説明

導電剤が添加されていないリチウムイオン二次電池用の電極

本発明は、チタン酸リチウムを活物質として有し導電剤が添加されていないリチウムイオン二次電池用の電極に関する。本発明は、本発明の電極を備えたリチウムイオン二次電池に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チタン酸リチウムを活物質として有し導電剤が添加されていない電極に関し、また、これを備えたリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
充電可能なリチウムイオン電池における負極材料としてのグラファイトの代替物として、チタン酸リチウムLi4Ti512、略してスピネル型チタン酸リチウムの使用が、しばらくの間、提案されてきた。
【0003】
そのような電池における負極材料の現状における概要は、例えば、非特許文献1において把握される。
【0004】
グラファイトと比較したLi4Ti512の利点は、特に、より優れたサイクル安定性、より優れた熱負荷容量、また、より高い使用上の信頼性である。Li4Ti512は、リチウムと比較して、1.55Vという相対的に一定な電位差を有し、しかも、数1000回の充電放電サイクルで容量の損失がわずか20%未満である。
【0005】
従って、チタン酸リチウムは、グラファイトよりも明らかに高い正電位を有し、充電可能なリチウムイオン電池における負極として以前から慣習的に使用されてきた。
【0006】
しかしながら、より高い電位は、結果として、より小さい電圧差にもつながる。グラファイトの372mAh/g(理論値)と比べて175mAh/gという少ない容量とともに、このことは、グラファイト負極を備えたリチウムイオン電池と比べて明らかに低いエネルギー密度をもたらすこととなる。
【0007】
しかしながら、Li4Ti512は、寿命が長く、非毒性であり、それゆえ、環境に対して危険をもたらすものとして分類されてもいない。
【0008】
チタン酸リチウムLi4Ti512の製造の様々な態様が詳細に記載されている。一般的に、Li4Ti512は、例えば特許文献1又は特許文献2に記載されているように、典型的にはTiO2のチタン化合物と、典型的にはLi2CO3のリチウム化合物との間の固相反応によって得られる。
【0009】
ゾル−ゲル法、特許文献3、火炎熱分解(非特許文献2)、また、無水溶媒中での(非特許文献3)いわゆる“水熱合成”だけでなく、水性溶媒中(特許文献4)での“水熱合成”も提案されている。このようにして得られたチタン酸リチウムは、炭素の被覆を伴って提供されもする(特許文献5)。
【0010】
粒子サイズの分布は、製造法の影響を受けて設定され得る。一方で、ほとんど全ての金属及び遷移金属のカチオンが、スピネル型チタン酸リチウムをドープするためのドープ用カチオンとして当業者に知られている。
【0011】
スピネル型チタン酸リチウムの材料密度は、正極材料として用いられる、例えば、リチウムマンガンスピネル又はリチウムコバルト酸化物(それぞれ4g/cm3及び5g/cm3)と比較して、いくぶん低い(3.5g/cm3)。
【0012】
しかしながら、スピネル型チタン酸リチウム(もっぱらTi4+を含む)は、電気的に絶縁物であり、これは、電極における必要な電気的導電性を保証すべく、例えばアセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラックなどの導電性添加剤(導電剤)が従来の電極材料に常に配合される理由である。これにより、スピネル型チタン酸リチウム負極を備えた電池におけるエネルギー密度は、低いものとなる。しかしながら、還元状態(Ti3+及びTi4+を含む“充電”状態)におけるスピネル型チタン酸リチウムは、ほぼ金属的な導体になることが知られており、これにより、電極全体における電気的導電性が明らかに高まるということが知られている。
【0013】
正極材料の分野においては、ドープされた又はドープされていないLiFePO4が、近年、リチウムイオン電池における正極材料として好適に用いられており、その結果として、Li4Ti512とLiFePO4との組み合わせにおいて、例えば2Vの電圧差が達成されている。
【0014】
LiFePO4、LiMnPO4、LiCoPO4、LiMnFePO4、Li3Fe2(PO43などの規則オリビン構造若しくは変性オリビン構造又はナシコン構造を有する、非ドープ又はドープされた混合リン酸遷移金属リチウムは、Goodenoughらによって、リチウムイオン二次電池の電極における正極材料として最初に提案された(特許文献6、特許文献7)。これら材料、特にLiFePO4も、実質的に導電性が全く乏しいものである。さらには、類似したバナジウム酸塩が研究されている。
【0015】
それゆえ、上記にて詳細を既に述べたように、添加される導電剤は、ドープされた又はドープされていないリン酸遷移金属リチウム又はバナジウム酸遷移金属リチウムに、必ず加えられなければならず、上述したチタン酸リチウムも、電極作製において加工される前に同様である。これに代わり、リン酸遷移金属リチウム又はバナジウム酸遷移金属リチウムにくわえ、スピネル型チタン酸リチウム炭素複合材料が提案されているが、該材料は、炭素含量が少ないことから、導電剤の添加を必ず必要とする。
【0016】
このように、特許文献7、特許文献8、また、特許文献9には、LiFePO4と非晶質炭素とのいわゆる炭素複合材料が記載されているが、硫酸鉄からリン酸鉄を作るときに、リン酸水素ナトリウムが、硫酸鉄における未反応のFe3+ラジカルの還元剤としても作用し、Fe2+のFe3+への酸化を抑制もする。炭素の添加は、正極におけるリン酸鉄リチウム活物質の導電性を高めることを意図したものでもある。従って、特に特許文献9においては、必要な容量と、良好に機能する電極に関連した必要なサイクル特性とを達成させるべく、リン酸鉄リチウム炭素複合材料に少なくとも3重量%の炭素が含まれなければならない点が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】米国特許第5,545,468号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第1 057 783 A1号明細書
【特許文献3】独国特許出願公開第103 19 464 A1号明細書
【特許文献4】独国特許第10 2008 050 692.3号明細書
【特許文献5】欧州特許出願公開第1 796 189 A2号明細書
【特許文献6】米国特許第5,910,382号明細書
【特許文献7】米国特許第6,514,640号明細書
【特許文献8】欧州特許出願公開第1 193 784号明細書
【特許文献9】欧州特許出願公開第1 193 785号明細書
【特許文献10】欧州特許出願公開第1 193 786号明細書
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】Bruce ら, Angew.Chem.Int.Ed. 2008, 47, 2930-2946
【非特許文献2】Ernst, F.O.ら, Materials Chemistry and Physics 2007, 101(2-3, pp. 372-378)
【非特許文献3】Kalbac, M.ら, Journal of Solid State Electrochemistry 2003, 8(1) pp. 2-6
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明の課題は、活物質としてスピネル型チタン酸リチウムを含み、比較的高い負荷容量(W/kg又はW/l)を有し優れた比エネルギー密度を有する、充電可能なリチウムイオン電池用の電極を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明によれば、斯かる課題は、活物質としてチタン酸リチウムを有し、導電剤が添加されていない電極によって達成される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】従来の電極の電極組成における電極密度の依存性。
【図2】本発明の電極の電極組成における電極密度の依存性。
【図3】放電中における従来の電極の容量密度。
【図4】放電中における本発明の電極の容量密度。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の電極組成への、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、グラファイトなどの導電剤の添加が、不利な影響を受ける実現可能性があってもなくても、免除され得ることは、予想外のことであった。上述したように、スピネル型チタン酸リチウムは、典型的な絶縁物質であることから、このことは、なおさら驚くべきことであった。
【0023】
しかしながら、“導電剤が添加されていない”との用語は、例えば、炭素含有被覆、リチウムチタン炭素複合材料、又は、グラファイトやカーボンブラックなどの態様の炭素粒子などによって、電極作製において少量の炭素が存在し得ることも意味しているが、炭素は、最大量でも1.5重量%、好ましくは最大量でも1重量%、より好ましくは最大量でも0.5重量%の割合を超えない。
【0024】
“リチウムチタン炭素複合材料”という用語によって示されるものは、チタン酸リチウムにおいて炭素が均一に分散していることであり、マトリックスを形成していることである。即ち、チタン酸リチウムの合成中に核形成部位として炭素粒子がin situで形成されることである。
【0025】
“チタン酸リチウム”との用語(又は“スピネル型チタン酸リチウム”との用語)は、Li1+xTi2-x4型であり、0≦x≦1/3であるFd3m空間群の全てのスピネル型チタン酸リチウムを含み、また、通常、一般式LixTiyO(0<x,y<1)で表される混合リチウムチタン酸化物をも含む。
【0026】
“チタン酸リチウム”との用語は、上記の定義の範囲内において、ドープされた又はドープされていないチタン酸リチウムを表す。
【0027】
特に好ましくは、本発明で用いられるチタン酸リチウムは、純粋相である。本発明において“純粋相”又は“純粋相チタン酸リチウム”は、通常の測定の範囲内におけるXRD測定によって最終産物にルチル相が検出されないことを示している。換言すると、本発明のチタン酸リチウムは、この好ましい実施形態においてルチル構造がない。
【0028】
本発明の好ましい改良例においては、本発明のチタン酸リチウムは、上述したように、少なくとも1種のさらなる金属によってドープされており、これによって、ドープされたチタン酸リチウムが負極として用いられたときに安定性及びサイクル安定性のさらなる増加が引き起こされる。具体的には、これは、さらなる金属イオン、好ましくはAl、Mg、Ga、Fe、Co、Sc、Y、Mn、Ni、Cr、V又はこれらのイオンのうちのいくつかを格子構造に組み込むことによって達成される。アルミニウムが特に好ましい。ドープされたスピネル型チタン酸リチウムは、特に好ましい実施形態においてルチル構造を有していない。
【0029】
チタン又はリチウムいずれかの格子サイトに入るドープ用の金属イオンは、好ましくは、全スピネルに対して、0.05〜10重量%の量で存在し、より好ましくは1〜3重量%の量で存在する。
【0030】
電極は、活物質を好ましくは94重量%以上、より好ましくは96重量%以上の割合で有する。本発明の電極において活物質がこのような高いレベルであっても、その実現可能性は、制限されない。
【0031】
今回驚くべきことに発見されたことは、活物質、即ちチタン酸リチウムの一次粒子の多峰性分布によって、活物質のそれぞれの粒子サイズにかかわらず、活物質の粒子サイズが実質的に単峰性のときと比べて、本発明の電極の材料密度及び容量密度が優れたものになるということである。従って、多峰性の粒子サイズの分布によって、本発明の活物質のタップ密度は、純粋に単峰性のものよりも10%高くもある。
【0032】
ドイツ語における“Partikel”及び“Teilchen”との用語は、粒子を意味するものとして同意語として用いられている。
【0033】
“一次粒子”との用語は、2nmの点分解能を有する走査型電子顕微鏡において視覚的に区別される全ての粒子を示している。一次粒子は、凝集した状態(二次粒子)で存在し得る。
【0034】
本発明の電極の活物質は、例えば、異なるチタン酸リチウムの合成経路によって得られ混合物の必要量を占める、異なる一次粒子サイズ分布を有するチタン酸リチウムの混合物であることが好ましい。この場合、各チタン酸リチウムは、(異なる)単峰性粒子サイズ分布を有することが好ましい。
【0035】
特に好ましくは、活物質の一次粒子サイズ分布は、本発明の電極における材料密度及び容量密度に関して最良の値が得られることから、二峰性である。既に述べたように、これは、単峰性粒子サイズ分布を有する異なる2種のチタン酸リチウムを混合することによって好ましくは設定される。そのような材料のタップ密度は、例えば、0.7g/cm3より大きい。
【0036】
一次粒子サイズの第1の極大値は、有利には100〜300nm(微細粒子チタン酸リチウム)の一次粒子サイズ、好ましくは100〜200nmであり、一次粒子サイズの第2の極大値は、2〜3μm(d50=2.3+0.2μm、粗粒子チタン酸リチウム)である。
【0037】
上述した2つの電極パラメータの特に良好な値が達成されるのは、全一次粒子に対して、15〜40%、好ましくは20〜30%、特に好ましくは25±1%が、1〜2μmの一次粒子サイズを有するときである。
【0038】
本発明の有利な改良例においては、活物質の一部又は全ての一次粒子が炭素の被覆を有している。これは、例えば、欧州特許公報第1 049 182 B1号又は独国特許公報第10 2008 050 692.3号に記載されているように適用される。さらに、被覆の方法は、当業者に知られている。全電極における炭素の割合は、斯かる特定の実施形態においては、1.5重量%以下であり、好ましくは1重量%以下であり、最も好ましくは0.5重量%以下であり、従って、上記の従来技術における値、及び、必要に応じて既に考慮した値より明らかに小さい。
【0039】
本発明の電極は、有利には2g/cm3、より好ましくは2.2g/cm3の電極密度を有する。これにより、当業者に知られているような、導電剤が添加されチタン酸リチウムを含むわずか200〜250mAh/cm3の容量密度を有する電極と比べて、本発明の電極がC/20にて340mAh/cm3以上の優れた容量密度を有することとなる。
【0040】
本発明の電極は、さらに、結着剤を含んでいる。当業者によって知られているどのような結着剤も結着剤として用いられ、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(PVDF−HFP)、エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体(EPDM)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、及び、その変性体、それらの混合物が用いられる。
【0041】
本発明は、さらに、負極が本発明の電極であるリチウムイオン二次電池に関する。この実施形態においては、正極は、自由に選択され、通常、リチウムマンガンスピネル、リチウムコバルト酸化物などのリチウム化合物、又は、リン酸鉄リチウム、リン酸コバルトリチウムなどのリン酸金属リチウムの1種を含み、導電剤が添加されているか、又は添加されていない。
【0042】
本発明のさらに好ましい実施形態においては、正極の活物質は、正極の作製において導電剤が添加されておらず、規則若しくは変性オリビン構造又はナシコン構造を有する、ドープされた又はドープされていないリン酸金属リチウムである。
【0043】
「ドープされていない」によって、純粋なリン酸金属リチウム、特に純粋相のリン酸金属リチウムが用いられることが示される。“純粋相”との用語は、リン酸金属リチウムについても、上記で規定したように理解される。
【0044】
リン酸遷移金属リチウムは、好ましくは下記の化学式によって表される。
Lixy1-yPO4
式中、Nは、Mg、Zn、Cu、Ti、Zr、Al、Ga、V、Sn、B、Nb、Ca又はその混合物からなる群より選択され、
Mは、Fe、Mn、Co、Ni、Cr、Cu、Ti、Ru又はその混合物からなる群より選択される。
【0045】
金属Mは、好ましくは、Fe、Co、Mn、又はNiからなる群より選択され、従って、yが0であれば、化学式が、LiFePO4、LiCoPO4、LiMnPO4、又はLiNiPO4となる。LiFePO4及びLiMnPO4は、特に好ましい。
【0046】
ドープされたリン酸遷移金属リチウムは、上記の化学式の化合物によって示され、該化学式においてy>0であり、Nが上記のごとく規定した群からの金属カチオンである。
【0047】
特に好ましくは、Nは、Nb、Ti、Zr、B、Mg、Ca、Zn又はそれらを組み合わせたものからなる群より選択されるが、さらに好ましくは、Ti、B、Mg、Zn及びNbを示す。特に好ましい化合物は、例えば、LiNbyFexPO4、LiMgyFexPO4、LiMgyFexMn1-x-yPO4、LiZnyFexMn1-x-yPO4、LiFexMn1-xPO4、LiMgyFexMn1-x-yPO4であり、x<1且つy<1であり、x+y<1である。
【0048】
ドープされた又はドープされていないリン酸遷移金属リチウムは、上述したように、特に好ましくは、規則オリビン構造又は変性オリビン構造のいずれか一方の構造を有する。
【0049】
規則オリビン構造のリン酸金属リチウムは、構造的に、斜方空間群Pnma(インターナショナルテーブルのNo.62)で示され、斜方単位格子の結晶学的指数は、単位格子Pnmaにおいてa軸が長軸となりc軸が短軸となるように選択され、その結果、オリビン構造の鏡面mがb軸に垂直に配されることとなる。オリビン構造においてリン酸金属リチウムのリチウムイオンは、結晶軸[010]に平行、又は、結晶面{010}に垂直に配列され、従って、これは、一次元的なリチウムイオン導電にとって好ましい方向でもある。
【0050】
変性オリビン構造によって示されるのは、結晶格子において変性が陰イオンサイト(例えば、リン酸塩、バナジウム酸塩)及び/又は陽イオンサイトのいずれかで起こるということであり、結晶格子において置換は、リチウムイオンのより良好な拡散を可能にすべく、また、電気的な導電性をより良好にすべく、異種又は同種の電荷担体によって起こる。
【0051】
本発明のより好ましい実施形態においては、電極は、さらに、第1のリチウム金属酸化物化合物と異なる第2のリチウム金属酸化物化合物を含み、第2のリチウム金属酸化物化合物は、ドープされた又はドープされていないリチウム金属酸化物、リン酸金属リチウム、バナジウム酸金属リチウム、及びこれらの混合物から選択される。当然ながら、2種、3種、又はさらなる種の異なるリチウム金属酸化物化合物も挙げられる。
【0052】
第2のリチウム金属酸化物化合物は、好ましくは、ドープされた又はドープされていないリチウムマンガン酸化物、リチウムコバルト酸化物、リン酸鉄マンガンリチウム、リン酸マンガンリチウム、リン酸コバルトリチウムから選択される。
【0053】
図面及び実施例を参照しつつ下記により詳しく本発明が説明されるが、本発明は、下記のものに限定されない。
【実施例】
【0054】
炭素被覆のある又はないチタン酸リチウムの粗粒子(粒子サイズ1〜3μm、省略形LiTi)は、それぞれ、ズーケミーAG社(ドイツ)によって製品名「EXM1037」及び「EXM1948」にて市販されている。炭素被覆のある又はない微粒子チタン酸リチウム(粒子サイズ100〜200nm)は、独国特許公開公報第10 2008 050 692号の記載に従って作製された。
【0055】
粒子サイズ分布は、「Malvern Mastersizer 2000」を用いてレーザー粒度分布によってDIN66133に従って測定された。
【0056】
“タップ密度”は、J. Engelmann AG社の振動容積計「STAV II」によって測定された。この測定のために、振動容積計に取り付けられた測定シリンダーにおいて乾燥窒素雰囲気下にて約100mLの粉体が計量された。そして、容積は、読み取られ、それからタップ密度が測定された。
【0057】
1.電極の作製
1.1 従来の電極の組成
従来の標準的な電極は、85%の活物質、導電剤としての10%のカーボンブラック「Super P」 (Timcal SA社、スイス)、結着剤としての5重量%のポリフッ化ビニリデン(Solvay社 21216)を含む。
【0058】
1.2 本発明の電極の組成
本発明の標準的な電極は、95%の活物質、5重量%のポリフッ化ビニリデン結着剤を含む。活物質は、チタン酸リチウム粗粒子(EXM 1037、略してLiTi)と、チタン酸リチウム微粒子(独国特許公開公報第10 2008 050 692号に従う)との混合物からなり、それぞれの比率が変えられた。
【0059】
1.3 電極の作製
活物質が結着剤とともにN−メチルピロリドン中で混合され(又は、従来の電極では導電剤が添加され)、前処理された(下塗りされた)アルミ箔にコーティングナイフによって塗布され、そして、N−メチルピロリドンが減圧下において105℃にて揮発された。電極は、打ち抜かれ(直径13mm)、室温にて20秒間、5トン(3.9トン/cm2)の圧力でIRプレス中で圧縮された。アルミ箔上の下塗りは、炭素薄膜からなり、該下塗りは、アルミ箔上の電気的な接触を高め活物質の密着性を高める。
【0060】
さらに、電極が減圧下において120℃にて終夜乾燥され、アルゴンで満たされたグローブボックス内にて、半電池に組み立てられ、リチウム金属に対して電気化学的に測定が行われた。
電気化学的な測定は、電解質として(EC(エチレン・カーボネート):DMC(炭酸ジメチル)=1:1、1M LiPF6)が採用され、LP30(メルク社、ダルムシュタット)を用いて行われた。
試験方法は、CCCVモードで行われた。即ち、C/10速度での定電流でのサイクルが最初に行われ、次に、C速度でのサイクルが行われた。充電/放電サイクルを十分なものにすべく、電流が約C/50速度になるまで、電圧変動(Li/Li+に対して1.0V及び2.0V)にて、定電圧ポーションが引き続き行われた。
【0061】
電極の測定結果が以下に示され、図において描かれている。
【0062】
図1は、10%の導電剤が添加された従来の電極の電極構成(組成)の機能として電極密度が示されており、電極の構成において電極密度(g/cm3)の実質的に直線的な依存性がある。縦軸は、チタン酸リチウム1及び2の混合物におけるチタン酸リチウム1(LiTi)の重量割合の変化を示している。曲線の直線性は、おそらく、添加された導電剤が、非常に小さい粒子であるため、LiTiの大きいチタン酸リチウム粒子の間の空間を迅速に満たすという事実によるものである。しかしながら、導電剤の非常に小さい粒子は、高い空隙率を引き起こすことになり、従って、電極密度が小さいものとなった。
【0063】
一方、図2は、電極組成の構成に対して、電極密度の非直線的な傾向を示している。ここにおいても、縦軸は、チタン酸リチウム1及び2の混合物におけるチタン酸リチウム1(LiTi)の重量割合の変化を示している。図2から把握できるように、二峰性の(一次)粒子サイズ分布を有する本発明の電極の電極密度は、LiTiのみを含む電極の単峰性分布又はチタン酸リチウム2それぞれの場合よりも高い。最良の結果が得られたのは、活物質におけるLiTiの割合が25〜75の範囲におけるものであり、約5mg/cm2の負荷、及びそれより低い負荷(2.5mg/cm2)のときである。これは、チタン酸リチウムの微細粒子の凝集物がチタン酸リチウムの粗い粒子の間の空間をより有利に満たすという事実のためであり、そして、電極の全密度が高いものとなる。電極密度が高まることによって、特に放電中における比容量密度が高まることとなる。
【0064】
図3は、10%の導電剤が添加された従来の電極組成におけるLiTiの割合に対する容量密度の傾向を示している。最も良好な値は、チタン酸リチウム粗粒子、又は、チタン酸リチウム微粒子のいずれかを活物質としてそれぞれ単独で含む組成において達成されている。
【0065】
一方、図4は、活物質において25%の割合がチタン酸リチウム粗粒子である二峰性の粒子サイズ分布が、本発明の電極において最も良好な結果を生むことを示している。さらに有利な点は、本発明の電極が分極においてわずかに増加を示しているという事実である。それにより、優れた比容量密度が得られるだけでなく、優れた比エネルギー密度も得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
活物質としてチタン酸リチウムを有し導電剤が添加されていない電極。
【請求項2】
前記活物質の割合が94重量%以上である請求項1記載の電極。
【請求項3】
前記活物質が、多峰性の一次粒子サイズ分布を有する請求項2記載の電極。
【請求項4】
前記活物質が、異なる一次粒子サイズ分布を有するチタン酸リチウムの混合物である請求項3記載の電極。
【請求項5】
前記活物質の一次粒子サイズ分布が二峰性である請求項3又は4に記載の電極。
【請求項6】
一次粒子サイズ分布の第1の極大値が100〜300nmの一次粒子サイズであり、第2の極大値が2〜3μmの一次粒子サイズである請求項5記載の電極。
【請求項7】
全一次粒子の15〜40%が2〜3μmの一次粒子サイズを有している請求項5記載の電極。
【請求項8】
前記活物質の一部又は全部が炭素の被覆を有している請求項1〜7のいずれか1項に記載の電極。
【請求項9】
電極密度が2g/cm3以上の請求項1〜8のいずれか1項に記載の電極。
【請求項10】
C/20で340mAh/cm3以上の容量密度を有する請求項9記載の電極。
【請求項11】
負極が請求項1〜10のいずれか1項に記載の電極であるリチウムイオン二次電池。
【請求項12】
正極が、ドープされた及び/又はドープされていないリン酸金属リチウムを活物質として含む請求項11に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項13】
前記リン酸金属リチウムが、ドープされた又はドープされていないリン酸鉄リチウムである請求項12に記載のリチウムイオン二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2013−518376(P2013−518376A)
【公表日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−550454(P2012−550454)
【出願日】平成23年1月28日(2011.1.28)
【国際出願番号】PCT/EP2011/051192
【国際公開番号】WO2011/092277
【国際公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【出願人】(512226099)ジュート−ヘミー イーペー ゲーエムベーハー ウント コー カーゲー (3)
【氏名又は名称原語表記】SUED−CHEMIE IP GMBH & CO. KG
【住所又は居所原語表記】LENBACHPLATZ 6 80333 MUENCHEN GERMANY
【Fターム(参考)】