説明

射出成形機

【課題】添加剤を含んだ溶融樹脂によって成形品を得る射出成形機において、添加剤が原因によるチェックリングの磨耗を防止し製品寿命を延ばすことを可能とした射出成形機を提供する。
【解決手段】フィラー等の添加剤を含んだ溶融樹脂を射出して成形得る射出成形機において、下記式によって求められるリーク速度V(mm/s)が2.0<V≦20の範囲となるよう、チェックリング5と加熱筒3との間隙b及びチェックリングの全長Lとを選択することで、バックフローを防止しつつチェックリング5の磨耗を防ぎ、射出成形機の製品寿命を長くすることができる。
【数1】


【数2】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金型によって形成するキャビティに樹脂を射出し成形品を得る射出成形機であって、フィラー等の添加剤を加えた樹脂を用いた場合においても、チェックリングや加熱筒等が磨耗することを防止する構成を備えた射出成形機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、射出成形機は、樹脂の射出の際に、樹脂の逆流を防止するための側面視円筒状のチェックリング(逆止リング)を備えている。チェックリングは、先端を円錐部、円錐部の下端に円柱部を備えるスクリューヘッドの該円柱部に適宜間隙が生じるよう、且つ樹脂がスクリューに逆流することを防止するようスクリュー若しくはスクリューに取り付けられたリングシートと当接するよう形成される。また、チェックリングはスクリューヘッドの円柱部を摺動可能に取り付けられる。これにより射出成形における樹脂の計量の際には円錐部側に移動することで、円柱部とチェックリングとの間隙から樹脂をスクリューヘッド側へ流すことができ、逆にスクリュー側へ移動し、スクリューとチェックリングとが当接することでスクリューヘッド側の樹脂がスクリュー側に逆流することを防止することができる。
【0003】
このチェックリングに関して、その動作の精度向上のため、特許文献1や特許文献2のような種々の技術が開示されている。特許文献1ではスクリューヘッドに形成した溝部と係合する係止爪をチェックリングに形成し、係止爪にテーパー部を形成したことで、スクリューを回転させることで溝部の端部をテーパー部が摺動し、確実にチェックリングを前後に移動させることができるとしており、特許文献2では、スクリューヘッドに形成した溝部及びチェックリングの係止爪を、スクリューの軸方向に対して所定の角度を設けて形成し、より確実にチェックリングを前後に移動させることができる構成を開示している。
【0004】
また、金型によって形成したキャビティに加熱した樹脂を射出し、冷却固化させて成形品を得る射出成形において、樹脂に粉末状の金属等の添加剤を混入させ、成形品の強度を向上させる方法が用いられている。この添加剤を用いた成形品の成形を行う際、上記のチェックリング及び円柱部の間隙に添加剤が詰まってしまい、成形ができなくなる虞がある。これを解決するために、例えば特許文献3には、シリンダの先端の内周の径と同寸の膨大部を備えるスクリューヘッドを形成し、樹脂計量時におけるスクリューヘッドの停止位置におけるシリンダの内周をスクリューヘッドの膨大部よりも大きい径に形成することで、計量時は膨大部とシリンダ内周の間隙から樹脂を流入させ、射出時はスクリューがシリンダ先端へ移動することでスクリューヘッドの膨大部がシリンダ先端に嵌合してシールし、スクリュー側へ樹脂が逆流することを防止する射出成形機の構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平04−119812号公報
【特許文献2】特開2008−254359号公報
【特許文献3】特開平10−086194号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2の構成では、シリンダ内を摺動するチェックリングは、その可動性を確保するため、外径をシリンダ内径よりも小さく形成するため、フィラーがチェックリングとシリンダの間に入り込み、チェックリングの磨耗が著しく進行することによるチェックリングの破損や、チェックリング内周を通過した溶融樹脂がチェックリングとシリンダの間隙を介して逆流する、所謂バックフローの発生による成形不良を引き起こしてしまっており、また、特許文献3の方法では、シリンダの内周と膨大部の外径を同寸とするため、シールのためにそれらが嵌合する際、その当接部分が磨耗した結果膨大部の径が小さくなり、間隙が大きくなった結果シールを行うことができずにバックフローが発生し、成形不良を引き起こすなど、製品寿命が著しく短くなってしまい、更には、チェックリングが磨耗の度合いによって射出成形機の動作設定を変更しなくてはならず、作業効率を損なうという問題点も存在していた。
【0007】
本発明は上述した問題点に鑑みてなされたものであり、フィラー等添加剤を加えた樹脂によって成形を行う際のチェックリングの磨耗を防止し、製品寿命を延ばすことを可能とした射出成形機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1記載の射出成形機は、金型によって形成されるキャビティに樹脂を射出する射出ノズルと、該射出ノズルと連結する加熱筒と、前記加熱筒内で回動することで樹脂を射出ノズルへ送出するスクリューと、スクリューの先端に取り付けられる先端に円錐状に形成された円錐部、スクリュー側に円柱状に形成される円柱部を有するスクリューヘッドと前記円柱部に挿通され、前記円柱部の軸方向に摺動可能に取り付けられるチェックリングとからなる射出ユニットを有する射出成形機であって、チェックリングと加熱筒の間隙をb(mm)、チェックリング長をL(mm)、とした場合、数式1及び数式2によって求められるリーク速度V(mm/s)を、2.0<V≦20の範囲となるよう、チェックリングと加熱筒の間隙b及びチェックリング長Lを選択したことを特徴とする。
【0009】
【数1】

【0010】
【数2】

【0011】
請求項1の構成により、バックフローのための流路が形成されてしまうが、溶融樹脂の粘性、チェックリングと加熱筒の間隙及びチェックリングの長さのバランスによってバックフローが起こらず、これにより成形不良を起こすことなく、チェックリングの磨耗を防止することができる。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の射出成形機によれば、金型によって形成されるキャビティに樹脂を射出する射出ノズルと、
該射出ノズルと連結する加熱筒と、
前記加熱筒内で回動することで樹脂を射出ノズルへ送出するスクリューと、
スクリューの先端に取り付けられる先端に円錐状に形成された円錐部、スクリュー側に円柱状に形成される円柱部を有するスクリューヘッドと
前記円柱部に挿通され、前記円柱部の軸方向に摺動可能に取り付けられるチェックリングとからなる射出ユニットを有する射出成形機であって、
チェックリングと加熱筒の間隙をb(mm)、チェックリング長をL(mm)、とした場合、上記数式1及び数式2によって求められるリーク速度V(mm/s)を、2.0<V≦20の範囲となるよう、チェックリングと加熱筒の間隙b及びチェックリング長Lを選択したので、チェックリングと加熱筒に間隙を設けたことが起因となるバックフローの発生を防止しつつ、チェックリングの磨耗を防止し、チェックリングの磨耗の度合いに応じた射出成形機の設定変更を不要とし、作業効率を向上させ、更にランニングコストの低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施例における、射出成形機を示す側面断面図である。
【図2】同上、射出成形機の加熱筒内部の詳細を示す断面図である。
【図3】同上、射出成形機の各部の寸法表である。
【図4】同上、チェックリング−加熱筒の間隙とリーク速度の関係を示すグラフである。
【図5】従来用いられている、射出成形機の加熱筒内部の詳細を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の具体的実施例について、添付図面を参照しながら説明する。なお、以下の実施態様は、本発明を具体化する際の一形態であって、本発明をその範囲内に限定するためのものではない。
【0015】
図1〜図4は本発明の一実施例を示すものであり、図1は本発明の実施例を示す射出成形機における加熱筒の内部を示す側面断面図であり、図2は図1に示す射出成形機の加熱筒内部の詳細を示す部分拡大断面図である。図3は、射出成形機の各部の寸法を変更した場合のリーク量及びリーク速度を一覧とした表である。図4は図3に示す数値におけるチェックリングと加熱筒の間隙の大きさとリーク速度の関係を示すグラフである。また、図5は従来用いられている射出成形機における加熱筒内部を示す部分拡大断面図である。
【0016】
図1から図2は、チェックリングと加熱筒の間に間隙を設けた射出成形機を示している。1は射出成形機の射出ユニットである。2は金型に当接し溶融樹脂を射出する射出ノズルである。3は溶融樹脂が固化することを防止するために加熱され、中空に形成され溶融樹脂の流路となる加熱筒である。4は溶融樹脂の射出を制するスクリューヘッドである。5は後述のシートと当接することで溶融樹脂がスクリュー7方向に流入しないよう、加熱筒3内部を摺動可能なチェックリングである。6は、スクリュー7の先端に取り付けられたシートである。7は、加熱筒3の内部を回転することで溶融樹脂を射出ノズル2方向へ搬送するスクリューである。図5に示す従来用いられる射出成形機の射出ユニット10において、チェックリング50の外径と加熱筒30内側の内径がほぼ同寸で当接しているのに対し、本実施例における射出成形機のチェックリング5はやや小径に形成される。これによってチェックリング5と加熱筒3内周に間隙が生じ、フィラーが混入した溶融樹脂を射出する際、そのフィラーがチェックリング5と加熱筒3の間隙に入り込んだとしても、十分な隙間が生じているのでチェックリング5が磨耗せず、製品寿命を長くすることが可能となる。
【0017】
しかしながら、チェックリング5と加熱筒3とに間隙が形成されると、射出した溶融樹脂が間隙から逆流する、所謂バックフローと呼ばれる現象が発生する。バックフローは成形不良の原因の1つであるため、このバックフローを起こさない構造が必要となる。そこで本出願の発明者は、図3に示すように隙間(b/2)、加熱筒内径チェックリング直径、半径隙間(チェックリングと加熱筒内周との距離)、チェックリングの長さといった種々の寸法を有する射出成形機の構成におけるリーク量及びリーク速度を、差圧及び使用する溶融樹脂の樹脂粘度をそれぞれ一定として測定し、バックフローの発生の有無を調査した。
【0018】
図3によれば、リーク速度がおよそ20mm/sを超えると成形不良が発生し、リーク速度が20mm/s以下であると良品連続成形可能である。具体的には、ケース4のリーク速度が30.83mm/sの場合、ケース5のリーク速度が22.02mm/sの場合、ケース7のリーク速度が89.90mm/sの場合、ケース12のリーク速度が22.47mm/s場合を除いて、チェックリングと加熱筒の間に間隙が生じていても成形不良が起きず連続成形ができる。
【0019】
図4は、図3のデータにおいて、チェックリング5と加熱筒3の間隙の大きさが変わることによる、スクリュー7の径とリーク速度の関係をグラフに示したものである。プロットされた各点において、リーク速度が20mm/s以下であるものは良品連続成形が可能で、20mm/sを超えるケースはバックフローが成形不良が発生し連続成形ができない。このグラフから、間隙が小さいチェックリングを用いた場合は当然のことながら良品連続成形が可能が明らかであるが、図中の1mm隙間におけるグラフを参照すると間隙が大きい場合においても、リーク速度を20mm/s以下に抑えることができる構成であれば良品連続成形が可能なことが分かる。
【0020】
以上のことからリーク速度が20mm/s以下であれば良品連続成形が可能なことが分かった。この条件を実際の射出成形機に適用する場合、既存の射出成形機において、加熱筒3やスクリュー7といったものの寸法を変更する場合、大きなコストが発生してしまう。そこで、比較的安価で容易に交換可能なチェックリング5の寸法を変更することによって上記リーク速度を20mm/s以下に抑える構成が実現可能なことに着目した。
【0021】
リーク速度は下記数式1にて算出することができるが、数式1におけるリーク量Qは数式2にて求めることができる。数式2において、スクリュー径Dは寸法の変更を行うことは困難であり、差圧P及び樹脂粘度μは成形品の品質を保持するために変更することはできない。即ちチェックリング5の径によって形成される間隙bの大きさとチェックリング5の長さLによって調整することで、不良品の発生を抑制しつつチェックリング5の磨耗を防止し、チェックリングの磨耗の度合いに応じた射出成形機の動作設定の変更回数を低減させることができると共に、製品寿命を延ばすことができ、ランニングコストを抑えることができる。
【0022】
以上、本発明の一実施例を詳述したが、本発明は前記実施例に限定されるものでなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能である。
【符号の説明】
【0023】
1 射出成形機
2 射出ノズル
3 加熱筒
4 スクリューヘッド
5 チェックリング
6 シート
7 スクリュー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金型によって形成されるキャビティに樹脂を射出する射出ノズルと、
該射出ノズルと連結する加熱筒と、
前記加熱筒内で回動することで樹脂を射出ノズルへ送出するスクリューと、
スクリューの先端に取り付けられる先端に円錐状に形成された円錐部、スクリュー側に円柱状に形成される円柱部を有するスクリューヘッドと
前記円柱部に挿通され、前記円柱部の軸方向に摺動可能に取り付けられるチェックリングと、からなる射出ユニットを有する射出成形機であって、
チェックリングと加熱筒の間隙をb(mm)、チェックリング長をL(mm)、とした場合、数式1及び数式2によって求められるリーク速度V(mm/s)を、2.0<V≦20の範囲となるよう、チェックリングと加熱筒の間隙b及びチェックリング長Lを選択したことを特徴とする射出成形機。
【数1】

【数2】









【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−140137(P2011−140137A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−915(P2010−915)
【出願日】平成22年1月6日(2010.1.6)
【出願人】(000222587)東洋機械金属株式会社 (299)
【Fターム(参考)】