説明

対象物検出装置

【課題】人間等の対象物が背景の建造物等の物体と同程度の温度であっても、赤外線を利用して対象物を検出することが可能な対象物検出装置を提供する。
【解決手段】車両周辺監視システム10は、入射された赤外線の強度に応じて赤外線画像を出力する赤外線カメラ11,12と、赤外線カメラ11,12が出力した赤外線画像に基づいて対象物を検出する第1及び第2対象物検出手段102,103とを備える。第2対象物検出手段103は、物体から放射される赤外線の放射率又は赤外線量の波長特性によって対象物を特定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線を利用して対象物を検出する対象物検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載された赤外線カメラにより撮像された車両周辺画像に基づき、当該車両と接触する可能性がある歩行者等の対象物を検出するための技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−134508号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、赤外線カメラは入射される赤外線の強度が高いほど出力する信号レベルが高くなる特性を有しており、物体が放射する赤外線の強度は当該物対の温度に応じて高くなる。そのため、同程度の温度の人間等の対象物と建造物等の物体とが重なると、赤外線カメラを通じて得た赤外線画像において対象物が背景の物体に紛れ込んでしまい、対象物を検出することが困難となる場合がある。
【0005】
そこで、本発明は、人間等の対象物が背景の建造物等の物体と同程度の温度であっても、赤外線を利用して対象物を検出することが可能な対象物検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1発明の対象物検出装置は、入射された赤外線の強度に応じて赤外線画像を出力する赤外線カメラと、前記赤外線カメラが出力した赤外線画像に基づいて対象物を検出する対象物検出手段とを備える対象物検出装置であって、前記対象物検出手段は、物体から放射される赤外線の放射率又は赤外線量の波長特性によって対象物を特定することを特徴とする。
【0007】
同じ温度であっても物体の種別に応じて、放射される赤外線の放射率及び赤外線量の波長特性が異なる。よって、物体から放射される赤外線の放射率又は赤外線量の波長特性を特定すれば、当該対象物の種別を判定することができる。
【0008】
従って、第1発明の対象物検出装置によれば、建造物等の対象物(物体)と区別して、人間等の対象物を特定することが可能となる。
【0009】
第1発明の対象物検出装置において、前記対象物検出手段は、前記対象物以外の所定の種別の物体から放射される赤外線の所定の放射率帯域又は所定の波長帯域を除外することによって、前記対象物を検出することが好ましい。
【0010】
この場合、建造物等の所定の種別の物体から放射される赤外線の放射率又は波長の帯域を予め所定の帯域として除外することによって、人間等の対象物以外の所定の種別の物体を除外したうえで人間等の対象物を検出することが可能となるので、対象物を特定することが容易になる。
【0011】
第1発明の対象物検出装置は、例えば、第2発明の対象物検出装置として具体的される。
【0012】
第2発明の対象物検出装置は、入射された赤外線の強度に応じて赤外線画像を出力する赤外線カメラと、互いに異なる一部の波長帯の赤外線をそれぞれカットする第1及び第2のフィルタと、前記赤外線カメラが出力した赤外線画像を表示する画像表示装置とを備える対象物検出装置であって、前記画像表示装置は、前記第1のフィルタを介して赤外線が入射された前記赤外線カメラが出力する第1の赤外線画像と、前記第2のフィルタを介して赤外線が入射された前記赤外線カメラが出力する第2の赤外線画像とを区別可能なように重ね合わせて表示することを特徴とする。
【0013】
第2発明の対象物検出装置によれば、互いに異なる一部の波長帯の赤外線をそれぞれカットする第1及び第2のフィルタを介して赤外線が赤外線カメラに入射され、この赤外線カメラが出力する第1及び第2の赤外線画像が画像表示装置で区別可能なように重ね合わせて表示される。
【0014】
よって、第2発明の対象物検出装置によれば、各フィルタがカットする赤外線の波長帯を適宜設定することにより、画像表示装置で表示された画像から種別が異なる同じ温度の物体を観察者が区別して見分け、人間等の対象物を特定することが可能となる。また、前記赤外線画像を示す画像データに基づきコンピュータなどからなる画像処理装置などを用いて人間等の対象物を特定することが可能となる。
【0015】
なお、第1のフィルタによって入射される赤外線がカットされる赤外線カメラと、第2のフィルタによって入射される赤外線がカットされる赤外線カメラとは、同一であっても、異なっていてもよい。ただし、赤外線カメラが異なっている場合、赤外線カメラの撮像範囲は同一又は酷似している必要がある。
【0016】
第2の対象物検出装置において、前記画像表示装置は、前記第1の赤外線画像と前記第2の赤外線画像とを互いに異なる色スケールに変換した後、重ね合わせて表示することが好ましい。
【0017】
この場合、画像表示装置で表示された画像から種類が異なる同じ温度の物体を観察者が色で区別して見分けることが可能となり、見分けることが容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態に係る対象物検出装置を備えた車両周辺監視システムを搭載した車両の全体構成を示す図。
【図2】車両の構成説明図。
【図3】対象物検出処理を示すフローチャート。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、赤外線の所定の放射率帯域又は所定の波長帯域を除外する手段としてフィルタを用いた、本発明の実施形態に係る対象物検出装置を備えた車両周辺監視システム10を搭載した車両1について図面を参照して説明する。
【0020】
図1に示すように、車両1は、四輪自動車であり、車両周辺監視システム10と、一対の赤外線カメラ11,12とが搭載されている。
【0021】
また、図2に示すように、車両1には、ヨーレートセンサ13、速度センサ14及び舵角センサ15等の種々のセンサが搭載されている。さらに、車両1には、音声出力装置16及び画像表示装置17が搭載されている。画像表示装置17としては、車両1のフロントウィンドウに画像を表示するHUD(ヘッドアップディスプレイ)のほか、車両1の走行状況を示す表示計又はナビゲーション装置を構成するディスプレイ装置等が採用されてもよい。
【0022】
赤外線カメラ11,12は、車両1の前側に車幅方向中央部にほぼ対称に取り付けられている。なお、各赤外線カメラ11,12は、遠赤外域に感度を有する撮像装置であり、入射された赤外線の強度に応じて赤外線画像を出力する。各赤外線カメラ11,12は、入射される赤外線の強度が高いほど出力する信号レベルは高くなる特性を有している。
【0023】
赤外線カメラ11,12には、それぞれ赤外線透過特性の異なるフィルタ11a,12aが設けられている。すなわち、フィルタ11a,12aは、互いに異なる一部の波長帯の赤外線をそれぞれカットする。例えば、ピーク透過率と比べて透過率が半値となる波長帯域が、フィルタ11aは8.0〜8.5μmであり、フィルタ12aは8.7〜10.5μmである。
【0024】
ところで、同じ温度であっても物体の種類に応じて、物体から放射される赤外線の放射率及び赤外線量の波長特性は異なる。例えば、同じ温度であっても、人間(衣類や肌など)から放射される赤外線と、コンクリート壁から放射される赤外線とでは、放射率及び赤外線量の波長特性が異なる。
【0025】
そのため、撮像される物体の温度が同じであっても、物体から放射されフィルタ11a,12aを介して赤外線カメラ11,12の撮像素子に入射される赤外線の強度は異なる。よって、赤外線カメラ11,12の撮像素子の感度波長が例えば7.0〜14.0μmで同じであっても、赤外線カメラ11,12がそれぞれ出力する信号レベルに違いが生じる。
【0026】
例えば、32℃の人間を撮像した場合、フィルタ11aを介して赤外線カメラ11の撮像素子に入射される赤外線量は少なく、赤外線カメラ11から出力される信号レベルは低いものとなるが、フィルタ12aを介して赤外線カメラ12の撮像素子に入射される赤外線量は多く、赤外線カメラ12から出力される信号レベルは高いものとなる。
【0027】
一方、例えば、32℃のコンクリート壁を撮像した場合、フィルタ11aを介して赤外線カメラ11の撮像素子に入射される赤外線量は多く、赤外線カメラ11から出力される信号レベルは高いものとなるが、フィルタ12aを介して赤外線カメラ12の撮像素子に入射される赤外線量は少なく、赤外線カメラ12から出力される信号レベルは低いものとなる。
【0028】
ヨーレートセンサ13は、車両重心の上下方向軸回りの回転角であるヨー角及びヨー角の変化量(ヨーレート)等を検出して、その検出データを車両周辺監視システム10に出力する。
【0029】
速度センサ14は、図示しない車輪の回転速度等に基づいて所定の単位処理時間ごとにおける車両移動距離、すなわち車両1の速度を検出して、その検出データを車両周辺監視システム10に出力する。
【0030】
舵角センサ15は、図示しないステアリングシャフトに設けられたロータリエンコーダ等からなり、運転者が入力した操舵角度の方向と大きさを検出して、その検出データを車両周辺監視システム10に出力する。
【0031】
車両周辺監視システム10は、赤外線カメラ11,12などを用いて車両1の周辺を監視する。車両周辺監視システム10は、コンピュータ(CPU,ROM,RAM、画像メモリ並びにI/O回路及びA/D変換回路等の電子回路等により構成されている。)により構成されている。
【0032】
車両周辺監視システム10には、赤外線カメラ11,12、ヨーレートセンサ13、車速センサ14及び舵角センサ15等から出力されたアナログ信号がA/D変換回路を介してデジタル化されて入力される。
【0033】
これら入力データに基づき、ROMに格納されている「車両周辺監視プログラム」に従って、人間や他車両などの対象物の存在を認識する処理、車両1と認識した対象物との接触可能性の高低を判定する処理、及び、この判定結果に応じて音声を音声出力装置16に出力させたり、画像を画像表示装置17に出力させたりする処理がコンピュータにより実行される。
【0034】
なお、プログラムは、任意のタイミングでサーバからネットワークや衛星を介して車載コンピュータに配信又は放送され、そのRAM等の記憶装置に格納されてもよい。車両周辺監視システム10は、単一のECUにより構成されていてもよいが、分散制御システムを構成する複数のECUにより構成されていてもよい。
【0035】
車両周辺監視システム10は、図2に示すように、画像処理手段101、第1対象物検出手段102及び第2対象物検出手段103を備えている。
【0036】
画像処理手段101は、赤外線カメラ11を通じて得られた赤外線画像をA/D変換し、得られた第1のグレースケール画像E1を前記画像メモリに格納する。また、画像処理手段101は、赤外線カメラ12を通じて得られた赤外線画像をA/D変換し、得られた第2のグレースケール画像E2を前記画像メモリに格納する。
【0037】
第1対象物検出手段102は、一対の赤外線カメラ11,12の視差を利用して、画像メモリから読み出したグレーススケール画像E1,E2を用いて、2値化処理、エッジ認識処理等を行い、物体を抽出する。
【0038】
また、第1対象物検出手段102は、グレーススケール画像E1,E2から抽出された物体のマッチング処理を行う。このマッチング処理では、グレーススケール画像E1,E2からそれぞれ抽出された物体の同一性を判定し、同一性が認定できた物体を物体として認識する。そして、認識した物体から人間等の対象物を検出する。なお、物体を認識する方法及び対象物を検出する方法は、前記特許文献1に記載された方法等を用いればよく、ここでは詳細な説明を省略する。
【0039】
また、第1対象物検出手段102は、検出した対象物の存在を知らせる、又は強調する画像を画像表示装置17に表示させる。
【0040】
赤外線カメラ11,12にはそれぞれ赤外線透過特性の異なるフィルタ11a,12aが設けられているので、第1対象物検出手段102で同一性を認定できない物体がグレーススケール画像E1,E2から抽出される場合がある。
【0041】
そこで、この場合には、第2対象物検出手段103が、画像メモリから読み出したグレーススケール画像E1,E2を互いに区別可能なように重ね合わせた画像を画像表示装置17に表示させる。
【0042】
以下、対象物検出処理について図3を参照して説明する。
【0043】
まず、画像処理手段101が、赤外線カメラ11,12を通じてそれぞれ得られた赤外線画像をA/D変換し、得られたグレースケール画像E1,E2を画像メモリに格納する(STEP01)。
【0044】
次に、第1対象物検出処理手段102が、グレーススケール画像E1,E2から物体を抽出し、抽出された物体のマッチング処理を行う(STEP02)。
【0045】
グレーススケール画像E1,E2からそれぞれ抽出された全ての物体の同一性が認定できた場合(STEP03:YES)、第1対象物検出処理手段102は認識した物体から人間等の対象物を検出し、検出した対象物の存在を知らせる、又は強調する画像を画像表示装置17に表示させる(STEP04)。
【0046】
一方、第1対象物検出手段102で同一性を認定できない物体がグレーススケール画像E1,E2から抽出された場合(STEP03:NO)、第2対象物検出処理手段103は、画像メモリから読み出したグレーススケール画像E1,E2を互いに区別可能なように重ね合わせた画像を画像表示装置17に表示させる(STEP05)。
【0047】
上述したように、赤外線カメラ11,12にはそれぞれ赤外線透過特性の異なるフィルタ11a,12aが設けられているので、画像表示装置17で表示されたグレーススケール画像E1,E2を互いに区別可能なように重ね合わせた画像から種別が異なり同じ温度の対象物を観察者が見分けることが可能となる。また、グレーススケール画像E1,E2を示す画像データに基づきコンピュータなどからなる画像処理装置などを用いて対象物を検出することが可能となる。
【0048】
例えば、人間等の対象物が背景の建造物などの物体と同程度の温度であっても、画像表示装置17に表示されたグレーススケール画像E1,E2を互いに区別可能なように重ね合わせた画像から、観察者が対象物を検出することが可能となる。
【0049】
なお、グレーススケール画像E1,E2を異なる色、例えば赤と青のスケールに変換して重ね合わせた画像を画像表示装置17に表示させることが好ましい。また、赤外線カメラ11,12は互いに左右にずれて撮像しているので、このずれ(視差)を補正したグレーススケール画像E1,E2を重ね合わせて画像表示装置17に表示させることが好ましい。これらの場合、観察者が対象物を検出することが容易になる。
【0050】
さらに、第1対象物検出手段102がグレーススケール画像E1,E2の一方から人間と思われる対象物を抽出した場合には、この対象物を抽出したグレーススケール画像E1,E2のみを画像表示装置17に表示させてもよい。また、この場合、対象物の存在を知らせる、又は強調する画像を画像表示装置17に表示させてもよい。
【0051】
なお、実施形態では、赤外線カメラ11,12にはそれぞれ赤外線透過特性の異なるフィルタ11a,12aが設けられている。しかし、他の実施形態として、一方の赤外線カメラにのみフィルタを設け、他方の赤外線カメラにフィルタを設けないようにしてもよい。
【0052】
さらに、他の実施形態では、単一の赤外線カメラを用いて、赤外線透過特性の異なるフィルタの切り替えが可能なように、又は、フィルタ有無の切り替えが可能なように構成してもよい。
【0053】
さらに、実施形態では、車両周辺監視システム10が対象物検出装置を備えている。しかし、他の実施形態として、前方車を追尾して車両1を走行させる追尾走行システムや、車両1を白線に沿って走行させるレーンキープシステムなどが対象物検出装置を備えていてもよい。
【0054】
さらに、実施形態では、対象物検出装置は車両1に搭載されている。しかし、他の実施形態として、対象物検出装置は鉄道、ロボット等の移動体のほか、静止体に搭載されていてもよい。
【符号の説明】
【0055】
1…車両、 10…車両周辺監視システム(対象物検出装置)、 11,12…赤外線カメラ、 11a…フィルタ(第1のフィルタ)、 12a…フィルタ(第2のフィルタ)、 17…画像表示装置、 101…画像処理手段、 102…第1対象物検出手段、 103…第2対象物検出手段。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入射された赤外線の強度に応じて赤外線画像を出力する赤外線カメラと、
前記赤外線カメラが出力した赤外線画像に基づいて対象物を検出する対象物検出手段とを備える対象物検出装置であって、
前記対象物検出手段は、物体から放射される赤外線の放射率又は赤外線量の波長特性によって対象物を特定することを特徴とする対象物検出装置。
【請求項2】
前記対象物検出手段は、前記対象物以外の所定の種別の物体から放射される赤外線の所定の放射率帯域又は所定の波長帯域を除外することによって、前記対象物を特定することを特徴とする請求項1に記載の対象物検出装置。
【請求項3】
入射された赤外線の強度に応じて赤外線画像を出力する赤外線カメラと、
互いに異なる一部の波長帯の赤外線をそれぞれカットする第1及び第2のフィルタと、
前記赤外線カメラが出力した赤外線画像を表示する画像表示装置とを備える対象物検出装置であって、
前記画像表示装置は、前記第1のフィルタを介して赤外線が入射された前記赤外線カメラが出力する第1の赤外線画像と、前記第2のフィルタを介して赤外線が入射された前記赤外線カメラが出力する第2の赤外線画像とを区別可能なように重ね合わせて表示することを特徴とする対象物検出装置。
【請求項4】
前記画像表示装置は、前記第1の赤外線画像と前記第2の赤外線画像とを互いに異なる色スケールに変換した後、重ね合わせて表示することを特徴とする請求項3に記載の対象物検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−20415(P2013−20415A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−152750(P2011−152750)
【出願日】平成23年7月11日(2011.7.11)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】