説明

定着用回転体

【目的】LTVスポンジを使用した弾性層を用いることなく、熱伝導率は低く抑えながら、トナーにかかる圧力が均一なために画像の光沢の均一性が十分な定着用回転体を提供することである。
【構成】この発明に係わる定着用回転体は、円筒状基体18と、この円筒状基体の外周を取り巻くように配設されたエマルジョン組成物から調整された少なくとも独立気泡型のシリコーンエラストマー製の多孔質体層32と、この多孔質体層32の外周を被覆する合成樹脂製チューブとを具備する事を特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、円筒状の基体の外周面を多孔質体層で被覆し、更に、この多孔質体層の外周面を合成樹脂製チューブで被覆した定着用回転体に関する。
【背景技術】
【0002】
複写機、プリンター、ファクシミリ等の電子写真方式の画像形成装置において、被記録材上の未定着トナーを被記録材上に定着させる際に用いられる定着装置用の定着用回転体として、定着用ローラや定着ベルト・定着フィルムなどがある。
【0003】
この定着用ローラとして、円筒状薄肉芯金の外周面にフッ素樹脂等の離型層を被覆した定着ローラと、芯金の外周面に弾性層を被覆した加圧ローラとがあり、両ローラを圧接させて、加圧ローラの弾性層を変形させる事でニップ部を形成し、このニップ部に未定着トナーの担持された被記録材を導入し、加熱・加圧することで未定着トナーを被記録材上に定着させている。
【0004】
近年、複写機、プリンタ、ファクシミリ等に用いられる定着装置の加圧ローラとして、芯金上にシリコーンゴム発泡体層を形成し、更にPFAチューブ を離型層として被覆 したものが使用されている。このように加圧ローラを更に低硬度化することにより、特にカラートナーの定着において、画質の向上を目指すことができるものである。
【0005】
しかし、加圧ローラの弾性層は低硬度化の要求だけでなく、近年の省エネルギー対応による立上げ時間の短縮の要求によって、定着ローラの熱を奪いにくくする目的で加圧ローラの弾性層の熱伝導率を下げる必要があり、この目的のために加圧ローラの弾性層には、熱伝導率が低く硬化前の状態が液状のシリコーンゴムからなる発泡体(以下、単にLTV発泡体という。)が必要とされていた。
【0006】
そこで、特許文献1によると、LTVと、吸水性ポリマーと、界面活性剤と、水とから、熱伝導率が低く硬化前の状態が液状のLTV発泡体が得られたとされている。
【特許文献1】特開2003−226774
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1の技術によるLTV発泡体は、内部の気泡部分(セル部)のセルの平均径が130μmから200μmあり、このLTV発泡体を加圧ローラの弾性層として被覆して、未定着トナーを被記録材上に定着すると、トナーにかかる圧力がセル部と弾性材料部(セル壁部)で異なるために、この圧力の異なる部分が画像のムラとなり、例えその外周が合成樹脂製フィルムで被覆されているとはいえ、画像の光沢の均一性が十分でないという問題があった。
【0008】
このように、加圧ローラの芯金の外周面にLTV発泡体以外の材料からなる弾性層を被覆し、熱伝導率は低く抑えながら、セル部とセル壁部のトナーにかかる圧力を均一にする事が出来、画像の光沢の均一性が十分な加圧ローラが求められていた。
【0009】
この発明は、上述した事情に鑑みなされたもので、この発明の目的は、LTV発泡体を使用した弾性層を用いることなく、熱伝導率は低く抑えながら、トナーにかかる圧力が均一なために画像の光沢の均一性が十分な定着用回転体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した問題点を解決し、目的を達成するため、この発明に係わる定着用回転体は、請求項1の記載によれば、円筒状基体と、この円筒状基体の外周を取り巻くように配設されたエマルジョン組成物から調整された少なくとも独立気泡型のシリコーンエラストマー製の多孔質体層と、この多孔質体層の外周を被覆する合成樹脂製チューブとを具備する事を特徴としている。
【0011】
また、この発明に係わる定着用回転体は、請求項2の記載によれば、前記多孔質体層は、50μm以下の径を有するセルが全セル数の50%以上を占め、かつ60%以上の単泡率を有するシリコーンエラストマーから形成されていることを特徴としている。
【0012】
また、この発明に係わる定着用回転体は、請求項3の記載によれば、式(A):0<=(m−n)/m<=0.5(ここで、mは、セルの長径を表し、nは、セルの短径を表す)で示される関係を満たすセルが、全セル数の50%以上を占めることを特徴としている。
【0013】
また、この発明に係わる定着用回転体は、請求項4の記載によれば、式(B):0<=(m−n)/n<=0.5で示される関係をも満たすセルが、全セル数の50%以上を占めることを特徴としている。
【0014】
また、この発明に係わる定着用回転体は、請求項5の記載によれば、前記シリコーンエラストマーは、30μm以下の平均セル径を有することを特徴としている。
【0015】
また、この発明に係わる定着用回転体は、請求項6の記載によれば、前記シリコーンエラストマーは、80%以上の単泡率を有することを特徴としている。
【0016】
また、この発明に係わる定着用回転体は、請求項7の記載によれば、前記セルの径が0.1μm〜70μmの範囲内にあることを特徴としている。
【0017】
また、この発明に係わる定着用回転体は、請求項8の記載によれば、前記多孔質体が、硬化してシリコーンエラストマーを生成する液状シリコーンゴム材、界面活性作用を有するシリコーンオイル材、および水を含有する油中水型エマルジョン組成物から調製されたものであることを特徴としている。
【0018】
また、この発明に係わる定着用回転体は。請求項9の記載によれば、前記多孔質体層には、多孔質体一端部から反対側端部まで連続する複数の貫通穴を設けてあることを特徴としている。
【0019】
また、この発明に係わる定着用回転体は、請求項10の記載によれば、前記定着用回転体は、芯金を円筒状の基体として備えた定着用ローラである事を特徴としている。
【0020】
また、この発明に係わる定着用回転体は、請求項11の記載によれば、前記定着用ローラは、加圧ローラである事を特徴としている。
【0021】
また、この発明に係わる定着用回転体は、請求項12の記載によれば、前記定着用回転体は、可撓性を有するベルト基体を円筒状の基体として備えた定着用ベルトである事を特徴としている。
【0022】
また、この発明に係わる定着用回転体は、請求項13の記載によれば、前記合成樹脂製チューブは、フッ素樹脂製であることを特徴としている。
【0023】
また、この発明に係わる定着用回転体は、請求項14の記載によれば、前記合成樹脂製チューブは、前記多孔質体層の外周に、外嵌される状態で、挿入されることにより被覆されていることを特徴としている。
【0024】
また、この発明に係わる定着用回転体は、請求項15の記載によれば、前記多孔質体層は、成型金型のキャビティの内周面に固定された前記合成樹脂製チューブと、この合成樹脂製チューブ内に同芯状にセットされた前記基体ととの間に、前記シリコーンエラストマーを注入することにより成形されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0025】
この発明の定着用回転体は、LTV発泡体を使用した弾性層を用いることなく、エマルジョン組成物から調整された少なくとも独立気泡型のシリコーンエラストマー製の多孔質体層を弾性層として用いることにより、熱伝導率は低く抑えながら、トナーにかかる圧力が均一なために画像の光沢の均一性が十分な定着用回転体が提供されることになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下に、添付図面を参照して、この発明に係わる定着用回転体の一実施例の構成を説明するが、以下の説明においては、この発明に係わる定着用回転体を、加圧ローラに適用した場合につき、詳細に説明するものとする。
【0027】
尚、以降の説明の順序としては、先ず、この発明に係わる定着用回転体の一実施例の構成として特徴的に備えられる発泡体ではないシリコーンエラストマー多孔質体、更に詳細には、エマルジョンから調製されるシリコーンエラストマー多孔質体を詳細に説明し、次に、この発明に係わる定着用回転体の実施態様としての加圧ローラの構成を説明し、最後に、このシリコーンエラストマー多孔質体を用いた加圧ローラの具体例を説明するものとする。
【0028】
先ず、この発明で用いられるシリコーンエラストマー多孔質体の構造、及び、このエマルジョンから調製された多孔質体の製造方法を、以下に詳細に説明する。
【0029】
まず、上述した多孔質体は、この実施例においては、独立気泡型のシリコーンエラストマー多孔質体であり、更に詳細には、シリコーンエラストマーで作られたセル壁とこの母体中に分散・分布した多数の閉じたセル(独立気泡)を含むものと表現することができる。
【0030】
また、このシリコーンエラストマー多孔質体は、50μm以下の径を有するセルが全セル数の50%以上を占め、かつ60%以上の単泡率を有することを特徴とする実質的に独立気泡型のシリコーンエラストマー多孔質体である。
【0031】
以後詳述するが、独立気泡数の割合の指標となる単泡率が、60%未満であると、多孔質体の強度が弱くなる。
【0032】
さらに、このシリコーンエラストマー多孔質体は、セルの径が0.1〜70μmの範囲内にあり得、さらにセルの径は、0.1〜60μmの範囲内にあり得る。また、本発明のシリコーンエラストマー多孔質体は、50μm以下の径を有するセルが全セル数の80%以上を占めることができるものである。
【0033】
このシリコーンエラストマー多孔質体では、下記式(A)
(A):0<=(m−n)/m<=0.5
(ここで、mは、セルの長径を表し、nは、セルの短径を表す)で示される長径と短径との関係を満たすセルが、全セル数の50%以上を占めることができるものである。
【0034】
ここで、式(A)は、セルがどの程度真球に近いか(真球度)を表す尺度である。このシリコーンエラストマー多孔質体においては、下記式(B)によって与えられる条件をも満足するセルが、全セル数の80%以上を占めることができる。
(B):0<=(m−n)/n<=0.5
【0035】
ここで、セルの長径mとは、シリコーンエラストマー多孔質体の断面に現れる各セルについて、そのほぼ中心を通る、セルの輪郭上の最大2点間直線距離を意味し、短径nとは、各セルについて、そのほぼ中心を通る、セルの輪郭上の最小2点間距離を意味する。より具体的には、シリコーン多孔質体の任意の断面をSEMで撮影し、100〜250個程度のセルが存在する領域で各セルの長径mと短径nを計測する。この計測は、ノギスを用いて手作業で行うことができる。なお、平均セル径は、画像処理により行うこともできる。画像処理は、例えば、TOYOBO製解析ソフト「V10 for Windows(登録商標)95 Version 1.3」を用いて行うことができる。
【0036】
各セルの径は、各セルの長径mと短径nの和を2で除した値に相当する。いうまでもなく、セルが真球の場合には、m=nとなる。
【0037】
更に、このシリコーンエラストマー多孔質体は、30μm以下、さらには10μm以下の平均セル径を有することができる。
【0038】
上記100〜250個程度のセルが存在する領域におけるセルサイズ特性が、多孔質体全体のセルサイズ特性を表すほど、本発明の多孔質体は、セル径が均一である。いいかえると、本発明の多孔質体は、その任意断面において、100〜250個のセルが存在する矩形領域において、上記本発明で規定するセルサイズ特性(セルサイズ、平均セルサイズ、50μm以下のセルサイズを有するセルの占める割合、真球度等)を示す。このような断面積の任意領域におけるセルサイズ特性は、多孔質体の全体のセルサイズ特性、例えば、160mm(幅)×400mm(長さ)×15mm(厚さ)までの大きさの多孔質体の全体のセルサイズ特性を表し得ることが確認されている。従来、100〜250個のセルが存在する矩形領域において、本発明で規定するセルサイズ特性を示す多孔質体は存在しなかった。
【0039】
既述のように、このシリコーンエラストマー多孔質体は、実質的に独立気泡型のものである。多孔質体の全セル数のうち、閉じたセル(独立気泡)がどの程度の割合で存在するかは、「単泡率」で表現することができる。この単泡率は、以下の実施例の項で説明したように測定することができる。本発明のシリコーンエラストマー多孔質体は、60%以上の単泡率を有することができ、さらには80%以上の単泡率を有することができる。
【0040】
このシリコーンエラストマー多孔質体は、基本的に、硬化してシリコーンエラストマーを生成する液状シリコーンゴム材、および水を含有する油中水型エマルジョンから製造することができる。その際、液状シリコーンゴム材が低い粘度を有する場合には、液状シリコーンゴム材と水を十分に攪拌し、エマルジョンを生成させ、その後すぐに加熱して硬化させることができる。しかしながら、本発明のシリコーンエラストマー多孔質体は、硬化してシリコーンエラストマーを生成する液状シリコーンゴム材および水とともに、界面活性作用を有するシリコーンオイル材を含有する油中水型エマルジョンから好適に製造することができる。
【0041】
上述した液状シリコーンゴム材は、加熱により硬化してシリコーンエラストマーを生成するものであれば特に制限はないが、いわゆる付加反応硬化型液状シリコーンゴムを使用することが好ましい。付加反応硬化型液状シリコーンゴムは、主剤となる不飽和脂肪族基を有するポリシロキサンと架橋剤となる活性水素含有ポリシロキサンを含む。不飽和脂肪族基を有するポリシロキサンにおいて、不飽和脂肪族基は、両末端に導入され、側鎖としても導入され得る。そのような不飽和脂肪族基を有するポリシロキサンは、例えば、下記式(1)で示すことができる。
【0042】
【化1】

【0043】
式(1)において、R1は、不飽和脂肪族基を表し、各R2は、C1〜C4低級アルキル基、フッ素置換C1〜C4低級アルキル基、またはフェニル基を表す。a+bは、通常、50〜2000である。R1によって表される不飽和脂肪族基は、通常、ビニル基である。各R2は、通常、メチル基である。
【0044】
活性水素含有ポリシロキサン(ハイドロジェンポリシロキサン)は、不飽和脂肪族基を有するポリシロキサンに対し架橋剤として作用するものであり、主鎖のケイ素原子に結合した水素原子(活性水素)を有する。水素原子は、活性水素含有ポリシロキサン1分子当たり3個以上存在することが好ましい。そのような活性水素含有ポリシロキサンは、例えば、下記式(2)で示すことができる。
【0045】
【化2】

【0046】
式(2)において、R3は、水素またはC1〜C4低級アルキル基を表し、R4は、C1〜C4低級アルキル基を表す。c+dは、通常、8〜100である。R3およびR4で表される低級アルキル基は、通常、メチル基である。
【0047】
これら液状シリコーンゴム材は、市販されている。なお、市販品では、付加反応硬化型液状シリコーンゴムを構成する不飽和脂肪族基を有するポリシロキサンと活性水素含有ポリシロキサンとは別々のパッケージで提供され、以後詳述する両者の硬化に必要な硬化触媒は、活性水素含有ポリシロキサンに添加されている。いうまでもなく、液状シリコーンゴム材は、2種類以上を併用して用いることができる。
【0048】
界面活性作用を有するシリコーンオイル材は、エマルジョン中に水を安定に分散させるための分散安定剤として作用するものである。すなわち、この界面活性作用を有するシリコーンオイル材は、水に対し親和性を示すとともに、液状シリコーンゴム材に対しても親和性を示すものである。このシリコーンオイル材は、エーテル基等の親水性基を有することが好ましい。また、このシリコーンオイル材は、通常3〜13、好ましくは4〜11のHLB値を示す。より好ましくは、HLB値が3以上異なる2種類のエーテル変性シリコーンオイルを併用する。その場合、さらに好ましくは、7〜11のHLB値を有する第1のエーテル変性シリコーンオイルと、4〜7のHLB値を有する第2のエーテル変性シリコーンオイルとを組み合わせて使用する。いずれのエーテル変性シリコーンオイルも、ポリシロキサンの側鎖にポリエーテル基を導入したものを用いることができ、例えば、下記式(3)で示すことができる。
【0049】
【化3】

【0050】
式(3)において、R5は、C1〜C4低級アルキル基を表し、R6は、ポリエーテル基を表す。e+fは、通常、8〜100である。R5で表される低級アルキル基は、通常、メチル基である。また、R6により表されるポリエーテル基は、通常、(C24O)x基、(C36O)y基、または(C24O)x(C36O)y基を含む。主に、x、yの数により、HLB値が決定される。これら界面活性作用を有するシリコーンオイル材は市販されている。
【0051】
水は、いうまでもなく、上記油中水型エマルジョン中において、粒子(水滴)の形態で不連続相として分散して存在する。後に詳述するように、この水粒子の粒径が、本発明のシリコーンエラストマー多孔質体のセルの径を実質的に決定する。
【0052】
上述の油中水型エマルジョンは、液状シリコーンゴム材を硬化させるために、硬化触媒を含有することができる。硬化触媒としては、それ自体既知のように、白金触媒を用いることができる。白金触媒の量は、白金原子として、1〜100重量ppm程度で十分である。硬化触媒は、シリコーンエラストマー多孔質体を製造する際に上記油中水型エマルジョンに添加してもよいが、上記油中水型エマルジョンを製造する際に配合することもできる。
【0053】
上記した油中水型エマルジョンにおいて、液状シリコーンゴム材100重量部に対し、界面活性作用を有するシリコーンオイル材を0.2〜5.5重量部の割合で、水を10〜250重量部の割合で使用することが、水分散安定性に特に優れたエマルジョンを得る上で好ましい。そのような水分散安定性に優れたエマルジョンを使用することにより、良好な多孔質体をより一層安定に製造することができる。
【0054】
また、界面活性作用を有するシリコーンオイル材が、前記した第1のエーテル変性シリコーンオイルと前記第2のエーテル変性シリコーンオイルとの組合せからなる場合、液状シリコーンゴム材100重量部に対し、第1のエーテル変性シリコーンオイルを0.15〜3.5重量部の量で、第2のエーテル変性シリコーンオイルを0.05〜2重量部の量(合計0.2〜5.5重量部)で用いることが好ましい。また、液状シリコーンゴム材が不飽和脂肪族基を有するポリシロキサンと活性水素含有ポリシロキサンとの組合せからなる場合、前者と後者の重量比は、6:4〜4:6であることが好ましい。
【0055】
また、このシリコーンエラストマー多孔質体は、その用途に応じて、種々の添加剤を含有することができる。そのような添加剤としては、着色料(顔料、染料)、導電性付与材(カーボンブラック、金属粉末等)、充填材(シリカ等)を例示することができる。これら添加剤は、上記油中水型エマルジョンに配合することができる。さらに、上記油中水型エマルジョンは、例えば、脱泡を容易にすること等を目的としてエマルジョンの粘度を調整するために、分子量の低い、非反応性のシリコーンオイルを含有することができる。上記油中水型エマルジョンは、1cSt〜20万cStの粘度を有すると、脱泡が容易に行え、取り扱いに都合がよい。
【0056】
上記油中水型エマルジョンは、種々の方法により製造することができるものである。一般的には、液状シリコーンゴム材、界面活性作用を有するシリコーンオイル材、および水を、必要に応じてさらなる添加剤とともに、混合し、十分に撹拌することによって製造される。液状シリコーンゴム材が、不飽和脂肪族基を有するポリシロキサンと活性水素含有ポリシロキサンとの組合せにより提供される場合には、不飽和脂肪族基を有するポリシロキサンと界面活性作用を有するシリコーンオイル材の一部を混合・撹拌して第1の混合物を得、他方活性水素含有ポリシロキサンと界面活性作用を有するシリコーンオイル材の残りを混合・撹拌して第2の混合物を得ることができる。ついで、第1の混合物と第2の混合物を混合・撹拌しながら、徐々に水を添加して、撹拌することにより所望のエマルジョンを得ることができる。
【0057】
いうまでもなく、上記油中水型エマルジョンの製造方法はこれに限定されるものではない。液状シリコーンゴム材、界面活性作用を有するシリコーンオイル材、および水、並びに必要に応じて添加される添加剤の添加順序は、どのようなものでもよい。好適な油中水型エマルジョンを形成させるための撹拌は、例えば、300rpm〜1000rpmの攪拌器回転速度で行うことができる。エマルジョン形成後、油中水型エマルジョンを、加熱することなく、例えば真空減圧機を用いて、脱泡処理に供してエマルジョン中に存在する空気を除去することができる。
【0058】
上記したように油中水型エマルジョンを用いてシリコーンエラストマー多孔質体を製造するためには、硬化触媒の存在下に、上記油中水型エマルジョンを液状シリコーンゴム材の加熱硬化(一次加熱)条件に供することができる。一次加熱では、エマルジョン中の水を揮発させることなく、液状シリコーンゴム材を加熱硬化させるために、130℃以下の加熱温度を用いることが好ましい。一次加熱の際の加熱温度は、通常、80℃以上であり、加熱時間は、通常、5分〜60分程度である。この一次加熱により、液状シリコーンゴム材が硬化し、エマルジョン中の水粒子をエマルジョン中の状態のまま閉じ込める。硬化したシリコーンゴムは、以下述べる二次加熱による水分の蒸発の際の膨張力に耐える程度までに硬化する。
【0059】
次に、水粒子を閉じ込めた硬化シリコーンゴムから水分を除去するために、二次加熱を行う。この二次加熱は、70℃〜300℃の温度で行うことが好ましい。加熱温度が70℃未満では水の除去に長時間を要し、加熱温度が300℃を超えると、硬化したシリコーンゴムが劣化し得る。70℃〜300℃の加熱では、1時間〜24時間で水分は揮発除去される。二次加熱により水分が揮発除去されるとともに、シリコーンゴム材の最終的な硬化も達成される。揮発除去された水分は、硬化したシリコーンゴム材(シリコーンエラストマー)中に、水粒子の粒径にほぼ等しい径を有するセルを残す。
【0060】
このように、このシリコーンエラストマー多孔質体は、発泡現象を伴うことなく上記したように油中水型エマルジョンから製造することができる。また、上記した油中水型エマルジョン中の水粒子は、一次加熱により硬化したシリコーンゴムに閉じ込められ、二次加熱の際には、単に揮発するだけである。
【0061】
次に、上述した多孔質体を複数の実施例により、より具体的に説明するが、この多孔質体は、これらの実施例に限定されるものではないことは言うまでもない。
【0062】
以下の例において、シリコーンエラストマー多孔質体の単泡率は以下のようにして求めた。
<単泡率の測定>
本発明のシリコーンエラストマー多孔質体は、表面張力が高く、そのセルは微細であるため、水が侵入しにくい。そこで、シリコーンエラストマー多孔質体の水に対する濡れ性を向上させるために、界面活性剤を用いる。
【0063】
すなわち、製造したシリコーンエラストマー多孔質体の表層(表面から約1.0mm程度)を除去し、除去後の多孔質体の重量(吸水前多孔質体重量)を測定する。この多孔質体を水100重量部と親水性シリコーンオイル(ポリエーテル変性シリコーンオイル(信越化学社製KF−618))1重量部との混合溶液に浸漬し、減圧(70mmHg)下で10分間放置する。その後、大気圧に戻し、混合溶液から多孔質体を取り出し、多孔質体表面に付着している水をきれいに拭き取り、多孔質体の重量(吸水後多孔質体重量)を測定する。下記式から吸水率、連泡率、単泡率を順次算出する。
【0064】
吸水率(%)={(吸水後多孔質体重量−吸水前多孔質体重量)/吸水前多孔質体重量}×100
連泡率(%)=(多孔質体比重×吸水率/100)/{混合溶液の比重−(多孔質体比重/シリコーンエラストマーの比重)}×100
単泡率(%)=100−連泡率(%)。
【0065】
ここで、シリコーンエラストマーの比重は、液状シリコーンゴム材をそのまま硬化させたものの比重であり、製品カタログにも記載されている。
【0066】
実施例1
この実施例1では、液状シリコーンゴム材として、信越化学社から入手した液状シリコーンゴム(商品名KE−1353)を用いた。この液状シリコーンゴムは、活性水素含有ポリシロキサン(粘度:16Pa・S)と、ビニル基含有ポリシロキサン(粘度:15Pa・S)とが別々のパッケージとして提供され、ビニル基含有ポリシロキサンには、触媒量の白金触媒が添加されているものであった。以下、前者をシリコーンゴムA剤、後者をシリコーンゴムB剤と表示する。活性水素含有ポリシロキサンは、各R4がメチル基である上記式(2)の構造を有し、他方ビニル基含有シリコーンオイルは、各R1がビニル基であり、各R2がメチル基である上記式(1)の構造を有する。また、分散安定剤としては、いずれも信越化学社製ポリエーテル変性シリコーンオイルであるKF−618(HLB値:11);以下、「分散安定剤I」)およびKF−6015(HLB値:4);以下、分散安定剤II)を用いた。本実施例で用いた液状シリコーンゴム材から得られるシリコーンエラストマー自体の比重は、1.04である(カタログ値)。
【0067】
50重量部のシリコーンゴムA剤に、0.7重量部の分散安定剤Iと0.3重量部の分散安定剤IIとを予め混合した混合物を添加し、ハンドミキサーで5分間撹拌し、十分に分散させて混合物Aを調製した。他方、50重量部のシリコーンゴムB剤に、0.7重量部の分散安定剤Iと0.3重量部の分散安定剤IIとを予め混合した混合物を添加し、ハンドミキサーで5分間撹拌し、十分に分散させて混合物Bを調製した。
【0068】
得られた混合物Aと混合物Bを混合し、ハンドミキサーで3分間撹拌しながら、10重量部の水を添加した後、さらに2分間撹拌した。この混合物をハンドミキサーで撹拌しながら、90重量部の水を徐々に添加し、エマルジョンを調製した。
【0069】
得られたエマルジョンを真空減圧機内で脱泡させ、混入空気を除去した後、深さ6mmの圧縮成形金型に流し込み、プレス盤を用いて、設定温度100℃で30分間加熱(一次加熱)し、成形した。得られた成形体(多孔質体前駆体)を電気炉中、150℃で5時間加熱(二次加熱)し、水を除去した。こうして、長さ42mm、幅20mm、厚さ6mmの矩形板状のシリコーンエラストマー多孔質試験片を作製した。この試験片を幅方向に切断し、その切断面をSEMで観察し、セルの長径および短径をノギスで測定し、セルサイズ特性を求めた。また、この試験片について単泡率を測定した。結果を下記表1に示す。また、本実施例で得られた多孔質エラストマーの比重を測定したところ、0.66であり、硬度(Asker−C)は、40であった。なお、本試験片の切断面のSEM写真(倍率100倍)を図1に示す。このように、非常に微細で、均一なセル径を有する独立気泡型多孔質体が得られた。
【0070】
実施例2
この実施例2では、液状シリコーンゴム材として、東レ・ダウコーニング社から入手した液状シリコーンゴム(商品名DY35−7002)を用いた。この液状シリコーンゴムは、活性水素含有ポリシロキサン(粘度:15Pa・S)と、ビニル基含有ポリシロキサン(粘度:7.5Pa・S)とが別々のパッケージとして提供され、ビニル基含有ポリシロキサンには、触媒量の白金触媒が添加されているものであった。以下、前者をシリコーンゴムA剤、後者をシリコーンゴムB剤と表示する。活性水素含有ポリシロキサンは、各R4がメチル基である上記式(2)の構造を有し、他方ビニル基含有シリコーンオイルは、各R1がビニル基であり、各R2がメチル基である上記式(1)の構造を有する。また、分散安定剤としては、上記分散安定剤I分散安定剤IIを用いた。本実施例で用いた液状シリコーンゴム材から得られるシリコーンエラストマー自体の比重は、1.03である(カタログ値)。
【0071】
50重量部のシリコーンゴムA剤に、0.7重量部の分散安定剤Iと0.3重量部の分散安定剤IIとを予め混合した混合物を添加し、ハンドミキサーで5分間撹拌し、十分に分散させて混合物Aを調製した。他方、50重量部のシリコーンゴムB剤に、0.7重量部の分散安定剤Iと0.3重量部の分散安定剤IIとを予め混合した混合物を添加し、ハンドミキサーで5分間撹拌し、十分に分散させて混合物Bを調製した。
【0072】
得られた混合物Aと混合物Bを混合し、ハンドミキサーで3分間撹拌しながら、10重量部の水を添加した後、さらに2分間撹拌した。この混合物をハンドミキサーで撹拌しながら、90重量部の水を徐々に添加し、エマルジョンを調製した。
【0073】
このエマルジョンを用いて、実施例1と同様にしてシリコーンエラストマー多孔質体試験片を作製し、実施例1と同様にセルサイズ特性を測定し、単泡率を測定した。結果を下記表1に併記する。本実施例で得られた多孔質エラストマーの比重を測定したところ、0.55であり、硬度(Asker−C)は、56であった。なお、本試験片の切断面のSEM写真(倍率100倍)を図2に示す。このように、極めて微細で、均一なセル径を有する独立気泡型多孔質体が得られた。
【0074】
実施例3
この実施例3では、上述した実施例2で用いたシリコーンゴムA剤とシリコーンゴムB剤とを混合し、ハンドミキサーで3分間撹拌しながら、10重量部の水を添加した後、さらに2分間撹拌した。この混合物をハンドミキサーで撹拌しながら、90重量部の水を徐々に添加し、エマルジョンを調製した。
【0075】
このエマルジョンを用いて、実施例1と同様にしてシリコーンエラストマー多孔質体試験片を作製し、実施例1と同様にセルサイズ特性を測定し、単泡率を測定した。結果を下記表1に併記する。なお、本実施例で得られた多孔質エラストマーの比重を測定したところ、0.53であり、硬度(Asker−C)は、58であった。
【0076】
実施例4
この実施例4では、上述した実施例2で用いた液状シリコーンゴム材と、東レ・ダウコーニング社から入手した液状シリコーンゴム(商品名DY35−615)を用いた。この液状シリコーンゴムDY35−615は、活性水素含有ポリシロキサン(粘度:113Pa・S)と、ビニル基含有ポリシロキサン(粘度:101Pa・S)とが別々のパッケージとして提供され、ビニル基含有ポリシロキサンには、触媒量の白金触媒が添加されているものであった。以下、前者を本シリコーンゴムA剤、後者を本シリコーンゴムB剤と表示する。活性水素含有ポリシロキサンは、各R4がメチル基である上記式(2)の構造を有し、他方ビニル基含有シリコーンオイルは、各R1がビニル基であり、各R2がメチル基である上記式(1)の構造を有する。
【0077】
このシリコーンゴムA剤と実施例2で用いたシリコーンゴムA剤との体積比50:50の混合物50重量部に、0.7重量部の分散安定剤Iと0.3重量部の分散安定剤IIとを予め混合した混合物を添加し、ハンドミキサーで5分間撹拌し、十分に分散させて混合物Aを調製した。他方、本シリコーンゴムB剤と実施例2で用いたシリコーンゴムB剤との体積比50:50の混合物50重量部に、0.7重量部の分散安定剤Iと0.3重量部の分散安定剤IIとを予め混合した混合物を添加し、ハンドミキサーで5分間撹拌し、十分に分散させて混合物Bを調製した。
【0078】
得られた混合物Aと混合物Bを混合し、ハンドミキサーで3分間撹拌しながら、10重量部の水を添加した後、さらに2分間撹拌した。この混合物をハンドミキサーで撹拌しながら、90重量部の水を徐々に添加し、エマルジョンを調製した。
【0079】
このエマルジョンを用いて、実施例1と同様にしてシリコーンエラストマー多孔質体試験片を作製し、実施例1と同様にセルサイズ特性を測定し、単泡率を測定した。結果を下記表1に併記する。なお、本実施例で用いた液状シリコーンゴム材から得られるシリコーンエラストマー自体の比重は、1.07であった。また、本実施例で得られた多孔質体の比重は、0.60であり、硬度(Asker−C)は、35であった。
【0080】
比較例1
富士ゼロックス社製プリンタAble 1405から加圧ローラを取り外し、その弾性層であるシリコーンエラストマー多孔質体(発泡剤として2,2−アゾビスイソブチロニトリルを用いて発泡させたもの)から試験片を切り出した。この試験片について、実施例1と同様に、セルサイズ特性と単泡率を測定した。結果を下記表1に併記する。なお、本試験片の切断面のSEM写真(倍率100倍)を図3に示す。
【0081】
【表1】

【0082】
(加圧ローラの説明)
次に、この発明の一実施例に係わる加圧ローラ14は、後述する製造方法により製造されるものであるが、図4に取り出して示すように、芯金18と、この芯金18の外周に、プライマー30を介してこれを取り巻くように配設された多孔質体層32と、この多孔質体層32の外周に被覆された合成樹脂製フィルムからなる離型層34とで構成されている。
【0083】
ここで、上述した多孔質体層32は、既に上述したように、少なくとも独立気泡を含むシリコーンエラストマー、即ち、独立気泡型のシリコーンエラストマーから構成されている。そして、この多孔質体層32は、図示しない外径研磨装置により加工され、所定の外径になるように、加工されている。
【0084】
また、上述した離型層34を構成する合成樹脂製フィルムは、この実施例においては、フッ素樹脂製のフィルム、より具体的には、PFA樹脂から構成されている。この一実施例で使用されるPFAチューブは、厚さ20〜150μmであり、内面がエッチング処理されている。
【0085】
このPFAチューブの外径寸法は、PFAチューブを被覆 した最終製品としての定着ローラの外径より2〜10%小さいものが使用されている。即ち、PFAチューブの外径寸法が製品外径よりも2%以下の範囲で小さい(実質的にほぼ等しい)ものを使用すると、PFAチューブとゴムローラRとの間の密着が不十分となり、PFAチューブとゴムローラRとの間の接着に不具合が発生する。一方、これが10%以上小さいものを使用すると、成型時にPFAチューブの弾性伸び範囲を越えてしまうために、最終製品にしわが発生し易くなり好ましくない。
【0086】
この加圧ローラ14は、このような構成に限定される事なく、図5に取り出して示すように、シリコーンエラストマー多孔質体層32内に、芯金と平行に連続したいくつかの中空孔36を設けることができる。そして、この中空孔36は芯金18と平行と説明したが、芯金18と平行である必要はなく、シリコーンエラストマー多孔質体層32の一方の端部からかもう一方の端部までの連続した中空孔36であれば、中空孔36の形状、大きさ、数などは自由に設けることができることは言うまでもない。このような中空孔36を設ける事で、定着ローラの熱を受けてシリコーンエラストマー多孔質体が加熱膨張しても、加圧ローラ14の外径が膨張するのを抑えることができる。
【0087】
このように、加圧ローラ14の構成が、芯金18の外周面にシリコーンエラストマー多孔質体層32を形成し、この多孔質体層32の外周をPFAチューブで構成される離型層34で被覆しているので構成が簡単であり、熱容量が小さいために立上がり時間が短く、平均セル径が小さいので画像の光沢の均一性が得られ、セルの多くが独立気泡で球状に近い形状のためにニップ部での圧力を分散させやすく、セルの破壊の起こりにくい、また、いくつかの中空孔36を設けているので加熱によって外径の膨張のおきにくい、従来にない特有の効果を奏する高耐久な加圧ローラが得られる。
【0088】
因みに、このシリコーンエラストマー多孔質体は、この一実施例のように、加圧ローラ14に適用されるのみならず、定着ローラや定着ベルトや定着フィルムにも使用することができる。いずれのローラやベルトも基本構成は同じであり、基体の外周に、シリコーンエラストマー多孔質体からなる多孔質層を有する構成であれば良い。多孔質層の厚さは、個々により異なるが、一般的に、0.1mm〜20mm程度であり、長さは通常、400mmまでである。基体の外径も、個々により異なるが、通常、5mm〜100mm程度である。
【0089】
実施例5
次に、この加圧ローラ14の製造方法について、概略説明する。ます、ゴム面長の長さが310mm、外径14mmの鉄製芯金18を金型内にセットし、実施例4のエマルジョンを金型内に注入し加熱硬化した後、図示しない外径研磨装置に装着して、多孔質体層32の外径を25.0mmになるように研削加工する。この後、多孔質体32の外周に、PFAチューブを外嵌するように挿入し、両者の間を接着することにより、加圧ローラを得た。
【0090】
こうして得られたシリコーンゴム多孔質体層について、実施例1と同様に、セルサイズ特性と単泡率を測定したところ、実施例4とほぼ同じ平均セル径5μm、単泡率99.7%であった。
【0091】
このようにして得られた上記加圧ローラを富士ゼロックス社製プリンターAble 1405に組み込み、得られた画像の光沢の均一性を評価した。評価方法は、ベタ画像の通紙を行い、得られた画像の光沢ムラの発生の有無を目視で確認を行なった。その評価基準は、良好:○、使用可能:△、使用不可:×とし、評価結果を表2に示す。
【0092】
比較例2
実施例5と同じ芯金18を金型内にセットし、GE東芝シリコーン社製シリコーンゴムXE15−9036と水を混練したシリコーンゴム混合物を金型内に注入し加熱硬化した後、図示しない外径研磨装置に装着して、LTV発泡体層の外径を25.0mmになるように研削加工し、実施例5と同様のPFAチューブを外嵌するように挿入して、両者を接着することにより、加圧ローラを得た。
【0093】
このLTV発泡体層について、実施例1と同様に、セルサイズ特性と単泡率を測定したところ、平均セル径150μm、単泡率10%であった。本比較例で用いたシリコーンゴム材から得られるシリコーンエラストマー自体の比重は、1.05であった。また本比較例で得られたLTV発泡体の比重は0.49であり硬度(Asker−C)は、40であった。そして、実施例5と同様に通紙で得られた画像の光沢の均一性を評価した。評価結果を表2に示す。
【0094】
【表2】

【0095】
このように従来の平均セル径が150μm程度のLTV発泡体層を備える加圧ローラでは、通紙して得られたベタ画像の光沢の均一性が十分ではないが、本発明の平均セル径が30μm以下と非常に微細なシリコーンエラストマー多孔質体弾性層の加圧ローラは、通紙して得られたベタ画像の光沢の均一性が十分であった。
【0096】
この発明に係わる定着用回転体は、上述の構成に限定される事なく、この発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変形可能である事は、言うまでもない。以下に、定着用回転体の他の実施例の構成を、添付図面を参照して説明する。尚、以下の説明において、上述した構成と同一部分には、同一符号を付して、その説明を省略する。
【0097】
(加圧ローラの他の構成例の説明)
例えば、上述した加圧ローラ14においては、芯金18の外周面にシリコーンエラストマー多孔質体層32を均一に被覆した構成と説明したが、この加圧ローラ14は、このような構成に限定される事なく、シリコーンエラストマー多孔質体層32内に、芯金14と平行に連続したいくつかの中空孔36を設けることができる。そして、この中空孔36は芯金18と平行と説明したが、芯金18と平行である必要はなく、シリコーンエラストマー多孔質体層32の一方の端部からかもう一方の端部までの連続した中空孔であれば、中空孔の形状、大きさ、数などは自由に設けることができることは言うまでもない。
【0098】
また、上述した実施例5においては、研削加工した後の多孔質体層32の外周に、PFAチューブを外嵌するようにして挿入するように説明したが、この発明は、このような製造方法により成形することに限定されることなく、成型金型のキャビティ内にPFAチューブを固定し、次に、このキャビティ内にPFAチューブと同芯状に芯金18をセットし、芯金18とPFAチューブとの間に、上述したエマルジョンを注入して加熱加工し、冷却後、成型金型から取り出すことにより、加圧ローラ14を得るようにしてもよいことは、言うまでもない。
【0099】
(定着用回転体の他の適用例の説明)
また、この発明に係わる定着用回転体を、加圧ローラに適用した場合につき説明したが、このような適用に限定される事なく、この発明に係わる定着用回転体を、定着ローラに適用しても良く、ベルト定着装置などにおける定着ベルトやフィルム定着装置の定着フィルムに適用しても良いことは言うまでもない。
【0100】
また、上述した製造方法の一実施例の手順において、加圧ローラの多孔質体を形成するために、金型内に芯金18をセットし、この芯金18の外周に多孔質体の原材料としてのエマルジョンを注入して芯金18の外周に多孔質体層32を被覆するように説明したが、この発明は、このような手順に限定されることなく、予め、中心部に挿通孔が形成された円筒状の多孔質体を形成しておき、この円筒状の多孔質体に芯金18を挿通することにより、加圧ローラを形成するようにしても良いことは、言うまでもない。要は、芯金18の外周に多孔質体層32が形成されているものであれば、その形成手順を何等問わないものである。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】実施例1で作製したシリコーンエラストマー多孔質体の断面のSEM写真である。
【図2】実施例2で作製したシリコーンエラストマー多孔質体の断面のSEM写真である。
【図3】比較例1のシリコーンエラストマー多孔質体の断面のSEM写真である。
【図4】この発明に係わる定着用回転体を、加圧ローラに適用した場合の構成を示す断面図である。
【図5】この発明に係わる定着用回転体を加圧ローラに適用した場合の他の構成例に係わる構成を概略的に示す図である。
【符号の説明】
【0102】
14 加圧ローラ
18 加圧ローラ14の芯金
30 加圧ローラ14の芯金と多孔質体層間のプライマー
32 加圧ローラ14の多孔質体層
34 加圧ローラ14の離型層
36 多孔質体層中の中空孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状の基体と、
この基体の外周を取り巻くように配設されたエマルジョン組成物から調製された少なくとも独立気泡型のシリコーンエラストマー製の多孔質体層と、
この多孔質体層の外周を被覆する合成樹脂製チューブと、
を具備することを特徴とする定着用回転体。
【請求項2】
前記多孔質体層は、50μm以下の径を有するセルが全セル数の50%以上を占め、かつ60%以上の単泡率を有するシリコーンエラストマーから形成されていることを特徴とする請求項1に記載の定着用回転体。
【請求項3】
式(A):0<=(m−n)/m<=0.5
(ここで、mは、セルの長径を表し、nは、セルの短径を表す)で示される関係を満たすセルが、全セル数の50%以上を占める事を特徴とする請求項2に記載の定着用回転体。
【請求項4】
式(B):0<=(m−n)/n<=0.5
で示される関係をも満たすセルが、全セル数の50%以上を占める事を特徴とする請求項3に記載の定着用回転体。
【請求項5】
前記シリコーンエラストマーは、30μm以下の平均セル径を有することを特徴とする請求項2に記載の定着用回転体。
【請求項6】
前記シリコーンエラストマーは、80%以上の単泡率を有することを特徴とする請求項2に記載の定着用回転体。
【請求項7】
前記セルの径が0.1μm〜70μmの範囲内にあることを特徴とする請求項2に記載の定着用回転体。
【請求項8】
前記多孔質体が、硬化してシリコーンエラストマーを生成する液状シリコーンゴム材、界面活性作用を有するシリコーンオイル材、および水を含有する油中水型エマルジョン組成物から調製されたものであることを特徴とする請求項1に記載の定着用回転体。
【請求項9】
前記多孔質体層には、多孔質体一端部から反対側端部まで連続する複数の貫通穴を設けてあることを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の定着用回転体。
【請求項10】
前記回転体は、芯金を円筒状の基体として備えた定着用ローラである事を特徴とする請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の定着用回転体。
【請求項11】
前記定着用ローラは加圧ローラである事を特徴とする請求項10に記載の定着用ローラ。
【請求項12】
前記回転体は、ベルト基体を円筒状の基体として備えた定着用ベルトである事を特徴とする請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の定着用回転体。
【請求項13】
前記合成樹脂製チューブは、フッ素樹脂製であることを特徴とする請求項1に記載の定着用回転体。
【請求項14】
前記合成樹脂製チューブは、前記多孔質体層の外周に、外嵌される状態で、挿入されることにより被覆されていることを特徴とする請求項1に記載の定着用回転体。
【請求項15】
前記多孔質体層は、成型金型のキャビティの内周面に固定された前記合成樹脂製チューブと、この合成樹脂製チューブ内に同芯状にセットされた前記基体ととの間に、前記シリコーンエラストマーを注入することにより成形されていることを特徴とする請求項1に記載の定着用回転体。

【図4】
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【図5】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−323229(P2006−323229A)
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−147528(P2005−147528)
【出願日】平成17年5月20日(2005.5.20)
【出願人】(000227412)日東工業株式会社 (99)
【Fターム(参考)】