説明

官能化フルオロモノマーの水性乳化重合

【課題】燃料電池などの電解槽のポリマー膜の製造に有用なスルホン酸官能性ポリマーの提供。
【解決手段】1)式I:
2C=CF−R1−SO2X(I)
[上式中、R1は、1〜15個の炭素原子と0〜4個の酸素原子とを含む分岐または非分岐のペルフルオロアルキル基、ペルフルオロアルコキシ基またはペルフルオロエーテル基であり、XはF、ClまたはBrである]のフルオロモノマーを0.001〜0.9モル当量の塩基と一緒に、添加された乳化剤の非存在下で混合することによって水性プレエマルションを形成する工程と、2)前記プレエマルションを1つ以上の過フッ素化コモノマーと、添加された乳化剤の非存在下で反応させて、1モル%より多いモノマー単位が前記式Iのフルオロモノマーから誘導されるフルオロポリマーを含むフルオロポリマーラテックスを形成する工程と、を含む、2つ以上のフルオロモノマーの水性乳化共重合のための方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池または他のこのような電解槽のポリマー膜の製造に有用であるスルホン酸官能性ポリマーを形成するための特定の官能化フルオロモノマーの水性乳化重合に関する。特に、本発明は、テトラフルオロエチレンなどのフッ素化オレフィンと官能化フルオロモノマーとのコポリマーであるフルオロポリマーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スルホン酸官能基を有する特定のフルオロポリマーは、燃料電池などの電解槽のためのポリマー電解質膜の製造に有用である。例には、ナフィオン(NAFION)(登録商標)(デラウェア州、ウィルミントンのデュポン・ケミカル・カンパニー)があり、それは、テトラフルオロエチレン(TFE)と、式:FSO2−CF2−CF2−O−CF(CF3)−CF2−O−CF=CF2のコモノマーとのコポリマーであり、スルホン酸の形で、すなわち、SO2F末端基がSO3Hに加水分解されて、販売されている。乳化剤としてのペルフルオロオクタン酸アンモニウム(APFO)の存在下で水性乳化重合によってこのようなフルオロポリマーを製造することが公知である。
【0003】
米国特許第3,635,926号明細書には、テトラフルオロエチレンモノマーとフルオロビニルエーテルモノマーとの強靭な、安定なコポリマーであって、反応が水可溶性開始剤、乳化剤および気体連鎖移動反応剤の存在下で行なわれることを必要とする方法によってモノマーの水性重合によって製造することができるコポリマーが開示されている。
【0004】
国際特許出願公開第94/03503号パンフレットには、電気化学デバイスにおいてイオン交換膜として使用するためのイオン交換基などの側基を有するポリマー鎖を含むフルオロ有機ポリマー材料が開示されている。この出願には、好ましくはペルフルオロアルカノエートである乳化剤を使用する水性乳化重合によるフルオロ有機ポリマー材料の調製が開示されている。(国際公開第94/03503号パンフレット、13ページ)。
【0005】
特開昭62−288617号公報には、スルホン酸タイプ官能基を有するペルフルオロカーボンポリマーの製造方法が開示されている。この方法は、液体モノマーの乳化がフッ素含有乳化剤の存在下で水性媒体中で行なわれた後に乳化共重合が実施されることを特徴とする。この文献は、6ページにおいてペルフルオロカルボン酸タイプの乳化剤の使用を教示する。
【0006】
米国特許第5,608,022号明細書には、官能基を含有するペルフルオロカーボンモノマーを予備乳化する工程と、少なくとも1つの水可溶性有機連鎖移動反応剤を添加する工程と、テトラフルオロエチレン(TFE)と重合する工程と、を有する、官能基を含有するペルフルオロカーボンコポリマーの製造方法が開示されている。この文献は、例えば、第6欄、10〜30行目において分散剤の使用を教示する。
【0007】
米国特許第5,804,650号明細書には、VdFモノマーを反応性乳化剤と乳化重合させることによるフッ化ビニリデン(VdF)コポリマーの調製が開示されている。得られたポリマーラテックスは、例えば、ペイントのために好適に使用される。この文献は、反応性乳化剤が、モノマーの組合せ中に0.001〜0.1モル%の量において存在することを教示する(米国特許第5,804,650号明細書、第8欄、58〜60行目、および第17欄、54〜56行目)。この文献はまた、反応性乳化剤が、エマルション中に水の重量に対して0.0001〜10重量%の量において存在することを教示し(米国特許第5,804,650号明細書、第4欄、52行目、および第13欄、10〜17行目)、エマルション中に水の重量に対して10重量%より多いいずれかの量において反応性乳化剤を添加することに反対している(米国特許第5,804,650号明細書、第22欄、12〜15行目)。比較例6において、テトラフルオロエチレン(TFE)共重合が開示されている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
簡潔に言えば、本発明は、1)式I:
2C=CF−R1−SO2X(I)
[上式中、R1は、1〜15個の炭素原子と0〜4個の酸素原子とを含む分岐または非分岐のペルフルオロアルキル基、ペルフルオロアルコキシ基またはペルフルオロエーテル基であり、XはF、ClまたはBrである]のフルオロモノマーを0.001〜0.9モル当量の塩基と一緒に、添加された乳化剤の非存在下で混合することによって水性プレエマルションを形成する工程と、2)前記プレエマルションを1つ以上の過フッ素化コモノマーと、添加された乳化剤の非存在下で反応させて、1モル%より多いモノマー単位が前記式Iのフルオロモノマーから誘導されるフルオロポリマーを含むフルオロポリマーラテックスを形成する工程と、を含む、2つ以上のフルオロモノマーの水性乳化重合方法を提供する。典型的に塩基は水酸化物である。典型的にはフルオロポリマーラテックスは、5モル%より多いモノマー単位、より典型的には10モル%より多いモノマー単位が前記式Iのフルオロモノマーから誘導されるフルオロポリマーを含む。
【0009】
別の態様において、本発明は、添加された乳化剤を含有しない、本発明の方法によって製造されたフルオロポリマーラテックスを提供する。
【0010】
別の態様において、本発明は、添加された乳化剤を含有しない、本発明の方法によって製造されたフルオロポリマーラテックスから誘導されたフルオロポリマーを提供する。
【0011】
別の態様において、本発明は、添加された乳化剤を含有しない、本発明の方法によって製造されたフルオロポリマーを含むポリマー電解質膜を提供する。
【0012】
本技術分野にまだ記載されていないが本発明によって提供されるのは、添加された乳化剤の非存在下で2つ以上の過フッ素化モノマーを水性乳化重合してポリマー電解質として有用なフルオロポリマーを形成する方法である。
【0013】
本出願において、「添加された乳化剤」は、塩基と式:F2C=CF−R−SO2X[式中、Rは、1〜15個の炭素原子と0〜4個の酸素原子とを含む分岐または非分岐のペルフルオロアルキル基、ペルフルオロアルコキシ基またはペルフルオロエーテル基であり、XはF、ClまたはBrである]のフルオロモノマーとの反応によって形成された乳化剤以外のフッ素含有非テロゲン(non−telogenic)乳化剤の有効量を意味し、典型的には、塩基と式:F2C=CF−R−SO2Xのフルオロモノマーとの反応によって形成された乳化剤以外の一切の乳化剤の有効量を意味する。
「有効量」は、乳化剤に関して、塩基と式:F2C=CF−R−SO2X[式中、Rは、1〜15個の炭素原子と0〜4個の酸素原子とを含む分岐または非分岐のペルフルオロアルキル基、ペルフルオロアルコキシ基またはペルフルオロエーテル基であり、XはF、ClまたはBrである]のフルオロモノマーとの反応によって形成された乳化剤の非存在下での水性乳化重合のために適した乳化を提供するために十分な量を意味し、より典型的には一切の実質的な量を意味してもよい。
【0014】
燃料電池または他の電解槽に使用するための、添加された乳化剤を含有しないフルオロポリマーイオノマーを提供することが本発明の利点である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、1)式I:
2C=CF−R1−SO2X(I)
[上式中、R1は、1〜15個の炭素原子と0〜4個の酸素原子とを含む分岐または非分岐のペルフルオロアルキル基、ペルフルオロアルコキシ基またはペルフルオロエーテル基であり、XはF、ClまたはBrである]のフルオロモノマーを0.001〜0.9モル当量の塩基と一緒に、添加された乳化剤の非存在下で混合することによって水性プレエマルションを形成する工程と、2)前記プレエマルションを1つ以上の過フッ素化コモノマーと、添加された乳化剤の非存在下で反応させて、1モル%より多いモノマー単位が前記式Iのフルオロモノマーから誘導されるフルオロポリマーを含むフルオロポリマーラテックスを形成する工程とを含む、2つ以上のフルオロモノマーの乳化重合方法を提供する。
【0016】
式Iのフルオロモノマーにおいて、XはF、ClまたはBrである。Xは、典型的には、FまたはClであり、最も典型的にはFである。
【0017】
式Iのフルオロモノマーにおいて、R1は、1〜15個の炭素原子と0〜4個の酸素原子とを含む分岐または非分岐のペルフルオロアルキル基、ペルフルオロアルコキシ基またはペルフルオロエーテル基である。R1は典型的には−O−R2−であり、ここでR2は、1〜15個の炭素原子と0〜4個の酸素原子とを含む分岐または非分岐のペルフルオロアルキル基またはペルフルオロエーテル基である。R1は、より典型的には−O−R3−であり、ここでR3は、1〜15個の炭素原子を含むペルフルオロアルキル基である。R1の例には、
−(CF2n−(nは1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14または15である)、
(−CF2CF(CF3)−)n(nは1、2、3、4、または5である)、
(−CF(CF3)CF2−)n(nは1、2、3、4、または5である)、
(−CF2CF(CF3)−)n−CF2−(nは1、2、3または4である)、
(−O−CF2CF2−)n(nは1、2、3、4、5、6または7である)、
(−O−CF2CF2CF2−)n(nは1、2、3、4、または5である)、
(−O−CF2CF2CF2CF2−)n(nは1、2または3である)、
(−O−CF2CF(CF3)−)n(nは1、2、3、4、または5である)、
(−O−CF2CF(CF2CF3)−)n(nは1、2または3である)、
(−O−CF(CF3)CF2−)n(nは1、2、3、4または5である)、
(−O−CF(CF2CF3)CF2−)n(nは1、2または3である)、
(−O−CF2CF(CF3)−)n−O−CF2CF2−(nは1、2、3または4である)、
(−O−CF2CF(CF2CF3)−)n−O−CF2CF2−(nは1、2または3である)、
(−O−CF(CF3)CF2−)n−O−CF2CF2−(nは1、2、3または4である)、
(−O−CF(CF2CF3)CF2−)n−O−CF2CF2−(nは1、2または3である)、
−O−(CF2n−(nは1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13または14である)などがある。
1は典型的には−O−CF2CF2CF2CF2−または−O−CF2−CF(CF3)−O−CF2−CF2−であり、最も典型的には−O−CF2CF2CF2CF2−である。
【0018】
式Iのフルオロモノマーは、2002年、12月17日に出願された米国特許出願第10/322,226号明細書に開示された方法など、いずれの適した手段によって合成されてもよい。
【0019】
水に溶かしたIの安定なプレエマルションの調製のために、SO2F−コモノマーを水および塩基と一緒に十分に混合する。水の、SO2F−コモノマーに対する質量比は0.1:1〜1:0.01、典型的には0.2:1〜1:0.1の範囲である。アルカリ金属水酸化物、例えばNaOH、KOH、およびLiOH、アルカリ土類金属水酸化物、III族の金属の水酸化物、またはNH4OHなどのいずれの適した塩基を用いてもよい。炭酸塩のようなほかの無機塩基性塩を用いてもよい。第四アルキル水酸化アンモニウムを用いてもよいが、それらの有用性は、それらの連鎖移動反応活性、特により長鎖のアルキル化合物(R4+OH)のために限定されることがある。典型的には、I族の金属の水酸化物またはNH4OH、最も典型的にはLiOHまたはNH4OHが使用される。塩基を、前記式Iのフルオロモノマーに対して0.001〜0.9モル当量、典型的には0.01〜0.5モル当量、より典型的には0.02〜0.3モル当量の量においてプレエマルションに添加する。プレエマルションは安定であるのがよく、溶融加工適性などの望ましい性質を有するポリマーを形成するのがよい。
【0020】
ホモジナイザー(例えばマイクロフルイズ(Microfluids)製のマイクロフルイダイザ(Microfluidizer)(登録商標))、高速撹拌器、コロイドミルミキサ、または超音波デバイスの使用など、いずれの適した方法を用いて水性プレエマルションを混合してもよい。混合時間は典型的には1〜60分、より典型的には1〜20分である。液体フッ素化SO2F含有コモノマーの予備乳化は典型的には、20μmより小さい、より典型的には10μmより小さい平均液体粒子サイズを有するプレエマルションをもたらす。高速撹拌器の使用によって、0.5〜10μmの平均液体粒子サイズを有するプレエマルションをもたらすことができる。マイクロフルイダイザなどの他のデバイスが1μmより小さい粒度を有するプレエマルションを供給することができる。
【0021】
典型的には水性プレエマルションは、少なくとも1時間、より典型的には少なくとも3時間の可用時間(沈降時間)を有する。可用時間は、モノマー液体粒子10重量%がエマルションから沈降または分離するために必要とされる時間として定義される。液体コモノマーの水性エマルションの可用時間を、pHを増加させることによって増加させることができ、代表的な範囲は約5〜7である。
【0022】
液体コモノマーの予備乳化は、重合を開始する前に重合反応器自体において重合ケットルとは別個のケットル内で、または重合ケットルへのモノマー供給ラインにおいて行なわれてもよい。重合する間の液体乳化SO2F−モノマーの、水に対する質量比は典型的には1:1〜1:100、より典型的には1:2〜1:50、最も典型的には1:2〜1:20である。
【0023】
水性乳化重合を連続的に行なうことができ、例えば、得られたエマルションを連続的に除去しながら、液体コモノマーおよび他のモノマー、水、緩衝液および触媒の水性エマルションを最適圧力および温度条件下で撹拌型反応器に連続的に供給する。代替技術は、成分を撹拌型反応器に供給してそれらを調整温度において特定の時間、反応させるか、または成分を前記反応器に充填し、モノマーおよび乳化液体フッ素化モノマーを反応器に供給して所望の量のポリマーが形成されるまで一定圧力を維持することによるバッチまたは半バッチ重合である。重合は、気体フッ素化モノマーの乳化重合のために用いられる標準または通常のケットルにおいて行なわれてもよい。
【0024】
一実施態様において、気体コモノマーが使用されるとき、プレエマルションの一部を反応容器に予備充填し、開始反応後に、気体モノマーと残りのプレエマルションを連続的に供給する。気体コモノマーが使用される別の実施態様において、予備乳化SO2F−コモノマーの全量をケットル内に入れておくことができ、気体モノマーだけを連続的に供給する。
【0025】
フリーラジカル重合に適したいずれの開始剤または開始剤系、例えば過硫酸アンモニウム(APS)またはレドックス系、例えばAPS/二亜硫酸塩および過マンガン酸カリウムを使用してもよい。水への溶解度を全く有さないかまたは不十分にしか溶解度を有さない油溶性開始剤が使用されるとき、それらは典型的には、液体フッ素化モノマーの水性エマルションと混合される。油溶性開始剤の例には、置換ジベンゾイルペルオキシドおよびクメンヒドロペルオキシド、例えばビスペルフルオロプロピオニルペルオキシドなどがある。典型的には、開始剤の濃度は0.01質量%〜3質量%、より典型的には0.05質量%〜2質量%である。
【0026】
重合系は、必要に応じて、緩衝液、錯体形成剤または連鎖移動剤などの助剤を含んでもよい。重合は、いずれの適したpHにおいて行なわれてもよい。pHは典型的には重要ではないが、使用された開始剤系に依存する。重合する間、SO2F単位を塩の形へ変換し続けるのを避けるために、pHは典型的にはpH≦7、より典型的にpH≦6である。
【0027】
温度および圧力のいずれの適した条件を用いてもよい。重合温度は典型的には10〜100℃である。重合圧力は典型的には3〜30バールである。典型的には、反応ケットルが酸素を含有しない。
【0028】
典型的には、得られるポリマーラテックスの固形分は、10〜50%であり、顕著な凝固はない。
【0029】
いずれの適した過フッ素化コモノマーを用いてもよい。典型的には、コモノマーはエチレン性不飽和である。典型的には、コモノマーは、ほかの官能基を有さない。典型的には、コモノマーは、式II:
2C=CF−R4(II)
の種から選択され、上式中、R4はFあるいは、1〜5個の炭素原子と0〜2個の酸素原子とを含む分岐または非分岐のペルフルオロアルキル基、ペルフルオロアルコキシ基またはペルフルオロエーテル基である。より典型的には、コモノマーがテトラフルオロエチレン(TFE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)およびペルフルオロ(メチルビニルエーテル)(PMVE)から選択される。最も典型的には、コモノマーがテトラフルオロエチレン(TFE)である。
【0030】
さらに別のコポリマーには、非過フッ素化またはH含有C2−C4フルオロオレフィン、例えばフッ化ビニリデン(VDF)、トリフルオロエチレン、エチレンおよびプロピレンなどが挙げられる。最終コポリマー中のこれらのコモノマーの量は、典型的には40モル%より少なく、より典型的には20モル%より少ない。
【0031】
上記の気体モノマーの他に、さらに別の液体フッ素化コモノマーを重合に添加してもよい。ほかの液体フッ素化コモノマーを、塩基の存在下でSO2F含有モノマーと共に予備乳化することができ、またはそれらを別々に予備乳化することができる。
【0032】
一実施態様において、使用するための液体フッ素化モノマーは、フッ素化ビニルエーテル、典型的にはペルフルオロビニルエーテルである。フッ素化ビニルエーテルは、式(III):
CF2=CFO(RfO)n(R’fO)mR”f(III)
の過フッ素化ビニルエーテルであってもよく、上式中、RfおよびR’fは、2〜6個の炭素原子の異なった直鎖または分岐のペルフルオロアルキレン基であり、mおよびnは独立に0〜10であり、nとmとの合計は少なくとも1であり、R”fは、1〜6個の炭素原子のペルフルオロアルキル基である。
【0033】
式(III)のフルオロビニルエーテルの例には、式(IV):
CF2=CFO(CF2CF2CFZO)nR”f(IV)
の化合物があり、上式中、R”fは、1〜6個の炭素原子を有するペルフルオロアルキル基であり、n=1〜5であり、Z=FまたはCF3である。式(IV)の化合物の例には、R”fがC37であり、n=1、Z=FまたはCF3およびCF3−O−CF(CF3)−CF2−CF2−O−CF=CF2である化合物(沸点85℃)がある。式(III)に包含されるさらに別の有用なフッ素化ビニルエーテルには、式(V):
CF2=CF−O−(CF2CFXO)m−Rf(V)
があり、上式中、mは1〜5の整数を表し、XはFまたはCF3であり、RfはC1−C5ペルフルオロアルキル基である。式Vのモノマーの例には、XがCF3であり、Rfがペルフルオロn−プロピルであり、mが1(103℃の沸点)であるかまたはmが2であるモノマーがある(160℃の沸点)。
【0034】
本発明に有用なさらに別のペルフルオロビニルエーテルモノマーには、式
CF2=CFO[(CF2CFCF3O)n(CF2CF2CF2O)m(CF2p]Cx2x+1(VI)
の化合物があり、上式中、mおよびn=1〜10、p=0〜3、およびx=1〜5である。この部類の好ましいメンバーには、n=1、m=1、p=0、およびx=1である化合物がある。
【0035】
ペルフルオロビニルエーテルのさらに別の例には、式(VII):
CF2=CFOCF2CF(CF3)−O−(CF2O)mn2n+1(VII)
のエーテルがあり、上式中、n=1、m=0〜3であり、好ましくはm=0である。最終コポリマー中のこれらの液体コモノマーの量は、典型的には40モル%より少なく、より典型的には20モル%より少なく、最も典型的には15モル%より少ない。
【0036】
上記の重合に添加されてもよいさらに別の液体フッ素化コモノマーには、構造式:
CF2=CF−[O−CF2−CF(CF3)]n−O−(CF2m−COOCH3(VIII)
を有するコモノマーがあり、n=0〜3であり、m=0〜6である。
【0037】
液体エステルをSO2F−コモノマーと一緒に予備乳化することができる。典型的には(VIII)の量は0〜10モル%、より典型的には0〜5モル%の範囲である。
【0038】
前記モノマーは、得られるフルオロポリマーが、前記式Iのフルオロモノマーから誘導されたモノマー単位を1%超、典型的には5%超、より典型的には10%超、より典型的には13%超で含むような比率で反応混合物中に存在する。
【0039】
得られるポリマーは、非晶質または半結晶性材料、典型的には半結晶性であり、融点が300℃より低い。
【0040】
得られたポリマーの分子量を調節するために、いずれの適した連鎖移動剤をも用いることができ、典型的には気体の炭化水素連鎖移動剤を用いることができる。
【0041】
典型的に、前記重合は、本発明のフルオロポリマーを含むフルオロポリマーラテックスを製造する。前記フルオロポリマーラテックスおよび前記フルオロポリマーは、添加された乳化剤を含有しない。
【0042】
本発明のフルオロポリマーは、キャスチング、成形、押出し等、いずれの適した方法によってポリマー電解質膜に形成してもよい。典型的には、ポリマーを典型的には水との接触によって、典型的にはLiOHなどの塩基を添加することによって、形成する前に加水分解してSO2F基をSO3-基に変換することができる。典型的には、膜をラテックスまたはフルオロポリマーの懸濁液からキャストし、次いで乾燥させ、アニールし、または両方を実施する。典型的には、ラテックスまたは懸濁液は水性であり、プロパノールなどのアルコールまたは他の補助溶剤をさらに含有してもよい。典型的には、膜が、90ミクロンより小さい、より典型的には60ミクロンより小さい、より典型的には30ミクロンより小さい厚さを有する。
【0043】
概して、SO3-基ではなく主にSO2F基を含有するコポリマーは、例えば、様々な形状に、例えばフィルムまたは膜に押出またはホットプレスすることによって、より容易に溶融加工される。これらの物品をさらに、加水分解してイオン交換膜を形成してもよい。
SO3-基の含有量の増加したコポリマーについては、フィルムまたは膜を溶液加工、例えばキャスチングすることが、より適切である場合がある。
【0044】
本発明は、燃料電池または他の電解槽に使用するためのポリマー電解質膜の製造において有用である。
【0045】
本発明の目的および利点を以下の実施例においてさらに説明するが、これらの実施例に記載された特定の材料およびそれらの量ならびに他の条件および詳細は、本発明を限定するものであると解釈されるべきではない。
【実施例】
【0046】
特に記載しない限り、全ての試薬はウィスコンシン州、ミルウォーキーのアルドリッチ・ケミカル・カンパニー(Aldrich Chemical Co.,Milwaukee,WI)から得られたかまたは入手可能であり、または周知の方法によって合成できる。
【0047】
試験方法
メルトフローインデックス(MFI)を265℃/5kgの負荷において直径2.1mmおよび長さ8mmの標準化押出ダイを用いて、ISO12086によって測定した。
【0048】
ISO/DIS13321によるマルバーン・ゼータサイザー(Malvern Zetasizer)1000HASを用いて粒度を動的光散乱によって測定した。測定の前にラテックスを0,001モル/LKClで希釈した。測定の温度は20℃であった。Z平均値を記録した。
【0049】
SO2F−コモノマーの導入を(ニコレ・オムニ(Nicolet Omnic)5.1を用いて)FTIRによって測定した。ホットプレスされたフィルム(厚さ100〜200μm)で透過技術を用いて測定を行なった。モル%単位のMV4S−含有量Rは、1004cm-1でのピーク高さを2365cm-1でのピーク高さで割り、0.0632を乗じた値を求めることによって測定した。
【0050】
【数1】

【0051】
3.2mmのMASプローブを有するバリアン(Varian)(登録商標)INOVA400WBを用いて固体状態19F−NMRによってこの方法を較正した。
【0052】
実施例1
390g(1.03モル)のCF2=CF−O−(CF24−SO2F(MV4S、M.W.378.11)を、ウルトラ・ターラックス(ULTRA−TURRAX)(登録商標)モデルT25ディスパーサーS25KV−25F(ドイツ、スタウフェン(IKA−Werke GmbH & Co.KG、Staufen、Germany)のIKA・ヴェルケGmbH&Co.KG)を用いて2分間、高剪断下(24,000rpm)で13.5g(0.322モル)のLiOH・H2O(M.W.41.97)を添加して270gの水中に予備乳化した。乳状白色分散系は、1.5μmの平均粒度および>3時間の貯蔵寿命を有した。羽車式撹拌器システムを備えた53リットルの重合ケットルに23kgの脱イオン水を入れた。ケットルを60℃まで加熱し、次いでプレエマルションを酸素を含有しない重合ケットルに入れた。60℃においてケットルにさらに、6バールの絶対反応圧力まで630gの気体テトラフルオロエチレン(TFE)を入れた。60℃および240rpmの撹拌器速度において、15gの二亜硫酸ナトリウムおよび40gのペルオキソ二硫酸アンモニウムを添加して重合を開始した。反応の進行する間、反応温度を60℃に維持した。付加的なTFEを気相に供給することによって反応圧力を6.0バールの絶対圧力に維持した。MV4Sプレエマルションの第2の部分を、4,600g(12.17モル)のMV4S、160g(3.81モル)のLiOH・H2Oおよび3,200gの水を用いて、上記の同じ方法および比率において調製した。反応の進行する間、第2のプレエマルション部分を連続的に液相に供給した。
【0053】
252分の重合時間において6150gのTFEを供給した後、モノマー弁を閉じ、モノマーの供給を中断した。重合の継続により、モノマー気相の圧力を40分以内に2バールに低減した。この時に、反応器に逃げ口を設け、窒素ガスでフラッシした。
【0054】
このように得られた38.4kgのポリマー分散系は、29.2%の固形分および3のpH値を有した。ラテックスの平均粒度は、動的光散乱を用いて測定されたとき、139nmであった。凍結凝固ポリマーを300℃において厚さ100〜200μmのフィルムにプレスした。フィルムのFTIR測定は、14,1モル%のMV4Sの導入を示した。
MFI(265℃、5kg)=0.3g/10分。
【0055】
実施例2
152g(0.402モル)のCF2=CF−O−(CF24−SO2F(MV4S、M.W.378.11)を、ウルトラ・ターラックス(登録商標)モデルT25ディスパーサー(ドイツ、スタウフェンのIKA・ヴェルケGmbH & Co.KG)を用いて5分間、高剪断下(24,000rpm)で4g(0.095モル)のLiOH・H2O(M.W.41.97)を添加して170gの水中に予備乳化した。羽車式撹拌器システム(320rpm)を備えた7リットルの重合ケットルに3kgの脱イオン水を入れた。ケットルを60℃まで加熱し、次いでプレエマルションを酸素を含有しないケットルに入れ、さらに、170gの気体テトラフルオロエチレン(TFE)を入れて8バールの絶対反応圧力にした。1.5gの二亜硫酸ナトリウムおよび4gのペルオキソ二硫酸アンモニウムを添加して重合を開始した。反応の進行する間、反応温度を60℃に維持した。付加的なTFEを気相に供給することによって反応圧力を8.0バールの絶対圧力に維持した。
430g(1.14モル)のMV4S、8g(0.191モル)のLiOH・H2Oおよび830gの水を用いて、第2のMV4Sプレエマルション部分を上記の同じ方法で調製し、連続的に供給した。
【0056】
331分の重合時間において800gのTFEを供給した後、モノマー弁を閉じ、モノマーの供給を中断した。反応の継続により、モノマー気相の圧力を3バールに低減した。
この時に、反応器に逃げ口を設け、窒素ガスでフラッシした。
【0057】
このように得られた4.3kgのポリマー分散系は、33.9%の固形分および3のpH値を有した。分散系は、直径99nmのラテックス粒子からなっていた。ポリマーを凍結凝固させ、脱イオン水で4回のサイクルで洗浄し、15時間、130℃において乾燥させた。IR分光分析法は、88.4モル%のTFEおよび11.6モル%のMV4Sの組成を示した。1063cm-1でのSO3-吸光度を1467cm-1でのSO2F吸光度で割ったピーク高さ比は0.012であり、SO3-−基の最小量しかポリマー中に存在しないことを示す。
【0058】
比較例3C
900g(2.38モル)のCF2=CF−O−(CF24−SO2F(MV4S、M.W.378.11)を、ウルトラ・ターラックス(登録商標)モデルT25ディスパーサー(ドイツ、スタウフェンのIKA・ヴェルケGmbH & Co.KG)を用いて5分間、高剪断下(24,000rpm)で16gの30%ペルフルオロオクタノエートアンモニウム塩溶液(ミネソタ州、セントポールの3Mカンパニー(3M Company,St.Paul,Minnesota)の3M(登録商標)フルオラド(FLUORAD)(登録商標)FX1006)を添加して560gの水中に予備乳化した。羽車式撹拌器システムを備えた53リットルの重合ケットルに、22.9kgの脱イオン水に溶かした37gのアンモニウムオキサレート−1−水和物と7gのシュウ酸−2−水和物、および269gの30%ペルフルオロオクタノエートアンモニウム塩溶液(ミネソタ州、セントポールの3Mカンパニーの3M(登録商標)フルオラド(登録商標)FX1006)を入れた。次に、酸素を含有しないケットルを50℃に加熱し、撹拌システムを240rpmに設定した。ケットルをテトラフルオロエチレン(TFE)でパージした後、次にプレエマルションを反応ケットルに入れた。ケットルにさらに、705gの気体テトラフルオロエチレン(TFE)を入れて6バールの絶対反応圧力にした。過マンガン酸カリウム(KMnO4)の1%溶液140gを添加して重合を開始した。反応の進行する間、反応温度を50℃に維持した。付加的なTFEを気相に供給することによって反応圧力を6.0バールの絶対圧力に維持した。4,170g(11.02)のMV4S、73gの30%ペルフルオロオクタノエートアンモニウム塩溶液(ミネソタ州、セントポールの3Mカンパニーの3M(登録商標)フルオラド(登録商標)FX1006)および2,500gの水を用いて第2のMV4Sプレエマルションを上記の同じ方法で調製した。反応の進行する間、第2のプレエマルションを液相に供給した。
【0059】
330分の重合時間において5575gのTFEを供給した後、モノマー弁を閉じ、モノマーの供給を中断した。反応の継続により、モノマー気相の圧力を40分以内に3.4に低減した。この時に、反応器に逃げ口を設け、窒素ガスでフラッシした。
【0060】
このように得られた37.1kgのポリマー分散系は、27.5%の固形分および3のpH値を有した。分散系は、直径70nmのラテックス粒子からなった。ポリマーを凍結凝固させ、脱イオン水で4回のサイクルで洗浄し、15時間、130℃において乾燥させた。固体状態19F−NMR分光分析法は、85.3モル%のTFEと14.7モル%のMV4Sとを含むポリマーを示した。SO3-吸光度の、SO2F吸光度に対するピーク高さ比は、0.007であった。MFI(365℃、2.16kg)=0.2g/10分。
【0061】
本発明の様々な改良及び変更が、本発明の範囲及び原理から逸脱することなく実施できることは、当業者には明らかであり、本発明は、当然のことながら上記の例示的な実施態様に制限されるものではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1)式I:
2C=CF−R1−SO2X(I)
[上式中、R1は、1〜15個の炭素原子と0〜4個の酸素原子とを含む分岐または非分岐のペルフルオロアルキル基、ペルフルオロアルコキシ基またはペルフルオロエーテル基であり、XはF、ClまたはBrである]のフルオロモノマーを0.001〜0.9モル当量の塩基と一緒に、添加された乳化剤の非存在下で混合することによってプレエマルションを形成する工程と、
2)前記プレエマルションを、過フッ素化されている1つ以上のコモノマーと、添加された乳化剤の非存在下で反応させて、1モル%より多いモノマー単位が前記式Iのフルオロモノマーから誘導されるフルオロポリマーを含むフルオロポリマーラテックスを形成する工程と、を含む、2つ以上のフルオロモノマーの水性乳化重合方法。
【請求項2】
前記塩基が水酸化物である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
1が−O−R2−(式中、R2は、1〜15個の炭素原子と0〜4個の酸素原子とを含む分岐または非分岐のペルフルオロアルキル基またはペルフルオロエーテル基である)であり、XがFである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
1が−O−R3−(式中、R3は、1〜15個の炭素原子を含むペルフルオロアルキル基である)であり、XがFである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
前記プレエマルションが、式(III):
CF2=CFO(RfO)n(R’fO)mR”f(III)
[上式中、RfおよびR’fは独立に、2〜6個の炭素原子の直鎖および分岐のペルフルオロアルキレン基からなる群から選択され、mは0〜10であり、nは0〜10であり、nとmとの合計は少なくとも1であり、R”fは1〜6個の炭素原子のペルフルオロアルキル基である]の1つ以上のフッ素化ビニルエーテルコモノマーをさらに含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
添加された乳化剤を含有しない、請求項1〜5のいずれか一項の方法によって製造されたフルオロポリマーラテックス。
【請求項7】
フルオロポリマーが、添加された乳化剤を含有しない、請求項1〜5のいずれか一項の方法によって製造されたフルオロポリマーラテックスから誘導されたフルオロポリマー。
【請求項8】
加水分解された請求項7に記載のフルオロポリマーを含むポリマー電解質膜。

【公開番号】特開2012−140634(P2012−140634A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−65690(P2012−65690)
【出願日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【分割の表示】特願2006−538037(P2006−538037)の分割
【原出願日】平成16年10月8日(2004.10.8)
【出願人】(505005049)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (2,080)
【Fターム(参考)】