説明

導電性微粒子の製造方法およびそれを使ったプリント基板配線用異方導電性膜

【課題】導電性微粒子の製造方法およびそれを使ったプリント基板配線用異方導電性膜を提供する。
【解決手段】本発明のプラスチック微粒子表面を無電解金属メッキする方法は、該金属コロイドと、表面に該金属と相互作用を持つ部位を有する該プラスチック微粒子を、メッキ浴中で無電解メッキする工程からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性微粒子の製造方法、およびその方法で製造された導電性プラスチック微粒子を用いたプリント基板配線用異方導電性膜に関する。かかるプリント基板配線用異方導電性膜は、フリップチップ実装など広範な用途に応用可能なものである。
【背景技術】
【0002】
近年、各種電子機器の急激な小型化の進行に伴い配線技術の微細化が要求され、様々な角度から検討がなされてきており、マスキングフィルム、露光装置、露光光源などの工夫により、30μm程度の線幅が実現している。しかし今後の更なる集積化の進行により、近い将来ナノオーダーの線幅が要求されるようになり、それに対応した技術開発の必要性がある。
【0003】
一方、配線の微細化は、線幅だけでなくICやLCDチップと基板の接合技術についても改良が必要になってきる。現在はハンダを用いないフリップチップと呼ばれる実装法が、特にモバイル機器を中心に主流となってきている。何故ならICやLCDチップの電極間ピッチは現在40μm、チップの一辺の接点数も4000を超え、ハンダ接合では対応不可能になってきているからである。
【0004】
これは図1に示すように三次元プリント基板配線技術の一つで、ICやLCDチップの電極であるAuバンプをチップの下部に設置し、基板電極との間に導電性ビーズを均一分散させた異方導電性膜を挟みこみ、ICやLCDチップと基板を圧着することで導電性ビーズが両電極間に挟み込まれ接続されることになる。
【0005】
この異方導電性膜は、粘着性あるいは接着性プラスチックの内部に、通常のメッキ法で金属を表面にコーティングした導電性プラスチック微粒子を均一に分散したものである。この導電性微粒子表面の金属膜は、可撓性が乏しいため、チップと基板を圧着した際金属膜が破断して導通不良になるという課題を抱えている。
【0006】
更に、このプラスチック微粒子の直径は数μm〜数十μm程度であるが、今後は集積度の向上に伴い、ナノメートルサイズのプラスチック微粒子が必要になってくる。すると、通常のメッキ法で表面を均一にコーティングして導電化することは困難になってくることが予想される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、三次元プリント基板配線に係わる前述の状況に鑑み、マイクロサイズからナノサイズの微粒子表面の均一な導電化コーティングを可能にし、しかもコーティングされた導電層が可撓性を持ち、良好な三次元配線を可能にする導電性プラスチック微粒子およびその微粒子表面メッキ方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、本発明の第1の観点によれば、プラスチック微粒子表面を無電解金属メッキする方法であって、金属コロイドを含む溶液に、前記金属コロイドとの相互作用部位を表面に有するプラスチック微粒子を混合することによって、前記微粒子を無電解メッキすることを特徴とする導電性微粒子の製造方法を提供する。
【0009】
更に本発明の第2の観点によれば、前記金属コロイドが、金属化合物とこの金属化合物の還元剤との反応により生成されることを特徴とする導電性微粒子の製造方法を提供する。
【0010】
更に本発明の第3の観点によれば、金属コロイドと相互作用する部位が、プラスチック微粒子表面に存在するヘテロ原子を含む官能基であることを特徴とする導電性微粒子の製造方法を提供する。
【0011】
更に本発明の第4の観点によれば、前記金属コロイドと相互作用するプラスチック微粒子表面の官能基が、チオール基、ジスルフィド基、アミノ基、イミノ基、カルボキシル基、カルボニル基、スルホニル基、ホスホリル基の少なくとも1種であることを特徴とするプラスチック導電性微粒子の製造方法を提供する。
【0012】
更に本発明の第5の観点によれば、プラスチック微粒子表面に金属コロイドと相互作用する有機バインダを表面に付着させるような有機バインダを使用することを特徴とするプラスチック導電性微粒子の製造方法を提供する。
【0013】
また本発明の第6の観点によれば、前記プラスチック微粒子と相互作用する部位が、アルキル基、芳香環、或いは複素環、もしくはそれらの誘導体であることを特徴とする有機バインダを提供する。
【0014】
更に本発明の第7の観点によれば、前記金属コロイドと相互作用するチオール基、ジスルフィド基、アミノ基、イミノ基、カルボキシル基、カルボニル基、スルホニル基、ホスホリル基の少なくとも1種の官能基を含有することを特徴とする、有機バインダを提供する。
【0015】
更に本発明の第8の観点によれば、前記メッキ方法で表面を金属メッキされたプラスチック微粒子製品を提供する。
【0016】
更に本発明の第9の観点によれば、前記金属メッキされたプラスチック微粒子製品が、粘着剤あるいは接着剤中に配合されてなる、三次元プリント基板配線用異方導電性膜を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明は、表面処理をすることなく金属と相互作用を持つ部位を有する該プラスチック微粒子を、該金属化合物と該金属化合物の還元剤とを含む溶液、または該金属コロイドを含む溶液をメッキ浴とし、該メッキ浴中に該プラスチック微粒子を浸漬し、攪拌してその表面に無電解メッキするという、非常に簡便な方法で、良好な導電性を有するプラスチック微粒子を製造しうることを見いだしたものである。
【0018】
本発明におけるプラスチック微粒子の素材は、従来公知の様々な素材が使用可能で、例えばポリスチレン(PS)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリペンタエリスリトールテトラアクリレート、ポリトリメチロールプロパントリアクリレート、ナイロン、ポリオレフィンやそれらの共重合体及び架橋処理物、フェノール樹脂などが好適に用いられる。また、微粒子化の手法も、モノマーキャスティング、懸濁重合、溶融スピンコート、超遠心、超音波など従来公知の方法が、使用する素材により好適に選択される。
【0019】
本発明で用いられるプラスチック微粒子の粒径は特に限定されるものではないが、三次元プリント基板配線用異方導電性膜に使用されることを勘案すると、微小サイズが好ましく特に数nm〜数十μmが好ましい。
【0020】
また本発明における金属は、それ自体良好な導電性を持つ金属であれば材料は特に限定する必要は無いが、例えば金、プラチナ、パラジウム、銀、アルミ、銅などが挙げられ、中でも好ましく用いられるものは金及び銀が挙げられる。
【0021】
更に本発明において使用する金属化合物を還元する還元剤は、従来公知の種々の化合物が使用可能で,例えばクエン酸、クエン酸ナトリウム、アスコルビン酸ナトリウム、或いはアニリン、ピロール、チオフェンおよびその誘導体などが例示される。また本発明において使用される金属コロイドは直径数nm〜数十nmのものが好適に用いられる。
【0022】
本発明におけるプラスチック微粒子と金属の間の相互作用は、化学結合だけでなくファンデルワールス力、静電的相互作用、吸着力などが挙げられ、それらを発生させる方法としては、従来公知の方法で相互作用を発揮させる部位をプラスチック微粒子表面に予め形成させておいても良いし、メッキ浴の中に有機バインダのような形で添加し、相互作用を形成させながら無電解メッキしても良い。
【0023】
本発明で用いられる有機バインダの中で、プラスチック微粒子と相互作用を持つ部位は、アルキル基、芳香環或いは複素環もしくはそれらの誘導体が好適に挙げられる。或いは該有機バインダは、該プラスチック微粒子と静電的引力を有するアミノ基、イミノ基ないし、カルボキシル基、カルボニル基、スルホニル基、ホスホリル基の少なくとも1種を含有するものが好適に選択される。その中でアルキル基の場合はその炭素原子数は特に限定されるものではなく、直鎖状であっても、分岐を持っていてもよく、また二重結合、三重結合を含んでいても良いが、三次元プリント基板配線用異方導電性膜に使用されることを勘案すると、炭素数10個以下のアルキル基を選択すると、この有機バインダを用いた場合の金属コロイド粒子間距離が1nm以下となり、金属と同等の導電性を示すので更に好ましい。更に本発明で用いられる金属コロイドと相互作用しうる部位は、チオール基、ジスルフィド基、アミノ基もしくはイミノ基である事が好ましい。
【0024】
本発明における無電解メッキ方法は、金属化合物とその還元剤、または金属コロイド、もしくは有機バインダと金属コロイドを含む溶液にプラスチック微粒子を投入し、撹拌または静置してメッキすることでプラスチック微粒子表面に簡単にメッキすることが可能で、従来のように前処理,後処理などの工程も不要で、しかもメッキ液廃液処理も不要であるなど、非常に優れたものである。
【0025】
更に本発明における無電解メッキの温度条件としては、メッキ浴が完全凍結または蒸発乾固することが無ければどのような温度でも選択可能であるが、操作の容易性を考慮すれば室温が好適である。また、本発明における無電解メッキの製造工程は、バッチで行うことも可能であるが、製造コストを考慮すると、従来公知のメッキ技術を適用し、連続的にメッキするのが良い。
【実施例】
【0026】
以下に本発明を実施例で説明するが、本発明はこれらにより制限されるものではない。
【0027】
(実施例1)金コロイドの作製
12nm粒径の金コロイドの作製
超純水183mlに、テトラクロロ金(III)酸四水和物(和光純薬)の1%水溶液を12ml添加し、4℃に冷却した。次いでこの溶液を冷却撹拌しながら、その中に炭酸カリウム(和光純薬)の0.5M水溶液を2.4ml加えた。この溶液を冷却下にアスコルビン酸ナトリウム(和光純薬)の8%水溶液を2.6ml加え20分激しく撹拌し、次いで80℃に加熱して更に20分激しく撹拌した。
【0028】
30nm粒径の金コロイドの作製
超純水148mlに、テトラクロロ金(III)酸四水和物(和光純薬)の1%水溶液を30ml添加し、80℃に加熱した。次いでこの溶液を撹拌しながら、その中にクエン酸ナトリウム(片山化学工業)の2%水溶液を22.5ml加え、80℃に加熱したまま更に20分激しく撹拌した。
【0029】
80nm粒径の金コロイドの作製
超純水200mlに、テトラクロロ金(III)酸四水和物(和光純薬)の1%水溶液を12ml添加し、80℃に加熱した。次いでこの溶液を撹拌しながら、その中にクエン酸(和光純薬)の3%水溶液を20ml加え、80℃に加熱したまま更に20分激しく撹拌した。
【0030】
(実施例2)プラスチック微粒子の無電解メッキ
実施例1で作製した3種類の金コロイド溶液90ml中に、プラスチック微粒子(HAYABEADS L−11R、早川ゴム製)を0.068g添加し、室温で2日間撹拌した。次いで3000rpm、5℃の条件で20分間遠心分離し、沈殿物を45mlの超純水に投入し、この溶液をVOLTEX GENIE2(Scientific Industries製)で10秒間振とうする操作を3回繰り返し再分散させた。
【0031】
こうして得られた、表面を金で無電解メッキしたプラスチック微粒子のSEMによる表面観察結果を図2、3に示す、またこれらのプラスチック微粒子を、日置電機製9143ピンセットプローブを使って挟み、その電気抵抗を日置電機製3532−80ケミカルインピーダンスメーターで測定した結果を表1に示す。
【表1】

【0032】
(実施例3)金属と相互作用する官能基を修飾したプラスチック微粒子の作製と無電解メッキ
ブタンチオール(和光純薬)の35mMエタノール溶液25mlの中に、プラスチック微粒子(HAYABEADS L−11R、早川ゴム製)を0.068g添加し、室温で1日撹拌し、次いで3000rpm、5℃の条件で20分間遠心分離し、沈殿物を45mlのエタノールに投入し、この溶液をVOLTEX GENIE2(Scientific Industries製)で10秒間振とうする操作を3回繰り返し再分散させた。
【0033】
こうして得られた、プラスチック微粒子の表面にはチオール基が修飾され、これを真空乾燥し、実施例1で得られた粒径30nmの金コロイド溶液90ml中に添加し、室温で2日間撹拌した。次いで3000rpm、5℃の条件で20分間遠心分離し、沈殿物を45mlの超純水に投入し、この溶液をVOLTEX GENIE2(Scientific Industries製)で10秒間振とうする操作を3回繰り返し再分散させた。
【0034】
こうして得られた、プラスチック微粒子を真空乾燥した後、日置電機製9143ピンセットプローブを使って挟み、その電気抵抗を日置電機製3532−80ケミカルインピーダンスメーターで測定した結果、1Ωであった。
【0035】
(実施例4)金属と相互作用する官能基を静電的に修飾したプラスチック微粒子の作製と無電解メッキ
p−アミノチオフェノール(和光純薬)の2mM水溶液25mlの中に、プラスチック微粒子(HAYABEADS L−11R、早川ゴム製)を0.068g添加し、室温で1日撹拌し、次いで3000rpm、5℃の条件で20分間遠心分離し、沈殿物を45mlの超純水に投入し、この溶液をVOLTEX GENIE2(Scientific Industries製)で10秒間振とうする操作を3回繰り返し再分散させた。
【0036】
こうして得られたp−アミノチオフェノールで処理し、表面がチオール基で修飾されたプラスチック微粒子を真空乾燥し、実施例1で得られた粒径30nmの金コロイド溶液90ml中に添加し、室温で2日間撹拌した。次いで3000rpm、5℃の条件で20分間遠心分離し、沈殿物を45mlの超純水に投入し、この溶液をVOLTEX GENIE2(Scientific Industries製)で10秒間振とうする操作を3回繰り返し再分散させた。
【0037】
こうして得られた、表面を金で無電解メッキしたプラスチック微粒子のSEMによる表面観察結果を図3、4に示す、またこれらのプラスチック微粒子を、日置電機製9143ピンセットプローブを使って挟み、その電気抵抗を日置電機製3532−80ケミカルインピーダンスメーターで測定した結果、60Ωであった。
【0038】
(実施例5)実施例1の金コロイドによる有機バインダを用いたプラスチック微粒子の無電解メッキ
実施例1の金コロイド90mlに有機バインダとして50μlのブタンチオール(和光純薬)、プラスチック微粒子(HAYABEADS L−11R、早川ゴム製)を0.068g添加し、室温で2日間撹拌した。次いで3000rpm、5℃の条件で20分間遠心分離し、沈殿物を45mlの超純水に投入し、この溶液をVOLTEX GENIE2(Scientific Industries製)で10秒間振とうする操作を3回繰り返し再分散させた。
【0039】
こうして得られたプラスチック微粒子を真空乾燥し、日置電機製9143ピンセットプローブを使って挟み、その電気抵抗を日置電機製3532−80ケミカルインピーダンスメーターで測定した結果、10kΩであった。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】導電性ビーズを均一分散させた異方導電性膜を用いた、三次元プリント基板配線技術の一例
【図2】粒径30nmの金コロイドを無電解メッキしたプラスチック微粒子表面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真
【図3】図2の高倍率写真
【図4】p−アミノチオフェノールで表面処理されたプラスチックビーズを粒径30nmの金コロイドで無電解メッキしたものの表面のSEM写真
【図5】図4の高倍率写真

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属コロイドを含む溶液に、前記金属コロイドとの相互作用部位を表面に有するプラスチック微粒子を混合することによって、前記微粒子を無電解メッキすることを特徴とする導電性微粒子の製造方法。
【請求項2】
前記金属コロイドは、金属化合物と、この金属化合物の還元剤との反応により生成される請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
金属コロイドと相互作用する部位が、プラスチック微粒子表面に存在するヘテロ原子を含む官能基である請求項1に記載の製造方法
【請求項4】
前記金属コロイドと相互作用するプラスチック微粒子表面の官能基が、チオール基、ジスルフィド基、アミノ基、イミノ基、カルボキシル基、カルボニル基、スルホニル基、ホスホリル基の少なくとも1種である請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
プラスチック微粒子表面の相互作用部位は、金属コロイドと相互作用する有機バインダを表面に付着させることで得られる請求項1に記載の製造方法。
【請求項6】
前記プラスチック微粒子と相互作用する、前記有機バインダの部位が、アルキル基、芳香環、或いは複素環、もしくはそれらの誘導体であることを特徴とする請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記有機バインダが、チオール基、ジスルフィド基、アミノ基、イミノ基、カルボキシル基、カルボニル基、スルホニル基、ホスホリル基の少なくとも1種の官能基を含有することを特徴とする、請求項5乃至請求項6のいずれか一つに記載の製造方法。
【請求項8】
プラスチック微粒子表面が、請求項1乃至請求項7記載の金属メッキ方法でメッキされたプラスチック微粒子製品。
【請求項9】
請求項8記載の金属メッキされたプラスチック微粒子製品が、粘着剤あるいは接着剤中に配合されてなる、三次元プリント基板配線用異方導電性膜。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−233255(P2006−233255A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−47630(P2005−47630)
【出願日】平成17年2月23日(2005.2.23)
【出願人】(000205627)大阪府 (238)
【Fターム(参考)】