説明

容器詰め飲料の製造法

【課題】殺菌工程においてカテキン類濃度の低下しないカテキン類含有容器詰め飲料の製造法の提供。
【解決手段】非重合体カテキン類を0.05〜0.6質量%含有する飲料の溶存酸素濃度を0.001〜1ppmに調整した後、殺菌する容器詰め飲料の製造法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は殺菌工程においてカテキン類濃度が低下しないカテキン類含有容器詰め飲料の製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
非重合体カテキン類には、コレステロール上昇抑制剤やαアミラーゼ活性阻害剤などの優れた生理作用を有することが知られている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。これらの生理効果を発現させるには一定量以上の非重合体カテキン類を摂取する必要がある。この目的を達成する容器詰飲料として非重合体カテキン類を高濃度で配合した飲料が知られている(特許文献3)。
【0003】
容器詰め飲料の製造にあたっては、殺菌工程は必須である。ところが、カテキン類を高濃度含有する容器詰め飲料においては、殺菌工程でカテキン類濃度が低下してしまうという問題がある。通常、飲料の殺菌工程における成分の変性等を防止する手段として、ビタミンCなどの抗酸化剤を添加する方法(非特許文献1)殺菌時の熱履歴を下げる方法などがある。しかし、これらの手段をカテキン類を高濃度含有する飲料の製造手段に採用しても、その効果は十分でなく、殺菌工程でカテキン濃度の低下は防止できなかった。
【特許文献1】特開昭60−156614号公報
【特許文献2】特開平3−133928号公報
【特許文献3】特開2002−142677号公報
【非特許文献1】日本食品工業学会誌,40(3),181(1993)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、本発明の目的は、殺菌工程でカテキン類濃度が低下しないカテキン類含有容器詰め飲料の製造法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで、本発明者は、殺菌工程前後のカテキン類濃度を測定しつつ種々の手段を検討したところ、殺菌工程に付す前の飲料の溶存酸素濃度を0.001〜1ppmに調整し、次いで殺菌すればカテキン類濃度の低下が顕著に抑制できることを見出した。
【0006】
すなわち、本発明は、非重合体カテキン類を0.05〜0.6質量%含有する飲料の溶存酸素濃度を0.001〜1ppmに調整した後、殺菌することを特徴とする容器詰め飲料の製造法を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明方法によれば、殺菌前と殺菌後で非重合体カテキン類濃度が低下しないで、高濃度に非重合体カテキン類を含有する容器詰め飲料が安定して得られ、品質管理も容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明方法においては、殺菌前の非重合体カテキン類を0.05〜0.6質量%含有する飲料の溶存酸素濃度を0.001〜1ppmに調整する。
【0009】
本発明方法に用いる飲料は、溶解状態の非重合体カテキン類を0.05〜0.6質量%含有する飲料であるのが、生理効果及び風味改善効果の点で好ましい。
【0010】
本発明で非重合体カテキン類とは、カテキン、ガロカテキン、カテキンガレート及びガロカテキンガレートなどの非エピ体カテキン類とエピカテキン、エピガロカテキン、エピカテキンガレート及びエピガロカテキンガレートなどのエピ体カテキン類をあわせての総称である。
【0011】
好ましい非重合体カテキン類濃度は、0.06〜0.5質量%、より好ましくは0.07〜0.5質量%、さらに好ましくは0.08〜0.5質量%、さらに好ましくは0.092〜0.5質量%であり、特に好ましくは0.1〜0.4質量%、最も好ましくは0.12〜0.3質量%である。
【0012】
非重合体カテキン類を0.05〜0.6質量%含有する飲料としては、茶抽出液、茶抽出物の精製物又はこれらの混合液が挙げられる。茶抽出液としては、Camellia属、例えばC. sinensis 、C. assamica、及びそれらの雑種から得られる茶葉から製茶された茶葉から水や熱水、抽出助剤を添加した水溶液で抽出して得られた液が挙げられる。当該製茶された茶葉には、煎茶、番茶、玉露、てん茶、釜炒り茶などの緑茶と総称される不発酵茶類や烏龍茶などの半発酵茶、紅茶などの発酵茶などが含まれる。茶を抽出する方法については、攪拌抽出など従来の方法により行う。抽出時の水にあらかじめアスコルビン酸ナトリウムなどの有機酸類の塩を酸化安定性の観点から添加することができる。
【0013】
また茶抽出物の精製物としては、茶葉から水もしくは水溶性有機溶媒により抽出された抽出物を濃縮したものやそれを精製したもの、あるいは抽出された抽出物を直接精製したものが挙げられる。市販品としては三井農林(株)「ポリフェノン」、伊藤園(株)「テアフラン」、太陽化学(株)「サンフェノン」などがあり、これらを使用することもできる。ここでいう茶抽出物の精製物の形態としては、水溶液、スラリー状など種々のものが挙げられる。本発明における茶抽出物の精製物とは、上記市販品を溶解したものも含まれる。
【0014】
また前記の茶抽出物又は茶抽出液としては緑茶抽出物又は緑茶抽出液が特に好ましい。
【0015】
本発明においては、前記飲料の溶存酸素濃度を0.001〜1ppmに調整するが、当該溶存酸素濃度は0.001〜0.6ppm、特に0.001〜0.3ppmが好ましい。溶存酸素濃度が1ppmを超えると殺菌工程においてカテキン類濃度が低下する。
飲料中の溶存酸素は隔膜形ガルバニ電池法(飯島電子工業社製MC−7WSG)により測定することができる。
【0016】
飲料中の溶存酸素を低く調整する方法としては、デアレーターと呼ばれる、飲料を加熱して真空環境中にスプレーする方法や;気体透過膜を利用する方法;窒素バブリングなどがある。デアレーターでは香味成分の散逸が、膜脱気法では膜の着色着香による洗浄性に問題があるので、窒素バブリングが好ましい。
【0017】
窒素バブリングでは、気泡のメジアン径は1〜200μm、さらに3〜100μm、特に5〜50μmが好ましい。通常気泡サイズがミリメートルからセンチメートルオーダーの場合、1ppm以下まで下げるのに長時間必要になる。窒素気泡のサイズを小さくすることにより溶存酸素低減効率が飛躍的に高まり、短時間で1ppm以下の低濃度が達成可能である。さらに窒素気泡のサイズを小さくすると、香味成分の散逸が少なくなるという効果も得られる。
【0018】
窒素気泡が200μmより大きいと溶存酸素濃度の調整に長時間が必要で飲料の香味成分が散逸する傾向がある。1μmより小さい気泡を生成するには高価な特殊装置が必要となる。気泡のメジアン径はレーザー回折法(島津製作所製SALD−2100)を用いてバッチセルで測定することができる。
【0019】
このような溶存酸素濃度調整手段のうち、飲料に窒素を加圧溶解させた後、減圧して飲料内に気泡を生成させる方法(加圧溶解法)が、サイズの小さい気泡を高濃度で形成させることができ、殺菌工程のカテキン類濃度低下抑制効果及び香味保持の点から特に好ましい。当該加圧溶解法としては、例えばポンプの吸引側で自吸した気体を加圧下で飲料に溶解させ、ノズルで液中に圧力を開放する方法(図1参照)が好ましい。
【0020】
また、飲料中に生成させる窒素気泡の容量は、殺菌工程におけるカテキン類濃度低下抑制効果の点から、飲料に対して25℃1気圧に換算して0.1〜10体積%、さらに0.2〜5.0体積%、特に0.2〜5.0体積%が好ましい。
【0021】
また、飲料中における気泡の生成位置は、発生した気泡と飲料との接触効率を考慮すると、飲料の底部付近が好ましい。
【0022】
溶存酸素濃度を低減させた飲料は、そのまま或いは希釈し、殺菌することにより容器詰め飲料とすることができる。ここで殺菌操作と容器への充填操作との順序は問わない。
【0023】
また本発明の容器詰め飲料は、例えば、金属缶のように容器に充填後、加熱殺菌できる場合にあっては食品衛生法に定められた殺菌条件で製造される。PETボトル、紙容器のようにレトルト殺菌できないものについては、あらかじめ上記と同等の殺菌条件、例えばプレート式熱交換器などで高温短時間殺菌後、一定の温度迄冷却して容器に充填する等の方法が採用される。また無菌下で、充填された容器に別の成分を配合して充填してもよい。
【0024】
本発明の飲料に使用される容器は、一般の飲料と同様にポリエチレンテレフタレートを主成分とする成形容器(いわゆるPETボトル)、金属缶、金属箔やプラスチックフィルムと複合された紙容器、瓶などの通常の形態で提供することができる。ここでいう容器詰め飲料とは希釈せずに飲用できるものをいう。
【0025】
本発明の容器詰め飲料のpHは、25℃で2〜6.5、さらに3.5〜6.5、特に5.5〜6.5とするのが風味の点で好ましい。
【0026】
本発明の容器詰め飲料には、苦味抑制剤を配合することができ、その例としては、サイクロデキストリン等が好ましい。サイクロデキストリンとしては、α−、β−、γ−サイクロデキストリン及び分岐α−、β−、γ−サイクロデキストリンが使用できる。サイクロデキストリンは飲料中に0.01〜0.5質量%、好ましくは0.01〜0.3質量%含有するのがよい。これらの中でも特にβ−サイクロデキストリンが好ましい。
【0027】
本発明の容器詰め飲料には、茶由来の成分にあわせて、処方上添加する成分として、酸化防止剤、香料、各種エステル類、有機酸塩類、無機酸類、無機酸塩類、無機塩類、色素類、乳化剤、保存料、調味料、甘味料、酸味料、果汁エキス類、野菜エキス類、花蜜エキス類、品質安定剤などの添加剤を単独、あるいは併用して配合してもよい。
【0028】
例えば甘味料としては、砂糖、ぶどう糖、果糖、異性化液糖、グリチルリチン、ステビア、アスパラテーム、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖などが挙げられる。酸味料としては、天然成分から抽出した果汁類やフマル酸、リン酸が挙げられる。飲料中に0.0001〜0.5質量%、好ましくは0.0001〜0.3質量%含有するのがよい。もっとも好ましい配合量としては、甘味の閾値未満の量を配合する方法が適用できる。この方法を用いた場合、飲料の風味を甘味で損うことなく、高濃度カテキン類由来の苦味や渋味を効果的にマスキングできる。
【0029】
無機酸類、無機酸塩類としてはリン酸、リン酸二ナトリウム、メタリン酸ナトリウムなどが挙げられる。飲料中に0.0001〜0.5質量%、好ましくは0.0001〜0.3質量%含有するのがよい。
【0030】
本発明の容器詰め飲料は、緑茶飲料、烏龍茶飲料、紅茶飲料等の茶飲料、スポーツドリンク、ニアウォーター、アイソトニック飲料等の非茶系飲料とすることもできる。
【実施例】
【0031】
非重合体カテキン類の測定
メンブランフィルター(0.8μm)でろ過し、次いで蒸留水で希釈した試料を、島津製作所製、高速液体クロマトグラフ(型式SCL−10AVP)を用い、オクタデシル基導入液体クロマトグラフ用パックドカラム L−カラムTM ODS(4.6mmφ×250mm:財団法人 化学物質評価研究機構製)を装着し、カラム温度35℃でグラジエント法により測定した。移動相A液は酢酸を0.1mol/L含有の蒸留水溶液、B液は酢酸を0.1mol/L含有のアセトニトリル溶液とし、試料注入量は20μL、UV検出器波長は280nmの条件で行った(通常カテキン類の濃度は、質量/体積%(%[w/v])で表すが、実施例中の含有量は液量を掛けて質量%で示した)。
【0032】
溶存酸素の測定
飲料中の溶存酸素は隔膜形ガルバニ電池法(飯島電子工業社製MC−7WSG)により測定した。
【0033】
気泡のメジアン径の測定
気泡のメジアン径はレーザー回収法(島津製作所製SALD−2100)を用いてバッチセルで測定した。
【0034】
実施例1
内径97mmの抽出カラムに煎茶葉490gを仕込み、55℃に加熱したイオン交換水を流速0.49L/minでシャワーしながらカラム下部から抽出液を抜き出した。4900gの抽出液を得たところで抽出を終了し、液を15℃まで冷却した。2回抽出し、得られた抽出液を混合してキュノ(株)社製ゼータ50Cを用いてフィルターろ過した後、非重合体カテキン類濃度が0.18質量%になるよう希釈し、調合液Aを得た。溶存酸素濃度は6.8ppmであった。(株)ニクニ製渦流ポンプM20LDを用いて加圧溶解法にて窒素の微細気泡を15Lの調合液A中に放出した。調合液は9.3L/minで循環し、窒素は1.8L/minで吸引した。未溶解の窒素は分離タンク上部から除去した。窒素溶解圧力は0.57MPa、気泡のメジアン径は27μmであった。30分処理後、溶存酸素濃度は0.20ppmであった。この調合液に重曹を加えてpHを6.3に調整し、138℃で30秒間UHT殺菌し、350mLのPETボトルに充填した。
【0035】
比較例1
実施例1で得た調合液Aを重曹でpHを6.3に調整し、実施例1と同条件で殺菌・充填した。
【0036】
実施例2
緑茶抽出物(ポリフェノンHG、東京フードテクノ社製)200gをエタノール800gに分散させ、酸性白土00gと活性炭20gを添加し、2号濾紙及び孔径0.2μmの濾紙で濾過し、水200mLを加えて減圧濃縮することによって再精製物を得た(非重合体カテキン類濃度15.3質量%)。これを非重合体カテキン類濃度が0.125質量%になるよう希釈し、調合液Bを得た。溶存酸素濃度は7.9ppmであった。実施例1と同条件で調合液Bの溶存酸素を低減した。気泡のメジアン径は29μmであった。30分処理後、溶存酸素濃度は0.26ppmであった。この調合液に重曹を加えてpHを6.4に調整し、実施例1と同条件で殺菌・充填した。
【0037】
実施例3
実施例2で得た調合液B2000gを内径97mm、高さ500mmの容器に入れ、容器内を減圧するとともに、下部から抜き出した調合液を上部からスプレーして循環させた。調合液は60℃に加温し、容器内のゲージ圧は−0.04〜−0.07MPaに調整した。45分処理後、溶存酸素濃度は0.28ppmであった。この調合液に重曹を加えてpHを6.4に調整し、実施例1と同条件で殺菌・充填した。
【0038】
比較例2
実施例2で得た調合液Bを重曹でpHを6.4に調整し、実施例1と同条件で殺菌・充填した。
【0039】
実施例4
ニーダー抽出機を用い、65℃に加温したイオン交換水4320gに煎茶葉144gを加え、攪拌しながら5分間抽出した。金属網により茶葉を除去後、抽出液を15℃まで冷却した。キュノ(株)社製ゼータ10Cを用いてフィルターろ過した。一方、緑茶抽出物(ポリフェノンHG、東京フードテクノ社製)100gをエタノール630gに分散させ、水270gを滴下後、30分熟成し、2号濾紙及び孔径0.2μmの濾紙で濾過し、水200mLを加えて減圧濃縮することによって再精製物を得た(非重合体カテキン類含有量23質量%)。茶抽出液にこれを0.6%及びビタミンCを0.06%加え、非重合体カテキン類濃度を0.18質量%に調整した調合液Cを得た。溶存酸素濃度は4.8ppmであった。実施例1と同条件で調合液Cの溶存酸素を低減した。気泡のメジアン径は25μmであった。30分処理後、溶存酸素濃度は0.14ppmであった。この調合液に重曹を加えてpHを6.4に調整し、実施例1と同条件で殺菌・充填した。
【0040】
比較例3
実施例3で得た調合液Cを重曹でpHを6.4に調整し、実施例1と同条件で殺菌・充填した。
これらの充填品の物性を表1に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
表1から明らかなように、飲料の殺菌前に溶存酸素濃度を0.001〜1ppmに調整すれば、殺菌工程において非重合体カテキン類濃度の低下が顕著に抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】加圧溶解法による溶存酸素低減方法の概略を示す図である。
【符号の説明】
【0044】
11:調合液タンク
21:ポンプ
22:気体吸引ライン
23:流量調整バルブ
31:加圧溶解タンク
41:気液分離タンク
42:未溶解気体パージバルブ
51:減圧ノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非重合体カテキン類を0.05〜0.6質量%含有する飲料の溶存酸素濃度を0.001〜1ppmに調整した後、殺菌する容器詰め飲料の製造法。
【請求項2】
溶存酸素濃度の調整方法が、飲料に窒素を加圧溶解させた後、減圧して飲料内に気泡を生成させる方法である請求項1記載の容器詰め飲料の製造法。
【請求項3】
気泡のメジアン径が1〜200μmである請求項1記載の容器詰め飲料の製造法。
【請求項4】
飲料が緑茶飲料である請求項1〜3のいずれか1項記載の容器詰め飲料の製造法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−131875(P2008−131875A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−319434(P2006−319434)
【出願日】平成18年11月28日(2006.11.28)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】