説明

導電性ペースト

【課題】 電気・電子回路用配線の作製に用いられる導電性ペーストにおいて、耐マイグレーション効果にすぐれるとともに耐屈曲性に優れた配線用導電性ペーストを提供すること。
【解決手段】 金属粒子とバインダとを含む導電性ペーストにおいて、前記バインダは当該バインダに対して重量で、1.0%未満(0は含まず)の導電性高分子を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性ペーストに関し、詳しくは、電気・電子回路用配線に用いられる導電性ペーストに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、印刷による電気・電子配線技術において、銀(Ag)を主成分とする導電性ペーストが多く用いられている。銀を主成分とする導電性ペーストは、導電率が高く、また柔軟性があるため、フレキシブルな配線に使用可能である。
【0003】
しかしながら、銀を配線材料として用いた場合、銀が銀イオンとなり、銀の針状結晶(デンドライト)が成長し、配線間でショートを起こす、いわゆるマイグレーション問題を引き起こしてしまう欠点を有する。
【0004】
この銀のマイグレーションの問題を解決するための解決策として、パラジウム、銅、ニッケル、金などとの合金にしたりこれらの金属のメッキを行ったり、防水、防湿膜を配置したりするという方策が試みられている。
【0005】
しかし、合金やメッキでは高コスト、導電率の低下、及びプロセスが複雑といった問題をはらんでいる。更に、防水、防湿膜では、欠陥のない膜を作製する必要があり、また一度、防水、防湿膜に傷やピンホールなどが付くとその部分から一気にマイグレーションが生じるといった問題点がある。そこで、銀の代わりに銅を用いた配線も試みられている。
【0006】
しかしながら、銅のマイグレーション感受性は、銀のマイグレーション感受性よりも小さいもののマイグレーションを完全に抑えることはできない。
【0007】
特許文献1には、導電フィラーとバインダー材が混合されてなる導電性ペーストにおいて、前記バインダー材が導電性高分子である導電性ペーストが開示されている。
【0008】
また、特許文献2には、基板の配線形成の用途ではなく接着の用途を目的としている導電性ペーストが開示されている。特許文献2による導電性ペーストは、導電性粒子、結合剤及び溶剤を主成分としている。この結合剤中に導電性高分子を含む構成である。
【0009】
具体的に、特許文献1および2による導電性ペーストは、多量の導電性高分子を含む構成により、耐酸化性、耐マイグレーション性を向上することが出来ることが示されている。しかし、導電性高分子を重量比で1%以上添加すると、体積抵抗率が著しく増加して導体としては適さない。
【0010】
特許文献3には、配線材料等の導体を形成するための導電性ペーストに線状高分子や有機樹脂又はゴムの微粒子等の有機物質を添加した構成が開示されている。
【0011】
しかしながら、特許文献3に開示された発明では、形成される導体の耐屈曲性の改善に主眼を置いているために、耐酸化性および耐マイグレーション性に関して全く配慮されておらず、耐酸化性および耐マイグレーション環境性が十分でないという問題が依然と残っている。
【0012】
【特許文献1】特開平5−105828号公報
【特許文献2】特開平10−261318号公報
【特許文献3】特開2003−313427号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
そこで、本発明の一技術的課題は、電気・電子回路用配線の作製に用いられる導電性ペーストにおいて、耐マイグレーション効果に優れた配線等に用いられる導電性ペーストを提供することにある。
【0014】
また、本発明のもう一つの技術的課題は、前記電気・電子回路用配線の作製に用いられる導電性ペーストにおいて、耐屈曲性に優れた導電性ペーストを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明によれば、導電性粒子とバインダとを含む導電性ペーストにおいて、当該バインダは当該バインダに対して重量比で1.0%未満(0は含まず)の導電性高分子を含むことを特徴とする導電性ペーストが得られる。
【0016】
また、本発明によれば、前記導電性ペーストにおいて、前記導電性粒子は、Ag,Cu,Ni,Au,Pd,Bi,Sn,Rhの内の少なくとも1種からなる金属粒子を含むことを特徴とする導電性ペーストが得られる。
【0017】
また、本発明によれば、前記導電性ペーストにおいて、前記導電性粒子は、表面にAg,Au,PdをコートしたAg,Cu,Niの内の少なくとも一種の金属粒子からなることを特徴とする導電性ペーストが得られる。
【0018】
また、本発明によれば、前記導電性ペーストにおいて、前記導電性高分子はチオフェン系導電性高分子からなることを特徴とする導電性ペーストが得られる。
【0019】
また、本発明によれば、前記いずれか一つの導電性ペーストにおいて、更に、高分子電解質を含むことを特徴とする導電性ペーストが得られる。
【0020】
また、本発明によれば、前記導電性ペーストにおいて、前記高分子電解質は、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム(PSS)であることを特徴とする導電性ペーストが得られる。
【0021】
また、本発明によれば、前記いずれか一つの導電性ペーストにおいて、更に、弾性粒子を含むことを特徴とする導電性ペーストが得られる。
【0022】
また、本発明によれば、前記いずれか一つの導電性ペーストを使用したことを特徴とする回路基板が得られる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、電気・電子回路用配線の作製に用いられる導電性ペーストにおいて、耐マイグレーション効果に優れた配線等に用いられる導電性ペーストを提供することができる。
【0024】
また、本発明によれば、前記電気・電子回路用配線の作製に用いられる導電性ペーストにおいて、さらに、耐屈曲性に優れた導電性ペーストを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明の原理についてさらに詳細に説明する。
【0026】
多層の配線基板等の回路基板の金属配線において、問題となる導体に含まれる金属のマイグレーションは一種の電気化学反応である。その防止対策として、対象となる金属が銀であれば、銀の結晶成長を防げればよいことになる。
【0027】
ここで、銀の結晶成長は理論的には、酸化還元電位である0.779V(vs. 標準水素電極;NHE)以下で生じるため、それ以下の電圧で酸化還元反応を起こす物質に反応を起こさせば、マイグレーションを防ぐことが可能となる。
【0028】
このように、回路基板等に用いられる金属配線、特に、銀では、マイグレーション問題がある。これに対して、銅のマイグレーション感受性は、銀のマイグレーション感受性よりも小さいが、銅の場合も、銀ほどではないが、やはりマイグレーションを完全に抑えられないという問題があった。
【0029】
そこで、マイグレーションを防止する目的で、導電性ペーストに導電性高分子を添加すると、添加された導電性高分子は、酸化還元電位が銀以下を示すため、銀や銅が銀イオンや銅イオンになることが防止され、水に不溶であるので、耐マイグレーション効果を奏することになる。
【0030】
そこで、本発明者らは、導電性ペーストを用いて作製した電気・電子回路配線における銀及び銅の耐マイグレーション性が、銀及び銅を主成分とする導電性ペーストに導電性高分子を少量添加するという簡便な操作のみで著しく向上することを見出し、本発明をなすに到ったものである。
【0031】
即ち、本発明の導電性ペーストは、金属粒子とバインダとを含む。ここで、バインダは、当該バインダに対して重量比で1.0%未満(0は含まず)の導電性高分子を含む構成で、好ましくは、重量比で0.01%から0.7%以下である。
【0032】
本発明では、導電性ペーストに導電性高分子を少量添加することで、銀イオン及び銅イオンの生成を防止することで、マイグレーションを防止するものである。ここで、本発明において、バインダに対して、導電性高分子を重量比で0.01〜0.7%としたのは、0.01%未満では、効果が殆ど認められず、0.7%を超えると体積抵抗率が増加するからである。
【0033】
また、本発明において、導電ペーストに含まれる導電性粒子には、銀、銅、ニッケル、金コート銅、金コートニッケル、銀コート銅、パラジウム及びそれらの合金の金属粒子や混合物が挙げられるがその限りではない。特に、銀、銅を含む導電ペーストの場合、マイグレーション改善が顕著であるため、特に有効である。
【0034】
ここで、金属粒子の形状は、球状、針状、フレーク状など挙げられるが、その限りではない。金属粒子のサイズは通常0.001〜10μm程度である。
【0035】
また、導電性ペーストに添加される導電性高分子は、水に不溶性で酸化還元電位が0.78V(vs.NHE)以下のポリアニリン、ポリピロール、およびポリチオフェンなどがあげられるが、共役系導電性高分子であればよく、それらのオリゴマーや共重合体でもよい。
【0036】
また、銅の金属粒子を含有する導電ペーストには、酸化還元電位の低いポリチオフェン系の導電性高分子が望ましい。特に、下記化1式のユニットを含む導電性高分子が望ましい。ここで、下記化1式において、R1,R2は、任意の官能基であって良い。
【0037】
【化1】

【0038】
さらに、導電性高分子は、予め作製した導電性ペーストに導電性高分子を添加してもよく、導電性ペースト作成時に導電性高分子を混入してもよい。
【0039】
導電性高分子の混合方法は、既知の手法、例えば三本ロール、自転と公転を利用した方法、機械攪拌などが例として挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0040】
また、導電性高分子の濃度は、特に指定するものではないが、導電性を高めたい場合、導電性高分子は少ない方がよい。
【0041】
さらに、この導電性高分子にドーパントを含んでいても良い。このドーパントとしては、例えば、BF、PF、ClO、I、などが挙げられる。
【0042】
また、導電性高分子の分散性を高めるためにポリスチレンスルフォン酸(PSS)のような高分子電解質を含んでもよく、スルフォラン、N−メチルホルムアミドなどの高沸点溶媒を含んでもよい。
【0043】
また、導電性高分子は、導電性ペーストに多く利用されている溶剤であるグリコール系(例えば、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノブチルエーテル)もしくはイソホランに可溶であれば、混合が容易であり、容易に実施可能である。
【0044】
ところで、導電性粒子として銅を主成分とする導電性ペーストは、熱硬化型樹脂がバインダに使用されていることが多く、耐屈曲特性について問題がある。このため柔軟な基材への適用が困難であったが、本発明ではさらに弾性粒子を添加することによって耐屈曲特性を著しく向上することが可能になり、柔軟な基材、例えば、フレキシブル基板にも適用が可能になった。この弾性粒子としては、例えば、NBR,カルボキシル化NBR,シリコンゴムなどが挙げられる。
【0045】
本発明の導電性ペーストを塗布する方法は、スクリーン印刷、インクジェット印刷、ディスペンサー、スプレーコートなどが挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0046】
また、導電性ペーストの用途は、電子回路用である、配線、端子部、スルーホールなどが挙げられるが、これらに限定されるものでない。さらに、電磁防止シールドなどの表面コート用途もあげることができる。
【実施例】
【0047】
以下に本発明の実施例について説明する。本発明はこれらの実施例に限定されるものではないことは勿論である。
【0048】
(実施例1)
実施例1では、銅及び銀ペーストにPEDOTを混合した例について説明する。なおPEDOTは前述した化1式の構造を含んでいる。
【0049】
ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)/ポリスチレンスルフォン酸(PEDOT/PSS)のコロイド分散型水溶液(バイトロンP)(スタルクヴィテック製)3gを銅ペーストと銀ペーストの各100gにそれぞれ添加した。1時間攪拌し、十分混合させた。このペーストをPET基板上にスクリーン印刷し、150℃で1時間熱硬化し、L/S=0.2/0.3mm、厚さ約10μmの薄膜を作製し、マイグレーション試験を実施した。
【0050】
(比較例1)
比較例1では、銅ペースト、銀ペーストをPET基板上にスクリーン印刷し、150℃1時間熱硬化し、L/S=0.2mm/0.3mm、厚さ約10μmの薄膜を作製し、マイグレーション試験を実施した。
【0051】
次に、マイグレーション試験の方法について述べる。
【0052】
マイグレーション試験は記載した方法で作製した配線上に水道水を滴下し、配線間に5Vを印加し、一定時間後の絶縁抵抗を比較した。その結果を下記表1に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
上記表1に示すように、銅ペースト及び銀ペーストのいずれの場合も、導電性高分子(PEDOT)を添加することによって、マイグレーションの発生が抑制されることが確認された。
【0055】
図1は、導電性高分子添加量(wt.%)と体積抵抗率との関係を示す図である。図1のグラフに示すように、導電性高分子(PEDOT)がバインダに対して0.7%以下という範囲では、抵抗が変化せず、導電性を維持していることを示している。なお、この導電性高分子の添加量では、上記表1に示すように、耐マイグレーション性が良くなることが分かる。
【0056】
以上説明したように、本発明では、導電性高分子を添加することによって、銀、銅を使用したペーストの耐マイグレーション性向上することができ、その副次的な効果として、導電性高分子を添加することにより、銀、銅の酸化防止効果もあり、耐酸化性が向上する。
【0057】
次に、銅ペーストにPEDOTを添加し、さらに、弾性粒子を添加した例について、説明する。
【0058】
(実施例2)
ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)/ポリスチレンスルホン酸(PEDOT/PSS)コロイド分散型水溶液(バイトロンP)(スタルクヴィテック製)3g及びカルボキシル修飾NBR粒子(弾性粒子)1gを銅ペースト100gに添加した。1時間攪拌し,十分混合させた。このペーストをPET基板上にスクリーン印刷し、150℃1時間で熱硬化し、厚さ約10μmの薄膜を作製し、マイグレーション試験を実施した。また、屈曲性(屈曲による表面抵抗率変化)を評価した。その結果を下記表2に示す。
【0059】
【表2】

【0060】
(比較例2)
比較例2では、銅ペーストをPET基板上にスクリーン印刷し、150℃1時間で熱硬化し、厚さ約10μmの薄膜を作製し、屈曲性(屈曲による表面抵抗率変化)を評価した。その結果を下記表3に示した。
【0061】
【表3】

【0062】
(比較例3)
比較例3では、PEDOTのみ添加した例について説明する。ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)/ポリスチレンスルホン酸(PEDOT/PPS)コロイド分散型水溶液(バイトロンP)(スタルクヴィテック製)3gを銅ペースト100gに添加した。1時間撹拌し、十分混合させた。PET基板上にスクリーン印刷し、150℃1時間で熱硬化し、厚さ約10μmの薄膜を作製し、屈曲性(屈曲による表面抵抗率変化)を評価した。その結果を下記表4に示した。
【0063】
【表4】

【0064】
以上説明した実施例2、比較例2、及び比較例3から、金属粒子、バインダー、導電性高分子からなる導電性ペーストへ弾性粒子を加えることで、耐マイグレーション性を向上させたまま、耐屈曲性を改善する効果が確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0065】
以上の説明の通り、本発明に係る導電性ペーストは電気・電子回路用配線や回路基板の導体等に適用される。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】図1は導電性高分子添加量(wt.%)と体積抵抗率との関係を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性粒子とバインダとを含む導電性ペーストにおいて、当該バインダは当該バインダに対して重量比で1.0%未満(0は含まず)の導電性高分子を含むことを特徴とする導電性ペースト。
【請求項2】
請求項1に記載の導電性ペーストにおいて、前記導電性粒子は、Ag,Cu,Ni,Au,Pd,Bi,Sn,Rhの内の少なくとも1種からなる金属粒子を含むことを特徴とする導電性ペースト。
【請求項3】
請求項1に記載の導電性ペーストにおいて、前記導電性粒子は、表面にAg,Au,PdをコートしたAg,Cu,Niの内の少なくとも一種の金属粒子からなることを特徴とする導電性ペースト。
【請求項4】
請求項1乃至3の内のいずれか一つに記載の導電性ペーストにおいて、前記導電性高分子はチオフェン系導電性高分子からなることを特徴とする導電性ペースト。
【請求項5】
請求項1乃至4の内のいずれか一つに記載の導電性ペーストにおいて、更に、高分子電解質を含むことを特徴とする導電性ペースト。
【請求項6】
請求項5に記載の導電性ペーストにおいて、前記高分子電解質は、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム(PSS)であることを特徴とする導電性ペースト。
【請求項7】
請求項1乃至6の内のいずれか一つに記載の導電性ペーストにおいて、更に、弾性粒子を含むことを特徴とする導電性ペースト。
【請求項8】
請求項1乃至7の内のいずれか一つに記載の導電性ペーストを使用したことを特徴とする回路基板。

【図1】
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【公開番号】特開2008−97949(P2008−97949A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−277280(P2006−277280)
【出願日】平成18年10月11日(2006.10.11)
【出願人】(000231073)日本航空電子工業株式会社 (1,081)
【Fターム(参考)】