説明

導電性フィルムおよびそれを用いたタッチパネル

【課題】透明性および導電性に優れるだけでなく、特に基材フィルムと透明導電塗膜層との密着性、および耐湿熱性に優れた導電性フィルム、それを用いた耐湿熱性に優れたタッチパネルを提供すること。
【解決手段】導電性フィルムにおける透明導電塗膜層として、カチオン性のポリチオフェンとポリアニオンとを含む導電性高分子、特定量のエポキシシクロ炭化水素基を有するシラン化合物、および特定量の水溶性ポリエステルを構成成分として含む透明度電塗膜層を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性フィルムおよびそれを用いたタッチパネルに関する。さらに詳しくは、基材フィルムと透明導電塗膜層との密着性、および耐湿熱性に優れた導電性フィルム、およびそれを用いた耐湿熱性に優れたタッチパネルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、透明導電性フィルムは、液晶ディスプレイやタッチパネルにおける電極、あるいは電磁波シールド材といった、透明性および導電性が要求される材料として好適に用いられている。かかる透明導電性フィルムは、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)やトリアセチルセルロース(TAC)等の透明基材フィルムの少なくとも片方の表面に、ドライプロセスもしくはウェットプロセスにより透明導電層を形成することによって得られる。ドライプロセスとは、上記透明基材フィルム上に、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等により、酸化インジウム(In)、酸化錫(SnO)、InとSnOとの混合焼結体(ITO)等からなる透明導電層を形成する方法である。一方、ウェットプロセスとは、上記透明基材フィルム上に、導電性高分子や導電性無機粒子を含む液体を、各種コーターを用いて塗布し、透明導電層を形成する方法である。今日においては、導電層自体に柔軟性がありクラック等の問題が生じにくく、製造コストが比較的安く、また生産性に優れる等の観点から、ウェットプロセスにより得られた透明導電性フィルムがよく用いられている。特に、透明性および導電性に優れるという観点から、特許文献1〜3にあるようなポリチオフェンを含む導電性高分子を用いた透明導電性フィルムがよく用いられている。
【0003】
また、近年においては、上記のような導電性高分子を用いた透明導電性フィルムについて、その耐水性を向上させる検討がなされており、例えば特許文献4がある。
【0004】
【特許文献1】特開平1−313521号公報
【特許文献2】特開2002−193972号公報
【特許文献3】特開2003−286336号公報
【特許文献4】特開2005−281704号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1〜3に開示されている透明導電性フィルムは、その構成成分として親水性の高いポリアニオンを含むため、得られる透明導電層の耐湿熱性が低く、高温高湿の環境下に曝されると導電性が大幅に低下してしまうという欠点を有する。これは、例えばタッチパネルの電極として用いた場合には、高温高湿の環境下において誤作動を引き起こすという問題が生じ、改良が求められている。
【0006】
また、上記特許文献4に開示されている透明導電性フィルムにおいても、自己乳化型ポリエステル樹脂の親水性が高いためか、あるいは自己乳化型ポリエステル樹脂の耐熱性が低いためか、近年要求されている耐湿熱性を満足するものではない。また、自己乳化型ポリエステル樹脂の分散状態によっては、均一な耐水性および導電性が得られないという問題がある。
さらに、上記特許文献1〜4における透明導電層は、密着性および塗膜強度が低く、加工工程中や製品使用中に透明導電層が削れたり、剥離したりするという問題が生じる。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、透明性および導電性に優れるだけでなく、特に基材フィルムと透明導電塗膜層との密着性、および耐湿熱性に優れた導電性フィルムを提供することにある。また、本発明の別の目的は、耐久性および耐湿熱性に優れたタッチパネルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を行った。その結果、透明導電塗膜層として、カチオン性のポリチオフェンおよびポリアニオンを含む導電性高分子とともに、エポキシシクロ炭化水素基を有するシラン化合物、および少なくとも末端または側鎖に水酸基またはカルボキシル基を有する水溶性ポリエステルを構成成分として含む塗膜を形成することにより、密着性、および耐湿熱性に優れた導電性フィルムが得られることを見出し、本発明に到達した。
【0009】
すなわち本発明は、基材フィルムの少なくとも片面に、
(i)下記式(I)で表される繰り返し単位を主成分として含有するカチオン性のポリチオフェンとポリアニオンとを含む導電性高分子(A)、
(ii)該導電性高分子100質量部に対して0.5質量部以上9質量部以下のエポキシシクロ炭化水素基を有するシラン化合物(B)、および
(iii)導電性高分子100質量部に対して10質量部以上70質量部以下の、少なくとも末端または側鎖に水酸基またはカルボキシル基を有する水溶性ポリエステル(C)
を構成成分として含む透明導電塗膜層が積層された導電性フィルムである。
【0010】
【化1】

(式(I)中、RおよびRは、相互に独立して、水素原子または炭素数1以上4以下のアルキル基を表すか、あるいは一緒になって、任意に置換されていてもよい炭素数1以上12以下のアルキレン基を表す。)
【0011】
さらに本発明は、温度60℃かつ相対湿度90%で240時間処理した前後の表面抵抗値変化率が120%以下であること、温度60℃かつ相対湿度90%で240時間処理した前後の接触抵抗値変化率が150%以下であること、導電性フィルムにおける透明導電塗膜層側の表面を、学振磨耗試験機を用いて、擦過部としてイオン交換水を含浸させた10mmのガーゼ(スズラン株式会社製、綿糸40番手を1cm四方に縦・横12本ずつ打ち込んだもの)を用い、荷重700g、速度1往復/2秒の条件で5往復擦過し、擦過した部分における透明導電塗膜層が、面積で60%以上残存すること、全光線透過率が80%以上であり、表面抵抗値が10Ω/□以上1×10Ω/□以下であることのうち、少なくともいずれか1つの態様を具備することによって、さらに優れた導電性フィルムを得ることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、基材フィルムと透明導電塗膜層との密着性に優れ、かつ耐湿熱性に優れた導電性フィルムを提供することができる。さらに、本発明の導電性フィルムは、導電性高分子を用いつつも、ITOを積層した導電性フィルムと同等の優れた導電性を有し、かつ透明性にも優れる。従って、本発明の導電性フィルムは、液晶ディスプレイ、タッチパネル、有機エレクトロルミネッセンス素子、無機エレクトロルミネッセンスランプ、電子ペーパー等の透明電極等として好適に使用することができ、とりわけ、密着性、および耐湿熱性が高度に求められる抵抗膜式タッチパネル等の分野において極めて有益である。
【0013】
また、本発明においては、透明導電塗膜層を形成するための塗液中に分散剤を用いなくとも、均一な塗膜層を得ることができる。そのため、塗液作成過程を簡略化できるとともに、均一な導電性を発現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
<導電性フィルム>
本発明の導電性フィルムは、後述する基材フィルムの少なくも片面に、後述する透明導電塗膜層が積層された導電性フィルムである。
【0015】
本発明の導電性フィルムは、基材フィルムと透明導電塗膜層とを含む態様であれば、その他の層については特に限定されるものではない。その他の層を含む場合としては、例えば、密着性等を向上する目的で、基材フィルムと透明導電塗膜層との間にアンカーコート層等を有する場合、あるいは、表面を保護する目的で、基材フィルムの上にハードコート層等の保護膜を有する場合等が挙げられる。また、透明導電塗膜層が基材フィルムの片面に設けられている場合は、その残りの片面には、必要に応じて粘着層、アンカーコート層、ハードコート層等の層を設けることもできる。
【0016】
以下に、本発明の導電性フィルムの各構成成分、および特性について説明する。
<透明導電塗膜層>
本発明における透明導電塗膜層は、カチオン性のポリチオフェンとポリアニオンとを含む導電性高分子(A)、エポキシシクロ炭化水素基を有するシラン化合物(B)、および少なくとも末端または側鎖に水酸基またはカルボキシル基を有する水溶性ポリエステル(C)を必須構成成分として含有する。以下、透明導電塗膜層の各構成成分について説明する。
【0017】
(導電性高分子(A))
本発明における透明導電塗膜層の必須構成成分である導電性高分子(A)は、カチオン性のポリチオフェンとポリアニオンとを必須構成成分として含むものである。本発明に用いられる導電性高分子の製造方法は、特に限定されるものではないが、例えば、ポリアニオンの水溶液中において、カチオン性のポリチオフェンのモノマーとなる物質を酸化重合することにより得ることができる。
【0018】
本発明におけるカチオン性のポリチオフェンは、下記式(I)で表される3,4−ジ置換チオフェンを繰り返し単位の主成分として含有する。
【化2】

【0019】
ここで、上記式(I)中、RおよびRは、相互に独立して、水素原子または炭素数1以上4以下のアルキル基を表す。あるいは、RおよびRは、一緒になって、任意に置換されていてもよい炭素数1以上12以下のアルキレン基を表す。RおよびRが、相互に独立して、水素原子または炭素数1以上4以下のアルキル基である場合には、RおよびRとしては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基が好ましく、メチル基、エチル基が特に好ましい。RおよびRが、一緒になって、任意に置換されていてもよい炭素数1以上12以下のアルキレン基である場合には、かかる炭素数1以上12以下のアルキレン基としては、例えばメチレン基、1,2−エチレン基、1,2−プロピレン基、1,3−プロピレン基、1,4−ブチレン基、2,3−ブチレン基、1,2−シクロヘキシレン基等のアルキレン基が挙げられる。中でも特に、メチレン基、1,2−エチレン基、1,2−プロピレン基、2,3−ブチレン基等のα,β−アルキレン基が好ましい。このようなα,β−アルキレン基としては、例えばエテン、プロペン、ヘキセン、オクテン、デセン、ドデセン、およびスチレン等のα−オレフィン類を臭素化して得られる1,2−ジブロモアルカン類から誘導することができる。また、上記アルキレン基における置換基としては、炭素数1以上12以下のアルキル基およびフェニル基が好ましく、特にメチル基、エチル基、プロピル基が好ましい。
【0020】
本発明におけるカチオン性のポリチオフェンは、上記式(I)で表される3,4−ジ置換チオフェンのみを繰り返し単位としていてもよいし、あるいは、3,4−ジ置換チオフェンを繰り返し単位の主成分として含有し、これと重合可能な他のモノマーを従成分として含有するものであってもよい。ここで「主成分」とは、カチオン性のポリチオフェンを構成する繰返し単位全体に対して、上記式(I)で表される3,4−ジ置換チオフェンを繰り返し単位とする部分が50モル%より大きく100モル%の範囲であることを意味する。
【0021】
以上のようなポリチオフェンは、カチオン性を示すものである。このようなカチオン性を示すポリチオフェンは、例えば、特開平1−313521号公報に記載の方法により、モノマーである3,4−ジ置換チオフェンを酸化重合することにより得ることができる。
【0022】
本発明におけるポリアニオンは、特に限定されるものではない。例えば、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリマレイン酸等の高分子状カルボン酸類、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸等の高分子状スルホン酸類等が挙げられる。
【0023】
かかる高分子状カルボン酸類および高分子状スルホン酸類等のポリアニオンは、1種類のアニオン性モノマーのみからなる単独重合体であってもよいし、あるいは、複数種のアニオン性モノマーからなる共重合体であってもよいし、さらには、アニオン性モノマーと当該モノマーと共重合可能な他のモノマー類との共重合体であってもよい。アニオン性モノマーと共重合可能な他のモノマー類としては、例えば、アクリレート類、スチレン類等を挙げることができる。ポリアニオンが共重合体である場合には、少なくとも1種類のアニオン性モノマーが共重合成分として含まれていればよい。
【0024】
本発明におけるポリアニオンとしては、これらの中でも、ポリスチレンスルホン酸、および少なくとも一部が金属塩となっているポリスチレンスルホン酸が特に好ましく、導電性の向上効果に優れる。
なお、ポリアニオンの数平均分子量Mnは、1,000以上2,000,000以下の範囲が好ましく、2,000以上500,000以下の範囲がより好ましい。
【0025】
(エポキシシクロ炭化水素基を有するシラン化合物(B))
本発明においては、透明導電塗膜層がエポキシシクロ炭化水素基を有するシラン化合物(B)を必須構成成分として含み、かつ透明導電塗膜層におけるエポキシシクロ炭化水素基を有するシラン化合物(B)の含有量を特定の数値範囲とすることによって、耐湿熱性および塗膜強度に優れた導電性フィルムを得ることができる。
【0026】
かかるエポキシシクロ炭化水素基を有するシラン化合物(B)は、下記式(II)で表される化合物である。
【化3】

【0027】
上記式(II)におけるXは、アルコキシ基、アシルオキシ基、ハロゲンから選ばれた加水分解性を有する官能基、または炭化水素基を表す。中でも、アルコキシ基、アシルオキシ基が好ましい。アルコキシ基としては、炭素数1以上10以下のアルコキシ基が好ましく、炭素数1以上6以下のアルコキシ基がさらに好ましい。具体的には、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、メトキシメトキシ基、メトキシエトキシ基、エトキシメトキシ基、エトキシエトキシ基が好ましく、メトキシ基、エトキシ基が特に好ましい。アシルオキシ基としては、炭素数2〜11のアシルオキシ基が好ましく、炭素数2〜7のアシルオキシ基がさらに好ましく、アセトキシ基が特に好ましい。ハロゲンとしては、クロロ基が好ましい。炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、アリル基や、エポキシ基、アミノ基、メルカプト基、メタクリル基、シアノ基を有していてもよい炭化水素基が挙げられる。
【0028】
上記式(II)におけるYは、エポキシシクロ炭化水素基を有する官能基を表す。本発明においてエポキシシクロ炭化水素基とは、エポキシシクロアルカン基、エポキシシクロアルケン基、エポキシシクロアルキン基を示す。中でも、エポキシシクロアルカン基が好ましい。エポキシシクロアルカン基としては、炭素数3以上12以下のエポキシシクロアルカン基が好ましい。かかる炭素数3以上12以下のエポキシシクロアルカン基としては、エポキシシクロペンチル基、エポキシシクロヘキシル基、エポキシシクロヘプチル基、エポキシシクロオクチル基が好ましく、中でもエポキシシクロヘキシル基が特に好ましい。上記式(II)におけるYが上記のような態様であると、耐湿熱性の向上効果を高くすることができる。
【0029】
上記式(II)においては、このようなエポキシシクロ炭化水素基が、アルキレン基等を介してケイ素原子Siと結合している。かかるアルキレン基としては、炭素数1以上12以下の直鎖状、または分岐状のアルキレン基が好ましい。中でもメチレン基、エチレン基、プロピレン基が特に好ましい。上記のようなアルキレン基は、エーテル結合やアミノ結合を、アルキレン基の鎖中に有していてもよい。
【0030】
上記式(II)におけるnは、1以上3以下の整数を表す。nは1または2であることが好ましく、1であることが特に好ましい。すなわち、上記式(II)におけるケイ素原子Siには、少なくとも1つのXが結合していればよいが、2つ、もしくは3つのXが結合している態様が好ましい。上記のような態様であると、塗膜強度に優れ、耐湿熱性の向上効果を高くすることができる。ケイ素原子Siに複数のXが結合している場合は、該複数のXは全て同じ種類の官能基であってもよいし、異なる種類の官能基が混在していてもよい。
【0031】
以上のようなエポキシシクロ炭化水素基を有するシラン化合物(B)の具体例としては、例えば、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシランを好ましく挙げることができる。
【0032】
また、本発明においては、エポキシシクロ炭化水素基を有するシラン化合物(B)として、市販品をそのまま用いることも可能である。市販のエポキシシクロ炭化水素基を有するシラン化合物(B)としては、例えば、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製、商品名:A−186、あるいは商品名:Coatsil(登録商標)1770等がある。
【0033】
透明導電塗膜層におけるエポキシシクロ炭化水素基を有するシラン化合物(B)の含有量は、導電性高分子100質量部に対して、0.5質量部以上9質量部以下である。エポキシシクロ炭化水素基を有するシラン化合物(B)の含有量を上記数値範囲とすることによって、透明導電塗膜層の耐湿熱性および密着性を良好なものとすることができる。含有量が少なすぎる場合は、耐湿熱性に劣るばかりでなく、基材フィルムとの密着性が低くなる傾向にあり、塗膜が簡単に剥がれてしまう等の問題が生じる。他方、含有量が多すぎても問題があり、耐湿熱性に劣るものとなってしまう。このような観点から、含有量は、0.8質量部以上8質量部以下がさらに好ましく、1質量部以上6質量部以下が特に好ましい。なお、ここでいう「導電性高分子100質量部に対して」とは、「導電性高分子の固形分100質量部に対して」という意味である。
【0034】
(水溶性ポリエステル(C))
本発明においては、透明導電塗膜層が少なくとも末端または側鎖に水酸基またはカルボキシル基を有する水溶性ポリエステル(C)を必須構成成分として含み、かつ透明導電塗膜層における水溶性ポリエステル(C)の含有量を特定の数値範囲とすることによって、基材フィルムと透明導電塗膜層との密着性、塗膜強度、および耐湿熱性に優れた導電性フィルムを得ることができる。
【0035】
かかる水溶性ポリエステル(C)は、水酸基、カルボキシル基、またはこれらの双方を有する。水酸基およびカルボキシル基の合計含有量は、水溶性ポリエステル(C)の全酸成分100モル%に対して、好ましくは0.1モル%以上40モル%以下、さらに好ましくは1モル%以上20モル%以下である。水酸基またはカルボキシル基は、末端または側鎖の両方にあってもよいし、どちらか片方にあってもよい。また、その数も限定されない。なお、本発明における「水溶性」とは、水が50%以上(体積%)含まれるメタノール中に可溶である物質を指すものとする。
【0036】
本発明における水溶性ポリエステル(C)は、スルホン酸塩基を含有する態様が好ましい。スルホン酸塩基としては、−SONa、−SOKで表されるスルホン酸のアルカリ金属塩基が挙げられる。水溶性ポリエステル(C)におけるスルホン酸塩基の含有量は、水溶性ポリエステル(C)の全酸成分100モル%に対して、好ましくは1モル%以上10モル%以下、さらに好ましくは2モル%以上7モル%以下、特に好ましくは2モル%以上4モル%以下である。スルホン酸塩基の含有量が上記数値範囲にあると、密着性、塗膜強度、および耐湿熱性の向上効果が高くなる傾向にある。水溶性ポリエステル(C)は、酸成分が、50モル%以上95モル%以下のテレフタル酸、3モル%以上43モル%以下のイソフタル酸、および2モル%以上7モル%以下の5−スルホイソフタル酸アルカリ金属塩を含有することが好ましく、酸成分が、50モル%以上95モル%以下のテレフタル酸、3モル%以上46モル%以下のイソフタル酸、および2モル%以上4モル%以下の5−スルホイソフタル酸アルカリ金属塩を含有することが特に好ましい。
【0037】
以上のような水溶性ポリエステル(C)の重量平均分子量Mwは、好ましくは1,000以上100,000以下、より好ましくは5,000以上30,000以下である。重量平均分子量Mwが上記数値範囲にあると、透明導電塗膜層と基材フィルムとの密着性の向上効果、および透明導電塗膜層の強度の向上効果を高くすることができる。
【0038】
また、本発明においては、水溶性ポリエステル(C)として、市販品をそのまま用いることも可能である。市販の水溶性ポリエステル(C)としては、例えば、互応化学社製、商品名:プラスコートRZ−570、Z−565、Z−561、Z−658等がある。
【0039】
透明導電塗膜における水溶性ポリエステル(C)の含有量は、導電性高分子100質量部に対して、10質量部以上70質量部以下である。水溶性ポリエステル(C)の含有量を上記数値範囲とすることによって、基材フィルムと透明導電塗膜層との密着性を良好なものとすることができる。また、透明導電塗膜層の強度を高くすることができる。さらに、耐湿熱性を良好なものとすることができる。水溶性ポリエステル(C)の含有量が少なすぎる場合は、密着性および塗膜強度に劣るものとなる。また、耐湿熱性に劣るものとなる。他方、含有量が多すぎる場合は、導電性および透明性が低くなる傾向にある。また、耐湿熱性に劣る傾向にある。このような観点から、含有量は、15質量部以上60質量部以下がさらに好ましく、20質量部以上40質量部以下が特に好ましい。なお、ここでいう「導電性高分子100質量部に対して」とは、「導電性高分子の固形分100質量部に対して」という意味である。
【0040】
(透明導電塗膜層に含まれるその他の成分)
本発明における透明導電塗膜層は、上記のカチオン性のポリチオフェンとポリアニオンとを含む導電性高分子(A)と、エポキシシクロ炭化水素基を有するシラン化合物(B)と、少なくとも末端または側鎖に水酸基またはカルボキシル基を有する水溶性ポリエステル(C)との他に、導電性を向上させる等、透明導電塗膜層の性能を向上させることを目的として、任意に他の成分を含んでいてもよい。以下、任意成分について説明する。
【0041】
本発明における透明導電塗膜層は、導電性を向上させるという観点から、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール等を含有することができる。また、分子内にアミド結合を有する、室温で液体の水溶性化合物を含有することができる。
【0042】
これらの化合物の含有量は、導電性高分子100質量部に対して、10質量部以上1000質量部以下が好ましく、30質量部以上600質量部以下がさらに好ましい。含有量が少なすぎる場合は、導電性能の向上効果が低くなる傾向にあり、表面抵抗値がほとんど低下しない。他方、含有量が多すぎる場合は、透明性、密着性、耐ブロッキング性に劣る傾向にある。また、透明導電塗膜層の耐湿熱性の向上効果が低くなる傾向にある。なお、ここでいう「導電性高分子100質量部に対して」とは、上記と同様に、「導電性高分子の固形分100質量部に対して」という意味である。
【0043】
また、本発明における透明導電塗膜層には、本発明の効果が損なわれない範囲内で、酸化防止剤、耐熱安定剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、有機の易滑剤、顔料、染料、有機または無機の微粒子、充填剤、透明導電剤、核剤等を配合してもよい。
【0044】
(透明導電塗膜層を形成するためのコーティング組成物(塗剤))
本発明における透明導電塗膜層は、透明導電塗膜層を形成するためのコーティング組成物(以下、塗剤と呼称する場合がある。)を、透明導電塗膜層を形成したい層の上に塗布し、乾燥することにより形成される。ここで、塗剤としては、上記のカチオン性のポリチオフェンとポリアニオンとを含む導電性高分子(A)、エポキシシクロ炭化水素基を有するシラン化合物(B)、少なくとも末端または側鎖に水酸基またはカルボキシル基を有する水溶性ポリエステル(C)、透明導電塗膜層の性能を向上させるための任意成分、および後述する塗剤の性能を向上させるための任意成分を、水に分散させた水分散液を用いる。
【0045】
かかる塗剤の性能を向上させるための任意成分としては、溶剤や界面活性剤を挙げることができる。以下、塗剤の性能を向上させるための任意成分について説明する。
【0046】
本発明における塗剤には、上記の透明導電塗膜層を構成する各成分を溶解させることを目的として、もしくは、基材フィルムへの濡れ性を向上させることを目的として、あるいは、塗剤の固形分濃度を調整すること等を目的として、分散媒である水と相溶性のある適当な溶媒を、乾燥工程が許容する範囲で添加することができる。このような溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、2−プロパノール、n−プロパノール、イソブタノール、エチレングリコール、アセトン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、およびジオキサン、ならびにこれらの混合溶媒等を挙げることができる。
【0047】
また、本発明における塗剤には、基材フィルムに対する濡れ性を向上させることを目的として、少量の界面活性剤を添加することができる。好ましい界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル等の非イオン性界面活性剤、フルオロアルキルカルボン酸塩、パーフルオロアルキルベンゼンスルホン酸塩、パーフルオロアルキル4級アンモニウム塩、パーフルオロアルキルポリオキシエチレンエタノール等のフッ素系界面活性剤が挙げられる。
【0048】
塗剤の製造方法としては、透明導電塗膜層を構成する成分が水に分散されるならば特に限定されるものではない。例えば、塗剤を構成する各成分を攪拌下で混合する方法を挙げることができる。特に、超音波処理をしつつ分散させれば、各成分をより均等に分散させることが可能となる。
【0049】
(透明導電塗膜層の製造方法)
本発明における透明導電塗膜層は、前述のとおり、透明導電塗膜層を形成したい層の上に上記塗剤を塗布し、乾燥することにより形成される。塗剤の塗布方法は、特に限定されるものではなく、公知の方法を採用できる。例えば、リップダイレクト法、コンマコーター法、スリットリバース法、ダイコーター法、グラビアロールコーター法、ロールコーター法、ブレードコーター法、スプレーコーター法、エアーナイフコート法、ディップコート法、バーコーター法等を、好ましい方法として挙げることができる。
【0050】
透明導電塗膜層を得るための乾燥条件は、特に限定されるものではないが、80℃以上160℃以下の温度範囲で10秒以上300秒以下の間乾燥することが好ましく、100℃以上150℃以下の温度範囲で20秒以上120秒以下の間乾燥することが特に好ましい。
【0051】
(透明導電塗膜層の膜厚、配置)
本発明における透明導電塗膜層の膜厚は、20nm以上300nm以下が好ましい。膜厚を上記数値範囲とすることによって、導電性、透明性、耐湿熱性の向上効果を高くすることができる。透明導電塗膜層の膜厚が厚すぎる場合は、透明導電塗膜層の透明性が低下する傾向にあり、得られる導電性フィルムにおいては透明性の向上効果が低くなる。他方、薄すぎる場合は、表面抵抗値が高くなる傾向にあり、得られる導電性フィルムにおいては導電性の向上効果が低くなる。このような観点から、膜厚は、好ましくは30nm以上200nm以下である。
【0052】
なお、透明導電塗膜層の膜厚を制御する方法としては、特に限定されるものではない。例えば、塗剤の固形分濃度および塗布量を、実施する塗布方法によって適宜制御することにより、膜厚を制御することができる。
【0053】
本発明の導電性フィルムは、後述する基材フィルムの少なくとも片面に透明導電塗膜層が形成されてなるが、前述の透明導電塗膜層1層のみが形成されている態様であってもよいし、前述の透明導電塗膜層が複数層形成されている態様であってもよいし、あるいは前述の透明導電塗膜層とは異なる他の導電層が形成されている態様であってもよい。かかる他の導電層としては、前述の透明導電塗膜層とは異なる他の導電性塗膜や、ITO等のドライプロセスにより得られる導電膜等を挙げることができる。
【0054】
ここで、透明導電塗膜層が複数層形成されている場合、あるいは透明導電塗膜層とは異なる他の導電層が形成されている場合においては、その全体の厚みは20nm以上300nm以下とすることが好ましく、30nm以上200nm以下とすることがさらに好ましく、50nm以上200nm以下とすることが特に好ましい。全体の厚みが薄すぎる場合は、導電性が低くなる傾向にある。他方、厚すぎる場合は、透明性、耐ブロッキング性に劣る傾向にある。
【0055】
また、透明導電塗膜層は、導電性フィルムにおいて基材フィルムに対して最外層であることが好ましい。このような態様とすることによって、導電性の向上効果を高くすることができる。
【0056】
<基材フィルム>
本発明における基材フィルムは、特に制限されるものではないが、例えばポリエステル、ポリスチレン、ポリイミド、ポリアミド、ポリスルホン、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ならびにこれらのブレンド体および共重合体、ならびにフェノール樹脂、エポキシ樹脂、ABS樹脂等からなるシート、フィルム、あるいは不織布を挙げることができる。
【0057】
中でも、二軸配向したポリエステルフィルムは、機械的特性、寸法安定性、耐熱性、電気的特性等に優れている観点から好ましく用いることができ、とりわけ、機械的特性、耐熱性、寸法安定性に優れていることから、ポリエチレンテレフタレートフィルムまたはポリエチレン−2,6−ナフタレートフィルムが特に好ましい。
【0058】
なお、基材フィルムの厚みは、特に制限されるものではないが、500μm以下であることが好ましい。500μmより厚い場合には、基材フィルムの剛性が高すぎて、導電性フィルムをディスプレイ等に貼付ける際等の取扱い性に劣る傾向にある。
【0059】
また、基材フィルムは、塗剤を塗布する前に、密着性、塗工性等を向上させることを目的として、必要に応じてフィルム表面に予備的処理を施すことも可能である。かかる予備的処理としては、例えば、コロナ放電処理、プラズマ放電処理等の物理的表面処理、あるいは、製膜中または製膜後に有機樹脂系または無機樹脂系の塗料を塗布して、塗膜密着層を形成する化学的表面処理を挙げることができる。
【0060】
<導電性フィルムの特性>
(全光線透過率)
本発明の導電性フィルムは、その全光線透過率が80%以上であることが好ましい。全光線透過率が上記数値範囲にあると、透明性に優れたタッチパネルとすることができる。このような観点から、全光線透過率は、より好ましくは83%以上、さらに好ましくは85%以上、特に好ましくは87%以上である。
【0061】
なお、全光線透過率を上記数値範囲とするには、透明導電塗膜層の膜厚を調整することによって達成される。また、少なくとも末端または側鎖に水酸基またはカルボキシル基を有する水溶性ポリエステル(C)の種類、および含有量を調整することによって達成される。
【0062】
(表面抵抗値)
本発明の導電性フィルムは、その表面抵抗値が10Ω/□以上1×10Ω/□以下であることが好ましい。表面抵抗値を上記数値範囲とすることによって、導電性に優れ、例えばタッチパネルに用いた場合は優れた筆記性が得やすくなる。表面抵抗値が高すぎる場合は、導電性に劣る傾向にあり、タッチパネルにおいては、タッチしても筆記できない等、動作しにくくなる。他方、表面抵抗値を10Ω/□未満とするには、導電性高分子の使用量を増加させたり、透明導電塗膜層の膜厚を厚くしたりする必要が生じ、製造コストが高くなり経済的に不利となり、また、透明性の向上効果が低くなる傾向にある。
【0063】
なお、表面抵抗値を上記数値範囲とするには、透明導電塗膜層の膜厚を調整することによって達成される。また、導電性高分子や少なくとも末端または側鎖に水酸基またはカルボキシル基を有する水溶性ポリエステル(C)の種類、および含有量を調整することによって達成される。
【0064】
(表面抵抗値変化率)
本発明の導電性フィルムは、60℃かつ相対湿度90%で240時間処理した前後の表面抵抗値変化率が120%以下であることが好ましい。表面抵抗値変化率は、さらに好ましくは115%以下であり、特に好ましくは110%以下である。表面抵抗値変化率が高すぎる場合は、抵抗膜式タッチパネルの電極として使用し、該抵抗膜式タッチパネルを高温高湿の環境に曝した場合に、誤作動が発生しやすくなる傾向にある。
【0065】
なお、表面抵抗値変化率を上記数値範囲とするには、透明導電塗膜層に含まれるエポキシシクロ炭化水素基を有するシラン化合物化合物(B)の種類、および含有量を適宜調整することによって達成される。また、少なくとも末端または側鎖に水酸基またはカルボキシル基を有する水溶性ポリエステル(C)の種類、および含有量を適宜調整することによって達成される。
【0066】
(接触抵抗値変化率)
本発明の導電性フィルムは、60℃かつ相対湿度90%で240時間処理した前後の接触抵抗値変化率が150%以下であることが好ましい。接触抵抗値変化率は、さらに好ましくは140%以下であり、特に好ましくは130%以下である。接触抵抗値変化率が高すぎる場合は、抵抗膜式タッチパネル電極として使用し、該抵抗膜式タッチパネルを高温高湿の環境に曝した場合に、タッチパネルの反応が鈍くなり、スムースに作動せず、筆記性に劣る傾向にある。
【0067】
なお、接触抵抗値変化率を上記数値範囲とするには、透明導電塗膜層に含まれるエポキシシクロ炭化水素基を有するシラン化合物化合物(B)の種類、および含有量を適宜調整することによって達成される。また、少なくとも末端または側鎖に水酸基またはカルボキシル基を有する水溶性ポリエステル(C)の種類、および含有量を適宜調整することによって達成される。
【0068】
(透明導電塗膜層の密着性・強度)
本発明の導電性フィルムは、透明導電塗膜層の密着性および強度について、以下の態様を満足することが好ましい。すなわち、導電性フィルムにおける透明導電塗膜層側の表面を、学振磨耗試験機(テスター産業社製、商品名:学振型摩擦堅牢度試験機)を用いて、擦過部としてイオン交換水を含浸させた10mmのガーゼ(スズラン株式会社製、綿糸40番手を1cm四方に縦・横12本ずつ打ち込んだもの)を用い、荷重700g、速度1往復/2秒の条件で5往復擦過し、擦過した部分における透明導電塗膜層の状態を目視にて評価し、該擦過した部分における透明導電塗膜層が、面積で60%以上残存することが好ましい。透明導電塗膜層は、70%以上残存することがさらに好ましく、80%以上残存することが特に好ましい。上記のような態様であると、フィルム基材と透明導電塗膜層との密着性がより高く、また透明導電塗膜層の強度がより高いため、さらに耐久性に優れたタッチパネルを得ることができる。
【0069】
なお、上記のような態様とするには、透明導電塗膜層に含まれるエポキシシクロ炭化水素基を有するシラン化合物化合物(B)の種類、および含有量を適宜調整することによって達成される。また、少なくとも末端または側鎖に水酸基またはカルボキシル基を有する水溶性ポリエステル(C)の種類、および含有量を適宜調整することによって達成される。
【0070】
<タッチパネル>
本発明のタッチパネルは、導電層を有する一対の電極を、スペーサーを介して導電層同士が対向するように配置してなるものであり、ここで、少なくとも一方の電極に本発明の導電性フィルムを用いるものである。なお、両電極の導電層には、対抗配置に先立ち、あらかじめ回路を形成しておく。
【実施例】
【0071】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例および比較例においては、以下の方法によって各測定を実施した。
【0072】
(1)表面抵抗値
三菱化学社製、商品名:Lorester MCP−T600を用いて、JIS K7194に準拠して測定した。測定は、3つのサンプル片の、それぞれ任意の5箇所について実施し、それらの平均値を表面抵抗値(単位:Ω/□)とした。
【0073】
(2)湿熱処理後の表面抵抗値および表面抵抗値変化率
温度60℃、相対湿度90%の恒温恒湿オーブン中にサンプルを格納し、連続して240時間が経過したときにサンプルを取り出し、サンプル温度が室温に戻った後に上記(1)の方法と同様に表面抵抗値を測定した。測定は、3つのサンプル片の、それぞれ任意の5箇所について実施し、それらの平均値を湿熱処理後の表面抵抗値(単位:Ω/□)とした。
【0074】
また、以上の方法で得られた湿熱処理前後の表面抵抗値から、以下の式により表面抵抗値変化率(単位:%)を求めた。
【数1】

【0075】
(3)接触抵抗値
図1に示すような簡易タッチパネルを作成し、ペン先が直径0.8mmの半円状であるポリアセタール製のペンを用いて、簡易タッチパネルの中央部付近を押圧し、上部電極と下部電極とを接触させた。押圧は、50gの一定荷重で行った。接触させてから1分後の抵抗値を読み取り、測定値とした。3つのサンプルについて、それぞれ面内で9回測定し、それらの平均値を接触抵抗値(単位:kΩ)とした。
【0076】
(4)湿熱処理後の接触抵抗値および接触抵抗値変化率
上記(3)で得られた簡易タッチパネルを、温度60℃、相対湿度90%の恒温恒湿オーブン中に格納し、連続して240時間が経過したときに取り出した。サンプル温度が室温に戻った後に上記(3)の方法と同様に接触抵抗値を測定した。3つのサンプルについて、それぞれ面内で9回測定し、それらの平均値を湿熱処理後の接触抵抗値(単位:kΩ)とした。
【0077】
また、以上の方法で得られた湿熱処理前後の接触抵抗値から、以下の式により接触抵抗値変化率(単位:%)を求めた。
【数2】

【0078】
(5)全光線透過率
JIS K7150に従い、スガ試験機製のヘイズメーター(商品名:HCM−2B)にて測定した。測定にあたっては、サンプル(導電性フィルム)の任意の5箇所について実施し、それらの平均値を全光線透過率(単位:%)とした。
【0079】
(6)透明導電塗膜層の密着性・強度(残存率)
学振磨耗試験機(テスター産業社製、商品名:学振型摩擦堅牢度試験機)を用いて測定を実施した。具体的には、擦過部としてイオン交換水を含浸させた10mmのガーゼ(スズラン株式会社製、綿糸40番手を1cm四方に縦・横12本ずつ打ち込んだもの)を用い、荷重700g、速度1往復/2秒の条件で5往復、導電性フィルムにおける透明導電塗膜層側の表面を擦過した。次いで、擦過した部分において、透明導電塗膜層が残存している部分の面積を求めた。透明導電塗膜層が残存している部分の面積の、擦過した部分の面積に対する割合を算出し、透明導電塗膜層の残存率(単位:%)とした。残存率が高いほど、基材フィルムと透明導電塗膜層との密着性に優れ、透明導電塗膜層の強度が高いことを示す。
【0080】
(7)重量平均分子量Mw、数平均分子量Mn
樹脂サンプル(固形分)1mgをヘキサフルオロイソプロパノール0.5mlに溶解後、クロロホルムを加えて10mlとし(濃度0.01w/v%)、メンブレンフィルター0.45μmで濾過したものを測定用溶液とし、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定した。測定における測定装置、および測定条件は以下のとおりとした。
【0081】
[測定装置]
本体:TOSOH HLC−8020
検出器:本体内蔵(示差屈折計)、TOSOH UV−8011(紫外吸収検出器)
カラム:TOSOH TSK−gel GMHHR−H、TOSOH TSK−gel GMHHR−N、TOSOH TSK−gel G2000H
データ処理装置:TOSOH SC−8020
[測定条件]
移動相:クロロホルム
流速:1.0ml/min
カラム温度:40℃
検出器:UV(254nm)
注入量:200μl
標準試料:ポリスチレン(Polymer Laboratories製、商品名:EasiCal”PS−1”)
【0082】
<導電性高分子の水分散体>
[製造例1]
カチオン性のポリチオフェンとして、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)0.5質量%と、ポリアニオンとしてポリスチレンスルホン酸(数平均分子量Mn=150,000)0.8質量%とを含んでなる水分散体(バイエルAG製、商品名:Baytron P)をそのまま用いて導電性高分子の水分散体(固形分濃度1.3質量%)とした。
【0083】
<シラン化合物>
[製造例2]
β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製、商品名:Coatosil(登録商標)1770)を、イソプロパノール(IPA)で希釈して、固形分濃度1.0質量%としたものをB1成分とした。
【0084】
[製造例3]
γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシランをイソプロパノール(IPA)で希釈して、固形分濃度1.0質量%としたものをB2成分とした。
【0085】
<水溶性ポリエステル>
[製造例4]
互応化学株式会社製、商品名:プラスコートZ−658(Tg=45℃の水溶性ポリエステル樹脂の水溶液、固形分濃度25質量%)をそのまま用いてC1成分とした。
プラスコートZ−658は、酸成分100モル%中に、5−Naスルホイソフタル酸が3モル%共重合された水溶性ポリエステル樹脂である。
【0086】
[製造例5]
互応化学株式会社製、商品名:プラスコートRZ−570(Tg=60℃の水溶性ポリエステル樹脂の水溶液、固形分濃度25質量%)をそのまま用いてC2成分とした。
プラスコートRZ−570は、酸成分が、テレフタル酸(80モル%)、イソフタル酸(14モル%)、5−Naスルホイソフタル酸(6モル%)からなり、グリコール成分が、エチレングリコール(74モル%)、ジエチレングリコール(8モル%)、ヘキサメチレングリコール(18モル%)からなる水溶性ポリエステル樹脂である。プラスコートRZ−570の重量平均分子量Mwは23,000である。
【0087】
[製造例6]
高松油脂株式会社製、商品名:ペスレジンA−610(Tg=47℃のアクリル変性ポリエステル樹脂の水分散液、固形分濃度25質量%)をそのまま用いてC3成分とした。
ペスレジンA−610の数平均分子量Mnは3,000である。
【0088】
[実施例1]
上記製造例1で得られた導電性高分子の水分散体97質量部とジエチレングリコール3質量部とを混合し、1時間攪拌した。そこに、上記製造例2で得られたB1成分を3.2質量部添加して、さらに15分間攪拌した後、上記製造例4で得られたC1成分を0.5質量部添加し、1時間攪拌して塗剤(固形分濃度4.3質量%)を得た。
得られた塗剤を、マイヤーバーを用いて基材フィルムとなるPETフィルム(帝人デュポンフィルム社製、商品名:O3PF8W−100)上に塗布し、引き続き、150℃で1分間の乾燥処理を行うことにより、膜厚が80nmの透明導電塗膜層が積層された導電性フィルムを得た。なお、透明導電塗膜層におけるシラン化合物の含有量は、導電性高分子100質量部に対して2.5質量部であった。また、透明導電塗膜層における水溶性ポリエステルの含有量は、導電性高分子100質量部に対して10質量部であった。得られた導電性フィルムの特性を表1に示す。
【0089】
[実施例2]
C1成分の添加量を1.5質量部(透明導電塗膜層における水溶性ポリエステルの含有量が、導電性高分子100質量部に対して30質量部となる)とする以外は、実施例1と同様にして導電性フィルムを得た。得られた導電性フィルムの特性を表1に示す。
なお、実施例2における塗剤の固形分濃度は4.5質量%であった。
【0090】
[実施例3]
C1成分の添加量を3質量部(透明導電塗膜層における水溶性ポリエステルの含有量が、導電性高分子100質量部に対して60質量部となる)とする以外は、実施例1と同様にして導電性フィルムを得た。得られた導電性フィルムの特性を表1に示す。
なお、実施例3における塗剤の固形分濃度は4.8質量%であった。
【0091】
[実施例4]
C1成分の添加量を3.5質量部(透明導電塗膜層における水溶性ポリエステルの含有量が、導電性高分子100質量部に対して70質量部となる)とする以外は、実施例1と同様にして導電性フィルムを得た。得られた導電性フィルムの特性を表1に示す。
なお、実施例4における塗剤の固形分濃度は4.8質量%であった。
【0092】
[実施例5]
B1成分の添加量を1.3質量部(透明導電塗膜層におけるシラン化合物の含有量が、導電性高分子100質量部に対して1.0質量部となる)とする以外は、実施例2と同様にして導電性フィルムを得た。得られた導電性フィルムの特性を表1に示す。
なお、実施例5における塗剤の固形分濃度は4.5質量%であった。
【0093】
[実施例6]
B1成分の添加量を6.3質量部(透明導電塗膜層におけるシラン化合物の含有量が、導電性高分子100質量部に対して5.0質量部となる)とする以外は、実施例2と同様にして導電性フィルムを得た。得られた導電性フィルムの特性を表1に示す。
なお、実施例5における塗剤の固形分濃度は4.4質量%であった。
【0094】
[実施例7]
C1成分の代わりに、上記製造例5で得られたC2成分を用いる以外は、実施例2と同様にして導電性フィルムを得た。得られた導電性フィルムの特性を表1に示す。
【0095】
実施例1〜7で得られた導電性フィルムは、透明性および導電性に優れるものであった。特に、基材フィルムと透明導電塗膜層との密着性に優れ、かつ、湿熱処理前後における表面抵抗値変化率が低く、耐湿熱性に優れるものであった。さらに、それらを用いたタッチパネルは、耐久性に優れ、また、湿熱処理前後における接触抵抗値変化率が低く、耐湿熱性に優れるものであった。
【0096】
[比較例1]
C1成分を添加しなかった以外は、実施例1と同様に導電性フィルムを得た。得られた導電性フィルムの特性を表1に示す。
なお、比較例1における塗剤の固形分濃度は4.2質量%であった。
比較例1で得られた導電性フィルムは、透明導電塗膜層が水溶性ポリエステルを含まないため、塗膜密着性および塗膜強度に劣るものであった。そのため、それを用いたタッチパネルは、耐久性に劣るものであった。
【0097】
[比較例2]
C1成分の添加量を0.3質量部(透明導電塗膜層における水溶性ポリエステルの含有量が、導電性高分子100質量部に対して6質量部となる)とする以外は、実施例1と同様にして導電性フィルムを得た。得られた導電性フィルムの特性を表1に示す。
なお、比較例2における塗剤の固形分濃度は4.2質量%であった。
比較例2で得られた導電性フィルムは、透明導電塗膜層における水溶性ポリエステルの含有量が少ないため、塗膜密着性および塗膜強度に劣るものであった。そのため、それを用いたタッチパネルは、耐久性に劣るものであった。
【0098】
[比較例3]
C1成分の添加量を4質量部(透明導電塗膜層における水溶性ポリエステルの含有量が、導電性高分子100質量部に対して80質量部となる)とする以外は、実施例1と同様にして導電性フィルムを得た。得られた導電性フィルムの特性を表1に示す。
なお、比較例3における塗剤の固形分濃度は4.9質量%であった。
比較例3で得られた導電性フィルムは、透明導電塗膜層における水溶性ポリエステルの含有量が多すぎるため、耐湿熱性に劣るものであった。そのため、それを用いたタッチパネルも、耐湿熱性に劣るものであった。
【0099】
[比較例4]
B1成分を添加しなかった以外は、実施例2と同様にして導電性フィルムを得た。得られた導電性フィルムの特性を表1に示す。
なお、比較例4における塗剤の固形分濃度は4.6質量%であった。
比較例4で得られた導電性フィルムは、透明導電塗膜層がシラン化合物を含まないため、耐湿熱性に劣るものであった。そのため、それを用いたタッチパネルも、耐湿熱性に劣るものであった。
【0100】
[比較例5]
B1成分の添加量を12.6質量部(透明導電塗膜層における水溶性ポリエステルの含有量が、導電性高分子100質量部に対して10質量部となる)とする以外は、実施例2と同様にして導電性フィルムを得た。得られた導電性フィルムの特性を表1に示す。
なお、比較例5における塗剤の固形分濃度は4.2質量%であった。
比較例5で得られた導電性フィルムは、透明導電塗膜層におけるシラン化合物の含有量が多すぎるため、耐湿熱性に劣るものであった。そのため、それを用いたタッチパネルも、耐湿熱性に劣るものであった。
【0101】
[比較例6]
B1成分の代わりに、上記製造例3で得られたB2成分を用いる以外は、実施例2と同様にして導電性フィルムを得た。得られた導電性フィルムの特性を表1に示す。
比較例6で得られた導電性フィルムは、透明導電塗膜層におけるシラン化合物がエポキシシクロ炭化水素基を有さないため、耐湿熱性に劣るものであった。そのため、それを用いたタッチパネルも、耐湿熱性に劣るものであった。
【0102】
[比較例7]
C1成分の代わりに、上記製造例6で得られたC3成分を用いる以外は、実施例2と同様にして導電性フィルムを得た。得られた導電性フィルムの特性を表1に示す。
比較例7は、水溶性ポリエステルの代わりに、水分散性アクリル変性ポリエステルを用いた実験例である。比較例7においては、水分散性アクリル変性ポリエステルを添加することによって、塗膜密着性および塗膜強度を向上させることができたが、表面抵抗値変化率、および接触抵抗値変化率が大きく、耐湿熱性に劣るものであった。そのため、それを用いたタッチパネルも、耐湿熱性に劣るものであった。
【0103】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】簡易タッチパネルを用いた接触抵抗値の測定方法を示す図である。
【符号の説明】
【0105】
1 空隙(大きさ9cm×6cm)
2 スペーサー(厚さ100μmのPETフィルム、大きさ10cm×7cm)
3a 上部電極(大きさ10cm×7cm)
3b 下部電極(大きさ10cm×7cm)
4 端子
5、6 導線
7 テスターのプラス側のテストリード
8 テスターのマイナス側のテストリード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルムの少なくとも片面に、
(i)下記式(I)で表される繰り返し単位を主成分として含有するカチオン性のポリチオフェンとポリアニオンとを含む導電性高分子(A)、
(ii)導電性高分子100質量部に対して0.5質量部以上9質量部以下のエポキシシクロ炭化水素基を有するシラン化合物(B)、および
(iii)導電性高分子100質量部に対して10質量部以上70質量部以下の、少なくとも末端または側鎖に水酸基またはカルボキシル基を有する水溶性ポリエステル(C)
を構成成分として含む透明導電塗膜層が積層された導電性フィルム。
【化1】

(式(I)中、RおよびRは、相互に独立して、水素原子または炭素数1以上4以下のアルキル基を表すか、あるいは一緒になって、任意に置換されていてもよい炭素数1以上12以下のアルキレン基を表す。)
【請求項2】
温度60℃かつ相対湿度90%で240時間処理した前後の表面抵抗値変化率が120%以下である請求項1に記載の導電性フィルム。
【請求項3】
温度60℃かつ相対湿度90%で240時間処理した前後の接触抵抗値変化率が150%以下である請求項1または2に記載の導電性フィルム。
【請求項4】
導電性フィルムにおける透明導電塗膜層側の表面を、学振磨耗試験機を用いて、擦過部としてイオン交換水を含浸させた10mmのガーゼ(スズラン株式会社製、綿糸40番手を1cm四方に縦・横12本ずつ打ち込んだもの)を用い、荷重700g、速度1往復/2秒の条件で5往復擦過し、擦過した部分における透明導電塗膜層が、面積で60%以上残存する請求項1〜3のいずれか1項に記載の導電性フィルム。
【請求項5】
全光線透過率が80%以上であり、表面抵抗値が10Ω/□以上1×10Ω/□以下である請求項1〜4のいずれか1項に記載の導電性フィルム。
【請求項6】
導電層を有する一対の電極を、スペーサーを介して導電層同士が対向するように配置してなる抵抗膜式タッチパネルにおいて、少なくとも一方の電極に、請求項1〜5のいずれか1項に記載の導電性フィルムを用いたことを特徴とするタッチパネル。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2009−230885(P2009−230885A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−71413(P2008−71413)
【出願日】平成20年3月19日(2008.3.19)
【出願人】(301020226)帝人デュポンフィルム株式会社 (517)
【Fターム(参考)】