説明

射出成形金型及び発泡成形品の製造方法

【課題】射出成形金型を用いたカウンタープレッシャー工法による発泡成形品の製造において、得られる発泡成形品の表面にアバタが発生することを抑制する。
【解決手段】キャビティ14を形成する可動側金型10と固定側金型12を有する金型であって、軸部20及び頭部22を有し、キャビティ14内で成形された発泡成形品を頭部22で突き出す突出し駒24が固定側金型12に設けられ、固定側金型12における突出し駒24の頭部22の裏側に、カウンタープレッシャーガスを排気するガス流路30が形成された射出成形金型1。また、射出成形金型1を用いた発泡成形品の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形金型及び発泡成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、優れた吸音性、軽量性を有する自動車用内装材等として、発泡成形品が用いられている。このような発泡成形品の製造には射出成形金型が用いられ、製品外観のシルバーストリークを防止するために、カウンタープレッシャー工法が広く用いられている(例えば、特許文献1)。
【0003】
射出成形金型の具体例としては、例えば、図5に示すように、可動側金型110と固定側金型112を有し、可動側金型110と固定側金型112でキャビティ114が形成される射出成形金型101が挙げられる。射出成形金型101は、可動側金型110に、可動側金型110と固定側金型112のPL面116を緊密にシールするOリング118が設けられている。また、固定側金型112にはキャビティ114内で発泡成形した発泡成形品を突き出す突出しピン120が設けられている。突出しピン120における固定側金型112の外側部分は、キャビティ114内を高圧に保つために、Oリング122でシールされ、突出しピン120と固定側金型112の本体との隙間112bからカウンタープレッシャーガス(以下、「CPガス」という。)が漏れないようになっている。また、固定側金型112におけるPL面116のOリング118の内側には、CPガスを注入及び排気するガス流路124が形成されている。
【0004】
発泡成形品の製造方法としては、例えば、射出成形金型101のキャビティ114内にCPガスを注入して数百KPaの高圧にした後、図6に示すように、キャビティ114内に発泡樹脂Yを射出充填し、キャビティ114の密閉性を維持しつつ可動側金型110を固定側金型112からわずかに遠ざけてキャビティ114の容積を増大させ、発泡樹脂Yを発泡(コアバック発泡)させて成形する方法が挙げられる。
【0005】
キャビティ114内に注入したCPガスは、発泡樹脂Yを射出充填するのと同時にガス流路124から排気していく。しかし、キャビティ114内にCPガスが残存すると、その部分に発泡樹脂Yが充分に充填されないため、発泡成形品の表面にアバタと呼ばれる凹みができる。特に、発泡成形品の表面にシボ加工を施すために、可動側金型110のキャビティ形成面110aに凹凸が形成されている場合、その凹凸の近傍にCPガスが残存しやすい。また、射出充填された発泡樹脂Yと固定側金型112のキャビティ形成面112aの間、及び突出しピン120と固定側金型112の本体との隙間112bに残存したCPガスは、発泡樹脂Yの充填によって圧縮されることでより高圧になり、可動側金型110に発泡樹脂Yを押し付ける。これにより、可動側金型110のキャビティ形成面110a近傍のCPガスがさらに残存しやすくなって、アバタが発生しやすくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−167667号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、カウンタープレッシャー工法で発泡成形品を成形する射出成形金型であって、キャビティ内にCPガスが残存して発泡成形品の表面にアバタが発生することを抑制できる射出成形金型の提供を目的とする。また、本発明は、カウンタープレッシャー工法により、表面にアバタが発生していない良好な品質の発泡成形品がより安定して得られる発泡成形品の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の射出成形金型は、一対の金型を有し、それら一対の金型により形成されるキャビティ内で、カウンタープレッシャー工法で発泡成形品を成形する射出成形金型であって、
軸部及び該軸部よりも大きい頭部を有し、前記キャビティ内で成形された発泡成形品を前記頭部で突き出す突出し駒が前記一対の金型の一方に設けられ、
前記一対の金型の一方における前記突出し駒の頭部の裏側に、CPガスを排気するガス流路が形成されている。
【0009】
また、本発明の発泡成形品の製造方法は、本発明の射出成形金型を用いた発泡成形品の製造方法であって、
前記キャビティ内にCPガスを注入するガス注入工程と、
前記ガス注入工程後に、前記キャビティ内に発泡樹脂を射出充填する樹脂充填工程と、
前記キャビティ内の前記CPガスを前記ガス流路から排気し、前記発泡樹脂を発泡させて発泡成形品を得る発泡工程と、
を有する方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の射出成形金型は、カウンタープレッシャー工法で発泡成形品を成形する射出成形金型であって、キャビティ内にCPガスが残存して発泡成形品の表面にアバタが発生することを抑制できる。
また、本発明の発泡成形品の製造方法によれば、カウンタープレッシャー工法により、表面にアバタが発生していない良好な品質の発泡成形品をより安定に製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の射出成形金型の一例を示した概略断面図である。
【図2】図1の射出成形金型の突出し駒近傍を拡大した拡大断面図である。
【図3】本発明の発泡成形品の製造方法の一工程を示した断面図である。
【図4】本発明の発泡成形品の製造方法の一工程を示した断面図である。
【図5】従来の射出成形金型の一例を示した断面図である。
【図6】従来の発泡成形品の製造方法の一工程を示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<射出成形金型>
本発明の射出成形金型は、カウンタープレッシャー工法で発泡成形品を成形する射出成形金型である。以下、本発明の射出成形金型の一例を図1〜4に基づいて説明する。
本実施形態の射出成形金型1(以下、「金型1」という。)は、図1及び図2に示すように、可動側金型10と固定側金型12を有しており、可動側金型10と固定側金型12によりキャビティ14が形成される。
【0013】
可動側金型10は、固定側金型12側にキャビティ14を形成する凹部10aが形成されている。また、可動側金型10は、固定側金型12に向かって前進及び後退できるようになっている。
可動側金型10の凹部10aの形状、及び固定側金型12の可動側金型10側の形状を調節することで、キャビティ14の形状を調節できる。キャビティ14の形状は、成形しようとする発泡成形品の形状に応じて適宜設定することができる。
【0014】
この例では、図2に示すように、可動側金型10の凹部10aにおける上側のキャビティ形成面10bに、シボ加工を施すための凹凸が形成されている。ただし、可動側金型10のキャビティ形成面10bには、シボ加工を施すための凹凸が形成されていなくてもよい。
【0015】
また、可動側金型10の凹部10aの外周に位置する固定側金型12とのPL面16は、可動側金型10と固定側金型12で形成したキャビティ14を緊密にシールするためのOリング18が設けられている。
【0016】
固定側金型12には、軸部20及び軸部20よりも大きい頭部22を有し、キャビティ14内で成形された発泡成形品を頭部22で突き出す突出し駒24が2つ設けられている。突出し駒24は、可動側金型10側に向かって固定側金型12を挿通し、突出し駒24の頭部22の先端の位置が固定側金型12のキャビティ形成面12aと一致するように設けられる。突出し駒24を固定側金型12から突き出すことで、突出し駒24の頭部22によって、キャビティ14内で形成した発泡成形品を突き出すことができる。
突出し駒24の本数は、この例では2本であるが、突出し駒24により発泡成形品を安定して突き出せる本数であればよく、2本には限定されない。
【0017】
この例では、突出し駒24における軸部20の頭部22側の付け根部分に、Oリング26が設けられている。Oリング26により、突出し駒24の軸部20と、固定側金型12の本体部分の隙間28から、キャビティ14内のCPガスが漏れ出すことが抑制され、キャビティ14内を高圧に維持できるようになっている。
図5に例示した従来の射出成形金型101では、キャビティ114内のCPガスが突出しピン120と固定側金型112の本体との隙間112bから漏れ出さないようにするため、突出しピン120における固定側金型112の外側部分に設けたOリング122によりシールされている。しかし、この形態では毎回の突き出し時にOリング122が突出しピン120と擦れて磨耗するため、Oリング122の交換頻度が非常に高くなる。これに対し、金型1では、Oリング26を軸部20における頭部22の付け根部分に設けているので、突出し駒24による発泡成形品の突き出し時にOリング26と突出し駒24の軸部20が擦れることがなく、Oリング26の磨耗による劣化が抑えられる。
【0018】
また、固定側金型12には、キャビティ14内に発泡樹脂Xを注入する樹脂注入流路(不図示)が設けられており、射出ノズルを備えた公知の射出成形機から、該樹脂注入流路を通じて発泡樹脂Xを射出充填できるようになっている。
【0019】
また、固定側金型12における突出し駒24の頭部22の裏側には、CPガスを排気するガス流路30が形成されている。好ましくは、ガス流路30には、CPガスを吸い出す真空ポンプ(不図示)が接続される。つまり、金型1においては、キャビティ14内に一旦CPガスを注入した後、発泡樹脂X(図3)を射出充填する際に、固定側金型12の本体部分と突出し駒24の頭部22の隙間32から、ガス流路30を通じてキャビティ14内のCPガスを排出できるようになっている。これにより、固定側金型12のキャビティ形成面12aと発泡樹脂Xの間のCPガスを効率良く排気することができる。また、固定側金型12におけるキャビティ14に直接通じるガス流路を形成せず、突出し駒24の頭部22の裏側にガス流路30を形成することで、得られる発泡成形品にガス流路の跡が形成されることを防止できるので、外観が悪化することを抑制できる。
【0020】
ガス流路30を流路軸に対して垂直方向に切断した流路断面形状は、特に限定されず、円形状等が挙げられる。また、ガス流路30の流路断面積は、ガス流路30から効率良くCPガスを排出できれる断面積であればよい。
【0021】
ガス流路30は、キャビティ14内からCPガスを排出する際だけでなく、キャビティ14内にCPガスを注入する際にも使用してもよい。例えば、CPガスを注入するブロワと、CPガスを排出する真空ポンプとを、切換弁を介して分岐接続する形態が挙げられる。
ただし、ガス流路30をCPガスの注入及び排出の両方に利用する形態には限定されず、CPガスを注入するためのガス流路を別に設けてもよい。
【0022】
<発泡成形品の製造方法>
以下、本発明の発泡成形品の製造方法の一例として、前記金型1を用いたカウンタープレッシャー工法による発泡成形品の製造方法について説明する。
本実施形態の発泡成形品の製造方法は、下記のガス注入工程、樹脂充填工程、排気工程及び発泡工程を有する。
ガス注入工程:キャビティ14内にCPガスを注入する。
樹脂充填工程:CPガスを注入したキャビティ14内に発泡樹脂Xを射出充填する。
発泡工程:キャビティ14内のCPガスをガス流路30から排気し、キャビティ14内の発泡樹脂Xを発泡させて発泡成形品を得る。
【0023】
(ガス注入工程)
図1及び図2に示すように、可動側金型10を固定側金型12に向かって前進させて可動側金型10と固定側金型12を型締めし、ブロワからガス流路30を通じてキャビティ14内にCPガスを注入し、キャビティ14内の圧力を所定の圧力に調整する。
CPガスとしては、例えば、窒素ガス、二酸化炭素ガス等が挙げられる。
【0024】
キャビティ14内の圧力は、100KPa〜1000KPaが好ましく、300KPa〜600KPaがより好ましい。キャビティ14内の圧力が下限値以上であれば、得られる発泡成形品の表面にシルバーストリークが形成されることを抑制することが容易になる。キャビティ14内の圧力が上限値以下であれば、キャビティ14内の残留CPガスによるアバタの発生を抑止しやすい。
【0025】
(樹脂充填工程)
図3に示すように、CPガスが注入されたキャビティ14内に、樹脂注入流路を通じて発泡樹脂Xを射出充填する。射出充填された発泡樹脂Xは、キャビティ14内が高圧に制御されているため、発泡が抑えられた状態でキャビティ14内に充填される。
【0026】
発泡樹脂Xとしては、例えば、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ABS樹脂等が挙げられる。
【0027】
(発泡工程)
発泡樹脂Xを射出充填したキャビティ14内のCPガスをガス流路30を通じて排気し、図4に示すように、キャビティ14の密閉性を維持しつつ可動側金型10を固定側金型12から後退させ、キャビティ14内の圧力を下げることで、発泡樹脂Xの発泡反応を進行させて発泡成形品を形成する。
【0028】
CPガスの排気は、シルバーストリークの発生を抑止する点から、発泡樹脂Xの射出充填が完了した直後に開始することが好ましい。ただし、CPガスの排気は、得られる発泡成形品に不具合が生じない範囲内であれば、発泡樹脂Xの射出充填が完了してから一定時間保持した後に開始してもよく、発泡樹脂Xの射出充填中に開始してもよい。
【0029】
発泡工程においては、キャビティ14内のCPガスを排気した後に、可動側金型10を固定側金型12から後退させることでキャビティ14内の圧力を下げ、発泡樹脂Xを発泡させる方法を用いてもよく、キャビティ14内のCPガスを排気した後、さらにガス流路30を通じて真空ポンプで減圧しつつ、可動側金型10を固定側金型12から後退させることでキャビティ14内の圧力を下げ、発泡樹脂Xを発泡させる方法を用いてもよい。
【0030】
図5に例示した従来の射出成形金型101では、固定側金型112におけるPL面116のOリング118の内側に形成したガス流路124によって、キャビティ114内のCPガスが排気される。しかし、前記位置に形成されたガス流路124では、射出充填された発泡樹脂Yと固定側金型112のキャビティ形成面112aの間、及び突出しピン120と固定側金型112の本体との隙間112bのCPガスを充分に排気することが困難であった。これにより、これらの部分に残留したCPガスによって発泡樹脂Yが可動側金型110側に押し付けられ、可動側金型110のキャビティ形成面110a近傍のCPガスの排気が困難となり、発泡成形品にアバタが発生する要因となっていた。
これに対し、本実施形態の製造方法では、固定側金型12における突出し駒24の頭部22の裏側に形成されたガス流路30を通じて、キャビティ14内のCPガスを排気するため、射出充填された発泡樹脂Xと固定側金型12のキャビティ形成面12aの間のCPガスを効率良く充分に排気することができる。そのため、固定側金型12のキャビティ形成面12aの間に残存したCPガスによって発泡樹脂Xが可動側金型10に押し付けられることが抑制されるので、可動側金型10のキャビティ形成面10bに凹凸が形成されていたとしても、キャビティ形成面10b近傍のCPガスを充分に排気することができ、得られる発泡成形品にアバタが形成されることが抑制される。
【0031】
また、金型1では、突出し駒24における軸部20の頭部22側の付け根部分にOリング26が設けられているので、突出し駒24の軸部20と固定側金型12の本体部分の隙間28にCPガスが流入することが抑制される。よって、突出し駒24の軸部20と固定側金型12の本体との隙間28にCPガスが残存し、該CPガスによって発泡樹脂Xが可動側金型10に押し付けられて、可動側金型10のキャビティ形成面10b近傍のCPガスの排気効率が低下することが抑制され、発泡成形品にアバタが発生することが抑制される。
【0032】
本発明では、突出し駒24における軸部20の頭部22側の付け根部分にOリング26を設けた形態ではなく、従来の射出成形金型101のように、突出し駒24における軸部20における固定側金型12の外側部分にOリングを設けた形態であっても、アバタの発生を抑制でき、高品質な発泡成形品が得られる。これは、ガス流路30が突出し駒24の頭部22の裏側に形成されていることで、突出し駒24の軸部20と固定側金型12の本体部分の隙間28にCPガスが流入しても、該CPガスをキャビティ14に到達させることなくガス流路30を通じて効率良く排気することができるためである。
【0033】
以上説明した本発明の射出成形金型及び該射出成形金型を用いた発泡成形品の製造方法にあっては、カウンタープレッシャー工法により、表面にアバタが発生していない良好な品質の発泡成形品をより安定に製造できる。
なお、本発明の射出成形金型は、固定側金型における突出し駒の頭部の裏側に、CPガスを排気するガス流路が形成されていればよく、前記金型1には限定されない。例えば、前述したように、CPガスを注入するガス流路を別途設けた射出成形金型であってもよく、射出成形金型101のように、突出し駒における軸部における固定側金型の外側部分にOリングを設けた形態の射出成形金型であってもよい。
また、可動側金型10、固定側金型12は例として挙げたものであり、10が固定側金型、12が可動側金型であってもよい。
【符号の説明】
【0034】
1 射出成形金型
10 可動側金型
12 固定側金型
14 キャビティ
16 PL面
18、26 Oリング
20 軸部
22 頭部
24 突出し駒
30 ガス流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の金型を有し、それら一対の金型により形成されるキャビティ内で、カウンタープレッシャー工法で発泡成形品を成形する射出成形金型であって、
軸部及び該軸部よりも大きい頭部を有し、前記キャビティ内で成形された発泡成形品を前記頭部で突き出す突出し駒が前記一対の金型の一方に設けられ、
前記一対の金型の一方における前記突出し駒の頭部の裏側に、カウンタープレッシャーガスを排気するガス流路が形成されている射出成形金型。
【請求項2】
請求項1に記載の射出成形金型を用いた発泡成形品の製造方法であって、
前記キャビティ内にカウンタープレッシャーガスを注入するガス注入工程と、
前記ガス注入工程後に、前記キャビティ内に発泡樹脂を射出充填する樹脂充填工程と、
前記キャビティ内の前記カウンタープレッシャーガスを前記ガス流路から排気し、前記発泡樹脂を発泡させて発泡成形品を得る発泡工程と、
を有する発泡成形品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−200888(P2012−200888A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−64714(P2011−64714)
【出願日】平成23年3月23日(2011.3.23)
【出願人】(591270257)クミ化成株式会社 (12)
【Fターム(参考)】