と、配線部材とを電気的に接続するために用いられる接着フィルムであって、
結晶性エポキシ樹脂、硬化剤、及びフィルム形成材を含有してなる、太陽電池電極用接着フィルム。
【請求項2】
前記硬化剤が潜在性硬化剤である、請求項1に記載の太陽電池電極用接着フィルム。
【請求項3】
前記結晶性エポキシ樹脂が、ビスフェノール型エポキシ樹脂又はビフェニル型エポキシ樹脂である、請求項1又は2に記載の太陽電池電極用接着フィルム。
【請求項4】
前記結晶性エポキシ樹脂が、ビスフェノール型エポキシ樹脂である、請求項1又は2に記載の太陽電池電極用接着フィルム。
【請求項5】
前記ビスフェノール型エポキシ樹脂が下記式(2−1)で表される化合物である、請求項4に記載の太陽電池電極用接着フィルム。
【化1】

【請求項6】
前記フィルム形成材がフェノキシ樹脂を含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の太陽電池電極用接着フィルム。
【請求項7】
前記フィルム形成材がフェノキシ樹脂及びアクリルゴムを含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の太陽電池電極用接着フィルム。
【請求項8】
複数の太陽電池セルと、該太陽電池セル同士を電気的に接続する配線部材と、を備える太陽電池モジュールの製造方法であって、
太陽電池セルの表面電極、請求項1〜7のいずれか一項に記載の太陽電池電極用接着フィルム、及び配線部材をこの順に配し、前記表面電極と前記配線部材とを160℃以下の温度で接合する、太陽電池モジュールの製造方法。
【請求項9】
複数の太陽電池セルと、該太陽電池セル同士を電気的に接続する配線部材と、を備える太陽電池モジュールの製造方法であって、
太陽電池セルの表面電極、請求項1〜7のいずれか一項に記載の太陽電池電極用接着フィルム、及び配線部材をこの順に配し、前記表面電極と前記配線部材とを0.2MPa以下の圧力で接合する、太陽電池モジュールの製造方法。
【請求項10】
複数の太陽電池セルと、該太陽電池セル同士を電気的に接続する配線部材と、を備える太陽電池モジュールの製造方法であって、
太陽電池セルの表面電極、請求項1〜7のいずれか一項に記載の太陽電池電極用接着フィルム、及び配線部材をこの順に配し、前記表面電極と前記配線部材とを0.3MPa以下の圧力で接合する、太陽電池モジュールの製造方法。
【請求項11】
前記表面電極と前記配線部材とを160℃以下の温度で接合する、請求項9又は10に記載の太陽電池モジュールの製造方法。
【請求項12】
ラミネータにより前記太陽電池セル及び前記配線部材を封止材で封止する封止工程を備え、
前記封止工程で前記表面電極と前記配線部材とを接合する、請求項8〜11のいずれか一項に記載の太陽電池モジュールの製造方法。
【請求項13】
請求項8〜12のいずれか一項に記載の方法により得られる、太陽電池モジュール。
【請求項14】
結晶性エポキシ樹脂、硬化剤、及びフィルム形成材を含有してなる接着フィルムの、太陽電池セルの表面電極と、配線部材とを電気的に接続するための使用。
【請求項15】
前記硬化剤が潜在性硬化剤である、請求項14に記載の使用。
【請求項16】
前記結晶性エポキシ樹脂が、ビスフェノール型エポキシ樹脂又はビフェニル型エポキシ樹脂である、請求項14又は15に記載の使用。
【請求項17】
前記結晶性エポキシ樹脂が、ビスフェノール型エポキシ樹脂である、請求項14又は15に記載の使用。
【請求項18】
前記ビスフェノール型エポキシ樹脂が下記式(2−1)で表される化合物である、請求項17に記載の使用。
【化2】

【請求項19】
前記フィルム形成材がフェノキシ樹脂を含む、請求項14〜18のいずれか一項に記載の使用。
【請求項20】
前記フィルム形成材がフェノキシ樹脂及びアクリルゴムを含む、請求項14〜18のいずれか一項に記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−69913(P2012−69913A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−151932(P2011−151932)
【出願日】平成23年7月8日(2011.7.8)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】