説明

密閉型反応容器及び反応検出装置

【課題】試料への試薬の添加から分析までの全工程を密閉された系において行なうことができる密閉型反応容器を提供する。
【解決手段】2つのシリンジ4a,4bを備えた加圧・吸引エアシリンジ4が設けられている。加圧・吸引エアシリンジ4のシリンジ4a,4bの出入口は相反する方向に吸引及び吐出を行なうように配置されている。両シリンジ4a,4bのピストンは連結されて1つのピストン4cを共有しており、シリンジ4aが吐出のときにシリンジ4bは吸引となり、シリンジ4aが吸引のときにシリンジ4bは吐出となる。シリンジ4aの出入口からシリンジ4bの出入口までが反応流路8によって接続されており、反応流路8は両端が閉じられた密閉型の流路となっている。反応流路8上に混合室2及び反応部6が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料に反応試薬を添加してその反応を観察するための反応容器及びその反応容器を用いて試料の反応を検出する反応検出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば遺伝子診断等の生化学分析では、コンタミネーションが発生すると分析結果に大きな影響を与える。コンタミネーションを防止するためには、クリーンな環境下で作業を行なうことにより外部からその分析系に試料の反応に影響を与える物質が浸入することを防止し、さらには分析系から外部に試料や試薬等が飛散することを防止する必要がある。分析系から外部に試料や試薬等が飛散することを防止する必要があるのは、飛散した物質が環境を汚染するとともに、周辺の機材等に付着し、付着した物質が次の分析時に分析系内に浸入する虞があるからである。
【0003】
従来は、コンタミネーションを防止するために、クリーンな環境下でピペットを用いて試料に順次試薬を添加する作業を行なっていた。また、全工程を自動で行なう分析装置を用いる場合には、分析装置全体を密閉構造にするか、試薬添加後の試料の反応を観察する反応部を密閉構造にする手法が採られている。
【0004】
特に生化学分野においては試料が微量であることが多いため、各種試薬を収容する試薬室、試料と試薬を混合する混合室、試料と試薬の反応を観察する反応部が設けられ、それらが流路によって接続された微細反応系を用いることが一般的である。その場合、例えば試料に試薬を添加した後の反応液を混合室から反応部に送液する際は、混合室側から空気圧を利用して反応液を反応部側に押し込むが、反応部側では微細流路の内部に存在していた空気を放出するために開放しておく必要があり、反応部側を完全に密閉しておくことはできない。そのため、コンタミネーションの原因となる物質の浸入又は飛散を防止するために反応部側にフィルタを設けるなどの処置がとられているが、この方法では分析系を完全な密閉系とすることは困難である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで本発明は、試料への試薬の添加から分析までの全工程を密閉された系において行なうことができる密閉型反応容器を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の密閉型反応容器は、試料と試薬を混合する混合室と、混合室の底部に流路で接続された反応室と、2つのシリンジを有し両シリンジのピストンが一方のシリンジの吐出時に他方のシリンジが吸引となるように連結され、一方のシリンジの出入口が混合室の上部に流路で接続され、他方のシリンジの出入口が反応室の混合室と接続されている部分とは異なる部分に流路で接続された加圧・吸引エアシリンジと、を含み、外部とは遮断された密閉空間となっている密閉型反応流路を備えたものである。
【0007】
混合室の一例は予め試薬が収容されており、上部からセプタムを介して試料が注入されるようになっているものである。
ここで、セプタムとは、混合室の上部開口に設けられ、混合室を封止して密閉するための弾性材料からなる部材である。このような部材は、試料を注入するのに用いられるピペットを突き刺すことによって開けられた穴を弾性によって塞ぐことができるので、試料注入後も混合室内を密閉することができる。
【0008】
本発明の密閉型反応容器の好ましい第1の実施形態は、容器形状を有し予め第1試薬が収容され、該容器の底部が混合室の上部に流路で接続され、上部からセプタムを介して試料が注入されるようになっている試料注入容器、及び2つのシリンジを有し両シリンジのピストンが一方のシリンジの吐出時に他方のシリンジが吸引となるように連結され、一方のシリンジの出入口が試料注入容器の上部に流路で接続され、他方のシリンジの出入口が混合室の上部で試料注入容器が接続されている部分とは異なる部分に流路で接続されている第2の加圧・吸引エアシリンジを備え、外部とは遮断された密閉空間となっている第2の密閉型反応流路をさらに備え、混合室は予め第2の試薬が収容されているものである。
【0009】
また、本発明の密閉型反応容器の好ましい第2の実施形態は、容器形状を有し予め第1試薬が収容され、該容器の底部が混合室の上部に流路で接続され、上部からセプタムを介して試料が注入されるようになっている試料注入容器、及び2つのシリンジを有し両シリンジのピストンが一方のシリンジの吐出時に他方のシリンジが吸引となるように連結され、一方のシリンジの出入口が試料注入容器の上部に流路で接続され、他方のシリンジの出入口が混合室の上部で試料注入容器が接続されている部分とは異なる部分に流路で接続されている第2の加圧・吸引エアシリンジを備え、外部とは遮断された密閉空間となっている第2の密閉型反応流路をさらに備え、試料注入容器と混合室の間に挿入された試薬室をさらに備え、該試薬室には予め第2の試薬が収容され、該試薬室の上部が試料注入容器の底部に接続され、該容器の底部が混合室の上部に接続されているものである。
【0010】
第2の実施形態では、混合室には予め試薬が収容されていてもよいし収容されていなくてもよい。混合室に予め第3の試薬が収容されていれば、試料にさらにもう1種類の試薬を混合できる。
【0011】
また、好ましい第3の実施形態は、容器形状を有し予め第1試薬が収容され、該容器の底部が前記混合室の上部に流路で接続され、上部からセプタムを介して試料が注入されるようになっている試料注入容器、及び2つのシリンジを有し両シリンジのピストンが一方のシリンジの吐出時に他方のシリンジが吸引となるように連結され、一方のシリンジの出入口が試料注入容器の上部に流路で接続され、他方のシリンジの出入口が混合室の上部で試料注入容器が接続されている部分とは異なる部分に流路で接続されている第2の加圧・吸引エアシリンジを備え、外部とは遮断された密閉空間となっている第2の密閉型反応流路と、容器形状を有し予め第2試薬が収容され、該容器の底部が混合室の上部に流路で接続されている試薬室、及び2つのシリンジを有し両シリンジのピストンが一方のシリンジの吐出時に他方のシリンジが吸引となるように連結され、一方のシリンジの出入口が試薬室の上部に流路で接続され、他方のシリンジの出入口が混合室の上部で試薬室が接続されている部分とは異なる部分に流路で接続されている第3の加圧・吸引エアシリンジを備え、外部とは遮断された密閉空間となっている第3の密閉型反応流路と、をさらに備えているものである。
【0012】
上記実施形態において、試料注入容器と混合室の間に挿入された他の試薬室をさらに備え、該試薬室には予め第3の試薬が収容され、該容器の上部が試料注入容器の底部に接続され、該容器の底部が混合室の上部に接続されていてもよい。
【0013】
本発明の密閉型反応容器は、全反応流路が1つのチップ内に形成されていることが好ましい。
【0014】
本発明の反応検出装置は、本発明の密閉型反応容器であって各反応流路が1つのチップ内に形成されている密閉型反応容器を装着する装着部と、装着部に装着された密閉型反応容器の混合室、反応室、試料注入容器及び試薬室のうちの少なくとも1つの温度制御を行う温度調節部と、反応室における反応を検出する検出器と、を備えているものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の密閉型反応容器においては、混合室、反応室及び加圧・吸引エアシリンジを備えて密閉型の反応流路を構成しているので、試料と試薬の混合や試薬と混合された試料の反応室への送液を密閉系の中で行なうことができ、試料の反応に影響を与える物質の外部からの侵入や外部への試薬又は試料の飛散をなくしてコンタミネーションを防止することができる。
また、加圧・吸引エアシリンジの一方のシリンジの出入口から他方の出入口までを密閉型の流路として構成しているので、加圧・吸引エアシリンジのピストンが一方のシリンジ側に移動して流路の一端側で加圧になると同時に流路の他端側では吸引となり、流路内のどの位置においても圧力が一定となる。したがって、混合室から反応室に反応液を送液する際は試料に対して高い圧力をかけなくても容易に反応液の送液を行なうことができ、微量の送液も容易に制御できる。
【0016】
第1、第2の実施形態では、試料注入容器において試料と第1試薬とが混合された後、混合室において試料と第1試薬の混合液にさらに第2試薬が混合される。これにより、外部から新たに試薬を注入することなく密閉系において試料に少なくとも2種類の試薬を混合して測定できる。
【0017】
第3の実施形態でも、外部から試薬を注入することなく密閉系においてより多くの種類の試薬を試料に混合することができる。
【0018】
第3の実施形態において、試料注入容器と混合室の間に第3の試薬が収容された試薬室をさらに備えた場合には、密閉系において試料に混合する試薬の種類をさらに増加させることができる。
【0019】
全反応流路が1つのチップ内に形成されていれば、該密閉型の反応容器が持ち運びやすくなり、また反応室に光を照射して試料の反応を蛍光検出によって測定する測定装置への導入が容易になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明にかかる密閉型反応容器の一実施例を図1を参照しながら説明する。図1は密閉型反応容器の一実施例を概略的に示す流路構成図である。
2つのシリンジ4a,4bを備えた加圧・吸引エアシリンジ4はそのシリンジ4a,4bの出入口が相反する方向に吸引及び吐出を行なうように配置されている。両シリンジ4a,4bは連結された1つのピストン4cを共有しており、シリンジ4aが吐出のときにシリンジ4bは吸引となり、シリンジ4aが吸引のときにシリンジ4bは吐出となる。シリンジ4aの出入口からシリンジ4bの出入口までが反応流路8によって接続されており、反応流路8は両端が閉じられ途中にも開口をもたない密閉型の流路となっている。
【0021】
反応流路8上には混合室2及び反応部6が設けられている。混合室2は容器形状を有し、上面が弾性材料からなるセプタム2aにより封止されている。試料はピペット等によりセプタム2aを介して混合室2a内に注入されるようになっている。混合室2の上部は流路を介して加圧・吸引エアシリンジ4のシリンジ4aの出入口に接続され、底部は流路を介して反応部6の一端に接続されている。混合室2内には試薬3が予め収容されている。
【0022】
反応部6は密閉された容器形状を有する反応室6aを備えている。なお、図では単なる円で示している。反応室6aには特定の試料と反応する物質(プローブ)が複数個固定されている。反応部6の他端は加圧・吸引エアシリンジ4のシリンジ4bの出入口に流路を介して接続されている。反応室6aは試料とプローブとの反応を光学的に観察できるように測定する波長光に対して透明な材質で構成されている。
【0023】
この反応容器を用いた分析方法を以下に説明する。
この反応容器を用いて分析するにあたり、反応室6aに光を照射する光源、反応室6aからの光を検出する光検出器及び反応室6aの温度を調節するための温度調節機構のほか、加圧・吸引エアシリンジ4のピストン4cを駆動するシリンジ駆動部を備えた分析装置を用いるが、分析装置については後述する。
【0024】
例えば血液などの試料をピペットを用いてセプタム2aから混合室2に注入する。混合室2には試薬3が予め収容されている。加圧・吸引エアシリンジ4のピストン4cを一定範囲内で細かく往復運動させて混合室2内を攪拌して試料と試薬3とを混合して反応溶液とする。
【0025】
その後、加圧・吸引エアシリンジ4のピストン4cをシリンジ4a側に押し込み、混合室2内の反応溶液を反応部6の反応室6aに送る。反応室6aにはプローブが予め固定されており、加圧・吸引エアシリンジ4のピストン4cを一定範囲内で細かく往復運動させることにより、反応溶液とプローブとを攪拌反応させる。このとき、反応室6aは図示されていない温度調節機構によって加熱等の反応処理が施される。
【0026】
この実施例の反応容器は、密閉された反応流路8内において試料と試薬の混合、及びその混合溶液からなる反応溶液の反応部6への送液を行なうようになっているので、試料の反応に影響を与える物質が外部から侵入したり外部に試料や試薬が飛散したりすることがなく、コンタミネーションの発生を防止できる。また、混合室2から反応室6aに試料と試薬3の混合溶液を送る際は、反応流路8の一端側である加圧・吸引エアシリンジ4のシリンジ4aにおいて加圧を行なうと同時に、他端側であるシリンジ4bでは吸引を行なうようになっているので、試料と試薬3の混合溶液に高い圧力をかけることなく容易に反応室6aへの送液を行なうことができる。
【0027】
なお、この実施例では反応部6に反応室6aが1つだけ設けられているが、反応部6には複数の反応室6aが直列又は並列に設けられていてもよい。そうすれば、複数の反応室6aで同時に分析を行なうことができる。
【0028】
次に、密閉型反応容器の他の実施例を図2を参照しながら説明する。
この実施例の反応容器は、2つの反応流路18,22により構成されている。
反応流路18は図1の実施例の加圧・吸引エアシリンジ4と同じ構成をもつ加圧・吸引エアシリンジ10のシリンジ10aの出入口からシリンジ10bの出入口までを接続する密閉型の流路であり、その流路上には混合室14及び反応部16が設けられている。混合室14は密閉された容器形状を有し、内部には予め試薬15が収容されている。混合室14の上部はシリンジ10aの出入口に、底部は反応部16の一端にそれぞれ流路を介して接続されている。反応部16の他端はシリンジ10bの出入口に接続されている。反応部16は密閉された容器形状を有する反応室16aを備えている。
【0029】
反応流路22は加圧・吸引エアシリンジ10と同じ構成をもつ加圧・吸引エアシリンジ12のシリンジ12aの出入口からシリンジ12bの出入口までを接続する密閉型の流路であり、その流路上には試料注入容器20及び混合室14が設けられている。混合室14の上部はシリンジ10aの出入口に流路を介して接続され、同時にシリンジ12bの出入口にも接続されている。また、試料注入容器20の底部は混合室14の上部のシリンジ12bとの接続点とは異なる点に流路を介して接続されている。試料注入容器20は上面はセプタム20aで封止されており、ピペット等によって試料が注入されるようになっている。試料注入容器20の上部はシリンジ12aの出入口に流路を介して接続されている。試料注入容器20には試薬21が予め収容されている。
【0030】
混合室14には、加圧・吸引エアシリンジ12のピストン12cをシリンジ12a側に押し込んで試料と試薬21の混合溶液を混合室14に送る際に、それらの溶液が混合室14の上部からシリンジ12b側に吸引されないように、試料注入容器20に注入される試料と試薬21の合計の体積以上の体積の空気が存在している。
【0031】
この実施例の反応容器を用いた分析方法の一例を説明する。
この反応容器を用いた分析の一例では、反応流路18,22に設けられている加圧・吸引エアシリンジ10,12をそれぞれ別々のタイミングで駆動する。
【0032】
最初に、加圧・吸引エアシリンジ12を駆動する。試料注入容器20に例えば血液などの試料をピペットを用いて注入する。試料注入容器20には予め試薬21が収容されており、加圧・吸引エアシリンジ12のピストン12cを細かく往復運動させて試料注入容器20内を攪拌する。加圧・吸引エアシリンジ12のピストン12cをシリンジ12a側に押し込み、試料と試薬21からなる混合溶液を混合室14に送る。混合室14には試薬15が予め収容されており、試料と試薬21との混合溶液に試薬15がさらに添加されたことになる。
【0033】
次に、反応流路18において混合試料の分析を行なう。
加圧・吸引エアシリンジ10のピストン10cを細かく往復運動させることにより、混合室14内を攪拌して反応溶液とする。その後、加圧・吸引エアシリンジ10のピストン10cをシリンジ10a側に押し込み、混合室14内の反応溶液を反応部16に送る。
【0034】
反応部16の反応室16aには特定の試料と反応する複数の物質(プローブ)が予め固定されており、加圧・吸引エアシリンジ10のピストン10cを一定範囲内で細かく往復運動させることにより、反応溶液とプローブとを攪拌反応させる。このとき、反応室16aは図示されていない温度調節機構によって加熱等の反応処理が施される。
【0035】
なお、この実施例においても、反応部16には反応室16aが1つだけ設けられているが、本発明はこれに限定されるものではなく、複数の反応室16aが反応部16に設けられていてもよい。
この実施例の反応容器は、試料と試薬の混合を両端が閉じられた反応流路22内で行ない、試薬が添加された試料の反応部16への送液も両端が閉じられた反応流路18で行なうようになっているので、試料と試薬の反応に影響を与える物質の浸入や試料及び試薬の外部への飛散がなくなり、コンタミネーションの発生を防止することができる。また、反応流路18及び22は、一端が加圧されると同時に他端では同じ圧力分だけ吸引が行われるようになっているので、試料や試薬に高い圧力を加えることなく容易にその送液を行なうことができる。
【0036】
図3は図2の反応容器に試薬室を追加した例を示す流路構成図である。
この実施例の反応容器は2つの反応流路18,23により構成されている。
反応流路18は図2の反応用器の反応流路と同じで、加圧・吸引エアシリンジ10のシリンジ10aの出入口からシリンジ10bまでを接続する密閉型の流路であり、その流路上に混合室14及び反応部16が設けられている。反応流路23は加圧・吸引エアシリンジ12のシリンジ12aの出入口からシリンジ12bまでを接続する密閉型の流路であり、その流路上に試料注入容器20、試薬室24及び混合室14が設けられている。
【0037】
反応流路23は図2の反応流路22の試料注入容器20と混合室14との間に試薬室24をさらに備えたものである。試料注入容器20の底部に試薬室24の上部が流路を介して接続され、試薬室24の底部は混合室14の上部に流路を介して接続されている。試薬室24には、試料注入容器20、混合容器14に収容されている試薬26,30とは異なる試薬28が予め収容されている。混合室14には加圧・吸引エアシリンジ12のピストン12cをシリンジ12a側に押し込んで試料と試薬26の混合溶液及び試薬28を混合室14に送る際に、試料や試薬26,28,30が混合室14の上部からシリンジ12b側に吸引されないように、混合室14には試料注入容器20に注入される試料と試薬26,28の合計の体積以上の体積の空気が存在している。
【0038】
この実施例の反応容器を用いた分析方法は図2の反応容器と同じである。すなわち、試料注入容器20にピペットを用いて試料を注入した後、加圧・吸引エアシリンジ12のピストン12をシリンジ12a側に押し込むことにより、試料と試薬26の混合溶液とともに試薬28が混合室14に送られ、混合室14において試料と試薬26の混合溶液にさらに試薬28及び30が添加される。この反応容器では試料注入容器20に予め収容されている試薬26とは別にさらに2種類の試薬28,30を試料に添加することができる。なお、混合室14には試薬30が収容されていなくてもよい。その場合には、試料と試薬26の混合溶液に1種類の試薬28が添加されるだけである。
【0039】
反応流路18は図2の反応容器と同じである。混合室14に試料と試薬26の混合溶液と試薬28が送られた後、加圧・吸引エアシリンジ10のピストン10cを一定範囲で細かく往復運動させることにより混合室14内を攪拌してそれらの溶液を混合することができ、さらにピストン10cをシリンジ10a側に押し込むことで混合室14内の混合試料を反応部16の反応室16aに送ることができる。
【0040】
この例では、試料注入容器20と混合室14との間に試薬室24が1つだけ設けられているが、試薬室24が複数直列に接続されて設けられていてもよい。そうすれば、試料に添加される試薬の種類を増やすことができる。
なお、反応部16に複数の反応室16aが設けられていてもよい。
【0041】
図4は図3の反応容器にさらに反応流路を追加した例を示す流路構成図である。
この実施例の反応容器は、図3の反応流路18,23にさらに反応流路36が設けられたものである。反応流路18は図3の反応容器の反応流路18と同じ構成をもち、反応流路23は図3の反応容器の反応流路23と同じ構成をもっている。すなわち、反応流路18は加圧・吸引エアシリンジ10のシリンジ10aの出入口からシリンジ10bまでを接続する密閉型の流路であり、その流路上に混合室14及び反応部16が設けられている。反応流路23は加圧・吸引エアシリンジ12のシリンジ12aの出入口からシリンジ12bまでを接続する密閉型の流路であり、その流路上に試料注入容器20、試薬室24及び混合室14が設けられている。試料注入容器20には試薬38が予め収容されており、試薬室24には試薬40が予め収容されている。この例では、混合室14には予め試薬は収容されておらず、分析開始前は空の状態になっている。なお、混合室14に予め試薬を収容しておくこともできる。そうすれば、試料に添加される試薬の種類を増加させることができる。
【0042】
反応流路36は、加圧・吸引エアシリンジ10,12と同じ構成をもつ加圧・吸引エアシリンジ32のシリンジ32aの出入口からシリンジ32bの出入口までを接続する密閉型の流路であり、その流路上に第2試薬室34及び混合室14が設けられている。第2試薬室34の上部は加圧・吸引エアシリンジ32のシリンジ32aの出入口に流路を介して接続され、第2試薬室34の底部が混合室14の上部に流路を介して接続されている。加圧・吸引エアシリンジ32のシリンジ32bの出入口は混合室14の第2試薬室34の底部との接続点とは異なる位置に接続されている。試薬室34には試薬42が予め収容されている。
【0043】
この実施例の反応容器では、試料注入容器20が設けられている反応流路23とは別の密閉系を構成し、試薬42を混合室14に送ることができる反応流路36を備えているので、任意のタイミングで混合室14に試薬42を送ることができる。以下に、この実施例の反応用器を用いた分析方法の一例を説明する。
【0044】
分析方法の一例では、各反応流路18,23,36に設けられている加圧・吸引エアシリンジ10,12,32はそれぞれ別々のタイミングで駆動する。
最初に、加圧・吸引エアシリンジ12を駆動する。反応流路23においては、試料注入容器20に試料を注入して試料と試薬38を混合した後、その混合溶液とともに試薬室24の試薬40を混合室14に送ることで、試料に試薬38及び40を添加する。
【0045】
次に、加圧・吸引エアシリンジ32を駆動する。他の加圧・吸引エアシリンジ10,12を停止させておくことによって反応流路36は両端が閉じられた循環流路となり、加圧・吸引エアシリンジ32のピストン32cをシリンジ32a側に押し込むことで第2試薬室34の試薬42が混合室14に送られる。このとき、試薬42と同体積の混合室14内の空気がシリンジ32b側に吸引される。これにより、混合室14において試料と試薬38,40の混合溶液にさらに試薬42が添加される。
【0046】
最後に、加圧・吸引エアシリンジ10を駆動する。混合室14には試料に試薬38,40及び42が添加された混合溶液がすでに収容されている。ピストン10cを一定範囲で細かく往復運動させることにより混合室14の混合溶液を攪拌する。その後、ピストン10cをシリンジ10a側に押し込んで、混合室14の混合試料を反応部16の反応室16aに送る。反応部16の反応室16aには特定の試料と反応する物質(プローブ)が予め固定されている。このとき、反応室16aは図示されていない温度調節機構によって加熱等の反応処理が施される。
【0047】
この実施例の反応容器では、加圧・吸引エアシリンジ10,12,32をそれぞれ別々のタイミングで駆動することにより、試料への試薬38,40の添加を両端が閉じられた反応流路23において行ない、さらに別の試薬42の試料への添加を両端が閉じられた反応流路36において行ない、試薬38,40,42が添加された試料の反応室16aの送液を両端が閉じられた反応流路16において行なうことができるので、試料と試薬38,40,42との反応に影響を与える物質が浸入したり外部へそれらの液体が飛散したりすることがなくなり、コンタミネーションが防止できる。
【0048】
また、これらの反応流路18,23,36の両端は加圧・吸引エアシリンジ10,12,32の対をなすシリンジ10aと10b、12aと12b、32aと32bの出入口にそれぞれ接続され、一端側で吸引が行なわれると同時に他端側では吐出が行なわれるようになっているので、それぞれの送液対象となる液体に対して高い圧力をかけなくても容易に送液を行なうことができる。
【0049】
なお、上記した図1〜図4の反応容器における加圧・吸引シリンジ4,10,12,32の駆動機構の一例として、図5に示されるようなものを挙げることができる。図5に示された駆動機構は、モータやモータの回転速度及び回転方向を制御する制御回路等を備えた棒ネジ駆動部44、その棒ネジ駆動部44によって回転させられる棒ネジ48及び棒ネジ48と螺合して棒ネジ48の回転方向に応じて棒ネジ48の軸方向に移動する移動部材46が設けられており、移動部材46が加圧・吸引シリンジ4,10,12,32のピストン4c,10c,12c,32cに固定されている。これにより、棒ネジ駆動部44のモータの回転速度及び回転方向を制御することで加圧・吸引シリンジ4,10,12,32のピストン4c,10c,12c,32cを任意の速度で任意の幅だけ移動させることができ、加圧・吸引シリンジ4,10,12,32の加圧及び吸引動作を制御することができる。なお、この駆動機構は一例であり、他の構成をもつ駆動機構を用いて加圧・吸引シリンジ4,10,12,32の加圧及び吸引動作を制御してもよい。
【0050】
以上、図1から図4を用いて説明した反応容器は1つのチップとして構成されることが好ましい。図6にその一例を示す。
図6は図3の反応容器を1チップとした例を示す図であり、(A)はその平面図、(B)は(A)を矢印の方向から見た側面図である。なお、図3の反応容器では反応部16に反応室16aが1つだけ設けられているが、この例の反応容器チップでは複数の反応室16aが設けられている。
【0051】
反応容器チップ50は、併設された分注部51と分析部52の上面に流路形成基板52が配置され、さらにその上にカバー54が被せられて1つのチップをなしている。なお、図6の(A)では、便宜上、最も上に位置するカバー54を破線で示すとともにその下の流路形成基板53の図示を省略している。
分注部51は試料注入容器20、試薬部24及び混合室14を備えるとともに、加圧・吸引エアシリンジ10,12が内部に形成された基板である。試料注入容器20、試薬部24及び混合室14はそれぞれ分注部51の上面側が開口しており、それぞれに試薬(図示は省略)が入れられている。分析部52は例えば樹脂からなる基板の一表面側に反応室となる複数の凹部16aがマトリクス状に形成されたものである。
【0052】
流路形成基板53は例えば樹脂からなり、該反応容器チップ50が図3に示された流路構成をなすように形成された流路が形成されている。なお、分注部51の内部にも流路(図示は省略)が形成されており、流路形成基板53による流路とともに図3の流路構成を実現している。また、流路形成基板53の試料注入容器20の上面にあたる部分にセプタム55が設けられており、試料注入容器20を封止している。流路形成基板53の反応室16aに対応する部分には穴が設けられている。ただし、流路形成基板53が透明材料で形成されている場合には反応室16aに対応する部分に穴が設けられている必要はない。
【0053】
流路形成基板53の上のカバー54は例えば透明樹脂などの透明材料で構成されている。カバー54は流路形成基板53と密着しており、流路形成基板53により形成される流路や反応室16aを封止している。なお、カバー54のセプタム55上にあたる部分には穴55が設けられており、ピペット等によりセプタム55を介して試料を試料注入容器20内に注入できるようになっている。
【0054】
上記のような反応容器チップを用いて分析を行なうための分析装置を図7に示す。図7は反応容器チップを用いて分析を行なう分析装置の一例を示す概略構成図である。なお、この実施例では反応容器チップとして図6に示した反応容器チップ50を用いるものとする。
【0055】
この分析装置は、筐体58の外側で反応容器チップ50を載置してその反応容器チップ50を筐体58の内部の所定位置まで搬送するスライド式のチップステージ60を備えており、チップステージ60は筐体58内部の所定位置で停止して分析を行なうようになっている。筐体58の内部には、所定位置で停止したチップステージ60上の反応容器チップ50の加圧・吸引エアシリンジ10,12を駆動するためのシリンジ駆動部62が設けられている。
【0056】
シリンジ駆動部62は、例えば図5に示されるような機構を有するものである。反応容器チップ50の加圧・吸引エアシリンジ10,12のピストン10c,12cとシリンジ駆動部62との連結は反応容器チップ50が筐体58内に収容された後でなされるようになっていてもよい。また、チップステージ60とシリンジ駆動部62とが一体化されていて、反応容器チップ50をチップステージ60に載置されると同時に加圧・吸引エアシリンジ10,12のピストン10c,12cとシリンジ駆動部62とが連結されるようになっていてもよい。
【0057】
また、所定位置で停止したチップステージ60上の反応容器チップ50の上方から反応室16aに光を照射し、反応室16aからの特定波長の光を検出する測光部64が設けられ、チップステージ60の下方に反応容器チップ50の反応室16aの温度を調節する温調部66が設けられている。
【0058】
なお、この実施例での図示は省略されているが、反応容器チップ50の試料注入容器20にセプタム55を介して試料を自動で注入する試料注入部が筐体58の内部に設けられていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の密閉型反応容器の一実施例を示す流路構成図である。
【図2】他の実施例を示す流路構成図である。
【図3】図2の反応容器に試薬室を追加した他の実施例を示す流路構成図である。
【図4】図3の反応容器にさらに反応流路を追加した他の実施例を示す流路構成図である。
【図5】加圧・吸引エアシリンジの駆動機構の一例を示す図である。
【図6】図3の反応容器を1チップとした実施例を示す図であり、(A)はその平面図、(B)は(A)を矢印の方向から見た側面図である。
【図7】反応容器チップを用いて分析を行なう分析装置の一例を示す概略構成図である。
【符号の説明】
【0060】
2,14 混合室
4,10,12,32 加圧・吸引エアシリンジ
6,16 反応部
6a,16a 反応室
8,18,22,23,36 反応流路
20 試料注入容器
20a,55 セプタム
15,21,26,28,30,38,40,42 試薬
24,34 試薬室
44 棒ネジ駆動部
46 移動部材
48 棒ネジ
50 反応容器チップ
51 分注部
52 分析部
53 流路形成基板
54 カバー
56 穴
58 筐体
60 チップステージ
62 シリンジ駆動部
64 測光部
66 温調部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料と試薬を混合する混合室と、
前記混合室の底部に一端が流路で接続された反応室と、
2つのシリンジを有し両シリンジのピストンが一方のシリンジの吐出時に他方のシリンジが吸引となるように連結され、一方のシリンジの出入口が前記混合室の上部に流路で接続され、他方のシリンジの出入口が前記反応室の一部で混合室に接続されている部分とは異なる部分に流路で接続された加圧・吸引エアシリンジと、
を含み、外部とは遮断された密閉空間となっている密閉型反応流路を備えた密閉型反応容器。
【請求項2】
前記混合室は予め試薬が収容されており、上部からセプタムを介して試料が注入されるようになっている請求項1に記載の密閉型反応容器。
【請求項3】
容器形状を有し予め第1試薬が収容され、該容器の底部が前記混合室の上部に流路で接続され、上部からセプタムを介して試料が注入されるようになっている試料注入容器、及び2つのシリンジを有し両シリンジのピストンが一方のシリンジの吐出時に他方のシリンジが吸引となるように連結され、一方のシリンジの出入口が前記試料注入容器の上部に流路で接続され、他方のシリンジの出入口が前記混合室の上部で前記試料注入容器が接続されている部分とは異なる部分に流路で接続されている第2の加圧・吸引エアシリンジを備え、外部とは遮断された密閉空間となっている第2の密閉型反応流路をさらに備え、
前記混合室は予め第2の試薬が収容されている請求項1に記載の密閉型反応容器。
【請求項4】
容器形状を有し予め第1試薬が収容され、該容器の底部が前記混合室の上部に流路で接続され、上部からセプタムを介して試料が注入されるようになっている試料注入容器、及び2つのシリンジを有し両シリンジのピストンが一方のシリンジの吐出時に他方のシリンジが吸引となるように連結され、一方のシリンジの出入口が前記試料注入容器の上部に流路で接続され、他方のシリンジの出入口が前記混合室の上部で前記試料注入容器が接続されている部分とは異なる部分に流路で接続されている第2の加圧・吸引エアシリンジを備え、外部とは遮断された密閉空間となっている第2の密閉型反応流路をさらに備え、
前記試料注入容器と前記混合室の間に試薬室をさらに備え、該試薬室には予め第2の試薬が収容され、該試薬室の上部が前記試料注入容器の底部に接続され、該容器の底部が前記混合室の上部に接続されている請求項1に記載の密閉型反応容器。
【請求項5】
前記混合室は予め第3の試薬が収容されている請求項4に記載の密閉型反応容器。
【請求項6】
容器形状を有し予め第1試薬が収容され、該容器の底部が前記混合室の上部に流路で接続され、上部からセプタムを介して試料が注入されるようになっている試料注入容器、及び2つのシリンジを有し両シリンジのピストンが一方のシリンジの吐出時に他方のシリンジが吸引となるように連結され、一方のシリンジの出入口が前記試料注入容器の上部に流路で接続され、他方のシリンジの出入口が前記混合室の上部で前記試料注入容器が接続されている部分とは異なる部分に流路で接続されている第2の加圧・吸引エアシリンジを備え、外部とは遮断された密閉空間となっている第2の密閉型反応流路と、
容器形状を有し予め第2試薬が収容され、該容器の底部が前記混合室の上部に流路で接続されている試薬室、及び2つのシリンジを有し両シリンジのピストンが一方のシリンジの吐出時に他方のシリンジが吸引となるように連結され、一方のシリンジの出入口が前記試薬室の上部に流路で接続され、他方のシリンジの出入口が前記混合室の上部で前記試薬室が接続されている部分とは異なる部分に流路で接続されている第3の加圧・吸引エアシリンジを備え、外部とは遮断された密閉空間となっている第3の密閉型反応流路と、をさらに備えている請求項1に記載の密閉型反応容器。
【請求項7】
前記試料注入容器と前記混合室の間に挿入された他の試薬室をさらに備え、該試薬室には予め第3の試薬が収容され、該容器の上部が前記試料注入容器の底部に接続され、該容器の底部が前記混合室の上部に接続されている請求項6に記載の密閉型反応容器。
【請求項8】
全反応流路が1つのチップ内に形成されている請求項1から7のいずれか一項に記載の密閉型反応容器。
【請求項9】
請求項8に記載の密閉型反応容器を装着する装着部と、
前記装着部に装着された密閉型反応容器の混合室、反応室、試料注入容器及び試薬室のうちの少なくとも1つの温度制御を行う温度調節部と、
前記反応室における反応を検出する検出器と、
を備えた反応検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−286733(P2008−286733A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−133973(P2007−133973)
【出願日】平成19年5月21日(2007.5.21)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】