説明

射出成形機型締装置の潤滑装置

【課題】本発明は、可動盤の外側にグリス溜り空間を有する筒体を設け、軸受孔からこのグリス溜り空間に溜るグリスを吸引部を介して強制的に吸引することにより、金型側へのグリスの漏れを防止することを目的とする。
【解決手段】本発明による射出成形機型締装置の潤滑装置は、可動盤(3)の各可動盤ガイド部(4)に当接してグリス溜り空間(24)を有する筒体(23)を設け、このグリス溜り空間(24)の両側の各シール(28,29)によりグリス漏れを防止し、吸引部(27)によってグリス溜り空間(24)内のグリスを吸引して排出する構成である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形機型締装置の潤滑装置に関し、特に、可動盤の金型取付面側にグリス溜り空間を有する筒体を設け、軸受孔からこのグリス溜り空間に溜るグリスを吸引部を介して強制的に吸引することにより、金型側へのグリスの漏れを防止するための新規な改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、用いられていたこの種の射出成形機型締装置の潤滑装置としては、例えば、後述の特許文献1から3の第1〜第4従来構成を挙げることができる。
すなわち、図3及び図4で示される特許文献1の第1従来構成の場合、固定金型1Aを有する固定盤1に固定された4本のタイバー2(図2には2本のみ図示)には、可動金型3Aを有する可動盤3が矢印Aの方向に往復移動自在に設けられている。
【0003】
前記可動盤3の各可動盤ガイド部4の各軸受孔5には、前記タイバー2がブッシュ5Aを介して貫通し、前記軸受孔5の空間5B内にはグリス(図示せず)が内設されている。
前記可動盤ガイド部4の両端には、図4で示されるように、シール7を介して一対の端板8が設けられており、前記各端板8の各シール7によって前記軸受孔5から漏れ出るグリスの漏洩防止がなされている。
【0004】
また、前述の特許文献1に開示された潤滑装置の他に、他従来構成として、さらに、図5で示される第2従来構成である特許文献1の図1で示される構成を挙げることができる。
すなわち、図5においては、前述の図3及び図4で示される第1従来構成と同一又は同等部分については、同一符号を付してその説明を省略し、異なる部分についてのみ説明する。
図5において、前記可動盤ガイド部4を有する可動盤3には、前記可動金型3A側から外面3Bへ向けて開口する溝9が形成され、前記軸受孔5から漏れ出たグリスは、前記溝9を介して前記外面3B側から外部へ排出され、可動金型3A側へはグリスが漏れないように構成されている。
【0005】
また、図6で示される特許文献3に示される第3従来構成において、可動盤3の下部に形成された一対の軸受孔5には、前記可動盤3の下部に傾斜状に形成された案内溝10が連通されており、各案内溝10の先端は、前記可動盤3を摺動自在に載置するための各レール11の各潤滑部位12に連通するように構成されている。
【0006】
従って、前記各軸受孔5から漏れ出るグリスは、前記案内溝10を介して前記各レール11上の潤滑部位12に供給され、潤滑用として用いられるように構成されている。
【0007】
さらに、特許文献2の図1及び図2に開示された第4従来構成においては、図7から図9で示されるように、可動盤3のタイバー2が貫通する軸受孔5が設けられた可動盤ガイド部4の内側に、図8及び図9で示されるリング状部品13が設けられており、前記可動盤ガイド部4のグリス供給口4Aから供給したグリスが過度に軸受孔5内に供給されることのないように、前記リング状部品13の周方向に所定間隔で形成された複数の調整穴14にグリスが溜りつつ軸受孔5へ少しづつ供給されるように構成されている。
【0008】
【特許文献1】特許第3549852号公報
【特許文献2】実用新案登録公報第2512299号
【特許文献3】特開平6−39887号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来の射出成形機型締装置の潤滑装置は、以上のように構成されていたため、次のような課題が存在していた。
すなわち、図3及び図4で示される第1従来構成においては、図3及び図4で示されるように、可動盤ガイド部4の軸受孔5内の空間5Bにグリスを封入することができるが、この空間5Bのスペースに限りがあるため、この空間5Bから漏れ出たグリスは、各金型1A,3A側に漏れ出し、成形品に対するグリスの付着が懸念されていた。
【0010】
また、前述の第2及び第3従来構成においては、図5及び図6で示されるように、漏れ出たグリスが溝9及び案内溝10を介して外部に排出されるが、溝9の場合は、その一部が可動金型3A側に開口しているため、流動体のグリスは排出される前に、一度、成形品雰囲気20内に漏れてくることになり、ミスト状になったグリスが成形品に付着する懸念があった。また、図5の第3従来構成においても、前述と同様の懸念が存在していた。
【0011】
また、前述の第4従来構成においては、図7から図9で示されるように、前記可動盤ガイド部4に設けた調整穴14を有するリング状部品13で供給するグリスの量を調整し、成形品雰囲気内へのグリス漏れを防いでいるが、長期間使用すると、グリスが成形品雰囲気20側へ漏洩する懸念が存在していた。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明による射出成形機型締装置の潤滑装置は、固定金型を有する固定盤に設けられた複数のタイバーに、可動金型を有する可動盤を可動自在に設け、前記可動盤に形成された可動盤ガイド部の軸受孔に前記タイバーをグリスを介して貫通させるようにした射出成形機型締装置の潤滑装置において、前記可動盤に接続され内側シールを介して前記軸受孔に連通するグリス溜り空間を有する筒体と、前記グリス溜り空間の外側に設けられた外側シールと、前記筒体に設けられ前記グリス溜り空間に連通する吸引部と、を備え、前記軸受孔から前記グリス溜り空間に溜る前記グリスを、前記吸引部を介して外部に吸引する構成であり、また、前記吸引部は、前記筒体に設けられたグリス排出用穴と、前記グリス排出用穴に接続されたパイプと、からなる構成であり、また、前記外側シールの外側には、布製シールが設けられている構成である。
【発明の効果】
【0013】
本発明による射出成形機型締装置の潤滑装置は、以上のように構成されているため、次のような効果を得ることができる。
すなわち、固定金型を有する固定盤に設けられた複数のタイバーに、可動金型を有する可動盤を可動自在に設け、前記可動盤に形成された可動盤ガイド部の軸受孔に前記タイバーをグリスを介して貫通させるようにした射出成形機型締装置の潤滑装置において、前記可動盤に接続され内側シールを介して前記軸受孔に連通するグリス溜り空間を有する筒体と、前記グリス溜り空間の外側に設けられた外側シールと、前記筒体に設けられ前記グリス溜り空間に連通する吸引部と、を備え、前記軸受孔から前記グリス溜り空間に溜る前記グリスを、前記吸引部を介して外部に吸引するため、タイバーと可動盤に対するグリスの供給が安定した状態で軸受孔から漏れ出るグリスは、筒体に接続された吸引部で吸引されるため、漏洩したグリスは、金型の方へ漏れることがなく、成形品へのグリス成分の付着を防止でき、例えば、光学特性を重視する光ディスク、薄型ディスプレイ、衛生面を重視する医療機器や食料品などの部品を安定して成形することができる。
また、前記吸引部は、前記筒体に設けられたグリス排出用穴と、前記グリス排出用穴に接続されたパイプと、からなるため、漏れ出たグリスを継続して排出することができる。
また、前記外側シールの外側には、布製シールが設けられているため、外側シールから万一外側へ漏れようとするグリスは、この布製シールによって防止され、金型方向へのグリス漏れを完全に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明は、可動盤の金型取付面側にグリス溜り空間を有する筒体を設け、軸受孔から漏れてこのグリス溜り空間に溜るグリスを吸引部を介して強制的に吸引することにより、金型側へのグリスの漏れを防止するようにした射出成形機型締装置の潤滑装置を提供することを目的とする。
【実施例】
【0015】
以下、図面と共に本発明による射出成形機型締装置の潤滑装置の好適な実施の形態について説明する。
尚、従来例と同一又は同等部分には、同一符号を用いて説明し、射出成形機の型締装置の基本構成については、本発明と同一であるため、図3の従来構成を援用するものとして説明する。
図1において、符号3で示されるものは、図2の固定盤1の各タイバー2に矢印Aの方向に沿って往復移動自在に設けられた可動盤であり、この可動盤3の四ヶ所(図1には1ヶ所のみ示している)には、前記可動盤3の一部である可動盤ガイド部4が形成され、この可動盤ガイド部4の軸受孔5には、一対のブッシュ5Aを介して前記タイバー2が貫通され、可動盤3が矢印Aの方向で摺動できるように構成されている。
【0016】
前記軸受孔5内には、図示しないグリスが充填されていることにより、このグリスを介して前記可動盤3はタイバー2をガイドとして矢印Aの方向に沿って往復移動することができるように構成されている。前記可動盤3の可動金型3Aが設けられている内面3aと対向する外面3b側の前記可動盤ガイド部4の外端面4aには、シール21を有する端板22が設けられ、前記シール21により軸受孔5内のグリスが外部に漏洩しないように構成されている。
【0017】
前記可動盤3の内面3aには、前記可動盤ガイド部4の内端面4bに当接かつ接続する状態で筒体23が設けられ、この筒体23にはタイバー2が貫通している。
前記筒体23の内面には、輪状溝形状よりなるグリス溜り空間24が形成され、このグリス溜り空間24にはグリス排出用穴25が形成されている。
【0018】
前記グリス排出用穴25には、パイプ26を介して吸引装置27Aが接続され、前記グリス排出用穴25及びパイプ26により吸引部27が構成されている。
前記筒体23の内壁側における前記グリス溜り空間24の軸方向に沿う両側には、内側シール28と外側シール29が設けられ、この外側シール29の外側には布で形成された布製シール30が設けられている。
【0019】
前記グリス溜り空間24は、前記内側シール28を介して前記軸受孔5に連通しており、前記軸受孔5から漏れ出たグリスは、前記内側シール28を経て前記グリス溜り空間24内に溜り、前記吸引部27によって外部に排出できるように構成されている。
【0020】
また、前記グリス溜り空間24内に溜るグリスは、前記外側シール29から漏れることもあるが、この外側シール29から漏れ出たグリスは、前記布製シール30によって吸収され、各金型1A,3Aが位置する成形品雰囲気20内へのグリス及びグリスミストの漏洩をほぼ完全に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明による射出成形機型締装置の潤滑装置の要部を示す断面図である。
【図2】図1の要部の拡大断面図である。
【図3】従来の射出成形機型締装置の潤滑装置第1従来構成としての全体構成を示す一部断面付き構成図である。
【図4】図3の要部を示す拡大断面図である。
【図5】図3の他の第2従来構成を示す一部断面付き構成図である。
【図6】第3従来構成を示す断面図である。
【図7】第4従来構成を示す一部断面付き構成図である。
【図8】図7の要部を示す拡大断面図である。
【図9】図8の側面図である。
【符号の説明】
【0022】
1 固定盤
1A 固定金型
2 タイバー
3 可動盤
3a 内面
3b 外面
4 可動盤ガイド部
4a 外端面
4b 内端面
5 軸受孔
5A ブッシュ
8 端板
20 成形品雰囲気
21 シール
23 筒体
24 グリス溜り空間
25 グリス排出用穴
26 パイプ
27 吸引部
27A 吸引装置
28 内側シール
29 外側シール
30 布製シール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定金型(1A)を有する固定盤(1)に設けられた複数のタイバー(2)に、可動金型(3A)を有する可動盤(3)を可動自在に設け、前記可動盤(3)に形成された可動盤ガイド部(4)の軸受孔(5)に前記タイバー(2)をグリスを介して貫通させるようにした射出成形機型締装置の潤滑装置において、
前記可動盤(3)に接続され内側シール(28)を介して前記軸受孔(5)に連通するグリス溜り空間(24)を有する筒体(23)と、前記グリス溜り空間(24)の外側に設けられた外側シール(29)と、前記筒体(23)に設けられ前記グリス溜り空間(24)に連通する吸引部(27)と、を備え、
前記軸受孔(5)から前記グリス溜り空間(24)に溜る前記グリスを、前記吸引部(27)を介して外部に吸引することを特徴とする射出成形機型締装置の潤滑装置。
【請求項2】
前記吸引部(27)は、前記筒体(23)に設けられたグリス排出用穴(25)と、前記グリス排出用穴(25)に接続されたパイプ(26)と、からなることを特徴とする請求項1記載の射出成形機型締装置の潤滑装置。
【請求項3】
前記外側シール(29)の外側には、布製シール(30)が設けられていることを特徴とする請求項1又は2記載の射出成形機型締装置の潤滑装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−52141(P2010−52141A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−216276(P2008−216276)
【出願日】平成20年8月26日(2008.8.26)
【出願人】(000002303)スタンレー電気株式会社 (2,684)
【出願人】(000004215)株式会社日本製鋼所 (840)
【Fターム(参考)】