説明

導電性ローラ及び導電性ローラの製造方法

【課題】ポリウレタン発泡体からなる弾性層上に直接樹脂塗膜層を塗工形成しても良好に表面性状をコントロールし得、目止め層の形成を省略して、低コストで良好な性能を有する現像ローラ、トナー搬送ローラ、帯電ローラなどの導電性ローラを得ることを目的とする。
【解決手段】ポリオール成分とイソシアネート成分とを含むポリウレタン原料から機械撹拌発泡により得られるポリウレタン発泡体からなる弾性層を有する導電性ローラにおいて、上記弾性層を形成するポリウレタン発泡体が、表面から深さ0.05mmまでの密度が0.75〜0.99g/cm3、厚さ方向中央部の厚さ0.05mm範囲の密度が0.2〜0.7g/cm3で、かつこれら表面部密度と中央部密度との差が0.25g/cm3以上の発泡体であることを特徴とする導電性ローラを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真装置に用いられる現像ローラ、トナー搬送ローラ、帯電ローラなどの導電性ローラ、及び該導電性ローラの製造方法に関する。
【0002】
従来から、電子写真装置に用いられる現像ローラ、トナー搬送ローラ、帯電ローラなどの導電性ローラに、ポリウレタン発泡体を弾性層として用いることが行われており、弾性層をポリウレタン発泡体で形成することにより、ローラの軽量化、低コスト化を図ることが可能となる。
【0003】
このように、発泡体で弾性層を形成した導電性ローラには、通常、弾性層上にローラ表面を構成する樹脂塗膜層が塗工成形され、この塗膜層でローラの表面性状を調整することが行われている。
【0004】
しかしながら、ポリウレタン発泡体の表面には、機械撹拌発泡(メカニカルフロス法)により得られる比較的微細な気泡を有するものでも、発泡セルの開口による穴が存在するため、その上に樹脂塗膜層を形成してもこの穴による凹部が樹脂層上に現れ、ローラの表面粗さが十分に制御できず、良好な画像を得ることが困難である。
【0005】
そこで、従来は、ポリウレタン発泡体からなる弾性層表面に存在する穴を埋めるための目止め層を塗工形成して、その上に樹脂塗膜層を形成し、多層構造の導電性ローラとすることが行われている(特許文献1等)。
【0006】
しかしながら、樹脂塗膜層の他に更に目止め層を成形する方法は、製造工程が煩雑となり、コスト上昇の原因ともなるため、ポリウレタン発泡体からなる弾性層表面に直接ローラ表面を構成する樹脂塗膜層を塗工形成して良好な性能を有する導電性ローラを得ることが望まれる。
【0007】
【特許文献1】特開平9−262912号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、ポリウレタン発泡体からなる弾性層上に直接樹脂塗膜層を塗工形成しても良好に表面性状をコントロールし得、目止め層の形成を省略して、低コストで良好な性能を有する現像ローラ、トナー搬送ローラ、帯電ローラなどの導電性ローラを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、ポリオール成分とイソシアネート成分とを含むポリウレタン原料から機械撹拌発泡により得られるポリウレタン発泡体で芯金の周囲に弾性層を形成することにより導電性ローラを得る場合に、原料成分の工夫や発泡成形の条件設定を種々工夫することにより、上記弾性層を形成するポリウレタン発泡体の表面近傍の密度を高くして弾性層表面に現れる気泡の穴を小さく、かつ少なくすると共に、厚さ方向中央部の密度を比較的低くして良好な柔軟性を維持させることにより、上記目止め層を省略してこの弾性層上に直接樹脂塗膜層を形成しても、良好な性能を有する導電性ローラを得ることが可能であることを見出した。
【0010】
そこで本発明者は、上記弾性層を形成するポリウレタン発泡体の具体的な密度設定につき、更に検討を進めた結果、弾性層表面から表面から深さ0.05mmまでの密度が0.75〜0.99g/cm3、厚さ方向中央部の厚さ0.05mm範囲の密度が0.2〜0.7g/cm3で、かつ表面部密度と中央部密度との差が0.25g/cm3以上であれば、このポリウレタン発泡体からなる弾性層上に直接樹脂塗膜層を形成することによりローラの表面性状を確実に調整し得ると共に、導電性ローラとして十分な柔軟性も維持し得、上記目止め層の形成を省略し、良好な性能を有する導電性ローラを低コストに製造しえることを見出し、本発明を完成したものである。
【0011】
従って、本発明は、ポリオール成分とイソシアネート成分とを含むポリウレタン原料から機械撹拌発泡により得られるポリウレタン発泡体からなる弾性層を有する導電性ローラにおいて、上記弾性層を形成するポリウレタン発泡体が、表面から深さ0.05mmまでの密度が0.75〜0.99g/cm3、厚さ方向中央部の厚さ0.05mm範囲の密度が0.2〜0.7g/cm3で、かつこれら表面部密度と中央部密度との差が0.25g/cm3以上の発泡体であることを特徴とする導電性ローラを提供する。
【0012】
更に、本発明者は、ポリオール成分とイソシアネート成分とを含むポリウレタン原料から機械撹拌発泡させて芯金の周囲に弾性層を形成する場合に、かかるポリウレタン発泡体からなる弾性層を上記密度分布を有する発泡体とする方法について鋭意検討を重ねた結果、機械撹拌発泡させたポリウレタン原料を金型に注型する際、該金型を予熱せずに常温又は冷却した状態の金型にポリウレタン原料を注型し、注型後に熱硬化温度まで金型を加熱してポリウレタン発泡体を熱硬化させることにより、発泡体表面部のセル径は小さく中央部のセル径は比較的大きくなって、表面部の密度が大で中央部の密度が小さく、かつその密度差が比較的大きな密度分布を有するポリウレタン発泡体が得られることを見出した。
【0013】
即ち、機械撹拌発泡させたポリウレタン原料を金型に注型してポリウレタン発泡体の弾性層を芯金周囲に成形する場合、従来は、予め熱硬化温度の50〜80℃に予熱した金型にポリウレタン原料を注型して熱硬化が行われるが、本発明者は金型を予熱せずに25〜−10℃の常温又は冷却した状態の金型に上記ポリウレタン原料を注型し、注型後に熱硬化温度に金型を加熱して熱硬化を行うことにより、表面から深さ0.05mmまでの密度が0.75〜0.99g/cm3、厚さ方向中央部の厚さ0.05mm範囲の密度が0.2〜0.7g/cm3で、かつこれら表面部密度と中央部密度との差が0.25g/cm3以上の特殊な密度分布(密度勾配)を有するポリウレタン発泡体を得ることが可能であり、この特殊なポリウレタン発泡体で弾性層を形成した導電性ローラが得られることを、本発明者は見出したものである。
【0014】
従って、本発明は、上記本発明導電性ローラの製造方法として、ポリオール成分とイソシアネート成分とを含むポリウレタン原料を機械撹拌発泡させ、芯金を配置した金型に注型し熱硬化させて、芯金の周囲にポリウレタン発泡体からなる弾性層を形成する導電性ローラの製造方法において、上記金型を予熱することなく、25〜−10℃の常温又は冷却状態の金型に上記ポリウレタン原料を注型した後、熱硬化温度に昇温して熱硬化させることを特徴とする導電性ローラの製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の導電性ローラは、弾性層を形成するポリウレタン発泡体の表面近傍の密度が高く弾性層表面に現れる気泡の穴が小さく、少ないと共に、厚さ方向中央部の密度が比較的低く良好な柔軟性を有しており、上記目止め層を省略してこの弾性層上に直接樹脂塗膜層を形成して、低コストで製造することができ、しかも良好な性能を確実に発揮し得るものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明につき更に詳しく説明する。
本発明の導電性ローラは、上述のように、ポリオール成分とイソシアネート成分とを含むポリウレタン原料から機械攪拌発泡により得られるポリウレタン発泡体で芯金の周囲に弾性層を形成したものである。
【0017】
この場合、ポリオール成分としては、特に制限はなく、ウレタンフォーム製造の原料ポリオールとして公知のものを用いることができ、ポリエーテル系ポリオール、ポリエステル系ポリオール、ポリエステルポリエーテル系ポリオール等をローラの用途等に応じて適宜選択することができるが、本発明では、特にポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオールが好ましく用いられ、これらのいずれか一方又は両方を混合して用いることができる。
【0018】
ポリエーテルポリオールとしてより具体的には、グリセリン等にポリエチレンオキシドやプロピレンオキシドなどのアルキレンオキシドを付加重合して得られたポリエーテルポリオール,テトラヒドロフランなどを開環重合して得られたポリエーテルポリール,ポリテトラメチレングリコール,エチレングリコール,プロパンジオール,ブタンジオール等のポリエーテルポリオールが例示される。
【0019】
また、ポリエステルポリオールとしては、ジカルボン酸とジオールやトリオール等との縮合により得られる縮合系ポリエステルポリオール,ジオールやトリオールをベースとし、ラクトンの開環重合により得られるラクトン系ポリエステルポリオール,ポリエーテルポリオールの末端をラクトンでエステル変性したエステル変性ポリオールなどのポリオールなどが例示される。
【0020】
これらポリオールは、特に制限させるものではないが、数平均分子量360〜5600、特に400〜1000であることが好ましく、水酸基価は30〜390mgKOH、特に180〜390mgKOHであることが好ましく、また官能基数は2.5〜3であることが好ましく、更にポリエーテルポリオールについては、エチレンオキサイド含有量が1〜10%であることが好ましい。
【0021】
次に、上記イソシアネートも特に制限はなく、従来公知の各種イソシアネート化合物の中から、適宜選択して使用することができる。具体的には、トリレンジイソシアネート(TDI),ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI),ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、変性TDI,変性MDI,変性HDIなどが例示され、特に変性TDI,変性MDI,変性HDIが好ましく用いられる。この場合、変性体の種類としては、特に制限されるものではないが、ポリオール変性体が好ましく、中でもポリオール変性TDIが、上記ポリエーテルポリオールやポリエステルポリオールとの組み合わせで、特に好ましく用いられる。なお、これらイソシアネートは、特に制限されるものではないが、NCO含有率が1〜25%、特に4〜10%であることが好ましい。
【0022】
通常、このポリウレタン発泡体は導電剤が配合されて、導電性の付与又は調整が行われる。導電剤としては、公知のイオン導電剤や電子導電剤を用いることができ、更にはイオン導電剤と電子導電剤とを併用することもできる。
【0023】
上記イオン導電剤としては、テトラエチルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム、ドデシルトリメチルアンモニウム(例えば、ラウリルトリメチルアンモニウム)、ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、オクタデシルトリメチルアンモニウム(例えば、ステアリルトリメチルアンモニウム)、ベンジルトリメチルアンモニウム、変性脂肪酸ジメチルエチルアンモニウムなどの過塩素酸塩、塩素酸塩、塩酸塩、臭素酸塩、ヨウ素酸塩、ホウフッ化水素酸塩、硫酸塩、エチル硫酸塩、カルボン酸塩、スルホン酸塩などのアンモニウム塩、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムなどのアルカリ金属やアルカリ土類金属の過塩素酸塩、塩素酸塩、塩酸塩、臭素酸塩、ヨウ素酸塩、ホウフッ化水素酸塩、トリフルオロメチル硫酸塩、スルホン酸塩などが例示される。
【0024】
また、電子導電剤としては、ケッチェンブラック、アセチレンブラック等の導電性カーボン;SAF、ISAF、HAF、FEF、GPF、SRF、FT、MT等のゴム用カーボン;酸化処理を施したインク用カーボン、熱分解カーボン、天然グラファイト、人造グラファイト;酸化スズ、酸化チタン、酸化亜鉛等の導電性金属酸化物;ニッケル、銅、銀、ゲルマニウム等の金属などが例示される。
【0025】
更に、本発明導電性ローラの弾性層を構成する上記ポリウレタン発泡体には、上記ポリオール成分、イソシアネート成分及び導電剤の他に、要に応じて、整泡剤、架橋剤、界面活性剤、触媒等の公知の添加剤を適量添加することができる。
【0026】
上記整泡剤としては、ポリジメチルシロキサン−ポリエチレンオキサイド共重合体、ポリジメチルシロキサン−ポリプロピレンオキサイド共重合体、ポリジメチルシロキサン−ポリエチレンアジペート共重合体などが例示される。
【0027】
上記触媒としては、例えば、有機金属触媒のジブチルチンジラウレート、ジブチルチンジアセテート、スタナスオクトエート、ジブチルチンマーカプチド、ジブチルチンチオカルボキシレート、ジブチルチンジマレニート、ジオクチルチンマーカプチド、ジオクチルチンチオカルボキシレート、フェニル水銀、プロピオン酸銀、オクテン酸錫、アミン触媒のトリエチルアミン、N,N,N',N'−テトラメチルエチレンジアミン、トリエチレンジアミン、N−メチルモルホリン、ジメチルアミノエタノール、ビス(2−ジメチルアミノエチル)エーテル、1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)−ウンデセン−7等が好ましく用いられる。これらの触媒は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
本発明の導電性ローラは、上記イソシアネート成分、ポリオール成分、導電剤、及び必要に応じて添加される上記添加剤を混合し、機械撹拌発泡させて芯金をセットした金型内に注型して熱硬化させて、上記芯金の周囲にポリウレタン発泡体からなる弾性層を形成することにより得ることができる。
【0029】
この場合、本発明では上記弾性層を形成するポリウレタンフォームの密度分布を調整したものであり、弾性層表面から深さ0.05mmまでの密度を0.75〜0.99g/cm3、厚さ方向中央部の厚さ0.05mm範囲の密度を0.2〜0.7g/cm3、これら表面部密度と中央部密度との差を0.25g/cm3以上としたものである。
【0030】
ここで、上記表面部の密度が0.75g/cm3未満であると、ポリウレタンフォームが塗料溶剤で膨潤しやすく、表面粗さの制御が困難となり、本発明の目的を達成し得ない。また、上記中央部の密度が0.2g/cm3未満であると、ポリウレタンフォームの硬度が軟らかくなりすぎて、ローラとした場合に相手部材への圧接力が弱くなってしまい、逆に0.7g/cm3を超えると、ポリウレタンフォームが硬くなって、フォーム材としての軟らかさが得られなくなり、いずれの場合も本発明の目的を達成し得ない。更に、表面部密度と中央部密度との差が0.25g/cm3未満であると、低硬度化及び表面粗さの制御が困難となり、この場合も本発明の目的を十分に達成し得ない。なお、表面部密度の好ましい範囲は、0.85〜0.99g/cm3、中央部密度の好ましい範囲は、0.3〜0.5g/cm3、密度差の好ましい範囲は0.5g/cm3以上である。
【0031】
また、特に制限されるものではないが、弾性層全体の平均密度は、0.5〜0.8g/cm3、特に0.6〜0.7g/cm3であることが好ましい。この場合、上記密度分布の規定が満足されていても、弾性層全体の平均密度が0.5g/cm3未満であると、表面部と中央部との密度差を十分にとることができなくなり、一方0.8g/cm3を超えると、発泡体としての特性を得ることができなくなる場合がある。
【0032】
更に、このポリウレタン発泡体からなる弾性層の厚さは、導電性ローラの用途やローラがセットされる電子写真機器の設計などによって適宜設定され、特に制限されるものではないが、通常は1〜10mm、特に3〜6mmであることが好ましく、この程度の厚みの弾性層において、上記密度分布とすることによって、より確実に本発明の目的を達成することができる。
【0033】
ここで、上記密度分布はポリウレタン発泡体の気泡のセル径を表面部と中央部との間で変化させることにより、達成することが可能であり、勿論、表面部と中央部とのセル数の差など、他の要因も発泡体の密度に影響するが、気泡のセル径を調整することは上記密度分布を達成する上で非常に有効であり、また目止め層を省略し得る表面状態を得る点からも有効である。
【0034】
この気泡のセル径は、特に制限されるもではないが、表面から深さ0.05mmまでの範囲(以下、「表面部」における平均セル径は0.005〜0.15mmで、厚さ方向中央部の厚さ0.05mm範囲(以下、「中央部」における平均セル径が0.01〜0.5mmであることが好ましく、より好ましい範囲は表面部のセル径0.005〜0.05mm、中央部のセル径0.01〜0.1mmである。表面部のセル径が上記範囲を逸脱すると、たとえ上記密度分布が達成されていても表面にピンホールが発生し表面粗さの制御が困難になる虞があり、また中央部のセル径が上記範囲を逸脱すると、たとえ上記密度分布が達成されていてもセルの潰れが生じたり、印刷画像に影響を及ぼす虞がある。なお、特に制限されるものではないが、この弾性層を形成するポリウレタン発泡体の気泡は、独立気泡であることが好ましい。
【0035】
機械撹拌発泡させたポリウレタン原料を金型に注型して、芯金の外周に弾性層を成形する際の諸条件は、用いられる各成分の種類などに応じて適宜通常の条件を採用すればよいく、上記密度分布を有するポリウレタン発泡体からなる弾性層を成形することができる条件であればよい。
【0036】
上述したように、本発明は、上記密度分布を達成することが可能な成形条件の一例として、常温乃至冷却温度で金型に機械撹拌発泡させたポリウレタン原料を注型し、注型後に熱硬化温度まで金型を昇温する方法を提案する。
【0037】
この場合、上記ポリウレタン原料注型時の金型温度は、25℃〜−10℃であり、好ましくは25〜15℃の常温乃至冷却温度とされる。これにより、金型の成形面と接触する表面付近の気泡を比較的小さくして密度を比較的高くすることができると共に、金型の成形面や芯金から離れた中央部の気泡は通常通りに拡大させて比較的低い密度とすることができ、弾性層を形成するポリウレタン発泡体の密度分布を上記本発明の範囲に調整することが可能となる。
【0038】
ここで、上記注型時の金型温度が、25℃を超えると、ポリウレタン発泡体の表面付近の気泡が大きくなって密度が上昇し、上記本発明に規定の密度分布を達成することができなくなり、一方−10℃未満であると、成形時のウレタンフォームの液流れが悪化してボイドが発生するなどの問題を生じることになる。
【0039】
また、注型後には、通常の熱硬化温度まで金型を加熱して昇温するが、その際の熱硬化温度は、ポリウレタン原料の成分や求められる弾性層の硬度や厚さなどに応じて適宜設定され特に制限されるものではないが、通常は90〜120℃、特に100〜110℃とすることが好ましい。この場合、上記注型時の25〜−10℃から熱硬化温度まで加熱昇温する際の昇温速度は、特に制限されるものではないが、2〜1200℃/min、特に600〜1200℃/minとすることが好ましく、2℃/min未満であると硬化時間が必要以上に長くなって製造効率が大きく低下すると共に、フォームのセルが潰れるなどの問題を生じる場合もあり、一方1200℃/minを超えると表面部の気泡が大きくなって、表面部の密度が低下し、上記密度分布を達成し得ない場合がある。
【0040】
本発明の製造方法は、上記のように金型の温度管理を行って、弾性層をポリウレタン発泡体で成形するものである。この際、特に制限されるものではないが、機械撹拌発泡させたポリウレタン原料を金型に注型した後、ゲート孔やガス抜き孔などの金型の開口部を密封して保圧した状態で金型を熱硬化温度に昇温させ、熱硬化を行うことが好ましい。このように、保圧を行うことにより気泡を必要以上に拡大させることを防止することができ、特にポリウレタン発泡体の表面部分の密度が上昇することを効果的に防止することができる。
【0041】
なお、金型に注型するポリウレタン原料の調製は、上記各成分を常法に従って、混合し機械撹拌発泡させて、上記金型に注型すればよく、特に制限されるものではないが、上記各成分の混合については、上記触媒、整泡剤及びイオン導電剤はポリオール成分に予め混合した後にイソシアネート成分と混合することが好ましく、またカーボンブラックを用いる場合には、カーボンブラックをイソシアネート成分に予め混合した後にポリオール成分と混合することが好ましい。
【0042】
本発明の導電性ローラは、上記のように、特定の密度分布を有するポリウレタン発泡体からなる弾性層を有するものであるが、例えば現像ローラ、トナー搬送ローラ、帯電ローラなどとする場合には、通常この弾性層上に樹脂塗膜層が形成される。この場合、本発明では、目止め層を形成することなく、この樹脂塗膜層を上記弾性層上に直接樹脂塗膜層を形成することができ、このように目止め層を省略しても良好な表面性状を得ることができ、目止め層の省略により製造コストの削減を図ることができる。
【0043】
この樹脂塗膜層としては、ローラの用途等に応じて選択される公知の樹脂を用いて形成することができ、例えばウレタン樹脂、アクリル樹脂、アクリルウレタン樹脂、フッ素樹脂、シリコーン樹脂などが例示される。
【0044】
この樹脂塗膜層には、ローラの用途等に応じて適宜な添加剤を配合することができ、例えば上記弾性層で例示したものと同様の導電剤や樹脂の硬化剤などを必要に応じて適量添加することができる。
【0045】
また、この樹脂塗膜層には、ローラの表面粗さを調製するため樹脂粒子などを配合分散することもできる。この場合、樹脂粒子は、表面樹脂層を形成する樹脂の種類や表面樹脂層の厚さなどに応じて適宜選定することができる。具体的には、例えばウレタン樹脂粒子、アクリル樹脂粒子、シリコーン樹脂粒子、シリカ粒子、ポリアミド樹脂粒子、ナイロン樹脂粒子などが例示され、これらの1種又は2種以上を用いることができる。また、粒子の形状や大きさ、粒度分布なども適宜選定され、特に制限されるものではないが、通常は球形、角型、針型の粒子が好ましく用いられ、また粒径はD50=1〜50μm、特にD50=5〜20であることが好ましい。
【0046】
この樹脂塗膜層の厚さは、該樹脂層を構成する樹脂の種類やローラの用途、弾性層の特性などに応じて適宜設定され、特にい制限されるものではないが、通常は1〜20μm、特に5〜10μmとすることが好ましい。また、この樹脂塗膜層は、複数層を積層形成してもよく、通常は1〜5層とすることができる。
【0047】
なお、この樹脂塗膜層の形成は、上記樹脂成分及び添加剤をメチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、酢酸エチル、メチルシクロヘキサンなどの溶剤に溶解・分散して樹脂塗料を調製し、樹脂塗料をディッピング、スプレー、ロールコータなどの公知の方法により弾性層上に塗工すればよい。
【実施例】
【0048】
以下、実施例,比較例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例に制限されるものではない。
【0049】
[実施例1〜3及び比較例1〜4]
下記表1,2に示した配合組成のポリウレタンフォームを発泡成形し、芯金(6mmφ)の外周にポリウレタンフォームからなる弾性層(厚さ3mm)を形成した。この際、イソシアネート及びカーボンブラックを混合したA液と、ポリオール、整泡剤、イオン導電剤、触媒を混合したB液とを予め調製し、これらA液とB液とを機械撹拌して混合すると共に発泡させ、芯金をセットした金型内に注型して芯金の外周にポリウレタンフォーム弾性層を形成した。この場合、実施例1〜3及び比較例2〜4では、金型を予熱せずに25℃の常温で注型し、注型後に700℃/minの速度で70℃まで昇温して、成形を行った。一方、比較例1では、予め70℃まで予熱した金型に上記A,B混合液を注型し、そのままの温度で成形を行った。また、実施例1〜3及び比較例1,3,4では、注型後直ちにゲート孔とガス抜き孔を密封して保圧し、そのままの状態で熱硬化を行った。一方、比較例2ではゲート孔とガス抜き孔の密封操作を行わず、これらを開放したままの状態で熱硬化を行った。なお、表1,2中の配合部数は、全て質量部である。また、表1,2中のイソシアネート成分及びポリオール成分の詳細は下記の通りである。
【0050】
ポリオール変性トリレンジイソシアネート(1)
旭硝子ウレタン株式会社製、試作品「BS008」

ポリエーテルポリオール(2)
旭硝子ウレタン株式会社製、「エクセノール430」

ポリエーテルポリオール(3)
三洋化成工業株式会社製、「サンニックス FA−951」

ポリエステルポリオール(4)
株式会社クラレ製、「クラレポリオール F−510」

ポリエーテルポリオール(5)
旭硝子ウレタン株式会社製、「エクセノール420」
【0051】
得られた、弾性層のフォーム密度、表面部のフォーム密度、中央部のフォーム密度、表面部と中央部との密度差を測定した。結果を表1,2に示すと共に、弾性層断面の密部分布をグラフにしたものを図1に示す。また、表面部及び中央部のセル径を測定した。結果を表1,2に併記する。
【0052】
次いで、この弾性層上に下記組成の塗料を塗布して、厚さ10μmの表面樹脂層を形成し、導電性ローラを得た。
塗料組成
ウレタン樹脂(日本ポリウレタン社製「N5196」) 100質量部
カーボンブラック 35質量部
ウレタン粒子(大日本インキ社製「バーノック」、球状、D50=10μm) 10質量部
メチルエチルケトン 350質量部
イソシアネート硬化剤(日本ポリウレタン社製「コロネートHX」) 20質量部
【0053】
得られた各ローラにつき、JIS B 0601(2001)に従って、輪郭曲線の算術平均高さ(Ra)及び輪郭曲線要素の平均長さ(Ra)を測定して表面粗さを調べた。また、アドバンテスト社製の抵抗測定機により100V印加時の静止抵抗を測定した。更に、アスカーC硬度を測定した。これらの結果を表1,2に示す。
【0054】
そして、上記各ローラを現像ローラとしてプリンタカートリッジに装着し、このカートリッジをヒューレット・パッカード社製のレーザービームプリンタ「Laser Jet4050」にセットして黒ベタ画像を印刷し、画像濃度の均一性を、○、○△、△、×の4段階で評価した。結果を表1,2に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
【表2】

【0057】
表1に示されているように、表面から深さ0.05mmまでの密度が0.75〜0.99g/cm3、厚さ方向中央部の厚さ0.05mm範囲の密度が0.2〜0.7g/cm3で、かつこれら表面部密度と中央部密度との差が0.25g/cm3以上のポリウレタン発泡体で弾性層を形成した実施例1〜3の導電性ローラは、目止め層を省略して直接樹脂塗膜層を形成しても良好な表面性状が得られ、現像ローラとして良好な性能を発揮し、良好な画像を形成することができるものであることが確認された。
【0058】
これに対し、表1,2に示されているように、比較例1〜4の導電性ローラは、表面部の密度が低く、また比較例1,2では表面部と中央部との密度も小さいため、ローラの表面性状、特に表面粗さ(Ra)を十分に制御することができず、このため画像品質に大きく劣り、目止め層を省略することが困難であることが確認された。
【0059】
また、比較例1は金型を予め熱硬化温度の70℃に予熱して弾性層の成形を行ったものであるが、このため表面部の密度が低く、密度差も小さくなっている。更に、比較例2はゲート孔及びガス抜き孔を開放したまま保圧なしで成形を行ったものであるが、これも同様に表面部の密度が十分でなく、密度差も不十分なものとなっている。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】実施例,比較例で得られた各導電性ローラの弾性層の密度分布を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオール成分とイソシアネート成分とを含むポリウレタン原料から機械撹拌発泡により得られるポリウレタン発泡体からなる弾性層を有する導電性ローラにおいて、
上記弾性層を形成するポリウレタン発泡体が、表面から深さ0.05mmまでの密度が0.75〜0.99g/cm3、厚さ方向中央部の厚さ0.05mm範囲の密度が0.2〜0.7g/cm3で、かつこれら表面部密度と中央部密度との差が0.25g/cm3以上の発泡体であることを特徴とする導電性ローラ。
【請求項2】
上記弾性層を形成するポリウレタン発泡体の平均密度が0.5〜0.8g/cm3である請求項1記載の導電性ローラ。
【請求項3】
上記弾性層を形成するポリウレタン発泡体が、表面から深さ0.05mmまでの範囲における平均セル径が0.005〜0.15mmで、厚さ方向中央部の厚さ0.05mm範囲における平均セル径が0.01〜0.5mmの発泡体である請求項1又は2記載の導電性ローラ。
【請求項4】
上記弾性層の厚さが1〜10mmである請求項1〜3のいずれか1項に記載の導電性ローラ。
【請求項5】
上記弾性層を形成するポリウレタン発泡体が、独立気泡を有する発泡体である請求項1〜4のいずれか1項に記載の導電性ローラ。
【請求項6】
上記弾性層を形成するポリウレタン発泡体が、ポリオール成分としてポリエステルポリオール又はポリエーテルポリオール或いはこれらの両方を用い、イソシアネート成分としてポリオール変性トリレンジイソシアネートを用いて得られたものである請求項1〜5のいずれか1項に記載の導電性ローラ。
【請求項7】
上記弾性層上に1層又は複数層の樹脂塗膜層が形成された請求項1〜6のいずれか1項に記載の導電性ローラ。
【請求項8】
ポリオール成分とイソシアネート成分とを含むポリウレタン原料を機械撹拌発泡させ、芯金を配置した金型に注型し熱硬化させて、芯金の周囲にポリウレタン発泡体からなる弾性層を形成する導電性ローラの製造方法において、
上記金型を予熱することなく、25〜−10℃の常温又は冷却状態の金型に上記ポリウレタン原料を注型した後、熱硬化温度に昇温して熱硬化させることを特徴とする導電性ローラの製造方法。
【請求項9】
上記金型の昇温速度が2〜1200℃/minである請求項8記載の導電性ローラの製造方法。
【請求項10】
上記金型に上記ポリウレタン原料を注型した後、金型の開口部を密封して保圧し、この保圧状態を保ちながら金型を加熱して、熱硬化を行う請求項8又は9記載の導電性ローラの製造方法。
【請求項11】
上記金型から脱型したローラの上記弾性層上に、直接溶剤系塗料を塗工して1層又は複数層の樹脂塗膜層を形成する請求項8〜10のいずれか1項に記載の導電性ローラの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−280445(P2008−280445A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−126584(P2007−126584)
【出願日】平成19年5月11日(2007.5.11)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】