説明

導電性接着剤

【課題】導電性が良好な導電性接着剤及び該導電性接着剤用はんだ粉を提供する。
【解決手段】脂肪酸及びジカルボン酸の少なくとも一方を表面に化学結合させて被覆したはんだ粉と、樹脂と、硬化剤とを含有する導電性接着剤、及び導電性接着剤用はんだ粉。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性接着剤に関し、より詳しくは導電性が良好な導電性接着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品等を基板等へ比較的低温で接合することができる技術として、導電を担う鱗片状銀粉等の導電性フィラーと、固着を担う樹脂と、硬化剤とを含有する導電性接着剤を用いる技術が開発されている(例えば特許文献1等)。このような導電性接着剤は、加熱して樹脂を熱硬化させることにより、電子部品等を基板等へ接合することができる。
【特許文献1】特開2007−051248号公報
【非特許文献1】「高温鉛はんだ代替技術開発」成果報告会用資料、平成20年3月発行、独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ここで、このような導電性接着剤は、導電性フィラー同士の接触だけに依存していては、導電性が安定しないという問題がある。そこで、導電性フィラーにはんだ粉等の低融点金属粉末を混ぜ、使用することにより低融点金属粉末が溶けて導電性フィラー間に金属パスが形成され、高導電性を確保する技術が開発されている(非特許文献1参照)。しかしながら、非特許文献1による技術では、導電接着剤として十分な導電安定性が確保できているとは言い難い。
【0004】
本発明は上述した事情に鑑み、導電性が良好のみならず、その安定性にも優れる導電性接着剤及び該導電性接着剤用はんだ粉を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記目的を達成するために鋭意検討した結果、脂肪酸やジカルボン酸を表面に化学結合させて被覆したはんだ粉を含有した導電性接着剤とすることにより、上記目的が達成されることを見いだし、本発明を完成した。
【0006】
即ち、本発明の導電性接着剤は、脂肪酸及びジカルボン酸の少なくとも一方を表面に化学結合させて被覆したはんだ粉と、樹脂と、硬化剤を含有することを特徴とする。
【0007】
また、前記はんだ粉が、脂肪酸及びジカルボン酸の少なくとも一方を含有する溶液を加熱した溶液に原料はんだ粉を浸漬することにより、前記原料はんだ粉の表面に金属有機化合物が形成されたものであることが好ましい。
【0008】
本発明の導電性接着剤は、さらに導電性フィラーを含有することが好ましい。
【0009】
そして、前記脂肪酸がカプリン酸、ラウリン酸、ステアリン酸、オレイン酸及びリノール酸から選択される少なくとも一種であることが好ましく、前記ジカルボン酸が、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸及びアジピン酸から選択される少なくとも一種であることが好ましい。また、前記樹脂が、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂及びロジンから選択される少なくとも一種であることが好ましく、また、前記導電性フィラーが銀、銅、ニッケル及びカーボンから選択される少なくとも一種であることが好ましい。
【0010】
また、本発明の導電性接着剤用はんだ粉は、脂肪酸及びジカルボン酸の少なくとも一方を表面に化学結合させて被覆したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、脂肪酸及びジカルボン酸の少なくとも一方を表面に化学結合させて被覆したはんだ粉を含有させることにより、導電性フィラー間に接着剤中の非導電成分の介在が少ない金属パスが形成されやすく、かつ部品や基板電極への接合性が良いため、導電性のみならずその安定性に優れた導電性接着剤を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0013】
本発明の導電性接着剤は、脂肪酸及びジカルボン酸の少なくとも一方を表面に化学結合させて被覆したはんだ粉と、樹脂と、硬化剤とを含有する。
【0014】
本発明の導電性接着剤を構成する原料はんだ粉は特に限定されないが、通常のはんだ付けで使用するはんだ粉を使用することができる。例えば、材質としては、Sn−Ag−Cu系、Sn系、Sn−Ag系、Sn−Zn系、Sn−Zn−Bi系、Sn−Bi系、Sn−Bi-Ag系、Sn−Ag−Bi−In系、Sn-In系を挙げることができる。また、高速度で回転するディスク上に金属溶融物(熔湯)を供給し遠心力により噴霧させて粉末化する遠心噴霧法や、熔湯を細孔から流出させこれに窒素ガス等を作用させて飛散させ粉末化するガス噴霧法で製造したはんだ粉を用いることができる。
【0015】
また、「レーザー回折散乱式粒度分布測定装置によって測定される体積累積粒径D50(以下「体積累積粒径D50」という)は、例えば1〜10μmとすることができる。なお、体積累積粒径D50が1〜10μm程度の微細なはんだ粉は比表面積が大きくなり酸化しやすいが、本発明においては脂肪酸やジカルボン酸を被覆しているので、酸化を抑制することができる。
【0016】
本発明の導電性接着剤が含有するはんだ粉は、上記原料はんだ粉に、脂肪酸及びジカルボン酸の少なくとも一方を化学結合させて被覆したものである。すなわち、はんだ粉の表面は脂肪酸及びジカルボン酸の少なくとも一方で被覆されており、はんだ粉の表面を被覆する脂肪酸やジカルボン酸ははんだ粉の表面と化学結合している、具体的には脂肪酸やジカルボン酸のカルボキシル基が電離しプロトンを放出してアニオンとなり、このアニオンがはんだ粉を構成する金属種と結合し、はんだ粉表面に金属有機化合物が形成されているため、脂肪酸やジカルボン酸とはんだ粉表面とは強固に結合している。
【0017】
脂肪酸は、飽和脂肪酸でも不飽和脂肪酸でもよく、例えば、カプリン酸、ラウリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸等が挙げられ、また、一種でも複数種でもよい。接着時に加熱を行う際に脂肪酸ができるだけ残らないように低沸点の脂肪酸が望ましいため、カプリン酸やラウリン酸などの低炭素脂肪酸を用いることが好ましい。
【0018】
また、ジカルボン酸としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸等が挙げられ、また、一種でも複数種でもよい。脂肪酸と同様に、接着時に加熱を行う際にジカルボン酸ができるだけ残らないように低沸点のジカルボン酸が望ましいため、シュウ酸やマロン酸などの低炭素ジカルボン酸を用いることが好ましい。
【0019】
なお、はんだ粉は脂肪酸及びジカルボン酸のうちいずれか一方が化学結合して被覆していればよいが、脂肪酸及びジカルボン酸の両方で被覆されていてもよい。
【0020】
はんだ粉表面に化学結合させて被覆する脂肪酸やジカルボン酸の量は特に限定されないが、脂肪酸やジカルボン酸を化学結合させて被覆したはんだ粉の炭素濃度を測定し、この炭素濃度から求めたはんだ粉に化学結合させて被覆した炭素量が、該脂肪酸又はジカルボン酸を化学結合させて被覆したはんだ粉の全体に対して0.01〜1.0質量%、特に0.05〜0.5質量%であることが好ましい。理想的には単分子膜を形成する被覆量が最適であり、多く被覆しすぎるとはんだ粉表面に化学結合できなかった脂肪酸やジカルボン酸が残り、樹脂中に存在する被覆剤の比率が多くなり接着剤の機能として悪影響を及ぼすからである。
【0021】
はんだ粉に脂肪酸やジカルボン酸を化学結合させて被覆する方法も特に限定されず、例えば、脂肪酸やジカルボン酸を溶媒に溶解した溶液に原料はんだ粉を浸漬したり該溶液を原料はんだ粉に噴霧した後、乾燥させて溶媒を除去する方法を挙げられる。特に脂肪酸やジカルボン酸を溶媒に溶解させた溶液を例えば40〜60℃に加熱し、この加熱した溶液に原料はんだを浸漬すると、脂肪酸やジカルボン酸とはんだ粉表面とで金属有機化合物を形成する反応が促進され、脂肪酸やジカルボン酸をはんだ粉表面に均一で強固に化学結合させることができる。なお、脂肪酸やジカルボン酸を溶解させる溶媒としては、例えば、水や、ベンゼン、トルエン、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトン等の有機溶媒が挙げられる。
【0022】
ここで、脂肪酸やジカルボン酸を溶媒に溶解させた溶液を40〜60℃加熱した溶液に原料はんだ粉を浸漬することにより表面に金属有機化合物が形成されたはんだ粉をFT−IRで分析すると、はんだ粉表面に存在するのは脂肪酸やジカルボン酸そのものではなく、脂肪酸やジカルボン酸と金属の複合化合物(金属有機化合物)である。すなわち、はんだ粉に脂肪酸やジカルボン酸が単に付着しているのではなく、脂肪酸やジカルボン酸とはんだ粉表面の金属とが化学結合して、金属有機化合物がはんだ粉表面に形成されている。このように、本発明の導電性接着剤で用いるはんだ粉は、表面に被覆されている脂肪酸やジカルボン酸が付着等ではなくはんだ粉表面と化学結合しているため、例えば、HeDG(ヘキシルジグリコール)などの溶媒中に浸漬しても脂肪酸やジカルボン酸は溶出せず、導電性接着剤中の有機溶剤にも溶け出さないものである。
【0023】
樹脂に特に限定はなく、通常導電性接着剤で使用するものを用いることができる。例えば、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、ロジン等が挙げられる。エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、多官能エポキシ樹脂、可撓性エポキシ樹脂等が挙げられる。なお、これらの樹脂は、単独で用いてもよく、また、複数種を併用して用いてもよい。
【0024】
硬化剤に特に限定はなく、通常導電性接着剤で使用するものを用いることができる。例えば、芳香族ポリアミン硬化剤等のアミン系硬化剤、ポリアミド樹脂系硬化剤、イミダゾール系硬化剤等が挙げられる。
【0025】
また、本発明の導電性接着剤は、必要に応じて、反応性希釈剤を含有してもよい。反応性希釈剤に特に限定はなく、通常導電性接着剤で使用するものを用いることができる。例えば、アルキルモノグリシジルエーテル、アルキルフェノールモノグリシジルエーテル、ポリグリコールジグリシジルエーテル等が挙げられる。なお、これらの反応性希釈剤は、単独で用いてもよく、また、複数種を併用してもよい。
【0026】
なお、本発明の導電性接着剤は、必要に応じて、導電性フィラーを含有してもよい。導電性フィラーにも特に限定はなく、通常導電性接着剤で使用するものを用いることができる。例えば、材質としては銀や、銅、銅合金、ニッケル、カーボン、脂肪酸及びジカルボン酸を表面に被覆しないはんだ等が挙げられる。導電性フィラーは、一種でも複数種でもよい。また、導電性フィラーの形状や大きさにも限定はなく、例えば、形状としては、鱗片状、球状等が挙げられる。ここで、上記脂肪酸及びジカルボン酸の少なくとも一方を表面に化学結合させて被覆したはんだ粉が導電性フィラーの特性を兼ねる場合は、脂肪酸及びジカルボン酸の少なくとも一方を表面に化学結合させて被覆したはんだ粉以外の導電性フィラーを含有しなくてもよいが、この場合であっても、勿論、脂肪酸及びジカルボン酸の少なくとも一方を表面に化学結合させて被覆したはんだ粉と、脂肪酸及びジカルボン酸の少なくとも一方を表面に化学結合させて被覆したはんだ粉以外の導電性フィラーとを含有するようにしてもよい。
【0027】
上述のとおり、本発明の導電性接着剤は、導電性フィラーを含まないもの、含んだものいずれかとなり得るが、各成分の配合割合に特に制限はない。例えば、導電性接着剤全量に対して、脂肪酸及びジカルボン酸の少なくとも一方を表面に化学結合させて被覆したはんだ粉10〜30質量%、樹脂10〜13質量%、導電性フィラー50〜80質量%、硬化剤1〜2質量%とすることができる。また、脂肪酸及びジカルボン酸の少なくとも一方を表面に化学結合させて被覆したはんだ粉以外の導電性フィラーを用いず、脂肪酸及びジカルボン酸の少なくとも一方を表面に化学結合させて被覆したはんだ粉のみを導電性フィラーとして用いた場合は、脂肪酸及びジカルボン酸の少なくとも一方を表面に化学結合させて被覆したはんだ粉は、50〜80質量%とすることができる。
【0028】
このような導電性接着剤は、脂肪酸やジカルボン酸を表面に化学結合させて被覆したはんだ粉を含有しない場合と比較して、電子部品等を基板等へ接合した後の導電性が良好になるのみならず、その安定性にも優れる。また、接合時の加熱温度は、はんだ粉の組成によっては、140〜180℃程度と低温で接合することができるため、例えば、各種車載用機器、基板スルー・ビア、コンデンサ、LEDダイアタッチ、携帯、CCD、熱電素子の熱に弱い部材等にも適用することができる。
【0029】
従来の銀等の導電性フィラーのみで導電を担う導電性接着剤は、導電性フィラーが加熱時に溶解せず、導電性フィラー同士の接触のみによって導電性を発現するものであり、導電性フィラー同士の接触が十分でなく、導電安定性に欠けるものである。
【0030】
一方、本発明における導電性接着剤は、前記導電性フィラーのみに導電性を依存する導電性接着剤と比較して、低融点で溶解するはんだ粉が主体のため、低温の加熱ではんだ粉が溶融することにより、導電性フィラー同士がはんだ粉で接合され、導電性フィラー間に金属パスが形成されやすい。さらに、本発明における導電性接着剤は、非特許文献1のように、前記導電性フィラーに、単に従来技術のはんだ粉を添加しただけの導電組成物に比べても、導電安定性に優れている。また、基板の導体と部品との接合性の面においても、本発明における導電性接着剤の方が従来技術の導電接着剤よりも優れている。その理由は以下に述べるとおり、導電性フィラー間に接着剤中の非導電成分の介在が少ない金属パスが形成されやすいからと考えられる。
【0031】
脂肪酸やジカルボン酸を表面に被覆しない、単に従来技術のはんだ粉を添加しただけの導電組成物においては、溶融したはんだ中に樹脂が残ってしまい、導電性を阻害する可能性がある。詳述すると、従来の導電性接着剤を加熱した状態を示す模式図である図1に示すように、銀等の導電性フィラー1と、脂肪酸やジカルボン酸を表面に被覆していないはんだ粉2と、樹脂3を含有する導電性接着剤(図1(a))を加熱すると、樹脂3及び脂肪酸やジカルボン酸を表面に被覆していないはんだ粉2が溶解していくが(図1(b))、脂肪酸やジカルボン酸を表面に被覆していないはんだが溶融する際、溶融はんだ中に樹脂3が残るものとみられる(図1(c))。
【0032】
一方、本発明のように脂肪酸やジカルボン酸を表面に化学結合させて被覆したはんだ粉を用いると、樹脂3ははんだ内部へとりこまれず接合領域の外側へ存在するようになるため、樹脂3による導電性不良が抑制でき、はんだ合金パスを形成する。詳述すると、本発明の導電性接着剤を加熱した状態を示す模式図である図2に示すように、銀等の導電性フィラー1と、脂肪酸やジカルボン酸を表面に化学結合させて被覆したはんだ粉12と、樹脂3を含有する導電性接着剤(図2(a))を加熱すると、樹脂3及び脂肪酸やジカルボン酸を表面に化学結合させて被覆したはんだ粉12が溶解していくが(図2(b))、樹脂3は溶融した脂肪酸やジカルボン酸を表面に化学結合させて被覆したはんだ内部へとりこまれず接合領域の外側に存在し、脂肪酸やジカルボン酸を表面に化学結合させて被覆したはんだ粉12ははんだ合金パス4を形成する(図2(c))。樹脂3がはんだ内部へとりこまれず外側へ移動する理由は不明だが、はんだ粉に脂肪酸やジカルボン酸を化学結合させて被覆することにより、樹脂3に対して分散性が向上し、また、加熱時にはんだ粉の酸化の進行を防ぎ、かつ表面の酸化被膜を脂肪酸が取り除き、はんだ粉同士の溶融性が良好になるためと推測される。
【0033】
ここで、脂肪酸やジカルボン酸等の酸素や水に対してバリア性を有する有機物を金属表面に被覆すると酸化の進行を抑える効果や樹脂に対する分散性を向上させるという効果を発揮するが、はんだ粉はペースト状態で使用される場合に有機溶媒と混練成形されるため、はんだ粉表面に被覆した有機物が単に付着しているだけでは有機溶媒に溶け込んでしまい、酸化の進行を抑えることができず、また、樹脂に対する分散性を向上できない。しかしながら、本発明においては、脂肪酸やジカルボン酸がはんだ粉表面と化学結合されているため、有機溶媒に溶け込まず酸化の進行を抑え、また、樹脂に対する分散性を向上することができる。
【0034】
このように、導電性接着剤に脂肪酸やジカルボン酸を表面に化学結合させて被覆したはんだ粉を含有させることにより、接着剤中の非導電成分の介在が少ないはんだ合金パスが形成されるので、単に従来技術のはんだ粉を添加しただけの場合と比較して、電子部品等を基板等へ接合した後の導電安定性が向上できる。
【実施例】
【0035】
以下、本発明を下記実施例及び比較例に基づいてさらに詳述する。
【0036】
(実施例1)
遠心噴霧法で得られた体積累積粒径D505μmのSn−Bi58合金粉末(原料はんだ粉A)を、ラウリン酸(30g)を40℃のエタノール(400mL)に溶解したラウリン酸溶液(40℃)に浸漬して、ラウリン酸溶液をはんだ粉表面と反応させた。その後、このはんだ粉を真空中で乾燥させて、ラウリン酸を全面に被覆したはんだ粉を得た。なお、体積累積粒径D50は、原料はんだ粉A0.1gをイオン交換水及び分散剤(商品名:ノプコウエット、サンノプコ社製)数滴と混合し分散させた後、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置 Micro Trac MT−3000(日機装社製)を用いて測定した。
【0037】
また、得られたラウリン酸を被覆したはんだ粉の炭素濃度を測定し、その測定値から被覆したカーボン量を換算した結果、被覆したラウリン酸の量は被覆したはんだ粉全量に対して、0.08質量%であった。なお、炭素濃度は炭素濃度測定機「EMIA−110」(堀場製作所製)を用いて測定した。
【0038】
さらに、得られたラウリン酸を被覆したはんだ粉をFT−IRで分析した。結果を図3に示す。また、ラウリン酸そのものをFT−IRで分析した赤外線スペクトルを図4に示す。なお、赤外線スペクトルFT−IR(ニコレー社製 Nexus 670)を用いて測定した。図3及び図4に示すように、実施例1のはんだ粉の表面にラウリン酸は検出されず、ラウリン酸化合物が検出されたことから、実施例1のはんだ粉は、ラウリン酸が付着しているのではなく、ラウリン酸とはんだ粉表面の金属とが化学結合して金属有機化合物が表面に形成されていることがわかった。
【0039】
(試験例1)
実施例1で得られたラウリン酸を被覆したはんだ粉(4.5g)と、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(0.4g)と、芳香族ポリアミン硬化剤(0.1g)を混合した導電性接着剤を、銅版で挟み、180℃で10分間加熱し、加熱後の断面を観察した。また、比較のため実施例1で得られたラウリン酸を被覆したはんだ粉の代わりに原料はんだ粉Aを用いたものについても同様に観察した。実施例1のはんだ粉を用いた結果を図5に、原料はんだ粉Aを用いた結果を図6に示す。
【0040】
また、加熱成形体の電気抵抗の測定については、ペーストを金型に入れ、加圧して加熱硬化させ直径10mm、厚さ10mmの形状を持つペレットを製造し、四探針の電圧測定器を用いて、このペレットに電流を通電した場合の電圧を測定し、抵抗値に換算するという手法を採用した。
【0041】
図5に示すように、実施例1のはんだ粉を用いたものは、はんだ粉同志が溶け合い、合一化していることがわかる。したがって、実施例1のはんだ粉を導電性接着剤に用いると、加熱時に樹脂がはんだ内部にとりこまれることなく外側に移動しはんだ合金パスが形成されるので、体積抵抗が3×10−5Ω・cmとなり導電性が良好になることが分かった。一方、ラウリン酸を被覆しない原料はんだ粉Aを用いたものは、はんだ粉が全く溶融せずにはんだ粉同志が溶け合っていない。したがって、ラウリン酸を被覆しない原料はんだ粉Aを導電性接着剤に用いると、加熱時に樹脂がはんだ内部にとりこまれるので、体積抵抗が2×10−4Ω・cmとなり導電性が不十分になることが分かった。
【0042】
また、接合後の導電安定性については、実施例1のはんだ粉、ならびに原料はんだ粉Aを用いて上記方法にてそれぞれ作成された導電性接着剤より、10個の電気抵抗測定用ペレットを準備し、上記電気抵抗の測定を行い、抵抗値の標準偏差を求めた。
【0043】
その結果、実施例1のはんだ粉を用いた試料では8.4×10−6Ω・cm、原料はんだ粉Aを用いた試料では3.6×10−4Ω・cmとなり、接合後の導電安定性についても、本発明の導電接着剤が優れていることが判った。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】従来の導電性接着剤を加熱した状態を示す模式図である。
【図2】本発明の導電性接着剤を加熱した状態を示す模式図である。
【図3】実施例1のはんだ粉をFT−IRで計測した赤外線スペクトルである。
【図4】ラウリン酸をFT−IRで計測した赤外線スペクトルである。
【図5】脂肪酸を被覆したはんだ粉を用いた場合の試験例の結果を示す図である。
【図6】脂肪酸を被覆しないはんだ粉を用いた場合の試験例の結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪酸及びジカルボン酸の少なくとも一方を表面に化学結合させて被覆したはんだ粉と、樹脂と、硬化剤を含有することを特徴とする導電性接着剤。
【請求項2】
前記はんだ粉が、脂肪酸及びジカルボン酸の少なくとも一方を含有する溶液を加熱した溶液に原料はんだ粉を浸漬することにより、前記原料はんだ粉の表面に金属有機化合物が形成されたものであることを特徴とする請求項1に記載の導電性接着剤。
【請求項3】
さらに導電性フィラーを含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の導電性接着剤。
【請求項4】
前記脂肪酸が、カプリン酸、ラウリン酸、ステアリン酸、オレイン酸及びリノール酸から選択される少なくとも一種であることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の導電性接着剤。
【請求項5】
前記ジカルボン酸が、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸及びアジピン酸から選択される少なくとも一種であることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の導電性接着剤。
【請求項6】
前記樹脂が、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂及びロジンから選択される少なくとも一種であることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の導電性接着剤。
【請求項7】
前記導電性フィラーが、銀、銅、ニッケル及びカーボンから選択される少なくとも一種であることを特徴とする請求項3〜6の何れかに記載の導電性接着剤。
【請求項8】
脂肪酸及びジカルボン酸の少なくとも一方を表面に化学結合させて被覆したことを特徴とする導電性接着剤用はんだ粉。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−126719(P2010−126719A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−306747(P2008−306747)
【出願日】平成20年12月1日(2008.12.1)
【出願人】(000006183)三井金属鉱業株式会社 (1,121)
【Fターム(参考)】