説明

導波路型分散補償回路

【課題】本発明は、従来技術による光パルスシンセサイザが離散的な透過スペクトルを有する、ある周波数間隔のモードを独立に制御することは可能であるものの、連続したスペクトルを制御することはできないという問題点を解決する導波路型分散補償回路を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の導波路型分散補償回路は、第1のアレイ導波路回折格子と、第2のアレイ導波路回折格子と、上記2つのアレイ導波路回折格子を結合する位相制御導波路アレイとを備える導波路型分散補償回路において、上記位相制御導波路アレイの導波路本数が、第1及び第2のアレイ導波路回折格子のアレイの導波路本数の2倍以上であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光通信ネットワークの長距離伝送装置における、光ファイバの群速度分散などを補償する導波路型分散補償回路技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術は、図6に示すように、非特許文献1に示されている。入射光をアレイ導波路回折格子601で分光し、導波路アレイ602に結合し、各々の導波路を伝搬する光の位相、振幅を位相変調器603と強度変調器604で制御して再びアレイ導波路回折格子605で合波する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】‘‘K. Mandai, D. Miyamoto, T. Suzuki, H. Tsuda, A. Aizawa, and T. Kurokawa, ‘‘Repetition rate and center wavelength-tunable optical pulse generation using an optical comb generator and a high resolution arrayed-waveguide grating,’’ IEEE Photon. Technol. Lett., Vol. 18, No. 5, pp. 679-681(2006).’’
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、一般に、従来技術のような構成による光パルスシンセサイザは、図7に示すような離散的な透過スペクトルを有する、ある周波数間隔のモードを独立に制御することは可能であるものの、連続したスペクトルを制御することはできないという問題点を有する。
【0005】
以上を鑑みて、本発明において、第1のアレイ導波路回折格子で光信号を周波数成分毎に多数の単一モード導波路アレイに分割し、各周波数成分を制御した後に再びアレイ導波路回折格子で合波するときに、変調器を有する導波路アレイの本数を、アレイ導波路中の導波路本数の2倍以上にすることにより、周波数(波長)に対する振幅透過率をほぼ平坦にすることを可能にした。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の課題を解決するために、本発明の請求項1に記載の導波路型分散補償回路は、第1のアレイ導波路回折格子と、第2のアレイ導波路回折格子と、上記2つのアレイ導波路回折格子を結合する位相制御導波路アレイとを備える導波路型分散補償回路において、上記位相制御導波路アレイの導波路本数が、第1及び第2のアレイ導波路回折格子のアレイの導波路本数の2倍以上であることを特徴とする。
【0007】
また、上述の課題を解決するために、本発明の請求項2に記載の導波路型分散補償回路は、アレイ導波路回折格子と、位相制御導波路アレイと、上記位相制御導波路アレイ端に設けられた反射構造とを備える導波路型分散補償回路において、上記位相制御導波路アレイの導波路本数が、上記アレイ導波路回折格子のアレイ導波路本数の2倍以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、以上の構成により、平坦な周波数透過特性が得られるので、連続スペクトルの位相及び振幅制御が可能であり、また、スラブ導波路全体でなく、単一モード導波路アレイの位相を制御すればよいので、位相制御する体積が減少し、駆動電力を低減することが可能であり、また、石英導波路だけでなく、各種光導波路に適用できる構成であるため、小型化、高速化、低消費電力化が可能である等の効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の第1の実施形態による導波路型分散補償回路の構成を示す図である。
【図2】図1に示す導波路型分散補償回路の透過特性を示す図である。
【図3】図1に示す導波路型分散補償回路の入力光が第2のスラブ導波路と導波路アレイの接続部に結像される時の説明図である。
【図4】図1に示す導波路型分散補償回路の導波路アレイから第2のスラブ導波路への接続を示す説明図である。
【図5】本発明の第2の実施形態による導波路型分散補償回路の構成を示す図である。
【図6】従来技術による導波路型分散補償回路の構成を示す図である。
【図7】従来技術による導波路型分散補償回路の透過特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。なお、本発明の実施形態を説明するための全図において、同一の機能を有するものは同一符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0011】
[実施の形態1]
図1に、本発明の第1の実施形態による導波路型分散補償回路100を示す。ここで、導波路型分散補償回路100は、入力導波路101と、第1のアレイ導波路回折格子102と、第2のアレイ導波路回折格子103と、互いに光路長の等しくM本の導波路から構成される導波路アレイ107と、位相変調器アレイ108とを備える。第1のアレイ導波路回折格子102は、第1のスラブ導波路104と、導波路本数がNで隣接する導波路の光路長が一定のアレイ導波路105と、第2のスラブ導波路106とを備える。第2のアレイ導波路回折格子103は、第1のアレイ導波路102と同じ設計であり、対称に接続されるが、第1のスラブ導波路104’と、導波路本数がNで、隣接する導波路の光路長が一定のアレイ導波路105’と、第2のスラブ導波路106’とを備える。また、本発明では、平坦な透過特性を得るための導波路本数条件、M≧2Nが満たされている。合成された光信号は出力導波路109に結合される。第1のアレイ導波路102と第2のアレイ導波路103の回折次数は、mであるとする。
【0012】
図2に、M≧2Nが満たされている場合と、満たされていない場合の入力導波路101と、出力導波路109との間の透過特性を図示する。一般に、第2のスラブ導波路106から導波路アレイ107に接続する際に、導波路アレイ107を構成する導波路の中間に結像する光周波数成分は、導波路に結合しにくくなるので、櫛形の透過特性を示す。この場合、入力光が第2のスラブ導波路106と導波路アレイ107の接続部に結像される時のスポットサイズ(半値全幅)よりも、導波路アレイ107を構成する隣あう導波路の間隔が広い。ところが、本実施形態の場合は、入力光が第2のスラブ導波路106と導波路アレイ107の接続部に結像される時のスポットサイズ(半値全幅)よりも、導波路アレイ107を構成する導波路の隣あう間隔が狭い。これを、図3に示す。
【0013】
通常の分波器としてのAWG利用形態(特定の周波数成分の光を1つの導波路に結合させる)とは、異なり、特定の周波数成分の光に、導波路アレイ107を構成する隣接する複数の導波路に同時に結合させることになる。これにより、図2に示すような平坦な透過特性が得られる。この条件は、別の表現をすれば、導波路アレイ107から第2のスラブ導波路106’への接続において、m±1次の回折光がアレイ導波路105’に入射しないことと同値である。
【0014】
導波路アレイ107から第2のスラブ導波路106’への接続を図4に示すが、次数の異なる回折成分を取り除けば、図2に示すように、変調成分がなくなるので櫛形の透過特性が平坦化される。平坦な透過スペクトルが得られる条件は以下の通りである。
【0015】
【数1】

【0016】
ここで、Lfは、第1のスラブ導波路104及び104’の光軸方向の長さ、nは導波路の有効屈折率、d1は、導波路アレイ107の第2のスラブ導波路106’との接続部における導波路間隔、d2は第2のスラブ導波路106’とアレイ導波路105’との接続部における導波路間隔、λは信号光波長である。例えば、非特許文献1に示す回路では、Mが32、Nが111であり、(1)の条件を満たしていない。
【0017】
さて、入力導波路101に入力された光信号は、第1のアレイ導波路回折格子102により分光され、第2のスラブ導波路106と導波路アレイ107の境界部分で周波数成分に空間的に分離される。各単一モード導波路には、位相制御部が設けられている。導波路の種類としては使用する材料により種々あるが、石英導波路、Si導波路、SiN導波路、SiON導波路、及びポリマー導波路の場合は、ヒータが装荷されていて熱光学効果により位相制御を行う。ニオブ酸リチウム、ランタンドープジルコン酸チタン酸鉛、あるいは、タンタル酸リチウム誘電体導波路の場合は、電気光学効果により位相制御を行う。
【0018】
InP、InGaAs、InAlAs、InGaAsP、GsAs、AlGaAs等の化合物半導体導波路の場合は、電気光学効果、プラズマ効果、あるいは、量子閉じ込めシュタルク効果により位相制御を行う。スラブ導波路108における位相制御量を中心周波数に対して二次関数的に分布させることにより分散を発生させる(分散補償器として動作する)ことが可能となり、2次関数の係数により分散値を任意の値に制御することが可能である。中心周波数に対して位相制御するべき周波数帯幅が小さいので、2π以上の位相変化xが必要な場合、x′(0≦x′<2π、x′=x−2mπ(mは正の整数))の位相変化を与えても良い。スラブ導波路108で位相制御された各周波数成分は再びに結合され、第2のスラブ導波路103により時間波形が再合成される。任意の位相制御が可能であるので、前述の位相分布関数に2次以上の成分を持たせる事で高次の分散補償、任意の位相補償も可能であることは言うまでもない。
【0019】
本実施形態において、スラブ導波路全体ではなく、単一モード導波路の屈折率を制御すればよいため、屈折率制御体積が小さくなり低消費電力化が可能である。さらに、石英導波路だけでなく多種多様な導波路にも同様の構造を適用することが可能であり、小型化、高速化も可能となる。また、第2のスラブ導波路106から導波路アレイ107への結合損失が平坦な周波数特性にならなくても、第2のスラブ導波路106’からアレイ導波路105’に接続するときに平坦な周波数特性になるように、高次回折成分が除去される。
【0020】
本実施形態において、位相変調器108を使用するものとして説明したが、強度変調器を使用したり、位相変調器と強度変調器を直列に接続したりして光信号スペクトルを制御できることは言うまでもない。位相変調器と強度変調器を両方使用すれば任意の光信号スペクトルを得ることができるので、例えば、長距離光通信に適した波形を生成することなどにも利用可能である。
【0021】
[実施の形態2]
本発明の第2の実施形態による導波路型分散補償回路500の構成を図5に示す。本実施形態において、導波路型分散補償回路500は、入力導波路501と、第1のアレイ導波路回折格子502と、M本の導波路から構成される導波路アレイ507と、位相変調器508と、反射構造510とを備える。反射構造510は、導波路端面にミラーを貼り付けたり、金属膜あるいは誘電体多層膜を蒸着してミラーを形成したりしたものである。本実施形態は、第1の実施形態の構成を反射型に変更したものであり、動作メカニズムや得られる特性は全く同じである。反射型に変更することによって、回路面積が大凡半分になり、同じ分散値を与える位相制御量も半分でよくなる。また、第1のアレイ導波路回折格子と第2のアレイ導波路回折格子の特性を揃える必要もない。
【0022】
以上のように構成された本発明により、代表的なものとして、以下の効果が得られる。(1)平坦な周波数透過特性が得られるので、連続スペクトルの位相及び振幅制御が可能である。(2)スラブ導波路全体でなく、単一モード導波路アレイの位相を制御すればよいので、位相制御する体積が減少し、駆動電力を低減することが可能である。(3)石英導波路だけでなく、各種光導波路に適用できる構成である。このため、小型化、高速化、低消費電力化が可能である。
【符号の説明】
【0023】
101、501 入力導波路
102、502 第1のアレイ導波路回折格子
103 第2のアレイ導波路回折格子
104、104’ 第1のスラブ導波路
105、105’ 導波路本数がNのアレイ導波路
106、106’ 第2のスラブ導波路
107、507 M本の導波路から構成される導波路アレイ
108、508 位相変調器
109 出力導波路
510 反射構造

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のアレイ導波路回折格子と、
第2のアレイ導波路回折格子と、
前記2つのアレイ導波路回折格子を結合する位相制御導波路アレイと
を備える導波路型分散補償回路において、
前記位相制御導波路アレイの導波路本数が、第1及び第2のアレイ導波路回折格子のアレイの導波路本数の2倍以上であることを特徴とする導波路型分散補償回路。
【請求項2】
アレイ導波路回折格子と、
位相制御導波路アレイと、
前記位相制御導波路アレイ端に設けられた反射構造と
を備える導波路型分散補償回路において、
前記位相制御導波路アレイの導波路本数が、前記アレイ導波路回折格子のアレイ導波路本数の2倍以上であることを特徴とする導波路型分散補償回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−175004(P2011−175004A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−37442(P2010−37442)
【出願日】平成22年2月23日(2010.2.23)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【出願人】(899000079)学校法人慶應義塾 (742)
【Fターム(参考)】