説明

実行する分析についてトレーサビリティを保証する自動ピペット装置

【課題】実行する分析についてトレーサビリティを保証する自動ピペット装置の提供。
【解決手段】本発明は、液体試料を自動でピペッティングする装置であって、
a)液体試料の採取/分注のための手段、
b)採取/分注手段によって採取された液体試料を入れるための液体試料用区画、
c)データ取得手段、
d)ピペット装置に統合され、かつ、ピペット装置から独立していて、データ取得手段で取得したデータを処理できるデータ処理手段、
e)ピペット装置とデータ取り出し装置との間の通信のための手段であって、データ処理手段がピペット装置から独立している場合にデータ取得手段とデータ処理手段との間でデータを伝送できる通信手段、及び、
f)動力供給手段
を基本的に有しており、データ取得手段が、液体試料及び液体試料を入れるための容器を識別する手段である装置に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の技術分野は、ピペット装置又は自動ピペットの分野である。さらに詳しくは、本発明は、生物学的分析に使用される種類の自動ピペットであって、種々の容器間での試料の移しかえを安全にし、前記分析のトレーサビリティを保証するための手段が統合されている自動ピペットに関する。
【背景技術】
【0002】
診断、特に医学的な診断の分野は、技術の近代化、及び、実験室に課される透明性に関する制約の両者について、絶えず進化している。事実、この近代化によって、特に人間の介在を減らすことにより、透明性において直接的かつ肯定的な影響が生じるが、それでもなお人間の介在が常に必要であることに着目されたい。具体的には、生物学的分析の手順の自動化が進んでいるにもかかわらず、少なくとも分析装置への試料の分注はいまだ人間の介在を必要とする。この必須の工程は多くのミスの原因になると考えられる。
【0003】
具体的には、通常は複数の試料を自動機械で同時に分析するが、取扱者が試料を装置に分注する際に混合してしまう可能性がある。また、技術者が正しい分析試薬を正しい試料に割り当てない可能性もある。したがって、最初に要求された試料検査とは異なる試料検査を実行してしまう可能性がある。
【0004】
これによって、間違った結果が生じる危険性が高く、患者にとって重大な結果をもたらす可能性がある。
【0005】
上記以外に、こうした作業工程特有の欠点としては、技術者が分析目的の試料を扱う際に、実行する作業を監視及び検証する工程がない点がある。このことから判断すると、作業者は、ミスを犯した場合にそれに気が付くための手段を持たない。
【0006】
試料識別用のシステムがすでに導入されている。これは、例えばバーコードシステムを備えるものである。具体的には、新たな試料を実験室で処理する際に、試料の各々に識別コードを割り当てる。一般には、バーコードタグを試料容器に貼り付ける。その後、技術者が試料を扱う際にバーコードを読み取り、試料を識別する。
【0007】
しかし、この識別システムでもミスの危険性はある。具体的には、バーコードを読み取って試料を正しく識別しても、技術者が装置内の誤った容器に試料を配置してしまう可能性が妨げられない。
【0008】
したがって、自動機械で直接実行しない作業においては分析者が行う種々の手作業を監視及び検証する手段がなく、このことは、希釈又は分取する場合などの手作業が続く場合にはより大きな問題である。
【0009】
上記以外で、試料取扱時のミスの重要な原因は、採取量に関するものであろう。具体的には、すでに述べたように、試料を希釈又は分取しなければならない場合は少なくない。したがって、所定量の試料を採取する必要がある。今日使用されるピペット装置においては、通常は採取体積を前もって調節できるが、それでも作業者が採取体積を決定する際にミスを犯す危険性がある。こうしたミスが生じると、結果が不正確なものとなり、結果は周知のとおりである。
【0010】
したがって、希釈又は分取作業の際に採取量を監視できること、及び、採取量を検証できること、又は、採取量についての情報を少なくとも記録できることも、トレーサビリティには重要である。
【0011】
この状況から、試料のピペッティング用の手動システムであって、試料の採取元の監視、この試料の分注先容器の識別、及び、採取及び/又は分注を許可又は禁止することにより種々のピペッティング工程を検証できるシステムは、現在ないことが明らかである。試料を手動でピペッティングするシステムであって、採取液体(試料、バッファ又は試薬)の量を実行する分析の種類に応じて自動で管理できるシステムもない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記検討の従来技術によって生じる問題に鑑み、本発明の基本的な目的の1つは、作業者が使用できる、試料を自動でピペッティングする装置であって、ピペッティング時に試料を入れる種々の容器に関するデータを記録することによって、実行する分析についてトレーサビリティを完全にできる装置を提供することにある。
【0013】
本発明の他の基本的な目的は、作業者が使用できる、試料を自動でピペッティングする装置であって、各ピペッティング工程の検証及び許可が可能な装置を提供することにある。
【0014】
本発明の他の目的は、作業者が使用できる、試料を自動でピペッティングする装置であって、特にはピペッティングされる液体(試料、バッファ及び/又は試薬)の量を実行する分析に応じて、作業者に知らせることによって、又は、あらかじめ調節することよって、各ピペッティング工程において作業者を補助できる装置を提供することにある。
【0015】
本発明の他の目的は、試料を自動でピペッティングする装置であって、自動分析機との通信が可能な装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
これらの目的は、とりわけ、第1には、
液体試料を自動でピペッティングする装置であって、
a)液体試料の採取/分注のための少なくとも1つの手段、
b)前記採取/分注手段によって採取された液体試料のすべて又は一部を入れるための少なくとも1つの液体試料用区画、
c)少なくとも1つのデータ取得手段、
d)当該ピペット装置に統合され、かつ/又は、当該ピペット装置から独立していて、前記データ取得手段で取得したデータを処理できる少なくとも1つのデータ処理手段、
e)当該ピペット装置とデータ取り出し装置との間の通信のための少なくとも1つの手段であって、前記データ処理手段が当該ピペット装置から独立している場合に前記データ取得手段と前記データ処理手段との間でデータを伝送できる通信手段、及び、
f)少なくとも1つの動力供給手段
を有しており、
前記データ取得手段が、液体試料及び/又は液体試料のすべて又は一部を入れるための容器を識別する手段である装置
に関する本発明によって達成される。
【0017】
採取とは、本発明によるピペット装置を使用して、供給源容器に入った試料のすべて又は一部を吸い上げることからなる任意の操作を意味するものである。
【0018】
分注とは、採取されてピペット装置の受容区画に入っている試料のすべて又は一部を放出することからなる任意の操作を意味するものである。
【0019】
識別手段とは、試料の採取元及び/又は分注先を決定できる、又は、前記試料を入れるための容器を識別できる任意の手段を意味するものである。
【0020】
データ取り出し装置とは、ピペット装置で取得したデータの保存、分析及び/又は取り出しが可能な任意の手段を意味するものである。そのような装置は、例えば、独立したコンピュータ、自動分析機に接続されたコンピュータ、自動分析機そのもの、又は、プリンタであってよい。
【0021】
データ処理手段は、マイクロコントローラ又はマイクロプロセッサなど、人工知能を備えた任意の手段を意味するものである。マイクロコントローラとは、DSP(デジタル・シグナル・プロセッサ)、FPGA(フィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ)、又は、ASIC(特定用途向け集積回路)といった形式の構成要素を指すであろう。
【0022】
ピペット装置から独立しているデータ処理手段とは、ピペット装置の外部に配置された任意のデータ処理手段を意味するものである。さらに詳しくは、上述のように、そのようなデータ処理手段はデータ取り出し装置の一体部分である。
【0023】
本発明の好都合な変形形態によれば、ピペット装置が、少なくとも1つのデータ保存手段をさらに有している。そのような保存手段は、コンピュータの分野において幅広く使用されて当業者には周知である任意の磁気又はデジタル手段で構成されてよい。さらに詳しくは、データ保存手段は、好都合には、本発明によるピペット装置にエネルギーが供給されていない場合でも、この保存手段内のデータが消去されないよう、EEPROM又はフラッシュ型の不揮発メモリであってよい。
【0024】
特定の実施形態によれば、本発明のピペット装置に統合される前記通信手段が、有線接続手段である。
【0025】
有線接続手段とは、2つの電子デバイスを、データの伝達を可能にすべく一体に接続することができる任意の手段を意味するものである。特には、有線接続手段は、シリアル式(RS485、RS232規格)、USB式(ユニバーサル・シリアル・バス)、ネットワーク式(イーサネット(登録商標))若しくはパラレル式(GPIB)の接続システム、又は、他の任意の同等手段であってよい。
【0026】
好ましい変形形態によれば、当該装置が無線通信手段を有している。好都合には、この無線通信手段は、無線電波を送受信するための装置である。例えば、Wifi(802.11b規格)、Bluetooth(802.15規格)、又は、ZigBee(802.15.4規格)のシステムであってよい。
【0027】
適切なBluetoothモジュールは、National Semiconductor社から商品名LMX9814で市販されているモジュール、又は、Socket Communications社から商品名KwikblueSMDで市販されているモジュールであってよい。
【0028】
適切なZigBeeモジュールは、Freescale Semiconductor,Inc.社販売のMC13という系列のモジュールのうちの1つであってよい。
【0029】
あるいは、赤外線伝送手段を使用することからなる。
【0030】
さらに、本発明によるピペット装置は、少なくとも1つの情報表示手段を有し得る。この情報表示手段を、1つ以上の最も単純な型のエレクトロルミネセントダイオードで構成できる。この実施形態によれば、ダイオードが、分析を実行する作業者に、特にはデータの取得、液体試料の入った容器又は液体試料が入る容器の識別に関する種々の情報を提供できる。しかし、情報表示手段は、より好ましくは液晶スクリーンである。
【0031】
本発明によるピペット装置の好ましい実施形態によれば、データ取得手段が、画像取得手段である。
【0032】
画像取得手段とは、分析するために十分な品質の画像を提供できる任意の手段を意味するものである。そのような手段は、例えば、CCD又はCMOS形式の光電子センサであってよい。そのような手段が、通常は、データを処理及び伝送するためのデータ整形手段に組み合わせられる。
【0033】
あるいは、データ取得手段が、RFID(高周波識別)リーダであってよい。
【0034】
他の好ましい実施形態によれば、液体試料の採取/分注のための手段について、採取容量は変更可能である。
【0035】
採取容量が変更可能とは、採取容量を必要に応じて調節できることを意味するものである。
【0036】
好都合には、採取/分注手段が、本体及びピストンを有するシリンジ式であり、このピストンが駆動手段によって駆動される。
【0037】
駆動手段とは、シリンジのピストンをシリンジの本体の内部で長手方向の平行移動に駆動させるために適した任意の手段を意味するものである。そのような駆動手段は、例えば電気式、電磁気式、又は、電気空気圧式の手段、又は、他の任意の同等手段であってよい。好都合には、ステッパ型のモータであってよい。
【0038】
本発明の他の変形によれば、本発明によるピペット装置が、当該装置の実施の際に当該装置の傾斜角度を割り出すための手段をさらに有している。これは、例えば、加速度計又はジャイロスコープであってよい。
【0039】
好ましくは、本発明による装置は、液体試料用区画であって、当該装置から取り外すことができる区画を有している。さらに好ましくは、そのような区画が、使い捨てチップである。
【0040】
使い捨てチップとは、ピペット装置内の流体とつながるようにピペット装置の端部に装着できる装置であって、1回使用用の任意の装置を意味するものである。特には、そのような使い捨てチップは、通常は、プラスチック製の円錐台形状のリザーバの形態をとる。この使い捨てチップの容量及び構成は、予想される用途に応じて様々であってよい。
【0041】
好ましい態様においては、本発明によるピペット装置の動力供給手段は、電池式の充電可能手段である。さらに好ましくは、この電池は、本発明によるピペット装置を再充電することなく数時間作動させることができるよう、大容量の電池である。当然ながら、充電器が統合されてなるピペット装置の支持具も好都合に考えられる。又は、充電器が、ピペット装置の支持具とは別個独立であってもよい。
【0042】
本発明の他の目的は、上述のようなピペット装置を、生物試料の分析に使用することに関係する。
【0043】
本発明の他の目的は、供給源容器の内部に配置された液体試料を、上述のようなピペット装置を使用して採取するための方法であって、
a)前記供給源容器に配置された識別データを、前記データ取得手段を使用して取得する工程、及び、
b)所定の量の液体試料を、前記液体試料用区画内に採取された試料が入るような方法で、前記採取/分注手段を使用して採取する工程
を含む方法に関する。
【0044】
本発明の他の目的は、本発明によるピペット装置の前記液体試料用区画内の液体試料を、分注先容器に分注する方法に関する。この方法は、
a)前記分注先容器に配置された識別データを、前記データ取得手段を使用して取得する工程、及び、
b)前記区画に入っている液体試料のすべて又は一部を、前記採取/分注手段を使用して前記分注先容器に分注する工程
を含む。
【0045】
上述の採取及び分注方法の一変形によれば、工程a)及びb)が同時に実行される。
【0046】
上述の採取及び分注方法の第2の変形によれば、工程b)が工程a)の前に実行される。
【0047】
この採取方法は、好都合には、前記供給源容器を識別する追加の工程を含むことができ、
この追加の工程が、
・取得されたデータを、前記データ処理システムに送信すること、及び、
・送信されてきたデータを、識別データを含む参照データベースと比較すること
からなり、採取の工程b)の前後に実行可能である。
【0048】
この採取方法は、さらにより好都合な変形によれば、前記採取の工程を有効にする追加の工程a’)を含み、
この追加の工程a’)が、
・取得されたデータを、前記データ処理システムに送信すること、
・送信されてきたデータを、前記データ処理手段によって、識別データを含む参照データベースと比較すること、及び、
・前記供給源容器が正しく識別されたときに、前記採取/分注手段に採取の指令を送信すること
からなる。
【0049】
好ましい態様においては、採取する液体試料の量が、前記データ処理手段によって決定される。
【0050】
前記分注方法は、好都合な変形によれば、前記分注先容器を識別する追加の工程を含み、
この追加の工程が、
・取得されたデータを、前記データ処理システムに送信すること、及び、
・送信されてきたデータを、識別データを含む参照データベースと比較すること
からなり、分注の工程b)の前後に実行可能である。
【0051】
前記分注方法は、さらにより好都合な変形によれば、前記分注の工程を有効にする追加の工程a’)を含み、
この追加の工程a’)が、
・取得されたデータを、前記データ処理システムに送信すること、
・送信されてきたデータを、前記データ処理手段によって、識別データを含む参照データベースと比較すること、及び、
・前記分注先容器が正しく識別されたときに、前記採取/分注手段に分注の指令を送信すること
からなる。
【0052】
好ましい態様においては、分注されるべき液体試料の量が、前記データ処理手段によって決定される。
【0053】
上述の採取又は分注方法において、
・取得されたデータを、前記データ処理システムに送信すること、
・前記採取/分注手段に採取の指令を送信すること、及び/又は、
・前記採取/分注手段に分注の指令を送信すること
からなる各工程が、好ましくは、前記データ処理手段が前記ピペット装置から独立している場合に、前記通信手段によって実行される。
【0054】
最後に、本発明のもう1つの目的は、上述のように、採取方法を構成している少なくとも1つの工程、及び/又は、分注方法を構成している少なくとも1つの工程を含む生物学的分析の方法に関する。
【0055】
本発明の目的及び利点が、図面を参照しつつ提示される以下の詳細な説明に照らして、よりよく理解されるであろう。
【0056】
(図面の説明)
図1は、自動分析機と協働して動作する特定の実施形態によるピペット装置について、機能ブロックの形態の図を示している。
図2は、本発明によるピペット装置に組み合わせられるソフトウェアについて、機能ブロックの形態の図を示している。
図3は、本発明によるピペット装置を使用して液体試料を採取する方法について、フローチャートを示している。
図4は、本発明によるピペット装置を使用して液体試料を分注する方法について、フローチャートを示している。
図5Aは、VIDAS(登録商標)自動分析機において使用される分析カートリッジの斜視図を示している。
図5Bは、図5Aに示したカートリッジの端部の拡大図を示している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0057】
ピペット装置の一実施形態が、図1に機能/相関ブロックの形態で示されている。この実施形態によれば、ピペット装置10が、自動分析機30に接続されている。実際、ピペット装置は、分析の前、又はおそらくは自動分析機によって実行する分析の最中に、作業者によって実行されるピペッティング工程において、自動分析機の制御のもとにある。
【0058】
そのような自動分析機は、これらに限られるわけではないが、例えば、本発明の出願人によって市販されているVIDAS(登録商標)又はminiVIDAS(登録商標)自動イムノアッセイ機であってよい。
【0059】
ピペット装置10は、主としてマイクロコントローラ12で構成されており、マイクロコントローラ12の機能は、分析関連のデータを処理することにある。したがって、このマイクロコントローラ12は、ピペット装置10のすべての構成要素を接続することができる。マイクロコントローラ12のもう1つの機能は、データ取得手段によって取得されたデータのすべて又は一部を処理することにある。
【0060】
この場合には、データ取得手段は、CCD又はCMOSセンサ14で構成されている。このセンサは、バーコード、英数字コード、頭文字又は色コードなどといった識別子を利用するために、十分な品質の画像の取得を可能にしていなければならない。センサは、カメラの一体部分であってよい。この点に関し、適切な製品は、Vision Components(VCSBC50 intelligent OEM camera)、I2S(OEM−D640)、又は、OVT(CMUcam2)といった企業によって市販されている製品であってよい。
【0061】
センサは、識別子の読み取りに必要とされる視野をカバーするための光学系(レンズ)に組み合わせられる。そのような光学系は、好都合には、Varioptic社販売のような焦点距離を電気的に調節できる液体光学レンズであってよい。
【0062】
取得される写真について十分かつ一定のコントラストを保証するために、照明システムを考えることができる。したがって、このシステムは、フラッシュランプなどの可視の照明システムであってよい。また、赤外システムなどの不可視の照明システムであってもよい。この照明システムを、画像取得段階において連続モードで動作させることができる、又は、エネルギー消費を抑えるために画像取得時点のみのパルス・モードで動作させてもよい。
【0063】
画像取得装置を、ピペット装置を採取又は分注の目的で供給源容器又は分注先容器に配置したときに、当該供給源容器又は分注先容器に配置された識別手段又は識別子の画像を取得できるよう、ピペット装置の底部の付近に配置できる。
【0064】
一変形形態によれば、ピペット装置が、複数の画像取得装置を備えることができる。したがって、ピペット装置の正面にある実質垂直の平面に位置している容器の識別子の画像を取得できるようにするため、上述した画像取得装置に加えて他の画像取得装置を、ピペット装置の上部付近において、この装置を握るための部分の近傍に配置できる。具体的には、このような実施形態は、ピペット装置を容器に垂直に配置したときに、採取又は分注の工程において、識別手段の画像を取得できないほど小さい特定の容器を識別することを容易にできる。
【0065】
画像取得装置がこの機能を提供していない場合、ピペット装置は好都合には、上記画像取得装置に加えて、バーコードを読み取るための装置をさらに備えることができる。具体的には、センサによるバーコードの認識は、通常は、良好な条件のもとで認識を実行できるよう、センサが高性能であることが必要である。これにより、かなりのコストがかかる可能性がある。その場合、この場合には、伝統的なバーコード・リーダを使用することが好ましいと考えられ、そのようにすることで、組み込まれる画像取得用のセンサの性能はあまり高くなくてもよくなり、したがってより安価にできる。
【0066】
マイクロコントローラ12によって電子的に駆動されるピペット装置の他の構成要素は、モータ式シリンジ14である。そのようなシリンジは、例えば、Biohit社販売のeLINE(登録商標)という種類のシリンジであってよい。このシリンジに、液体試料用区画の役割を果たす使い捨てのチップが追加される。ピペット装置が採取の工程に使用されるとき、マイクロコントローラが、採取すべき試料の体積に関する指令をピペットに伝える。同様に、ピペット装置が分注の工程に使用されるとき、すなわち使い捨てのチップが採取した液体試料を含むとき、マイクロコントローラは、分注すべき試料の体積に関する指令をピペットに伝える。採取及び分注される体積が、マイクロコントローラによって伝達される情報に従って変わり得ることを、想起すべきである。同様に、モータ式ピペットの容量も、変わり得る。具体的には、Biohit社からeLINE(登録商標)というピペットが販売されているが、その採取容量は、型式に応じて0.1〜5000μlの範囲であってよい。
【0067】
モータ式ピペットは、一方で、ピストンの位置、移動ストッパ(travel stops)の状態、又は、後述される差圧検出器に関する情報など、自身の動作状態に関する情報をマイクロコントローラに伝えることができる。好都合には、モータ式ピペットに、使い捨てチップ内の液体の体積を監視するための手段、又は前記使い捨てチップを塞ぐための手段を配置することが可能である。そのような手段は、一端にてチップの内部環境に連絡し、他端にて差圧検出器に接続されるチューブで構成される。これにより、そのような検出器が、使い捨てチップへの注入又は使い捨てチップからの排出に起因し、又は、場合によっては使い捨てチップの閉塞に起因する当該チップ内部の圧力の変化に対応して、信号をマイクロコントローラにもたらすことができる。
【0068】
図1に示した実施形態においては、ピペット装置の一部の構成要素の機能が、基本的には、ピペット装置と作業者との間で、作業者によって与えられる指令に関して仲介者の役割を果たすことにある。これらの構成要素は、試料の採取及び分注を制御するための押しボタン18、及び使い捨てチップを排出するためのボタン20である。
【0069】
試料の採取及び分注の工程は、好都合には、単一の押しボタン18によって制御される。あまいは、本発明によるピペット装置が2つの制御用押しボタンを有している:一方が採取を制御するためのものであって、一方が分注を制御するためのものである。この押しボタンもマイクロコントローラに接続されており、このボタンが押されたことがマイクロコントローラによって認識されて、採取又は分注の運動を実行するようモータ式ピペット16に指令が与えられる。
【0070】
使い捨てチップ20を排出するための押しボタンも、マイクロコントローラに接続されている。作業者がこの押しボタンを押すと、マイクロコントローラが、使い捨てチップを排出するようモータ式ピペット16に指令を与える。この動作によって、使い捨てチップが確かに排出されたことをマイクロコントローラが記録する場合、これは、排出されたチップが確かに破棄されて再使用されないと保証する十分な手順を何ら構成しない。
【0071】
本発明の代案によれば、ピペット装置が、採取、分注、及び、使い捨てチップの排出を制御するための単一の押しボタンを有している。この代案は、マイクロコントローラが各瞬間においてピペッティングの進行状態を判断できる場合に、可能であると考えられる。すなわち、モータ式ピペットへ試料採取の指令をマイクロコントローラが与えた後で作業者が新たに押しボタンを押すと、これをマイクロコントローラは、使い捨てチップ中の試料のすべて又は一部を分注するようにという指令と解釈する。同様に、想定される分注作業の実行後に作業者が押しボタンを新たに押すと、これをマイクロコントローラは、使い捨てチップを排出するようにという指令と解釈する。
【0072】
他の実施形態は、マイクロコントローラによって制御されない機械式の排出ボタンを有することにある。
【0073】
したがって、特定の実施形態によれば、モータ式ピペットに使い捨てチップのトレーサビリティを保証する手段を持たせることが考えられる。この目的のため、新品の使い捨てチップと使用済みの使い捨てチップを区別するのためのシステムを導入でき、これによれば、新品の使い捨てチップを使用しなければならないがこれを使用しない場合に、その旨がモータ式ピペットによってマイクロコントローラに伝えられ、次いで適切な手段にて、その旨がマイクロコントローラによって作業者に伝えられる。
【0074】
図1に示したピペット装置の他の構成要素は、表示装置22に関係している。好ましい実施形態によれば、この表示装置が、極めて小型であるという利点を呈する液晶スクリーンで構成されている。この表示装置22によって、採取した試料の識別、分注先容器の識別、考えられる警報(使用済みチップの使用に関する警報など)など、現在のピペッティングについての情報をユーザに伝えることが可能になる。また、センサ14によって取得された像を、作業者が検証できる。表示装置22は、マイクロコントローラ12に接続されて、マイクロコントローラ12によって管理される。
【0075】
最後に、図1に示したピペット装置10を構成する最後の要素は、無線伝送システム24である。このデータ伝送の態様が、好ましい実施形態を示している。具体的には、この実施形態によれば、本発明によるピペット装置が自動分析機30に接続され、さらに詳しくは、この自動機械30のコンピュータ32に接続される。このような実施形態によれば、ピペット装置を使用して作業者が直接実行する分析の各工程、及び、自動機械によって実行される各工程について、連続的かつ完全なトレーサビリティを保証することが可能になる。したがって、ピペッティング時の作業者のミスをピペット装置によって自動分析機に通知することが好都合である。
【0076】
ピペット装置10の無線伝送システムが、自動分析機30のコンピュータ32の無線電送装置34に連結され、これにより、ピペット装置10と自動分析機30との間を接続できる。
【0077】
この無線電送装置34は、好ましい態様においては、コンピュータ32のマザーボードに接続されるWifiネットワーク・カード(802.11b規格)、Bluetoothカード(802.15規格)、又は、ZigBeeカード(802.15.4規格)であってよい。
【0078】
この伝送の態様の代案によれば、ピペット装置10を自動機械に、有線ベースのデータ伝達手段によって接続することも可能である。そのような有線ベースの伝達手段は、すでに上述に記載したとおりである。
【0079】
このデータ伝送システムのおかげで、コンピュータ32は、ピペット装置によって伝送されたデータを処理できる。これらのデータのすべて又は一部が、特には分析工程における試料及び容器の識別、ミスの管理、採取及び分注の工程の進行に関して、データ処理アルゴリズム36によって処理される。処理アルゴリズム36によって処理された識別データの一部が、マン−マシン・インターフェイス(MMI)38によって作業者に提供される。このインターフェイスにより、作業者が分析の進行に追従できる。さらに、この手段によって、自動分析機は作業の指示を作業者に提供する。さらに、このインターフェイスは、操作ミスの場合に、必要な情報を作業者に提供できる。
【0080】
図2は、ピペット装置の動作を可能にするソフトウェアの構造を示している。図に示すように、ピペット装置用に特に開発されたソフトウェア40によって、この目的で開発されたアルゴリズムによるデータの処理及び画像の処理が可能である。また、バーコード、RFIDタグ、英数字コード又は色コードなど、ピペット装置によって取得されるデータを識別するために使用される頭文字及び/又は識別コードのデータベース44も管理できる。
【0081】
具体的には、作業者がピペット装置を使用してデータ又は画像の取得を実行するとき、これらのデータ及び/又はこの画像が、マイクロコントローラによって処理され、自動分析機に伝達される。次いで、ソフトウェアがさらに、分析装置から得られたデータ及び/又は画像を、頭文字及び/又は識別コードのデータベース44と比較する。さらに、ソフトウェアは、それぞれの分析に特有の作業リストを編集するためのモジュール46を有している。また、ソフトウェアは、誤った扱い、容器の識別子の不認識、誤った容器の使用、などといった問題について作業者にあらかじめ警告する目的で、種々の警報のための管理モジュール48を有している。このソフトウェアの重要なモジュールの1つは、作業者とピペット装置及び/又は自動分析機のコンピュータとの間の関係を構成するマン−マシン・インターフェイス(MMI)50である。
【0082】
もう1つのきわめて重要なモジュールは、自動分析機に接続されたモジュール52で構成され、自動機械とピペット装置との間の連結を保証する。最後に、ソフトウェアの最後のモジュールは、インターフェイスの管理に関係する。このモジュールは、すでに述べた種々のモジュールの接続を、特にはそれらの通信プロトコルを適合させることによって保証できる。
【0083】
データ処理アルゴリズム36及び頭文字及び/又は識別コードのデータベース44を、ユーザは更新することが可能である。具体的には、アルゴリズムを、ピペット装置が提供すべきサービスの改善に関する新しい機能で補うことができるということが重要である。同様に、新規な識別手段が使用されるようになる場合には、頭文字及び/又は識別コードのデータベースも増強が可能でなければならない。
【0084】
データ処理アルゴリズム及び頭文字及び/又は識別コードのデータベースをピペット装置のメモリにロードする場合には、それらの更新が、有線ベース又は無線のデータ伝送システムを介して、コンピュータ32によって実行される。
【0085】
さらに、頭文字及び/又は識別コードのデータベースを、ピペット装置そのものを使用して、ゼロから生成することができ、又は増強できることに注意すべきである。具体的には、この場合には、画像取り込みなどのデータの取得が、ピペット装置のデータ取得装置によって実行される。したがって、頭文字及び/又は識別コードのいくつかの画像を、ピペット装置のいくつかの傾斜角度において取得することが好都合である。これにより、頭文字及び/又は識別コードのデータベースは、1つの同じ頭文字又は識別コードについて、参照データとして使用してピペット装置の使用時に取得される画像と比較するための複数の画像を含むことになる。
【0086】
本発明によるピペット装置によって液体試料を採取する方法の種々の工程(工程)が、図3に示されている。作業者は、採取のプロセスを開始するとき、採取すべき試料の供給源の容器にピペット装置を配置する。次いで、作業者は、工程60において、採取の制御の押しボタンを押す。これにより、画像取得装置が、供給源容器の識別手段の写真を撮影する。取得された画像は、工程62においてメモリに配置される。この記録は、ピペット装置が記憶手段を有している場合には、ピペット装置において直接行われる、又は、自動分析機のコンピュータのメモリにおいて行われる。画像が、工程64において分析される。ピペット装置が、画像の分析を実行できるマイクロコントローラを有している場合には、マイクロコントローラが、工程66において、画像上の識別子の認識を試みる。例えば、画像がバーコードの画像である場合には、マイクロコントローラは、バーコードに組み合わせられた値の認識を試みる。この段階において、マイクロコントローラが識別子を認識し、対応する値がメモリに配置されるか、又は、マイクロコントローラが識別子を認識しないかのどちらかであり、後者の場合には、工程62に従って識別子の認識のための新たな写真を取得するように、画像取得装置に対して指示が与えられる。次いで、先に取得された画像が削除される。
【0087】
識別子の認識のために必要なこれらの工程を、必要に応じて何度も繰り返すことができる。しかし、識別子の認識における試行について、限界の数を決定することが好都合であると考えられる。また、試行の数を、識別子の認識に割り当てられる時間を制限することによって、限定することも可能である。いずれの場合も、取得の頻度が大であり、すなわち画像の取得に要する時間及びデータの処理に要する時間が可能な限り短いことが、重要である。
【0088】
ピペット装置は、識別手段の認識について、高い速度を提供できなくてはならない。さらに、識別手段の認識が不可能である場合に、この不認識の原因を判断することができ、そのような判断は、データ処理アルゴリズムによって行われる。識別手段の認識を妨げるミスは、以下のとおりである。
・ピペット装置が過度に傾いており、取得される画像が過度に変形して見える。
・不適切な周辺光(露出過剰又は露出不足)により、コントラストが高すぎる、又は、低すぎる。
・例えば識別手段が損傷しているため、又は、隠れているため、識別手段を読み取ることができない。
・識別手段が、画像取得手段の読み取りの視野の外にある。
【0089】
識別手段の認識のためのプロセスを改善するために、加速度計又はジャイロスコープをピペット装置に組み込むことが、好都合であると考えられる。これは、例えばMMA7260Qと呼ばれてFreescale Semiconductor,Inc.社販売の加速度計であってよい。具体的には、このような装置によれば、画像の取得と同時に、ピペット装置の傾斜角度を割り出すことが可能になる。その結果、取得された画像が、実行された傾きの測定に自動的に相関付けられる。したがって、データの比較の際に、取得された画像が、ピペット装置の傾きの値が同等である画像とのみ比較される。これにより、参照データベースに含まれている関係のあるデータのみが考慮される点で、識別子の認識の工程を大幅に迅速化できる。
【0090】
識別子が認識されない場合、作業者は必要な是正作業を行う必要がある。これらの是正は、MMIによって要求される。一旦是正が行われると、作業者は、供給源の容器において新たな採取の手順を開始する。供給源容器が識別されず、是正が無駄であったことが明らかになった場合、作業者は、ピペット装置を補助なしの非監視のモードに切り替えることができる。このモードは、ピペット装置の機械的な部分を、監視用の付属物から切り離すことからなる。換言するならば、これによってピペット装置が単なるモータ式ピペットになる。この場合、この「劣った」モードへの切り替えについての情報が、トレーサビリティの目的で、自動分析機のコンピュータに記録される。又は、ピペット装置が適切な記憶手段を有する場合には、この情報をピペット装置そのものに記録してもよい。
【0091】
識別子が正しく認識された場合には、工程68において、該当値が、ピペット装置の無線伝送システムを介して自動分析機のコンピュータに伝達される。次いで、工程70において、データが自動分析機のコンピュータの無線伝送システムによって受信される。次いで、工程72において、コンピュータが、受信したデータを作業リストに含まれているデータと比較する。分析の前に作業者がコンピュータに保存したこの情報は、例えば試料において捜索すべき検体、分析の手順において使用すべき試薬、採取及び分注すべき試薬又は試料の体積、分析を実行しなければならない対象の患者の特定に関係するデータなど、実行すべき分析に付随するすべてのデータに関係している。
【0092】
次いで、工程74において、2つの典型的な場合が生じ得る。すなわち、先の工程における比較の結果、供給源容器の識別が可能になり、すなわち画像取得装置によって取得された画像にもとづいて得られた値を、作業リストに含まれている情報に相関付けることができた場合であり、又は比較の結果、供給源容器の識別が不可能であり、すなわち画像取得装置によって取得された画像にもとづいて得られた値を、作業リストに含まれているいずれの情報にも相関付けることができない場合のいずれかである。
【0093】
供給源の容器が実行する分析に対して適切であると識別された場合、工程76において、自動分析機のコンピュータは、マン−マシン・インターフェイスによって作業者に情報を提供する。この情報は、特には、例えば供給源容器において採取すべき試料の体積など、実行すべき採取に関係する情報である。マン−マシン・インターフェイスによって作業者に提供される他の情報として、分注工程に関して作業者を案内するための、分注先の容器に関する情報が挙げられる。工程78において、自動分析機のコンピュータが、採取の許可及び採取すべき量などの関連情報を、無線伝送システムによってピペット装置に送信する。一旦この情報が工程80においてピペット装置の無線伝送システムによって受信されると、工程82においてピペット装置の画面に表示される。特には、作業者に採取しようとする量を思い出させることが可能である。次いで、ピペット装置が、工程84において、指定された量を供給源容器から採取する。
【0094】
供給源容器が識別されない場合、又は識別されたが進行中の分析にそぐわないと判断される場合、その旨が工程86において、コンピュータによりマン−マシン・インターフェイスによって作業者へ伝えられる。さらに、作業者に実際に警告が伝わるように保証するため、警報も動作する。次いで、工程88において、自動分析機のコンピュータが無線伝送システムによってピペット装置に、採取の禁止及び関連情報(ピペット装置上で動作させなければならない警報など)を送信し、これらのデータが、工程90においてピペット装置の無線伝送システムによって受信される。これにより、ピペット装置が自動分析機のコンピュータから引き継いで、工程92において警報を表示し、工程94において前記自動分析機が無効にされる。
【0095】
次いで、作業者は、採取方法が作業リストに含まれている情報に対して適切となるように、例えば供給源容器が正しい容器ではない場合の供給源容器の交換など、是正の手段を取らなければならない。
【0096】
この採取方法の代案によれば、識別子の認識を、自動分析機のコンピュータによって直接実行することが可能である。この場合、生画像がピペット装置によってコンピュータに、それらのそれぞれの無線伝送システムを介して伝達される。次いで、画像の分析及び識別子の認識の工程が、自動分析機のコンピュータにおいて実行される。識別子が認識された場合、該当値が、上述の方法の工程72に従って作業リストと比較される。以降の工程は、上述した工程と同一である。他方で、識別子が認識されない場合には、コンピュータがピペット装置に新たな像を取得するように指令を送信する。これにより、この方法が、画像の取得の工程から再出発する。像の数又はこの工程に割り当てられる時間に関してピペット装置に与えられた制限と同じ制限を、自動分析機のコンピュータに与えることができる。
【0097】
一旦指定の量がピペット装置によって採取されると、作業者を、分析の次の工程、すなわち試料の分注を実行するように、自動分析機のコンピュータによって案内できる。したがって、採取した試料の分注先容器についての情報を、マン−マシン・インターフェイスによって作業者に提供できる。
【0098】
その後、分注の工程は、図4に従って進行できる。
【0099】
作業者は、分注のプロセスを開始するとき、ピペット装置を分注すべき試料の分注先容器に配置する、又は、採取した量を複数の分注先容器に分注しなければならない場合(分取又は並行な複数の分析の実行)には、容器のうちの1つに配置する。次いで、作業者は、工程160において分注の制御の押しボタンを押すが、この押しボタンは、採取の制御の押しボタンと同じボタンであっても、別の押しボタンであってもよい。この結果、画像取得装置によって、分注先容器の識別手段のレベルで分注先容器の像が取得される。取得された画像は、工程162においてメモリに配置される。この記録は、ピペット装置が記憶手段を有している場合には、ピペット装置において直接行われる、又は、自動分析機のコンピュータのメモリにおいて行われる。画像が、工程164において分析される。次いで、ピペット装置のマイクロコントローラが、工程166において、画像上の識別子の認識を試みる。例えば、画像がバーコードの画像である場合には、マイクロコントローラは、バーコードに組み合わせられた値の認識を試みる。識別子は、頭文字又は英数字コードであってもよい。第3の変形によれば、識別子が色コードであってよい。
【0100】
すなわち、自動分析機がVIDAS(登録商標)である場合には、分注先容器は、カートリッジを含む消耗品で構成され、カートリッジが、分析のために用意された複数のリザーバを備えている。そのようなカートリッジが、参照番号200にて図5Aに示されている。図5Bに示されているカートリッジの一方の端部の拡大図が、このカートリッジの識別を可能にする種々の要素を示している。すなわち何よりもまず、カートリッジ200はステッカー202であって、通常は所定の色であり、このカートリッジによって実行可能な分析に対応する頭文字を載せたステッカー202を有していることに、注意すべきである。この頭文字204が、読み取りを容易にするために、より大きなサイズかつ白地に黒の形式でカートリッジ上にも複写されていることに、注意すべきである。最後に、さらにカートリッジは、各カートリッジを識別可能にする一意のコードである英数字コード206を有している。作業者がピペット装置によってこのカートリッジに試料を分注するとき、ピペット装置は、分注が正しいカートリッジに行われること、すなわち所望の分析に対応したカートリッジに行われることを、確認できることが不可欠である。さらに、カートリッジそのものを識別するデータを取得できることが重要である。
【0101】
この段階において、マイクロコントローラが識別子を認識し、該当値がメモリに配置されるか、又はマイクロコントローラが識別子を認識しないかのどちらかであり、後者の場合には、工程162に従って識別子の認識のための新たな写真を取得するように、画像取得装置に対して指示が与えられる。容器がVIDAS(登録商標)のカートリッジである場合、ピペット装置は、カートリッジによって実行する分析についての2つの識別子の少なくとも一方(色コード又は頭文字)、及びカートリッジそのものの識別子(英数字コード)を、認識できなければならない。カートリッジのどの穴にピペット装置が配置されているのかも、判断できなければならない。
【0102】
識別子の認識のために必要なこれらの工程も、必要に応じて何度も繰り返すことができる。しかし、ここでもやはり、識別子の認識における試行の回数又は識別子の認識に割り当てられる時間を制限することが、好都合であると考えられる。取得の頻度が大であり、すなわち画像の取得に要する時間及びデータの処理に要する時間が可能な限り短いことが、やはり重要である。
【0103】
識別子が認識されない場合、作業者は必要な是正作業を行う必要がある。これらの是正は、MMIによって要求される。一旦是正が行われると、作業者は、分注先容器への新たな分注の手順を開始する。供給源容器が識別されず、是正が無駄であったことが明らかになった場合、作業者は、ピペット装置を補助なしの非監視のモードに切り替えることができる。この場合、この「劣った」モードへの切り替えについての情報が、自動分析機のコンピュータに記録される。又は、ピペット装置が適切な記憶手段を有する場合には、この情報をピペット装置そのものに記録してもよい。
【0104】
識別子が正しく認識された場合には、該当値が、工程168において、ピペット装置の無線伝送システムを介して自動分析機のコンピュータに伝達される。次いで、工程170において、データが自動分析機のコンピュータの無線伝送システムによって受信される。次いで、工程172において、コンピュータが、受信したデータを作業リストに含まれているデータと比較する。
【0105】
これにより、工程174において、2つの典型的な場合が生じうる。すなわち、先の工程における比較の結果、分注先容器の識別が可能になり、すなわち画像取得装置によって取得された画像にもとづいて得られた値を、作業リストに含まれている情報に相関付けることができた場合であり、又は比較の結果、分注先容器の識別が不可能であり、すなわち画像取得装置によって取得された画像にもとづいて得られた値を、作業リストに含まれているいずれの情報にも相関付けることができない場合のいずれかである。
【0106】
分注先容器が実行する分析に対して適切であると識別された場合、工程176において、自動分析機のコンピュータは、マン−マシン・インターフェイスによって作業者に情報を提供する。この情報は、特には、分注先容器に分注すべき試料の体積に関する情報である。工程178において、自動分析機のコンピュータが、分注の許可及び分注すべき量などの関連情報を、無線伝送システムによってピペット装置に送信する。一旦この情報が工程180においてピペット装置の無線伝送システムによって受信されると、工程182においてピペット装置の画面に表示される。特には、作業者に分注しようとする量を思い出させることが可能である。次いで、ピペット装置が、工程184において、指定された量を分注先容器に分注する。
【0107】
分注先容器が識別されない場合、又は、識別されたが進行中の分析又は進行中の分析の工程にそぐわないと判断される場合、その旨が工程186において、コンピュータによりマン−マシン・インターフェイスによって作業者へ伝えられる。さらに、作業者に実際に警告が伝わるように保証するため、警報も動作する。次いで、工程188において、自動分析機のコンピュータが無線伝送システムによってピペット装置に、分注の禁止及び関連情報(ピペット装置上で動作させなければならない警報など)を送信し、これらのデータが、工程190においてピペット装置の無線伝送システムによって受信される。これにより、ピペット装置が自動分析機のコンピュータから引き継いで、工程192において警報を表示し、工程194において前記自動分析機が無効にされる。
【0108】
次いで、作業者は、分注方法が作業リストに含まれている情報に対して適切となるように、是正の手段を取らなければならない。
【0109】
この分注方法の代案によれば、上述した採取方法と同様の様相で、識別子の認識を、自動分析機のコンピュータによって直接実行することが可能である。
【0110】
VIDAS(登録商標)に特有である分注方法の一変形によれば、ピペット装置が、VIDAS(登録商標)カートリッジからなる分注先容器を識別できるだけでなく、実行すべき分析にも特有であって、免疫学的反応の支持体を構成しており、カートリッジに含まれている試薬の採取を可能にしているVIDAS(登録商標)コーンも識別できなくてはならない。具体的には、この二重の識別が、カートリッジ及びカートリッジに垂直に配置されたコーンが実際に一致することを保証できるようにしなければならない。
【0111】
本発明の他の変形形態によれば、画像の分析及び識別子の認識、さらには作業リストとの比較による容器の識別の各工程を、ピペット装置によって直接実行できる。この場合、この識別に必要とされる重要ないくつかの機能が、ピペット装置にロードされる。すなわち、ピペット装置の動作を可能にするソフトウェア、作業リスト、データ及び/又は画像処理のアルゴリズム、頭文字及び/又は識別コードのデータベースが、装置の適切な動作を保証するための十分な容量及び速度でなければならないピペット装置のメモリにロードされる。この場合、ピペット装置と自動分析機との間の伝送のためのシステムの機能は、識別プロセスが終了して採取又は分注が実行されたときにのみ、自動機械が試料の分析を開始又は続行できるように情報の伝達が可能であればよい。さらに、採取及び分注に固有の情報が、トレーサビリティの目的で自動分析機又は自動分析機のコンピュータに保存される。
【0112】
以上の説明から、本発明によるピペット装置が、分析の過程において実行される作業について完全なトレーサビリティの保証を可能にすることが明らかである。それにもかかわらず、この完全なトレーサビリティは、本発明によるピペット装置の万能性を制限していない。
【0113】
実際のところ、これら各ピペッティング(採取及び分注)工程を操作するのではなく、ピペッティングの情報の保存のみを目的として使用することも可能である。この場合、分析作業の実行において、作業者への案内は行われない。他方で、この分析においてミスが生じた場合には、ミスが生じた工程を特定するために、保存したデータを参照することが可能である。
【0114】
「全自動」モードでの使用も可能である。この場合、すべてのピペッティング工程が、ピペット装置そのもの、又は、ピペット装置に組み合わせられる自動分析機のコンピュータによって、前もって確認される。したがって、ミスが存在する場合には、是正の措置が行われるまで、採取又は分注の工程が不可能にされる。
【図面の簡単な説明】
【0115】
【図1】自動分析機と協働して動作する特定の実施形態によるピペット装置について、機能ブロックの形態の図を示している。
【図2】本発明によるピペット装置に組み合わせられるソフトウェアについて、機能ブロックの形態の図を示している。
【図3】本発明によるピペット装置を使用して液体試料を採取する方法について、フローチャートを示している。
【図4】本発明によるピペット装置を使用して液体試料を分注する方法について、フローチャートを示している。
【図5A】VIDAS(登録商標)自動分析機において使用される分析カートリッジの斜視図を示している。
【図5B】図5Aに示したカートリッジの端部の拡大図を示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体試料用の自動ピペット装置(10)であって、
a)液体試料の採取/分注のための少なくとも1つの手段(16)、
b)前記採取/分注手段によって採取された液体試料のすべて又は一部を入れるための少なくとも1つの液体試料用区画、
c)少なくとも1つのデータ取得手段(14)、
d)当該ピペット装置に統合され、又は、当該ピペット装置から独立していて、前記データ取得手段で取得したデータを処理できる少なくとも1つのデータ処理手段(12、32)、
e)当該ピペット装置とデータ取り出し装置との間の通信のための少なくとも1つの手段であって、前記データ処理手段(12、32)が当該ピペット装置から独立している場合に前記データ取得手段と前記データ処理手段(12、32)との間でデータを伝送できる少なくとも1つの通信手段、及び、
f)少なくとも1つの動力供給手段
を基本的に有している装置であり、
前記データ取得手段(14)が、液体試料及び/又は液体試料のすべて又は一部を入れるための1つ又は複数の容器を識別する手段であることを特徴とする装置。
【請求項2】
データ保存手段をさらに有している請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記通信手段が、有線接続手段である請求項1又は2に記載の装置。
【請求項4】
前記通信手段が、無線伝送手段(24、34)である請求項1又は2に記載の装置。
【請求項5】
前記無線伝送手段が、無線電波の送受信のための装置である請求項4に記載の装置。
【請求項6】
少なくとも1つの情報表示手段(22)をさらに有している請求項1〜5のいずれか一項に記載の装置。
【請求項7】
前記情報表示手段が、液晶スクリーンである請求項6に記載の装置。
【請求項8】
前記データ取得手段(14)が、画像取得手段である請求項1〜7のいずれか一項に記載の装置。
【請求項9】
前記液体試料の採取/分注のための手段(16)が、採取容量は変更可能である請求項1〜8のいずれか一項に記載の装置。
【請求項10】
前記採取/分注手段(16)が、本体及びピストンを有するシリンジ式であり、前記ピストンが、駆動手段によって駆動される請求項9に記載の装置。
【請求項11】
当該装置の実施の際に当該装置の傾斜角度を割り出すための手段をさらに有している請求項1〜10のいずれか一項に記載の装置。
【請求項12】
前記装置の傾斜角度を割り出すための手段が、加速度計又はジャイロスコープである請求項11に記載の装置。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか一項に記載のピペット装置を、生物試料の分析の実行に使用すること。
【請求項14】
供給源容器の内部に配置された液体試料を、請求項1〜12のいずれか一項に記載のピペット装置を使用して採取するための方法であって、
a)前記供給源容器に配置された識別データを、前記データ取得手段を使用して取得する工程、及び、
b)所定の量の液体試料を、採取された試料が前記液体試料用区画内に入るような方法で、前記採取/分注手段を使用して採取する工程
を含む方法。
【請求項15】
請求項1〜12のいずれか一項に記載のピペット装置の前記液体試料用区画内の液体試料を、分注先容器に分注する方法であって、
a)前記分注先容器に配置された識別データを、前記データ取得手段を使用して取得する工程、及び、
b)前記区画に入っている液体試料のすべて又は一部を、前記採取/分注手段を使用して前記分注先容器に分注する工程
を含む方法。
【請求項16】
工程a)及びb)が同時に実行される請求項14又は15に記載の方法。
【請求項17】
工程b)が、工程a)の前に実行される請求項14又は15に記載の方法。
【請求項18】
前記供給源容器を識別する追加の工程を含み、
該追加の工程が、
・取得されたデータを、前記データ処理システムに送信すること、及び、
・送信されてきたデータを、識別データを含む参照データベースと比較すること
からなり、採取の工程b)の前後に実行可能である請求項14に記載の方法。
【請求項19】
前記採取の工程を有効にする追加の中間工程a’)を含み、
該追加の中間工程a’)が、
・取得されたデータを、前記データ処理システムに送信すること、
・送信されてきたデータを、前記データ処理手段によって、識別データを含む参照データベースと比較すること、及び、
・前記供給源容器が正しく識別されたときに、前記採取/分注手段に採取の指令を送信すること
からなる請求項14に記載の方法。
【請求項20】
採取する液体試料の量が、前記データ処理手段によって決定される請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記分注先容器を識別する追加の工程を含み、
該追加の工程が、
・取得されたデータを、前記データ処理システムに送信すること、及び、
・送信されてきたデータを、識別データを含む参照データベースと比較すること
からなり、分注の工程b)の前後に実行可能である請求項15に記載の方法。
【請求項22】
前記分注の工程を有効にする追加の工程a’)を含み、
該追加の工程a’)が、
・取得されたデータを、前記データ処理システムに送信すること、
・送信されてきたデータを、前記データ処理手段によって、識別データを含む参照データベースと比較すること、及び、
・前記分注先容器が正しく識別されたときに、前記採取/分注手段に分注の指令を送信すること
からなる請求項15に記載の方法。
【請求項23】
分注されるべき液体試料の量が、前記データ処理手段によって決定される請求項22に記載の方法。
【請求項24】
・取得されたデータを、前記データ処理システムに送信すること、
・前記採取/分注手段に採取の指令を送信すること、及び/又は、
・前記採取/分注手段に分注の指令を送信すること
からなる各工程が、前記データ処理手段が前記ピペット装置から独立している場合に、前記通信手段によって実行される請求項18〜23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
請求項14〜24のいずれか一項に記載の採取方法を構成している少なくとも1つの工程、及び/又は請求項14〜24のいずれか一項に記載の分注方法を構成している少なくとも1つの工程を含む生物学的分析の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【公表番号】特表2009−500599(P2009−500599A)
【公表日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−518923(P2008−518923)
【出願日】平成18年6月30日(2006.6.30)
【国際出願番号】PCT/FR2006/001543
【国際公開番号】WO2007/003780
【国際公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.Bluetooth
2.ZIGBEE
【出願人】(504238301)ビオメリュー (74)
【Fターム(参考)】