説明

射出成形装置および射出成形方法

【課題】 難流動性材料を金型内に射出して未充填部無く薄板形状に成形できる射出成形装置および射出成形方法の提供。
【解決手段】(1)難流動性材料Aを金型10内に射出プレス成形する射出成形装置であって、射出中のある時点における難流動性材料Aの射出させるべき衝突跳ね返り飛散距離を推定し、衝突跳ね返り飛散距離Lと射出速度IVとの対応関係のうち前記推定した衝突跳ね返り飛散距離に対応付けられた射出速度を特定し、当該特定した射出速度にて射出する射出成形装置。(2)難流動性材料Aの衝突跳ね返り飛散距離Lを、キャビティ13への射出速度IVで換算し、キャビティ13の外周部から順次内部に向って難流動性材料Aが充填されるように設定した射出速度パターンに基づいて、第1の型締位置12bで難流動性材料Aをキャビティ13内に射出充填し、充填完了前あるいは完了後の任意のタイミングで最終型締位置12cに移行させる射出成形方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形装置および射出成形方法に関し、とくに、フィラー含有樹脂(たとえば、黒鉛高配合樹脂材料などの難流動性材料)を射出プレス成形する射出成形装置および射出成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば燃料電池用セパレータにおいて、従来は焼成カーボンの機械加工品を用いていたが最近では熱硬化性樹脂をバインダにし導電材を添加したものが増加してきている。しかし、熱硬化性樹脂を使用した場合、固化時間が数分かかり、大量生産には不向きである。そこで、熱硬化性樹脂から熱可塑性樹脂にすることにより、固化時間が120秒から10〜20秒(射出成形時)と大幅に短縮できる。また、セパレータの接触抵抗を下げるためには、樹脂は全く電気を通さないため、導電材の添加量を非常に高配合させないと満足できない。
しかしながら射出成形の場合は、導電性を満足させるために樹脂に黒鉛系材を高配合(60wt%以上)させると、著しく流動性が低下し、射出成形が極めて困難である。特に複雑な溝形状、薄板厚かつ数百cm以上の平板成形等はなおさらである。更に高性能化(体積抵抗20mΩ・cm以下)を望むと、黒鉛系材料を80w%以上添加させる必要がある。特に黒鉛系材料を80wt%以上配合させた材料は、通常の射出成形が無理なだけでなく、高速射出成形(射出速度300mm/s以上)でも困難である。黒鉛系材料を80wt%以上配合させた材料を射出した場合、樹脂はノズル内径のまま棒状に金型に充填されるため、通常の樹脂充填であるファウンテンフロー(ゲート付近から徐々に充填されていき最後にゲートから一番遠いところにたどり着く流れ方)ではない。
特開2004−160772号公報は、キャビティの容積がセパレータの容積より所定割合大きくなる位置に可動金型が到達したとき、可動金型の型閉作動を停止させるとともに、射出装置からキャビティへ導電性溶融樹脂(難流動性材料)を射出開始させ、導電性溶融樹脂がキャビティを所定割合まで充填したとき、射出を継続しつつ可動金型を固定金型に対し再型閉しさらに圧締する射出成形装置および射出成形方法を開示している(通常の射出プレス成形をセパレータに特化したものを開示している)。
【0003】
しかし、特開2004−160772号公報開示の装置および方法にはつぎの問題点がある。
ゲート付近に充填した導電性溶融樹脂は、ファウンテンフローで形成されたものではなく、ノズル内径のまま円柱棒状に射出(押出)され、金型のゲート対向面に衝突した際に砕けて粉状のものが圧縮充填された状態である。よって、プレスによっても殆ど流動せず、キャビティ外周部まで充填させることは困難である。
特開平9−117942号公報は、キャビティに充填される樹脂をファウンテンフローで形成するためにキャビティ内に射出させる射出速度を樹脂の充填量に応じて変化させた射出成形装置および射出成形方法を開示しているが、樹脂の飛散量(飛散距離)が考慮されていないため、導電性溶融樹脂(難流動性材料)を射出する場合にはキャビティ内に未充填部が形成されるおそれがある。
【特許文献1】特開2004−160772号公報
【特許文献2】特開平9−117942号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする問題点は、難流動性材料を金型内に射出して未充填部無く薄板形状に成形することが難しいことである。
本発明の目的は、難流動性材料を金型内に射出して未充填部無く薄板形状に成形できる射出成形装置および射出成形方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成する本発明はつぎの通りである。
(1) 難流動性材料を金型内に射出プレス成形する射出成形装置であって、
射出中のある時点における前記難流動性材料の射出させるべき衝突跳ね返り飛散距離または衝突跳ね返り飛散位置を推定し、衝突跳ね返り飛散距離と射出速度との対応関係のうち前記推定した衝突跳ね返り飛散距離または衝突跳ね返り飛散位置に対応付けられた射出速度を特定し、当該特定した射出速度にて射出する射出成形装置。
(2) 前記難流動性材料の射出させるべき衝突跳ね返り飛散距離または衝突跳ね返り飛散位置の推定は、前記金型内への前記難流動性材料の充填量に応じて推定される(1)記載の射出成形装置。
(3) 難流動性材料を金型内に射出プレス成形する射出成形装置であって、
前記難流動性材料の衝突跳ね返り飛散距離と射出速度との関係に基づいて前記難流動性材料の射出速度を定め、金型キャビティの外周部から順次内部に向って難流動性材料が充填されるようにした射出成形装置。
(4) 前記難流動性材料は熱可塑性樹脂に黒鉛系材料を80wt%以上添加させたものである(1)または(3)記載の射出成形装置。
(5) 前記射出成形装置は燃料電池のカーボンセパレータ成形用の射出成形装置である(1)または(3)記載の射出成形装置。
(6) 難流動性材料の衝突跳ね返り飛散距離を、金型キャビティ内に充填される射出速度で換算し、金型キャビティの外周部から順次内部に向って難流動性材料が充填されるように設定した射出速度パターンに基づいて、予め設定した第1の型締位置で金型を保持させた状態で、難流動性材料を金型キャビティ内に射出充填し、充填完了前あるいは完了後の任意のタイミングで最終型締位置に移行させる射出成形方法。
(7) 前記難流動性材料は熱可塑性樹脂に黒鉛系材料を80wt%以上添加させたものである(6)記載の射出成形方法。
(8) 前記射出成形方法は燃料電池のカーボンセパレータ成形用の射出成形方法である(6)記載の射出成形方法。
【発明の効果】
【0006】
上記(1)または(2)の射出成形装置では、射出中のある時点における前記難流動性材料の射出させるべき衝突跳ね返り飛散距離または衝突跳ね返り飛散位置を推定し、衝突跳ね返り飛散距離と射出速度との対応関係のうち前記推定した衝突跳ね返り飛散距離または衝突跳ね返り飛散位置に対応付けられた射出速度を特定し、当該特定した射出速度にて射出するため、金型に衝突して跳ね返った粉状の難流動性材料をキャビティ外周側端まで飛散させてキャビティ外周部を充填でき、難流動性材料でゲート部付近をも充填できる。そのため、難流動性材料を金型内に射出して未充填部無く薄板形状に成形できる。
上記(3)の射出成形装置では、難流動性材料の衝突跳ね返り飛散距離と射出速度との関係に基づいて難流動性材料の射出速度が定められているので、金型に衝突して跳ね返った粉状の難流動性材料をキャビティ外周側端まで飛散させてキャビティ外周部を充填することができる。また、難流動性材料の射出速度を定めて金型キャビティの外周部から順次内部に向って難流動性材料が充填されるようにしているため、難流動性材料でゲート部付近をも充填できる。そのため、難流動性材料を金型内に射出して未充填部無く薄板形状に成形できる。
上記(4)の射出成形装置または上記(7)の射出成形方法では、難流動性材料が熱可塑性樹脂に黒鉛系材料を80wt%以上添加させたものであるため、難流動性材料で導電性を有する製品を成形できる。
上記(5)の射出成形装置または上記(8)の射出成形方法では、複雑な形状の燃料電池のカーボンセパレータを製作できる。
上記(6)の射出成形方法では、設定した射出速度パターンに基づいて第1の型締位置で金型を保持させた状態で難流動性材料をキャビティ内に射出するので、射出された難流動性材料は金型に衝突し粉状にキャビティ外周側端まで飛散する。そのため、難流動性材料でキャビティ外周部を充填できる。
また、射出速度パターンの設定がキャビティの外周部から順次内部に向って難流動性材料が充填されるようになっているので、難流動性材料でゲート部付近をも充填できる。
したがって、充填完了前あるいは完了後の任意のタイミングで最終型締位置に移行させることで、難流動性材料を金型内に射出して未充填部無く薄板形状に成形できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下に、本発明実施例の射出成形装置および射出成形方法を図1〜図8を参照して説明する。ただし、図7、図8は、本発明実施例の射出成形装置および射出成形方法と比較する比較例を示したものであり、本発明実施例の射出成形装置および射出成形方法を表すものではない。
本発明実施例の射出成形装置は、図1に示すように、難流動性材料Aを成形用金型10内に射出プレス成形する装置であって、難流動性材料Aの射出中のある時点における難流動性材料Aの衝突跳ね返り飛散距離(衝突跳ね返り飛散位置でもよい。以下同じ。)Lを推定し、衝突跳ね返り飛散距離Lと射出速度IVとの対応関係のうち前記推定した衝突跳ね返り飛散距離に対応付けられた射出速度を特定し、この特定した射出速度にて射出する装置である。なお、難流動性材料Aの射出中のある時点における衝突跳ね返り飛散距離の推定は、成形用金型10内への難流動性材料Aの充填量等に応じて推定される。
成形用金型10は、難流動性材料Aを射出プレスする金型である。成形用金型10は、固定型11と、固定型11に対して可動な可動型12と、型閉状態で固定型11と可動型12とで囲まれた空間からなる製品成形用のキャビティ13と、難流動性材料Aを射出するためのゲート部14と、を備える。
【0008】
成形用金型10は、たとえば、燃料電池のカーボンセパレータ20の成形用金型である。成形用金型10がカーボンセパレータ20成形用の金型である場合、成形用金型10によって成形される製品(カーボンセパレータ20)には、一面に燃料ガス(水素)または酸化剤ガス(エア)の反応ガス流路が形成され、反対側の面に冷媒流路が形成される。ただし、成形用金型10は、カーボンセパレータ20成形用の金型に限定されるものではなく、薄板(厚みが5mm以下、望ましくは3mm以下、更に望ましくは2mm以下の、薄板)形状を成形するための金型であればよく、たとえば、放熱板、ヒートシンク、板状プラスチックマグネット等を成形するための金型であってもよい。
可動型12は、固定型11に対して、キャビティ13の容積が最終製品容積SE以上である第1の型締位置12b(第1の型締状態のキャビティ13容積をS1とすると、S1≧SE)と、キャビティ13の容積が最終製品容積SEと等しくなる最終型締位置12c(最終型締状態のキャビティ13容積をS3とすると、S3=SE)とに可動である。
ゲート部14は、通常、固定型11側に設けられる。
【0009】
難流動性材料Aは、たとえば、液晶ポリマー(熱可塑性樹脂)をベースとした導電フィラー(黒鉛、黒鉛系材料)を80wt%以上添加した高粘度な材料である。ただし、難流動性材料Aは上記に限定されるものではなく、たとえば、液晶ポリマーをベースとした熱伝導フィラーを80wt%以上添加した高粘度な材料であってもよく、液晶ポリマーをベースとした高磁性フィラーを80wt%以上添加した高粘度な材料であってもよい。難流動性材料Aは加熱して液晶ポリマーが溶融している状態で、ゲート部14を通してキャビティ13に射出される。ゲート14から射出された難流動性材料Aは、可動型12のゲート14直下面12aに衝突し粉状になる。難流動性材料Aは、直下面12aに衝突して反射しようとするが、更に射出される難流動性材料Aに押されるため、粉状に直下面12a上を走りキャビティ13外周側端に向って飛散する。このキャビティ13外周側端に向って飛散する距離を「衝突跳ね返り飛散距離」または単に「飛散距離」という。難流動性材料Aは高粘度であるため非常に流れ性が悪いが、粉状に飛散させることにより、キャビティ13の外周側端まで充填(飛散)させることができる。
難流動性材料Aの、衝突跳ね返り飛散距離Lと射出速度IVとの関係、および射出速度の設定(特定)については後述する。
【0010】
つぎに、本発明実施例の射出成形方法を説明する。
本発明実施例の射出成形方法は、本発明実施例の射出成形装置を用いて製品(たとえば、カーボンセパレータ20)を成形する射出成形方法である。
本発明実施例の射出成形方法は、難流動性材料Aの衝突跳ね返り飛散距離Lを、金型キャビティ13内に充填される射出速度IVで換算し、金型キャビティ13の外周部から順次内部に向って難流動性材料Aが充填されるように設定した射出速度パターンに基づいて、予め設定した第1の型締位置12bで金型10を保持させた状態で、難流動性材料Aを金型キャビティ13内に射出充填し、最終型締位置12cに移行させる方法である。
難流動性材料Aをキャビティ13に射出する際、キャビティ13内は減圧されていることが望ましい。キャビティ13内にエアが取り残されることを防止できるからである。
最終型締位置12cに移行させるタイミング(プレスのタイミング)は、特に規定するものではないが、充填開始後から充填完了前の任意のタイミングであってもよく、充填完了後から完全に難流動性材料Aが固化するまでの任意のタイミングであってもよい。ただし、充填完了後即プレスすることが望ましい。
【0011】
つぎに、射出速度の定め方(特定方法、射出速度パターンの設定)について説明する。
(a)射出速度と型締位置の関係(図4)
型締位置が大きいつまり型開量が大きいほど、キャビティ13内の空間が広くなり、その空間が広いほど難流動性材料Aは直下面12aに衝突した後キャビティ13外周側に飛散しやすくなる。しかし、キャビティ13内の空間が広すぎるとゲート14から射出された難流動性材料Aがキャビティ13の外周側端まで届かなくなる。また、キャビティ13内の空間が狭すぎても難流動性材料Aがキャビティ13の外周側端まで届かない。
また、射出速度IVが速いほど難流動性材料Aはキャビティ13外周側に飛散する。
したがって、型締位置―射出速度IVの関係は図4に示すようになる。
(b)図4に示す飛散領域内の任意点における射出速度と飛散距離との関係(図5)
射出速度IVが速いほど難流動性材料Aは飛散し飛散距離Lも長くなる。飛散時は金型10との摩擦を受けるために、飛散距離Lには限界がある。またその摩擦のために、低射出速度域は飛散距離Lも小さく、ある速度から急激に飛散距離Lが大きくなる。
したがって、飛散距離L―射出速度IVの関係は図5に示すようになる。
(c)射出速度と時間の関係(図6)
図5の関係から、飛散距離Lにあわせて射出速度IVを制御する。難流動性材料Aが飛散するにつれて難流動性材料Aがキャビティ13外周側に充填されていき、徐々に難流動性材料Aの飛散距離Lが短くなるため(L1>L2>L3)、射出速度IVも減速させる(IV1>IV2>IV3)。その結果、図6に示すような射出速度パターンが設定される。なお、図5、図6のグラフは、型開き量、金型温度、難流動性材料Aの温度で変わり得る。
上記図5、図6のグラフは、成形用金型10を用いて燃料電池のカーボンセパレータ20を成形する場合のグラフであるため、金型の材料が成形用金型10の材料とは異なる場合、又はカーボンセパレータ20の形状(厚み、大きさ)が異なる場合、図5、図6とは異なるグラフになる。
【0012】
定めた射出速度パターンについて、図7を参照して、説明する。
ある型開き量、ある金型温度、ある難流動性材料温度のときの、射出速度パターンを設定しない場合の、所定射出速度(図7では400mm/s)までの到達時間をT1、所定射出速度完了までの時間をT2、射出完了までの時間をT3とする。また、同じ型開き量、同じ金型温度、同じ難流動性材料温度のときの、射出速度パターンを設定した場合の、所定射出速度(図7では400mm/s)までの到達時間をt1、所定射出速度完了までの時間をt2、射出完了までの時間をt3とする。その場合、T1=t1、T2>t2、T3<t3となる。
したがって、射出速度パターンを設定した場合には、射出速度パターンを設定しない場合に比べて、減速時に緩やかに減速していることがわかる。減速時の速度制御は、特に限定するものではないが、射出成形装置の駆動を油圧で行う場合にはバルブの開度にて行い、射出成形装置の駆動をサーボモータで行う場合にはサーボモータにて行う。
【0013】
図1、図2は、図3に示すような射出速度パターンを設定し射出速度を制御した場合を示している。また、図8は、図7の実線にて示すように射出速度を制御しない場合(比較例)を示している。なお、図1、図2の場合、図7の場合ともに、以下の条件下で射出プレス成形を行った。
・材料:黒鉛80wt%の液晶ポリマー(熱可塑性樹脂)20wt%を二軸押出機にて混練したものを使用
・板厚:2mmのセパレータ金型
・成形機:宇部興産機械製350t横型超高速電動射出成形機(スクリュウ径φ52)を使用
・計量条件:スクリュウ回転25rpm、背圧5Mpa
・金型温度:200℃
・S1時の第1の型締位置:4mm
・充填完了後350tでプレス
この結果から、図3のような射出条件を設定することにより、図2に示すように良好な製品20を成形できることがわかった。また、図7の実線にて示すように速度制御しない場合には(飛散距離Lに合わせて射出速度IVを減速させない場合には)、難流動性材料Aがキャビティ13外周部にのみ詰まった状態になり(キャビティ13外周部で難流動性材料Aが高密度に存在している状態になり)、図8に示すようにゲート部14付近のないドーナツ型の製品になった。
【0014】
つぎに、本発明実施例の作用を説明する。
本発明実施例の射出成形装置では、射出中のある時点における難流動性材料Aの射出させるべき衝突跳ね返り飛散距離を推定し、衝突跳ね返り飛散距離Lと射出速度IVとの対応関係のうち前記推定した衝突跳ね返り飛散距離に対応付けられた射出速度を特定し、当該特定した射出速度にて射出するため、金型10に衝突して跳ね返った粉状の難流動性材料Aをキャビティ13外周側端まで飛散させてキャビティ13外周部を充填でき、難流動性材料Aでゲート部14付近をも充填できる。そのため、難流動性材料Aを金型10内に射出して未充填部無く薄板形状に成形できる。
【0015】
難流動性材料Aの衝突跳ね返り飛散距離Lと射出速度IVとの関係に基づいて難流動性材料Aの射出速度が定められているので、金型10の直下面12aに衝突して跳ね返った粉状の難流動性材料Aをキャビティ13外周側端まで飛散させてキャビティ外周部を充填することができる。また、難流動性材料Aの射出速度を定めて金型キャビティ13の外周部から順次内部に向って難流動性材料Aが充填されるようにしているため、難流動性材料Aでゲート部14付近をも充填できる。そのため、難流動性材料Aを金型10内に射出して未充填部無く薄板形状に成形できる。
【0016】
本発明実施例の射出成形方法では、設定した射出速度パターンに基づいて第1の型締位置S1で金型10を保持させた状態で難流動性材料Aをキャビティ13内に射出するので、射出された難流動性材料Aは直下面12aに衝突し粉状にキャビティ13の外周側端まで飛散する。そのため、難流動性材料Aでキャビティ13の外周部を充填できる。
また、射出速度パターンの設定がキャビティ13の外周部から順次内部に向って難流動性材料Aが充填されるようになっているので、難流動性材料Aでゲート部14付近をも充填できる。
したがって、充填完了前あるいは完了後の任意のタイミングで最終型締位置に移行させることで、難流動性材料Aを金型10内に射出して未充填部無く薄板形状に成形できる。
【0017】
難流動性材料Aが熱可塑性樹脂に黒鉛系材料を80wt%以上添加させたものであるため、難流動性材料Aで導電性を有する製品を成形できる。
製品が燃料電池のカーボンセパレータである場合には、複雑な形状のカーボンセパレータを製作できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明実施例の射出成形装置および射出成形方法を示す、断面図である。
【図2】本発明実施例の射出成形装置および射出成形方法にて成形された製品の斜視図である。ただし、ゲート部部分で成形された三角形状部が付いた状態である。
【図3】本発明実施例の射出成形装置および射出成形方法の、射出速度パターンのグラフである。
【図4】射出速度と型締位置の関係を示すグラフである。
【図5】射出速度と飛散距離の関係を示すグラフである。
【図6】本発明実施例の射出成形装置および射出成形方法の、図5の関係から飛散距離に合わせて射出速度を制御した場合の、射出速度パターンのグラフである。
【図7】本発明実施例の比較例を示しており、射出速度パターンを設定しない場合を実線で、射出速度パターンを設定する場合を点線で示したグラフである。
【図8】本発明実施例の比較例を示しており、射出速度パターンを設定しない場合の製品の斜視図である。
【符号の説明】
【0019】
10 成形用金型
11 固定型
12 可動型
12a 直下面
12b 第1の型締位置
12c 最終型締位置
13 キャビティ
14 ゲート部
20 製品(カーボンセパレータ)
A 難流動性材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
難流動性材料を金型内に射出プレス成形する射出成形装置であって、
射出中のある時点における前記難流動性材料の射出させるべき衝突跳ね返り飛散距離または衝突跳ね返り飛散位置を推定し、衝突跳ね返り飛散距離と射出速度との対応関係のうち前記推定した衝突跳ね返り飛散距離または衝突跳ね返り飛散位置に対応付けられた射出速度を特定し、当該特定した射出速度にて射出する射出成形装置。
【請求項2】
前記難流動性材料の射出させるべき衝突跳ね返り飛散距離または衝突跳ね返り飛散位置の推定は、前記金型内への前記難流動性材料の充填量に応じて推定される請求項1記載の射出成形装置。
【請求項3】
難流動性材料を金型内に射出プレス成形する射出成形装置であって、
前記難流動性材料の衝突跳ね返り飛散距離と射出速度との関係に基づいて前記難流動性材料の射出速度を定め、金型キャビティの外周部から順次内部に向って難流動性材料が充填されるようにした射出成形装置。
【請求項4】
前記難流動性材料は熱可塑性樹脂に黒鉛系材料を80wt%以上添加させたものである請求項1または請求項3記載の射出成形装置。
【請求項5】
前記射出成形装置は燃料電池のカーボンセパレータ成形用の射出成形装置である請求項1または請求項3記載の射出成形装置。
【請求項6】
難流動性材料の衝突跳ね返り飛散距離を、金型キャビティ内に充填される射出速度で換算し、金型キャビティの外周部から順次内部に向って難流動性材料が充填されるように設定した射出速度パターンに基づいて、予め設定した第1の型締位置で金型を保持させた状態で、難流動性材料を金型キャビティ内に射出充填し、充填完了前あるいは完了後の任意のタイミングで最終型締位置に移行させる射出成形方法。
【請求項7】
前記難流動性材料は熱可塑性樹脂に黒鉛系材料を80wt%以上添加させたものである請求項6記載の射出成形方法。
【請求項8】
前記射出成形方法は燃料電池のカーボンセパレータ成形用の射出成形方法である請求項6記載の射出成形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−176026(P2007−176026A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−377539(P2005−377539)
【出願日】平成17年12月28日(2005.12.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(300041192)宇部興産機械株式会社 (268)
【Fターム(参考)】