説明

定着ローラ、定着装置、及び定着ローラの製造方法

【課題】より高速領域の機種に用いた場合にも省エネ性と定着性とを両立し得る定着ローラ、定着ローラを備える定着装置、及び、定着ローラの製造方法を提供する。
【解決手段】熱源114より加熱され、像を定着させる定着ローラ11であって、熱処理を施した高強度鋼管からなる芯金111を備え、芯金111は、C元素を0.18質量%以下、Si元素を0.55質量%以下、Mn元素を1.6質量%以下、P元素を0.03質量%以下、S元素を0.015質量%以下、及びTi元素を含有することを特徴とする定着ローラ11。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、定着ローラ等に関し、より詳しくは、定着装置に用いられる定着ローラ等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プリンタや複写機等には熱定着装置が使用され、かかる熱定着装置を構成する定着ローラの筒状芯金には、近年の省エネ事情によるリカバリータイム短縮やエネルギー消費効率低減の観点から、薄肉化による熱容量の低減が強く求められている。
一方、高速領域の機種においては、ニップ幅を広くとるなどして良好な定着状態を確保すべく、定着ローラと加圧ローラとを高圧下で圧接することが行われる。従って、高速領域の機種で用いられる定着ローラの筒状芯金には、より高い剛性を有することが求められる。
【0003】
そして、このような事情の下、炭素鋼で薄肉の筒状芯金を形成すると共に、貫通孔を備えた多孔質弾性層を有する加圧ローラと組み合わせた定着装置(特許文献1参照)や、添加する成分を規定することによって高剛性を実現した素材を用いて筒状芯金を形成した定着ローラ(特許文献2参照)等が提案されている。
【0004】
【特許文献1】特許第2994858号明細書
【特許文献2】特開2004−012529号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の定着装置を用いると、加圧ローラの弾性層が多孔質であるため、走行により経時的に弾性層の硬度が低下し、定着度の悪化やカール性の悪化、ハーフトーン画像ムラの発生といった問題が懸念される。
一方、特許文献2には、優れた剛性を有する定着ローラが記載されているが、同一肉厚の場合に更に高い剛性を有する芯金を用いた定着ローラが望まれていた。また、合金元素によっては、省資源性の観点から、剛性を高めるには有効と云えども添加が拒まれている元素があった。更に、高剛性の素材にあっては残留応力が大きくなる傾向となるため、センタレス研磨等を行う際に変形し易く、良好な研磨を行うことができない場合があった。
【0006】
本発明は、上記のような技術的課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、高速領域において良好な定着性と省エネ性とを両立する定着ローラを提供することにある。
また、本発明の他の目的は、高速領域において良好な定着性と省エネ性とを両立する定着ローラを備えた定着装置を提供することにある。
更に、本発明の別の目的は、高速領域において良好な定着性と省エネ性とを両立する定着ローラの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的のもと、本発明の定着ローラは、熱源より加熱され、像を定着させる定着ローラであって、熱処理を施した高強度鋼管からなる筒状体を備え、筒状体は、C元素を0.18質量%以下、Si元素を0.55質量%以下、Mn元素を1.6質量%以下、P元素を0.03質量%以下、S元素を0.015質量%以下、及びTi元素を含有することを特徴としている。
【0008】
ここで、熱処理の温度は、400℃以上750℃未満であることを特徴とすることができる。また、熱処理を施した後に、高強度鋼管中に観察される残留応力は、1.2Kgf/mm以下であることを特徴とすることができる。更に、筒状体は、その外周面に周方向に沿って形成された溝部(凹部又はつつみ状)を有することを特徴とすることができる。更にまた、溝部(凹部又はつつみ状)において、筒状体の肉厚は、少なくとも部分的に0.5mm以下であることを特徴とすることができる。
【0009】
なお、高強度鋼管の鋼材については、引っ張り強さが780N/mm以上、降伏応力が550N/mm以上、伸びが10%以上であることを特徴とすることができる。また、高強度鋼管の鋼材は、圧下率50%以下で圧延した後、強冷却して形成されたものであって、鋼材中に観察されるフェライト結晶の粒径は、5μm以下であることを特徴とすることができる。
【0010】
一方、本発明は定着装置として捉えることもでき、本発明の定着装置は、被転写体上に担持されたトナー像を定着する定着装置であって、熱源と、熱源より加熱される定着ローラと、を備え、定着ローラは、C元素を0.18質量%以下、Si元素を0.55質量%以下、Mn元素を1.6質量%以下、P元素を0.03質量%以下、S元素を0.015質量%以下、及びTi元素を含有する高強度鋼管に熱処理を施してなる筒状体を備えることを特徴としている。
ここで、定着ローラは、筒状体を芯金としてその表面に外形層を有することを特徴とすることができる。
【0011】
また、本発明は定着ローラの製造方法として捉えることもでき、本発明の定着ローラの製造方法は、C元素を0.18質量%以下、Si元素を0.55質量%以下、Mn元素を1.6質量%以下、P元素を0.03質量%以下、S元素を0.015質量%以下、及びTi元素を含有する高強度鋼管に熱処理を施し、筒状体を形成する工程を有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高速領域において良好な定着性と省エネ性とを両立する定着ローラ及び定着装置等が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1は、本実施の形態における定着装置1の構成を示す側面図である。図1に示すように、被転写体(記録材)上に担持されたトナー像を定着する定着装置1は、記録材の表面に担持されたトナー像に当接してトナー像を加熱する定着ローラ11と、この定着ローラ11に対向して圧接配置された加圧ローラ12とにより主要部が構成されている。
【0014】
定着ローラ11は、筒状体の一例としての円筒状の芯金111と、その外周面に積層される外形層(本実施の形態においては、芯金111の外周面に積層される耐熱性弾性体層112と、この耐熱性弾性体層112の外周面に積層される離型層113とを総称して、外形層と呼ぶ)とを備えている。また、芯金111の内部には、ハロゲンヒータ等からなる熱源114が配設されている。
一方、加圧ローラ12は、芯金121の外周面に耐熱性弾性体層122と、更にその外周面に耐熱性樹脂被膜あるいは耐熱性ゴム被膜による離型層123とが積層して形成されたものである。
そして、定着ローラ11と加圧ローラ12との圧接部(ニップ部)Nに、未定着のトナー像を担持した記録材を通過させて、未定着トナー像に対して加熱と加圧とを行うことによって、記録材にトナー像を定着することができる。
なお、ニップ部Nの上流側近傍には、定着ローラ11近傍まで搬送される記録材をニップ部Nに送り込む搬送シュート2が配設されている。また、ニップ部Nの下流側近傍には、剥離補助部材3が配設され、定着ローラ11から剥離された記録材を完全に定着ローラ11から分離する。
【0015】
次に、芯金111について説明する。本実施の形態における芯金111は、C元素を0.18質量%以下、Si元素を0.55質量%以下、Mn元素を1.6質量%以下、P元素を0.03質量%以下、S元素を0.015質量%以下、及びTi元素を含有するものである。
また、このような芯金111は、C元素を0.18質量%以下、Si元素を0.55質量%以下、Mn元素を1.6質量%以下、P元素を0.03質量%以下、S元素を0.015質量%以下、及びTi元素を含有する高強度鋼管に熱処理を施して形成することができる。
なお、本実施の形態において、「鋼」とは、Fe元素と他の元素との合金を意味する。
【0016】
上記芯金111中に含まれる各元素の含量、又は、上記高強度鋼管中に含まれる各元素の含量については、以下の通りである。
(1)C元素の含量としては、0.18質量%以下、好ましくは0.153質量%以下、より好ましくは0.066質量%以下であり、下限としては通常0.01質量%以上、好ましくは0.015質量%以上、より好ましくは0.02質量%以上である。
(2)Si元素の含量としては、0.55質量%以下、好ましくは0.195質量%以下、より好ましくは0.026質量%以下であり、下限としては通常0.01質量%以上、好ましくは0.015質量%以上、より好ましくは0.02質量%以上である。
(3)Mn元素の含量としては、1.6質量%以下、好ましくは0.140質量%以下、より好ましくは0.75質量%以下であり、下限としては通常0.01質量%以上、好ましくは0.015質量%以上、より好ましくは0.02質量%以上である。
(4)P元素の含量としては、0.03質量%以下、好ましくは0.015質量%以下、より好ましくは0.012質量%以下であり、下限としては通常0.005質量%以上、好ましくは0.0075質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上である。
(5)S元素の含量としては、0.015質量%以下、好ましくは0.004質量%以下であり、下限としては通常0.0005質量%以上、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.002質量%以上である。
(6)Ti元素の含量としては、通常、微量である。
【0017】
更に、上記薄肉の芯金111中に含まれる各元素の含量、又は、上記高強度鋼管中に含まれる各元素の含量について、他の元素については以下の通りである。
(7)Nb元素の含量としては、好ましくは0%(検出限界以下)である。Nb元素の添加は、鋼の剛性を向上させる方法として有効ではあるが、天然資源としての存在量が限られていることから、上記割合が過度に大きいことは望ましくない。
(8)Mo元素の含量としては、好ましくは0%(検出限界以下)である。
【0018】
なお、上記各元素の含量については、JIS G0321に準拠して測定される値として評価したものである。
【0019】
本実施の形態において、芯金111は、高強度鋼管に熱処理を施してなるものである。
まず、上記高強度鋼管の各種鋼材特性として、引っ張り強さとしては、通常780N/mm以上、好ましくは800N/mm以上であり、通常910N/mm以下、好ましくは850N/mm以下である。鋼材の引っ張り強さが過度に大きいと、管の真円度不良やフレが大きいなど加工が困難な場合がある。また、過度に小さいと、管の強度が低下して塑性変形等が発生し、特に高速な機器に使用される定着ローラとしては不適当な場合や、使用が不可能な場合がある。
更に、上記鋼材の伸びとしては、通常10%以上、好ましくは12%以上である。鋼材の伸びが過度に大きい場合や過度に小さい場合、引っ張り強さの時の場合と同様な不具合を生じる可能性がある。
【0020】
なお、本実施の形態において、「引っ張り強さ」、「伸び」の値は、以下のようにして測定された値である。
即ち、まず、外径35mmの鋼管を研磨し、外径34.4mm、厚み0.4mm(両端部の厚みは0.6mm)、長さ380mmの円筒形状の鋼管を測定対象として用いた。そして、上記鋼管を試験機にクランプしたときのつぶれを防止するため、鋼管の両端部に、長さ80mmの鉄棒を挿入後、試験機にバイスでクランプし、万能試験機(UEH−30型、島津製作所社製)の油圧調整つまみを調整しつつ、荷重計を観察しながら急激な荷重上昇がないように徐々に上記鋼管に荷重を加える方法で測定した。なお、引張速度は30〜40mm/minの範囲であった。その後、材料(鋼管)の破断時での荷重、及び、伸びを記録すると共に、当該荷重値と試験前に計測した鋼管の厚みから求めた鋼管の断面積とから、引っ張り強さを計算により求めた。
【0021】
上記高強度鋼管の鋼材としては、圧下率50%以下、特に45%以下で圧延した後、強冷却して形成されたものであることが好ましい。
ここで、圧下率(%)=[(入側板厚−出側板厚)/入側板厚]×100である。
また、そのようにして得られた鋼材中に観察される、フェライト結晶の粒径としては、通常5μm以下、好ましくは4μm以下、より好ましくは2μm以下である。フェライト結晶の粒径が過度に大きいと、低温状態での粘り強さに欠ける場合がある。
なお、本実施の形態において用いられる高強度鋼管の鋼材としては、市販品を用いることができる。
【0022】
次に、上記高強度鋼管に施す熱処理条件について、熱処理の温度としては、通常400℃以上、好ましくは450℃以上、より好ましくは500℃以上、更に好ましくは550℃以上、特に好ましくは600℃以上であり、上限として通常750℃未満、好ましくは650℃以下、より好ましくは630℃以下である。熱処理の温度が過度に小さいと、高強度鋼管中に含まれていた残留応力を低減する効果が得られない場合がある。一方、熱処理の温度が過度に大きいと、熱処理後の芯金111の引っ張り強度が小さくなり過ぎる場合がある。
中でも、熱処理温度が450℃以上であると、高強度鋼管中に含まれていた残留応力が急激に低減するため好適である。
更に、熱処理温度が550℃以上であると、高強度鋼管中に含まれていた残留応力がほぼ解消されるため好適である。
【0023】
また、熱処理の時間としては、通常60分以上、好ましくは90分以上であり、上限として通常120分以下、好ましくは100分以下である。熱処理時間が上記範囲を逸脱すると、所望の機械的特性が出ない場合がある。
なお、上記熱処理の環境としては、酸素を遮断した熱処理炉環境が、芯金111の出来栄えを確保する観点から好適である。
【0024】
本実施の形態において、上記のような熱処理を施した後、高強度鋼管中に観察される残留応力としては、通常1.2Kgf/mm以下、好ましくは1.0Kgf/mm以下、より好ましくは0.8Kgf/mm以下である。上記残留応力が過度に大きいと、後述のセンタレス研磨を行う際に適切な研磨が困難になる場合がある。また、芯金111の経時的な使用により表面が傷つくと、残留応力により傷が成長するなど変形を増長させてしまう場合がある。
【0025】
本実施の形態において、芯金111は、上記のような熱処理の後に、更にセンタレス研磨処理が施されて形成されたものである。このようなセンタレス研磨を施すことにより、加工硬化によって、芯金111の引っ張り強さを向上させ得る場合がある。
なお、本実施の形態において、センタレス研磨とは、その外周面を周方向に沿って研磨する処理のことをいう。研磨部の場所としては、その外周面全面であっても良いし、例えば中央部や端部など、外周面の一部のみであっても良い。
【0026】
図2は、円筒状の芯金111の軸方向に沿った縦断面図を示すものである。図2において芯金111は、外径Xを有する略円筒体であり、その外周面中央部において周方向に沿った溝部(凹部又はつつみ状)Cが形成されている(以下、外周面において周方向に沿った溝部(凹部又はつつみ状)Cを形成する加工を、「プロファイル加工」と記載することがある)。
そして、溝部(凹部又はつつみ状)Cは、センタレス研磨によって形成されたものであり、溝部(凹部又はつつみ状)Cの最も深い位置から円筒端面に向けて、溝部(凹部又はつつみ状)Cの深さがなだらかに浅くなる断面形状を有するものである。なお、図2に示す通り、溝部(凹部又はつつみ状)Cの最も深い部分(肉厚の最も小さい部分)の側壁厚みがy1であり、溝部(凹部又はつつみ状)Cの形成されていない部分(肉厚の最も大きい部分)の側壁厚みがy2である。
【0027】
ここで、上記y1の値としては、通常0.5mm以下、好ましくは0.4mm以下であり、下限として、通常0.1mm以上、好ましくは0.15mm以上である。
また、上記y2の値としては、通常0.5mm以上、好ましくは0.6mm以上であり、上限として、通常1.0mm以下、好ましくは0.9mm以下である。
y1,y2の値が過度に大きいと、定着ローラの熱容量が大きくなり、リカバリータイムや省エネ性の観点から好ましくない。一方、上記肉厚が過度に小さいと、定着ローラの剛性に劣る場合がある。
【0028】
一方、上記外径Xの値としては、通常15mm以上、好ましくは20mm以上であり、上限として、通常50mm以下、好ましくは40mm以下である。外径Xが過度に大きいと、加圧ローラとのニップ部での変形、円筒度不良が発生する場合や、熱容量が大きくなる場合があり、リカバリータイムや省エネ性の観点から好ましくない。一方、過度に小さいと、加圧ローラとのニップ部におけるニップ幅が小さくなり、トナー像の定着性に劣る場合がある。
【0029】
なお、上記y2や外径Xの大きさを調節する方法としては、原管の一例としての電縫鋼管を製造する際の製造条件を調節しても良いし、電縫鋼管を適宜延伸すること(伸管すること)により調節しても良い。
【0030】
ここで、伸管時の減面率としては、通常15%以上、好ましくは20%以上である。減面率が過度に小さいと、引っ張り強さや降伏点が低下する場合がある。
なお、本実施の形態において「減面率」とは、伸管前後での鋼管断面積の減少率のことであり、伸管工程の加工率を表わしている。具体的には、伸管前の管の断面における管の部分の断面積に対する、伸管後の管の断面における管の部分の断面積の比を百分率で表したものである。
【0031】
一方、上記y1の大きさを調節する方法としては、センタレス研磨条件を調節すれば良い。ここで、センタレス研磨の具体的な方法としては、例えば、芯金111の外周面に形成しようとする溝部(凹部又はつつみ状)Cの断面形状(凹部形状)に合致する凸部形状を断面形状として有する砥石を用い、芯金111の外周面の研磨を行う方法を挙げることができる。
【0032】
なお、上記センタレス研磨を行う場合、用紙走行安定性や画質等の観点から、センタレス研磨後の真円度を良好に保つことが望まれる。本実施の形態において「真円度」とは、JIS−B 7451に準拠して測定される指標であり、測定物の円周方向の半径変化又は円周方向及び軸方向の半径変化の測定に関する指標である。
本実施の形態において、センタレス研磨後の真円度としては、通常40μm以下、好ましくは30μm以下、より好ましくは20μm以下である。
【0033】
次に、耐熱性弾性体層112(図1参照)について説明する。本実施の形態における耐熱性弾性体層112は、定着性の向上やカラートナー画像定着への対応を図るために、好ましく採用される構成である。耐熱性弾性体層112の材料としては、シリコーンゴム、フッ素ゴム等が挙げられるが、特にシリコーンゴムが、弾性と熱的安定性に優れる点で好ましい。
【0034】
上記シリコーンゴムとしては、例えば、RTVシリコーンゴム、HTVシリコーンゴム等が挙げられ、具体的には、例えば、ポリジメチルシリコーンゴム(MQ)、メチルフェニルシリコーンゴム(PMQ)、メチルビニルシリコーンゴム(VMQ)、フルオロシリコーンゴム(FVMQ)などが挙げられる。
【0035】
なお、耐熱性弾性体層112の厚みとしては、通常0.3mm以上、好ましくは0.4mm以上、より好ましくは0.5mm以上であり、上限として、通常、1.2mm以下、好ましくは1.0mm以下、より好ましくは0.8mm以下である。当該厚みが過度に大きいと、熱伝導性が悪化し、定着不良やリカバリータイムが増大する場合があり、一方、過度に小さいと、剥離不良や圧力ムラによる画質劣化等を引き起こす場合がある。
【0036】
更に、離型層113について説明する。本実施の形態における離型層113は、定着時におけるトナーとの離型性を向上させるために、好ましく採用される構成である。離型層113の材質としては、フッ素ゴム、シリコーンゴム、フッ素樹脂等が用いられるが、これらの中で、フッ素樹脂が特に好ましい。
【0037】
上記フッ素樹脂としては、従来公知のフッ素樹脂であれば如何なるものでも使用することができる。具体的には、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、エチレン・テトラフルオロエチレン系共重合体(PVdFまたはETFE)等が挙げられる。
【0038】
なお、離型層113の厚みとしては、通常10μm以上、好ましくは20μm以上、より好ましくは30μm以上であり、上限として、通常、100μm以下、好ましくは70μm以下、より好ましくは50μm以下である。当該厚みが過度に大きいと、熱伝導性が悪化し、定着不良やリカバリータイムが増大する場合があり、一方、過度に小さいと、熱膨張の繰り返しによる離型層の皺寄りや、亀裂が発生する場合がある。
【0039】
上記耐熱性弾性体層112,離型層113の積層方法としては、公知の方法を用いることができる。フッ素樹脂よりなる層については、例えば、フッ素樹脂を含む液を耐熱性弾性体層112の表面にコートし、加熱処理により焼き付けてもよいし、耐熱性弾性体層112にフッ素樹脂チューブを被せることにより形成してもよい。
【0040】
本実施の形態の定着装置1において、定着ローラ11は、加圧ローラ12に圧接配置されるものである。この場合、両者の圧接圧力としては、通常0.098MPa以上、好ましくは0.118MPa以上であり、上限として、通常0.294MPa以下、好ましくは0.196MPa以下である。このような圧接圧力とすることは、定着ローラ11を加圧ローラ12と圧接した際に、プロファイル加工された芯金111を適切に撓ませ、記録材上に形成されたトナー像を良好に定着させる観点から有効である。
【0041】
本実施の形態の定着ローラ11は、薄肉としても高剛性を確保可能な芯金111を備えたものである。薄肉であることは熱容量が小さいことにつながり、また、剛性が高いことは、加圧ローラ12との間に高い圧力が加わった場合にも変形し難いことを意味する一方、加圧ローラ12側が変形し、ニップ幅を広く取ることが可能となることを意味する。
即ち、熱容量が小さいため、ウォームアップタイムやリカバリータイムが短く、省エネ性に優れると共に、高剛性であるため、高速印刷用の画像形成装置等に用いた場合にも被転写体の通過時間(トナーに対する加熱時間)を長く取ることができ、良好な定着性を実現することが可能となる。
【0042】
また、剛性が高いことは、芯金111の径を大きく設定した場合にも過度に撓んだり潰れたりし難いことを意味し、実用上問題のない、大きな径を有する定着ローラ11の設計が可能である。径が大きくなると、定着ローラ11と加圧ローラ12とのニップ幅を広く取ることが可能となるため、被転写体の通過時間を長く取ることができ、定着ローラ11自体の加熱温度を低く設定することができる。つまり、被転写体の温度、或いは画像形成装置(定着装置)の温度を不必要に上昇させずに済み、非常に好ましい。
【0043】
更に、本実施の形態において、芯金111の外周面上にはプロファイル加工による溝部(凹部又はつつみ状)Cが形成されている。定着ローラ11の形状として外周面に溝部(凹部又はつつみ状)Cを有することは、定着ローラ11を被転写体が通過する際の用紙しわの発生防止や用紙走行安定性を向上させる観点から好適である。
ここで、筒状体を形成する素材として高剛性の素材を採用する場合には、素材中に残留応力が内在し易い傾向となり、内在する残留応力が大きな場合には筒状体のプロファイル加工時に筒状体が変形し、砥石の研磨面の形状が適切に反映されず、円筒度も損なわれる場合がある。
然るに、本実施の形態においては、適切な熱処理がなされているために残留応力が低減されており、所望の加工形状を実現し易く、プロファイル加工時に円筒度が損なわれる可能性が低い。
【0044】
また、本実施の形態の定着装置1は、本実施の形態の定着ローラ11を備えるものである。従って、ウォームアップタイムやリカバリータイムが短く、省エネ性に優れ、高速領域での印刷においても良好な定着性を示す。このような定着装置1を用いることにより、複写機、プリンタ等の高速化、省電力化、高耐久化を達成することができる。
【実施例】
【0045】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0046】
[実施例1〜6,比較例1]
C元素を0.18質量%以下、Si元素を0.55質量%以下、Mn元素を1.6質量%以下、P元素を0.03質量%以下、S元素を0.015質量%以下、及びTi元素を含有するFe系材料を素管(原管)として用い、減面率約18%(φ29.00mmからφ26.22mmへ変化)で伸管した。伸管後の肉厚は0.74mmであった。なお、冷間伸管時の伸管速度は500mm/秒〜600mm/秒であった。
その後、表1に示す条件にて熱処理を行い、筒状体を得た。得られた筒状体のプロファイル加工性について評価した。結果を表1に示した。
次に、上記プロファイル加工を施して得られた筒状体を用い、図1に示す態様にて定着装置を形成して、その高速定着性と省エネ性とを評価した。結果を表1に併記した。
【0047】
【表1】

【0048】
[開き量(mm)]
筒状体の外周表面に対してレーザーを照射し、軸方向に沿って、ロール長全長に渡りレーザーを照射した際の、直後の開き幅をノギス等用いて測定した。
ここで、当該「開き量」なる指標は、筒状体中に残存する残留応力を簡易的に測定する手法である。なお、開き量と残留応力との相関について、図3に示した。
[加工性(真円度)]
センタレス研磨を行い(プロファイル加工)、以下の基準にて評価した。
◎:センタレス研磨を良好に行うことができ、得られた筒状体の円筒度は15μm未満であった。
○:センタレス研磨を良好に行うことができ、得られた筒状体の円筒度は15μm以上25μm未満であった。
△:センタレス研磨を行うことはできたが、得られた筒状体の円筒度は25μm以上であった。
×:センタレス研磨を行う際の筒状体の変形が大きく、センタレス研磨を行うことができなかった。
[プロファイル加工の有無]
上記センタレス研磨を行っている場合には「有り」と表記した。
[高速定着性]
トナー像を形成した記録材を定着装置に通過させ、目視により、以下の基準で評価した。
◎:ライン速度250mm/秒以上においても、均一で良好な定着が可能であった。
○:ライン速度200mm/秒以上250mm/秒未満において、均一で良好な定着が可能であった。
△:ライン速度100mm/秒以上200mm/秒未満において、均一で良好な定着が可能であった。
×:ライン速度100mm/秒未満においても、均一な定着は、不可能であった。
[省エネ性]
定着ローラの昇温を開始してから、定着ローラ表面が200℃になるまでの時間を測定し、以下の基準で評価した。
◎:定着ローラ表面が所定温度になるまでの時間が12秒未満であった。
○:定着ローラ表面が所定温度になるまでの時間が12秒以上15秒未満であった。
△:定着ローラ表面が所定温度になるまでの時間が15秒以上30秒未満であった。
×:定着ローラ表面が所定温度になるまでの時間が30秒以上であった。
【0049】
表1の結果から、以下の事項を読み取ることができる。
(a)実施例と比較例との比較から、熱処理を加えた筒状体についてはセンタレス研磨を良好に行うことができる。即ち、実施例においては、定着ローラ用芯金として良好な形状を有する筒状体を得ることができた。
(b)実施例1〜4と実施例5との比較から、熱処理温度によって、残留応力値が変化した。特に熱処理温度450℃付近に変極点が観察された(図4参照)。
(c)実施例1,2と実施例3〜5との比較から、熱処理温度が550℃以上であると観察される残留応力値がほぼ消失し(図4参照)、プロファイル加工後に、特に円筒度の高い筒状体を得ることができた。熱処理温度が550℃〜600℃であった筒状体を用いた定着ローラは、特に優れた高速定着性を示すものであった。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本実施の形態における定着装置の構成を示す側面図である。
【図2】円筒状の芯金の軸方向に沿った縦断面図を示すものである。
【図3】開き量と残留応力との相関を示す図である。
【図4】実施例1〜6について、熱処理温度と開き量との相関を示す図である。
【符号の説明】
【0051】
1…定着装置、2…搬送シュート、3…剥離補助部材、11…定着ローラ、12…加圧ローラ、111,121…芯金、112,122…耐熱性弾性体層、113,123…離型層、114…熱源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱源より加熱され、像を定着させる定着ローラであって、
熱処理を施した高強度鋼管からなる筒状体を備え、
前記筒状体は、C元素を0.18質量%以下、Si元素を0.55質量%以下、Mn元素を1.6質量%以下、P元素を0.03質量%以下、S元素を0.015質量%以下、及びTi元素を含有することを特徴とする定着ローラ。
【請求項2】
前記熱処理の温度は、400℃以上750℃未満であることを特徴とする請求項1記載の定着ローラ。
【請求項3】
前記熱処理後に、高強度鋼管中に観察される残留応力は、1.2Kgf/mm以下であることを特徴とする請求項1又は2記載の定着ローラ。
【請求項4】
前記筒状体は、その外周面に周方向に沿って形成された溝部(凹部又はつつみ状)を有することを特徴とする請求項1、2又は3記載の定着ローラ。
【請求項5】
前記溝部(凹部又はつつみ状)において、前記筒状体の肉厚は、少なくとも部分的に0.5mm以下であることを特徴とする請求項4記載の定着ローラ。
【請求項6】
前記高強度鋼管の鋼材は、引っ張り強さが780N/mm以上、降伏応力が550N/mm以上、伸びが10%以上であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の定着ローラ。
【請求項7】
前記高強度鋼管の鋼材は、圧下率50%以下で圧延した後、強冷却して形成されたものであって、前記鋼材中に観察されるフェライト結晶の粒径は、5μm以下であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の定着ローラ。
【請求項8】
被転写体上に担持されたトナー像を定着する定着装置であって、
熱源と、
前記熱源より加熱される定着ローラと、を備え、
前記定着ローラは、C元素を0.18質量%以下、Si元素を0.55質量%以下、Mn元素を1.6質量%以下、P元素を0.03質量%以下、S元素を0.015質量%以下、及びTi元素を含有する高強度鋼管に熱処理を施してなる筒状体を備えることを特徴とする定着装置。
【請求項9】
前記定着ローラは、前記筒状体を芯金としてその表面に外形層を有することを特徴とする請求項8記載の定着装置。
【請求項10】
C元素を0.18質量%以下、Si元素を0.55質量%以下、Mn元素を1.6質量%以下、P元素を0.03質量%以下、S元素を0.015質量%以下、及びTi元素を含有する高強度鋼管に熱処理を施し、筒状体を形成する工程を有することを特徴とする定着ローラの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−241119(P2007−241119A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−66462(P2006−66462)
【出願日】平成18年3月10日(2006.3.10)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】