説明

導電性エンドレスベルトおよびこれを用いた画像形成装置

良好な強度、特には良好な屈曲耐久性を備え、かつ、耐クリープ性や寸法安定性、耐熱性等にも優れた高性能の導電性エンドレスベルト、およびこれを用いた画像形成装置を提供する。 ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂、PPS樹脂と他の熱可塑性樹脂とのポリマーアロイ、または、PPS樹脂と他の熱可塑性樹脂とのポリマーブレンドを基材とする。このベルトを用いた画像形成装置である。熱可塑性樹脂としては、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリアルキレンナフタレート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリイミド樹脂および液晶ポリマーからなる群から選択されるものが好適であり、また、熱可塑性エラストマーとして、ポリエステル系エラストマー、オレフィン系エラストマーおよびスチレン系エラストマーからなる群から選択されるものも好適に用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複写機、プリンター等の電子写真装置や静電記録装置等における静電記録プロセスにおいて、表面に静電潜像を保持した潜像保持体等の画像形成体表面に現像剤を供給して形成されたトナー像を、紙等の記録媒体へと転写する際に用いられる導電性エンドレスベルト(以下、単に「ベルト」とも称する)およびこれを用いた画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、複写機、プリンター等における静電記録プロセスでは、まず、感光体(潜像保持体)の表面を一様に帯電させ、この感光体に光学系から映像を投射して光の当たった部分の帯電を消去することによって静電潜像を形成し、次いで、この静電潜像にトナーを供給してトナーの静電的付着によりトナー像を形成し、これを紙、OHP、印画紙等の記録媒体へと転写することにより、プリントする方法が採られている。
【0003】
この場合、カラープリンターやカラー複写機においても、基本的には前記プロセスに従ってプリントが行われるが、カラー印刷の場合には、マゼンタ、イエロー、シアン、ブラックの4色のトナーを用いて色調を再現するもので、これらのトナーを所定割合で重ね合わせて必要な色調を得るための工程が必要であり、この工程を行うためにいくつかの方式が提案されている。
【0004】
まず、第1には、モノクロ印刷を行う場合と同様に、感光体上にトナーを供給して静電潜像を可視化する際に、前記マゼンタ、イエロー、シアン、ブラックの4色のトナーを順次重ねていくことにより現像を行い、感光体上にカラーのトナー像を形成する多重現像方式がある。この方式によれば比較的コンパクトに装置を構成することが可能であるが、この方式では階調の制御が非常に難しく、高画質が得られないという問題点がある。
【0005】
第2に、4つの感光ドラムを設け、各ドラムの潜像を夫々マゼンタ、イエロー、シアン、ブラックのトナーで現像することにより、マゼンタによるトナー像、イエローによるトナー像、シアンによるトナー像およびブラックによるトナー像の4つのトナー像を形成し、これらトナー像が形成された感光ドラムを1列に並べて各トナー像を紙等の記録媒体に順次転写して記録媒体上に重ねることにより、カラー画像を再現するタンデム方式がある。この方式は、良好な画像が得られるものの、4つの感光ドラムと、各感光ドラムごとに設けられた帯電機構および現像機構が1列に並べられた状態となり、装置が大型化するとともに高価なものとなる。
【0006】
図2にタンデム方式の画像形成装置の印字部構成例を示す。感光体ドラム1、帯電ロール2、現像ロール3、現像ブレード4、トナー供給ロール5およびクリーニングブレード6で構成する印字ユニットをイエローY、マゼンタM、シアンC、ブラックBの各トナーに対応して4個並べており、駆動ローラ(駆動部材)9により循環駆動されて転写搬送ベルト10で搬送した用紙上に、トナーを順次転写しカラー画像を形成する。転写搬送ベルトの帯電および除電は夫々帯電ロール7および除電ロール8で行う。また、用紙をベルトへ吸着させるための用紙帯電には吸着ローラ(図示せず)が使用される。これらの対応により、オゾンの発生を抑えることができる。吸着ローラでは、用紙を搬送路から転写搬送ベルトに乗せるとともに、転写搬送ベルトへの静電吸着を行う。また、転写後の用紙分離は、転写電圧を低くすることにより用紙と転写搬送ベルトの吸着力を弱くして、曲率分離のみで行うことができる。
【0007】
転写搬送ベルト10の材料としては抵抗体と誘電体があり、夫々に長所、短所を持っている。抵抗体ベルトは電荷の保持が短時間であるため、タンデム型の転写に用いた場合、転写での電荷注入が少なく4色の連続する転写でも比較的電圧の上昇が少ない。また、次の用紙の転写に繰り返して使用されるときも電荷が放出されており、電気的なリセットは必要としない。しかし、環境変動により抵抗値が変化するため、転写効率に影響すること、用紙の厚さや幅の影響を受けやすいことなどが短所となっている。
【0008】
一方、誘電体ベルトの場合は注入された電荷の自然放出はなく、電荷の注入、放出とも電気的にコントロールしなければならない。しかし、安定に電荷が保持されるので、用紙の吸着が確実で高精度な紙搬送が行える。誘電率は温湿度への依存性も低いため、環境に対しても比較的安定な転写プロセスとなる。欠点は、転写が繰り返されるごとにベルトに電荷が蓄積されるため、転写電圧が高くなることである。
【0009】
第3に、紙等の記録媒体を転写ドラムに巻き付けてこれを4回転させ、周回ごとに感光体上のマゼンタ、イエロー、シアン、ブラックを順次記録媒体に転写してカラー画像を再現する転写ドラム方式もある。この方式によれば比較的高画質が得られるが、記録媒体が葉書等の厚紙である場合には、これを前記転写ドラムに巻き付けることが困難であり、記録媒体種が制限されるという問題点がある。
【0010】
前記多重現像方式、タンデム方式および転写ドラム方式に対して、良好な画質が得られ、かつ装置が特に大型化するようなこともなく、しかも記録媒体種が特に制限されるようなこともない方式として、中間転写方式が提案されている。
【0011】
即ち、この中間転写方式は、感光体上のトナー像を一旦転写保持するドラムやベルトからなる中間転写部材を設け、この中間転写部材の周囲にマゼンタによるトナー像、イエローによるトナー像、シアンによるトナー像およびブラックによるトナー像を形成した4つの感光体を配置して4色のトナー像を中間転写部材上に順次転写することにより、この中間転写部材上にカラー画像を形成し、このカラー画像を紙等の記録媒体上に転写するものである。従って、4色のトナー像を重ね合わせて階調を調整するものであるから、高画質を得ることが可能であり、かつタンデム方式のように感光体を1列に並べる必要がないので装置が特に大型化することもなく、しかも記録媒体をドラムに巻き付ける必要もないので記録媒体種が制限されることもないものである。
【0012】
中間転写方式によりカラー画像の形成を行う装置として、中間転写部材として無端ベルト状の中間転写部材を用いた画像形成装置を図3に例示する。
【0013】
図3中、11はドラム状の感光体であり、図中矢印方向に回転するようになっている。この感光体11は、一次帯電器12によって帯電され、次いで画像露光13により露光部分の帯電が消去され、第1の色成分に対応した静電潜像がこの感光体11上に形成され、更に静電潜像が現像器41により第1色のマゼンタトナーMで現像され、第1色のマゼンタトナー画像が感光体11上に形成される。次いで、このトナー画像が、駆動ローラ(駆動部材)30により循環駆動されて感光体11と接触しながら循環回転する中間転写部材20に転写される。この場合、感光体11から中間転写部材20への転写は、感光体11と中間転写部材20とのニップ部において、中間転写部材20に電源61から印加される一次転写バイアスにより行われる。この中間転写部材20に第1色のマゼンタトナー画像が転写された後、前記感光体11はその表面がクリーニング装置14により清掃され、感光体11の1回転目の現像転写操作が完了する。以降、感光体が3回転し、各周回ごとに現像器42〜44を順次用いて第2色のシアントナー画像、第3色のイエロートナー画像、第4色のブラックトナー画像が順次感光体11上に形成され、これが周回ごとに中間転写部材20に重畳転写され、目的のカラー画像に対応した合成カラートナー画像が中間転写部材20上に形成される。なお、図3の装置にあっては、感光体11の周回ごとに現像器41〜44が順次入れ替わってマゼンタトナーM、シアントナーC、イエロートナーY、ブラックトナーBによる現像が順次行われるようになっている。
【0014】
次に、前記合成カラートナー画像が形成された中間転写部材20に転写ローラ25が当接し、そのニップ部に給紙カセット19から紙等の記録媒体26が給送される。これと同時に二次転写バイアスが電源29から転写ローラ25に印加され、中間転写部材20から記録媒体26上に合成カラートナー画像が転写されて加熱定着され、最終画像となる。合成カラートナー画像を記録媒体26へと転写した後の中間転写部材20は、表面の転写残留トナーがクリーニング装置35により除去され、初期状態に戻り次の画像形成に備えるようになっている。
【0015】
また、タンデム方式と中間転写方式とを組み合わせたタンデム中間転写方式もある。図4に、無端ベルト状のタンデム中間転写部材を用いてカラー画像の形成を行うタンデム中間転写方式の画像形成装置を例示する。
【0016】
図示する装置においては、感光体ドラム52a〜52d上の静電潜像を夫々イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックにより現像する第1現像部54a〜第4現像部54dが、タンデム中間転写部材50に沿って順次配置されており、このタンデム中間転写部材50を図中の矢印方向に循環駆動させて、各現像部54a〜54dの感光体ドラム52a〜52d上に形成された4色のトナー像を順次転写することにより、このタンデム中間転写部材50上にカラーのトナー像を形成し、このトナー像を紙等の記録媒体53上に転写することにより、プリントアウトを行う。
【0017】
なお、図中、符号55は、タンデム中間転写部材50を循環駆動するための駆動ローラ若しくはテンションローラを示し、符号56は記録媒体送りローラ、符号57は記録媒体送り装置、符号58は記録媒体上の画像を加熱等により定着させる定着装置を示す。また、符号59はタンデム中間転写部材50に電圧を印加する電源装置(電圧印加手段)を示し、この電源装置59は、トナー像を、感光ドラム52a〜52dから上記タンデム中間転写部材50に転写する場合と、タンデム中間転写部材50から記録媒体53上に転写する場合とで、印加する電圧の正負を反転させることができるようになっている。
【0018】
従来、かかる中間転写部材20等の無端ベルト状の導電性エンドレスベルトとしては、半導電性の樹脂フィルムベルトと、繊維補強体を有するゴムベルトとが主に用いられている。これらのうち、半導電性の樹脂フィルムベルトとしては、従来、ポリカーボネートにカーボンブラックを配合したものが知られているが、最近では、折り曲げに対する耐久性面での改良を図ったポリアルキレンテレフタレートを基材とする樹脂フィルムベルトや、弾性面での改良を図った熱可塑性ポリイミドを基材とする樹脂フィルムベルトなどが提案されている。また、本出願人においても、特許文献1や特許文献2等において、基材に特定の樹脂材料を用いるなどした導電性エンドレスベルトを種々提案してきている。
【特許文献1】特開2002−132053号公報
【特許文献2】特開2003−91177号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
導電性エンドレスベルトを使用するタンデム方式、中間転写方式およびタンデム中間転写方式の画像形成装置においては、いずれも導電性エンドレスベルトに対し、機構面で繰り返し連続使用に耐える強度を備えることが要求される。具体的には、端面や傷などに起因するクラック発生に代表される強度不足、特には、屈曲耐久性不足を改善することが必要となる。また、画像精度に影響する耐クリープ性や寸法安定性の向上を図るとともに、近年の高速化、コンパクト化に伴う機器内温度環境の上昇に対応可能な優れた耐熱性を実現することも要求されてきている。さらに、伸び性や耐衝性等も、ベルトの重要な要求特性の一つである。
【0020】
導電性を有する樹脂フィルムベルトとしては、上記したように種々のものが提案されてきており、これまでに一部実用化に至っているものもある。しかし、画像形成装置の高性能化に伴って、今日、上記の要求特性をより良好に満足するものが求められている。
【0021】
そこで本発明の目的は、タンデム方式、中間転写方式およびタンデム中間転写方式の画像形成装置に使用する樹脂フィルムベルトにおいて、良好な強度、特には良好な屈曲耐久性を備え、かつ、耐クリープ性や寸法安定性、耐熱性にも優れた高性能の導電性エンドレスベルト、およびこれを用いた画像形成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明者らは、前記課題を解決すべく各種合成樹脂について鋭意検討を行った結果、導電性エンドレスベルトの基材としてポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂またはそのポリマーアロイもしくはポリマーブレンドを用いることにより前記目的を達成し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0023】
すなわち、本発明の導電性エンドレスベルトは、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂と他の熱可塑性樹脂とのポリマーアロイ、または、ポリフェニレンサルファイド樹脂と他の熱可塑性樹脂とのポリマーブレンドを基材とすることを特徴とするものである。
【0024】
前記熱可塑性樹脂としては、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリアルキレンナフタレート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリイミド樹脂および液晶ポリマーからなる群から選択されるものを好適に用いることができる。また、前記熱可塑性樹脂としては熱可塑性エラストマーも好適に用いることができ、かかる熱可塑性エラストマーとしては、ポリエステル系エラストマー、オレフィン系エラストマーおよびスチレン系エラストマーからなる群から選択されるものが好適である。
【0025】
また、本発明のベルトには、機能性成分として導電性材料が添加されてなることも好ましく、特には、かかる導電性材料としてのカーボンブラックを、樹脂成分100重量部に対し0.1〜100重量部添加することが好ましい。
【0026】
さらに、本発明のベルトは、体積抵抗が10〜1013Ω・cmであることが好ましい。さらにまた、本発明のベルトには、補強材が添加されてなることが好ましく、かかる補強材としては、アスペクト比5以上の無機化合物が好適である。
【0027】
さらにまた、本発明のベルトは、前記駆動部材と接触する側の面に、該駆動部材と嵌合する嵌合部を有することが好ましく、かかる嵌合部は、好適には、回転方向に沿って連続して突設された凸条である。
【0028】
本発明のベルトは、静電吸着により保持した記録媒体を、駆動部材により循環駆動されて、4種の画像形成体に搬送し、各トナー像を該記録媒体に順次転写するタンデム方式の転写、搬送用導電性エンドレスベルトとして好適に用いることができ、また、画像形成体と記録媒体との間に配設され、駆動部材により循環駆動されて、前記画像形成体表面に形成されたトナー像を一旦自己の表面に転写保持し、これを記録媒体へと転写する中間転写部材用、および、4種の画像形成体と記録媒体との間に配設され、駆動部材により循環駆動されて、前記4種の画像形成体表面に形成されたトナー像を一旦自己の表面に順次転写保持し、これを記録媒体へと転写するタンデム中間転写部材用としても、好適に用いることができる。
【0029】
また、本発明の画像形成装置は、上記本発明の導電性エンドレスベルトを用いたことを特徴とするものである。
【0030】
上述の本発明の導電性エンドレスベルトは、PPS樹脂を基材に用いたことにより、高い強度、特には優れた屈曲耐久性を備え、かつ、耐クリープ性、寸法安定性および耐熱性の点においても良好な性能を有している。また、前記駆動部材と導電性エンドレスベルトとに互いに嵌合する嵌合部を設けた場合には、2以上の軸に張架した導電性エンドレスベルトが回転とともに幅方向にずれて行く現象を防止することができる。また、本発明の画像形成装置によれば、長期間にわたる使用においても不良を生ずることがなく、良好な画像を提供することができる。
【発明の効果】
【0031】
以上説明してきたように、本発明によれば、良好な強度、特には良好な屈曲耐久性を備え、かつ、耐クリープ性や寸法安定性、耐熱性にも優れた高性能の導電性エンドレスベルトを提供することができる。また、PPS樹脂とともに基材樹脂として用いる熱可塑性樹脂を適切に選択することにより、さらに強度、伸び率、弾性率、耐衝撃性および耐久性等の各特性を向上することが可能となる。従って、かかる本発明の導電性エンドレスベルトを用いた本発明の画像形成装置によれば、長期間の使用においても不良がなく良好な画像を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、本発明の実施の形態につき説明する。
導電性エンドレスベルトには、一般に、ジョイントありのものとジョイントなしのもの(いわゆるシームレスベルト)とがあるが、本発明においてはいずれのものであってもよい。好ましくはシームレスベルトである。本発明の導電性エンドレスベルトは、前述したように、タンデム方式、中間転写方式およびタンデム中間転写方式の転写部材等として用いることができるものである。
【0033】
本発明の導電性エンドレスベルトが、例えば、図2に参照符号10で示す転写搬送ベルトの場合、駆動ローラ9等の駆動部材により駆動され、これに伴い搬送される記録媒体上にトナーが順次転写され、カラー画像が形成される。
【0034】
また、本発明の導電性エンドレスベルトが、例えば、図3に参照符号20で示す中間転写部材の場合、これを駆動ローラ30等の駆動部材により循環駆動させ、感光体ドラム(潜像保持体)11と紙等の記録媒体26との間に配設することで、前記感光体ドラム11の表面に形成されたトナー像を一旦転写保持し、次いでこれを記録媒体26へと転写する。なお、図3の装置は、上述したように、中間転写方式によりカラー印刷を行うものである。
【0035】
さらに、本発明の導電性エンドレスベルトが、例えば、図4に参照符号50で示すタンデム中間転写部材の場合、感光体ドラム52a〜52dを備える現像部54a〜54dと紙等の記録媒体53との間に配設されて、駆動ローラ55等の駆動部材により循環駆動され、各感光体ドラム52a〜52dの表面に形成された4色のトナー像を一旦転写保持し、次いでこれを記録媒体53へと転写することで、カラー画像を形成する。
【0036】
本発明の導電性エンドレスベルトに用いるポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂は、結晶性の熱可塑性樹脂であり、汎用のエンジニアリングプラスチックに比して耐熱性が極めて高く、耐薬品性や機械的強度、電気特性にも優れ、さらに、コスト性にも優れるという特徴を有する。PPS樹脂は市場で入手可能であり、例えば、大日本インキ化学工業(株)製の商品名DIC PPS、旭硝子(株)製の商品名アサヒPPS、東ソー(株)製の商品名サスティール、三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製の商品名ノバップスなどを代表的に挙げることができる。本発明においては、かかるPPS樹脂を導電性エンドレスベルトの基材としたことで、抵抗のバラツキがなく、強度、特には屈曲耐久性に優れ、クラック発生を良好に防止することのできるベルトを得ることができる。また、耐クリープ性や耐熱性を向上するとともに、高い寸法精度を実現することができるので、画像精度の向上にも寄与できるとともに、高速化やコンパクト化にも好適に対応可能である。
【0037】
また、本発明においては、所望のベルト特性に合わせて、PPS樹脂と熱可塑性樹脂、特には熱可塑性エラストマーとのポリマーアロイまたはポリマーブレンドを用いてもよく、この場合にも、上記したような優れた要求特性を備えたベルトを得ることができる。かかる熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリアルキレンテレフタレート樹脂、ポリアミド(PA)樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリアルキレンナフタレート樹脂、液晶ポリマー、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)樹脂、フッ素樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリアリレート樹脂およびポリイミド(PI)樹脂等を挙げることができる。好ましくは、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリアルキレンナフタレート樹脂、PA樹脂、ポリアリレート樹脂、PI樹脂および液晶ポリマーである。また、熱可塑性エラストマーとしては、例えば、ポリエステル系エラストマー、オレフィン系エラストマーおよびスチレン系エラストマーなどを挙げることができる。他の熱可塑性樹脂としては、融点がPPS樹脂に近いものが実用上、好適である。
【0038】
PPS樹脂に対し他の熱可塑性樹脂を添加して用いる場合の好適添加量としては、添加する樹脂の種類にもよるが、例えば、PPS樹脂100重量部に対し、他の熱可塑性樹脂1〜50重量部、特には5〜40重量部程度とすることができる。他の熱可塑性樹脂の添加量が多すぎると、加工性の悪化や表面性の悪化、脆化、コスト高等の弊害が生ずるおそれがある。一方、少なすぎても、PPS樹脂単独と同等の性能は得られるものの、他の熱可塑性樹脂の添加による特性向上効果については不十分となる。また、熱可塑性エラストマーの添加量としては、PPS樹脂100重量部に対し、1〜10重量部、特には、1〜5重量部程度とすることが好ましい。
【0039】
また、導電性エンドレスベルトの基材であるPPS樹脂またはこれと熱可塑性樹脂とのポリマーアロイもしくはポリマーブレンドには、機能性成分として導電性材料を添加して導電性を付与または調整することができる。この場合、導電性材料としては、特に限定されず、ラウリルトリメチルアンモニウム、ステアリルトリメチルアンモニウム、オクタデシルトリメチルアンモニウム、ドデシルトリメチルアンモニウム、ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、変性脂肪酸・ジメチルエチルアンモニウムの過塩素酸塩、塩素酸塩、ホウフッ化水素酸塩、硫酸塩、エトサルフェート塩、ハロゲン化ベンジル塩(臭化ベンジル塩、塩化ベンジル塩等)等の第4級アンモニウムなどの陽イオン界面活性剤;脂肪族スルホン酸、高級アルコール硫酸エステル塩、高級アルコールエチレンオキサイド付加硫酸塩、高級アルコール燐酸エステル塩等の陰イオン界面活性剤;各種ベタイン等の両性イオン界面活性剤;高級アルコールエチレンオキサイド、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、多価アルコール脂肪酸エステル等の非イオン性帯電防止剤などの帯電防止剤、LiCFSO、NaClO、LiBF、NaCl等の周期律表第1族の金属塩;Ca(ClO等の周期律表第2族の金属塩:およびこれらの帯電防止剤がイソシアネートと反応する活性水素を有する基(水素基、カルボキシル基、一級乃至二級アミン基等)を1個以上有するものなどが挙げられる。更に、これらと多価アルコール(1,4−ブタンジオール、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール等)またはその誘導体との錯体、或いはエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル等との錯体などのイオン導電剤;ケッチェンブラック、アセチレンブラック等の導電性カーボン;SAF、ISAF、HAF、FEF、GPF、SRF、FT、MT等のゴム用カーボン;酸化処理を施したカラーインク用カーボン、熱分解カーボン、天然グラファイト、人造グラファイト等;酸化スズ、酸化チタン、酸化亜鉛、ニッケル、銅等の金属および金属酸化物;ポリアニリン、ポリピロール、ポリアセチレン等の導電性ポリマーなどを例示することができる。
【0040】
これら導電性材料の基材への添加量は、導電性材料がカーボンブラックの場合には樹脂成分100重量部に対して0.1〜100重量部、好ましくは1〜50重量部とすることができる。これにより、導電性エンドレスベルトの体積抵抗を10〜1013Ω・cm、好ましくは10〜1012Ω・cmに調整することができる。
【0041】
また、本発明においては、本発明の効果を損なわない範囲内で上述の成分に加え他の機能性成分を添加することができ、例えば、各種充填材、成形改質剤、カップリング剤、酸化防止剤、滑剤、表面処理剤、顔料、紫外線吸収剤、帯電防止剤、分散剤、中和剤、発泡剤、架橋剤、相溶化材、着色剤等を適宜配合することができる。また、特に、補強材を添加して、強度や弾性率、衝撃強度などの機械的物性の向上を図ることが好ましい。かかる補強材としては、アスペクト比5以上の無機化合物、例えば、珪酸カルシウム、チタン酸カリウム、硫酸マグネシウム等を好適に使用することができる。
【0042】
本発明の導電性エンドレスベルトの厚さは、転写搬送ベルトまたは中間転写部材等の形態に応じて適宜選定されるものであるが、好ましくは50〜200μmの範囲内である。
【0043】
また、本発明の導電性エンドレスベルトには、図1に一点鎖線で示すように、図2の画像形成装置における駆動ローラ9または図3の駆動ローラ30などの駆動部材と接触する側の面に、該駆動部材に形成した嵌合部(図示せず)と嵌合する嵌合部を形成してもよく、本発明の導電性エンドレスベルトは、このような嵌合部を設け、これを駆動部材に設けた嵌合部(図示せず)と嵌合させて走行させることにより、導電性エンドレスベルトの幅方向のずれを防止することができる。
【0044】
この場合、前記嵌合部は、特に制限されるものではないが、図1に示すように、ベルトの周方向(回転方向)に沿って連続する凸条とし、これを駆動ローラ等の駆動部材の周面に周方向に沿って形成した溝に嵌合させるようにすることが好ましい。
【0045】
なお、図1(a)では、1本の連続する凸条を嵌合部として設けた例を示したが、この嵌合部は多数の凸部をベルトの周方向(回転方向)に沿って一列に並べて突設してもよく、また嵌合部を2本以上設けたり(図1(b))、ベルトの幅方向中央部に設けてもよい。更に、嵌合部として図1に示した凸条ではなく、ベルトの周方向(回転方向)に沿った溝を設け、これを前記駆動ローラ等の駆動部材の周面に周方向に沿って形成した凸条と嵌合させるようにしてもよい。
【0046】
本発明の導電性エンドレスベルトは、特に制限されるものではないが、表面粗さをJIS10点平均粗さRzで10μm以下、特に6μm以下、更には3μm以下とすることが好ましい。
【0047】
また、本発明の導電性エンドレスベルトを用いた本発明の画像形成装置としては、図2に示すタンデム方式のものや図3に示す中間転写方式のもの、または、図4に示すタンデム中間転写方式のものを例示することができるが、これらには限定されない。尚、図3の装置の場合、本発明の中間転写部材20を回転させる駆動ローラまたは駆動ギアには適宜な電源61から電圧を印加することができ、この場合の電圧は直流のみの印加または直流に交流を重量する印加など、印加条件は適時選択することができる。
【0048】
さらに、本発明の導電性エンドレスベルトの製法は特に制限されるべきものではなく、例えば、二軸混練機により樹脂成分(PPS樹脂またはこれと熱可塑性樹脂とのポリマーアロイもしくはポリマーブレンド)と導電性材料等の機能性成分とを混練し、得られた混練物を環状ダイスを使って押出し成形することにより製造することができる。あるいは、静電塗装等の粉体塗装法、ディップ法または遠心注型法を好適に採用することができる。
【実施例】
【0049】
以下に本発明を実施例に基づき説明する。
実施例1
PPS樹脂(大日本インキ化学工業(株)製、商品名:LD−10)100重量部と、電化ブラック(電気化学工業(株)製)20重量部とを2軸混練機によって溶融混練し、得られた混練物を押出成形することにより、内径245mm、厚さ0.1mm、幅250mmの導電性エンドレスベルトを得た。この導電性エンドレスベルトの耐折り曲げ回数を東洋精機(株)製の耐揉疲労試験機を用いて測定した。また、引張りクリープ量の測定を、JIS K7115試験法に従い、温度25℃にて1200時間で行った。さらに、体積抵抗の測定を、温度20℃、相対湿度50%にて、測定電圧100Vで、測定装置としてアドバンテスト(ADVANTEST)社製の、抵抗計R8340AにサンプルチャンバーR12704Aを接続したものを用いて行った。
【0050】
比較例1
熱可塑性ポリカーボネート樹脂(帝人化成(株)製、商品名:パンライトK1300Y)100重量部に対しFEFカーボン(旭カーボン(株)製)30重量部を配合して、2軸混練機で溶融混練した以外は実施例1と同様にして、導電性エンドレスベルトを作製し、実施例1と同様にして測定を行った。
【0051】
また、上記実施例および比較例の各ベルトを図2に示した転写搬送ベルトを用いたタンデム方式の画像形成装置に装着し、転写操作を繰り返してA4用紙10万枚の耐久試験を行った。この試験の結果を画像性について評価した。
上記耐折り曲げ試験、引張りクリープ量測定および体積抵抗測定の結果と、耐久試験の結果を併せて下記表1中に示す。尚、表中、耐折り曲げ試験の結果については、実施例1を100以上とし、耐折れ回数として指数表示した。数値が大なるほど結果が良好である。
【0052】

【0053】
以上の測定および試験の結果より、実施例の導電性エンドレスベルトは、屈曲耐久性および耐クリープ性の点で顕著な優位性を有することが確認された。また、画像性についても良好な結果が得られた。即ち、PPS樹脂を単独でベルトの基材として用いた場合において、従来に比し極めて良好なベルト特性が得られることが確認できた。
【0054】
実施例2〜8
PPS樹脂(大日本インキ化学工業(株)製、商品名:LD−10)100重量部と、下記の表2中に示す部数の添加樹脂とを用い、これら樹脂成分100重量部に対して電化ブラック(電気化学工業(株)製)15重量部を添加して、2軸混練機によって溶融混練
した以外は実施例1と同様にして、導電性エンドレスベルトを作製した。
【0055】
上記各実施例で得られた導電性エンドレスベルトの強度、伸び率およびアイゾット衝撃強さの測定を行った。強度および伸び率の測定は、以下に示す条件にて行った。
装置:(株)島津製作所製、引張試験機EZ test(解析ソフト:Trappezium)
サンプル:ダンベル形状(長さ100mm×幅10mm×標準厚み100μm)
引張速度:5mm/sec
データサンプリング間隔:100msec
測定方法:0.5〜0.6%伸度での傾き(記載ある場合JIS K7113に記載の接線法)
測定環境:室温(23±3℃、55±10%RH)
また、アイゾット衝撃強さの測定は、ASTM D−256に準じて、温度23℃にて行った。これらの結果を下記の表2中に併せて示す。
【0056】


1)商品名 BX505、三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製
2)商品名 TQB−OT、帝人化成(株)製
3)商品名 2026B、宇部興産(株)製
4)商品名 U−8000、帝人化成(株)製
5)商品名 オーラム450、三井化学(株)製
6)商品名 ベクトラA950、ポリプラスチックス(株)製
【0057】
上記表2の結果から、PPS樹脂単独使用の場合に対し、各樹脂を添加した場合においても、強度、伸び率およびアイゾット衝撃強さの各特性をバランス良く得ることができ、高性能のベルトが得られることがわかる。
【0058】
実施例9〜12
PPS樹脂(大日本インキ化学工業(株)製、商品名:LD−10)100重量部と、下記の表2中に示す部数の熱可塑性エラストマー(大日本インキ化学工業(株)製、商品名:グリラックスEH820)とを用い、これら樹脂成分100重量部に対して電化ブラック(電気化学工業(株)製)15重量部を添加して、2軸混練機によって溶融混練した以外は実施例1と同様にして、導電性エンドレスベルトを作製した。
【0059】
上記各実施例で得られた導電性エンドレスベルトの強度、弾性率、伸び率および耐久性の測定を、実施例2〜8と同様の条件で行った。結果は、熱可塑性エラストマーを添加しない実施例9を100として指数表示した。いずれも、数値が大なるほど良好な性能を示す。これらの結果を下記の表3中に併せて示す。
【0060】

【0061】
上記表3の結果から、熱可塑性エラストマーの添加量としては、1〜5重量部程度が最も各特性のバランスが良く、好適であることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の一実施の形態に係る導電性エンドレスベルトの幅方向断面図である。
【図2】本発明の画像形成装置の一例としての転写搬送ベルトを用いたタンデム方式の画像形成装置を示す概略図である。
【図3】本発明の画像形成装置の他の例としての中間転写部材を用いた中間転写方式の画像形成装置を示す概略図である。
【図4】本発明の画像形成装置の他の例としてのタンデム中間転写部材を用いたタンデム中間転写装置を示す概略図である。
【符号の説明】
【0063】
1、11、52a〜52d 感光体ドラム
2、7 帯電ロール
3 現像ロール
4 現像ブレード
5 トナー供給ロール
6 クリーニングブレード
8 除電ロール
9、30、55 駆動ローラ(駆動部材)
10 転写搬送ベルト
12 一次帯電器
13 画像露光
14、35 クリーニング装置
19 給紙カセット
20 中間転写部材
25 転写ローラ
26、53 記録媒体
29、61 電源
41、42、43、44 現像器
50 タンデム中間転写部材
54a〜54d 第1現像部〜第4現像部
56 記録媒体送りローラ
57 記録媒体送り装置
58 定着装置
59 電源装置(電圧印加手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂と他の熱可塑性樹脂とのポリマーアロイ、または、ポリフェニレンサルファイド樹脂と他の熱可塑性樹脂とのポリマーブレンドを基材とすることを特徴とする導電性エンドレスベルト。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂が、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリアルキレンナフタレート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリイミド樹脂および液晶ポリマーからなる群から選択される請求項1記載の導電性エンドレスベルト。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂が熱可塑性エラストマーである請求項1記載の導電性エンドレスベルト。
【請求項4】
前記熱可塑性エラストマーが、ポリエステル系エラストマー、オレフィン系エラストマーおよびスチレン系エラストマーからなる群から選択される請求項3記載の導電性エンドレスベルト。
【請求項5】
機能性成分として導電性材料が添加されてなる請求項1記載の導電性エンドレスベルト。
【請求項6】
前記導電性材料がカーボンブラックであり、樹脂成分100重量部に対し0.1〜100重量部添加されてなる請求項5記載の導電性エンドレスベルト。
【請求項7】
体積抵抗が10〜1013Ω・cmである請求項1記載の導電性エンドレスベルト。
【請求項8】
補強材が添加されてなる請求項1記載の導電性エンドレスベルト。
【請求項9】
前記補強材がアスペクト比5以上の無機化合物である請求項8記載の導電性エンドレスベルト。
【請求項10】
前記駆動部材と接触する側の面に、該駆動部材と嵌合する嵌合部を有する請求項1記載の導電性エンドレスベルト。
【請求項11】
前記嵌合部が、回転方向に沿って連続して突設された凸条である請求項10記載の導電性エンドレスベルト。
【請求項12】
静電吸着により保持した記録媒体を、駆動部材により循環駆動されて、4種の画像形成体に搬送し、各トナー像を該記録媒体に順次転写するタンデム方式の転写、搬送用導電性エンドレスベルトとして用いられる請求項1記載の導電性エンドレスベルト。
【請求項13】
画像形成体と記録媒体との間に配設され、駆動部材により循環駆動されて、前記画像形成体表面に形成されたトナー像を一旦自己の表面に転写保持し、これを記録媒体へと転写する中間転写部材用として用いられる請求項1記載の導電性エンドレスベルト。
【請求項14】
4種の画像形成体と記録媒体との間に配設され、駆動部材により循環駆動されて、前記4種の画像形成体表面に形成されたトナー像を一旦自己の表面に順次転写保持し、これを記録媒体へと転写するタンデム中間転写部材用として用いられる請求項1記載の導電性エンドレスベルト。
【請求項15】
請求項1〜14のうちいずれか一項記載の導電性エンドレスベルトを用いたことを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【国際公開番号】WO2005/000964
【国際公開日】平成17年1月6日(2005.1.6)
【発行日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−511064(P2005−511064)
【国際出願番号】PCT/JP2004/009033
【国際出願日】平成16年6月25日(2004.6.25)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】