説明

射出成形金型、射出成形品及び射出成形方法

【課題】高い面精度が要求される高品質要求面の一部のみが、他の部分よりも高い面精度を要求されている射出成形品において、他の部分よりも高い面精度を要求されている部分に発生するヒケを、要求される面精度が低い他の部分よりも抑制すること。
【解決手段】
成形空間へ射出されて固化した溶融樹脂により形成される射出成形品を製造する射出成形金型が備え、射出成形品が有する高品質要求面と対応する高品質要求面形成用入れ子6を、高品質要求面のうち高面精度要求部に対応する第一入れ子部材12と、高品質要求面のうち高面精度要求部よりも要求される面精度が低い部分である高面精度非要求部に対応し、且つ第一入れ子部材12よりも熱伝導率が低い第二入れ子部材14を備える構成とし、第一入れ子部材12と第二入れ子部材14とを連結して、第一入れ子部材12及び第二入れ子部材14を成形空間と対向させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、光学プリズム等、一つの面の一部のみに形成された、高い面精度が要求される高面精度要求部を有する射出成形品と、その射出成形品を製造する射出成形金型及び射出成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、光学素子(プリズム)のような、高い面精度(平面度等)を要求される高品質要求面を有する射出成形品を製造する射出成形金型としては、例えば、特許文献1に開示されているものがある。
特許文献1に開示されている射出成形金型は、ベース部材上に形成されて成形型を構成する表面層を有しており、この表面層は、ベース部材よりも熱伝導率が小さくなるように形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005‐238631号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、射出成形品(光学プリズム)には、高品質要求面の中心及びその周辺部分等、高品質要求面の一部のみが、他の部分よりも高い面精度を要求されているものがある。
そして、特許文献1に開示されている射出成形金型では、成形型のうち、射出成形品の意匠面を成形する面の全体に、ベース部材よりも熱伝導率が小さい表面層を設けることにより、射出成形品の意匠面における金型との熱交換を均一化している。
【0005】
このため、特許文献1に開示されている射出成形金型では、高品質要求面における金型との熱交換が均一化されることとなる。したがって、上述したような、高品質要求面の一部のみが、他の部分よりも高い面精度を要求されている射出成形品の製造に関しては、高品質要求面のうち、他の部分よりも高い面精度を要求されている部分で発生するヒケを、他の部分に発生するヒケよりも抑制することは困難である。
本発明の課題は、高い面精度が要求される高品質要求面の一部のみが、他の部分よりも高い面精度を要求されている射出成形品において、他の部分よりも高い面精度を要求されている部分に発生するヒケを、要求される面精度が低い他の部分よりも抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以上の課題を解決するため、本発明の一態様に係る射出成形金型(例えば、図1の射出成形金型1)は、型閉じ及び型開きが可能な一組の金型(例えば、図1の固定側金型2と可動側金型4)のうち少なくとも一方に取り付けられている高品質要求面形成用入れ子(例えば、図1の高品質要求面形成用入れ子6)と、前記型閉じ状態において前記高品質要求面形成用入れ子を含む前記一組の金型間に形成され、且つ溶融樹脂(例えば、図3の溶融樹脂R)が射出される成形空間を形成する成形空間形成部(例えば、図1の、固定側開口部8の内壁面、可動側金型4のうち固定側開口部8と対向する面、高品質要求面形成用入れ子6のうち固定側開口部8と対向する面)と、を備え、前記高品質要求面形成用入れ子は、前記成形空間と対向する第一入れ子部材(例えば、図2の第一入れ子部材12)と、当該第一入れ子部材よりも熱伝導率が低く且つ前記第一入れ子部材に連結されて前記成形空間と対向する第二入れ子部材(例えば、図2の第二入れ子部材14)と、を備えることを特徴としている。
【0007】
このような構成により、成形空間へ射出されて表面が固化した溶融樹脂の内部における固化の進行は、第一入れ子部材と接触している部分よりも、第二入れ子部材と接触している部分で遅くなる。
これにより、内部の固化が進行する際に溶融樹脂に発生する収縮のうち、高品質要求面形成用入れ子と接触している面に発生する収縮を、第二入れ子部材と接触している部分に集中して発生させることが可能となる。
このため、内部の固化が進行する溶融樹脂のうち、高品質要求面形成用入れ子と接触している面において、第一入れ子部材と接触している部分に発生するヒケを抑制することが可能となるため、射出成形品の品質を向上させることが可能となる。
【0008】
また、本発明の一態様に係る射出成形金型は、前記高品質要求面形成用入れ子は、前記第一入れ子部材及び前記第二入れ子部材のうち前記成形空間と対向する面を覆う層である入れ子表層部(例えば、図2の入れ子表層部16)を備えることを特徴としている。
このような構成により、第一入れ子部材と第二入れ子部材との間に段差が形成されている場合であっても、内部の固化が進行する溶融樹脂の、高品質要求面形成用入れ子と接触している面のうち、第一入れ子部材と第二入れ子部材との連結部分と対応する位置に段差が形成されることが抑制される。
これにより、第一入れ子部材と第二入れ子部材との連結部分に段差が形成されている場合であっても、内部の固化が進行する溶融樹脂の、高品質要求面形成用入れ子と接触している面を、要求される高い面精度を有する面に形成することが可能となる。
【0009】
また、本発明の一態様に係る射出成形金型は、前記入れ子表層部の熱伝導率は、前記第一入れ子部材の熱伝導率よりも高いことを特徴としている。
このような構成により、入れ子表層部を形成する材料として、第一入れ子部材を形成する材料よりも熱伝導率が低い材料を用いた場合と比較して、内部の固化が進行する溶融樹脂の、高品質要求面形成用入れ子と接触している面における、第一入れ子部材との熱交換による冷却を、第二入れ子部材との熱交換による冷却よりも早く進行させることが可能となる。
【0010】
これにより、第一入れ子部材と第二入れ子部材との連結部分に段差が形成されている場合であっても、この段差を入れ子表層部により抑制することが可能であるとともに、内部の固化が進行する際に溶融樹脂に発生する収縮のうち、高品質要求面形成用入れ子と接触している面に発生する収縮を、第二入れ子部材と接触している部分に集中して発生させることが可能となる。
【0011】
また、本発明の一態様に係る射出成形金型は、前記入れ子表層部の熱伝導率は、前記第一入れ子部材の熱伝導率以下であり且つ前記第二入れ子部材の熱伝導率よりも高いことを特徴としている。
このような構成により、入れ子表層部の熱伝導率を、第一入れ子部材の熱伝導率よりも高くした場合と比較して、入れ子表層部を形成する材料の選択肢が増加する。
これにより、射出成形金型の設計自由度を向上させることが可能となる。
【0012】
また、本発明の一態様に係る射出成形品(例えば、図5の射出成形品P)は、固化した溶融樹脂により形成され、高品質要求面(例えば、図5の高品質要求面P1)と、当該高品質要求面よりも面精度が低い高品質非要求面(例えば、図5の高品質非要求面P2)と、を有し、前記高品質要求面は、高面精度要求部(例えば、図5の高面精度要求部A1)と、当該高面精度要求部よりも面精度が低い高面精度非要求部(例えば、図5の高面精度非要求部A2)と、を有することを特徴としている。
【0013】
このような構成により、溶融樹脂の内部の固化が進行する際に高品質要求面で発生する収縮を、高品質要求面のうち高面精度非要求部に集中して発生させることが可能となるため、高面精度要求部の面精度を優先して向上させることが可能となる。
これにより、高品質要求面のうち、高面精度非要求部よりも高い面精度を要求されている高面精度要求部に発生するヒケを、高面精度非要求部よりも抑制することが可能となるため、射出成形品の品質を向上させることが可能となる。
【0014】
また、本発明の一態様に係る射出成形品は、前記高面精度要求部は、前記高品質要求面の中心及びその周辺を形成し、前記高面精度非要求部は、前記高品質要求面のうち前記高面精度要求部よりも高品質要求面の中心から離れた部分を形成し、前記高面精度非要求部の面精度は、前記高面精度要求部と前記高面精度非要求部との境界から離れるほど低下していることを特徴としている。
【0015】
このような構成により、高面精度非要求部の面精度は、高面精度要求部と高面精度非要求部との境界から離れるほど低下する
これにより、高品質要求面のうち、中心から離れた部分、すなわち、高い面精度が要求されない部分に発生するヒケが大きい射出成形品を製造することが可能となり、射出成形品に要求されている品質の低下を抑制することが可能となる。
【0016】
また、本発明の一態様に係る射出成形方法は、型閉じ及び型開きが可能な一組の金型のうち少なくとも一方に取り付けられている高品質要求面形成用入れ子を含む前記一組の金型間に前記型閉じ状態において形成されている成形空間へ、溶融樹脂を射出する射出工程と、前記射出工程において前記成形空間へ射出された前記溶融樹脂を前記高品質要求面形成用入れ子と接触した状態で冷却して固化させる冷却工程と、を有し、前記冷却工程では、前記高品質要求面形成用入れ子が備える第一入れ子部材、及び当該第一入れ子部材よりも熱伝導率が低い第二入れ子部材と接触した状態の前記溶融樹脂を、前記第一入れ子部材及び前記第二入れ子部材との熱交換で冷却して固化させることを特徴としている。
【0017】
このような構成により、冷却工程において、成形空間へ射出されて表面が固化した溶融樹脂の内部における固化の進行は、第一入れ子部材と接触している部分よりも、第二入れ子部材と接触している部分で遅くなる。
これにより、冷却工程において、内部の固化が進行する際に溶融樹脂に発生する収縮のうち、高品質要求面形成用入れ子と接触している面に発生する収縮を、第二入れ子部材と接触している部分に集中して発生させることが可能となる。
このため、内部の固化が進行する溶融樹脂のうち、高品質要求面形成用入れ子と接触している面において、第一入れ子部材と接触している部分に発生するヒケを抑制することが可能となり、射出成形品の品質を向上させることが可能となる。
【0018】
また、本発明の一態様に係る射出成形方法は、前記冷却工程では、前記第一入れ子部材及び前記第二入れ子部材のうち前記成形空間と対向する面を覆う層である入れ子表層部と接触した状態の前記溶融樹脂を、前記入れ子表層部を介して前記第一入れ子部材及び前記第二入れ子部材との熱交換で冷却して固化させることを特徴としている。
このような構成により、第一入れ子部材と第二入れ子部材との間に段差が形成されている場合であっても、冷却工程において、内部の固化が進行する溶融樹脂の、高品質要求面形成用入れ子と接触している面のうち、第一入れ子部材と第二入れ子部材との連結部分と対応する位置に段差が形成されることが抑制される。
これにより、第一入れ子部材と第二入れ子部材との連結部分に段差が形成されている場合であっても、冷却工程において、内部の固化が進行する溶融樹脂の、高品質要求面形成用入れ子と接触している面を、要求される高い面精度を有する面に形成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】射出成形金型の概略構成を示す図である。
【図2】高品質要求面形成用入れ子の構成を示す図である。
【図3】射出工程において溶融樹脂を成形空間へ射出した状態の、射出成形金型の概略構成を示す図である。
【図4】取り出し工程において固定側金型と可動側金型を型開き状態とした状態の、射出成形金型の概略構成を示す図である。
【図5】射出成形品の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を用いて、本発明に係る射出成形品と、射出成形金型及び射出成形方法の実施の形態(実施形態)を説明する。
(第一実施形態)
(構成)
まず、図1及び図2を用いて、第一実施形態における、射出成形金型の構成について説明する。
図1は、射出成形金型1の概略構成を示す図であり、射出成形金型1の断面図である。
図1中に示す射出成形金型1は、型閉じ及び型開きが可能な一組の金型が、型閉じ状態である場合において、一組の金型間に形成される成形空間(キャビティ)内に溶融樹脂を射出し、この射出した溶融樹脂を固化させて射出成形品を製造する装置である。なお、成形空間に関する説明は、後述する。
【0021】
ここで、第一実施形態では、一例として、射出成形品が、光の透過性を有しており、断面形状が直角三角形または略直角三角形であるプリズム形状である場合について説明する。これは、例えば、印刷機(プリンター)が備えるインクカートリッジに設けた、インク残量を検出するために光を透過させる部品である。
このため、第一実施形態では、溶融樹脂材料として、透明な樹脂を用いる場合について説明する。なお、射出成形品及び溶融樹脂材料の構成は、上記の構成に限定するものではない。
【0022】
ここで、溶融樹脂材料としては、例えば、ABS(Acrylonitrile・Butadiene・Styrene共重合合成樹脂)、PS(polystyrene)、AS(Acrylonitrile・Stylene共重合化合物)、PMMA(Poly Methyl Methacrylate)、PC(Polycarbonate)、環状オレフィン系等の樹脂を用いることが可能である。
【0023】
また、上記のように、射出成形品を、光を透過させる部品とする場合、この射出成形品には、少なくとも光の入射面や出射面を形成する面(機能面)が、所望の形状からの変化度合いが少ない面であることが要求される。これは、例えば、射出成形品の面(機能面)に、所望の形状として平面が設定されている場合に、この面(機能面)には、凹凸や表面粗さ等の変化度合いが少ない面であることが要求されることを意味している。
したがって、第一実施形態では、射出成形品を、一例として、固化した溶融樹脂により形成され、高い面精度を要求される機能面である高品質要求面と、高品質要求面よりも面精度が低い高品質非要求面を有する光学プリズムとした場合を説明する。
【0024】
さらに、第一実施形態では、射出成形品の構成を、高品質要求面の一部のみ、具体的には、高品質要求面の中心及びその周辺部分のみが、高品質要求面の他の部分よりも高い面精度として、高い平面度を要求されている高面精度要求部である場合を説明する。これに伴い、第一実施形態では、高品質要求面のうち、高面精度要求部以外の部分(他の部分)を、高面精度非要求部と記載する。
【0025】
射出成形金型1は、図1中に示すように、上述した一組の金型として、固定側金型2と、可動側金型4を備えている。これに加え、射出成形金型1は、高品質要求面形成用入れ子6を備えている。なお、図1中では、型閉じ状態の射出成形金型1を示している。
固定側金型2は、ボルト等を用いて、射出成形金型1を保持するための固定盤(図示せず)に取り付けられており、その内部に、固定側開口部8と、入れ子収容空隙部10と、樹脂通路(図示せず)が設けられている。
【0026】
固定側開口部8は、溶融樹脂を充填する空間であり、固定側金型2のうち、可動側金型4と対向する面(図1中では、下側の面)に開口している。
入れ子収容空隙部10は、高品質要求面形成用入れ子6を内部に収容可能な空間であり、固定側開口部8と連続している。
樹脂通路は、溶融樹脂が移動可能に形成されている。また、樹脂通路の一端側は、固定側開口部8に開口しており、樹脂通路の他端側は、図外の樹脂射出装置に連通している。
樹脂射出装置は、射出成形品の容積・形状等に応じて、溶融樹脂材料(固形樹脂材料等)を計量・可塑化し、この計量・可塑化した溶融樹脂を、樹脂通路へ射出する装置である。
【0027】
また、固定側金型2は、固定側開口部8内へ突出可能なエジェクターピン(図示せず)を有している。このエジェクターピンは、固定側開口部8内に突出していない状態が通常の状態である。
なお、エジェクターピンを駆動させるための具体的な構成例としては、例えば、エジェクターピン及び公知のリターンピンが設けられた上側板材と、エジェクターピン及びリターンピンを押さえて固定するための下側板材を備えた構成がある。この場合、射出成形金型1が有する公知のエジェクター装置により、固定側開口部8内へエジェクターピンを突出させ、固定側開口部8内で固化させた射出成形品を取り出すこととなる。
【0028】
可動側金型4は、図外の駆動機構に連結されており、駆動機構が発生する駆動力を用いて、上下方向(図1中における上下方向)へ移動可能に形成されている。なお、駆動機構とは、例えば、モーターの回転運動を用いた機械式のものや、油等の液体に圧力を加えた液圧式のものがある。
高品質要求面形成用入れ子6は、平板状に形成されており、入れ子収容空隙部10内へ収容されている。なお、第一実施形態では、一例として、射出成形金型1の構成を、高品質要求面形成用入れ子6を一つのみ備えた構成とする。
【0029】
ここで、第一実施形態では、上述したように、射出成形品の構成を、高品質要求面と高品質非要求面を有し、断面形状が直角三角形または略直角三角形であるプリズム形状としている。
このため、第一実施形態では、固定側金型2と、可動側金型4と、高品質要求面形成用入れ子6を、型閉じ及び型開きが可能な一組の金型、すなわち、固定側金型2と可動側金型4が型閉じ状態である場合において、固定側開口部8の内壁面と、可動側金型4のうち固定側開口部8と対向する面と、高品質要求面形成用入れ子6のうち固定側開口部8と対向する面との間に形成される成形空間が、断面形状が直角三角形または略直角三角形であるプリズム形状に対応するように形成する。
【0030】
すなわち、第一実施形態では、固定側開口部8の内壁面と、可動側金型4のうち固定側開口部8と対向する面と、高品質要求面形成用入れ子6のうち固定側開口部8と対向する面が、成形空間を形成する成形空間形成部を構成している。したがって、第一実施形態の射出成形金型1は、型閉じ状態において高品質要求面形成用入れ子6を含む固定側金型2と可動側金型4との間に形成され、溶融樹脂が射出される成形空間を形成する成形空間形成部を備えている。
【0031】
ここで、第一実施形態では、射出成形品が有する面のうち、成形空間内において高品質要求面形成用入れ子6と対向する面を、所望の形状として平面が設定されており、凹凸や表面粗さ等の変化度合いが少なく、高い面精度を要求される機能面である高品質要求面とする。これに伴い、第一実施形態では、射出成形品が有する面のうち、成形空間内において高品質要求面形成用入れ子6と対向しない面を、高品質要求面よりも面精度が低い高品質非要求面とする。
【0032】
また、高品質要求面形成用入れ子6は、図2中に示すように、第一入れ子部材12と、二つの第二入れ子部材14と、入れ子表層部16を備えている。なお、図2は、高品質要求面形成用入れ子6の構成を示す図であり、図2(a)は、図1のII線矢視図、図2(b)は、図2(a)のB線矢視図である。また、図2中では、説明のために、高品質要求面形成用入れ子6以外の図示を省略している。
【0033】
第一入れ子部材12は、六面体に形成されており、固定側開口部8と対向する面が、平面に形成されている。これは、上述したように、第一実施形態では、射出成形品の高面精度要求部が、高品質要求面の他の部分よりも高い面精度として、高い平面度を要求されているためである。なお、第一実施形態では、第一入れ子部材12を、直方体に形成した場合を説明する。
なお、第一実施形態では、第一入れ子部材12を形成する材料として、銅合金を用いた場合を説明する。
【0034】
二つの第二入れ子部材14は、共に、六面体に形成されており、固定側開口部8と対向する面が、平面に形成されている。すなわち、第一入れ子部材12の固定側開口部8と対向する面と、第二入れ子部材14の固定側開口部8と対向する面は、同一平面を形成している。なお、第一実施形態では、二つの第二入れ子部材14を、直方体に形成した場合を説明する。
【0035】
また、二つの第二入れ子部材14は、それぞれ、第一入れ子部材12を挟んで対向した状態で、金属接合等の方法を用いて、第一入れ子部材12に連結されている。さらに、第二入れ子部材14の固定側開口部8と対向する面は、第一入れ子部材12の固定側開口部8と対向する面と連続している。なお、第一入れ子部材12と第二入れ子部材14とを連結する方法としては、金属接合以外に、例えば、第一入れ子部材12及び第二入れ子部材14の内部にボルトを挿通する方法を用いてもよい。
これにより、第一入れ子部材12が、高品質要求面形成用入れ子6のうち、射出成形品の高面精度要求部と対応する部分を形成することとなる。これに加え、第二入れ子部材14が、高品質要求面形成用入れ子6のうち、射出成形品の高面精度非要求部と対応する部分を形成することとなる。
【0036】
また、第二入れ子部材14は、第一入れ子部材12を形成する材料よりも熱伝導率が低い材料で形成されている。すなわち、第二入れ子部材14の熱伝導率は、第一入れ子部材12の熱伝導率よりも低くなっている。
ここで、第一実施形態では、上記のように、第一入れ子部材12を形成する材料として銅合金を用いているため、第二入れ子部材14を形成する材料として、第一入れ子部材12を形成する銅合金よりも熱伝導率が低い材料である、鉄を用いた場合を説明する。
なお、第二入れ子部材14を形成する材料は、鉄に限定するものではなく、例えば、セラミックやタングステン等、第一入れ子部材12を形成する材料よりも熱伝導率が低い材料であればよい。
【0037】
入れ子表層部16は、連結した第一入れ子部材12及び各第二入れ子部材14のうち、固定側開口部8と対向する面に形成されており、連結した第一入れ子部材12及び各第二入れ子部材14ののうち成形空間と対向する面を覆う層である。すなわち、第一入れ子部材12及び各第二入れ子部材14は、入れ子表層部16を間に挟んで、成形空間と対向している。
【0038】
入れ子表層部16を形成する方法としては、例えば、めっき、スパッタリング、溶射等の、表面皮膜の生成方法として一般的な方法を用いる。また、入れ子表層部16を形成する方法としては、表面皮膜の生成方法以外に、例えば、厚さの平均値が1[mm]以下(好ましくは、数[μm]〜数十[μm]の範囲内)の金属を、拡散接合や接着等により貼り付ける方法を用いてもよい。
【0039】
入れ子表層部16の厚さ(膜厚)は、入れ子表層部16の固定側開口部8と対向する面が、高品質要求面に要求される高い面精度に応じた面となる厚さである。このような厚さの入れ子表層部16は、例えば、第一入れ子部材12及び各第二入れ子部材14に入れ子表層部16を形成した後、入れ子表層部16の固定側開口部8と対向する面に研磨や切削等の加工を行うことにより形成する。
なお、第一実施形態では、一例として、入れ子表層部16の厚さの平均値を、数[μm]〜数十[μm]の範囲内とした場合を説明する。
【0040】
また、第一実施形態では、一例として、入れ子表層部16を形成する材料として、第一入れ子部材12を形成する銅(Cu)合金よりも熱伝導率が高い材料である、銀(Ag)を用いた場合を説明する。すなわち、入れ子表層部16の熱伝導率は、第一入れ子部材12及び第二入れ子部材14の熱伝導率よりも高くなっている。
【0041】
(射出成形方法)
次に、図1及び図2を参照しつつ、図3及び図4を用いて、上述した構成の射出成形金型1を用いて、射出成形品を製造する工程について説明する。
第一実施形態では、射出成形品を製造する際に、射出工程と、保圧工程と、冷却工程と、取り出し工程を有する、射出成形方法を用いる。
【0042】
(射出工程、保圧工程及び冷却工程)
以下、射出工程、保圧工程及び冷却工程における射出成形金型1の動作を説明する。なお、以下の説明は、型閉じ及び型開きが可能な一組の金型、すなわち、固定側金型2と可動側金型4が型開き状態である状態を前提とする。
射出工程は、上述した成形空間へ溶融樹脂を射出する工程であり、まず、可動側金型4を固定側金型2側へ移動させて、可動側金型4と固定側金型2とを接触させ、図1中に示すように、固定側金型2と可動側金型4を型閉じ状態とする。
【0043】
可動側金型4を移動させて、成形空間を射出成形品に応じた形状とした後、図3中に示すように、計量・可塑化した溶融樹脂Rを成形空間へ射出して、射出工程を終了し、保圧工程へ移行する。なお、図3は、射出工程において溶融樹脂を成形空間へ射出した状態の、射出成形金型1の概略構成を示す図であり、射出成形金型1の断面図である。
保圧工程では、可動側金型4の位置を保持して、成形空間において、射出工程で射出した溶融樹脂Rを保圧し、保圧工程を終了した後、冷却工程へ移行する。
【0044】
冷却工程では、上記の射出・保圧工程において成形空間へ射出された溶融樹脂Rを、高品質要求面形成用入れ子6と接触した状態で、高品質要求面形成用入れ子6を含む固定側金型2と、可動側金型4との熱交換作用により冷却して固化させる。
具体的には、第一入れ子部材12及び第二入れ子部材14と接触した状態の溶融樹脂Rを、第一入れ子部材12及び第二入れ子部材14との熱交換で冷却して固化させる。
このとき、溶融樹脂Rには、内部の固化が進行する際に発生する収縮により、ヒケが発生する。
【0045】
ここで、第一実施形態の高品質要求面形成用入れ子6は、射出成形品の高面精度要求部と対応する部分を形成する第一入れ子部材12と、射出成形品の高面精度非要求部と対応する部分を形成し、第一入れ子部材12を形成する材料よりも熱伝導率が低い材料で形成されている第二入れ子部材14を備えている。
このため、冷却工程では、射出成形品の高品質要求面のうち、射出成形品の高面精度要求部となる部分における第一入れ子部材12との熱交換による冷却が、射出成形品の高面精度非要求部となる部分における第二入れ子部材14との熱交換による冷却よりも促進されることとなる。
【0046】
これにより、表面が固化した溶融樹脂Rの内部における固化の進行は、第一入れ子部材12と接触している部分、すなわち、射出成形品の高面精度要求部となる部分よりも、第二入れ子部材14と接触している部分、すなわち、射出成形品の高面精度非要求部となる部分で遅くなる。
したがって、第一実施形態の射出成形金型1及び射出成形方法であれば、内部の固化が進行する際に溶融樹脂Rに発生する収縮のうち、射出成形品の高品質要求面に発生する収縮を、第二入れ子部材14と接触している部分、すなわち、射出成形品の高面精度非要求部となる部分に集中して発生させることが可能となる。
【0047】
以上により、第一実施形態の射出成形金型1及び射出成形方法であれば、内部の固化が進行する溶融樹脂Rのうち、射出成形品の高品質要求面において、高面精度要求部に発生するヒケを抑制することが可能となる。
これにより、溶融樹脂Rの固化が完了して射出成形品が形成されると、高品質要求面のうち、高面精度要求部に形成されたシンクマーク(ひけマーク)の窪み量が、高面精度非要求部に形成されたシンクマークの窪み量よりも小さい状態の、射出成形品が形成される。射出成形品が形成されると、冷却工程を終了して、取り出し工程へ移行する。
【0048】
すなわち、固化した溶融樹脂Rにより形成された射出成形品の高品質非要求面では、高面精度要求部に形成されたシンクマークの窪み量が、高面精度非要求部に形成されたシンクマークの窪み量よりも大きいため、高面精度非要求部の面精度は、高面精度要求部の面精度よりも低くなる。
ここで、上記の「シンクマーク(ひけマーク)」とは、射出成形品の表面に形成された浅い窪みであり、成形空間内に射出された溶融樹脂が冷却されるに従って生じる局部的な内部収縮により、射出成形品の表面が窪むことで形成される部位である。
【0049】
また、第一実施形態の高品質要求面形成用入れ子6は、連結した第一入れ子部材12及び各第二入れ子部材14のうち、固定側開口部8と対向する面に、入れ子表層部16を形成した構成となっている。
すなわち、第一実施形態の射出成形方法では、冷却工程において、入れ子表層部16と接触した状態の溶融樹脂Rを、入れ子表層部16を介して第一入れ子部材12及び第二入れ子部材14との熱交換で冷却して固化させる。
【0050】
このため、冷却工程では、射出成形品の高品質要求面が、入れ子表層部16の固定側開口部8と対向する面、すなわち、高品質要求面に要求される高い面精度に応じた面と接触した状態で、溶融樹脂Rが固化することとなる。
したがって、第一実施形態の射出成形金型1及び射出成形方法であれば、第一入れ子部材12と第二入れ子部材14との連結部分に段差が形成されている場合であっても、射出成形品の高品質要求面を、要求される高い面精度を有する面に形成することが可能となる。
【0051】
また、第一実施形態の高品質要求面形成用入れ子6は、入れ子表層部16を形成する材料として、第一入れ子部材12及び第二入れ子部材14を形成する材料よりも熱伝導率が高い材料を用いている。
このため、入れ子表層部16を形成する材料として、第一入れ子部材12及び第二入れ子部材14を形成する材料よりも熱伝導率が低い材料を用いた場合と比較して、射出成形品の高品質要求面における、第一入れ子部材12との熱交換による冷却を、第二入れ子部材14との熱交換による冷却よりも早く進行させることが可能となる。
【0052】
また、第一実施形態の高品質要求面形成用入れ子6は、第一入れ子部材12の固定側開口部8と対向する面に入れ子表層部16を形成しているため、鉄等と比較して耐熱性の低い銅を用いて形成した第一入れ子部材12が、溶融樹脂Rと接触して劣化(損傷・変質等)することを抑制することが可能となる。
【0053】
(取り出し工程)
以下、取り出し工程における射出成形金型1の動作を説明する。
取り出し工程では、まず、型閉じ状態の固定側金型2及び可動側金型4に対し、可動側金型4を固定側金型2から離れる方向へ移動させて、図4中に示すように、可動側金型4と固定側金型2とを離間させ、固定側金型2と可動側金型4を型開き状態とする。なお、図4は、取り出し工程において固定側金型2と可動側金型4を型開き状態とした状態の、射出成形金型1の概略構成を示す図であり、射出成形金型1の断面図である。
【0054】
そして、固定側金型2と可動側金型4を型開き状態とした後、固定側開口部8内へエジェクターピンを突出させて、固定側開口部8内(成形空間内)で固化させた射出成形品Pを取り出して、射出成形品Pの製造を終了する。なお、図4中では、射出成形品Pの高品質要求面を、符号「P1」を付して示し、射出成形品Pの高品質非要求面を、符号「P2」を付して示している。
以上により、第一実施形態の射出成形方法であれば、冷却工程において内部の固化が進行する溶融樹脂Rのうち、射出成形品Pの高品質要求面P1において、高面精度要求部に発生するヒケを抑制することが可能となる。
これにより、射出成形品Pの品質を向上させることが可能となる。
【0055】
(射出成形品Pの構成)
次に、図1から図4を参照しつつ、図5を用いて、上述した構成の射出成形金型1及び射出成形方法を用いて製造した射出成形品Pの構成について説明する。
図5は、射出成形品Pの構成を示す図であり、図5(a)は、射出成形品Pの側面図、図5(b)は、図5(a)のB線矢視図である。
上述したように、射出成形品Pは、固化した溶融樹脂Rにより形成されており、図5中に示すように、高品質要求面P1と、高品質要求面P1よりも面精度が低い高品質非要求面P2を有している。
【0056】
また、図5中に示すように、高品質要求面P1は、高面精度要求部A1と、高面精度要求部A1よりも面精度が低い高面精度非要求部A2を有している。
高面精度要求部A1は、上述した射出成形金型1において、高品質要求面形成用入れ子6のうち、入れ子表層部16を間に挟んで第一入れ子部材12と対向する部分であり、高品質要求面P1の中心及びその周辺部分を形成している。なお、図5(b)中には、高面精度要求部A1のうち、射出成形品Pに要求される機能を実際に使用する範囲である実使用範囲A1Rを、点線で囲んだ領域で示している。また、図5(b)中には、高面精度要求部A1と高面精度非要求部A2との境界を、二本の破線で示している。
【0057】
高面精度非要求部A2は、上述した射出成形金型1において、高品質要求面形成用入れ子6のうち、入れ子表層部16を間に挟んで第二入れ子部材14と対向する部分であり、高品質要求面P1のうち、高面精度要求部A1以外の部分を形成している。
第一実施形態では、上述したように、射出成形品Pを製造する際に、冷却工程において、高面精度要求部A1となる部分における第一入れ子部材12との熱交換による冷却が、高面精度非要求部A2となる部分における第二入れ子部材14との熱交換による冷却よりも促進された状態で、溶融樹脂Rの内部における固化が進行する。
【0058】
このため、冷却工程において内部の固化が進行する際に溶融樹脂Rに発生する収縮のうち、高品質要求面P1に発生する収縮が、高面精度非要求部A2となる部分に集中して発生し、高面精度要求部A1に発生するヒケを、高面精度非要求部A2に発生するヒケよりも抑制することが可能となる。
以上により、高品質要求面P1のうち、高面精度要求部A1は、高面精度非要求部A2よりも高い面精度を有しているため、射出成形品Pに要求されている品質の低下を抑制することが可能となっている。
【0059】
また、一般的に、固化した溶融樹脂により形成される射出成形品は、面の中心及びその周辺に発生するヒケが、他の部分に発生するヒケよりも大きくなる
しかしながら、第一実施形態であれば、二つの第二入れ子部材14により第一入れ子部材12を挟んで、高品質要求面形成用入れ子6を形成しているため、高品質要求面P1の中心及びその周辺に発生するヒケが、他の部分に発生するヒケよりも小さい射出成形品Pを製造することが可能となる。
【0060】
また、二つの第二入れ子部材14により第一入れ子部材12を挟んで、高品質要求面形成用入れ子6を形成しているため、高品質要求面P1の中心及びその周辺から離れるほど、発生したヒケが大きい射出成形品Pを製造することが可能となる。
このため、高面精度要求部A1が、高品質要求面P1の中心及びその周辺を形成し、高面精度非要求部A2が、高品質要求面P1のうち高面精度要求部A1よりも高品質要求面P1の中心から離れた部分を形成することとなる。
【0061】
これにより、高面精度非要求部A2の面精度は、高面精度要求部A1と高面精度非要求部A2との境界から離れるほど低下するため、高品質要求面P1のうち、中心から離れた部分、すなわち、高い面精度が要求されない部分に発生するヒケが大きい射出成形品Pを製造することが可能となり、射出成形品Pに要求されている品質の低下を抑制することが可能となっている。
【0062】
また、第一実施形態では、上述したように、連結した第一入れ子部材12及び各第二入れ子部材14のうち固定側開口部8と対向する面に、入れ子表層部16が形成されているため、第一入れ子部材12と第二入れ子部材14との間に段差が形成されている場合であっても、高品質要求面P1のうち、第一入れ子部材12と第二入れ子部材14との連結部分と対応する位置に段差が形成されることが抑制される。さらに、第一入れ子部材12と第二入れ子部材14との間に段差が形成されている場合であっても、第一入れ子部材12及び第二入れ子部材14や射出成形品Pに対する、切削や研磨等の二次加工を必要とせずに、高品質要求面P1の面精度を確保することが可能となる。
【0063】
(変形例)
以下、第一実施形態の変形例を列挙する。
第一実施形態においては、高品質要求面形成用入れ子6の構成を、入れ子表層部16を備えている構成としたが、これに限定するものではなく、入れ子表層部16を備えていない構成としてもよい。この場合、第一入れ子部材12及び第二入れ子部材14と溶融樹脂Rとの熱交換に、入れ子表層部16による影響が及ぼされることを防止することが可能となる。
なお、上記のように、高品質要求面形成用入れ子6の構成を、入れ子表層部16を備えていない構成とした場合は、切削や研磨等の加工により、第一入れ子部材12と第二入れ子部材14との間に形成される段差を低減させることが好適である。
【0064】
また、上記のように、高品質要求面形成用入れ子6の構成を、入れ子表層部16を備えていない構成とした場合、冷却工程では、第一入れ子部材12及び第二入れ子部材14と接触した状態の溶融樹脂Rを、第一入れ子部材12及び第二入れ子部材14との熱交換で冷却して固化させる。
【0065】
また、第一実施形態においては、入れ子表層部16の熱伝導率を、第一入れ子部材12及び第二入れ子部材14の熱伝導率よりも高くしたが、これに限定するものではなく、入れ子表層部16の熱伝導率を、第一入れ子部材12の熱伝導率以下とするとともに、第二入れ子部材14の熱伝導率よりも高くしてもよい。
この場合、入れ子表層部16の熱伝導率を、第一入れ子部材12及び第二入れ子部材14の熱伝導率よりも高くした場合と比較して、入れ子表層部16を形成する材料の選択肢が増加するため、射出成形金型1の設計自由度を向上させることが可能となる。
【0066】
また、第一実施形態においては、射出成形品Pの高面精度要求部A1が、高面精度非要求部A2よりも高い面精度として、高い平面度を要求されているため、第一入れ子部材12の固定側開口部8と対向する面を、平面に形成したが、第一入れ子部材12の構成はこれに限定するものではない。すなわち、高面精度要求部A1に要求されている高い面精度が、例えば、曲率に高い精度が要求される曲面である場合は、第一入れ子部材12の固定側開口部8と対向する面を、球面等、曲面に対応する形状に形成してもよい。
【0067】
また、第一実施形態においては、二つの第二入れ子部材14により第一入れ子部材12を挟んで、高品質要求面形成用入れ子6を形成したが、高品質要求面形成用入れ子6の構成は、これに限定するものではない。すなわち、例えば、高面精度要求部A1を、高品質要求面P1の中心から離れた部分に形成する場合には、二つの第一入れ子部材12により第二入れ子部材14を挟んで、高品質要求面形成用入れ子6を形成してもよい。
【0068】
また、第一実施形態においては、射出成形金型1の構成を、高品質要求面形成用入れ子6を一つのみ備えた構成としたが、これに限定するものではなく、射出成形品Pの構成が、複数の高品質要求面P1を有している構成である場合には、射出成形金型1の構成を、高品質要求面形成用入れ子6を複数備えた構成としてもよい。
また、第一実施形態においては、固定側金型2に高品質要求面形成用入れ子6が取り付けられている構成としたが、これに限定するものではなく、可動側金型4に高品質要求面形成用入れ子6が取り付けられている構成としてもよい。また、固定側金型2及び可動側金型4に、それぞれ、高品質要求面形成用入れ子6が取り付けられている構成としてもよい。
【0069】
また、第一実施形態においては、高品質要求面形成用入れ子6の一つの面のみが、固定側開口部8と対向している構成としたが、これに限定するものではない。すなわち、例えば、射出成形品Pの構成が、隣り合う二つの高品質要求面P1を有している構成である場合には、高品質要求面形成用入れ子6のうち隣り合う二つの面が、固定側開口部8と対向している構成としてもよい。
【符号の説明】
【0070】
1 射出成形金型、2 固定側金型、4 可動側金型、6 高品質要求面形成用入れ子、8 固定側開口部、10 入れ子収容空隙部、12 第一入れ子部材、14 第二入れ子部材、16 入れ子表層部、R 溶融樹脂、P 射出成形品、P1 高品質要求面、P2 高品質非要求面、A1 高面精度要求部、A2 高面精度非要求部、A1R 実使用範囲

【特許請求の範囲】
【請求項1】
型閉じ及び型開きが可能な一組の金型のうち少なくとも一方に取り付けられている高品質要求面形成用入れ子と、
前記型閉じ状態において前記高品質要求面形成用入れ子を含む前記一組の金型間に形成され、且つ溶融樹脂が射出される成形空間を形成する成形空間形成部と、を備え、
前記高品質要求面形成用入れ子は、前記成形空間と対向する第一入れ子部材と、当該第一入れ子部材よりも熱伝導率が低く且つ前記第一入れ子部材に連結されて前記成形空間と対向する第二入れ子部材と、を備えることを特徴とする射出成形金型。
【請求項2】
前記高品質要求面形成用入れ子は、前記第一入れ子部材及び前記第二入れ子部材のうち前記成形空間と対向する面を覆う層である入れ子表層部を備えることを特徴とする請求項1に記載した射出成形金型。
【請求項3】
前記入れ子表層部の熱伝導率は、前記第一入れ子部材の熱伝導率よりも高いことを特徴とする請求項2に記載した射出成形金型。
【請求項4】
前記入れ子表層部の熱伝導率は、前記第一入れ子部材の熱伝導率以下であり且つ前記第二入れ子部材の熱伝導率よりも高いことを特徴とする請求項2に記載した射出成形金型。
【請求項5】
固化した溶融樹脂により形成され、高品質要求面と、当該高品質要求面よりも面精度が低い高品質非要求面と、を有し、
前記高品質要求面は、高面精度要求部と、当該高面精度要求部よりも面精度が低い高面精度非要求部と、を有することを特徴とする射出成形品。
【請求項6】
前記高面精度要求部は、前記高品質要求面の中心及びその周辺を形成し、
前記高面精度非要求部は、前記高品質要求面のうち前記高面精度要求部よりも高品質要求面の中心から離れた部分を形成し、
前記高面精度非要求部の面精度は、前記高面精度要求部と前記高面精度非要求部との境界から離れるほど低下していることを特徴とする請求項5に記載した射出成形品。
【請求項7】
型閉じ及び型開きが可能な一組の金型のうち少なくとも一方に取り付けられている高品質要求面形成用入れ子を含む前記一組の金型間に前記型閉じ状態において形成されている成形空間へ、溶融樹脂を射出する射出工程と、
前記射出工程において前記成形空間へ射出された前記溶融樹脂を前記高品質要求面形成用入れ子と接触した状態で冷却して固化させる冷却工程と、を有し、
前記冷却工程では、前記高品質要求面形成用入れ子が備える第一入れ子部材、及び当該第一入れ子部材よりも熱伝導率が低い第二入れ子部材と接触した状態の前記溶融樹脂を、前記第一入れ子部材及び前記第二入れ子部材との熱交換で冷却して固化させることを特徴とする射出成形方法。
【請求項8】
前記冷却工程では、前記第一入れ子部材及び前記第二入れ子部材のうち前記成形空間と対向する面を覆う層である入れ子表層部と接触した状態の前記溶融樹脂を、前記入れ子表層部を介して前記第一入れ子部材及び前記第二入れ子部材との熱交換で冷却して固化させることを特徴とする請求項7に記載した射出成形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−250510(P2012−250510A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−126689(P2011−126689)
【出願日】平成23年6月6日(2011.6.6)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】