説明

密封容器内の放射線計測方法

【課題】密封容器に密封されているガスの濃度を下げることなく、放射性物質等を高感度で計測できる密封容器内の放射線計測方法を提供する。
【解決手段】密封容器2内の封入ガスを減圧環境にすることで密封容器2から封入ガスを取り込み、封入ガス中に存在するダスト状の放射性物質をフィルタで回収しフィルタの放射線濃度を計測する。フィルタでダスト状の放射性物質を回収した後の封入ガスは再度密封容器2内に戻す。密封容器2から回収した封入ガスを保管中又は検査中に密封容器2から取り出した封入ガスと同量のガスを密封容器2に供給してもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力発電所から発生する使用済燃料や、使用済燃料の再処理で発生するガラス固化体を乾式貯蔵する貯蔵設備における放射性物質の漏洩監視方法とその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電所で使用された後の使用済燃料集合体は、原子力発電所の燃料貯蔵プール内に保管される。燃料貯蔵プールに所定期間貯蔵された使用済燃料集合体は、ウラン及びプルトニウム等の再使用可能な核燃料物質を回収するために再処理施設で再処理される。この再処理によって高レベル放射性廃棄物のガラス固化体(以下、ガラス固化体という)が発生する。ガラス固化体は、最終的には地下に設けられた処分場にて埋設処分される。しかし、ガラス固化体は、製造直後は発熱量が高いため、数十年間、専用の貯蔵施設にて冷却しながら貯蔵し、処分可能な発熱量まで低下した後に処分される。
【0003】
また、使用済燃料集合体の一部は、再処理施設で再処理される前に、金属キャスクやボールト等の中間貯蔵施設で数十年間貯蔵する。
【0004】
ガラス固化体の貯蔵施設の一例が特許文献1に記載されている。この例のガラス固化体貯蔵施設は、ガラス固化体を収納する複数の収納管を貯蔵ピット内に設置し、通風管が収納管の周囲を同心状に取り囲んで、収納管と通風管の間に貯蔵施設外から取り入れた空気を流している。ガラス固化体はこの空気によって冷却される。ガラス固化体を冷却した空気は、暖められて貯蔵施設内に形成される排気通路を通って外部へ排出される。この冷却用の空気は、暖められた空気が上昇する力を利用して、自然循環により貯蔵施設内を流れる。
【0005】
また、特許文献2に記載されているように、放射性廃棄物からの発熱を効率的に除去するため、密封容器内部には放射性廃棄物と共に熱伝導性に優れたヘリウムガスを封入することが考えられる。
【0006】
本方式による放射性廃棄物の貯蔵は数十年以上に及ぶ可能性もあるため、放射性廃棄物中の放射性物質等が密封容器外に漏洩していないことを監視する必要がある。
【0007】
放射性物質の漏洩監視方法は、特許文献2〜4に記載されている。特許文献2では、収納管内に空気より比重の小さい高熱伝導ガスを収納管の上側から送風し、収納管の下部からガスを吸引する。吸引したガスはフィルタを通し、放射性物質のモニタリング後、問題なければ外気に排出される。高熱伝導ガスとしては、ヘリウムガスが適用される。これにより、収納管内のガスを熱伝導性が高いヘリウムガスを維持しつつ、モニタリングが可能になる。しかし、本法では常にヘリウムガスを供給し続ける必要が生じるため、コストが高くなる。
【0008】
特許文献3では、収納管内部のガスを定期的にサンプリングし、サンプリング空気中の放射能濃度を測定することを開示している。しかし、本法ではサンプリングしたガスを外気に放出してしまう。密封容器中のガスをヘリウムにした場合、本法においても、サンプリングする度に放出した量のガスを補給する必要が生じるため、コストが高くなる。
【0009】
特許文献4では、収納管内に放射線検知センサを設けることで、収納管内のガス等をサンプリングすることなく、しかも遠隔で放射性物質の漏洩を監視できる。しかし、本法ではガス中の放射性物質を計測するセンサの近辺に非常に強い放射性廃棄物が存在することから、計測精度を高くすることが難しい。
【0010】
【特許文献1】実開平3−125299号公報
【特許文献2】特許第3314531号公報
【特許文献3】特公平5−11598号公報
【特許文献4】特開平8−15497号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記従来技術では、サンプリング時における収納管内部のガス濃度の維持、あるいは計測精度向上に関し、必ずしも十分に配慮されていなかった。また、収納管のように長尺容器を対象にした場合、サンプリングする配管とサンプリング後のガスを放射線検出器から収納管へ戻す配管を、両方とも収納管の一方の端側に設置し、サンプリング作業とサンプリング後のガスを収納管に戻す作業を同時に実施してしまうと、二本の配管近傍のガスのみをサンプリングしてしまい、もう一方の端側近傍のガスのサンプリング効率が低下するため、サンプリングの精度を向上させることが難しい。
【0012】
本発明の目的は、密封容器(収納管)に密封されているガスの濃度を下げることなく、放射性物質等を高感度で計測できる密封容器内の放射線計測方法(放射線濃度の計測方法)を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成する本発明の特徴は、密封容器(収納管)内の封入ガスをサンプリングし、封入ガス中の放射線計測を実施後、サンプリングしたガスを再度密封容器内に戻すことで達成される。これにより、放射線濃度の計測中でも、密封容器内に密封しているガスの濃度を一定に保つことができる。
【0014】
ガスのサンプリング方法は、密封容器内を減圧環境にし、一時的に密封容器内のガスを別の容器に保管し、ガス中の放射線濃度を計測後、再度密封容器内にガスを戻す。これにより、密封容器のような長尺容器内の全てのガスをサンプリングできるので、放射線計測精度を向上することができる。
【0015】
また、密封容器内に封入されているヘリウムとは別に、ヘリウムタンクを設け、減圧環境によるヘリウムガスのサンプリングが終了した後、ただちにサンプリングしたヘリウムガスと同量のヘリウムガスを密封容器内に供給(補充)する。これにより、ヘリウムガスのサンプリングから放射線濃度の計測中も、密封容器内のヘリウム濃度を一定に保つことができ、ガラス固化体の一時的な温度上昇を最小限に抑えることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、密封容器(収納管)に密封されているガスの濃度を下げることなく、放射性物質等を高感度に計測することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の第1実施例を図1と図2を用いて説明する。放射性物質の貯蔵施設の基本的な構成は、例えば特許文献1の図1や図3に示されているので、ここでは本発明に直接関係する部分のみについて説明する。
【0018】
図1に示すように、ガラス固化体1はヘリウムガスを封入した収納管(密封容器)2に密封されている。収納管2の上部にはガラス固化体1から放出される中性子や放射線を遮蔽する密封プラグ3が設けられ、また収納管2を密封する蓋4により密封されている。収納管2の外部には冷却空気5が流れており、ガラス固化体1から発生する崩壊熱を除去する。配管7と配管8は、密封プラグ3及び蓋4を貫通して、収納管2の内部と放射線計測装置6とを接続している。配管7は収納管2内の封入ガス(ヘリウムガス)をサンプリングするためのもので、配管8は放射線計測後のヘリウムガスを収納管2内に供給する(戻す)ためのものである。
【0019】
次に、図2を用いて、放射線計測装置6の具体的な構造を説明する。サンプリング用の配管7を介して、収納管2内のヘリウムガスを真空ポンプ9により吸引する。真空ポンプ9と収納管2の間に圧力バルブ10を設けて圧力境界を構築し、収納管2内のヘリウムガスをサンプリングしない時に、収納管2から真空ポンプ9側へのヘリウムガスの流出や、真空ポンプ9側から収納管2へのガスの流れが生じないようにする。
【0020】
真空ポンプ9の下流側には、真空ポンプ9で吸引したヘリウムガスを一時的に保管する保管タンク11を設置する。保管タンク11の上流側及び下流側の両側に圧力バルブ12を設け、圧力境界を確保する。真空ポンプ9により収納管2から吸引したヘリウムガスは、保管タンク11に一時保管された後、放射性物質回収装置13に送られ、ここでダスト状の放射性物質を回収する。ダストが取り除かれたヘリウムガスは、三方弁14を介してヘリウムタンク15に格納される。放射性物質回収装置13と三方弁14との間、三方弁14とヘリウムタンク15との間にも圧力バルブ12を設け、圧力境界を確保する。
【0021】
真空ポンプ9により収納管2内のヘリウムを全て吸引回収し、バルブ10を閉止した後、ヘリウムタンク15から収納管2内へ、吸引回収したヘリウムガスと同じ量のヘリウムガスを供給(注入)する。これにより、収納管2内のヘリウムガスがない時間を可能な限り短縮することで、収納管2内のガラス固化体1の温度が上昇しないようにする。
【0022】
放射性物質回収装置13はフィルタを備え、フィルタにヘリウムガスを送風することにより、ダスト状の放射性物質をフィルタで集塵する。保管タンク11内のヘリウムガスの送風終了後、放射性物質回収装置13内のフィルタを回収し、別途、計測室においてフィルタの放射線計測を実施する。このために、フィルタは着脱可能な機構(構造)にする。
【0023】
放射線計測の頻度については、ガラス固化体の貯蔵が場合によっては数十年以上の長期にわたること、収納管の腐食などは起こるとしても徐々に進行することを考慮すると、健全性の監視は必ずしも連続的に実施する必要はない。具体的には、1日〜数ヶ月に1回でも十分と考えられる。
【0024】
放射性物質回収装置13としては、フィルタの近傍に放射線計測装置を設置し、フィルタの放射線を連続的に計測する構成にしても良い。この場合、フィルタの着脱が不要になると共に、連続計測が可能であることから、モニタリングとしても利用できる。更に、この場合、放射性物質の計測対象は、ダスト状の放射性物質だけではなく、気体状や液体状の放射性物質の計測も可能である。
【0025】
次に、図3を用いて、本発明の第2実施例を説明する。第1実施例では1本の収納管を監視するのに1台の放射線計測装置を用いたが、本実施例では複数の収納管を1台の放射線計測装置で監視する。図3は、2本の収納管2を1台の放射線計測装置6で監視する例を示す。具体的には、収納管2と放射線計測装置6を接続する配管7と配管8を、2本の収納管2で共有し、収納管2からのヘリウムガスのサンプリングや、収納管2へのヘリウムガスの供給を一括して実施する。
【0026】
放射線計測装置6と2本の収納管2a及び2bとを接続する2系統の配管7a及び7bに、三方弁16a及び16bを設置する。放射線計測装置6と2本の収納管2a及び2bとを接続する2系統の配管8a及び8bにも、三方弁16a及び16bを設置する。三方弁16a及び16bは、2本の収納管2a及び2bについて一括して実施した放射線計測で放射線が検出された場合、放射線がヘリウムガスに漏洩している収納管を特定するために用いる。具体的には、フレキシブルに着脱可能なホース17を三方弁16a又は16bに接続して、第1実施例で説明したように、収納管1本ずつ放射線計測を実施して、漏洩している収納管を特定する。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明は、原子力発電所から発生する使用済燃料や、使用済燃料の再処理で発生するガラス固化体を乾式貯蔵する貯蔵設備における放射性物質の漏洩監視に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の第1実施例の放射線計測方法を実現する概略装置構成図。
【図2】第1実施例の放射線計測装置の詳細図。
【図3】本発明の第2実施例の放射線計測方法を実現する概略装置構成図。
【符号の説明】
【0029】
1 ガラス固化体
2,2a,2b 収納管
3 密封プラグ
4 蓋
5 冷却空気
6 放射線計測装置
7,7a,7b,8,8a,8b 配管
9 真空ポンプ
10 圧力バルブ
11 保管タンク
12 圧力バルブ
13 放射性物質回収装置
14,16a,16b 三方弁
15 ヘリウムタンク
17 ホース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス固化体もしくは使用済燃料を封入ガスと共に密封容器に格納し、前記密封容器の外部を冷却する貯蔵設備において、減圧装置により前記密封容器内を減圧環境にすることで、前記密封容器から前記封入ガスを取りこみ、取り込んだ前記封入ガス中に存在するダスト状の放射性物質をフィルタで回収し、放射性物質を回収したフィルタの放射線濃度を計測することを特徴とする密封容器内の放射線計測方法。
【請求項2】
請求項1において、フィルタでダスト状の放射性物質を回収した後の前記封入ガスを前記密封容器に供給することを特徴とする密封容器内の放射線計測方法。
【請求項3】
請求項1において、前記密封容器から回収した封入ガスを保管中または検査中に、前記密封容器から取り出した封入ガスと同じ量のガスを前記密封容器に供給することを特徴とする密封容器内の放射線計測方法。
【請求項4】
請求項1において、ダスト状の放射性物質を回収したフィルタの放射線濃度をその場で計測することを特徴とする密封容器内の放射線計測方法。
【請求項5】
ガラス固化体もしくは使用済燃料を封入ガスと共に密封容器に格納し、前記密封容器の外部を冷却する貯蔵設備において、減圧装置により前記密封容器内を減圧環境にすることで、前記密封容器から前記封入ガスを取りこみ、取り込んだ前記封入ガス中に存在する気体状もしくは液体状の放射性物質をフィルタの吸着作用などにより回収し、フィルタの放射線濃度を計測することを特徴とする密封容器内の放射線計測方法。
【請求項6】
請求項1〜5の何れかにおいて、複数の前記密封容器から封入ガスを取り込むことで、複数の前記密封容器内の封入ガス中の放射性物質の計測を一括して実施することを特徴とする密封容器内の放射線計測方法。
【請求項7】
請求項4において、ダスト状の放射性物質を回収したフィルタの放射線濃度をその場で連続計測することを特徴とする密封容器内の放射線計測方法。
【請求項8】
請求項1〜7の何れかにおいて、前記封入ガスがヘリウムであることを特徴とする密封容器内の放射線計測方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2008−249445(P2008−249445A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−90133(P2007−90133)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(507250427)日立GEニュークリア・エナジー株式会社 (858)
【Fターム(参考)】