説明

定着用部材及び画像形成装置

【課題】ウォームアップタイムが短く熱効率が高い上に、強度、汎用性、製造性に優れ、信頼性の高い定着用部材、及び該定着用部材を定着装置に用いた画像形成装置を提供すること。
【解決手段】有機材料の中空部材を分散させたポリイミド溶液又はポリイミド前駆体溶液が、焼成されることによって得られるポリイミドフィルムを用いる定着用部材、及び、該定着用部材を、定着装置に用いることを画像形成装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真方式を利用した複写機やプリンター等において定着装置に用いられる定着用部材に関し、また、該定着用部材を用いた画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子写真方式を利用した複写機やプリンター等においては、記録媒体上に形成された未定着トナー像を定着して永久画像にする工程を定着工程と呼んでいる。前記定着工程としては、溶剤定着法、圧力定着法、加熱定着法が知られている。
溶剤定着法は、溶剤蒸気が発散し、臭気や衛生上の問題点がある。一方、圧力定着法は、他の定着法と比較して定着性が悪く、且つ、圧力感応性トナーが高価であるという欠点を有している。溶剤定着法及び圧力定着法は、これらの欠点が原因となり、共にほとんど実用化されていないのが現状で、現実的には加熱によってトナーを溶融させ、記録媒体に熱融着させる加熱定着法が広く採用されている。
【0003】
加熱定着法としては、従来一般的な方法として、加熱ロール、加圧ロールの両方若しくは一方の内部にハロゲンランプを配置し、このハロゲンランプの輻射熱により、前記加熱ロール、加圧ロールの両方若しくは一方の表面を加熱する方法が採用されてきた。この加熱定着法では、具体的には、加熱ロールと加圧ロールとが互いに圧接したニップに、未定着トナー像が形成された記録媒体を挿通させ、ニップ内で前記ロール表面の熱によりトナーを溶融し、ニップ圧力で記録媒体に固着させることで永久画像を形成していた。
【0004】
この方法だと、ハロゲンランプと加熱したい加熱ロール又は加圧ロールの表面との間には、空気層をはじめとする断熱層が存在するため、ロールの表面が定着可能温度に達するまでの時間(以下、単に「ウォームアップタイム」という。)として3〜8分程度の時間が必要になるという欠点がある。そのため、画像形成を行わない待機時においても定着装置の温度をある程度高温に維持する必要があり、これが複写機等の消費電力の大部分を占めているのが現状である。
【0005】
一方、定着可能温度に達するまでの時間を短縮した定着装置として、薄膜フィルムと固定ヒーターとを用いた定着装置が提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。
これらの定着装置では、加熱部材の熱容量を極力減らすために、薄膜フィルムを用いているものの、固定ヒーターが熱容量を有するためにウォームアップタイムを実質的にはなくすことができず、数秒から数十秒の立ち上がり時間が必要となる。
また、直接加熱しているのはあくまでも固定ヒーターであり、これを加熱することで前記固定ヒーターに接触する薄膜フィルムを間接的に加熱するため、熱効率が十分ではない。更に、固定ヒーターが、回転する薄膜フィルムと摺動するため、固定ヒーターや薄膜フィルム内面の摩耗等の不具合が発生する。
【0006】
そこで、近年、基体上に金属層を形成した定着用部材を用いて、この定着用部材に対向或いは内包されたコイルに電流を流して、コイルで発生した磁界によって、加熱部材の金属層に誘導される渦電流で金属層を加熱する電磁誘導加熱定着装置が提案されている(例えば、特許文献3、4参照)。
この方式では、熱効率が非常に高く、定着用部材の表面近傍にある金属層を発熱させるため、定着用部材表面を瞬時に定着可能温度に加熱することが可能となる。また、直接接触するのは定着用部材だけになるため、奪われる熱も少なくすることができる。そのためプリントジョブの間の待機時間中に、定着用部材をある程度の高温に保つ必要がなくなる。
【0007】
一方、このような定着用部材の基体として、ロールタイプのような中空或いは中実な金属コア材を用いるよりも、樹脂や金属の薄膜フィルムを用いるほうが、定着用部材の熱容量を低く抑えることができるためウォームアップタイムを短くすることが可能となる。そのようなベルト型の定着用部材を用いた電磁誘導加熱定着装置は、定着用部材である金属層を含む電磁誘導定着ベルト(以下、単に「誘導定着ベルト」という場合がある。)と、加圧部材と、電磁誘導コイルと、ベルト内パッド部材と、で構成される。
【0008】
電磁誘導コイルは、誘導定着ベルトに内包されているか、若しくは対向する位置に配置されている。また、ベルト内パッド部材は、無端状の誘導定着ベルトの内側に配され、誘導定着ベルトを介して加圧部材に押圧され、加圧部材との間にニップを形成するものである。
【0009】
誘導定着ベルトの基体としては、主にニッケル、鉄、ステンレス(SUS)等の金属ベルトや、熱硬化性ポリイミド、芳香族ポリアミド(アラミド)、液晶ポリマー等の耐熱性樹脂等を用いることが多い。これらに共通の特性としては、耐熱性・高強度などが挙げられる。
尚、基体に用いられる液晶ポリマーは、溶液状態又は溶融状態で液晶性を示すポリマーであるが、溶融状態で液晶性を示すサーモトロピックク液晶ポリマーは、特に高強度、高耐熱、低線膨張率、高絶縁、低吸湿、高ガスバリアー性等の優れた特性を持っている。
【0010】
しかしながら、このような定着用部材では、熱が定着用部材の内部(定着用部材の記録媒体と接触しない側の面)へ逃げるのを防止することができなかった。
【0011】
そこで、エネルギー供給手段によって加熱される中空円筒部材の内面に断熱層を設けることで、ウォームアップタイムが短く、かつ熱効率の良い定着用部材が提案されている(例えば、特許文献5参照)。この定着用部材の断熱層は、中空ガラスビーズを中空円筒部材の内面に焼き付けて形成されるガラス層、又は、中間に空気層を介在させた一対のガラス部材から構成される。
【特許文献1】特開昭63−313182号公報
【特許文献2】特開平4−044074号公報
【特許文献3】特開平11−352804号公報
【特許文献4】特開2000−188177号公報
【特許文献5】特開2001−135472号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかし、上記断熱層を形成させた定着用部材は、断熱層全体が柔軟性に欠け且つ脆性材料であるガラス材料のみから構成されているため、何らかの衝撃が加わった際に断熱層自体が破壊され易く、長期間の使用が困難であることが予測され、信頼性に劣ると考えられる。加えて、この定着用部材は、柔軟性の要求されるベルト状等の形態での利用は実質的に不可能であり汎用性に劣る。
【0013】
また、断熱層が中空ガラスビーズを中空円筒部材の内面に焼き付けて形成されたガラス層である場合には、高温で焼き付けなければならないため製造性に劣る。更に、この定着用部材と対向配置される加圧部材との押圧力を調整するために、この定着用部材の内周面側に押圧部材を設けた場合には、脆性材料のみからなる断熱層が破壊される恐れがある。
また更には、潤滑剤を利用して両者の間の良好な潤滑性を確保することが困難である。これは定着用部材の内周面の表面凹凸が、断熱層を構成するガラスビーズに起因して大きすぎるために、定着用部材内周面と押圧部材との接触が面接触ではなく点接触となることに加え、潤滑剤が双方の界面に均一に分散させることができないと予想されるためである。
【0014】
一方、断熱層が、中間に空気層を介在させた一対のガラス部材からなる構成については、このような構成からなる断熱層の具体的な形成方法が前記特許文献5中に全く記載されておらず、実現可能性の点で疑問が残る。加えて、層状の連続した空気層を一対のガラス部材の間に形成しているため、断熱層の強度が確保し難いことが予想され実用性に劣るものと考えられる。これらのことから、このような構成は実現可能性や実用性に極めて乏しい。
【0015】
そこで本発明は、上記問題点を解決することを課題とする。
即ち、本発明は、ウォームアップタイムが短く熱効率が高い上に、強度、汎用性、製造性に優れ、信頼性の高い定着用部材、及び該定着用部材を定着装置に用いた画像形成装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題は以下の本発明により達成される。
即ち、本発明の定着用部材は、
<1> 有機材料の中空部材を分散させたポリイミド溶液又はポリイミド前駆体溶液が、焼成されることによって得られるポリイミドフィルムを用いることを特徴とする定着用部材である。
<2> 前記有機材料が樹脂であることを特徴とする前記<1>に記載の定着用部材である。
<3> 前記樹脂がアクリル若しくは架橋アクリルであることを特徴とする前記<2>に記載の定着用部材である。
<4> 前記ポリイミドフィルムを基材として用い、該基材上に、少なくとも金属層及び表面層を積層することを特徴とする前記<1>〜<3>の何れか1項に記載の定着用部材である。
<5> 前記金属層と前記表面層との間に弾性層を積層することを特徴とする前記<4>に記載の定着用部材である。
<6> 電磁誘導装置により加熱されることを特徴とする前記<1>〜<5>の何れか1項に記載の定着用部材である。
<7> 前記ポリイミドフィルムが無端状のベルトであることを特徴とする前記<1>〜<6>の何れか1項に記載の定着用部材である。
【0017】
また、本発明の画像形成装置は、
<8> 前記<1>〜<7>の何れか1項に記載の定着用部材を、定着装置に用いることを特徴とする画像形成装置である。
【発明の効果】
【0018】
以上に説明したように本発明によれば、ウォームアップタイムが短く熱効率が高い上に、強度、汎用性、製造性に優れ、信頼性の高い定着用部材、及び該定着用部材を定着装置に用いた画像形成装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の定着用部材は、有機材料の中空部材を分散させたポリイミド溶液又はポリイミド前駆体溶液が、焼成されることによって得られるポリイミドフィルムを用いることを特徴とし、また、本発明の画像形成装置は、該定着用部材を、定着装置に用いることを特徴とする。
以下、本発明の定着用部材及び画像形成装置について、詳細に説明する。
【0020】
<定着用部材>
本発明の定着用部材は、電子写真方式を利用した複写機等において、定着装置に用いることができ、特に電磁誘導加熱定着装置に好適に用いることができる。
本発明の定着用部材の形状は特に限定されるものではなく、ロール形状や、無端ベルト等のベルト形状で利用することが可能である。柔軟性が必要とされるベルト形状でも利用が可能であるため、本発明の定着用部材は汎用性が高く、多様な形態・仕様の定着装置の作製が可能である。
【0021】
また、本発明の定着用部材は、上述のポリイミドフィルムを用いることが必須要件であり、その他任意で金属層、表面層、弾性層等を設けることができる。特に、上記ポリイミドフィルムを基材とし、その上に金属層及び表面層を設けた、電磁誘導加熱方式の定着装置に用いる態様が好ましい。
以下、本発明の定着用部材を構成する各層について説明する。
【0022】
−ポリイミドフィルム−
本発明の定着用部材に用いるポリイミドフィルムは、有機材料の中空部材を分散させたポリイミド溶液又はポリイミド前駆体溶液を焼成して得られることを特徴とする。
有機材料の中空部材を分散させることにより、焼成して得られたポリイミドフィルムはフィルム中に空気(空隙)を含んだものとなり、そのため空気を含まないポリイミドフィルムよりも熱伝導率が低くなり、断熱効果が高いフィルムとなる。
【0023】
また、中空部材の殻である有機材料は焼成してしまうために、焼成して得られるフィルムは、見かけ上、殻が無くポリイミドフィルムに空気が含まれたものとなる。また、分散させる中空部材の量及び焼成温度によりポリイミドフィルムに含まれる空気の量(空隙率)や発泡の大きさを制御しやすいといった利点がある。
【0024】
ここで、上記有機材料の中空部材は、以下の二点の要件を満たすことが必要となる。
(1)ポリイミド溶液又はポリイミド前駆体溶液に分散した際、溶解しないこと
(2)焼成により、見かけ上殻が無くなること
尚、上記において「溶解しない」とは、ポリイミド又はポリイミド前駆体の18質量%溶液(液温25℃)に分散させた時の溶解度が、30%以下であることをさす。また、「見かけ上殻が無くなる」とは、殻(つまり有機材料)がポリイミドフィルム中で、その存在を明確に区別できなくなることをさし、フィルム中から完全に消失することを示すものではない。
【0025】
本発明において用いられる有機材料としては、上記の要件を満たすものであれば特に限定されるものではないが、樹脂であることがより好ましく、その中でも、上記二点の要件を良好に満たすという観点から、アクリル若しくは架橋アクリルが特に好ましい。
【0026】
特に架橋アクリルである場合には耐溶剤性が向上し、ポリイミド溶液又はポリイミド前駆体溶液に分散させた時に殻が溶けにくく、分散してから塗布・乾燥するまでの時間、いわゆるポットライフを長くできるといった利点がある。
【0027】
この方法で製造された空隙を含むポリイミドフィルムは、分散させた中空部材の殻が残っていないため、折り曲げや圧力のストレスがかかる際にも、殻が割れてしまう、殻同士がこすれ合う、殻による凹凸がある等の問題がなく、強靭なフィルムとなる。従って断熱性フィルムとして定着用部材に用いる際には好ましいフィルムとなる。
【0028】
更に、この方法で製造された空隙を含むポリイミドフィルムは、殻が残っていないため、膜厚が均一にできやすく、金属層、表面層を積層する場合にも好ましい。ポリイミドフィルムの厚みむらが10μmを超えるような場合には、金属層との接着が得られにくく、また、圧力や屈曲のストレスがかかった際に、金属疲労を起こしやすく、耐久性が得られにくいといった問題がある。
【0029】
また、金属層等との接着性向上のため、ポリイミドフィルム表面を、粗面化することがあるが、従来のガラス中空部材を分散させたフィルムでは、粗面化することによって、ガラスの殻が壊れてしまうことも有り、結果としてポリイミドフィルムに穴が開いてしまうといった問題点があるが、有機材料の中空部材を分散させて得られたフィルムは殻がないため、穴が開きにくいといった利点もある。
【0030】
ここで、本発明におけるポリイミドフィルムの空隙率としては、10%以上であることが好ましく、30%以上であることがより好ましい。空隙率が10%未満である場合には、高い断熱効果を得ることができない場合がある。また、高い断熱効果が得られる点では空隙率は高ければ高い程好ましいが、高すぎる場合には、強度の確保が困難になる場合があるため、80%以下であることが好ましい。
尚、空隙率を求めるにあたり、フィルム中に含まれている中空部材の質量は無視してよく、空隙を含むポリイミドフィルムの比重と、空隙を含まないポリイミドフィルムの比重から計算により求めることができる。
【0031】
また、熱伝導率という観点からは、0.25W/m・℃以下であることが好ましく、0.20W/m・℃以下であることがより好ましい。
【0032】
(ポリイミドフィルムの製造方法)
まず、有機材料の中空部材を、ポリイミド溶液或いはポリイミド前駆体溶液に分散・混合させる。
固形分である中空部材の粒径は3〜30μmが好ましい。これ未満の粒径では空隙率を大きくすることが難しい場合があり、また粒径がこれより大きいものでは均一な膜厚・強度とすることが難しくなることがある。
【0033】
尚、この塗工液は固形分である中空部材を含むため、適当な溶剤を用いて粘度を下げることが、塗工液中での中空部材の分散性を向上させる上で好ましい。粘度が高い場合には中空部材の分散性が悪くなり、分散方法に工夫が必要となる。但し、粘度が低過ぎる場合には、乾燥中に膜厚むらができやすくなり、乾燥させる条件の最適化が難しくなることがある。
【0034】
以上から中空部材を分散させた塗工液の粘度は、ポリイミド溶液或いはポリイミド前駆体溶液の粘度の半分から1/4程度の範囲内に調整することが好ましく、粘度で言えば、2.5〜1Pa・s(at30℃)程度の範囲にすることが好ましい。
【0035】
塗工液の塗工方法としては、ロールコーター法、ブレードコーター法、エアナイフコーター法、ゲートロールコーター法、バーコーター法、サイズプレス法、シムサイザー法、スプレーコート法、グラビアコート法、カーテンコーター法、ディップコート法等が挙げられる。
【0036】
これらの方法で得られた塗布膜を、段階的に温度を上げながら乾燥させ、空隙を含むポリイミドフィルムを形成する。例えば、無端上のポリイミドベルトを作製する場合には、上記塗工液を上記塗工方法により、アルミ等からなるパイプに塗布し、段階的に温度を上げながら乾燥させることによって、得ることができる。
【0037】
尚、空隙率は中空部材の分散濃度と乾燥温度条件により、所望の値に制御することが可能である。
また、ポリイミドフィルムの厚みとしては、30μm〜200μmが好ましい。30μm以下ではフィルムの強度が得られにくく、200μm以上では柔軟性を得にくい。
【0038】
−金属層−
本発明の定着用部材を構成する金属層は、任意に設けられる層であり、加熱定着方式の定着装置において、ヒーター等により加熱されるための層である。また特に、電磁誘導加熱方式においては、定着装置内に設けられたコイルから発生する磁界により渦電流を発生させることで発熱するための層である。
本発明の定着用部材においては、金属層の内側に、空隙を含んだポリイミドフィルムを設けることにより、金属層が発熱した熱を内側に伝えにくく(逃げにくく)でき、ウォームアップ時間を短縮することが可能となり、定着に必要な熱エネルギー量を減らすことができるといった効果がある。そのため、電磁誘導加熱定着装置の特徴である省エネ効果を更に高めることができる上に、ポリイミドフィルムと接する材料の選択性が広がると共に、熱が高くならないことで信頼性が向上するといった効果が期待できる。
ここでは、特に電磁誘導加熱方式の定着装置に用いる場合の金属層について説明する。
【0039】
この金属層の厚さは3〜50μmの範囲であることが好ましく、3〜30μmの範囲であることがより好ましく、5〜20μmの範囲であることが更に好ましい。
金属層の厚さが3μm未満になると、金属層の抵抗値が高くなることにより、十分な渦電流が発生し難くなることがあり、発熱が不足し、ウォームアップ時間が長くなるか、或いは定着可能温度まで加熱することができなくなる場合がある。また、金属層の厚さが50μmを超えると、十分な発熱は得られるものの、金属層自体の熱容量が大きくなってしまうことからウォームアップ時間が長くなってしまう場合がある。
【0040】
金属層には、電磁誘導作用を生ずる金属が用いられる。かかる金属としては、例えばニッケル、鉄、銅、金、銀、アルミニウム、スチール、クロムなどが選択可能である。これらのうちコスト、発熱性能、及び加工性を考慮すれば、銅、ニッケル、アルミニウム、鉄、クロムが適しており、特に銅が好ましい。
【0041】
金属層は、単層構成であってもよく、2以上の層から構成されていてもよい。特に、金属層がめっき法を利用して作製される場合には、ポリイミドフィルム表面に無電解めっきにより形成された第一の金属層と、第一の金属層の表面に電解めっきにより形成された第二の金属層との少なくとも2層から形成されていることが好ましい。
【0042】
従来、金属層を有する定着用部材において、ポリイミド等のフレキシブルな基体上に薄膜状の金属層を形成する場合、基体と金属層との密着性を高めるために、真空設備を用いた蒸着やスパッタリング等のPVD(Physical Vapor Deposition)法が利用される場合が多かった。しかし真空設備を使った成膜方法では、特に定着ベルトのような円筒形状の基体に対してはバッチ処理が必要となるためコストアップとなる場合がある。
【0043】
一方、前記無電界めっき法は低コストであるが、無電界めっき法により形成される金属膜はポリイミドフィルムに対する密着力が弱い。これを補うために金属層が形成される面(即ちポリイミド層の外側面)を、ブラスト処理などにより粗面化処理された耐熱性樹脂等で構成された面とすることが好ましい。この場合には、低コストであると共に、金属層とポリイミドフィルムとの間で十分な密着性を得ることができる。
【0044】
尚、無電界めっきにより形成される金属層は、電界めっきにより形成される金属膜と比較して密度が低く抵抗が高くなる傾向にあるため、金属層は、無電界めっきと電界めっきとを組み合わせて形成することが好ましい。この場合、金属層は、まずポリイミド層の外側面に無電界めっき法により形成される第一の金属層と、この第一の金属層の表面に形成される第二の金属層とから形成され、第一の金属層によりポリイミド層との密着性を確保すると共に、第二の金属層により金属層全体の低抵抗化を図ることができる。
【0045】
このような2層構成からなる金属層の場合、無電解めっきにより形成された第一の金属層が、ニッケル、銅、クロムのうちの少なくとも一種類の金属により形成されていることが好ましい。これは無電解めっきにより形成された第一の金属層は、第二の金属層を電解めっきするための電極として使う層であり、ある程度の低抵抗が要求されるからである。更に、ニッケルや銅を使うことで、ポリイミドフィルム層を透過した酸素により第二の金属層が酸化して劣化することを防止することが可能となる。
【0046】
また、電解めっきにより形成された第二の金属層は、銅を含む層であることが好ましい。銅は鉄やニッケル等の金属と比較して低抵抗であり、電解めっきにより膜形成が可能であることから、電磁誘導加熱方式の定着用部材の金属層として高性能な膜が形成しやすい。
【0047】
−弾性層−
本発明の定着用部材には、表面層と金属層との間に弾性層を設けても良い。弾性層を設けることで、紙等の記録媒体に均一に圧力を加えることができ、高画質な定着画像を得ることが可能となる。特に最近ではフルカラーの高画質な印刷物が好まれているため、表面層と金属層との間に弾性層を設けることが好ましい。
【0048】
弾性層の厚みとしては30〜500μmの範囲が好ましい。弾性層の厚みが30μmより薄いと圧力を均一にかけることが難しく、高画質な定着画像を得難い場合がある。また、弾性層の厚みが500μmを超えると、金属層で発生した熱を表面(外側面)に伝えにくく、ウォームアップ時間をより短くしたり、プリントスピードを早くすることが難しくなる場合がある。
【0049】
尚、表面層と金属層との間に設けられる弾性層を構成する材料としては、シリコーンゴム、フッ素ゴム、フルオロカーボンシロキサンを主成分とするゴム等を利用することができる。
【0050】
−表面層−
本発明の定着用部材は、最も外側に設けられる層として記録媒体に対する離型性を有する表面層(離型層)を設けることが好ましい。表面層には、未定着トナー像を溶融状態として記録媒体表面に固着させる際に、溶融状態のトナーが定着用部材に固着することを防ぐ機能(離型性)が求められるため、離型性を有する材料を含んでなることが必要である。
【0051】
このような離型性を有する材料としては、公知の材料から選択することができるが、フッ素系化合物を用いることが好ましく、例えばフッ素ゴムや、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、四フッ化エチレン六フッ化プロピレン共重合体(FEP)等のフッ素樹脂などを用いることができる。
【0052】
かかる表面層の厚さは、10〜100μmであることが好ましく、20〜50μmであることがより好ましい。表面層の厚さが10μm未満であると、記録媒体エッジでの繰り返し摩擦により表面層が摩滅する場合がある。一方、前記表面層の厚さが100μmを超えると表面の柔軟性がなくなる場合があり、その結果トナーを押しつぶす力が働き定着画像の粒状性が損なわれたり、ウォームアップ時間が長くなることがある。
【0053】
−定着用部材の製造方法−
次に、本発明の定着用部材の製造方法について説明する。本発明の定着用部材は、従来の金属層を含む定着用部材と同様に公知の方法を利用して作製することができる。例えば、各々の層を液相成膜や気相成膜等、公知の成膜方法を利用してポリイミドフィルム(基体)上に金属層、表面層をこの順に積層して形成したり、予めフィルム状に形成された各層をラミネートするなどして貼り合わせて積層形成したり、両者を組み合わせて積層形成したり、あるいは、押し出し成形を利用してもよい。
【0054】
この場合、各々の層を形成する場合には液相成膜や気相成膜を利用できるが、液相成膜はいずれの層でも利用でき、気相成膜は金属層の形成に利用できる。前者の場合、表面層、弾性層を形成する場合には、例えばこれらの層を構成する材料を適当な溶剤に溶解または分散させて塗工液を調製し、塗工液を塗工して乾燥、焼成したりする方法が利用できる。
【0055】
なお、塗工液の塗工方法としては、(ポリイミドフィルムの製造方法)において列挙した方法と同様の方法が挙げられる。
【0056】
<定着装置及び画像形成装置>
次に、本発明の定着用部材を用いた電磁誘導加熱方式の定着装置と、この定着装置を用いた画像形成装置について説明する。
本発明における定着装置は、上述した本発明の定着用部材と、定着用部材に磁界を印加する電磁誘導加熱装置と、定着用部材の表面(外側面)と当接する加圧部材と、を少なくとも含むものである。この定着装置による定着は、未定着トナー像が形成された記録媒体を定着用部材と加圧部材との当接部を挿通させた際に、電磁誘導加熱装置により加熱された定着部材の熱と、定着用部材と加圧部材との間の押圧力とにより、未定着トナー像が記録媒体表面に加熱定着されることにより行われるものである。
【0057】
次に、本発明における定着装置について、図面を用いて具体的に説明する。図1は本発明の定着用部材を定着用ベルトとして用いた電磁誘導加熱定着装置の一例を示す概略断面図である。
図1において、10は、表面における算術平均粗さRa(JISB0601−2001に規定)が0.1〜5μmの範囲である、空隙を持つポリイミドフィルムの表面に金属層と表面層とがこの順に積層形成された無端ベルト状の本発明の定着用部材(定着用ベルト)である。
【0058】
この定着用ベルト10の外周面に接するように加圧ロール11が配され、定着用ベルト10と加圧ロール11との間にニップを形成している。加圧ロール11は、基体11aの外周面上にシリコーンゴム等による弾性体層11bと、フッ素系化合物による表面層11cとがこの順に積層された構成を有している。
【0059】
定着用ベルト10の内周面側には、加圧ロール11と対向する位置に、押圧部材13が設置されている。尚、この押圧部材13は、定着用ベルト10の内周面と当接し、局所的にニップ圧を高めるニップヘッド13bと、このニップヘッド13bを保持するシリコーンゴム等からなるニップパッド13cと、このニップパッド13cを支持する支持体13aとから構成されている。
【0060】
更に、定着用ベルト10を中心として加圧ロール11が設けられた側の反対側の位置に、電磁誘導コイルを内蔵した電磁誘導加熱装置12が設けられている。この電磁誘導加熱装置12は、電磁誘導コイルに交流電流を印加することにより、発生する磁場を励磁回路で変化させるものであり、定着用ベルト10に含まれる金属層に磁界を印加することによって、金属層に渦電流を発生させるものである。
【0061】
この渦電流が金属層の電気抵抗によって熱(ジュール熱)に変換され、結果的に定着用ベルト10の表面(外周面)が発熱する。尚、電磁誘導加熱装置12は、定着用ベルト10内のニップ領域に対して図1中の片矢印で示される回転方向Bの上流に設置されていてもよい。
【0062】
この電磁誘導加熱定着装置は、不図示の駆動装置により定着用ベルト10が矢印B方向に回転し、それにつれて加圧ロール11も矢印C方向に従動回転する。この状態で、未定着トナー像14が形成された記録媒体15は矢印A方向に、上記定着装置のニップ部に挿通され、未定着トナー像14を溶融状態として圧力を加えながら記録媒体15に固着させる装置である。尚、駆動方法は、ベルト駆動(ロールが従動)、ロール駆動(ベルトが従動)のどちらでもよい。
【0063】
図2に、電磁誘導加熱方式の原理を説明するための概略説明図を示す。尚、図2中、16は電磁誘導加熱装置、16aは電磁誘導コイル、17は定着用ベルト、17aは基体(ポリイミドフィルム)、17bは金属層、17cは表面層を表す。
【0064】
電磁誘導加熱装置16は、定着用ベルト17の表面層17cが設けられた側の面上に配置されており、不図示の励磁回路により電磁誘導コイル16aに交流電流が印加され、定着用ベルト17の表面とほぼ直交する交流磁界を形成するものである。
【0065】
この電磁誘導作用による金属層17bの発熱原理を以下に説明する。不図示の励磁回路により電磁誘導コイル16aに交流電流が印加されると、電磁誘導コイル16aの周囲に磁束が生成消滅を繰り返す。この磁束が定着用ベルト17の金属層17bを横切るとき、その磁束の変化を妨げる磁界を生じるように金属層17b中に渦電流が発生する。この渦電流と金属層17bの固有抵抗によってジュール熱が発生する。
【0066】
前記渦電流は、表皮効果のためにほとんど金属層17bの電磁誘導加熱装置16側の面に集中して流れ、金属層17bの表皮抵抗Rsに比例した電力で発熱を生じる。ここで、角周波数をω、透磁率をμ、固有抵抗をρとすると、表皮深さδは下式(1)で示される。
【0067】
・式(1) δ=(2ρ/ωμ)×(1/2)
【0068】
更に、表皮抵抗RSは下式(2)で示される。
・式(2) Rs=ρ/δ=(ωμρ/2)×(1/2)
【0069】
また、定着用ベルト17の金属層17bに発生する電力Pは、定着用ベルト17中を流れる電流をIhとすると、下式(3)で表わされる。
・式(3) P∝Rs∫|Ih|2dS
【0070】
したがって、表皮抵抗Rsを大きくするか、或いは、電流Ihを大きくすれば電力Pを増すことができ、発熱量を増すことが可能となる。ここで表皮深さδ(m)は、励磁回路の周波数f(Hz)と、比透磁率μrと、固有抵抗ρ(Ωm)により下式(4)で表わされる。
・式(4) δ=503(ρ/(fμr))×(1/2)
【0071】
これは電磁誘導で使われる電磁波の吸収の深さを示しており、これより深いところでは電磁波の強度は1/e以下になっており、逆に言うとほとんどのエネルギーはこの深さまで吸収されている。
【0072】
ここで、金属層17bの厚みは、上の式で表わされる表皮深さより厚く(1〜100μm)することが好ましい。また、発熱層16bの厚みが1μmよりも小さいと、ほとんどの電磁エネルギーが吸収しきれないため効率が悪くなる場合がある。
【0073】
以上に説明したような定着装置は、定着手段として加熱定着を利用した公知の電子写真方式の画像形成装置に利用できる。
このような画像形成装置としては、具体的には、像担持体と、該像担持体表面を帯電させる帯電手段と、帯電させた前記像担持体表面に潜像を形成する潜像形成手段と、前記潜像を現像剤により現像しトナー像を形成する現像手段と、前記トナー像を被転写体に転写する転写手段と、前記トナー像を記録媒体に加熱定着する定着手段とを少なくとも備えた構成を有することが好ましい。この場合、定着手段として上述の定着装置が用いられる。
【実施例】
【0074】
以下に、本発明の実施例を説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0075】
(実施例1)
(1)無端状ポリイミドフィルムの形成
宇部興産製ポリイミドワニス(ユーワニスS)に架橋アクリル中空部材(平均直径10μm、中空率32%)を質量比で100:5になるように混合して、Φ30mm、長さ500mmのアルミパイプに塗布し、アルミパイプごと段階的に380℃まで加温し、内径30mm、長さ450mm、厚み100μmの無端状の空隙を含むポリイミドフィルムを得た。この膜の空隙率は比重から計算したところ30%であり、ここから計算される熱伝導率は0.18W/m・℃である。
【0076】
こうして得られた無端状ポリイミドフィルムの内面に、外径が前記無端状ポリイミドフィルムの内径とほぼ同一なステンレス製シャフトを挿入し、粒径が累積高さ50%点の粒子径で100μmのアルミナ砥粒を前記無端状ポリイミドフィルムの外周面に吹き付けるサンドブラストにより、前記ポリイミドフィルムの外周面を粗面化した。尚、累積高さ50%点については、JIS R6002に記載されている。粗面化後のポリイミドフィルムの外周面における算術平均粗さRaは3.0μmだった。
【0077】
(2)金属層の形成
表面を粗面化したベルトをイソプロピルアルコールにて十分洗浄した。次に、水酸化ナトリウム100g/L、イソプロピルアルコール100mL/Lの組成からなるアルカリエッチング液(水溶液)を60℃に加温し、これに洗浄したベルトを5分間浸漬することにより、化学的にエッチングし、酸処理液(組成が35質量%塩酸50mL/Lの水溶液)により中和した。
【0078】
その後40℃に加温した塩化パラジウムの30質量%水溶液に、中和処理したベルトを5分間浸漬し、その外周面を活性化させた。続いて、このベルトを40℃に加温した無電解めっき液(イオン交換水1Lに、硫酸ニッケル25g、ピロリン酸ナトリウム50g、次亜リン酸ナトリウム25gを含有する組成の水溶液に、アンモニア水をpHが10になるように添加した水溶液)に5分間浸漬させ、その外周面に厚さ1μmのニッケル層を形成した。
【0079】
更に、希硫酸に1分間浸漬させることによりニッケル層表面の酸活性処理を行った上で、硫酸銅めっき浴(イオン交換水1Lに、硫酸銅70g、硫酸200gを含有する組成の水溶液)を25℃に管理した状態で5Aの電流を40分印加することにより電解めっきを行い、ニッケル層表面に厚さ15μmの銅層を形成した。
【0080】
(3)表面層の形成
こうして得られた、空隙を含むポリイミド層/金属層からなる2層構成のベルトの表面を十分洗浄した後、金属層の表面に市販のPFA塗料(デュポン社製、水系ディスパージョン塗料EN−510CL)をディップコート法によりコーティングし、380℃で40分かけて窒素ガス雰囲気中で焼成し、厚さ30μmのPFA層を形成した
【0081】
このようにして得られた3層構成のベルトを、更に200℃のオーブン内に100時間放置することにより、空隙を含むポリイミドからなる基体の外周面に、金属層と、PFAからなる表面層とをこの順に形成した定着用ベルトを得た。
【0082】
尚、得られた定着用ベルトのポリイミド層と金属層との界面密着性を目視確認したところ密着性は良好であった。また、この定着用ベルトを図1に示す構成を有する電磁誘導加熱定着装置の定着用ベルト10として用い、実機テストを行い、定着画像及び耐久性を評価した。
【0083】
尚、実機テストに用いた電磁誘導加熱定着装置の加圧ロール部材11としては、ゴム硬度(アスカーC硬度)50度(高分子計器製、ASKER−C硬度計にて計測)のシリコーンゴムを肉厚5mmで、中実のシャフト(SUS304、直径15mm)上に形成したロールを用いた。
【0084】
また、電磁誘導コイルを内蔵した電磁誘導加熱装置12は、定着用ベルト10の内周面側で、ニップ領域に対して回転方向(矢印B方向)の上流に設置した。
【0085】
−評価−
上記の通り実機テストを行い、未定着トナー像が形成されている富士ゼロックス社製J紙を10万枚通紙したときの画質の劣化、ポリイミド層と金属層との界面密着性、及び、発熱特性としてのウォームアップ時間について評価を行った。
【0086】
その結果、10万枚通紙後に画質の低下はなく、定着性、オフセット性ともに問題なかった。更に初期と10万枚通紙後のポリイミド層と金属層との界面を目視にて確認したところ何らの劣化も見られず、十分な密着性が得られていることがわかった。またポリイミドフィルム自体も目視で確認したところ、割れ・ひび等の発生は認められなかった。
【0087】
また、ウォームアップ時間は、10万枚通紙前後ともに投入電力が1100Wで6秒であり、通紙前後で変化がなかった。このように、経時的な発熱特性に何らの低下が見られないこと、目視で変化が認められないことから、空隙を含んだポリイミド層の劣化が起こっていないことがわかった。
【0088】
(比較例1)
空隙を含むポリイミドフィルムの代わりに、同等の厚みを有し、ポリイミドのみからなるフィルムを宇部興産製ポリイミドワニス(ユーワニスS)を用いて形成した以外は実施例1と同じ方法で定着用ベルトを作製し、実施例1と同様にしてウォームアップタイムを評価した。ウォームアップ時間は、投入電力が1100Wで6.5秒ほどかかり、実施例1の定着ベルトより時間がかかることが確認された。
【0089】
また、以上の結果から、実施例1及び比較例1の定着用ベルトのウォームアップタイムの違いは、空隙を含むポリイミド層の方が断熱効果に優れていること、即ち熱伝導率がより小さいことによるものであることがわかった。
【0090】
(実施例2)
実施例1と同じ方法で金属層まで塗布形成し、この金属層上に弾性層として信越シリコーン社製シリコーンゴム(X−34−1053AB)を膜厚200μmで塗布形成し、加熱乾燥させた。更に実施例1と同様の方法でこの弾性層上に厚さ30μmのPFA層を形成し、定着用ベルトを作製した。
【0091】
この定着用ベルトを実施例1と同様にして10万枚の通紙試験を行ったところ、10万枚通紙後に画質の低下はなく、定着性、オフセット性ともに問題もなかった。更に初期と10万枚通紙後のポリイミド層と金属層との界面を目視にて確認したところ何らの劣化も見られず、十分な密着性が得られていることがわかった。またポリイミドフィルム自体も目視で確認したところ、割れ・ひび等の発生は認められなかった。
【0092】
また、ウォームアップ時間は、10万枚通紙前後ともに投入電力が1100Wで9.5秒であり、通紙前後で変化がなかった。このように、経時的な発熱特性に何らの低下が見られないこと、目視で変化が認められないことから、空隙を含んだポリイミド層の劣化が起こっていないことがわかった。
【0093】
加えて、10万枚通紙後の画質についてもより詳細に調べたが、白黒プリント、フルカラープリントともに充分であると判断した。
【0094】
(比較例2)
空隙を含むポリイミドフィルムの代わりに、同等の厚みを有し、ポリイミドのみからなるフィルムを宇部興産製ポリイミドワニス(ユーワニスS)を用いて形成した以外は実施例2と同じ方法で定着用ベルトを作製し、ウォームアップ時間を評価した。その結果、1100Wで10.5秒と実施例2よりも時間がかかることが確認された。
【0095】
また、以上の結果から、実施例2及び比較例2の定着用ベルトのウォームアップタイムの違いは、空隙を含むポリイミド層の方が断熱効果に優れていること、即ち熱伝導率がより小さいことによるものであることがわかった。
【0096】
(比較例3)
(1)ガラスビーズを用いた無端状ポリイミドフィルムの形成
宇部興産製ポリイミドワニス(ユーワニスS)に中空のガラスビーズ(平均直径3μm、中空率87%)を体積比で3:1になるように混合して、実施例1と同じ方法で、厚み100μmの無端状の空隙を含むポリイミドフィルムを得た。この膜の空隙率は22%であり、ここから計算される熱伝導率は0.22W/m・℃であった。
次に、実施例1と同じ方法で、前記ポリイミドフィルムの外周面を粗面化した。この時に、ポリイミドフィルムを外観検査したところ、穴が開いている所が十数箇所見受けられた。粗面化後の算術平均粗さRaは6.4μmであった。穴が開いている箇所を詳しく観察したところ、ガラスビーズの破片が見つかった。
次に実施例1と同じ方法で金属層を形成した。金属層形成後に外観検査したところ、穴が開いている箇所が見られた。
金属層に穴が開いていると、誘導加熱した際に異常発熱してしまうため、ベルトの作製はここで中断し、実機による評価は行わないこととした。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】本発明の加熱定着用部材を加熱定着用ベルトとして用いた本発明の電磁誘導加熱定着装置の一例を示す概略断面図である。
【図2】電磁誘導加熱方式の原理を説明するための概略説明図である。
【符号の説明】
【0098】
10,17 定着用ベルト
11 加圧ロール
11a 基体
11b 弾性体層
11c 表面層
12,16 電磁誘導加熱装置
13 押圧部材
13a 支持体
13b ニップヘッド
13c ニップパッド
14 未定着トナー像
15 記録媒体
16a 電磁誘導コイル
17a 基体(ポリイミドフィルム)
17b 金属層
17c 表面層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機材料の中空部材を分散させたポリイミド溶液又はポリイミド前駆体溶液が、焼成されることによって得られるポリイミドフィルムを用いることを特徴とする定着用部材。
【請求項2】
前記有機材料が樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の定着用部材。
【請求項3】
前記樹脂がアクリル若しくは架橋アクリルであることを特徴とする請求項2に記載の定着用部材。
【請求項4】
前記ポリイミドフィルムを基材として用い、該基材上に、少なくとも金属層及び表面層を積層することを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の定着用部材。
【請求項5】
前記金属層と前記表面層との間に弾性層を積層することを特徴とする請求項4に記載の定着用部材。
【請求項6】
電磁誘導装置により加熱されることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の定着用部材。
【請求項7】
前記ポリイミドフィルムが無端状のベルトであることを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載の定着用部材。
【請求項8】
請求項1〜7の何れか1項に記載の定着用部材を、定着装置に用いることを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−91568(P2006−91568A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−278215(P2004−278215)
【出願日】平成16年9月24日(2004.9.24)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】