説明

密封型転がり軸受

【課題】高圧環境下においても確実にシールすることができる密封型転がり軸受を提供する。
【解決手段】内輪2と外輪1の間の軸受空間7aを、シール部材5で密封する。外輪1に、外部に連通するシリンダー穴1pと、シリンダー穴1pと軸受空間7aとを連通する接続穴1mとが形成される。ピストン6がシリンダー穴1p内に摺動自在に配置され、シリンダー穴1pを密封する。シリンダー穴1pと接続穴1mとにより形成される連通空間7bと軸受空間7aとに充填された潤滑油が、ピストン6とシール部材5とにより密封される。ピストン6は、ピストン6の一方の端面6sに印加される外圧とピストン6の他方の端面6tに潤滑油を介して印加される内圧とが等しくなるように移動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、密封型転がり軸受に関し、より詳しくは、深海などの高圧環境下において確実にシールすることができる密封型転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、我が国では海底に眠る資源を活用する動きが活発である。海底から資源等を掘削する装置等は、水圧のため高圧となる環境において効率良く作動しなければならない。したがって、掘削装置等に用いる密封型転がり軸受は、海底の高圧下で密閉が維持され、異物の進入を防ぐシール構造の提供が不可欠である。
【0003】
一般の密封型転がり軸受には、外部からの異物が転がり軸受内に侵入するのを防止するため、密封装置が配設されている。従来、密封装置に用いるシールの先端であるシールリップ部の形状を工夫し、摺接によって高圧をシールする構成がが提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、図9の断面図に示すように、シール部材119に形成したシール突条部124の先端縁を、内輪105の端面に形成した段差面127に摺接させる密封型転がり軸受101aが開示されている。特許文献2には、図10の断面図に示すように、外輪211と内輪212の半径方向ガタをΔrとすると、シールリップ216dの円筒面212cに対する締め代Bを、Δr/2以上に設定する密封型転がり軸受210が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−60677号公報
【特許文献2】特開2006−183757号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
海底などでは、その深度によるが10000m以上の深海もあり、想定される圧力は、1000気圧を超える。このような環境下では、特許文献1、2に示したように高圧下での密封維持を実現するためにシールリップ等の形状の工夫する構成では、外圧が大きくなりすぎるため、シールは維持できない。即ち、1000気圧の状況では、シール内に密閉した気体は、外圧に反比例して縮小し、かつ、封入した潤滑油でさえ収縮してしまう。よって、シール形状を工夫して密閉するという従来構造は、深海などの高圧環境下においては対応できなくなる。
【0007】
かかる実情に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、高圧環境下においても確実にシールすることができる密封型転がり軸受を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するために、以下のように構成した密封型転がり軸受を提供する。
【0009】
密封型転がり軸受は、内輪と外輪の間の軸受空間を、シール部材で密封するタイプのものである。前記外輪には、(a)外部に連通するシリンダー穴と、(b)前記シリンダー穴と前記軸受空間とを連通する接続穴とが形成される。密封型転がり軸受は、前記シリンダー穴内に摺動自在に配置され、前記シリンダー穴を密封するピストンを備える。前記シリンダー穴と前記接続穴とにより形成される連通空間と前記軸受空間とに充填された潤滑油が、前記ピストンと前記シール部材とにより密封される。前記ピストンは、前記ピストンの一方の端面に印加される外部からの圧力と、前記ピストンの他方の端面に印加される前記潤滑油の圧力とが等しくなるように、前記シリンダー穴内を移動自在である。
【0010】
上記構成によれば、ピストンの移動によって、外部からの圧力(外圧)と潤滑油の圧力(内圧)とが略等しくなる。シール部材の外側に作用する外部からの圧力(外圧)と、シール部材の内側に作用する潤滑油の圧力(内圧)とが略等しくなるため、シール部材は、高圧環境下においても、確実にシールすることができる。
【0011】
好ましくは、前記シリンダー穴は、前記内輪及び前記外輪と同芯に筒状に形成される。前記ピストンは、中空筒状の形状を有する。
【0012】
この場合、外圧が印加されるピストンの一方の端面の面積が大きく、シリンダー穴の容積が大きいので、より大きな外圧に対して、充填された潤滑油の内圧を外圧と等しくすることができる。また、ピストンの部品点数を減らすことができ、シリンダー穴が形成された外輪を比較的容易に製造することができる。
【0013】
好ましくは、前記接続穴は、前記外輪の内周面の中央に形成され、周方向に連続する溝を含む。
【0014】
この場合、外輪に接続穴を容易に形成できる。また、軸受空間内の潤滑油は、周方向の圧力分布が略一様になる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高圧環境下においても確実にシールすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】密封型転がり軸受の断面図である。(実施例1)
【図2】密封型転がり軸受の要部拡大断面図である。(実施例1)
【図3】外輪の側面図である。(実施例1)
【図4】外輪の要部拡大断面図である。(実施例1)
【図5】密封型転がり軸受の(a)断面図、(b)側面図である。(実施例2)
【図6】外輪の(a)断面図、(b)側面図である。(実施例2)
【図7】ピストンの(a)正面図、(b)側面図、(c)要部拡大断面図である。(実施例2)
【図8】密封型転がり軸受の(a)断面図、(b)側面図である。(実施例3)
【図9】密封型転がり軸受の断面図である。(従来例1)
【図10】密封型転がり軸受の断面図である。(従来例2)
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の密封型転がり軸受(以下、単に「転がり軸受」という。)の実施の形態について、図1〜図8を参照しながら説明する。
【0018】
<実施例1> まず、本発明の実施例1の転がり軸受10について、図1〜図4を参照しながら説明する。
【0019】
図1は、転がり軸受10の断面図である。図1に示すように、転がり軸受10は外輪1と内輪2の間で玉3が保持器4に保持された軸受空間7aをシール部材5で密封したシール付のアンギュラ玉軸受に、ピストン機構を追加したものである。
【0020】
詳しくは、図2の転がり軸受10の要部拡大断面図に示すように、シール部材5は、芯金5aとゴム等の弾性部材5bとが一体に形成され、外輪1の内周面1tに形成された溝状の凹部1aと、内輪2の外周面2tに形成された溝状の凹部2aとの間に配置され、軸受空間7aを密閉する。
【0021】
シール部材5の外側面5sに外部から高圧が作用したときにシール部材5が大きく変形しないように、シール部材5の外側面5sの略全面を芯金5aによって形成することが好ましい。また、高圧下でもシール性を保つことができるように、弾性部材5bと内輪2とが面接触するように構成することが好ましい。
【0022】
外輪1には、外部に連通するシリンダー穴1pと溝1mとが形成されている。シリンダー穴1pは、外輪1の側面1sに形成された開口1kに連通し、外輪1及び内輪2の中心線と平行に延在するように略円筒形状に形成されている。図3の外輪1の側面図に示すように、開口1k及びシリンダー穴1pは、円周方向の複数箇所に形成する。なお、シリンダー穴1pは、1箇所のみに形成することも可能である。
【0023】
図2に示すように、溝1mは、シリンダー穴1pと軸受空間7aとを接続するように形成されている。溝1mは、図4の外輪1の要部拡大断面図にも示されているように、外輪1の内周面1tの中央に形成され、周方向に連続するリング状の一つの溝である。このように溝1mが外輪1と同心円形状であると、溝1mの加工が容易である。また、周方向に連続する溝1mが軸受空間7aに連通するので、軸受空間7a内の潤滑油の圧力分布が周方向に略一様になる。溝1mは、シリンダー穴1pと軸受空間7aとを連通する接続穴である。
【0024】
なお、シリンダー穴1pと軸受空間7aとを連通する接続穴は、シリンダー穴1pごとに、例えば径方向に延在する横穴を別々に形成することも可能である。
【0025】
図2に示すように、シリンダー穴1p内にピストン6が配置される。ピストン6は、その本体6aの外周面6kにOリング6bが配置され、Oリング6bが、シリンダー穴1pの内周面に摺接することによりシールされる。ピストン6の本体6aの2か所にOリング6bを設けることで、ピストン6の傾きを抑制しつつ、シール効果を強固にしている。
【0026】
ピストン6がシリンダー穴1p抜け出ないように、シリンダー穴1pには、開口1k付近に止め輪8が設けられ、止め輪8よりも内側にピストン6が配置される。
【0027】
シリンダー穴6p及び溝1mにより形成される連通空間7bと軸受空間7aとは、ピストン6とシール部材5とによって密閉され、連通空間7b及び軸受空間7aには潤滑油が気泡を除去され密封されている。
【0028】
図4に示すように、外輪1には、ゴシック形状と言われるベアリングの溝形状を使用した。この溝形状は、玉3が入る溝部1bが、玉3の半径よりも若干大きい半径Rの二つの曲面からできている。この形状において、玉3と溝部1bとは所定の角度Dの位置で接触する。溝部1bの中心部は通常、逃げ加工を行うが、その逃げ加工の深さを深くすることにより接続穴である溝1mを形成し、軸受空間7aが接続穴である溝1mを介してシリンダー穴6pに連通するようにしている。逃げ加工の深さを深くする溝1mを形成することにより、シリンダー穴1pから潤滑油を注入したときに、ベアリング内部、すなわち軸受空間7a内に潤滑油が容易に充填される。
【0029】
潤滑油は、潤滑効果が優れ、熱的に安定で、且つ、収縮率の小さいフッ素オイルが好ましい。もっとも、他の種類の潤滑油を用いても構わない。
【0030】
実施例1の一つの作製例において、内輪2の内径は80mm、外輪1の外径は130mm、内輪2及び外輪1の厚さは20mm、玉3の直径は10mm、溝部1bの半径Rは6.5mm、所定の角度Dは30度である。
【0031】
転がり軸受10は、一般的なころ軸受と同様の工程で組み立てることができる。
【0032】
図2に示すように、転がり軸受10は、ピストン6の外側端面6s、すなわち開口1k側の端面6sに、外部からの圧力(外圧)が印加される。印加された圧力は、ピストン6の内側端面6t、すなわち開口1kとは反対側の端面6tから伝達され、ピストン6は、転がり軸受10の内部に封入された潤滑油を圧縮し、内部圧力(内圧)が外圧に釣合うまで、シリンダー穴6p内を移動する。ピストン6は、外圧の変化に対して、外圧と転がり軸受10内の潤滑油の圧力(内圧)とが等しくなるように移動する。実際には、Oリング6bの摩擦等の影響があるので、ピストン6は、外圧と転がり軸受10内の潤滑油の圧力(内圧)とが略等しくなる位置で移動を終了する。ピストン6の移動によって、シール部材5の外側面5sに作用する外圧と、シール部材5の内側面5tに作用する内圧は、略等しくなる。
【0033】
このようにピストン機構は、ベアリングの外側の外圧とベアリング内部の内圧とを略等しくする。外圧と内圧の圧力差がキャンセルされるため、シール部材5は、シールの本来の機能を確実に果たすことができ、潤滑油が外部に漏れるのを防止するとともに、外部からの粉塵、水分などがベアリング内部に浸入することを防ぐ。
【0034】
実施例1の転がり軸受10は、以下の点で従来技術に対して優位性を持つ。
【0035】
1. 転がり軸受10は、圧力に対する動作範囲が広い。すなわち、転がり軸受10のピストン機構は、ベアリングの外圧と内圧を略等圧になるように機能する、いわゆる圧力キャンセル機構であり、ピストンの可動範囲、及びその容積によって圧力をキャンセルできる範囲が決定され、外圧と内圧が等しくなるように、動作する。従来技術は、単に、強固なシールを実現する手法であり、圧力に対する動作範囲が限られるのに対し、転がり軸受10のピストン機構は圧力をキャンセルすることにより、その外圧に対する動作範囲を格段に広げている。
【0036】
2. 従来技術では、外圧をキャンセルしないので、外圧によって、周囲から圧縮力が加わり、玉等の可動部に応力が加わる。即ち、外圧による外輪の収縮によって、玉と内輪、外輪間に巨大な力が加わり、動作を阻害する。即ち、ベアリング自体が回転を停止するか、又は効率が極度に落ち破損につながる。転がり軸受10のピストン構は圧力をキャンセルするので、そのようなことがない。
【0037】
なお、深海での使用などでは、あえてシールを用いず、開放することで圧力の影響を抑制することが考えられる。しかし、高圧でしかも塩分が多いので、玉の接触面は、摩擦熱によって活性化されたイオンによって侵され、フレッティング磨耗による破損を免れない。
【0038】
<実施例2> 本発明の実施例2の転がり軸受20について、図5〜図7を参照しながら説明する。
【0039】
実施例2は、実施例1と略同様に構成されている。以下では、実施例1との同様の構成部分には同じ符号を用い、実施例1との相違点を中心に説明する。
【0040】
図5は、実施例2の転がり軸受20の(a)断面図、(b)側面図である。図6は、外輪1xの(a)断面図、(b)正面図である。図7は、ピストンの(a)正面図、(b)側面図、(c)要部拡大断面図である。
【0041】
図5及び図6に示すように、外輪1xには、外輪1xと同芯に円周方向に連続する筒状の一つのシリンダー穴1qが形成されている。
【0042】
シリンダー穴1qには、図5に示すように、ピストン6xが配置され、止め輪8xにより、ピストン6xはシリンダー穴1qから抜け出ないようにされている。図7に示すように、ピストン6xは、中空筒状であり、外周面6pと内周面6qに溝6u,6vが形成され、ピストン6xがシリンダー穴1qの内面に接触する面積が小さくなるようにされている。
【0043】
図6に示すように、シリンダー穴1qの底面1rから軸方向に延在する縦穴1nが複数個所に形成されている。この縦穴1nは、外輪1xの内周面1tの中央に実施例1と同様に形成された溝1mに連通している。シリンダー穴1qと軸受空間7aとを連通する接続穴は、溝1mと縦穴1nとにより形成されている。
【0044】
実施例2の転がり軸受20は、図5に示すように、外圧が印加されるピストン6xの一方の端面6mの面積が大きく、シリンダー穴6qの容積が大きいので、より大きな外圧に対して、充填された潤滑油の内圧を外圧と等しくすることができる。また、ピストンの部品点数を減らすことができ、比較的容易に製造することができる。
【0045】
<実施例3> 実施例3の転がり軸受30について、図8を参照しながら説明する。図8は、実施例3の転がり軸受30の(a)断面図、(b)側面図である。
【0046】
図8に示すように、実施例3の転がり軸受30は、外輪1yと内輪2yの間に、玉3の代わりにころ3yが配置されているころ軸受(密封型クロスローラベアリング)である。転がり軸受30は、実施例2の転がり軸受20と同様に、外輪1yにピストン機構(シリンダー穴1q、ピストン6x、止め輪8x、接続穴1m,1n)が設けられており、ピストン6xとシール部材5とによりシールされている。転がり軸受30は、ピストン機構を設けることによって、高圧環境下においても確実にシールすることができる。
【0047】
<まとめ> 以上に説明した転がり軸受10,20,30は、ピストン機構を設けることによって、高圧環境下においても確実にシールすることができる。
【0048】
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、種々変更を加えて実施することが可能である。
【0049】
例えば、本発明は、実施の形態で説明した玉軸受やころ軸受に限らず、他の種類の転がり軸受についても適用することができる。
【符号の説明】
【0050】
1 外輪
1a 凹部
1k 開口
1m 溝(接続穴)
1n 縦穴(接続穴)
1p,1q シリンダー穴
1r 底面
1s 側面
1t 内周面
1x,1y 外輪 2 内輪
2a 凹部
2t 外周面
2y 内輪
3 玉
3y ころ
4 保持器
5 シール部材
5a 芯金
5b 弾性部材
5s 外側面
5t 内側面
6 ピストン
6a 本体
6b Oリング
6k 外周面
6m 端面
6p,6q シリンダー穴
6s 外側端面
6t 内側端面
6x ピストン
7a 軸受空間
7b 連通空間
8,8x 止め輪
10,20,30 転がり軸受

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内輪と外輪の間の軸受空間を、シール部材で密封した密封型転がり軸受であって、
前記外輪には、
外部に連通するシリンダー穴と、
前記シリンダー穴と前記軸受空間とを連通する接続穴と、
が形成され、
前記シリンダー穴内に摺動自在に配置され、前記シリンダー穴を密封するピストンを備え、
前記シリンダー穴と前記接続穴とにより形成される連通空間と前記軸受空間とに充填された潤滑油が、前記ピストンと前記シール部材とにより密封され、
前記ピストンは、前記ピストンの一方の端面に印加される外部からの圧力と、前記ピストンの他方の端面に印加される前記潤滑油の圧力とが等しくなるように、前記シリンダー穴内を移動自在であることを特徴とする、密封型転がり軸受。
【請求項2】
前記シリンダー穴は、前記内輪及び前記外輪と同芯に筒状に形成され、
前記ピストンは、中空筒状の形状を有することを特徴とする、請求項1に記載の密封型転がり軸受。
【請求項3】
前記接続穴は、前記外輪の内周面の中央に形成され、周方向に連続する溝を含むことを特徴とする、請求項1に記載の密封型転がり軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−29122(P2013−29122A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−163909(P2011−163909)
【出願日】平成23年7月27日(2011.7.27)
【出願人】(504240809)
【Fターム(参考)】