説明

対象化合物を捕捉することができるモレキュラーインプリンテッドポリマー、その調製方法、およびモレキュラーインプリンテッドポリマーにより対象試料中の対象化合物を捕捉する方法

【課題】 疎水性物質の非選択的吸着を抑え、対象化合物に対する選択的吸着を水中で実現することができるモレキュラーインプリンテッドポリマー(MIP)を提供する。
【解決手段】 少なくとも1つのイオン性官能基を有する対象化合物を捕捉することができるMIPであって、水溶性ポリマー部分と、少なくとも1つの錯体形成部分であって、該錯体形成部分の各々が、該対象化合物の該イオン性官能基のいずれかとイオン結合による相互作用をすることができ、該錯体形成部分と該対象化合物の該イオン性官能基との間の各相互作用を介して、該MIPと該対象化合物とがイオン性錯体を形成し、該対象化合物を捕捉することができる位置で、該水溶性ポリマー部分に結合された少なくとも1つの錯体形成部分とを有するMIPが提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象化合物を捕捉することができるモレキュラーインプリンテッドポリマー(以下、MIPとも記す。)、その調製方法、およびMIPにより対象試料中の対象化合物を捕捉する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
モレキュラーインプリンティング法は、選択的分離技術において、最も重要な方法の1つである(非特許文献1参照)。液体試料から目的とする物質(対象化合物)を選択的に分離するために、様々なMIPが利用されてきた。現在、MIPは、固相抽出(SPE: solid phase extraction)手段として非常に有用である。特に、MIPは、環境由来あるいは生物由来の試料を高感度に分析する際の前処理において、対象化合物を選択的に分離するのに有用である。
【0003】
一般的に、有機化合物に対するMIPの調製は、非極性溶媒中で水素結合による相互作用を利用して行われる。したがって、グアニジル基を有するアルカロイドなど水溶性極性化合物に対するMIPを非極性溶媒中で調製することは、非常に困難である。さらに、MIPを用いたSPEの評価において、ポリマーマトリックス表面への疎水性化合物の非選択的な吸着が観察されることがあった。
【0004】
水溶性極性化合物を分離するために、本発明者等は、官能基間距離固定化法というインプリンティング法を開発した(特許文献1、非特許文献2参照)。この方法により、藍藻類が産生する水溶性アルカロイドに対する選択的な認識が可能となった。しかしながら、環境由来の試料を処理した場合などに、依然として、調製されたポリマー上に非選択的吸着が観察されることがあった。
【0005】
一方で、最近、水中で調製された新規なMIPとして、ポリエチレングリコールジアクリレートを用いて調製されたもの(非特許文献3、非特許文献4参照)や、アクリロイル−シクロデキストリンとビスアクリルアミドを用いて調製されたもの(非特許文献5参照)が報告されている。これらのポリマーは、ある程度の選択的な認識能を示している。しかしながら、これらのポリマーにおける認識部位は、主に水素結合による相互作用に基づいて形成されており、これらの方法では、過剰な機能性モノマーが用いられるため、これらのポリマーにおける認識部位は、均質でないと考えられる。このため、これらの方法では、インプリンティング効果が充分でないと考えられる。さらに、これらの調製方法は、グアニジル基を有するアルカロイド等のイオン性化合物に対しては利用することができない。
【0006】
【特許文献1】特開2004-224875
【非特許文献1】B Sellergren, "Molecular imprinted polymers", Elsevier Science, 2001
【非特許文献2】T. Kubo, N. Tanaka and K. Hosoya, Anal. Bioanal. Chem. 2004, 378, 84
【非特許文献3】A. Rachkov and N. Minoura, Biochim. Biophys. Acta, 2001, 1554, 255
【非特許文献4】A. Rachkov, M. Hu, E. Bulgarevich, T. Matsumoto and N. Minoure, Anal. Chim. Acta, 2004, 504, 191
【非特許文献5】H. Asanuma, T. akiyama, K. Kajiya, T. Hishiya and M. Komiyama, Anal. Chim. Acta, 2001, 435, 25
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、疎水性物質の非選択的吸着を抑え、対象化合物に対する選択的吸着を水中で実現することができるMIPを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一の側面によると、少なくとも1つのイオン性官能基を有する対象化合物を捕捉することができるMIPであって、水溶性ポリマー部分と、少なくとも1つの錯体形成部分であって、該錯体形成部分の各々が、該対象化合物の該イオン性官能基のいずれかとイオン結合による相互作用をすることができ、該錯体形成部分と該対象化合物の該イオン性官能基との間の各相互作用を介して、該MIPと該対象化合物とがイオン性錯体を形成し、該対象化合物を捕捉することができる位置で、該水溶性ポリマー部分に結合された少なくとも1つの錯体形成部分とを有するMIPが提供される。
【0009】
本発明の他の側面によると、少なくとも1つのイオン性官能基を有する対象化合物を捕捉することができるMIPを調製する方法であって、該対象化合物と置き換え可能な鋳型分子であって、該対象化合物の該イオン性官能基のいずれかと同一または対応した少なくとも1つのイオン性官能基を有する鋳型分子を供するステップと、錯体形成部分と重合性部分を有する少なくとも1つの機能性モノマーであって、該機能性モノマーの各々の該錯体形成部分が、該鋳型分子のいずれかの該イオン性官能基とイオン結合による相互作用をすることができる少なくとも1つの機能性モノマーを供するステップと、該鋳型分子と該機能性モノマーの各々とのイオン性錯体を形成させるステップと、水中で該イオン性錯体中の該機能性モノマーの各々と水溶性架橋剤とを重合させ、重合生成物を得るステップと、該重合生成物から該鋳型分子を除去するステップとを含む方法が提供される。
【0010】
本発明の他の側面によると、対象試料中の少なくとも1つのイオン性官能基を有する対象化合物を捕捉する方法であって、上記MIPを供するステップと、該対象試料を該MIPと接触させ、該MIPにより該対象化合物を捕捉するステップと、該対象化合物を捕捉した該MIPを、該対象化合物を捕捉された該対象試料から分離するステップとを含む方法が提供される。
【0011】
本発明の他の側面によると、対象試料中の少なくとも1つのイオン性官能基を有する対象化合物を捕捉するための捕捉剤であって、上記MIPを含む捕捉剤が提供される。
【発明の効果】
【0012】
上記したように、環境分析の前処理剤として用いられる従来の分離手段は、疎水性のものがほとんどであり、また特定の物質に対する吸着選択性を示すものはない。一方で、本発明にかかるMIPは、架橋剤として水溶性のもの用い、溶媒として水を用いて調製することで、高親水性のMIPが得られ、疎水性物質の非選択的吸着を抑えることができ、さらに対象化合物に対する選択的吸着を水中で実現することができる。これは、環境水処理において極めて重要であり、本発明にかかるMIPの分析前処理剤への応用が期待できる。また、従来用いられているモレキュラーインプリンティング法では、水中での選択的吸着能を得ることが困難であった。しかしながら、本発明によると、さらに官能基間距離固定化法を用いることで、水中でより強い選択性を有することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、本発明の実施の形態を、添付図面を参照しながら説明する。もっとも、本発明は、以下に説明する実施の形態に限定されるものではない。
【0014】
上記したように、本発明によると、対象化合物を捕捉することができるMIPが提供される。ここで、対象化合物は、少なくとも1つのイオン性官能基を有する。対象化合物のイオン性官能基は、カチオン性官能基でも、アニオン性官能基でもよい。具体例には、対象化合物のイオン性官能基は、カルボキシル基、アミノ基、4級アンモニウム基、シアノ基、およびスルホン酸基からなる群から選ぶことができる。
【0015】
本発明にかかるMIPは、
対象化合物と置き換え可能な鋳型分子であって、対象化合物のイオン性官能基のいずれかと同一または対応した少なくとも1つのイオン性官能基を有する鋳型分子を供するステップと、
錯体形成部分と重合性部分を有する少なくとも1つの機能性モノマーであって、各機能性モノマーの錯体形成部分が、鋳型分子のいずれかのイオン性官能基とイオン結合による相互作用をすることができる少なくとも1つの機能性モノマーを供するステップと、
鋳型分子と各機能性モノマーとのイオン性錯体を形成させるステップと、
水中でイオン性錯体中の各機能性モノマーと水溶性架橋剤とを重合させ、重合生成物を得るステップと、
重合生成物から鋳型分子を除去するステップと
により調製することができる。
【0016】
ここで、鋳型分子は、対象化合物と置き換え可能なものである。すなわち、鋳型分子は、モレキュラーインプリンティング法により対象化合物に対するMIPを調製する際に、対象化合物と置き換えて用いることができるものである。具体的には、鋳型分子は、対象化合物、対象化合物の断片、または擬似鋳型分子であることが好ましい。ここで、当業者には明らかなように、擬似鋳型分子は、対象化合物またはその一部と実質的に等しい化学構造、大きさおよび/または形状を有することが好ましい。ここで、当業者には明らかなように、擬似鋳型分子が、対象化合物等と実質的に等しい化学構造等を有するとは、モレキュラーインプリンティング法によりMIPを調製する際に、鋳型分子として、対象化合物またはその断片に代えて擬似鋳型分子を用いた場合にも、得られたMIPが当該対象化合物に対する選択的認識能を示す程度に、擬似鋳型分子の化学構造等が、対象化合物の化学構造等と類似していることをいう。擬似鋳型分子を用いることは、特に、対象化合物が、毒性を有する場合、または取扱いもしくは入手が困難な場合等に好ましい。そのような対象化合物を使用することなく、より安全な化合物、または取扱いもしくは入手が容易な化合物を使用して、MIPを調製することができるためである。
【0017】
また、鋳型分子は、対象化合物のイオン性官能基のいずれかと同一または対応した少なくとも1つのイオン性官能基を有する。鋳型分子が、対象化合物自体である場合にあっては、鋳型分子は、対象化合物の全てのイオン性官能基を含む。また、鋳型分子が、対象化合物の断片である場合にあっては、鋳型分子として、対象化合物のイオン性官能基の少なくとも1つを含む断片を用いる。また、鋳型分子が、擬似鋳型分子である場合において、擬似鋳型分子のイオン性官能基が、対象化合物のイオン性官能基に対応したとは、擬似鋳型分子のイオン性官能基が、対象化合物のイオン性官能基と実質的に等しい化学構造を有し、擬似鋳型分子におけるそのイオン性官能基の位置が、対象化合物におけるそのイオン性官能基の位置と実質的に等しいことをいう。
【0018】
ここで、当業者には明らかなように、擬似鋳型分子のイオン性官能基が、対象化合物のイオン性官能基と実質的に等しい化学構造を有するとは、モレキュラーインプリンティング法によりMIPを調製する際に、鋳型分子として、対象化合物またはその断片に代えて擬似鋳型分子を用いた場合にも、得られたMIPが当該対象化合物に対する選択的認識能を示す程度に、擬擬似鋳型分子のイオン性官能基の化学構造が、対象化合物のイオン性官能基の化学構造と類似していることをいう。
【0019】
また、当業者には明らかなように、擬似鋳型分子におけるイオン性官能基の位置が、対象化合物におけるイオン性官能基の位置と実質的に等しいとは、モレキュラーインプリンティング法によりMIPを調製する際に、鋳型分子として、対象化合物またはその断片に代えて擬似鋳型分子を用いた場合にも、得られたMIPが当該対象化合物に対する選択的認識能を示す程度に、擬似鋳型分子におけるそのイオン性官能基の位置が、対象化合物におけるそのイオン性官能基の位置と類似していることをいう。
【0020】
なお、擬似鋳型分子の設計および調製は、従来のモレキュラーインプリンティング法におけるものと同様とすることができる。対象化合物の化学構造が明らかであれば、擬似鋳型分子を分子設計、計算により選定することができる。また、対象化合物の完全な化学構造が明らかでなくても、対象化合物のイオン性官能基を含む一部の構造が明らかであれば、擬似鋳型分子を選定することができる。
【0021】
また、機能性モノマーは、錯体形成部分と重合性部分を有する。ここで、機能性モノマーの錯体形成部分は、イオン性官能基であり、各機能性モノマーの錯体形成部分は、鋳型分子のいずれかのイオン性官能基とイオン結合による相互作用をすることができる。また、以下に詳細に述べるように、機能性モノマーは、水溶性であることが好ましい。
【0022】
このような機能性モノマーを用いることで、イオン結合による相互作用を介して、鋳型分子と機能性モノマーのイオン性錯体を形成させることができる。このような機能性モノマーを用いて得られたMIPは、水素結合やファンデルワールス結合等の比較的弱い相互作用だけでなく、イオン結合による比較的強い相互作用を介して、対象化合物を捕捉することが可能となる。このため、このようなMIPは、対象化合物に対するより強い選択的認識能を示す。
【0023】
具体的には、機能性モノマーの錯体形成部分が、カルボキシル基、アミノ基、4級アンモニウム基、シアノ基、およびスルホン酸基からなる群から選ばれることが好ましい。なお、鋳型分子のイオン性官能基が、アニオン性官能基である場合、当該イオン性官能基と対となる機能性モノマーの錯体形成部分は、カチオン性官能基とする。逆に、鋳型分子のイオン性官能基が、カチオン性官能基である場合、当該イオン性官能基と対となる機能性モノマーの錯体形成部分は、アニオン性官能基とする。特に、水中においてもより安定な状態を保つように、鋳型分子のイオン性官能基および機能性モノマーの錯体形成部分として、より強いイオン性官能基を用いて錯体を形成させることが好ましい。例えば、鋳型分子のイオン性官能基および機能性モノマーの錯体形成部分は、スルホン酸基および4級アンモニウム基、またはアニオン性官能基および4級カチオン性官能基とすることができる。また、機能性モノマーの重合性部分が、ビニル基であることが好ましい。
【0024】
また、具体的には、機能性モノマーが、イオン性官能基を有しかつ水溶性であるビニルモノマーであることが好ましい。さらに具体的には、機能性モノマーが、スチレンスルホン酸、およびアクリロイルエチルトリメチルアンモニウムからなる群から選ばれることが好ましい。
【0025】
なお、対象化合物が、複数のイオン性官能基を有することが好ましい。この場合、鋳型分子が、対象化合物のイオン性官能基のいずれかに対応した複数のイオン性官能基を有することが好ましい。さらに、この場合、各機能性モノマーが、鋳型分子の異なるイオン性官能基と対となる(すなわち、相互作用をする)ように、複数の機能性モノマーを用いることが好ましい。このように、複数の機能性モノマーを用いてMIPを調製することで、得られたMIPは、複数の錯体形成部分を有し、対象化合物のイオン性官能基とMIPの錯体形成部分との間の複数の相互作用を介して、対象化合物を捕捉することが可能となる。このため、このようなMIPは、対象化合物に対するさらに強い選択的認識能を示す。換言すると、複数のイオン性結合を利用することで、イオン性の官能基は三次元的に固定化され、その結果、対象物質の立体的な特徴を選択的に捕捉することが可能となる。なお、MIPの調製に利用する鋳型分子のイオン性官能基とMIPの錯体形成部分との間の相互作用の数は、好ましくは1〜3であり、さらに好ましくは2または3である。
【0026】
上記したように、本発明にかかるMIPの調製方法は、鋳型分子と各機能性モノマーとのイオン性錯体を形成させるステップを含む。重合反応の前に、完全に錯体を形成させることで、確実に機能性モノマーを配置することができ、選択的分子認識能を向上させることができると考えられる。なお、水溶性の鋳型分子および水溶性の機能性モノマーを用いる場合にあっては、イオン性錯体を形成させるステップは、鋳型分子および各機能性モノマーを水に溶解させ、鋳型分子と各機能性モノマーとのイオン性錯体を形成させるステップを含むことが好ましい。また、この場合、本発明にかかるMIPの調製方法は、得られたイオン性錯体を有機溶媒に抽出するステップと、得られた抽出液から有機溶媒を除去し、イオン性錯体を得るステップとをさらに含むことが好ましい。錯体を形成していない鋳型分子および機能性モノマーは、有機溶媒に溶解しないが、錯体を形成することで鋳型分子および機能性モノマーを、有機溶媒に溶解させることが可能となる。(なお、この場合、鋳型分子と機能性モノマーのどちらも水溶性であるので、得られたイオン性錯体は水にも可溶である。)このため、このように水中で錯体を形成させ、得られた錯体を有機溶媒により抽出することで、イオン性錯体を形成した鋳型分子と機能性モノマーのみが、有機溶媒によって抽出される。このように錯体を形成することで、鋳型分子のイオン性官能基と機能性モノマーとのモル比(すなわち、鋳型分子に複数のイオン性官能基がある場合は、各イオン性官能基と当該イオン性官能基に対応する機能性モノマーとのモル比)は確実に一対一になる。これは、得られるMIP内における均一な認識部位の形成に寄与し、これにより、MIPの対象化合物に対する選択的認識能をより高くすることができる。このように、鋳型分子のイオン性官能基と機能性モノマーが一対一に対応した錯体を使って、水を溶媒としてMIPを調製することで、対象化合物に対する選択的認識能をより高くすることができる。
【0027】
なお、錯体の形成に用いられる各機能性モノマーの量は、鋳型分子の対となるイオン性官能基1molあたり、好ましくは1.5〜4molである。錯体の抽出に用いられる有機溶媒は、用いる鋳型分子および各機能性モノマー等に応じて適宜定めることができ、具体的には、クロロホルムとすることができる。なお、錯体の形成、抽出等に必要な時間および温度は、用いる鋳型分子および各機能性モノマー等に応じて適宜定めることができる。また、得られた錯体の構造の確認は、常法に従って(例えば、NMRにより)行うことができる。
【0028】
さらに、本発明にかかるMIPの調製方法は、水中でイオン性錯体中の各機能性モノマーと水溶性架橋剤とを重合させ、重合生成物を得るステップを含む。上記したように、本発明にかかるMIPは、架橋剤として水溶性のものを用い、溶媒として水を用いて調製するため、疎水性が極めて低く、疎水性物質の非選択的吸着を抑えることができる。
【0029】
水溶性架橋剤は、複数の重合性部分を有する。具体的には、水溶性架橋剤の重合性部分が、ビニル基であることが好ましい。また、水溶性架橋剤の重合性部分を連結する骨格部分は、−(CR12CR34O)n−{式中、R1、R2、R3およびR4は、各々独立に、水素、水酸基またはアミノ基である。}からなる群から選ばれることが好ましい。なお、式中、整数nは、重合性部分および骨格部分に応じて、当該架橋剤が全体として水溶性となるように適宜選択することができる。具体的には、nが大きいほど、水溶性が上がり、R1、R2、R3およびR4の全てが水素である場合にあっては、nは、5以上であることが好ましく、7以上であることがさらに好ましく、9以上であることがさらに好ましい。R1、R2、R3および/またはR4として、水酸基、アミノ基等の親水性の官能基を有する場合にあっては、nは、より小さくても良い。具体的には、nは、1以上であることが好ましく、2以上であることがさらに好ましく、3以上であることがさらに好ましく、4以上であることがさらに好ましく、5以上であることがさらに好ましい。また、nをより小さくすることで、すなわち、水溶性架橋剤の重合性部分間の長さをより短くすることで、より均一なMIPが得られ、MIPの対象化合物に対する選択的認識能を向上させることができる。具体的には、nは、23以下であることが好ましく、21以下であることがさらに好ましく、19以下であることがさらに好ましく、17以下であることがさらに好ましく、15以下であることがさらに好ましく、13以下であることがさらに好ましく、11以下であることがさらに好ましく、9以下であることがさらに好ましい。
【0030】
また、水溶性架橋剤は、ポリエチレングリコールジアクリレートもしくはポリエチレングリコールジメタクリレート、または、水溶性を上げるために、そのエチレングリコール骨格に水酸基その他の親水性の官能基を導入したポリエチレングリコールジアクリレートもしくはポリエチレングリコールジメタクリレートの誘導体であることが好ましい。具体的には、水溶性架橋剤は、CH2CHCO2−(CR12CR34O)n−COCHCH2またはCH2C(CH3)CO2−(CR12CR34O)n−COC(CH3)CH2{式中、Rk(k=1,2,3,4)およびnは、上記と同様である。}からなる群から選ばれることが好ましい。
【0031】
なお、水溶性架橋剤として、単一の化合物を用いることが好ましい。すなわち、例えば、水溶性架橋剤としてポリエチレングリコールジアクリレートを用いる場合にあっては、分子量の異なる(すなわちエチレングリコール単位の繰り返しの数が異なる)複数種類のポリエチレングリコールジアクリレートを用いるのではなく、分子量が同一である(すなわちエチレングリコール単位の繰り返しの数が同一である)単一の化合物を用いることが好ましい。これは、得られるMIP内における均一な認識部位の形成に寄与し、これにより、MIPの対象化合物に対する選択的認識能をより高くすることができると考えられる。
【0032】
上記したように、重合反応は、溶媒として水を用いて行う。この際、水が細孔形成剤(porogen)として作用し、多孔質のMIPが得られる。
【0033】
ここで、当業者には明らかなように、重合反応は、バルク重合等により行うことができる。具体的には、重合反応は、例えば40〜120℃に加熱する、または紫外線、電子線等の活性エネルギー線を照射することで、行うことができる。重合反応の条件は、用いる鋳型分子、機能性ポリマー、架橋剤等に応じて、適宜定めることができる。なお、均一なMIPを得るために、重合反応の前および間の混合液(架橋剤、機能性モノマーと鋳型分子の錯体、溶媒、および必要に応じて開始剤等)が均一であり、相が分離せず、不溶物がないことが好ましい。重合前に均一であった場合でも、架橋剤等と溶媒(水)との溶解度パラメータの違いによって、重合開始直後に、相分離等により均一系が崩れる場合がある。このような場合には、得られたMIPが均一な状態とならないおそれがある。このため、重合反応の前および間の混合液が均一となるように、重合反応の条件を定めることが好ましい。より具体的には、重合反応に用いられる水溶性架橋剤の量は、鋳型分子1molあたり、好ましくは1〜50molである。重合反応に用いられる溶媒、すなわち水の量は、好ましくは水溶性架橋剤の体積の2/3倍〜1.5倍、さらに好ましくは水溶性架橋剤と同一の体積である。なお、重合反応に必要な時間および温度は、用いる重合反応の方法、あるいは用いる鋳型分子および各機能性モノマー等に応じて適宜定めることができる。
【0034】
なお、重合させるステップにおいて、重合開始剤等をさらに用いることができる。重合開始剤は、過硫酸カリウムや過硫酸アンモニウム等の水系重合開始剤を用いることが好ましい。
【0035】
さらに、本発明にかかるMIPの調製方法は、重合生成物から鋳型分子を除去するステップを含む。鋳型分子の除去は、常法に従い行うことができる。具体的には、鋳型分子の除去は、得られた重合生成物を溶剤により処理(例えば、抽出、洗浄等)をすることで行うことができる。また、鋳型分子の除去は、ソックスレー法により行うこともできる。さらに、鋳型分子の除去は、複数の方法を組み合わせて行うこともできる。ここで、本発明にあっては、強いイオン結合で機能性モノマーと鋳型分子が相互作用しているため、その作用を切断するための高塩濃度溶媒で重合生成物を洗浄することが好ましい。具体的には、NaClやKClなどの非常にイオン性の高い塩類を含む水溶液で洗浄し、鋳型分子を除去することが好ましい。なお、鋳型分子の除去に必要な時間および温度は、用いる鋳型分子の除去の方法、あるいは用いる鋳型分子、各機能性モノマーおよび水溶性架橋剤等に応じて適宜定めることができる。
【0036】
なお、バルク重合でポリマーを調製した場合等にあっては、必要に応じて、擬似分子を除去して得られたMIPを粉砕し、使用目的に応じて、粒度を調整することができる。例えば、1〜300μmに粒度にすることができる。また、得られたMIPを、そのまま粒度で使用することもできる。また、粉砕した後にMIPから擬似分子を除去することもできる。また、MIPを、低分子量のアルコールや水を含む低分子量のアルコールでコンディショニング処理することによって、対象化合物の捕捉率または吸着率を著しく向上させることができる。
【0037】
以上の方法により得られたMIPは、水溶性ポリマー部分と、少なくとも1つの錯体形成部分であって、各錯体形成部分が、対象化合物のイオン性官能基のいずれかとイオン結合による相互作用をすることができ、錯体形成部分と対象化合物のイオン性官能基との間の各相互作用を介して、MIPと対象化合物とがイオン性錯体を形成し、対象化合物を捕捉することができる位置で、水溶性ポリマー部分に結合された少なくとも1つの錯体形成部分とを有する。上記したように、このようなMIPは、水溶性ポリマー部分を形成するモノマーである水溶性架橋剤と錯体形成部分を有するモノマーである機能性モノマーとを水中で重合させることにより調製することができる。すなわち、水溶性架橋剤を重合することで、MIPの水溶性ポリマー部分が形成される。具体的には、MIPの水溶性ポリマー部分は、水溶性架橋剤に由来する骨格、すなわち、水溶性架橋剤の重合性部分を連結する骨格部分に相当する骨格を有する。また、各機能性モノマーがMIPに組み込まれることで、MIPの錯体形成部分が形成される。さらに、上記方法によりMIPを調製することで、各錯体形成部分は、対象化合物のイオン性官能基のいずれかとイオン結合による相互作用をすることができ、錯体形成部分と対象化合物のイオン性官能基との間の各相互作用を介して(すなわち、複数の錯体形成部分を利用する場合にあっては、全ての相互作用を介して)、MIPと対象化合物とがイオン性錯体を形成し、対象化合物を捕捉することができる位置で、水溶性ポリマー部分に結合される。
【0038】
また、本発明によると、対象試料中の少なくとも1つのイオン性官能基を有する対象化合物を捕捉する方法が提供される。当該方法は、
上記MIPを供するステップと、
対象試料をMIPと接触させ、MIPにより対象化合物を捕捉するステップと、
対象化合物を捕捉したMIPを、対象化合物を捕捉された対象試料から分離するステップと
を含む。
【0039】
なお、対象試料から対象化合物を捕捉することで、対象化合物の分離、抽出、濃縮、希釈、除去、精製、単離等を行うことができる。本発明によると、対象化合物が含まれている可能性があるこれらの対象試料に対して、毒性、衛生性等の機能性の検出を行うことができる。
【0040】
対象試料は、河川水、湖水、産業廃棄物等の環境由来の試料、人体、動物、植物、昆虫等の生物由来の試料、または塗料、インキ等の工業製品等とすることができる。本発明にかかる対象化合物を捕捉する方法によると、これらの試料に存在する毒性化合物や外因性内分泌攪乱物質等の対象化合物を、捕捉することができる。
【0041】
また、対象化合物は、比較的低分子の有機化合物であることが好ましい。MIPの重合の際と使用の際とで溶媒、温度、pHなどの条件が変化しても、対象化合物の構造の変化が小さく、本発明により、選択的な認識能を発揮しやすいためである。対象化合物は、通常、存在しないことが望ましい化合物であって、性能上または環境衛生上好ましくない化合物とすることができる。例えば、対象化合物は、生物または環境由来の試料や工業製品等の対象試料の中に含まれている可能性がある、あるいは、使用中または使用後に生ずるまたは含まれている物質とすることができる。具体的には、対象化合物は、化学系材料の性能に影響を及ぼす物質、生体に対して悪影響のある物質、環境、衛生性等の問題が示唆されている物質、毒性物質等とすることができる。
【0042】
より具体的には、対象化合物は、ノニルフェノール、ブチルフェノール、ジクロロフェノール、ビスフェノールA、スチレン、スチレンダイマー、スチレントリマー、オクタクロロスチレン、フタル酸ブチル、フタル酸プロピル、フタル酸ヘキシル、フタル酸ペンチル、フタル酸ジクロロヘキシル、フタル酸ブチルベンジル、フタル酸ジエチルヘキシル、ポリ臭化ビフェニル、アジピン酸ジエチルヘキシル、酢酸ビニル、塩化ビニル等とすることができる。また、対象化合物は、有用な化合物であってもよい。
【0043】
毒性物質には、例えば、一部の藍藻類が生産する有毒物質として知られているシリンドロスパーモプシン(肝臓毒)、ミクロシスチン(肝臓毒、アオコ毒)、サキストキシン(神経毒)、アナトキシン(神経毒)等の環境毒が含まれる。
【0044】
本発明のMIPを、被覆剤等に対して使用することができる。具体的には、被覆剤には、水性塗料、有機溶剤型塗料、(熱、紫外線、電子線等に対する)反応硬化型塗料、オフセットインキ、グラビアインキ、フレキソインキ、スクリーンインキ、水性接着剤、有機溶剤型接着剤、反応硬化型接着剤、ホットメルト接着剤等が含まれる。また、本発明のMIPを、包装材用塗料、包装材用印刷インキ、包装材用接着剤、半導体封止剤等に対して使用することができる。これらの化学系材料に、捕捉能を有するMIPを添加または混合するか、接触させることにより、対象化合物を捕捉することができる。
【0045】
なお、対象試料を、水性試料とし、対象化合物を、水溶性とすることができる。上記したように、本発明にかかるMIPは、架橋剤として水溶性のもの用い、溶媒として水を用いることで、高親水性のMIPが得られ、疎水性物質の非選択的吸着を抑えることができ、さらに対象化合物に対する選択的吸着を水中で実現することができるためである。
【0046】
上記したように、本発明にかかる対象試料中の対象化合物を捕捉する方法は、対象試料をMIPと接触させ、MIPにより対象化合物を捕捉するステップと、対象化合物を捕捉したMIPを、対象化合物を捕捉された対象試料から分離するステップとを含む。これらのステップは、従来と同様に行うことができる。また、これらのステップは、同時に行うことができる。例えば、MIPをクロマトグラフィーの充填剤として用いた場合には、対象試料を、MIPを充填したカラムに通し、溶出液を分画することで、上記ステップを同時に行うことができる。
【0047】
また、本発明によると、対象試料中の少なくとも1つのイオン性官能基を有する対象化合物を捕捉することができる捕捉剤であって、上記MIPを含む捕捉剤が提供される。このような捕捉剤は、例えば、対象試料の環境測定や、環境測定における前処理剤として利用することができる。ここで、このような捕捉剤は、カラムに充填して用いることができる。このような場合、必要に応じてフイルターをカラムの底に置き、当該カラム内に鋳型分子と各機能性モノマーとのイオン性錯体と水溶性架橋剤を充填し、当該カラム内で上記重合反応を行い、さらに擬似分子を除去することにより、MIPの調製とカラムへの充填を同時に行うことができる。
【0048】
なお、本発明にかかるMIPは、必要に応じて、サイクロデキストリン等の包接化合物、活性炭や、対象化合物を捕捉できるその他の材料と併用することもできる。
【実施例】
【0049】
以下に、本発明の実施例を、添付図面を参照しながら説明する。もっとも、本発明は、以下に説明する実施例に限定されるものではない。
【0050】
本発明者等は、溶媒として水を用いた、官能基間距離固定化法による新規インプリンテッドポリマーを調製した。図1に、官能基間距離固定化法を利用した、本発明にかかるMIPの調製方法の概念図を示す。
【0051】
アセトニトリル中で、p−キシレンジクロライドとトリブチルアミンを反応させることで、高収率でTBTA((4−トリブチルアンモニウムメチル)−ベンジルトリブチルアンモニウムクロライド)を合成した。得られたTBTAの構造を、1H−NMRにより確認した。
【0052】
【化1】

1H-NMR (in CDCl3); δ 1.03 ppm (18H, a), 1.48 ppm (12H, b), 1.63 ppm (12H, c), 3.31 ppm (12H, d), 5.16 ppm (4H, e), 7.79 ppm (4H, f)
【0053】
次に、機能性モノマー(SSA:p−スチレンスルホン酸)とTBTAとのイオン性錯体を、以下のように調製した。すなわち、SSAとTBTAとをSSA/TBTA=3/1(mol/mol)で蒸留水に溶解し、クロロホルムにより抽出した。溶媒を除去した後、残渣を1H−NMRにより試験し、得られた錯体の構造を確認した。これにより、残渣は、完全に、図1に示されるイオン性錯体であることが確認された。なお、SSA自体は水にしか溶解しないのに対して、TTAとの錯体を形成させることで、有機溶媒に可溶となったことに留意すべきである。
【0054】
【化2】

1H-NMR (in CDCl3); δ 0.94 ppm (18H, f), 1.29 ppm (12H, g), 1.61 ppm (12H, h), 3.21 ppm (12H, I), 4.91 ppm (4H, j), 5.26 ppm (2H, a), 5.77 ppm (2H, b), 6.71 ppm (2H, c), 7.41 ppm (4H, d), 7.63 ppm (4H, k), 7.86 ppm (4H, e)
【0055】
得られたイオン性錯体、水溶性ポリエチレングリコールジアクリレート (架橋剤、ADE-400、日本油脂株式会社製)、蒸留水、および開始剤(過硫酸カリウム)を用いて、塊状のポリマーを調製した。表1に、各ポリマーの組成を示す。なお、架橋剤ADE-400の5mLは、約9.5mmolに対応する。全てのポリマーは、50℃で24時間にわたり重合を行った。重合後、ポリマーを粉砕し、45〜71μmの粒子に分級した。得られた粒子は、ステンレススチール製のカラムに充填し、完全に水性の移動相を用いた高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により評価した。
【0056】
【表1】

【0057】
ADE-400ポリマーの基本的挙動を明らかにするために、得られたポリマーの疎水性を、通常のオクタデシル基結合シリカ(ODS)、およびモレキュラーインプリンティング法における架橋剤として一般に用いられるエチレングリコールジメタクリレート(EDMA)ポリマーと比較した。溶質として、ベンゼン、ブチルベンゼン、ペンチルベンゼンおよびフェノールを各々用いた。図2に、本発明にかかるMIP(ADE)および比較例(ODS、EDMA)の疎水性を示すHPLCによるグラフを示す。疎水性化合物の溶質としてアルキルベンゼンを用いた場合にあっては、当該化合物は、ADEポリマーには全く保持されなかったが、ODSおよびEDMAポリマーのカラムでは保持された(図2参照)。この結果から、ADEポリマーが、疎水性相互作用により非選択的に吸着することなく、環境由来あるいは生物由来の水性試料のためのSPE吸着剤として有用であることが分かる。
【0058】
さらに、クロマトグラフィーにより、ADE−MIPおよびADE,ADE−BLANKのインプリンティング効果の比較を行った。溶質として、アセトン、カフェイン、BTEA(ベンジルトリエチルアンモニウムクロライド)、BTBA(ベンジルトリブチルアンモニウムクロライド)、TBTAを各々用いた。図3に、本発明にかかるMIP(ADE−MIP)および比較例(ADE,ADE−BLANK)の溶質保持時間を示すHPLCによるグラフを示す。また、表2に、TBTAに対する分離係数を示す。図3に示すように、ADE-BLANKおよびADE-MIPにおけるカチオン性溶質の保持時間が長いことから、SSAによって、より高い保持効果が付与されることが明らかとなった。加えて、ADE-MIPにおいて、BTBAとTBTAとの溶出順序が逆転している。この結果は、TBTAに対する保持効果がインプリンティング効果に基づくものであることを示している。実際、表2に示した分離係数の比較では、カフェインおよび両カチオン性溶質に対する値は、ADE-MIPにおいてより高くなっている。これらの結果は、細孔形成剤として水を用い、官能基間距離固定化法により調製されたインプリンテッドポリマーが、選択的認識能を有することを強く示している。
【0059】
【表2】

【0060】
以上のように、本発明によると、細孔形成剤として水を用い、官能基間距離固定化法により調製されたMIPが提供される。本発明にかかるMIPは、完全に水性の環境下で、選択的認識能を有する。本技術は、環境由来あるいは生物由来の水性試料に対する選択的SPE処理に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】図1に、官能基間距離固定化法を利用した、本発明にかかるMIPの調製方法の概念図を示す。
【図2】図2に、本発明にかかるMIP(ADE)および比較例(ODS、EDMA)の疎水性を示すHPLCによるグラフを示す。HPLCの条件は、以下の通りである。移動相:50%アセトニトリル水溶液,流速:1.0mL/分,温度:40℃,カラムサイズ:100mm×4.6mmI.D.,検出:フォトダイオードアレイ。
【図3】図3に、本発明にかかるMIP(ADE−MIP)および比較例(ADE,ADE−BLANK)の溶質保持時間を示すHPLCによるグラフを示す。HPLCの条件は、以下の通りである。移動相:0.1MのNaCl水溶液,流速:0.5mL/分,温度:30℃,カラムサイズ:100mm×4.6mmI.D.,検出:フォトダイオードアレイ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのイオン性官能基を有する対象化合物を捕捉することができるモレキュラーインプリンテッドポリマーであって、
水溶性ポリマー部分と、
少なくとも1つの錯体形成部分であって、該錯体形成部分の各々が、該対象化合物の該イオン性官能基のいずれかとイオン結合による相互作用をすることができ、該錯体形成部分と該対象化合物の該イオン性官能基との間の各相互作用を介して、該モレキュラーインプリンテッドポリマーと該対象化合物とがイオン性錯体を形成し、該対象化合物を捕捉することができる位置で、該水溶性ポリマー部分に結合された少なくとも1つの錯体形成部分と
を有するモレキュラーインプリンテッドポリマー。
【請求項2】
上記水溶性ポリマー部分が、−(CR12CR34O)n−{式中、R1、R2、R3およびR4は、各々独立に、水素、水酸基またはアミノ基である。nは、1以上23以下の整数である。ただし、R1、R2、R3およびR4の全てが水素である場合にあっては、nは、5以上23以下の整数である。}からなる群から選ばれる骨格を有する請求項2に記載のモレキュラーインプリンテッドポリマー。
【請求項3】
上記水溶性ポリマー部分を形成するモノマーと上記錯体形成部分を有するモノマーとを水中で重合させることにより得られた請求項1または2に記載のモレキュラーインプリンテッドポリマー。
【請求項4】
多孔質である請求項1〜3のいずれかに記載のモレキュラーインプリンテッドポリマー。
【請求項5】
複数の錯体形成部分を有する請求項1〜4のいずれかに記載のモレキュラーインプリンテッドポリマー。
【請求項6】
上記対象化合物が、水溶性である請求項1〜5のいずれかに記載のモレキュラーインプリンテッドポリマー。
【請求項7】
少なくとも1つのイオン性官能基を有する対象化合物を捕捉することができるモレキュラーインプリンテッドポリマーを調製する方法であって、
該対象化合物と置き換え可能な鋳型分子であって、該対象化合物の該イオン性官能基のいずれかと同一または対応した少なくとも1つのイオン性官能基を有する鋳型分子を供するステップと、
錯体形成部分と重合性部分を有する少なくとも1つの機能性モノマーであって、該機能性モノマーの各々の該錯体形成部分が、該鋳型分子のいずれかの該イオン性官能基とイオン結合による相互作用をすることができる少なくとも1つの機能性モノマーを供するステップと、
該鋳型分子と該機能性モノマーの各々とのイオン性錯体を形成させるステップと、
水中で該イオン性錯体中の該機能性モノマーの各々と水溶性架橋剤とを重合させ、重合生成物を得るステップと、
該重合生成物から該鋳型分子を除去するステップと
を含む方法。
【請求項8】
上記対象化合物が、複数のイオン性官能基を有し、上記鋳型分子が、上記対象化合物の上記イオン性官能基のいずれかに対応した複数のイオン性官能基を有する請求項7に記載の方法。
【請求項9】
上記水溶性架橋剤が、ポリエチレングリコールジアクリレートもしくはその誘導体、またはポリエチレングリコールジメタクリレートもしくはその誘導体である請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
上記鋳型分子が、上記対象化合物、上記対象化合物の断片、または擬似鋳型分子である請求項7〜9のいずれかに記載のモレキュラーインプリンテッドポリマー。
【請求項11】
請求項7〜10のいずれかに記載の方法により調製されたモレキュラーインプリンテッドポリマー。
【請求項12】
対象試料中の少なくとも1つのイオン性官能基を有する対象化合物を捕捉する方法であって、
請求項1〜6および11のいずれかに記載のモレキュラーインプリンテッドポリマーを供するステップと、
該対象試料を該モレキュラーインプリンテッドポリマーと接触させ、該モレキュラーインプリンテッドポリマーにより該対象化合物を捕捉するステップと、
該対象化合物を捕捉した該モレキュラーインプリンテッドポリマーを、該対象化合物を捕捉された該対象試料から分離するステップと
を含む方法。
【請求項13】
上記対象試料が、水性試料である請求項12に記載の方法。
【請求項14】
対象試料中の少なくとも1つのイオン性官能基を有する対象化合物を捕捉するための捕捉剤であって、請求項1〜6および11のいずれかに記載のモレキュラーインプリンテッドポリマーを含む捕捉剤。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2006−137805(P2006−137805A)
【公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−326656(P2004−326656)
【出願日】平成16年11月10日(2004.11.10)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年10月28日 社団法人高分子学会発行の「第13回 ポリマー材料フォーラム要旨集」に発表
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】