説明

定着用ローラ

【目的】電磁誘導加熱を利用して金属製薄肉スリーブを発熱させる際に、出力ロスを抑えた状態で、発熱させることを実質的に可能とする定着用ローラを提供することである。
【構成】この発明に係わる定着用ローラ12は、合成樹脂製の芯体16と、この芯体16の外周を取り巻くように配設された少なくとも独立気泡型の多孔質体層22と、この多孔質体層22の外周を被覆すると共に、電磁誘導により発熱可能な薄肉金属製のスリーブ基材26a及びこのスリーブ基材26aの外周面を被覆するように配設された弾性層26bを備える金属製薄肉スリーブ26と、この金属製薄肉スリーブ26の外周に被覆された離型層28とを具備することを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、合成樹脂製の芯体の外周を多孔質体層で覆い、更に、この多孔質体層の外周を金属製薄肉スリーブで被覆した構成の定着用ローラに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、複写機・プリンタ・ファクシミリ等の画像形成装置において、電子写真方式・静電記録方式・磁気記録方式等の適宜の作像プロセス機構により被記録材(転写材・感光紙・静電記録紙・印刷紙等)に転写方式(間接方式)或いは直接方式で目的の画像情報に対応させて形成担持させた未定着トナー像を、被記録材面に加熱・加圧定着させるための定着装置としては、定着ローラ及び加圧ローラを備えた所謂2ローラ方式の装置構成が広く用いられている。
【0003】
ここで、本願特許出願と同一出願人より、特許文献1に示すように、「芯金とこれの外周を取り巻くように配設された少なくとも独立気泡を有する多孔質体層とを備えて構成される多孔質体を、金属製薄肉スリーブの内径寸法以上の外径寸法を有するように加工する第1の工程と、この多孔質体の外周面及び前記金属製薄肉スリーブの内周面の少なくとも一方に接着剤を塗布する第2の工程と、前記多孔質体と金属製薄肉スリーブとを加圧容器内に収納して加圧し、該多孔質体の外径を、該金属製薄肉スリーブの内径よりも径小にさせる第3の工程と、前記加圧容器内において、前記多孔質体を前記金属製薄肉スリーブ内に挿入して、スリーブ体を形成する第4の工程と、前記スリーブ体を、前記加圧容器から取り出し、前記多孔質体が膨張して該多孔質体の外周面を前記金属製薄肉スリーブの内周面に密着させる第5の工程と、前記接着剤を固化して、前記多孔質体と前記金属製薄肉スリーブとを接着する第6の工程とを具備することを特徴とする定着用ローラの製造方法。」が提供され、この製造方法により製造された定着用ローラは、実際に回転駆動させた状態において、長期間に渡り使用可能な状態を継続させることができるとされている。
【特許文献1】特開2004−53924号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、この特許文献1に記載の技術においては、定着ローラの外周に配設された発熱源としてのハロゲンランプに代わり電磁誘導加熱装置を用いることを考える場合、この電磁誘導加熱装置により、芯金自体が発熱してしまい、出力ロスを引き起こして、効率低下を招くことになり、実質的に、電磁誘導加熱装置を用いるメリットを発揮出来ないでいた。
【0005】
また、仮に、出力ロスという問題点を無視したとしても、弾性層としてシリコーンゴムを発泡させてなるスポンジ(以下、単にシリコーンスポンジと言う。)が採用されているため、電磁誘導加熱装置により芯金が発熱することにより、シリコーンスポンジにおける芯金との界面が熱劣化して、耐久性を低下させる結果を引き起こすことになり、この観点でも、電磁誘導加熱装置を用いるシステムの実用化には遠く及ばないものであった。
【0006】
この発明は、上述した事情に鑑みなされたもので、この発明の主たる目的は、電磁誘導加熱を利用して金属製薄肉スリーブを発熱させる際に、出力ロスを抑えた状態で、発熱させることを実質的に可能とする定着用ローラを提供することである。
【0007】
また、この発明の他の目的は、電磁誘導加熱を利用して金属製薄肉スリーブを発熱させた場合においても、多孔質体層の芯金との界面の熱劣化を効果的に抑制することの出来る定着用ローラを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した問題点を解決し、目的を達成するため、この発明に係わる定着用ローラは、請求項1の記載によれば、合成樹脂製の芯体と、この芯体の外周を取り巻くように配設された少なくとも独立気泡型の多孔質体層と、この多孔質体層の外周を被覆すると共に、電磁誘導により発熱可能な薄肉金属製のスリーブ基材及びこのスリーブ基材の外周面を被覆するように配設された弾性層を備える金属製薄肉スリーブと、この金属製薄肉スリーブの外周に被覆された離型層とを具備することを特徴としている。
【0009】
また、この発明に係わる定着用ローラは、請求項2の記載によれば、前記芯体を構成する合成樹脂は、エンジニアリングプラスティックスであることを特徴としている。
【0010】
また、この発明に係わる定着用ローラは、請求項3の記載によれば、前記エンジニアリングプラスティックスは、芳香族ポリアミドを含むことを特徴としている。
【0011】
また、この発明に係わる定着用ローラは、請求項4の記載によれば、前記エンジニアリングプラスティックスは、補強材が含有されていることを特徴としている。
【0012】
また、この発明に係わる定着用ローラは、請求項5の記載によれば、前記補強材は、ガラス繊維を含むことを特徴としている。
【0013】
また、この発明に係わる定着用ローラは、請求項6の記載によれば、前記多孔質体は、エマルジョン組成物から調製されたシリコーンエラストマ−から形成されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
この発明によれば、芯体を合成樹脂製とすることで、この定着用ローラを電磁誘導加熱装置により加熱されるシステム中で用いると、芯体が電磁誘導により発熱することが無く、出力ロスが効果的に抑えられ、エネルギーの有効利用を図ることができ、この結果、電磁誘導加熱装置からのエネルギーを、薄肉スリーブの発熱に出力ロスすることなく集中的に利用することができ、この薄肉スリーブを定着可能温度にするための発熱時間を短くすることができることになる。
【0015】
また、この発明によれば、芯体を合成樹脂製としたため、この定着用ローラを電磁誘導加熱装置により加熱されるシステム中で用いると、芯体が電磁誘導により発熱することが無く、多孔質体における芯金との界面が、熱劣化することなく、耐久性が良好に維持されることになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、添付図面を参照して、この発明に係わる定着用ローラの一実施例の構成を説明するが、以下の説明においては、この発明に係わる定着用ローラを、2ローラ方式の定着装置の定着ローラに適用した場合につき、詳細に説明するものとする。
【0017】
(定着装置10の説明)
まず、定着装置10の概略構成を、図1を参照して説明する。この定着装置10には、この発明に係わる一実施例の定着用ローラが適用されるところの、加熱用回転体としての定着ローラ12が装着されている。また、この定着ローラ12には、加圧部材としての加圧ローラ14が、所定の圧力で転接している。
【0018】
また、この定着ローラ12の外周には、この定着ローラ12の表面を外部より発熱するための外部発熱手段としての電磁誘導加熱方式を利用した電磁誘導加熱器40が非接触の状態で配設されている。更に、この定着ローラ12の外周面には、この表面温度を測定するためのサーミスタ38が接触配置されている。
【0019】
この定着ローラ12は、鉄等の金属製駆動軸の長手方向端部にある不図示の駆動ギアを介して、不図示の駆動系により、矢印で示す方向に回転駆動されるように構成されている。一方、加圧ローラ14は、鉄製の芯金18の長手方向両端部にある不図示の軸受を介して、不図示の加圧バネにより、定着ローラ12側へ圧接された状態で、定着ローラ12の回転に従動して矢印で示す方向に回転する。参照符号Nは、この両ローラ12、14が互いに転接する圧接ニップ部を示している。
【0020】
(定着ローラ12の説明)
この発明の一実施例に係わる定着ローラ12は、図2に取り出して示すように、合成樹脂製の芯体16と、この芯体16の外周に、第1の接着剤層20を介してこれを取り巻くように配設された多孔質体層22と、この多孔質体層22の外周を被覆するように、第2の接着剤層24を介して接着された金属製薄肉スリーブ26と、この金属製薄肉スリーブ26の外周に被覆された離型層28とを備えて、基本的に構成されている。詳細は後述するが、金属製薄肉スリーブ26は、多孔質体層22の外周を被覆すると共に、電磁誘導により発熱可能な薄肉金属製のスリーブ基材26a及びこのスリーブ基材26aの外周面を被覆するように配設された弾性層26bを備えるように構成されており(図3)、上述した離型層28は、金属製薄肉スリーブ26の外周、即ち、弾性層26bの外周を被覆するように配設されているものである。
【0021】
上述した第1及び第2の接着剤層20,24を構成する接着剤は、共に、例えばシリコーンゴム系接着剤が用いられており、例えば、2液付加LTV(商品名:SE1700、東レ・ダウコーニング・シリコーン社製)が用いられている。また、RTV(商品名:KE45、信越化学工業社製)の接着剤も、用いられ得るものである。
【0022】
一方、上述した多孔質体層22を構成する多孔質体として、本願出願と同一の出願人より本願発明で用いられる独立気泡型の多孔質体として、特許文献2に示す特許出願がなされている。
【特許文献2】特開2005−206784号公報
【0023】
即ち、この一実施例において、多孔質体層22を構成する多孔質体としては、この特許文献2に開示された多孔質体を用いているものであり、具体的には、独立気泡型のシリコーンエラストマー多孔質体であり、更に詳細には、シリコーンエラストマーで作られた母体(マトリックス)とこの母体中に分散・分布した多数の閉じたセル(独立気泡)を含むものと表現することができるものであるが、既に特許文献2の実施例1に開示されているため、その説明を省略するが、本願発明の特徴として以下詳細に説明しているように、芯体を合成樹脂製としているので、多孔質体層22は、チューブ上に加工したものを芯体16に外嵌させて接着させても良いし、芯体16の材料を構成する合成樹脂が耐熱性のある樹脂の場合には、芯体16の外周に直接に射出成形しても良いものである。
【0024】
ここで、本件発明の特徴をなす事項であるが、芯体16は、上述したように合成樹脂製であり、具体的には、エンジニアリングプラスティックス(三菱エンプラ社製:商品名レニー:型番1022H)から例えば一体成形されている。特に、この実施例では、芯体16は、ガラス繊維で強化されており、そのガラス繊維の含有量は50%となっている。また、物理的性質としての密度は、1.65(g/cm)を呈し、吸水率としては、0.14%(但し、20℃水中、24h)、1.1%(但し、50%RH平衡)を呈するように形成されている。
【0025】
また、この一実施例で用いられる芯体16を構成する合成樹脂は、機械的特性として、曲げ強度は390(Mpa)であり、曲げ弾性率は18,400(Mpa)を呈するように形成されている。更に、上述した合成樹脂は、熱的特性として、荷重たわみ温度として、230℃(1.80Mpa時)及び238℃(0.45Mpa時)を、また、線膨張係数として、1.E−5(1/℃)(MD)及び4.E−5(1/℃)(TD)を、夫々呈するように形成されている。尚、上述した合成樹脂は、この実施例においては、電気的特性としては、導電性を有することは必須ではなく、導電性を帯びることが好ましい場合には、導電性を担保する導電材(例えばカーボンブラック等)を混入することにより、任意の範囲で体積抵抗率や表面抵抗率を呈するように形成することが出来るものである。
【0026】
尚、この実施例における芯体16を構成する合成樹脂は、上述したようなエンジニアリングプラスティクス(三菱エンプラ社製:商品名レニー:型番1022H)に限定されること無く、例えば、同社製の型番1002H等も用いることが出来ることは、言うまでもない。要は、この定着ローラの使用状況に応じて適切な仕様を呈するエンジニアリングプラスティックスを任意に用いることが出来るものである。
【0027】
上述した芯体16を構成する合成樹脂の材料(組成物)としては、芳香族ポリアミド、ガラス繊維、及び導電材粒子を含み、脂肪族ポリアミドを更に含みえる樹脂組成物から形成されるものである。芳香族ポリアミドは、主鎖に芳香族基を有するポリアミドであり、メタキシリレンジアミンと、アジピン酸、グルタル酸、ピメリン酸等のα、ω−脂肪族ジアルボン酸との重縮合反応により得られるものである。メタキシリレンジアミンとアジピン酸とか得られる芳香族ポリアミドは、ポリアミドMXD6として知られている。
【0028】
脂肪族ポリアミドは、ヘキサメチレンジアミン等のポリメチレンジアミンと脂肪族ジカルボン酸との重縮合物の構造を有し、ポリアミド6、ポリアミド6.6等が含まれる。ガラス繊維としては、それ自体既知のものを用いることが出来るものである。
【0029】
ガラス繊維の直径は、1〜50μmであることが好ましく、またその長さは、0.1〜10mmであることが好ましいものである。
【0030】
導電材としては、チャンネルブラック、ファーネスブラック、サーマルブラック、ランプブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラック等のカーボンブラックや、炭素繊維等を好適に用いることが出来るものである。また、炭素繊維の直径は、1〜50μmであることが好ましく、またその長さは、0.1〜10mmであることが好ましい。導電材としては、カーボンブラックと炭素繊維とを併用することが出来るものである。
【0031】
次に、芯体16として合成樹脂の組成成分を種々変化させた実施例1乃至4を調製し、夫々の機械的強度を求めたので、以下に説明する。
【0032】
芳香族ポリアミドとして三菱ガス化学社製ポリアミドMXD6を、脂肪族ポリアミドとして三菱エンジニアリングプラスチック社製ノバミッド(登録商標)1007Jを、ガラス繊維として朝日ファイバーグラス社製CS03−JAFT2を、カーボンブラックとして三菱化学社製#3050Bを用い、下記表1に示す組成の樹脂組成物から直径14mm、面長(ゴム加工部)235mmのシャフトを射出成形し、ジャーナル部を切削加工で仕上げ、強度測定用の合成樹脂製芯体を得た。
【表1】

【0033】
得られた芯体の曲げ弾性率、曲げ強度、ガラス転移点、比重、体積抵抗を夫々測定した。その結果を表2に示す。尚、曲げ弾性率及び曲げ強度は、東洋精機製作所社製ストログラフV10−Cにより、ガラス転移点は、島津製作所社製熱分析装置DSC−60により、比重は、アルファマミラージュ社製電子比重形MD−200Sにより、体積抵抗率は、アドバンテスト社製抵抗系R8340により、夫々測定した。
【表2】

【0034】
上記した表2から明らかなように、実施例1乃至4の芯体は、全て、15GPA以上の曲げ弾性率を示し、また、250MPa以上の曲げ強度を示し、定着ローラ12の芯体16として金属製の芯金に替えて用いるに十分な機械的強度を有していることが判った。
【0035】
また、上述した多孔質体層22は、少なくとも独立気泡を含むシリコーンエラストマー、即ち、独立気泡型のシリコーンエラストマーから構成されている。そして、この多孔質体層22は、金属製薄肉スリーブ26に嵌入前の状態において、その外径が、金属製薄肉スリーブ26の内径よりも径大になるように、図示しない外径研磨装置により加工されている。具体的には、金属製薄肉スリーブ26の内径は、39.7mmに設定されているが、嵌入前の多孔質体層22の外径は、40.5mmになるように、加工されている。
【0036】
また、上述した金属製薄肉スリーブ26は、電磁誘導により発熱すると共に、高い熱伝導を有する金属材料、例えば、鉄・SUS・ニッケル等、具体的には、この一実施例においては、ニッケル電鋳製のスリーブをスリーブ基材26aとして備えており、その内径が39.7mm、肉厚が10〜100μm、好ましくは30〜50μm、具体的には、肉厚40μmの薄肉スリーブとして形成されている。また、このスリーブ基材26aの外周には、プライマーを介してシリコーンゴムが塗布されており、シリコーンゴム層26bが弾性層として構成されている。また、このシリコーンゴム層26bの外周には、接着剤を介して離型層28を規定するフッ素樹脂としての例えばパーフルオロアルコキシテトラフルオロエチレン共重合体(PFA)製チューブが被覆されている。
【0037】
尚、シリコーンゴム層26bの層厚としては、シリコーンゴムの硬化後の状態において200μmとなるように設定され、離型層28を規定するPFA製チューブの膜厚としては、30μmが設定されている。また、シリコーンゴム層26bと離型層28との間を接着する接着層(図示せず)の厚さとしては、約30μmが設定されている。
【0038】
ここで、この金属製薄肉スリーブ26の製造手順について簡単に説明すると、図示しない電鋳ベルト製造装置を用いてスリーブ基材26aを作成し、このスリーブ基材26aの外表面にプライマーを塗布してこれを乾燥させ、この乾燥したプライマー層上にシリコーンゴムを硬化後において200μmとなるように塗布し、これを硬化させる。
【0039】
この後、硬化したシリコーンゴムにより規定されるシリコーンゴム層26bの外表面上に接着剤を約30μmの厚さで塗布し、この接着剤を介して接着されるようにPFAチューブを被覆する。そして、接着剤を硬化させて、PFAチューブからなる離型層28をシリコーンゴム層26bの外表面に接着させて、金属製薄肉スリーブ26を調製した後、これを所定の長さに切断して、所望寸法の金属製薄肉スリーブ26を製造する。
【0040】
このようにして、金属製薄肉スリーブ26がその外表面に離型層28を備えた状態で製造されることになる。
【0041】
また、上述した多孔質体層22と金属製薄肉スリーブ26とを接着するために、多孔質体層22の外周面及び金属製薄肉スリーブ26の内周面の少なくとも一方、具体的には、多孔質体層22の外周面には、これの外周への金属製薄肉スリーブ26の嵌入に先立ち、接着剤が全面に渡り塗布されていて第2の接着剤層24が構成されている。
【0042】
ここで、この第2の接着剤層24の層厚としては、5〜200μmの範囲が適切であり、特に、塗布量からの換算として、約50μmに設定されている。尚、第2の接着剤層24の層厚が5μmより薄いと、接着強度が担保されず、一方で、200μmより厚いと、多孔質体層22の断熱効果を損なうこととなり好ましくない。従って、上記したように、第2の接着剤層24の層厚としては、5〜200μmが最適な範囲となるものである。
【0043】
また、上述した離型層28は、PTFEあるいはPFA等のフッ素樹脂から形成されている。例えば、金属製薄肉スリーブ26の外周面にPFAを塗布する事により形成しても良いし、PFA製のチューブを被覆する事により形成しても良いものである。
【0044】
一方、加圧ローラ14は芯金18の外周に、シリコーンゴム製の弾性層30、そして、PTFEあるいはPFA等の離型層32を順次形成して構成されている。
【0045】
次に、定着ローラ12の表面を外部より発熱させる外部発熱手段としての電磁誘導加熱方式を利用した電磁誘導加熱器40の構成を、図4及び図5を参照して概略的に説明する。
【0046】
図4に示すように、電磁誘導加熱器40は、定着ローラ12に設けられた金属製薄肉スリーブ26を加熱領域Zにて電磁誘導発熱させるためのものである。この実施の形態において、電磁誘導加熱器40は、定着ローラ12の外側においてこれに沿って約半周分延出するように円弧状に配設されている。即ち、図5に異なる断面方向で示すように、定着ローラ12の外周面に沿って約半周分に渡り配設される非磁性の基台42と、この基台42の定着ローラ12への対向面に形成された凹部の中央に配設されるフェライト等の磁性コア44と、この磁性コア44に巻き回されて定着ローラ12の半径方向に向かって変動磁界Hを生成する励磁コイル46とを備え、図示しない電源にて励磁コイル46に給電することにより定着ローラ12の金属製薄肉スリーブ26の厚さ方向を貫くように変動磁界Hを生成し、この金属製薄肉スリーブ26に渦電流Icを生じさせて、金属製薄肉スリーブ26を自己発熱させるものである。
【0047】
この実施例に示すように外部加熱手段としての電磁誘導加熱器40を構成することにより、従来例のハロゲンヒータを用いた場合と比較して更に迅速に(即ち急激に)、定着ローラ12の金属製薄肉スリーブ26を発熱させて、定着ローラ12と加圧ローラ14とのニップ部に挟持された未定着シート上の未定着トナーを加熱することが出来ることになる。
【0048】
上述した定着ローラ12に対しては、この定着ローラの表面温度を検知するためのサーミスタ38が当接されており、これにより検知された定着ローラ12の表面温度情報は、A/D変換器(不図示)を介してCPU(不図示)へと送られ、これに基づきCPU(不図示)は、ACドライバ(不図示)を介して電磁誘導加熱器40のON/OFFを制御することにより、定着ローラ12の表面温度を所定値に制御するように構成されている。
【0049】
このように、定着ローラ12の構成が、内部に多孔質体層22、外部に金属製薄肉スリーブ26を形成しているので、熱容量が小さく熱伝導性に優れた金属スリーブ26は外部からの電磁誘導加熱器40によって出力ロスすることなく急激に加熱することができることになる。
【0050】
ここで、金属製薄肉スリーブ26の肉厚を薄くしすぎると、加工上の観点からも問題であるが、加工上の観点を満足するために金属製薄肉スリーブ26の厚みをあまり厚くすると、剛性が強くなり、ニップ部Nのニップ幅を十分に得られなくなる問題点が発生する。以上の観点から、定着ローラ12の金属製薄肉スリーブ26は10〜100μmの肉厚で形成することが望ましいことがわかる。
【0051】
更に、上述したように、芯体16をエンジニアリングプラスティックス等の合成樹脂製としたので、金属製薄肉スリーブ26を電磁誘導加熱器40によって電磁誘導により発熱させる状況においても、芯体16が発熱されることはないものである。この結果、芯体を金属製とした芯金の場合には、電磁誘導加熱器40によって電磁誘導により金属製薄肉スリーブ26を発熱させる状況で、芯金も同様に発熱させられることになるが、この場合と比較して、この実施例においては、金属製薄肉スリーブ26が電磁誘導加熱器40により発熱させられる状況において、芯体16が発熱することはないので、芯体16と多孔質体22との間を接着する第1の接着剤層20が、芯体16の加熱により損なわれることは効果的に抑制されることになるという、金属製の芯金では決して得ることの出来ない顕著な効果が奏せられることになる。
【0052】
次に、上述した芯体16を合成樹脂製とすることによる効果を確認するための確認試験を実施したので、以下に、その確認試験について説明する。
【0053】
先ず、確認試験1として、上述した一実施例の構成の定着ローラ12、即ち、実施例1で説明した材料から形成された芯体16と、この芯体16の外周に、第1の接着剤層20を介して接着された独立気泡型のシリコーンエラストマーから構成され多孔質体層22と、この多孔質体層22の外周を被覆するように、第2の接着剤層24を介して接着され、ニッケル電鋳製のスリーブ基材26aを備えた金属製薄肉スリーブ26と、この金属製薄肉スリーブ26の外周に弾性層34を介して被覆された離型層28とを備えて、基本的に構成された定着ローラ12を用意した。
【0054】
そして、定着ローラ12の外径寸法として40mm、芯体16の外径寸法として28mm、多孔質体層22の層厚として6mm、金属製薄肉スリーブ26のスリーブ基材26aの肉厚として40μmとした。また、金属製薄肉スリーブ26の外周面には、厚さ200μmの弾性層34を介して、厚さ30μmのPFAチューブから構成された離型層28が被覆されており、この離型層28は、厚さ30μmの接着剤層により弾性層34の外周面に接着されている。
【0055】
そして、以上のように構成された定着ローラ12を、電磁誘導加熱器40としての、島田理化工業(株)製の高周波加熱装置(形式:SST−5L)を用いて、定着ローラ12の表面部分に配設された金属製薄肉スリーブ26を発熱させた場合の、定着ローラ12の表面温度及び芯体16の表面温度を夫々測定した。
【0056】
その結果を、図6に示す。図6において、実線は定着ローラ12の表面温度の変化を示しており、鎖線は芯体16の表面温度の変化を示している。この図6から明らかなように、定着ローラ12の表面は、金属製薄肉スリーブ26が電磁誘導加熱器40により発熱されることにより、急激に温度が上昇するが、樹脂製の芯体16は全く発熱せず、発熱動作前の温度に一定に保たれていることが理解される。
【0057】
一方、確認試験2として、上述した確認試験1で用いた定着ローラの構成の中で、芯体16を金属製の芯金とした定着ローラ(比較例)を用意した。この定着ローラ(比較例)では、芯体を芯金とした以外は、確認試験1で用いた定着ローラ12と同様とした。尚、この定着ローラ(比較例)における芯金は、外径28mm、肉厚2mmのSTKM13製の中空パイプの両端にボスを圧接して形成されている。
【0058】
そして、以上のように構成された定着ローラ(比較例)を、確認試験1と同様に、電磁誘導加熱器40としての、島田理化工業(株)製の高周波加熱装置(形式:SST−5L)を用いて、定着ローラ(比較例)の表面部分に配設された金属製薄肉スリーブを発熱させた場合の、定着ローラ(比較例)の表面温度及び芯金の表面温度を夫々測定した。
【0059】
その結果を、図7に示す。図7において、実線は定着ローラ(比較例)の表面温度の変化を示しており、鎖線は芯金の表面温度の変化を示している。この図7から明らかなように、定着ローラ(比較例)の表面は、金属製薄肉スリーブが電磁誘導加熱器40により発熱されることにより、急激に温度が上昇するが、出力ロスが発生していて、その温度の上昇速度は、確認試験1と比較して、遅くなっていることが理解される。また、定着ローラ(比較例)の芯金は金属製薄肉スリーブから少し遅れた状態で発熱していることが明白に理解できる。
【0060】
このように、確認試験1及び2を実施することにより、この一実施例の定着ローラ12においては、電磁誘導加熱器40により発熱作用を受けた場合において、表層に位置する金属製薄肉スリーブ26のみが発熱し、合成樹脂製の芯体16は全く発熱していないことが明白となり、かつ、芯体16が発熱しないことにより、出力ロスも発生せず、確認試験2における定着ローラ(比較例)との比較で明白になるように、金属製の芯金を備えた場合と比較して出力ロスも発生せずに、より急速に定着ローラ12の表面温度が上昇することになることが明白となった。
【0061】
この発明に係わる定着用ローラは、上述の構成に限定される事なく、この発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変形可能である事は、言うまでもない。以下に、定着用ローラの他の実施例の構成を、添付図面を参照して説明する。尚、以下の説明において、上述した構成と同一部分には、同一符号を付して、その説明を省略する。
【0062】
また、上述した一実施例の製造方法に係わる手順においては、離型層28を、金属製薄肉スリーブ26の弾性層としてのシリコーンゴム層26bの外周面に形成するように説明したが、この発明は、このような手順に限定されることなく、金属製薄肉スリーブ26のスリーブ本体26aの外周面に直接的に形成するようにしても良いことは言うまでもない。要は、離型層28は、金属製薄肉スリーブ26の外周に配設されるようにすればよいものである。
【0063】
また、上述した実施例においては、金属製薄肉スリーブ26は、多孔質体層22の外周に、第2の接着剤層24を介して接着されるように説明したが、この発明は、このような構成に限定されること無く、金属製薄肉スリーブ26と多孔質体層22とが摩擦係合して、芯体16を外部から回転駆動する場合に、多孔質体層22の回転に応じて金属製薄肉スリーブ26が連れ回りするのであれば、または、金属製薄肉スリーブ26が外部から回転駆動する場合に、多孔質体層22(従って、芯体16)が連れ回りするのであれば、第2の接着剤層24が無くても良いものである。
【0064】
また、上述した実施例においては、金属製薄肉スリーブ26として、ニッケル電鋳製のスリーブを用いるように説明したが、この発明は、このような構成に限定されることなく、金属製薄肉スリーブ26として、ステンレススチール製のスリーブを用いるようにすることも出来るものである。要は、この金属製薄肉スリーブ26は、この発明においては、電磁誘導により発熱する金属材料であれば、何でも良いものであることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】この発明に係わる定着用ローラを備えた定着装置の一実施例の構成を概略的に示す図である。
【図2】この発明に係わる定着用ローラを、定着ローラに適用した場合の構成を示す断面図である。
【図3】図2に示す薄肉金属製スリーブの断面構造を示す縦断面図である。
【図4】この発明に係る定着用ローラを加熱するための外部加熱手段としての電磁誘導加熱器の構成を概略的に示す正面図である。
【図5】図4に示す電磁誘導加熱器の内部構造を、定着ローラの中心軸線に沿って断面を取った状態で概略的に示す図である。
【図6】一実施例の定着ローラを、電磁誘導加熱器を用いて発熱させた場合の、この定着ローラの表面温度及び芯体の表面温度の変化状態を示す線図である。
【図7】比較例として金属製の芯金を備えた定着ローラを、電磁誘導加熱器を用いて発熱させた場合の、この定着ローラの表面温度及び芯体の表面温度の変化状態を示す線図である。
【符号の説明】
【0066】
10 定着装置
12 定着ローラ
14 加圧ローラ
16 定着ローラ12の合成樹脂製の芯体
18 加圧ローラ14の芯金
20 第1の接着剤層
22 多孔質体層
24 第2の接着剤層
26 金属製薄肉スリーブ
26a スリーブ本体
26b シリコーンゴム層
28 定着ローラ12の離形層
30 加圧ローラ14の弾性層
32 加圧ローラ14の離型層
38 サーミスタ
40 電磁誘導加熱器
42 基台
44 磁性コア
46 励磁コイル
N ニップ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂製の芯体と、
この芯体の外周を取り巻くように配設された少なくとも独立気泡型の多孔質体層と、
この多孔質体層の外周を被覆すると共に、電磁誘導により発熱可能な薄肉金属製のスリーブ基材及びこのスリーブ基材の外周面を被覆するように配設された弾性層を備える金属製薄肉スリーブと、
この金属製薄肉スリーブの外周に被覆された離型層と、
を具備することを特徴とする定着用ローラ。
【請求項2】
前記芯体を構成する合成樹脂は、エンジニアリングプラスティックスであることを特徴とする請求項1に記載の定着用ローラ。
【請求項3】
前記エンジニアリングプラスティックスは、芳香族ポリアミドを含むことを特徴とする請求項2に記載の定着用ローラ。
【請求項4】
前記エンジニアリングプラスティックスは、補強材が含有されていることを特徴とする請求項2又は3に記載の定着用ローラ。
【請求項5】
前記補強材は、ガラス繊維を含むことを特徴とする請求項4に記載の定着用ローラ。
【請求項6】
前記多孔質体は、エマルジョン組成物から調製されたシリコーンエラストマ−から形成されていることを特徴とする請求項1に記載の定着用ローラ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−322463(P2007−322463A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−149348(P2006−149348)
【出願日】平成18年5月30日(2006.5.30)
【出願人】(000227412)シンジーテック株式会社 (99)
【Fターム(参考)】