説明

導電性ペースト

【課題】高融点半田に対する耐半田溶解性及び耐酸性を改善する。
【解決手段】本発明に係る導電性ペーストは、
(A)導電性粉末と、
(B)酸化物換算で下記の組成からなる成分を合計で85重量%以上含有し、かつ、実質的に鉛を含まないガラスフリットと、
(C)酸化チタン及び酸化亜鉛からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属酸化物を、上記導電性粉末100重量部に対して0.1〜20重量部と、
(D)有機ビヒクルと、
を含むことを特徴とする。
ガラスフリット中の割合として、SiO2…15〜55重量%、Al23…22〜52重量%、MgO…2〜25重量%、B23…5〜45重量%

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、チップ抵抗器や積層チップコンデンサ、積層チップインダクタ等などの各種セラミック電子部品に対し、高温で焼付けすることにより、セラミック電子部品に電極を形成するのに適した、鉛フリーの導電性ペーストに関する。
【背景技術】
【0002】
導電性ペーストは、例えば、銀や銀−パラジウム、銅、ニッケルなどの金属を主成分とする導電性粉末と、無機結合剤としてのガラスフリットとを、樹脂及び溶剤を含む有機ビヒクルに均一に分散させてペースト状にしたものであり、近年では、環境に対する関心の高まりにより、導電性ペーストに使用されるガラスフリットが、鉛フリーであることを要求されることが多くなっている。
【0003】
導電性ペーストは、例えばチップ型のセラミック電子部品に電極を形成する際に使用される。この場合、導電性ペーストは、スクリーン印刷、ディッピング、刷毛塗り等の種々の方法で、所定のパターン形状になるようセラミック電子部品の端子部などに塗布され、その後700〜950℃程度の高温で焼成されることにより、導体膜(厚膜導体)が形成される。その後、必要に応じて、当該導体膜上にめっき処理が施されることにより、電極が形成される。
【0004】
こうして得られたセラミック電子部品を半田でプリント基板等に実装する場合、セラミック電子部品の電極又はプリント基板上の電極に塗布等することにより、セラミック電子部品又はプリント基板の電極に半田を付着させる。そして、セラミック電子部品がプリント基板の電極上に載置された後、電極に付着された半田がリフローされることにより、セラミック電子部品及びプリント基板の電極が互いに接続される。
【0005】
この半田材料としては、環境の観点から鉛フリー化が強く要請されており、従来最も一般的に使用されていた鉛−錫系半田に代わって、種々の鉛フリー半田が用いられ始めている。鉛フリー半田は、様々な融点を有するものが存在するが、電子部品用には、例えば、260℃程度の高温で溶融される錫−銀−銅系半田(Sn/3Ag/0.5Cu)が広く使用されている。
【0006】
しかしながら、上記錫−銀−銅系半田のような高融点半田の使用に際して下記のような不都合が生じている。すなわち、従来、導電性ペーストの設計・開発は、半田付け温度が230〜240℃程度の鉛−錫系半田を用いることを前提としておこなわれているため、高融点半田を使用すると、導電性ペースト中に導電性粉末として含有された金属が、溶融した半田中に拡散・溶解してしまい、所謂「半田食われ」という現象を引き起こす可能性が高くなってしまう。
【0007】
そこで、例えば特許文献1においては、SiO−B−Al−CaO−LiO系ガラス粉末及びアルミナ粉末を用いることにより、焼成後の導体膜の耐半田溶解性を向上させて半田食われを抑制する導電性ペーストが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−228572号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
近年、電子機器の小型化などの影響により、電極に要求される特性が多様化している。特に、導体膜にめっき処理を施す際に酸性のめっき液が使用されることが多く、導体膜に対する耐酸性向上の要求が増大している。しかしながら、特許文献1に記載の導電性ペーストでは、耐酸性がまだ十分ではない。また、導体膜の耐半田溶解性についても、さらなる向上が要求されている。
【0010】
本発明の目的は、特にめっき処理が施される電極の形成に用いた時に耐酸性を向上させ得ると共に、特に半田付けされる電極の形成に用いたときに耐半田溶解性を向上させ得る導電性ペーストを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(A)導電性粉末と、
(B)酸化物換算で下記の組成からなる成分を合計で85重量%以上含有し、かつ、実質的に鉛を含まないガラスフリットと、
(C)酸化チタン及び/又は酸化亜鉛を、上記導電性粉末100重量部に対して0.1〜20重量部と、
(D)有機ビヒクルと、を含む。
ガラスフリット中の割合として、SiO2…15〜55重量%、Al23…22〜52重量%、MgO…2〜25重量%、B23…5〜45重量%
【0012】
本発明において、好ましくは、
上記(A)導電性粉末は、銀を主成分とする銀系金属粉末である。
【0013】
本発明において、好ましくは、
さらに(E)酸化ジルコニウムを上記導電性粉末100重量部に対して0.1〜1.0重量部含む。
【0014】
本発明において、好ましくは、
酸化チタンの含有量が、記導電性粉末100重量部に対して0〜1.0重量部であり、
本発明は、チップ抵抗器の1次電極の形成に供される。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に記載の発明によれば、耐酸性及び耐半田溶解性に優れた電極を得ることができる。
【0016】
請求項2に記載の発明によれば、導電性成分として半田食われが生じやすい銀を主成分とするため、より一層本発明による耐半田溶解性の作用効果を享受することができる。
【0017】
請求項3に記載の発明によれば、酸化ジルコニウムの作用により、導体膜の耐半田溶解性を一段と向上させることができる。
【0018】
請求項4に記載の発明によれば、酸化チタンの含有量を抑制することにより、チップ抵抗器のTCR特性を殆ど変化させることなく、本発明の効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】試料1についてのSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本願出願人は、先に出願した特願2010−158793号に開示したように、導電性ペーストに特定の組成のアルミノホウケイ酸ガラス(以下、先行ガラスと呼ぶ)を使用することにより、緻密な膜構造を形成でき、導体膜の耐半田溶解性が著しく向上することを見出したが、耐酸性は十分とは言えなかった。
【0021】
また、先行ガラスは良好な耐半田溶解性を呈し得る組成範囲が広くない。それ故、選択できる軟化点や結晶化の有無、結晶化温度、ガラス転移点などが限られるなど、先行ガラスの設計の自由度が大きくなかった。さらに、先行ガラスは、ガラスフリットにおけるアルミナの含有量が比較的多いため、ガラスとして不安定な領域があり、このため、ガラスの流動性や結晶化度などの観点からガラスフリットの組成を選択すると、ガラス原料の溶融に時間を要したり、ガラスフリットの品質が安定しづらいなど、ガラスフリットの製造上の課題を呈することもあった。
【0022】
そこで、本願出願人は、特定の組成のアルミノホウケイ酸系ガラスである先行ガラスについてさらに研究開発を進めた結果、酸化チタンや酸化亜鉛と組み合わせて配合すると、ガラスフリットの結晶化が促進され、導体膜に微細な結晶が網目状に析出して導体膜の膜構造が一層緻密になり、耐半田溶解性及び耐酸性が顕著に向上することを見出した。
【0023】
さらに、本願出願人は、酸化チタンや酸化亜鉛を組み合わせて配合することにより、導体膜が良好な耐半田溶解性及び耐酸性を呈するアルミノホウケイ酸系ガラスの組成範囲が拡大することを見出した。すなわち、ガラスフリットに加えて酸化チタンや酸化亜鉛を添加することにより、先行ガラスよりも使用可能なガラスフリットの組成範囲が広く、ガラスフリットの設計の自由度も向上させることができるため、ガラスとして安定なアルミノホウケイ酸系ガラスをガラスフリットとして導電性ペーストに配合しつつ、導体膜の耐半田溶解性及び耐酸性の向上を両立させることが可能となった。
【0024】
本発明に係る導電性ペーストは、(A)導電性粉末、(B)特定組成のガラスフリット、(C)酸化チタン及び/又は酸化亜鉛、(D)有機ビヒクルを必須成分として含むものである。
【0025】
以下、(A)導電性粉末、(B)特定組成のガラスフリット、(C)酸化チタン及び/又は酸化亜鉛、(D)有機ビヒクル及び(E)酸化ジルコニウムについてそれぞれ詳細に説明する。
【0026】
(A)導電性粉末
本発明においては、導電性粉末は特に限定されないが、例えば、銀、パラジウム、白金、金等の貴金属粉末、銅、ニッケル、コバルト、鉄等の卑金属粉末、又はこれら金属を含む合金粉末や、表面が他の導電性材料で被覆された複合粉末等を用いることができる。
【0027】
本発明においては、導電性粉末として、半田食われの生じやすい銀を主成分とする粉末を用いた場合でも、耐半田溶解性が極めて優れている。特に、導電性粉末中に占める銀の配合比率が70重量%以上の銀系導電性粉末を用いた場合でも、銀の半田食われを効果的に抑制することができる。また、銀の含有量が例えば1〜30重量部と少量であっても、表面に銀が露出した銀被覆銅粉末などに対しては、耐半田溶解性を顕著に改善できる。
【0028】
銀を主成分とする粉末から構成された銀系導電性粉末において、耐半田溶解性、導電性、銀マイグレーション防止の点から、銀以外の他の成分として、パラジウム、白金、金、銅、ニッケル等の成分を配合することができるが、導電率やコスト面からは、他の成分の配合量を0.1〜30重量%とすることが好ましい。特に、他の成分としてパラジウムが配合されることが好ましく、銀系導電性粉末として、銀及び他の成分の混合粉末又は合金粉末、複合粉末、若しくはこれらの混合粉末を用いることができる。なお、本明細書において、0.1〜30重量%とは、0.1重量%以上、30重量%以下を意味する。以下、同様の意味で記号「〜」を使用する。
【0029】
導電性粉末としては平均粒径が0.1〜10μmのものを使用することができ、平均粒径の異なる2種類以上の導電性粉末を混合することも可能である。導電性粉末の形状は特に制限されず、球状粉及びフレーク状粉などを適宜使用することができ、形状の異なる2種類以上の導電性粉末を混合することも可能である。
【0030】
(B)特定組成のガラスフリット
本発明に係るガラスフリットは、SiO2とAl23とMgOとB23とを主成分として含有するアルミノホウケイ酸系ガラスフリットであって、緻密な金属−ガラス焼成膜構造を作るべく組成選択されたものである。具体的にガラスフリットは、酸化物換算で下記の組成からなる成分を合計で85重量%以上含有し、かつ、実質的に鉛を含まないものである。なお、実質的に鉛を含まないとは、鉛(Pb)成分を全く含有しない、若しくは不可避不純物として鉛を極僅か(例えば50ppm以下)のみ含有することを意味する。
【0031】
SiO2…15〜55重量%、Al23…22〜52重量%、MgO…2〜25重量%、B23…5〜45重量%。
なお、「SiO2、Al23、MgO、B23」の各成分の含有量は、ガラスフリット中に占める割合である。
【0032】
各成分は、上記の酸化物換算の量がガラスフリット中に含有されていればよく、ガラスフリット中に上記酸化物として存在していることを意味するものではない。一例として、SiO2はSiOとして含まれていてもよい。
【0033】
ガラスフリットとして、平均粒径1.0〜5.0μm程度のものを使用するのが好ましい。ガラスフリットの配合量は特に限定されず、目的・用途に応じて通常使用される範囲内で適宜調整される。好ましくは、(A)導電性粉末100重量部に対し、ガラスフリットを1〜15重量部程度配合する。ガラスフリットが1重量部未満であると、耐半田溶解性及び基板との密着性が低下する傾向がある。また、ガラスフリットが15重量部を超えると、導体膜として導電性が低下しすぎる傾向がある。特に好ましいガラスフリットの配合量は、2〜10重量部である。
【0034】
ガラスフリットとしては、導電性ペーストの焼成中に、結晶化することが好ましい。このガラスフリットは、必ずしもガラスフリット単体で結晶化する必要はなく、後述する酸化チタン及び/又は酸化亜鉛の存在下で少なくともその一部が結晶化するものであれば良い。導体膜中でガラスフリットが結晶化することにより、導体膜中の膜構造が緻密になり、耐半田溶解性及び耐酸性を向上させることができると考えられる。
【0035】
下記に、ガラスフリットの組成の限定理由について成分ごとにそれぞれ説明する。
【0036】
SiO2に関しては含有量が15〜55重量%の範囲内である。SiO2は、含有量が15重量%を下回ると、酸化チタンや酸化亜鉛の存在下でも緻密な焼成膜が形成されず、耐半田溶解性も低下する。また、SiO2の含有量が55重量%を超えると、結晶化温度が高くなりすぎ、焼成温度における結晶化が困難となるため望ましくない。導電ペーストの焼成温度で結晶化しやすいことから、SiO2の含有量が16〜47重量%、20〜40重量%、さらに20〜33重量%の範囲内であることが、特に好ましい。
【0037】
Al23に関しては含有量が22〜52重量%の範囲内である。Al23の含有量が22重量%を下回ると、酸化チタンや酸化亜鉛の存在下でも緻密な焼成膜が形成されず、耐半田溶解性も低下する。また、Al23の含有量が52重量%を上回るとガラス製造時にガラス原料の溶融が困難となると共に、ガラス製造時に結晶化する部分が多くなりガラス化が困難となる。製造容易性の観点から、Al23の含有量は48重量%以下であることが好ましい。また、Al23の含有量が多いと結晶化し易いことから、Al23の含有量は27重量%以上、33重量%以上、さらには35重量%以上であることが、特に好ましい。
【0038】
MgOは、ガラス化範囲を広げる効果を有するものであり、その含有量は、2〜25重量%の範囲内である。MgOの含有量が2重量%を下回るとガラスの製造時にガラス原料が溶融しにくくなりガラス化が困難となる。MgOは、含有量が25重量%を上回ると、酸化チタンや酸化亜鉛の存在下でも結晶化しづらくなり耐半田溶解性が低下する。特に優れた耐半田溶解性を得るためには、MgOの含有量を15重量%以下にすることが好ましい。
【0039】
23はガラスフリット中で融剤として作用するものであり、その含有量は5〜45重量%の範囲内である。B23は含有量が5重量%を下回ると融剤としての効果が小さく、ガラス製造時にガラス原料の溶融が困難となり、45重量%を上回ると酸化チタンや酸化亜鉛の存在下でも結晶化しにくくなり耐半田溶解性が低下する。また、B23は含有量が増大すると耐薬品性などを低下させる傾向があるため、含有量が40重量%以下であることが特に好ましい。
【0040】
さらに、ガラスフリットには、必要に応じてSiO2、Al23、MgO、B23以外の他の成分を含有させることができる。
【0041】
この場合、他の成分の合計量は、酸化物換算で0〜15重量%の範囲内である。他の成分の含有量が15重量%を超えると、本発明のアルミノホウケイ酸系ガラスが有する優れた特性を変化させてしまい、耐半田溶解性及び耐酸性が低下してしまうおそれがあるため好ましくない。
【0042】
他の成分として、耐半田溶解性や耐酸性を低下させない範囲で他の金属酸化物やハロゲンなどを含有させることができる。例えば、金属酸化物として、LiO、KO、NaO、BaO、CaO、SrOなどのアルカリ金属やアルカリ土類金属の酸化物を含有させると、MgOと同様にガラス化範囲を広げたり、軟化温度を調整する効果を有する。本発明に係るガラスフリットには、さらに、他の成分として、TiO、ZrO、CuO、MoO3、La23等の各種酸化物が含有されてもよいが、前述したように環境に対する観点から、実質的に鉛成分は含まれず、さらにはビスマス成分も含まれないことが望ましい。
【0043】
ガラスフリットは、ガラスフリットを構成する各成分の原料化合物を混合し、その混合物を溶融、急冷、粉砕することで所望のガラスフリットを製造することができる。この通常の製造方法の他に、ゾルゲル法、噴霧熱分解法、アトマイズ法等の種々の方法で所望のガラスフリットを製造することもできる。
【0044】
(C)酸化チタン及び/又は酸化亜鉛
本発明の導電性ペーストは、酸化チタン及び/又は酸化亜鉛を、導電性粉末100重量部に対して0.1〜20重量部含有する。なお、酸化チタン及び酸化亜鉛の両方を含有する場合には、合計量として上記の重量を含有する。酸化チタンや酸化亜鉛は、焼成過程において前記アルミノホウケイ酸系ガラスと反応して当該ガラスフリットにおける結晶の析出を促進し、導体膜の耐半田溶解性及び耐酸性を向上させる効果を有する。
【0045】
酸化チタン及び酸化亜鉛の含有量が0.1重量部未満では、耐半田溶解性及び耐酸性を向上させる効果が不十分である一方、酸化チタン及び酸化亜鉛の含有量が20重量部を超えると、導電性粉末の導電性を低下させる恐れがある。なお、酸化チタン及び酸化亜鉛の含有量は、酸化物(TiO2、ZnO)換算で算出される。酸化チタン及び酸化亜鉛としては、平均粒径5.0μm以下の粉末を用いるのが好ましい。また、酸化チタン及び酸化亜鉛は、上記の酸化物換算の量が導電性ペースト中に含有されていればよく、導電性ペースト中に上記酸化物として存在していることを意味するものではない。一例として、TiO2はTiOとして含まれていても良い。
【0046】
なお、形成される電極が、抵抗体と直接接続されるチップ抵抗器の1次電極である場合には、導電性粉末100重量部に対する酸化チタンの含有量を1.0重量部以下、さらに好ましくは0.7重量部以下にすることが好ましい。特にルテニウム系の抵抗体の場合、酸化チタンの含有量が増大すると、酸化チタンが抵抗体のルテニウム成分と反応し、抵抗体の温度特性(TCR)を変化させてしまう恐れがあるからである。酸化チタンの含有量を低下させる場合には、酸化チタンの効果を補うため、後述する酸化ジルコニウム及び酸化亜鉛の少なくとも一方を併用することが好ましい。特に、酸化ジルコニウム及び酸化亜鉛の両方を使用することにより、酸化チタンの配合量を少量又はゼロに抑えつつ耐半田溶解性と耐酸性の両方を著しく向上させることができる。
【0047】
(D)有機ビヒクル
有機ビヒクルとしては有機バインダや溶剤等を用いることができる。有機バインダとしては、セルロース類、ブチラール樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂、アルキッド樹脂、ロジンエステル等を用いることができる。他方、溶剤としては、アルコール系、ケトン系、エーテル系、エステル系、炭化水素系等の有機溶剤や水、これらの混合溶剤を用いることができる。
【0048】
有機ビヒクルの配合量は特に限定されるものではなく、無機成分をペースト中に保持し得る適切な量で用途や塗布方法に応じて適宜調整される。
【0049】
(E)酸化ジルコニウム
本発明の導電性ペーストは、任意の成分として、酸化ジルコニウムを、導電性粉末100重量部に対し、酸化物(ZrO)換算で0〜1.0重量部含有することができる。酸化ジルコニウムは、前記アルミノホウケイ酸系ガラスの結晶化を促進し、結晶化度を向上させて導体膜の耐半田溶解性を著しく向上させる。
【0050】
酸化ジルコニウムの含有量が1.0重量部を超えると、導体膜と基板との密着性が低下するおそれがある。酸化ジルコニウムの含有量が0.1重量部を下回ると、結晶化を促進する効果が十分に得られない。耐半田溶解性と基板に対する密着性とのバランスという観点から、酸化ジルコニウムの含有量は、0.8重量部、さらには0.6重量部以下が特に好ましい。
【0051】
その他、本発明の導電性ペーストは、任意の金属酸化物として、上述した酸化チタン、酸化亜鉛及び酸化ジルコニウムの効果を損なわない範囲で酸化ビスマス、酸化銅、ジルコン、アルミナ、シリカ、酸化マンガン、酸化ランタン等、従来から導電性ペーストに配合される種々の金属酸化物を含有しても良い。任意の金属酸化物は、導電性粉末100重量部に対し、酸化物換算で、0〜5.0重量部含有することができる。
【0052】
その他、本発明の導電性ペーストには、印刷特性などを調整するために、通常添加されるような可塑剤、高級脂肪酸や脂肪酸エステル系等の分散剤、界面活性剤、さらには樹脂ビーズなどの固形樹脂など、(A)〜(E)以外の添加剤を適宜配合することができる。
【0053】
本発明の導電性ペーストは、例えば次のように製造される。
(A)導電性粉末と、(B)ガラスフリットと、(C)酸化チタン及び/又は酸化亜鉛と、必要に応じて(E)酸化ジルコニウム、任意の金属酸化物及び添加剤とを、適切な配合比率で調合・混合し、(D)有機ビヒクル中に均一に分散させてペースト状とする。
【0054】
以下、本発明の導電性ペーストが、セラミック電子部品の電極形成に使用される場合を例にとり、説明する。
【0055】
導電性ペーストは、スクリーン印刷やディッピング、刷毛塗り等の適宜な方法によって基板上に所望のパターンで塗布され、その後、700〜950℃程度の高温で焼成される。この焼成工程において、本発明の導電性ペーストに含まれるガラスフリットは昇温過程で軟化して流動し、膜全体に拡散して導電性粉末の表面を濡らして焼結を促進する。これにより、焼成後に形成される導体膜は、緻密な金属焼成膜構造を形成する。さらに、ガラスフリットは、温度上昇による粘度降下に伴って少なくともその一部が基板との界面に移行し、導体膜と基板を強固に接着させる。
【0056】
このとき、前述のように酸化チタン及び/又は酸化亜鉛の作用によってガラスフリットの結晶化が促進されて導体膜の緻密性が一層向上し、より確実に半田食われを防止することができると共に、耐酸性を向上させることができると考えられる。
【0057】
更に、本発明に係る導電性ペーストでは、セラミック基板、ガラス基板、ガラス等の絶縁性基板や、表面に絶縁層を形成したステンレス等の金属基板等の各種基板との密着性に優れており、特にセラミック基板では、アルミナ、チタン酸バリウム等、各種セラミック基板のいずれに対しても、接着強度が高く、優れた厚膜導体を形成することができる。
【0058】
なお、本発明に係る導電性ペーストは、形成される導体膜が優れた耐半田溶解性及び耐酸性を呈することから、これらの特性が要求されるような電極の形成に好適に用いられる。特に、本発明に係る導電性ペーストを焼成して得られる導体膜は、耐半田溶解性に優れることから、例えば半田によって接続される電子部品の端子電極や基板上の電極など、半田付けがなされる電極に好適である。また、本発明から得られる導体膜は、必ずしも半田付けされる必要はなく、例えば、基板の裏面や異なる位置に形成された電極に対して半田を付着させるために基板ごと半田浴に浸漬されるような基板上の電極にも好適に使用することができる。さらに、本発明から得られる導体膜は、耐酸性にも優れることから、導体膜上にめっき処理が施される電極に好適に使用することができる。特に、チップ抵抗器、積層チップコンデンサ、積層チップインダクタなど、他種多様な実装方法に対応するために多様かつ厳しい特性が要求される各種セラミック電子部品用電極の形成に好適に用いられる。
【実施例】
【0059】
本実施例では、導電性ペーストの組成が互いに異なる複数種の試料を作製し、各試料について特性等を評価した。
【0060】
(1)試料の作製
(1.1)ガラスフリットの作製
ガラス原料を下記表1に示すガラス組成となるように混合し、各混合物を1600℃で1〜1.5時間溶融させ、溶融させた各混合物をグラファイト上に流出させて急冷した。急冷後に得られたガラス質物質を、アルミナボールを用いたボールミルで48時間粉砕して、平均粒径約2.5μmのガラスフリットA〜Oを作製した。平均粒径は、レーザ式粒度分布測定装置を用いて測定した粒度分布の重量基準の積算分率50%値(D50)である。
【0061】
【表1】

【0062】
(1.2)試料1の作製
平均粒径が0.4μmと2.5μmの球状の銀粉末を重量比1:1で混合した混合銀粉末100重量部、ガラスフリットAを4重量部、酸化チタンを0.5重量部、酸化亜鉛を5.0重量部、酸化ジルコニウムを0.5重量部、並びにエチルセルロース6重量%、エポキシ樹脂4重量%及びブチルカルビトール90重量%からなる有機ビヒクル35重量部を混合し、3本ロールミルを用いて混練し、更にブチルカルビトールを希釈剤として添加し、10rpmにおける粘度が300〜600Pa・sになるように粘度調整を行って、導電性ペーストを製造した。
【0063】
その後、250メッシュのスクリーンを用いてアルミナ基板上に上記導電性ペーストをスクリーン印刷し、そのアルミナ基板をピーク温度850℃で10分間保持して焼成し、所定パターンの導体膜が形成されたアルミナ基板(試験片)を得た。そしてその試験片を「試料1」とした。
【0064】
(1.3)試料2〜26、比較試料1〜9の作製
金属粉末、ガラスフリットA〜O、各種金属酸化物を表2乃至表4に示す比率で混合し、(1.2)と同様にして導電性ペーストを製造した。但し、試料11は、導電性粉末として、上記混合銀粉末と平均粒径が0.8μmのパラジウム粉末をそれぞれ表に示す比率で用いたものである。ビヒクルおよび希釈剤は試料1と同じものを用い、10rpmにおける粘度が300〜600Pa・sになるよう粘度調整を行った。なお、比較試料6に配合されたSiO/Alは、SiOとAlをモル比1:1で含む有機粘土として配合されたものである。なお、配合量はSiOとAl合計の酸化物換算量を示している。
【0065】
【表2】

【0066】
【表3】

【0067】
【表4】

【0068】
得られたそれぞれの導電性ペーストにつき、上記(1.2)の項目と同様の処理を施して複数種の試験片を作製し、それら各試験片を「試料2〜26」、「比較試料1〜9」とした。
【0069】
(2)各試料の性質・特性等の評価
各試料1〜26、比較試料1〜9に対し、耐半田溶解性、結晶化及び耐酸性を測定・評価した。各測定・評価項目の詳細を下記に示し、各試料1〜26、比較試料1〜9の測定・評価結果を試料ごとに上記表2乃至表4に示した。
【0070】
(2.1)結晶化の評価
10%硝酸水溶液に試料を30分間浸漬して電極表面の銀成分を除去した後、取り出した各試料をSEMで観察した。倍率2000倍においてガラスフリットに由来する結晶が確認できた場合に「○」、結晶が確認できなかった場合に「×」と評価した。
【0071】
(2.2)耐半田溶解性の評価
各試料をフラックスに浸漬し、その後各試料を260℃のSn/3Ag/0.5Cu半田浴中に10秒間浸漬し、試料を取り出した。この半田浴への浸漬を合計で5回繰り返して行い、取り出した試料において、0.6mm×62.5mmパターンの両端間の抵抗値をデジタルマルチメータ(KEEITHLEY社製、Model2002、測定レンジ:0〜20Ω)で測定した。具体的には、抵抗値が測定できた場合に「○」と評価し、抵抗値が測定レンジの上限を超えた場合に「×」と評価した。
【0072】
(2.3)耐酸性の評価
各試料をpHが0.5〜1.0の5%硫酸水溶液中に10分間浸漬し、試料を取り出した。取り出した試料に対し、鉛筆引っ掻き試験及びテープ剥離試験を行うことにより、酸浸漬後の導体膜の塗膜強度及び基板に対する密着性が保持されているか否かを確認することで耐酸性の評価を行った。鉛筆引っ掻き試験では、三菱鉛筆株式会社製の6H鉛筆を用いて、導体膜のパターンを引っ掻き、アルミナ基板からの導体膜剥離の有無を確認した。また、テープ剥離試験では、導体膜のパターン上にニチバン株式会社製セロテープ大巻・型番:CT−18テープを貼り付け、当該テープを剥離し、アルミナ基板からの導体膜剥離の有無を確認した。
【0073】
鉛筆引っ掻き試験及びテープ剥離試験のいずれにおいてもアルミナ基板からの導体膜剥離が確認されなかったものを「○」、いずれか一方又は両方において導体膜剥離が確認されたものを「×」とした。
【0074】
表から分かるように、酸化チタン及び/又は酸化亜鉛を添加することにより、ガラスフリットの結晶化が促進され、導体膜としての耐半田溶解性及び耐酸性が向上した。図1に、(2.1)結晶化の評価に従って撮影された試料1についてのSEM写真を示す。
【0075】
なお、耐半田溶解性が「○」であった試料1〜26では、耐半田溶解性の評価後の導体膜において、いずれも膜厚を10μmに補正した時の面積抵抗値が60mΩ/□以下と、非常に低い値を維持していた。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)導電性粉末と、
(B)酸化物換算で下記の組成からなる成分を合計で85重量%以上含有し、かつ、実質的に鉛を含まないガラスフリットと、
(C)酸化チタン及び/又は酸化亜鉛を、前記導電性粉末100重量部に対して0.1〜20重量部と、
(D)有機ビヒクルと、
を含むことを特徴とする導電性ペースト。
ガラスフリット中の割合として、SiO2…15〜55重量%、Al23…22〜52重量%、MgO…2〜25重量%、B23…5〜45重量%
【請求項2】
前記(A)導電性粉末が、銀を主成分とする銀系金属粉末である
ことを特徴とする請求項1に記載の導電性ペースト。
【請求項3】
さらに(E)酸化ジルコニウムを、前記導電性粉末100重量部に対して0.1〜1.0重量部含む
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の導電性ペースト。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の導電性ペーストであって、
前記酸化チタンの含有量が、前記導電性粉末100重量部に対して0〜1.0重量部であり、
チップ抵抗器の1次電極の形成に供される
ことを特徴とする導電性ペースト。

【図1】
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【公開番号】特開2012−59547(P2012−59547A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−201671(P2010−201671)
【出願日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【出願人】(000186762)昭栄化学工業株式会社 (55)
【Fターム(参考)】