説明

定着装置及び画像形成装置

【課題】 熱定着方式の定着装置を備えた画像形成装置において、定着装置を大型化することなく、耐熱性を維持したまま、材料硬度を低くしてニップ量を増加させ、定着温度をできるだけ高くできるようにする。
【解決手段】 定着ローラ30の弾性層を複数の層として構成し、内側の弾性層の耐熱温度を外側の弾性層の耐熱温度より大きくするようにした。或いは、定着ローラ30の内側の弾性層の熱伝導率を外側の熱伝導率より高くするようにした。或いは、定着ローラ30の内側の弾性層の材料硬度を外側の材料硬度より高くするようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱定着方式の定着装置を備えた画像形成技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の画像形成装置、例えば電子写真式カラープリンタでは、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)及びブラック(K)の各色の印刷機構を有し、各印刷機構は、各色のトナー像を形成する画像形成部と、形成された各色のトナー像を記録媒体に順次重ねて転写しカラーのトナー像を形成するための転写ローラとを備える。
【0003】
そして、記録媒体は、用紙収容カセットから1枚ずつ給紙され、搬送ベルトに静電気力によって吸着させられて搬送され、各色のトナー像が順次重ねて転写され、カラーのトナー像が形成される。そして、カラーのトナー像が形成された記録媒体は、前記搬送ベルトから分離させられて熱ローラ定着方式の定着装置に送られ、カラーのトナー像が定着され、カラー画像が記録される。
【0004】
そして、前記定着装置の定着ローラは、内部にハロゲンランプ等のヒータを有したアルミニウムの金属パイプからなり、その表面に十分な剥離性を持たせたフッ素樹脂の非粘着性の物質により単に被覆加工した構成となっている(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
近年、電子写真式プリンタにおいても、顧客の満足を得るために高速印刷技術が重要な技術の1つとなっており、装置コスト、印刷品質、さらに装置寿命等を維持し、かつ高速印刷を実現するための定着技術に関する開発が行われている。この定着の高速化を実現するためには、定着温度の高温化、定着ローラ・加圧ローラ間のニップ量の増加が必要であり、このためには、定着ローラ等の低硬度化および耐熱性の向上が必要である。
【0006】
例えば、定着ローラ及び加圧ローラを大径化して単位時間当たりの記録媒体に供給する熱量を増やすことにより定着性を確保して高速印刷を実現する技術、或いは定着ローラ及び加圧ローラの弾性層の材料硬度を低くしてニップ量を増やすことにより定着性を確保し高速印刷を実現する技術、或いは弾性層の熱伝導性を向上させ定着温度を上げ高速印刷を実現する技術が開発されている。
【特許文献1】特開2001−265157号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来の定着装置では、定着ローラ及び加圧ローラを大径化して単位時間当たりの記録媒体に供給する熱量を増やし定着性を確保し高速化を行う方法では、装置が大型化してしまうという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、前述の課題を解決するため次の構成を採用する。すなわち、定着手段および加圧手段を備えトナー画像を熱作用により定着させる定着装置において、前記定着手段の弾性層を複数の層として構成し、前記定着手段の内側の弾性層の耐熱温度を外側の弾性層の耐熱温度より大きくするようにした。
【発明の効果】
【0009】
本発明の定着装置及び画像形成装置によれば、定着手段の弾性層を複数の層として構成し、前記定着手段の内側の弾性層の耐熱温度を外側の弾性層の耐熱温度より大きくするようにしたので、全弾性層を必要以上に耐熱性を重視した材質とする必要がなく、安価な材料により高速印刷が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明に係る実施の形態例を、図面を用いて説明する。なお、図面に共通する要素には同一の符号を付す。
【実施例1】
【0011】
実施例1の画像形成装置は、定着ローラの弾性層を複数の層で構成し、定着ローラの内側の弾性層の耐熱温度を外側の弾性層の耐熱温度より大きくするようにしたものである。
【0012】
(構成および動作)
(画像形成装置全体の構成および動作)
図1は実施例1の画像形成装置の一つである電子写真式カラープリンタの概略構成図である。まず、図示しない搬送モータによって駆動する(同図右下に示した)給紙ローラ3と給紙サブローラ4は、図示しない押し上げ用バネによって押し上げられたシートレシーブ2で得られる給紙力によって給紙カセット1に収められた用紙を図中矢印A方向に給紙する。
【0013】
給紙された用紙は、搬送路に設置され前記搬送モータによって駆動されるレジストローラL(5)、レジストローラU(7)と、加圧して搬送力を生み出す連れ回りのプレッシャローラL6、プレッシャローラU(8)によって、用紙走行ルートにガイドされながら搬送ベルト部9に搬送する。
【0014】
搬送ベルト部9は、図示しないベルトモータによって駆動するベルト駆動ローラ10、搬送ベルト11によって連れ回ると同時に搬送ベルトが弛まないように張力を与える図中右側中段のベルトアイドルローラ12と、黒(K)、黄(Y)、マゼンダ(M)、シアン(C)の4色の感光ドラム17〜20を備えたIDユニット13〜16に転写電圧を与える転写ローラ21〜24で構成される。
【0015】
そして、図示しないKモータ、Yモータ、Mモータ、Cモータで回転駆動する前記感光ドラム17〜20とベルトの駆動搬送力によって用紙を図中B方向に搬送し、LEDヘッド25〜28で露光した画像がIDユニットから供給されるK、Y、M、Cの各トナーによって用紙上に転写しながら次の定着装置29まで搬送する。
【0016】
定着装置29では、図示しないハロゲンランプで加熱すると同時に図示しない定着モータで駆動する定着ローラ30と連れ回る加圧ローラ31によりトナーを定着しながら搬送し、前記定着モータで駆動する排出ローラL(32)と連れ回る排出コロL(33)によって、フェイスアップスタッカ34のフェイスアップ部34aに排出される(図中C方向)。
【0017】
また、前記フェイスアップスタッカ34が閉じられていた場合は、前記フェイスアップ部34aは用紙ガイド部となり、前記定着モータで駆動する排出ローラU(35)と連れ回る排出コロU36によって搬送されながら、トップカバ37のフェイスダウン部37aに排出される(図中D方向)。この一連の用紙搬送中は、図中右上のLCD表示部38に印刷中を示す内容などが表示される。
【0018】
(定着装置の構成と動作)
次に、図2を用いて定着装置の構成を説明する。同図に示したように、定着装置29は用紙上のトナー像を定着するための上側の定着ローラ30と下側の加圧ローラ31、定着ローラ30を加熱するためのハロゲンランプ39、加圧ローラ31を加圧するためのスプリング40、定着ローラ30の表面温度を検知するサーミスタ41を備えている。用紙42は図中矢印E方向に搬送される。
【0019】
次に、図3を用いて定着ローラ30の構造を説明する。同図(a)および(b)に示したように、定着ローラ30は、中心側に配置したハロゲンランプ39の熱源に対向する側から円筒状のコア材30a、第1の弾性層30b、第2の弾性層30c、表層のオフセット防止被膜層30dからなる。そして、コア材30aは、例えばステンレス合金、鉄、アルミニウム合金、銅合金等から形成される。
【0020】
また、オフセット防止被膜層30dは、例えばPFA(テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)等のフッ素系樹脂を素材とするチューブ又はコーティング処理などから形成される。そして、第1及び第2の弾性層はシリコンゴムなどの耐熱性ゴムを使用する。なお、各層の界面の接着強度を高めるため、各層の界面にプライマーを塗布するのがよい。
【0021】
図3(c)は定着ローラの各層の温度分布を示す図である。縦軸は各部の温度T(℃)を示し、横軸は定着ローラ30の中心部から外側への距離(mm)を示している。同図に示したように中心側の熱源から離れて外側になるほど温度が低下し、コア剤30aの内側の温度がTa、コア剤30aと第1の弾性層30bの界面温度がTb、第1の弾性層30bと第2の弾性層30cの界面温度がTc、第2の弾性層30cとオフセット防止被膜層30dの界面温度がTd、オフセット防止被膜層30dの表面の温度がTsとなり、コア剤30aの内側からオフセット防止被膜層30dの外側までΔT(℃)低下していることを示している。
【0022】
そして、定着ローラ30の表面温度、すなわちオフセット防止被膜層30dの表面温度Tsが、サーミスタ41で検知され、その検知結果に基づきハロゲンランプ39の熱源を制御して表面温度Tsが定着温度として所望の温度に設定される。
【0023】
実施例1の画像形成装置の定着装置29は、第1の弾性層の耐熱温度をT1(℃)、第2の弾性層の耐熱温度をT2(℃)とすると、T1>T2の関係となる材料により構成する。一般に、弾性層の材料の一つであるゴムの耐熱温度としては、比較的短時間で何℃まで耐え得るかという最高限界温度である耐熱限界温度と、連続使用が可能な使用安全耐熱温度である耐熱安全温度がある。前記第1の弾性層の耐熱温度と第2の弾性層の耐熱温度との関係、すなわちT1>T2の関係のT1、T2としては、前記耐熱限界温度としてもよいし耐熱安全温度としてもよい。
【0024】
以上のように、第1の弾性層の耐熱温度と第2の弾性層の耐熱温度との関係をT1>T2の関係とすることにより、各弾性層につき必要以上に耐熱性だけを重視した材質とすることなく、第1の弾性層の耐熱温度T1を第1の弾性層の内側の温度Tbより高く、また第2の弾性層の耐熱温度T2を第2の弾性層の内側の温度Tcより高く、すなわちT1>Tb及びT2>Tcの関係を実現し易くすることができる。この場合、ハッチングの領域が温度マージンとなる。
【0025】
(耐熱性の調整方法)
耐熱性とは、長時間加わる熱による劣化に対する耐久性のことであり、弾性体の劣化とは、硬化、脆化、軟化、収縮、亀裂、変形、膨潤、溶解などの現象をいう。この劣化の原因は、定着ローラ30の場合では、加熱、繰り返し荷重である。
【0026】
図4に、一般的なゴムの耐熱温度の一覧を示す。同図に示したように各種のゴムにより耐熱温度、すなわち耐熱限界温度および耐熱安全温度に差があるので、素材のコストも考慮しながら第1の弾性層の耐熱温度と第2の弾性層の耐熱温度との関係、すなわちT1>T2を実現するように素材を選択することができる。
【0027】
一般に、ゴムの耐熱性は、分子構造より変化するものであり、ゴム分子主鎖と架橋(加硫)部分の切断によって熱劣化現象が現れる。従って、ゴム分子主鎖に二重結合を含むジエン系ゴムでは、ゴム分子主鎖と架橋部分の切断が発生し易く耐熱性がなく、一方、二重結合が少ないか又は含まないゴムはゴム分子主鎖と架橋部分の切断が発生し難く耐熱性に優れている。従って、これらの材料の選定により耐熱性を調整することができる。
【0028】
また、同じ種類のゴムでも、特殊な材料を配合することによって耐熱性が変わる。例えば、ゴムに硫黄を加えゴムの分子同士を結合させて高い弾性を与える目的で使用される加硫剤の場合では、硫黄加硫剤を配合する場合と無硫黄加硫剤(サルファードナー)を配合する場合を比較すると、後者の方が、耐熱性が向上する。この特性を利用して、加硫剤の配合方法によって耐熱性を調整することもできる。
【0029】
また、ゴムの耐熱性は耐酸化劣化性を向上させることによっても実現できる。すなわち、酸化防止剤を添加することによっても耐熱性を向上させる有効な方法となる。酸化防止剤の例としては、フェニル−β−ナフチルアミン、メルカプトベンゾイミダゾール亜鉛塩、ビス(2−ハイドロオキシ−3−第3級ブチル−5−メチルフェニル)メタンなどがある。また、加硫促進剤も劣化防止に有効であり、メルカプトベンゾチアゾール、ジフェニルグアニジンなどの加硫促進剤により耐熱性を調整することもできる。
【0030】
以上のように耐熱性を調整した材料を用いて、第1の弾性層の耐熱温度と第2の弾性層の耐熱温度との関係、すなわちT1>T2の関係となるようにした実施例1の定着装置29の定着ローラ30、加圧ローラ31の形状、素材、耐熱温度を図5に示す。
【0031】
同図に示したように、0.7mm厚の第1の弾性層30bを、図4のシリコンゴム(VMQ;耐熱限界温度230℃、耐熱安全温度180℃)を原材料として、加硫条件を変え、或いは酸化防止剤を添加し、或いは加硫促進剤を添加して耐熱性を向上させ、熱限界温度を260℃、耐熱安全温度を210℃に向上させた材料とし、同様に、0.8mm厚の第2の弾性層30cを図4のシリコンゴムを原材料として、加硫条件を変え、酸化防止剤添加量、加硫促進剤添加量等を調整して、第1の弾性層30bより低い耐熱性として耐熱限界温度を240℃、耐熱安全温度を190℃に向上させた材料としている。
【0032】
なお、上記のように同一のシリコンゴムを原材料として加硫条件、酸化防止剤添加量、加硫促進剤添加量等を調整するのではなく、異なる材料を原材料として調整し耐熱性を変えるようにしても勿論よい。
【0033】
また、以上の説明では、弾性層が2層の場合について説明したが、3層以上の弾性として、それぞれの弾性層の耐熱性を中心側から段階的に小さい材料とするようにしてもよい。
【0034】
(実施例1の効果)
以上詳細に説明したように、実施例1の定着装置および画像形成装置によれば、定着ローラの弾性層を複数の層で構成し、内側の弾性層の耐熱温度を外側の弾性層の耐熱温度より大きくするようにしたので、全弾性層を必要以上に耐熱性を重視した材質とする必要がなく、安価な材料により、高速印刷が可能となる。
【実施例2】
【0035】
実施例2の画像形成装置は、定着ローラの弾性層を複数の層で構成し、定着ローラの内側の弾性層の熱伝導率を外側の熱伝導率より高くするようにしたものである。
【0036】
(構成および動作)
実施例2の画像形成装置の全体の構成は、定着ローラの構成以外は実施例1と同様であるので、簡略化のためにその説明を省略する。
【0037】
(定着ローラの構成および動作)
実施例2の定着装置29の定着ローラ30の構成および特性を図6に示す。同図(a)および(b)に示したように、定着ローラ30は、中心側に配置したハロゲンランプ39の熱源から円筒状のコア材30a、耐熱シリコンゴム材等の第1の弾性層30b、耐熱シリコンゴム材等の第2の弾性層30c、表層のオフセット防止被膜層30dとからなる。なお、各層の界面の接着強度を高めるため、各層の界面にプライマーを塗布するのがよいのは実施例1と同様である。
【0038】
図6(c)は、定着ローラ30の各層の温度分布を示すもので、内側の熱源から外側に向かうほど温度が低下していることを表している。その温度低下ΔT、温度Ta、Tb、Tc、Td、Tsの意義および温度Tsの温度制御方法は実施例1と同様であるので簡略化のためにその説明を省略する。
【0039】
実施例2の定着ローラ30では、第1の弾性層の熱伝導率λ1(Cal/cm・sec・℃)、第2の弾性層の熱伝導率λ2(Cal/cm・sec・℃)の関係をλ1>λ2の関係としている。
【0040】
前記各弾性層の熱伝導性λを調整するためには、混入させる金属含有充填剤の量を調整するのがよい。金属含有充填剤としては、例えば、比較的安価である、銅、錫、亜鉛、アルミニウム、鉄、モリブデン、ニッケル等の金属、これら金属合金や金属酸化物を用いるのがよい。
【0041】
ところで、定着温度である定着ローラ30の表面温度Tsを一定の温度とすると、各層の熱伝導率が大きいほど、定着ローラ30のコア材30aの内側からオフセット防止被膜層30dの表面までの温度低下Ta−Ts、すなわちΔTを小さくすることが可能になり、コア材30aと第1の弾性層30bとの境界温度Tb、第1の弾性層と第2の弾性層との境界温度Tcも当然に下げることができる。
【0042】
その結果、前記各弾性層の熱劣化を軽減することが可能になり、また、熱容量の大きいコア材30aについても熱伝導率、熱容量の積により決定する熱時定数を下げることができるので、用紙通過後の表面温度Tsのオーバーシュートも軽減することができる。
【0043】
しかしながら、弾性層に金属含有充填剤を混入させると、弾性層が高硬度化してしまうという特性があり、その結果、ニップ量が減少し定着性を確保することができず、高速印刷を実現することができない。
【0044】
従って、実施例2の定着ローラ30では、ニップ量に影響のある外側の第2の弾性層30cについては、低硬度化を重視し熱伝導性は低いままとし、中心部側の第1の弾性層30bについては、熱伝導性を重視し硬度は高いままとし熱伝導性を高くするようにしている。すなわち、第1の弾性層の熱伝導率λ1、第2の弾性層の熱伝導率λ2の関係を、λ1>λ2の関係としている。
【0045】
各弾性層に適した熱伝導率は、画像形成装置の印刷方式や構造などで変化するので、実験等により最適な値を求めるのがよいが、小型の電子写真式プリンタの場合では、第1の弾性層の熱伝導率λ1を0.9×10^−3(Cal/cm・sec・℃)程度以上とし、第2の弾性層の熱伝導率λ2を2.0×10^−3(Cal/cm・sec・℃)程度以下の範囲で、λ1>λ2の関係とするのがよい。
【0046】
以上の説明では、弾性層が2層の場合について説明したが、3層以上の弾性層として、それぞれの弾性層の熱伝導率を中心側から段階的に小さい材料とするようにしてもよい。
【0047】
(実施例2の効果)
以上詳細に述べたように、実施例2の定着装置および画像形成装置によれば、定着ローラの弾性層を複数の層で構成し、内側の弾性層の熱伝導率を外側の熱伝導率より高くするようにしたので、ニップ量を低下させることなく、かつ熱劣化を最小限とすることができる。
【実施例3】
【0048】
実施例3の画像形成装置は、定着ローラの弾性層を複数の層で構成し、定着ローラの内側の弾性層の材料硬度を外側の材料硬度より高くするようにしたものである。
【0049】
(構成および動作)
実施例3の画像形成装置の全体の構成は、定着ローラ30の構成以外は、実施例1および実施例2の構成と同様であるので簡略化のためにその詳細な説明を省略する。
【0050】
(定着ローラの構成および動作)
実施例3の定着装置29の定着ローラ30の構成および特性を図7に示す。同図(b)に示したように、定着ローラ30は、中心に配置したハロゲンランプ39の熱源から円筒状のコア材30a、耐熱シリコンゴム材等の第1の弾性層30b、耐熱シリコンゴム材等の第2の弾性層30c、表層のオフセット防止被膜層30dとからなる。なお、各層の界面の接着強度を高めるため、各層の界面にプライマーを塗布するのがよいことは、実施例1および実施例2と同様である。
【0051】
図7(a)は、定着ローラ30の各部の硬度の分布を示したものである。外側からの圧力に耐えるために内側ほど硬度が高くなるようになっている。すなわち、第1の弾性層30bの内側の硬度が高く、第1の弾性層30aと第2の弾性層30bの境界の硬度がHcとなり、さらに第2の弾性層30cの硬度が徐々に低くなり、第2の弾性層30cの外側の硬度がHdとなる。一方、表層のオフセット防止被膜層30dでは、逆に、表層の張力によって外側ほど硬度が高くなっており、表面の硬度がHsとなる。
【0052】
図7(c)は、定着ローラ30の各層の温度分布を示すもので、内側の熱源から外側に向かうほど温度が低下していることを表している。その温度低下ΔT、温度Ta、Tb、Tc、Td、Tsの意義および温度Tsの温度制御方法は実施例1および実施例2と同様であるので簡略化のためにその説明を省略する。
【0053】
実施例3の定着ローラ30では、第1の弾性層30bの材料硬度をH1(度)、第2の弾性層30cの材料硬度をH2(度)とするとき、H1>H2の関係となるようにしている。
【0054】
材料硬度を調整する手段としては、前述のオイル成分の配合量及び加硫材の添加量を調整することにより行うのがよい。
【0055】
ところで、高速印刷を実現するためには、定着ローラ30及び加圧ローラ31の弾性層の材料硬度を低くしてニップ量を増やし定着性を確保する必要があるが、弾性層の材料硬度が低いと耐熱性が低下して熱劣化する傾向がある。例えば、弾性層が耐熱シリコンゴムである場合、低硬度化のためにオイル成分の配合を高めると、熱によって軟化劣化してオイル成分が分離しやすくなるため、ローラが破壊し易くなる。
【0056】
従って、ニップ量を重視しすべての弾性層の材料硬度を低くすると温度の高い中心側にて熱による破壊がしやすくなるが、中心側と比較して温度の低い側では、材料硬度を低くしても、熱劣化が少ない特性がある。
【0057】
実施例3の定着装置29では、この特性に着目し、中心側の第1の弾性層30bについては、材料硬度より耐熱性を重視して材料硬度を高くし、表面に近い側である第2の弾性層30cについては耐熱性より材料硬度を重視して材料硬度を低くしている。すなわち、H1>H2の関係になるようにしている。その結果、第1の弾性層30b、第2の弾性層30c、オフセット防止被膜層30dの硬度分布は、図7(a)の実線に示したようになり、表面硬度はHsとなり許容硬度範囲内となり適正なニップ量を確保することができる。
【0058】
一方、従前のように、第1の弾性層の材料硬度H1を第2の弾性層の材料硬度H2と等しくした場合では、図7(a)の破線部の硬度分布のようになり、表面硬度がHs*と高くなってしまい、表面硬度Hsの許容硬度範囲から外れてしまう。このようになると、適正なニップ量を確保することが困難となる。
【0059】
なお、各材料の最適な硬度は、画像形成装置の印刷方式や構造により変化するので、実験により求めるのがよいが、小型の電子写真式プリンタでは、第1の弾性層30bの材料硬度H1をJIS−A規格で10(度)程度以上にし、第2の弾性層の材料硬度H2をJIS−A規格で20(度)程度以下の範囲でH1>H2の関係となるようにするのがよい。
【0060】
以上の説明では、弾性層が2層の場合について説明したが、3層以上の弾性層として、それぞれの弾性層の材料硬度を中心側から段階的に小さい材料とするようにしてもよい。
【0061】
(実施例3の効果)
以上詳細に述べたように、実施例3の定着装置および画画像形成装置によれば、定着ローラの弾性層を複数の層で構成し、定着ローラの内側の弾性層の材料硬度を外側の材料硬度より高くするようにしたので、材料硬度を低くしニップ量を増加させることができる。
【0062】
《その他の実施例》
(1)以上の実施例の説明では、ローラ方式の定着の場合における弾性層の耐熱性、熱伝導率、硬度を調整する例を示したが、熱容量が低くクイックスタートに有利な定着ベルト方式による定着の場合であっても、当該ベルトの弾性層に本発明を適用することにより、同様の作用効果が得られる。
【0063】
(2)また、以上の実施例の説明では、弾性層の耐熱性、熱伝導率、材料硬度をそれぞれ調整するように説明したが、当然にこれらを複合して適用することもできる。例えば、第1の弾性層30bの耐熱性を第2の弾性層30cより高くし、かつ熱伝導率を高くし、さらに材料硬度を高くするようにすれば、さらに弾性層の耐熱性およびニップ量の改善を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
以上述べたように、本発明は、熱定着方式の定着装置を備えた複写機、プリンタ、FAX等に幅広く用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明に係る定着装置を備えた画像形成装置の構成図である。
【図2】本発明に係る定着装置の構成図である。
【図3】実施例1の定着ローラの構成および特性の説明図である。
【図4】一般的なゴムの耐熱温度の例示図である。
【図5】実施例1の画像形成装置の定着装置の構成を説明する図である。
【図6】実施例2の定着ローラの構成および特性の説明図である。
【図7】実施例3の定着ローラの構成および特性の説明図である。
【符号の説明】
【0066】
29 定着装置
30 定着ローラ
30a コア材
30b 第1の弾性層
30c 第2の弾性層
30d オフセット防止被膜層
31 加圧ローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
定着手段および加圧手段を備えトナー画像を熱作用により定着させる定着装置において、
前記定着手段の弾性層を複数の層として構成し、
前記定着手段の内側の弾性層の耐熱温度を外側の弾性層の耐熱温度より大きくするようにしたことを特徴とする定着装置。
【請求項2】
定着手段および加圧手段を備えトナー画像を熱作用により定着させる定着装置において、
前記定着手段の弾性層を複数の層として構成し、
前記定着手段の内側の弾性層の熱伝導率を外側の弾性層の熱伝導率より高くするようにしたことを特徴とする定着装置。
【請求項3】
定着手段および加圧手段を備えトナー画像を熱作用により定着させる定着装置において、
前記定着手段の弾性層を複数の層として構成し、
前記定着手段の内側の弾性層の材料硬度を外側の弾性層の材料硬度より高くするようにしたことを特徴とする定着装置。
【請求項4】
定着手段および加圧手段を備えトナー画像を熱作用により定着させる定着装置において、
前記定着手段の弾性層を複数の層として構成し、
前記定着手段の内側の弾性層の耐熱温度、熱伝導率、材料硬度の全部または複数を、外側の弾性層より高くするようにしたことを特徴とする定着装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4の定着装置を備えたことを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−79415(P2007−79415A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−269992(P2005−269992)
【出願日】平成17年9月16日(2005.9.16)
【出願人】(591044164)株式会社沖データ (2,444)
【Fターム(参考)】