説明

定着用加圧ローラ及びそれを有する定着装置並びにその定着装置を有する画像形成装置

【課題】「立ち上がり時間」をいっそう短くすると共に、「通紙時の温度低下」を防止した定着用加圧ローラ及びそれを有する定着装置並びにその定着装置を有する画像形成装置を提供する。
【解決手段】円筒状に形成された第一の芯金41と、前記第一の芯金41上に設けられた円筒状に形成された第二の芯金44と、を同軸に有する定着用加圧ローラ4において、前記第一の芯金41と前記第二の芯金44との間に円筒状に形成された空隙部43が設けられ、そして、前記空隙部43が大気圧より低い圧力に保持されているものとする。前記第一の芯金41の空隙部43側の表面と前記第二の芯金44の前記空隙部43側の表面とは、好ましくは、鏡面に形成されている。図1において、42は、スペーサであり、45は、弾性層であり、そして、46は、離型層である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真方式による複写機、プリンタ、ファクシミリ等において、未定着トナー画像を定着させる加圧ローラとして用いられる、定着用加圧ローラ及びそれを有する定着装置並びにその定着装置を有する画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
複写機、プリンタ、ファクシミリ等の電子写真方式を採用する画像形成装置では、転写紙、OHP等の記録材上で現像された未定着トナー画像を加熱定着する定着装置が備えられている。このような定着装置においては、これまでヒートロール方式が広く用いられてきた。かかるヒートロール方式では、加熱された定着ローラに加圧ローラを圧接させてニップ部を形成し、そのニップ部に記録材を通過させて、未定着トナー画像を定着している。
【0003】
前記ヒートロール方式を用いて未定着トナー画像を加熱定着しようとすると、定着ローラ及び加圧ローラの熱容量が大きくなるので、前記定着ローラと前記加圧ローラとの間に形成されるニップ部がトナーを溶融させる定着温度までの温度上昇に要する時間、即ち、立ち上がり時間(以下、本明細書においては、「立ち上がり時間」という。)、が長くなる、という問題があった。また、通紙時の温度低下からの復帰に時間がかかるので、定着ローラにおける連続通紙時の温度落低下(以下、本明細書においては、「連続通紙時の温度落ち込み」という。)が生じてしまう。それ故、定着ローラにおける「連続通紙時の温度落ち込み」が生じた際には、定着性を確保するため通紙枚数を減らし、記録紙に奪われる熱量を定着ローラへ与えるように仕向けて、温度復帰を促さなければならないので、生産性が低下するという問題があった。
【0004】
そこで、前記問題を解決するために、加圧ローラの熱容量を低減して、前記「立ち上がり時間」及び前記「通紙時の温度落ち込み」について対策を講じた技術(特許文献1及び特許文献2を参照。)が提案された。
【0005】
即ち、特許文献1に記載された技術によれば、未定着トナー画像を加熱定着するために発熱効率の高い誘導加熱方式を採用すると共に、定着ローラ及び加圧ローラにおける芯金の軸心に軸方向の中空部を設けた上で該中空部を真空にして、熱容量の低減を試みている。しかしながら、前記加圧ローラにおいては、ニップ部の圧力に加え、真空としたときの大気圧でも変形しないだけの剛性が芯金に求められるので、前記芯金には、これまで考慮が不要であった大気圧への耐力が求められ、そのために、前記芯金を厚肉化せざるを得ず、熱容量を減らす目的からすれば、矛盾したものとなっていた。
【0006】
また、特許文献2に記載された技術によれば、加圧ローラにおける芯金と表層との間に凹凸のあるフィルムを積層して、前記凹凸のあるフィルム間に空間を形成することにより、断熱層としている。しかしながら、前記加圧ローラにおいては、該加圧ローラの胴部でも、芯金とフィルムの凸部とが接触しているので、熱伝導が生じてしまい、そのために、前記加圧ローラの断熱性を損なうという問題があった。また、前記凹凸のあるフィルム間に形成された空間を構成する空気層は、熱伝導性が高いという問題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、かかる問題を解決することを目的としている。
【0008】
即ち、本発明は、「立ち上がり時間」をいっそう短くすると共に、「通紙時の温度低下」を防止した定着用加圧ローラ及びそれを有する定着装置並びにその定着装置を有する画像形成装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載された発明は、上記目的を達成するために、円筒状に形成された第一の芯金と、前記第一の芯金上に設けられた円筒状に形成された第二の芯金と、を同軸に有する定着用加圧ローラにおいて、前記第一の芯金と前記第二の芯金との間に円筒状に形成された空隙部が設けられ、そして、前記空隙部が、大気圧より低い圧力に保持されていることを特徴とするものである。
【0010】
請求項2に記載された発明は、請求項1に記載された発明において、前記第一の芯金の空隙部側の表面と前記第二の芯金の前記空隙部側の表面とが鏡面に形成されていることを特徴とするものである。
【0011】
請求項3に記載された発明は、請求項1又は2に記載された発明において、前記第二の芯金上に弾性層が設けられていることを特徴とするものである。
【0012】
請求項4に記載された発明は、請求項3に記載された発明において、前記弾性層上に離型層が設けられていることを特徴とするものである。
【0013】
請求項5に記載された発明は、転写紙が搬送される搬送経路上に配置された定着ローラと、前記定着ローラの表面に当接する定着用加圧ローラと、を有する定着装置において、前記定着用加圧ローラとして、請求項1〜4のいずれか1項に記載された定着用加圧ローラを有していることを特徴とする定着装置である。
【0014】
請求項6に記載された発明は、請求項5に記載された発明において、前記定着ローラとこの定着ローラに平行に設けられた加熱ローラとの間に回転可能に設けられた定着ベルトを有していることを特徴とするものである。
【0015】
請求項7に記載された発明は、請求項5又は6に記載の定着装置を有することを特徴とする画像形成装置である。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に記載された発明によれば、円筒状に形成された第一の芯金と、前記第一の芯金上に設けられた円筒状に形成された第二の芯金と、を同軸に有する定着用加圧ローラにおいて、前記第一の芯金と前記第二の芯金との間に円筒状に形成された空隙部が設けられ、そして、前記空隙部が大気圧より低い圧力に保持されているので、空隙部内での空気の対流を減らして前記第二の芯金から第一の芯金への空気の対流による伝熱を防ぐことができ、そのために、前記第二の芯金を加熱部位に限定してその第二の芯金の低熱容量化を可能にすることができ、よって、「立ち上がり時間」を短くすると共に、「通紙時の温度低下」を防止した定着用加圧ローラを提供することができる。また、請求項1に記載された発明によれば、前記定着用加圧ローラにおける芯金が前記第一の芯金と前記第二の芯金との2重構造となるので、芯金を厚肉化することなく、芯金の剛性を向上させることができる。
【0017】
請求項2に記載された発明によれば、前記第一の芯金の空隙部側の表面と前記第二の芯金の前記空隙部側の表面とが鏡面に形成されているので、前記第二の芯金から前記第一の芯金側への輻射(放射)による伝熱をいっそう防止することができ、そのために、「立ち上がり時間」をいっそう短くすると共に、「通紙時の温度低下」をいっそう防止した定着用加圧ローラを提供することができる。
【0018】
請求項3に記載された発明によれば、前記第二の芯金上に弾性層が設けられているので、画像むらがなくなり、そのために、良質の画像を得ることができる。
【0019】
請求項4に記載された発明によれば、前記弾性層上に離型層が設けられているので、記録紙に対する離型性を向上させることができる。
【0020】
請求項5,6に記載された発明によれば、転写紙が搬送される搬送経路上に配置された定着ローラと、前記定着ローラの表面に当接する定着用加圧ローラと、を有する定着装置において、前記定着用加圧ローラとして、請求項1〜4のいずれか1項に記載された定着用加圧ローラを有しているので、「立ち上がり時間」を短くすると共に、前記定着用加圧ローラの「通紙時の温度低下」を防止し、しかも、前記定着用加圧ローラから大気への放熱を防止し、省エネ効果を向上させる定着装置を提供することができる。
【0021】
請求項7に記載された発明によれば、請求項5又は6に記載の定着装置を有しているので、「立ち上
がり時間」を短くすると共に、前記定着用加圧ローラの「通紙時の温度低下」を防止し、しかも、前記定着用加圧ローラから大気への放熱を防止し、省エネ効果を向上させる画像形成装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施の形態を示す定着用加圧ローラの断面図であって、(a)は、縦断面図であり、そして、(b)は、横断面図である。
【図2】本発明の一実施の形態を示す定着装置の説明図であって、(a)は、面ヒータを設けたものであり、そして、(b)反射板を設けたものである。
【図3】本発明の一実施の形態を示す定着装置における定着ベルトの説明図である。
【図4】本発明の一実施の形態を示す画像形成装置の説明図である。
【図5】複写機の電源ONからの時間と定着ベルトニップ前表面温度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
次に、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0024】
図1において、10は、定着用加圧ローラ4である。定着用加圧ローラ4は、円筒状に形成された第一の芯金41と、前記第一の芯金41上に設けられた円筒状に形成された第二の芯金44と、を同軸に有している。また、前記第一の芯金41と前記第二の芯金44との間に円筒状に形成された空隙部43が設けられ、そして、前記空隙部43が大気圧より低い圧力に保持されている。前記空隙部43は、前記第一の芯金41と前記第二の芯金44との間における前記第二の芯金44の両端近傍に相当する部分にリング状に形成されたスペーサ42を設け、それらを溶接することによって、形成される。
【0025】
前記円筒状に形成された第一の芯金41は、好ましくは、ステンレス又は炭素鋼で構成され、その厚みは、好ましくは、0.3〜5mmとされる。また、前記円筒状に形成された第二の芯金44は、好ましくは、ステンレス又は炭素鋼で構成され、その厚みは、好ましくは、0.3〜1mmとされる。前記第二の芯金44は、前記第一の芯金41上にリング状のステンレス又は炭素鋼で構成されるスペーサ42を介して溶接により取り付けられている。前記空隙部42から空気を抜き、真空、即ち、大気圧より低い圧力とするための空気抜きの穴が、前記スペーサ42又は前記第二の芯金44に設けられるている。前記第一の芯金41に設けるときには、その非通紙部となる端部近傍に設ける必要があるので、前記定着用加圧ローラ4の全長が長くなる欠点がある。前記空隙部43の厚みは、好ましくは、3〜20mmである。前記空隙部43の厚みを薄くすると、前記第一の芯金41の外径を大きくし肉厚を増すことができるので、前記定着用加圧ローラ4の強度を向上させることができる。前記「大気圧より低い圧力」(真空)は、好ましくは、10-2Pa以下の圧力である。前記空気抜きの穴は、シリコーンゴムやフッ素ゴムのような耐熱性の高い弾性材料からなる栓で封止される(即ち、塞がれる)。また、前記空気抜きの穴は、その開口部から空気を抜くと同時に、ガラスのような金属より低融点材料を該開口部溶着させることによっても、封止される。前記ガラスのような金属より低融点材料は、前記弾性材料を用いた栓と比較して、より強固な封止が可能となる。
【0026】
このように、円筒状に形成された第一の芯金41と、前記第一の芯金41上に設けられた円筒状に形成された第二の芯金44と、を同軸に有する定着用加圧ローラ4において、前記第一の芯金41と前記第二の芯金44との間に円筒状に形成された空隙部43が設けられ、そして、前記空隙部43が大気圧より低い圧力に保持されていると、空隙部43内での空気の対流を減らして前記第二の芯金44から第一の芯金41への空気の対流による伝熱を防ぐことができ、そのために、前記第二の芯金44を加熱部位に限定してその第二の芯金44の低熱容量化を可能にすることができ、よって、「立ち上がり時間」を短くすると共に、「通紙時の温度低下」を防止した定着用加圧ローラ4を提供することができる。また、請求項1に記載された発明によれば、前記定着用加圧ローラ4における芯金が前記第一の芯金41と前記第二の芯金44との2重構造となるので、芯金を厚肉化することなく、芯金の剛性を向上させることができる。
【0027】
本発明においては、前記第一の芯金の空隙部43側の表面と前記第二の芯金44の前記空隙部43側の表面とは、好ましくは、鏡面に形成されている。前記鏡面に形成された第一の芯金の空隙部43側の表面と前記第二の芯金44の前記空隙部43側の表面とは、酸化を防止するために表面をニッケルのような光沢を有する金属メッキを施して光沢度の向上を図ることができる。また、前記空隙部43を形成するために設けられたスペーサ42の表面についても同様にニッケルのような光沢を有する金属メッキを施して光沢度の向上を図り、断熱性を向上させることができる。
【0028】
このように、前記第一の芯金41の空隙部43側の表面と前記第二の芯金44の前記空隙部43側の表面とが鏡面に形成されていると、前記第二の芯金44から前記第一の芯金41側への輻射(放射)による伝熱をいっそう防止することができ、そのために、「立ち上がり時間」をいっそう短くすると共に、「通紙時の温度低下」をいっそう防止した定着用加圧ローラ4を提供することができる。
【0029】
本発明においては、前記第二の芯金44上に弾性層45が設けられている。このように、前記第二の芯金44上に弾性層45が設けられていると、画像むらがなくなり、そのために、良質の画像を得ることができる。また、本発明においては、前記弾性層45上に離型層46が設けられている。このように、前記弾性層45上に離型層46が設けられていると、記録紙7に対する離型性を向上させることができる。
【0030】
次に、前記弾性層45及び前記離型層46について詳しく説明する。
【0031】
図1,2に示されているように、前記定着用加圧ローラ4は、前記第2の芯金44上に弾性層45が形成され、そして、前記弾性層45上に離型層46が形成されたものであるが、前記定着用加圧ローラ4を定着装置40に装着すると、前記定着用加圧ローラ4が定着ベルト3を介して定着ローラ2を押圧して定着ニップ部Nを形成することとなる。前記定着加圧ローラ4の外径は、好ましくは、30〜40mmであり、そして、前記弾性層45の厚み及び硬度は、好ましくは、0.3〜5mm及び20〜50°(Asker硬度)とされている。また、前記離型層46の厚みは、好ましくは、10〜100μmである。本発明においては、定着用加圧ローラ4の硬度を定着ローラ2の硬度に比べて硬くすることによって、定着用加圧ローラ4が定着ローラ2(及び定着ベルト3)へ食い込む形となるので、この食い込みにより記録材8はニップ部出口において定着ベルト3の表面に沿うことができない曲率を持つこととなり、そのために、記録材7の定着ベルト3の表面からの離型性を向上させることができる。
【0032】
図2において、40は、定着装置である。定着装置40は、記録紙7が搬送される搬送経路上に配置された定着ローラ2と、前記定着ローラ2の表面に当接する定着用加圧ローラ4と、を有している。前記定着装置40は、前記定着用加圧ローラ4として、請求項1〜4のいずれか1項に記載された定着用加圧ローラ4を有している。このように、転写紙7が搬送される搬送経路上に配置された定着ローラ2と、前記定着ローラ2の表面に当接する定着用加圧ローラ4と、を有する定着装置40において、前記定着用加圧ローラ40として、請求項1〜4のいずれか1項に記載された定着用加圧ローラ4を有していると、「立ち上がり時間」を短くすると共に、前記定着用加圧ローラ4の「通紙時の温度低下」を防止し、しかも、前記定着用加圧ローラ4から大気への放熱を防止し、省エネ効果を向上させる定着装置40を提供することができる。
【0033】
次に、前記定着装置40について詳しく説明する。
【0034】
図2に示されているように、本発明の定着装置40は、ハロゲンヒータ5を内部に備えた加熱ローラ1と、前記加熱ローラ1と並行に配置された定着ローラ2と、前記加熱ローラ1と定着ローラ2とで張り渡されこれらの何れかのローラの回転により矢印A方向に回転する無端帯状の定着ベルト3と、前記定着ベルト3を介して前記定着ローラ2に圧接されると共に該定着ベルト3に対して順方向に回転する定着用加圧ローラ4と、で構成されている。前記定着装置40には、図2(a)に示されているように、定着用加圧ローラ4の外周面を加熱する面ヒータ6aが設けられているが、図2(b)に示されているように、定着用加圧ローラ4の外周面を加熱する、内側にハロゲンヒータを有する、反射板6bが設けられていてもかまわない。
【0035】
前記加熱ローラ1は、その内部のハロゲンヒータ5からの熱を当接する定着ベルトへ伝熱させるために設けられたものであるが、その内面に黒色塗装を施すことで、ハロゲンヒータからの熱を効率良く集光し加熱ローラ1の発熱効率を向上させることができる。前記加熱ローラ1は、アルミニウム、炭素鋼等の金属で構成されているが、前記アルミニウムは、熱伝導率の高い金属であるので、加熱ローラの構成材料に適したものであるといえる。また、前記加熱ローラ1における前記定着ベルト基材31との摺動面には、フッ素樹脂等の摩擦係数の小さい樹脂で被覆して、磨耗を低減することが好ましい。
【0036】
前記定着ローラ2は、例えば、ステンレス、炭素鋼等の金属で構成される芯金21と、耐熱性を有するシリコーンゴム等をソリッド状又は発泡状にして前記芯金21を被覆した弾性部材22と、からなる。そして、定着用加圧ローラ4からの押圧力で定着用加圧ローラ4と定着ローラ2の間に所定幅の接触部(定着ニップ部N)を形成する。前記定着ローラ2の外径は、好ましくは、30〜40mmであり、前記弾性部材の肉厚は、好ましくは、3〜10mmであり、そして、前記弾性部材の硬度は、好ましくは、10〜50°(JIS−A)である。
【0037】
図3に示されているように、前記定着ベルト3は、基材31と、前記基材31上に設けられた弾性層32と、前記弾性層32に設けられた離型層33と、からなる。前記基材31に求められる特性としては、前記定着ベルト3を貼り渡した際の機械的強度、柔軟性、及び、定着温度での使用に耐え得る耐熱性、が挙げられる。前記基材31は、加熱ローラ1を誘導加熱するためには、好ましくは、絶縁性の耐熱樹脂材料、ポリイミド、ポリイミドアミド、PEEK、PES、PPS、フッ素樹脂等の樹脂で構成される。前記基材31の厚みは、好ましくは、30〜200μmである。このように、前記基材31の厚みが30〜200μmであると、十分な熱容量を保持すると共に、十分な強度を保持することができる。
【0038】
前記定着ベルト3における弾性層32は、光沢ムラのない均一な画像を得るために、ベルト表面に柔軟性を与える目的で形成されるが、そのゴム硬度は、好ましくは、5〜50°(JIS−A硬度)であり、その厚みは、好ましくは、50〜500μmである。また、前記弾性層32は、定着温度における耐熱性の観点から、シリコーンゴム、フロロシリコーンゴム等耐熱性のゴムで構成される。前記離型層33は、好ましくは、四フッ化エチレン樹脂(PTFE)、四フッ化エチレン・パーフロロアルキルビニルエーテル共重合体樹脂(PFA)、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体(EEP)等のフッ素樹脂、これらの樹脂の混合物、或いは、耐熱性樹脂にこれらフッ素系樹脂を分散させたもので構成される。
【0039】
前記弾性層32を前記離型層33が被覆すると、シリコーンオイル等を使用しなくとも、トナー離型性が向上し、紙粉固着防止が可能になる(オイルレス化)。しかし、これらの離型性を有する樹脂は、一般的には、ゴム材料のような弾性をゆうしていないので、前記弾性層32上に厚く離型層33を形成すると、定着ベルト3の表面の柔軟性を損ない、光沢ムラを発生させてしまう。前記定着ベルト3の離型性と柔軟性とを両立させるためには、前記離型層33の厚みは、好ましくは、5〜50μm、さらに好ましくは、10〜30μmである。また、前記定着ベルト3においては、所望に応じて、各層間にプライマー層を設けても良く、さらに、基材31の内面に摺動時の耐久性を向上させる層を設けても良い。
【0040】
図4に示されているように、本発明の画像形成装置は、請求項5又は6に記載の定着装置40を有している。このように、請求項5又は6に記載の定着装置40を有していると、「立ち上がり時間」を短くすると共に、前記定着用加圧ローラ(図1における4を参照。)「通紙時の温度低下」を防止し、しかも、前記定着用加圧ローラから大気への放熱を防止し、省エネ効果を向上させる画像形成装置を提供することができる。
【0041】
次ぎに、前記定着装置40について詳しく説明する。
【0042】
図4に示されているように、本発明の画像形成装置は、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの4色のトナー像をそれぞれ対応した感光体ドラム1Y、1M、1C、1Bk(像担持体)の表面上に形成するために、電子写真方式の4組の画像形成部10Y、10M、10C、10Bk(像形成手段)を備えている。これらの画像形成部10Y、10M、10C、10Bkの下方には、前記各画像形成部を通して用紙(記録材)を搬送するための搬送ベルト20が張架されている。前記各画像形成部10Y、10M、10C、10Bkの感光体ドラム1Y、1M、1C、1Bkは、搬送ベルト20にそれぞれ転接配置されて、用紙(記録材)は、搬送ベルト20の表面に静電的に吸着される。4組の画像形成部10Y、10M、10C、10Bkは、略同じ構造を有している。したがって、ここでは用紙の搬送方向最上流側に配設されたイエロー用の画像形成部10Yについて代表して説明して、他の色用の画像形成部10M、10C、10Bkについては、同一符号を付して、詳細な説明を省略することとする。
【0043】
前記画像形成部10Yは、その略中央位置に搬送ベルト20に転接された感光体ドラム1Yを有している。前記感光体ドラム1Yの周囲には、該感光体ドラム1Yの表面を所定の電位に帯電させる帯電装置2Y、帯電されたドラム表面を色分解された画像信号に基づいて露光し、ドラム表面上に静電潜像を形成する露光装置3Y、ドラム表面上に形成された静電潜像にイエロートナーを供給して現像する現像装置4Y、現像したトナー像を搬送ベルト20を介して搬送される用紙上に転写する転写ローラ5Y(転写装置)、転写されずにドラム表面に残留した残留トナーを除去するクリーナ6Y、及び、図示しないドラム表面に残留した電荷を除去する除電ランプが、感光体ドラム1Yの回転方向に沿って順に配設されている。
【0044】
搬送ベルト20の図中右下方には、用紙を搬送ベルト20上に給紙するための給紙機構30が配設されている。搬送ベルト20の図中左側には、前述した本発明の実施の形態に係る定着装置40が配設されている(この図中では、励磁コイルなどは省略されている。)。搬送ベルト20によって搬送された用紙は、搬送ベルト20から連続して定着装置40を通って延びた搬送路に搬送された後に、定着装置40に通過される。定着装置40では、搬送された用紙、即ち、表面上に各色のトナー像が転写された状態の用紙、を加熱し、加圧して、前記各色のトナー像を溶融させる。そして、この溶融させた各色のトナー像を用紙に浸透させて定着させる。つぎに、定着装置40の搬送経路下流側に排紙ローラを介して排紙する。
【0045】
(実施例1)
ステンレスSUS304で構成された直径30mm、長さ370mm及び厚み0.8mmの第一の円筒体、並びに、ステンレスSUS304で構成された直径40mm、長さ320mm及び厚み0.8mmの第二の円筒体、SUS304で構成される内径22mm、外径39mmのリング状のスペーサを準備した。スペーサと両円筒体は、円筒体端部に施したインロー加工により、軸方向の位置合わせが容易となるようにした。そして、前記第一の円筒体に前記第二の円筒体を外挿し、前記スペーサを第一の円筒体両端から挿入することで、第一の円筒体と第二の円筒体間に空隙を形成すると同時に、第一の円筒体に対して、第二の円筒体の位置決めができた状態に仮組みした。次に、前記スペーサをそれぞれ前記第一の円筒体と前記第二の円筒体とにTIG溶接により溶接して固定し、続いて、前記スペーサの一方に予め設けられた空気抜き穴から空気を抜いて前記空隙部の圧力を10-3Paとした後、前記空気穴をシリコーンゴムで封止して芯金とした。次に、このようにして形成された芯金における第二の芯金の表面に耐熱タイプの金属用プライマーを塗装して塗布層を形成し、この塗布層を150℃で10分間焼き付けてプライマー層を形成した後、前記プライマー層の表面上に、シリコーンゴム[東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会社製、DY35−363(熱伝導率:0.8×10-3cal/cm・sec・℃)]を含有する塗料を塗布して塗布層を形成し、この塗布層を構成するシリコーンゴムを加硫(硬化)させて弾性層とし、その弾性層を0.2mm厚になるまで円筒研削盤にて研削した。そして、この弾性層上にシランカップリング剤(東レ・ダウコーニング・シリコーン社製、DY39−067)をスプレー塗布し、乾燥させてシランカップリング剤による塗布膜を形成した。次に、フッ素樹脂粉体塗料100重量部に光触媒物質としてアナターゼ型酸化チタン1重量部を加え、これを前記シランカップリング剤による塗布膜上に粉体塗装して20μm厚の粉体塗装層を形成した後、この粉体塗装層に加熱処理を施して、フッ素樹脂粉体を焼成し、溶融させ、冷却硬化させることにより、直径40mmのローラとした。次に、このローラの離型層に、184.9nmの光を発光する低圧水銀灯[セン特殊光源社製、高純度合成石英低圧水銀ランプEUV200NS−7(出力200W)]を用いて、短波長紫外線を照射して、定着用加圧ローラを得た。
【0046】
(実施例2)
前記第一の芯金の空隙部側の表面と前記第二の芯金の前記空隙部側の表面とに予め鏡面加工を施しておいた以外は、実施例1と同様にして定着用加圧ローラを得た。
【0047】
(実施例3)
前記第一の芯金の空隙部側の表面と前記第二の芯金の前記空隙部側の表面とに予め鏡面加工を施し、そして、前記第一の芯金の肉厚を1.5mmとした以外は、実施例1と同様にして定着用加圧ローラを得た。
【0048】
(実施例4)
前記第一の芯金の空隙部側の表面と前記第二の芯金の前記空隙部側の表面とに予め鏡面加工を施し、そして、前記第二の芯金の肉厚を1mmとした以外は、実施例1と同様にして定着用加圧ローラを得た。
【0049】
(比較例1)
炭素鋼で構成された直径40mm、長さ320mm及び厚み1mmの芯金を用いた以外は、実施例1と同様にして定着用加圧ローラを得た。
【0050】
以上、実施例1,2及び比較例1で得られた定着用加圧ローラを定着装置に組み込み、その定着装置を複写機に搭載して電源をONにした後、定着ベルト表面がトナーを溶融させる定着温度に達するまでの時間(秒)、即ち、「立ち上がり時間」(秒)を測定した。そして、前記「立ち上がり時間」の測定に続いて、連続通紙を行ったときの定着ベルトの表面温度の落ち込み(℃)、即ち、「連続通紙時の温度落ち込み」(℃)を測定した。次に、それらの具体的な測定方法を図4により説明する。
【0051】
図5において、縦軸は、定着ベルトのニップ前表面温度であり、そして、横軸は、複写機の電源ONからの時間である。まず、複写機電源をONにすると、定着器が立ち上がりモードで昇温を開始し、続いて、ニップ前温度が200℃に達すが、このニップ前温度が200℃に達した段階で立ち上がり終了と判定する。次に、通紙モードとなった後、通紙を開始する。通紙の開始と共に、ニップ前温度は低下するが、各定着部材が十分に加熱されるにつれて、ニップ前温度の低下は止まり、ニップ前温度は復帰していく。本実施例及び比較例において「立ち上がり時間」(秒)及び「連続通紙時の温度落ち込み」(℃)を測定するに当たっては、「立ち上がり時間」は、ニップ前温度が200℃に到達するまでの時間と定義し、そして、「連続通紙時の温度落ち込み」は、50枚連続通紙したときのニップ前温度の落ち込み下限温度と定義する。
【0052】
測定結果は、次の表1に示される。
【0053】
【表1】

【0054】
表1から、実施例1〜4で得た定着用加圧ローラを用いると、「立ち上がり時間」及び「連続通紙時の温度落ち込み」を改善できることがわかる。また、実施例4で得た定着用加圧ローラは、比較例で得た定着用加圧ローラと同等の肉厚を有しているが、「立ち上がり時間」及び「連続通紙時の温度落ち込み」について共に優れており、本発明の断熱効果の高いことが確認できた。また、実施例2で得た定着用加圧ローラと実施例3で得た定着用加圧ローラとの比較からは、前記第一の芯金の肉厚の影響は認められないので、本発明の断熱効果により前記第二の芯金から前記第一の芯金への熱の移動が良好に遮断されていることが分かり、また、ニップ前温度特性への寄与については、前記第二の芯金の肉厚の影響が大きいことが確認できた。
【符号の説明】
【0055】
1 加熱ローラ
2 定着ローラ
3 定着ベルト
4 定着用加圧ローラ
5 ハロゲンヒータ
6a 面ヒータ
6b 反射板
7 記録紙
N ニップ部
T トナー画像
40 定着装置
41 第一の芯金
42 スペーサ
43 空隙部
44 第二の芯金
45 弾性層
46 離型層
【先行技術文献】
【特許文献】
【0056】
【特許文献1】特開平10−74007号公報
【特許文献2】特開2005−157303号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状に形成された第一の芯金と、前記第一の芯金上に設けられた円筒状に形成された第二の芯金と、を同軸に有する定着用加圧ローラであって、
前記第一の芯金と前記第二の芯金との間に円筒状に形成された空隙部が設けられ、そして、
前記空隙部が、大気圧より低い圧力に保持されている
ことを特徴とする請求項1に記載の定着用加圧ローラ。
【請求項2】
前記第一の芯金の空隙部側の表面と前記第二の芯金の前記空隙部側の表面とが、鏡面に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の定着用加圧ローラ。
【請求項3】
前記第二の芯金上に弾性層が設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の定着用加圧ローラ。
【請求項4】
前記弾性層上に離型層が設けられていることを特徴とする請求項3に記載の定着用加圧ローラ。
【請求項5】
転写紙が搬送される搬送経路上に配置された定着ローラと、前記定着ローラの表面に当接する定着用加圧ローラと、を有する定着装置において、前記定着用加圧ローラとして、請求項1〜4のいずれか1項に記載された定着用加圧ローラを有していることを特徴とする定着装置。
【請求項6】
前記定着ローラとこの定着ローラに平行に設けられた加熱ローラとの間に回転可能に設けられた定着ベルトを有していることを特徴とする請求項5に記載の定着装置。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の定着装置を有することを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−282035(P2010−282035A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−135710(P2009−135710)
【出願日】平成21年6月5日(2009.6.5)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】