説明

導電性ローラ用のディッピング装置、導電性ローラの製造方法、及び現像ローラ

【課題】表面層に濃淡ムラが発生するのを防ぎ、濃淡ムラが画像上に発生することのない導電性ローラの製造に用いるディッピング装置を提供する。また、このようなディッピング装置を用いた導電性ローラの製造方法、及び現像ローラを提供する。
【解決手段】導電性ローラの表面層を浸漬塗布して形成するディッピング装置であって、該表面層用の塗工液を貯溜するディッピング管と、該ディッピング管の上端部から溢れた該塗工液を受ける容器と、該ディッピング管及び該容器を外部から密封する筐体と、該筐体の内部雰囲気を排気可能に接続された排気管と、を有し、前記容器の上端部は、該ディッピング管の該上端部から鉛直下方に1cm以上離れて配置され、当該ディッピング装置は、該容器の外壁から縦及び横方向の20cm以内の位置、並びに該容器の前記上端部から鉛直下方の方向の50cm以内の位置に障害物を有さないことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真装置、静電記録装置等に用いられる導電性ローラの製造に用いるディッピング装置に関する。詳しくは、本発明は、弾性層の周面上に表面層を設けた導電性ローラにおいて、表面層を形成する工程で導電性ローラの表面上に欠陥が生じないディッピング装置に関する。また、本発明は、このディッピング装置を用いた導電性ローラの製造方法、及び現像ローラに関する。
【背景技術】
【0002】
図1は、本発明の実施の形態を示す画像形成装置の概略図である。1は潜像担持体(以下感光ドラムと表す)であり、所定のプロセススピードで回転する。感光ドラムは、ある一定のプロセススピードで回転する工程の際に、所定の帯電バイアスを持つ帯電手段2によって、感光ドラム表面に一定の電位になるよう処理される。さらに露光3により、目的の画像と対応とした画像露光(原稿像のアナログ露光、デジタル走査露光)を受けて感光ドラムの表面に目的とする静電潜像が形成される。
【0003】
形成された感光ドラム上の静電潜像に対し、現像手段4より供給かつ帯電されたトナーが静電潜像上に対応した量で感光ドラム上に移動し、トナーが移動することにより感光ドラム上にトナーの画像として現像される。さらに、感光ドラム1と転写手段5としての転写部との間に給紙手段より所定のタイミングで紙が搬送され、転写ローラ又は転写ベルトなどの転写手段5に対して転写バイアスが印加され、感光ドラム表面の現像されたトナーが紙に対して順次、移動し転写される。
【0004】
トナー画像が転写された紙は、感光ドラム表面から分離されて定着手段へ移動し定着手段を受け、画像として排出される。また一方で、トナー画像転写後の感光ドラムには転写されなかったトナーが多少残っており、クリーニング手段6により感光ドラム上の残トナーが除去されることにより、感光ドラムが洗浄され、繰り返して使用される。
【0005】
現在、帯電手段、現像手段、転写手段として、それぞれ帯電ローラ、現像ローラ、転写ローラが用いられることが多い。これらのローラは、半導電性弾性ローラとして用いられる場合が多い。これらのローラは、一般に、導電剤を添加することにより中抵抗領域に調整された厚さ数mmのゴムで構成された弾性層と、この弾性層の周面上に、厚さ数μm〜数十μmの中抵抗領域に調整された樹脂からなる表面層とで構成される。この表面層を形成する手段として、様々な方法が採られているが、その方法の一つとして、ディッピング(浸漬)による塗工方法が挙げられる。具体的には塗布液槽にあらかじめ分散等により調製された塗布液を用意し、垂直方向にローラを浸漬、引き上げる方法がある。これにより、所望の厚さ数μm〜数十μmの表面層を得ることができる。この方法は、簡便であるためローラの作成方法として使われているが、種々の問題が発生しており、様々な検討や対応がなされている。例えば、弾性層を有するローラの周面上に表面層を塗布した後に、乾燥、焼成の工程後、ローラの周面上に比較的明るく見える部分と暗く見える部分とが現れる場合がある(以下、濃淡ムラと表す)。この場合、画像として出力すると明るく見える部分と暗く見える部分とが濃度ムラとして画像に現れる。この現象は、膜厚や組成比のムラ等が発生するためである。そこで、特許文献1は、弾性層ローラを塗布液槽に浸漬、引き上げ後、垂直方向に吊支し、下方から上方に向けて送風し、さらにそのときの風速の変動値を±0.1m/秒以内、風速を1.5m/秒以下とすることにより塗膜が不均一となるのを防ぐ技術を開示する。この方法により塗膜が不均一になるのを低減できるが、送風の管理が難しく、少しでも先の条件から外れると、塗膜が不均一になることがあった。
【特許文献1】特開2002−136914号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであって、表面層に濃淡ムラが発生するのを防ぎ、濃淡ムラが画像上に発生することのない導電性ローラの製造に用いるディッピング装置を提供することを目的とする。また、本発明は、このようなディッピング装置を用いた導電性ローラの製造方法、及び現像ローラを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によるディッピング装置は、導電性ローラの表面層を浸漬塗布して形成するディッピング装置であって、該表面層用の塗工液を貯溜するディッピング管と、該ディッピング管の上端部から溢れた該塗工液を受ける容器と、該ディッピング管及び該容器を外部から密封する筐体と、該筐体の内部雰囲気を排気可能に接続された排気管と、を有し、前記容器の上端部は、該ディッピング管の該上端部から鉛直下方に1cm以上離れて配置され、当該ディッピング装置は、該容器の外壁から縦及び横方向の20cm以内の位置、並びに該容器の前記上端部から鉛直下方の方向の50cm以内の位置に障害物を有さないことを特徴とする。これにより、表面層の濃淡ムラを抑えることができる。
【0008】
本発明による導電性ローラの製造方法は、導電性ローラの表面層を浸漬塗布して形成する、上記のディッピング装置を用いた、導電性ローラの製造方法であって、該表面層を構成する成分と溶剤とを有する塗工液に、ローラを浸漬する工程と;浸漬したローラを乾燥する工程と;乾燥したローラの表面を硬化する工程と;を有し、前記のローラを乾燥する工程は、前記筐体の内部雰囲気が0.4m/秒以下の風速で排気されるように、行われることを特徴とする。
【0009】
本発明による導電性ローラの製造方法において、前記導電性ローラは、現像ローラであることを特徴とする。
【0010】
本発明による現像ローラは、上記の導電性ローラの製造方法によって製造されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、濃淡ムラが発生することなく表面層を形成することができ、導電性ローラとして用いた場合、濃淡ムラに起因する不良が画像上に発生せず、良好な画像が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
(本発明によるディッピング装置、及びこのディッピング装置を用いた導電性ローラの製造方法)
<本発明によるディッピング装置>
本発明によるディッピング装置は、図3及び4に示すように、導電性ローラの表面層を形成するための塗工液を貯溜するディッピング管9を有する。ディッピング管9の上端部は、導電性ローラの表面層を浸漬塗工するに際し、被塗工物(例えば、弾性層を有するローラ)を導入し得るように、開口している。本発明によるディッピング装置は、ディッピング管9の上端部から溢れた塗工液を受ける容器10を有する。また、本発明によるディッピング装置は、ディッピング管9及び容器10を外部から密封する筐体8を有する。また、本発明によるディッピング装置は、筐体8の内部雰囲気を排気可能に接続された排気管13を有する。
【0013】
本発明によるディッピング装置は、本技術分野公知の態様で、導電性ローラの表面層を形成するための塗工液をディッピング管9に貯溜する。本発明によるディッピング装置において、このように貯溜された塗工液は、ポンプなどの適当な循環手段を介して、循環されてもよい。例えば、本発明によるディッピング装置において、塗工液は、ディッピング管9及び容器10と上記の循環手段とを接続する配管11、11を介して、循環されてもよい。この場合、配管11の一端をディッピング管9の下端に接続し、他の配管11の一端を容器10に接続し、ディッピング管9の下端に接続された配管11から塗工液を供給してもよい。
【0014】
本発明によるディッピング装置において、容器10の上端部は、ディッピング管9の上端部から鉛直下方に1cm以上離れた位置に配置される。1cmより小さいと、ディッピング管9に貯溜される塗工液の液面周辺に風が対流する恐れがあり、対流により濃淡ムラが発生する恐れがある。
【0015】
本発明によるディッピング装置は、容器10の外壁から縦及び横方向の20cm以内の位置に障害物を有さない。また、容器10の上端部から鉛直上方の方向の50cm以内の位置に障害物を有さない。なかでも、容器10の外壁から縦及び横方向に30cm以内の位置に障害物を有さないことが好ましく、また、容器10の上端部から鉛直上方の方向の70cm以内の位置に障害物を有さないことが好ましい。縦及び横方向の20cm以内の位置、並びに鉛直上方の方向の50cm以内に何らかの物体があると、空気の対流が起こり易くなり、焼成後、ローラ表面に濃淡ムラが発生する恐れがある。
【0016】
本発明によるディッピング装置において、排気管13は、筐体8のいずれの箇所に接続されてもよいが、特に、筐体8の鉛直下方の部分に接続されることが好ましい。このように構成することで、表面層の浸漬塗布に用いる塗工液を構成する溶剤、特に、有機溶剤を効率よく排出することが可能となる。このことは、塗工液を構成する溶剤として空気よりも重い比重の蒸気を発生する有機溶剤を用いる場合に、顕著である。
【0017】
本発明において、排気管13を介して排気する方法は、特に制限されない。例えば、筐体8の内部雰囲気を強制的に脱気する吸引機を用いてもよい。また、活性炭等を用いて、筐体8の内部雰囲気を構成する有機溶剤の蒸気を吸着する方法を用いてもよい。また、酸化反応を用いてこの蒸気を分解する方法を用いてもよい。また、本発明において、内部雰囲気の風の流れとしては、ディッピング装置の鉛直方向に相対して、上部から下部に流れるのが望ましい。例えば、横方向に風の流れがあると、ローラの周方向で乾燥ムラが生じ、濃淡ムラが発生する恐れがある。なお、ディッピング管9の下部に排気管13を設けることにより、風の流れがディッピング装置の鉛直方向に相対して、上部から下部方向となる。
【0018】
本発明によるディッピング装置において、排気管13を介して、筐体8の内部雰囲気を0.1m/秒以上0.4m/秒以下の風速で排気してもよく、0.1m/秒以上0.35m/秒以下で排気することが好ましい。0.4m/秒より大きいと、ローラの周方向で乾燥ムラが生じ、濃淡ムラ等が生じる恐れがある。
【0019】
(本発明による導電性ローラの製造方法)
本発明による導電性ローラの製造方法は、導電性ローラの表面層を構成する、樹脂などの成分と、有機溶剤などの溶剤とを有する塗工液に、被塗工物であるローラを浸漬する工程を有する。また、本発明による導電性ローラの製造方法は、上記の通り浸漬したローラの表面を乾燥する工程を有する。また、本発明による導電性ローラの製造方法は、乾燥したローラの表面を硬化する工程を有する。
【0020】
本発明による導電性ローラの製造方法において、上記の塗工液に被塗工物を浸漬する工程は、本技術分野公知の態様により、行えばよい。例えば、上記の本発明によるディッピング装置を用いて、行ってもよく、この場合、ディッピング装置のディッピング管9に塗工液を貯溜し、この塗工液に被塗工物を浸漬してもよい。なお、ディッピング装置を用いて浸漬する工程を行う場合、ディッピング管9に貯溜された塗工液が被塗工物の浸漬の前後でディッピング管9の上端部から溢れることがあるが、この溢れた塗工液を容器10で受けてもよい。また、このように容器10で受けた塗工液を、配管11を介して、再度ディッピング管9に送液することで、浸漬に再度利用してもよい。浸漬が終了した被塗工物は、塗工液から引き上げられ、次の工程に用いられる。
【0021】
上記のディッピング装置のディッピング管9を用いてこの塗工液に被塗工物を浸漬する工程を行う場合、ディッピング管9に被塗工物を投入する速度及びディッピング管から引き上げる速度としては、特に制約はない。例えば、引き上げる時の速度が速いと膜厚が厚くなる傾向があるので、所望の膜厚が得られる引き上げ速度を採用してもよい。
【0022】
本発明による導電性ローラの製造方法において、上記の通り浸漬したローラの表面を乾燥する工程は、導電性ローラの表面層を構成する樹脂などの硬化成分の硬化が進行せずに、塗工液を構成する有機溶剤などの溶剤を揮発させ得る方法で行えばよい。また、本発明による導電性ローラの製造方法において、ローラの表面を乾燥する工程は、導電性ローラの表面層の硬化を行う際、塗工液を構成する有機溶剤などの溶剤の蒸発によってこの表面層に気泡が発生することを防止するように、行われてもよい。
【0023】
例えば、このローラの表面を乾燥する工程を上記のディッピング装置を用いて行う場合、ディッピング管9から被塗工物を引き上げた後、筐体8の内部雰囲気を0.1m/秒以上0.4m/秒以下の風速で排気するように、行われてもよい。また、この風速は、好ましくは、0.1m/秒以上0.35m/秒以下であってもよい。0.4m/秒より大きいと、ローラの周方向で乾燥ムラが生じ、濃淡ムラ等が生じる恐れがある。
【0024】
一方、このローラの表面を乾燥する工程を上記のディッピング装置を用いて行う場合、この内部雰囲気の有機溶媒濃度が30%LEL(Lower Explosion Limit;爆発下限界濃度)以下となるように行われてもよく、好ましくは25%LEL以下で行われてもよい。有機溶媒の濃度が30%LELより大きいと、導電性ローラに濃淡ムラが発生し、例えば導電性ローラを現像ローラとして用いて画像に出力した際、その濃淡ムラが画像上に発生してしまう。
【0025】
本発明による導電性ローラの製造方法において、上記の乾燥したローラの表面を硬化する工程は、塗工液を構成する樹脂などの硬化成分を所望の態様で硬化させ得る方法で行えばよい。例えば、この硬化する工程は、焼成などの加熱等により、行ってもよく、温度等の条件としては、塗工液を構成する樹脂の物性等を考慮して、適宜選択すればよい。
【0026】
このようにして、上記の表面層を有する導電性ローラが得られる。
【0027】
(本発明において製造される導電性ローラ)
本発明において、導電性ローラは、図2に示すように、導電性を有する材料からなる電極及び支持する部材などの芯金4bと、この芯金4bの外周面に設けたゴム材料からなる弾性層4aと、この弾性層4aの外周面に設けた表面層4cとを有する。
【0028】
導電性ローラの芯金4bは、導電性部材の電極および支持する部材として機能するものであればよい。その材質として、例えば、アルミニウム、銅合金、ステンレス鋼などの金属または合金、クロムやニッケル等で鍍金処理を施した鉄、合成樹脂などの導電性の材質で構成される。なお、芯金4bとその周面に形成される弾性層とを接着するためにプライマー等の下塗剤を芯金4bに塗布することができ、通常使用されている公知のプライマー、例えばシランカップリング系プライマーを用いることができる。
【0029】
本発明において、導電性ローラを構成する弾性層の形態としては、発泡体の形態でもソリッドの形態でも構わない。弾性層として用いるゴム材料としては、特に制限されることはなく適宜使用することができ、例えば、下記のものが挙げられる。
【0030】
エチレン−プロピレン−ジエン共重合ゴム(EPDM)
シリコーンゴム
ウレタンゴム
スチレン−ブタジエンゴム(SBR)
イソプレンゴム(IR)
天然ゴム(NR)
NBRの水素化物
エピクロロヒドリンゴム
アクリルニトリル−ブタジエンゴム(NBR)
クロロプレンゴム(CR)
フッ素ゴム
硫化ゴム
【0031】
これらの材料は、単独あるいは2種類以上を混合して用いてもよい。なかでも、圧縮永久歪み特性に優れている観点から、シリコーンゴム、ウレタンゴム、NBRを用いるのが望ましい。
【0032】
本発明において、導電性ローラを構成する弾性層の厚さは、1.0〜6.0mmの範囲にあればよく、1.5〜5.0mmの範囲にあることが好ましい。厚さが1.0mmより薄くなると、均一なニップを確保することが困難になる。一方、厚さを6.0mmより厚くしても、帯電性能の向上に繋がらないだけでなく、ゴム材の成型コストが上昇しコスト的に不利である。
【0033】
本発明において、導電性ローラを構成する表面層として用いる樹脂としては、特に制限されることなく適宜用いることもでき、具体的には、下記のものが挙げられる。
【0034】
フッ素樹脂
ポリアミド樹脂
アクリルウレタン樹脂
フェノール樹脂
メラミン樹脂
シリコーン樹脂
ウレタン樹脂
ポリエステル樹脂
ポリビニルアセタール樹脂
エポキシ樹脂
ポリエーテル樹脂
アミノ樹脂
アクリル樹脂
尿素樹脂
これらの混合物
【0035】
また、これらの樹脂は、水酸基、カルボキシル基、酸無水物基、アミノ基、イソシアネート基、エポキシ基、不飽和基、メチロール基、アルコキシメチル基、アルデヒド基、メルカプト基等の反応基を有していてもよい。
【0036】
本発明において、表面層は、導電性を付与することを目的として、カーボンブラックなどの導電性を有する材料を用いて、形成されてもよい。この表面層に用いるカーボンブラックとしては、特に制限されず適宜使用することができる。例えば、塗工液の分散後、表面層として被覆した際、導電性ローラの抵抗が所定の範囲内となり、かつ配合量としては分散終了後の塗工液の安定性より、樹脂成分を100部としたときに15〜30部となるよう設計することが望ましい。樹脂成分100部に対してカーボンブラックが15部未満となると、必要な導電性が得られなくなり、30部を超えると、塗工液として、ゲル化などが起こり安定性が乏しくなる。
【0037】
本発明において、表面層4cの塗工に用いる塗工液を構成する溶剤としては、表面層として用いる樹脂が溶解するという条件内で適宜使用することができる。例えば、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトンに代表されるケトン類、ヘキサン、トルエン等に代表される炭化水素類、メタノール、イソプロパノールに代表されるアルコール類、エステル類、水等の溶剤を挙げられる。特に、好ましい溶剤は、樹脂の溶解性、沸点からメチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンである。
【0038】
表面層を形成するための塗工液の粘度は、粘度が大きくなるほど、塗工時の表面層の膜厚が変わるので、所望の膜厚の表面層が得られる任意の粘度で塗工することができる。本発明において、塗工液の粘度としては、特に制約はないが、塗工後の導電性ローラの表面層上に不良が発生することから、5〜30cPで塗工するのが望ましい。また、塗工液のポリマー等の濃度が高くなるほど、得られる表面層の膜厚が厚くなる傾向があるので、所望の膜厚の表面層が得られる任意の濃度で塗工することができる。導電性ローラの表面層の形成に用いる塗工液中の溶剤以外の成分の濃度は、表面層に所望の特性等に応じて、適宜選択すればよい。例えば、塗工液の全質量に対して、塗工液中で溶剤以外の成分の質量が5〜50%となるように、調製されてもよい。
【0039】
本発明において、表面層の厚みとしては、5〜100μm、特に10〜90μmが好ましい。厚みが5μmより薄いと、弾性層中の低分子量成分が染み出してきて感光ドラムを汚染し、表面層が剥れる恐れがある。また、100μmより厚いと、導電性ローラの表面硬度が高くなり、感光ドラム表面を削る恐れがあるので、好ましくない。
【0040】
本発明において、製造される導電性ローラとしては、導電性を有するローラであれば、特に制約はなく、帯電ローラ、現像ローラ、転写ローラであってもよく、上記のディッピング装置を用いて現像ローラを製造してもよい。
【実施例】
【0041】
以下に実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、これらは、本発明を何ら限定するものではない。
【0042】
〔実施例〕
あらかじめ芯金の外周面上に、付加型ジメチルシリコーンゴムを厚さ3mmになるよう被覆した弾性層を有するローラを準備した。次に、下記の成分を、ペイントシェーカーを用いて8時間分散して、表面層用の塗工液を調製した。
【0043】
ポリオール 100部
ジブチルスズジラウレート 0.7部
(硬化促進剤)
ヘキサメチレンジイソシアネート(MDI) 30部
(平均官能基数:2.7)
導電性カーボンブラック 20部
(東海カーボン社製)
ウレタン樹脂粒子 18部
(平均粒径:φ12μm)
メチルエチルケトン(MEK) 120部
【0044】
このようにして得た分散液を、ポリマー等の重量が塗工液全体の30%となるようにMEKを加え調製した後にオーバーフロー型循環式塗布装置に加えた。なお、塗布装置は、オーバーフローした液を受ける容器より底部を除き縦及び横方向に20cm、垂直方向に50cmの周囲に障害物がないよう配置した。さらに、液槽の液面が液槽を構成する部品または浸漬する液槽よりオーバーフローした塗工液を受ける容器の壁よりも1cm高い位置となるように、上記のディピング装置を構成した。また、ディッピング装置の下部にダクト(排気管)を設けた。そのときの風速を測定したところ、0.4m/秒であった。先に得た弾性層を有するローラの外周面上に先のディッピング装置を用いて表面層を作成し、目視にて観察したところ、濃淡ムラは見られず、良好な導電性ローラを得た。
【0045】
〔比較例1〕
先のディピング装置に対して縦方向に20cm、横方向に19cm、垂直方向に50cmの位置に障害物を置き、その他は上記の〔実施例〕と同様にして導電性ローラを作成した。目視でローラ表面を観察したところ濃淡ムラが見られた。
【0046】
〔比較例2〕
先のディピング装置に対して縦方向に20cm、横方向に20cm、垂直方向に49cmの位置に障害物を置き、その他は上記の〔実施例〕と同様にして導電性ローラを作成した。目視でローラ表面を観察したところ濃淡ムラが見られた。
【0047】
〔比較例3〕
ディッピング装置の下部のダクトを取り除いた以外は、上記の〔実施例〕と同様にして導電性ローラを作成した。目視でローラ表面を観察したところ濃淡ムラが見られた。
【0048】
〔比較例4〕
弾性層を有するローラを浸漬する液槽の液面が浸漬する液槽よりオーバーフローした塗工液を受ける容器の壁よりも0.9cm高い位置となる装置で塗工した以外は、上記の〔実施例〕と同様に行った。目視でローラ表面を観察したところ濃淡ムラが見られた。
【0049】
〔比較例5〕
風速が0.41m/秒となるようにした以外は、上記の〔実施例〕と同様に行った。目視でローラ表面を観察したところ濃淡ムラが見られた。
【0050】
実施例では、濃淡ムラが発生せず、良好な導電性ローラが得られた。しかし、比較例1及び2では、オーバーフローした液を受ける容器より縦及び横方向に19cm、また垂直方向に49cmの場所に障害物があったため、対流が起こりローラ表面上に濃淡ムラが発生した。さらに、比較例3では、ディッピング装置の下部に有機溶剤を排気する装置がなかったため、MEKなどの有機溶媒の揮発する時間が遅くなり、ローラ周辺の風の流れによる影響により、濃淡ムラが発生した。さらに、比較例4では、オーバーフローした液を受ける容器が液面に対して0.9cm低い位置にあったため、揮発したMEKの対流が起こり、濃淡ムラが発生した。比較例5では、風速が0.41m/秒であったため、濃淡ムラが発生した。
【0051】
以上により、この装置を用いて、導電性ローラの表面層を設けた際に、濃淡ムラが発生せず、良好な導電性ローラが得られることが明らかとなった。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の実施の形態を示す画像形成装置の概略図である。
【図2】本発明の実施の形態を示す導電性ローラの概略図であって、(a)は、側面図を示し、(b)は、断面図を示す。
【図3】本発明の実施の形態を示すディッピング装置の断面図である。
【図4】本発明の実施の形態を示すディッピング装置の概略図である。
【符号の説明】
【0053】
1 感光ドラム
2 帯電手段
3 露光
4 現像手段
4a 弾性層
4b 芯金
4c 表面層
5 転写手段
6 クリーニング手段
8 筐体
9 ディッピング管
10 容器
11 配管
13 排気管
E1 電源
E2 電源
E3 電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性ローラの表面層を浸漬塗布して形成するディッピング装置であって、
該表面層用の塗工液を貯溜するディッピング管と、
該ディッピング管の上端部から溢れた該塗工液を受ける容器と、
該ディッピング管及び該容器を外部から密封する筐体と、
該筐体の内部雰囲気を排気可能に接続された排気管と、
を有し、
前記容器の上端部は、該ディッピング管の該上端部から鉛直下方に1cm以上離れて配置され、
当該ディッピング装置は、該容器の外壁から縦及び横方向の20cm以内の位置、並びに該容器の前記上端部から鉛直下方の方向の50cm以内の位置に障害物を有さないことを特徴とするディッピング装置。
【請求項2】
導電性ローラの表面層を浸漬塗布して形成する、請求項1に記載のディッピング装置を用いた、導電性ローラの製造方法であって、
該表面層を構成する成分と溶剤とを有する塗工液に、ローラを浸漬する工程と;
浸漬したローラを乾燥する工程と;
乾燥したローラの表面を硬化する工程と;
を有し、
前記のローラを乾燥する工程は、前記筐体の内部雰囲気が0.4m/秒以下の風速で排気されるように、行われることを特徴とする導電性ローラの製造方法。
【請求項3】
前記内部雰囲気の有機溶媒濃度が30%LEL以下となるように行われる、請求項2に記載の導電性ローラの製造方法。
【請求項4】
前記導電性ローラは、現像ローラである、請求項2又は3に記載の導電性ローラの製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の導電性ローラの製造方法によって製造されたことを特徴とする現像ローラ。

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2009−145577(P2009−145577A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−322149(P2007−322149)
【出願日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【出願人】(393002634)キヤノン化成株式会社 (640)
【Fターム(参考)】