説明

孔開け加工装置

【課題】気化ガス及び微粉末がワークの内壁に付着することを低減させることができる孔開け加工装置を提供することを課題とする。
【解決手段】ワーク12に挿入される挿入部材33の先端に一体的に形成されると共に空洞部16に挿入され貫通孔18を貫通したレーザ光44を受ける芯体35と、この芯体35に設けられ貫通孔18を形成する際に生じる気化ガスを導く連通孔41と、この連通孔41に導かれた気化ガスをワーク12の基端側に吸引するに示す吸引手段と、を備える。
【効果】気化ガスや微粉末は連通孔を通って吸引手段により吸引される。従って、本発明によれば、気化ガス及び微粉末がワークの内壁に付着することを低減させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空洞部を有するワーク先端部の壁部にレーザ光を照射することで壁部に貫通孔を開ける孔開け加工装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ワークに細孔を開ける孔開け加工装置として、レーザ光で細い貫通孔を開ける技術が知られている(例えば、特許文献1(図1)参照。)。
【0003】
図8に示されるように、孔開け加工装置100は、空洞部101を有するワーク102の先端部103に配置されレーザ光を受けるジルコニア製ボール104と、このジルコニア製ボール104を支持するプローブ105と、このプローブ105を介してジルコニア製ボール104を回転移動又は上下移動させる超音波振動子106と、を備えている。
【0004】
ワーク102の先端部103の壁部107にレーザ光108を照射することで、壁部107が貫通孔109が開けられる。貫通孔109を通過したレーザ光108はジルコニア製ボール104に当たるので、レーザ光108により貫通孔109の反対側の内壁110を保護することができる。
【0005】
ところで、レーザ光108により貫通孔109を形成する際に気化ガスが生じ、レーザ光108がジルコニア製ボール104に当たることで微粉末が生じる。これらの気化ガス及び微粉末は、空洞部101から外部へ吸引排出される。
しかし、ジルコニア製ボール104と内壁110との接触点111付近は狭いため、気化ガス及び微粉末が内壁110に付着する虞がある。すなわち、気化ガス及び微粉末がワーク102の内壁110に付着するのを低減することができる孔開け加工装置が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−28777公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、気化ガス及び微粉末がワークの内壁に付着することを低減させることができる孔開け加工装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に係る発明は、空洞部を有するワーク先端部の壁部に外方からレーザ光を照射することで前記壁部に貫通孔を開ける孔開け加工装置において、前記ワークに挿入される挿入部材の先端に設けられ、前記空洞部に挿入され前記貫通孔を貫通した前記レーザ光を受ける芯体と、この芯体に設けられ前記貫通孔を形成する際に生じる気化ガスを導く連通孔と、この連通孔に導かれた前記気化ガスを前記ワークの基端側に吸引する吸引手段と、を備えることを特徴とする。
【0009】
請求項2に係る発明は、連通孔の前部が、レーザ光が貫通孔を通過して照射される位置に配置されていることを特徴とする。
【0010】
請求項3に係る発明では、連通孔の前部は、先端側が拡径され、基端側が縮径されていることを特徴とする。
【0011】
請求項4に係る発明は、挿入部材を振動させて、芯体の位置を、空洞部内で相対的に移動させる移動手段を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る発明では、レーザ光を遮断する芯体に、気化ガスなどを導く連通孔を開けた。
気化ガスや微粉末は連通孔を通って吸引手段により吸引される。
従って、本発明によれば、気化ガス及び微粉末がワークの内壁に付着することを低減させることができる。
【0013】
請求項2に係る発明では、連通孔の前部が、レーザ光が貫通孔を通過して照射される位置に配置されている。貫通孔を通過したレーザ光が芯体の連通孔に照射されるので、ワークの貫通孔に対向する内壁にレーザ光が照射されることを防ぎ、内壁を保護することができる。
加えて、貫通孔を通過したレーザ光が芯体に照射されると、芯体が崩壊して微粉末が発生するが、微粉末は連通孔を介してワークの基端側へ吸引されるので、微粉末が空洞部の内壁に付着するのを一層低減させることができる。
【0014】
請求項3に係る発明では、連通孔の前部は、先端側が拡径され、基端側が縮径されている。連通孔の前部は、先端側が拡径されているので、レーザ光を受ける面の面積を広くすることができ、レーザ光が連通孔に照射される確率を高くすることができる。
加えて、連通孔は基端側が縮径され、吸引方向に向かって先細りになるので、流速が速くなり吸引力を向上させることができ、微粉末をより確実に除去することができる。
【0015】
請求項4に係る発明では、挿入部材を振動させて、芯体の位置を、空洞部内で相対的に移動させる移動手段を備えている。芯体は回転移動等するので、レーザ光が芯体の同一部位に入射し続けることがなく、レーザ光を受ける位置を移動させることができる。結果、レーザ光が芯体を通過してワークの内壁に到達するのを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】ワークの説明図である。
【図2】ワーク先端部の説明図である。
【図3】本発明に係る孔開け加工装置の基本構成を説明する図である。
【図4】孔開け加工装置の要部の斜視図である。
【図5】孔開け加工装置の要部の断面図である。
【図6】孔開け加工装置にワークをセットした状態を説明する図である。
【図7】孔開け加工装置の作用図である。
【図8】従来の技術の基本原理を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、図面は符号の向きに見るものとする。
【実施例】
【0018】
本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
図1に示されるように、燃料噴射弁10は、ノズルホルダ11と、このノズルホルダ11の先端部に保持され燃料を噴射するワークとしてのノズル12と、ノズルホルダ11の中程に設けられ燃料を吸入する吸入口13とからなる。
【0019】
次にノズル12の要部について説明する。
図2に示されるように、ノズル12の先端部14は、ホール型を呈し、ノズル本体15と、このノズル本体15の空洞部16に挿入され燃料流路を開閉するノズルニードル17とからなる。
ノズル本体15には、突出する先端部14に燃料を噴射する複数の噴口としての貫通孔18が開けられている。これらの貫通孔18が、本発明の孔開け加工装置によって開けられる。
【0020】
次に孔開け加工装置全体について説明する。
図3に示されるように、孔開け加工装置20は、レーザ発振器21と、このレーザ発振器21の下部に設けられてレーザ光を発射する加工ヘッド22と、この加工ヘッド22の下方に配置されたワーク保持機構23とからなる。
【0021】
ワーク保持機構23は、ベースとなる保持ベース24と、この保持ベース24に設けられワーク12を保持するワーク保持部25と、ワーク保持部25に設けられワーク12とワーク保持部25の隙間をシールするシール部材26と、ワーク保持部25に設けられワーク12の位置を決める位置決めピン27とを備える。
【0022】
また、ワーク保持部25にワーク12の空洞部16に通じる吸引通路28が設けられ、この吸引通路28の途中にワーク保持機構23の内部に形成された中空部31が連通する。これら空洞部16、吸引通路28及び中空部31は、レーザ加工中に発生する気化ガス(金属蒸気やイオン化した気体)を吸引するための通路を構成する部分である。
【0023】
吸引通路28の出口側端部に気化ガスを吸引する吸引手段32が設けられている。中空部31にワーク12へ挿入される挿入部材33を回転及び振動させる移動手段34が設けられている。挿入部材33は、ワーク12の空洞部16に挿入するため、ワーク保持部25より出っ張るように延出されている。
【0024】
次に挿入部材33の先端部分について説明する。
図4に示されるように、ワーク(図3、符号12)に挿入される挿入部材33の先端にレーザ光を受ける芯体35が形成されている。芯体35はワーク12の空洞部(図3、符号16)の先端部に挿入される。芯体35の材質は、耐熱性にすぐれたジルコニアが好ましい。
【0025】
芯体35は、挿入部材33の軸上に延びる円筒部36と、この円筒部36の端部から先端に向かって小径になるテーパ部37とからなる。また、芯体35は、レーザ加工中に発生する気化ガス等を導く連通孔41を有し、気化ガスは連通孔41の前部42から入り後部43から排出される(詳細後述)。
【0026】
次に孔開け加工装置20の要部について説明する。
図5に示されるように、芯体35はワーク12の先端部14付近まで挿入されている。連通孔41の前部42は、レーザ光44がワーク12の貫通孔18を通過して照射される位置に配置されている。連通孔41の前部42は、先端45側が基端46側より拡径されている。先端45側が拡径されているので、レーザ光44を受ける面積を広くすることができ、レーザ光44を連通孔41に当てる確率を高くすることができる。
【0027】
また、芯体35は挿入部材33を介して移動手段(図3、符号34)により回転移動及び振動させられ、芯体35の位置は空洞部16内で相対的に移動する。連通孔41におけるレーザ光44の照射される位置を変えることで、芯体35の寿命を長くすることができ、レーザ光44が芯体35を通過してワーク12の貫通孔18の反対側の内壁に照射されるのを防ぐことができる。
【0028】
なお、実施例では、芯体35の材質はジルコニアとしたが、これに限定されず、セラミック等、レーザ光により溶融しない素材又は溶融し難い材質であれば、他の材料であっても差し支えない。
【0029】
以上の構成からなる孔開け加工装置20の作用を次に述べる。
図6に示されるように、ワーク12をワーク保持機構23にセットする。レーザ光44をワーク12の先端部14の壁部47に照射することで、壁部47に貫通孔(詳細後述)が開けられる。レーザ光の条件は、周波数を3kHz、エネルギーを2mJ、レーザ光の回転速度を毎分3000回転(毎秒50回転)、照射時間を30秒とするのが好ましい。
一方、ワーク12の空洞部16は、吸引通路28を介して吸引手段32により吸引される。
【0030】
次に孔開け加工装置20の要部の作用を述べる。
図7に示されるように、レーザ光44をワーク12の壁部47に照射することで、壁部47に貫通孔18が開けられ、気化ガス(ワーク12が熱で蒸発して出来た金属蒸気やイオン化した混合気体)が発生する。貫通孔18を通過したレーザ光44は、矢印(1)のように芯体35の連通孔41に照射される。このとき、芯体35は溶融せずに、砕かれて微粉末が生じる。
【0031】
吸引手段(図6、符号32)により、空洞部16は吸引されているので、気化ガス及び微粉末は、矢印(2)のように連通孔41に吸引される。そして、気化ガス及び微粉末は、連通孔41の後部43から矢印(3)のように吸引排出される。
【0032】
ここで、芯体35のテーパ部37と、ワーク12の内壁48の隙間の距離はL1であり、非常に狭い。芯体35の円筒部36と、ワーク12の内壁48との距離はL2であり、比較的広い。連通孔41に吸引された気化ガス及び微粉末は、空洞部16内の比較的広い部分に排出されるので、内壁48に付着することなく外部へ吸引排出することができる。
【0033】
なお、実施例では、レーザ光の条件は、周波数を3kHz、エネルギーを2mJ、レーザ光の回転速度を毎分3000回転(毎秒50回転)、照射時間を30秒としたが、これに限定されず、貫通孔18が開けられれば、レーザ光は他の条件であってもよい。
【0034】
以上に述べた孔開け加工装置20の作用効果をまとめて以下に記載する。
上記の図5に示されるように、空洞部16を有するワーク12先端部14の壁部47に外方からレーザ光44を照射することで壁部47に貫通孔18を開ける孔開け加工装置20において、ワーク12に挿入される挿入部材33の先端に一体的に、形成されると共に空洞部16に挿入され貫通孔18を貫通したレーザ光44を受ける芯体35と、この芯体35に設けられ貫通孔18を形成する際に生じる気化ガスを導く連通孔41と、この連通孔41に導かれた気化ガスをワーク12の基端側に吸引する図3に示す吸引手段32と、を備える。
なお、挿入部材33の材質は、必要な剛性や強度等を備えていれば、何でもよい。すなわち、一体的に芯体35が形成されていればよく、芯体35と挿入部材33とが同部材で一体的に構成されてもよく、また例えば、挿入部材33の材質が鋼で、芯体35の材質がジルコニアで形成されて異材質であってもよい。芯体35と挿入部材33とが異材質の場合には、芯体35と挿入部材33とが図示しないボルトで締結されていてもよいし、ロウ付けや吸引力等その他の固定手段で挿入部材33に芯体35が固定されていればよい。
【0035】
この構成により、気化ガスや微粉末は連通孔41を通って吸引手段32により吸引される。
従って、本発明によれば、気化ガス及び微粉末がワーク12の内壁48に付着することを低減させることができる。
【0036】
上記の図5に示されるように、連通孔41の前部42が、レーザ光44が貫通孔18を通過して照射される位置に配置されている。
この構成により、貫通孔18を通過したレーザ光44が芯体35の連通孔41に照射されるので、ワーク12の貫通孔18に対向する内壁48にレーザ光44が照射されることを防ぎ、内壁48を保護することができる。
【0037】
加えて、貫通孔18を通過したレーザ光44が芯体35に照射されると、芯体35が崩壊して微粉末が発生するが、微粉末は連通孔41を介してワーク12の基端側へ吸引されるので、微粉末が空洞部16の内壁48に付着するのを一層低減させることができる。
【0038】
上記の図5に示されるように、連通孔41の前部42は、先端45側が拡径され、基端46側が縮径されている。
この構成により、連通孔41の前部は、先端45側が拡径されているので、レーザ光44を受ける面51の面積を広くすることができ、レーザ光44が連通孔41に照射される確率を高くすることができる。
【0039】
加えて、連通孔41は基端46側が縮径され、吸引方向に向かって先細りになるので、流速が速くなり吸引力を向上させることができ、微粉末をより確実に除去することができる。
【0040】
上記の図3に示されるように、挿入部材33を振動させて、芯体35の位置を、空洞部16内で相対的に移動させる移動手段34を備えている。
この構成により、芯体35は回転移動等するので、図5に示すレーザ光44が芯体35の同一部位に入射し続けることがなく、レーザ光44を受ける位置を移動させることができる。結果、レーザ光44が芯体35を通過してワーク12の内壁48に到達するのを防止することができる。
【0041】
尚、本発明の孔開け加工装置は、実施の形態では燃料噴射弁のノズルの孔開けに適用したが、細穴を加工する部材であれば、一般の機械部品に適用することは差し支えない。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の孔開け加工装置は、燃料噴射弁のノズルの細孔加工に好適である。
【符号の説明】
【0043】
12…ワーク(ノズル)、16…空洞部、18…貫通孔、20…孔開け加工装置、32…吸引手段、33…挿入部材、34…移動手段、35…芯体、41…連通孔、42…前部、44…レーザ光、45…先端、46…基端、47…壁部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空洞部を有するワーク先端部の壁部に外方からレーザ光を照射することで前記壁部に貫通孔を開ける孔開け加工装置において、
前記ワークに挿入される挿入部材の先端に設けられ、前記空洞部に挿入され前記貫通孔を貫通した前記レーザ光を受ける芯体と、
この芯体に設けられ前記貫通孔を形成する際に生じる気化ガスを導く連通孔と、
この連通孔に導かれた前記気化ガスを前記ワークの基端側に吸引する吸引手段と、を備えることを特徴とする孔開け加工装置。
【請求項2】
前記連通孔の前部が、前記レーザ光が前記貫通孔を通過して照射される位置に配置されていることを特徴とする請求項1記載の孔開け加工装置。
【請求項3】
前記連通孔の前部は、先端側が拡径され、基端側が縮径されていることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の孔開け加工装置。
【請求項4】
前記挿入部材を振動させて、前記芯体の位置を、前記空洞部内で相対的に移動させる移動手段を備えていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の孔開け加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−106261(P2012−106261A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−257159(P2010−257159)
【出願日】平成22年11月17日(2010.11.17)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】