説明

導電性エラストマーフィルム及び積層フィルム

【課題】表面抵抗値が小さく、引張伸び、引張強さ等の機械的強度、平滑性及び金属に対する接着性が高い導電性エラストマーフィルムを提供する。
【解決手段】導電性エラストマーフィルムが、(1)(a)共役ジエンゴム50〜97.9質量%、(b)エチレン−オクテン共重合体2〜40質量%、(c)芳香族ビニル−共役ジエンブロック共重合体0.1〜10質量%及び(d)酸変性ポリオレフィン0〜10質量%からなるエラストマー成分100質量部と、(2)導電性フィラー10〜50質量部を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面抵抗値が小さく、引張伸び、引張強さ等の機械的強度、平滑性及び金属に対する接着性が高い導電性エラストマーフィルム、及び当該導電性エラストマーフィルムと金属フィルムを積層してなる積層フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
有機溶媒を含む電解液を用いている電気部品として、電気二重層キャパシタやリチウムイオン電池がある。電気二重層キャパシタの電解液は、有機溶媒系電解液と水系電解液とに大別される。一般的に、有機溶媒系電解液が使用される電気二重層キャパシタの出力電圧は高いため、広く用いられている。
電気二重層キャパシタは、長いサイクル寿命、急速な充放電の実現等の利点を有し、マイクロコンピューター、メモリ素子、タイマー等のバックアップ電源として利用されている。実際の電気二重層キャパシタは、以下の構造を有する。厚さ20〜40μmのエッチングされた集電体に外部引き出しリード線が取り付けられ、当該集電体のエッチング面には、活性炭、導電剤、バインダー等が含まれる電極材料からなる分極性電極が形成されている。当該集電体上に分極性電極が形成されたものがセパレータを介在させて巻回されてコンデンサ素子が形成され、当該コンデンサ素子が電解液中に浸漬され、セパレータと分極性電極に電解液が含浸されたものが外装材に挿入され、パッキンにより外装材の開口部が封口される。電気二重層キャパシタの性能は、単位重量当たりの出力と容量当たりの出力が高いほど向上する。一般に、アルミニウム等の金属箔が集電体として使用されているが、金属より比重の小さい導電性樹脂フィルム又は導電性エラストマーフィルムが集電体として使用される電気二重層キャパシタの単位重量当たりの出力は、金属が集電体として使用される電気二重層キャパシタの単位重量当たりの出力より大きくなり得る。
また、有機溶媒系電解液を用いる電気二重層キャパシタと同様に、リチウムイオン電池も電解液に有機溶媒を含有している。リチウムイオン電池は、電気二重層キャパシタと同様の構造であり、集電体として銅やアルミニウムなどの金属箔を用いているため、金属より比重の小さい導電性樹脂フィルム又は導電性エラストマーフィルムを集電体として使用した場合には、金属を集電体としたリチウムイオン電池より、単位重量当たりの出力は大きくなり得る。
【0003】
従来、ビニル芳香族炭化水素−共役ジエンブロック共重合体又はその水素添加物と導電性フィラーを含有する導電性エラストマーフィルムが、水系電解液を用いる電気二重層キャパシタの集電体として検討された(例えば、特許文献1参照)。当該導電性エラストマーフィルムの強度は、有機溶媒系電解液に含まれるジエチルカーボネート等の有機溶媒により大幅に低下する。一方、環状オレフィン樹脂と導電性フィラーを含有する導電性樹脂フィルムが、電気二重層キャパシタの集電体として検討された(例えば、特許文献2参照)。しかしながら、当該導電性樹脂フィルムの引張伸び、引張強さ等の機械的強度は低いものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第98/40435号パンフレット
【特許文献2】国際公開第99/02585号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
リチウムイオン電池の集電体としては、導電性樹脂フィルム又は導電性エラストマーフィルムが、単位重量当たりの出力において、金属などと比較してより好適であることが知られている。
近年、表面抵抗値が小さく、引張伸び、引張強さ等の機械的強度、平滑性及び金属に対する接着性が高い導電性樹脂フィルム又は導電性エラストマーフィルムが、有機溶媒系電解液が使用される電気二重層キャパシタの集電体としても求められているが、このような導電性樹脂フィルム又は導電性エラストマーフィルムはこれまで見出されていなかった。
そこで、本発明が解決しようとする課題は、表面抵抗値が小さく、引張伸び、引張強さ等の機械的強度、平滑性及び金属に対する接着性が高い導電性エラストマーフィルムの提供である。更に、本発明が解決しようとする別の課題は、上記導電性エラストマーフィルムと金属フィルムを積層してなる積層フィルムの提供である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、(1)(a)共役ジエンゴム、(b)エチレン−オクテン共重合体及び(c)芳香族ビニル−共役ジエンブロック共重合体、必要に応じて添加される(d)酸変性ポリオレフィンからなるエラストマー成分と、(2)導電性フィラーを含む導電性エラストマーフィルムが上記課題を解決することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
本発明は、(1)(a)共役ジエンゴム50〜97.9質量%、(b)エチレン−オクテン共重合体2〜40質量%、(c)芳香族ビニル−共役ジエンブロック共重合体0.1〜10質量%及び(d)酸変性ポリオレフィン0〜10質量%からなるエラストマー成分100質量部と、(2)導電性フィラー10〜50質量部を含む導電性エラストマーフィルムを提供する。上記(c)芳香族ビニル−共役ジエンブロック共重合体中のスチレン−イソプレンブジロック共重合体成分の好ましい含有割合は30質量%以上である。好ましい(2)導電性フィラーはカーボンブラックである。
【0008】
更に、本発明は、上記導電性エラストマーフィルムと金属フィルムを積層してなる積層フィルムを提供する。好ましい金属フィルムはアルミニウムフィルムである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の導電性エラストマーフィルムの表面抵抗値は小さく、引張伸び、引張強さ等の機械的強度、平滑性及び金属に対する接着性は高い。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の導電性エラストマーフィルムは、共役ジエンゴムを含有する。共役ジエンゴムを構成する共役ジエン単量体は、特定の単量体に限定されない。好ましい共役ジエン単量体は、共役ジエン結合(芳香環を形成していないC=C−C=C結合:Cは炭素原子)を含有する炭素数4〜12の化合物である。共役ジエン単量体の具体例は、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−エチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、クロロプレンなどである。なかでも、1,3−ブタジエンおよびイソプレンがより好ましく、特に1,3−ブタジエンが好ましい。これらの共役ジエン単量体は単独でまたは2種以上を組み合せて用い得る。
共役ジエンゴムとしては、共役ジエン結合を含有する炭素数4〜12の化合物の(共)重合体が好ましく、ブタジエンゴムおよびイソプレンゴムがより好ましく、ブタジエンゴムが特に好ましい。
【0011】
上記エラストマー成分中の共役ジエンゴムの含有割合は50〜97.9質量%、好ましくは65〜94.7質量%である。共役ジエンゴムの含有量が少なすぎる場合、本発明の効果が得られない。一方、共役ジエンゴムの含有量が多すぎる場合、得られたフィルムの引張強度が低くなるために電極形成時の取り扱いが困難となる傾向にある。
【0012】
本発明の導電性エラストマーフィルムは、エチレン−オクテン共重合体を含有する。当該エチレン−オクテン共重合体は、エチレンと1−オクテンを含む鎖状オレフィン共重合体であり、市販されている。当該エチレン−オクテン共重合体の市販品の具体例は、ダウケミカル社製エンゲージ(登録商標)8003、8100/8107、8137、8150/8157、8180、8200/8207、8400/8407、8842、プライムポリマー(株)製モアテック(登録商標)0218CN、0218CM、0258CN、0438CN等である。
上記エラストマー成分中の上記エチレン−オクテン共重合体の含有割合は2〜40質量%、好ましくは5〜30質量%である。
【0013】
本発明の導電性エラストマーフィルムは、芳香族ビニル−共役ジエンブロック共重合体を含有する。上記芳香族ビニル−共役ジエンブロック共重合体は、芳香族ビニル化合物を重合して得られる芳香族ビニルブロック、及び共役ジエン化合物を重合して得られる共役ジエンブロックを有するブロック共重合体である。
【0014】
芳香族ビニル化合物の具体例は、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、t−ブチルスチレン、ジビニルベンゼン、N,N−ジメチル−p−アミノエチルスチレン、N,N−ジエチル−p−アミノエチルスチレン、ビニルピリジン等である。好ましい芳香族ビニル化合物はスチレン、α−メチルスチレンであり、より好ましい芳香族ビニル化合物はスチレンである。
【0015】
共役ジエン化合物の具体例は、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、2−メチル−1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン、4,5−ジエチル−1,3−オクタジエン、3−ブチル−1,3−オクタジエン、クロロプレン等である。好ましい共役ジエン化合物は、1,3−ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエンであり、より好ましい共役ジエン化合物は1,3−ブタジエン、イソプレンであり、特に好ましい共役ジエン化合物はイソプレンである。
【0016】
芳香族ビニル−共役ジエンブロック共重合体の態様は特定の態様に限定されない。芳香族ビニル−共役ジエンブロック共重合体は、ジブロック、トリブロック、またはそれ以上のマルチブロック共重合体であり得る。
芳香族ビニル−共役ジエンブロック共重合体中のスチレン−イソプレンジブロック共重合体成分の好ましい含有割合は30質量%以上である。
【0017】
上記共役ジエン化合物由来の単量体単位中の二重結合は、最も好ましくは水素化されない。当該二重結合の水素化率は、通常10%以下、好ましくは1%以下、より好ましくは0.1%以下である。
【0018】
芳香族ビニル−共役ジエンブロック共重合体は、カップリング剤の使用により重合体分子鎖がカップリング剤残基を介して延長または分岐された重合体であってもよい。この際用いられるカップリング剤の具体例は、アジピン酸ジエチル、ジビニルベンゼン、メチルジクロロシラン、四塩化ケイ素、ブチルトリクロロケイ素、テトラクロロ錫、ブチルトリクロロ錫、ジメチルクロロケイ素、テトラクロロゲルマニウム、1,2−ジブロモエタン、1,4−クロロメチルベンゼン、ビス(トリクロロシリル)エタン、エポキシ化アマニ油、トリレンジイソシアネート、1,2,4−ベンゼントリイソシアネート等である。
【0019】
芳香族ビニル−共役ジエンブロック共重合体の製造方法は限定されない。当該製造方法の具体例は、芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物を有機溶媒中で有機アルカリ金属化合物を開始剤として用いリビングアニオン重合する方法である。
【0020】
芳香族ビニル−共役ジエンブロック共重合体の数平均分子量は特定の範囲に限定されない。好ましい数平均分子量は50,000〜700,000の範囲であり、より好ましい数平均分子量は50,000〜600,000の範囲であり、特に好ましい数平均分子量は50,000〜400,000の範囲である。
【0021】
芳香族ビニル−共役ジエンブロック共重合体のメルトマスフローレイト(MFR)は特定の範囲に限定されない。好ましいMFRは0.1〜20g/10分(200℃、5kg荷重:JIS K 7210に準拠して測定した値として)の範囲であり、より好ましいMFRは0.5〜20g/10分(200℃、5kg荷重)の範囲であり、特に好ましいMFRは0.5〜15g/10分(200℃、5kg荷重)の範囲であり、最も好ましいMFRは1〜10g/10分(200℃、5kg荷重)の範囲である。
【0022】
上記芳香族ビニル−共役ジエンブロック共重合体の上記エラストマー成分中の含有割合は、0.1〜10質量%、好ましくは0.3〜5質量%である。
【0023】
本発明の導電性エラストマーフィルムは、必要に応じて酸変性ポリオレフィンを含有する。当該酸変性ポリオレフィンは分子中にカルボキシル基を有するポリオレフィンであり、市販されている。当該酸変性ポリオレフィンの市販品の具体例は、三井化学(株)製ユニストール、中央理化工業(株)製アクアテックス、住友精化(株)製セポルジョン、ザイクセン、CSMラテックス等である。
上記酸変性ポリオレフィンの上記エラストマー成分中の含有割合は、0〜10質量%、好ましくは0〜5質量%である。
【0024】
本発明の導電性エラストマーフィルムは、導電性フィラーを含有する。導電性フィラーの具体例は、カーボンブラック、グラファイト、粉末または繊維状の金属または金属酸化物等である。
【0025】
カーボンブラックの具体例は、コンダクティブファーネスブラック、スーパーコンダクティブファーネスブラック、エクストラコンダクティブファーネスブラックなどのファーネスブラック;コンダクティブチャンネルブラック;アセチレンブラック;等である。市販されている導電性カーボンブラックの具体例は、コンチネックスCF(コンチネタルカーボン社製コンダクティブファーネスブラック)、ケッチェンブラックEC(ケッチェンブブラックインターナショナル社製コンダクティブファーネスブラック)、バルカンC(キャボット社製コンダクティブファーネスブラック)、BLACK PEARLS 2000(キャボット社製コンダクティブファーネスブラック)、デンカブラック(電気化学工業(株)社製アセチレンブラック)等である。カーボンブラックのDBP吸油量は300cm3/100g以上、BET表面積は500m2/g以上であることが好ましい。
【0026】
グラファイトの具体例は、鱗片状の天然黒鉛、人造黒鉛、グラファイトファイバー等である。
金属の具体例は、鉄、銅、ニッケル、アルミニウム、チタン、タンタル、ニオブ、バナジウムおよびそれらを2種以上含む任意の合金等である。
金属酸化物の具体例は、上記金属として例示したものの酸化物を例示することができる。具体的には、酸化鉄、酸化銅、酸化ニッケル、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化タンタル、酸化ニオブ、酸化バナジウムおよび上記金属を2種以上含む任意の合金の酸化物等である。
【0027】
上記導電性フィラーを単独で、または少なくとも2種を組合せて使用できる。導電性フィラーの含有量は、上記エラストマー成分100質量部に対して10〜50質量部である。導電性フィラーの含有量が少なすぎる場合、フィルムの抵抗値が高すぎてフィルムの導電性が低くなる。一方、導電性フィラーの含有量が多すぎる場合、導電性エラストマー組成物をフィルム化できない。
【0028】
本発明の導電性エラストマーフィルムは、樹脂工業分野で通常使用される各種配合剤を含有し得る。
本発明の導電性エラストマーフィルムは安定剤を含有し得る。安定剤の具体例は、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤等である。これらの中でも、フェノール系酸化防止剤が好ましく、アルキル置換フェノール系酸化防止剤が特に好ましい。これらの安定剤は、それぞれ単独で、または2種以上組み合わせて用いられる。安定剤の配合量は、使用目的に応じて適宜選択されるが、上記エラストマー成分100質量部に対して、通常0.001〜10質量部の範囲である。
【0029】
本発明の導電性エラストマーフィルムの製造方法は、特定の方法に限定されない。当該製造方法の一実施態様は、(1)(a)共役ジエンゴム50〜97.9質量%、(b)エチレン−オクテン共重合体2〜40質量%、(c)芳香族ビニル−共役ジエンブロック共重合体0.1〜10質量%及び(d)酸変性ポリオレフィン0〜10質量%からなるエラストマー成分100質量部と、(2)導電性フィラー10〜50質量部及び(3)溶剤100〜1000質量部を含む導電性エラストマー組成物を、キャストする方法(キャスト法)、すなわち、上記導電性エラストマー組成物を基材上に塗工し、次いで乾燥する工程を実施する方法、である。得られる本発明の導電性エラストマーフィルムの好ましい厚みは10〜200μmである。
【0030】
上記溶剤は、常温または加温下に上記共役ジエンゴム、エチレン−オクテン共重合体、芳香族ビニル−共役ジエンブロック共重合体、任意に使用される酸変性ポリオレフィンを溶解する溶剤であり、特定の溶剤に限定されない。当該溶剤の具体例は、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素化合物;n−ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ノナン、デカン、デカリン、テトラリン、ドデカン、ガソリン、工業用ガソリンなどの飽和脂肪族および脂環式炭化水素化合物;等である。
【0031】
必要に応じて、本発明の効果を阻害しない範囲で、パラフィン系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイルなどの軟化剤、老化防止剤などの配合剤を上記導電性エラストマー組成物に添加し得る。
【0032】
上記導電性エラストマー組成物を製造する方法は、予め共役ジエンゴム、エチレン−オクテン共重合体、芳香族ビニル−共役ジエンブロック共重合体、導電性フィラー、および必要に応じて加える任意成分を混練する方法であり得るし、各成分を溶剤に溶解または分散させる方法であり得る。
【0033】
溶剤に添加する成分の濃度が低すぎる場合、十分な厚みの導電性エラストマーフィルムが得られず、逆に上記濃度が高すぎる場合、導電性エラストマー組成物の粘度が高くなりすぎ、導電性エラストマーフィルムの厚みが均一にならない。
【0034】
導電性エラストマーフィルムの製造方法を更に詳しく述べる。まず、必要に応じて、上記導電性エラストマー組成物中の塊状物及び未分散物をフィルターなどにより除去する。使用するフィルターの具体例は、糸状の繊維、金属などを網目状に織ったもの、微細な細穴を面状物に穿設加工したもの等である。
さらに、必要に応じて溶液に含まれる気泡を除去するために、脱泡を行う。脱泡方法の具体例は、真空法、超音波法等である。
【0035】
調製した溶液は、ポリエチレンテレフタレート、ポリテトラフルオロエチレン、紙、金属フィルム、ガラス板、ポリエステルフィルム、ポリ塩化ビニルフィルムなどの平滑な平面である基材上に、バーコーター、ドクターナイフ、メイア・バー、ロール・コート、ダイ・コートなどを用いて、またはスプレー、ハケ、ロール、スピンコート、デッピングなどにより厚さが均一になるように流延し、塗工する。1回の塗工で所望の膜厚が得られない場合は、繰り返し塗工し得る。
【0036】
その後、通常、30〜150℃程度で5〜180分間程度乾燥して溶剤を除去して、フィルムを形成する。フィルムは、通常、基材より剥離するが、しなくとも良い。また、フィルムは、剥離後に再度乾燥又はアニールし得る。
【0037】
残留溶剤濃度は、上記溶剤の乾燥除去により、5質量%以下、好ましくは2質量%以下、より好ましくは1質量%以下、更に好ましくは0.5質量%以下にする。乾燥温度が溶剤の沸点以上、または沸点近傍だと、発泡が起こり、表面に凹凸が生じ得るので、乾燥温度は溶剤の特性に応じて決める。乾燥温度を溶剤の沸点より5℃以上、好ましくは10℃以上低い温度を目安として決定し、通常、塗工液を30〜150℃の範囲で沸点を考慮して乾燥する。
【0038】
本発明の積層フィルムは、本発明の導電性エラストマーフィルムと金属フィルムを積層してなる。金属フィルムを構成する金属の具体例は、鉄、銅、ニッケル、アルミニウム、チタン、タンタル、ニオブ、バナジウムおよびそれらを2種以上含む任意の合金等である。最も好ましい金属フィルムはアルミニウムフィルムである。金属フィルムの好ましい厚みは10〜200μmである。
本発明の積層フィルムの製造方法は、特定の方法に限定されない。当該製造方法の一実施態様は、本発明の導電性エラストマーフィルムの上記製造方法により、金属フィルムを基材として、その上に本発明の導電性エラストマーフィルムがキャスト法により形成される方法である。本発明の積層フィルムの製造方法の別の実施態様は、本発明の導電性エラストマーフィルムの上記製造方法により製造された本発明の導電性エラストマーフィルムと金属フィルムが積層される方法である。この実施態様においては、本発明の導電性エラストマーフィルムと金属フィルムとの間に、接着剤、好ましくはカーボンブラック等の導電性フィラーが配合された導電性接着剤が介在していてもよい。
【実施例】
【0039】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。なお、以下の実施例における「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。(1)エラストマー組成物の製膜性、導電性エラストマーフィルムの(2)膜厚、(3)表面抵抗値、(4)引張り伸び及び引張り強度、(5)引裂き強さ、(6)表面粗さ、(7)接着性の測定方法はそれぞれ以下のとおりである。
(1)エラストマー組成物の製膜性
エラストマー組成物を厚さ50μmのポリエチレンテレフタレートフィルム上に400μmギャップのドクターブレードでキャストして得たフィルムの外観を目視で評価した。
A;外観は平滑であり、ピンホール及び亀裂が見あたらない。
B;ピンホールがある。
C;亀裂がある。
(2)膜厚
フィルムの膜厚をデジタルマイクロゲージを用いて測定した。
(3)表面抵抗値
5cm×5cmの試験片の表面抵抗値(Ω)を、抵抗計(日置電機株式会社製ミリオームハイテスタ 3540)を用いて23℃で測定した。
(4)引張伸び及び引張強度
引張伸び及び引張強度をJIS K 7127に従い、試験片タイプ2、幅20mm、200mm/min、23℃の条件で測定した。
【0040】
(5)引裂き強さ
引裂き強さをJIS K 7128−1に従い、トラウザー引裂法により23℃で測定した。
(6)表面粗さ
フィルムの算術平均粗さ(Ra)をJIS B0601-1994に従い、(株)キーエンス製超深度表面形状測定顕微鏡 品番VK8510 を用いて測定した。
(7)接着性
厚さ17μmのアルミニウムフィルム上に各実施例、各比較例の塗料を80℃にて塗布し、80℃で30分間放置した後、100℃で1時間乾燥して積層フィルムを得、そのエラストマーフィルム側の自由面を上にして2kgの加重ロールを重ね合わせ、当該加重ローラを2往復させてエラストマーフィルムとアルミニウムフィルムを圧着し、当該エラストマーフィルムと当該アルミニウムフィルムとの接着性を評価した。
A;エラストマーフィルムとアルミニウムフィルムが接着されている。
B;エラストマーフィルムとアルミニウムフィルムの間に接着されていない部分がある。
C;エラストマーフィルムとアルミニウムフィルムが接着されていない。
【0041】
実施例1
表1に示す割合の配合成分を、ブタジエンゴム、エチレン−オクテン共重合体、芳香族ビニル−共役ジエンブロック共重合体、酸変性ポリオレフィン及びカーボンブラックの合計質量の5倍量のシクロヘキサンに投入して分散液を得、更に、直径5mmの鋼球を当該配合成分と同じ質量分、得られた分散液に投入し、当該鋼球を投入した分散液をペイントシェイカー(株式会社東洋精機製作所製 試験用分散機)で120分間処理して、一様な塗料を作製した。得られた塗料を80℃に加温して十分に攪拌し、80℃に加熱されたホットプレートに載せられた厚さ50μmのポリエチレンテレフタレートフィルム上にドクターブレードを用いてキャストし、製膜性を評価した。更に、当該塗料を塗布したポリエチレンテレフタレートフィルムを80℃のホットプレート上に30分間放置した後、100℃で1時間乾燥して導電性エラストマーフィルムを得た。当該フィルムから所定の試験片を切り出し、各試験を行った。結果を表1に示す。
【0042】
実施例2〜5、比較例1〜5
配合成分の配合割合を表1及び表2に示すように変更する以外は、実施例1と同一の操作を行った。結果を表1及び表2に示す。
【0043】
【表1】

【0044】
【表2】

【0045】
1)日本ゼオン(株)社製Nipol BR1220E
2)日本ゼオン(株)社製ZEONOR(ゼオノア:登録商標)1430R
3)ダウケミカル社製エンゲージ8137
4)日本ゼオン(株)社製クインタック3520(スチレン−イソプレンブロック共重合体、MFR=7g/10分(200℃、5kg荷重:JIS K 7210に準拠して測定))
5)三井化学(株)製ユニストール(登録商標)H−100T
6)ケッチェンブラック・インターナショナル社製ケッチェンブラック(登録商標)EC−600JD(DBP吸油量495cm3/100g、BET表面積1270m2/g)
7)電気化学工業(株)社製アセチレンブラック
8)日油(株)製パーブチルPV−40E
【0046】
本発明の導電性エラストマーフィルムである実施例1〜5のフィルムの表面抵抗値は小さく、引張伸び、引張強さ、引裂き強さ、平滑性及びアルミニウムフィルムに対する接着性は高かった。
比較例1のエチレン−オクテン共重合体及び芳香族ビニル−共役ジエンブロック共重合体を含有していないエラストマーフィルムの引張強さ、引裂き強さ及び平滑性は低かった。
比較例2の芳香族ビニル−共役ジエンブロック共重合体を含有していないエラストマーフィルムの引張強さ、平滑性及びアルミニウムフィルムに対する接着性は低かった。
比較例3のブタジエンゴム及び芳香族ビニル−共役ジエンブロック共重合体を含有していないエラストマーフィルムの引張伸び、平滑性及びアルミニウムフィルムに対する接着性は低かった。
比較例4のブタジエンゴム及び芳香族ビニル−共役ジエンブロック共重合体を含有していないエラストマー組成物の製膜性は低く、当該エラストマー組成物から得られた比較例4のエラストマーフィルムは亀裂を有していた。当該フィルムの亀裂がない部分の引張伸び、引裂き強さ、平滑性及びアルミニウムフィルムに対する接着性は低かった。
比較例5のエチレン−オクテン共重合体を含有していないエラストマーフィルムの引張強さ及びアルミニウムフィルムに対する接着性は低かった。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の導電性エラストマーフィルムは、小さい表面抵抗値を有する。そのため、本発明の導電性エラストマーフィルム及び積層体の代表的な用途の一例は、有機電解液を用いた電気二重層キャパシター用集電体およびリチウムイオン電池用集電体である。なお、最小構成単位である基本セルだけでなく、基本セルを複数直列に接続して出力電圧を上げた電気二重層キャパシターおよびリチウムイオン電池、並列に接続して出力電流を上げた電気二重層キャパシターおよびリチウムイオン電池、これらを組み合わせた電源も電気二重層キャパシターおよびリチウムイオン電池に含める場合がある。本発明の導電性エラストマーフィルムと金属フィルムを積層してなる積層フィルムを集電体として用いた電気二重層キャパシターおよびリチウムイオン電池は、金属集電体を用いたものと比べて軽量化が図れるため、重量あたりの出力を大きくすることが出来る利点を有し、自動車、鉄道車両などに好適に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)(a)共役ジエンゴム50〜97.9質量%、(b)エチレン−オクテン共重合体2〜40質量%、(c)芳香族ビニル−共役ジエンブロック共重合体0.1〜10質量%及び(d)酸変性ポリオレフィン0〜10質量%からなるエラストマー成分100質量部と、(2)導電性フィラー10〜50質量部を含む導電性エラストマーフィルム。
【請求項2】
上記(c)芳香族ビニル−共役ジエンブロック共重合体中のスチレン−イソプレンジブロック共重合体成分の含有割合が30質量%以上である、請求項1に記載された導電性エラストマーフィルム。
【請求項3】
上記(2)導電性フィラーがカーボンブラックである、請求項1又は2に記載された導電性エラストマーフィルム。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載された導電性エラストマーフィルムと金属フィルムを積層してなる積層フィルム。
【請求項5】
上記金属フィルムがアルミニウムフィルムである、請求項4に記載された積層フィルム。

【公開番号】特開2010−222509(P2010−222509A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−73017(P2009−73017)
【出願日】平成21年3月25日(2009.3.25)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】