説明

導電性ハイドロゲル、導電性乾燥ゲル、および導電性ハイドロゲルの製造方法

【課題】高い機械的強度および優れた柔軟性を備え、かつ電圧印加などの電気的刺激により変形応答を示す新規ゲルを提供する。
【解決手段】本発明に係る導電性ハイドロゲルは、架橋網目構造を有する第1のポリマーと、該第1のポリマーの該架橋網目構造に侵入した第2のポリマーとによって構成されているハイドロゲル中に、導電性ポリマーが分散してなり、ドーパントを含む、構成である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のポリマーを含むハイドロゲルおよびその製造方法に関し、詳細には、導電性に優れたハイドロゲルおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリチオフェン、ポリピロール、およびポリアニリンなどの導電性高分子のフィルムおよび膜は、電気化学的な酸化または還元により、可逆的な膨潤、収縮、および屈曲などの変形応答を示す。近年、この現象を利用した電気駆動型アクチュエータ素子、および人工筋肉などの研究開発が行なわれている。
【0003】
これらの導電性高分子は、主鎖が剛直な構造をしているため、フィルムおよび膜の機械的強度には優れるものの、柔軟性に乏しく、しなやかな運動ができず、脆いという問題点がある。また、主鎖が剛直な構造であるため、電圧印加時のフィルムおよび膜の変形量も非常に小さいといった問題点もある。
【0004】
ところで、柔軟性に優れた素材として、近年、ハイドロゲルが注目を集めている。また、ハイドロゲルの機械的強度を向上させるための技術が開発されてきている(例えば、特許文献1および2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−213868号公報(平成18年8月17日公開)
【特許文献2】特開2008−163055号公報(平成20年7月17日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
高い機械的強度を有しているハイドロゲルの中でも、特許文献2に開示されているような、架橋網目構造を有する第1のポリマーを含む微粒子の架橋網目構造に第2のポリマーが侵入した構造を有するハイドロゲルは、非常に高い機械的強度および優れた柔軟性を有している。しかしながらこのハイドロゲルは、導電性高分子のような電気化学的な酸化または還元による変形応答を示さない。また、導電性高分子は水への溶解性が極めて低いため、相分離を起こさせずに導電性高分子をハイドロゲル中に分散させることは極めて困難である。
【0007】
そこで、本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、高い機械的強度および優れた柔軟性を備え、かつ電圧印加などの電気的刺激により変形応答を示す新規ゲルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
導電性高分子は水への溶解性が極めて低いため、相分離を起こさせずに導電性高分子をハイドロゲル中に分散させることは極めて困難である。これに対して本発明者らが鋭意検討した結果、水溶性有機溶媒の水溶液を利用してハイドロゲル中で高分子を重合することによって、相分離を起こさせずに導電性高分子をハイドロゲル中に分散させ得ることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明に係る導電性ハイドロゲルは、架橋網目構造を有する第1のポリマーと、該第1のポリマーの該架橋網目構造に侵入した第2のポリマーとによって構成されているハイドロゲル中に、導電性ポリマーが分散してなり、ドーパントを含む、導電性ハイドロゲルである。
【0010】
上記構成によれば、導電性ハイドロゲルは、架橋網目構造を有する第1のポリマーと、該第1のポリマーの該架橋網目構造に侵入した第2のポリマーとを含む構造を有しているため、高い強度を有するとともに、任意の形状に容易に変形し得るものである。また、導電性高分子を含んでいるため、電気化学的な酸化・還元により大きな変形応答を示し得るものである。したがって、優れた柔軟性と高い機械的強度とを兼備し、かつ電気化学的な酸化・還元により大きな変形応答を示し得る導電性ハイドロゲルを提供できる。
【0011】
ここで「導電性ハイドロゲルがドーパントを含む」とは、ハイドロゲル自身がドーパントとして機能する場合、導電性ポリマー自身にドーパントが含まれている場合、ならびにハイドロゲルおよび導電性ポリマーとは別にドーパントが含まれている場合の何れの場合でもあり得る。
【0012】
また、本発明に係る導電性ハイドロゲルでは、上記第1のポリマーおよび上記第2のポリマーの少なくとも一方が、酸性基または塩基性基を有していることがより好ましい。
【0013】
また、本発明に係る導電性ハイドロゲルでは、上記導電性ポリマーが、上記ハイドロゲルに対して5重量%〜75重量%含有されていることがより好ましい。
【0014】
また、本発明に係る導電性ハイドロゲルでは、上記導電性ポリマーが、ポリチオフェン、ポリピロールもしくはポリアニリンもしくはこれらの誘導体またはこれらの共重合体であることがより好ましい。
【0015】
また、本発明に係る導電性ハイドロゲルでは、上記第1のポリマーおよび上記第2のポリマーの少なくとも一方が、カルボキシル基、リン酸基もしくはスルホン酸基またはこれらの塩を有していることがより好ましい。
【0016】
また、本発明に係る導電性ハイドロゲルにおいて、上記導電性ポリマーが、上記ハイドロゲルの内部に導電性モノマーを含浸させて該導電性モノマーを重合させたものであることがより好ましい。
【0017】
本発明は、上述の導電性ハイドロゲルを乾燥して得られる、導電性乾燥ゲルもまた包含するものである。
【0018】
また、本発明に係る導電性ハイドロゲルの製造方法は、上記課題を解決するために、架橋網目構造を有する第1のポリマー、および該第1のポリマーの該架橋網目構造に侵入した第2のポリマーによって構成されるハイドロゲルを調製するゲル調製工程と、水溶性有機溶媒の水溶液に導電性モノマーが溶解してなるモノマー溶液に、上記ハイドロゲルを浸漬する浸漬工程と、上記ハイドロゲルに含浸した上記導電性モノマーを重合させる重合工程と、を含む構成である。
【0019】
上記構成によれば、本発明に係る導電性ハイドロゲルを容易に製造することができる。
【0020】
また、本発明に係る導電性ハイドロゲルの製造方法は、上記ゲル調製工程において、上記第1のポリマーおよび上記第2のポリマーの少なくとも一方を、酸性基または塩基性基を有するモノマーを含むモノマー混合物を重合させて調製することがより好ましい。
【0021】
また、本発明に係る導電性ハイドロゲルの製造方法では、上記導電性モノマーが、チオフェン、ピロールもしくはアニリンもしくはこれらの誘導体またはこれらの混合物であることがより好ましい。
【0022】
また、本発明に係る導電性ハイドロゲルの製造方法は、上記浸漬工程の前に、上記ハイドロゲルを乾燥させる乾燥工程をさらに含むことがより好ましい。
【発明の効果】
【0023】
以上のように、本発明に係る導電性ハイドロゲルは、架橋網目構造を有する第1のポリマーと、該第1のポリマーの該架橋網目構造に侵入した第2のポリマーとによって構成されているハイドロゲル中に、導電性ポリマーが分散してなり、ドーパントを含む、導電性ハイドロゲルであるため、優れた柔軟性と高い機械的強度とを兼備し、かつ電気化学的な酸化・還元により大きな変形応答を示し得る導電性ハイドロゲルを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係る導電性ハイドロゲルにおける、電圧印加による変形を模式的に示す図であり、(a)は電圧非印加時の状態を示し、(b)は電圧印加時の状態を示している。
【図2】図1における変形の大きさを示したグラフを表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の一実施形態について説明すれば以下の通りである。なお、本明細書において「〜」は、その前後に記載される数値をそれぞれ最小値および最大値として含む範囲を意味する。
【0026】
〔導電性ハイドロゲル〕
(第1のポリマー、第2のポリマー)
本発明に係る導電性ハイドロゲルは、架橋網目構造を有する第1のポリマーと、該第1のポリマーの該架橋網目構造に侵入した第2のポリマーとを含むハイドロゲル(以下、ダブルネットワークハイドロゲルともいう)中に、導電性ポリマーが分散してなり、ドーパントを含む、導電性ハイドロゲルである。
【0027】
本明細書において架橋網目構造とは、複数の架橋点を有するポリマーによって形成される網目構造をいう。架橋点の数、架橋点における分岐の数には特に制限はない。この架橋網目構造に侵入する第2のポリマーは、複数の架橋点を有するポリマーでも、架橋点を有しない直鎖状のポリマーでもよい。
【0028】
なお、本明細書における「第1のポリマー」および「第2のポリマー」という表記は、本発明のハイドロゲルを2つのポリマーのみからなるハイドロゲルに限定するためのものではなく、3つまたはそれ以上のポリマーから構成されるハイドロゲルも含まれる。例えば、架橋網目構造を有する第1のポリマーからなるゲルに対して第2のポリマーおよび第3のポリマーを侵入させたハイドロゲルも本発明の一態様である。
【0029】
第1のポリマーおよび第2のポリマーを構成する原料モノマーとしては、水または水と混和性のある溶媒に溶解するものであればよく、電気的に中性な基を有する不飽和モノマー、酸性基を有する不飽和モノマー、および塩基性基を有する不飽和モノマーのいずれもが利用可能である。ここで、「電気的に中性な基を有する」とは、酸性基および塩基性基のいずれをも有していないことを意図している。
【0030】
電気的に中性な基を有する不飽和モノマーとしては、例えば、アクリルアミド(AAm)、N−イソプロピルアクリルアミド、ヒドロキシエチルアクリルアミド、N,N−ジメチル−アクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、メチルメタクリレート(MMA)、ビニルピリジン、ジメチルシロキサン、ヒドロキシエチルアクリレート、酢酸ビニル、アクリロイルモルホリン、およびフッ素含有不飽和モノマー(例えば、トリフルオロエチルアクリレート(TFE)、2,2,2−トリフルオロエチルメチルアクリレート、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピルメタクリレート、3−(ペルフルオロブチル)−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、1H,1H,9H−ヘキサデカフルオロノニメタクリレート、2,2,2−トリフルオロエチルアクリレート、2,3,4,5,6−ペンタフルオロスチレン、およびフッ化ビニリデン)を挙げることができる。安定して高分子量の高分子を簡便に得ることができ、その結果高強度性を付与できる点で、嵩高さが小さいモノマーが好ましく、中でも、アクリルアミドまたはその誘導体がより好ましく、アクリルアミドが特に好ましい。
【0031】
酸性基を有する不飽和モノマーにおける酸性基としては、例えば、カルボキシル基、リン酸基、およびスルホン酸基が挙げられる。また、塩基性基を有する不飽和モノマーにおける塩基性基としては、例えば、アミノ基が挙げられる。酸性基を有する不飽和モノマー、および塩基性基を有する不飽和モノマーとしては、例えば、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(AMPS)、アクリル酸(AA)、メタクリル酸、ジメチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、ジメチルアミノエチルアクリレート4級塩化物、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド4級塩化物、またはそれらの塩を挙げることができる。安定して高分子量の高分子を簡便に得ることができ、その結果高強度性を付与でき、かつドーパントとしても機能できる点で、嵩高さが小さいモノマーが好ましく、中でも、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸がより好ましい。
【0032】
第1のポリマーおよび第2のポリマーはそれぞれ、単一のモノマーの重合により形成されるホモポリマーであってもよく、複数種のモノマーを混合したモノマー混合物の重合により形成される共重合体であってもよい。
【0033】
第1のポリマーおよび第2のポリマーの少なくとも一方は、酸性基または塩基性基を有していることが好ましい。これにより、第1のポリマーおよび第2のポリマーの少なくとも一方を、導電性ハイドロゲルにおいてドーパントとして機能させることができる。ドーパントは、導電性ポリマーの電気伝導度を高めるものである。中でも、第1のポリマーおよび第2のポリマーの一方が酸性基または塩基性基を有しており、他方が電気的に中性な基を有していることがより好ましく、第1のポリマーおよび第2のポリマーの一方が酸性基を有しており、他方が電気的に中性な基を有していることがさらに好ましい。
【0034】
ハイドロゲルにおける第1のポリマーおよび第2のポリマーの含有量の比は、特に制限されないが、機械強度の増加の観点からは、例えば、重量比にして1:3〜1:100(第1のポリマー:第2のポリマー)とすることが可能である。
【0035】
(導電性ポリマー)
本明細書において、導電性ポリマーは導電性モノマーの重合体である。導電性ポリマーは、π共役系導電性ポリマーであることが好ましい。π共役系導電性ポリマーは、主鎖がπ共役系で構成されている有機高分子であれば公知の如何なる方法で製造されたものでも使用可能である。本発明に係る導電性ハイドロゲルにおける電圧印加による変形は、導電性ポリマーにおける、高分子鎖上のπ電子の非局在化によるコンフォメーション変化(電気伝導)、ならびに材料中にあるイオンによるイオン伝導の両者によって起きているため、低電圧で変形を生じさせることが可能である。また、電気化学的酸化・還元によるドーパントのドーピングおよび脱ドーピングと高分子鎖上のπ電子の非局在化とによるコンフォメーション変化を起こすことができるため、より好ましい。
【0036】
本発明における導電性ポリマーとしては、単一の導電性モノマーによるホモポリマー、または2種以上の導電性モノマーによる共重合体が可能である。導電性モノマーとしては、非限定的に、チオフェン、ピロール、アニリン、アセチレン、フェニレン、フェニレンビニレン、およびフルオレン、ならびにこれらの誘導体が挙げられる。したがって、導電性ポリマーとしては、例えば、ポリピロール類、ポリアニリン類、ポリチオフェン類、ポリアセチレン類、ポリフェニレン類、ポリフェニレンビニレン類、およびポリフルオレン類、ならびにこれらの共重合体などが挙げられる。重合反応の容易さ、および空気中での安定性の点から、ポリピロール類、ポリチオフェン類、およびポリアニリン類がより好ましい。
【0037】
導電性ポリマーは無置換のままでもよく、置換基を有していてもよい。導電性ポリマーに導入し得る置換基としては、アルキル基、カルボキシ基、アルキルカルボキシ基、スルホン酸基、アルキルスルホン酸基、アルコキシ基、ヒドロキシ基、ヒドロキシアルキル基、シアノ基、アルキルシアノ基、ニトロ基およびビニル基などの官能基が挙げられる。導電性ポリマーは、モノマー単位の複数の分子末端にピロール類、およびチオフェン類等を含む架橋性モノマーとピロール類、およびポリチオフェン類等との重合によって得られた架橋・分岐構造を有するものも含む。置換基を有することにより、第1のポリマーと第2のポリマーとによって構成されているハイドロゲル中に、効率よく、生成および複合化させることができる。
【0038】
このような導電性ポリマーとして具体的には、例えば、ポリピロール、ポリ(N−メチルピロール)、ポリ(3−メチルピロール)、ポリ(3−エチルピロール)、ポリ(3−n−プロピルピロール)、ポリ(3−ブチルピロール)、ポリ(3−オクチルピロール)、ポリ(3−デシルピロール)、ポリ(3−ドデシルピロール)、ポリ(N−(2−カルボキシエチル)ピロール、ポリ(3,4−エチレンジオキシピロール)、ポリ(3,4−プロピレンジオキシピロール)、ポリ(3−カルボキシピロール)、ポリ(3−カルボキシプロピルピロール)、ポリ(3−カルボキシブチルピロール)、ポリ(3−ヒドロキシピロール)、 ポリ(3−メトキシピロール)、ポリ(3−エトキシピロール)、ポリ(3−ブトキシピロール)、ポリ(3−ヘキシルオキシピロール)、ポリ(3−ニトロピロール)、ポリ(3−ピロールエチルスルホネート)、ポリ(3−ピロールプロピルスルホネート)およびポリ(3−ピロールヘキシルスルホネート)などのポリピロール類;ポリチオフェン、ポリ(3−メチルチオフェン)、ポリ(3−エチルチオフェン)、ポリ(3−プロピルチオフェン)、ポリ(3−ブチルチオフェン)、ポリ(3−ヘキシルチオフェン)、ポリ(3−ヘプチルチオフェン)、ポリ (3−オクチルチオフェン)、ポリ(3−デシルチオフェン)、ポリ(3−ドデシルチオフェン)、ポリ(3−オクタデシルチオフェン)、ポリ(3−ブロモチオフェン)、ポリ(3−クロロチオフェン)、ポリ(3−ヨードチオフェン)、ポリ(3−シアノチオフェン)、ポリ(3−メトキシチオフェン)、ポリ(3−エトキシチオフェン)、ポリ(3−ブトキシチオフェン)、ポリ(3−ヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3−ヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3−オク チルオキシチオフェン)、ポリ(3−デシルオキシチオフェン)、ポリ(3−ドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3−オクタデシルオキシチオフェン)、ポリ(3−フェニルチオフェン)、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4−プロピレンジオキシチオフェン)、ポリ(3−カルボキシチオフェン)、ポリ(3−カルボキシプロピルチオフェン)、ポリ(3−カルボキシブチルチオフェン)、ポリ(3−ヒドロキシチオフェン)、ポリ(3−ニトロチオフェン)、ポリ(イソチアナフテン)、ポリ(3−チオフェンエチルスルホネート)、ポリ(3−チオフェンプロピルスルホネート)およびポリ(3−チオフェンヘキシルスルホネート)などのポリチオフェン類;ポリアニリン、ポリ(2−メチルアニリン)、ポ リ(3−イソブチルアニリン)、ポリ(2−アニリンスルホン酸)、ポリ(3−アニリンスルホン酸)トルイジンおよびアニシジンなどのポリアニリン類が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0039】
中でも、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリ(N−メチルピロール)、ポリ(3−メチルチオフェン)、ポリ(3−メトキシチオフェン)およびポリ(3,4−エ チレンジオキシチオフェン)から選ばれる1種または2種からなる(共)重合体が、反応性の点からより好ましい。
【0040】
詳細は後述の〔導電性ハイドロゲルの製造方法〕において説明するが、導電性ポリマーは、第1のポリマーと第2のポリマーとによって構成されているハイドロゲルを、導電性モノマーが溶解しているモノマー溶液に浸漬させて、導電性モノマーをハイドロゲル中に含浸させ、ハイドロゲル中に含浸した導電性モノマーを重合させることにより、得られるものである。これにより、水溶性ではない導電性ポリマーがハイドロゲルの相と相分離を起こすことなく、ハイドロゲル中に分散することになる。
【0041】
導電性ポリマーの含有量は、ハイドロゲルに対して導電性を付与し、かつハイドロゲルの特性を保持し得る限り特に限定されるものではないが、ハイドロゲルに対して5重量%〜75重量%含有されていることがより好ましく、12.5重量%〜62.5重量%含有されていることが特に好ましい。ハイドロゲルに対して5重量%以上含有されていることにより導電性を付与することができ、75重量%以下であることにより脆弱性を抑制することが可能である。
【0042】
ハイドロゲルに塩基性基を有するポリマーが含まれている場合には、カチオン性の導電性ポリマーを用いることがより好ましく、ハイドロゲルに酸性基を有するポリマーが含まれている場合には、アニオン性の導電性ポリマーを用いることがより好ましい。これによりn型およびp型何れの導電性ハイドロゲルも構築し得る。
【0043】
(ドーパント)
導電性ポリマーと呼ばれる共役系高分子は共役構造を持ち導電経路は有するものの、自由に動ける電荷(キャリア)が存在せず、それ自身では導電性を発現しない。導電性を付与し、伝導度を向上させるためには、イオン性の添加物を加え、自由に動ける電荷(キャリア)を注入する必要がある。このドーピングは、I、Br、ClO、BF、FeCl、PF、AsF、SbF、トルエンスルホン酸、およびドデシルベンゼンスルホン酸等の電子受容体(アクセプタ)、ならびに、Li、NaおよびKなどのアルカリ金属、NHおよびテトラエチルアンモニウムイオン等の電子供与体(ドナー)等の適当な化学種(ドーパント)を導電性ポリマーに添加することで行われ、化学ドーピングと呼ばれる。本発明に係る導電性ハイドロゲルに含まれるドーパントは、導電性ポリマーの電気伝導度を高めるものであれば特に限定されるものではない。また導電性ハイドロゲル中にドーパントが含まれているものであればその含有形態は特に制限されず、上述のようにハイドロゲル自身がドーパントとして機能するものであってもよく、または、導電性ポリマー自身にドーパントが含まれているものであってもよく、または、ハイドロゲルおよび導電性ポリマーとは別にドーパントが含まれていてもよい。例えば、ハイドロゲルが塩基性基を有するポリマーまたは酸性基を有するポリマーを含むことにより、ハイドロゲル自身がドーパントとして機能し得る。また、導電性ポリマーにスルホン酸塩、カルボン酸塩およびリン酸塩などが含まれることにより、導電性ポリマーがドーパントとして機能し得る。また、(電気)化学的にポリマーを酸化することにより、アニオンが取り込まれ、この取り込まれたアニオンがドーパントとして機能する。さらに、導電性ポリマーの重合反応においては、ルイス酸等の重合触媒がチオフェン等のモノマーを酸化して重合が起こるが、このとき、触媒は還元(Fe(III)→Fe(II))され、TsO等のアニオンが生成される。このアニオンをドーパントとして機能させることも可能である。
【0044】
〔導電性ハイドロゲルの製造方法〕
本発明に係る導電性ハイドロゲルの製造方法は、架橋網目構造を有する第1のポリマー、および該第1のポリマーの該架橋網目構造に侵入した第2のポリマーによって構成されるハイドロゲルを調製するゲル調製工程と、水溶性有機溶媒の水溶液に導電性モノマーが溶解してなるモノマー溶液に、上記ハイドロゲルを浸漬させて該導電性モノマーを上記ハイドロゲルに含浸させる浸漬工程と、上記ハイドロゲルに含浸した上記導電性モノマーを重合させる重合工程と、を含む構成である。
【0045】
(ハイドロゲルの調製)
架橋網目構造を有する第1のポリマー、および該第1のポリマーの該架橋網目構造に侵入した第2のポリマーを含むハイドロゲルの製造方法としては、例えば、架橋網目構造を有する第1のポリマーからなるゲルを調製する工程、このゲルを第2のポリマーを形成するためのモノマーの溶液に浸漬する工程(この工程において、第1のポリマーからなるゲルの架橋網目構造の空隙部分にモノマーが含浸される)、およびこのモノマーを重合させる工程を含む方法が挙げられる。
【0046】
また、架橋網目構造を有する第1のポリマーを含むゲルを調製した後、これを物理的に、例えば乳鉢および乳棒を用いて砕くなどして、第1のポリマーを含むゲルを微粒子状にして用いてもよい。第1のポリマーを含むゲルを微粒子状にすることによって、第1のゲルが破損しにくくなり、これにより取り扱いがより容易となり、3次元化など加工性も向上する。
【0047】
架橋網目構造を有する第1のポリマーからなるゲルを調製する方法としては、第1のポリマーを調製するための第1の原料モノマー、架橋剤、および重合開始剤を含む第1の重合溶液を用いて、原料モノマーを重合させるとともに架橋剤により重合体どうしを架橋する方法が挙げられる。第1の原料モノマーとしては、上述の原料モノマーを用いればよい。なお、重合の条件は、当業者であれば、その目的に応じて適宜選択し得る。
【0048】
架橋剤は、多官能性であって、水または有機モノマーに溶解する性質を有するものであればよい。これにより、ハイドロゲルを構成するポリマー間を共有結合により架橋させることができる。このような架橋剤の例としては、N,N’−メチレンビスアクリルアミド、N,N’−プロピレンビスアクリルアミド、ジ(アクリルアミドメチル)エーテル、1,2−ジアクリルアミドエチレングリコール、1,3−ジアクリロイルエチレンウレア、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、N,N’−ジアリルタータルジアミドおよびN,N’−ビスアクリリルシスタミンなどの二官能性化合物、ならびにトリアリルシアヌレートおよびトリアリルイソシアヌレートなどの三官能性化合物が例示される。
【0049】
重合開始剤としては、この分野において一般的に用いられている重合開始剤を用いることができ、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、2,2’−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミド]水和物、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[1,1−ビス(ヒドロキシメエチル)−2−ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}、および2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]などの熱重合開始剤、ならびに2−オキソグルタル酸などの光重合開始剤などが挙げられる。
【0050】
第1のポリマーの架橋網目構造に侵入した第2のポリマーを調製する方法としては、例えば、第1のポリマーからなる架橋網目構造を有するゲルを、第2のポリマーを調製するための第2の原料モノマーおよび重合開始剤を含む第2の重合溶液に浸漬させて、第2の原料モノマーを第1のポリマーからなるゲル中に含浸させた後に、第2の原料モノマーの重合を行なう方法が挙げられる。第2の原料モノマーとしては、上述の原料モノマーを用いればよい。
【0051】
重合開始剤の説明は、第1のポリマーの調製方法における重合開始剤の説明を援用できる。
【0052】
なお、重合に際しての原料モノマー、架橋剤および重合開始剤の濃度については、それぞれが溶媒に溶解し得る限り特に制限はないが、高強度の導電性ハイドロゲルを得る観点からは、開始剤の量はより少ないほうが望ましい。また、導電性ハイドロゲルをアクチュエータへ適用する場合には、原料モノマーおよび架橋剤の濃度がより低いことが望ましい。また、導電性ハイドロゲルを構造材料として使用する場合には、原料モノマーおよび架橋剤の濃度がより高いことが望ましい。
【0053】
第1のポリマーを調製するための第1の原料モノマー、および第2のポリマーを調製するための第2の原料モノマーは、特に制限されないが、得られる第1のポリマーおよび第2のポリマーの少なくとも一方が導電性ポリマーに対するドーパントとして機能するように、第1のポリマーおよび第2のポリマーの少なくとも一方は、酸性基を有する不飽和モノマーまたは塩基性基を有する不飽和モノマーを含む重合溶液を用いて重合することによって調製されることが好ましい。中でも、第1のポリマーおよび第2のポリマーの何れか一方が、酸性基を有する不飽和モノマーまたは塩基性基を有する不飽和モノマーを含む重合溶液を用いて重合することによって調製され、他方が電気的に中性な基を有する不飽和モノマーの重合溶液を用いて重合することによって調製されることがより好ましい。特に好ましくは、第1のポリマーおよび第2のポリマーの何れか一方が、酸性基を有する不飽和モノマーを含む重合溶液を用いて重合することによって調製され、他方が電気的に中性な基を有する不飽和モノマーの重合溶液を用いて重合することによって調製される。
【0054】
(導電性ポリマーの調製)
ハイドロゲルに分散する導電性ポリマーは、ハイドロゲルを調製した後、水溶性有機溶媒の水溶液に導電性モノマーが溶解してなるモノマー溶液に、ハイドロゲルを浸漬させて導電性モノマーをハイドロゲルに含浸させて、ハイドロゲルに含浸した導電性モノマーを重合させることにより得られる。
【0055】
ここで、導電性モノマーの重合は、導電性モノマーをハイドロゲルに完全に含浸させた後に開始させる場合に限らず、導電性モノマーのハイドロゲルへの含浸と、導電性モノマーの重合および複合化とが並行してなされるものであってもよい。なお、ハイドロゲルをモノマー溶液に浸漬させる際の温度を低くすることにより、重合が進行する前に、導電性モノマーをハイドロゲル中に十分に含浸させることができる。これにより、重合後、ハイドロゲル中により均一に分散した導電性ポリマーを得ることができる。重合が進行する前に導電性モノマーをハイドロゲル中に十分に含浸させる場合には、0℃〜25℃で含浸させることが好ましく、0℃〜15℃で含浸させることが特に好ましい。また、低い温度で含浸させた後に、温度を高くすることにより重合を促進することができる。
【0056】
導電性モノマーをハイドロゲルに含浸させて重合反応させることにより、ハイドロゲルが重合の反応場としての空間を導電性モノマーに提供することになる。これにより、導電性モノマーの凝集を回避し、効率よく導電性ポリマーが網目中に形成される。
【0057】
導電性モノマーとしては、上述の導電性ポリマーを製造し得るものであればよく、例えば、ピロール類、アニリン類、チオフェン類、アセチレン類、フェニレン類、フェニレンビニレン類、およびフルオレン類などが挙げられる。なお、ここで、「類」とはその化合物の誘導体も含むことを意図している。すなわち、「ピロール類」とはピロールおよびその誘導体を意図している。中でも、重合の容易さから、ピロール、チオフェン、N−メチルピロール、3−メチルチオフェン、3−メトキシチオフェンおよび3,4−エ チレンジオキシチオフェンがより好ましい。導電性モノマーは1種のみを用いてもよく、また2種以上を混合した導電性モノマー混合物を用いて共重合体を製造するものであってもよい。
【0058】
導電性モノマーとして水酸基を有するモノマーを用いることにより、重合により得られる導電性ポリマーの水溶性をより容易に制御することができる。
【0059】
導電性モノマーを溶解する水溶液に用いられる水溶性有機溶媒は、水溶性であれば特に限定されず、例えば、メタノール、エタノール、プロパノールおよびブタノールなどの水溶性アルコール、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド(DMSO)、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン、エチレングリコール、ならびにアセトンなどが挙げられる。水溶液に用いる有機溶媒の種類によっても、重合の反応速度をコントロールできる。例えば、エタノールを用いることにより、導電性モノマーがハイドロゲル中に十分に含浸する前に重合が完了してしまうことを防ぐことができる。
【0060】
なお、導電性モノマーを十分にハイドロゲル内に浸透させ、ハイドロゲル内に効率良く導電性高分子を生成させるために、モノマー溶液に浸漬する前に、ハイドロゲルを乾燥させる乾燥工程を経ることが好ましい。乾燥方法としては、凍結乾燥、風乾および真空乾燥などを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。中でも、アセトニトリル、アセトンおよびメタノールなどの水溶性有機溶媒による脱水後、真空乾燥する方法が特に好ましい。
【0061】
以上のように、ハイドロゲルをモノマー溶液に浸漬させる際の温度、および導電性モノマーを溶解する水溶液に用いる有機溶媒を適宜選択することにより、ハイドロゲル中に分散させる導電性ポリマーの量を調節することができる。したがって、目的に応じて、または導電性ハイドロゲルを製造するために用いるハイドロゲルの大きさに応じて、浸漬の温度および水溶液に用いる有機溶媒を決定すればよい。
【0062】
水溶液に含まれる水溶性有機溶媒の濃度は特に限定されず、水溶性有機溶媒、および水溶液に溶解させる導電性モノマーに応じて適宜決定すればよい。水溶性有機溶媒の濃度が低い場合には、導電性モノマーの溶解度が小さくなる。一方、水溶性有機溶媒の濃度が高い場合には、ハイドロゲルが十分に膨潤できなくなる。例えば、導電性モノマーとして3,4−エチレンジオキシチオフェンを用い、水溶性有機溶媒としてエタノールを用いる場合には、エタノールの濃度を50%とすることにより、3,4−エチレンジオキシチオフェンを十分に溶解させるとともに、ハイドロゲルを十分に膨潤させて3,4−エチレンジオキシチオフェンをハイドロゲル中に含浸させて、ハイドロゲル内で重合を行なうことができる。
【0063】
モノマー溶液には、上述の導電性モノマーのほかに、重合触媒が含まれていることが好ましい。重合触媒としては、p−トルエンスルホン酸鉄(III)・6水和物、塩化鉄(III)、および塩化鉄(III)・6水和物などが挙げられる。p−トルエンスルホン酸鉄(III)・6水和物は、得られる導電性ポリマーに対するドーパントしても機能するため、より好ましい。
【0064】
以上のようにして導電性ポリマーをハイドロゲル中で調製することにより、ハイドロゲル中に導電性ポリマーが相分離を起こすことなく均一に分散した導電性ハイドロゲルを調製することができる。なお、十分に膨潤したハイドロゲルを得るために、導電性ポリマーを調製した後、水中にハイドロゲルを浸漬することが好ましい。
【0065】
〔導電性乾燥ゲル〕
本発明は、上述の本発明に係る導電性ハイドロゲルを乾燥して得られる、導電性乾燥ゲルもまた提供するものである。
【0066】
導電性乾燥ゲルは、乾燥によって上述の導電性ハイドロゲルから水分を十分に除去することにより得ることができる。導電性乾燥ゲルの水分含量は、10重量%以下であることがより好ましく、1重量%以下であることが特に好ましい。乾燥方法は、特に限定されるものではないが、アセトニトリル、アセトンおよびメタノールなどの水溶性有機溶媒による脱水後、真空乾燥する方法が好ましい。
【0067】
本発明に係る導電性ハイドロゲルを乾燥して得られる導電性乾燥ゲルは、従来にはない柔らかさと軽量さを兼ね備えたゲルである。
【0068】
なお、導電性乾燥ゲルを、電子伝導性を有するポリマーネットワークと換言することもできる。
【0069】
以下に実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。さらに、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された文献の全てが参考として援用される。
【実施例】
【0070】
〔実施例1.導電性ダブルネットワークハイドロゲルの調製〕
(ダブルネットワークハイドロゲルの調製)
まず、6.22g(30mmol)の2−アクリルアミド−2−メチル−プロパンスルホン酸(AMPS)、185mg(1.2mmol)のN,N’−メチレンビスアクリルアミド(MBAAm)、および8.11mg(0.03mmol)の過硫酸カリウム(KPS)を、30mLの純水に溶解し、30分間窒素置換した。この溶液を内径1.3mmのガラス製キャピラリーが入った試験管の当該キャピラリー内に移し、この試験管を60℃の水浴中に8時間置いてAMPSを重合させた。冷却後、試験管からキャピラリーを取り出し、このキャピラリーを大過剰のアセトニトリル中に浸漬して、キャピラリー内に形成されたゲルを収縮させた。ゲルを取り出した後、減圧下でゲルを12時間乾燥させることにより、乾燥ポリ(2−アクリルアミド−2−メチル−プロパンスルホン酸)(PAMPS)ゲルを得た。
【0071】
次いで、5.60g(78.8mmol)のアクリルアミド(AAm)、および21.6mg(0.08mmol)のKPSを、40mLの純水に溶解し、30分間窒素置換した。この溶液に、上述の乾燥PAMPSゲル0.16gを投入し、5℃で3日間静置して、PAMPSゲルを平衡化し、膨潤させた。平衡膨潤後、65℃の水浴中に7時間置いてAAmを重合させた。冷却後、ゲルを取り出し、大過剰の純水で繰り返し洗浄することにより、ダブルネットワーク(DN)ハイドロゲルを得た。
【0072】
このDNハイドロゲルを大過剰のアセトニトリル中に浸漬して収縮させた後、減圧下で12時間乾燥させることにより、乾燥DNハイドロゲルを得た。
【0073】
(導電性ダブルネットワークゲルの調製)
0.853g(6.0mmol)の3,4−エチレンジオキシチオフェン(EDOT)、および4.06g(6.0mmol)のp−トルエンスルホン酸鉄(III)・6水和物を、24.0mLの50%エタノール水溶液に溶解した。重合反応を抑制するために、溶液は、ただちに15℃に冷却した。この溶液に上述の乾燥DNハイドロゲル0.63gを投入し、DNハイドロゲルを膨潤させ、EDOTおよびp−トルエンスルホン酸鉄(III)をDNハイドロゲル内部に含浸させた。12時間後、DNハイドロゲルを浸漬した溶液の温度を室温(23℃)に上げ、重合反応を加速させた。その後、室温(23℃)で1〜3週間静置することにより、DNハイドロゲル内部においてポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)を重合・複合化(固定化)させた。EDOTの重合に伴い、DNハイドロゲルは、緑色→青色→濃青色→黒色と変色した。所定の時間反応後、DNハイドロゲルを反応溶液から取り出して、50%エタノール水溶液で繰り返し洗浄した。その後、大過剰の純水に浸漬してDNハイドロゲルを十分膨潤させることにより、導電性のDNハイドロゲル(DN−PEDOTハイドロゲル)を得た。
【0074】
〔実施例2.機械強度の測定および評価〕
実施例1において、PEDOTの重合反応を10日間または17日間行い、棒状のDN−PEDOTハイドロゲルを得た。比較例として、PEDOTを導入していない棒状のDNハイドロゲルを調製した。得られた棒状のゲル試料を、精密万能試験機オートグラフAG−X(島津製作所社製)を用いて、10mm/minの速度で引っ張り試験を行った。その結果を表1に示す。
【0075】
【表1】

【0076】
表1に示すように、PEDOTの重合反応を10日間行うことにより得られたDN−PEDOTハイドロゲルの引っ張り破断強度は107kPaであり、初期弾性率は84kPaであった。また、PEDOTの重合反応を17日間行うことにより得られたDN−PEDOTハイドロゲルの引っ張り破断強度は146kPaであり、初期弾性率は80kPaであった。一方、PEDOTを導入していないDNハイドロゲルでは、引っ張り破断強度は105kPaであり、初期弾性率は59kPaであった。すなわち、DN−PEDOTハイドロゲルの初期弾性率は、PEDOTを導入していないDNハイドロゲルの初期弾性率の約1.4倍であり、PEDOT重合反応を17日間行ったDN−PEDOTハイドロゲルの引っ張り破断強度は、PEDOTを導入していないDNハイドロゲルの引っ張り破断強度の約1.4倍であった。以上から、PEDOTを導入することにより、DNハイドロゲルの機械強度が向上することが明らかになった。
【0077】
〔実施例3.導電性の測定および評価〕
実施例1において、PEDOTの重合反応を10日間または17日間行い、棒状のDN−PEDOTハイドロゲルを得た。比較例として、PEDOTを導入していない棒状のDNハイドロゲルを調製した。得られた棒状のゲル試料を、大過剰のアセトニトリル中に浸漬して収縮させた後、減圧下で12時間乾燥させることにより、乾燥DN−PEDOTハイドロゲルを得た。これらの試料の抵抗値を、デジタルマルチメーターVOAC7522(岩通計測社製)を用いて四端子法にて測定して、伝導度を算出した。その結果を表2に示す。
【0078】
【表2】

【0079】
表2に示すように、PEDOTの重合反応を10日間行うことにより得られたDN−PEDOTハイドロゲルの伝導度は4.7S/cmを示した。また、PEDOTの重合反応を17日間行うことにより得られたDN−PEDOTハイドロゲルの伝導度は2.3S/cmを示した。一方、PEDOTを導入していないDNハイドロゲルでは、その伝導度は4.6×10−8S/cmであった。すなわち、DN−PEDOTハイドロゲルの伝導度は、PEDOTを導入していないDNハイドロゲルと比較して、約10倍向上した。
【0080】
〔実施例4.電場応答性の測定および評価〕
実施例1において、PEDOTの重合反応を17日間行い、棒状のDN−PEDOTハイドロゲルを得た。比較例として、PEDOTを導入していない棒状のDNハイドロゲルを調製した。得られた棒状のゲル試料を0.01Mの硫酸ナトリウム水溶液中に浸漬して、平衡膨潤させた。
【0081】
図1は、ゲル試料の電場応答性の測定方法を模式的に表した図であり、図1(a)は電圧を印加する前の状態を表しており、図1(b)は電圧を印加している状態を表している。まず、0.01Mの硫酸ナトリウム水溶液12を満たした容器中に、一対の白金電極11a・11b(1cm×6cm)を電極間距離が4cmになるように互いに平行に固定した。白金電極11a・11b間に、各電極と平行になるようにゲル試料12として棒状のDN−PEDOTハイドロゲル(φ3.9×32mm)またはPEDOTを導入していない棒状のDNハイドロゲル(φ3.7×31mm)を置いた(図1(a))。白金電極11aを陽極、白金電極11bを陰極として白金電極11a・11b間に40Vの直流電圧(電場強度10V/cm)を印加し、ゲル試料12の屈曲変形挙動を観察した。ゲル試料12は、電圧の印加により、棒状ゲルが弧を描くように棒状ゲルの中央部が陽極側に近づく形で屈曲した(図1(b))。この状態で、棒状のゲル試料12の端部の陰極側部分と、屈曲した結果最も陽極に近づいている箇所の陰極側部分との距離dを、電圧印加による変形量として測定した。その測定結果を図2に示す。
【0082】
図2は、電圧を印加した時間と、ゲル試料12の変形量との関係を表した図であり、黒四角はPEDOTを導入していないDNハイドロゲルの測定結果、黒丸はDN−PEDOTハイドロゲルの測定結果を示している。図2に示すように、DN−PEDOTハイドロゲルは、PEDOTを導入していないDNハイドロゲルと比較して、約2倍大きく屈曲した。以上から、DN−PEDOTハイドロゲルが電気化学的な酸化・還元反応により大きな変形応答を示すことが示された。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明の導電性ハイドロゲルは、機械的強度および電気化学特性に優れているため、人工筋肉およびソフトアクチュエータのような生体模倣型駆動材料、家電および自動車などの、各種部品ならびに機器のアクチュエータおよびセンサー、各種衝撃吸収剤および制振材料などに利用することができ、工業上多彩な分野での利用が期待される。また、本発明の導電性乾燥ゲルは、柔軟性および軽量性に優れているため、電子材料および光学材料として、家電、自動車および航空機などにおける各種省エネ部材としての代替素材、着用可能なパソコンおよび携帯機器などのウェアラブルデバイス、ロボット用デバイス、ならびに発電装置などへの応用が期待される。
【符号の説明】
【0084】
11a、11b 白金電極
12 ゲル試料
13 硫酸ナトリウム水溶液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
架橋網目構造を有する第1のポリマーと、該第1のポリマーの該架橋網目構造に侵入した第2のポリマーとによって構成されているハイドロゲル中に、導電性ポリマーが分散してなり、ドーパントを含む、導電性ハイドロゲル。
【請求項2】
上記第1のポリマーおよび上記第2のポリマーの少なくとも一方が、酸性基または塩基性基を有している、請求項1に記載の導電性ハイドロゲル。
【請求項3】
上記導電性ポリマーが、上記ハイドロゲルに対して5重量%〜75重量%含有された、請求項1または2に記載の導電性ハイドロゲル。
【請求項4】
上記導電性ポリマーが、ポリチオフェン、ポリピロールもしくはポリアニリンもしくはこれらの誘導体またはこれらの共重合体である、請求項1〜3の何れか1項に記載の導電性ハイドロゲル。
【請求項5】
上記第1のポリマーおよび上記第2のポリマーの少なくとも一方が、カルボキシル基、リン酸基もしくはスルホン酸基またはこれらの塩を有している、請求項1〜4の何れか1項に記載の導電性ハイドロゲル。
【請求項6】
上記導電性ポリマーが、上記ハイドロゲルの内部に導電性モノマーを含浸させて該導電性モノマーを重合させたものである、請求項1〜5の何れか1項に記載の導電性ハイドロゲル。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか1項に記載の導電性ハイドロゲルを乾燥して得られる、導電性乾燥ゲル。
【請求項8】
架橋網目構造を有する第1のポリマー、および該第1のポリマーの該架橋網目構造に侵入した第2のポリマーによって構成されるハイドロゲルを調製するゲル調製工程と、
水溶性有機溶媒の水溶液に導電性モノマーが溶解してなるモノマー溶液に、上記ハイドロゲルを浸漬させて該導電性モノマーを上記ハイドロゲルに含浸させる浸漬工程と、
上記ハイドロゲルに含浸した上記導電性モノマーを重合させる重合工程と、
を含む、導電性ハイドロゲルの製造方法。
【請求項9】
上記ゲル調製工程において、上記第1のポリマーおよび上記第2のポリマーの少なくとも一方を、酸性基または塩基性基を有するモノマーを含むモノマー混合物を重合させて調製する、請求項8に記載の導電性ハイドロゲルの製造方法。
【請求項10】
上記導電性モノマーが、チオフェン、ピロールもしくはアニリンもしくはこれらの誘導体またはこれらの混合物である、請求項8または9に記載の導電性ハイドロゲルの製造方法。
【請求項11】
上記浸漬工程の前に、上記ハイドロゲルを乾燥させる乾燥工程をさらに含む、請求項8〜10の何れか1項に記載の導電性ハイドロゲルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−236311(P2011−236311A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−108231(P2010−108231)
【出願日】平成22年5月10日(2010.5.10)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(504173471)国立大学法人北海道大学 (971)
【Fターム(参考)】