対象の眼球に対して治療用生成物を送達するための改良型方法及び装置
本発明は一般に、生物活性作用物質、特に治療用又は予防用核酸を対象の眼球に送達する改良型方法において、前記作用物質を毛様体組織又は細胞及び/又は外眼筋組織又は細胞に投与するステップを含む方法に関する。より詳細には、本発明は、治療用生成物の特異的毛様体組織又は細胞及び/又は外眼筋又は細胞への投与及び治療すべき眼組織内へのその移入により眼球の病理を治療するための装置、特に遺伝子療法におけるそれらの使用及びその方法に関する。本発明は同様に、毛様体組織又は細胞及び/又は外眼筋又は細胞投与に適した形をした生成物を含む医薬組成物、それらの調製及び使用にも関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に、生物活性作用物質、特に治療用又は予防用核酸を対象の眼球に送達する改良型方法において、前記作用物質を毛様体組織又は細胞及び/又は外眼筋組織又は細胞に投与するステップを含む方法に関する。より詳細には、本発明は、治療用生成物を特異的毛様体組織又は細胞及び/又は外眼筋組織又は細胞に投与し、かくして治療すべき眼組織内にそれを移入することにより眼球の病理を治療するための装置、特に遺伝子療法におけるそれらの使用及びその方法に関する。本発明は同様に、毛様体組織又は細胞及び/又は外眼筋組織又は細胞投与に適した形をした生成物を含む医薬組成物、それらの調製及び使用にも関する。
【背景技術】
【0002】
眼の生体構造
眼は体の中で最も複雑な器官の1つである。眼の一部分は発生学的には中枢神経系の延長である。眼は、複数の部分で構成され、眼の最適な視力又は健康及び疾患は、さまざまな部分がいかに連携するかに左右される。
【0003】
眼は、解剖学上及び機能上、小前房と大後房に分けることができる。両方の房は、透明な両凸面体である水晶体によって分離されている。水晶体は線維で毛様筋に連結されており、この毛様筋は、収縮又は弛緩によりその形状及び焦点合せ能力を改変させる。毛様筋は非骨格筋である。
【0004】
後房は、ヒアルロン酸を含有する液体中に浮遊したコラーゲン線維網から成る透明で粘性の流体又はゲル様構造である硝子体で満たされている。
【0005】
眼の球体は3層で作り上げられている。最も外側の層は、強膜と前極にある角膜という2つの部分から成る。強膜の下側には、脈絡膜がある。最後に、最も内側にあって感光性を有する層は、網膜と呼ばれる。強膜は、白眼としても知られている保護シートである。これは、眼球の表面のほぼ80%を網羅する膠原線維の厚み0.3〜1mmの層である。眼の前面には、ドーム形の「眼の窓」として強膜から外に透明の角膜が膨れ出ている。人間の角膜は、5層すなわち上皮、ボーマン膜、間質、デスメ膜及び内皮で構成されている。これらの層は、適切な体液平衡により角膜の透明度を維持するため、及び有害な作用物質が眼の中に入るのを防ぐために重要である。角膜の5層のうち上皮と間質というわずか2層だけが、眼の中へ薬物を通過させる上での主要な障壁である。内皮は、ボーマン及びデスメの膜と同様、薬物通過に対して大きな影響を全く及ぼさない。角膜上皮はそれ自体、薬物に対する親油性障壁を形成する合計厚み50〜100μmの5〜6層の細胞層から成る。それは、眼の中への有害な作用物質の進入を妨げることによる保護機能を有し、同様に、間質水和作用ひいては角膜の透明性を維持する上で内皮を助ける流体分泌組織でもある。上皮の細胞は再生性がきわめて大きく、傷害後3日以内の自己交換能力を有する。角膜厚みの90%を占める間質は、コラーゲン線維が散在する75〜80%の水を含有し、従って、きわめて親水性の高い区画となっている。
【0006】
強膜の下には、眼に対して血液を供給しそれを排出させる血管及び神経を収納する脈絡膜がある。脈絡膜は眼の前面で肥厚して毛様体を形成し、これが房水と呼ばれる水様性液体を分泌する。
【0007】
毛様体には、瞳孔と呼ばれる中央空隙をとり囲む眼の着色部分である虹彩が付着している。虹彩の本源的機能は、瞳孔のサイズひいては眼に進入する光の量を制御することにある。これは、以上で説明されている通り、括約筋の収縮及び散大筋の狭窄を介して達成される。虹彩にその色を与えている色素性メラニンは、強い又は明るい光の吸収を助ける。
【0008】
感光性細胞を含む眼の最も内側の層は、網膜と呼ばれる。網膜は、色覚を担当する錐体及び暗所視のための棹状体を含む光受容体層1層を含めた複数の層で構成されている。錐体の大部分は、斑と呼ばれる小さな限局性部域内に局在化されている。
【0009】
房水は、特に、角膜、水晶体及び硝子体といったような眼の無血管構造のための栄養機能を有する。房水は、約2.5μL/分の速度で毛様体の非色素性上皮の毛様体突起により連続的に産生される。
【0010】
外眼筋が眼球運動を担当する。これらの筋肉は、眼窩尖に由来し、眼球上で終結する。その途中で、外眼筋は同様に、眼窩に対し線維性中隔によっても付着されている。前方では、筋膜平面が腱鞘と融合して強膜を取り囲む。人間の眼の中では、本発明の意味合いでの「外眼筋」は、4本の直筋と2本の斜紋筋により構成されている。直筋は、縁の後約7mmのところで前方に挿入する。その他の外眼筋は、眼瞼の開閉を担当する輪筋及び上直筋との連結を有するミュラー線維である。
【0011】
眼に薬物を送達する上での問題点
眼疾患及び眼障害の治療における主要な問題点は、治療上又は予防上有効な濃度で眼内に生物学的に活性な作用物質を送達する上でのむずかしさにある。眼科薬物の経口投与は、血液−網膜障壁に起因して網膜組織をターゲティングするのにほとんど不適切である。有効量の治療薬を、眼球部域に到達させるためには、高濃度の薬物を頻繁に投与しなければならない。この結果、全身毒性がもたらされ得る。例えば、眼内で高いコルチコステロイドレベルに達するためにパルス療法を使用することができるかもしれない。眼科用薬物の局所投与の現在実践中の方法に付随する問題も同様に存在する。局所投与は一般に、眼の表在表面すなわち角膜及び前眼部が関与する病理においてのみ有効である。局所的薬物投与の現在実践中の方法は、実際、一部の眼球組織、特に虹彩及び毛様体といったような眼球内組織内で適切な薬物濃度を達成する上で有効ではない。眼の網膜、視神経又は硝子体に到達することはさらに一層困難である。さらに、薬物がタンパク質又はペプチドである場合には、角膜を横断する能力が標準的に欠如し眼球内疾患の治療はなおさら困難になり、局所投与の有効性はさらに低くなる。その結果、眼球内疾患の最も一般的な治療は、往々にして眼球内針注入又は眼球内外科手術(例えば低放出系又はカプセル化修飾細胞の外科的植込み)を必要とすることから侵襲的である。
【0012】
外眼球インサートにも同様に欠点がある。数時間で治療用化合物が溶解するため、頻繁に再適用する必要がある。ここでも又これらのインサートは、角膜及び前房にしか薬物を送達しない。
【0013】
かくして、有効な治療を提供するための上述の試みにも関わらず、眼疾患特に眼内疾患を治療するための新しいアプローチに対する長年にわたる切実で深刻なニーズがなおも存在している。
【0014】
治療用生成物特にタンパク質又は核酸を眼内に導入して前記疾患を制御するための適切な方法を規定することが特に有利であると思われる。特に、遺伝子療法は、さまざまな疾患の管理及び治療のための有効なアプローチとして浮上している。有効な遺伝子療法計画の例は、日常的に文献中に現われている(例えば非特許文献1を参照のこと。治療的遺伝子導入は、インビボでの所望のトランス遺伝子の連続的及び/又はターゲティングされた産生といったような潜在的利点を提供する。しかしながら、現在、高い有効性で哺乳動物眼細胞内で核酸形質導入を実施することは困難である。特に、炎症性応答を誘発することなく眼の中にこれらの核酸を導入できるかは疑わしい。その上、眼の内部で最終分化した又は増殖中のヒト細胞を形質導入する手段が欠如している。本発明は、当該技術分野における上述の積年のニーズ及び要望に応えるものである。
【非特許文献1】ロス(Roth)ら、Nature Medicine、第2巻、985〜991頁(1996年)、又はハーミストン(Hermiston)及びカーン(Kirn)、Mol Therapy、第11巻、496〜508頁(2005年)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明者らは実際、対象の毛様体組織又は細胞内及び/又は外眼筋組織又は細胞内に作用物質を投与するステップを含む、薬理学的に活性な作用物質、特に治療用又は予防用核酸を眼球部域に送達するための方法を開発した。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、ここに、動物の対象、好ましくは哺乳動物の対象、特にヒトの対象の眼疾患の安全かつ効果的な予防又は治療のための組成物及び方法を提供する。本発明は、(毛様筋組織及び毛様上皮を含む)毛様体、好ましくは毛様筋及び/又は外眼筋が、眼球特に眼の内部及び後部のための薬学生成物供給タンクとして使用可能であるという本願に基づくものである。
【0017】
本発明は、毛様体組織又は細胞及び/又は外眼筋組織又は細胞内への作用物質の投与を含む、対象の眼球内に生物学的に又は薬学的に活性な作用物質、特に核酸を選択的に移入するための特に効果的な方法について記述している。
【0018】
本発明はさらに、炎症性眼疾患、虚血性疾患、増殖性疾患、神経変性疾患及び緑内障を含む(ただしこれに制限されない)さまざまな眼疾患を予防又は治療するためのかかる方法の、単独での又は付加的な治療と組合わせた形での使用に関する。
【0019】
本発明の第2の態様は、治療すべき対象の毛様体組織又は細胞及び/又は外眼筋組織又は細胞に対し投与することにより眼疾患を治療するための組成物を調製するための治療用核酸の使用に関する。
【0020】
本発明は同様に、対象の毛様体組織又は細胞及び/又は外眼筋組織又は細胞に対して作用物質又は組成物を投与するための電気穿孔装置であって、
(i) 前記組織又は細胞内に組成物を注入するための少なくとも1つの手段であって、それが注入針、注入針電極、少なくとも1つの注入針又は1つの注入針電極を含む極微針アレイ又はそれらの組合せである手段、
(ii) 任意には、組成物の注入を開始するのに充分な深さまで針が挿入された時点でそれを検知するための手段であって、前記深さが好ましくは0.1〜10mmの間、さらに一層好ましくは0.1〜0.9mmの間に含まれている手段、
(iii) 任意には、強膜又は眼結膜の表面上に前記注入手段を位置決めするための手段、及び
(iv) 任意には、予め定められた電気信号を生成するための手段
を含む電気穿孔装置にも関する。
【0021】
本発明のさらなる態様は、本発明に従った電気穿孔装置の遺伝子療法における使用に関する。
【0022】
本発明の上述された及びその他の数多くの特長及び付随する利点は、以下に詳述される。本発明のその他の特長及び利点は、その好ましい実施形態についての以下の記述から明らかになる。
(図面の説明)
図1:ラットの眼におけるインビボエレクトロトランスファ。
A:辺縁周囲気泡の形成を導く毛様筋内の角膜トンネルを通した注入。
B:エレクトロトランスファ手順中の眼球内電極及び辺縁周囲外眼電極。
C:電流印加直後のエレクトロトランスファを受けた部位の外見。
D:環状眼周囲の戻り電極の写真。
図2:pEGFP−C1プラスミドの注入及びエレクトロトランスファ後の毛様領域の横方向切片上のGFP発現。
A:毛様筋(差込み図)を示すヘマトキシリン−エオシン組織像。
a:縦走線維(矢印)及び輪状線維(矢印の頭)を示すより高倍率の拡大図。
B:毛様筋内に局在化したGFPの組織化学。矢印は複数のGFP発現度の高い組織領域を表わしている。核はDAPIで染色されている(複数の例が円で示されている)。
C:毛様筋の平滑線維を示すアルファ平滑筋アクチンの免疫組織化学。矢印は、複数のアクチン発現度の高い組織領域を表わしている。核はDAPIで染色されている(複数の例が円で示されている)。
図3:pEGFP−C1の注入及びエレクトロトランスファの後の毛様領域の前額切片上のGFP発現の局在化。
A:毛様筋の輪状線維を示すヘマラン−エオシン組織学染色。
B:毛様筋の輪状線維内のGFPの発現。GFP発現度の高い組織領域は囲まれている。核はDAPIで染色される(複数の例が円で表わされている)。
C:毛様筋の縦方向線維内のGFPの発現。GFP発現度の高い組織領域は囲まれている。核はDAPIで染色される(複数の例が円で表わされている)。
D:毛様筋の平滑輪状線維を示すアルファ平滑筋アクチンの免疫組織化学。アクチン発現度の高い組織領域は囲まれている。
E:GFPの発現が毛様筋線維内にあることを実証するアルファ平滑筋アクチン及びGFPの同時局在化。赤色及び緑色蛍光の付加の結果としてもたらされた黄色蛍光によって実証された同時局在化された発現領域が囲まれている。核は、DAPIで染色される(複数の例が円で表わされている)。
図4:pEGFP−C1の注入後の前額切片上のGFP発現の局在化。
A:毛様体のわずかな疎細胞上のGFPの発現。矢印は、複数のGFP発現度の高い組織領域を表わす。
a:より高倍率の拡大図。矢印は、複数のGFP発現度の高い組織領域を表わす。核はDAPIで染色される(複数の例が円で示されている)。
図5:毛様領域内でのLUC発現の反応速度。
両眼の毛様筋の中に3μgのプラスミドpVAX2lucを注入した。注入の後、ラットの左眼内でのエレクトロトランスファを行なった。6日目、12日目、22日目及び30日目に6匹のラットを屠殺した。
図6:眼構造の無欠性を示すエレクトロトランスファから5日後の毛様領域の組織学。特に電気穿孔の部位にはいかなる細胞浸潤もいかなる肉芽種も観察されなかった。エレクトロトランスファから5日後に、TUNEL陽性細胞は全く観察されず、この時点でのアポトーシス細胞の不在を示していた。
図7:EIUの臨床的スコア。
A:EIUの臨床的スコア。
EIUに罹患しているもののいかなる治療も受けていない眼(B)(スコア5)又は3μgのpEGFP−C1GFPプラスミドのエレクトロトランスファ後の眼(C)(スコア0)の細隙灯写真。
*:P<0.0001対対照又は生理食塩水+ET又はpVAX2+ET。
図8:EIUの組織学スコア。
A:異なる治療計画後のEIUに罹患した眼の前眼部及び後眼部内の浸潤細胞の平均数。
**:P<0.005対対照;†:P<0.0002対pVAX2+ET;##:P<0.0001対pVAX2hTNFR−Is/mIgG1−ET;*:P<0.005対対照;#:P<0.005対pVAX2hTNFR−Is/mIgG1−ET。
B:対照ラット(a:角膜)(h:虹彩/毛様体)、(c:視神経)から及び3μgのhTNFR−Is/mIgG1.ETで治療されたラット(d:角膜)、(e:虹彩/毛様体)、(f:視神経)からの眼切片の顕微鏡写真。
図9:眼の生体構造。
図10:毛様体及び角膜内へのpCMV−Glucプラスミド(15μg)の注入及びエレクトロトランスファから7日後のガウシア・ルシフェラーゼ(G−ルシフェラーゼ又はGluc)分泌速度。分泌速度は、[1秒あたりの計数(cps)で表現された]蛍光を測定する分光器を用いて測定されている。
図11:毛様筋内へのpCMV−Glucプラスミド(15μg)のさまざまな電気的条件(電圧、パルス持続時間、パルス数及び周波数)での注入及びエレクトロトランスファから7日後のガウシア・ルシフェラーゼ(G−ルシフェラーゼ又はGluc)分泌速度。分泌速度は、[1秒あたりの計数(cps)で表現された]蛍光を測定する分光器を用いて測定されている。
図12:hTNFR−Is/mIgG1及びGlucタンパク質を発現するプラスミド及びpVAX2mEpoプラスミド(10μg)の毛様筋内への注入及びエレクトロトランスファから7日後の房水及び硝子体内でのガウシア・ルシフェラーゼ(G−ルシフェラーゼ又はGluc)、hTNFR−Is/mIgG1及びmEPOタンパク質の分泌。
図13:ラットの毛様体内での注入(エレクトロトランスファ無し)の後のエンドトキシン誘発性ブドウ膜炎(EIU)の臨床スコアに対するpVAX2hTNFR−Is/mIgG1プラスミド(30μg)の効能。毛様体内のTNFR−Isエンコーディングプラスミド30μgの注入は、房水内の274±77pg/mlのTNFR−Isの分泌を可能にする。
図14:それぞれ眼の前眼部及び後眼部内の浸潤細胞の平均数で表現されたラット毛様体内の注入(エレクトロトランスファ無し)後のエンドトキシン誘発性ブドウ膜炎(EIU)の組織学スコアに対するpVAX2hTNFR−Is/mIgG1のプラスミド(30μg)の効能。毛様体内の30μgのTNFR−Isの注入は、房水内で274±77pg/mlのTNFR−Isの分泌速度を可能にする。
図15:環状手段及び針手段又は環状手段及びワイヤ手段を含むさまざまな電極装置を用いて毛様筋内にpCMV−Glucプラスミド(15μg)を注入及びエレクトロトランスファしてから7日後のガウシア・ルシフェラーゼ(G−ルシフェラーゼ又はGluc)の分泌。印加された電界は、その電界強度が200V/cmである8つの電気パルスで構成されている。電界の印加の合計持続時間は各パルスについて20msである。周波数は5Hzである。電極間の転極は、遺伝子送達の効能を修正しない。
図16:2つの電極を含む環状装置の例。注入のため及び/又は電極として、櫛形の第1の手段(灰色)の各先端部を使用することができる。第2の手段(黒色)は、第1の手段から分離されていてもよいし、又は2つの手段の間に一定の距離(2〜5mmの間)を得るようにそれと固く結びつけられていてもよい電極である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明は、生物活性のある作用物質又は生成物、特に核酸を眼細胞、特に眼の内部又は後方部分の細胞内に選択的に移入するための特に効率の良い方法について記述している。本発明は、(毛様筋、特に毛様平滑筋及び毛様上皮を含む)毛様体組織又は細胞内及び/又は(輪筋を含む)外眼筋組織又は細胞に投与することによって標的眼細胞内に核酸を特定的に移入することができるということを実証している。出願人らは本書において、治療用又は予防用生成物、特に治療用又は予防用核酸が、有利には毛様体組織又は細胞及び/又は外眼筋組織又は細胞のレベルで投与され、罹患した眼細胞に分配されるということを記述している。治療的又は予防的生成物を発現する核酸の毛様体組織又は細胞内及び外眼筋組織又は細胞内の注入は、眼球に対して活性作用物質を送達するのに特に魅力的な投与様式を提供する。本発明は実際、毛様体組織又は細胞及び/又は外眼筋組織又は細胞に投与された核酸が前記筋細胞に形質導入し、かくして前記細胞によるコードされた生成物の発現及び/又は分泌を可能にすることになる、ということを示している。分泌は、硝子体内及び/又は、眼の所望の眼球内組織、好ましくは例えば眼の虹彩、毛様体、網膜、視神経又は硝子体自体といったような眼の特定的部分の治療を可能にすることになる房水(眼球内媒質)内への発現生成物の連続的放出を可能にする。治療的又は予防用核酸の毛様体内及び/又は外眼筋内の投与は、眼の内部の治療的又は予防的生成物の大規模生産及び分配を導き、罹患した眼の部域の強力な治療を可能にする。
【0024】
治療用核酸の毛様体(毛様体組織又は細胞及び/又は上皮又は上皮細胞)内及び/又は外眼筋内への投与が、眼の細胞を治療するための新しく非常に効率の高い方法を構成する。本発明によると、外傷及び/又は変性の場所に応じて、作用が所望されている眼球内組織をターゲティングすることが可能となる。特に、本発明は、有利にも、例えば医薬組成物にターゲティング配列を添加することにより異なる眼組織の細胞をターゲティングできるようにする。本発明は、より広汎性で眼球に制限されない前額部内(任意には眼球レベルまで)への定位的な注入に比べて外傷性が低くかつより特定的であるということが本願されてきた。本発明は同様に、例えば硝子体内の前記生成物の直接的投与に比べてインビボでの所望の治療用生成物の連続的かつ/又はターゲッティングされた生産を可能にするためはるかに効率が良いものでもある。
【0025】
かくして本発明の目的は、治療すべき対象の毛様体組織又は細胞及び/又は外眼筋組織又は細胞に対し投与することによって眼疾患を治療又は予防するための組成物を調製することを目的とする生物学的又は薬学的に活性な作用物質、好ましくは治療又は予防用核酸の使用に関する。毛様上皮は特異的にトランスフェクションを受けた時点で、特に高眼圧の治療のため、房水の生産を調節できる翻訳タンパク質又はペプチドを生産するために使用される。毛様上皮内でのトランスフェクションの場合、ペプチド又は翻訳タンパク質は、房水の生産を局所的に調節するように設計されており、従ってこのような場合には局所的投与が必要とされる。
【0026】
投与
前述のように、長年にわたり多大な知識が蓄積されてきたが、従来の方法により真核細胞内に生成物、特にペプチド、タンパク質及び核酸をインビボ投与することには数多くの問題が往々にして付随している。標準的には、治療的効果を得るために、アプタマー又はアンチセンスオリゴヌクレオチドといったような小型核酸を、侵襲針を用いて頻繁に注入しなくてはならない。同様にして、トランスフェクションのためにDNAを送達する場合、異種核酸でのトランスフェクションを受けるべき標的細胞のうちの僅かな割合のみが実際に、トランスフェクションを受けたトランス遺伝子から転写及び翻訳された問題の生成物特に問題のmRNA又はタンパク質を満足のいくレベルで発現する。さらに、合成オリゴヌクレオチドを含むものといったような一部の治療用組成物は、非常に高価で、毒性をもち、分解可能であり、従って非常に局所化された施用、標的細胞内への効率の良い内在化及び頻繁な投与を必要とする。最後に、望ましくない全体的毒性のリスクをもつタンパク質例えばサイトカイン、抗体、抗サイトカイン例えば抗TNFα可溶性レセプタ又は現行の技術からのその他のタンパク質は局所的に送達することが有利である可能性がある。例えば、体系的に投与される抗TNFα可溶性レセプタが結核のリスクを増大させることが示されてきている。本発明に従った方法及び使用は、任意の生物活性をもつ生成物又は作用物質の長期にわたる局所的発現を誘発するように設計されている。出願人らはここで、生物活性をもつ作用物質、特に治療用又は予防用核酸又はかかる作用物質を含む組成物を毛様体組織又は細胞内及び/又は外眼筋組織又は細胞内に投与することにより毛様体組織又は細胞及び/又は外眼筋組織又は細胞は、生理学的及び/又は治療的又は予防的用量で作用物質を生産又は分泌することになる、ということを記述している。筋肉発現生成物は例えば、硝子体及び房水内の連続的放出により、罹患した眼細胞に分配され得る。
【0027】
かくして、本発明の目的は、生物活性をもつ作用物質、特に治療用又は予防用核酸又はかかる作用物質を含む本発明に従った組成物の、治療すべき対象の毛様体組織又は細胞及び/又は外眼筋組織又は細胞への投与に関する。
【0028】
本発明に従った生物活性をもつ作用物質、特に核酸又は組成物は例えば、経結膜、経強膜、経角膜、眼球内(好ましくは外科手術中)又は内視鏡経路によって投与可能である。注入は外科的気体輸注と組合せてか又はこれを伴わずに、硝子体茎切除術の間に実施され得る。投与は、唯一の注入部位により、又は多数の注入部位で実施可能である。
【0029】
本発明の好ましい実施形態においては、投与は、毛様体組織又は細胞内及び/又は外眼筋組織又は細胞内に直接実施され、好ましくは、前記筋肉内への生物活性をもつ作用物質の注入ステップを含む。かかる直接注入は、経結膜、経強膜又は経角膜経路で実施可能である。
【0030】
毛様体組織又は細胞内及び/又は外眼筋組織又は細胞内への直接的投与又は移入は、「遺伝子銃」で用いられる金粒子といった薬学的に送達された生物活性をもつ作用物質でコーティングされた粒子を使用することによって、数多くの技術例えば電気穿孔、外科的処置、熱処置、イオン導入、超音波導入による技術を用いて実施可能である。粒子衝突装置又は「遺伝子銃」では、コーティングされた高密度粒子(例えば金又はタングステン)を、眼組織又は細胞への貫入を可能にする高速まで加速するように推進力が生成される。
【0031】
本発明の好ましい実施形態においては、ここでは「エレクトロトランスファ」という用語でも無差別的に呼称されている電気穿孔法によって投与が実施されるか、又は、注入ステップに加えて電気穿孔ステップが含まれる。電気穿孔には、該出願の中で後により詳細に記述されているように、電界の印加が含まれる。
【0032】
発明者らは、毛様体組織又は細胞内及び/又は外眼筋組織又は細胞内への生物活性をもつ核酸の機械的又は物理的注入が、トランスフェクションを受け持続的マーカー発現を有する細胞を高い百分率で生成することを本願した。
【0033】
上述の方法のいずれかの代りに又はそれらに加えて直接的でない投与も実施することができる。非直接的投与は通常、血流といったような体液内への医薬品の注入を含み、該医薬品は有利には、毛様体組織又は細胞又は外眼筋組織又は細胞に対するアドレッシングシグナル配列を含む。細胞レセプタベースのエンドサイトーシス方法又は化学物質媒介型摂取を用いて、非直接的投与を実施することができる。
【0034】
レセプタベースのエンドサイトーシス方法においては、(細胞表面レセプタに特異的な)リガンドが、問題の医薬品好ましくは核酸と複合体を形成させられる。該複合体はこのとき、対象の血流といった体液の中に注入される。細胞表面レセプタを有する標的細胞はリガンドを特異的に結合させ、リガンド−生成物複合体を細胞内に輸送する。
【0035】
化学物質媒介型摂取は、リン酸カルシウムトランスフェクションであり得、そうでなければ、融合性脂質小胞例えばリポソーム又はその他の膜融合用小胞の使用が関与し得る。問題の医薬品好ましくは問題の核酸を抱く担体は、体液中に適切に導入され得、その後毛様体組織又は細胞及び/又は外眼筋組織又は細胞に部位特異的に導かれ得る。例えば毛様体組織又は細胞及び/又は外眼筋組織又は細胞特異的な治療用又は予防用生成物を担持するリポソームを開発することができ、該リポソームが担持する生成物をこれらの特異的細胞に吸収させることができる。毛様体組織又は細胞上及び/又は外眼筋組織又は細胞上の特異的レセプタに対しターゲティングされた免疫リポソームの注入を、そのレセプタを担持する眼球筋細胞内に治療用又は予防用生成物を挿入する適切な方法として使用することができる。
【0036】
毛様体組織又は細胞及び/又は外眼筋組織又は細胞に対する機械的、物理的又は化学的送達のいずれか、又はこれらの異なる方法の組合せには、毛様体組織又は細胞及び/又は外眼筋組織又は細胞内での薬物の拡散を増強し場合によって細胞摂取を増強させることになるヒアルロニダーゼ、ジスパーゼ、アルファキモトリプシンなどといった酵素の予備的使用が関与し得る。
【0037】
ひとたび細胞内に入ると、細胞又は核(nuclear、nucleus)環境内においてヌクレオチド配列に治療用物質を生産させることができる(エピソーム性か又は染色体への組込み後)。核取込みされたヌクレオチド配列は、以上で説明された通り、永久的を含め長期間にわたり治療用生成物を生産することができる。
【0038】
所望の治療用又は予防用生成物は、例えば生成物が核酸である場合、レシピエントである毛様体組織又は細胞及び外眼筋組織又は細胞内で突然変異が発生することなく核酸レベルを維持するように、生成物レベルを維持するべく周期的に再投与されてもよい。
【0039】
電気穿孔
標的細胞内への核酸のインビボ移入を可能にするか増強する方法の中でも、特に電気穿孔を挙げることができる。電気穿孔手段は、核酸といったような生物活性をもつ作用物質に対する細胞膜及び/又はターゲティングされた組織の少なくとも一部分の透過性を担当し、つまりこれを増加させる。さらに、電気泳動効果により組織を通して又は細胞膜を横断して細胞内に作用物質を輸送するか又は移動させることができるようにするため、一定の与えられた電界強度をもつ短かい電気インパルスが使用される。電気穿孔技術は、当業者にとって周知である。
【0040】
この方法は、細胞が、一般に電流を通過させることのできない電気コンデンサとして作用するという原理に基づいて機能する。細胞を電界に付すことにより、細胞膜の中に過渡的な透過性構造又は微細孔が作り出される。細孔は、調合薬及び/又は核酸が細胞に出入りできるように充分なほどに大きいものである。細胞膜内に簡単に形成された「細孔」の結果として、生物活性をもつ分子は最初、細胞質又は核の中に入り、この中でこれらの分子は必要な場合には研究対象とすべきそれらの機能をすでに発揮することができる。経時的に、細胞膜内の細孔は閉じ、細胞は再び不透過性となる。細孔効果に加えて、ポリアニオン荷電ヌクレオチドは同様に、印加された電気パルスの電気泳動効果により、組織及び細胞内へと駆動される。
【0041】
本願では、出願人らは、毛様体組織又は細胞内及び/又は外眼筋組織又は細胞内への生物活性をもつ作用物質の移入が、約1〜600ボルト/cm、好ましくは1〜400ボルト/cmの間、さらに一層好ましくは約50〜200ボルト/cmの間、有利には約50〜150ボルト/cm、75〜150ボルト/cm又は50〜100ボルト/cmの間の電界強度をもつ1つ以上の電気パルスから成る電界を所望の眼組織に印加することによって可能となる又は増加し得るということを実証している。本発明において使用可能である特に好ましい電界強度は、200ボルト/cmの強度である。
【0042】
電界の合計印加時間は、0.01ミリ秒〜1秒の間、好ましくは0.01〜500ミリ秒の間、より好ましくは1〜500ミリ秒の間、さらに一層好ましくは1又は10ミリ秒超であり得る。好ましい実施形態においては、電界の合計印加時間は10ミリ秒〜100ミリ秒の間であり、好ましくは20ミリ秒である。
【0043】
印加される電気パルスは、例えば1〜100,000個の間であり得る。その周波数は0.1〜1000ヘルツの間に含まれていてよい。これは好ましくは一定の周波数である。電気パルスは、同様に、互いに不規則に送達されてもよく、1つのパルスに関する時間の関数として電界の強度を表す関数は、好ましくは可変的である。送達される電界は、例えば、少なくとも1ミリ秒未満の400ボルト/cm超の第1の電界と400ボルト/cm未満で約1ミリ秒の1つ以上の電気パルスとの組合せであり得る。送達される電界は、さらに、例えば少なくとも1ミリ秒未満の200ボルト/cm超の第1の電界と、200ボルト/cm未満で約1ミリ秒の1つ以上の電気パルスとの組合せであり得る。
【0044】
時間に伴う電界の変動を表す関数の積分は好ましくは1kV×ミリ秒/cm超、さらに一層好ましくは5kV×ミリ秒/cm以上である。
【0045】
好ましい実施形態においては、組織又は細胞に印加される電界は、周波数が1〜10Hzの間、好ましくは5Hzである1〜10個のパルスの間、好ましくは8個のパルスである。
【0046】
電気パルスは単極又は双極波パルスであり得る。これらは、例えば方形波パルス、指数関数的逓減波パルス、制限された持続時間の単極振動波パルス、制限された持続時間の双極振動波パルス又はその他の波形の中から選択され得る。優先的に、電気パルスは、方形波パルス又は双極振動波パルスを含む。
【0047】
本発明の特定の実施形態においては、投与は、1パルスあたり20msの電界の合計印加時間について各パルスの強度が200ボルト/cmである、5Hzの周波数の8単極方形波パルスを含む電界を組織に対して印加することを伴う電気穿孔ステップを含む。
【0048】
電気穿孔は、標準的には組織表面に印加される電極対の間に電圧パルスを印加することによって実施される。電圧は、電極間の距離に比例して印加されなくてはならない。電極間の距離が過度に大きい場合、生成される電界は、組織内に奥深く侵入し、そこでこれは不快な神経及び筋肉反応をひき起こす。
【0049】
本発明においては、電圧パルスは好ましくは、1センチメートル未満だけ互いに離隔した少なくとも2つの電極を用いて印加されるようになっており、前記電極のうちの少なくとも1つが毛様体組織又は細胞内又は外眼筋組織又は細胞の中に導入される。好ましくは、前記電極のうちの少なくとも1つが強膜又は眼結膜、好ましくは辺縁結膜上に適用される。
【0050】
電極は、好ましくは、互いに10ミリメートル未満、より好ましくは9、8、7、6、5、4、又は3ミリメートル未満、さらに一層好ましくは2ミリメートル又は1ミリメートル未満だけ離隔されている。
【0051】
本発明に従った上述の使用においては、電気穿孔ステップの前後、その間に、好ましくはこのステップの前に、イオン導入ステップを実施することができる。イオン導入は、(例えば0.5〜2mA/cm2の間である密度といったような)小さい電流密度が関与する電界を用いて組織を通して体内に生成物を投与することを特徴とする。1つの電極を治療すべき部位に配置し、一方電気回路を閉じるよう意図された第2の電極を体のもう1つの部位に設置する。これらのイオン導入電圧は0.001〜40V/cmの範囲内にあり、数秒から最長数時間(経眼瞼イオン導入について)、好ましくは最長10分、より一層好ましくは最長7分又は最長5分間(イオン導入が直接眼に適用される場合)持続する。
【0052】
イオン導入を通した治療薬の経皮的(transdermal、transcutaneous)送達用の装置が皮ふ又は眼疾患を治療するために一般に用いられており、かくしてすでに開示されてきた。従って当業者であれば、標的細胞を含む眼組織に適したイオン導入装置及びその使用条件、特に電流密度、電流印加時間及び電極形態及び場所などを容易に選択し決定することができると思われる。本発明に従った方法における上述の通りの生物活性をもつ作用物質、好ましくは核酸の眼内送達のために使用することのできるイオン導入装置のうち、米国特許第6,514,671号明細書において開示されているイオン導入システムが好ましい。
【0053】
装置
本発明は同様に、本発明に従った送達方法の中で使用可能な装置にも関する。特定の実施形態においては、前記方法は電気穿孔ステップで構成されているか又はこれを含んでいる。しかしながらかかる電気穿孔ステップは、療法に適した条件で、毛様体組織又は細胞内又は外眼筋組織内で本発明に従った組成物の注入を達成するのに義務的なものではない。
【0054】
かくして本発明の目的は、対象の毛様体組織又は細胞及び/又は外眼筋組織又は細胞に対して組成物を投与するための電気穿孔装置であって、
(i) 前記組織又は細胞内に組成物を注入するための少なくとも1つの手段であって、それが注入針、注入針電極、少なくとも1つの注入針又は1つの注入針電極を含む極微針アレイ又はそれらの組合せである手段、
(ii) 任意には、組成物の注入を開始するのに充分な深さまで針が挿入された時点でそれを検知するための手段であって、前記深さが0.1〜10mmの間、好ましくは0.2〜0.9mmの間に含まれている(有利には、この深さは約0.5mm又は厳密に0.5mmである)手段、
(iii) 任意には、強膜又は眼結膜の表面上に前記注入手段を位置決めするための手段、及び
(iv) 任意には、予め定められた電気信号を生成するための手段
を含む電気穿孔装置に関する。
【0055】
組成物を注入するための手段は、注入針、注入針電極、少なくとも1つの注入針又は1つの注入針電極を含む極微針アレイ又はその組合せであり得る。注入針及び/又は注入針電極の長さに沿ってならびにその端部に、注入された物質の分配を改善させるための穴を設けることができる。さらに、注入針及び/又は注入針電極のうちの1つ以上のものは中空であり得、毛様体組織又は細胞内及び/又は外眼筋又は細胞内に治療用又は予防用作用物質を注入できるようにする開口部を内含し得る。代替的には、組成物を注入するための手段は、遺伝子銃装置、カテーテルなどといった当該技術分野に熟練した実験者が熟知している任意の手段であり得る。
【0056】
注入針又は注入針電極の長さは、0.1mm〜4cmの間に含まれるものであり得る(例えば3、2又は1.5cm)。標的組織(毛様体組織又は外眼筋組織)に侵入する注入針又は注入針電極部分の長さは、有利には0.1mm〜2cmの間、好ましくは0.1mm〜10mmの間、さらに一層好ましくは0.2〜0.9mmの間に含まれる(例えば3、4、5、6、7又は8mm)。注入針又は注入針電極の長さは好ましくは、約0.1〜0.9mmの間に含まれ(例えば0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7又は0.8mm)、好ましくは約0.5mm又は厳密に0.5mmである。
【0057】
該装置はさらに、組成物の注入を開始させるのに充分な深さまで針が挿入された時点でそれを検知するための手段を含むことができ、ここで前記深さは0.1〜10mmの間、好ましくは2〜9mmの間に含まれている。例えばこの深さはおよそ又は厳密に0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、2、3、4又は5mmである。本発明に従った組成物の注入をいつ開始するかを選択することができる。理想的には、針の先端部が問題の毛様体組織(筋肉又は上皮)又は外眼筋組織に達した時点で、注入が開始され、装置は好ましくは、組成物の注入を開始するのに充分な深さまで針が挿入された時点でそれを検知するための手段を含んでいる。このことはすなわち、針が(通常は筋肉組織が開始する深さとなる)所望の深さに達した時点で自動的に組成物の注入を開始するよう促すことができる、ということを意味している。筋肉組織が開始する深さは、例えば0.1〜10mm、好ましくは2〜9mmの間に含まれる予め設定された針挿入深さとなるように取ることができる。例えば、この深さは、針が強膜又は眼結膜にたどりつくのに充分であるとみなされるおよそ又は厳密に0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、2、3、4又は5mmであり得る。
【0058】
1つの好ましい実施形態においては、検知手段は超音波プローブを含む。
【0059】
代替的な好ましい実施形態においては、該検知手段は、インピーダンス又は抵抗の変化を検知するための手段を含む。この場合、該手段は、かくして体内組織の中の針の深さを記録するのではなく、むしろ針がさまざまなタイプの体内組織から眼の中へと移動するにつれてインピーダンス又は抵抗の変化を検知するように適合されている。
【0060】
望まれる場合にはさらに針の挿入深さを記録することができ、これを用いて、注入すべき組成物の量が針挿入深さの記録につれて決定されるような形で組成物の注入を制御することができる。
【0061】
上述の装置はあらゆるタイプの注入のために使用することができる。ただしこれは、電気穿孔の分野で特に有用であるものと想定されており、従って好ましくはこれは、特に予め定められた電気信号を生成するため針に電圧を印加するための手段をさらに含んでいる。こうして、該針は注入のためだけでなく電気穿孔中に電極としても使用することができる。このことは、電界が注入された組成物と同じ部域に印加されることを意味することから、きわめて有利である。
【0062】
好ましい実施形態においては、注入装置には、互いに1センチメートル未満だけ離隔している少なくとも2つの電極が含まれており、前記電極のうち少なくとも1つはその他の電極のものと異なる極性を有する。有利には、前記少なくとも2つの電極のうちの少なくとも1つは先に定義された通りの注入手段である。
【0063】
電極は好ましくはワイヤタイプの電極及び平板コンタクトタイプの電極から選択され、各タイプの電極は、強膜又は眼結膜、好ましくは辺縁結膜の表面上に反転可能な形で適用されるように任意に適合されている(例えばそれらが少なくとも部分的に環状である場合)。
【0064】
第1の実施形態においては、ワイヤタイプの電極は、例えば、好ましくは辺縁から数ミリメートル、好ましくは1.5〜4mm(さらに一層好ましくは成人の眼の中の辺縁から2.5mm)の距離のところで組成物を注入する一方で作られた唯一のトンネル又は複数のトンネルのうちの1本の中で、眼の中に経結膜及び経強膜的に導入され得る。ワイヤは例えば辺縁に平行に導入される。ワイヤはこのとき約2〜10mmの間に含まれる距離で毛様体内に進入可能である。かかるワイヤ電極は、少なくとも1つの平板コンタクトタイプの電極、又は少なくとももう1本のワイヤ電極(例えば環状)又はこれらの組合せと共に使用することができる。環状電極は、例えば、戻り電極として使用可能であり、例えば眼球内ワイヤ電極から1〜9ミリメートルの間に含まれる距離のところで、辺縁のまわりを角膜を通して導入され得る。好ましくは2つ以上の電極が同時に使用される。
【0065】
2つの電極のみが使用され、例えば両方が環状電極である場合、1つの電極は、不利な効果を全く誘発することなくもう一方の電極を被覆することができる。
【0066】
上述の要領で使用されるワイヤタイプの電極は、その他の電極タイプに比べ侵襲性が低くさらに使用が容易であることから有利である。ワイヤ電極は同様に電極の電気的表面積の増大を可能にし、かくしてより優れたトランス遺伝子発現を導く。
【0067】
第2の実施形態においては、ワイヤタイプの電極の形状は、環又はその一部分の形である。かかるワイヤは有利にも、強膜又は眼結膜、好ましくは辺縁結膜の表面上に反転可能な形で適用されるように適合されている。
【0068】
ワイヤ電極の長さは、1ミリメートルから3センチメートルの間、好ましくは1〜10ミリメートルの間に含まれ得る。ワイヤ電極は、環状をしている場合、さらに長いもの(5、3センチメートル又はそれ以下)となる。当然のことながら、経強膜的に導入されるように適合された場合、それはより短かいものとなる(例えば1、2、3、4又は4ミリメートル)。
【0069】
平板コンタクトタイプの電極は、湾曲していてもいなくてもよい。これは同様に、少なくとも2個の先端部(好ましくは3〜20個、例えば4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18又は19個の先端部)を含む櫛の様に設計されていても、又そうでなくてもよく、前記先端部のうちの少なくとも1つは、該装置の注入手段を含む。ワイヤ電極の幅は好ましくは約1センチメートル未満、好ましくは0.5ミリメートル未満である。
【0070】
特定の実施形態においては、平板コンタクト電極は、好ましくは剛性材料でできており、強膜又は眼結膜の表面の幾何形状に適合し湾曲した形状を有する。
【0071】
さらなる実施形態においては、平板コンタクト電極は好ましくは、強膜又は眼結膜の表面の幾何形状に適合した可とう性材料で作られている。
【0072】
少なくとも2つの電極は好ましくは1.5又は1センチメートル未満、さらに一層好ましくは15又は10ミリメートル未満、好ましくは14、13、12、10、9、8、7、6、5、4、3又は2ミリメートル未満だけ離隔している。各電極間の距離は有利には1ミリメートルさらにはそれ以下である。
【0073】
装置が少なくとも2つの電極を含む場合、前記電極は独立したものであっても、互いに連結されていてもよい。
【0074】
電極は有利には、例えばイリジウム又は白金から選択される導電性の非酸化金属で作られている。本発明に従った装置は有利には、注入の前及びその間に強膜又は眼結膜の表面上に前述の注入手段を位置決めする、及び/又は維持するための手段を含み得る。位置決め手段は、有利には、強膜又は眼結膜、好ましくは辺縁結膜の表面上に反転可能な形で適用されるように適合されている。
【0075】
位置決め手段は、注入手段に対し反転可能な形で連結され得る。それは、少なくとも1つの電極及び/又は針が眼内の充分な深さまで挿入された時点でそれを検知するための手段にさらに連結され得る。
【0076】
位置決め手段は環状手段又はその一部であり得る。それは、剛性材料製であり得、強膜又は眼結膜の表面の幾何形状に適合された湾曲した形状を有していてよく、そうでなければ、強膜又は眼結膜炎の表面の幾何形状に適合した可とう性材料でこれを作ることもできる。
【0077】
1つの特定の実施形態においては、本発明に従った装置の位置決め手段は、少なくとも2つの先端部を含む、湾曲していてよい櫛様に設計されており、前記少なくとも2つの先端部のうちの少なくとも1つは、前述の通り注入手段を含む。
【0078】
環状位置決め手段の内径は、好ましくは10〜20mmの間、さらに一層好ましくは13〜14ミリメートルの間に含まれ、環状位置決め手段の外径は、好ましくは15〜25ミリメートルの間、さらに一層好ましくは15〜16ミリメートルの間に含まれる。
【0079】
先端部の長さは好ましくは0.1mm〜3mm又は1mmの間、好ましくは0.4mm〜0.8mmの間に含まれ、さらに一層好ましくは0.5mmである。
【0080】
環状手段又はその一部分と先端部との間の角度は、所要注入深さによって変動し、1°〜90°の間、例えば5°、10°、20°、30°、40°、50°、60°、70°及び80°であり得る。
【0081】
特定の一実施形態においては、本発明に従った装置の位置決め手段は、複数の注入針及び/又は針電極が中を通って延びる複数の中ぐりを有することもでき、針電極に対応する中ぐりは、使用中に1つの電源に対し各々の電極を接続できるような形で導線に別々に接続されている。針の絶縁部分に隣接する生体組織を使用中に電極が生成する電界から絶縁するように、各電極の中央部分に沿って絶縁部分を具備することができる。
【0082】
もう1つの特定の実施形態においては、本発明に従った装置の位置決め手段は環状をしていてよく、環の両側に挿入された電極を有し得る。このとき第1の電極セットを注入手段として、かつ同時に正又は負の電極としても使用することができ、一方残りの電極(第2の電極セット)は、第1の電極セットと異なる極性を有する。両方の電極セット共、毛様体(特に毛様筋)の中に挿入することができる。電極間の距離は、好ましくは10〜20ミリメートルの間、さらに好ましくは12〜17ミリメートルの間に含まれる。この特定のケースにおいては、平板−コンタクト−戻り電極をさらに使用する必要はない。
【0083】
本発明に従った特定の装置は、以下のものを含んでいる。
(i) 前記組織又は細胞内に組成物を注入するための少なくとも1つの手段であって、それが少なくとも2つの注入針電極を含む極微針アレイである手段、
(ii) 任意には、組成物の注入を開始するのに充分な深さまで針が挿入された時点でそれを検知するための手段であって、前記深さが0.1〜10mmの間、好ましくは2〜9mmの間に含まれている(有利にはこの深さはおよそ又は厳密に0.7又は0.5mmである)手段、
(iii) 強膜又は眼結膜の表面上に前記注入針電極又は極微針アレイを位置決めするための手段であって、環状でかつ少なくとも2つの先端部を含む櫛の様に設計され、前記先端部の各々が少なくとも2つの注入針電極のうちの少なくとも1つを含んでいる手段、及び
(iv) 予め定められた電気信号を生成するための手段。
【0084】
上述のもののような装置においては、使用される電極の唯一のアレイは、注入手段であり、それぞれに櫛の各先端部内に含まれている1つの電極と次の電極の間で交互の極性を付与する電源(電気信号を生成するための手段)を用いて電気パルスが送達され得る。
【0085】
装置はさらに組成物の輸液のためのパイプシステムを含み得る。
【0086】
投与される組成物には、本出願内で記述されている通りの本発明に従った組成物、又は生物活性をもつ作用物質、好ましくは治療用又は予防用の核酸が含まれる。
【0087】
投与はインビボで実施されることから、外部の非侵襲的電極との電気的連続性を確保することのできる中間生成物を使用することが時として有用であり得る。例えば、それは、上述の本発明に従った組成物を調製するのに用いられるものといったような電解質であり得る。
【0088】
本発明は少なくともその好ましい実施形態において、インビボで特に遺伝子療法において使用することのできる装置を提供しようとしている。
【0089】
薬理活性をもつ作用物質
本発明は、毛様体組織又は細胞及び/又は外眼筋組織又は細胞での投与が眼組織又は細胞に対して薬理活性をもつ作用物質を送達するための手段を提供するという本願に関係する。
【0090】
かかる作用物質は、天然に又は非天然に発生するものであり得る。非天然発生分子は例えば、人工的、合成、キメラ又はトランケートされた分子であり得る。
【0091】
本書で使用されているように、天然発生分子は、所望であれば「実質的に精製され」得、そのため、その分子を含有する天然発生調製物の中に存在するか又は存在し得る1つ以上の分子は除去されてしまっているか、又はそれが通常本願されるはずの濃度よりも低い濃度で存在することになる。
【0092】
本書で使用される通りの治療用生成物又は薬理活性をもつ作用物質は、例えば核酸分子、タンパク質及びそのあらゆる誘導体又は一部分から選択される、生物活性をもつ有機分子を含む。これらの作用物質は、人工的又は合成(とりわけ生合成)由来のものであり得、そうでなければ、ウイルス(例えばAAV又はADV)から、又は単細胞又は多細胞真核又は原核性物から抽出可能である。これらは例えば、ヒト由来、その他の哺乳動物、植物、細菌又はウイルス由来のものであり得、そうでなければ、所望の生物学的効果を保持するその誘導体であり得る。
【0093】
本発明の作用物質は事実、好ましくは、構造的属性、例えばもう1つの核酸分子に対しハイブリッド形成する1つの核酸の能力又は抗体によって結合される(又はかかる結合のためもう1つの分子と競合する)タンパク質の能力のいずれかに関して「生物活性を有する」ことになる。代替的には、かかる属性は触媒属性であり得、かくして、これには、予防的又は治療的生物学又は化学反応を調節、媒介又は誘発する作用物質の能力が関与し得る。
【0094】
本書で使用する「誘導体」という用語は、ポリペプチド又はヌクレオチド配列の化学的修飾体を意味する。
【0095】
ポリヌクレオチド配列の化学的修飾には、例えばアルキル、アシル又はアミノ基による水素の交換が含まれる可能性がある。誘導体ポリヌクレオチドは、天然分子の少なくとも1つの生物学的機能を保持するポリペプチドをコードする。誘導体ポリペプチドは、例えばグリコシル化又はその他の任意のプロセスによって修飾され、その誘導のもととなったポリペプチドの少なくとも1つの生物学的機能を保持しているものである。
【0096】
本書で使用される「遺伝子」又は「組換え遺伝子」という用語は、エクソン及び(任意には)イントロン配列を含む生物活性をもつ作用物質をコードする読取り枠を含む核酸を意味する。
【0097】
本発明に従った特に好ましい薬理活性をもつ作用物質すなわち治療用又は予防用作用物質は核酸である。
【0098】
本発明で使用されるべき核酸は、問題の任意の核酸、すなわち以上で説明されている通り生物学的特性を示す任意の核酸であり得る。より詳細には、該核酸は、上述の通り、生物活性を示す天然の、トランケートされた、人工の、キメラ又は組換え型の生成物[例えば問題のポリペプチド(タンパク質又はペプチドを含む)、RNAなど]をコードするあらゆる核酸であり得る。核酸は、好ましくは、デオキシリボ核酸(DNA)分子(cDNA、gDNA、合成DNA、人工DNA、組換えDNAなど)又はリボ核酸(RNA)分子(mRNA、tRNA、RNAi、RNAsi、触媒RNA、アンチセンスRNA、ウイルスRNAなど)である。該核酸は、1本鎖又は多重鎖核酸、好ましくは2本鎖核酸であり得、そうでなければ複合体形成されていてもよい。該核酸は、ハイブリッド配列又は合成又は半合成配列を含み得る。それは当業者にとって既知のあらゆる技術によって得られ、特にライブラリスクリーニング、化学合成又は代替的にはライブラリスクリーニングによって得られた配列の化学的又は酵素的修飾を含む混合型方法によって得ることができる。
【0099】
特定の実施形態においては、治療用核酸は、合成又は生化学由来のものであるか又はウイルスから又は単細胞又は多細胞真核又は原核生物から抽出される。
【0100】
本発明で使用される治療用核酸は、毛様体組織又は細胞及び/又は外眼筋又は細胞に投与される場合、裸の核酸であっても、又任意の化学的、生化学的又は生物学的作用物質に複合されても、又ベクターなどの中に挿入されてもよい。
【0101】
本書で使用されている通り、「裸のDNA」という用語は、前記DNAの送達又は移入を改善するか又は細胞内へのその進入を促進する合成、生合成、化学、生化学又は生物学的作用物質に組合わされていないあらゆる核酸分子を意味する。
【0102】
本書で使用される「ベクター」という用語は、自らが連結されているもう1つの核酸を輸送する能力をもつ核酸分子を意味する。この用語は同様に、本出願においては、その細胞送達を増大させるため治療用又は予防用核酸に結びつけられる組成物といったようなあらゆる送達担体をも意味している。
【0103】
好ましいベクターは、それらが連結されている核酸の自己複製及び/又は発現能力をもつベクターである。自らが操作可能な形で連結されている遺伝子の発現を導く能力をもつベクターは、本書では「発現ベクター」と呼ばれている。一般に、組換えDNA技術において有用な発現ベクターは、往々にして、そのベクター形態では染色体に結合されない環状2本鎖DNAループを意味する「プラスミド」の形をしている。本発明においては、プラスミドは、ベクターの最も一般的に使用されている形態である。プラスミドは、本発明に従った裸のDNAの好ましい形態である。
【0104】
ベクターは同様に、エピソームDNA、酵母人工染色体、ミニ染色体又はウイルスベクターでもあり得、ここで該ウイルスベクターはレンチウイルス、アデノウイルス、アデノ関連ウイルス及びウイルス様ベクターからなる群から選択される。
【0105】
ベクターは同様に、リポソームといったような脂質小胞でもあり得る。リポソームではない脂質ベースの化合物をさらに使用することができる。例えば、リポフェクチン及びサイトフェクチンは、負に帯電した核酸に結合しかつ細胞膜を横断してDNAを運ぶことのできる複合体を形成する脂質ベースの正のイオンである。本発明は、同等の機能を果たし、その後で当該技術において知られるようになったその他の形態の発現ベクターを含み入れるように意図されている。
【0106】
さらに、本発明に従った核酸は同様に、例えば、毛様体組織又は細胞及び/又は外眼筋又は細胞の中での発現を可能にしかつ/又はそれを促進する配列、転写終結シグナル、分泌配列、複製起点及び/又は細胞核に対するポリヌクレオチド移入をさらに増強する核局在化シグナル(nls)配列などのプロモータ領域(構成的、調節される、誘発可能、組織特異的領域など)といった当業者が利用できる小型又は大型の調節要素などの1つ以上の付加的な領域を含有し得る。このようなnls配列は、SV40大型T抗原配列を含め、文献中で記述されてきている(ディングウォール(Dingwall)及びラスキー(Laskey)、Trends Biochem.Sci.第16号(1991年)478頁;カルデロン(Kalderon)ら、Nature第311号(1984年)33頁)。
【0107】
加えて、核酸はさらに、核酸移入の結果(どの組織への移入か、発現持続時間など)を選択、測定及び監視する上で有用である選択可能なマーカーを含み得る。使用可能な又は使用に適合させることのできる発現系及びレポータ遺伝子のタイプは、当該技術分野において周知である。例えば、ルシフェラーゼ活性、アルカリホスファターゼ活性又は緑色蛍光タンパク質活性についてコードする遺伝子が一般的に使用されている。アウスベル(Ausubel)ら、[Current Protocols in Molecular Biology、John Wiley & Sons、N.Y.(1989年)、及び1999年5月までの追補]を参照のこと。
【0108】
本発明に従った核酸はあらゆるサイズのあらゆるヌクレオチド配列を含有し得る。かくして核酸は、単純なオリゴヌクレオチドからより大きな分子、例えばエクソン及び/又はイントロン及び/又はあらゆるサイズ(大または小)の調節要素を含むヌクレオチド配列、あらゆるサイズ、例えば大きなサイズの遺伝子又は例えば染色体に至るまで、サイズが変動していてよく、プラスミド、エピソーム、ウイルスゲノム、ファージ、酵母人工染色体、ミニ染色体、アンチセンス分子などであり得る。
【0109】
特に好ましい実施形態においては、ポリヌクレオチドは、生物活性を有する生成物をコードするプラスミドといったような2本鎖環状DNAである。
【0110】
核酸は、増幅、原核又は真核宿主細胞内での培養、精製などといった従来の組合せDNA技術に従って調製及び生産可能である。組換えDNA技術の技法は、当業者にとっては既知のものである。組換え分子のクローニング及び発現のための一般的方法は、本明細書に参照により援用されているマニアティス(Maniatis)ら、(「Molecular Cloning」、Cold Spring Harbor Laboratories、1982年)中、及びアウスベル(Ausubel)ら(「Current Protocols in Molecular Biology」、Wiley and Sons、1987年)の中で記述されている。
【0111】
好ましい生物活性をもつ物質は、眼科用活性物質、すなわち、眼細胞に対し有益な効果を及ぼす能力をもつ物質である。それは過剰な内因性物質の低減における、又はその欠如を代償する能力を有する物質であり得る。代替的には、それは細胞に対し新しい特性を付与する物質であり得る。これは例えば、眼細胞の機能、形態、活性及び/又は代謝に影響を及ぼし得るポリペプチド又はアンチセンス配列であり得る。
【0112】
アンチセンス核酸を用いた遺伝子発現のダウンレギュレーションは、翻訳又は転写レベルで達成可能である。本発明のアンチセンス核酸は好ましくは、内因性眼活性物質をコードする核酸と特異的にハイブリッド形成する能力をもつ核酸フラグメント又は対応するメッセンジャRNAである。これらのアンチセンス核酸は、任意にはその安定性及び選択性を改善するべく修飾される合成オリゴヌクレオチドであり得る。これらは同様に、細胞内でのその発現が、内因性眼科用活性物質をコードするmRNAの全て又は一部分に相補的なRNAを生産させるDNA配列でもあり得る。アンチセンス核酸は、反対の向きでの内因性眼科用活性物質をコードする核酸の全部又は一部分の発現により調製され得る。それが内因性眼科用活性物質の発現をダウンレギュレートするか又は遮断する能力を有するかぎり、アンチセンス配列のあらゆる長さが本発明の実践に適している。好ましくは、アンチセンス配列の長さは、少なくとも20ヌクレオチドである。アンチセンス核酸の調製及び使用、アンチセンスRNAをコードするDNA及びオリゴ及び遺伝的アンチセンスの使用については、その内容が本明細書に参照により援用されている国際公開第92/15680号パンフレットの中で開示されている。
【0113】
以上で記述されている通りの核酸により任意に発現されるか又は生物活性をもつ作用物質として使用可能でありかつ本発明の実践に適している生物活性をもつポリペプチド又はタンパク質としては、酵素、血液誘導体、ホルモン、リンホカイン、サイトカイン、ケモカイン、抗炎症性因子、成長因子、栄養因子、神経栄養因子、造血因子、血管新生因子、抗血管新生因子、メタロプロテイナーゼ阻害物質、アポトーシス調節因子、凝固因子、そのレセプタ、特に可溶性レセプタ、レセプタ又は接着タンパク質のアゴニスト又はアンタゴニストであるペプチド、抗原、抗体、そのフラグメント又は誘導体及び細胞のその他の必須成分がある。
【0114】
さまざまな網膜由来の神経栄養因子が変性光受容細胞を救助する潜在力を有しており(リー(Li)及びターナー(Turner)、1988年a,b;リー(Li)ら、1991年;アンチャン(Anchan)ら、1991年;シードロ(Sheedlo)ら、1989年、1993年;ギュモ(Guillemot)及びセプコ(Cepko)、1992年;スティール(Steele)ら、1993年)、本発明に従った方法を通して送達可能である。
【0115】
好ましい生物活性をもつ作用物質は、VEGF、アンギオジェニン、アンギオポイエチン−1、Del−1、酸性又は塩基性線維芽細胞成長因子(aFGF及びbFGF)、FGF−2、フォリスタチン、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、肝細胞成長因子(HGF)、散乱因子(SF)、レプチン、ミッドカイン、胎盤成長因子(PGF)、血小板由来内皮細胞成長因子(PD−ECGF)、血小板由来成長因子−BB(PDGF−BB)、プレイオトロフィン(PTN)、プログラニュリン、プロリフェリン、形質転換成長因子−アルファ(TGF−alpha)、形質転換成長因子−ベータ(TGF−beta)、腫瘍壊死因子−アルファ(TNF−alpha)、血管内皮成長因子(VEGF)、血管透過因子(VPF)、CNTF、BDNF、GDNF、PEDF、NT3、BFGF、アンギオポイエチン、エフリン、EPO、NGF、IGF、GMF、aFGF、NT5、Gax、成長ホルモン、α−1−アンチトリプシン、カルシトニン、レプチン、アポリポタンパク質、ビタミン生合成酵素、ホルモン又はニューロメディエータ、ケモカイン、サイトカイン例えばIL−1、IL−8、IL−10、IL−12、IL−13、それらのレセプタ、前記レセプタのいずれかを遮断する抗体、TIMP、例えばTIMP−1、TIMP−2、TIMP−3、TIMP−4、アンギオアレスチン、エンドスタチン、例えばエンドスタチンXVIII及びエンドスタチンXV、ATF、アンギオスタチン、エンドスタチン及びアンギオスタチンの融合タンパク質、マトリックスメタロプロテイナーゼ−2のC−末端ヘモペキシンドメイン、ヒトプラスミノゲンのクリングル5ドメイン、エンドスタチン及びヒトプラスミノゲンのクリングル5ドメインの融合タンパク質、胎盤リボヌクレアーゼ阻害物質、プラスミノゲン活性剤阻害因子、血小板因子−4(PF4)、プロラクチンフラグメント、プロリフェリン関連タンパク質(PRP)、抗血管新生抗トロンビンIII、軟骨由来阻害物質(CDI)、CD59補体フラグメント、バスキュロスタチン、バソスタチン(カルレチキュリンフラグメント)、トロンボスポンジン、フィブロネクチン、特にフィブロネクチンフラグメントグロ−ベータ、ヘパリナーゼ、ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)、インターフェロンアルファ/ベータ/ガンマ、インターフェロン誘発性タンパク質(IP−10)、インターフェロン−ガンマ誘発型モノキン(Mig)、インターフェロン−アルファ誘発性タンパク質10(IP10)、Mig及びIP10の融合タンパク質、可溶性Fms−様チロシンキナーゼ1(FLT−1)レセプタ、キナーゼ挿入ドメインレセプタ(KDR)、アポトーシスの調節因子、例えばBcl−2、Bad、Bak、Bax、Bik、Bcl−X短イソ型及びGax、それらのフラグメント又は誘導体などから選択され得る。
【0116】
特に好ましい実施形態においては、核酸は、TNFαレセプタ、TGFβ2レセプタ、VEGFR−1、VEGFR−2、VEGFR−3、CCR2又はMIP1の可溶性フラグメントをコードする。
【0117】
核酸は同様に、もう1つの好ましい実施形態において、抗体、1本鎖抗体の可変フラグメント(ScFv)又は免疫療法を目的として認識能力をもつその他のあらゆる抗体フラグメントをコードし得る。
【0118】
本発明の特定の実施形態においては、生物活性をもつ核酸は、以上で記述したもののような本発明の中で使用可能である治療用タンパク質の前駆体をコードする。
【0119】
その上、本発明のもう1つの実施形態においては、生物活性をもつ全く異なる生成物をコードする核酸の混合物を使用することができる。この変形形態によると、眼細胞中の異なる生成物の同時発現が可能となる。
【0120】
核酸を送達する基本的方法としては、インビボ遺伝子移入及びエクスビボ遺伝子移入がある。インビボ遺伝子移入には、上述の通りの裸の核酸、複合核酸、核酸ベクターなどを用いて患者の毛様体組織又は細胞内及び/又は外眼筋又は細胞内に特異的に核酸を導入することが関与する。上述の広範囲にわたるカテゴリのうちの2つの全てを用いて、本発明の状況下で遺伝子移入を達成することが可能である。本発明に従ったエクスビボ遺伝子移入においては、任意の細胞特に筋肉細胞、好ましくは平滑筋細胞、さらに一層好ましくは毛様体組織から及び/又は外眼筋からの細胞が患者から採取され、細胞培養内で成長させられる。核酸は、前記細胞内にトランスフェクションされ、トランスフェクションを受けた細胞は好ましくはその数を増加させ、その後患者の体内、好ましくは毛様体組織又は細胞内及び/又は外眼筋又は細胞内に再移植される。本発明に従ったエクスビボ遺伝子移入において使用可能である特定の細胞は、例えば線維芽細胞であり得る。本発明に従ったもう1つの生物活性ある生成物は、かくして、上述の通りの問題の核酸でのトランスフェクションを受けた細胞又はかかる核酸を発現する細胞である。
【0121】
医薬組成物
一実施形態においては、本発明は、治療すべき対象の毛様体組織又は細胞及び/又は外眼筋又は細胞に対し投与することにより眼疾患を治療又は予防するための組成物を調製することを目的とした、治療用又は予防用核酸といった生物活性をもつ作用物質の使用において、さらに薬学的に受容可能な賦形剤又は希釈剤を含有する組成物の中に生物活性をもつ作用物質が存在している使用に関する。
【0122】
本発明のもう1つの目的は、眼疾患を予防又は治療するための医薬組成物において、毛様体組織又は細胞内及び/又は外眼筋又は細胞内への投与用に意図され、上述の通りの生物活性をもつ作用物質及び好ましくは薬学的に受容可能な賦形剤又は希釈剤を含んでいる医薬組成物に関する。
【0123】
本発明に従った薬学調製物又は組成物は、基本的に、受容可能な担体、賦形剤又は希釈剤の中の生物活性をもつ作用物質、好ましくは裸の核酸、複合核酸、核酸ベクター又は送達系などで構成され得、そうでなければ、作用物質が中に包埋される徐放性マトリクスを含み得る。代替的には、例えばプラスミドベクターなど、組換え細胞から無傷の状態で完全な核酸送達系を生産することができる場合、薬学調製物は、分泌された治療用タンパク質を生産する好ましくは毛様体細胞及び/又は外眼筋細胞といった1つ以上の細胞を含み得る。
【0124】
薬学的に相容性があるか又は生理学的に受容可能な担体、賦形剤又は希釈剤としては、投与方法にとって薬学的に受容であり、無菌であり、かつ中性乃至弱酸性である等張緩衝食塩水(リン酸塩、塩化物などを含む)、水性又は油性溶液又は懸濁液の中から、及びより好ましくはスクロース、トレハロース、界面活性剤、タンパク質及びアミノ酸の中から選択され得る希釈剤及び充てん剤が含まれる。薬学的に相容性があるか又は生理学的に受容可能な担体、賦形剤又は希釈剤は、好ましくは、適切な分散剤、湿潤剤、懸濁剤、緩和剤、等張剤又は粘度上昇剤、安定化剤、防腐剤及び等張溶液を形成するための適切な緩衝液を用いて処方される。特別な薬学的に受容可能な担体及び活性化合物対担体比は、組成物の溶解度及び化学的特性、特定の投与様式及び標準的な薬学的実践方法により決定される。当業者であれば、既知の技術によりかかるビヒクルをいかにして処方するかを理解することと思われる。
【0125】
安定剤の例としては、エデト酸2ナトリウムなどがある。等張剤の例としては、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、塩化ナトリウム、塩化カリウム、ソルビトール及びマンニトールなどがある。緩衝液の例としては、クエン酸、リン酸水素、氷酢酸及びトロメタモールなどがある。pH調整剤の例としては、塩酸、クエン酸、リン酸、酢酸、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム及び炭酸水素塩などがある。緩和剤の例としては、ベンジルアルコールなどがある。防腐剤の例としては、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、p−ヒドロキシ安息香酸エステル、安息香酸ナトリウム及びクロロブタノールなどがある。
【0126】
活性化合物の眼吸収を増大させるため、製剤を送り出す上での可変性を逓減させるため、処方懸濁液又はエマルジョンの構成要素の物理的分離を低減させるため及び/又はその他の形で眼科用処方を改良するためには、単純な水溶液の粘度に比べて高い粘度が必要となる可能性がある。このような粘度上昇剤としては、例えばポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース又は当業者にとって既知のその他の作用物質が含まれる。かかる作用物質は標準的には約0.01〜約2重量%のレベルで利用される。
【0127】
本発明の毛様体組織又は細胞及び/又は外眼筋又は細胞に対する投与向けに意図された医薬組成物の調製物形態は、好ましくは液体調製物である。液体調製物は、例えばBSS(平衡塩類溶液)、グリセリン溶液、ヒアルロン酸溶液などの中に生物活性をもつ作用物質を溶解させることによって調製可能である。特定の組成物には、例えばBBS(60%)及びヒアルロン酸(40%)が含まれる。安定剤、等張剤、緩衝剤、pH調整剤、緩和剤、防腐剤、電解質例えばナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム及び/又は塩化物などを、任意には、液体調製物に適切な量で添加することができる。
【0128】
本書にその内容が参照により援用されている米国特許第5,580,859号明細書及び同第5,589,466号明細書の中で、哺乳動物の筋肉組織に対して裸のDNAを処方し投与するための方法が開示されている。
【0129】
医薬組成物は、任意の付加的な活性成分又はアジュバントを含むことができ、又、生物活性をもつ作用物質を任意の付加的な活性成分又はアジュバントと組合せることもできる(本発明に従った使用の中で)。アジュバントは、前記作用物質の送達又は移入を改善させる任意の生物学的、合成又は生合成作用物質といったような予防用又は治療用作用物質の生物活性を促進又は増大させるあらゆる物質、混合物、溶質又は組成物から選択され得、本発明に従った(送達担体としての)ベクターに同化され得る。アジュバントは、組成物を含有する予防用又は治療用作用物質とは個別に又は逐次的に、かつ/又は全く異なる注入部位においてコンディショニングされ投与され得る。本発明に従った多数の作用物質及び/又はアジュバントでの治療は、作用物質及び/又はアジュバントの混合物を用いて行なわれる必要はなく、別々の薬学調製物を用いて行なうことができる。調製物は、正確に同時刻に送達される必要はないが、同じ治療期間中に、すなわち互いから1週間又は1カ月以内に患者に対し送達されるべく調整され得る。
【0130】
本発明の組成物と任意の適切な治療薬を調和させることが可能である。本発明に従った方法を通して上述の生物活性をもつ(予防用又は治療用)作用物質に加えて投与され得る治療薬の制限的意味のない例には同様に、透過性上昇作用物質、例えばウイルス、脂質小胞、ヒアルロン酸、脂質ベースの正イオン、ポリカチオン性エマルジョン、カチオン性ペプチド、ポリプレックスなど;抗生物質及び抗菌剤、例えば塩酸テトラサイクリン、ロイコマイシン、ペニシリン、ペニシリン誘導体、エリスロマイシン、スルファチアゾール及びニトロフラゾン;局所麻酔薬、例えばベンゾカイン;血管収縮剤、例えば塩酸フェニレフリン、塩酸テトラヒドロゾリン、硝酸ナファゾリン、塩酸オキシメタゾリン及び塩酸トラマゾリン;強心剤、例えばジギタリス及びジゴキシン;血管拡張剤、例えばニトログリセリン及び塩酸パラベリン;消毒剤、例えば塩酸クロルヘキシジン、ヘキシルレゾルシノール、デカリニウムクロリド及びエタクリジン;酵素、例えば塩化リゾザイムおよびデキストラナーゼ;降圧剤;鎮静剤;抗腫瘍剤;ステロイド系抗炎症剤、例えばヒドロコルチゾン、プレドニゾン、フルチカゾン、プレドニゾロン、トリアムシノロン、アセトニド、デキサメタゾン、ベータメタゾン、ベクロメタゾン及びジプロピオン酸ベクロメタゾン;、非ステロイド系抗炎症剤、例えばアセトアミノフェン、アスピリン、アミノピリン、フェニルブタゾン、メファナム酸、イブプロフェン、ジクロフェナクナトリウム、インドメタシン、コルチシン、及びプロベノシド;酵素系抗炎症剤、例えばキモトリプシン及びブロメランセラチオペプチダーゼ;抗ヒスタミン剤、例えば塩酸ジフェンヒドラミン、マレイン酸クロロフェニラミン及びクレマスチン;抗アレルギー剤;及び鎮痛性化合物が含まれる。
【0131】
本発明の組成物中の活性成分の実際の投薬量レベルは、所望の生物活性を得るのに有効である活性成分の量を得るように適合可能である。しかしながら、任意の特別な患者のための特定の用量レベルは、体重、全身的な健康状態、性別、食生活、時間、吸収及び排泄速度、その他の薬物との組合せ、及び治療対象の特定の疾患の重症度を含めたさまざまな因子によって左右されることになることは理解されるべきである。
【0132】
医薬組成物は、単位剤形の体裁をとることが適切であり得、薬学の分野で周知の方法のいずれによっても調製可能である。全ての方法は、1つ以上の副成分を構成する上述の通りの担体と活性作用物質を会合状態にするステップを含んでいる。一般に、組成物は、活性作用物質を担体好ましくは液体担体と均質かつ密に会合した状態にすることによって調製される。
【0133】
その他の送達系は、時間放出、遅延放出又は持続放出送達系を内含し得る。かかる系は、必要な場合、活性作用物質の反復的投与を回避して、対象及び医師にとっての利便性を増大させることができる。数多くのタイプの放出送達系が利用可能であり、当業者にとっては既知である。これらには、ポリ(ラクチド−グリコリド)、コポリオキサラート、ポリカプロラクトン、ポリエステルアミド、ポリオルトエステル、ポリヒドロキシ酪酸及びポリ無水物といったようなポリマーベース系が含まれる。送達系は同様に、コレステロール、コレステロールエステル及び脂肪酸といったようなコレステロール又はモノ及びトリグリセリドといったような中性脂肪を含む脂質、ヒドロゲル放出系、シラスティック系、ペプチドベース系、ワックスコーティングなどをも含み得る。
【0134】
本発明のもう1つの実施形態は、治療すべき対象の毛様体組織又は細胞及び/又は外眼筋組織又は細胞に対して投与することによって対象の体内の眼疾患を予防又は治療するための上述の医薬組成物を調製するための、上述のような生物活性をもつ作用物質、好ましくは治療用核酸の使用に関する。
【0135】
治療
本発明は、対象の眼球、特に眼の内部又は後方部分に対して前述の生物活性又は薬理活性をもつ作用物質、特に治療用又は予防用核酸又は本発明に従った組成物を送達するためのインビボ方法において、前記作用物質又は組成物を毛様体組織又は細胞及び/又は外眼筋組織又は細胞内に投与することが含まれる方法を提供している。
【0136】
本発明のさらなる目的は、毛様体組織又は細胞及び/又は外眼筋組織又は細胞の中にタンパク質をコードする核酸を投与するステップを含む、対象の眼組織又は細胞内で治療用又は予防用タンパク質を生産させる方法において、前記核酸が以上で説明された通りに前記眼組織又は細胞まで送達される方法にある。
【0137】
本発明の目的は同様に、毛様体組織又は細胞及び/又は外眼筋組織又は細胞に対して、上述の生物活性又は薬理活性をもつ作用物質、好ましくは核酸又は本発明に従った組成物を投与するステップを含む、眼疾患又は眼の機能障害から対象を保護する方法において、前記作用物質又は組成物が眼組織又は細胞に送達され眼疾患から保護する方法にも関する。
【0138】
本発明のさらにもう1つの態様は、対象の毛様体(筋肉又は上皮)及び/又は外眼筋に対し、上述の通りの生物活性又は薬理活性をもつ作用物質、好ましくは治療用物質をコードする核酸又は本発明に従った組成物を投与するステップを含む、対象が罹患している眼疾患又は眼の機能障害を治療する方法において、前記作用物質又は組成物が機能障害のある眼組織又は細胞に対し送達される方法、にある。
【0139】
本発明のもう1つの態様は、遺伝子療法に関する。この種の療法は、インビボ又はエクスビボのいずれかでの細胞又は組織内への核酸の導入から成る。一部のケースでは、核酸は、機能性に欠いた内因性遺伝子と交換する(又はその代りに作用する)或いはそれを補正し、治療用ポリペプチドを生産する能力を宿主に付与し、望ましくない遺伝子産物の退行をひき起こし、或いは又免疫応答を刺激するように意図されている。
【0140】
特定の態様においては、本発明は、治療を必要としている対象宿主において、その遺伝子発現がその疾病に結びつけられている標的細胞の標的遺伝子の中で突然変異を復元する又は誘発させる能力をもつ核酸、好ましくは以上で定義された通りのキメラオリゴヌクレオチドを投与することを含む、疾病を治療する方法において、前記標的細胞内に前記核酸をインビボで送達するために用いられる方法が本発明に従ったインビボ核酸の送達方法である方法に関する。
【0141】
特定の実施形態においては、本発明に従った眼細胞に核酸をインビボで送達するための方法は、その発現が眼疾患の原因である突然変異遺伝子である眼細胞遺伝子の中の少なくとも1つの突然変異の存在に起因する眼の遺伝病を治療又は予防するために使用される。この方法においては、前記核酸は、前記標的突然変異遺伝子の中で復元することが望まれる突然変異を除いて、前記細胞の標的突然変異遺伝子のゲノムDNAフラグメント配列と相補的である。
【0142】
もう1つの好ましい実施形態においては、本発明に従った眼細胞内にインビボで核酸を送達するための方法は、眼疾患を研究するため又はこの眼疾患を治療できる化合物をスクリーニングするためのモデルとして役立ち得る動物又はヒトの組織又は生体を得ることを目的として、その発現が該眼疾患の原因である突然変異遺伝子である、動物の前記眼細胞の遺伝子の中に、突然変異を自発的に誘発するのに使用される。
【0143】
上述の治療用又は予防用方法の利益を享受し得る対象は、任意の眼科用薬物、タンパク質又はペプチドでの治療を必要とする任意の眼疾患及び眼の条件に罹患している又は罹患する可能性のある動物、特にあらゆる哺乳動物、好ましくはヒトであり得る。
【0144】
かくして、本発明は、単独で又は付加的な治療と組合せた形での、眼の炎症性疾患、虚血性疾患、増殖性疾患(例えば血管新生又はグリア病)、神経変性病及び緑内障を含む(ただしこれらに制限されるわけではない)さまざまな眼疾患又は眼の機能障害を予防又は治療することを目的とした、かかる方法の使用に関する。
【0145】
本発明を用いて治療可能な眼疾患の例
本発明のさまざまな実施形態により治療可能な眼疾患及び障害の制限的な意味のない例としては、増殖性眼疾患、神経変性眼疾患、緑内障、感染性眼疾患、炎症性眼疾患(例えば、結膜炎、角膜炎、内皮炎、ブドウ膜炎、脈絡膜炎、網膜炎、脈絡網膜炎、前部ブドウ膜炎及び炎症性視神経症)、網膜変性(特に網膜色素変性症、周辺部網膜変性症、黄斑変性症、例えば乾燥加齢性黄斑変性症)、虚血性網膜症(特に、未熟児網膜症及び糖尿病性網膜症)、網膜血管疾患、眼虚血性症候群及びその他の血管異常、脈絡膜障害及び腫瘍、硝子体障害、グリア細胞増殖、例えば増殖性硝子体網膜症及び糖尿病性前網膜血管形成に付随するグリア細胞増殖などが含まれる。
【0146】
本発明により予防又は治療可能な主要な疾病について以下で記述する。
【0147】
眼内炎は、眼内組織、主としてブドウ膜及び網膜の全てのタイプの炎症を統合している。眼内炎症は、免疫学的原因、感染性原因、医原性原因又は未知の病因によるものであり得る。これらは、急性、再発性又は慢性であり得る。眼内炎症は、治癒可能な失明の最も多い原因に入るものである。後眼部眼内炎症は、脈管炎、視神経炎、硝子体炎、舞踏病性網膜炎に関連づけされ得る。
【0148】
遺伝性網膜ジストロフィ又は網膜色素変性症は、視覚サイクルに関与する遺伝子内の突然変異又は欠失に起因する遺伝性失明病である。これらの疾病は、幼齢で始まり、ゆっくりと進行して完全に失明する。光受容体の喪失が網膜色素細胞の喪失及びより後期での脈管及び視神経萎縮と関連づけされる。これらの遺伝性変性の一部は、ミトコンドリアDNA内の突然変異に起因する。
【0149】
緑内障には主として2つのタイプ、すなわち慢性緑内障又は原発性開放隅角緑内障(POAG)及び急性閉塞隅角緑内障が存在する。その他の変形形態としては、先天性緑内障、色素性緑内症、血管新生緑内症及び続発性緑内症が含まれる。緑内症は、高眼圧症に類似しているが、視神経損傷及び視力喪失が伴う。緑内障は通常、点眼薬、レーザー又は従来の眼科手術で治療される。治療を行わない場合、緑内障は失明をひき起こすことになる。
【0150】
血管形成は、新血管形成に導く新たな毛細血管の形成である。血管形成は、血管基底膜及び間質マトリクスの内皮細胞媒介型分解、内皮細胞の移動、内皮細胞の増殖及び内皮細胞によるループ状毛細血管の形成を含めた一連の逐次的ステップを含む複雑なプロセスである。血管形成は、脈管構造の発達又は維持のための正常なプロセスであるが、血管成長が実際に有害である場合に、病的状態(すなわち血管形成依存性疾患)が発生する。血管形成は、特に、糖尿病性網膜症、加齢性黄斑変性症、未熟児網膜症、角膜移植拒絶反応、血管新生緑内障及び角膜瘢痕化を含めた眼組織の重要な疾病と関連づけされる。眼内の血管のどんな異常成長でも、網膜に達する前に入射光を散乱させ遮断する可能性がある。新血管形成は、眼の中のほぼあらゆる部位で発生し得、眼組織の機能を著しく改変させる。最も恐ろしい眼の血管新生疾患は、網膜が関与するものである。例えば、数多くの糖尿病患者が、網膜の後表面上及び硝子体内に漏れやすい新しい血管を形成して増殖性の硝子体網膜症をひき起こすことを特徴とする網膜症を発生させる。加齢性黄斑変性症患者の一部の集団は、場合によって失明に至る網膜下血管新生を発生させる。
【0151】
糖尿病性網膜症は、眼の内部の網膜血管が血液及び流体を周囲の組織内に漏出させる場合に起こる。糖尿病患者の約80%が糖尿病性網膜症を発生させる。この病気は一般にレーザーを用いて治療される。しかしながら、レーザー療法には、網膜静脈の閉塞、視力の喪失、硝子体出血を含めた合併症が関与し、時として失敗する。治療を行わなければ、糖尿病性網膜症は失明をひき起こし得る。
【0152】
未熟児網膜症(ROP)は、未熟児がかかるものである。それは、網膜及び硝子体内の血管の異常成長から成る。ROPが後期まで進行すると、網膜上に瘢痕組織が形成され、硝子体が出血し、網膜剥離が起こる。治療は通常レーザー又は凍結療法(フリージング)のいずれかによって実施される。
【0153】
虚血性網膜症は、神経網膜のいたみ、細胞死及び新生血管形成を導く血管閉塞(毛細血管又は大血管)に関連づけされる網膜症である。
【0154】
黄斑変性症は、中心視を侵し、視力喪失に導く病気である。若年者を襲う黄斑変性症形態も存在するが、該身体条件は60才を超えた人に発生するのが最も一般的である。この障害は従って、加齢性黄斑変性症(AMD)と呼ばれる。人の視覚の中心のみが通常侵されることから、該疾病から失明が起こることは稀である。しかしながら、網膜の中心の斑点に対する傷害は真直ぐ前方をはっきりと見る能力を破壊し得る。乾燥型には、神経網膜、RPE細胞及び脈絡膜の変性が付随する。湿潤型には、先に記述した現象及び脈絡毛細管板及び/又は網膜血管からの新血管の成長、網膜下剥離及び出血、上皮下出血及び涙液などが付随する。黄斑変性症は通常、60才以降に発生する。中心視が逓減する一方で、ほとんどの患者は一部の視覚を保持し、完全失明には決して至らない。
【0155】
角膜炎は、角膜の炎症である。角膜炎は、細菌、ウイルス、又は真菌感染、眼瞼の障害又は涙液形成能力の減退の結果としてのドライアイ、非常に明るい光に対する露出、眼を傷つけるか又は眼の中に引っかかった異物、アイメーキャップ、ダスト、花粉、公害又はその他の刺激物に対する感受性又はアレルギー反応、及びビタミンA欠乏症によってひき起こされる可能性がある。
【0156】
黄斑パッカー(網膜上膜、網膜しわ、黄斑前線維症及びセロファン黄斑症とも呼ばれる)は、網膜から剥離して網膜に瘢痕又はシワを形成させることになる硝子体の加齢性収縮に起因することが最も多い。黄斑パッカーのその他の原因には、(外科手術又は眼の傷害由来の)外傷、網膜剥離、炎症、及び網膜血管の問題が含まれる。唯一の治療は、瘢痕組織の剥ぎ取りと組合わされた硝子体切除(硝子体の除去)から成る外科手術である。硝子体切除の最も一般的な合併症は、白内障発生速度を速めるということにある。
【0157】
治療される眼疾患は、強膜炎、結膜炎、角膜炎、内皮炎、ブドウ膜炎、脈絡膜炎、網膜炎、網膜脈絡膜炎、前部ブドウ膜炎、未熟児網膜症、糖尿病性網膜症、増殖性硝子体網膜症、遺伝性網膜ジストロフィ、加齢性黄斑変性症、開放隅角緑内障、血管新生緑内症、虚血性網膜症などの中から選択され得る。
【0158】
本発明の好ましい態様は、TNFアルファのための可溶性レセプタをコードする核酸を、慢性ブドウ膜炎に罹患している哺乳動物の毛様体組織又は細胞及び/又は外眼筋組織又は細胞に対し投与するステップを含む、慢性ブドウ膜炎の治療方法にある。
【0159】
本発明のもう1つの好ましい態様は、抗VEGF、抗VEGFレセプタ又は抗PLGFをコードする核酸を、眼内新血管又は黄斑浮腫に罹患した哺乳動物の毛様体組織又は細胞及び/又は外眼筋組織又は細胞に対し投与するステップを含む、当該疾病の治療方法にある。
【0160】
本発明のさらに好ましい態様は、上述の通りの神経栄養因子をコードする核酸を、網膜色素変性症に罹患した哺乳動物の毛様体組織又は細胞及び/又は外眼筋組織又は細胞に対し投与するステップを含む、当該疾病の治療又は遅延方法にある。
【0161】
本発明のもう1つの好ましい態様は、抗IRS−1又はIGF−1をコードする核酸を、糖尿性網膜症に罹患した哺乳動物の毛様体組織又は細胞及び/又は外眼筋組織又は細胞に対し投与するステップを含む、当該疾病の治療方法にある。
【0162】
本発明に従った方法及び使用においては、毛様体組織又は細胞及び/又は外眼筋組織又は細胞を、核酸移入の前後、又はその間に当該移入を改善させるための処置に付すことができる。この処置は、薬理学的なものであり、局所的又は全身的施用の形をとり得るが、そうでなければ、先に記述したように酵素的、透過化、外科的、機械的、熱又は物理的処置でもあり得る。
【0163】
キット
本発明の方法に従うと、眼疾患の予防又は治療用のキットが想定されている。
【0164】
本発明に従った装置及び組成物は、まとめてキットの形で供給され得る。該キットの中で、構成要素は別々に包装されていても又格納されていてもよい。賦形剤、担体、その他の薬物又はアジュバント、活性物質又は組成物の投与のための使用説明書及び投与又は注入装置などの他の構成要素もこのキットの中に入って供給され得る。使用説明書は、書面、ビデオ又はオーディオ形態をとり得、紙、電子媒体に格納されていてもよく、さらには、ウェブサイト又は参考マニュアルといったような別の出典への参照指示として含まれていてもよい。
【0165】
特に、本発明は、乾燥され凍結乾燥されたプラスミド、このプラスミド用の希釈媒質及び上述の通りの使い捨て電極装置を格納するキットを含んでいる。
【0166】
本発明のその他の態様及び利点は、以下の実施例の中で記述されるが、これらの実施例は、例示目的のものであって本出願の範囲を制限していないとみなされるべきである。
【実施例】
【0167】
本発明において、発明者らは、特に眼の毛様体筋肉を特異的にトランスフェクトするための新規のエレクトロトランスファ技法を設計した。緑色蛍光タンパク質(GFP)又はルシフェラーゼ(luc)のいずれかをコードするプラスミドが、トランスフェクション後の遺伝子発現を追跡し秤量するために使用されてきた。この技法の療法としての潜在的可能性は、ヒトTNF−α可溶性レセプタI(hTNER−Is)をコードする遺伝子を用いてエンドトキシン誘発型ブドウ膜炎(EIU)に罹患したラットにおいて評価される。
【0168】
材料と方法
動物:
生後6〜7週で体重150〜200gの雌のルイスラット(フランスLyonのIFFA CREDO)を使用した。視覚および眼科研究における動物の使用についてのARVO宣言(ARVO Statement for the Use of Animals in Ophthalmic and Vision Research)に従って実験を実施した。研究に含み入れる前1週間ラットを保持した。実験のために、腹腔内ペントバルビタール注入液(40mg/kg)でラットを麻酔した。実験の終了時点で、過量のペントバルビタールによりラットを屠殺した。
【0169】
プラスミド:
pVAX2は、プロモータをpCMVβプラスミドプロモータで交換したpVAX1プラスミド(インビトロジェン(Invitrogen))から成る。pCMVβ(クローンテック(Clontech))をEcoRIで消化し、次にクレノウフラグメントで平滑末端化し、最後にBamHIで消化した。結果として得た629bpのフラグメントを、アガロースゲル電気泳動の後、精製した。このプロモータをHincII−BamHIpVAX1フラグメント内にライゲートしてpVAX2を得た。pVAX2−lucは、CMVプロモータの制御下で細胞質性ホタルルシフェラーゼプラスタンパク質をコードする4.6kbのプラスミドベクターである。
【0170】
プラスミドpEGEP−C1は、CMVプロモータ(カリフォルニア州Palo Altoのクローンテック(Clontech))の制御下で緑色蛍光タンパク質遺伝子を担持する4.7kbのプラスミドである。プラスミドpVAX2hTNFR−Is/mIgG1は、pVAX2主鎖にクローニングされた免疫グロブリンG1(IgG1)のFc部分に連結されたヒトTNF−α可溶性レセプタI型(hTNFR−Is)のキメラタンパク質をコードする4.3kbのプラスミドである。このキメラタンパク質は、天然の単量体hTNFR−Isに比べてより長い半減期を有している。
【0171】
ラット毛様筋へのエレクトロトランスファ
エレクトロトランスファの実験を行うために、眼を露出させ、外科用シートを用いて所定の位置に保持する。毛様筋内への筋内注入を100μl入りのマイクロファインシリンジ(ハミルトン(Hamilton)、スペイン)上で30Gの針を用いて、側頭部上象眼内で実施した。辺縁の後ろの強膜の下にある毛様筋に到達するために、トンネル角膜切除を通して、毛頭筋内注入を実施した。針が辺縁を横断した時点で、これを1mmの距離にわたりやや深く挿入し、(1倍生理食塩水10μlの中に希釈させた)プラスミドを注入した。注入後、小さい強膜下気泡が形成する(図1A)。エレクトロトランスファのためには、2mmにわたり裸であり次にその長さの残りの部分ではシリコーンで被覆されている特殊設計の鋭利なイリジウム/白金電極(直径500μm)を角膜トンネル内に挿入し、陰極に接続した。陽極戻り電極は、毛様体の上にあるラットの強膜表面にぴったりはまるように設計された厚み0.3mm、長さ5mm及び幅2.5mmの白金シートで構成されていた(図1B及び1b)。
【0172】
200ボルト/cmの電界強度を送達するようにエレクトロトランスファ発電機を設定した。上述のシステムを用いて、各々10ボルト及び長さ20msの8回の連続的パルス(パルス間180ms)を送達した。この電界強度は、臨床的に検出可能な構造損傷又は組織熱傷を全くひき起こさなかった(図1C)。
【0173】
実験の設計:
毛様筋内のレポータ遺伝子の発現についてのコンセプト証明の場所を設定し用量を決定するために、pVAX2−luc又はpEGFP−C1プラスミドを使用した。すなわち、
1. 12個の眼(12匹のラット)の毛様筋の中に、10μlの生理食塩水中の3μgのpEGFP−C1プラスミドを注入した。4個の眼(4匹のラット)では、付加的な処置を全く行なわなかった。8個の眼(8匹のラット)では、先に記述した通り、注入直後にエレクトロトランスファを実施した。対照として4匹の付加的なラット(4個の眼)を用い、右眼の毛様筋内に10μlの生理食塩水を与えた。これらのラットのうち2匹(2個の眼)において、生理食塩水注入の後にエレクトロトランスファを行なった。全ての動物を1日目及び8日目に検査し、8日目に過量のペントパルビトールで屠殺した。処置済みの眼を摘出し、スナップ凍結させた。冷凍切片(厚み8μm)を、組織学及び免疫組織化学における日常的染色向けに調製した。
【0174】
2. 10μlの生理食塩水中3μgのpVAX2−lucを24匹のラットの両方の眼の毛様筋内に注入した。プラスミドの注入後、これら24匹のラットの左眼の中でエレクトロトランスファを行なった。処置から6、12、22及び30日後に6匹のラットを屠殺した。各時点で、眼を切開し、毛様筋全体を取り出し、−80℃でスナップ凍結させ、ルシフェラーゼ(luc)活性の評価のためにこれを使用した。2匹の付加的な未処置ラットの4個の眼をluc発現のための負の対照として使用した。
【0175】
GFP組織化学及びアルファ平滑筋アクチン免疫組織化学
pEGFP−C1のエレクトロトランスファから8日目に、眼を摘出し、1時間4%のパラホルムアルデヒド中で定着させ、1×PBS内で洗い流し、OCT化合物中に包埋し、冷凍切片化した(8μm)。pEGFP−C1のエレクトロトランスファで処置した3個の眼及び単にpEGFP−C1を注入しただけの2個の眼について、毛様筋の円形筋原線維の横方向切片を得るべく眼の横方向8μm切断を行なった。その他の眼については、矢状8μm切断を行なった(光学軸に対し平行)。細胞核を視覚化するために、1/3000に希釈した4’,6−ジアミノ−2−フェニルインドール(DAPI)溶液(フランス、St−Quenitin Fallavierのシグマアルドリッチ(Sigma−Aldrich))で5分間切片を染色し、PBS中で再び洗い流し、グリセロール/PBS(1/1)中で取り付けた。蛍光顕微鏡(スイスのライカ(Leica))下で切片を検査し、全ての切片について一定の露光時間でデジタル顕微鏡写真を撮影した。横方向及び前額切片上で毛様筋を位置特定するために、マウス抗ヒトアルファ平滑筋アクチン(anti−α−sm−1)モノクローナル抗体(カリフォルニア州Temeculaのケミコン(Chemicon))での免疫蛍光染色を実施した。−20℃でアセトン中で5分間、組織切片を固定し、空気乾燥させた。上清の希釈を、3mMのEGTAを含むPBS中で行なった。5μg/mlの濃度でanti−α−sm−1を使用した。第2の抗体として、発明者らは、1:50で希釈したTexas Red(登録商標)染料共役型AffiniPureロバ抗マウスIgG(ペンシルバニア州West Groveのジャクソン・イムノリサーチ(Jackson Immunoresearch))を使用した。1/3000で希釈された4’,6−ジアミノ−2−フェニルインドール(DAPI)と共に5分間インキュベートすることにより、核を染色した(フランス、St−Quentin Fallavierのシグマアルドリッチ)。切片を再度PBS中で洗浄し、グリセロール/PBS(1/1)中で取付けた。一次抗体の代りにラット免疫前血清を負の対照として使用した。
【0176】
ルシフェラーゼ活性のインビトロ測定
右眼内に3μgのpVAX2−lucの毛様体注入及び左眼内に注入とそれに続くエレクトロトランスファを受けたラットを、処置後6、12、22及び30日目に屠殺した。眼を摘出し、動作中の顕微鏡下で切開し、毛様体と筋肉及び虹彩複合体を除去し、液体窒素中で冷凍させ、テストされるまで−80℃に保った。各々の試料を次に、プロテアーゼ阻害物質カクテル(ドイツMannheimのベーリンガー(Boehringer))(50mlにつき1錠)で補足された0.3mlの細胞培養溶菌試薬(フランスCharboniereのプロメガ(Promega))中で均質化した。15000g、4℃で10分間遠心分離した後、ルシフェラーゼ活性を、白色96ウェル平板内に置かれた10μlの上清上で査定した。検出器はWallac Victor照度計(フランスEvryのEG&Gワラック(EG&G Wallac))であり、試料に50μlのルシフェラーゼ検定基質(プロメガ)を試料に添加して、試料により生成された光を10秒間集積させた。結果は、1秒あたりの計数(cps)の単位で、全試料について示されている。
【0177】
hTNFR−Is/mIgG1プラスミドエレクトロトランスファの効果
房水中及び血清中のhTNFR−Isの生産を、付加的なエレクトロトランスファを伴う(又は伴わない)毛様筋に対するpVAX2hTNFR−Is/mIgG1注入から7日後に評価した。房水中での試料採取用の実験条件を最適化するために、16匹のラットの右眼の中に30μgのpVAX2hTNFR−Is/mIgG1(10μlの生理食塩水中)を注入し、その後これら16匹のラットの8個の右眼の中でエレクトロトランスファを行なった。処置後6日目にラットを屠殺した。これら16匹のラットの血清の試料を採取した。右及び左眼からの房水を得、各眼について別々に評価した。16個の左眼(未処置、対側性)からの房水を、h−TNFR−Isレベルの対照として使用した。(付加的なエレクトロトランスファを伴う又は伴わない)毛様筋内のpVAX2hTNFR−Is/mIgG1の注入後に眼の内部で生産されたhTNFR−Isの生物学的効果を、急性ヒト眼内炎症のモデルであるエンドトキシン誘発型ブドウ膜炎(EIU)に罹患したラットの体内で評価した(2−5)。24匹のラットが両眼に3μgのpVAX2hTNFR−Is/mIgG1の注入を受けた。プラスミド注入の後、これら24匹のラットのうちの12匹においてエレクトロトランスファを行なった。12匹の対照は、両眼の毛様筋内に10μlの生理食塩水の注入とその後のエレクトロトランスファを受けた。さらに8匹のラットが、毛様筋中に「空の」プラスミドpVAX2(hTNFR−Isをコードする遺伝子無し)の注入を受けた。空のプラスミド注入の後、これら8匹のラットの右眼の中にエレクトロトランスファを行なった。上述の処置から7日後に、右後足蹠内にネズミチフス菌LPS(シグマアルドリッチ)150μgを注入することで、44匹全てのラットの体内でEIUを誘発した。EIUの臨床スコアを、LPS抗原投与から24時間後に記録し、ラットを屠殺した。各ラット群の中で、8個の眼から得た房水を用いて、分泌されたラットTNF−αのレベルを評価した。正確な評価を可能にするために、同じ処置を受けEIUの類似の臨床スコアを示した2つの眼からの2つの房水をプールした。各群(空のプラスミドで処置したラット群を除く)の4個の眼を冷凍切断し、浸潤炎症性細胞の組織学評定のために処理した。
【0178】
【表1】
【0179】
EIUの程度に対するpVAX2hTNFR−Is/mIgG1エレクトロトランスファの評価
以前に公表された通りの(5)臨床的等級付けシステムを、わずかに適合させて使用した。簡単に言うと、等級(0)は炎症が無いことを表わす。等級(1)は、前房(AC)内に発赤又は気泡の無い、虹彩及び結膜血管のわずかな拡張を表わす。等級(2)は、AC内に明らかな発赤又は気泡の無い、虹彩及び結膜の中度の血管拡張の存在を表わす。等級(3)は、AC内に1細隙灯フィールドあたり10個未満の気泡及び発赤を伴う強い虹彩血管の拡張の存在を表わす。等級(4)は、前房蓄膿(hypopion)又はフィブリンを形成するAC内の数多くの気泡を伴う等級3と類似した臨床的兆候の存在を表わす。等級(5)は、完全瞳孔閉鎖を伴うAC内の強い炎症性反応の存在を表わす。EIUの程度の組織学評価のためには、各群の4個の眼を摘出し、1時間4%のパラホルムアルデヒド内で固定し、PBS中で洗い流し、OCT中で取付け、全眼球を冷凍切断した。評価すべき各眼の視神経を通した眼球切片をヘマトキシリン−エオシンで染色した。前眼部及び後眼部内に存在する1切片あたり浸潤細胞の平均数は、同じ眼について検査したスライド数で細胞の合計数を除することによって得られた。湿潤細胞の数は、処置について知らされていない治験担当医師により記録された。
【0180】
EIUに罹患した又は罹患していないラットの房水中の可溶性hTNFR−Isレベル
ヒトレセプタI型特異キット(デュオセット、英国AbingdonのR&Dシステムズ(Duoset、R&D Systems))を用いメーカーの使用説明書に従ったELISAにより、hTNFR−Isレセプタのレベルを測定した。前眼部内で生産されるhTNFR−Isの全身的通過を評価するために、同じ方法によりhTNFR−Isの血清濃度を決定した。
【0181】
EIUに罹患した又は罹患していないラットの房水中のTNF−αレベル
得られた房水を直ちに遠心分離し、無細胞画分を収集し、分析前に−20℃で凍結させた。ラットTNF−αについて特異的なELISA(デュオセット、英国AbingdonのR&Dシステムズ)を用いてラットTNF−αレベルを測定した。TNF−αレセプタレベルの評価の場合と同じ手順を、4μg/mlの捕捉抗体、100ng/mlの検出抗体及び400pg/mlから62.5pg/mlまでの組換え型ラットTNF−αの2倍の系列希釈で使用した。
【0182】
統計的分析
結果は、平均±平均の標準誤差(SEM)として表現されている。データを、ボンフェローニ/ダン方法によるペアワイズ比較を伴うANOVAを用いて比較した。
【0183】
結果
(電気穿孔とも呼ばれる)エレクトロトランスファの安全性
GFP又は生理食塩水エレクトロトランスファ後1日目及び8日目における細隙灯による処置済みの眼の臨床検査は、眼内炎症又は大きな構造的損傷の臨床的症候を全く開示しなかった。ラットを屠殺した後、処置済みの眼の組織学的切片を得、検査した。毛様筋内注入及びエレクトロトランスファの部位についての針の挿入を通した切片の組織学的研究は、少数のケースにおいて、角膜トンネル内に軽度の細胞浸潤物が存在するものの毛様筋内には存在しないことを実証した。眼の構造は、正常な生体構造が保存された状態で、影響を受けなかった。同様に、生理食塩水溶液の注入後にエレクトロトランスファを受けるEIUに罹患したラットの眼の中の房水TNF−αは、対象のEIUラット(p=0.10)における房水TNF−αに比べ増加しなかった。かくして、エレクトロトランスファ自体は、EIUに罹患したラットの眼の中でTNF−αの生産を増強させない。
【0184】
毛様筋内のGFPについてコードするプラスミドのエレクトロトランスファ
GFPエンコーディングプラスミドのエレクトロトランスファから8日後に、縦方向切片が、毛様筋内に局在化された特異的蛍光信号をはっきりと示している。細長い蛍光細胞は、アルファ平滑筋アクチン(α−sm−1)の免疫学的局在決定により実証される通り(図2C)、毛様筋の横方向筋原線維に対応する(図2A、a及びB)。前部前額切片上では、強膜のすぐ下で毛様体をとり囲む円形筋原線維が同定される(図3A)。両方の前部切片上でGFPが高度に発現され、輪状線維を示し(図3B)、より後部の切片では、半径方向及び縦走線維に対応する丸い管内のGFP染色を示している(図3C)。前部前額切片上では、毛様筋の輪状線維が、α−sm−1免疫染色により充分同定されている(図3D)。GFP及びα−sm−1の同時局在化により、GFPがエレクトロトランスファ後筋線維内で発現されることが確認された(図3E)。
【0185】
GFPプラスミド注入がエレクトロトランスファ無しで実施された場合、毛様体の根元にはわずかに丸い蛍光ドットが観察されたが、円形筋原線維は、いかなる蛍光シグナルも示さなかった(図4A、a)。
【0186】
ルシフェラーゼ発現の反応速度
エレクトロトランスファ無しで3μgのpVAX2−lucの注入を受けたラットの毛様筋内では、有意なルシフェラーゼ活性は全く測定されなかった。ただし、安定した値に到達したと思われた時点で、少なくとも30日まで3μgのpVAX2−lucの注入後にエレクトロトランスファを受けたラットの毛様筋内で高く持続的なルシフェラーゼ活性が測定された(図5)。
【0187】
房水中の可溶性レセプタhTNFR−Isの生産
EIUを患っていないラットの眼の房水の中で、30μgのpVAX2hTNFR−Is/mIgG1の注入(エレクトロトランスファ無し)から7日後、hTNFR−Isの平均レベルは274±39pg/ml(n=4)であった。エレクトロトランスファの組合せで処置された眼の中では、平均レベルは691±121pg/ml(n=4)(p<0.01)であった。エレクトロトランスファを伴う又は伴わない他眼内にプラスミド注入を受けたラットの対側眼においては、検出可能なレベルのhTNFR−Isは全く見られなかった。全ての群からのラットの血清においては、hTNFR−Isは検出レベル未満であり、かくして局所的遺伝子導入タンパク質の生産及び送達を可能にするための本発明の利点を実証している。EIUに罹患したラットにおいては、平均hTNFR−Isレベルは、30μgのpVAX2hTNFR−Is/mIgG1のみの毛様体注入後のラット群において、181±108pg/ml(n=8)であった。エレクトロトランスファと注入の組合せを受けた眼の房水中では、hTNFR−Isのレベルは、p<0.005で著しく高い1070±218pg/ml(n=8)であった。エレクトロトランスファを伴う又は伴わない毛様体内プラスミド注入を受けていないEIUに罹患したラット(対照群)においては、検出可能なレベルのhTNFR−Isは全く本願されず、ELISA試験がヒトTNFR−Isについて特異的でありラットの可溶性TNFレセプタと干渉しないということを実証していた。EIUに罹患しているラットの血清中では、眼の処置がプラスミド単独で実施されたか又はエレクトロトランスファとの組合せの形で実施されたかに関わらず、hTNFR−Isレベルは検出未満であり、眼内hTNFR−Isの全身的拡散が無視できるほどのものであることを示していた。
【0188】
臨床的EIUに対する効果
毛様筋注入のために3μgの低いhTNFR−Is/mIgG1プラスミド用量が使用された場合、平均EIUスコアは、EIUの非プラスミド注入ラット群及び生理食塩水のエレクトロトランスファを伴う注入を受けたラット群についての3.8±0.2及び3.9±0.1(それぞれp=0.81及びp=0.62)のEIUスコアと類似した3.7±0.2であった(図7A)。3μgのpVAX2hTNFR−Is/mIgG1でのエレクトロトランスファを受けたラット群においては(1.2±0.2、p<0.0001)、平均臨床EIUスコアは著しく減少し、単にプラスミド注入のみ(p<0.0001)又は処置無し(p<0.0001)に比べた場合にエレクトロトランスファとの組合せが臨床的ブドウ膜炎を著しく低減させることを実証していた。エレクトロトランスファと組合わされた3μgの空のプラスミドの毛様体内注入での処置を受けたラット群においては、EIUスコアは3.8±0.2であった。このラット群におけるEIUスコアは、プラスミド注入を受けたEIU対照群(p=0.91)又は生理食塩水のエレクトロトランスファを受けたEIUラット(p=0.85)において得られたものと著しく異なってはいなかった。
【0189】
細胞浸潤物に対する効果
EIUに罹患したラットの対照群においては、前眼部内の浸潤細胞の平均数は、316±14(n=4)であり、後眼部では272±66であった。前眼部(369±65、p=0.77)又は後眼部(261±32、p=0.99)における浸潤細胞の数の有意な差異は、3μgのpVAX2hTNFR−Is/mIgG1の注入のみの処置を受けたラット群においては全く見られなかった。エレクトロトランスファと組合わされた空のプラスミドの毛様体内注入は、対照の非プラスミド注入EIU群と比べた場合、前眼部(322±26、p=0.99)内又は後眼部(255±13、p=0.98)内の浸潤細胞の数に対しいかなる効果ももたらさなかった。エレクトロトランスファと組合わされた3μgのpVAX2hTNFR−Is/mIgG1の毛様筋内注入で処置されたラットにおいては、これらのラットの眼の中の前眼部(49±1、対照及びNaClに対してp<0.002)内及び後眼部(88±3、対照に対してp<0.05)内の両方において、浸潤細胞数の著しい減少が見られた(図8A及びB)。
【0190】
房水中のTNF−αレベル
EIUに罹患したルイスラットの房水中のTNF−αの平均レベル(510±44pg/ml)は、生理食塩水及びエレクトロトランスファを受けたラット群の場合(374±65pg/ml、p=0.10)と著しく異なるものではなかった。TNF−αの平均レベルは、生理食塩水のエレクトロトランスファを受けたラット(p<0.002)又はEIU対照ラット(p<0.0005)と比べた場合、3μgのpVAX2hTNFR−Is/mIgG1(126±16pg/ml)のエレクトロトランスファで処置されたラット群において有意に低下した。電界送達無しで毛様筋内へ3μgのpVAX2hTNFR−Is/mIgG1の注入を受けたラット群においては、TNF−αの平均レベルは250±45pg/ml、すなわち生理食塩水のエレクトロトランスファを伴うEIUラットにおけるTNF−αレベル(p=0.07)と有意に異なるものではなかった。
【0191】
空のプラスミドのエレクトロトランスファは、対照の生理食塩水で処理された群(478±33pg/ml、p=0.14)に比べて、房水中のTNF−αレベルに対しいかなる効果ももたらさなかった。実験未使用のラットでは、いかなるTNF−αも検出不能であった。
【0192】
論述
骨格筋に対するプラスミドDNAのエレクトロトランスファは、高レベルの循環タンパク質の発現に譲ることのできる安全かつ効率の良い遺伝子移入技術である(1;6−11)。選択的電気パラメータが導入されてきた(10、12、13、14)。眼の中では、毛様筋は特殊な平滑筋である。前記筋肉の一部の線維は円形に配向されており、一方その他の線維は、強膜棘に対し付着するよう縦走又は放射方向に向けられている。前眼部と後眼部の間の交差点で強膜の下というその表面的位置設定に起因して、毛様筋は、潜在的に治療用のタンパク質をコードする遺伝子のエレクトロトランスファのための理想的候補として発明者らがみなしてきたものである。毛様筋内部で考えられるこれらの遺伝子のトランスフェクション及び房水内又は硝子体内でのコードされたタンパク質の分泌は、最も魅力的であり、それらの調査の最初のねらいであった。今までのところ、遺伝子のエレクトロトランスファのための標的として毛様筋を使用する試みは全くなされてきていない。ラットの眼の中のプラスミドの毛様筋内注入を制御するため、トンネル経路が作り上げられた。トンネルは、角膜内で始まり、辺縁部域に向かって、さらには強膜下を後ろ向きに毛様筋内へと延びていた。次に、筋肉内に挿入された部分を除きその全長が絶縁材料で被覆されている活性電極は、作り上げられたトンネル内に導入された。電気熱傷の危険性を削減する制御された形でエレクトロトランスファが実施された。この技術を用いると、生理食塩水の毛様体内注入後のエレクトロトランスファがEIUの臨床スコアに影響を及ぼすことはなく、又、房水中のTNF−αのレベルを増大させることもなく、このことは、エレクトロトランスファがこれらの特定的条件下で眼内炎症を誘発しないということを示唆していた。誘発されたEIUに罹患したラットにおいてそうであるように眼内炎症がすでに存在していた場合、反応は増強されず、エレクトロトランスファ後に疾病プロセスは悪化した。発明者の実験は同様に、プラスミドDNAがラットの眼の毛様筋内に導入され得、エレクトロトランスファを適用することで筋肉細胞線維を効率良くかつ特異的にトランスフェクトできることを示している。この目的のため新たに考案された電極プローブを用いて、発明者らは、GFPレポータ遺伝子導入タンパク質が毛様筋内部に特異的に局在化され得ることを示した。同様に、発明者らは、エレクトロトランスファ後少なくとも30日間、処理済みの眼の内部でのルシフェラーゼ活性の発現を実証した。さらに、ヒトTNF−α可溶性レセプタについてコードする遺伝子を伴うプラスミドの毛様筋注入及びエレクトロトランスファの適用の後、処置済みラットの房水内で、高レベルの可溶性レセプタタンパク質が測定された。興味深いことに、これらのラットは、その血清中又は他眼の中に検出可能なヒトTNF−αレセプタを全く有していなかった。これらの本願事実は、潜在的な治療的利用分野をもつタンパク質の局所的生産が達成可能であることそして、局所的に生産されたタンパク質の大部分が処置対象の眼に限定された状態にとどまっていることを実証している。
【0193】
エレクトロトランスファの成功及び再現性は、標的組織内の充分量のプラスミドDNAの効率の良い投与、うまく選択された電界強度及び2つの電極間の制御された距離(この距離が電界値(V/cm単位)を決定するため)によって左右される(11、12)。GFP発現実験は、高用量のプラスミド(30μg)の注入後に電気パルス送達が全く適用されない場合、GFPを発現する細胞は、毛様体領域内でわずかに位置特定されるということを示した。一方で、エレクトロトランスファがプラスミドDNA注入に後続していた場合、筋細胞線維内に高いGFP発現が検出され、エレクトロトランスファから最長1カ月後までのルシフェラーゼ活性により示されるように、持続的タンパク質生産が可能となった。
【0194】
外眼骨格筋は、毛様筋と類似の治療目的に使用可能である。実際、発明者らは、外眼筋内への高能力プラスミドエレクトロトランスファを本願した。
【0195】
いかなる治療用タンパク質の生産にも譲らなかった対照エレクトロトランスファ(生理食塩水及び空のプラスミド)と共に又は単独で注入されたプラスミドの場合、いかなる効果も見られなかったことから、EIUに対するhTNFR−Is/mIgG1プラスミドエレクトロトランスファの有益な効果は、眼の媒質内のhTNFR−Isの生産の結果もたらされた。このことは、エレクトロトランスファと組合わされた低プラスミド用量(3μg)で処置されたラットの房水中のTNF−αレベルが、対照群又は単にプラスミド注入だけの処置を受けたラット群におけるTNF−αのレベルと比べた場合、有意に減少していたという事実により裏付けされた。治療用プラスミドのエレクトロトランスファによる治療を受けたラット群においては、眼の前眼部及び後眼部の両方において浸潤炎症性細胞の数が有意に減少し、このことは、網膜疾患の治療のために有利であるTNFR−Isが、治療対象動物の硝子体の中でも同様に生産されてきた可能性があるということを示唆している。
【0196】
TNF−αは、眼内炎症の病因に関与する主要な炎症誘発性サイトカインである(15、16)。その正確な作用機序は今だに不完全にしか理解されていない(17)。しかしながら、進行する眼内炎症性疾患のプロセスに対する明らかに有益な効果が、実験的(18、19)及び臨床的(20、21、22)な眼の炎症性疾患の間のTNF−α遮断薬の使用によって得られている。TNF−αは、TNFR−I(p55、55kd)又はTNFR−II(p75、75kd)という膜結合レセプタに結合する。これら2つのレセプタの天然発生可溶性形態は、TNF−αの炎症誘発活性を中和するが、きわめて不安定である。従って、臨床では、抗TNF戦略は、免疫グロブリンフラグメント、TNFR−IIs/Fc(エタネルセプト(Etanercept))又はTNFR−Is/Fc(レネルセプト(Lenercept))により安定させられたTNF(インフリキシマブ及びアダリムマブ)又はTNF−α可溶性レセプタに対するモノクローナル抗体のいずれかを使用する。エタネルセプトでの全身的処置は、EIU及び眼細胞浸潤の臨床スコアを低減させる。全身的に投与されるTNFR−Is/Ig(p55)で処置されている後部眼内炎症患者は、IL−10を発現する末梢血CD4+T細胞数の増加という本願事実と共に、明白な臨床的改善を示した(23)。しかしながら抗TNF−αの全身的投与には重大な副作用が付随する(22)。発明者の実験は、hTNFR−Is/mIgG1プラスミドのエレクトロトランスファ後の毛様筋線維によるTNFR−Isの局所的眼内生産がEIUにおける臨床的及び組織学的疾病パラメータの強度を有意に削減することを示している。これらの治療対象EIUラットにおいては、血清中に検出可能なレベルのTNFR−Isが全く本願されなかった。かくして、hTNFR−Is/mIgG1プラスミドの毛様筋エレクトロトランスファは、その他の医療では効果がない重症の眼内炎症に罹患している患者における抗TNF−αの全身的投与に対する代替案となり得る。
【0197】
結論として、これは、ラットの眼の毛様筋又は外眼筋がプラスミドエレクトロトランスファのためにターゲティングされ得、房水中のコードされたタンパク質の長時間にわたる発現、高いレベル及び効率の良いトランスフェクション速度を生み出すということの初めての実証である。コンセプトの証明として、この技術は、EIUに罹患しているラットの治療のために適用され成功をおさめた。hTNFR−Is/mIgG1エンコーディングプラスミドのエレクトロトランスファは、臨床的に及び組織学的に査定された眼疾患の強度を著しく低減させた。このタイプの療法は、眼疾患の治療に対し新たな興味深い道をきり開くものである。
【図面の簡単な説明】
【0198】
【図1】ラットの眼におけるインビボエレクトロトランスファA:辺縁周囲気泡の形成を導く毛様筋内の角膜トンネルを通した注入B:エレクトロトランスファ手順中の眼球内電極及び辺縁周囲外眼電極C:電流印加直後のエレクトロトランスファを受けた部位の外見D:環状眼周囲の戻り電極の写真
【図2】pEGFP−C1プラスミドの注入及びエレクトロトランスファ後の毛様領域の横方向切片上のGFP発現A:毛様筋(差込み図)を示すヘマトキシリン−エオシン組織像a:縦走線維(矢印)及び輪状線維(矢印の頭)を示すより高倍率の拡大図B:毛様筋内に局在化したGFPの組織化学。矢印は複数のGFP発現度の高い組織領域を表わしている。核はDAPIで染色されている(複数の例が円で示されている)。C:毛様筋の平滑線維を示すアルファ平滑筋アクチンの免疫組織化学。矢印は、複数のアクチン発現度の高い組織領域を表わしている。核はDAPIで染色されている(複数の例が円で示されている)。
【図3】pEGFP−C1の注入及びエレクトロトランスファの後の毛様領域の前額切片上のGFP発現の局在化A:毛様筋の輪状線維を示すヘマラン−エオシン組織学染色。B:毛様筋の輪状線維内のGFPの発現。GFP発現度の高い組織領域は囲まれている。核はDAPIで染色される(複数の例が円で表わされている)。C:毛様筋の縦方向線維内のGFPの発現。GFP発現度の高い組織領域は囲まれている。核はDAPIで染色される(複数の例が円で表わされている)。D:毛様筋の平滑輪状線維を示すアルファ平滑筋アクチンの免疫組織化学。アクチン発現度の高い組織領域は囲まれている。E:GFPの発現が毛様筋線維内にあることを実証するアルファ平滑筋アクチン及びGFPの同時局在化。赤色及び緑色蛍光の付加の結果としてもたらされた黄色蛍光によって実証された同時局在化された発現領域が囲まれている。核は、DAPIで染色される(複数の例が円で表わされている)。
【図4】pEGFP−C1の注入後の前額切片上のGFP発現の局在化。A:毛様体のわずかな疎細胞上のGFPの発現。矢印は、複数のGFP発現度の高い組織領域を表わす。a:より高倍率の拡大図。矢印は、複数のGFP発現度の高い組織領域を表わす。核はDAPIで染色される(複数の例が円で示されている)。
【図5】毛様領域内でのLUC発現の反応速度。 両眼の毛様筋の中に3μgのプラスミドpVAX2lucを注入した。注入の後、ラットの左眼内でのエレクトロトランスファを行なった。6日目、12日目、22日目及び30日目に6匹のラットを屠殺した。
【図6】眼構造の無欠性を示すエレクトロトランスファから5日後の毛様領域の組織学。特に電気穿孔の部位にはいかなる細胞浸潤もいかなる肉芽種も観察されなかった。エレクトロトランスファから5日後に、TUNEL陽性細胞は全く観察されず、この時点でのアポトーシス細胞の不在を示していた。
【図7】EIUの臨床的スコアA:EIUの臨床的スコア EIUに罹患しているもののいかなる治療も受けていない眼(B)(スコア5)又は3μgのpEGFP−C1GFPプラスミドのエレクトロトランスファ後の眼(C)(スコア0)の細隙灯写真。*:P<0.0001対対照又は生理食塩水+ET又はpVAX2+ET。
【図8A】EIUの組織学スコア。異なる治療計画後のEIUに罹患した眼の前眼部及び後眼部内の浸潤細胞の平均数を示す。**:P<0.005対対照;†:P<0.0002対pVAX2+ET;##:P<0.0001対pVAX2hTNFR−Is/mIgG1−ET;*:P<0.005対対照;#:P<0.005対pVAX2hTNFR−Is/mIgG1−ET。
【図8B】対照ラット(a:角膜)(h:虹彩/毛様体)、(c:視神経)から及び3μgのhTNFR−Is/mIgG1.ETで治療されたラット(d:角膜)、(e:虹彩/毛様体)、(f:視神経)からの眼切片の顕微鏡写真。
【図9】眼の生体構造
【図10】毛様体及び角膜内へのpCMV−Glucプラスミド(15μg)の注入及びエレクトロトランスファから7日後のガウシア・ルシフェラーゼ(G−ルシフェラーゼ又はGluc)分泌速度。分泌速度は、[1秒あたりの計数(cps)で表現された]蛍光を測定する分光器を用いて測定されている。
【図11】毛様筋内へのpCMV−Glucプラスミド(15μg)のさまざまな電気的条件(電圧、パルス持続時間、パルス数及び周波数)での注入及びエレクトロトランスファから7日後のガウシア・ルシフェラーゼ(G−ルシフェラーゼ又はGluc)分泌速度。分泌速度は、[1秒あたりの計数(cps)で表現された]蛍光を測定する分光器を用いて測定されている。
【図12】hTNFR−Is/mIgG1及びGlucタンパク質を発現するプラスミド及びpVAX2mEpoプラスミド(10μg)の毛様筋内への注入及びエレクトロトランスファから7日後の房水及び硝子体内でのガウシア・ルシフェラーゼ(G−ルシフェラーゼ又はGluc)、hTNFR−Is/mIgG1及びmEPOタンパク質の分泌。
【図13】ラットの毛様体内での注入(エレクトロトランスファ無し)の後のエンドトキシン誘発性ブドウ膜炎(EIU)の臨床スコアに対するpVAX2hTNFR−Is/mIgG1プラスミド(30μg)の効能。毛様体内のTNFR−Isエンコーディングプラスミド30μgの注入は、房水内の274±77pg/mlのTNFR−Isの分泌を可能にする。
【図14】それぞれ眼の前眼部及び後眼部内の浸潤細胞の平均数で表現されたラット毛様体内の注入(エレクトロトランスファ無し)後のエンドトキシン誘発性ブドウ膜炎(EIU)の組織学スコアに対するpVAX2hTNFR−Is/mIgG1のプラスミド(30μg)の効能。毛様体内の30μgのTNFR−Isの注入は、房水内で274±77pg/mlのTNFR−Isの分泌速度を可能にする。
【図15】環状手段及び針手段又は環状手段及びワイヤ手段を含むさまざまな電極装置を用いて毛様筋内にpCMV−Glucプラスミド(15μg)を注入及びエレクトロトランスファしてから7日後のガウシア・ルシフェラーゼ(G−ルシフェラーゼ又はGluc)の分泌。印加された電界は、その電界強度が200V/cmである8つの電気パルスで構成されている。電界の印加の合計持続時間は各パルスについて20msである。周波数は5Hzである。電極間の転極は、遺伝子送達の効能を修正しない。
【図16】2つの電極を含む環状装置の例。注入のため及び/又は電極として、櫛形の第1の手段(灰色)の各先端部を使用することができる。第2の手段(黒色)は、第1の手段から分離されていてもよいし、又は2つの手段の間に一定の距離(2〜5mmの間)を得るようにそれと固く結びつけられていてもよい電極である。
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に、生物活性作用物質、特に治療用又は予防用核酸を対象の眼球に送達する改良型方法において、前記作用物質を毛様体組織又は細胞及び/又は外眼筋組織又は細胞に投与するステップを含む方法に関する。より詳細には、本発明は、治療用生成物を特異的毛様体組織又は細胞及び/又は外眼筋組織又は細胞に投与し、かくして治療すべき眼組織内にそれを移入することにより眼球の病理を治療するための装置、特に遺伝子療法におけるそれらの使用及びその方法に関する。本発明は同様に、毛様体組織又は細胞及び/又は外眼筋組織又は細胞投与に適した形をした生成物を含む医薬組成物、それらの調製及び使用にも関する。
【背景技術】
【0002】
眼の生体構造
眼は体の中で最も複雑な器官の1つである。眼の一部分は発生学的には中枢神経系の延長である。眼は、複数の部分で構成され、眼の最適な視力又は健康及び疾患は、さまざまな部分がいかに連携するかに左右される。
【0003】
眼は、解剖学上及び機能上、小前房と大後房に分けることができる。両方の房は、透明な両凸面体である水晶体によって分離されている。水晶体は線維で毛様筋に連結されており、この毛様筋は、収縮又は弛緩によりその形状及び焦点合せ能力を改変させる。毛様筋は非骨格筋である。
【0004】
後房は、ヒアルロン酸を含有する液体中に浮遊したコラーゲン線維網から成る透明で粘性の流体又はゲル様構造である硝子体で満たされている。
【0005】
眼の球体は3層で作り上げられている。最も外側の層は、強膜と前極にある角膜という2つの部分から成る。強膜の下側には、脈絡膜がある。最後に、最も内側にあって感光性を有する層は、網膜と呼ばれる。強膜は、白眼としても知られている保護シートである。これは、眼球の表面のほぼ80%を網羅する膠原線維の厚み0.3〜1mmの層である。眼の前面には、ドーム形の「眼の窓」として強膜から外に透明の角膜が膨れ出ている。人間の角膜は、5層すなわち上皮、ボーマン膜、間質、デスメ膜及び内皮で構成されている。これらの層は、適切な体液平衡により角膜の透明度を維持するため、及び有害な作用物質が眼の中に入るのを防ぐために重要である。角膜の5層のうち上皮と間質というわずか2層だけが、眼の中へ薬物を通過させる上での主要な障壁である。内皮は、ボーマン及びデスメの膜と同様、薬物通過に対して大きな影響を全く及ぼさない。角膜上皮はそれ自体、薬物に対する親油性障壁を形成する合計厚み50〜100μmの5〜6層の細胞層から成る。それは、眼の中への有害な作用物質の進入を妨げることによる保護機能を有し、同様に、間質水和作用ひいては角膜の透明性を維持する上で内皮を助ける流体分泌組織でもある。上皮の細胞は再生性がきわめて大きく、傷害後3日以内の自己交換能力を有する。角膜厚みの90%を占める間質は、コラーゲン線維が散在する75〜80%の水を含有し、従って、きわめて親水性の高い区画となっている。
【0006】
強膜の下には、眼に対して血液を供給しそれを排出させる血管及び神経を収納する脈絡膜がある。脈絡膜は眼の前面で肥厚して毛様体を形成し、これが房水と呼ばれる水様性液体を分泌する。
【0007】
毛様体には、瞳孔と呼ばれる中央空隙をとり囲む眼の着色部分である虹彩が付着している。虹彩の本源的機能は、瞳孔のサイズひいては眼に進入する光の量を制御することにある。これは、以上で説明されている通り、括約筋の収縮及び散大筋の狭窄を介して達成される。虹彩にその色を与えている色素性メラニンは、強い又は明るい光の吸収を助ける。
【0008】
感光性細胞を含む眼の最も内側の層は、網膜と呼ばれる。網膜は、色覚を担当する錐体及び暗所視のための棹状体を含む光受容体層1層を含めた複数の層で構成されている。錐体の大部分は、斑と呼ばれる小さな限局性部域内に局在化されている。
【0009】
房水は、特に、角膜、水晶体及び硝子体といったような眼の無血管構造のための栄養機能を有する。房水は、約2.5μL/分の速度で毛様体の非色素性上皮の毛様体突起により連続的に産生される。
【0010】
外眼筋が眼球運動を担当する。これらの筋肉は、眼窩尖に由来し、眼球上で終結する。その途中で、外眼筋は同様に、眼窩に対し線維性中隔によっても付着されている。前方では、筋膜平面が腱鞘と融合して強膜を取り囲む。人間の眼の中では、本発明の意味合いでの「外眼筋」は、4本の直筋と2本の斜紋筋により構成されている。直筋は、縁の後約7mmのところで前方に挿入する。その他の外眼筋は、眼瞼の開閉を担当する輪筋及び上直筋との連結を有するミュラー線維である。
【0011】
眼に薬物を送達する上での問題点
眼疾患及び眼障害の治療における主要な問題点は、治療上又は予防上有効な濃度で眼内に生物学的に活性な作用物質を送達する上でのむずかしさにある。眼科薬物の経口投与は、血液−網膜障壁に起因して網膜組織をターゲティングするのにほとんど不適切である。有効量の治療薬を、眼球部域に到達させるためには、高濃度の薬物を頻繁に投与しなければならない。この結果、全身毒性がもたらされ得る。例えば、眼内で高いコルチコステロイドレベルに達するためにパルス療法を使用することができるかもしれない。眼科用薬物の局所投与の現在実践中の方法に付随する問題も同様に存在する。局所投与は一般に、眼の表在表面すなわち角膜及び前眼部が関与する病理においてのみ有効である。局所的薬物投与の現在実践中の方法は、実際、一部の眼球組織、特に虹彩及び毛様体といったような眼球内組織内で適切な薬物濃度を達成する上で有効ではない。眼の網膜、視神経又は硝子体に到達することはさらに一層困難である。さらに、薬物がタンパク質又はペプチドである場合には、角膜を横断する能力が標準的に欠如し眼球内疾患の治療はなおさら困難になり、局所投与の有効性はさらに低くなる。その結果、眼球内疾患の最も一般的な治療は、往々にして眼球内針注入又は眼球内外科手術(例えば低放出系又はカプセル化修飾細胞の外科的植込み)を必要とすることから侵襲的である。
【0012】
外眼球インサートにも同様に欠点がある。数時間で治療用化合物が溶解するため、頻繁に再適用する必要がある。ここでも又これらのインサートは、角膜及び前房にしか薬物を送達しない。
【0013】
かくして、有効な治療を提供するための上述の試みにも関わらず、眼疾患特に眼内疾患を治療するための新しいアプローチに対する長年にわたる切実で深刻なニーズがなおも存在している。
【0014】
治療用生成物特にタンパク質又は核酸を眼内に導入して前記疾患を制御するための適切な方法を規定することが特に有利であると思われる。特に、遺伝子療法は、さまざまな疾患の管理及び治療のための有効なアプローチとして浮上している。有効な遺伝子療法計画の例は、日常的に文献中に現われている(例えば非特許文献1を参照のこと。治療的遺伝子導入は、インビボでの所望のトランス遺伝子の連続的及び/又はターゲティングされた産生といったような潜在的利点を提供する。しかしながら、現在、高い有効性で哺乳動物眼細胞内で核酸形質導入を実施することは困難である。特に、炎症性応答を誘発することなく眼の中にこれらの核酸を導入できるかは疑わしい。その上、眼の内部で最終分化した又は増殖中のヒト細胞を形質導入する手段が欠如している。本発明は、当該技術分野における上述の積年のニーズ及び要望に応えるものである。
【非特許文献1】ロス(Roth)ら、Nature Medicine、第2巻、985〜991頁(1996年)、又はハーミストン(Hermiston)及びカーン(Kirn)、Mol Therapy、第11巻、496〜508頁(2005年)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明者らは実際、対象の毛様体組織又は細胞内及び/又は外眼筋組織又は細胞内に作用物質を投与するステップを含む、薬理学的に活性な作用物質、特に治療用又は予防用核酸を眼球部域に送達するための方法を開発した。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、ここに、動物の対象、好ましくは哺乳動物の対象、特にヒトの対象の眼疾患の安全かつ効果的な予防又は治療のための組成物及び方法を提供する。本発明は、(毛様筋組織及び毛様上皮を含む)毛様体、好ましくは毛様筋及び/又は外眼筋が、眼球特に眼の内部及び後部のための薬学生成物供給タンクとして使用可能であるという本願に基づくものである。
【0017】
本発明は、毛様体組織又は細胞及び/又は外眼筋組織又は細胞内への作用物質の投与を含む、対象の眼球内に生物学的に又は薬学的に活性な作用物質、特に核酸を選択的に移入するための特に効果的な方法について記述している。
【0018】
本発明はさらに、炎症性眼疾患、虚血性疾患、増殖性疾患、神経変性疾患及び緑内障を含む(ただしこれに制限されない)さまざまな眼疾患を予防又は治療するためのかかる方法の、単独での又は付加的な治療と組合わせた形での使用に関する。
【0019】
本発明の第2の態様は、治療すべき対象の毛様体組織又は細胞及び/又は外眼筋組織又は細胞に対し投与することにより眼疾患を治療するための組成物を調製するための治療用核酸の使用に関する。
【0020】
本発明は同様に、対象の毛様体組織又は細胞及び/又は外眼筋組織又は細胞に対して作用物質又は組成物を投与するための電気穿孔装置であって、
(i) 前記組織又は細胞内に組成物を注入するための少なくとも1つの手段であって、それが注入針、注入針電極、少なくとも1つの注入針又は1つの注入針電極を含む極微針アレイ又はそれらの組合せである手段、
(ii) 任意には、組成物の注入を開始するのに充分な深さまで針が挿入された時点でそれを検知するための手段であって、前記深さが好ましくは0.1〜10mmの間、さらに一層好ましくは0.1〜0.9mmの間に含まれている手段、
(iii) 任意には、強膜又は眼結膜の表面上に前記注入手段を位置決めするための手段、及び
(iv) 任意には、予め定められた電気信号を生成するための手段
を含む電気穿孔装置にも関する。
【0021】
本発明のさらなる態様は、本発明に従った電気穿孔装置の遺伝子療法における使用に関する。
【0022】
本発明の上述された及びその他の数多くの特長及び付随する利点は、以下に詳述される。本発明のその他の特長及び利点は、その好ましい実施形態についての以下の記述から明らかになる。
(図面の説明)
図1:ラットの眼におけるインビボエレクトロトランスファ。
A:辺縁周囲気泡の形成を導く毛様筋内の角膜トンネルを通した注入。
B:エレクトロトランスファ手順中の眼球内電極及び辺縁周囲外眼電極。
C:電流印加直後のエレクトロトランスファを受けた部位の外見。
D:環状眼周囲の戻り電極の写真。
図2:pEGFP−C1プラスミドの注入及びエレクトロトランスファ後の毛様領域の横方向切片上のGFP発現。
A:毛様筋(差込み図)を示すヘマトキシリン−エオシン組織像。
a:縦走線維(矢印)及び輪状線維(矢印の頭)を示すより高倍率の拡大図。
B:毛様筋内に局在化したGFPの組織化学。矢印は複数のGFP発現度の高い組織領域を表わしている。核はDAPIで染色されている(複数の例が円で示されている)。
C:毛様筋の平滑線維を示すアルファ平滑筋アクチンの免疫組織化学。矢印は、複数のアクチン発現度の高い組織領域を表わしている。核はDAPIで染色されている(複数の例が円で示されている)。
図3:pEGFP−C1の注入及びエレクトロトランスファの後の毛様領域の前額切片上のGFP発現の局在化。
A:毛様筋の輪状線維を示すヘマラン−エオシン組織学染色。
B:毛様筋の輪状線維内のGFPの発現。GFP発現度の高い組織領域は囲まれている。核はDAPIで染色される(複数の例が円で表わされている)。
C:毛様筋の縦方向線維内のGFPの発現。GFP発現度の高い組織領域は囲まれている。核はDAPIで染色される(複数の例が円で表わされている)。
D:毛様筋の平滑輪状線維を示すアルファ平滑筋アクチンの免疫組織化学。アクチン発現度の高い組織領域は囲まれている。
E:GFPの発現が毛様筋線維内にあることを実証するアルファ平滑筋アクチン及びGFPの同時局在化。赤色及び緑色蛍光の付加の結果としてもたらされた黄色蛍光によって実証された同時局在化された発現領域が囲まれている。核は、DAPIで染色される(複数の例が円で表わされている)。
図4:pEGFP−C1の注入後の前額切片上のGFP発現の局在化。
A:毛様体のわずかな疎細胞上のGFPの発現。矢印は、複数のGFP発現度の高い組織領域を表わす。
a:より高倍率の拡大図。矢印は、複数のGFP発現度の高い組織領域を表わす。核はDAPIで染色される(複数の例が円で示されている)。
図5:毛様領域内でのLUC発現の反応速度。
両眼の毛様筋の中に3μgのプラスミドpVAX2lucを注入した。注入の後、ラットの左眼内でのエレクトロトランスファを行なった。6日目、12日目、22日目及び30日目に6匹のラットを屠殺した。
図6:眼構造の無欠性を示すエレクトロトランスファから5日後の毛様領域の組織学。特に電気穿孔の部位にはいかなる細胞浸潤もいかなる肉芽種も観察されなかった。エレクトロトランスファから5日後に、TUNEL陽性細胞は全く観察されず、この時点でのアポトーシス細胞の不在を示していた。
図7:EIUの臨床的スコア。
A:EIUの臨床的スコア。
EIUに罹患しているもののいかなる治療も受けていない眼(B)(スコア5)又は3μgのpEGFP−C1GFPプラスミドのエレクトロトランスファ後の眼(C)(スコア0)の細隙灯写真。
*:P<0.0001対対照又は生理食塩水+ET又はpVAX2+ET。
図8:EIUの組織学スコア。
A:異なる治療計画後のEIUに罹患した眼の前眼部及び後眼部内の浸潤細胞の平均数。
**:P<0.005対対照;†:P<0.0002対pVAX2+ET;##:P<0.0001対pVAX2hTNFR−Is/mIgG1−ET;*:P<0.005対対照;#:P<0.005対pVAX2hTNFR−Is/mIgG1−ET。
B:対照ラット(a:角膜)(h:虹彩/毛様体)、(c:視神経)から及び3μgのhTNFR−Is/mIgG1.ETで治療されたラット(d:角膜)、(e:虹彩/毛様体)、(f:視神経)からの眼切片の顕微鏡写真。
図9:眼の生体構造。
図10:毛様体及び角膜内へのpCMV−Glucプラスミド(15μg)の注入及びエレクトロトランスファから7日後のガウシア・ルシフェラーゼ(G−ルシフェラーゼ又はGluc)分泌速度。分泌速度は、[1秒あたりの計数(cps)で表現された]蛍光を測定する分光器を用いて測定されている。
図11:毛様筋内へのpCMV−Glucプラスミド(15μg)のさまざまな電気的条件(電圧、パルス持続時間、パルス数及び周波数)での注入及びエレクトロトランスファから7日後のガウシア・ルシフェラーゼ(G−ルシフェラーゼ又はGluc)分泌速度。分泌速度は、[1秒あたりの計数(cps)で表現された]蛍光を測定する分光器を用いて測定されている。
図12:hTNFR−Is/mIgG1及びGlucタンパク質を発現するプラスミド及びpVAX2mEpoプラスミド(10μg)の毛様筋内への注入及びエレクトロトランスファから7日後の房水及び硝子体内でのガウシア・ルシフェラーゼ(G−ルシフェラーゼ又はGluc)、hTNFR−Is/mIgG1及びmEPOタンパク質の分泌。
図13:ラットの毛様体内での注入(エレクトロトランスファ無し)の後のエンドトキシン誘発性ブドウ膜炎(EIU)の臨床スコアに対するpVAX2hTNFR−Is/mIgG1プラスミド(30μg)の効能。毛様体内のTNFR−Isエンコーディングプラスミド30μgの注入は、房水内の274±77pg/mlのTNFR−Isの分泌を可能にする。
図14:それぞれ眼の前眼部及び後眼部内の浸潤細胞の平均数で表現されたラット毛様体内の注入(エレクトロトランスファ無し)後のエンドトキシン誘発性ブドウ膜炎(EIU)の組織学スコアに対するpVAX2hTNFR−Is/mIgG1のプラスミド(30μg)の効能。毛様体内の30μgのTNFR−Isの注入は、房水内で274±77pg/mlのTNFR−Isの分泌速度を可能にする。
図15:環状手段及び針手段又は環状手段及びワイヤ手段を含むさまざまな電極装置を用いて毛様筋内にpCMV−Glucプラスミド(15μg)を注入及びエレクトロトランスファしてから7日後のガウシア・ルシフェラーゼ(G−ルシフェラーゼ又はGluc)の分泌。印加された電界は、その電界強度が200V/cmである8つの電気パルスで構成されている。電界の印加の合計持続時間は各パルスについて20msである。周波数は5Hzである。電極間の転極は、遺伝子送達の効能を修正しない。
図16:2つの電極を含む環状装置の例。注入のため及び/又は電極として、櫛形の第1の手段(灰色)の各先端部を使用することができる。第2の手段(黒色)は、第1の手段から分離されていてもよいし、又は2つの手段の間に一定の距離(2〜5mmの間)を得るようにそれと固く結びつけられていてもよい電極である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明は、生物活性のある作用物質又は生成物、特に核酸を眼細胞、特に眼の内部又は後方部分の細胞内に選択的に移入するための特に効率の良い方法について記述している。本発明は、(毛様筋、特に毛様平滑筋及び毛様上皮を含む)毛様体組織又は細胞内及び/又は(輪筋を含む)外眼筋組織又は細胞に投与することによって標的眼細胞内に核酸を特定的に移入することができるということを実証している。出願人らは本書において、治療用又は予防用生成物、特に治療用又は予防用核酸が、有利には毛様体組織又は細胞及び/又は外眼筋組織又は細胞のレベルで投与され、罹患した眼細胞に分配されるということを記述している。治療的又は予防的生成物を発現する核酸の毛様体組織又は細胞内及び外眼筋組織又は細胞内の注入は、眼球に対して活性作用物質を送達するのに特に魅力的な投与様式を提供する。本発明は実際、毛様体組織又は細胞及び/又は外眼筋組織又は細胞に投与された核酸が前記筋細胞に形質導入し、かくして前記細胞によるコードされた生成物の発現及び/又は分泌を可能にすることになる、ということを示している。分泌は、硝子体内及び/又は、眼の所望の眼球内組織、好ましくは例えば眼の虹彩、毛様体、網膜、視神経又は硝子体自体といったような眼の特定的部分の治療を可能にすることになる房水(眼球内媒質)内への発現生成物の連続的放出を可能にする。治療的又は予防用核酸の毛様体内及び/又は外眼筋内の投与は、眼の内部の治療的又は予防的生成物の大規模生産及び分配を導き、罹患した眼の部域の強力な治療を可能にする。
【0024】
治療用核酸の毛様体(毛様体組織又は細胞及び/又は上皮又は上皮細胞)内及び/又は外眼筋内への投与が、眼の細胞を治療するための新しく非常に効率の高い方法を構成する。本発明によると、外傷及び/又は変性の場所に応じて、作用が所望されている眼球内組織をターゲティングすることが可能となる。特に、本発明は、有利にも、例えば医薬組成物にターゲティング配列を添加することにより異なる眼組織の細胞をターゲティングできるようにする。本発明は、より広汎性で眼球に制限されない前額部内(任意には眼球レベルまで)への定位的な注入に比べて外傷性が低くかつより特定的であるということが本願されてきた。本発明は同様に、例えば硝子体内の前記生成物の直接的投与に比べてインビボでの所望の治療用生成物の連続的かつ/又はターゲッティングされた生産を可能にするためはるかに効率が良いものでもある。
【0025】
かくして本発明の目的は、治療すべき対象の毛様体組織又は細胞及び/又は外眼筋組織又は細胞に対し投与することによって眼疾患を治療又は予防するための組成物を調製することを目的とする生物学的又は薬学的に活性な作用物質、好ましくは治療又は予防用核酸の使用に関する。毛様上皮は特異的にトランスフェクションを受けた時点で、特に高眼圧の治療のため、房水の生産を調節できる翻訳タンパク質又はペプチドを生産するために使用される。毛様上皮内でのトランスフェクションの場合、ペプチド又は翻訳タンパク質は、房水の生産を局所的に調節するように設計されており、従ってこのような場合には局所的投与が必要とされる。
【0026】
投与
前述のように、長年にわたり多大な知識が蓄積されてきたが、従来の方法により真核細胞内に生成物、特にペプチド、タンパク質及び核酸をインビボ投与することには数多くの問題が往々にして付随している。標準的には、治療的効果を得るために、アプタマー又はアンチセンスオリゴヌクレオチドといったような小型核酸を、侵襲針を用いて頻繁に注入しなくてはならない。同様にして、トランスフェクションのためにDNAを送達する場合、異種核酸でのトランスフェクションを受けるべき標的細胞のうちの僅かな割合のみが実際に、トランスフェクションを受けたトランス遺伝子から転写及び翻訳された問題の生成物特に問題のmRNA又はタンパク質を満足のいくレベルで発現する。さらに、合成オリゴヌクレオチドを含むものといったような一部の治療用組成物は、非常に高価で、毒性をもち、分解可能であり、従って非常に局所化された施用、標的細胞内への効率の良い内在化及び頻繁な投与を必要とする。最後に、望ましくない全体的毒性のリスクをもつタンパク質例えばサイトカイン、抗体、抗サイトカイン例えば抗TNFα可溶性レセプタ又は現行の技術からのその他のタンパク質は局所的に送達することが有利である可能性がある。例えば、体系的に投与される抗TNFα可溶性レセプタが結核のリスクを増大させることが示されてきている。本発明に従った方法及び使用は、任意の生物活性をもつ生成物又は作用物質の長期にわたる局所的発現を誘発するように設計されている。出願人らはここで、生物活性をもつ作用物質、特に治療用又は予防用核酸又はかかる作用物質を含む組成物を毛様体組織又は細胞内及び/又は外眼筋組織又は細胞内に投与することにより毛様体組織又は細胞及び/又は外眼筋組織又は細胞は、生理学的及び/又は治療的又は予防的用量で作用物質を生産又は分泌することになる、ということを記述している。筋肉発現生成物は例えば、硝子体及び房水内の連続的放出により、罹患した眼細胞に分配され得る。
【0027】
かくして、本発明の目的は、生物活性をもつ作用物質、特に治療用又は予防用核酸又はかかる作用物質を含む本発明に従った組成物の、治療すべき対象の毛様体組織又は細胞及び/又は外眼筋組織又は細胞への投与に関する。
【0028】
本発明に従った生物活性をもつ作用物質、特に核酸又は組成物は例えば、経結膜、経強膜、経角膜、眼球内(好ましくは外科手術中)又は内視鏡経路によって投与可能である。注入は外科的気体輸注と組合せてか又はこれを伴わずに、硝子体茎切除術の間に実施され得る。投与は、唯一の注入部位により、又は多数の注入部位で実施可能である。
【0029】
本発明の好ましい実施形態においては、投与は、毛様体組織又は細胞内及び/又は外眼筋組織又は細胞内に直接実施され、好ましくは、前記筋肉内への生物活性をもつ作用物質の注入ステップを含む。かかる直接注入は、経結膜、経強膜又は経角膜経路で実施可能である。
【0030】
毛様体組織又は細胞内及び/又は外眼筋組織又は細胞内への直接的投与又は移入は、「遺伝子銃」で用いられる金粒子といった薬学的に送達された生物活性をもつ作用物質でコーティングされた粒子を使用することによって、数多くの技術例えば電気穿孔、外科的処置、熱処置、イオン導入、超音波導入による技術を用いて実施可能である。粒子衝突装置又は「遺伝子銃」では、コーティングされた高密度粒子(例えば金又はタングステン)を、眼組織又は細胞への貫入を可能にする高速まで加速するように推進力が生成される。
【0031】
本発明の好ましい実施形態においては、ここでは「エレクトロトランスファ」という用語でも無差別的に呼称されている電気穿孔法によって投与が実施されるか、又は、注入ステップに加えて電気穿孔ステップが含まれる。電気穿孔には、該出願の中で後により詳細に記述されているように、電界の印加が含まれる。
【0032】
発明者らは、毛様体組織又は細胞内及び/又は外眼筋組織又は細胞内への生物活性をもつ核酸の機械的又は物理的注入が、トランスフェクションを受け持続的マーカー発現を有する細胞を高い百分率で生成することを本願した。
【0033】
上述の方法のいずれかの代りに又はそれらに加えて直接的でない投与も実施することができる。非直接的投与は通常、血流といったような体液内への医薬品の注入を含み、該医薬品は有利には、毛様体組織又は細胞又は外眼筋組織又は細胞に対するアドレッシングシグナル配列を含む。細胞レセプタベースのエンドサイトーシス方法又は化学物質媒介型摂取を用いて、非直接的投与を実施することができる。
【0034】
レセプタベースのエンドサイトーシス方法においては、(細胞表面レセプタに特異的な)リガンドが、問題の医薬品好ましくは核酸と複合体を形成させられる。該複合体はこのとき、対象の血流といった体液の中に注入される。細胞表面レセプタを有する標的細胞はリガンドを特異的に結合させ、リガンド−生成物複合体を細胞内に輸送する。
【0035】
化学物質媒介型摂取は、リン酸カルシウムトランスフェクションであり得、そうでなければ、融合性脂質小胞例えばリポソーム又はその他の膜融合用小胞の使用が関与し得る。問題の医薬品好ましくは問題の核酸を抱く担体は、体液中に適切に導入され得、その後毛様体組織又は細胞及び/又は外眼筋組織又は細胞に部位特異的に導かれ得る。例えば毛様体組織又は細胞及び/又は外眼筋組織又は細胞特異的な治療用又は予防用生成物を担持するリポソームを開発することができ、該リポソームが担持する生成物をこれらの特異的細胞に吸収させることができる。毛様体組織又は細胞上及び/又は外眼筋組織又は細胞上の特異的レセプタに対しターゲティングされた免疫リポソームの注入を、そのレセプタを担持する眼球筋細胞内に治療用又は予防用生成物を挿入する適切な方法として使用することができる。
【0036】
毛様体組織又は細胞及び/又は外眼筋組織又は細胞に対する機械的、物理的又は化学的送達のいずれか、又はこれらの異なる方法の組合せには、毛様体組織又は細胞及び/又は外眼筋組織又は細胞内での薬物の拡散を増強し場合によって細胞摂取を増強させることになるヒアルロニダーゼ、ジスパーゼ、アルファキモトリプシンなどといった酵素の予備的使用が関与し得る。
【0037】
ひとたび細胞内に入ると、細胞又は核(nuclear、nucleus)環境内においてヌクレオチド配列に治療用物質を生産させることができる(エピソーム性か又は染色体への組込み後)。核取込みされたヌクレオチド配列は、以上で説明された通り、永久的を含め長期間にわたり治療用生成物を生産することができる。
【0038】
所望の治療用又は予防用生成物は、例えば生成物が核酸である場合、レシピエントである毛様体組織又は細胞及び外眼筋組織又は細胞内で突然変異が発生することなく核酸レベルを維持するように、生成物レベルを維持するべく周期的に再投与されてもよい。
【0039】
電気穿孔
標的細胞内への核酸のインビボ移入を可能にするか増強する方法の中でも、特に電気穿孔を挙げることができる。電気穿孔手段は、核酸といったような生物活性をもつ作用物質に対する細胞膜及び/又はターゲティングされた組織の少なくとも一部分の透過性を担当し、つまりこれを増加させる。さらに、電気泳動効果により組織を通して又は細胞膜を横断して細胞内に作用物質を輸送するか又は移動させることができるようにするため、一定の与えられた電界強度をもつ短かい電気インパルスが使用される。電気穿孔技術は、当業者にとって周知である。
【0040】
この方法は、細胞が、一般に電流を通過させることのできない電気コンデンサとして作用するという原理に基づいて機能する。細胞を電界に付すことにより、細胞膜の中に過渡的な透過性構造又は微細孔が作り出される。細孔は、調合薬及び/又は核酸が細胞に出入りできるように充分なほどに大きいものである。細胞膜内に簡単に形成された「細孔」の結果として、生物活性をもつ分子は最初、細胞質又は核の中に入り、この中でこれらの分子は必要な場合には研究対象とすべきそれらの機能をすでに発揮することができる。経時的に、細胞膜内の細孔は閉じ、細胞は再び不透過性となる。細孔効果に加えて、ポリアニオン荷電ヌクレオチドは同様に、印加された電気パルスの電気泳動効果により、組織及び細胞内へと駆動される。
【0041】
本願では、出願人らは、毛様体組織又は細胞内及び/又は外眼筋組織又は細胞内への生物活性をもつ作用物質の移入が、約1〜600ボルト/cm、好ましくは1〜400ボルト/cmの間、さらに一層好ましくは約50〜200ボルト/cmの間、有利には約50〜150ボルト/cm、75〜150ボルト/cm又は50〜100ボルト/cmの間の電界強度をもつ1つ以上の電気パルスから成る電界を所望の眼組織に印加することによって可能となる又は増加し得るということを実証している。本発明において使用可能である特に好ましい電界強度は、200ボルト/cmの強度である。
【0042】
電界の合計印加時間は、0.01ミリ秒〜1秒の間、好ましくは0.01〜500ミリ秒の間、より好ましくは1〜500ミリ秒の間、さらに一層好ましくは1又は10ミリ秒超であり得る。好ましい実施形態においては、電界の合計印加時間は10ミリ秒〜100ミリ秒の間であり、好ましくは20ミリ秒である。
【0043】
印加される電気パルスは、例えば1〜100,000個の間であり得る。その周波数は0.1〜1000ヘルツの間に含まれていてよい。これは好ましくは一定の周波数である。電気パルスは、同様に、互いに不規則に送達されてもよく、1つのパルスに関する時間の関数として電界の強度を表す関数は、好ましくは可変的である。送達される電界は、例えば、少なくとも1ミリ秒未満の400ボルト/cm超の第1の電界と400ボルト/cm未満で約1ミリ秒の1つ以上の電気パルスとの組合せであり得る。送達される電界は、さらに、例えば少なくとも1ミリ秒未満の200ボルト/cm超の第1の電界と、200ボルト/cm未満で約1ミリ秒の1つ以上の電気パルスとの組合せであり得る。
【0044】
時間に伴う電界の変動を表す関数の積分は好ましくは1kV×ミリ秒/cm超、さらに一層好ましくは5kV×ミリ秒/cm以上である。
【0045】
好ましい実施形態においては、組織又は細胞に印加される電界は、周波数が1〜10Hzの間、好ましくは5Hzである1〜10個のパルスの間、好ましくは8個のパルスである。
【0046】
電気パルスは単極又は双極波パルスであり得る。これらは、例えば方形波パルス、指数関数的逓減波パルス、制限された持続時間の単極振動波パルス、制限された持続時間の双極振動波パルス又はその他の波形の中から選択され得る。優先的に、電気パルスは、方形波パルス又は双極振動波パルスを含む。
【0047】
本発明の特定の実施形態においては、投与は、1パルスあたり20msの電界の合計印加時間について各パルスの強度が200ボルト/cmである、5Hzの周波数の8単極方形波パルスを含む電界を組織に対して印加することを伴う電気穿孔ステップを含む。
【0048】
電気穿孔は、標準的には組織表面に印加される電極対の間に電圧パルスを印加することによって実施される。電圧は、電極間の距離に比例して印加されなくてはならない。電極間の距離が過度に大きい場合、生成される電界は、組織内に奥深く侵入し、そこでこれは不快な神経及び筋肉反応をひき起こす。
【0049】
本発明においては、電圧パルスは好ましくは、1センチメートル未満だけ互いに離隔した少なくとも2つの電極を用いて印加されるようになっており、前記電極のうちの少なくとも1つが毛様体組織又は細胞内又は外眼筋組織又は細胞の中に導入される。好ましくは、前記電極のうちの少なくとも1つが強膜又は眼結膜、好ましくは辺縁結膜上に適用される。
【0050】
電極は、好ましくは、互いに10ミリメートル未満、より好ましくは9、8、7、6、5、4、又は3ミリメートル未満、さらに一層好ましくは2ミリメートル又は1ミリメートル未満だけ離隔されている。
【0051】
本発明に従った上述の使用においては、電気穿孔ステップの前後、その間に、好ましくはこのステップの前に、イオン導入ステップを実施することができる。イオン導入は、(例えば0.5〜2mA/cm2の間である密度といったような)小さい電流密度が関与する電界を用いて組織を通して体内に生成物を投与することを特徴とする。1つの電極を治療すべき部位に配置し、一方電気回路を閉じるよう意図された第2の電極を体のもう1つの部位に設置する。これらのイオン導入電圧は0.001〜40V/cmの範囲内にあり、数秒から最長数時間(経眼瞼イオン導入について)、好ましくは最長10分、より一層好ましくは最長7分又は最長5分間(イオン導入が直接眼に適用される場合)持続する。
【0052】
イオン導入を通した治療薬の経皮的(transdermal、transcutaneous)送達用の装置が皮ふ又は眼疾患を治療するために一般に用いられており、かくしてすでに開示されてきた。従って当業者であれば、標的細胞を含む眼組織に適したイオン導入装置及びその使用条件、特に電流密度、電流印加時間及び電極形態及び場所などを容易に選択し決定することができると思われる。本発明に従った方法における上述の通りの生物活性をもつ作用物質、好ましくは核酸の眼内送達のために使用することのできるイオン導入装置のうち、米国特許第6,514,671号明細書において開示されているイオン導入システムが好ましい。
【0053】
装置
本発明は同様に、本発明に従った送達方法の中で使用可能な装置にも関する。特定の実施形態においては、前記方法は電気穿孔ステップで構成されているか又はこれを含んでいる。しかしながらかかる電気穿孔ステップは、療法に適した条件で、毛様体組織又は細胞内又は外眼筋組織内で本発明に従った組成物の注入を達成するのに義務的なものではない。
【0054】
かくして本発明の目的は、対象の毛様体組織又は細胞及び/又は外眼筋組織又は細胞に対して組成物を投与するための電気穿孔装置であって、
(i) 前記組織又は細胞内に組成物を注入するための少なくとも1つの手段であって、それが注入針、注入針電極、少なくとも1つの注入針又は1つの注入針電極を含む極微針アレイ又はそれらの組合せである手段、
(ii) 任意には、組成物の注入を開始するのに充分な深さまで針が挿入された時点でそれを検知するための手段であって、前記深さが0.1〜10mmの間、好ましくは0.2〜0.9mmの間に含まれている(有利には、この深さは約0.5mm又は厳密に0.5mmである)手段、
(iii) 任意には、強膜又は眼結膜の表面上に前記注入手段を位置決めするための手段、及び
(iv) 任意には、予め定められた電気信号を生成するための手段
を含む電気穿孔装置に関する。
【0055】
組成物を注入するための手段は、注入針、注入針電極、少なくとも1つの注入針又は1つの注入針電極を含む極微針アレイ又はその組合せであり得る。注入針及び/又は注入針電極の長さに沿ってならびにその端部に、注入された物質の分配を改善させるための穴を設けることができる。さらに、注入針及び/又は注入針電極のうちの1つ以上のものは中空であり得、毛様体組織又は細胞内及び/又は外眼筋又は細胞内に治療用又は予防用作用物質を注入できるようにする開口部を内含し得る。代替的には、組成物を注入するための手段は、遺伝子銃装置、カテーテルなどといった当該技術分野に熟練した実験者が熟知している任意の手段であり得る。
【0056】
注入針又は注入針電極の長さは、0.1mm〜4cmの間に含まれるものであり得る(例えば3、2又は1.5cm)。標的組織(毛様体組織又は外眼筋組織)に侵入する注入針又は注入針電極部分の長さは、有利には0.1mm〜2cmの間、好ましくは0.1mm〜10mmの間、さらに一層好ましくは0.2〜0.9mmの間に含まれる(例えば3、4、5、6、7又は8mm)。注入針又は注入針電極の長さは好ましくは、約0.1〜0.9mmの間に含まれ(例えば0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7又は0.8mm)、好ましくは約0.5mm又は厳密に0.5mmである。
【0057】
該装置はさらに、組成物の注入を開始させるのに充分な深さまで針が挿入された時点でそれを検知するための手段を含むことができ、ここで前記深さは0.1〜10mmの間、好ましくは2〜9mmの間に含まれている。例えばこの深さはおよそ又は厳密に0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、2、3、4又は5mmである。本発明に従った組成物の注入をいつ開始するかを選択することができる。理想的には、針の先端部が問題の毛様体組織(筋肉又は上皮)又は外眼筋組織に達した時点で、注入が開始され、装置は好ましくは、組成物の注入を開始するのに充分な深さまで針が挿入された時点でそれを検知するための手段を含んでいる。このことはすなわち、針が(通常は筋肉組織が開始する深さとなる)所望の深さに達した時点で自動的に組成物の注入を開始するよう促すことができる、ということを意味している。筋肉組織が開始する深さは、例えば0.1〜10mm、好ましくは2〜9mmの間に含まれる予め設定された針挿入深さとなるように取ることができる。例えば、この深さは、針が強膜又は眼結膜にたどりつくのに充分であるとみなされるおよそ又は厳密に0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、2、3、4又は5mmであり得る。
【0058】
1つの好ましい実施形態においては、検知手段は超音波プローブを含む。
【0059】
代替的な好ましい実施形態においては、該検知手段は、インピーダンス又は抵抗の変化を検知するための手段を含む。この場合、該手段は、かくして体内組織の中の針の深さを記録するのではなく、むしろ針がさまざまなタイプの体内組織から眼の中へと移動するにつれてインピーダンス又は抵抗の変化を検知するように適合されている。
【0060】
望まれる場合にはさらに針の挿入深さを記録することができ、これを用いて、注入すべき組成物の量が針挿入深さの記録につれて決定されるような形で組成物の注入を制御することができる。
【0061】
上述の装置はあらゆるタイプの注入のために使用することができる。ただしこれは、電気穿孔の分野で特に有用であるものと想定されており、従って好ましくはこれは、特に予め定められた電気信号を生成するため針に電圧を印加するための手段をさらに含んでいる。こうして、該針は注入のためだけでなく電気穿孔中に電極としても使用することができる。このことは、電界が注入された組成物と同じ部域に印加されることを意味することから、きわめて有利である。
【0062】
好ましい実施形態においては、注入装置には、互いに1センチメートル未満だけ離隔している少なくとも2つの電極が含まれており、前記電極のうち少なくとも1つはその他の電極のものと異なる極性を有する。有利には、前記少なくとも2つの電極のうちの少なくとも1つは先に定義された通りの注入手段である。
【0063】
電極は好ましくはワイヤタイプの電極及び平板コンタクトタイプの電極から選択され、各タイプの電極は、強膜又は眼結膜、好ましくは辺縁結膜の表面上に反転可能な形で適用されるように任意に適合されている(例えばそれらが少なくとも部分的に環状である場合)。
【0064】
第1の実施形態においては、ワイヤタイプの電極は、例えば、好ましくは辺縁から数ミリメートル、好ましくは1.5〜4mm(さらに一層好ましくは成人の眼の中の辺縁から2.5mm)の距離のところで組成物を注入する一方で作られた唯一のトンネル又は複数のトンネルのうちの1本の中で、眼の中に経結膜及び経強膜的に導入され得る。ワイヤは例えば辺縁に平行に導入される。ワイヤはこのとき約2〜10mmの間に含まれる距離で毛様体内に進入可能である。かかるワイヤ電極は、少なくとも1つの平板コンタクトタイプの電極、又は少なくとももう1本のワイヤ電極(例えば環状)又はこれらの組合せと共に使用することができる。環状電極は、例えば、戻り電極として使用可能であり、例えば眼球内ワイヤ電極から1〜9ミリメートルの間に含まれる距離のところで、辺縁のまわりを角膜を通して導入され得る。好ましくは2つ以上の電極が同時に使用される。
【0065】
2つの電極のみが使用され、例えば両方が環状電極である場合、1つの電極は、不利な効果を全く誘発することなくもう一方の電極を被覆することができる。
【0066】
上述の要領で使用されるワイヤタイプの電極は、その他の電極タイプに比べ侵襲性が低くさらに使用が容易であることから有利である。ワイヤ電極は同様に電極の電気的表面積の増大を可能にし、かくしてより優れたトランス遺伝子発現を導く。
【0067】
第2の実施形態においては、ワイヤタイプの電極の形状は、環又はその一部分の形である。かかるワイヤは有利にも、強膜又は眼結膜、好ましくは辺縁結膜の表面上に反転可能な形で適用されるように適合されている。
【0068】
ワイヤ電極の長さは、1ミリメートルから3センチメートルの間、好ましくは1〜10ミリメートルの間に含まれ得る。ワイヤ電極は、環状をしている場合、さらに長いもの(5、3センチメートル又はそれ以下)となる。当然のことながら、経強膜的に導入されるように適合された場合、それはより短かいものとなる(例えば1、2、3、4又は4ミリメートル)。
【0069】
平板コンタクトタイプの電極は、湾曲していてもいなくてもよい。これは同様に、少なくとも2個の先端部(好ましくは3〜20個、例えば4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18又は19個の先端部)を含む櫛の様に設計されていても、又そうでなくてもよく、前記先端部のうちの少なくとも1つは、該装置の注入手段を含む。ワイヤ電極の幅は好ましくは約1センチメートル未満、好ましくは0.5ミリメートル未満である。
【0070】
特定の実施形態においては、平板コンタクト電極は、好ましくは剛性材料でできており、強膜又は眼結膜の表面の幾何形状に適合し湾曲した形状を有する。
【0071】
さらなる実施形態においては、平板コンタクト電極は好ましくは、強膜又は眼結膜の表面の幾何形状に適合した可とう性材料で作られている。
【0072】
少なくとも2つの電極は好ましくは1.5又は1センチメートル未満、さらに一層好ましくは15又は10ミリメートル未満、好ましくは14、13、12、10、9、8、7、6、5、4、3又は2ミリメートル未満だけ離隔している。各電極間の距離は有利には1ミリメートルさらにはそれ以下である。
【0073】
装置が少なくとも2つの電極を含む場合、前記電極は独立したものであっても、互いに連結されていてもよい。
【0074】
電極は有利には、例えばイリジウム又は白金から選択される導電性の非酸化金属で作られている。本発明に従った装置は有利には、注入の前及びその間に強膜又は眼結膜の表面上に前述の注入手段を位置決めする、及び/又は維持するための手段を含み得る。位置決め手段は、有利には、強膜又は眼結膜、好ましくは辺縁結膜の表面上に反転可能な形で適用されるように適合されている。
【0075】
位置決め手段は、注入手段に対し反転可能な形で連結され得る。それは、少なくとも1つの電極及び/又は針が眼内の充分な深さまで挿入された時点でそれを検知するための手段にさらに連結され得る。
【0076】
位置決め手段は環状手段又はその一部であり得る。それは、剛性材料製であり得、強膜又は眼結膜の表面の幾何形状に適合された湾曲した形状を有していてよく、そうでなければ、強膜又は眼結膜炎の表面の幾何形状に適合した可とう性材料でこれを作ることもできる。
【0077】
1つの特定の実施形態においては、本発明に従った装置の位置決め手段は、少なくとも2つの先端部を含む、湾曲していてよい櫛様に設計されており、前記少なくとも2つの先端部のうちの少なくとも1つは、前述の通り注入手段を含む。
【0078】
環状位置決め手段の内径は、好ましくは10〜20mmの間、さらに一層好ましくは13〜14ミリメートルの間に含まれ、環状位置決め手段の外径は、好ましくは15〜25ミリメートルの間、さらに一層好ましくは15〜16ミリメートルの間に含まれる。
【0079】
先端部の長さは好ましくは0.1mm〜3mm又は1mmの間、好ましくは0.4mm〜0.8mmの間に含まれ、さらに一層好ましくは0.5mmである。
【0080】
環状手段又はその一部分と先端部との間の角度は、所要注入深さによって変動し、1°〜90°の間、例えば5°、10°、20°、30°、40°、50°、60°、70°及び80°であり得る。
【0081】
特定の一実施形態においては、本発明に従った装置の位置決め手段は、複数の注入針及び/又は針電極が中を通って延びる複数の中ぐりを有することもでき、針電極に対応する中ぐりは、使用中に1つの電源に対し各々の電極を接続できるような形で導線に別々に接続されている。針の絶縁部分に隣接する生体組織を使用中に電極が生成する電界から絶縁するように、各電極の中央部分に沿って絶縁部分を具備することができる。
【0082】
もう1つの特定の実施形態においては、本発明に従った装置の位置決め手段は環状をしていてよく、環の両側に挿入された電極を有し得る。このとき第1の電極セットを注入手段として、かつ同時に正又は負の電極としても使用することができ、一方残りの電極(第2の電極セット)は、第1の電極セットと異なる極性を有する。両方の電極セット共、毛様体(特に毛様筋)の中に挿入することができる。電極間の距離は、好ましくは10〜20ミリメートルの間、さらに好ましくは12〜17ミリメートルの間に含まれる。この特定のケースにおいては、平板−コンタクト−戻り電極をさらに使用する必要はない。
【0083】
本発明に従った特定の装置は、以下のものを含んでいる。
(i) 前記組織又は細胞内に組成物を注入するための少なくとも1つの手段であって、それが少なくとも2つの注入針電極を含む極微針アレイである手段、
(ii) 任意には、組成物の注入を開始するのに充分な深さまで針が挿入された時点でそれを検知するための手段であって、前記深さが0.1〜10mmの間、好ましくは2〜9mmの間に含まれている(有利にはこの深さはおよそ又は厳密に0.7又は0.5mmである)手段、
(iii) 強膜又は眼結膜の表面上に前記注入針電極又は極微針アレイを位置決めするための手段であって、環状でかつ少なくとも2つの先端部を含む櫛の様に設計され、前記先端部の各々が少なくとも2つの注入針電極のうちの少なくとも1つを含んでいる手段、及び
(iv) 予め定められた電気信号を生成するための手段。
【0084】
上述のもののような装置においては、使用される電極の唯一のアレイは、注入手段であり、それぞれに櫛の各先端部内に含まれている1つの電極と次の電極の間で交互の極性を付与する電源(電気信号を生成するための手段)を用いて電気パルスが送達され得る。
【0085】
装置はさらに組成物の輸液のためのパイプシステムを含み得る。
【0086】
投与される組成物には、本出願内で記述されている通りの本発明に従った組成物、又は生物活性をもつ作用物質、好ましくは治療用又は予防用の核酸が含まれる。
【0087】
投与はインビボで実施されることから、外部の非侵襲的電極との電気的連続性を確保することのできる中間生成物を使用することが時として有用であり得る。例えば、それは、上述の本発明に従った組成物を調製するのに用いられるものといったような電解質であり得る。
【0088】
本発明は少なくともその好ましい実施形態において、インビボで特に遺伝子療法において使用することのできる装置を提供しようとしている。
【0089】
薬理活性をもつ作用物質
本発明は、毛様体組織又は細胞及び/又は外眼筋組織又は細胞での投与が眼組織又は細胞に対して薬理活性をもつ作用物質を送達するための手段を提供するという本願に関係する。
【0090】
かかる作用物質は、天然に又は非天然に発生するものであり得る。非天然発生分子は例えば、人工的、合成、キメラ又はトランケートされた分子であり得る。
【0091】
本書で使用されているように、天然発生分子は、所望であれば「実質的に精製され」得、そのため、その分子を含有する天然発生調製物の中に存在するか又は存在し得る1つ以上の分子は除去されてしまっているか、又はそれが通常本願されるはずの濃度よりも低い濃度で存在することになる。
【0092】
本書で使用される通りの治療用生成物又は薬理活性をもつ作用物質は、例えば核酸分子、タンパク質及びそのあらゆる誘導体又は一部分から選択される、生物活性をもつ有機分子を含む。これらの作用物質は、人工的又は合成(とりわけ生合成)由来のものであり得、そうでなければ、ウイルス(例えばAAV又はADV)から、又は単細胞又は多細胞真核又は原核性物から抽出可能である。これらは例えば、ヒト由来、その他の哺乳動物、植物、細菌又はウイルス由来のものであり得、そうでなければ、所望の生物学的効果を保持するその誘導体であり得る。
【0093】
本発明の作用物質は事実、好ましくは、構造的属性、例えばもう1つの核酸分子に対しハイブリッド形成する1つの核酸の能力又は抗体によって結合される(又はかかる結合のためもう1つの分子と競合する)タンパク質の能力のいずれかに関して「生物活性を有する」ことになる。代替的には、かかる属性は触媒属性であり得、かくして、これには、予防的又は治療的生物学又は化学反応を調節、媒介又は誘発する作用物質の能力が関与し得る。
【0094】
本書で使用する「誘導体」という用語は、ポリペプチド又はヌクレオチド配列の化学的修飾体を意味する。
【0095】
ポリヌクレオチド配列の化学的修飾には、例えばアルキル、アシル又はアミノ基による水素の交換が含まれる可能性がある。誘導体ポリヌクレオチドは、天然分子の少なくとも1つの生物学的機能を保持するポリペプチドをコードする。誘導体ポリペプチドは、例えばグリコシル化又はその他の任意のプロセスによって修飾され、その誘導のもととなったポリペプチドの少なくとも1つの生物学的機能を保持しているものである。
【0096】
本書で使用される「遺伝子」又は「組換え遺伝子」という用語は、エクソン及び(任意には)イントロン配列を含む生物活性をもつ作用物質をコードする読取り枠を含む核酸を意味する。
【0097】
本発明に従った特に好ましい薬理活性をもつ作用物質すなわち治療用又は予防用作用物質は核酸である。
【0098】
本発明で使用されるべき核酸は、問題の任意の核酸、すなわち以上で説明されている通り生物学的特性を示す任意の核酸であり得る。より詳細には、該核酸は、上述の通り、生物活性を示す天然の、トランケートされた、人工の、キメラ又は組換え型の生成物[例えば問題のポリペプチド(タンパク質又はペプチドを含む)、RNAなど]をコードするあらゆる核酸であり得る。核酸は、好ましくは、デオキシリボ核酸(DNA)分子(cDNA、gDNA、合成DNA、人工DNA、組換えDNAなど)又はリボ核酸(RNA)分子(mRNA、tRNA、RNAi、RNAsi、触媒RNA、アンチセンスRNA、ウイルスRNAなど)である。該核酸は、1本鎖又は多重鎖核酸、好ましくは2本鎖核酸であり得、そうでなければ複合体形成されていてもよい。該核酸は、ハイブリッド配列又は合成又は半合成配列を含み得る。それは当業者にとって既知のあらゆる技術によって得られ、特にライブラリスクリーニング、化学合成又は代替的にはライブラリスクリーニングによって得られた配列の化学的又は酵素的修飾を含む混合型方法によって得ることができる。
【0099】
特定の実施形態においては、治療用核酸は、合成又は生化学由来のものであるか又はウイルスから又は単細胞又は多細胞真核又は原核生物から抽出される。
【0100】
本発明で使用される治療用核酸は、毛様体組織又は細胞及び/又は外眼筋又は細胞に投与される場合、裸の核酸であっても、又任意の化学的、生化学的又は生物学的作用物質に複合されても、又ベクターなどの中に挿入されてもよい。
【0101】
本書で使用されている通り、「裸のDNA」という用語は、前記DNAの送達又は移入を改善するか又は細胞内へのその進入を促進する合成、生合成、化学、生化学又は生物学的作用物質に組合わされていないあらゆる核酸分子を意味する。
【0102】
本書で使用される「ベクター」という用語は、自らが連結されているもう1つの核酸を輸送する能力をもつ核酸分子を意味する。この用語は同様に、本出願においては、その細胞送達を増大させるため治療用又は予防用核酸に結びつけられる組成物といったようなあらゆる送達担体をも意味している。
【0103】
好ましいベクターは、それらが連結されている核酸の自己複製及び/又は発現能力をもつベクターである。自らが操作可能な形で連結されている遺伝子の発現を導く能力をもつベクターは、本書では「発現ベクター」と呼ばれている。一般に、組換えDNA技術において有用な発現ベクターは、往々にして、そのベクター形態では染色体に結合されない環状2本鎖DNAループを意味する「プラスミド」の形をしている。本発明においては、プラスミドは、ベクターの最も一般的に使用されている形態である。プラスミドは、本発明に従った裸のDNAの好ましい形態である。
【0104】
ベクターは同様に、エピソームDNA、酵母人工染色体、ミニ染色体又はウイルスベクターでもあり得、ここで該ウイルスベクターはレンチウイルス、アデノウイルス、アデノ関連ウイルス及びウイルス様ベクターからなる群から選択される。
【0105】
ベクターは同様に、リポソームといったような脂質小胞でもあり得る。リポソームではない脂質ベースの化合物をさらに使用することができる。例えば、リポフェクチン及びサイトフェクチンは、負に帯電した核酸に結合しかつ細胞膜を横断してDNAを運ぶことのできる複合体を形成する脂質ベースの正のイオンである。本発明は、同等の機能を果たし、その後で当該技術において知られるようになったその他の形態の発現ベクターを含み入れるように意図されている。
【0106】
さらに、本発明に従った核酸は同様に、例えば、毛様体組織又は細胞及び/又は外眼筋又は細胞の中での発現を可能にしかつ/又はそれを促進する配列、転写終結シグナル、分泌配列、複製起点及び/又は細胞核に対するポリヌクレオチド移入をさらに増強する核局在化シグナル(nls)配列などのプロモータ領域(構成的、調節される、誘発可能、組織特異的領域など)といった当業者が利用できる小型又は大型の調節要素などの1つ以上の付加的な領域を含有し得る。このようなnls配列は、SV40大型T抗原配列を含め、文献中で記述されてきている(ディングウォール(Dingwall)及びラスキー(Laskey)、Trends Biochem.Sci.第16号(1991年)478頁;カルデロン(Kalderon)ら、Nature第311号(1984年)33頁)。
【0107】
加えて、核酸はさらに、核酸移入の結果(どの組織への移入か、発現持続時間など)を選択、測定及び監視する上で有用である選択可能なマーカーを含み得る。使用可能な又は使用に適合させることのできる発現系及びレポータ遺伝子のタイプは、当該技術分野において周知である。例えば、ルシフェラーゼ活性、アルカリホスファターゼ活性又は緑色蛍光タンパク質活性についてコードする遺伝子が一般的に使用されている。アウスベル(Ausubel)ら、[Current Protocols in Molecular Biology、John Wiley & Sons、N.Y.(1989年)、及び1999年5月までの追補]を参照のこと。
【0108】
本発明に従った核酸はあらゆるサイズのあらゆるヌクレオチド配列を含有し得る。かくして核酸は、単純なオリゴヌクレオチドからより大きな分子、例えばエクソン及び/又はイントロン及び/又はあらゆるサイズ(大または小)の調節要素を含むヌクレオチド配列、あらゆるサイズ、例えば大きなサイズの遺伝子又は例えば染色体に至るまで、サイズが変動していてよく、プラスミド、エピソーム、ウイルスゲノム、ファージ、酵母人工染色体、ミニ染色体、アンチセンス分子などであり得る。
【0109】
特に好ましい実施形態においては、ポリヌクレオチドは、生物活性を有する生成物をコードするプラスミドといったような2本鎖環状DNAである。
【0110】
核酸は、増幅、原核又は真核宿主細胞内での培養、精製などといった従来の組合せDNA技術に従って調製及び生産可能である。組換えDNA技術の技法は、当業者にとっては既知のものである。組換え分子のクローニング及び発現のための一般的方法は、本明細書に参照により援用されているマニアティス(Maniatis)ら、(「Molecular Cloning」、Cold Spring Harbor Laboratories、1982年)中、及びアウスベル(Ausubel)ら(「Current Protocols in Molecular Biology」、Wiley and Sons、1987年)の中で記述されている。
【0111】
好ましい生物活性をもつ物質は、眼科用活性物質、すなわち、眼細胞に対し有益な効果を及ぼす能力をもつ物質である。それは過剰な内因性物質の低減における、又はその欠如を代償する能力を有する物質であり得る。代替的には、それは細胞に対し新しい特性を付与する物質であり得る。これは例えば、眼細胞の機能、形態、活性及び/又は代謝に影響を及ぼし得るポリペプチド又はアンチセンス配列であり得る。
【0112】
アンチセンス核酸を用いた遺伝子発現のダウンレギュレーションは、翻訳又は転写レベルで達成可能である。本発明のアンチセンス核酸は好ましくは、内因性眼活性物質をコードする核酸と特異的にハイブリッド形成する能力をもつ核酸フラグメント又は対応するメッセンジャRNAである。これらのアンチセンス核酸は、任意にはその安定性及び選択性を改善するべく修飾される合成オリゴヌクレオチドであり得る。これらは同様に、細胞内でのその発現が、内因性眼科用活性物質をコードするmRNAの全て又は一部分に相補的なRNAを生産させるDNA配列でもあり得る。アンチセンス核酸は、反対の向きでの内因性眼科用活性物質をコードする核酸の全部又は一部分の発現により調製され得る。それが内因性眼科用活性物質の発現をダウンレギュレートするか又は遮断する能力を有するかぎり、アンチセンス配列のあらゆる長さが本発明の実践に適している。好ましくは、アンチセンス配列の長さは、少なくとも20ヌクレオチドである。アンチセンス核酸の調製及び使用、アンチセンスRNAをコードするDNA及びオリゴ及び遺伝的アンチセンスの使用については、その内容が本明細書に参照により援用されている国際公開第92/15680号パンフレットの中で開示されている。
【0113】
以上で記述されている通りの核酸により任意に発現されるか又は生物活性をもつ作用物質として使用可能でありかつ本発明の実践に適している生物活性をもつポリペプチド又はタンパク質としては、酵素、血液誘導体、ホルモン、リンホカイン、サイトカイン、ケモカイン、抗炎症性因子、成長因子、栄養因子、神経栄養因子、造血因子、血管新生因子、抗血管新生因子、メタロプロテイナーゼ阻害物質、アポトーシス調節因子、凝固因子、そのレセプタ、特に可溶性レセプタ、レセプタ又は接着タンパク質のアゴニスト又はアンタゴニストであるペプチド、抗原、抗体、そのフラグメント又は誘導体及び細胞のその他の必須成分がある。
【0114】
さまざまな網膜由来の神経栄養因子が変性光受容細胞を救助する潜在力を有しており(リー(Li)及びターナー(Turner)、1988年a,b;リー(Li)ら、1991年;アンチャン(Anchan)ら、1991年;シードロ(Sheedlo)ら、1989年、1993年;ギュモ(Guillemot)及びセプコ(Cepko)、1992年;スティール(Steele)ら、1993年)、本発明に従った方法を通して送達可能である。
【0115】
好ましい生物活性をもつ作用物質は、VEGF、アンギオジェニン、アンギオポイエチン−1、Del−1、酸性又は塩基性線維芽細胞成長因子(aFGF及びbFGF)、FGF−2、フォリスタチン、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、肝細胞成長因子(HGF)、散乱因子(SF)、レプチン、ミッドカイン、胎盤成長因子(PGF)、血小板由来内皮細胞成長因子(PD−ECGF)、血小板由来成長因子−BB(PDGF−BB)、プレイオトロフィン(PTN)、プログラニュリン、プロリフェリン、形質転換成長因子−アルファ(TGF−alpha)、形質転換成長因子−ベータ(TGF−beta)、腫瘍壊死因子−アルファ(TNF−alpha)、血管内皮成長因子(VEGF)、血管透過因子(VPF)、CNTF、BDNF、GDNF、PEDF、NT3、BFGF、アンギオポイエチン、エフリン、EPO、NGF、IGF、GMF、aFGF、NT5、Gax、成長ホルモン、α−1−アンチトリプシン、カルシトニン、レプチン、アポリポタンパク質、ビタミン生合成酵素、ホルモン又はニューロメディエータ、ケモカイン、サイトカイン例えばIL−1、IL−8、IL−10、IL−12、IL−13、それらのレセプタ、前記レセプタのいずれかを遮断する抗体、TIMP、例えばTIMP−1、TIMP−2、TIMP−3、TIMP−4、アンギオアレスチン、エンドスタチン、例えばエンドスタチンXVIII及びエンドスタチンXV、ATF、アンギオスタチン、エンドスタチン及びアンギオスタチンの融合タンパク質、マトリックスメタロプロテイナーゼ−2のC−末端ヘモペキシンドメイン、ヒトプラスミノゲンのクリングル5ドメイン、エンドスタチン及びヒトプラスミノゲンのクリングル5ドメインの融合タンパク質、胎盤リボヌクレアーゼ阻害物質、プラスミノゲン活性剤阻害因子、血小板因子−4(PF4)、プロラクチンフラグメント、プロリフェリン関連タンパク質(PRP)、抗血管新生抗トロンビンIII、軟骨由来阻害物質(CDI)、CD59補体フラグメント、バスキュロスタチン、バソスタチン(カルレチキュリンフラグメント)、トロンボスポンジン、フィブロネクチン、特にフィブロネクチンフラグメントグロ−ベータ、ヘパリナーゼ、ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)、インターフェロンアルファ/ベータ/ガンマ、インターフェロン誘発性タンパク質(IP−10)、インターフェロン−ガンマ誘発型モノキン(Mig)、インターフェロン−アルファ誘発性タンパク質10(IP10)、Mig及びIP10の融合タンパク質、可溶性Fms−様チロシンキナーゼ1(FLT−1)レセプタ、キナーゼ挿入ドメインレセプタ(KDR)、アポトーシスの調節因子、例えばBcl−2、Bad、Bak、Bax、Bik、Bcl−X短イソ型及びGax、それらのフラグメント又は誘導体などから選択され得る。
【0116】
特に好ましい実施形態においては、核酸は、TNFαレセプタ、TGFβ2レセプタ、VEGFR−1、VEGFR−2、VEGFR−3、CCR2又はMIP1の可溶性フラグメントをコードする。
【0117】
核酸は同様に、もう1つの好ましい実施形態において、抗体、1本鎖抗体の可変フラグメント(ScFv)又は免疫療法を目的として認識能力をもつその他のあらゆる抗体フラグメントをコードし得る。
【0118】
本発明の特定の実施形態においては、生物活性をもつ核酸は、以上で記述したもののような本発明の中で使用可能である治療用タンパク質の前駆体をコードする。
【0119】
その上、本発明のもう1つの実施形態においては、生物活性をもつ全く異なる生成物をコードする核酸の混合物を使用することができる。この変形形態によると、眼細胞中の異なる生成物の同時発現が可能となる。
【0120】
核酸を送達する基本的方法としては、インビボ遺伝子移入及びエクスビボ遺伝子移入がある。インビボ遺伝子移入には、上述の通りの裸の核酸、複合核酸、核酸ベクターなどを用いて患者の毛様体組織又は細胞内及び/又は外眼筋又は細胞内に特異的に核酸を導入することが関与する。上述の広範囲にわたるカテゴリのうちの2つの全てを用いて、本発明の状況下で遺伝子移入を達成することが可能である。本発明に従ったエクスビボ遺伝子移入においては、任意の細胞特に筋肉細胞、好ましくは平滑筋細胞、さらに一層好ましくは毛様体組織から及び/又は外眼筋からの細胞が患者から採取され、細胞培養内で成長させられる。核酸は、前記細胞内にトランスフェクションされ、トランスフェクションを受けた細胞は好ましくはその数を増加させ、その後患者の体内、好ましくは毛様体組織又は細胞内及び/又は外眼筋又は細胞内に再移植される。本発明に従ったエクスビボ遺伝子移入において使用可能である特定の細胞は、例えば線維芽細胞であり得る。本発明に従ったもう1つの生物活性ある生成物は、かくして、上述の通りの問題の核酸でのトランスフェクションを受けた細胞又はかかる核酸を発現する細胞である。
【0121】
医薬組成物
一実施形態においては、本発明は、治療すべき対象の毛様体組織又は細胞及び/又は外眼筋又は細胞に対し投与することにより眼疾患を治療又は予防するための組成物を調製することを目的とした、治療用又は予防用核酸といった生物活性をもつ作用物質の使用において、さらに薬学的に受容可能な賦形剤又は希釈剤を含有する組成物の中に生物活性をもつ作用物質が存在している使用に関する。
【0122】
本発明のもう1つの目的は、眼疾患を予防又は治療するための医薬組成物において、毛様体組織又は細胞内及び/又は外眼筋又は細胞内への投与用に意図され、上述の通りの生物活性をもつ作用物質及び好ましくは薬学的に受容可能な賦形剤又は希釈剤を含んでいる医薬組成物に関する。
【0123】
本発明に従った薬学調製物又は組成物は、基本的に、受容可能な担体、賦形剤又は希釈剤の中の生物活性をもつ作用物質、好ましくは裸の核酸、複合核酸、核酸ベクター又は送達系などで構成され得、そうでなければ、作用物質が中に包埋される徐放性マトリクスを含み得る。代替的には、例えばプラスミドベクターなど、組換え細胞から無傷の状態で完全な核酸送達系を生産することができる場合、薬学調製物は、分泌された治療用タンパク質を生産する好ましくは毛様体細胞及び/又は外眼筋細胞といった1つ以上の細胞を含み得る。
【0124】
薬学的に相容性があるか又は生理学的に受容可能な担体、賦形剤又は希釈剤としては、投与方法にとって薬学的に受容であり、無菌であり、かつ中性乃至弱酸性である等張緩衝食塩水(リン酸塩、塩化物などを含む)、水性又は油性溶液又は懸濁液の中から、及びより好ましくはスクロース、トレハロース、界面活性剤、タンパク質及びアミノ酸の中から選択され得る希釈剤及び充てん剤が含まれる。薬学的に相容性があるか又は生理学的に受容可能な担体、賦形剤又は希釈剤は、好ましくは、適切な分散剤、湿潤剤、懸濁剤、緩和剤、等張剤又は粘度上昇剤、安定化剤、防腐剤及び等張溶液を形成するための適切な緩衝液を用いて処方される。特別な薬学的に受容可能な担体及び活性化合物対担体比は、組成物の溶解度及び化学的特性、特定の投与様式及び標準的な薬学的実践方法により決定される。当業者であれば、既知の技術によりかかるビヒクルをいかにして処方するかを理解することと思われる。
【0125】
安定剤の例としては、エデト酸2ナトリウムなどがある。等張剤の例としては、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、塩化ナトリウム、塩化カリウム、ソルビトール及びマンニトールなどがある。緩衝液の例としては、クエン酸、リン酸水素、氷酢酸及びトロメタモールなどがある。pH調整剤の例としては、塩酸、クエン酸、リン酸、酢酸、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム及び炭酸水素塩などがある。緩和剤の例としては、ベンジルアルコールなどがある。防腐剤の例としては、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、p−ヒドロキシ安息香酸エステル、安息香酸ナトリウム及びクロロブタノールなどがある。
【0126】
活性化合物の眼吸収を増大させるため、製剤を送り出す上での可変性を逓減させるため、処方懸濁液又はエマルジョンの構成要素の物理的分離を低減させるため及び/又はその他の形で眼科用処方を改良するためには、単純な水溶液の粘度に比べて高い粘度が必要となる可能性がある。このような粘度上昇剤としては、例えばポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース又は当業者にとって既知のその他の作用物質が含まれる。かかる作用物質は標準的には約0.01〜約2重量%のレベルで利用される。
【0127】
本発明の毛様体組織又は細胞及び/又は外眼筋又は細胞に対する投与向けに意図された医薬組成物の調製物形態は、好ましくは液体調製物である。液体調製物は、例えばBSS(平衡塩類溶液)、グリセリン溶液、ヒアルロン酸溶液などの中に生物活性をもつ作用物質を溶解させることによって調製可能である。特定の組成物には、例えばBBS(60%)及びヒアルロン酸(40%)が含まれる。安定剤、等張剤、緩衝剤、pH調整剤、緩和剤、防腐剤、電解質例えばナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム及び/又は塩化物などを、任意には、液体調製物に適切な量で添加することができる。
【0128】
本書にその内容が参照により援用されている米国特許第5,580,859号明細書及び同第5,589,466号明細書の中で、哺乳動物の筋肉組織に対して裸のDNAを処方し投与するための方法が開示されている。
【0129】
医薬組成物は、任意の付加的な活性成分又はアジュバントを含むことができ、又、生物活性をもつ作用物質を任意の付加的な活性成分又はアジュバントと組合せることもできる(本発明に従った使用の中で)。アジュバントは、前記作用物質の送達又は移入を改善させる任意の生物学的、合成又は生合成作用物質といったような予防用又は治療用作用物質の生物活性を促進又は増大させるあらゆる物質、混合物、溶質又は組成物から選択され得、本発明に従った(送達担体としての)ベクターに同化され得る。アジュバントは、組成物を含有する予防用又は治療用作用物質とは個別に又は逐次的に、かつ/又は全く異なる注入部位においてコンディショニングされ投与され得る。本発明に従った多数の作用物質及び/又はアジュバントでの治療は、作用物質及び/又はアジュバントの混合物を用いて行なわれる必要はなく、別々の薬学調製物を用いて行なうことができる。調製物は、正確に同時刻に送達される必要はないが、同じ治療期間中に、すなわち互いから1週間又は1カ月以内に患者に対し送達されるべく調整され得る。
【0130】
本発明の組成物と任意の適切な治療薬を調和させることが可能である。本発明に従った方法を通して上述の生物活性をもつ(予防用又は治療用)作用物質に加えて投与され得る治療薬の制限的意味のない例には同様に、透過性上昇作用物質、例えばウイルス、脂質小胞、ヒアルロン酸、脂質ベースの正イオン、ポリカチオン性エマルジョン、カチオン性ペプチド、ポリプレックスなど;抗生物質及び抗菌剤、例えば塩酸テトラサイクリン、ロイコマイシン、ペニシリン、ペニシリン誘導体、エリスロマイシン、スルファチアゾール及びニトロフラゾン;局所麻酔薬、例えばベンゾカイン;血管収縮剤、例えば塩酸フェニレフリン、塩酸テトラヒドロゾリン、硝酸ナファゾリン、塩酸オキシメタゾリン及び塩酸トラマゾリン;強心剤、例えばジギタリス及びジゴキシン;血管拡張剤、例えばニトログリセリン及び塩酸パラベリン;消毒剤、例えば塩酸クロルヘキシジン、ヘキシルレゾルシノール、デカリニウムクロリド及びエタクリジン;酵素、例えば塩化リゾザイムおよびデキストラナーゼ;降圧剤;鎮静剤;抗腫瘍剤;ステロイド系抗炎症剤、例えばヒドロコルチゾン、プレドニゾン、フルチカゾン、プレドニゾロン、トリアムシノロン、アセトニド、デキサメタゾン、ベータメタゾン、ベクロメタゾン及びジプロピオン酸ベクロメタゾン;、非ステロイド系抗炎症剤、例えばアセトアミノフェン、アスピリン、アミノピリン、フェニルブタゾン、メファナム酸、イブプロフェン、ジクロフェナクナトリウム、インドメタシン、コルチシン、及びプロベノシド;酵素系抗炎症剤、例えばキモトリプシン及びブロメランセラチオペプチダーゼ;抗ヒスタミン剤、例えば塩酸ジフェンヒドラミン、マレイン酸クロロフェニラミン及びクレマスチン;抗アレルギー剤;及び鎮痛性化合物が含まれる。
【0131】
本発明の組成物中の活性成分の実際の投薬量レベルは、所望の生物活性を得るのに有効である活性成分の量を得るように適合可能である。しかしながら、任意の特別な患者のための特定の用量レベルは、体重、全身的な健康状態、性別、食生活、時間、吸収及び排泄速度、その他の薬物との組合せ、及び治療対象の特定の疾患の重症度を含めたさまざまな因子によって左右されることになることは理解されるべきである。
【0132】
医薬組成物は、単位剤形の体裁をとることが適切であり得、薬学の分野で周知の方法のいずれによっても調製可能である。全ての方法は、1つ以上の副成分を構成する上述の通りの担体と活性作用物質を会合状態にするステップを含んでいる。一般に、組成物は、活性作用物質を担体好ましくは液体担体と均質かつ密に会合した状態にすることによって調製される。
【0133】
その他の送達系は、時間放出、遅延放出又は持続放出送達系を内含し得る。かかる系は、必要な場合、活性作用物質の反復的投与を回避して、対象及び医師にとっての利便性を増大させることができる。数多くのタイプの放出送達系が利用可能であり、当業者にとっては既知である。これらには、ポリ(ラクチド−グリコリド)、コポリオキサラート、ポリカプロラクトン、ポリエステルアミド、ポリオルトエステル、ポリヒドロキシ酪酸及びポリ無水物といったようなポリマーベース系が含まれる。送達系は同様に、コレステロール、コレステロールエステル及び脂肪酸といったようなコレステロール又はモノ及びトリグリセリドといったような中性脂肪を含む脂質、ヒドロゲル放出系、シラスティック系、ペプチドベース系、ワックスコーティングなどをも含み得る。
【0134】
本発明のもう1つの実施形態は、治療すべき対象の毛様体組織又は細胞及び/又は外眼筋組織又は細胞に対して投与することによって対象の体内の眼疾患を予防又は治療するための上述の医薬組成物を調製するための、上述のような生物活性をもつ作用物質、好ましくは治療用核酸の使用に関する。
【0135】
治療
本発明は、対象の眼球、特に眼の内部又は後方部分に対して前述の生物活性又は薬理活性をもつ作用物質、特に治療用又は予防用核酸又は本発明に従った組成物を送達するためのインビボ方法において、前記作用物質又は組成物を毛様体組織又は細胞及び/又は外眼筋組織又は細胞内に投与することが含まれる方法を提供している。
【0136】
本発明のさらなる目的は、毛様体組織又は細胞及び/又は外眼筋組織又は細胞の中にタンパク質をコードする核酸を投与するステップを含む、対象の眼組織又は細胞内で治療用又は予防用タンパク質を生産させる方法において、前記核酸が以上で説明された通りに前記眼組織又は細胞まで送達される方法にある。
【0137】
本発明の目的は同様に、毛様体組織又は細胞及び/又は外眼筋組織又は細胞に対して、上述の生物活性又は薬理活性をもつ作用物質、好ましくは核酸又は本発明に従った組成物を投与するステップを含む、眼疾患又は眼の機能障害から対象を保護する方法において、前記作用物質又は組成物が眼組織又は細胞に送達され眼疾患から保護する方法にも関する。
【0138】
本発明のさらにもう1つの態様は、対象の毛様体(筋肉又は上皮)及び/又は外眼筋に対し、上述の通りの生物活性又は薬理活性をもつ作用物質、好ましくは治療用物質をコードする核酸又は本発明に従った組成物を投与するステップを含む、対象が罹患している眼疾患又は眼の機能障害を治療する方法において、前記作用物質又は組成物が機能障害のある眼組織又は細胞に対し送達される方法、にある。
【0139】
本発明のもう1つの態様は、遺伝子療法に関する。この種の療法は、インビボ又はエクスビボのいずれかでの細胞又は組織内への核酸の導入から成る。一部のケースでは、核酸は、機能性に欠いた内因性遺伝子と交換する(又はその代りに作用する)或いはそれを補正し、治療用ポリペプチドを生産する能力を宿主に付与し、望ましくない遺伝子産物の退行をひき起こし、或いは又免疫応答を刺激するように意図されている。
【0140】
特定の態様においては、本発明は、治療を必要としている対象宿主において、その遺伝子発現がその疾病に結びつけられている標的細胞の標的遺伝子の中で突然変異を復元する又は誘発させる能力をもつ核酸、好ましくは以上で定義された通りのキメラオリゴヌクレオチドを投与することを含む、疾病を治療する方法において、前記標的細胞内に前記核酸をインビボで送達するために用いられる方法が本発明に従ったインビボ核酸の送達方法である方法に関する。
【0141】
特定の実施形態においては、本発明に従った眼細胞に核酸をインビボで送達するための方法は、その発現が眼疾患の原因である突然変異遺伝子である眼細胞遺伝子の中の少なくとも1つの突然変異の存在に起因する眼の遺伝病を治療又は予防するために使用される。この方法においては、前記核酸は、前記標的突然変異遺伝子の中で復元することが望まれる突然変異を除いて、前記細胞の標的突然変異遺伝子のゲノムDNAフラグメント配列と相補的である。
【0142】
もう1つの好ましい実施形態においては、本発明に従った眼細胞内にインビボで核酸を送達するための方法は、眼疾患を研究するため又はこの眼疾患を治療できる化合物をスクリーニングするためのモデルとして役立ち得る動物又はヒトの組織又は生体を得ることを目的として、その発現が該眼疾患の原因である突然変異遺伝子である、動物の前記眼細胞の遺伝子の中に、突然変異を自発的に誘発するのに使用される。
【0143】
上述の治療用又は予防用方法の利益を享受し得る対象は、任意の眼科用薬物、タンパク質又はペプチドでの治療を必要とする任意の眼疾患及び眼の条件に罹患している又は罹患する可能性のある動物、特にあらゆる哺乳動物、好ましくはヒトであり得る。
【0144】
かくして、本発明は、単独で又は付加的な治療と組合せた形での、眼の炎症性疾患、虚血性疾患、増殖性疾患(例えば血管新生又はグリア病)、神経変性病及び緑内障を含む(ただしこれらに制限されるわけではない)さまざまな眼疾患又は眼の機能障害を予防又は治療することを目的とした、かかる方法の使用に関する。
【0145】
本発明を用いて治療可能な眼疾患の例
本発明のさまざまな実施形態により治療可能な眼疾患及び障害の制限的な意味のない例としては、増殖性眼疾患、神経変性眼疾患、緑内障、感染性眼疾患、炎症性眼疾患(例えば、結膜炎、角膜炎、内皮炎、ブドウ膜炎、脈絡膜炎、網膜炎、脈絡網膜炎、前部ブドウ膜炎及び炎症性視神経症)、網膜変性(特に網膜色素変性症、周辺部網膜変性症、黄斑変性症、例えば乾燥加齢性黄斑変性症)、虚血性網膜症(特に、未熟児網膜症及び糖尿病性網膜症)、網膜血管疾患、眼虚血性症候群及びその他の血管異常、脈絡膜障害及び腫瘍、硝子体障害、グリア細胞増殖、例えば増殖性硝子体網膜症及び糖尿病性前網膜血管形成に付随するグリア細胞増殖などが含まれる。
【0146】
本発明により予防又は治療可能な主要な疾病について以下で記述する。
【0147】
眼内炎は、眼内組織、主としてブドウ膜及び網膜の全てのタイプの炎症を統合している。眼内炎症は、免疫学的原因、感染性原因、医原性原因又は未知の病因によるものであり得る。これらは、急性、再発性又は慢性であり得る。眼内炎症は、治癒可能な失明の最も多い原因に入るものである。後眼部眼内炎症は、脈管炎、視神経炎、硝子体炎、舞踏病性網膜炎に関連づけされ得る。
【0148】
遺伝性網膜ジストロフィ又は網膜色素変性症は、視覚サイクルに関与する遺伝子内の突然変異又は欠失に起因する遺伝性失明病である。これらの疾病は、幼齢で始まり、ゆっくりと進行して完全に失明する。光受容体の喪失が網膜色素細胞の喪失及びより後期での脈管及び視神経萎縮と関連づけされる。これらの遺伝性変性の一部は、ミトコンドリアDNA内の突然変異に起因する。
【0149】
緑内障には主として2つのタイプ、すなわち慢性緑内障又は原発性開放隅角緑内障(POAG)及び急性閉塞隅角緑内障が存在する。その他の変形形態としては、先天性緑内障、色素性緑内症、血管新生緑内症及び続発性緑内症が含まれる。緑内症は、高眼圧症に類似しているが、視神経損傷及び視力喪失が伴う。緑内障は通常、点眼薬、レーザー又は従来の眼科手術で治療される。治療を行わない場合、緑内障は失明をひき起こすことになる。
【0150】
血管形成は、新血管形成に導く新たな毛細血管の形成である。血管形成は、血管基底膜及び間質マトリクスの内皮細胞媒介型分解、内皮細胞の移動、内皮細胞の増殖及び内皮細胞によるループ状毛細血管の形成を含めた一連の逐次的ステップを含む複雑なプロセスである。血管形成は、脈管構造の発達又は維持のための正常なプロセスであるが、血管成長が実際に有害である場合に、病的状態(すなわち血管形成依存性疾患)が発生する。血管形成は、特に、糖尿病性網膜症、加齢性黄斑変性症、未熟児網膜症、角膜移植拒絶反応、血管新生緑内障及び角膜瘢痕化を含めた眼組織の重要な疾病と関連づけされる。眼内の血管のどんな異常成長でも、網膜に達する前に入射光を散乱させ遮断する可能性がある。新血管形成は、眼の中のほぼあらゆる部位で発生し得、眼組織の機能を著しく改変させる。最も恐ろしい眼の血管新生疾患は、網膜が関与するものである。例えば、数多くの糖尿病患者が、網膜の後表面上及び硝子体内に漏れやすい新しい血管を形成して増殖性の硝子体網膜症をひき起こすことを特徴とする網膜症を発生させる。加齢性黄斑変性症患者の一部の集団は、場合によって失明に至る網膜下血管新生を発生させる。
【0151】
糖尿病性網膜症は、眼の内部の網膜血管が血液及び流体を周囲の組織内に漏出させる場合に起こる。糖尿病患者の約80%が糖尿病性網膜症を発生させる。この病気は一般にレーザーを用いて治療される。しかしながら、レーザー療法には、網膜静脈の閉塞、視力の喪失、硝子体出血を含めた合併症が関与し、時として失敗する。治療を行わなければ、糖尿病性網膜症は失明をひき起こし得る。
【0152】
未熟児網膜症(ROP)は、未熟児がかかるものである。それは、網膜及び硝子体内の血管の異常成長から成る。ROPが後期まで進行すると、網膜上に瘢痕組織が形成され、硝子体が出血し、網膜剥離が起こる。治療は通常レーザー又は凍結療法(フリージング)のいずれかによって実施される。
【0153】
虚血性網膜症は、神経網膜のいたみ、細胞死及び新生血管形成を導く血管閉塞(毛細血管又は大血管)に関連づけされる網膜症である。
【0154】
黄斑変性症は、中心視を侵し、視力喪失に導く病気である。若年者を襲う黄斑変性症形態も存在するが、該身体条件は60才を超えた人に発生するのが最も一般的である。この障害は従って、加齢性黄斑変性症(AMD)と呼ばれる。人の視覚の中心のみが通常侵されることから、該疾病から失明が起こることは稀である。しかしながら、網膜の中心の斑点に対する傷害は真直ぐ前方をはっきりと見る能力を破壊し得る。乾燥型には、神経網膜、RPE細胞及び脈絡膜の変性が付随する。湿潤型には、先に記述した現象及び脈絡毛細管板及び/又は網膜血管からの新血管の成長、網膜下剥離及び出血、上皮下出血及び涙液などが付随する。黄斑変性症は通常、60才以降に発生する。中心視が逓減する一方で、ほとんどの患者は一部の視覚を保持し、完全失明には決して至らない。
【0155】
角膜炎は、角膜の炎症である。角膜炎は、細菌、ウイルス、又は真菌感染、眼瞼の障害又は涙液形成能力の減退の結果としてのドライアイ、非常に明るい光に対する露出、眼を傷つけるか又は眼の中に引っかかった異物、アイメーキャップ、ダスト、花粉、公害又はその他の刺激物に対する感受性又はアレルギー反応、及びビタミンA欠乏症によってひき起こされる可能性がある。
【0156】
黄斑パッカー(網膜上膜、網膜しわ、黄斑前線維症及びセロファン黄斑症とも呼ばれる)は、網膜から剥離して網膜に瘢痕又はシワを形成させることになる硝子体の加齢性収縮に起因することが最も多い。黄斑パッカーのその他の原因には、(外科手術又は眼の傷害由来の)外傷、網膜剥離、炎症、及び網膜血管の問題が含まれる。唯一の治療は、瘢痕組織の剥ぎ取りと組合わされた硝子体切除(硝子体の除去)から成る外科手術である。硝子体切除の最も一般的な合併症は、白内障発生速度を速めるということにある。
【0157】
治療される眼疾患は、強膜炎、結膜炎、角膜炎、内皮炎、ブドウ膜炎、脈絡膜炎、網膜炎、網膜脈絡膜炎、前部ブドウ膜炎、未熟児網膜症、糖尿病性網膜症、増殖性硝子体網膜症、遺伝性網膜ジストロフィ、加齢性黄斑変性症、開放隅角緑内障、血管新生緑内症、虚血性網膜症などの中から選択され得る。
【0158】
本発明の好ましい態様は、TNFアルファのための可溶性レセプタをコードする核酸を、慢性ブドウ膜炎に罹患している哺乳動物の毛様体組織又は細胞及び/又は外眼筋組織又は細胞に対し投与するステップを含む、慢性ブドウ膜炎の治療方法にある。
【0159】
本発明のもう1つの好ましい態様は、抗VEGF、抗VEGFレセプタ又は抗PLGFをコードする核酸を、眼内新血管又は黄斑浮腫に罹患した哺乳動物の毛様体組織又は細胞及び/又は外眼筋組織又は細胞に対し投与するステップを含む、当該疾病の治療方法にある。
【0160】
本発明のさらに好ましい態様は、上述の通りの神経栄養因子をコードする核酸を、網膜色素変性症に罹患した哺乳動物の毛様体組織又は細胞及び/又は外眼筋組織又は細胞に対し投与するステップを含む、当該疾病の治療又は遅延方法にある。
【0161】
本発明のもう1つの好ましい態様は、抗IRS−1又はIGF−1をコードする核酸を、糖尿性網膜症に罹患した哺乳動物の毛様体組織又は細胞及び/又は外眼筋組織又は細胞に対し投与するステップを含む、当該疾病の治療方法にある。
【0162】
本発明に従った方法及び使用においては、毛様体組織又は細胞及び/又は外眼筋組織又は細胞を、核酸移入の前後、又はその間に当該移入を改善させるための処置に付すことができる。この処置は、薬理学的なものであり、局所的又は全身的施用の形をとり得るが、そうでなければ、先に記述したように酵素的、透過化、外科的、機械的、熱又は物理的処置でもあり得る。
【0163】
キット
本発明の方法に従うと、眼疾患の予防又は治療用のキットが想定されている。
【0164】
本発明に従った装置及び組成物は、まとめてキットの形で供給され得る。該キットの中で、構成要素は別々に包装されていても又格納されていてもよい。賦形剤、担体、その他の薬物又はアジュバント、活性物質又は組成物の投与のための使用説明書及び投与又は注入装置などの他の構成要素もこのキットの中に入って供給され得る。使用説明書は、書面、ビデオ又はオーディオ形態をとり得、紙、電子媒体に格納されていてもよく、さらには、ウェブサイト又は参考マニュアルといったような別の出典への参照指示として含まれていてもよい。
【0165】
特に、本発明は、乾燥され凍結乾燥されたプラスミド、このプラスミド用の希釈媒質及び上述の通りの使い捨て電極装置を格納するキットを含んでいる。
【0166】
本発明のその他の態様及び利点は、以下の実施例の中で記述されるが、これらの実施例は、例示目的のものであって本出願の範囲を制限していないとみなされるべきである。
【実施例】
【0167】
本発明において、発明者らは、特に眼の毛様体筋肉を特異的にトランスフェクトするための新規のエレクトロトランスファ技法を設計した。緑色蛍光タンパク質(GFP)又はルシフェラーゼ(luc)のいずれかをコードするプラスミドが、トランスフェクション後の遺伝子発現を追跡し秤量するために使用されてきた。この技法の療法としての潜在的可能性は、ヒトTNF−α可溶性レセプタI(hTNER−Is)をコードする遺伝子を用いてエンドトキシン誘発型ブドウ膜炎(EIU)に罹患したラットにおいて評価される。
【0168】
材料と方法
動物:
生後6〜7週で体重150〜200gの雌のルイスラット(フランスLyonのIFFA CREDO)を使用した。視覚および眼科研究における動物の使用についてのARVO宣言(ARVO Statement for the Use of Animals in Ophthalmic and Vision Research)に従って実験を実施した。研究に含み入れる前1週間ラットを保持した。実験のために、腹腔内ペントバルビタール注入液(40mg/kg)でラットを麻酔した。実験の終了時点で、過量のペントバルビタールによりラットを屠殺した。
【0169】
プラスミド:
pVAX2は、プロモータをpCMVβプラスミドプロモータで交換したpVAX1プラスミド(インビトロジェン(Invitrogen))から成る。pCMVβ(クローンテック(Clontech))をEcoRIで消化し、次にクレノウフラグメントで平滑末端化し、最後にBamHIで消化した。結果として得た629bpのフラグメントを、アガロースゲル電気泳動の後、精製した。このプロモータをHincII−BamHIpVAX1フラグメント内にライゲートしてpVAX2を得た。pVAX2−lucは、CMVプロモータの制御下で細胞質性ホタルルシフェラーゼプラスタンパク質をコードする4.6kbのプラスミドベクターである。
【0170】
プラスミドpEGEP−C1は、CMVプロモータ(カリフォルニア州Palo Altoのクローンテック(Clontech))の制御下で緑色蛍光タンパク質遺伝子を担持する4.7kbのプラスミドである。プラスミドpVAX2hTNFR−Is/mIgG1は、pVAX2主鎖にクローニングされた免疫グロブリンG1(IgG1)のFc部分に連結されたヒトTNF−α可溶性レセプタI型(hTNFR−Is)のキメラタンパク質をコードする4.3kbのプラスミドである。このキメラタンパク質は、天然の単量体hTNFR−Isに比べてより長い半減期を有している。
【0171】
ラット毛様筋へのエレクトロトランスファ
エレクトロトランスファの実験を行うために、眼を露出させ、外科用シートを用いて所定の位置に保持する。毛様筋内への筋内注入を100μl入りのマイクロファインシリンジ(ハミルトン(Hamilton)、スペイン)上で30Gの針を用いて、側頭部上象眼内で実施した。辺縁の後ろの強膜の下にある毛様筋に到達するために、トンネル角膜切除を通して、毛頭筋内注入を実施した。針が辺縁を横断した時点で、これを1mmの距離にわたりやや深く挿入し、(1倍生理食塩水10μlの中に希釈させた)プラスミドを注入した。注入後、小さい強膜下気泡が形成する(図1A)。エレクトロトランスファのためには、2mmにわたり裸であり次にその長さの残りの部分ではシリコーンで被覆されている特殊設計の鋭利なイリジウム/白金電極(直径500μm)を角膜トンネル内に挿入し、陰極に接続した。陽極戻り電極は、毛様体の上にあるラットの強膜表面にぴったりはまるように設計された厚み0.3mm、長さ5mm及び幅2.5mmの白金シートで構成されていた(図1B及び1b)。
【0172】
200ボルト/cmの電界強度を送達するようにエレクトロトランスファ発電機を設定した。上述のシステムを用いて、各々10ボルト及び長さ20msの8回の連続的パルス(パルス間180ms)を送達した。この電界強度は、臨床的に検出可能な構造損傷又は組織熱傷を全くひき起こさなかった(図1C)。
【0173】
実験の設計:
毛様筋内のレポータ遺伝子の発現についてのコンセプト証明の場所を設定し用量を決定するために、pVAX2−luc又はpEGFP−C1プラスミドを使用した。すなわち、
1. 12個の眼(12匹のラット)の毛様筋の中に、10μlの生理食塩水中の3μgのpEGFP−C1プラスミドを注入した。4個の眼(4匹のラット)では、付加的な処置を全く行なわなかった。8個の眼(8匹のラット)では、先に記述した通り、注入直後にエレクトロトランスファを実施した。対照として4匹の付加的なラット(4個の眼)を用い、右眼の毛様筋内に10μlの生理食塩水を与えた。これらのラットのうち2匹(2個の眼)において、生理食塩水注入の後にエレクトロトランスファを行なった。全ての動物を1日目及び8日目に検査し、8日目に過量のペントパルビトールで屠殺した。処置済みの眼を摘出し、スナップ凍結させた。冷凍切片(厚み8μm)を、組織学及び免疫組織化学における日常的染色向けに調製した。
【0174】
2. 10μlの生理食塩水中3μgのpVAX2−lucを24匹のラットの両方の眼の毛様筋内に注入した。プラスミドの注入後、これら24匹のラットの左眼の中でエレクトロトランスファを行なった。処置から6、12、22及び30日後に6匹のラットを屠殺した。各時点で、眼を切開し、毛様筋全体を取り出し、−80℃でスナップ凍結させ、ルシフェラーゼ(luc)活性の評価のためにこれを使用した。2匹の付加的な未処置ラットの4個の眼をluc発現のための負の対照として使用した。
【0175】
GFP組織化学及びアルファ平滑筋アクチン免疫組織化学
pEGFP−C1のエレクトロトランスファから8日目に、眼を摘出し、1時間4%のパラホルムアルデヒド中で定着させ、1×PBS内で洗い流し、OCT化合物中に包埋し、冷凍切片化した(8μm)。pEGFP−C1のエレクトロトランスファで処置した3個の眼及び単にpEGFP−C1を注入しただけの2個の眼について、毛様筋の円形筋原線維の横方向切片を得るべく眼の横方向8μm切断を行なった。その他の眼については、矢状8μm切断を行なった(光学軸に対し平行)。細胞核を視覚化するために、1/3000に希釈した4’,6−ジアミノ−2−フェニルインドール(DAPI)溶液(フランス、St−Quenitin Fallavierのシグマアルドリッチ(Sigma−Aldrich))で5分間切片を染色し、PBS中で再び洗い流し、グリセロール/PBS(1/1)中で取り付けた。蛍光顕微鏡(スイスのライカ(Leica))下で切片を検査し、全ての切片について一定の露光時間でデジタル顕微鏡写真を撮影した。横方向及び前額切片上で毛様筋を位置特定するために、マウス抗ヒトアルファ平滑筋アクチン(anti−α−sm−1)モノクローナル抗体(カリフォルニア州Temeculaのケミコン(Chemicon))での免疫蛍光染色を実施した。−20℃でアセトン中で5分間、組織切片を固定し、空気乾燥させた。上清の希釈を、3mMのEGTAを含むPBS中で行なった。5μg/mlの濃度でanti−α−sm−1を使用した。第2の抗体として、発明者らは、1:50で希釈したTexas Red(登録商標)染料共役型AffiniPureロバ抗マウスIgG(ペンシルバニア州West Groveのジャクソン・イムノリサーチ(Jackson Immunoresearch))を使用した。1/3000で希釈された4’,6−ジアミノ−2−フェニルインドール(DAPI)と共に5分間インキュベートすることにより、核を染色した(フランス、St−Quentin Fallavierのシグマアルドリッチ)。切片を再度PBS中で洗浄し、グリセロール/PBS(1/1)中で取付けた。一次抗体の代りにラット免疫前血清を負の対照として使用した。
【0176】
ルシフェラーゼ活性のインビトロ測定
右眼内に3μgのpVAX2−lucの毛様体注入及び左眼内に注入とそれに続くエレクトロトランスファを受けたラットを、処置後6、12、22及び30日目に屠殺した。眼を摘出し、動作中の顕微鏡下で切開し、毛様体と筋肉及び虹彩複合体を除去し、液体窒素中で冷凍させ、テストされるまで−80℃に保った。各々の試料を次に、プロテアーゼ阻害物質カクテル(ドイツMannheimのベーリンガー(Boehringer))(50mlにつき1錠)で補足された0.3mlの細胞培養溶菌試薬(フランスCharboniereのプロメガ(Promega))中で均質化した。15000g、4℃で10分間遠心分離した後、ルシフェラーゼ活性を、白色96ウェル平板内に置かれた10μlの上清上で査定した。検出器はWallac Victor照度計(フランスEvryのEG&Gワラック(EG&G Wallac))であり、試料に50μlのルシフェラーゼ検定基質(プロメガ)を試料に添加して、試料により生成された光を10秒間集積させた。結果は、1秒あたりの計数(cps)の単位で、全試料について示されている。
【0177】
hTNFR−Is/mIgG1プラスミドエレクトロトランスファの効果
房水中及び血清中のhTNFR−Isの生産を、付加的なエレクトロトランスファを伴う(又は伴わない)毛様筋に対するpVAX2hTNFR−Is/mIgG1注入から7日後に評価した。房水中での試料採取用の実験条件を最適化するために、16匹のラットの右眼の中に30μgのpVAX2hTNFR−Is/mIgG1(10μlの生理食塩水中)を注入し、その後これら16匹のラットの8個の右眼の中でエレクトロトランスファを行なった。処置後6日目にラットを屠殺した。これら16匹のラットの血清の試料を採取した。右及び左眼からの房水を得、各眼について別々に評価した。16個の左眼(未処置、対側性)からの房水を、h−TNFR−Isレベルの対照として使用した。(付加的なエレクトロトランスファを伴う又は伴わない)毛様筋内のpVAX2hTNFR−Is/mIgG1の注入後に眼の内部で生産されたhTNFR−Isの生物学的効果を、急性ヒト眼内炎症のモデルであるエンドトキシン誘発型ブドウ膜炎(EIU)に罹患したラットの体内で評価した(2−5)。24匹のラットが両眼に3μgのpVAX2hTNFR−Is/mIgG1の注入を受けた。プラスミド注入の後、これら24匹のラットのうちの12匹においてエレクトロトランスファを行なった。12匹の対照は、両眼の毛様筋内に10μlの生理食塩水の注入とその後のエレクトロトランスファを受けた。さらに8匹のラットが、毛様筋中に「空の」プラスミドpVAX2(hTNFR−Isをコードする遺伝子無し)の注入を受けた。空のプラスミド注入の後、これら8匹のラットの右眼の中にエレクトロトランスファを行なった。上述の処置から7日後に、右後足蹠内にネズミチフス菌LPS(シグマアルドリッチ)150μgを注入することで、44匹全てのラットの体内でEIUを誘発した。EIUの臨床スコアを、LPS抗原投与から24時間後に記録し、ラットを屠殺した。各ラット群の中で、8個の眼から得た房水を用いて、分泌されたラットTNF−αのレベルを評価した。正確な評価を可能にするために、同じ処置を受けEIUの類似の臨床スコアを示した2つの眼からの2つの房水をプールした。各群(空のプラスミドで処置したラット群を除く)の4個の眼を冷凍切断し、浸潤炎症性細胞の組織学評定のために処理した。
【0178】
【表1】
【0179】
EIUの程度に対するpVAX2hTNFR−Is/mIgG1エレクトロトランスファの評価
以前に公表された通りの(5)臨床的等級付けシステムを、わずかに適合させて使用した。簡単に言うと、等級(0)は炎症が無いことを表わす。等級(1)は、前房(AC)内に発赤又は気泡の無い、虹彩及び結膜血管のわずかな拡張を表わす。等級(2)は、AC内に明らかな発赤又は気泡の無い、虹彩及び結膜の中度の血管拡張の存在を表わす。等級(3)は、AC内に1細隙灯フィールドあたり10個未満の気泡及び発赤を伴う強い虹彩血管の拡張の存在を表わす。等級(4)は、前房蓄膿(hypopion)又はフィブリンを形成するAC内の数多くの気泡を伴う等級3と類似した臨床的兆候の存在を表わす。等級(5)は、完全瞳孔閉鎖を伴うAC内の強い炎症性反応の存在を表わす。EIUの程度の組織学評価のためには、各群の4個の眼を摘出し、1時間4%のパラホルムアルデヒド内で固定し、PBS中で洗い流し、OCT中で取付け、全眼球を冷凍切断した。評価すべき各眼の視神経を通した眼球切片をヘマトキシリン−エオシンで染色した。前眼部及び後眼部内に存在する1切片あたり浸潤細胞の平均数は、同じ眼について検査したスライド数で細胞の合計数を除することによって得られた。湿潤細胞の数は、処置について知らされていない治験担当医師により記録された。
【0180】
EIUに罹患した又は罹患していないラットの房水中の可溶性hTNFR−Isレベル
ヒトレセプタI型特異キット(デュオセット、英国AbingdonのR&Dシステムズ(Duoset、R&D Systems))を用いメーカーの使用説明書に従ったELISAにより、hTNFR−Isレセプタのレベルを測定した。前眼部内で生産されるhTNFR−Isの全身的通過を評価するために、同じ方法によりhTNFR−Isの血清濃度を決定した。
【0181】
EIUに罹患した又は罹患していないラットの房水中のTNF−αレベル
得られた房水を直ちに遠心分離し、無細胞画分を収集し、分析前に−20℃で凍結させた。ラットTNF−αについて特異的なELISA(デュオセット、英国AbingdonのR&Dシステムズ)を用いてラットTNF−αレベルを測定した。TNF−αレセプタレベルの評価の場合と同じ手順を、4μg/mlの捕捉抗体、100ng/mlの検出抗体及び400pg/mlから62.5pg/mlまでの組換え型ラットTNF−αの2倍の系列希釈で使用した。
【0182】
統計的分析
結果は、平均±平均の標準誤差(SEM)として表現されている。データを、ボンフェローニ/ダン方法によるペアワイズ比較を伴うANOVAを用いて比較した。
【0183】
結果
(電気穿孔とも呼ばれる)エレクトロトランスファの安全性
GFP又は生理食塩水エレクトロトランスファ後1日目及び8日目における細隙灯による処置済みの眼の臨床検査は、眼内炎症又は大きな構造的損傷の臨床的症候を全く開示しなかった。ラットを屠殺した後、処置済みの眼の組織学的切片を得、検査した。毛様筋内注入及びエレクトロトランスファの部位についての針の挿入を通した切片の組織学的研究は、少数のケースにおいて、角膜トンネル内に軽度の細胞浸潤物が存在するものの毛様筋内には存在しないことを実証した。眼の構造は、正常な生体構造が保存された状態で、影響を受けなかった。同様に、生理食塩水溶液の注入後にエレクトロトランスファを受けるEIUに罹患したラットの眼の中の房水TNF−αは、対象のEIUラット(p=0.10)における房水TNF−αに比べ増加しなかった。かくして、エレクトロトランスファ自体は、EIUに罹患したラットの眼の中でTNF−αの生産を増強させない。
【0184】
毛様筋内のGFPについてコードするプラスミドのエレクトロトランスファ
GFPエンコーディングプラスミドのエレクトロトランスファから8日後に、縦方向切片が、毛様筋内に局在化された特異的蛍光信号をはっきりと示している。細長い蛍光細胞は、アルファ平滑筋アクチン(α−sm−1)の免疫学的局在決定により実証される通り(図2C)、毛様筋の横方向筋原線維に対応する(図2A、a及びB)。前部前額切片上では、強膜のすぐ下で毛様体をとり囲む円形筋原線維が同定される(図3A)。両方の前部切片上でGFPが高度に発現され、輪状線維を示し(図3B)、より後部の切片では、半径方向及び縦走線維に対応する丸い管内のGFP染色を示している(図3C)。前部前額切片上では、毛様筋の輪状線維が、α−sm−1免疫染色により充分同定されている(図3D)。GFP及びα−sm−1の同時局在化により、GFPがエレクトロトランスファ後筋線維内で発現されることが確認された(図3E)。
【0185】
GFPプラスミド注入がエレクトロトランスファ無しで実施された場合、毛様体の根元にはわずかに丸い蛍光ドットが観察されたが、円形筋原線維は、いかなる蛍光シグナルも示さなかった(図4A、a)。
【0186】
ルシフェラーゼ発現の反応速度
エレクトロトランスファ無しで3μgのpVAX2−lucの注入を受けたラットの毛様筋内では、有意なルシフェラーゼ活性は全く測定されなかった。ただし、安定した値に到達したと思われた時点で、少なくとも30日まで3μgのpVAX2−lucの注入後にエレクトロトランスファを受けたラットの毛様筋内で高く持続的なルシフェラーゼ活性が測定された(図5)。
【0187】
房水中の可溶性レセプタhTNFR−Isの生産
EIUを患っていないラットの眼の房水の中で、30μgのpVAX2hTNFR−Is/mIgG1の注入(エレクトロトランスファ無し)から7日後、hTNFR−Isの平均レベルは274±39pg/ml(n=4)であった。エレクトロトランスファの組合せで処置された眼の中では、平均レベルは691±121pg/ml(n=4)(p<0.01)であった。エレクトロトランスファを伴う又は伴わない他眼内にプラスミド注入を受けたラットの対側眼においては、検出可能なレベルのhTNFR−Isは全く見られなかった。全ての群からのラットの血清においては、hTNFR−Isは検出レベル未満であり、かくして局所的遺伝子導入タンパク質の生産及び送達を可能にするための本発明の利点を実証している。EIUに罹患したラットにおいては、平均hTNFR−Isレベルは、30μgのpVAX2hTNFR−Is/mIgG1のみの毛様体注入後のラット群において、181±108pg/ml(n=8)であった。エレクトロトランスファと注入の組合せを受けた眼の房水中では、hTNFR−Isのレベルは、p<0.005で著しく高い1070±218pg/ml(n=8)であった。エレクトロトランスファを伴う又は伴わない毛様体内プラスミド注入を受けていないEIUに罹患したラット(対照群)においては、検出可能なレベルのhTNFR−Isは全く本願されず、ELISA試験がヒトTNFR−Isについて特異的でありラットの可溶性TNFレセプタと干渉しないということを実証していた。EIUに罹患しているラットの血清中では、眼の処置がプラスミド単独で実施されたか又はエレクトロトランスファとの組合せの形で実施されたかに関わらず、hTNFR−Isレベルは検出未満であり、眼内hTNFR−Isの全身的拡散が無視できるほどのものであることを示していた。
【0188】
臨床的EIUに対する効果
毛様筋注入のために3μgの低いhTNFR−Is/mIgG1プラスミド用量が使用された場合、平均EIUスコアは、EIUの非プラスミド注入ラット群及び生理食塩水のエレクトロトランスファを伴う注入を受けたラット群についての3.8±0.2及び3.9±0.1(それぞれp=0.81及びp=0.62)のEIUスコアと類似した3.7±0.2であった(図7A)。3μgのpVAX2hTNFR−Is/mIgG1でのエレクトロトランスファを受けたラット群においては(1.2±0.2、p<0.0001)、平均臨床EIUスコアは著しく減少し、単にプラスミド注入のみ(p<0.0001)又は処置無し(p<0.0001)に比べた場合にエレクトロトランスファとの組合せが臨床的ブドウ膜炎を著しく低減させることを実証していた。エレクトロトランスファと組合わされた3μgの空のプラスミドの毛様体内注入での処置を受けたラット群においては、EIUスコアは3.8±0.2であった。このラット群におけるEIUスコアは、プラスミド注入を受けたEIU対照群(p=0.91)又は生理食塩水のエレクトロトランスファを受けたEIUラット(p=0.85)において得られたものと著しく異なってはいなかった。
【0189】
細胞浸潤物に対する効果
EIUに罹患したラットの対照群においては、前眼部内の浸潤細胞の平均数は、316±14(n=4)であり、後眼部では272±66であった。前眼部(369±65、p=0.77)又は後眼部(261±32、p=0.99)における浸潤細胞の数の有意な差異は、3μgのpVAX2hTNFR−Is/mIgG1の注入のみの処置を受けたラット群においては全く見られなかった。エレクトロトランスファと組合わされた空のプラスミドの毛様体内注入は、対照の非プラスミド注入EIU群と比べた場合、前眼部(322±26、p=0.99)内又は後眼部(255±13、p=0.98)内の浸潤細胞の数に対しいかなる効果ももたらさなかった。エレクトロトランスファと組合わされた3μgのpVAX2hTNFR−Is/mIgG1の毛様筋内注入で処置されたラットにおいては、これらのラットの眼の中の前眼部(49±1、対照及びNaClに対してp<0.002)内及び後眼部(88±3、対照に対してp<0.05)内の両方において、浸潤細胞数の著しい減少が見られた(図8A及びB)。
【0190】
房水中のTNF−αレベル
EIUに罹患したルイスラットの房水中のTNF−αの平均レベル(510±44pg/ml)は、生理食塩水及びエレクトロトランスファを受けたラット群の場合(374±65pg/ml、p=0.10)と著しく異なるものではなかった。TNF−αの平均レベルは、生理食塩水のエレクトロトランスファを受けたラット(p<0.002)又はEIU対照ラット(p<0.0005)と比べた場合、3μgのpVAX2hTNFR−Is/mIgG1(126±16pg/ml)のエレクトロトランスファで処置されたラット群において有意に低下した。電界送達無しで毛様筋内へ3μgのpVAX2hTNFR−Is/mIgG1の注入を受けたラット群においては、TNF−αの平均レベルは250±45pg/ml、すなわち生理食塩水のエレクトロトランスファを伴うEIUラットにおけるTNF−αレベル(p=0.07)と有意に異なるものではなかった。
【0191】
空のプラスミドのエレクトロトランスファは、対照の生理食塩水で処理された群(478±33pg/ml、p=0.14)に比べて、房水中のTNF−αレベルに対しいかなる効果ももたらさなかった。実験未使用のラットでは、いかなるTNF−αも検出不能であった。
【0192】
論述
骨格筋に対するプラスミドDNAのエレクトロトランスファは、高レベルの循環タンパク質の発現に譲ることのできる安全かつ効率の良い遺伝子移入技術である(1;6−11)。選択的電気パラメータが導入されてきた(10、12、13、14)。眼の中では、毛様筋は特殊な平滑筋である。前記筋肉の一部の線維は円形に配向されており、一方その他の線維は、強膜棘に対し付着するよう縦走又は放射方向に向けられている。前眼部と後眼部の間の交差点で強膜の下というその表面的位置設定に起因して、毛様筋は、潜在的に治療用のタンパク質をコードする遺伝子のエレクトロトランスファのための理想的候補として発明者らがみなしてきたものである。毛様筋内部で考えられるこれらの遺伝子のトランスフェクション及び房水内又は硝子体内でのコードされたタンパク質の分泌は、最も魅力的であり、それらの調査の最初のねらいであった。今までのところ、遺伝子のエレクトロトランスファのための標的として毛様筋を使用する試みは全くなされてきていない。ラットの眼の中のプラスミドの毛様筋内注入を制御するため、トンネル経路が作り上げられた。トンネルは、角膜内で始まり、辺縁部域に向かって、さらには強膜下を後ろ向きに毛様筋内へと延びていた。次に、筋肉内に挿入された部分を除きその全長が絶縁材料で被覆されている活性電極は、作り上げられたトンネル内に導入された。電気熱傷の危険性を削減する制御された形でエレクトロトランスファが実施された。この技術を用いると、生理食塩水の毛様体内注入後のエレクトロトランスファがEIUの臨床スコアに影響を及ぼすことはなく、又、房水中のTNF−αのレベルを増大させることもなく、このことは、エレクトロトランスファがこれらの特定的条件下で眼内炎症を誘発しないということを示唆していた。誘発されたEIUに罹患したラットにおいてそうであるように眼内炎症がすでに存在していた場合、反応は増強されず、エレクトロトランスファ後に疾病プロセスは悪化した。発明者の実験は同様に、プラスミドDNAがラットの眼の毛様筋内に導入され得、エレクトロトランスファを適用することで筋肉細胞線維を効率良くかつ特異的にトランスフェクトできることを示している。この目的のため新たに考案された電極プローブを用いて、発明者らは、GFPレポータ遺伝子導入タンパク質が毛様筋内部に特異的に局在化され得ることを示した。同様に、発明者らは、エレクトロトランスファ後少なくとも30日間、処理済みの眼の内部でのルシフェラーゼ活性の発現を実証した。さらに、ヒトTNF−α可溶性レセプタについてコードする遺伝子を伴うプラスミドの毛様筋注入及びエレクトロトランスファの適用の後、処置済みラットの房水内で、高レベルの可溶性レセプタタンパク質が測定された。興味深いことに、これらのラットは、その血清中又は他眼の中に検出可能なヒトTNF−αレセプタを全く有していなかった。これらの本願事実は、潜在的な治療的利用分野をもつタンパク質の局所的生産が達成可能であることそして、局所的に生産されたタンパク質の大部分が処置対象の眼に限定された状態にとどまっていることを実証している。
【0193】
エレクトロトランスファの成功及び再現性は、標的組織内の充分量のプラスミドDNAの効率の良い投与、うまく選択された電界強度及び2つの電極間の制御された距離(この距離が電界値(V/cm単位)を決定するため)によって左右される(11、12)。GFP発現実験は、高用量のプラスミド(30μg)の注入後に電気パルス送達が全く適用されない場合、GFPを発現する細胞は、毛様体領域内でわずかに位置特定されるということを示した。一方で、エレクトロトランスファがプラスミドDNA注入に後続していた場合、筋細胞線維内に高いGFP発現が検出され、エレクトロトランスファから最長1カ月後までのルシフェラーゼ活性により示されるように、持続的タンパク質生産が可能となった。
【0194】
外眼骨格筋は、毛様筋と類似の治療目的に使用可能である。実際、発明者らは、外眼筋内への高能力プラスミドエレクトロトランスファを本願した。
【0195】
いかなる治療用タンパク質の生産にも譲らなかった対照エレクトロトランスファ(生理食塩水及び空のプラスミド)と共に又は単独で注入されたプラスミドの場合、いかなる効果も見られなかったことから、EIUに対するhTNFR−Is/mIgG1プラスミドエレクトロトランスファの有益な効果は、眼の媒質内のhTNFR−Isの生産の結果もたらされた。このことは、エレクトロトランスファと組合わされた低プラスミド用量(3μg)で処置されたラットの房水中のTNF−αレベルが、対照群又は単にプラスミド注入だけの処置を受けたラット群におけるTNF−αのレベルと比べた場合、有意に減少していたという事実により裏付けされた。治療用プラスミドのエレクトロトランスファによる治療を受けたラット群においては、眼の前眼部及び後眼部の両方において浸潤炎症性細胞の数が有意に減少し、このことは、網膜疾患の治療のために有利であるTNFR−Isが、治療対象動物の硝子体の中でも同様に生産されてきた可能性があるということを示唆している。
【0196】
TNF−αは、眼内炎症の病因に関与する主要な炎症誘発性サイトカインである(15、16)。その正確な作用機序は今だに不完全にしか理解されていない(17)。しかしながら、進行する眼内炎症性疾患のプロセスに対する明らかに有益な効果が、実験的(18、19)及び臨床的(20、21、22)な眼の炎症性疾患の間のTNF−α遮断薬の使用によって得られている。TNF−αは、TNFR−I(p55、55kd)又はTNFR−II(p75、75kd)という膜結合レセプタに結合する。これら2つのレセプタの天然発生可溶性形態は、TNF−αの炎症誘発活性を中和するが、きわめて不安定である。従って、臨床では、抗TNF戦略は、免疫グロブリンフラグメント、TNFR−IIs/Fc(エタネルセプト(Etanercept))又はTNFR−Is/Fc(レネルセプト(Lenercept))により安定させられたTNF(インフリキシマブ及びアダリムマブ)又はTNF−α可溶性レセプタに対するモノクローナル抗体のいずれかを使用する。エタネルセプトでの全身的処置は、EIU及び眼細胞浸潤の臨床スコアを低減させる。全身的に投与されるTNFR−Is/Ig(p55)で処置されている後部眼内炎症患者は、IL−10を発現する末梢血CD4+T細胞数の増加という本願事実と共に、明白な臨床的改善を示した(23)。しかしながら抗TNF−αの全身的投与には重大な副作用が付随する(22)。発明者の実験は、hTNFR−Is/mIgG1プラスミドのエレクトロトランスファ後の毛様筋線維によるTNFR−Isの局所的眼内生産がEIUにおける臨床的及び組織学的疾病パラメータの強度を有意に削減することを示している。これらの治療対象EIUラットにおいては、血清中に検出可能なレベルのTNFR−Isが全く本願されなかった。かくして、hTNFR−Is/mIgG1プラスミドの毛様筋エレクトロトランスファは、その他の医療では効果がない重症の眼内炎症に罹患している患者における抗TNF−αの全身的投与に対する代替案となり得る。
【0197】
結論として、これは、ラットの眼の毛様筋又は外眼筋がプラスミドエレクトロトランスファのためにターゲティングされ得、房水中のコードされたタンパク質の長時間にわたる発現、高いレベル及び効率の良いトランスフェクション速度を生み出すということの初めての実証である。コンセプトの証明として、この技術は、EIUに罹患しているラットの治療のために適用され成功をおさめた。hTNFR−Is/mIgG1エンコーディングプラスミドのエレクトロトランスファは、臨床的に及び組織学的に査定された眼疾患の強度を著しく低減させた。このタイプの療法は、眼疾患の治療に対し新たな興味深い道をきり開くものである。
【図面の簡単な説明】
【0198】
【図1】ラットの眼におけるインビボエレクトロトランスファA:辺縁周囲気泡の形成を導く毛様筋内の角膜トンネルを通した注入B:エレクトロトランスファ手順中の眼球内電極及び辺縁周囲外眼電極C:電流印加直後のエレクトロトランスファを受けた部位の外見D:環状眼周囲の戻り電極の写真
【図2】pEGFP−C1プラスミドの注入及びエレクトロトランスファ後の毛様領域の横方向切片上のGFP発現A:毛様筋(差込み図)を示すヘマトキシリン−エオシン組織像a:縦走線維(矢印)及び輪状線維(矢印の頭)を示すより高倍率の拡大図B:毛様筋内に局在化したGFPの組織化学。矢印は複数のGFP発現度の高い組織領域を表わしている。核はDAPIで染色されている(複数の例が円で示されている)。C:毛様筋の平滑線維を示すアルファ平滑筋アクチンの免疫組織化学。矢印は、複数のアクチン発現度の高い組織領域を表わしている。核はDAPIで染色されている(複数の例が円で示されている)。
【図3】pEGFP−C1の注入及びエレクトロトランスファの後の毛様領域の前額切片上のGFP発現の局在化A:毛様筋の輪状線維を示すヘマラン−エオシン組織学染色。B:毛様筋の輪状線維内のGFPの発現。GFP発現度の高い組織領域は囲まれている。核はDAPIで染色される(複数の例が円で表わされている)。C:毛様筋の縦方向線維内のGFPの発現。GFP発現度の高い組織領域は囲まれている。核はDAPIで染色される(複数の例が円で表わされている)。D:毛様筋の平滑輪状線維を示すアルファ平滑筋アクチンの免疫組織化学。アクチン発現度の高い組織領域は囲まれている。E:GFPの発現が毛様筋線維内にあることを実証するアルファ平滑筋アクチン及びGFPの同時局在化。赤色及び緑色蛍光の付加の結果としてもたらされた黄色蛍光によって実証された同時局在化された発現領域が囲まれている。核は、DAPIで染色される(複数の例が円で表わされている)。
【図4】pEGFP−C1の注入後の前額切片上のGFP発現の局在化。A:毛様体のわずかな疎細胞上のGFPの発現。矢印は、複数のGFP発現度の高い組織領域を表わす。a:より高倍率の拡大図。矢印は、複数のGFP発現度の高い組織領域を表わす。核はDAPIで染色される(複数の例が円で示されている)。
【図5】毛様領域内でのLUC発現の反応速度。 両眼の毛様筋の中に3μgのプラスミドpVAX2lucを注入した。注入の後、ラットの左眼内でのエレクトロトランスファを行なった。6日目、12日目、22日目及び30日目に6匹のラットを屠殺した。
【図6】眼構造の無欠性を示すエレクトロトランスファから5日後の毛様領域の組織学。特に電気穿孔の部位にはいかなる細胞浸潤もいかなる肉芽種も観察されなかった。エレクトロトランスファから5日後に、TUNEL陽性細胞は全く観察されず、この時点でのアポトーシス細胞の不在を示していた。
【図7】EIUの臨床的スコアA:EIUの臨床的スコア EIUに罹患しているもののいかなる治療も受けていない眼(B)(スコア5)又は3μgのpEGFP−C1GFPプラスミドのエレクトロトランスファ後の眼(C)(スコア0)の細隙灯写真。*:P<0.0001対対照又は生理食塩水+ET又はpVAX2+ET。
【図8A】EIUの組織学スコア。異なる治療計画後のEIUに罹患した眼の前眼部及び後眼部内の浸潤細胞の平均数を示す。**:P<0.005対対照;†:P<0.0002対pVAX2+ET;##:P<0.0001対pVAX2hTNFR−Is/mIgG1−ET;*:P<0.005対対照;#:P<0.005対pVAX2hTNFR−Is/mIgG1−ET。
【図8B】対照ラット(a:角膜)(h:虹彩/毛様体)、(c:視神経)から及び3μgのhTNFR−Is/mIgG1.ETで治療されたラット(d:角膜)、(e:虹彩/毛様体)、(f:視神経)からの眼切片の顕微鏡写真。
【図9】眼の生体構造
【図10】毛様体及び角膜内へのpCMV−Glucプラスミド(15μg)の注入及びエレクトロトランスファから7日後のガウシア・ルシフェラーゼ(G−ルシフェラーゼ又はGluc)分泌速度。分泌速度は、[1秒あたりの計数(cps)で表現された]蛍光を測定する分光器を用いて測定されている。
【図11】毛様筋内へのpCMV−Glucプラスミド(15μg)のさまざまな電気的条件(電圧、パルス持続時間、パルス数及び周波数)での注入及びエレクトロトランスファから7日後のガウシア・ルシフェラーゼ(G−ルシフェラーゼ又はGluc)分泌速度。分泌速度は、[1秒あたりの計数(cps)で表現された]蛍光を測定する分光器を用いて測定されている。
【図12】hTNFR−Is/mIgG1及びGlucタンパク質を発現するプラスミド及びpVAX2mEpoプラスミド(10μg)の毛様筋内への注入及びエレクトロトランスファから7日後の房水及び硝子体内でのガウシア・ルシフェラーゼ(G−ルシフェラーゼ又はGluc)、hTNFR−Is/mIgG1及びmEPOタンパク質の分泌。
【図13】ラットの毛様体内での注入(エレクトロトランスファ無し)の後のエンドトキシン誘発性ブドウ膜炎(EIU)の臨床スコアに対するpVAX2hTNFR−Is/mIgG1プラスミド(30μg)の効能。毛様体内のTNFR−Isエンコーディングプラスミド30μgの注入は、房水内の274±77pg/mlのTNFR−Isの分泌を可能にする。
【図14】それぞれ眼の前眼部及び後眼部内の浸潤細胞の平均数で表現されたラット毛様体内の注入(エレクトロトランスファ無し)後のエンドトキシン誘発性ブドウ膜炎(EIU)の組織学スコアに対するpVAX2hTNFR−Is/mIgG1のプラスミド(30μg)の効能。毛様体内の30μgのTNFR−Isの注入は、房水内で274±77pg/mlのTNFR−Isの分泌速度を可能にする。
【図15】環状手段及び針手段又は環状手段及びワイヤ手段を含むさまざまな電極装置を用いて毛様筋内にpCMV−Glucプラスミド(15μg)を注入及びエレクトロトランスファしてから7日後のガウシア・ルシフェラーゼ(G−ルシフェラーゼ又はGluc)の分泌。印加された電界は、その電界強度が200V/cmである8つの電気パルスで構成されている。電界の印加の合計持続時間は各パルスについて20msである。周波数は5Hzである。電極間の転極は、遺伝子送達の効能を修正しない。
【図16】2つの電極を含む環状装置の例。注入のため及び/又は電極として、櫛形の第1の手段(灰色)の各先端部を使用することができる。第2の手段(黒色)は、第1の手段から分離されていてもよいし、又は2つの手段の間に一定の距離(2〜5mmの間)を得るようにそれと固く結びつけられていてもよい電極である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療すべき対象の毛様体組織又は細胞及び/又は外眼筋組織又は細胞に対し投与することにより眼疾患を治療するための組成物を調製するための治療用核酸の使用。
【請求項2】
前記組成物が前記毛様体の筋肉組織又は細胞に対し投与される、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記組成物が前記毛様体の上皮又は上皮細胞に投与される、請求項1に記載の使用。
【請求項4】
前記組成物が前記組織又は細胞内に直接投与される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の使用。
【請求項5】
前記組成物が前記組織又は細胞内に注入により投与される、請求項4に記載の使用。
【請求項6】
前記核酸が経強膜、経角膜、眼球内又は内視鏡的経路で投与されることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の使用。
【請求項7】
前記投与には、電界の印加を伴う電気穿孔ステップが含まれる請求項1〜6のいずれか1項に記載の使用。
【請求項8】
前記電界の強度が約1〜400ボルト/cm、好ましくは約50〜200ボルト/cm、さらに一層好ましくは約75〜150ボルト/cmにある、請求項7に記載の使用。
【請求項9】
前記電界強度が200ボルト/cmである、請求項8に記載の使用。
【請求項10】
前記電界の合計印加持続時間が、0.01〜500ミリ秒、好ましくは1ミリ秒超である、請求項7〜9のいずれか1項に記載の使用。
【請求項11】
前記電界の合計印加持続時間が、10ミリ秒〜100ミリ秒の間であり、好ましくは20ミリ秒である、請求項10に記載の使用。
【請求項12】
前記組織に対する前記電界の印加が、定格周波数の1つ以上のパルスを含む、請求項7〜11のいずれか1項に記載の使用。
【請求項13】
前記組織に対する前記電界の印加が、0.1〜1000ヘルツの周波数の1〜100,000個のパルスを含む、請求項12に記載の使用。
【請求項14】
前記組織に対する前記電界の印加が、1〜10Hz、好ましくは5Hzの周波数の1〜10個、好ましくは8個のパルスを含む、請求項13に記載の使用。
【請求項15】
前記電気パルスが互いに不規則な形で送達され、1つのパルスに関する時間の関数として前記電界の強度を表す関数が可変的である、請求項7〜14のいずれか1項に記載の使用。
【請求項16】
経時的な前記電界の前記変動を表す関数の積分が1kV×ミリ秒/cmよりも大きい、請求項7〜15のいずれか1項に記載の使用。
【請求項17】
この積分が5kV×ミリ秒/cm以上である、請求項16に記載の使用。
【請求項18】
前記電気パルスが単極又は双極波パルスである、請求項7〜17のいずれか1項に記載の使用。
【請求項19】
前記電気パルスが、指数関数的逓減波、制限された持続時間の単極振動波又はその他の波形の中から選択される、請求項7〜18のいずれか1項に記載の使用。
【請求項20】
前記電気パルスが方形波パルスを含む、請求項7〜19のいずれか1項に記載の使用。
【請求項21】
前記電気パルスが双極振動波パルスを含む、請求項7〜20のいずれか1項に記載の使用。
【請求項22】
前記投与には、5Hzの周波数の8個の単極方形波パルスを含む電界を組織に対し印加することを伴う電気穿孔ステップが含まれ、各パルスの前記強度は1パルスあたり20msの前記電界の合計印加持続時間について200ボルト/cmである、請求項1〜6のいずれか1項に記載の使用。
【請求項23】
前記電気パルスは、1センチメートル未満だけ互いに離隔した少なくとも2つの電極を用いて印加されるようになっており、前記電極のうち少なくとも1つは、前記毛様体組織内、線毛細胞内又は外眼筋組織又は細胞内のうちの1つに導入される、請求項7〜22のいずれか1項に記載の使用。
【請求項24】
前記電極が互いに10ミリメートル未満、好ましくは8又は5ミリメートル未満、さらに一層好ましくは2ミリメートル未満だけ互いから離隔されている、請求項23に記載の使用。
【請求項25】
1つの電極が強膜又は眼結膜、好ましくは辺縁結膜の表面上に反転可能な形で適用される、請求項23又は24に記載の使用。
【請求項26】
前記電気穿孔ステップの前後又はその間にイオン導入ステップが実施される、請求項7〜25のいずれか1項に記載の使用。
【請求項27】
前記治療用核酸がデオキシリボ核酸(DNA)、好ましくは2本鎖DNA、1本鎖DNA又は複合体DNAである、請求項1〜26のいずれか1項に記載の使用。
【請求項28】
前記治療用核酸がリボ核酸(RNA)、好ましくはRNAi、RNAsi、触媒RNA又はアンチセンスRNAである、請求項1〜27のいずれか1項に記載の使用。
【請求項29】
前記治療用核酸が、前記毛様体組織又は細胞及び/又は前記外眼筋組織又は細胞の中での発現を可能にしかつ/又は促進する配列を含有する、請求項1〜28のいずれか1項に記載の使用。
【請求項30】
前記組成物が多数の部位で投与される、請求項1〜29のいずれか1項に記載の使用。
【請求項31】
前記デオキシリボ核酸が、酵素、血液誘導体、ホルモン、リンホカイン、サイトカイン、ケモカイン、抗炎症因子、成長因子、栄養因子、神経栄養因子、造血因子、血管新生因子、抗血管新生因子、メタロプロテイナーゼ阻害物質、アポトーシス調節因子、凝固因子、そのレセプタ、レセプタ又は接着タンパク質のアゴニスト又はアンタゴニストであるペプチド、抗原、抗体、そのフラグメント及び細胞のその他の必須成分の中から選択されたタンパク質をコードする、請求項27〜30のいずれか1項に記載の使用。
【請求項32】
前記治療対象の眼疾患が、炎症性疾患、虚血性疾患、増殖性疾患、神経変性疾患及び緑内障の中から選択される、請求項1〜31のいずれか1項に記載の使用。
【請求項33】
前記増殖性疾患が新生血管又はグリア疾患である、請求項32に記載の使用。
【請求項34】
前記治療対象眼疾患が、強膜炎、結膜炎、角膜炎、内皮炎、ブドウ膜炎、脈絡膜炎、網膜炎、脈絡網膜炎、前部ブドウ膜炎、未熟児網膜症、糖尿病性網膜症、増殖性硝子体網膜症、遺伝性網膜ジストロフィ、加齢性黄斑変性症、開放隅角緑内障、血管新生緑内障及び虚血性網膜症の中から選択される、請求項32に記載の使用。
【請求項35】
対象の前記毛様体組織又は細胞及び/又は前記外眼筋組織又は細胞に対して組成物を投与するための注入装置であって、
(i) 前記組織又は細胞内に前記組成物を注入するための少なくとも1つの手段であって、それが注入針、注入針電極、少なくとも1つの注入針又は1つの注入針電極を含む極微針アレイ又はそれらの組合せである手段、
(ii) 任意には、前記組成物の注入を開始するのに充分な深さまで針が挿入された時点でそれを検知するための手段であって、前記深さが0.1〜10mmの間、好ましくは0.2〜0.9mmの間に含まれているか又はさらに一層好ましくは0.5mmである手段、
(iii) 任意には、強膜又は眼結膜の表面上に前記注入手段を位置決めするための手段、及び
(iv) 任意には、予め定められた電気信号を生成するための手段
を含む注入装置。
【請求項36】
前記注入針又は注入針電極の長さが0.1〜10mmの間、好ましくは0.2〜0.9mmの間に含まれているか又さらに一層好ましくは0.5mmである、請求項35に記載の注入装置。
【請求項37】
予め定められた電気信号を生成するための手段を含み、前記注入装置が、互いに1センチメートル未満だけ離隔した少なくとも2つの電極を含み、前記電極のうちの少なくとも1つが、もう1つの電極のものと異なる極性を有している、請求項35又は36に記載の注入装置。
【請求項38】
前記少なくとも2つの電極のうちの少なくとも1つが請求項35に記載の注入手段である、請求項37に記載の注入装置。
【請求項39】
前記少なくとも2つの電極のうちの少なくとも1つが、前記強膜又は眼結膜、好ましくは辺縁結膜の表面上に反転可能な形で適用されるように任意に適合された平板コンタクト電極及びワイヤ電極の中から選択される、請求項37又は38に記載の注入装置。
【請求項40】
前記少なくとも2つの電極のうちの少なくとも1つが、1ミリメートル〜5センチメートルの間、好ましくは1〜10ミリメートルの間に含まれる長さであるワイヤ電極である、請求項39に記載の注入装置。
【請求項41】
前記ワイヤ電極の形状が環又はその一部分の形状である、請求項40に記載の注入装置。
【請求項42】
前記少なくとも2つの電極のうちの少なくとも1つが、前記強膜又は眼結膜の表面の幾何形状に適合した湾曲した形態及び剛性材料で作られた平板コンタクト電極である、請求項39に記載の注入装置。
【請求項43】
前記少なくとも2つの電極のうちの少なくとも1つが、前記強膜又は眼結膜の表面の幾何形状に適合した可とう性材料で作られた平板コンタクト電極である、請求項39に記載の注入装置。
【請求項44】
前記平板コンタクト電極の幅は約1.5センチメートルよりも短かいものである、請求項41に記載の注入装置。
【請求項45】
前記少なくとも2つの電極が、15ミリメートル未満、好ましくは14、13、12、10、9、8、7、6、5、4、3又は2ミリメートル未満だけ離隔している、請求項37〜44のいずれか1項に記載の注入装置。
【請求項46】
前記少なくとも2つの電極が1ミリメートルだけ離隔している、請求項45に記載の注入装置。
【請求項47】
前記少なくとも2つの電極が共に接続されている、請求項37〜46のいずれか1項に記載の注入装置。
【請求項48】
前記少なくとも2つの電極が導電性非酸化金属で作られている、請求項37〜47のいずれか1項に記載の注入装置。
【請求項49】
前記少なくとも2つの電極がイリジウム又は白金で作られている、請求項48に記載の注入装置。
【請求項50】
前記位置決め手段が、前記強膜又は眼結膜、好ましくは辺縁結膜の前記表面上に反転可能な形で適用されるように適合されている、請求項35〜49のいずれか1項に記載の注入装置。
【請求項51】
前記位置決め手段が環状手段又はその一部分である、請求項50に記載の注入装置。
【請求項52】
前記位置決め手段が少なくとも2つの先端部を含む櫛様に設計されており、前記少なくとも2つの先端部のうちの少なくとも1つが請求項35に記載の注入手段を含む、請求項35〜51のいずれか1項に記載の注入装置。
【請求項53】
前記環状位置決め手段の内径が13〜14ミリメートルの間に含まれており、前記環状位置決め手段の外径が15〜16ミリメートルの間に含まれている、請求項51又は52に記載の注入装置。
【請求項54】
前記先端部の長さが0.1mm〜3mmの間、好ましくは0.4mm〜0.8mmの間に含まれ、さらに一層好ましくは0.5mmである、請求項52又は53に記載の注入装置。
【請求項55】
前記環状手段又はその一部分と前記先端部との間の角度が1°〜90°の間に含まれている、請求項52〜54のいずれか1項に記載の注入装置。
【請求項56】
前記装置がさらに前記組成物の輸液のためのパイプ系を含む、請求項35〜55のいずれか1項に記載の注入装置。
【請求項57】
前記組成物が治療用核酸を含む、請求項56に記載の注入装置。
【請求項1】
治療すべき対象の毛様体組織又は細胞及び/又は外眼筋組織又は細胞に対し投与することにより眼疾患を治療するための組成物を調製するための治療用核酸の使用。
【請求項2】
前記組成物が前記毛様体の筋肉組織又は細胞に対し投与される、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記組成物が前記毛様体の上皮又は上皮細胞に投与される、請求項1に記載の使用。
【請求項4】
前記組成物が前記組織又は細胞内に直接投与される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の使用。
【請求項5】
前記組成物が前記組織又は細胞内に注入により投与される、請求項4に記載の使用。
【請求項6】
前記核酸が経強膜、経角膜、眼球内又は内視鏡的経路で投与されることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の使用。
【請求項7】
前記投与には、電界の印加を伴う電気穿孔ステップが含まれる請求項1〜6のいずれか1項に記載の使用。
【請求項8】
前記電界の強度が約1〜400ボルト/cm、好ましくは約50〜200ボルト/cm、さらに一層好ましくは約75〜150ボルト/cmにある、請求項7に記載の使用。
【請求項9】
前記電界強度が200ボルト/cmである、請求項8に記載の使用。
【請求項10】
前記電界の合計印加持続時間が、0.01〜500ミリ秒、好ましくは1ミリ秒超である、請求項7〜9のいずれか1項に記載の使用。
【請求項11】
前記電界の合計印加持続時間が、10ミリ秒〜100ミリ秒の間であり、好ましくは20ミリ秒である、請求項10に記載の使用。
【請求項12】
前記組織に対する前記電界の印加が、定格周波数の1つ以上のパルスを含む、請求項7〜11のいずれか1項に記載の使用。
【請求項13】
前記組織に対する前記電界の印加が、0.1〜1000ヘルツの周波数の1〜100,000個のパルスを含む、請求項12に記載の使用。
【請求項14】
前記組織に対する前記電界の印加が、1〜10Hz、好ましくは5Hzの周波数の1〜10個、好ましくは8個のパルスを含む、請求項13に記載の使用。
【請求項15】
前記電気パルスが互いに不規則な形で送達され、1つのパルスに関する時間の関数として前記電界の強度を表す関数が可変的である、請求項7〜14のいずれか1項に記載の使用。
【請求項16】
経時的な前記電界の前記変動を表す関数の積分が1kV×ミリ秒/cmよりも大きい、請求項7〜15のいずれか1項に記載の使用。
【請求項17】
この積分が5kV×ミリ秒/cm以上である、請求項16に記載の使用。
【請求項18】
前記電気パルスが単極又は双極波パルスである、請求項7〜17のいずれか1項に記載の使用。
【請求項19】
前記電気パルスが、指数関数的逓減波、制限された持続時間の単極振動波又はその他の波形の中から選択される、請求項7〜18のいずれか1項に記載の使用。
【請求項20】
前記電気パルスが方形波パルスを含む、請求項7〜19のいずれか1項に記載の使用。
【請求項21】
前記電気パルスが双極振動波パルスを含む、請求項7〜20のいずれか1項に記載の使用。
【請求項22】
前記投与には、5Hzの周波数の8個の単極方形波パルスを含む電界を組織に対し印加することを伴う電気穿孔ステップが含まれ、各パルスの前記強度は1パルスあたり20msの前記電界の合計印加持続時間について200ボルト/cmである、請求項1〜6のいずれか1項に記載の使用。
【請求項23】
前記電気パルスは、1センチメートル未満だけ互いに離隔した少なくとも2つの電極を用いて印加されるようになっており、前記電極のうち少なくとも1つは、前記毛様体組織内、線毛細胞内又は外眼筋組織又は細胞内のうちの1つに導入される、請求項7〜22のいずれか1項に記載の使用。
【請求項24】
前記電極が互いに10ミリメートル未満、好ましくは8又は5ミリメートル未満、さらに一層好ましくは2ミリメートル未満だけ互いから離隔されている、請求項23に記載の使用。
【請求項25】
1つの電極が強膜又は眼結膜、好ましくは辺縁結膜の表面上に反転可能な形で適用される、請求項23又は24に記載の使用。
【請求項26】
前記電気穿孔ステップの前後又はその間にイオン導入ステップが実施される、請求項7〜25のいずれか1項に記載の使用。
【請求項27】
前記治療用核酸がデオキシリボ核酸(DNA)、好ましくは2本鎖DNA、1本鎖DNA又は複合体DNAである、請求項1〜26のいずれか1項に記載の使用。
【請求項28】
前記治療用核酸がリボ核酸(RNA)、好ましくはRNAi、RNAsi、触媒RNA又はアンチセンスRNAである、請求項1〜27のいずれか1項に記載の使用。
【請求項29】
前記治療用核酸が、前記毛様体組織又は細胞及び/又は前記外眼筋組織又は細胞の中での発現を可能にしかつ/又は促進する配列を含有する、請求項1〜28のいずれか1項に記載の使用。
【請求項30】
前記組成物が多数の部位で投与される、請求項1〜29のいずれか1項に記載の使用。
【請求項31】
前記デオキシリボ核酸が、酵素、血液誘導体、ホルモン、リンホカイン、サイトカイン、ケモカイン、抗炎症因子、成長因子、栄養因子、神経栄養因子、造血因子、血管新生因子、抗血管新生因子、メタロプロテイナーゼ阻害物質、アポトーシス調節因子、凝固因子、そのレセプタ、レセプタ又は接着タンパク質のアゴニスト又はアンタゴニストであるペプチド、抗原、抗体、そのフラグメント及び細胞のその他の必須成分の中から選択されたタンパク質をコードする、請求項27〜30のいずれか1項に記載の使用。
【請求項32】
前記治療対象の眼疾患が、炎症性疾患、虚血性疾患、増殖性疾患、神経変性疾患及び緑内障の中から選択される、請求項1〜31のいずれか1項に記載の使用。
【請求項33】
前記増殖性疾患が新生血管又はグリア疾患である、請求項32に記載の使用。
【請求項34】
前記治療対象眼疾患が、強膜炎、結膜炎、角膜炎、内皮炎、ブドウ膜炎、脈絡膜炎、網膜炎、脈絡網膜炎、前部ブドウ膜炎、未熟児網膜症、糖尿病性網膜症、増殖性硝子体網膜症、遺伝性網膜ジストロフィ、加齢性黄斑変性症、開放隅角緑内障、血管新生緑内障及び虚血性網膜症の中から選択される、請求項32に記載の使用。
【請求項35】
対象の前記毛様体組織又は細胞及び/又は前記外眼筋組織又は細胞に対して組成物を投与するための注入装置であって、
(i) 前記組織又は細胞内に前記組成物を注入するための少なくとも1つの手段であって、それが注入針、注入針電極、少なくとも1つの注入針又は1つの注入針電極を含む極微針アレイ又はそれらの組合せである手段、
(ii) 任意には、前記組成物の注入を開始するのに充分な深さまで針が挿入された時点でそれを検知するための手段であって、前記深さが0.1〜10mmの間、好ましくは0.2〜0.9mmの間に含まれているか又はさらに一層好ましくは0.5mmである手段、
(iii) 任意には、強膜又は眼結膜の表面上に前記注入手段を位置決めするための手段、及び
(iv) 任意には、予め定められた電気信号を生成するための手段
を含む注入装置。
【請求項36】
前記注入針又は注入針電極の長さが0.1〜10mmの間、好ましくは0.2〜0.9mmの間に含まれているか又さらに一層好ましくは0.5mmである、請求項35に記載の注入装置。
【請求項37】
予め定められた電気信号を生成するための手段を含み、前記注入装置が、互いに1センチメートル未満だけ離隔した少なくとも2つの電極を含み、前記電極のうちの少なくとも1つが、もう1つの電極のものと異なる極性を有している、請求項35又は36に記載の注入装置。
【請求項38】
前記少なくとも2つの電極のうちの少なくとも1つが請求項35に記載の注入手段である、請求項37に記載の注入装置。
【請求項39】
前記少なくとも2つの電極のうちの少なくとも1つが、前記強膜又は眼結膜、好ましくは辺縁結膜の表面上に反転可能な形で適用されるように任意に適合された平板コンタクト電極及びワイヤ電極の中から選択される、請求項37又は38に記載の注入装置。
【請求項40】
前記少なくとも2つの電極のうちの少なくとも1つが、1ミリメートル〜5センチメートルの間、好ましくは1〜10ミリメートルの間に含まれる長さであるワイヤ電極である、請求項39に記載の注入装置。
【請求項41】
前記ワイヤ電極の形状が環又はその一部分の形状である、請求項40に記載の注入装置。
【請求項42】
前記少なくとも2つの電極のうちの少なくとも1つが、前記強膜又は眼結膜の表面の幾何形状に適合した湾曲した形態及び剛性材料で作られた平板コンタクト電極である、請求項39に記載の注入装置。
【請求項43】
前記少なくとも2つの電極のうちの少なくとも1つが、前記強膜又は眼結膜の表面の幾何形状に適合した可とう性材料で作られた平板コンタクト電極である、請求項39に記載の注入装置。
【請求項44】
前記平板コンタクト電極の幅は約1.5センチメートルよりも短かいものである、請求項41に記載の注入装置。
【請求項45】
前記少なくとも2つの電極が、15ミリメートル未満、好ましくは14、13、12、10、9、8、7、6、5、4、3又は2ミリメートル未満だけ離隔している、請求項37〜44のいずれか1項に記載の注入装置。
【請求項46】
前記少なくとも2つの電極が1ミリメートルだけ離隔している、請求項45に記載の注入装置。
【請求項47】
前記少なくとも2つの電極が共に接続されている、請求項37〜46のいずれか1項に記載の注入装置。
【請求項48】
前記少なくとも2つの電極が導電性非酸化金属で作られている、請求項37〜47のいずれか1項に記載の注入装置。
【請求項49】
前記少なくとも2つの電極がイリジウム又は白金で作られている、請求項48に記載の注入装置。
【請求項50】
前記位置決め手段が、前記強膜又は眼結膜、好ましくは辺縁結膜の前記表面上に反転可能な形で適用されるように適合されている、請求項35〜49のいずれか1項に記載の注入装置。
【請求項51】
前記位置決め手段が環状手段又はその一部分である、請求項50に記載の注入装置。
【請求項52】
前記位置決め手段が少なくとも2つの先端部を含む櫛様に設計されており、前記少なくとも2つの先端部のうちの少なくとも1つが請求項35に記載の注入手段を含む、請求項35〜51のいずれか1項に記載の注入装置。
【請求項53】
前記環状位置決め手段の内径が13〜14ミリメートルの間に含まれており、前記環状位置決め手段の外径が15〜16ミリメートルの間に含まれている、請求項51又は52に記載の注入装置。
【請求項54】
前記先端部の長さが0.1mm〜3mmの間、好ましくは0.4mm〜0.8mmの間に含まれ、さらに一層好ましくは0.5mmである、請求項52又は53に記載の注入装置。
【請求項55】
前記環状手段又はその一部分と前記先端部との間の角度が1°〜90°の間に含まれている、請求項52〜54のいずれか1項に記載の注入装置。
【請求項56】
前記装置がさらに前記組成物の輸液のためのパイプ系を含む、請求項35〜55のいずれか1項に記載の注入装置。
【請求項57】
前記組成物が治療用核酸を含む、請求項56に記載の注入装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公表番号】特表2008−538370(P2008−538370A)
【公表日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−507197(P2008−507197)
【出願日】平成18年4月18日(2006.4.18)
【国際出願番号】PCT/IB2006/001667
【国際公開番号】WO2006/123248
【国際公開日】平成18年11月23日(2006.11.23)
【出願人】(592236234)アンスティテュー・ナシオナル・ドゥ・ラ・サンテ・エ・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・メディカル・(イ・エヌ・エス・ウ・エール・エム) (12)
【氏名又は名称原語表記】INSTITUT NATIONAL DE LA SANTE ET DE LA RECHERCHE MEDICALE (I.N.S.E.R.M.)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年4月18日(2006.4.18)
【国際出願番号】PCT/IB2006/001667
【国際公開番号】WO2006/123248
【国際公開日】平成18年11月23日(2006.11.23)
【出願人】(592236234)アンスティテュー・ナシオナル・ドゥ・ラ・サンテ・エ・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・メディカル・(イ・エヌ・エス・ウ・エール・エム) (12)
【氏名又は名称原語表記】INSTITUT NATIONAL DE LA SANTE ET DE LA RECHERCHE MEDICALE (I.N.S.E.R.M.)
【Fターム(参考)】
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