説明

孔表面加工処理方法

【課題】被加工体に設けた孔に効率的に表面加工処理を施すことができる孔表面加工処理方法を提供しようとするものである。
【解決手段】被加工体3に穿設された主孔31の内部に、所定の水圧を有する噴射水流2を噴出して主孔31の内側面311を加工処理する方法。噴射水流2は、高圧水流21と高圧水流21を取り囲む低圧水流22とからなる二層の噴射水流2であり、キャビテーション気泡23を含む。主孔31の内部に、高圧水流21を反射する反射面61を有する流れ制御治具6を配置しておく。流れ制御治具6と主孔31の内側面311との間のクリアランスを400μm以下とする。高圧水流21を反射面61に噴出して反射させることにより、噴射水流2を主孔31の内側面311に当てる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属部材等の被加工体に設けられた孔の内側面に、キャビテーション気泡を含む高圧水流を当てて、被加工体の孔表面への圧縮応力付与、洗浄等を行う、孔表面加工処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属部材へ圧縮応力を付与したり、金属部材の加工部分に生じるバリを除去したり、金属部材の表面に付着した汚れを洗浄したりするにあたり、キャビテーション気泡を含む高圧水流を金属部材の表面に当てる方法がある。即ち、キャビテーション気泡が金属部材の表面において崩壊する際に局部的に生ずる大きな衝撃圧力によって、金属部材の表面に圧縮応力を与えるなどの加工を行うことができる。
【0003】
このような金属部材の表面加工方法のひとつとして、水中において行われる管内面のピーニング施工技術が開示されている(特許文献1)。この技術においては、水中において管内面へノズルと円錐抵抗体を挿入して、その円錐抵抗体が流路を小さくすることによって圧力上昇させ、発生したキャビテーション気泡をその抵抗体と管内面との間で崩壊させてピーニングを行っている。
【0004】
しかしながら、上記工法では液中にてキャビテーション気泡を発生させるため高圧水に伴う流れを円錐抵抗体後部へ流す必要がある。つまり、管内面と円錐抵抗体との間に、例えば1.5mm以上という充分な大きさのクリアランスが必要である。そのため、上記クリアランスから抵抗体後方へキャビテーションが流れてしまい、効率的なピーニングを行うことが困難となる。
【0005】
【特許文献1】特開平10−76467号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、かかる従来の問題点に鑑みてなされたもので、被加工体に設けた孔の内側面に効率的に表面加工処理を施すことができる孔表面加工処理方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、被加工体に穿設された孔の内部に、所定の水圧を有する噴射水流を噴出して上記孔の内側面を加工処理する方法であって、
上記噴射水流は、高圧水流と該高圧水流を取り囲む低圧水流とからなる二層の噴射水流であり、キャビテーション気泡を含み、
上記孔の内部に、上記高圧水流を反射する反射面を有する流れ制御治具を配置しておき、
上記流れ制御治具と上記孔の内側面との間のクリアランスを400μm以下として、
上記高圧水流を上記反射面に噴出して反射させることにより、上記噴射水流を上記孔の内側面に当てることを特徴とする孔表面加工処理方法にある(請求項1)。
【0008】
次に、本発明の作用効果につき説明する。
上記孔表面加工処理方法においては、高圧水流を噴出させると共にその周りを取り囲むように低圧水流を噴出させることによって発生させたキャビテーション気泡を含む噴射水流が、上記流れ制御治具の反射面において反射する。
【0009】
そして、上記流れ制御冶具と、被加工体の孔の内側面とのクリアランスを400μm以下とすることにより、キャビテーション気泡が流れ制御冶具の後方へ流出することを防止することができる。また、高圧水流が反射面に反射することによる反射面周囲における噴射水流の圧力の急激な昇圧により、キャビテーション気泡を効率的に崩壊させることができる。このとき、極めて大きな衝撃圧力が局部的に発生し、被加工体の孔の内側面に充分な大きさの圧縮応力を付与することができる。即ち、孔の内側面に効率的に圧縮応力を付与することができる。
また、孔表面にバリが生じていればこのバリを効率的に除去することができ、汚れが付着していればこの汚れを効率的に洗浄することができる。
【0010】
以上のごとく、本発明によれば、被加工体に設けた孔の内側面に効率的に表面加工処理を施すことができる孔表面加工処理方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明(請求項1)において、上記被加工体としては、例えば、金属、樹脂、セラミック等からなるものがある。
また、上記孔表面加工処理方法は、例えば、孔の内側面に圧縮応力を付与(ピーニング)したり、バリを除去したり、汚れを洗浄したりする場合に用いることができる。
【0012】
また、上記被加工体は、上記孔に交差するように該孔の内側面に開口した交差孔を設けてなり、上記流れ制御治具の上記反射面は、上記孔の軸方向に対し所定の角度を有するように傾斜してなり、上記噴射水流を上記流れ制御冶具の反射面を介して上記交差孔へ向けて反射させ、上記孔と上記交差孔との交差角部及び/又は上記交差孔の内側面に上記キャビテーション気泡を含む上記噴射水流を当てることができる(請求項2)。
この場合には、上記噴射水流を上記交差孔に効率的に導くと共に、交差角部や交差孔の内側面において、効率的にキャビテーション気泡を崩壊させることができる。それ故、交差角部や交差孔の内側面に対し、効率的に孔表面加工処理を行うことができる。
【0013】
また、上記交差孔は、上記交差角部とは反対側において上記被加工体の表面に開口した開口部を有し、該開口部から流出する上記噴射水流の流量を制御する流量制御手段により上記開口部からの上記噴射水流の流出量を調整することが好ましい(請求項3)。
この場合には、交差孔に流入する噴射水流の流量を調整することが可能となり、交差孔の表面加工処理を行うのに最適な状態で、キャビテーション気泡を交差孔において崩壊させることが可能となる。
【0014】
また、上記交差孔は、上記交差角部とは反対側において上記被加工体の表面に開口した開口部を有し、該開口部には該開口部を閉塞する閉塞手段を配置することもできる(請求項4)。
この場合には、上記交差孔の内部およびその付近において、噴射水流の淀み領域がより形成されやすくなる。そのため、上記交差孔に導かれたキャビテーション気泡が、上記交差角部や交差孔の内側面付近において充分に崩壊し、交差孔の表面加工処理を効率的に行うことができる。
【0015】
また、上記高圧水流を噴出する第1噴出口と、該第1噴出口を取り囲み上記低圧水流を噴出する第2噴出口とを有する二層ノズルを、水中に配置し、該二層ノズルから上記噴射水流を気中へ向かって噴出することが好ましい(請求項5)。
この場合には、噴射水流の中にキャビテーション気泡を早い段階において発生させる、即ち上記二層ノズルのノズル先端に近い位置においてキャビテーション崩壊エネルギを発生させることができる。そのため、被加工体と二層ノズルとの間の距離を小さくしても、充分にキャビテーション気泡による孔表面加工処理を行うことができる。その結果、所望の位置に効率的な孔表面加工処理を行うことができる。
【0016】
また、上記高圧水流を噴出する第1噴出口と該第1噴出口を取り囲み、上記低圧水流を噴出する第2噴出口とを有する二層ノズルから、上記噴射水流を噴出し、上記第1噴射口は、該第1噴射口のノズル先端を上記孔の内部に挿入した状態で上記高圧水流を噴出することもできる(請求項6)。
この場合には、孔の内部に配置した流れ制御治具の反射面に対して、高圧水流の圧力を低下させることなく、照射し反射させることができる。そのため、効率的な孔表面加工処理を行うことができる。
【実施例】
【0017】
(実施例1)
本発明の実施例にかかる金属孔表面加工処理方法につき、図1〜図3を用いて説明する。
本例の孔表面加工処理方法は、図1、図2に示すごとく、被加工体3の表面に開口した主孔31の内側面311に対して、表面加工処理を行う方法である。
【0018】
即ち、まず、上記主孔31の内部に、該主孔31の軸Z方向に対して90°の角度をもった反射面61を有する流れ制御治具6を配置しておく。そして、キャビテーション気泡23を含む噴射水流2を、主孔31に導入すると共に流れ制御治具6の反射面61を介して反射させる。噴射水流2は、高圧水流21と該高圧水流21を取り囲む低圧水流22とからなる。
また、流れ制御冶具6は、例えばSUS303、SUS304、樹脂、SCM等からなる。
図2に示すごとく、流れ制御治具6と主孔31の内側面311との間のクリアランスcは、400μm以下である。なお、本例においては、クリアランスcは5μmとした。
【0019】
上記被加工体3は、アルミニウムからなり、上記主孔31を穴明け加工してなる。尚、被加工体3は、アルミニウムに限らず、例えば、SCM415、SUS303、SUS304等によって構成することも可能であり、その他、樹脂、セラミック等からなる被加工体にも本加工方法を適用できる。
主孔31は、内径9mmの円筒形状を有し、一方の開口部312は被加工体3の表面に直接開口し、他方の開口部313は凹部314を介して被加工体3の表面に開口している。
【0020】
また、上記噴射水流2を上記被加工体3に噴射するに当たっては、図1に示すごとく、水中に配置した二層ノズル1から気中に配置した被加工体3に向かって噴射水流2を噴出する。
即ち、図1に示すごとく、第1噴出口11と該第1噴出口11を取り囲む第2噴出口12とを有する二層ノズル1を水中に配置する。
【0021】
上記第1噴出口11から高圧水流21を気中へ向かって噴出すると共に、上記第2噴出口12から上記高圧水流21よりも低圧の低圧水流22を気中へ向かって噴出する。
上記高圧水流21と該高圧水流21を取り囲む上記低圧水流22とからなる噴射水流2は、キャビテーション気泡23を含む。
上記噴射水流2を、気中に配置した被加工体3の主孔31に導入すると共に上記流れ制御治具6の反射面61へ向けて噴射する。
【0022】
上記二層ノズル1は、第1噴出口11に繋がる高圧水ノズル131と、第2噴出口12に繋がる低圧水ノズル132とを有する。該低圧水ノズル132は、上記高圧水ノズル131を囲むように同軸状に配置されている。高圧水ノズル131は、第1噴出口11にオリフィス133を設けてなる。また、オリフィス133の外側部分には、先端へ向かうほど縮径する第1テーパ部134が形成されている。
【0023】
また、低圧水ノズル132は、上記第1テーパ部134の外側部分において、先端へ向かうほど縮径する第2テーパ部135が形成されている。
上記高圧水ノズル131には高圧水210が供給され、低圧水ノズル132には低圧水220が供給される。高圧水210の供給圧力は例えば10〜50MPaであり、低圧水220の供給圧力は例えば0.05〜0.1MPaである。
【0024】
上記二層ノズル1は、同軸状に配置したが、低圧水ノズル132を高圧水ノズル131に対し偏心させることにより、部分的に加工能力を上げることも可能である。これにより低圧流路を大きく設けた側にキャビテーション気泡を集中できる。すなわち加工能力を上げたい側の低圧流路を大きくするように偏心させることにより、より効果的に表面加工を行うことが可能となる。
【0025】
また、上記二層ノズル1は、水槽41に貯留された貯留水42の中に配置されている。そして、第1噴出口11及び第2噴出口12は鉛直上方を向いており、貯留水42の中、即ち水面421の下方に位置している。
具体的には、二層ノズル1のノズル先端14と水面421との距離dが15mm以下となる位置に、二層ノズル1を配置している。
【0026】
このような配置、構成により、二層の噴射水流2の中にキャビテーション気泡23を早い段階において発生させる、すなわち二層ノズル1のノズル先端14に近い位置においてキャビテーション崩壊エネルギを発生させることができる。そのため、被加工体3と二層ノズル1との間の距離を小さくしても、充分にキャビテーション気泡による孔表面加工処理を行うことができる。
【0027】
その結果、狭い空間において、被加工体3の孔表面加工処理を行うことが可能となる。また、二層ノズル1からの距離が近く、流れの安定した二層の噴射水流2を反射面61を介して被加工体3の主孔31の内側面311に当てることができるため、所望の位置に集中して噴射水流2を当てることができる。そのため、必要な部分に効率的に孔表面加工処理を行うことができる。
また、二層ノズル1のノズル先端14と水面421との距離dが15mm以下であるため、噴射水流2が流れ制御治具6の反射面61に衝突する際の衝撃力を充分に確保することができ、被加工体3の孔表面加工処理を充分に行うことができる。
【0028】
また、図3は、噴射水流2を発生させるための装置全体を示す図であり、二層ノズル1の高圧水ノズル131には高圧ポンプ53から高圧水210が供給され、低圧水ノズル132には低圧ポンプ54から低圧水220が供給される。高圧ポンプ53及び低圧ポンプ54は、上記水槽41とは異なる給水槽51に貯留された供給用水52の中に配置されている。そして、この供給用水52を高圧ポンプ53及び低圧ポンプ54によって、それぞれ高圧水210及び低圧水220として、二層ノズル1に供給している。
高圧水ノズル131に供給された高圧水210は、第1噴出口11から高圧水流21として噴射される。また、低圧水ノズル132に供給された低圧水220は、第2噴出口12から低圧水流22として噴射される。
【0029】
次に、本例の作用効果につき説明する。
上記孔表面加工処理方法においては、高圧水流21を噴出させると共にその周りを取り囲むように低圧水流22を噴出させることによって発生させたキャビテーション気泡23を含む噴射水流2が、上記流れ制御治具6の反射面61において反射する。
【0030】
そして、上記流れ制御冶具6と、被加工体3の主孔31の内側面311とのクリアランスc(図2)を400μm以下とすることにより、キャビテーション気泡23が流れ制御冶具6の後方へ流出することを防止することができる。また、高圧水流21が反射面61に反射することによる反射面周囲における噴射水流2の圧力の急激な昇圧により、キャビテーション気泡23を効率的に崩壊させることができる。このとき、極めて大きな衝撃圧力が局部的に発生し、被加工体3の主孔31の内側面に充分な大きさの圧縮応力を付与することができる。即ち、主孔31の内側面311に効率的に圧縮応力を付与することができる。
また、孔表面にバリが生じていればこのバリを効率的に除去することができ、汚れが付着していればこの汚れを効率的に洗浄することができる。
【0031】
以上のごとく、本例によれば、被加工体に設けた孔の内側面に効率的に表面加工処理を施すことができる孔表面加工処理方法を提供することができる。
【0032】
(実施例2)
本例は、図4、5に示すごとく、被加工体3の表面に開口した主孔31に交差するように該主孔31の内側面311に開口した交差孔32に対して表面加工処理を行う方法である。以下、記述しない構成については、実施例1の構成と同様である。
即ち、まず、上記主孔31の内部に、該主孔31の軸Z方向に対して90〜30°の角度θをもって上記交差孔32側へ傾斜した反射面61を有する流れ制御治具6を配置しておく。なお、本例においては、上記角度θは60°とした。
【0033】
そして、キャビテーション気泡23を含む噴射水流2を、被加工体3における主孔31に導入すると共に流れ制御治具6の反射面61を介して交差孔32へ向けて反射させ、主孔31と交差孔32との間の交差角部33及び交差孔32の内側面321に当てる。
流れ制御治具6は、反射面61の中心611が交差孔32の中心329に対して1.2〜2.0mm上方(主孔31の軸Z方向の上方)となるように配置する。
【0034】
また、図4、図5に示すごとく、交差孔32は、交差角部33とは反対側において被加工体3の表面に開口した開口部322を有し、噴射水流2を交差孔32に当てる。その際、開口部322に流量制御手段としてのリーク制御治具60を配置することにより、交差孔32の開口部322からの水流のリークを制御する。
上記流れ制御治具6及び上記リーク制御治具60は、SUS、樹脂、SCM等からなる。
上記被加工体3は、アルミニウムからなり、上記主孔31及び交差孔32を穴明け加工してなる。この穴明け加工により、特に交差孔32の交差角部33にバリが生ずることがある。このバリは、本発明の孔表面加工処理方法により除去される。
【0035】
このような構成により、所定の角度で傾斜した反射面61に照射された噴射水流2は、交差孔32へ向けて反射され、主孔31と交差孔32との間の交差角部33及び交差孔32の内側面321および内側面311に当たる。このとき、交差孔32に流入した噴射水流2は、リーク制御冶具60により開口部322から流出する噴射水流2の流量が調整される。これにより、交差孔32内における噴射水流2の流速が適度に制御され、所望のキャビテーション気泡23の崩壊を生じさせることが可能となり、交差孔32に対し、適度な表面処理加工を施すことが可能となる。
その他、実施例1と同様の作用効果を有する。
【0036】
また、上記リーク制御治具60の代わりに、上記交差孔32の開口部322の全体を閉塞する閉塞治具を配置することもできる。
この場合には、上記交差孔32の内部およびその付近において、噴射水流2の淀み領域がより形成されやすくなる。そのため、上記交差孔32に導かれたキャビテーション気泡23が、上記交差角部33や交差孔32の内側面321付近において充分に崩壊し、交差孔32の孔表面加工処理を効率的に行うことができる。
【0037】
(実施例3)
本例は、図6に示すように、主孔31が細長く、加工部位315が主孔開口部313から大きく離れている場合の孔表面加工処理方法に関する。
本例においては、高圧水ノズル131の外径を主孔31の内径よりも小さい径とすると共に、高圧水ノズル131の先端141を低圧水ノズル132の先端142よりも突出させている。そして、その高圧水ノズル131の先端141が加工部位315、すなわち流れ制御冶具6の反射面61の近傍まで延設される構成としている。
その他は、実施例1と同様である。
【0038】
このような構成とすることにより、高圧水ノズル131から噴出する高圧水流21の圧力を低下させることなく反射面61に照射すると共に反射させ、効率のよい孔表面加工処理を実現することが可能となる。
その他、実施例1と同様の作用効果を有する。
【0039】
(実施例4)
本例は、図7に示すごとく、交差孔32を有する被加工体の加工方法において、実施例2におけるリーク制御治具60(図4、図5参照)を取り除いた例である。
その他は、実施例2と同様である。
本例のように、リーク制御治具60が配設されず、開口部322が開放されている場合には、交差孔32に導かれた噴射水流2は開口部322から外部へ流れていく。この場合においても、一定のキャビテーション気泡23を発生させ、交差孔32の内側面321や交差角部33の表面加工を行うことは可能である。
その他、実施例2と同様の作用効果を有する。
【0040】
なお、上記実施例1〜4において、被加工体3又は被加工体3を保持する保持治具に、噴射水流2が被加工体3へ与えた衝撃エネルギーを検知することができる衝撃センサを配設することもできる(図示略)。そして、該衝撃センサにより検知した衝撃エネルギーの積算値に基づき、加工時間を制御する。
【0041】
例えば、噴射水流2が被加工体3へ与えた衝撃エネルギーの積算値と、孔表面加工処理の進行状況との関係を、予め、実験やシミュレーション等の手段により把握しておく。そして、衝撃センサにより検知した衝撃エネルギーの積算値が、所定の値に到達した時点で、加工を終える。
なお、上記衝撃センサとしては、圧電フィルムセンサを用いることができる。
この場合には、被加工体3に適切な孔表面加工処理を容易かつ効率的に行うことができる。
【0042】
(比較例)
本例は、図8に示すごとく、流れ制御治具6の反射面61と主孔31の軸Z方向とのなす角度θを45°とすると共に、流れ制御治具6と主孔31の内側面311とのクリアランスcを1.5mmとした例である。
その他は、実施例1と同様である。
【0043】
本例の場合には、実施例2に比べて、交差角部33におけるバリを充分に除去することが困難となる。また、交差孔32の内側面321に対する圧縮応力の付与や洗浄の効果が低下する。
これは、クリアランスcが1.5mmとなり、400μm以下という適切なクリアランスの範囲を超えることにより、キャビテーション気泡23を効率的に交差孔32に導くことが困難となり、交差角部33や交差孔32の内側面321において、効率的にキャビテーション気泡23を崩壊させることが困難となる。即ち、上記クリアランス範囲を外れることにより、交差孔32付近において、流速の低い、いわゆる淀み領域が形成され難くなるため、キャビテーション気泡23が後方へ流出してしまいキャビテーション気泡23が崩壊し難くなる。これにより、効率的に交差孔32の孔表面加工処理を行うことが困難となる。
【0044】
(実験例1)
本例は、上記実施例において示した孔表面加工処理方法を用いた場合の加工処理効率を評価した例である。
高圧水210の圧力を30MPa、低圧水220の圧力を0.06MPaとして、連続60秒間被加工体3に対して噴射水流2を当てた。また、本発明の方法においては、ノズル先端14と水面421との距離dを2mm、ノズル先端14と流れ制御治具6の反射面61との距離を50mmとした。
また、交差孔32の内側面321には、塗料を塗布しておいた。
【0045】
そして、実施例2、4、及び比較例の方法によって加工処理を施した後において、交差角部33における壊食状態、交差孔32の内側面321における塗料の剥離状態を確認した。
この壊食状態及び剥離状態を、加工処理能力として評価した。即ち、壊食量や剥離量が大きいほど、キャビテーション気泡23を含む噴射水流2による加工エネルギーが高く、加工処理能力が高いといえる。
試験の結果を表1に示す。
【0046】
【表1】

【0047】
表1から分かるように、実施例2の場合には、交差角部33の壊食も、交差孔32の塗料の剥離も起こり、充分な加工処理能力がある。
また、実施例4の場合には、交差角部33の壊食は起こるが、交差孔32への加工処理能力は不充分である。
また、比較例の場合には、交差角部33の壊食も、交差孔32の塗料の剥離も起こらず、実施例2に対して加工処理能力に劣る。
以上により、本発明、特に実施例2の方法によれば、交差孔32に効率的に孔表面加工処理を施すことができることが分かる。
【0048】
(実験例2)
本例においては、図8に示すごとく、流れ制御治具6と被加工体3の主孔31の内側面311との間のクリアランスcの大きさと、壊食量との関係を調べた。
即ち、実施例1に示す孔表面加工処理方法において、高圧水210の圧力を30MPa、低圧水220の圧力を0.06MPaとして、連続60秒間被加工体3の主孔31の内側面311に対して噴射水流2を、流れ制御治具6を介して当てた。また、ノズル先端14と水面421との距離dを2mm、ノズル先端14と流れ制御治具6の反射面61との距離を50mmとした。
【0049】
そして、流れ制御治具6の外径を種々変化させることにより上記クリアランスcを種々変化させて、上記の孔表面加工処理を行い、それぞれの場合の壊食量を測定した。
測定結果を図8に示す。
同図より分かるように、クリアランスcが小さくなるほど、壊食量が大きくなる。
【0050】
そして、クリアランスcが400μm以下であると、壊食量が5mg以上となり、実質的な圧縮応力の付与、汚れの付着洗浄、バリ取り除去が可能となる。また、上記クリアランスcが400μmを超えて大きくなると、上記噴射水流2を効率的に主孔31に導くことが困難となるおそれがある。そして、上記クリアランスcが1.5mmとなると、壊食量が2mg未満となり、孔表面加工処理を充分に行うことが困難となるおそれがある。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】実施例1における、孔表面加工処理方法を示す断面説明図。
【図2】実施例1における、流れ制御治具を配置した被加工体の断面説明図。
【図3】実施例1における、噴射水流を発生させるための装置を示す全体説明図。
【図4】実施例2における、孔表面加工処理方法を示す断面説明図。
【図5】実施例2における、流れ制御冶具を配置した被加工体の断面説明図。
【図6】実施例3における、孔表面加工処理方法を示す断面説明図。
【図7】実施例4における、流れ制御治具を配置した被加工体の断面説明図。
【図8】比較例における、流れ制御治具を配置した被加工体の断面説明図。
【図9】実験例2における、クリアランスと壊食量との関係を示す線図。
【符号の説明】
【0052】
1 二層ノズル
2 噴射水流
21 高圧水流
22 低圧水流
23 キャビテーション気泡
3 被加工体
31 主孔
311 内側面
32 交差孔
321 内側面
33 交差角部
6 流れ制御治具
60 リーク制御治具
61 反射面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工体に穿設された孔の内部に、所定の水圧を有する噴射水流を噴出して上記孔の内側面を加工処理する方法であって、
上記噴射水流は、高圧水流と該高圧水流を取り囲む低圧水流とからなる二層の噴射水流であり、キャビテーション気泡を含み、
上記孔の内部に、上記高圧水流を反射する反射面を有する流れ制御治具を配置しておき、
上記流れ制御治具と上記孔の内側面との間のクリアランスを400μm以下として、
上記高圧水流を上記反射面に噴出して反射させることにより、上記噴射水流を上記孔の内側面に当てることを特徴とする孔表面加工処理方法。
【請求項2】
請求項1において、上記被加工体は、上記孔に交差するように該孔の内側面に開口した交差孔を設けてなり、上記流れ制御治具の上記反射面は、上記孔の軸方向に対し所定の角度を有するように傾斜してなり、上記噴射水流を上記流れ制御冶具の反射面を介して上記交差孔へ向けて反射させ、上記孔と上記交差孔との交差角部及び/又は上記交差孔の内側面に上記キャビテーション気泡を含む上記噴射水流を当てることを特徴とする孔表面加工処理方法。
【請求項3】
請求項2において、上記交差孔は、上記交差角部とは反対側において上記被加工体の表面に開口した開口部を有し、該開口部から流出する上記噴射水流の流量を制御する流量制御手段により上記開口部からの上記噴射水流の流出量を調整することを特徴とする孔表面加工処理方法。
【請求項4】
請求項2において、上記交差孔は、上記交差角部とは反対側において上記被加工体の表面に開口した開口部を有し、該開口部には該開口部を閉塞する閉塞手段を配置することを特徴とする孔表面加工処理方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項において、上記高圧水流を噴出する第1噴出口と、該第1噴出口を取り囲み上記低圧水流を噴出する第2噴出口とを有する二層ノズルを、水中に配置し、該二層ノズルから上記噴射水流を気中へ向かって噴出することを特徴とする孔表面加工処理方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項において、上記高圧水流を噴出する第1噴出口と該第1噴出口を取り囲み、上記低圧水流を噴出する第2噴出口とを有する二層ノズルから、上記噴射水流を噴出し、上記第1噴射口は、該第1噴射口のノズル先端を上記孔の内部に挿入した状態で上記高圧水流を噴出することを特徴とする孔表面加工処理方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2007−50492(P2007−50492A)
【公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−238868(P2005−238868)
【出願日】平成17年8月19日(2005.8.19)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】