説明

室内高所作業車

【課題】
本発明は、作業枠を組まないでアスベスト剥ぎ取り作業などを行うために用いる、敷かれたシートのねじれや巻上げなどを伴なわない室内高所作業車を提供する。
【解決手段】
球体輪に駆動輪を圧接あるいは離間させることができる駆動セットを2個以上、この駆動セットと球体輪だけのものを合わせて4個以上、取付けた台車部を有し、その走行、停止を1本の操作レバーで、各駆動セットの動きをまとめて制御できるように
する。その台車に電動シリンダーで伸縮可能なパンタグラフを取付け作業機動台の高さを変えられるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天井、壁等のアスベストの剥ぎ取りなどの室内高所作業において、従来の作業枠組立て法に代わって用いることのできる高所作業車に関する。
【背景技術】
【0002】
アスベストは,耐熱性、断熱性などに優れた特性を持っているために、建築関係では断熱、耐火、吸音用などに吹き付けによる被覆材として広く採用されてきた。しかし、最近になって、アスベストに起因すると思われる肺ガン・中皮腫患者が増加して大きな社会問題になっている。これまで使われたアスベスト含有被覆材には、吸音・結露防止用にはアスべスト約70%、耐火被覆用にはアスべスト約60%、それ以外のアスベスト含有吹き付け材としては、アスベスト30%以下あるいは5%以下などがある。現在はアスベスト含有量が0.1%以上のものは使用禁止されている。しかし、すでに施工されているものについては、除去作業中にアスベスト繊維が飛散しないようにして、除去したアスベスト含有物が散らばるおそれがないような最終処分することが必要とされている。このアスベストを含有する吹き付け層の除去を高所の天井・壁等に対して行うには従来作業枠を組んでいたが、その作業枠の移動組み立て作業に多くの時間と労力を要して問題であった。
【0003】
この作業を作業枠を組まないで、高所作業車を用いて行うとすれば次のような条件を満足することが要求される。(1)作業車を高階の作業場に運ぶために、エレベーターを利用できるようなコンパクトなものであること、(2)作業位置に合わせるために、前進、後進、左右移動、旋回などが手元のレバーひとつで制御コントロールされ簡単に操縦できること、(3)室内での作業であり、床をはじめ全ての外周は養生シートで覆われているので、移動時にシートに悪影響を及ぼさないこと、(4)所定の場所に移動後、車体の位置に固定して高所作業をできること、(5)作業終了時にはアスベストなどの塵埃を全て取り除いてから外部に取り出さなければならないので、塵埃などがたまる場所をなくするとともに、容易に掃除できるものにすること、(6)室内作業でしかも密封空間での作業であり、室内の空気を汚染したり、火災の危険性のある駆動源は使用できないので、駆動は全て電動とすること。
【0004】
特許文献1には,果樹収穫用の高所作業車であって、移動台車と移動台車上に起伏自在に設けたブーム構造と、ブーム先端にバスケットを首振り自在に設けたものが示されているが、この移動台車は、左右にクローラを配置したものであって、これは本発明が対象とするシートの上での移動にはシートのよじれや巻き上げ、破損を起こしやすので好ましくない。特許文献2では走行台車上部を覆う運搬作業台が開閉自在に構成された多目的管理作業車が示されているが、走行車体には走行クローラが用いられており同じくシート上の移動には適さない。特許文献3には、屈曲自在なブームが水平方向に首振り自在に設けられたバン型高所作業車輌が示されているが、同じくシート上の移動には適さない。
【特許文献1】特開2005−194005号公報
【特許文献2】特開平10−23822号公報
【特許文献3】特開2000−118972号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、0003で述べたことを解決する、とくにシート上を移動してもシートのねじれや巻上げを生じないことを特徴とする室内高所作業車を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するため手段の第1は、室内高所作業車を、球体輪1に駆動輪6を圧接あるいは離間させることができる駆動セットの数を2以上、この駆動セットの数と、球体輪1だけのものの数を合わせて4以上取付けた台車部を有するものとすることである。
【0007】
手段の第2は、0006の装置において、駆動セットのうち球体輪1は半球体を合体して構成し内部に設置したベアリングで自由回動し、かつ、球体輪を支えるブラケットも上部で回動することにより全ての方向に対して自由回動できるようにすることである。
【0008】
手段の第3は、0006の装置において、駆動セットのうち駆動輪6が電動で駆動され、かつ、その駆動輪6は支点を介して回動することにより球体輪1に圧接して駆動力を伝えたり、あるいは固定したり、また、離間して球体輪1をフリーにしたりできるようにすることである。
【0009】
手段の第4は、0006,0007あるいは0008において、設けられた2個以上の駆動セットの動作を制御シークエンスによって、操作レバー1本の操作で、走行、停止あるいは固定を行えるようにすることである。
【0010】
手段の第5は、0006において、台車部に電動シリンダーで伸縮可能なパンタグラフを取付けて、それによって作業台の高さを変えられるようにすることである。
【発明の効果】
【0011】
0006,0007、0008により、走行時のシートのよじれや巻き上げなどを防止することができる。0009により、作業機の移動について、作業場への移動時には球体輪をフリーにして人力で押し引きすることにより、また作業中は作業者が操作レバーを操作することで容易に行うことができる。また、0010によって、容易に高さを調節して、エレベーターでの移動と、作業現場での高所作業を両立させることができる。これらをあわせて、0003で述べた(1)〜(6)の課題を満足できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
台車の駆動にクローラ方式やタイヤ方式を利用すると接床面積が小さくできず、床の上にシートが敷かれている場合は、方向転換のときなどにシートにねじれの力を与えることが回避できない。それに対して本発明は、たとえば硬質のベークライトなどで製作された球体輪を利用すると接床面積の小さくできることに着目し、球体輪に駆動力を与えることなどを考えて、次のような駆動セットを採用する。
【0013】
図1は球体輪1と駆動輪部6からなる駆動セットの側面図、また図2はその正面図を示す。球体輪1は2分割された半球体1´を左右から合体して球体を構成している。球体はベークライトなどの硬質樹脂から作られている。その表面は、シートを傷つけないということと、シートの上で滑らないようにという2つの視点から適度の粗さをもっていることが好ましい(たとえば三角記号でいえば、〜あるいは▽)。球体輪1は、溶接して一体化された球体輪支えブラケット2と球体輪支えシャフト3を介して、ベアリングホルダー4中のベアリングおよび球体輪中央部のベアリング10によって支持されている。球体輪1が0017で述べる駆動輪と離間している時には、球体論は、この2箇所のベアリング支持機構によって、左右前後に自由に回動することができる。
【0014】
一方,駆動輪部は図1および2に示すように駆動輪5、駆動モータ(変速機部を含む)9、駆動輪6、アーム7、駆動輪回動支点ブラケット8からなりたっている。駆動輪5はゴムローラーなどにより形成されており、電動正逆回転できるモータ9により駆動できる。そしてアーム7を動かすことによって、駆動輪5を球体輪1に圧接することができる。この時、駆動モータ9が回転していると、その回転力が球体輪1に伝えられ、球体輪1を図3の左右の方向、また図2の前後の方向に動かすことができる。このようにすることによって、回向する場合でも球体輪により定位置でシートをよじりながら走行することなく、走行しながら球体輪が回ることができる。また、駆動モータ9が止まった状態で、駆動輪5を球体輪1に圧接すると、球体輪1をその位置に固定することができる。このように球体輪1と駆動輪6の組み合わせからなる1つの駆動セットの機能は、球体輪1を回すこと、球体輪1を固定すること、球体輪1をフリーにすることの3つを選択することができる。
【0015】
なお、球体輪を固定する方法としては、0014で述べた駆動モータ9が止まった状態で駆動輪6を圧接する方法のほかに、もともと駆動モーターが取り付けられていない駆動輪6を圧接する方法や、0017に述べるアンカーステイ31を働かせて機体、および、球体輪1も動かないようにする方法などもある。
【0016】
高所作業車の全体平面図を第3図に、全体側面図を図4に示す。装置の下部の台車部は機構フレームとそれに取り付けられた、0012〜0014で述べた駆動セットなどからなる。図3では駆動セットが8個の場合を示している。この場合には駆動セットのうちA,B,C,Dは主に前後進をつかさどり、E,F,G,Hは主に左右走行をつかさどる。前後進、左右走行の時に駆動するのは各4個である。その他の4個の球体輪はフリーの状態とする。また、定位置に固定し車体を安定させるときは、モーターは駆動していない状態で全ての球体輪を圧接、固定する。
その他、4個の駆動輪セットを図5に示すごとく設置すれば、駆動力は弱くなり、また、車体の安定した固定力にも8個と比較してやや劣ることになるが、駆動輪8個セットの場合と同様な動きをすることが可能である。さらに、走行方向の選択性はやや制約され、かつ安定性もやや劣ることになるが、図5のA´とB´は駆動セットを取り付け、C´とD´の2個は球体輪だけとすることも可能である。このように台車としての支持と走行の機能を果たすためには駆動セットは少なくとも2個、この駆動セットと球体輪だけのものを合わせて少なくとも4個設けることが必要である。駆動セットを4個、8個と増設することにより、走行方向の自由度と、安全度の高い固定が可能となり、車体の大きさや作業現場の要求機能に合わせて駆動セットの数を設定することができるが、もっとも好ましくは、駆動セットを8個設けることである。
【0017】
図3に示す8個の駆動セット用いた台車の走行操作は、作業台に設けられた図6に示す走行操作レバーによって行われる。まず、操作レバー25が操作レバーの回転支点26の直上にあると時は、すべての駆動セットの駆動モータ9が停止した状態で、球体輪1に駆動輪6が圧接して固定している状態にすることができる。つぎに、操作レバーを図7のb,c,dの方向に倒せばその方向に、前進、後進、左右方向、斜め回行ができる。図5に示した駆動セットが4個の場合も同様な操作で同様な動きをさせることができる。駆動セットが2個の場合は図5に示す a、c、d、a´、c´、d´の方向への移動は可能である。なお、操作レバー倒す角度によって、その回転速度を決め、結果として移動速度も制御することもできる。
台車を止めて固定するときには、操作レバー25が操作レバーの回転支点26の直上に戻す。なお、台車を人力などで動けるような状態にするには、操作レバー25が操作レバーの回転支点26の直上の状態で、別に設けたスウィッチを押して、駆動輪6を球体輪1から離間させた状態にする。
【0018】
図3において台車部の上部は機体フレーム11であるが、図4に示すように中央部を高く構成して塵埃やアスベスト片の付着や溜りを少なくするとともに、それらを除去しやすい形としている。作業台21はパンタグラフ13,14,15,16およびパンタグラフ取付座12を介して機体フレーム11に取り付けられている。そして同じく機体フレーム11に取付座24を介して取付けられた電動シリンダー19は、パンタグラフ14に回転支点17を介して、作業台21を上下移動および任意位置での固定ができる。また、電動シリンダー19により、また作業台21はパンタグラフのローラー18をガイドするガイドプレート23により左右のずれや浮き上がり落下を防止する構成としている。作業台の高さは、作業台と機構フレームの両方に設置された電動シリンダー19のスウィッチを操作して、任意の位置にすることができる。
【0019】
作業場所直下に機体を移動するスペースがないなどの条件で高所作業を行うことが必要な場合がある。そのような状態でも、機体が転倒するおそれがないようにして安定な状態での作業を行うための方法は、図8に示すように、台車部の機体フレーム11に取付けブランケット32を介してアンカーステー31をセットすることが有効である。また、アンカーステー31を油圧などにより作動する構成とすれば、高所の作業台の上でも操作できる構成にすることもできる。アンカーステー31は、作業台に設けられた油圧ボンプのスウィッチをオン、オフ操作することによって行うことができる。なお、0018に述べた走行を行う前には、まず、このアンカーステー31の油圧ポンプをオフにする制御シークエンスが組み込まれている。
【0020】
アスベスト剥ぎ取り作業について、この高所作業車を用いた作業の例を述べる。アスベスト剥ぎ取り作業の現場までの高所作業車の移動は自動車によって行われるが、パンタグラフが閉じた状態で、また駆動セットは球体輪1に駆動輪6を圧接した状態で行われる。アスベスト作業現場で高所作業車を車から降ろしたり、場合によってはエレベーターに載せて、移動する場合には、駆動輪6を球体輪1から離間させて球体輪1をフリーにして、人力で動かすことができる。アスベスト剥ぎ取り現場に到着すると作業者が作業具(剥ぎ取り具、吹き付け具など)をもって、作業台に乗りこむ。あとは作業台に取付けられた走行操作レバー25やスウィッチによって、作業台の高さの調整、台車の走行や固定の操作、アンカーステーのオン、オフ操作などを行い、アスベスト剥ぎ取り作業を行い易い状態に作業台の条件を整え、剥ぎ取り作業を行う。作業が終わると、現場で付着した塵埃類を除去して、運びこんだ時と逆の操作で運び出す。
【実施例1】
【0021】
作られた室内高所作業車の1例を示す。台車部は1200×750mmの鋼鉄製の機構フレームからなり、その下部に図1に示すような駆動セットが8個設置されている。球体輪は硬質ベークライトからなり、表面粗さは三角記号で表せば▽であり、直径は55mmである。駆動輪は直径25mm(最大部)、22mm(最小部)厚さ12mm、長さ20mmのゴムロール製で、回転数を20〜120rmpの間で制御できる。走行、停止、固定の操作は作業台に設けられた操作レバーで行える。なお、機構フレームの4隅には、アンカーステーが取り付けられており、作業台からのボタン操作で固定したり、離したりすることができる。作業台は1200×720の鉄板の上に、高さ500cmの手すりをつけている。パンタグラフは長さ110mmの鋼材を図4のように組み合わせたものである。作業台と、機構フレームの2箇所に設けられたスウィッチの操作で電動シリンダーを動かし、作業台の床の高さを450mmから5000mmまで自由に変えて固定することが出来る。制御系の機能は、0017,0018,0019などに記載した通りである
【実施例2】
【0022】
実施例1(0021)で述べた室内高所作業車を用いて、ビルの地階にあるボイラー室の天井(床からの高さ5500mm)と壁の吹き付けアスベスト吹き付け層の剥ぎ取り処理を行った。車から降ろされた高所作業車は、球体輪をフリーにした状態で
人力で押されて移動し、エレベーターに載せて作業現場に運ばれた。作業現場で電源をつなぎ、作業者が作業台に乗り込んで0020に述べたような操作を行いながら、天井と、床からの高さが1900mm以上の壁の部分のアスベスト剥ぎ取り作業を、
液体吹き付け機、ヘラ、ブラシ、スクレーパーなどを用いて行った。3日間の作業終了後、養生シート内で高所作業車全体を水で洗って、高圧空気ふきつけで乾燥させたのち、運びこんだ時とは逆の操作で球体輪がフリーの状態にして人力で持ち出した。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明の室内高所作業車は、床に無理な負荷を与えないで静かに自由に走行できるのでアスベスト除去作業だけでなく、書店、図書館などの高い書庫への書籍の出し入れ、工場の部品管理庫など高所への部品の出し入れなど室内でのあらゆる高所作業にも利用できる。

【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の室内高所作業車の球体輪と駆動輪部からなる駆動セットの側面図を示す。
【図2】同じく球体輪と駆動輪部からなる駆動セット球体輪部の正面図を示す。
【図3】本発明の室内高所作業車の全体平面図を示す。
【図4】同じく全体側面図を示す。
【図5】駆動セットの取り付け数が4の場合を示す。
【図6】走行操作レバーを示す。
【図7】走行操作図を示す。
【図8】アンカーステーの取付け図を示す。
【符号の説明】
【0025】
1 球体輪
1´ 半球体
2 球体輪支えブラケット
3 球体輪支えシャフト
4 ベアリングホルダー
5 駆動輪
6 駆動輪回動アーム
7 アーム
8 駆動輪回動支点ブラケット
9 駆動モータ
11 機体フレーム
12 パンタグラフ取付座
13,14,15,16 パンタグラフ
17 回転支点
18 ローラー
19 電動シリンダー
21 作業台
22 安全ガード
23 ローラーガイドプレート
24 電動シリンダー取付座
25 操作レバー
26 操作レバーの回転支点
31 アンカー用ステイー
32 取付けブランケット
A,B,C,D,E,F,G,H,A´,B´,C´,D´ 駆動セット


【特許請求の範囲】
【請求項1】
球体輪1に駆動輪6を圧接あるいは離間させることができる駆動セットの数を2以上、また、この駆動セットの数と、球体輪1だけのものの数を合わせて4以上、台車部に取付けたことを特徴とする室内高所作業車。
【請求項2】
請求項1の装置において、駆動セットのうち球体輪1は半球体を合体して構成し内部に設置したベアリングで自由回動し、かつ、球体輪1を支えるブラケットも上部で回動することにより全ての方向に対して自由回動できるようにしたことを特徴とする室内高所作業車。
【請求項3】
請求項1の装置において、駆動セットのうち駆動輪6は電動で駆動され、かつ、その駆動輪6は支点を介して回動することにより球体輪1に圧接して駆動力を伝えたり、あるいは固定したり、または離間して球体輪をフリーにしたりできることを特徴とする室内高所作業車。
【請求項4】
請求項1、請求項2あるいは請求項3の装置において、設けられた2個以上の駆動セットの動作を制御シークエンスによって、操作レバー1本の操作で、走行、停止、あるいは固定を行うことを特徴とする室内高所作業車。
【請求項5】
請求項1の装置において、台車部に電動シリンダーで伸縮可能なパンタグラフを取付けて、その上に設けられた作業台の高さを変えられることを特徴とする室内高所作業車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−308311(P2008−308311A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−158504(P2007−158504)
【出願日】平成19年6月15日(2007.6.15)
【出願人】(300057492)
【Fターム(参考)】