説明

定寸装置

【課題】AEセンサをなるべく加工点の近くに設置し、加工中にS/N比の良い明瞭なAE信号を検出することによりワークの面粗さの推定及び砥石のドレスタイミングの検出を可能とするとともに、AEセンサの取り付けを容易にする。
【解決手段】研削加工中の加工物に接触してその寸法変化を検出しこれを電気信号として出力する測定ヘッドと、前記測定ヘッドのフィンガー部に取り付けられた接触子と、前記接触子からの電気信号に基づいて前記加工物の寸法を検出し、前記加工物が所定の寸法に加工されるように前記加工物を加工する工作機械を制御する定寸制御手段と、前記工作機械の加工具が前記加工物に接触する際のアコースティックエミッションを検出するため、前記加工物に直接接触する部位に取り付けられたAEセンサと、前記AEセンサの検出信号に基づいて前記加工物の加工状況を検出するAEセンサ制御手段とを備えたことを特徴とする定寸装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、定寸装置に係り、特に、ワーク等を加工する研削盤などの加工機に装着し加工物の寸法を測定するとともに、その加工状況を検出するためのAEセンサを取り付けた定寸装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、研削盤には加工精度の向上や、自動化による生産性の向上を図るため、加工中のワーク寸法を測定する定寸装置が用いられている。また、加工物の加工状況を監視するためにAEセンサ(アコースティックエミッションセンサ)を定寸装置あるいは研削盤に取り付けることが行われている。
【0003】
例えば、特許文献1には、基台上に立設されたコラムに、一対のレールを介して昇降可能に支持された主軸ヘッドに取り付けられた回転用モータの回転軸に一体回転可能に回転砥石が固定され、コラムの正面側にワークと対向する位置に回転砥石の研削能力が低下したことを検出する検出装置としてのAEセンサが配設された研削盤が記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、基台部分を構成するベッドと、このベッド上にX軸方向に移動自在に搭載された刃具としての砥石車を支持する砥石台と、ベッド上にZ軸方向に移動自在に搭載されたワークテーブルとを備え、ワークと刃具とが接触する際のアコースティックエミッション(AE)を検出するAEセンサが、砥石台の砥石軸の内部に取り付けられた円筒研削盤が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−113659号公報
【特許文献2】特開2005−262385号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来の研削盤においては、いずれも砥石がワーク等を加工する加工点から離れた場所にAEセンサが設置されているため、加工点で発生するAE波がAEセンサで検出されるまでに減衰して不明瞭になってしまう虞があるという問題があった。
【0007】
また、上記従来のAEセンサは、いずれもAE波が発生する加工点から遠いというだけでなく、いくつもの介在物を介してAE波を検出しているため、信号が減衰するとともにS/N比が悪化するという問題もある。またさらに、AEセンサを設置する際の効果的な設置場所の選定位置決めに手間がかかるという問題もあった。
【0008】
本発明はこのような問題に鑑みて成されたものであり、AEセンサをなるべく加工点の近くに設置し、加工中にS/N比の良い明瞭なAE信号を検出することにより加工物の表面粗さの推定及び砥石のドレスタイミングの検出を可能とするとともに、AEセンサの取り付けを容易にした定寸装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、本発明の定寸装置は、研削加工中の加工物に接触してその寸法変化を検出しこれを電気信号として出力する測定ヘッドと、前記測定ヘッドのフィンガー部に取り付けられた接触子と、前記接触子からの電気信号に基づいて前記加工物の寸法を検出し、前記加工物が所定の寸法に加工されるように前記加工物を加工する工作機械を制御する定寸制御手段と、前記工作機械の加工具が前記加工物に接触する際のアコースティックエミッションを検出するため、前記加工物に直接接触する部位に取り付けられたAEセンサと、前記AEセンサの検出信号に基づいて前記加工物の加工状況を検出するAEセンサ制御手段と、を備えたことを特徴とする。
【0010】
これにより、AEセンサを加工物に直接接触する部位に取り付けることでAEセンサを加工点の近くに設置することができ、また介在物をいくつも介することなくAE波を検出することができるので、加工中にS/N比の良い明瞭なAE信号を検出することができ、加工物の表面粗さの推定や加工具の状況の検出も可能となる。
【0011】
また、一つの実施態様として、前記AEセンサは、前記接触子の直近の前記フィンガー部に設置されたことが好ましい。
【0012】
これにより、AEセンサを加工物に直接接触する部位に取り付けることで加工中にS/N比の良い明瞭なAE信号を検出することが可能となる。
【0013】
また、一つの実施態様として、前記フィンガー部は、前記AEセンサを設置したまま交換可能であることが好ましい。
【0014】
これにより、加工機に定寸装置が付いている場合には、AEセンサの取り付けられているフィンガー部のみを交換するだけで、AEセンサの位置決めも不要となり、AEセンサを設置する手間が省け、簡単にAEセンサを設置することができる。
【0015】
また、一つの実施態様として、前記AEセンサ制御手段は、予め実験により得られた前記AEセンサの検出信号の波形と前記加工物の表面粗さとの相関関係に基づいて、前記研削加工中の加工物の表面粗さを推定することが好ましい。
【0016】
これにより、加工中の加工物の表面粗さの推定が可能となる。
【0017】
また、一つの実施態様として、前記定寸制御手段は、前記AEセンサ制御手段の機能を内蔵し、前記定寸制御手段と前記AEセンサ制御手段とが一体化されていることが好ましい。
【0018】
これにより、一つの手段で定寸測定とAE波の検出及び検出に基づく制御を行うことができ、装置構成を簡略化することができる。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように、本発明によれば、AEセンサを加工物に直接接触する部位に取り付けることでAEセンサを加工点の近くに設置することができ、また介在物をいくつも介することなくAE波を検出することができるので、加工中にS/N比の良い明瞭なAE信号を検出することができ、加工物の表面粗さの推定や加工具の状況の検出も可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る定寸装置の一実施形態の概略を示す構成図である。
【図2】フィンガー部の先端部の拡大図である。
【図3】定寸装置の使用状態を示す概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付図面を参照して、本発明に係る定寸装置について詳細に説明する。
【0022】
図1は、本発明に係る定寸装置の一実施形態の概略を示す構成図である。
【0023】
図1に示すように、定寸装置1は、研削盤(研削盤自体の図示は省略)の砥石Tによって加工されるワークWの径を測定する測定ヘッド10と測定ヘッド10によって検出されたデータを処理し、研削盤側へフィードバックする定寸管制部20を備えている。
【0024】
測定ヘッド10は、研削加工中のワークWの直径の変化を測定するものであり、接触子2を有するフィンガー部4が、ワークWを挟むように対向して設けられている。
【0025】
測定ヘッド10の構成についての詳しい説明は省略するが、測定ヘッド10は、L字形板バネを用いた公知の2点接触式の測定ヘッドであり、内部には電気マイクロメータ検出器が設けられている。測定ヘッド10は、図示を省略した研削盤テーブルに取り付けられ、研削加工中のワークWの外径寸法に応じて生じる機械的な変位量を電気信号に変換して出力する。この電気信号は定寸管制部20に送られる。
【0026】
定寸管制部20は、各種のデータ処理が可能な電気マイクロメータ管制部であり、測定ヘッド10を介してワークWの外径寸法をワークWの加工中に検出し、その結果を所定の表示手段に表示するとともに、ワークWの外径が予め設定された寸法に達した時に信号を発生するようになっている。
【0027】
研削盤は、この定寸管制部20からの信号に基づいて、粗研から精研、精研からスパークアウト等の高速加工から低速加工への加工速度の切替えを行ったり、加工の停止や砥石Tの後退等の制御を行う。
【0028】
また、図1に示すように、本実施形態の測定ヘッド10は、フィンガー部4の先端部にワークWの加工状況を検出するためのAEセンサ12を備えている。このAEセンサ12は特に限定されるものではないが、フィンガー部4の先端部に取り付け可能な小型のものである。
【0029】
図2に、フィンガー部4の先端部を拡大して示す。
【0030】
図2に示すように、AEセンサ12は、フィンガー部4の先端部の接触子2が取り付けられている場所のすぐ横に設置される。接触子2は、加工時に実際に加工されているワークWに直接接触するものであり、その接触子2のすぐそばにAEセンサ12を取り付けることで、減衰のないS/N比の良いAE波の検出が可能となる。
【0031】
AEセンサ12が検出したAE波は、電気信号に変換されてコード14によって送出される。
【0032】
また、図1に示すように、定寸装置1は、AEセンサ管制部30を備えている。AEセンサ管制部30は、コード14を介してAEセンサ12の検出したAE波を電気信号で受け取り、データ処理を行うものである。
【0033】
AEセンサ管制部30は、そのAE信号を演算処理し、例えば加工前のワークWについて前工程での加工残りの有無や表面粗さのチェック等を行ったり、加工中におけるワークWの加工状況をチェックし、ワークWの表面粗さの推定や砥石Tのドレスタイミングの判断等を行う。
【0034】
なお、本実施形態においては、図1に示すように、AEセンサ管制部30を定寸管制部20とは別個のものとして説明したが、定寸管制部20の内部にAEセンサ管制部30の機能を組み込むようにして、定寸管制部20とAEセンサ管制部30とを一体化するようにしてもよい。このように定寸管制部20の内部にAEセンサ管制部30の機能を組み込むことによって定寸装置1の装置構成を簡略化することができる。
【0035】
図3に、定寸装置1の使用状態を概略斜視図で示す。
【0036】
図3に示すように、ワークWを砥石Tで加工する際、定寸装置1の互いに対向するように設けられたフィンガー部4の接触子2でワークWを挟んでワークWの外径を測定するとともに、フィンガー部4の先端部に設けられたAEセンサ12によってワークWの加工状況を監視する。
【0037】
すなわち、ワークWの加工にあたり、まず図示しない駆動ユニットによって測定ヘッド10が図中右方向に前進し、上下の接触子2がワークWの最大径となる位置に接するように配置される。
【0038】
次に、図示を省略した回転機構によりワークWを回転する。するとワークWの回転に伴い、ワークWの表面の状態に応じた信号がAEセンサ12から出力される。AEセンサ12からの出力信号(AE信号)は、コード14を介してAEセンサ管制部30(図1参照)に送られる。
【0039】
AEセンサ管制部30では、そのAE信号を演算処理し、加工前のワークWのチェック等を行う。すなわち、ワークWの前工程における加工残りの有無や、面粗さのチェック等が行われる。
【0040】
次に、砥石Tが図中左方向に前進し、砥石TとワークWとが接触し、ワークWの加工が開始される。ワークWと砥石Tとが接触するとAE波が発生する。このAE波をAEセンサ12で検出する。
【0041】
また、ワークWを砥石Tで加工する際、熱が発生するため、加工部に対して吹出部16から冷却及び潤滑のための油剤が注がれるようになっている。
【0042】
このように加工が開始されると、その加工状況に応じたAE信号がAEセンサ12からAEセンサ管制部30に対して出力される。AEセンサ管制部30では、必要なデータ処理を施し、ワークWの表面粗さの推定を行ったり、砥石Tのドレスタイミングの判断等を行い、加工機(研削盤)NC装置に対して制御信号を出力する。
【0043】
ここで、AE波の波形とワークWの表面粗さの間には相関関係があり、予め、様々なワーク及び砥石毎に実験を行い、その結果から、どのような表面粗さの場合には、どのようなAE波の波形が出るかを示す相関関係のデータが用意されているものとする。
【0044】
AEセンサ管制部30は、この波形と表面粗さの相関関係を示すデータを参照して、検出されたAE信号の波形からワークWの表面粗さを推定する。
【0045】
また、定寸管制部20では、測定ヘッド10の出力によりワークWの外径を検出し、予め設定された外径となるまで研削加工を行うように研削盤を制御する。
【0046】
そして、所定の寸法が得られた時点で定寸管制部20からの制御信号により、砥石Tが加工位置から後退して研削加工が終了する。
【0047】
このように本実施形態においては、フィンガー部4の先端部にAEセンサ12を設けたことにより、加工点の十分近くで、しかも実際に加工物に接触している接触子2のすぐそばに設置されたAEセンサ12で、従来のようにいくつもの介在物を介することなく、AE波を検出することができるため、減衰のない、またS/N比の良い明瞭な検出信号を得ることができる。
【0048】
また、インライン(加工中)においてAE波を検出するため、加工状況を監視することが可能であり、砥石Tの欠けや不良品の判別等を行うことができる。また、加工状況を監視することにより、砥石Tのドレス時期を検知することが可能となる。
【0049】
このようにインラインでワークWの表面粗さを推定することが可能であるため、オフラインでのワークWの表面粗さ測定を行う必要がなくなり、一つの工程を削減することが可能となる。
【0050】
また、定寸装置(測定ヘッド)が取り付けられている研削盤に対して、定寸ヘッドのフィンガー部にAEセンサを取り付ける場合には、AEセンサが取り付けられたフィンガー部をそのまま交換可能に構成しておけば、AEセンサの組み込まれたフィンガー部に交換するだけでAEセンサを簡単に設置することができる。これにより、AEセンサを取り付ける際の位置決め等の手間が不要となり、AEセンサの設置が非常に容易となる。
【0051】
以上、本発明の定寸装置について詳細に説明したが、本発明は、以上の例には限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変形を行ってもよいのはもちろんである。
【符号の説明】
【0052】
1…定寸装置、2…接触子、4…フィンガー部、10…測定ヘッド、12…AEセンサ、14…コード、16…吹出部、20…定寸管制部、30…AEセンサ管制部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
研削加工中の加工物に接触してその寸法変化を検出しこれを電気信号として出力する測定ヘッドと、前記測定ヘッドのフィンガー部に取り付けられた接触子と、
前記接触子からの電気信号に基づいて前記加工物の寸法を検出し、前記加工物が所定の寸法に加工されるように前記加工物を加工する工作機械を制御する定寸制御手段と、
前記工作機械の加工具が前記加工物に接触する際のアコースティックエミッションを検出するため、前記加工物に直接接触する部位に取り付けられたAEセンサと、
前記AEセンサの検出信号に基づいて前記加工物の加工状況を検出するAEセンサ制御手段と、
を備えたことを特徴とする定寸装置。
【請求項2】
前記AEセンサは、前記接触子の直近の前記フィンガー部に設置されたことを特徴とする請求項1に記載の定寸装置。
【請求項3】
前記フィンガー部は、前記AEセンサを設置したまま交換可能であることを特徴とする請求項2に記載の定寸装置。
【請求項4】
前記AEセンサ制御手段は、予め実験により得られた前記AEセンサの検出信号の波形と前記加工物の表面粗さとの相関関係に基づいて、前記研削加工中の加工物の表面粗さを推定することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の定寸装置。
【請求項5】
前記定寸制御手段は、前記AEセンサ制御手段の機能を内蔵し、前記定寸制御手段と前記AEセンサ制御手段とが一体化されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の定寸装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−196740(P2012−196740A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−62780(P2011−62780)
【出願日】平成23年3月22日(2011.3.22)
【出願人】(000151494)株式会社東京精密 (592)
【出願人】(598060350)株式会社東精エンジニアリング (33)
【Fターム(参考)】