説明

射出成形用組成物の製造方法および射出成形用組成物

【課題】無機粉末やバインダーの偏在が少ない射出成形用組成物を得ることができ、その結果、変形や欠損等が少ない高品質な焼結体を製造可能な射出成形用組成物、およびかかる射出成形用組成物を製造する方法を提供すること。
【解決手段】無機粉末と第1の樹脂とそれよりも含有率が少ない第2の樹脂とを含有するバインダーとを含む射出成形用組成物を製造する方法であって、ポリアセタール系樹脂を主成分とする第1の樹脂を凍結粉砕する第1の粉砕工程と、グリシジル基含有重合体を主成分とする第2の樹脂を凍結粉砕する第2の粉砕工程と、各粉砕工程で得られた粉末と無機粉末とを混合し、混合粉末を得る混合工程と、混合粉末を混練し、混練物1を得る混練工程と、を有する。混練物1は、無機粉末の粒子2を覆うよう設けられ、主としてグリシジル基含有重合体からなる内層21と、その外側に位置し、主としてポリアセタール系樹脂からなる外層22と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形用組成物の製造方法および射出成形用組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属粉末を含む成形体を焼結して金属製品を製造する粉末冶金法は、ニアネットシェイプの焼結体が得られることから、近年、多くの産業分野で普及している。また、金属粉末に代えてセラミックス粉末を用いることも行われている。
成形体の製造方法(成形方法)には多くの方法があるが、無機粉末と有機バインダーとを混合、混練し、この混練物(コンパウンド)を用いて射出成形する粉末射出成形法が知られている。粉末射出成形法により製造された成形体は、その後、脱脂処理により有機バインダーが除去された後、焼成されることにより、目的とする形状の金属製品およびセラミックス製品となる。
このような粉末射出成形法においては、まず、金属粉末と有機バインダーとを混練して混練物を得る(例えば、特許文献1参照)。その後、得られた混練物を射出成形し、得られた成形体を脱脂、焼成することにより焼結体を得る。
【0003】
ところが、金属粉末の粒径と比較して有機バインダー粉末の粒径が大きい場合、これらの粉末を均一に混ぜ合わせるまでにかなりの時間を要し、自己発熱に伴って混練物の温度が上昇し、その熱で有機バインダーの分解を招く。そして、有機バインダーが本来の機能を損なってしまう。
また、有機バインダーとして用いられる樹脂材料は、その性状が金属粉末と大きく異なることから、分離し易く、樹脂材料や金属粉末の偏在が生じ易い。このため、得られた射出成形用組成物を成形して成形体を得たとしても、寸法精度が低い等、保形性に問題が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−131103号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、無機粉末やバインダーの偏在が少ない射出成形用組成物を得ることができ、その結果、変形や欠損等が少ない高品質な焼結体を製造可能な射出成形用組成物、およびかかる射出成形用組成物を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的は、下記の本発明により達成される。
本発明の射出成形用組成物の製造方法は、金属材料およびセラミックス材料の少なくとも一方で構成された無機粉末と、ポリアセタール系樹脂およびグリシジル基含有重合体を含有するバインダーと、を含む射出成形用組成物を製造する方法であって、
前記ポリアセタール系樹脂を主成分とする第1の樹脂を凍結粉砕する第1の粉砕工程と、
前記グリシジル基含有重合体を主成分とする第2の樹脂を凍結粉砕する第2の粉砕工程と、
前記第1の粉砕工程で得られた粉末と、前記第2の粉砕工程で得られた粉末と、前記無機粉末とを混合し、混合粉末を得る混合工程と、
前記混合粉末を混練する混練工程と、を有することを特徴とする。
これにより、無機粉末やバインダーの偏在が少ない射出成形用組成物を得ることができ、その結果、変形や欠損等が少ない高品質な焼結体を製造可能な射出成形用組成物を効率よく製造することができる。
【0007】
本発明の射出成形用組成物の製造方法では、前記グリシジル基含有重合体の融点は前記ポリアセタール系樹脂よりも低く、かつ前記射出成形用組成物において前記グリシジル基含有重合体の質量含有率が前記ポリアセタール系樹脂の質量含有率より少ないことが好ましい。
これにより、混練時に第1の樹脂よりも先に第2の樹脂が溶融し、流動するため、無機粉末の粒子を覆うように第2の樹脂が存在し、さらにその外側を覆うように第1の樹脂が存在することとなるため、第1の樹脂の著しい分解が抑えられ、保形性の高い成形体を形成可能な射出成形用組成物が得られる。
【0008】
本発明の射出成形用組成物の製造方法では、前記混練工程において、前記第1の樹脂の融点と前記第2の樹脂の融点との間の温度で前記混合粉末を混練することが好ましい。
これにより、混練時の昇温に伴って第2の樹脂のみが溶融し、無機粉末の粒子と第1の樹脂との間に浸透させ易くなる。その結果、保形性と成形性とを高度に両立することができる。
【0009】
本発明の射出成形用組成物の製造方法では、前記第2の樹脂は、不飽和グリシジル基含有重合体であることが好ましい。
これにより、無機粉末と第2の樹脂とが高い密着性を示すことから、第1の樹脂の著しい分解をより確実に抑えることができる。
本発明の射出成形用組成物の製造方法では、前記不飽和グリシジル基含有重合体の融点は、65℃以上105℃以下であることが好ましい。
これにより、混練時の昇温に伴って第2の樹脂のみを確実に溶融し、無機粉末の粒子と第1の樹脂との間に浸透させ易くなる。
【0010】
本発明の射出成形用組成物の製造方法では、前記不飽和グリシジル基含有重合体は、不飽和グリシジル基含有モノマーと、エチレン系不飽和エステル化合物モノマーと、を含む共重合体であることが好ましい。
これにより、第2の樹脂は、無機粉末の粒子と第1の樹脂との間を隔てる隔壁として確実に機能するものとなる。その結果、成形体の保形性の低下を抑制することができる。
【0011】
本発明の射出成形用組成物の製造方法では、前記不飽和グリシジル基含有重合体は、不飽和グリシジル基含有モノマーと、非極性α−オレフィン系モノマーと、を含む共重合体であることが好ましい。
これにより、第2の樹脂は、無機粉末の粒子と第1の樹脂との間で安定的に存在し得るものとなる。その結果、成形体の保形性の低下を特に抑制することができる。
【0012】
本発明の射出成形用組成物の製造方法では、前記バインダー粉末の平均粒径は、前記無機粉末の平均粒径の2倍以上50倍以下であることが好ましい。
これにより、無機粉末とバインダー粉末の各粒子の質量が近くなり、より均一な混合が可能になる。
本発明の射出成形用組成物は、本発明の射出成形用組成物の製造方法により製造されたものであり、前記無機粉末の粒子を覆うように設けられ、主として前記第2の樹脂で構成された内層と、前記内層の外側に位置し、主として前記第1の樹脂で構成された外層と、を有することを特徴とする。
これにより、変形や欠損等が少ない高品質な焼結体を製造可能な射出成形用組成物が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の射出成形用組成物の混練前の構造を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明の射出成形用組成物の構造(混練後)を模式的に示す断面図である。
【図3】実施例4および比較例2で得られた射出成形用組成物(混練物)の観察像である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の射出成形用組成物の製造方法および射出成形用組成物について、添付図面に示す好適実施形態に基づいて詳細に説明する。
<射出成形用組成物の製造方法>
本発明の射出成形用組成物の製造方法は、射出成形に供される組成物を製造する方法であり、製造される組成物は無機粉末とバインダーとを含むものである。
このうち、無機粉末は、金属材料およびセラミックス材料の少なくとも一方で構成されたものである。
【0015】
一方、バインダーは、ポリアセタール系樹脂を主成分とする第1の樹脂と、それよりも含有率が小さい第2の樹脂として、グリシジル基含有重合体を主成分とするものと、を含有するものである。
本発明により製造された射出成形用組成物は、均一で保形性の高いものとなるため、変形や欠損等が少ない高品質な焼結体の製造を可能にする。
本実施形態に係る射出成形用組成物の製造方法は、第1の樹脂を凍結粉砕して第1の粉末を得る第1の粉砕工程と、第2の樹脂を凍結粉砕して第2の粉末を得る第2の粉砕工程と、第1の粉末と第2の粉末と無機粉末とを混合し、混合粉末を得る混合工程と、混合粉末を混練する混練工程と、を有する。以下、各工程について順次説明する。
【0016】
[1]粉砕工程
まず、射出成形用組成物の製造に用いる無機粉末とバインダーとを用意する。
無機粉末としては、前述したように、金属材料およびセラミックス材料の少なくとも一方で構成された粉末が用いられる。具体的には、金属粉末、セラミックス粉末の他、金属材料とセラミックス材料との複合材料の粉末、金属粉末とセラミックス粉末の混合粉末等が挙げられる。
【0017】
一方、本発明に用いられるバインダーは、第1の樹脂とそれよりも含有率が小さい第2の樹脂とを含有するものである。
これらの無機粉末およびバインダーについては、後に詳述する。
次いで、第1の樹脂および第2の樹脂をそれぞれ凍結粉砕する。これにより、第1の粉末および第2の粉末が得られる(第1の粉砕工程および第2の粉砕工程)。ここでは、第1の樹脂の凍結粉砕について代表に説明する。
【0018】
凍結粉砕は、試料を凍結させることにより生じる脆性を利用して、細かく均一に粉砕する方法である。凍結粉砕には、凍結粉砕機が用いられる。凍結粉砕機は、試料を入れる粉砕容器と、粉砕容器内を往復運動する鋼球と、を備えており、粉砕容器を液体窒素等の冷却剤で冷却しつつ、鋼球を往復運動させることで、粉砕容器内の試料を粉砕する。冷却に伴い、試料には脆性が生じることから、柔軟性を有する試料も粉砕することができる。なお、上述した凍結粉砕機は一例であり、それ以外の構造の凍結粉砕機も用いることができる。
【0019】
第1の樹脂を凍結粉砕することにより、第1の樹脂を変性させることなく、細かく均一に粉砕することができる。なお、凍結粉砕以外の粉砕方法を用いた場合、粉砕に伴って第1の樹脂が発熱し、熱によって変性、溶融(軟化)、分解することが避けられなかったが、凍結粉砕によりこの変性、溶融、分解を防止することができる。その結果、第1の樹脂は本来の特性を維持したままその後の工程に供されることとなり、成形体における保形性の低下が防止される。そして最終的には、変形や欠損等が少ない高品質な焼結体を製造することができる。
【0020】
また、凍結粉砕すると、得られた粉末は微細で比表面積が大きく、かつ変性が抑えられるため活性度の高いものとなる。このような粉末は、無機粉末に対して親和性の高いものとなり、バインダー粉末と無機粉末とを混合する際には、偏在等の不具合の抑制に寄与するものとなる。したがって、凍結粉砕によればとりわけ均一な射出成形用組成物の製造を可能にする。
【0021】
凍結粉砕における冷却剤には、前述したような液体窒素の他、液体空気、液体酸素、ドライアイス等を用いてもよい。
同様にして第2の樹脂も凍結粉砕することができる。
このようにして得られた第1の粉末および第2の粉末の平均粒径は、それぞれ10μm以上500μm以下程度であるのが好ましく、15μm以上400μm以下程度であるのがより好ましい。凍結粉砕によってこの程度の粒径にまで粉砕することにより、第1の粉末と第2の粉末とを均一に混合することができる。また、凍結粉砕後の粒径を前記範囲内にすることで、これらの粉末と金属粉末とを後述する混合工程において混合する際には、混合における比重の差の影響を最小限に抑えることができるので、バインダー粉末と金属粉末とを混合する際にも均一に混合することができる。
【0022】
また、平均粒径は、レーザー回折法により、体積基準で累積量が50%になるときの粒径として求められる。
さらには、第1の樹脂および第2の樹脂以外のバインダー成分についても、凍結粉砕することが好ましいが、その他の粉砕方法で粉砕するようにしてもよい。
以上のようにしてバインダー粉末を得る。
【0023】
[2]混合工程
次に、無機粉末とバインダー粉末とを混合する。これにより、混合物を得る。
混合には、例えば、撹拌混合機、V型混合機、W型混合機、リボン混合機、ドラムミキサー、ボールミル等の各種混合機が用いられる。
凍結粉砕で得られた第1の粉末を含むバインダー粉末は、前述したように無機粉末に対して均一に混じり合う特徴を有していることから、偏在等を生じることなく、本工程において均一な混合物を得ることができる。
【0024】
また、混合は、乾式法でも湿式法でもよいが、必要に応じて冷却しつつ混合する。
混合時の試料温度は、バインダー粉末の融点以下であるのが好ましい。これにより、バインダー粉末が粒子の形状を維持することができ、これが転がり易いことを利用して均一に混合することができる。なお、融点がない場合は、軟化点以下であるのが好ましい。
無機粉末に対するバインダー粉末の体積比率は、0.2以上0.6以下であるのが好ましく、0.3以上0.5以下であるのがより好ましい。これにより、成形性および保形性の向上と焼結密度の向上とを両立することができる。
【0025】
また、バインダー粉末の平均粒径は、無機粉末の平均粒径の2倍以上50倍以下であるのが好ましく、3倍以上10倍以下であるのがより好ましい。無機粉末とバインダー粉末の平均粒径について前記関係を満たすことにより、無機粉末とバインダー粉末の各粒子の質量が近くなり、より均一な混合が可能になる。
また、第1の粉末の平均粒径は、無機粉末の平均粒径の3倍以上20倍以下であるのが好ましく、7倍以上15倍以下であるのがより好ましい。一方、第2の粉末の平均粒径は、無機粉末の平均粒径の3倍以上50倍以下であるのが好ましく、5倍以上30倍以下であるのがより好ましい。これにより、バインダー粉末と無機粉末とをより均一に混合することができる。
さらに、第2の粉末の平均粒径は、第1の粉末の平均粒径の2倍以上15倍以下であるのが好ましく、3倍以上10倍以下であるのがより好ましい。これにより、第1の粉末と第2の粉末とをより均一に混合することができる。
【0026】
[3]混練工程
次に、得られた混合物を混練する。これにより、混練物すなわち本発明の射出成形用組成物を得る。
混練には、例えば、加圧または双腕ニーダー式混練機、ロール式混練機、バンバリー型混練機、1軸または2軸押出機等の各種混練機が用いられる。
また、混練時には、必要に応じて有機溶剤等の添加物を混合物に添加するようにしてもよい。
【0027】
ここで、第1の樹脂としてはポリアセタール系樹脂を主成分とするもの、第2の樹脂としてはグリシジル基含有重合体を主成分とするものが用いられる。第1の樹脂において主成分以外の成分としては、グリシジル基含有重合体であってもよく、後述する潤滑剤やその他の成分等であってもよい。同様に、第2の樹脂において主成分以外の成分としては、ポリアセタール系樹脂であってもよく、後述する潤滑剤やその他の成分等であってもよい。
【0028】
ところで、グリシジル基含有重合体としては、その融点がポリアセタール系樹脂よりも低いものが好ましく用いられる。このようにグリシジル基含有重合体とポリアセタール系樹脂との間で融点の差があると、混練に伴って混合物の温度が上昇した際に、ポリアセタール系樹脂よりも先にグリシジル基含有重合体が溶融し、流動する。その結果、グリシジル基含有重合体の流動物は無機粉末の粒子を覆うように浸透する。また、ポリアセタール系樹脂が比較的剛性が高い樹脂であることから、ポリアセタール系樹脂と無機粉末との間に隙間ができ易く、グリシジル基含有重合体の浸透が促進される。その結果、本工程で得られる混練物では、無機粉末の粒子を覆うようにグリシジル基含有重合体が存在し、さらにその外側を覆うようにポリアセタール系樹脂が存在することとなる。
【0029】
図1は、本発明の射出成形用組成物の混練前の構造を模式的に示す断面図、図2は、本発明の射出成形用組成物の構造(混練後)を模式的に示す断面図である。
混練前の混合物では、図1に示すように、バインダー3中に複数の無機粉末の粒子2が分散している。バインダー3ではポリアセタール系樹脂、グリシジル基含有重合体等が混在している。
【0030】
このような混合物を混練する際には、外部から加熱したりあるいは混練に伴って自己発熱するため、混合物の温度が上昇する。その結果、得られた混練物1では、図2に示すように、粒子2を覆うようにグリシジル基含有重合体を主材料とする内層21が形成され、その外側にはポリアセタール系樹脂を主材料とする外層22が位置する。
ここで、第1の樹脂の主成分であるポリアセタール系樹脂は、比較的剛性が高いため、以前からバインダー成分として用いられていたものの、混練時に分解してしまい、脱脂時の保形性が低下するという問題があった。
【0031】
この問題に対し、本発明者は、ポリアセタール系樹脂をバインダー成分として用いたときに保形性が低下する原因について鋭意検討を重ねた。そして、無機粉末中の金属元素がポリアセタール系樹脂の分解を促す触媒的働きをしていることを突き止めた。
そこで、本発明では、ポリアセタール系樹脂とともに、それより融点の低いグリシジル基含有重合体を併用することによって、ポリアセタール系樹脂の分解を抑制し、保形性の低下を抑制することとした。すなわち、前述したように内層21が形成されると、内層21が隔壁となって、粒子2中の金属元素と外層22との接触が防止されることとなり、前述した触媒的働きが抑えられる。その結果、バインダー3の突発的な分解が抑制され、保形性の低下を避けることができる。すなわち、内層21が存在することにより、成形体を脱脂処理に供したとき、外層22は突発的ではなく徐々に熱分解されるため、成形体の形状を維持し易くなる。
【0032】
このような効果を得るためには、バインダー中においてポリアセタール系樹脂およびグリシジル基含有重合体が前述したような挙動を示す必要があり、この挙動が起きるためにはポリアセタール系樹脂とグリシジル基含有重合体とが均一に混在することが重要である。本発明では、前述したように、ポリアセタール系樹脂を含む第1の樹脂とグリシジル基含有重合体を含む第2の樹脂についてあらかじめ凍結粉砕することにより、微細でかつ活性度の高い第1の粉末および第2の粉末を製造することができ、ポリアセタール系樹脂とグリシジル基含有重合体とを極めて均一に混合することができる。その結果、上述した本発明の効果を奏することができる。
【0033】
また、本工程における混練温度は、ポリアセタール系樹脂およびグリシジル基含有重合体の融点に応じて設定されるのが好ましい。具体的には、グリシジル基含有重合体は、ポリアセタール系樹脂よりも融点が低いので、初期の混練温度は、グリシジル基含有重合体の融点とポリアセタール系樹脂の融点との間の温度に設定されるのが好ましい。このような温度で混練することにより、混練時の昇温に伴ってグリシジル基含有重合体のみが溶融し、粒子2とポリアセタール系樹脂との間に浸透し易くなる。その結果、内層21および外層22が形成されることとなり、保形性と成形性とを高度に両立することができる。
【0034】
なお、ポリアセタール系樹脂の融点をT[℃]とし、グリシジル基含有重合体の融点をT[℃]としたとき、混練温度はT+5℃以上T−5℃以下であるのがより好ましい。このような温度で混練することにより、上述した効果がより顕著なものとなる。また、このような混練温度は、5分以上180分以下程度維持されるのが好ましい。
一方、上記の条件で混練が終わった後、最終的にはポリアセタール系樹脂の融点Tよりも高温側で混練を行うようにしてもよい。これにより、ポリアセタール系樹脂も溶融し、混練物全体の流動性がより向上する。この場合、最終的な混練温度は、T℃以上T+70℃以下であるのが好ましい。
なお、全体の混練時間は、15分以上210分以下程度であるのが好ましい。
【0035】
得られた混練物の粘度は、500P以上7000P以下(50Pa・s以上700Pa・s以下)であるのが好ましく、1000P以上6000P以下(100Pa・s以上600Pa・s以下)であるのがより好ましい。これにより、成形時の成形性を特に高めることができる。なお、粘度の測定は、混練物を190℃の温度に保ち、キャピログラフにより測定される。
【0036】
また、バインダー3中に潤滑剤が含まれる場合には、潤滑剤が先に溶融することにより、グリシジル基含有重合体が前述したように浸透する際の下地を形成する。すなわち、潤滑剤は、内層21の内側に最内層を形成する。この最内層は、粒子2の表面の流動抵抗が抑え、グリシジル基含有重合体の浸透を促進すると考えられる。このため、内層21がより短時間で確実に形成されることとなる。
【0037】
なお、潤滑剤は、ポリアセタール系樹脂やグリシジル基含有重合体よりも少ない量で添加されているのが好ましい。これにより、ポリアセタール系樹脂やグリシジル基含有重合体の特性を阻害することなく、ポリアセタール系樹脂やグリシジル基含有重合体の流動性を高めることができる。その結果、主としてグリシジル基含有重合体で構成される内層21がより速やかにかつ確実に形成されるとともに、主としてポリアセタール系樹脂で構成される外層22に対してより優れた流動性が付与される。その結果、保形性と成形性とをより高度に両立することができる。
【0038】
内層21は、粒子2の表面を覆っていればその厚さは特に限定されないが、例えば平均厚さが1nm以上2000nm以下であるのが好ましく、2nm以上1000nm以下であるのがより好ましい。これにより、保形性と成形性(形状転写性)とを高度に両立することができる。なお、内層21の平均厚さが前記下限値を下回る場合、内層21が途切れ易くなるため、粒子2と外層22とが接触するおそれがあり、一方、前記上限値を上回る場合、相対的に外層22の比率が低下するため、成形性が低下するおそれがある。
【0039】
また、外層22は、内層21の外側に位置していれば層状でなくてもよく、各粒子2に係る外層22同士が連結された状態、すなわち図2に示すように混練物1において粒子2を分散する基質(マトリックス)状であってもよい。
また、内層21は、主としてグリシジル基含有重合体で構成されているのが好ましいが、ポリアセタール系樹脂や潤滑剤、その他の成分を含んでいてもよい。同様に、外層22は、主としてポリアセタール系樹脂で構成されているのが好ましいが、グリシジル基含有重合体や潤滑剤、その他の成分を含んでいてもよく、最内層は、主として潤滑剤で構成されていればよいが、ポリアセタール系樹脂やグリシジル基含有重合体、その他の成分を含んでいてもよい。なお、内層21におけるグリシジル基含有重合体の含有率は、体積比で50%超であればよく、同様に、外層22におけるポリアセタール系樹脂の含有率および最内層における潤滑剤の含有率は、それぞれ体積比で50%超であればよい。
【0040】
また、内層21と外層22との境界や内層21と最内層との境界では、それぞれ界面を介して構成材料が連続的に変化してもよいが、好ましくは不連続的に構成材料が変化しているものとされる。このような構造であれば、内層21と外層22との界面や内層21と最内層との境界がそれぞれすべり面となり、射出成形用組成物の流動性が特に向上する。その結果、射出成形時の成形性が特に高くなり、最終的に寸法精度の高い焼結体が得られる。
【0041】
(無機粉末)
ここで、本発明に用いられる無機粉末について詳述する。
無機粉末としては、前述したように、金属材料およびセラミックス材料の少なくとも一方で構成された粉末が用いられる。具体的には、金属粉末、セラミックス粉末の他、金属材料とセラミックス材料との複合材料の粉末、金属粉末とセラミックス粉末の混合粉末等が挙げられる。
【0042】
このうち、金属材料としては、例えば、Mg、Al、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Mo、Pd、Ag、In、Sn、Sn、Ta、W、またはこれらの金属元素同士合金や他の金属元素との合金等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上の混合物が用いられる。
これらの中でも、特に、ステンレス鋼、ダイス鋼、高速度工具鋼、低炭素鋼、Fe−Ni系合金、Fe−Si系合金、Fe−Co系合金、Fe−Ni−Co系合金のような各種Fe系合金、Al系合金、Ti系合金等が好ましく用いられる。このような金属材料は、機械的特性に優れているため、機械的特性に優れ、広範な用途に適用可能な焼結体が得られる。
【0043】
なお、ステンレス鋼としては、例えば、SUS304、SUS316、SUS317、SUS329、SUS410、SUS430、SUS440、SUS630等が挙げられる。
また、Al系合金としては、例えば、アルミニウム単体、ジュラルミン等が挙げられる。
【0044】
また、Ti系合金としては、例えば、チタン単体、または、チタンと、アルミニウム、バナジウム、ニオブ、ジルコニウム、タンタル、モリブデン等の金属元素との合金であり、具体的には、Ti−6Al−4V、Ti−6Al−7Nb等が挙げられる。なお、Ti系合金には、これらの金属元素の他に、ホウ素、炭素、窒素、酸素、ケイ素等の非金属元素を含んでいてもよい。
【0045】
なお、このような金属粉末は、いかなる方法で製造されたものでもよいが、例えば、アトマイズ法(水アトマイズ法、ガスアトマイズ法、高速回転水流アトマイズ法等)、還元法、カルボニル法、粉砕法等の方法により製造されたものを用いることができる。
このうち、金属粉末には、アトマイズ法により製造されたものを用いるのが好ましい。アトマイズ法によれば、前記したような極めて微小な平均粒径の金属粉末を効率よく製造することができる。また、粒径のバラツキが少なく、粒径の揃った金属粉末を得ることができる。したがって、このような金属粉末を用いることにより、焼結体における気孔の生成を確実に防止することができ、密度の向上を図ることができる。
また、アトマイズ法で製造された金属粉末は、比較的真球に近い球形状をなしているため、バインダーに対する分散性や流動性に優れたものとなる。このため、造粒粉末を成形型に充填して成形する際に、その充填性を高めることができ、最終的により緻密な焼結体を得ることができる。
【0046】
一方、セラミックス材料としては、例えば、アルミナ、マグネシア、ベリリア、ジルコニア、イットリア、フォルステライト、ステアタイト、ワラステナイト、ムライト、コージライト、フェライト、サイアロン、酸化セリウムのような酸化物系セラミックス材料、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化チタン、炭化ケイ素、炭化ホウ素、炭化チタン、炭化タングステンのような非酸化物系セラミックス材料等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上の混合物が用いられる。
【0047】
本発明に用いられる無機粉末の平均粒径は、好ましくは1μm以上30μm以下、より好ましくは3μm以上20μm以下とされ、さらに好ましくは3μm以上10μm以下とされる。このような粒径の金属粉末は、著しい凝集や、成形時の圧縮性の低下を避けつつ、最終的に十分に緻密な焼結体を製造可能なものとなる。
なお、平均粒径が前記下限値未満である場合、無機粉末が凝集し易くなり、成形時の圧縮性が著しく低下するおそれがある。一方、平均粒径が前記上限値を超える場合、粉末の粒子間の隙間が大きくなり過ぎて、最終的に得られる焼結体の緻密化が不十分になるおそれがある。
【0048】
また、平均粒径は、レーザー回折法により、体積基準で累積量が50%になるときの粒径として求められる。
また、本発明に用いられる無機粉末がFe系合金で構成されている場合、そのタップ密度は3.5g/cm以上であるのが好ましく、3.8g/cm以上であるのがより好ましい。このようにタップ密度が大きい無機粉末であれば、成形時に、粒子間の充填性が特に高くなる。このため、最終的に、特に緻密な焼結体を得ることができる。なお、無機粉末のタップ密度は、例えばJIS Z 2512に規定のタップ密度測定方法に準じて測定することができる。
【0049】
また、本発明に用いられる無機粉末の比表面積は、特に限定されないが、0.15m/g以上0.8m/g以下であるのが好ましく、0.2m/g以上0.7m/g以下であるのがより好ましく、0.3m/g以上0.6m/g以下であるのがさらに好ましい。このように比表面積の広い無機粉末であれば、表面の活性(表面エネルギー)が高くなるため、より少ないエネルギーの付与でも容易に焼結することができる。したがって、成形体を焼結する際に、より短時間で焼結することができ、保形性を高め易い。一方、比表面積が前記上限値を超えると、無機粉末とバインダーとの接触面積が必要以上に広くなり、射出成形用組成物の安定性や流動性が低下するおそれがある。なお、無機粉末の比表面積は、例えばJIS Z 8830に規定の気体吸着による粉体(固体)の比表面積測定方法に準じて測定することができる。
(バインダー)
次に、本発明に用いられるバインダーについて詳述する。
本発明に用いられるバインダーは、前述したようにポリアセタール系樹脂とそれよりも含有率が小さいグリシジル基含有重合体とを含有するものである。
【0050】
≪ポリアセタール系樹脂≫
ポリアセタール系樹脂は、オキシメチレン構造を単位構造とするポリマーであり、ホルムアルデヒドのみをモノマーとするホモポリマー、それ以外のモノマーを含むコポリマー等であってもよい。ホルムアルデヒド以外のモノマー(コモノマー)としては、例えば、オキシエチレン、オキシプロピレンのようなオキシアルキレンの他、エピクロルヒドリン、1,3−ジオキソラン、ジエチレングリコールホルマール、1,4−ブタンジオールホルマール、1,3−ジオキサン等が挙げられ、特に分子中に炭素数2以上のオキシアルキレンユニットを有するものが好ましく用いられる。コモノマーの共重合量は、特に限定されないが、主モノマー100モル部に対して1モル部以上10モル部以下であるのが好ましく、1モル部以上6モル部以下であるのがより好ましい。また、コポリマーにおけるモノマーの配列は、特に限定されず、ランダム共重合、交互共重合、ブロック共重合、グラフト共重合のいずれであってもよい。
【0051】
このようなポリアセタール系樹脂としては、例えば、デュポン社製デルリン、ポリプラスチックス社製ジュラコン、旭化成工業社製テナック、三菱エンジニアリングプラスチックス社製ユピタール、クオドラントポリペンコジャパン社製ポリペンアセタール、東レ製アミラス等を用いることができる。
また、ポリアセタール系樹脂は、その引張強さが30MPa以上90MPa以下程度であるのが好ましく、40MPa以上80MPa以下程度であるのがより好ましい。このような引張強さをもつポリアセタール系樹脂は、成形後において成形体の保形性を特に高め得るものとなる。
【0052】
≪グリシジル基含有重合体≫
グリシジル基含有重合体としては、ポリアセタール系樹脂よりも少ない量で添加される樹脂であって、エポキシ基のようなグリシジル基を含む重合体が用いられ、不飽和グリシジル基を含む重合体が好ましく用いられる。不飽和グリシジル基含有重合体は、不飽和グリシジル基含有モノマーを単位構造として含むポリマーであり、この不飽和グリシジル基含有モノマーとしては、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル、α−エチルグリシジルエーテル、クロトニルグリシジルエーテル、グリシジルクロトネート、イタコン酸モノアルキルエステルモノグリシジルエステル、フマル酸モノアルキルエステルモノグリシジルエステル、マレイン酸モノアルキルエステルモノグリシジルエステル、脂環式エポキシ基含有(メタ)アクリレート等が挙げられ、グリシジル基含有重合体には、これらの単位構造のうちの1種または2種以上を含むものが用いられる。また特にグリシジル(メタ)アクリレートが好ましく用いられる。グリシジル基含有重合体が含むグリシジル基は、混練、成形等において開環し、無機粉末の粒子表面の水酸基と結合する。その結果、無機粉末とグリシジル基含有重合体とが高い密着性を示すこととなる。その結果、内層21が安定的に形成されることとなる。
【0053】
また、不飽和グリシジル基含有重合体は、前述したような不飽和グリシジル基含有モノマーと、エチレン系不飽和エステル化合物モノマーと、を含む共重合体であるのが好ましい。エチレン系不飽和エステル化合物モノマーを単位構造として含む共重合体は、保形性の高い成形が可能な射出成形用組成物の実現に寄与する。特にエチレン系不飽和エステル化合物モノマーは不飽和グリシジル基含有モノマーとともに、無機粉末の粒子との親和性に寄与するため、グリシジル基含有重合体は、無機粉末の粒子とポリアセタール系樹脂との間を隔てる隔壁として確実に機能するものとなる。そして、最終的に変形や欠損等が特に少ない高品質な焼結体を製造することができる。
【0054】
エチレン系不飽和エステル化合物モノマーとしては、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチルのようなカルボン酸ビニルエステル、α,β−不飽和カルボン酸アルキルエステル等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を含むものが用いられる。
これらのエチレン系不飽和エステル化合物モノマーの中でも、特に、酢酸ビニルおよびアクリル酸メチルの少なくとも一方を含むものが好ましく用いられる。
【0055】
また、不飽和グリシジル基含有重合体は、前述したような不飽和グリシジル基含有モノマーの他に、非極性α−オレフィン系モノマーを含むのが好ましい。非極性α−オレフィン系モノマーを単位構造として含むことにより、グリシジル基含有重合体は、ポリアセタール系樹脂との親和性に富んだものとなる。その結果、グリシジル基含有重合体は、前述したように無機粉末の粒子に対して親和性を有するだけでなく、ポリアセタール系樹脂に対しても親和性を有するものとなるため、無機粉末の粒子とポリアセタール系樹脂との間で安定的に存在し得るものとなる。その結果、成形体の保形性の低下を特に抑制することができる。
【0056】
非極性α−オレフィン系モノマーとしては、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン−1、ヘキセン−1、オクテン−1、4−メチルペンテン−1等が挙げられ、それらの中でもエチレン、プロピレン、ブテン−1、ヘキセン−1、オクテン−1が好ましい。
なお、主としてグリシジル基含有重合体で構成された内層21は粒子2側にあるため、前述した触媒的働きに対する対抗性を備えている必要がある一方、外層22は内層21より融点が高く剛性が高いにもかかわらず優れた分解性を備えていなければならない。ポリアセタール系樹脂を用い、かつ不飽和グリシジル基含有重合体を用いることにより、これらの必要性をいずれも満たした混練物1が得られる。
【0057】
また、不飽和グリシジル基含有重合体は、金属元素による触媒的働きに対する優れた遮蔽性とポリアセタール系樹脂との相溶性の双方を有しているため、成形性をより高めることができる。したがって、保形性と成形性との両立を図ることができる。
射出成形用組成物におけるグリシジル基含有重合体の含有量は、ポリアセタール系樹脂の含有量に対して1質量%以上30質量%以下であるのが好ましく、2質量%以上20質量%以下であるのがより好ましい。グリシジル基含有重合体の含有量を前記範囲内とすることにより、保形性と成形性とをより高度に両立することができる。
【0058】
また、グリシジル基含有重合体の融点は、65℃以上105℃以下であるのが好ましく、70℃以上100℃以下であるのがより好ましい。これにより、射出成形用組成物を混練したときあるいは成形したときに、グリシジル基含有重合体を確実に溶融させ、内層21を形成することができる。
さらには、グリシジル基含有重合体の融点とポリアセタール系樹脂の融点との差は、55℃以上120℃以下であるのが好ましく、60℃以上115℃以下であるのがより好ましい。グリシジル基含有重合体とポリアセタール系樹脂との融点差が前記範囲内であれば、保形性と成形性とをさらに高度に両立することができる。
【0059】
なお、グリシジル基含有重合体において、不飽和グリシジル基含有重合体を構成する単位構造としては、前述したように、不飽和グリシジル基含有モノマーが挙げられ、必要に応じてエチレン系不飽和エステル化合物モノマーや非極性α−オレフィン系モノマー等が用いられる。
これらの存在比は特に限定されないが、一例として、不飽和グリシジル基含有モノマー100質量部に対して非極性α−オレフィン系モノマーは300質量部以上2000質量部以下であるのが好ましく、400質量部以上1500質量部以下であるのがより好ましい。これにより、非極性α−オレフィン系モノマーによるポリアセタール系樹脂との相溶性と、不飽和グリシジル基含有モノマーによる粒子2との親和性と、を高度にバランスすることができ、保形性と成形性の双方を特に高めることができる。
【0060】
また、不飽和グリシジル基含有モノマー100質量部に対してエチレン系不飽和エステル化合物モノマーは20質量部以上80質量部以下であるのが好ましく、25質量部以上75質量部以下であるのがより好ましい。
また、グリシジル基含有重合体のメルトフローレートは、0.5g/10分以上50g/10分以下程度であるのが好ましく、3g/10分以上40g/10分以下程度であるのがより好ましい。メルトフローレートが前記範囲内であれば、内層21が確実に形成されるため、射出成形用組成物の保形性が特に向上する。なお、メルトフローレートは、JIS K 6922−2に規定の方法に準じて測定温度190℃、測定荷重2.16kgで測定することができる。
【0061】
さらに、グリシジル基含有重合体は、その引張強さが4MPa以上25MPa以下程度であるのが好ましく、5MPa以上20MPa以下程度であるのがより好ましい。これにより、グリシジル基含有重合体は、溶融時にも流動性に富んだものとなり、内層21をより確実に形成し得るものとなる。
グリシジル基含有重合体の重量平均分子量は、上述したようなメルトフローレート等を考慮して適宜設定されるが、一例として、1万以上40万以下であるのが好ましく、3万以上30万以下であるのがより好ましい。
【0062】
≪潤滑剤≫
本発明に用いられるバインダーは、ポリアセタール系樹脂、グリシジル基含有重合体の他に、潤滑剤を含んでいてもよい。射出成形用組成物に潤滑剤を添加することによって、混練時には潤滑剤が先に溶融するため、混練時の均一性が向上する。これは、バインダーの主材料であるポリアセタール系樹脂はもともと他のバインダー成分や無機粉末に対して相溶性が低い樹脂材料である場合が多いところ、潤滑剤が介在することによって相溶性が付与されるからである。その結果、無機粉末の粒子の形状が歪であっても、無機粉末とバインダーとが均一に混合され、前述したようにグリシジル基含有重合体が無機粉末の粒子とポリアセタール系樹脂との間に確実に浸透する。また、射出成形用組成物の流動性が向上するため、形状転写性および離型性が向上するとともに、成形体の均一性も向上する。その結果、成形体の成形性が向上する。
【0063】
潤滑剤としては、例えば、ワックス類、高級脂肪酸、アルコール類、脂肪酸金属、非イオン界面活性剤、シリコーン系滑剤等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上の混合物が用いられる。
このうち、ワックス類としては、例えば、キャンデリラワックス、カルナバワックス、ライスワックス、木ろう、ホホバ油のような植物系ワックス、みつろう、ラノリン、鯨ろうのような動物系ワックス、モンタンワックス、オゾケライト、セレシンのような鉱物系ワックス、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラタムのような石油系ワックス等の天然ワックス、ポリエチレンワックスのような合成炭化水素、モンタンワックス誘導体、パラフィンワックス誘導体、マイクロクリスタリンワックス誘導体のような変性ワックス、硬化ひまし油、硬化ひまし油誘導体のような水素化ワックス、12−ヒドロキシステアリン酸のような脂肪酸、ステアリン酸アミドのような酸アミド、無水フタル酸イミドのようなエステル等の合成ワックスが挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0064】
また、高級脂肪酸としては、例えば、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸等が挙げられ、特に、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸のような飽和脂肪酸が好ましく用いられる。
また、アルコール類としては、例えば、多価アルコール、ポリグリコール、ポリグリセロール等が挙げられ、特に、セチルアルコール、ステアリルアルコール、オレイルアルコール、マンニトール等が好ましく用いられる。
【0065】
また、脂肪酸金属としては、例えば、ラウリン酸、ステアリン酸、コハク酸、ステアリル乳酸、乳酸、フタル酸、安息香酸、ヒドロキシステアリン酸、リシノール酸、ナフテン酸、オレイン酸、パルミチン酸、エルカ酸のような高級脂肪酸と、Li、Na、Mg、Ca、Sr、Ba、Zn、Cd、Al、Sn、Pb、Cdのような金属との化合物が挙げられ、特に、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸亜鉛、オレイン酸カルシウム、オレイン酸亜鉛、オレイン酸マグネシウム等が好ましく用いられる。
【0066】
また、非イオン界面活性剤系滑剤としては、例えば、エレクトロストリッパ−TS−2、エレクトロストリッパ−TS−3(花王)等が挙げられる。
また、シリコーン系滑剤としては、例えば、ジメチルポリシロキサンおよびその変性物、カルボキシル変性シリコーン、αメチルスチレン変性シリコーン、αオレフィン変性シリコーン、ポリエーテル変性シリコーン、フッ素変性シリコーン、親水性特殊変性シリコーン、オレフィンポリエーテル変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン、アミノ変性シリコーン、アミド変性シリコーン、アルコール変性シリコーン等が挙げられる。
【0067】
これらの潤滑剤の中でも特にワックス類および飽和脂肪酸の少なくとも一方を含むことが好ましい。ワックス類を含むことにより、射出成形用組成物は混練時の均一性がより高いものとなる。その結果、無機粉末とバインダーとがより均一に混合される。また、射出成形用組成物の流動性がより向上するため、成形性もさらに向上することとなる。また、飽和脂肪酸は、長鎖アルキル基を含むとともに不飽和結合を含まないため、優れた潤滑剤として作用し、射出成形用組成物の成形性を高めることができる。
【0068】
なお、ワックス類としては、特に石油系ワックスまたはその変性物が好ましく用いられ、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、カルナバワックスまたはこれらの誘導体がより好ましく用いられ、パラフィンワックスまたはカルナバワックスがさらに好ましく用いられる。これらのワックスは、ポリアセタール系樹脂との相溶性に優れているため、均質なバインダーの調製を可能にする。
【0069】
また、ワックス類の重量平均分子量は、100以上1万未満であるのが好ましく、200以上5000以下であるのがより好ましい。ワックス類の重量平均分子量を前記範囲内とすることにより、無機粉末とバインダーとをより均一に混合することができ、射出成形用組成物の成形性をより高めることができる。
また、飽和脂肪酸の炭素数は、12以上20以下程度であるのが好ましい。これにより、成形性を特に高めることができる。
【0070】
また、バインダーにおける潤滑剤の含有量は、0.1質量%以上20質量%以下であるのが好ましく、1質量%以上15質量%以下であるのがより好ましい。潤滑剤の含有量を前記範囲内とすることにより、射出成形用組成物の流動性を特に高めることができる。
また、グリシジル基含有重合体に対する潤滑剤の割合は、0.01以上0.8以下であるのが好ましく、0.02以上0.6以下であるのがより好ましい。グリシジル基含有重合体に対する潤滑剤の割合を前記範囲内に設定することにより、グリシジル基含有重合体と潤滑剤とのバランスが最適化され、脱脂時の保形性を阻害することなく成形性を高めることができる。
【0071】
また、潤滑剤は、グリシジル基含有重合体よりも低融点であるので、上記温度で成形すると潤滑剤は溶融し、グリシジル基含有重合体の浸透性をより高めるとともに、ポリアセタール系樹脂の流動性が高められる。その結果、保形性と成形性とをより高度に両立することができる。
潤滑剤の融点は、ポリアセタール系樹脂やグリシジル基含有重合体の融点より低いことが好ましく、潤滑剤の融点とグリシジル基含有重合体の融点との差は、3℃以上70℃以下であるのが好ましく、5℃以上50℃以下であるのがより好ましい。潤滑剤とグリシジル基含有重合体との融点差が前記範囲内であれば、保形性と成形性とをさらに高度に両立することができる。
【0072】
また、潤滑剤としては、その融点が30℃以上100℃以下のものが好ましく用いられ、50℃以上95℃以下のものがより好ましく用いられる。
また、潤滑剤としてワックス類を含む場合、融点の異なる複数種のワックス類を含むことが好ましい。これにより、射出成形用組成物の成形性を高めることができる。この場合、最も融点が高いワックス類と最も融点が低いワックス類との融点差は、特に限定されないが、3℃以上40℃以下程度であるのが好ましく、5℃以上30℃以下程度であるのがより好ましい。具体的な組み合わせとして、例えば、パラフィンワックスとカルナバワックス等が挙げられる。
【0073】
≪その他の成分≫
また、本発明に用いられるバインダーは、その他の成分を含んでいてもよい。
その他の成分としては、例えば、パーム油のような脂肪酸エステル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチルのようなフタル酸エステル、アジピン酸ジブチルのようなアジピン酸エステル、セバシン酸ジブチルのようなセバシン酸エステル、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエーテル、ポリプロピレンカーボネート、エチレンビスステアロアミド、アルギン酸ソーダ、寒天、アラビアゴム、レジン、しょ糖、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0074】
バインダーにおけるこのようなその他の成分の含有量は、0.1質量%以上10質量%以下であるのが好ましく、1質量%以上8質量%以下であるのがより好ましい。
また、グリシジル基含有重合体に対するその他の成分の割合は、0.005以上0.3以下であるのが好ましく、0.01以上0.2以下であるのがより好ましい。
さらに、その他の成分としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン、ポリペンテンのようなポリオレフィン、ポリエチレン−ポリプロピレン共重合体、ポリエチレン−ポリブチレン共重合体のようなポリオレフィン系共重合体、ポリスチレン等の炭化水素系樹脂が挙げられる。
【0075】
なお、射出成形用組成物は、上記の成分の他に、酸化防止剤、脱脂促進剤、界面活性剤等を含んでいてもよい。
また、射出成形用組成物中におけるバインダーの含有率は、金属粉末、セラミックス粉末に応じて適宜設定されるが、無機粉末100質量部に対して1質量部以上50質量部以下程度とするのが好ましく、3質量部以上30質量部以下程度とするのがより好ましい。これにより、射出成形用組成物は、特に脱脂時の保形性に優れたものとなる。
以上のような無機粉末およびバインダーを用い、上述したような各工程を経て混練物1(本発明の射出成形用組成物)が得られる。
得られた混練物1は、後述する成形工程、脱脂工程および焼成工程を経て焼結体となる。以下、各工程について説明する。
【0076】
(成形工程)
得られた混練物の成形を行う。これにより、所望の形状、寸法の成形体を製造する。
成形方法としては、射出成形法が用いられる。なお、射出成形に先立って、射出成形用組成物には、必要に応じてペレット化処理を施すようにしてもよい。ペレット化処理は、ペレタイザー等の粉砕装置を用い、コンパウンドを粉砕する処理である。これにより得られたペレットは、平均粒径が1mm以上10mm以下程度とされる。
【0077】
次いで、得られたペレットを射出成形機に投入し、成形型に射出して成形する。これにより、成形型の形状が転写された成形体が得られる。
なお、製造される成形体の形状寸法は、以後の脱脂および焼結による収縮分を見込んで決定される。
また、得られた成形体に対して、必要に応じ、機械加工、レーザー加工等の後加工を施すようにしてもよい。
なお、成形工程における材料温度は80℃以上210℃以下程度、射出圧力が50MPa以上500MPa以下(0.5t/cm以上5t/cm以下)程度であるのが好ましい。
【0078】
(脱脂工程)
次に、得られた成形体に対して脱脂処理を施す。これにより、成形体中に含まれるバインダーを除去(脱脂)して、脱脂体が得られる。
また、潤滑剤は、脱脂時またはその前の成形時においてポリアセタール系樹脂やグリシジル基含有重合体よりも先に分解し、外部に放出されることが多く、その場合、成形体には流路が形成される。脱脂工程では、この流路を介してポリアセタール系樹脂やグリシジル基含有重合体の分解物が容易に放出されるため、成形体に亀裂等が発生するのを防止しつつ脱脂処理を施すことができる。その結果、成形体(脱脂体)の保形性を特に高めることができる。
【0079】
この脱脂処理は、特に限定されないが、酸素、硝酸ガス等の酸化性雰囲気の他、非酸化性雰囲気中、例えば真空または減圧状態下(例えば1.33×10−4Pa以上13.3Pa以下)、または、窒素ガス、アルゴンガス等のガス中で、熱処理を行うことによりなされる。
また、脱脂工程(熱処理)における処理温度は、特に限定されないが、100℃以上750℃以下であるのが好ましく、150℃以上700℃以下であるのがより好ましい。
【0080】
また、脱脂工程(熱処理)における処理時間(熱処理時間)は、0.5時間以上20時間以下であるのが好ましく、1時間以上10時間以下であるのがより好ましい。
また、このような熱処理による脱脂は、種々の目的(例えば、脱脂時間の短縮等の目的)で、複数の工程(段階)に分けて行ってもよい。この場合、例えば、前半を低温で、後半を高温で脱脂するような方法や、低温と高温を繰り返し行う方法等が挙げられる。
また、上記のような脱脂処理後に、得られた脱脂体に対して、例えば、ばり取りや、溝等の微小構造の形成等の目的で、各種後加工を施してもよい。
なお、成形体中のバインダーは、脱脂処理によって完全に除去されなくてもよく、例えば、脱脂処理の完了時点で、その一部が残存していてもよい。
【0081】
(焼成工程)
次に、脱脂処理が施された脱脂体を焼成する。これにより、脱脂体が焼結し、焼結体が得られる。
焼成条件は、特に限定されないが、非酸化性雰囲気中、例えば真空または減圧状態下(例えば1.33×10−4Pa以上133Pa以下)、または、窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガス中で、熱処理を行うことによりなされる。これにより、金属粉末が酸化してしまうのを防止することができる。
【0082】
また、無機粉末中に金属材料を含む場合、焼成する際には、金属材料と同種の金属材料で構成された容器内に脱脂体を入れ、その状態で焼成するのが好ましい。これにより、脱脂体中の金属成分が揮発し難くなるため、最終的に得られる焼結体の金属組成が目的とする組成から変化してしまうのを防止することができる。
用いる容器は、密閉構造のものではなく、適度な孔または隙間を有するものが好ましい。これにより、容器内と容器外の雰囲気を同一にして、容器内の雰囲気が意図しないものに変化するのを防止することができる。また、容器と脱脂体との間は、できるだけ密着することなく、十分な隙間を有しているのが好ましい。
【0083】
なお、焼成工程を行う雰囲気は、工程の途中で変化してもよい。例えば、最初に減圧雰囲気とし、途中で不活性雰囲気に切り替えるようにしてもよい。
また、焼成工程は、2段階またはそれ以上に分けて行ってもよい。これにより、焼結の効率が向上し、より短い焼成時間で焼成を行うことができる。
また、焼成工程は、前述の脱脂工程と連続して行うのが好ましい。これにより、脱脂工程は、焼結前工程を兼ねることができ、脱脂体に予熱を与えて、脱脂体をより確実に焼結させることができる。
【0084】
焼成温度は、無機粉末の種類に応じて適宜設定されるが、金属粉末の場合、1000℃以上1650℃以下であるのが好ましく、1050℃以上1500℃以下であるのがより好ましい。また、セラミックス粉末の場合、1250℃以上1900℃以下であるのが好ましく、1300℃以上1800℃以下であるのがより好ましい。
また、焼成時間は、0.5時間以上20時間以下であるのが好ましく、1時間以上15時間以下であるのがより好ましい。
【0085】
また、このような焼成工程は、種々の目的(例えば、焼成時間の短縮等の目的)で、複数の工程(段階)に分けて行ってもよい。この場合、例えば、前半を低温で、後半を高温で焼成するような方法や、低温と高温を繰り返し行う方法等が挙げられる。
また、上記のような焼成工程後に、得られた焼結体に対して、例えば、ばり取りや、溝等の微小構造の形成等の目的で、機械加工、放電加工、レーザー加工、エッチング等を施してもよい。
【0086】
なお、得られた焼結体には、必要に応じて、HIP処理(熱間等方加圧処理)等を施すようにしてもよい。これにより、焼結体のさらなる高密度化を図ることができる。
HIP処理の条件としては、例えば、温度が850℃以上1100℃以下、時間が1時間以上10時間以下とされる。
また、加圧圧力は、50MPa以上であるのが好ましく、100MPa以上であるのがより好ましい。
上記のようにして得られた焼結体は、いかなる目的で用いられるものであってもよく、その用途としては、各種構造部品、各種医療用構造体等が挙げられる。
【0087】
また、得られる焼結体の相対密度は、例えば、95%以上、好ましくは96%以上となることが期待される。このような焼結体は、焼結密度が高く、かつ外観および寸法精度に優れたものとなる。
また、焼結体の引張強度は、例えば金属粉末を用いた場合、900MPa以上になることが期待される。さらには、焼結体の0.2%耐力は、例えば金属粉末を用いた場合、750MPa以上になることが期待される。
以上、本発明について、好適な実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0088】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
1.焼結体の製造
(実施例1)
まず、水アトマイズ法により製造されたSUS316L粉末(粉末No.1)を用意した。SUS316L粉末について、レーザー回折方式の粒度分布測定装置(マイクロトラック、日機装株式会社製、HRA9320−X100)により平均粒径を測定した。測定値を表1に示す。
【0089】
【表1】

【0090】
一方、表2に示す組成のバインダーを用意し、第1の樹脂、第2の樹脂等(潤滑剤、その他の成分を含む。)をそれぞれ凍結粉砕した。これにより、第1の樹脂を凍結粉砕してなる第1の粉末、第2の樹脂等を凍結粉砕してなる第2の粉末、をそれぞれ製造した。
具体的には、第1の樹脂を粉砕容器に入れ、液体窒素で冷却しながら第1の樹脂を粉砕した。得られた第1の粉末の平均粒径は53μmであった。また、第2の粉末の平均粒径は242μmであった。
【0091】
次いで、SUS316L粉末と、第1の粉末および第2の粉末と、をV型混合機により混合し、加圧ニーダー(混練機)にて混練温度160℃で30分間の条件で混練した。この混練は、窒素雰囲気中で行った。なお、SUS316L粉末とバインダーとの混合比を表1に示す。
次に、得られた混練物をペレタイザーにより粉砕して、平均粒径5mmのペレットを得た。
【0092】
次いで、得られたペレットを用い、材料温度:190℃、射出圧力:10.8MPa(110kgf/cm)という成形条件で、射出成形機にて成形を行った。これにより、成形体を得た。なお、成形体の形状は、直径0.5mm×高さ0.5mmの円筒形状である。
次に、成形体に対して、温度:500℃、時間:1時間、雰囲気:窒素ガス(大気圧)という脱脂条件で脱脂処理を施した。これにより、脱脂体を得た。
次に、脱脂体に対して、温度:1270℃、時間:3時間、雰囲気:窒素ガス(大気圧)という焼成条件で焼成処理を施した。これにより、焼結体を得た。
【0093】
(実施例2〜19)
バインダーとして、表2に示す組成のものを用いるようにした以外は、それぞれ実施例1と同様にして焼結体を得た。
なお、実施例15については、混練温度を155℃とした。また、これらの実施例における第1の粉末の平均粒径は40μm以上70μm以下程度であり、第2の粉末の平均粒径は180μm以上300μm以下程度であった。
また、実施例10については、第1の樹脂としてテナックHC750とステアリルアルコールとの混合物を用い、第2の樹脂としてE−GAとパラフィンワックスとの混合物を用いた。
【0094】
【表2】

【0095】
(比較例1〜6)
無機粉末として粉末No.1を用い、バインダーとして表3に示す組成のものを用いるようにした以外は、それぞれ実施例1と同様にして焼結体を得た。
なお、表2、3および後述する表4〜6における第1の樹脂および第2の樹脂は、以下に示すものである。
【0096】
<第1の樹脂>
・テナックHC750:ポリアセタール系コポリマー
・テナック7520 :ポリアセタール系コポリマー
・テナック7054 :ポリアセタール系ホモポリマー
<第2の樹脂>
・E−GMA−VA :グリシジルメタクリレート構造 12質量%、酢酸ビニル構造 5質量%、エチレン構造 残部
・E−GMA−MA :グリシジルメタクリレート構造 3質量%、アクリル酸メチル構造 27質量%、エチレン構造 残部
・E−GMA :グリシジルメタクリレート構造 12質量%、エチレン構造 残部
・E−GA :グリシジルアクリレート構造 12質量%、エチレン構造 残部
また、第2の樹脂のメルトフローレートは、E−GMA−VAが7g/10分、E−GMA−MAが7g/10分、E−GMAが3g/10分であった。
【0097】
(比較例7、8)
バインダーの第1の粉末および第2の粉末として、それぞれ冷却しないで粉砕したものを用いるようにした以外は、実施例10、4と同様にして焼結体を得た。なお、第1の粉末の平均粒径は50μm以上55μm以下、第2の粉末の平均粒径は240μm以上255μm以下であった。
【0098】
【表3】

【0099】
(実施例20〜22)
まず、水アトマイズ法により製造された2%Ni−Fe合金粉末(粉末No.2)を用意し、レーザー回折方式の粒度分布測定装置により平均粒径を測定した。測定値を表1に示す。なお、2%Ni−Fe合金の組成は、C:0.4質量%以上0.6質量%以下、Si:0.35質量%以下、Mn:0.8質量%以下、P:0.03質量%以下、S:0.045質量%以下、Ni:1.5質量%以上2.5質量%以下、Cr:0.2質量%以下、Fe:残部である。
【0100】
そして、バインダーとして表4に示す組成のものを用いるようにした以外は、それぞれ実施例1と同様にして焼結体を得た。なお、成形条件は、材料温度:190℃とした。また、脱脂条件は、温度:600℃、時間:1時間、雰囲気:窒素ガス(大気圧)とした。また、焼成条件は、温度:1150℃、時間:3時間、雰囲気:窒素ガス(大気圧)とした。
【0101】
(比較例9〜12)
無機粉末として粉末No.2を用い、バインダーとして表4に示す組成のものを用いるようにした以外は、それぞれ実施例1と同様にして焼結体を得た。
(比較例13)
バインダーの第1の粉末および第2の粉末として、それぞれ冷却しないで粉砕したものを用いるようにした以外は、実施例20と同様にして焼結体を得た。
【0102】
【表4】

【0103】
(実施例23〜25)
まず、ガスアトマイズ法により製造されたTi合金粉末(粉末No.3)を用意し、レーザー回折方式の粒度分布測定装置により平均粒径を測定した。測定値を表1に示す。
そして、バインダーとして表5に示す組成のものを用いるようにした以外は、それぞれ実施例1と同様にして焼結体を得た。なお、成形条件は、材料温度:190℃とした。また、脱脂条件は、温度:450℃、時間:1時間、雰囲気:窒素ガス(大気圧)とした。また、焼成条件は、温度:1100℃、時間:3時間、雰囲気:アルゴンガス(減圧、1.3kPa)とした。
【0104】
(比較例14〜17)
無機粉末として粉末No.3を用い、バインダーとして表5に示す組成のものを用いるようにした以外は、それぞれ実施例1と同様にして焼結体を得た。
(比較例18)
バインダーの第1の粉末および第2の粉末として、それぞれ冷却しないで粉砕したものを用いるようにした以外は、実施例23と同様にして焼結体を得た。
【0105】
【表5】

【0106】
(実施例26〜28)
まず、アルミナ粉末(粉末No.4)を用意し、レーザー回折方式の粒度分布測定装置により平均粒径を測定した。測定値を表1に示す。
そして、バインダーとして表6に示す組成のものを用いるようにした以外は、それぞれ実施例1と同様にして焼結体を得た。なお、脱脂条件は、温度:500℃、時間:2時間、雰囲気:窒素ガス(大気圧)とした。また、焼成条件は、温度:1600℃、時間:3時間、雰囲気:大気とした。
【0107】
(比較例19〜22)
無機粉末として粉末No.4を用い、バインダーとして表6に示す組成のものを用いるようにした以外は、それぞれ実施例1と同様にして焼結体を得た。
(比較例23)
バインダーの第1の粉末および第2の粉末として、それぞれ冷却しないで粉砕したものを用いるようにした以外は、実施例26と同様にして焼結体を得た。
【0108】
【表6】

【0109】
2.混練物の評価
2.1 粘度の評価
各実施例および各比較例で得られた混練物について、190℃の温度に保ち、キャピログラフにより粘度を測定した。測定結果を表2〜6に示す。
2.2 ホルムアルデヒド発生量の評価
各実施例および各比較例で得られた混練物について、混練処理中に混練物から発生したホルムアルデヒドの発生量を測定した。測定結果を表2、3に示す。ホルムアルデヒドは、ポリアセタール系樹脂の分解に伴って発生するものであるから、その発生量を測定することにより、不本意にも混練時に分解してしまったポリアセタール系樹脂の分解量の指標として用いることができる。なお、ホルムアルデヒドの発生量は、混練開始から10分後に測定したホルムアルデヒド濃度とした。
【0110】
2.3 顕微鏡観察による評価
各実施例および各比較例で得られた混練物について、120℃の発煙硝酸下に3時間置いた。これにより、混練物中からポリアセタール系樹脂を選択的に除去した。ポリアセタール系樹脂は、発煙硝酸下において軟化点よりも低温で分解するため、選択的に除去可能であることから、この処理を施すことによって、混練物から外層22を選択的に除去することができる。その結果、混練物中には、無機粉末と内層21とが主に残存することとなる。
【0111】
ここで、この発煙硝酸処理を施した混練物を走査型電子顕微鏡で観察した。図3には、代表として実施例4および比較例2で得られた混練物の観察像を示す。
このうち、実施例4で得られた混練物について発煙硝酸処理を施したものは、図3(a)に示すように、無機粉末の粒子同士を繋ぐように内層21が存在している様子が認められる。また、粒子状に見えるものの表面は、比較的平滑性が高いことが認められる。したがって、図3(a)に示す無機粉末の粒子は内層21で隙間なく覆われていることが認められる。
【0112】
一方、比較例2で得られた混練物について発煙硝酸処理を施したものは、図3(b)に示すように、無機粉末の粒子同士を繋ぐように存在している内層21はほとんど認められない。また、粒子状に見えるものの表面は、濃淡の差が大きく、比較的平滑性が低いことが認められる。したがって、図3(b)に示す無機粉末の粒子は内層21が存在していたとしても隙間があることが認められる。
【0113】
なお、実施例4で得られた混練物について発煙硝酸処理を施したものについて、フーリエ変換赤外分光光度計(FT−IR)により定性分析を行った。その結果、主にグリシジル基含有重合体に含まれる結合に由来する特徴を示すスペクトルが得られた。
以上のことから、各実施例においては、内層21および外層22が確実に形成されていることが認められる。
【0114】
3.焼結体の評価
3.1 焼結密度の評価
各実施例および各比較例で得られた焼結体について、アルキメデス法(JIS Z 2501に規定)に準じた方法により密度を測定した。また、測定された焼結密度と、金属粉末の真密度から、焼結体の相対密度を算出した。
3.2 外観の評価
各実施例および各比較例で得られた焼結体100個について、その外観を以下の評価基準にしたがって評価した。
【0115】
<外観の評価基準>
◎:割れ、欠損および変形の発生数が3個以下である。
○:割れ、欠損および変形の発生数が4個以上10個以下である。
△:割れ、欠損および変形の発生数が11個以上50個以下である。
×:割れ、欠損および変形の発生数が51個以上である。
【0116】
3.3 寸法精度の評価
各実施例および各比較例で得られた焼結体100個について、その直径をマイクロメーターで測定した。そして、測定値について、JIS B 0411(金属焼結品の普通許容差)に規定の「幅の普通許容差」に基づき、以下の評価基準に基づいて評価した。
<寸法精度の評価基準>
◎:等級が精級である(許容差±0.05mm以下)。
○:等級が中級である(許容差±0.05mm超±0.1mm以下)。
△:等級が並級である(許容差±0.1mm超±0.2mm以下)。
×:許容外である。
以上、2.および3.の評価結果を表2〜6に示す。
【0117】
表2〜6から明らかなように、各実施例で得られた焼結体は、いずれも、各比較例で得られた焼結体に比べて、焼結密度が高いことが認められた。また、各実施例で得られた焼結体は、いずれも、各比較例で得られた焼結体に比べて、外観および寸法精度が優れていることが認められた。なお、各実施例では、各比較例に比べて混練物から発生するホルムアルデヒドの量が少なかったことから、混練時における第1の樹脂の分解が効果的に抑制されており、その結果、焼結体の外観や寸法精度の低下を防止することができたものと考えられる。
【0118】
4.評価用サンプルの評価
4.1 評価用サンプルの作製
まず、粉砕条件と混練物の状態との関係を明らかにするため、以下の粉砕条件で粉砕したバインダー粉末と無機粉末とを用いて、それぞれ評価用サンプルとしての混練物を作製した。なお、無機粉末およびバインダー粉末としては、実施例3と同じものを使用し、実施例3と同じ条件で混練することにより混練物を得た。
【0119】
4.2 評価用サンプルの粘度評価
次いで、作製した評価用サンプルについて、190℃の温度に保ち、キャピログラフにて粘度を測定した。そして、以下の評価基準にしたがって粘度を評価した。
<粘度の評価基準>
○:成形性および保形性の双方を高め得る粘度範囲である
△:保形性は高いが、成形性がやや劣る粘度範囲である
×:成形性と保形性の双方が劣る粘度範囲である
【0120】
4.3 評価用サンプルの粘度評価
次いで、作製した評価用サンプルについて前述した発煙硝酸処理を施し、各評価用サンプルから外層22を選択的に除去した。
そして、残部について走査型電子顕微鏡で観察し、観察像を得た。
<顕微鏡観察像の評価基準>
○:ネックが多く認められる(粒子状物間の70%以上にネックが存在している)
△:ネックは少ない(粒子状物間の20%以上70%未満にネックが存在している)
×:ネックは認められない(粒子状物間の20%未満にネックが存在している)
以上、4.2および4.3の評価結果を表7に示す。なお、上記ネックとは、粒子状物の間を繋ぐように存在するものを指す。
【0121】
【表7】

【0122】
表7から明らかなように、バインダー粉末として凍結粉砕により得たものを用いたサンプル1、2においては、保形性に適した粘度を示すとともに、無機粉末の粒子を覆う内層が形成されていることが認められた。
一方、バインダー粉末として常温粉砕により得たものを用いたサンプル3においては、保形性が低く、顕微鏡で観察したところ、無機粉末の粒子を覆う内層も認められなかった。
以上のことから、凍結粉砕により粉砕して得たバインダー粉末を用いるとともに、粉砕機の回転数や平均粒径を最適化することにより、より保形性の高い成形体を製造可能な射出成形用組成物を製造し得ることが認められた。
【符号の説明】
【0123】
1……混練物 10……射出成形用組成物 2……粒子 21……内層 22……外層 3……バインダー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材料およびセラミックス材料の少なくとも一方で構成された無機粉末と、ポリアセタール系樹脂およびグリシジル基含有重合体を含有するバインダーと、を含む射出成形用組成物を製造する方法であって、
前記ポリアセタール系樹脂を主成分とする第1の樹脂を凍結粉砕する第1の粉砕工程と、
前記グリシジル基含有重合体を主成分とする第2の樹脂を凍結粉砕する第2の粉砕工程と、
前記第1の粉砕工程で得られた粉末と、前記第2の粉砕工程で得られた粉末と、前記無機粉末とを混合し、混合粉末を得る混合工程と、
前記混合粉末を混練する混練工程と、を有することを特徴とする射出成形用組成物の製造方法。
【請求項2】
前記グリシジル基含有重合体の融点は前記ポリアセタール系樹脂よりも低く、かつ前記射出成形用組成物において前記グリシジル基含有重合体の質量含有率が前記ポリアセタール系樹脂の質量含有率より少ない請求項1に記載の射出成形用組成物の製造方法。
【請求項3】
前記混練工程において、前記第1の樹脂の融点と前記第2の樹脂の融点との間の温度で前記混合粉末を混練する請求項2に記載の射出成形用組成物の製造方法。
【請求項4】
前記第2の樹脂は、不飽和グリシジル基含有重合体である請求項1ないし3のいずれかに記載の射出成形用組成物の製造方法。
【請求項5】
前記不飽和グリシジル基含有重合体の融点は、65℃以上105℃以下である請求項4に記載の射出成形用組成物の製造方法。
【請求項6】
前記不飽和グリシジル基含有重合体は、不飽和グリシジル基含有モノマーと、エチレン系不飽和エステル化合物モノマーと、を含む共重合体である請求項4または5に記載の射出成形用組成物の製造方法。
【請求項7】
前記不飽和グリシジル基含有重合体は、不飽和グリシジル基含有モノマーと、非極性α−オレフィン系モノマーと、を含む共重合体である請求項4または5に記載の射出成形用組成物の製造方法。
【請求項8】
前記バインダー粉末の平均粒径は、前記無機粉末の平均粒径の2倍以上50倍以下である請求項1ないし7のいずれかに記載の射出成形用組成物の製造方法。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれかに記載の射出成形用組成物の製造方法により製造されたものであり、前記無機粉末の粒子を覆うように設けられ、主として前記第2の樹脂で構成された内層と、前記内層の外側に位置し、主として前記第1の樹脂で構成された外層と、を有することを特徴とする射出成形用組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−112888(P2013−112888A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−262958(P2011−262958)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】